レミリア「星回り」 (54)

・初めまして、新参者です
・東方Projectの二次創作です
・地の文多いです、苦手な方は注意

ご理解出来る方は、長らくお付き合いして頂ければ幸いです

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「あなたは食べてもいい人類?」

日が沈み、辺り一面には闇が侵食し始めている。当てもなく彷徨い続けていた道中で巡り合った人間に対し、宵闇の妖怪は笑みを浮かべたまま首を傾げ、小さな人間の女の子のような愛らしい外見や仕草にまるでそぐわない物騒な言葉を投げかけた。

「星もなければ月も見えやしない。こんなロマンの欠片もない夜に出歩かなきゃいけなくて、おまけにヘンテコな妖怪に遭遇するだなんて……」

対面する少女──声質やシルエットから察するに女性というには幼すぎる──は、やれやれ、と言った風に肩をすくめ、大げさに溜め息を吐き出した。

「本当に運がないわね、お互い様」

呟きながら少女が構えた得物は、数枚の札。



幻想郷。
結界によって外の世界と区別された、東の国の辺境の地。同じ空間に存在する世界でありながら、外の世界の人間は自らの力で幻想郷へ赴くことはできない。その逆も然り。
外の世界では存在しえなくなった幻想の存在する場所。呆れるほど長き歴史の末に忘れ去られたもう一つの世界。それが幻想郷である。

幻想郷のパワーバランスの一角を担う、血のように紅い洋館に住まう悪魔たち。
そこへ君臨する吸血鬼、永遠に幼き紅き月──レミリア・スカーレット。

かつてレミリアは幻想郷を紅い霧で多い尽くしたことがあった。理由は自分が日光が苦手だからという随分勝手なもの。圧倒的カリスマを誇る夜の王だが、性格も彼女の見た目相応に幼い部分がある。なおこの異変は、幻想郷を管理する当時の巫女である博麗霊夢と、その友人の魔法使いである霧雨魔理沙によって阻止されることになる。二人とも人間だが、スペルカードルール──幻想郷内での争いを解決するための手段である、通称“弾幕ごっこ”──を則ってのものとはいえ、人外と互角以上に渡り合う強さを持っていた。

そして彼女らよりも古い付き合いであった、もう一人の人間。
レミリアは今はもう届かない日々を回想しながら、自室から窓の外の風景に視線を向ける。城のすぐ側の湖上で、悪戯好きの妖精が館の門番によって撃ち落とされていた。

永き時間を生きて、今も忘れられない数々の記憶。そのどれもに、人間の生きていられる間でだが常に自分の隣にいた、共に戦った瀟洒な従者の姿があった。

机上のスタンドには一枚の写真が飾られている。遥か昔に鴉天狗に譲ってもらった写真は、既に色褪せてしまっている。そこには一人の吸血鬼と、それに仕える一人の人間が写っていた。二人ともほとんど無表情だが。

あの日、“十六夜咲夜”と名づけた少女と出逢った瞬間から、レミリア・スカーレットの運命は動き出したのだ。

紅茶の入ったカップに口を付けると懐かしい味がした、たった一瞬だけ。レミリアの好きだった紅茶の味を引き出すことのできる者は、少なくとも今はどこにもいない。
彼女を失った日、この紅魔館は時を刻むのを止めたのだ。

過去を懐かしむよう目を細める。視線を窓に向けたまま、レミリアは従者の名前を呼んだ。間もなくメイド服に身を包んだ少女が姿を現す。

「お呼びですか、お嬢様」

どこか冷たい印象を受ける、美しく澄んだ声で答えられる。

「──期は熟したわ。パチェにそう伝えて」

どこか高揚しているのがレミリア自身にもわかっていた。メイドは「わかりました」と一礼すると、すぐに部屋から姿を消してしまう。
この空間には再びレミリア一人。満足したような笑みを浮かべながら写真を、正確に言えば写真の中の少女を覗き込む。

「楽しみね。貴女もそうでしょう? ねえ、咲夜──」

咲夜と呼ばれた少女はなにも言わない。ただ彼女が笑っていることぐらい、レミリアには容易く理解できた。

来たか……!



「ふう、やっと一休みできるかな……」

紅魔館の門番である華人小娘、紅美鈴。レミリアやその妹であるフランドール・スカーレット、紅魔館内部に存在する図書館を管理する魔女のパチュリー・ノーレッジに次ぐ人外の実力者である。
鮮やかな弾幕は修行の末に昇華されており、もはや並の妖怪などでは太刀打ちできないだろう。もちろん、得意の武術の方だって昔より鍛え上げられている。

今日はやけに紅魔館に侵入しようとする者が多い。先程のチルノは、イタズラをしに来ようとしただけのようだったが……。
もう遠い日のことではあるが前科があるので、今回の異変もレミリアが起こしたものだと容易に察することができるのは確か。しかもレミリアは、というより幻想郷に住むほとんどの者が、長い間すっかりとなりを潜めてしまっている。 

今なら勝てると思ったのだろう──実に愚かだ、と美鈴は嘲笑する。レミリアの力は以前と比べても、少しも衰えたりしてはいないというのに。美鈴にとってのレミリアは、スキマ妖怪や亡霊嬢などよりも絶対の存在。そもそも彼女自身が館への侵入を許さない。万が一突破されたところで、レミリアのところまでは辿り着けるはずがない。

「それにしても、懐かしいなぁ……」

紅くたちこめる霧を見ながら、美鈴はしみじみと呟いた。
もう、どれほど昔のことになるか──紅白の巫女と、白黒の魔法使いが殴りこんで来たのは。やけにバケモノ染みた強さの二人だったと、今更ながらそう思う。運命を操るレミリアが倒されるなど、それまでたったの一度だって考えたことはなかった。

