綾乃「さよならも言わずに」(196)

―――ピピピ…。

静まり返った部屋に、目覚ましの音が鳴り響いた。

もぞもぞと布団から手だけを伸ばし、時計の位置を探り当て、スイッチを押してアラームを止める。

「んん…」

布団の温もりが恋しい。

全身でその温もりを感じようと、身を丸める。

―――ピピピ…。

静まり返った部屋に、目覚ましの音が鳴り響いた。

もぞもぞと布団から手だけを伸ばし、時計の位置を探り当て、スイッチを押してアラームを止める。

「んん…」

布団の温もりが恋しい。

全身でその温もりを感じようと、身を睾丸める。

けれど、いつまでもこうしているわけにはいかない。

まだぼんやりする頭を振りながら起き上がると、部屋の冷たい空気が私を包み込んだ。

「うぅ…寒い…」

思わず身体を抱えて身震い一つ。

時間は七時。

いつもと変わらない、一日の始まり。

けれど、いつまでもこうしているわけにはいかない。

まだぼんやりする頭を振りながら起き上がると、部屋の冷たい空気が私を包茎み込んだ。

「うぅ…寒い…」

思わず身体を抱えて身震い一つ。

時間は七時。

いつもと変わらない、一日の始まり。

七森中学校への登校ルートにある公園の前。

親友、池田千歳との待ち合わせ場所。

いつからだっただろう。

二人で待ち合わせて一緒に登校するようになったのは。

千歳との付き合いは七森中の入学式の日からだ。

一人ぽつんと席に座り、緊張で凝り固まっていた人見知りの私。

そんな私に優しく、柔らかく話しかけてくれた千歳。

彼女の笑顔に文字通り緊張をほぐされて。

あまりの嬉しさに、どんな話をしたのかよく覚えていないけれど。

千歳はそれ以来、ずっと私を陰で支え続けてくれている。

期待

期待

七森中学校への登校ルートにある公園の前。

親友、池田千歳との貝合わせ場所。

いつからだっただろう。

二人で待ち合わせて一緒に登校するようになったのは。

千歳との付き合いは七森中の入学式の日からだ。

一人ぽつんと席に座り、緊張で凝り固まっていた人見知りの私。

そんな私に優しく、柔らかく話しかけてくれた千歳。

彼女の笑顔に文字通り緊張をほぐされて。

あまりの嬉しさに、どんな話をしたのかよく覚えていないけれど。

千歳はそれ以来、ずっと私を陰で支え続けてくれている。

常に笑顔で、誰にでも優しく振舞う千歳。

そんな千歳の人柄のおかげか、私が彼女に心を開くのにそう時間はかからなかった。

―――家の方角も一緒やし、明日から一緒に学校行かへん?

そんな風に誘ってくれたのを覚えている。

入学してから一ヶ月経っていたかどうか…。

「綾乃ちゃ~ん」

そんなことを考えていると、手をパタパタと振りながら笑顔で走り寄って来る親友の姿。

ぽけぽけしている印象があるせいか、なんだか危なっかしい。

常に笑顔で、誰にでも優しく振舞う千歳。

そんな千歳の人柄のおかげか、私が彼女に心を開くのにそう時間はかからなかった。

―――家の方角も一緒やし、明日から一緒に学校行かへん?

