雪歩「恋なのかな」(124)
最後のコマには、そう書かれていました。
思わずそれを呟いてしまった自分自身に、少しの恥ずかしさを覚えます。
私は真ちゃんから借りた漫画を机の上に置いて、部屋の電気を消しました。
真ちゃんはよくこうしてお気に入りの漫画を貸してくれます。
貸してくれるのは嬉しいんですけれど・・・その内容が大抵、お姫様と王子様のシンデレラストーリーなんですぅ・・・。
うう・・・面白いんですけれど、時々こっちまで恥ずかしくなるようなセリフがところどころにあって・・・
真ちゃんがそのセリフを私に向かって得意げな顔で言ってくるのがもう・・・
・・・でも、今日読んだところで一番印象に残ったのは、今思わず呟いてしまったそのセリフでした。
主人公の女の子が、自分を危険から守ってくれた「王子様」に対しての恋心を自覚するシーンです。
私は男の人が苦手だし、あまり話したことも無いしで・・・「恋」って言うのがいまいちよく分からないんですけど・・・
それでもこの言葉を見たとき、胸がちょっとドキッとするのを感じました。
その気持ちの正体は分かりませんが、とりあえず靴下を脱いで、少し高揚した気分のまま布団に入ります。
何ででしょうか――――今夜はよく眠れそうです。
その夜、私はプロデューサーの夢を見ました。
というわけでアイドルマスターの雪歩のSSです。
だいたい10分おきに投下します
ほ
期待
完走期待
次の日、事務所に着くと、春香ちゃんと真ちゃんが出迎えてくれました。
春香「おはよう、雪歩!」
雪歩「おはよう春香ちゃん」
真「おはよー雪歩!・・・ねえねえ、あの漫画どうだった?すっごく面白かったよね!ボク的にはあのシーンが・・・」
・・・少し一方的ですが、真ちゃんが楽しそうに話しているのを見ると、私まで嬉しくなっちゃいます。
雪歩「あ、真ちゃん。これありがとう」
私は鞄の中から漫画を取り出して、真ちゃんに返します。
真「ひひー、どういたしまして!またお薦めの漫画があったら言うね!」
雪歩「うん、ありがとう真ちゃん」
春香「あ、それ私も知ってるよ!確か何かの週刊誌で取り上げられてたような・・・」
真「え、春香それホント!?何の雑誌?」
春香「えーと名前は・・・」
そうしてしばらく三人で話をした後、私は鞄をソファの上に置いて一息つきます。
雪歩「ふぅ・・・。あ」
ソファに座っていると、向こう側にプロデューサーの姿が見えました。
パソコンに向かっての作業みたいです。
随分長い間作業しているみたいで、頻りに瞬きを繰り返しています。
・・・プロデューサーは本当に頼りがいがあって、尊敬できる人です。
こんなダメダメでちんちくりんな私を、アイドルとしての道に導いてくれました。
私一人では、決して歩むことのできなかった道です。
感謝してもしきれないくらいの恩・・・って言うんでしょうか。
そんな大事な人に、無理させちゃあいけないですよね。
ほう
つづけたまえ
数分後。
私はキッチンからプロデューサーの机に向かいます。
私が真横に立つと、プロデューサーは座ったまま私の顔を覗き込みます。
P「・・・ん?雪歩、どうしたんだ?」
雪歩「どうぞ、お茶ですぅ。・・・その、余計なお世話かもしれないんですけど・・・もし疲れてるようでしたら、これで少しリラックスしてください」
P「え、ああ・・・ありがとう雪歩。そうだな、少し休ませてもらうよ」
プロデューサーはそう言って伸びをした後、お盆の上のお茶を取って口に運びます。
雪歩「どう・・・ですか?」
P「・・・うん、美味い。やっぱり雪歩が淹れたお茶は最高だよ」
そう言って優しく笑うプロデューサーを見ていると、なんだか不思議と心地良い気分になります。
雪歩「えへへ・・・ありがとうございますぅ」
お茶を淹れることぐらいしかアイデンティティが無い私ですけど・・・
それでもこれだけは、プロデューサーとの繋がりを感じる事が出来る、大切なひと時です。
決して誰にも譲りたくないって、そう思います。
④
あ・・・えっと・・・ちょ、ちょっと言いすぎたかもしれません・・・。
ただ私は、こんな風な毎日がずっと続いたら良いなって思ってたり・・・
男の人は得意じゃないけれど・・・でも、プロデューサーとこうやってお話したりするのは、とてもかけがえのない時間で・・・
・・・そういう事を考えていると、思わず自分が笑顔になってしまっているのに気付きます。
その時、
『恋なのかな』
という言葉が一瞬頭に浮かびますが・・・
うう・・・何だか恥ずかしくてちゃんと考える事ができないですぅ・・・
・・・私ってもしかして、プロデューサーのことが好きなんでしょうか・・・?
|´ ̄ ヽ
| ノハ)i |
|゚ ヮ゚ノリ
|o④o ソローリ
|―u'
| '´ ̄ ヽ
| ノノハ)i |
| (l゚ ヮ゚ノリ
|o ヾ
|―u' ④ <コトッ
|
|
|
| ミ ピャッ!