あの一件以来、レミリアは大きく変わった。外出は多くなったし、様々な人妖たちと関わるようになった(ついでにわがままも増えた)。あれからいろんなことがあった。紅魔館にも規格外の力を持つ者が多数訪れるようになった。痛かったり苦しかったりもしたけど……楽しかった、眩しかった日々が続いた。

けれども、ある時を境にしてレミリアは館のなかから出ようとしなくなった。空洞の目で虚空を眺める、色のない日々を過ごすようになる。霊夢と魔理沙が尋ねてくることがなくなった後は、館のなかですら姿を見せる機会が極端に減った。……いや、レミリアだけではない。紅魔館にいる誰もが、悲しみに暮れた。

──十六夜咲夜のことを、きっと一生忘れることはないだろうと彼女は確信している。



霊夢や魔理沙、主人のレミリアに匹敵する力を持っていた咲夜。人間だというのに出会って何十年の時を経ても、まるで自身の時を止めてしまったかのように咲夜は美しかった。すべてが完璧だった。
だから誰も気づかなかった。終焉は確かに、刻一刻を迫ってきているのを。

あの日、気まぐれで門前に姿を表し、自分と他愛もないやり取りをしていたレミリア。その途中、突然、血相を変えて飛び出していく。
なにかと疑問に思い、美鈴もレミリアに続いた。辿り着いた場所では、咲夜が力もなく倒れていた。何度も何度も咲夜の名前を大声で呼び続けるレミリアに対し、美鈴は呆然と立ち尽くすばかりだった。

咲夜から片時も離れようともせず、付きっ切りで看病を行ったのはあのレミリアだった。

『申し訳ございません、お嬢様……』
『……そう思うんだったら、早く元気になることね』
『…………はい』

二人の会話が耳に入ってくるだけで泣きそうになった。はっきり言うならば、誰の目から見ても助かる見込みなどなかった。だけど、助けたかった。
十六夜咲夜は、紅美鈴にとって最高の上司であり、友人だったから。

だから咲夜が瞼を開けることのなくなったとき、すべてが終わってしまったかのように感じた。錯覚などでなく、事実そうだったのかもしれない。メイドたちは統率が取れなくなった。永遠亭の薬師ですら無理だったというのに、根を詰めて咲夜を救う術を探し続けたパチュリーは、しばらく起き上がることができなかった。

フランドールはなにが起きたのかすら理解できていないようだった。目の前で眠る女性を人形とでも思っていたのかもしれない。

『ねえ、咲夜は? お姉さま、咲夜はどこにいったの? さくやぁーー?』

従者を呼ぶ妹に背を向けたレミリアは、微かに震えているようだった。

泣くことも忘れていた。フランドールと同じで、自分にも実感がなかったのかもしれない。認めたくなかったのかもしれない。

美鈴は門にもたれかかるようにして、じっと空を眺めるばかりの日々を送ることになる。

ある夜、美鈴は懐かしい夢を見た。それは咲夜が紅魔館に訪れ、メイド長に就任してまだ日が浅かった時のこと。

『なーに、サボって寝てるのかしら?』
『ひえぇっ! すみません、咲夜さん……』
『冗談よ、冗談。そんなに怯えることないじゃない』

イタズラっぽく笑う咲夜。それなら、この帽子に刺さったナイフをどうにかしてほしい。なんて、口が裂けても言えないけど。

『それにしても、あなたも大変ね。こんな時間まで門番なんて』

ぽっかりと浮かぶ月を眺め、咲夜は苦笑しながら言った。別に二十四時間働いているわけではないのだが、確かに楽な仕事ではない。けれど、美鈴は紅魔館が好きだったから。咲夜もきっと同じだろう。

『お互い様じゃないですか』と笑うと、咲夜も『そうね』と穏やかな笑みを浮かべる。

月を見据え続ける咲夜。憂いを帯びた横顔。美鈴には、その瞳が哀しそうに揺れているように見えた。同じように月に視線を向け、ポツリと言葉を漏らす。

『月』
『うん?』
『綺麗ですよね』
『……そうね』

それから先のことは憶えていない。いつのまにか眠っていたらしく、目を覚ますと咲夜はいなかった。
知らないうちに手のなかにあった包みを解いてみると、おにぎりが入っている。少しだけ冷めていたけど、とても美味しかった。
寝ぼけ眼に、朝焼けが眩しかった。

そんな幸せな夢。意識が完全に覚醒しても、まだ夢のなかにいるようだった。辺りはまだほの暗く、そこに温もりはなかったけれども。

──確かに、あったんだ。

『あ……』

突風が帽子をさらう。風に乗った帽子は、まるで鳥のように飛んでいく。

『待って……』

追いかけて、追いかけて。ようやく帽子を捕まえたのは、湖の上だった。水面に映し出された光。見上げれば、いつかのように月が浮かんでいる。あの時と同じ、真円を描ききれずにほんの少しだけ欠けた白銀の月が──。

どうしてだろう。咲夜がいなくなってしまったのだという事実が彼女の胸中に込み上げてきて、もう会えないのだと理解した。

静寂を裂いて、美鈴の泣き声が響いた。

咲夜さんは、やっと安心して成仏出来るみたいだな

咲夜さん大・往・生!!