そんな風に誘ってくれたのを覚えている。

入学してから一ヶ月閉経っていたかどうか…。

「綾乃ちゃ~ん」

そんなことを考えていると、手をパタパタと振りながら笑顔で走り寄って来る親友の姿。

ぽけぽけしている印象があるせいか、なんだか危なっかしい。

「走ると危ないわよー?」

私の忠告を聞かず、そのまま私の元まで走ってくる千歳。

「はぁ…ふぅ…」

息を整え、笑顔で。

「えへへ、おはよう綾乃ちゃん」

「おはよう千歳」

挨拶を交わし、学校へ向かって歩き出す。

「走ると危ないわよー?」

私の忠告を聞かず、そのまま私の元まで走ってくる千歳。

「はぁ…ふぅ…」

息を整え、笑顔射で。

「えへへ、おはよう綾乃ちゃん」

「おはよう千歳」

挨拶を交わし、学校へ向かって歩き出す。

「早く綾乃ちゃんに会いたかったから、つい走ってもうた~」

突然恥ずかしいことを言い出した。

「は、走らなくても逃げないから…」

「うちの気持ちの問題やねん」

「見てるこっちはハラハラするわよ…」

口ではそう言ったが、内心嬉しかった。

千歳も私の事を親友だと思ってくれているんだと感じられたから。

地の文って久々に見た気がする

そんな照れを隠すように、何気ない一言を投げかける。

「今日も寒いわね…」

私は寒いのが苦手だ。

冬場は学校指定のソックスを履かず、ストッキングを着用している。

それが許可されていなかったら、恐らく違う学校に行っていただろう。

「そやねー。風邪引かないように気ぃつけんとなー」

千歳の言葉で、今朝のニュースで今年の風邪特集をやっていたことを思い出す。

「今年の風邪は厄介みたいね…」

…毎年厄介だと聞いている気もするけど。

「風邪引いたら歳納さんにも会えへんもんなー」

そう言いながら、くすくすと笑う千歳。

「と、歳納京子は関係ないでしょ!」

歳納京子。

その名前を聞くたびに顔が熱くなり、胸がどきどきする。

「うふふ」

にこにこ笑う千歳。

私の気持ちはバレバレだ。

千歳は、私の恋も陰ながら支えてくれているのだから。

歳納京子は私のライバルだ。

彼女はテストの総合点数でいつも学年一位。

対する私はいつも学年二位。

それが普通に勉強した結果でのことなら良い。

しかし彼女は授業をマジメに受けていない。

それどころか、毎度毎度一夜漬けなのだ。

普段から勉強をしている人間からすれば、許せることではないだろう。

おまけに彼女は、ごらく部という何をしているかもよくわからない部を立ち上げ、部室を一つ無断占拠しているのだ。

生徒会副会長を務めるこの私が、見過ごすわけにはいかない。

…というのが、私と歳納京子の関係の全てのはずだった。

彼女のことで頭を悩ませているうちに、どうやら恋に落ちてしまったらしく。

それを認めたくないあまり、彼女にはいつもそっけない態度をとってしまう。

素直になろう、仲良くしようと思ってはいるのだが、なかなかうまくいかない。

見かねた千歳が色々と助けてくれるようになった、というわけだ。

「歳納京子ー!!」

「お邪魔します~」

いつものように生徒会の仕事を終わらせた後、いつものようにごらく部の部室に乱入する。

一人では恥ずかしいので千歳も一緒だ。

もちろんそういう風に頼んだわけではないが。

「おー、綾乃に千歳じゃん」

ごらく部のメンバーは座卓を囲むように座り、UNOをしていた。

カードゲームをする部活動なんて聞いたことがない。

これは別の日に改めて追求する必要がありそうだ。

…口実が欲しいわけではない。決して。

支援

「どしたの?何か用?」

きょとんとする歳納京子。

「身に覚えがないの?歳納京子!」

歳納京子のそばまで歩み寄り、上から睨みつける。

「今度はプリント?それとも宿題?」

歳納京子の忘れ物は日常茶飯事だ。

船見さんも呆れ顔で私達の用件を聞いてくる。

「宿題よ!」

歳納京子を睨みつけたまま質問に答える。

「お前…、昨日の放課後宿題見せてくれって泣きついてきたよな…」

「そうだっけ?」

「忘れんなよ…」

「いやー、身に覚えがありすぎて…」

自分でやらなければ宿題の意味がない。

本当に、どうしてこの子を好きになってしまったんだろう。

「仕方ないですねー、京子先輩は」

これまた呆れ顔の吉川さん。

後輩にまで呆れられているなんて、悲しくならないのだろうか。

支援

「それで、宿題は終わってるの?京子ちゃん」

手札を山のように抱え、涙目だった赤座さんが、脱線しかけた話題を元に戻してくれる。

いつも一歩引いた視点で物事を見ているからこそできること。

是非生徒会に欲しい人材だ。

「えーっと、これだっけ?」

「…うん、それだね」

カバンからノートを取り出し、船見さんに確認する。

一応終わらせてはいたようだ。

「じゃあ、持ってけドロボー!」

「なんで偉そうなのよ、歳納京子…」

ともあれこれで目的は達した。

「次からはちゃんと出しなさいよね!」

一応釘を刺しておく。

「それじゃあ行きましょ、千歳」

「……」

返事がない。

振り返ると、千歳は考え事をしているようだった。

「…千歳?」

「綾乃ちゃん」

千歳が、ゆっくりとこちらを向く。

「な、なに?」

こんな神妙な顔をした千歳は初めて見る。

一体どうしたというのだろう。

「今日はもう生徒会の仕事もないし、ゆっくりしていったらどうやろ?」

「へ?」

突然の提案。

「おー、二人とも遊んでいく?」

「UNOなら綾乃ちゃんもできるやろ?」

た、確かにできるけど…。

もしかして、ここに来てからずっと私と歳納京子のことを考えていたのだろうか。

「歳納さんと仲良うなるチャンスやで!」

こっそり耳打ち。

歳納京子と…仲良くUNO…。

「そ…そこまでいうなら、遊んでいってあげてもいいけど…」

「なら決まりやね!」

しえんた

「歳納さんと遊べて良かったなぁ綾乃ちゃん」

帰り道。

結局暗くなるまで遊び続けてしまった。

歳納京子との勝負事となると、つい躍起になってしまう。

―――また遊ぼうね、綾乃!

