P「偶像の仮面」(174)

「じゃあ、真ちゃん。気をつけてね…」

「分かってるよ。子供じゃあるまいし」

「でも……」

あぁ、また始まった。雪歩の心配性が…
何度目になるか分からない雪歩の小言を聞き流しながら、プロデューサーを目だけで窺う

「ハニー、いってらっしゃい! 今日はいつ帰るの?」

「事務所に戻るのは十九時過ぎになるかな」

「それじゃあ今日はもう会えないの…。ね! 付いていってもいい?」

「無理だよ。別に今生の別れじゃないんだ。また明日だって会える」

「ハニーはいつも堅いこと言うの。真面目すぎるって思うな……」

「…早めに帰れよ? 何かあったら俺が困る、な?」

「……うん」

よくもあの美希を扱えるもんだ。素直に尊敬するよ……

「ねぇ。あれ、してもいいかな?」

「え? あ、うん…」

そう言うと雪歩は、僕の身体に抱きついた。鎖骨の辺りに深くうずめるように、頭を動かす
その性的とも言える仕草に、僕は辟易した

「……真。そろそろ行こう」

「あっ! は、はい! …じゃあねっ、雪歩」

「あ……」

待っていたとばかりに、僕はプロデューサーの後を付いていく
もの言いたげな雪歩を残して……

「うわっ…」

ビルの扉をくぐった途端、金切り声が耳をつんざく
…出待ちの女の子達だ
彼女達はどうしてこうも、アイドルを前にしたってだけで、甲高い声が出せるのだろう?

「はい、退いて。道を開けてください」

プロデューサーに先導されて、黒のワンボックスカーに乗り込む
運転席に回ったプロデューサーがドアを閉めると、車内にはほっとした空気が流れた

「はぁ、疲れた……」

「まさか裏口にも回られるとはな…」

「もううんざりですよ」

見てるよ

男性に出待ちをする人は少ないのか、事務所にまでファンが押し掛けるのは僕だけだ
それも女としての追っかけじゃない
真様、真様、ばっかり…

その歓声が事務所に届くのが、僕にはとても屈辱だった
皆にまで、女としての価値がないって見られるんじゃないかって…

「父さんが悪いんだ…。ボクに男らしさなんてものを押しつけて…!」

「……」

プロデューサーは無言で車のキーを捻る
迷惑だろうが、構うもんか

「舞台でも男役をやらされる羽目になって! おかげでこんな茶番をやらなきゃいけなくなっちゃって!」

「雪歩だって……!」

そう言いかけて、やめた
今口に出してしまえば、彼女へ抱いている気持ちが、本当になってしまう気がして…

「雪歩か…。どうするんだ?」

「そんなの分かりませんよっ!」

プロデューサーが、言葉に詰まった部分に目ざとく反応してきた
悩みを聞くのもプロデュースの内って言うんでしょうけど…
そういうとこ、ちょっと鬱陶しいですよ

支援

ゴルゴムの仕業かと思ったら違った

「俺も真の気持ちは分かるよ」

「…へぇー。プロデューサーも、演技をしてるっていうんですか? アイドルみたいに?」

「周りの期待に合わせて行動するってのは、誰でもやってるさ。
それが本当の自分と矛盾している辛さが分かるくらいには…俺もな」

「……ふぅん」

「そもそもプロデューサーの仕事ってのは、アイドルの要望を笑顔で叶えてやることだからな」

少し自虐の入った笑み。僕の気持ちが分かるっていうのも、多分、真実の話なんだろう
けれども、さっき嫌な質問をされた腹いせか、僕は少し意地の悪い返しを思いついた

「そっか。だから美希にも好かれちゃったワケだ」

「……」

「美希の想いには気付いてるんでしょ? アイドルとプロデューサーだから付き合えないっていうんですか?」

「アイドルだとかは関係ない」

プロデューサーは無表情のまま、強い口調で言い切った

「だったら応えてあげればいいのに…」

「…こう言えばいいのか? あいつは俺の趣味じゃない」

大人の方便が返ってくると思っていた僕は、予想外の告白に慌ててしまう

「はは、あはは…美希が聞いたら大変だ…」

「言うのか?」

「い、言いませんけど……でも何が不満なんです? 年齢ですか?」

「年齢、な…。確かにそうだ…」

「なんだかんだまだ中学生ですからね……」

「……」

「美希、納得しますかね…」

「俺も上手くやるさ…。だから、な?」

気まずい空気を払うようにプロデューサーが呟く
似た問題を抱えていると知った彼の言葉に、僕の心も少しだけ和らいだ

「はい…。ボクも真面目に考えます。雪歩のこと」

そうして僕たちの乗った車は、テレビ局へ向かって、ゆっくりと車線変更をした

~~~~~~~~~

仕事終わりには堪える階段をようやく登りきって、俺は光の漏れる事務所のドアを開ける
そこには書類の整理をしている律子がいた

「ただいま、律子」

「お帰りなさい…真はどうしたんですか?」

「途中の駅で降ろしたよ。そこからの方が早いんだと」

「なるほど……」

椅子に座り、ネクタイを緩めて一息つく。すると、場違いなほど元気な声が響いた

「あ。お帰り兄ちゃん!」

「お勤めご苦労!」

「…ああ、頑張ってきたよ」

支援

「で、なんでお前達がまだ居るんだ?」

「一時間前には上がれって言ったんですけどね…。
プロデューサーに挨拶するって聞かないもんですから」

「そうか……」

「なんでとは酷いよね~」

「クールな顔しちゃってー、本当は嬉しいくせにー」

「…はいはい、嬉しいよ」

亜美に対して俺は本心からそう言うと、彼女達を送り出すために立ち上がった

「わざわざありがとうな。時間も時間だし、家まで送ろうか」

「いいよ、今日は駅までパパが迎えに来てくれるんだって」

「そうなのか。でも…」

「もしかして変質者でも出るんじゃないかって心配してんの?
大丈夫だよ。駅までの道は明るいし」

「まぁ、な…」

「兄ちゃんって真美達には過保護だよね」

…クスクスと明るく笑う彼女達とは裏腹に、俺の心は冷えきっていく

「「じゃあねー!」」

ドアが閉じられてやっと、俺は安堵のため息をついた

「あんなに懐かれて、まったく羨ましい限りです」

律子が書類に目を戻しながら軽口をこぼす

懐かれている、か…
それは俺にとって果たして喜ばしいことなのだろうか

いや、彼女達にとっても……

                     ♪
                  )ノ  /
            ((  , ' ⌒ ´`.
             i!  ノリノ)リ〉   ♪
             ゝ∩"ワ∩ <>>1乙ですよー♪
                'ゝ`rォi'ノ  ))
   ~~~~~~ ⊂くんリ