ぐすっ。

「おっと、いけない……」

当時のことを思い出すと、今でも涙が浮かんでくる。
あれから完全に元通りというわけにはいかないまでも、みんなで協力して少しずつ活気を取り戻していった。
そして今、あらゆる意味で紅魔館は全盛期のものに近づいてきている。

物思いに耽ていた彼女だが、その意識は否応なしに現実に直帰させられる。

──前方より問答無用の体当たり。というより轢かれた。流星に轢かれた。

「おっと、今なんかぶつかったか? ……まあ、いいか」

一旦立ち止まった声の主だが、すぐに前方へ。

「よくない! ちょっと待て!」

超スピードで追いかけながら、必死にわめく美鈴。その甲斐もあってか、犯人も立ち止まってこちらへ振り返る。

「おお、無事だったか。心配したぜ」

口調からはほんの少しも相手を気遣うような気配は感じ取れなかったが。

「あんたねぇ……って、え──?」

「どうかしたか?」

開いた口が塞がらず、間の抜けたような顔をしている美鈴。

「ああ、挨拶がまだだったか」
「……あ、さっきはどうも」

ようやく美鈴が発した言葉が、これ。いつかの誰かさんを相手にしていたときと同じ。『さっき』とは、目の前の人物が自分を轢いた一瞬のことか。

「お久しぶりですわ」

相手はわざとらしい笑みを浮かべて返事をしてくる。

目の前の人間──ほうきを使って飛んではいるが、確かに人間──を、まじまじと見つめ──「そんなに見つめられちゃ照れるぜ」という言葉は無視する──美鈴は疑問を投げかける。

「私たち、いつから知り合いになった?」
「なんだそりゃ? 新しい口説き文句か? あいにく私は間に合ってるぜ」
「この風貌、その口調、間違いない……」

握り締めた拳を奮わせる美鈴。ビシッと人差し指を突きつけ、力いっぱいに叫んだ。

「生きてたのね、白黒!!」

……そんなはずはないのだが。

黒い魔女服のうえに白いエプロンを羽織り、これまた真っ黒のとんがり帽子を被ったまさしく白黒の少女は「勝手に殺すな」と苦笑。

「まあ、あんたの言う白黒が誰かわからんでもないが、私はその人とは別人だぜ。たぶん」
「どう見ても本人なんだけどなぁ……」
「あんたも師匠と同じことを言うんだな」
「師匠?」

首を傾げる美鈴を無視して、白黒は再び紅魔館のへ飛び立とうとする。

「ちょっ、ちょっと待て! 番人をほっといて先に行こうとするな!」
「番人なら邪魔するなよ」
「番人だから邪魔するのよ!」

やっぱり本人にしか見えないなぁ、と美鈴は頭を掻きながら臨戦態勢へ入った。



戦闘──もちろん弾幕ごっこ──は、序盤こそ美鈴が圧倒しているように見えた。
だがすべての弾を見切り、時にはその身に掠めながらも、白黒は確実に攻撃を当ててくる。魔理沙の戦闘スタイルに近いものはあるが、違和感が拭えない。やはり別人か。

「彩符『極彩颱風』!」

自身の切り札となるスペルカードを使用する美鈴。様々な角度のついた鮮やかな弾幕を繰り出していく。だが白黒は高速飛行のまま、弾幕の間を綺麗に潜り抜けて来る。

「甘いぜ、魔符『スターダストレヴァリエ』!」
「くっ、二度もくらうか!」

美鈴も紙一重で突進を避ける。善戦しているものの完全に押されている。

「美鈴さん、助太刀に来ました!」
「みんな!」

そんなとき、どうやら先に交戦していたらしいボロボロの妖精メイドたちが助っ人へ駆けつける。できれば一対一で戦いたいとも思ったが、分が悪いのは確か。門番として進入を許すわけにはいかない。

「悪いわね、白黒。一気に決着をつけさせてもらうよ」
「ちょうどいい。ちょいと、私の特訓につきあってもらおうか」
「なに……?」
「それに、そいつらの弾幕も全部パターンを構築済みだ。私には通用しない」

白黒は臆した様子もなく、そればかりか逆にうれしそうに呟いた。

「──戦操『ドールズウォー』」

「…………あれ?」
「あんたらに教えといてやる。弾幕はパワーとブレインだぜ」

美鈴たちのすぐ眼前には、複数の人形の姿があった。



なんだかよくわからないうちに美鈴は倒されていた。妖精メイドの大半も同じように迫り来る人形たちに痛手を負わされ、残りの妖精たちも白黒の撃ち出すレーザーの前に完敗。先の言葉のように、白黒は攻撃をすべて予測しているような動きを見せる。

「やっぱあいつみたいに上手くはいかないな」

そう口にしながら、白黒は帽子を被りなおしていた。

「改善の余地ありだ」
「なあ、本当にお前は何者なんだ……?」

本来なら守るべき門に身を支えられながら立ち上がる美鈴。言葉を吐き出すのも一苦労だった。

「私? 私か……」

白黒は少しだけ考えるそぶりを見せ、

「私は魔法使いの弟子。つまり魔法使い。普通の魔法使いさ」

“普通の魔法使い”は、紅魔館へ飛び込んでいった。その後姿を見ながら美鈴は気を失う。
体中傷だらけなのに、口元には笑みを含んで。

その後、魔法使いは対峙する。動かない大図書館──パチュリー・ノーレッジと。

強さがインフレっている……流石は未来か

>>11
そりゃ周りから見りゃ大往生だろうけど。本人からすれば、不甲斐無さやら悔しさやら屈辱やらでいっぱいだったんじゃないか?