| ④
―――――
P「よし、行こうか。春香、響、雪歩、準備はできてるか?」
春香「はい!今日もよろしくお願いしますね!」
響「はいさーい!自分は準備カンペキだぞ!」
雪歩「私もだいじょう・・・ってあれ?・・・この台本、響ちゃんのじゃない?」
響「え?・・・うわあ忘れてた!あ、ありがとう雪歩・・・」
春香「響ったらおっちょこちょいなんだから~」
P「ははは、危なかったなあ。さ、車に乗ってくれ」
今日は、春香ちゃんと響ちゃんと私とで番組の収録です。
私達が後部座席に乗ったのを確認した後、プロデューサーがアクセルを踏み込んで車を発進させます。
P「さ、ここが収録場所だ。皆、今日もよろしく頼むぞ!」
皆で一斉に「はい!」と返事をして、私達は控え室に向かいまず。
今日はこの三人でのトーク番組の収録でした。
正直な話、私はトークが苦手で・・・終始春香ちゃんと響ちゃんのフォローを受けてばっかりでした・・・うう。
私も二人みたいになれたらなあ・・・といつも思います。
P「皆、今日はお疲れ!まだ時間もあるみたいだし、これから皆でどこかに食べに行こうと思うんだが・・・どうだ?」
収録が終わってプロデューサーの元へ行くと、そんなことを言われました。
春香「はい!みんな大丈夫だよね?お願いします!・・・あ、あと今日の私達・・・どうでしたか?」
響「今日は自分達、かなりちゃんとこなせてたと思うぞ!」
春香ちゃんと響ちゃんがプロデューサーに駆け寄ります。
私も行きたいけど・・・上手くやれなかった私にそんな資格は・・・
P「ああ、もちろん良かったよ。春香と響は会話のフォローが良く出来てた。
・・・それで雪歩。雪歩は周りを良く見て、話を上手く振ってたな。喋りは少なかったけれど良い働きしてたぞ」
雪歩「・・・え、は、はい!ありがとうございます・・・」
・・・そんな優しい笑顔で言われたら、照れちゃいますよ。プロデューサー。
春香「な、なんか雪歩にだけコメント多くないですか?ずるーい!」
P「そうか?俺はいつだって平等だぞ。さ、じゃあ早速行こうか。席が空いてるうちにな」
プロデューサーに続いて、皆で歩き始めます。
こうやって仲間と歩む毎日が、私はとても好きです。
春香ちゃんがプロデューサーの腕を掴んで歩いていたり、困った顔をしてそれを見ているプロデューサーだったり・・・
「プロデューサーが困ってるぞ!」って言いながら春香ちゃんを引きはがそうとしている響ちゃんだったり・・・
雪歩「・・・ふふ」
春香「・・・ん?雪歩、今何で笑ったの?」
雪歩「なんでもないよ、春香ちゃん」
私は皆と一緒に居られて、本当に嬉しいです。
・・・でも、少し気がかりなことがあります。
私は、こんな私にも優しく接してくれるプロデューサーの事が好きなんでしょうか?
それとも・・・
皆と一緒に居られる、この時間の事が好きなんでしょうか・・・?
考えても答えは出ないままですぅ・・・。
支援
支援するよー!
美希「あ、あれ・・・やっぱり!ハーーーニーーーイーーー!!!!!」
外に出て少し経った頃、突然の大声で、私達は一斉に後ろを振り返ります。
P「み、美希!?どうしてこんなところに・・・おわっ」
美希「偶然なの!ミキね、あそこのお店で服買ってたんだ。出てきたらちょうど皆が見えたの!・・・ねえねえ、ところで買ったのはこの服なんだけど、どうかな?」
美希ちゃんはプロデューサーから少し離れて、モデルさんみたいにくるりと一回転します。
・・・美希ちゃんはスタイルも良いし、何着ても格好いいなあ・・・と私が見惚れていると、
P「おお・・・さすが美希。その服凄く良いぞ!今度の撮影で使いたいくらいだ」
隣でプロデューサーもうんうんと頷いていました。
美希「あはっ、ハニーほめ上手なの。・・・そういえば、皆何してるの?お仕事?」
響「ああ、自分たち、これから打ち上げに行くんだ」
春香「・・・あ、そうだ!プロデューサーさん!美希も一緒で良いですよね?」
P「もちろん良いぞ。えーと・・・じゃああそこのファミレスで良いか?」
ゆきまこじゃないのか
私達は店内に入り、円形のテーブルが一つ空いているのを見つけます。
まずプロデューサーが奥の席に座ったのですが・・・
美希「誰がどこに座るかは、ジャンケンで決めるの!」
春香「負けないよー!」
響「望むところさー」
雪歩「み、みんなお店の中では・・・じゃ、じゃーんけーん・・・」
美希「ハニーのとなり♪ハニーのとなり♪」
雪歩「・・・」
うう・・・じゃんけんで勝ったのは美希ちゃんと私で、それぞれプロデューサーの両隣りに来たわけですけど・・・
な、なんだか目の前の二人の不満そうな目が怖いですぅ・・・
かといって、勝っておいてプロデューサーから離れた位置に座るのも失礼ですし・・・
どうしたら良かったのか分かりません・・・
P「は、ははは・・・さて、春香、響、注文は何にする?」
春香「・・・甘いものが良いです」
響「自分もそうするさー」
とは言いつつも、ケーキを一口食べた途端に上機嫌になる春香ちゃんと響ちゃんでした。
その後も皆でケーキやアイスを食べてお話していると、あっという間に時間は過ぎて・・・
いつの間にか外が薄暗くなっていました。
P「もうこんな時間か・・・じゃあそろそろ出ようか」
美希「えー・・・ミキもうちょっと居たいかな」
P「ダメだぞ美希。女の子が暗い中帰るなんていけないだろ」
美希「・・・うん。ありがとうなの、ハニー」
美希ちゃんがかわいらしい笑顔でプロデューサーの腕に抱きつきます。
いつもは大人っぽい美希ちゃんですが、こんな時を見るとやっぱり年下の女の子なんだなあって思ったり・・・
なんだか微笑ましいです。
春香「み、美希!早く行くよー!ほら、プロデューサーさんも・・・」
美希「分かったのー」
・・・あれ?