               し'

            (⌒'          '⌒ヽ.          (⌒'          '⌒ヽ.
          . '´` ⌒ヽ       '⌒´`ヽ.        . '´` ⌒ヽ       '⌒´`ヽ.
          ! リ(ヾ))リ,i      ((     i..       ! リ(ヾ))リ,i      ((     i
  .   .    (ノ´(l.゚ ヮ゚ノ ゝ     ' リ   从      (ノ´(l.゚ ヮ゚ノ ゝ     ' リ   从
乙なの━━━'爻⊂jrv)つ━━━━⊂从从つ━━━━'爻⊂jrv)つ━━━━⊂从从つ━━━っ!!!

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             し'           iノ            し'           iノ

~~~~~~~~~

冷蔵庫を開けてビールを取り出す
プルタブを引きながら、俺はテレビを点けた

「…容疑者が実況見分に立ち会い、警察は、犯行当時の状況をさらに詳しく…」

連日の残業のおかげで、見るのも久しぶりだったこの時間帯のニュースでは、
数週間前に起きた女児殺害事件の続報が流れていた

…ああ、そんな事件もあったな
なぜ忘れていたのだろう。決して無関心でいられる話題ではなかったはずなのに

テレビでは、犯人の性癖について揶揄するコメントが続けられていく

しえん

wktk

俺の中にはいつの間にか、棄てていたはずの感情が蘇ってきていた

――こんなのは、性癖なんか関係ない

単にこいつが、犯罪者だっただけだろう

だって現に俺は、犯罪を犯していないじゃないか――

そう叫びたくなる衝動を呑み込むように、俺は缶の中身を啜った
強めのアルコールと氷のような冷たさは、高ぶっていた気を鎮めてくれる

…そうだ。誰も居ない部屋で一人、テレビに向かって叫んだところでなんになるんだ

結局は、これが世間の総意なのだから

「風呂にでも入るか……」

空になった缶を潰して、風呂へ向かう

スイッチを何度か切り替えて、間抜けをやっている自分に気づく

「あぁ…、電球、切れてたんだったな…」

今朝、帰りに買おうと決めて家を出たのに、すっかり忘れていた

「仕方ない。また洗面台のを使うか…」

安アパートのユニットバスでは、洗面用の小さな光でも、風呂に入るのに苦労はしなかった

蛇口をひねると、熱いシャワーと白い湯気に包まれる

シャワーカーテン越しの明かりを頼りに、洗髪を済ませていく

その明るすぎない光は、妙な安心感を俺に与えてくれた

「……」

シャワーを浴びながら、一日を振り返る

真には、おしゃべりが過ぎたかもしれない。だが、あいつの指摘は確かに正しかった
図星を指されて意地になったのか…

美希……俺は、お前の望むままをやり過ぎてしまったのだろうか
皆にいい顔をするのは、そんなにいけないことなのか?

「そろそろ潮時か……」

事務所を離れるか…
そう考えた途端、皆の顔が脳裏をよぎっていく
そうして、最もあそこを離れたなくない理由に、辿りついた

今日も、彼女は綺麗だった

「――美……」

「はぁ…はぁ…」

「あぁ…」

「なんで……」

しえん

書き貯めしてあるのか

いろいろ考えすぎだろこのP

茂美怖いでしょう…

>今日も、彼女は綺麗だった

>「いぬ美……」

>「はぁ…はぁ…」

>「あぁ…」

>「なんで……」