騒動の首謀者であるレミリアは、不自然に広い館内をのんびりと探索していた。
美鈴を倒した相手と現在パチュリーたちが交戦中らしい。けれどもそれとは別にもう一人、紅魔館に客人が訪れている。

辿り着いた場所では既に妖精メイドたちを片付けてしまい、のんびりと一休みしている巫女服の少女の姿。
レミリアの姿を確認すると一瞬ぽかんとした様子になるが、すぐに鋭い眼光で睨みつけてきた。

「あんたが今回の異変の犯人ね」
「貴女のほうは殺人犯ね」
「殺してないわよ。そもそも、ここに寝転がってるのは人間ですらないし」

レミリアは「そうね」と小さく笑い、威圧を込めて正面から巫女を見据える。

「待っていたわよ、博麗の巫女」
「……へえ、光栄だわ、レミリア・スカーレット」
 
沈黙が辺りを支配する。まるで重さがあるかのように場に居合わせたメイドたちにプレッシャーがのしかかってきた。やがて先に口を開いたのはレミリアのほう。

「ねえ、おめでたい色の巫女」
「……なによ」
「……あなた、どうして亀に乗ってるの?」

 レミリアの言葉のとおり、巫女は空飛ぶ大亀の甲羅に足をつけている。

「…………私、まだ飛べないのよ」
「……………………そう」

気を取り直して。

空を飛べない巫女はもう一度、今度は先程以上に鋭い目つきでレミリアを睨む。

「今すぐ霧を出すのを止めてくれない? 迷惑してるのよ、主に私が」
「そうね。私を楽しませてくれたら、考えてあげてもいいわ」
「たとえば、どんな?」
「主に弾幕ごっことか」
「やっぱりそうか……」
「けど勘違いしないで。あなたの相手はこの娘よ」

レミリアが指を鳴らすと、どこからともなく一人のメイドが現れる。
銀髪の少女。
さっきまでの相手とは違い、彼女は人間だった。紅魔館に住む、ただ一人の人間。またもや面食らった様子の巫女だったが、すぐに平静な面持ちとなる。

「あんたは?」と巫女が尋ねる。

新たにその場に現れた少女は、ゆっくりと瞼を開きながら巫女の姿を視界に入れる。

「ここのメイド長は代々、“十六夜咲夜”という名前が与えられるらしいわ。まだ私で二人目だけど」

「いざよい、さくや……?」

メイド長を名乗る少女の言葉を復唱する巫女。

「あら、ご存知かしら」

「……さあ、どうかしらね。私が興味あるのは、主にお賽銭と食べられるものだけだから」

巫女や年頃の少女として、それはどうだろうか。

「ねえ咲夜、あんたのご主人様が霧を出してるのが迷惑なの。止めさせてくれない?」
「それはお嬢様に言ってよ」
「言ったわ」
「知ってる」
「でしょうね」

巫女はいつのまにか取り出した札を、ゆっくりと身構えた。

「いいわ。あんたを倒せば、そこの吸血鬼も満足してくれるでしょうし」
「どこの世界に、自分の従者がやられて喜ぶ主人がいるのよ?」
「ここにいるかもしれないわ」

そんなことを言ってのけるレミリアに、咲夜は「あらあら」と苦笑した。

「そういうわけだから。さっさとやられちゃって────くれないかしら!」

巫女が札を投擲する。寸分違わず自身のほうへ飛んできた札に向かい、咲夜がナイフを投げつける。二人の立ち居地の直線状で、札とナイフがぶつかりあう。

「主人の望む以上の働きを見せるのがメイドなのよ」

涼しげな口調の咲夜。巫女は「あっそ」とぼやくと、再び札を構えた。

巫女が札を放てば、メイド長がそれを交わす。
メイド長がナイフを放てば、巫女がそれをいなす。
外からの見た目より不自然に広い紅魔館で少女らの弾幕が行き交う。互いに攻撃を読みあい、わずかな隙間掻い潜り、時に攻撃を相殺させ、ほとんど互角の勝負を繰り広げていた。

「まったく、とんでもないやつ……」

咲夜の言葉に「あんたもね」と巫女は薄く笑うが、

「すばしっこい亀だわ」
「……誘導してるのは私よ! 夢符『封魔陣』!」
「奇術『ミスディレクション』」

互いに皮肉りあいながら勝負に勤しんでいる彼女らだが、実態それほど余裕はなかった。メイド長のナイフは想像もしないような場所から、とんでもない数のものが飛んでくる。しかもそのどれもが完璧に計算されて。
また、どれほどの戦闘経験があるのかあるいは才能があるのか、巫女(亀)はどのような弾幕も華麗に避けて、正確に相手めがけて飛ぶ札と高速で発射される針を駆使しながら戦う。
だが回避不能のはずの攻撃も、このメイド長は回避してみせる。

「なるほど、ね」

それまで攻撃の手を緩めようとしなかった巫女が、ふと立ち止まる。同じように咲夜も。

「あんたは時間を操る能力を持ってるわけだ。それなら納得がいくわ」

咲夜は純粋に驚いたようだった。涼しげな表情をここにきて初めて崩す。僅かに笑っている、ように見えなくもない。

「……ええ。ついでにいうと、ここの空間を弄ってるのも私。時間と空間は表裏一体。時間を操れる人間は空間も操れるのよ」
「どこまでも反則染みたやつね」

巫女は一枚のスペルカードを取り出した。

「お互いさまですわ」

同じようにメイド長も。いつのまにか瞳が血のように紅く染まっている。

「霊符『夢想封印』!」
「メイド秘技『殺人ドール』……」

二人のスペルカードが激突し、眩い光が辺りを支配する。




「どわっ、なんだなんだ!?」
「…………」

図書館にて魔法合戦を始めたばかりだった白黒とパチュリー。巫女とメイド長の切り札がぶつかりあった轟音はそこまでも届いていた。強度の地震が起きたかのように内部がゆれ、どさどさ音をたてながら本が何冊も落ちていく。

「──行きなさい」

思いもよらないパチュリーの言葉に、さすがの白黒も「……は?」と呆気に取られたようだった。

「今日は喘息も調子が悪いわ。スペルを唱えきるのもきついし。行きなさい」
「ふむ……まあ、いい。わかったぜ。えーっと……」
「パチュリーよ。パチュリー・ノーレッジ」
「そうか、私は──」