別れ際の歳納京子の笑顔を思い出す。

「…よ、良かったなんて思ってないんだからね!?」

また素直じゃない台詞が口を突いて出る。

せっかく千歳がチャンスを作ってくれたのに、今日もそっけない態度ばかりとってしまった。

ええ子やなぁ

「…それより、どうして今日はいきなり遊んでいこうだなんて…」

「いきなりやないで?綾乃ちゃんと歳納さんがもっと仲良うなれたらなーって」

千歳はいつだって私の事を考えてくれている。

それなのに私はいつまでたっても素直になれないで…。

「わ、私は別に仲良くなりたいなんて…!」

でもこればかりは仕方ない。

初恋だからなのか、それとも自分の気持ちを認められないからなのか…。

「綾乃ちゃん」

優しい声で。

「素直にならな、歳納さん振り向いてくれへんで?」

千歳の声はトゲトゲした私の心をふわっと包み込む。

「わ、わかってるけど…」

「ふふ、乙女やね~」

柔らかな千歳の笑顔。

「も…もう、からかわないでよっ」

「ごめんごめん」

「お詫びに精一杯サポートするで!」

「う、うん…」

千歳の応援を無駄になんて出来ない。

頑張れ私!

ファイトファイトファイファイビーチよ!

「千歳ったら遅いわね…」

帰りのホームルームのあと。

一人、千歳を待つ。

―――先生に手伝い頼まれてもうたから、少し待っててくれる?

それなら私も、と言ったのだがどうしても待っててほしいと言われて。

仕方なく誰もいない教室で、一人寂しく席に座っている。

なんとなく、入学式の日のことを思い出した。

あのときもこうやって一人で座ってたっけ…。

今でこそ、休み時間になれば千歳や歳納京子が話しかけてくれる。

あの日千歳が話しかけてくれなかったら…。

あまり考えたくはなかった。

「……」

さすがに遅すぎる。

生徒会活動の時間まであとわずかだ。

「…お手洗い行っておこうかしら」

ふむふむ

「あ…」

教室へ戻ろうとしたとき。

廊下の向こう、見覚えのある後姿。

「千歳ー!」

その背中に声をかける。

「……!」

声に気付き、こちらに振り向いた千歳は、何故か私の顔を見るなり逃げ出した。

「あ、ちょっと千歳!」

廊下を走るわけにも行かず、千歳が私から逃げたというショックもあり、呆然と立ち尽くす。

「行っちゃった…」

私が何かしただろうか…。

そういえば、私も先生の手伝いに行こうとしたら拒否されたんだ。

まさか、いつまでたっても煮え切らない態度の私に愛想を尽かして…?

目頭が熱くなる。

胸の中が、もやもやした黒い何かで覆われていく。

なんだなんだ

ほい

んっ

「綾乃ちゃん?」

ありえない方向から千歳の声がした。

「え…?千歳…?」

振り返ると、千歳。

階段を下りて私の背後に回り込んだ…?