~~~~~~~~~

その日…ついに自分を慰めることは出来なかった


代わりに、俺は手記を記すことにした


手記の中では、俺は自由だった
自分でも驚くほどに言葉が出てくる

彼女を愛でる表現においては、かの文豪を越えられるんじゃないかと、馬鹿な想像をするくらいに

ああ、こうするだけで心が楽になる

何故だろうか。文字に起こすだけでスリルと興奮を感じられるのは

俺にはこの行為が酷く背徳的なものに思えていた

手記はやばい
みられたら詰む

ろりーたじゃないか

結構前にあったヤバいロリコンPのSSを思い出した

~~~~~~~~~

「よくそれで持ちますね。プロデューサー殿は」

「大豆とか、玄米とか…まるで精進料理みたいです」

「爺臭いんじゃないですか?」

「これでいいんだよ」

事実、これは精進料理のようなものなのだ
俺はもう何年も肉を断っていた

先日から抱えている不全……理由は分かっていた
きっと、俺は長い間欲望を抑え過ぎてきてしまったのだ

長い月日をかけて抑圧された感情は徐々に歪んで、
もはや正常な方法だけでは処理出来なくなっていたのだ

理性だけで本能を無くすことは、元から不可能だったということだろう

想像するだけでなく、この手に抱いてみたい、汚し尽くしたい
そういう欲望が、常に頭を離れない

だから、こういう生活をしている


「でも、すごくバランスが良いかなって…」

…他の子では駄目なのかという考えが、ふと起こる

やよいは……いや、駄目だ

彼女の母親らしさ……母性というやつだろうか
それが、俺の中に潜んでいる恐怖心を呼び起こさせる

俺が求めているのは母ではない。そんな要素はいらないんだ

伊織や美希も、俺にしてみれば大人び過ぎていた

やはり、俺の救いになるのは彼女しかあり得なかった

あれ? わた……事務所で一番魅力的な人の名前に「美」なんてないピヨ

支援

愛ちゃんなんてどうかな

双子丼の予感

「おはよー」


…………来た

「やっほー! 兄ちゃん元気?」

「ああ、元気だよ…。お早う」

背もたれ越しに、彼女が抱きつく
子供特有の甘い香りが、脳髄を痺れさせる

「今日は相方は、どうしたんだ?」

「ん~、今日は別々の仕事」

「そうか…」

「だからさ、暇なんだよね! ねぇ、兄ちゃん遊んで~」

以前似たようなPがいたがフラグ立ってた連中ほっといてかすみちゃんに手を出してぶっ壊れてたな…
ハッピーエンドになって欲しい

ゆらゆらと揺さぶられる
その鼻にかかった幼い声と小さく白い手、弾力のある肌は、
俺の五感を刺激するには充分だった

「どうしたの? 息が荒いよ?」

「暑苦しいんだよ。少し離れろ」

「ちぇっ、兄ちゃんのいけず…」

彼女に指摘されて、俺は隠しきれていない自分を恥じた

…美希、お前が惚れているのは、こんなにも醜い男だ


…なんとかしなければ……

~~~~~~~~~

「美希、入るぞ」

楽屋のドアを形式的にノックして、ノブを回す

「ハニー! どうだった!?」

「ああ、最高のパフォーマンスだったよ。お疲れ様」

うっすらと汗を浮かべながらこちらに駆け寄る美希
純粋な感想と労いの言葉をかけると、彼女は笑うでもなく俯いた

「……そっか。ならね、ハニー…」

「美希、それ以上は言うな」

いつもと違う態度に嫌な予感がして、俺は美希の言葉を遮る

「なんで!? ミキ頑張ったよ? トップランクのアイドルにもなれたの!」

「こんなミキじゃ不満なの? それともアイドルだから? だったら…!」

Pから狂気を感じる

「馬鹿を言うな! そんなんじゃない」

「ならどうして!? 美希に大人の魅力がないから?」

「そうじゃない。そうじゃないんだ……」

矢継ぎ早に不満を口にしていく美希に、俺は喉がつかえたような感覚に陥る
いつかこういう日が来るとは思っていたが、いざとなると閉口するしかない

「……好きな人がいるんだよ」

美希の気持ちを思うと、こう告げるのは心苦しかった
勿論、真実を言っている訳じゃない
あくまで彼女を諦めさせるためだ

だが、美希から返ってきた答えは更に俺を困らせるものだった

「…どんな人?」

「……そんなこと聞いてどうする?」

「知りたいの! 知って……ハニーに相応しい人か、確かめる」

「冗談はよしてくれ……」

「じゃないと、諦められないの!!」

鬼畜になってもいいのよ

美希が、涙を溜めてこちらを睨みつける

一度言い出したら聞かないやつだ
俺はこの頑固を絵に描いたような顔がひどく嫌いだった
ひっぱたいてでも分からせてやりたいという思いが、こみ上げてくる

「こいつ……!」

俺のことが好きならなんで分かってくれない
分かってくれれば、俺だって……

「もういい!! 好きにしろ!」

「…………」

「一人でも帰れるな? 今日はご苦労だった。しっかり休養をとれ」

事務的な言葉を述べて、俺は楽屋を出た

最後に見た美希は、やはり俺の嫌いな顔をしたままだった

~~~~~~~~~

車の窓から吹き入る生暖かい風は、ユウウツな私の気分を、ちっとも晴れやかにしてはくれない

「なんで真美だけ仕事なのさ……」

さっき亜美と別れたばかりの私には、とりわけそれが不公平に感じられていた

「亜美は竜宮小町で忙しかったからな。律子が休ませたんだろう」

……質はともかく、同じくらいの量は、私もこなしてるはずだ

「…兄ちゃんも、亜美は特別だって言うんだね」

「……そんなことはない」

「みーんな亜美基準でさぁ。陰じゃ真美は双子の竜宮じゃない方って言われて…」

「しまいには亜美の真似してみて、って友達にお願いされるし」

「そうか……」

「曲のジャンルだって亜美とは全然違うのに……」

少し前までならむしろ嬉しかったはずの事が、今は笑って流せなくなっていた
私の価値って何なんだろう……

「あ、これならいっそソロアイドルじゃなくて、亜美の代わりやってた方が良かったかもねー!」

「…冗談でもそんなことは言うんじゃない」

いつもの私らしくない雰囲気を変えようと、おちゃらけながら言ったつもりだったけど、
兄ちゃんには誤魔化しきれなかったみたいだ

「真美、俺は今だってお前達の違いが分かるよ。
それぞれがそれぞれなりに成長した、とも思う」

「……本当?」

「本当だ、だから心配するな。
二人共これからもっと大人になって、もっと自分なりの道を見つけていく」

「私」ってすげー違和感あるな

「お前達はたまたま自分のそっくりさんが居たから、それが感じづらいかもしれないけどな」

嬉しい言葉。だけどもっと確かな答えが欲しくて、つい続きをせがんでしまう

「…例えば?」

「そうだな…。真美は優しくなった。
俺にはたまに愚痴を言うけど、亜美の前では聞いたことがないからな。
それって周りに気を使えてるってことだろ」

「あ……。そっか、そうなんだ」

「ああ…」

くしゃっとした、泣いているのか笑っているのか分からない顔で、そう肯定してくれる
私はこの笑顔が好きだった

…好き。そう、好きだ

これが恋、なのかな?
いつかはあずさお姉ちゃんのドラマみたいに、大人の恋愛が出来るんだろうか…

今は…これでいい
兄ちゃんが私のことを知っていてくれるなら、
このままゆっくり大人になるのも、悪くはないって思えた

「ああ…」

近頃彼女を見るたびに俺は言い様のない苛立ちを覚えていた
いや、もっとちがう何か…
多分これは……焦りだ


彼女を知らないうちはよかった

それが目の前にあっても耐えられた

だが、
刻一刻と、
その宝石のような若さが目の前で失われていくことが、耐えようもなく苦痛なのだ

ああ、あの果実をはやくもぎとらなければ、熟してしまう。腐ってしまう

ああ

ああ


ああ――