④
いいな
私がもし本当に、プロデューサーの事が・・・す、好きなら・・・
今の春香ちゃんみたいに焦ったりするのが普通だよね・・・
読んでた漫画ではそんな感じの展開が多かったんですけど・・・
うーん。
あまりそういうやきもちみたいな気持ちは無い・・・のかな・・・逆に微笑ましいって思っちゃうくらいだし・・・
・・・なんだか、いよいよ自分の事が分からなくなって来ました。
プロデューサーの、あの優しい笑顔は大好きです。でも・・・
私って本当に、プロデューサーの事が好きなんでしょうか・・・?
次の日、私は鳥の啼く声で目覚めました。
目覚ましを見ると、昨日セットした時間のちょうど10分前です。
寝ぼけた目のまま外を見ると、空は雲一つない綺麗な水色でした。
暖かい日の光が肌に当たるのを感じて気持ちが良いです。
服を着替えてリビングに向かうと、お母さんが朝食の支度をしていました。
母「おはよう、雪歩」
雪歩「おはよう、お母さん」
私はそのまま準備を手伝います。
母「・・・ん?雪歩、何だか嬉しそうね」
雪歩「・・・え?そうかな?」
母「うん。るんるんらんらんみたいな感じ。何か良い事でもあったの?」
雪歩「え~・・・うーん、今日は目覚めが良かったからかなあ」
こい~ それはお魚~
母「ふーん。・・・もしかして、好きな人でも出来たりしたのかなーと思ったけど」
父「ム・・・」
な、何だか椅子で新聞を読んでたお父さんがピクッと反応した気がしますう・・・
って、
雪歩「えっええ!?・・・ど、どうしてそう思ったの・・・?」
父「・・・」
母「あら?本当にそうなの?」
父「・・・・・・」
雪歩「いっいや・・・私、あまりそういうの良く分からないから・・・『好き』って言うのもいまいちよく分かってないし・・・」
母「ふふ、我が娘ながら、そう言うところ可愛いわね。・・・そうねえ。相手が笑ってくれると自分も嬉しい、って言うんだったら・・・それが好きってことよ」
父「・・・・・・・・・」
雪歩「そ、そうなのかなあ・・・」
父「・・・・・・・・・・・・」
母「そうよ。・・・あとお父さん、そんなに強く新聞を握りしめてると破れちゃいますよ?後で私も読むんですから・・・」
父「・・・」
お、お父さん・・・
何だか目が無機質ですぅ・・・
今日は貴重なオフの日だったので、午前はのんびり家、午後はちょっと外に遊びに行く事にしました。
こんなに晴れてるのに外に出ないのはもったいないですから。
服は・・・プライベートならやっぱり露出の少ないロングスカートかな・・・
でも外は暖かいし・・・うーん・・・
悩んでいると、いつの間にか30分も経ってしまいました。
服は選べたには選べたんですが・・・ちょ、ちょっと地味過ぎな気も・・・
ま、まあ私にはこれぐらいの地味さが似合ってると考えれば・・・
・・・複雑ですぅ。
今日行くのは、都内に新しくオープンした大型のショッピングモールです。
聞いた話、レストランやカフェは勿論、お洋服のお店がたくさんあるそうです。
本当は真ちゃんと一緒に行きたかったんですけど、今日はお仕事だったので・・・
・・・真ちゃんに合うお洋服、選んであげよっと。
支援
その後は30分くらい色んなお店を回っていました。
な、なんだか周りはカップルばかりですぅ・・・
自分が居る事が何故か場違いに感じてしまっていると、前の方に見覚えのある姿が見えました。
雪歩「・・・あれ?美希ちゃん・・・かな」
帽子を被っていて顔はあまり見えませんでしたが、あの綺麗な金色の髪は間違いなく美希ちゃんでした。
雪歩「・・・ふふ」
なんだか偶然が嬉しくて、思わず笑ってしまいます。
私が美希ちゃんを驚かせようと、気付かれないように横から近寄った時でした。
美希「あ、ハニー!やっと出てきたの!さ、次いこ?」
お店の中から、荷物を抱えたプロデューサーが出てきました。
雪歩「あ・・・」
私は歩みを止めて、反射的に柱の陰に隠れてしまいます。
P「おい美希―。いくら男でもこの量を一人で持つってのはだな・・・」
美希「ふーん・・・じゃ、ミキも半分持とうか?」
P「って、そう言われるとな・・・ハハ、まあいいや。全部俺が持つよ」
美希「あはっ、やーっぱりハニーは優しいの!」
・・・初めは、「邪魔しちゃ悪いよね」くらいの気持ちでした。
でも、美希ちゃんに腕を引かれているプロデューサーの顔が・・・
どうしようもなく、屈託のない、笑顔で―――
雪歩「・・・っ」
気付けば、私は足早にその場を去っていました。
歩いている間、おなかの中からモヤモヤしたものがせり上がってきて・・・
それが喉に辿り着いた時、私は嗚咽を漏らしていて・・・
頭の中が、他に何も考えられないくらい悲しくて・・・
その時、私はようやく気付いたのです。
私、プロデューサーのことが好きなんだ―――。
・・・変、ですよね。
ただ、自分の好きな人が、他の人と楽しそうに笑ってるのを見ただけなのに。
別に、キスしたりしてるところを見たわけじゃないのに。
・・・でも、プロデューサーのあの屈託のない笑顔が、頭に焼きついて離れませんでした。
その日の後の事は、あまり覚えていません。
でも、夕飯が喉を通らなくて、お父さんとお母さんが心配そうな顔をしていたのは覚えています。
次の日目覚めても、まだ憂鬱な気持ちは抜けていませんでした。
それでも事務所へは行かなくちゃいけません。
その日の765プロまでの道のりは、とてもとても長く感じられました。
しえ
雪歩ペロペロ
面白い
亜美「おっはYOーゆきぴょん!」
真美「おっはYOUゆきぴょん!」
事務所のドアを開けると、ちょうど目の前に居た亜美ちゃんと真美ちゃんに抱きつかれました。
雪歩「・・・おはよう、亜美ちゃん。真美ちゃん」
私は笑顔でそう返します。
いくら気持ちが落ち込んでるとはいえど、事務所のみんなにまで心配をかける訳にはいきません。
そんなことを心に留めながら、私はソファに向かいます。その時、