「白黒ね」と間髪を入れずにパチュリーが発言。白黒は「確かにそうだが」と苦い顔をする。

「早く行きなさい。賑やかなのは好きでしょう。きっとあっちは大変なことになるでしょうから」

聞き取れないほど小声で「たぶん、妹様とか」と付け加える。

「あんた、変なやつだな。じゃあ、私はもう行くぜ」
「あなたほどじゃないわ。──最後に、一つ」
「なんだ?」
「七色の人形遣いによろしく伝えといて」

「わかったぜ」と笑い、高速で図書館を後にする白黒。また来るとかなんとか叫び声が遠くのほうから聞こえてくる。
残ったパチュリーは「騒がしくなるわね……」と呟きながら、意識を失ってるはずの小悪魔のもとへと向かった。

拙い文ですが、読んでくださる方がいらっしゃるようでうれしいです。

続きは深夜にでも更新します。


何だか、懐かしい未来ってな事になってるな

はるかみらいでまためぐるってか

とりあえず咲夜さんが愛されてるって事は分かった

さくやさん大好きおつ

玄爺に乗ってるってことは靈夢か
乙乙



「私も混ぜろー! 恋符『マスタースパーク』!」

声とともに飛来する、巨大かつ強大な魔力な塊。威力だけなら巫女とメイド長のスペルカードすら遥かに凌駕する凶悪な一撃を、二人は寸前のところで回避する。

「あんたねぇ! 当たらなかったからいいものの、当たったらどうするつもりなのよ!」
「当たらなかったからいいじゃないか。確かに当てるつもりで撃ったんだが」

張り詰めた均衡状態のなか、謎の白黒の魔法使い登場。さすがのメイド長もうんざりしているようだった。

「そちらはお友達?」
「そうだぜ」「違うわ」

返答は同時だったが、内容は正反対。

「おいおい、ひどいぜ。私たちは一緒にお茶を飲むような仲じゃないか」
「あんたが一方的にたかっていくだけじゃない。そうだ、こないだの団子を返せ!」
「……はあ。それであなたたちはどうするつもりなのかしら。二人がかりでかかってくる? 別に私はそれでも構わないのだけど」
「「まさか」」

今度の回答は綺麗に重なった。

「私らはお互いに借りがあるんだぜ。それにあんたもめっぽう腕が立つみたいじゃないか。こんな面白いことに私がのけ者なんて気にくわないし、台無しにするつもりもないぜ」
「面白いかどうかはしらないけど、そういうことらしいわ」
「よく言ったわ、白黒に紅白」

それまで傍観に徹していただけのレミリアが口を開く。

「咲夜も聞きなさい。今日はあなたたちのために最高のゲストを用意したわ」
「ゲスト?」

眉をひそめる紅白の巫女と、首をかしげる白黒の魔法使い。メイド長の咲夜は心当たりがあるのか「まさか……」と怪訝そうな顔をする。

「おまたせ」

可愛らしい声が三人の背後から響く。なぜか実際の声量以上に、やけに強調されて耳に飛び込んできた。

現れたのは満面の笑みを浮かべる、レミリアによく似た幼い少女。

「フランドールお嬢様……」

咲夜の言葉に魔法使いは「フランドール?」と呟き、レミリアのほうへ視線を送る。

「妹のフランよ」
「妹君かえ」
「私のこと忘れちゃったの、魔理沙?」

悲しげに顔を伏せるフランドールに、状況をなんとなく察する魔理沙(仮)。

「いいや、私がお前のことを忘れるもんか。ちゃんと憶えてるさ、ただいま」
「うん!」

その言葉に、笑顔を取り戻すフランドール。

「また、一緒に遊んでくれるかしら」
「……なにして遊ぶ?」
「弾幕ごっこ! 霊夢とやるのも久しぶりね」

わかっていたとはいえ、尋ねた霊夢(仮)は肩を落とす。対照的に魔法使いは生き生きとした様子。

「いくら出す?」
「コインいっこ!」
「一個じゃ、人命も買えないぜ」

魔法使いの言葉にフランドールはどこまでも無邪気な顔をして、

「あなたたちがコンティニューできないのさ! 禁忌『フォーオブアカインド』!」

──四人に増えた。

「まさか四人に増えるなんてな。一人一体を倒す計算で間違いないか?」
「間違ってるわよ。そこのメイドを足しても、一体分余っちゃうじゃない」
「妹君の姉君がいるじゃないか」
「どういう思考でそんな流れに行き着くのかしら。そもそもなぜ私まで、あなたたち側に数えられているのかしら……」

メイド長がはあ、と溜息を吐き出す。

飛び交う弾幕に絶叫。目の前の光景は地獄絵図といっても過言ではなく、見学を決め込むだけでも安全性の保証は皆無だったが、それすらレミリアは余興として楽しんでいるようだった。

フランドールの繰り出す弾幕の針の穴ほどしかない僅かな隙間をかいくぐって、器用にも反撃を行っていく三人の少女たち。

「あはっ、やっぱり三人とも凄いや。じゃあじゃあこれはどうかな?」

次にフランドールが宣言したのは禁断『過去を刻む時計』。反時計回りに動く十字型のレーザーを、時間を操るまでもなく咲夜がひらりと身をかわしていた。

「咲夜……」

レミリアの口から従者の名前が零れる。

いつも、いつでも、十六夜咲夜という人間がすぐ側にいた。
いつまでも、そうしていて欲しかった。

それでも、最期まで咲夜を吸血鬼にしようとはしなかった。咲夜は人間であり続けることを選び、レミリアは咲夜の意志を尊重した。
だって、咲夜は約束を守ったから。

──大丈夫、生きている間は一緒に居ますから。

ずっと一緒にいてくれたから。
次はレミリアの番だった。

 