~~~~~~~~~

「あれ、ミキミキどうしたの?」

私が一人、閑散とした事務所でゲームに熱中していると、
険しい顔をしたミキミキがバッグを片手に入ってきた

「律子…と小鳥は?」

「えっと…、どっか行っちゃったかも?」

「ふーん、そう……」

辺りを見回しながら気のない返事をすると、彼女は突然兄ちゃんのデスクを弄りだす

「ちょ、ちょっと何やってるのさ!」

「亜美も手伝って、ハニーの手帳を探すの」

「…手帳?」

「最近ハニーは新しい手帳を買って…一人になると何か書いてるの」

ロリコンってかわいそうな性癖だなとつくづく
一生添い遂げられる相手できねーじゃん

「へぇ~。よく見てるね…」

「だってハニーのことだもん」

「言うねぇ…。でもなんでわざわざ見る必要があるのさ?」

「そこに好きな人のことが色々書いてあるかもしれないの」

「ええっ!? 好きな人?」

「そう。だから一緒に探して?」

好きな人というフレーズに、心が動く

…これって、真美のためにもなるよね?

真美が兄ちゃんを気にしてるのは知っていた
双子だから、すぐに分かった

…だったら、妹として応援しなくちゃっしょ?

「ねぇ、その表紙ってどんな感じ?」

イタズラ好きな自分にとってみれば、隠し場所を当てるくらいはなんてことはなかった
ほどなくして手帳が見つかる

「あ、もしかしてこれじゃん!?」

「それなの! これでハニーの秘密が分かる……」

「で、でもやっぱり兄ちゃんに悪くないかな?」

今さらながら芽生え始めた私の罪悪感などお構い無しに、彼女はぺらぺらとページを進めていく
が、すぐにその手が止まった

「何、これ……亜美たちの名前がある……」

「え? どれどれ…」

様子のおかしい彼女に気付かず、手帳を受け取ろうとする
それは彼女の手から離れているかのように、するっと抜けた

第一印象は日記、だった
いや、詩だろうか? 漢字が多く書き込まれている……
文章を読もうとすると、ピントがあったように内容が理解出来てくる

「……嘘」


――鳥肌がたった

私怨

~~~~~~~~~

真美を無事に送り届けて、俺は事務所へと戻ってきた

風通しをよくする為に開け放たれたままの玄関を通ると、奇妙な光景に出くわす

…椅子に座った亜美と美希を囲んで、社員や真、雪歩が立っている

俺が入ってきたことには、一人も気付いていない

何故美希がいるんだ? あいつは休みじゃなかったか?
いや、それ以前に様子が変だ

「ただいま戻りました」

いくつもの疑問を感じながら声をかけると、皆は跳ねるようにしてこちらを見た

支援

「…………」

「…ハ、…プロデューサー…」

その輪の中央、机に広げられているものを見て俺は全てを理解した
……俺の手記だ

「…そうか。見たのか」

「勝手に内容を見たのは謝ります。ですが…」

「いや、いいさ」

「これ…本当なんですか?」

真の視線がこちらを貫く。嘘は許さないとでも言いたげな目だ
俺は正直に答える

「ああ、全部俺の実感だよ」

>>40
なんてスレタイ?

「亜美たちのこと、厭らしい目で見て……普通じゃないよ」

「……」

しゃがれた声で、亜美が絞り出すように言う

そうか、彼女を泣かせてしまったのか
けどな、そんなことは、言われなくても充分わかってるよ

成り行きを静かに見ていた社長が口を開く

「君、向こうで少し話そうか……」

「ええ、分かりました」

俺は思いの外冷静だった
静まり返っている皆に背を向けて社長室へと足を進めると、美希に背後から罵られる

悪いことはしてないのにな…

「プロデューサーの変態…!! 信じてたのに……!」

信じてた? 何をだよ? 俺が普通だってことをか?

けれども、俺は彼女に反論する術を持たない

「……そうだな。俺は変態だ」

「犯罪です…」

侮蔑のこもった雪歩の言葉に、足が止まる

犯罪……? これは犯罪なのか…?

なにかが、俺の心を逆撫でる

「違うっ!!!」

「ひっ…!」

声を荒げて、涙目になった雪歩を睨みつける

あれ? 俺はなにを怒っているんだ?

「俺は、犯罪者じゃない……」

あんな蔑みの眼差しを受けて、プライドを失って、まだこんな情動が残っていたのかと驚く

だが、一度溢れ出した激情は、自分でも制御出来なかった

「ぷ、プロデューサーさん……」

「お、落ち着きなさい…」

「黙れ!!!」

社長を殴りつけて、俺は、事務所を飛び出した
この時の俺が何を考えていたかは分からない
ただそれは、動物が本能で生存を選択するのと同じだったんだと思う

俺は、終わりたくなかったのだ

支援

完全に犯罪者じゃないか

~~~~~~~~~

「ここまで来れば…」

乱れた息を整えながら、路地裏の汚いゴミ箱の隣に腰を下ろす

「何やってるんだ俺は……」

あの場から逃げただけで、何が変わる訳でもない
また全てを失うのだ……
このまま消えてしまうのも悪くはない
とさえ思えた

「いや、待てよ…」

そもそも俺は何の為にこんなことになってるんだ


俺が悪いのか?

