P「夕陽が笑う、美希も笑う」 (18)

美希「はっぴばーすでーとぅーみー♪」

P「…………」

美希「ほら、ハニーも一緒に」

P「ああ、うん。はっぴばーすでーみーきー」

促されて、俺が美希と声を揃えて歌うと、美希は心底嬉しそうに笑った。
小さいテーブルの中央に載った、小さいホールケーキ。
チョコのプレートには『HAPPY BIRTHDAY MIKI』と書いてある。

これ、自分で書いたのか。そう訊くと美希は頬を掻いてはにかんだ。
年々、手作りケーキのクォリティが上がっている気がする。
かつての面倒臭がり屋の美希からはとても想像できない出来栄えだ。

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美希「はっぴばーすでーとぅーみ~」

P「わーい、おめでとう」パチパチ

美希「ありがとう!じゃ、切り分けるね~」

美希は手慣れた様子でケーキを等分に切り分けて、小皿に載せた。
俺はケーキを受け取って、早速フォークで一口口に運ぶ。
クリームの甘さと柔かいスポンジが舌を撫でた。

美希「どう?」

P「うん、美味しい。また上手くなったな」

美希「えへへ、仕事の合間にいっぱい練習したから」

P「大変だったろう。よいしょっ」

美希「ううん、ぜーんぜん。あ、ワイン?取るよ」

P「ありがとう。気が利くな」

美希「それほどでも」

美希は余裕たっぷりの笑みを浮かべて、ワインの栓を開けた。
わざとらしいくらい真っ赤なワインを二つのグラスに注いで、
テーブルに置いた美希に思わず怪訝な目を向けてしまう。

美希「どうしたの?」

P「あ、いや……もう美希も二十歳なんだな、って」

美希「ああ、お酒ね。あはっ、いつの間か一緒に飲める歳になっちゃった」

P「…………」

俺は何となく居心地が悪くなって、グラスに入ったワインを口に流し入れた。
二年という月日はなんて早いんだろう。
いつの間にか、先延ばしもできないくらい先延ばししてしまった。

P「あのさ、美希。一応聞くけど、仕事は?」

美希「誕生日は毎年仕事入れないの。
 それに、勤労感謝の日だから事務所もなるべくお休みにするんだー」

P「そうか。……もう一個訊くけど」

美希「うん?何?」

P「俺の家に来るのはまあ、昔のよしみってことで良しとするけども。
 パパラッチとか、おっかけとか……」

美希「その辺ならばっちし!事務所の子に美希そっくりの格好して
 あちこち歩き回ってもらってるの」

P「さいですか……」

事務所の子に影武者を頼んだり、
仕事でいっぱいいっぱいの中ケーキ作りの練習をしたり、
ここまでする子が自分を好いてくれるなんて男として冥利に尽きる。
俺は小さく溜息をついた。

美希「んー、ワインっておいしーねー」

P「飲みすぎるなよ?」

美希「分かってるよ。子供じゃないんだから」

美希はぐいっとグラスを傾けた。
子供じゃないんだから。色んな含みを感じてしまい、少し落ち着かない気分になる。
暫く二人とも無言でちびちびとワインを飲んだ。
ボトルが空になった頃に美希は口を開いた。

美希「ねえ、ハニー?」

P「……なんだよ」

美希「二十二歳になったらまたここに来るのかな?」

P「…………」

美希「こうしてるうちに、ミキ、おばさんになっちゃうよ?」

P「俺はおじさんになっちゃったしな」

俺の言葉を聞いて、美希はからからと笑った。

美希「あははっ。はー……ちょっと外散歩しない?」

俺はそうだな、と了承した。鍵を取って、二人で外へ出た。
十一月の下旬。西に傾き始めた夕陽が暖かそうな色に雲を染めていたが、
もう秋風と呼ぶには冷たすぎる風が身を切った。

さむーい、と美希は手に息を吐いた。

並んで、落ち葉で彩られたコンクリートの道を歩いた。美希との間に少しだけ距離があるように感じた。
十四歳の美希と並んで歩いたときはもっと近かった。十六歳のときは手を繋ごうとするのを制した。
十八歳の美希はいくら言っても服の裾を掴んで離さなかった。
今の美希は服の裾を掴まず、手を繋ごうとせず、少し距離がある。