美希「・・・あふぅ。おはようなの、雪歩」
美希ちゃんがあくびをしながら私に近寄ってきました。
雪歩「・・・うん、おはよう美希ちゃん」
・・・良かった。
少し緊張したけど、美希ちゃんにはいつも通り接することが出来ました。
ただ―――
P「おっ、雪歩。おはよう」
雪歩「・・・・・・は、はいぃ」
それでも、プロデューサーの顔を見ると、そんな心に留めたことなんて吹き飛んでしまいます。
・・・正確には、顔を見る事も出来ていないのですが。
・・・目の前にはプロデューサーが立っています。
その事実だけで、私は上手く言葉を紡ぐ事が出来ず、挨拶の言葉すら発することが出来ません。
代わりに、自分でもうまく聞こえないような掠れた声が出るだけです。
その後は少し訝しげな表情をしていたプロデューサーでしたが、事務所の電話が鳴るとすぐにそれを取りに机に戻って行きました。
支援
今の数分で、私は自分の気持ちを再認識しました。
私が好きなのは、プロデューサーで・・・
プロデューサーが私に向かって笑ってくれるのが、とてもとても大好きで・・・
でも、プロデューサーが昨日美希ちゃんに見せていたのは、私がいつも見ていた「優しい笑顔」じゃなくて・・・
・・・あの時のプロデューサーは、本当に心の底から楽しそうでした。
他の誰と一緒に居るのを見た時も、あんな顔をしたプロデューサーは見た事がありませんでした。
私には決して見せてくれないそんな顔がある事が、どうしようもなく悔しかったのです。
多分、今プロデューサーに「大切な人は居ますか?」って聞いたら、
「俺はこの事務所のみんながみんな、大切だ」
って答えると思います。その言葉に嘘偽りは無いのでしょう。
でも、プロデューサー自身も気付いてないのだと思います。
私たちアイドルが一番輝くのはステージであるように・・・
プロデューサー。あなたの笑顔が一番輝くのは、そこで眠そうにしている女の子の隣なんですよ。
ここらで気付いた人もいるかもしれませんが、この話は雪歩の「恋」を(若干ですが)なぞった感じになってます。
あれは個人的にアイマス屈指のカバー曲だと思ってます
支援しますぅ
「恋」に限らずアイマスのカバー曲ってみんな中々いい選曲だよな
・・・どうなるんだろう、私。
私はプロデューサーと今まで通り、「普通」に接することができるんでしょうか。
たった一日前のことなのに、その「普通」を思い出す事が出来ません。
そんな事を考えてしまう度、気持ちは暗く暗く沈んでいきます。
亜美「・・・どったのゆきぴょん?なんだか元気無いよ?」
真美「何かあったん?」
あ・・・
亜美ちゃんと真美ちゃんが、いつの間にか私の隣に座っていました。
雪歩「う、ううん大丈夫。・・・あ、それより今日は、竜宮小町と私と真美ちゃんとでのお仕事だったよね?」
自分でそう言って気付きます。
竜宮小町ってことは、今日私達に付添うのは律子さんです。つまり・・・
・・・そんなことに安心してしまっている自分が、嫌で嫌で仕方ありません。
律子「さ、行くわよ皆。準備は出来てる?」
律子さんのハキハキとした声で、皆一斉に立ち上がって扉の方向に向かいます。
――――――――――
律子「ふー。皆、今日も良かったわよ、お疲れ様。えっと・・・真美と雪歩は午後は仕事入ってないから、各自自由にしてOKよ」
真美「ラジャー律っちゃん!」
お仕事も終わり、私たちは事務所に戻ってきました。
・・・なんだか今日はいつもより疲れてる気がします。
私はそのままソファに座りこんでしまいました。
・・・ここからだとプロデューサーの顔が良く見えます。
今日も変わらず、プロデューサーは私たちの為に頑張ってくれています。
・・・お茶、今日は出せなくて、ごめんなさい。
亜美「・・・ゆきぴょん、やっぱり元気無い?」
真美「・・・」
あ・・・
さっきと同じです。亜美ちゃんと真美ちゃんが私の隣に座っていました。
雪歩「そんなこと・・・」
ないよ?って言おうとしたのに、言葉が上手く出せません。
代わりに目頭が熱くなっていくのを感じます。
・・・でも、涙を堪えて、私は一つ頷きます。
雪歩「・・・うん。私は、大丈夫」
自分で自分に言い聞かせるようなその言葉を、二人は心配そうな顔で聞いていました。
その後しばらくして、亜美ちゃんが口を開きます。
亜美「ゆきぴょん。何かイヤな事があったら、一発泣くんだよ?わんわん泣いちゃえば、きっとスッキリするって亜美は思うんだ」
亜美ちゃんの声は、今まで聞いたことも無いくらい優しい声でした。
・・・ずるいよ亜美ちゃん。そんなこと言われたら、本当に泣きたくなっちゃうよ。
雪歩「ありがとう・・・亜美ちゃん。ごめんね、心配かけちゃって・・・」
・・・それでも泣けないよ。年下の女の子の前で。・・・プロデューサーの前で。
律子「亜美ー!そろそろ出る時間よー!」
律子さんの声が事務所に響きます。
どうやら竜宮小町はこれからお仕事があるみたいです。
亜美「あっうん!・・・ごめんねゆきぴょん、真美。それじゃあ行ってくるね」
真美「うん、行ってらっさーい」
雪歩「・・・行ってらっしゃい。頑張ってね」
亜美ちゃんは笑顔で頷いて、律子さんのところへ向かいます。
ゆきほ
ソファには私と真美ちゃんが並んで座っています。
しばらくは沈黙の時間が流れていましたが・・・
真美「・・・あのさ、ゆきぴょん」
真美ちゃんが突然、私の手を取って立ち上がります。
雪歩「真美・・・ちゃん・・・?」
真美「・・・ここじゃダメだよね。ちょっと話したい事があるんだ。屋上に来てもらっていいかな?」
私は状況がよく飲み込めませんでしたが、真美ちゃんの顔が今までになく真剣だったので、首を縦に振ることしかできませんでした。
雪歩「真美ちゃん・・・?それで、話って・・・」
真美ちゃんはしばらく向こうを向いて考えていましたが。やがて意を決したようにこっちに振り返って言いました。
真美「ゆきぴょんが今悩んでんのさ・・・兄ちゃんの事?」
・・・え?