見たことある気がする

俺はあいつらのルールを守ってきたし、常識だって尊重してきた
誰よりも模範的に生きてきたんだ

それを知ろうともせずに、あいつらは人の中にずかずかと入ってきて、
俺の心まで縛りつけようとする…

そこまでされる謂れがあるのか?

俺が、あいつらに何で義理立てする必要がある?

「そうだ……」

そう考えた途端、思考が明瞭になっていく、身体が軽くなっていく

しっくりくる……
まるでずっと前から、解答が用意されていたみたいだ
身体を巡る興奮に、血が沸き立つ

「そうだ。俺は……」

俺は、生まれて初めて自由を知った気がした

~~~~~~~~~

「痛つつ……」

「大丈夫ですか? 社長…」

「まさか彼がこんなことをするとはね、未だに信じられん…」

社長は、小鳥さんが持ってきたアイスパックを頬に当てながら、そう漏らした

「これからどうするべきなんでしょう…?」

「少なくとも、彼には辞めてもらわなければならない。
ただ心配なのは、彼が自棄を起こさないかどうかだ。事は慎重に運ばなければ…」

社長の言葉に後ろめたさを感じたのか、雪歩が顔を伏せる
けれど、その悠長な言い回しに、僕は違和感を覚えた

吉良じゃないけど性癖以外まともなのに性癖がアレだからって理由でこの扱いはなあ?
犯罪犯したわけでもないのにクズすぎだろコイツら

いきなり社長殴られてますやん

まぁ日記にしちゃうのはまずかったな

「ねぇ…プロデューサーがヤケになるっていうのは、
自分だけに限ったことじゃないでしょ?」

僕の発言に律子達は顔を見合わせる

「どういうこと? 真」

「その…、誰かを巻き込む可能性もあるんじゃないかってことです」

「それは……」

嫌な想像に表情を曇らせていく律子達とは逆に、
美希と一緒に泣いていた亜美が、顔を上げた

「ねぇ…、真美は…?」

仕方ない気もする

というか前に見たかすみちゃんのやつと展開が全く同じだな

P「俺がロリコンだと皆にばれた」
P「俺がロリコンだと皆にばれた」 - SSまとめ速報
(http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1336874529/)

~~~~~~~~~

「朝は来れないって言ってたのに、
急に迎えに来てくれるなんて、気前がいいじゃん!」

「ああ、ドライブに行こうと思ってな」

出来るだけ不自然でない表情を作って、真美に話しかける

「ドライブ?」

「海辺にな。いいだろう?」

「うーん、いいけど…」

「さぁ、乗った乗った。俺が荷物を持つから」

「あっ、亜美にメールしようと思ってたのに…」

「後でも大丈夫だよ」

真美が車に乗りこんでいる隙に、素早く携帯を探る
ああ、丁度着信が入ったようだ。間に合ってよかった
せっつくようなバイブレーションを無視して電源を切ると、後部座席に荷物ごと放る

「少しは周りのことは忘れろ。せっかくの遊べる機会なんだ」

「う、うん。……へへ」

彼女の笑顔を目に焼きつけて、俺は座席のドアを閉めた

あれこれあのSSと展開ががが

20歳なんですけど!ふくしの大学?に通ってるんですけど!
のオチと似たような嫌悪感

あんなに年下だらけだからロリコンなってもおかしくはない

~~~~~~~~~

「き、切れた……」

青ざめた顔で、律子が呟く

「切れたって…律子さん」

「途中までは、繋がってたんです…」

「ということは…」

「誰かが、電源を切った……」

「…………」

痛いほどの沈黙が場を支配する
最悪の展開に、皆が色を失っていく

「いやあぁっ!!!」

亜美が叫びをあげるのを聞いて、僕達はようやく我に返った

「け、警察……警察を呼んで下さい社長!」

「あ、ああ…」

何故だか、そこで受話器を上げた社長の手が止まった

「何してるんですか!? 早くしてください!!」

「……」

亜美をなだめていた小鳥さんが気付いたように話しだす

「もし…もし警察沙汰になったら…」

「なっ……! そんなこと気にしてるんですか!? いいからかけて下さい!!」

「信じられません!! 真美の一大事ですよ!?」

「しかしだね……」

「もういいですっ!!」

そう言い放つと、律子は支度をし始めた

「律子、どこへ行く気なの?」

「分からないわよ! けどここにいるよりずっとマシでしょ!?」

駄目だ……
律子も律子で冷静さを失っているように見える

Pが追い詰められて自暴自棄になったのこいつらのせいだろって思えてくる

「亜美……亜美は何か分からない?」

「…そう言えば…」

僕の問いかけに、亜美がぼそぼそと口を開いた

「パパが……ケータイとは別に…位置が分かるの…持っとけって」

「それ、亜美からも分かるの?」

「うん…遊んでる時に、使ったことあるから……」

「なら、それで真美の場所を突きとめよう!」

僅かでも手がかりを掴めたことに、僕の鼓動ははやくなる
そんな僕を制するように、誰かが袖を引っ張った

>>87
かすみの時もそうだけど勝手に人の見るなとは思う
ただそのタゲが自分達だから引いてるから仕方ないちゃあ仕方ない

キャラが再生されない

「亜美?」

「…待って、亜美も行く」

「駄目よ! 危険があるかもしれないのに!」

「…律子さん、行かせてあげて下さい。私も付き添いますから」

亜美の言動に感じるところがあったのか、小鳥さんがそう頼んだ

「……分かりました。車を回して来ますから、準備しといて下さい」

「美希は…どうする?」

「嫌っ! 行かない! ……あんなの、ミキのハニーじゃない…」

「……そう」

耳を塞ぎながら叫ぶ彼女の姿はまるで、駄々をこねる子供のようだった…

>>90
散々世話になったPを信じないで自分の保身に走ったりあんだけ好きって言ったのに掌返したり
何かされたわけでもないのに軽蔑するような名前だけ同じ別人だから再生もされんだろ

ペド野郎のことなんて信用するわけないだろ、どんだけ好意を持たれてようが