美希「あ、この公園懐かしいね」

P「……ああ、ここか」

美希「初めて会ったところだね」

P「…………そうだったっけ」

何となくはぐらかした。
ひどーい!なんて風にむくれるかと思ったが、
美希は意外そうな表情を浮かべて俺の顔を見た。

美希「本当に忘れたの?」

P「…………ジョーダンだ。忘れるはずない」

美希「そ。良かった」

美希はすたすたと公園へ入って、ベンチに腰かけた。
俺は美希の後に着いていき、美希の傍に立った。

美希「座ったら?」

P「いや……」

俺が首を横に振ると、美希はちょっと思案した後、俺の腕をぐいっと引っ張って無理やりベンチに座らせた。
おいおい、と苦笑すると、美希はふふん、と得意げに鼻を鳴らした。

美希「……変わらないね、ここは」

取ってつけたような言い方にぷっと息を漏らした俺を見て、美希は嬉しそうな顔をした。

P「確かに。ここだけは変わらない」

美希「……ねえ、ハニー?」

P「何さ」

美希「好きな人とか、居ないの?」

P「好きな人ね……美希はどうなんだ?」

美希「ミキ?うーんとね、いいかなーって人は何人かいたけど……
 やっぱり、ハニーが好き。ハニー以外は考えたくないの」

P「…………そっか」

美希「ね、ハニーは?」

P「俺も同じ感じだよ」

美希「そう……」

会話が途切れる。美希は公園の景色に目を向けた。
忘れていた景色を思い出すみたいに、美希は景色の一つ一つをその瞳に写した。
美希の視線の先を、ワンテンポ遅れて追いかける。

暫くして美希の視線が俺に終着した。

美希「ねえ、ハニー」

その真剣な急な眼差しに、一瞬息が止まったような気がした。

美希「……ミキのこと、好きでしょ」

美希の得意げな表情からして、チェックメイト、とか、王手、とかそういう、
まるで勝利宣言のようだった。

一昨年もそのまた一昨年も、
美希は不安げに『ミキのこと好き?』と疑問符をつけて言ったのに。

P「…………好きだよ」

一昨年もそのまた一昨年も、俺は適当にはぐらかすだけで済んだのに。

美希「……ふふっ」

美希は顔を赤くして、くすぐったそうに笑った。

美希「ハニー♪」

P「何だよもう」

美希「あはっ、恥ずかしがっちゃって~」

P「……ああいう聞き方はちょっとずるい」

美希「そう?……というか、ハニーの方がずーっとずるいと思うな」

P「……それはまあ、謝るよ。ごめん」

美希「いつから好きになってくれてたの?」

P「美希に担当変えるとかって話を出した頃にはもう」

美希「うわっ、ロリコンさんだ」

P「恋に年齢は関係ないだろ」

美希「あ、それはまったく同意見なの」

P「…………悪かったよ。俺、どっちつかずで……ごめん」

美希「六年間試され続けてきた訳ね」

P「その言い方よせよ」

美希「あははっ。まあ、アイドル続けるモチベーションは、
 それで保ててたからいいかな」

P「それはそれは……」

美希「ハニーはぶきっちょだね。『好き』って言うだけに六年もかけたの」

P「しかも、美希に手伝ってもらってな」

美希「本当。ミキのファンの方がよっぽど上手く口説いてくるよ。あははっ……」

数瞬間置いて、美希はポケットから小さい包みを取り出した。
その手は小さく震えていた。

心を決めたようにすーっと息を吸って、美希はその包みを俺に差し出して言った。

美希「愛してます。結婚してください」

P「…………俺で、本当に良いのかな」

美希「……バカ」

美希は今までで一番不機嫌な表情を作った。

美希「六年間、ミキはハニーのこと想ってたよ?
 ハニーも、ミキのことずっと想ってくれたんでしょ?」

P「…………」

美希「ハニーの愛は、誰にも負けない資格を持ってると思うな」

美希は包みを俺の手に握らせた。

美希「不幸になりたくないなら、答えは決まってるよね?」

P「…………美希のこと、好きだ。愛してる」

美希「うん、それでいい……」

顔を寄せて、美希の唇に軽くキスをする。

美希「ん……えへ。ありがと。
 やっとハニーはミキのハニーになってくれたね……」

それから何をするでもなく、暫く二人でベンチに座っていた。
空が徐々に赤から濃紺に変わり始める頃に、示し合せることなく二人は腰を上げた。
六年間で初めて、同じ道を帰った。

勝手に決めたリズムに合わせて、歩いていこう。

終わり

ミキミキ誕生日おめでとう。もうわけわかんないね。
テキトーな解釈でテキトーな雰囲気で読んでくれたら嬉しいです。

乙~

甘いしずく 舌で受け止めてつないでいこう



スピッツだと思ったらやっぱりスピッツだった

夕陽が笑う~君も笑うから~

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