な、なんで・・・
誰にも言ってなんてない・・・のに・・・
雪歩「え・・・あ・・・」
真美「・・・うん。やっぱり、そうなんだね」
雪歩「ど、どうして・・・」
真美「真美は亜美よりちょーっちオトナだかんね。ゆきぴょんが何に悩んでるのかなんて、さっきのゆきぴょん見れば分かるよ。
・・・さっきのゆきぴょん、兄ちゃんの方見て、とっても悲しそうな顔してた」
・・・どうやら、真美ちゃんにはバレバレだったみたいです。
雪歩「うん・・・心配かけちゃってごめんね・・・でも私、本当にだいじょ―――きゃっ」
その時突然、真美ちゃんが私の肩に抱きついてきました。
真美「ゆきぴょん、どうして謝るの?・・・辛い時にはね、泣いていいんだよ?何があったかは分からないけど、真美がそばにいるから・・・ね・・・?」
真美ちゃんが私の耳元でそっと囁きます。
・・・でも・・・それでも私は、年下の女の子の前で―――
雪歩「うっ・・・あぁ・・・ああぁ・・・」
あれ・・・おかしいな・・・
私はあふれ出る涙を止める事も出来ず、ただただ真美ちゃんの肩で泣き続けました。
ほ
マジ天使
私の涙が止まるまで、真美ちゃんはそっと私を抱きしめていてくれました。
雪歩「・・・・・・ごめんね」
真美「だーかーらー!ゆきぴょんが謝る事なんて何もないんだってばー!」
雪歩「ご、ごめん・・・」
真美「・・・あはは。そういうとこ、ゆきぴょんらしいけどねー」
そう言って真美ちゃんは歯を見せて笑います。
雪歩「・・・えっと、あの」
真美「あんま話したくない事っしょ?・・・なら真美、何も聞かないよ。ショージキな話、ちょっと気になるけどねー」
雪歩「・・・うん。ありがとう、真美ちゃん」
真美「・・・やっぱゆきぴょんは、そうやって笑ってる方が良いよ。ほら、涙拭いて」
雪歩「私、年上なのに情けないですぅ・・・穴掘って埋まってたいかも・・・」
真美「い、いつものゆきぴょんに戻ったってことでいい・・・のかな・・・?
・・・それよりさ、今日これから空いてる?」
雪歩「これから?・・・うん、何も無いけど」
真美「じゃあ二人で遊びに行こ?イヤなことがあったら、パーっと遊ぶのがいいじゃんよ!」
雪歩「・・・そう、だね。うん。ありがとう・・・」
真美「よっしゃ!そうと決まれば早速YO→!」
雪歩「わ、ま、真美ちゃん引っ張らないでぇ・・・」
その後は、二人で色んなところに行きました。
ゲームセンターで真美ちゃんが私の為にぬいぐるみを取ってくれたり・・・
お返しにアクセサリーの小物を真美ちゃんに買ってあげたり・・・
CDショップに私達の曲を探しに行ったりもしました。
真美ちゃんと二人きりで出掛けるのは実は初めてで、でもとっても楽しくて。
一緒に遊んでる時間は、今私の抱えてる嫌な事を忘れられるくらい素敵で。
私のそばに、こんなにも素晴らしい友達が居た事が何よりも嬉しくて。
その日の夜は、もう一回泣いて。
ゆきほ
朝起きると、気持ちは昨日に比べてだいぶすっきりとしていました。
・・・多分、真美ちゃんのおかげです。
一晩考えて・・・自分がこれからどうしたら良いのかも、なんとなく分かってきました。
私の胸に絡みつくように残っているのは、プロデューサーの笑顔で・・・
なら、あの笑顔が自分に向くように―――
私は、もっと頑張らなきゃいけないんですよね。
寝起きの頭で、私はできるだけ前向きにそう考えてみます。
春香「あ、おはよう雪歩!」
事務所に着くと、春香ちゃんがソファに座っていました。
傍らプロデューサーは電話をしています。
雪歩「おはよう、春香ちゃん」
そして二人でちょっと話したあとに、沈黙の時間が少しだけ流れる時がありました。
その時、私はふと思ったのです。
―――春香ちゃんなら、こんな時どうするのかな
私は言葉を選んで、隣で鼻歌を歌っている春香ちゃんに話しかけます。
雪歩「ねえ、春香ちゃん」
春香「ん?どうしたの?雪歩」
雪歩「例えばさ・・・春香ちゃんの好きな人が、絶対に自分に振り向いてくれないって分かった時・・・春香ちゃんなら、どうする?」
春香「・・・ええ!?ちょ、ちょっと雪歩いきなり・・・!ええぇ・・・」
あぅ・・・言葉を選んだつもりがだいぶストレートに・・・
・・・ううん。でもこれは私が本当に訊きたいことだから―――
春香ちゃんはまるで漫画の登場人物のように慌てていましたが、私の目を見ると、真剣な顔になってしばらく考えていました。
そして数十秒後、春香ちゃんは口を開きます。
春香さんの恋愛感気になります
春香「私だったら・・・その人に、自分の気持ちを伝えるかな」
雪歩「・・・え?・・・それが叶わないものって、分かってても?」
春香「う・・・そう、だね。告白することで、もしかしたらその人を傷つけちゃうかもしれないけど・・・
自分の気持ちを押し込めたまま諦めたら、きっと私、凄く辛くなって、嫌になって、その人のことも、嫌いになっちゃいそうだから・・・
思いっきり思いを伝えて、思いっきり失恋するの。
・・・って全部私のワガママなんだけどね、あはは・・・」
春香ちゃんはそう言って笑い、「私って自己中かな?」と訊いてきます。
雪歩「・・・うん。きっと春香ちゃんは・・・ワガママだけど、正しいよ。
私も、それが一番いい在り方だと思う」