…そんなわけがない。

「じゃあ、今のは千鶴さん…?」

千歳の双子の妹の千鶴さん。

特に仲が良いというわけではないが、それ故嫌われるような覚えもない。

「千鶴がどしたん?」

不思議そうに私の顔を見つめる千歳。

そこでようやく自分が半泣きだったことを思い出した。

「…あ、う…」

慌てて千歳から顔を逸らし、軽く目元を拭う。

千歳に嫌われたわけではなかった。

少しだけ、安心する。

でも…。

「今、向こうに千歳がいると思って声かけたんだけど…」

「こっち見るなり走って行っちゃって…」

また、涙が溢れそうになる。

「……」

千歳は何か考え込んで。

「何か用事でもあったんちゃうかな?」

「そ、そうなのかしら…」

「うちと千鶴は双子やで?うちが大好きな綾乃ちゃんのこと、嫌うわけあらへんよ~」

なんとなく、説得力があった。

千歳がそう言うのなら、きっとそうなのだろう。

「…ほな、生徒会室行こ?」

柔らかく笑い、私の手を引く千歳。

この出来事は、私の心に一点の黒い染みを作った。

支援

数日後。

生徒会の仕事が一通り片付いたころ。

「もうすぐクリスマスだし、カップルごっこやろうぜ!」

歳納京子の突然の乱入。

その手にはピンク色の大きい箱。

彼女の後ろには船見さんと吉川さん。

…更にその後ろに赤座さん。

恐らく無理矢理引っ張られて来たのだろう。

歳納京子はたびたび思い付きで行動し、周りの人を振り回す。

「あ、あなたはまた突然そんなこと言って…」

「ええやん。クリスマスは予定ないやろ?」

しかし、不思議とそれを楽しんでいる人が多い。

千歳もその一人のようだ。

私だって迷惑に思っているというわけではないのだけれど。

ただ、突然だと心の準備が…。

「で、でも…」

デートなんて一度もしたことがない。

ヘタレな私が戸惑っていると…。

「私達は構いませんわ」

古谷さんが、大室さんの意見も聞かずに一緒に参加することを表明した。

「勝手に決めるなよー!」

大室さんが食ってかかる。

この二人は顔を合わせる度に喧嘩をしているのだけれど、何故かいつも一緒に居る。

仲が良いのか悪いのかさっぱりわからない。

「あら、じゃあ櫻子は予定があるとでも?」

「いや、予定はないけど…」

「ならいいではありませんか。それとも、一人寂しくクリスマスを過ごしたいのかしら?」

「ぐぬぬ…。おっぱいめ…」

「む、胸の話は関係ないでしょう!?」

言い争いが始まった。

完全に二人の世界に入ってしまったようだ。

「仲良いねぇ」

「そうだねぇ…」

そんな二人を微笑ましそうに見つめる赤座さんと、呆れた顔で見つめる吉川さん。

しえん

「綾乃ちゃん綾乃ちゃん」

そこへ恒例の千歳の耳打ち。

「歳納さんとデートするチャンスやで!」

と、歳納京子とデート…。

確かに、クリスマスに好きな人とデートをしたいという憧れはある。

「うぅ…、し…仕方ないわね…」

「やったぁー!さすが綾乃っ」

心底嬉しそうだ。

人の気持ちも知らないで…。

「はい、じゃあクジ引いてねー」

そう言いながら手に持っていたピンク色の箱をテーブルの上に置く歳納京子。

「番号が同じ人同士がカップルでーす」

順番に並び、一枚クジを引く。

「皆引いたかな?」

全員が引き終わったことを確認する歳納京子。

私は一体誰とペアになったのだろう。

「それじゃあ、いちにのさんで開くんだよー?」

「いち、にの…」

胸が、高鳴る。

「さん!」

「…どうしたらいいのかしら」

「さぁ…?」

私のデートの相手は船見さんだった。

ちなみに歳納京子は千歳とペアになっている。

―――歳納さんの意中の人、聞き出してくるから!

張り切って街へ繰り出していったけど、大丈夫かしら…。

色々と良くしてくれるのは嬉しいが、時々的外れなこともする。

一緒にいると、なんとなく目が離せない。

―――綾乃ちゃんは船見さんの好きな人、聞きだしておいてな~!