最期の日、最期の刻。
ベッドの上で横になる咲夜の手をレミリアは力強く握り締めた。
二人で会話をしている、せめてまだその瞬間だけは彼女がどこか遠くへ行ってしまわないように。

お嬢様、と咲夜が言う。今までありがとうございました、と。

なにを言ってるの? レミリアは少し怒ったように言う。それじゃあ、まるで……まるで、これでお別れみたいじゃない。

──ねえ、お嬢様。聞いてください。咲夜はしばし、貴女のもとから旅立ちます。

目を背けたら、耳をふさいだら、だめだ。レミリアは自分を奮い立たせ、正面から咲夜と向き合う。

──十年、二十年。あるいは、何百年、何千年もの時が必要となるかもしれません。

咲夜の声も、もう随分聞き取りにくくなっていた。それでも、一言だって聞き漏らすわけにはいかない。

──だけど、必ずこの世のどこかに現れます。それは外の世界かも、あるいは月かもしれないけれど……あなたと初めて出逢った、あの時の姿でいるでしょう。

今までほとんど変わっていないと思ってい咲夜の顔に、出逢ったばかりの頃と明確な違いがあるのに、今更になって気づいた。

──だから、私を導いてください。幻想郷へ。紅魔館へ。

それが、あなたの願いなの? 尋ねるレミリアに咲夜はゆっくりと頷いた。

──私の運命を操作してください。お願いします。

容易いこと、とレミリアは笑う。笑ったつもりだった。

──だから。

だから。

──そのときまで、さようなら。レミリア・スカーレット。

レミリアは咲夜の耳元で囁いた。

さようなら、また逢いましょう……と。


深い哀しみに囚われ。
けれども諦めなかった。
そして今、瀟洒な従者はここにいる。
東洋の西洋魔術師と、楽園の巫女がここにいる。 
それが結果。
それは運命。
夢か、あるいは御伽話のような泡沫の約束。
しかし、ここは幻想の辿りつく場所。


「ふふふ……楽しかった」

流石のフランドールも三人の弾幕を被弾し続け、ついに迎撃される。言葉からわかるように本人は満足出来たようだったが。

「──さてと。妹の敵討ちも兼ねて、私も遊びに加わろうかしら」

色褪せた思い出を、遠く眺めるだけの日々は終わった。
悪魔に魅入られた少女たちが、長く閉ざされた運命の扉を開ける。



紅霧異変・再 了


最初はぬるめに焼き増し異変でやってもらえた様だけど、今後はどうなるかねぇ?

おつおつ

玄爺「(ワシってばまた忘れられるのかのぅ……)」

ゲームの時よりも余裕シャクシャクだな



「夜がおかしくなるなら宇宙人のせいだけど、春がやってこないのはきっと亡霊のせいね」

紅魔館の大図書館にて。パチュリーの言葉の意味を理解できず、普通の魔法使いは首を傾げた。

「もっとも宇宙人にはそんなことをする必要がないのだけれども。あの庭師には春を集める理由があるのかしら」
「なあ、パチュリーさんや。私にはあんたの言いたいことが、これっぽっちもわからないんだが」
「このままでは一月や二月どころか、一年経とうが春はやってこないということよ」

今日も今日とて白黒の魔女は、死ぬまで借りるという名目で物珍しい書物を頂戴する為に訪れていたのだった。もっとも、かつて同じことを言っていた者が本当に本を返却したのかどうかはパチュリー以外知る由もない。ともかく、いつもなら大して泥棒を相手にしないパチュリーが今日に限って話しかけてきたのだ。

「それはもしかして、最近なんだか妖怪が騒がしいのと関係あるのか?」
「あら、そこまでわかってて、こんなところでのんびりしてていいのかしら」

その場に居合わせたレミリアが口を開く。

「のんびりと紅茶を飲んでる吸血鬼に言われたくないぜ」
「吸血鬼だから、のんびりとお茶が出来るのよ。ここでは異変を起こすのは妖怪で、それを解決するのはいつでも人間なのだから。ねえ、咲夜」

従者の少女は「わかりかねます」と返事をするが、レミリアは構わず話を続ける。

「あなたも聞いたことがないかしら、かつて春の遅れてきた異変の話を」
「春に雪が降ってたって言われてるやつか? ああ、ちょっと桜が咲くのが遅いってぐらいにしか受け止めてなかったが、今回の件も同じなのか。でも、あれは確か……」
「そうね」

レミリアは表情を変えぬまま頷いた。

「かつて亡霊の姫君は、幻想郷の春を集めて咲かなくなった桜を咲かそうとした。死んだ誰かを生き返らせようとしてね。その時、春を取り戻したのは巫女か魔法使いか、あるいはメイドだったかしら」
「ともかく、それから無理やり桜を咲かせようとすることはなかったわけだ」
「そう。……でも、あなたも知ってるでしょうけど、開花することのなかったあの一際大きな妖怪桜。

──もう何年も前から、満開の花を咲かせるようになった。

それでも誰も生き返らなかった。ただ存在するはずのない者が本当にいなくなっただけ。それだけの話よ。詳細を知るとしたらあの胡散臭い妖怪と、今回の異変の首謀者ぐらいのもの」
「ふむ。しかし、どうして春をまたかっさらう必要があるんだ?」
「初めに言わなかったかしら。それこそ誰かさんに取り憑いた亡霊の仕業でしょ」

白黒の質問に、パチュリーが曖昧に答える。

「相変わらずあんたの言いたいことはわかるような、わからないような。でも、なんだか面白そうだな」
「──しかし」

次に口を開いたのは咲夜。

「私が知る春雪異変と今回のものは、少し違っているように思えるのです。あの時、異変の黒幕と無関係の妖怪たちが暴れだすということはなかったのでは」
「へえ……。では、あなたの思う、今回の異変についての考えを言ってみなさい、咲夜」