~~~~~~~~~

夕暮れの浜辺に立ち寄った私と兄ちゃんは、
砂浜を二人、散歩している最中だった

「ははっ、見てよ兄ちゃん!」

「……」

波を蹴りあげて振り向くと、彼は何も言わずに佇んでいた

自分がひどく子供染みた真似をしていると気づいて、恥ずかしくなる

ふと、彼の瞳がこちら…の奥に向けられる

「真美、あそこの灯台へ行こうか?」

「ん…あの崖の上にあるやつ?」

兄ちゃんの視線の先には、緑に覆われた岬に建つ、白い灯台があった

「ああ、あの灯台だ」

うわああアアアアアアアアアああああ

~~~~~~~~~

僕達の車は、高速道路を飛ばしていた

防音壁が続く代わり映えのしない景色は、いやが上にも僕達の焦りを募らせる

「はい……はい、了解しました」

社長からの電話を受けている小鳥さんの声だけが、車内に響く

「律子さん、社長が水瀬財閥のお力を借りれるように、手配してくれたそうです」

「そうですか…」

多分、律子も今更と言いたかっただろうけど、
この状況では、多少なりとも救いを感じられたのは確かだった

僕の隣では、亜美が祈るように真美の名を呼んでいた

「真美……」

数週間もニュースで騒ぐような事件があった後なんだろ?

~~~~~~~~~

足場の悪い道をしばらく歩いて、灯台の下にたどり着いた
じめじめとした空気、汗を吸ったシャツが身体にへばり付く

「わぁ、近くにくるとおっきいね!」

「……そうだな」

中に入ると、窓は少なく、薄暗い
螺旋階段が上まで続いていた

…思った通り、誰もいない

「なぁ……」

遠い天井を眺めている真美を、抱きよせる

「に、兄ちゃん……?」

「ここに10万人の宮崎勤がいます!」か

「動かないで……」

感触を求めて、腕に力を込める

「ねぇ、からかってるの?」

「……」

ああ、目を瞑れば感じられる。
俺の好きな匂い。俺の好きな肌触りが

なんだ、全然いけるじゃないか

「ちょ、ちょっとこういうのって…」

「――美」

「ん、なに…」



「亜美……」

「……え?」

(アカン)

きつすぎる

やっぱり最低なやつだ

これはアカン……

1じゃなくね

うわぁ・・・・


うわぁ・・・・・

いや待て

「な…なに言ってるの? ここにいるのは真美だよ?」

「亜美、亜美…。ずっとこうしたかった」

「嘘でしょ…? い、嫌だよ…。ねぇ?」

震えながら尋ねる真美。ああ、もっと俺に失望してくれ……

「亜美…! 亜美……!」

「亜美じゃない!! 亜美じゃないもん!!」

「はぁ……はぁ……」

「いやっ! 止めてよ!! ふざけないでっ!! ねえったら!」

真美の抵抗を無視して、その二次性徴特有の、
丸みを帯びた柔らかい身体をまさぐっていく

…お前の成長を見てると彼女も色気づくんじゃないか心配だったが、杞憂だったみたいだ
真美でさえ、こんなにも子供の反応じゃないか

容姿の酷似した真美を彼女に見立てて、汚らわしい大人の欲望をぶつけていく……

「はなしてよっ! 嘘…こんなの、嫌…」


「いやあぁぁぁぁっ!!!」

1じゃないわ

それ違う

残酷すぎる

ロリコンの風上にもおけん野郎だ

これは心が痛む

Pもかわいそうだよな

~~~~~~~~~

律子と浜辺に降り立った僕は、途方にくれていた

「この辺で間違いないはずなんだけど……」

「でも、この辺に隠れられる場所なんてないよ?」

その時、停めていた車の方から声がした

「亜美ちゃん!!」

僕と律子は、急いで引き返す

「どうしたの!? 小鳥さん!」

「目を離した隙に、亜美ちゃんが…」

見れば、亜美が岬の方に駆けているのが小さく確認出来た

「あそこに真美がいるの…?」