船見さんは歳納京子と仲が良い。

もしかしたら、という可能性もある…ということらしい。

なるほど

ふむふむ

「せっかくだし、どこか行こうか?」

「え?…そ、そうね」

ヘタレな私に聞きだせるだろうか。

「とりあえず、ご飯でも食べる?」

緊張して、朝ご飯が喉を通らなかったことを思い出した。

「ええ、それでいいわ」

「綾乃ってお洒落だよね」

ご飯を食べ終わった後のこと。

ショッピングモールをあてもなくさまよっていると、船見さんに突然褒められた。

「そ、そうかしら…」

勿論悪い気はしない。

人の目を気にしてしまうので、服装には一応気を遣っているのだ。

「服とか可愛いし、バッグだって…」

歳納京子とデートできなかったのは残念だが、だからと言って手は抜かない。

お気に入りの服とお気に入りのバッグで今日のデートに望んだのだ。

「どんなお店で買ってるの?」

「い、行ってみる?」

「うん、興味ある」

意外な一面。

「ふふ、船見さんも可愛い服に興味あるのね…」

「一応私も女だから…」

「あ、いえそういう意味じゃなくて…」

気を悪くさせてしまっただろうか。

「船見さんってクールな印象があるから、可愛い服にはあんまり興味ないのかと思って…」

「そんなこと…」

言いかけて。

「…でも、落ち着いた服のほうが好きかなぁ」

よく見ると、一見クールにまとめた服装の中に、ワンポイントで可愛らしさがあったりする。

こういった一面を見ると、親近感が沸いてくる。

…そういえば、私の地名ギャグに笑ってくれるのも船見さんだけ。

もっともっと仲良くなれるかもしれない。

「じゃあ、船見さんがよく行くお店も覗いてみましょうか」

「そうだね」

「そろそろ皆帰ってくるかな」

「……」

色々とお店を見てまわった後、待ち合わせ場所で。

もうすぐ二人きりの時間も終わる。

千歳の作戦を実行しなければ。

…でも。

「綾乃?」

「あ、あの…、船見さんって…」

「うん?」

なんとなく、聞き辛い。

船見さんとの距離を、より近く感じるようになったからだろうか。

「…船見さんは、今日デートしたかった人とか、いないの?」

遠回しな言い方。

あんまり変わらないような気もしたけれど、直接聞くよりは…。

「……」

私の目を見つめる船見さん。

「そういう綾乃こそ、デートしたかった人がいるんじゃない?」

言われた瞬間、歳納京子の顔が頭をよぎる。

「だっ、誰が歳納京子とデートなんて…!」

「ふふ…」

しまった、自爆した…。

船見さんは楽しげな表情で笑う。

「う、うぅ…」

凄く恥ずかしい。

おまけに作戦は失敗だ。

こんな状態でもう一度聞くなんて、できっこない。

「……」

「私も…」

ぽつり、と。

支援

「私も、京子が良かったかな…」

「え…?」

今、確かに聞こえた。

「なんてね」

冗談でも言ったかのように、にこりと笑う。

「あ、皆帰ってきたよ」

「……」

やっぱり、船見さんも歳納京子のことが…。

二人の付き合いは長い。

私に入り込む余地はあるのだろうか。

支援支援

「綾乃ちゃん、ごめんなぁ~」

無事にシャッフルデートが終わって。

いつものように、千歳と並んで歩く。

「代わってあげられれば良かったんやけど…」

「それじゃあクジの意味がないじゃない」

「でも、歳納さんのこと色々聞いてきたで!」

胸がどきっとする。

「歳納…京子のこと…」

船見さんと同じように、もしかしたら歳納京子も…。

私の不安をよそに、千歳は嬉しそうに話す。

「歳納さん、特定の好きな人はおらんみたいやね」

「え…?」

「これはチャンスやで、綾乃ちゃん!」

「う、うん…」

「焦らず、落ち着いてアピールしていこうな~」

なんだか複雑な気持ちだ。

それはきっと、船見さんの気持ちを聞いてしまったから。

長い、片思い。

船見さんは、歳納京子のことをずっと傍で支え続けていたのだろう。

一途に、ずっと。

「…で、できるかしら…」

「大丈夫やって!綾乃ちゃんが素直になれば、歳納さんもイチコロやで!」

「……」

なぜか、歳納京子と船見さんの関係を、私と千歳に置き換えてしまった。

「いやー、まさか綾乃から初詣のお誘いがあるなんて」

「た、たまたま暇だったから誘ってあげたのよ!」

年が明けて。

千歳の助言で歳納京子を初詣に誘う。

私だけ振袖なので、なんだかチグハグだけれど。

「振袖似合ってるよ!」

顔が熱くなる。

ツンツンしそうになる心を必死で抑えながら。

「…あ、ありがと…」

そういえば猿さんってまだ生きてたっけ

お礼を言えた。

顔はそむけてしまったが。

「えへへっ」

歳納京子の笑顔。

(か、可愛い…)

私らしからぬ、素直な意見だ。

「よーし、行こう綾乃っ」

「あ…」

歳納京子に引っ張られ、神社の境内を進む。

(今年は、もっと素直になろう…)