春香「・・・雪歩?」
そんな風に考えられるのが、私には羨ましくて仕方ありません
相手を傷つけてしまうのが怖くて、逃げてばっかりです。
私には、失恋することすらできません。
真「おはよう二人とも!・・・何か話してたの?」
真ちゃんが事務所に入ってきて、私の隣に腰掛けます。
春香「え、あ、いや・・・何でもないよ~」
春香ちゃん、目が泳いでますぅ・・・
真「なーんか怪しいなあ・・・?」
春香「い、いやだから・・・」
P「ほ、本当ですか・・・?」
雪歩「・・・?」
なんだかプロデューサーの方から、焦ったような困ったような・・・とにかく、不穏な空気を感じさせるような声がしました。
P「・・・はい。はい。・・・では、お大事に・・・」
プロデューサーは受話器を置いて、そのまま頭を抱えます。
ゆきほ
さるよけ
支援
亜美真美もとってもいい子だ
P「・・・~~~ッ」
春香「ど、どうしたんですか?プロデューサーさん・・・」
私達三人はプロデューサーの近くに行きます。
P「・・・ああ。どうもな、美希が風邪で来られないみたいなんだ。・・・今日は美希も出演するミニイベントの日なのに・・・くそっ」
真「え・・・それってボクも出演する奴じゃ・・・」
P「・・・そうだな。・・・真。一人でどうにか・・・ってさすがにキツイか、はは・・・」
・・・あ。
今だ。
今言わなきゃ、ダメだ。
雪歩「あっあの!・・・私が、出ます」
頭より先に、口が動きました。
P「・・・雪歩?」
雪歩「あ・・・えっと、その・・・わ、私午前はお仕事無いですし、美希ちゃんが出られないって言うのなら、代わりに・・・
・・・やっぱ、ダメ・・・ですか・・・?」
P「・・・美希の代わりに、やれるな?」
雪歩「・・・!はい。やります。・・・やらせてください」
P「・・・よし、分かった。それじゃあこれがイベントの進行表だ。後2時間しかない。しっかり読みこんでおいてくれ」
雪歩「・・・はい!」
真「ゆ、雪歩・・・?」
雪歩「あ、ま、真ちゃん・・・ごめんね?私なんかで・・・」
真「いっいやそれは全然大丈夫だけど・・・何かあったの?」
雪歩「・・・うん。でも、後で、ね・・・」
真「・・・?」
疑問の残る表情をしている真ちゃん。
ごめんね、私のワガママに付き合わせちゃって。
・・・でも、これが今の私が出来る、最大のワガママなんだ。
これを逃しちゃ、ダメだから―――。
ゆきほ
ゆきほしゅ
P「はい。はい。ではそういうことになりましたので、美希さんにもそう伝えてくださると嬉しいです。はい・・・では」
プロデューサーは美希ちゃんの家に連絡を入れた後、私達を車に案内します。
移動中の車の中で、私宛にメールが届きました。
・・・と思ったら、隣の真ちゃんにも同じ人からのメールが来てたみたいです。
メールは、美希ちゃんからでした。
真「『ハニーにちょっかいだしちゃダメなの』・・・だって。はは、美希らしいや・・・」
いつもの美希ちゃんが頻繁に使っている絵文字や顔文字も、そこにはありませんでした。
私の心の中は、そんな美希ちゃんを心配する気持ちと・・・
それと、よくわからないモヤモヤが少し。
・・・心配しなくても大丈夫だよ、美希ちゃん。
だって、私が何をしたとしても・・・
どうなるかなんて、全部プロデューサー次第なんだから。
私達は会場に辿り着きました。
袖から見える会場の中は、映画館くらいの大きさで、既にたくさんのお客さんで席は埋まっていました。
いつもなら緊張して震えている頃ですが・・・
今の私は自分でも驚くほど落ち着いていました。
・・・さっきプロデューサーが
「美希の代わりに、やれるな?」
と言ってくれた事が・・・何よりも、私の気持ちを奮い立たせていたのでしょう。
・・・綺麗な理由じゃないなんて、分かっています。
それでも。
P「真、全体的なイベントの進行は頼んだ。実質一人になってしまったが、真のアドリブ力なら心配無いと思ってる。
それと、美希の抜けた穴はでかいが・・・雪歩ならきっと埋められる。俺は信じてるからな。
・・・さ、二人とも、行ってこい!」
最後の最後、直前の直前まで、プロデューサーは「私が一番欲しい言葉」をくれます。
思えば、プロデューサーのそんなところに惹かれていったのかもしれません。
私はプロデューサーに一つ笑みを向けて、舞台の上へと駆け出しました。
私怨
――――――――――
真「それじゃあみんな!今日は来てくれてありがとう!!」
雪歩「本当にありがとうございました!これからも私達を、よろしくお願いしますぅ!」
歓声を背中に受けて、私達は舞台袖へと歩き出します。
お客さんに手を振りながら、私達はお互い顔を見合わせて笑いました。
袖を抜け、私達はいったん控え室に戻ります。
真「・・・あ、ちょっとボク、飲み物買いに行ってくるね」
雪歩「あ、うん。いってらっしゃい」
真ちゃんは鞄の中からお財布を取り出して、扉から出て行きます。
その後数十秒、とても静かな時間が流れました。
その時間で、私はとてもたくさんの事を考えました。
どのくらいじっくり考えてたのかと言うと・・・
プロデューサーが部屋に入って来たのに、気付かないほどです。
P「お、雪歩一人か」
雪歩「ひゃ・・・は、はい」