~~~~~~~~~

……助けて……

「真美……?」

共感能力というやつなのか……私は真美の声を聴いた気がした

気付けば、私は駆けだしていた

「亜美ちゃん!!!」

呼び止めにも応じることなく、走る

近づけば近づくほど、確信する

…あそこに真美がいる

支援

暗い屋内に、二人の影を見つける
横たわる小さな影と、その傍らに立つ大人の影……

震える足をかろうじて踏みだすと、
生臭さと血の匂いが、鼻をついた

性の知識に疎い私でも、何が起きたのかは一目瞭然だった

走り寄って、真美の身体を起こす
彼女は、人形のように脱力していた

「真美、しっかりして!! 来たよ…来たから……」

「ぁ……」

真美はこちらを見ると、虚ろに笑った

「真美、犯されちゃった……亜美の代わりに…」

「あ…、あぁ……」

彼女の短く切られたサイドポニーが、涙で滲んだ視界に入る
自分達双子の間で、それがどんな残酷な意味を持つのか…私はすぐに理解した

「真美ぃぃ!!!」

私の絶叫が、暗い塔の中を反響する

「許さない!!! この変態!! クズ野郎っっ!!!」

「……」

沈む夕日を背にした彼の表情を読みとることは出来ない
だが、茫然と佇むその姿は、憎しみをぶつけるには充分だった

~~~~~~~~~

「許さない!!! この変態!! クズ野郎っっ!!!」

灯台の入り口をかけ上がると、亜美の怒号が聞こえてきた

亜美を追いかけて飛び込んだ僕は、
その凄惨な光景に、思わず目を背けた

「あぁ、なんてことなの……」

「ひ、酷い…真美ちゃん…」

遅れて来た律子と小鳥さんが、呻きを漏らす

プロデューサーは、つっ立っているという表現が適切とすら思えるほど無防備だった

けれども、人がこの僅かな間にここまで豹変出来るのだ
という事実を前にして、僕は動けないでいる

支援

こうキレられてもイマイチ納得できない

>>121
え?

>>121
真美の現状わかってるか?

「貴方は、自分が何をしたのか分かってるんですか!?」

肩を震わせて、律子が怒鳴る
彼はそれを聞いて、口の端をつり上げたように見えた

「何って、何も悪いことはしちゃいないさ」

「なっ、立派な犯罪ですよこれは!!」

「俺は人間として当然の欲求を満たしたに過ぎない…」

「一生満たされることのない飢えがお前達に分かるか?」

「それを抱えて俺がどんな風に生きてきたか……」

「それを制御するのが人間というものでしょう!!」

「俺から人間性を奪ったのは、お前らじゃないか」

「なにを…」

「お前らが俺の居場所を奪うから、俺は未練なく畜生になれた」

淡々と弁舌をふるう彼は、もはや恐怖だった

真美には非が無いというのにこの仕打ちですよ・・・

「犯罪者の烙印を押してくれたお陰で、法に縛られる必要もなくなった」

「お前らが、俺を自由にしたんだ」

「責任転嫁も、甚だしいですよ…」

口ではそう言いつつも、律子の気勢は明らかに削がれていた
僕にもその理由が分かる
彼だけでない、もっと得体の知れないなにかを、相手にしている気がする

「あっ……」

プロデューサーが、おもむろに階段を駆け出した

恐怖心が身体に、ブレーキをかける
だというのに、次の瞬間、僕の足は動きだしていた

「律子はそこで待ってて!」

僕には何故か、見届けなければという強い思いがあった

長い階段を抜けると、展望デッキに出た

辺りは夕闇に包まれて、灯台の白い壁は、青く染まっている

プロデューサーは、柵の向こうに広がる海を眺めていた

「真か……」

「プロデューサー…」

自分でも驚くほど無機質な声だった
いや、あまりの怒りに感情を忘れてしまったのかもしれない

「お前なら、俺の気持ちが分かると思っていたけどな」

「…ふざけないで下さい。誰があんなっ……!」

「そうかな? お前も自分の願望と他人の押しつけとの間に、
軋みを感じていたはずだ」

寡黙な印象だった彼が、饒舌に喋る
これが本来の彼なのか

あーここまでくればもうアレだけど、至る過程を見ると何で?って思ったんだ

「見てみろ。これがそういう人間の末路だ」

「不適格な願望を持った人間っていうのは、淘汰される運命なんだよ」

「永遠に仮面を被らされ続けるか、自ら破滅を選ぶか、どっちかしかないんだ」

「お前はどうだ? 死ぬまで偶像を演じていられるか?」

…僕は――

「…僕は、貴方みたいにはならい。なるわけがない」

「……そうか。まぁ、そんなことはどうでもいい。
大事なのは俺がこの道を選んだということだ」

「…だから貴方は破滅したんだ」

「だが、とても楽しかった。生きている実感を持てたよ。
長い人生の中で唯一、自分を取り戻せた瞬間だった」

「もういいです!! …もう、どこにも逃げられませんよ。大人しくして下さい」

「逃げる? 俺は逃げているつもりはない」

「これは生存競争だよ。お前らが俺を殺すか、俺が生き延びるか、それだけだ」

「あくまでもそう言うなら……」

彼は自分の存在を懸けてまで、敵対する意思を示した
僕は説得を諦めて、拳を握る

…この距離なら、行動を起こされる前に対処できるはずだ

そう頭の中で算段をつけていると、後ろから複数の足音が近づいてきた

「ここか!?」

黒服の男達が踏み込んでくる
突然の乱入者に、気をとられた

――そうか。伊織の……

「しまった!!」

気づいた時には、彼は既に跳躍していた
目の前で人が飛び降りるというショッキングな映像に、
僕はしばし立ち竦んだ

彼が踏み切った柵に手を掛けて、恐る恐る下を覗く

そこには黒々とうねる、海があるだけだった

「プロデュー…サー…」



……プロデューサーの遺体は、ついに上がらなかった

おい…
プロデューサー…

やりきった男だ

                           ∧_∧
                        (・ω・ )
          __________(____)___
        // ̄ ̄ / ̄ ̄           /\

       // ̄ ̄  _ ̄_ノ           /   \
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                   ババババ

           ___ ∧_∧ ________
        // ̄ ̄ ( ・ω・)つ          /\
       // ̄ ̄   ( ∪  ) l|||       /   \
     /         と_)_) つ て     /     /
    /              ⌒) (⌒   /     /
   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\    /
  ,/__________________\/  

逃げた

自殺する人間ってひっそり消えるパターンと、
周りに出来るだけ迷惑かけて死ぬパターンと2種類あるんだよなあ

これは生きてる