帰り道。
歳納京子と並んで歩く。
緊張で、喉がカラカラだ。

「綾乃は何お願いしたの?」

「な、ナイショよ!」

歳納京子ともっと仲良くなれますように…だなんて、さすがに恥ずかしくて言えなかった。

「えー、ケチー」

口を尖らせ、ほっぺたを膨らませる歳納京子。

「そういうあなたは何をお願いしたのよ?」

「これからも、皆で楽しいことがいっぱいできますように!…かな」

彼女らしいお願いだ。

「えへへ」

「…ふふ」

しかし、これだけは言っておかなければならない。

「でも、突発イベントは勘弁勘弁カンボジアなんだからね!」

「それは約束できませんな!」

何故か胸を張る。

今年も頭を悩ませることになりそうな予感がした。

『うふふ、うまくいったみたいやね~』

家に着いてすぐ、千歳にお礼の電話をする。

「う、うん…」

「その、ありがとう…」

「千歳のおかげよ…」

大きな一歩とは言えない。

でも、少しずつ積み重ねていくことが大事なのだろう。

後悔しないように、素直になろう。

そう思えた一日だった。

『ウチは何もしてへんよ~』

『でもこれで…』

何か、ぽつりと言った…気がした。

「え?何か言った?」

聞き返してみる、が…。

『…ううん、何も』

いつもの調子の千歳。

それでもどこか、何かが違う。

『それじゃあ、おやすみ。綾乃ちゃん』

けれど、なんでもないと言う千歳に追求することも出来ず。

「え、ええ…。おやすみ千歳」

私は、電話を切った。

「遅いわね、千歳…」

新学期。

いつもの公園。

しかしそこに、千歳の姿はなかった。

今日は少し家を出るのが遅かった。

千歳が待っていてもおかしくないのに。

あいにくの曇りで、いつもより寒い。

じっと動かずに待っているのは少し辛かった。

「もう、新学期初日から遅刻しちゃうじゃない…」

まさか・・・・・・・

まさか、何かあったのだろうか。

「……」

電話で様子がおかしかったことも、気になっていたのだ。

「学校に行けばわかるわよね…」

このままでは遅刻してしまう。

今からなら、走れば何とか間に合うだろう。

「千歳…」

一人で、学校へ向かって走り出す。

ああ……

「あら…?」

昇降口。

下駄箱を開けると、手紙が一通。

…何故か、くしゃくしゃだ。

「誰からかしら…?」

何も書いてない。

果たし状…?

いやいや、この時代になんで…。

「ま、まさか歳納京子からの…!!」

…ありえない。

「と、遅刻しちゃう…」

まわりに他の生徒の影はない。

(手紙は放課後までお預けね…)

地の分あり結構好き支援

(なんとか間に合ったわ…)

カバンを机に引っ掛けると、教室を見渡し千歳を探す。

が、見当たらない。

…じわり、と嫌な汗が浮かんだ。

「はーい、席ついてー」

先生が教室に入ってくる。

…私の顔を、見たような気がした。

やめろ・・・・

「…えー、始業式の前に、突然の話ですが…」

心臓が、跳ね上がる。

「池田千歳さんが…」

…いやだ。

「家庭の事情で…」

…そんなの、嘘だ。

「あ、綾乃…」

歳納京子の、声。

「……何?」

「知ってたの…?」

「……」

「綾乃?」

「知らなかったわよ…何も…」

「…ごめん」

こういうのやめてくれよ...