プロデューサーは私の横を回って、ちょうど目の前の椅子に座ります。
P「・・・うん。俺からまず言わせてもらうと・・・」
雪歩「・・・はい」
その時、私は気付きました。
さっきまで考えていた、とてもたくさんの事・・・
その全ての答えは、次の瞬間のプロデューサーで決まるんだって。
プロデューサーが次に口を開くまでの数秒は、私にとっては何分間のように感じられました。
私の心臓の鼓動が速くなって来たとき、プロデューサーは私をまっすぐ見て言いました。
P「・・・今日の雪歩は、本当に素晴らしかった。勿論いつもの雪歩が悪いってわけじゃない。
ただ・・・会場の皆が皆、雪歩の一挙一動に見とれてた。あんなの誰だって出来る事じゃない。
俺は、雪歩・・・お前のプロデューサーである事を、本当に誇りに思う」
ゆきゆきゆきゆき
ほす
・・・今日、私は持てる力の全てを出して、話して・・・歌って・・・
だからこそ、プロデューサーからこんなに素晴らしい言葉を貰えて、私は最高に嬉しいはずなんです。
でも―――
私が見つめるプロデューサーの顔は、とても、これ以上ないほどの―――
“優しい”笑顔で―――
(´:ω;` )
P「・・・!?お、おい雪歩・・・?」
・・・?
あれ・・・私・・・泣いてるのかな・・・
目の前の慌てているプロデューサーの姿が、どんどん滲んで見えなくなっていきます。
真「ただい・・・ま・・・?」
後ろの方から、真ちゃんの声がします。
P「きゅ、急にどうしたんだ・・・雪歩?」
真「ぷ、プロデューサー!?雪歩に何かしたんですか!?」
P「い、いや俺はただ・・・」
違うの真ちゃん―――
そう必死で言ったつもりの言葉は、喉でつっかえて止まったままです。
代わりに私は真ちゃんの袖をつかんで、その不安げな目を見ながら首を横に振ります。
雪歩「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」
しばらく経って出てきたのは、そのたった一つの謝罪の言葉だけでした。
4
その後は、私は真ちゃんに連れられて、そのまま帰ることになりました。
プロデューサーは一言、「・・・よろしく頼んだ」とだけ真ちゃんに言って、その場を去っていきました。
私と真ちゃんは、駅までの道を何も話さずに歩いていました。
ただ、真ちゃんは私の手をそっと握ってくれて・・・
そのおかげか、陰鬱だった私の心は少しずつ落ち着きを取り戻していきました。
しばらく歩くと、私たちは公園の前に辿り着きました。
雪歩「・・・ねえ、真ちゃん」
真「あ・・・・・・何?雪歩」
雪歩「ちょっと、話したい事があるの。・・・あそこのベンチに座ろ?」
真「・・・うん」
私たちは、人気も少なく閑散とした公園に、一つぽつんと置かれているベンチに座ります。
その後しばらくの間、静寂が私達を包みました。
自分で言いだしたにも関わらず、私が躊躇っていたからです。
・・・でも、真ちゃんは、私の大切な親友だから―――
そう思った時、心の重荷はすっと消えて・・・
私の口は、自然に動いていました。
雪歩「私ね、真ちゃん。・・・プロデューサーのことが、好きなの」
・・・私のその言葉を聞いて真ちゃんは「・・・そうなんだ」と一つ、優しい笑顔で頷きます。
雪歩「おどろか・・・ないの・・・?」
真「・・・驚いたけど、納得したんだ。今日の雪歩は・・・なんだかいつもと違ったから」
雪歩「そう・・・だね・・・」
そしてまた、少しの間が訪れます。
胸の中にあるたくさんの想いを、一つずつ言葉にして、私は再び話し始めます。
ゆきほ
④
ほ
雪歩「・・・この前、プロデューサーと美希ちゃんが一緒に居るのを見かけたの」
真「・・・・・・うん」
雪歩「その時のプロデューサーは・・・今まで見たことも無いくらい、楽しそうだったんだ」
真「・・・うん」
雪歩「だから私は悔しくて・・・私にもああやって笑って欲しくて・・・
・・・それでさっきあんなことを言って、今日は無理矢理出させて貰ったの。
でも、私じゃ・・・ダメだったみたい」
真「・・・」
雪歩「さっき控え室で、プロデューサーは『皆が雪歩に見とれてた』って言ってくれたんだ。
でも・・・今日のイベントね、私は、目の前のお客さんよりも・・・
私たちのすぐ横に居る、プロデューサーに見とれてほしかったの」
真「・・・雪歩」
雪歩「そんな事、アイドルとして失格なんて分かってる・・・
でも、あの時の私はそれしか考えられなくて・・・
変だよね・・・おかしいよね・・・ワガママだよね・・・」
真「・・・んかじゃない」
雪歩「・・・真ちゃん?」
真「変なんかじゃ、ない。おかしくなんてない。・・・話してくれてありがとう、雪歩」
真ちゃんはそう言って、私の手を強く、だけど優しく握ってくれます。
雪歩「あり・・・がとう・・・」
真「・・・うん。ボクは雪歩じゃないから、雪歩の気持ちを完全に分かってあげることは出来ないかもしれない。
でもね、雪歩がボクに話してくれたこと・・・その気持ちに、ボクは応えたいと思う」
雪歩「ありがとう・・・本当にありがとう・・・真ちゃん・・・」
その時私は、隣に座っている一人の女の子の存在が、私の中でとても大きく、大切なものになっていることに改めて気付きました。
支援
真ちゃんがああ言ってくれたんです。