関心したそぶりを見せ、レミリアは咲夜に発言を促した。

「──それぞれ黒幕の異なる二つの異変が、今回は同時に起きているのではないでしょうか」

ま、全く同じでは……ね

「ああ、いい着眼点だ。さすが私の従者だ」
「ありがとうございます。……実は最近、不思議な剣を手に入れました。勝手に動き回る剣で、これを手にしていると私も暴れたくなるのです。異変に無関係のものとは思えません」

そう言って、なにもないところから咲夜は剣を取り出す。
今までどこにあったのか。レミリアも長らく目にしていなかった一振りの妖剣。

「ああ、それなら」

と、今度は魔法使いの少女が自慢のマジックアイテム、ミニ八卦炉を取り出してみせる。

「湿気を嫌うミニ八卦炉が、どうやら勝手に辺りを乾燥させているみたいなんだ。こいつの火で、どうやって妖怪を炙れるのかと悩んでた。これも偶然じゃないんだな」

相変わらず物騒な思考の持ち主だった。

「偶然なんてものはないわ。なにか行動を起こせば、必ずなにかしらの結果がついてくる。行動を起こさないのも、また一つの選択と言えるだろう」

諭すようにそう言った後、紅い悪魔は己の従者と向き合って命令を下す。

「咲夜、その剣を携えて暴れてきなさい」
「お嬢様の仰せのままに」

かくして、二人の少女たちが悪魔の館から飛び立った。
既に解決の為に乗り出している者たちがいることを、今はまだ知る由もなく。

と、ここまでが二章のプロローグになります。

見ての通り、とある二作品をベースに物語は進行していく予定です。
今後、発表されてそれなりの月日が流れているものはネタバレもありで、それ以外は体験版の範囲かやや表現をぼかす形にしようと思ってます。ご意見や質問があれば、よろしければお聞かせください。


面白いわ

悪魔の城にビット的に動く剣ってなると、どうしても573の方が……

おつん
面白い、読み応えもあるね



「くろまく~……って、あら?」
「黒幕、早いなぁ」
「お久しぶり、なのかしら? 妖怪染みた人間だとは思ってたけど、二人は人間を止めたの?」
「妖怪に、妖怪染みてるとか言われたくないわ。それと、初めまして」

咲夜が軽く溜め息を吐き出すと、それは空中で凍りついたかのように濃い色を持っていた。

霧の湖にて。
その寒気は異常だった。この年一番の、というか彼女らが生まれて初めて経験するかもしれないぐらいの冷え込み具合。さっさと黒幕の登場願いたいものだわ、とか咲夜がごちていたところで突然、自称黒幕を名乗る妖怪が二人の前に現れるが。

「くろまく!」
「くろまく……」
「黒幕が多いぜ」

視界の悪い湖だが、振り返れば紅魔館がまだうっすらと見えるようだった。そんなところで人間の少女たちは三匹の黒幕と対峙する。
寒気を操る程度の能力を持つを持つ冬の妖怪、レティ・ホワイトロック。
冷気を操る程度の能力を持つ氷の妖精、チルノ。
そして水中だと力が増す程度の能力を持つ人魚、わかさぎ姫。
なるほど、能力だけを聞けば確かに春がやってこない原因に関係のありそうな面子ではあったが、残念ながらそちらの異変の首謀者は割れており、つまりは彼女たちは黒幕だけど普通なのであった。異変に中てられた被害者と言えなくもない。ただし、元々喧嘩っ早い氷精は除く。

「二人以上いるし、こいつらをやっつければ異変解決だぜ」
「そうね……」

もちろん一つの異変だって解決しない。そんなことはわかっていたが、我慢ならない寒さはいくらか和らぐであろう。
妙な縁のある二人の少女は、フランドールとの弾幕ごっこ以来の協定を結ぶことになるのだった。

「寒符『リンガリングコールド』」
「水符『テイルフィンスラップ』」
「くらえっ、氷符『アイシクルフォール』!」

レティが、わかさぎ姫が、そして最後にチルノがスペルカードを宣言し、弾幕の雨嵐が二人の少女へ襲い掛かる。
魔法使いは高速飛行で回避するが、咲夜はその場から一歩も動こうとしない。

「やったか!?」

チルノが叫ぶが──やってない。

「……妖器『銀色のアナザーディメンジョン』」

妖器シルバーブレードを手にした咲夜の新しいスペルカード。彼女の周囲に張りめぐられたバリアにより、攻撃はすべて無効化されるのだった。

「いいなぁ、それ」

物珍しいものに興味を持つ魔法使いに「あげないわよ」と返す咲夜。どうやらそれなりに気に入っているらしい。

「次はこちらの番ね」

そう口にすると、咲夜はチルノ目掛けて大量の剣を投げつける。
──程なくして大気をつんざく爆音と断末魔!
爆発したのだ。剣を被弾したチルノが。

「次は、どちらが的になるかしら?」
「「ひいぃっ!?」」

熱を帯びたメイドの視線にたじろぐ妖怪たち。

「へぇ……」

感嘆の声を上げる魔法使い。
だがその興味は既にシルバーブレードでなく、十六夜咲夜という人間に移っていた。
このメイドがなににおいても非常に有能な人物であるのは、先の共闘や紅魔館での働きぶりで認知していたのだが。
手にしたばかりの妖器を、既にもう使いこなしている。

さて──ここで、魔法使いの少女の話を。

通称は白黒、自称は普通の魔法使い。
七色の人形遣いと呼ばれる者の弟子であり、今代の博麗の巫女とは幼少よりの付き合い。
初めて弾幕ごっこをしたのはいつだっただろう。
彼女自身も憶えていない。
憶えているのは。
その相手は博麗の巫女で──勝者は自分だったということ。