~~~~~~~~~

「ん……」

カーテンを閉めきった部屋は、午後を回ろうというのに、ぼんやりとした明るさしかない

起きぬけの気だるさを紛らわせるために、
隣に寝ている雪歩の髪を撫でる

あれから一年……
雪歩の男嫌いは以前にも増して酷くなった。…仕方のないことだろうとは思う
その不安定な心の隙間を埋めるためだろうか、
彼女は中性的な存在としての僕にすがるようになっていた

彼女は、僕なしでは生きられない

あの事件が与えた影響は大きい
水瀬の力と真美達の両親の希望もあって、
事件自体は、事故として内密に処理された

けれども、何もかもが元通りという訳にはいかない

双海姉妹はアイドル業を辞めた

真美の心の傷は深く、今でも療養をしているらしいが、詳しくは分からない
亜美が何も話してくれなかったから

ただ、亜美が一度だけ真美の様子について漏らしたことがある

『私や鏡を見ると怯える』

それは、亜美の幻影を恐れているのだろうか?
それとも、亜美に見える自分を……

4

支援

美希は、事件からしばらくたった後、他の事務所へ移籍してしまった
時々テレビに出演しているのを見かけるけれど、
冷たい目をしたその顔に、あの頃の人懐っこい面影はもうない

全ての処理が終わった後…二人っきりの時に、小鳥さんはこう言った

『プロデューサーさんは……私達に理解者になって欲しかったのかもしれないわね…』

己の嗜好を誰かに理解して欲しい…
だから人の目に触れるような手記なんてものを残しておいたのだ、と

だけど多分、それは違うのだ

あの人が、そんな微かな希望にすがっていたとは、僕には到底思えない


プロデューサーは…きっと、蔑んで欲しかったんじゃないだろうか

プロデューサーは捨てきれなかったのだ。自分の仮面を

僕が、ファンや雪歩の望む『菊地真』を、嫌いになりきれないように

美希や事務所の皆に慕われる自分の偶像を、壊せなかった

だから、賭けた
それは賭けとすら言えないものだったはずだけど、それでも良かったのだ

偶像の仮面を捨てる理由さえくれるならば


「真ちゃん……どこ…?」

「起きたの? 雪歩」

「ん……昨日の続き、しよ?」

ぴよ

そうだ。彼は、ずっと仮面を捨てたかったんだろう

重くのしかかった偶像を振り落として、裸になりたかった

「はぁ…んんっ…」

その世界に対する裏切りは、いつだって痺れる快楽をもたらしてくれるから

「真ちゃん、好き…」

僕が、雪歩に真実をぶち撒ける下卑た想像で、酷く興奮するように……

「ああ…」


「ボクもだよ」

同好の士が一人でもいれば

もう少し早く真が気付いていればな

「いらっしゃい」

「酒を…あと、串をいくつか…」

「はいよ」

「……」

「…お客さんも好きだねぇ。まだ日も沈んでない時間なのによ」

「……」

「若けえのに疲れた顔してるぜ? …当ててやろうか、女だろう?」

「女……はは、半分当たっているかな」

「半分?」

「…女は女でも、少女だ。中々会えなくてね…」

生きてたか・・・

「なんだい…娘か。すると女房に逃げられたクチか」

「……まぁ、そんなところだよ」

「ウチにもこれくらいの娘がいるんだが、女房の味方をしやがって敵わねぇ」

「娘…娘がいるのか?」

「ああ、今年中学に上がったばかりの、生意気な盛りのがな」

「へぇ……そうか…」



「そりゃあいい」



Pきたか

まあこの言い方だと娘と取れなくもない

実に面白かった

吉良みたいにスタンドがあればな、あいつはスタンド無しでも完全犯罪やったみたいだが

おつん
いい後味の悪さだ

以上です
長々と付き合ってくれた方、有難うございました

話に出てた某SSですが、存在を知ったのが半分以上出来上がってからだったので、
他の展開も思い付かず、中盤が酷似していると知りながら投下しました。すんません
パクりで無いとだけは分かって頂きたい

良かったら批評や不明だった部分を参考までに聞かせて欲しい

亜美真美好きとしては胸の痛む展開だったが乙

いやあ素晴らしいですねぇ



>>158
幾らなんでも事務所の連中が薄情すぎたと思う、特に保身しか考えてない社長とかは別人みたい

俺も>>162と同じ
まあ乙

なんか…すごかった!
>>1

どうしても薄情てか嘘だろ………みたいなリアクションが薄いのが気になるのよね、どっちのSSも
いやこっちの方はリアクション取ってる人はいたが

>>158
ばれて以降は完璧に全く別物だから気にしなくていいんじゃなかろうか
こちらのPはいずればれて欲しいと思っていただろうし

盗み見は良くないけど何分内容が過激だからなぁ
おまけに事務所のほとんどが精神的に未熟な未成年の女性だしリアクションは妥当に思えた

なんていうか色々ヒドイssだった

壊れたまこりんverマダー

あとアイドルのキャラが違いすぎて誰テメェ状態

感想ありがとう
確かに物語のためにキャラやリアクションを犠牲にしてしまった感はあるんだよね……
納得してくれた人の意見を参考に描写を精進します
それでは

男だから理屈的に考えて薄情すぎって思うけど
女でそれにどいつも10代って考えるとこれくらいの反応もする可能性もあるか

>>171
上にもあったけど中盤というかオチにいたる過程とキャラがどうも納得仕切れない感じだったけど
序盤と最後の真との会話に物語のオチは良かったからまた書いてくれー楽しみにしてる

>>170
そんな違うか?

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