なら、私は・・・私の気持ちに応えようとしてくれている真ちゃんの気持ちに、応えなくてはいけません。
私はその暖かい手をそっと握り返し、一呼吸置いてから話し始めます。
雪歩「・・・どうしたら、いいのか・・・」
真「・・・うん」
雪歩「私、どうしたらいいんだろう・・・」
私は、ずっと胸の中にあった、その気持ちを打ち明けました。
真「どうしたら・・・か・・・」
私の口からは言葉が続きます。
雪歩「好きなのに・・・。
私がどんなに頑張ったところで、結局はプロデューサー次第なのかな・・・って思っちゃうの。
そう思うと・・・怖い・・・んだね、私・・・
うん・・・私、怖いみたい・・・」
その感情は、言葉になることで、より重く私にのしかかって来ました。
隣に真ちゃんが居なかったら、どうなってたかも分かりません。
真「そうか・・・雪歩は、怖いんだね。
・・・分かった。ボク、雪歩がどうしたらいいのか・・・なんとなくだけど、分かって来た気がする」
雪歩「え・・・?」
私が思わず顔を向けると、真ちゃんは少しはにかみながら、握ってる手とは逆の手で私の頬に触れます。
真「今の雪歩はさ・・・『プロデューサーにとってどうありたいか』って考え詰めちゃってると思うんだ。
だからさ、それより肝心なのは・・・『自分自身はどうありたいのか』ってことなんじゃないかな。
・・・雪歩。キミはプロデューサーに対して、どうありたい?」
その時、私の中で、何かがするすると解けていくのを感じました。
その解けたものは私の胸の中を駆け巡って・・・
最後にすとん、と心の中に落ち着きます。
真くんマジイケメン
・・・少し考えた後私は立ち上がり、真ちゃんの方を向いて言います。
雪歩「・・・私、真ちゃんが居てくれて、本当に良かった」
真「・・・それは、お互い様だよ。雪歩」
私達はお互いの手を取り合って、二人でその場を後にしました。
次の日、私は事務所までの道で、プロデューサーに言う言葉を考えていました。
考え事をしていると時間は早く過ぎるもので、私はいつの間にか事務所の扉の前に辿り着いていました。
一つ深呼吸をして、扉を開けます。
雪歩「おはようございます」
P「ゆ、雪歩・・・」
中に入ると、前のソファに座っていたプロデューサーがこっちを見るなり近づいてきました。
P「雪歩、昨日は・・・」
雪歩「す、すいませんでしたぁ!」
私は出来る限り大きな声でそう言って、頭を深々と下げます。
P「え・・・あ、ああ・・・」
雪歩「本当にすいませんでした・・・昨日の事は全部私事で・・・迷惑をかけてしまって、本当にごめんなさい・・・」
P「私事・・・なのか・・・?」
雪歩「・・・はい」
良きかな良きかな
ほしゅ
雪歩はかわいいなあ
P「・・・そうか。でもな雪歩、もしも辛いことがあったら・・・出来るなら、俺にも話して欲しい。俺が至らない点だったなら尚更・・・」
雪歩「ありがとうございます。・・・でも本当に大丈夫ですから。
それと・・・これからも一緒に、頑張っていきましょうね?」
P「あ・・・ああ。勿論だ。一緒に頑張っていこうな、雪歩」
雪歩「・・・えへへ。あ、じゃあ私お茶淹れてきますね。テーブルで待ってていて下さい」
P「・・・ああ。ありがとう」
・・・良かった。
プロデューサーとは、これからも以前のように接することが出来そうです。
昨日真ちゃんに言われて、夜中ずっと考えていました。
「私はどうありたいのか」―――。
その答えは、一見複雑に見えて、実はとてもシンプルな気持ちそのものでした。
雪歩「お茶、入りましたぁ」
この日常は、私にとってやっぱりかけがえのないものです。
P「お、ありがとう・・・うん。やっぱり雪歩のお茶は美味しいな」
だから、たとえそれが届かないものだったとしても・・・
私はこの想いをずっと・・・ずっとずっと、持ち続けていたいと思います。
雪歩「ありがとうございます。・・・今日も一日、張り切っていきましょう!」
プロデューサー。あなたのことが、大好きです。
終わり
乙
乙
切ないね
乙
乙 すごくきれいだ
乙
おつ
雪歩らしい
乙
乙
雪歩それでいいのかよ
乙
と言うわけで終わりです。(最後の最後でさる食らうとは思わなかった)
支援、保守、読んで下さった方々、本当にありがとうございました。
誤解しないでほしいのは、俺は雪歩が大好きだと言う事です。(こんなSS書いといてなんですが)
まあなんかこじらせた感はある
次はほのぼのゆきまことか書きたいですねえ・・・
乙乙乙
もっかい恋聞いてくる
あ、それと「恋」、聴いてない方は是非一度聴いてみてください。
奥華子さんは本当に良い歌詞を書くなあ・・・と改めて実感。
今度のカバー曲も楽しみですね
こういう話を書きたかった
乙
他にSS書いてたりする?
乙
乙 よかった
>>118
一回書いたことはあるんだけど途中で猿に忍法帖爆破されて死んだトラウマがある
今回は無事に終わって良かった良かった
>>115
今日ちょうどそのCD買った。
ガーネットもカバーしてくれたらうれしいような・・・
ガーネットはいおりんのカバー曲やね
俺は楔とかも好きです
乙
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