「妖器『ダークスパーク』!」

魔法使い、正確に言えば彼女のミニ八卦炉から繰り出される黒紫色の閃光。
その威力はあまりにて禍々しく、凶悪すぎた。下手をすれば、目の前のすべてを無に返してしまう程度には。
きっと自分が被弾したことにも気づかないだろう。魔弾はレティとわかさぎ姫に直撃していた。

「……すごいわね」

簡素な意見ではあったが、咲夜は目の前の光景を表現する言葉が思いつかなかった。
そんななか、やはり魔力に当てられた他の妖怪たちもが次々と二人に向かってきているではないか。

「一気に決めるぜ」

ミニ八卦炉を持つ右手と。なにも持つものがない左手。両手を前方の敵軍へと向け、そう宣言した。

「恋心──『ダブルスパーク』ッ!!」

放たれたのは二筋の凶弾。
そう、実は彼女はお気に入りであるミニ八卦炉がなくともマスタースパークが撃てる。

彼女の師も、知識と日陰の少女も。彼女と関わりを持つ者は皆、気づいてはいるが敢えて口にはしない。
──彼女は紛れもない天才だ。

しかしながら今代の巫女や、その師と呼べる者は敗北を許さなかった。
同じことは魔法使いの師弟にも言える。
それまでの二人の勝敗数はまったく同じか、魔法使い組が一つだけ勝ち越しているかのどちらかだったのだが。最後に繰り広げた弾幕ごっこで初めてダブルノックアウトの引き分けとなったのだ。
協約を結んだわけではないが現状は停戦中。勝ちたいが、負けたくない。それは当たり前と言えば、当たり前なのだが。

更に付け加えるのであれば、十六夜咲夜と名づけられた少女もまた負けず嫌いであった。

彼女らに対峙した妖怪たちがどうなったのかは、もはや語るまでもないだろう。



時を同じくして、人間の里近くにある柳の運河。
いつかの騒動と同じように、ろくろ首の赤蛮奇が暴れていた。
そして行動を共にしていたわけではなかったが、妖蟲のリグル・ナイトバグや妖怪ネズミのナズーリンもまた凶暴化してその場に居合わせていた。
妖怪でありながら自我を保ち、この異常事態にすぐさま気づいた上白沢慧音と、その友人である藤原妹紅という不老不死の人間の少女の尽力により人里。

>>46
投稿ミスです。
時間をおいて再投下します。



時を同じくして、人間の里近くにある柳の運河。
いつかの騒動と同じように、ろくろ首の赤蛮奇が暴れていた。
行動を共にしていたわけではなかったが、妖蟲のリグル・ナイトバグや妖怪ネズミのナズーリン、その他多数の妖怪たちもまた凶暴化してその場に居合わせていた。
妖怪でありながら自我を保ち、この異常事態にすぐさま気づいた上白沢慧音。彼女と、その友人である藤原妹紅という不老不死の少女の尽力により里の人間への被害こそ出ていなかったが、状況は依然好ましくない。
なにしろ、ここは幻想郷。現時点で確認できている者以外に、どんな妖怪が現れてもおかしくない。里を気にかけながら妖怪たちを相手にするにも限界がある。

「──お待ちなさい」

だが暴れる妖怪があれば、それを懲らしめる人間もあり。

「ああ、やっぱり人間が現れたわね。私たちを退治しにきたの?」

赤蛮奇が声の聞こえた方へ視線を向ける。

「お祓い棒を持っているところを見ると巫女のようだけど……あなたは私の予想した巫女とは違うみたい」

姿を確認するまで、博麗の巫女が駆けつけたのかと思っていた。あるいは魔法使いか悪魔のメイドか。
しかし目の前の少女は巫女装束のような格好ではあったが、博麗神社の者ではなかった。

「正確に言えば、巫女のようなものなんですけどね」

人間の少女はそう口にした。

「……守矢神社の、風祝」

ナズーリンの言葉に「ああ、ご存知でしたか」と少女は答える。

「──奇跡『白昼の客星』」

問答無用と言わんばかりのスペルカード宣言。
不意をつかれたリグルは、風祝の少女と一言も話すこともなく戦線離脱させられる。

「やっぱり妖怪退治って楽しいかもしれない」

信仰の確保に奔走しながら、妖怪退治を行うもう一人の人間。
奇跡を起こす程度の能力を持つ、現人神。
そんな少女が、人里の危機を救うべく現れたのだった。


そういや、半人前とはいえ守矢神社の一柱だったね早苗さん



勝手に動き回る武器と、反逆を始めた妖怪たち。
かいつまんで説明するならば、こちらの異変は不思議な力を持つ道具を扱える小人が、天邪鬼の二枚舌にそそのかされたのが始まりである。歴史は繰り返されるものなのか。
真の黒幕と言える天邪鬼は、今度こそ己の野望を果たすことが出来るだろうと確信していた。
──自分に迫る、月の民の脅威にはまだ気づかない。


「虫が、虫の息だぜ」

倒れているリグルを見て白黒が呟く。魔法使いとメイドの少女は、人里近くの運河にいた。
そこでは果たして、初めて見る人間らしき少女が、複数の妖怪たちを相手に弾幕ごっこを繰り広げているではないか。

「無視する?」と、咲夜が訊ねるが。
「虫だけにってか。こんな面白そうなことを無視なんてしたら、私の虫の居所が悪くなるぜ」

先陣を切って戦陣へと向かう白黒。少し考えた後、咲夜も彼女の後を追った。


しょっぱから幻想郷で修行積んでれば、早苗?さんも格は違うだろうなぁ

MUGENのアナンダさんとか?

どうした。来ないのか?それならこっちから(催促に)行くぞ?

落ちそうじゃないですかやだー

待ってる

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