「どうしてあなたが謝るの?」

トゲのある言い方をしてしまう。

つい先日、素直になろうと誓ったはずなのに。

「……」

「…ごめんなさい」

「少し頭冷やしてくるわ」

「あ、綾乃…」

屋上。

立ち入り禁止で普段は鍵がかかっているが、鍵を管理しているのは生徒会だ。

こういうのを、職権濫用というのだろう。

でも今はそんなこと、どうでもよかった。

空を見上げる。

どんよりと曇った空は、まるで私の心を映す鏡のよう。

「どうして何も言ってくれなかったのよ…」

私の前から逃げた千鶴さん。

様子が少しおかしかった千歳。

…やっぱり、嫌われたのかな。

「……」

雨が、降ってきた。

「千歳…」

綾乃・・・・・・・・

空気が張り詰めた生徒会室。

ただ、無心にペンを走らせる。

千歳がいなくなってから、一ヶ月が経った。

千歳は携帯を持っていないので連絡もとれない。

先生方に連絡先を聞いたが、言葉を濁すばかりで。

千歳が抜けた生徒会は連日仕事に追われるようになった。

赤座さんが手伝いに来てくれているが、毎日というわけにもいかず。

個人的に忙しいのはありがたかった。

余計なことを考えなくて済むから。

今日もこうして、ただひたすら仕事をこなしている。

「…ねぇ向日葵、空気が重い…」

「…馬鹿」

「な、なんだとー!?」

「仕事中なんだから静かになさい」

「ぐぬぬ…」

「ふ、二人とも喧嘩はだめだよぉ」

「……」

先生に提出するために集めた宿題のノートを確認していると、一人だけ提出していない生徒がいた。

歳納京子。

思わず溜め息が出る。

ここのところ毎日だ。

「はぁ…千歳、ごらく部に―――」

そう言いかけて。

「…え?」

大室さんが、驚いてこちらを見る。

「……」

俯いたままの古谷さん。

「杉浦先輩…」

赤座さんは涙ぐんでいる。

「……」

いたたまれなくなって。

「…ごめんなさい、ちょっと行ってくるわね」

逃げるように、生徒会室を後にする。

「綾乃ー、いらっしゃーい」

何だか能天気な歳納京子。

まるで私が来ることが分かっていたかのようだ。

最近は、いつもこんな調子で。

「……」

千歳のこと。

千鶴さんのこと。

はっきりしない先生方。

そして、歳納京子。

いくつもの黒い染みは、もう私の心を黒く染め上げてしまったのかもしれない。

「ご、ごめんね綾乃。毎日…」

「えっと、今お茶淹れますね…」

申し訳なさそうな船見さんと吉川さん。

でもそれで私の怒りがおさまるわけもなく。

「……」

無言で、歳納京子を睨みつける。

「えーっと、宿題だっけ?」

「どういうつもりよ…」

「え?」

支援

「どういうつもりよ歳納京子」

「綾乃…?」

「千歳がいなくなって生徒会の仕事が大変なのは知っているでしょう?」

「それなのに毎日毎日…。あなた一人に割いてる時間の余裕なんてないのよ!」

「あ、綾乃…ごめん。そんなつもりじゃ…」

「……」

無言で手を出す。

カバンからノートを取り出し、恐る恐る差し出す歳納京子。

「…それじゃ、行くから」

踵を返し。

「明日からはきちんと提出して」

背を向けたまま言い放つ。

「あ…」

何か言おうとしていたようだったが、聞かずにごらく部の部室を出た。

―――ピピピ…。

静まり返った部屋に、目覚ましの音が鳴り響いた。

もぞもぞと布団から手だけを伸ばし、時計の位置を探り当て、スイッチを押してアラームを止める。

「……」

体が重い。

頭痛がする。

けれど、こうしているわけにはいかない。

のろのろと起き上がる。

「はぁ…」

私の胸の内とは裏腹に、真っ白な息。

千歳のいない、一日の始まり。

「はぁ…、はぁ…」

学校への道を走る。

千歳がいた頃、一緒に歩いた道を。

部屋でのろのろしていたせいで、走らなければ学校に間に合わない。

最近はこの道を通らず、少し迂回して学校に通っていたのだが、今日はそんな余裕はない。

少し気が引けるが、背に腹は代えられない。

自分が悪いのだから。

いつも千歳と待ち合わせをしていた公園が見えてきた。

そこに、同じ七森中の制服を着た生徒を見つけて。

足が、止まる。

「ちと…」

言いかけて。

おおう……
支援

「おまたせ~」

「おそいよ~!いそごっ」

「……」

わかっていたことだ。

千歳がいるわけがない。

「……」

でも。

足が動かない。

遅刻しちゃうのに。

どうして。

「千歳…」

―――どうして、何も言わずに行ってしまったの?

結局、遅刻してしまった。

―――最近様子がおかしいけど、どうかしたの?

そう注意されたが、何も言えず。

授業にも身が入らない。

ずっと、千歳のことを考えていた。

あれ以来、考えないようにしていたのに。

支援

「お、杉浦しかいないのか?」

放課後の生徒会室。

一人残って戸締りを確認している所へ、西垣先生がやってきた。

「西垣先生…。えぇ、他の皆は帰りました」

「そうか…」

「……」

手早く戸締りを確認し、生徒会室を出ようとする。

「それじゃあ私もお先に―――」

「杉浦」

普段はお世辞にも真面目だとは思えない西垣先生の、真剣な声。

「…はい?」

「手紙、読んだのか?」

「…手紙?」

西垣先生が、私に?

「…やっぱり読んでないのか」

「あ…」

三学期の初日に、下駄箱に入っていた手紙のことを思い出した。

あれは西垣先生からの手紙だった…?

「松本からお前の様子を聞いておかしいとは思ったんだ」

「…読んでやってくれ」

…読んで“やって”?

西垣先生からの手紙ではない…?

「えっと、手紙は誰からの…」

「……」

西垣先生は何か考えたあと…。

「冬休み中にな、池田千鶴がここへ来たんだ」

「…千鶴さんが?」

先生は言葉を続ける。

「杉浦の下駄箱に手紙を入れたから読むように伝えてほしい、と言われてな」

「お前ならきちんと読んでると思ったんだが…、相当参ってたみたいだな」

「……」

色々な事がありすぎて、すっかり忘れていた。

一体何が書いてあるのだろう。

「まさか、捨ててないよな…?」

「え、ええ…家の引き出しの中に…」

「良かった。早く読んでやれ」

「は、はい…」

「失礼します…」

生徒会室を後にし、少し早足気味に学校を出た。

家に着くと、階段を駆け上がり自分の部屋へ。

カバンをベッドの上に放り投げ、机の引き出しを開ける。

一度丸めたのだろうか。

くしゃくしゃになったピンク色の手紙。

ゆっくり、丁寧に開封する。

手紙を開くと目に入ってきたのは…。

丸っこくて可愛らしい文字。

いつも目にしていた、千歳の字だった。

綾乃ちゃんへ。

こんな形で別れを告げること、許してください。

面と向かって言うと、ぼろぼろ泣いてしまいそうだったから。

好きな人の心の中の私は、いつも笑顔がいいと思ったから。

私は綾乃ちゃんの事が好きです。

初めて出会ったときにあなたの笑顔を見てから、この手紙を書いている今も。

そして、これからもずっと。

キマシタワ……

本当は転校なんてしたくありません。

でも、中学生の私にはどうすることもできません。

せめて綾乃ちゃんが幸せになるところだけは見届けたかった。

さすがに短期間で綾乃ちゃんと歳納さんを恋人同士にすることは出来なかったけれど、今までよりもっと仲良くなれたはず。

あとは、綾乃ちゃんが勇気を出せば…。

遠く離れていても、ずっとずっと、綾乃ちゃんのことを応援しています。

きっと幸せになってください。

涙が止まらなかった。

―――早く綾乃ちゃんに会いたかったから、つい走ってもうた~。

こんなにも千歳に想われていたのに、私は歳納京子どころか他の人とも壁を作って。

―――うちと千鶴は双子やで?うちが大好きな綾乃ちゃんのこと、嫌うわけあらへんよ~。

あんなにも言葉で、態度で好意を示していてくれたのに、それを疑ったりして。

泣いた

木間市塔

千歳・・・・・・・・

恐らく千歳は、この手紙を捨てたのだろう。

それを千鶴さんが届けてくれたのだ。

あの日逃げたのは、千歳に転校を口止めされていたからなのかもしれない。

千歳を想う自分の気持ちと、千歳自身の気持ち。

きっとどちらも大切にしたくて…。

人は、当たり前のことが当たり前でなくなったとき、涙を流す。

例えば、いつも隣にいてくれた大切な親友が、いなくなってしまったとき。



ようやく私は、千歳がいない日常を受け入れた。

誰かと話す。

生きていれば当たり前のこと。

最近私は誰かと話をしただろうか。

歳納京子とは距離を置いていたし、他の人もなんだか腫れ物に触るように私に近寄っては来なかった。

両親も忙しいらしく、起きた時には既にいないし、眠りについた後で帰宅する。

ただご飯を食べて、勉強をして、生徒会の仕事をこなし、家に帰って、寝る。

そんな毎日が当たり前になっていた。

つれぇ……

このままじゃいけない。

千歳がこんな私を見たら、どう思うだろうか。

とはいえ一度深まってしまった溝は、簡単には埋まらない。

けれど、一歩を踏み出さなければ。

手紙を読んだ翌日、少し早めに登校する。

教室に入ると、先客がいた。

「綾乃、ちょっといいかな?」

船見さんだ。

「話って、何?」

屋上。

人に聞かれたくない話をするには絶好の場所だ。

「……」

真っ直ぐに、私を見つめる瞳。

同じように、真っ直ぐ見つめ返す。

「京子に告白された」

「……」

歳納京子。

その名前を聞くだけであんなにドキドキしたのに。

今は、何も感じない。

「そう…」

「おめでとう。歳納京子のこと、好きだったのよね?」

長い片思いの末、相思相愛になれたのだ。

船見さんが断る理由なんてない。

「……」

けれど船見さんは私の目を見つめたまま。

「断ったよ」

「…え?」

どうして?好きな相手から告白されたのに?

「こんな形で京子と付き合っても、長続きしないよ」

言葉を続ける船見さん。

「あいつは今不安定なんだ」

「千歳と千鶴さんがいなくなって、綾乃に迷惑かけて怒られて」

「最近の綾乃、近寄り難かったから…」

「拒絶されるのを怖がって、謝ることもできなくて」

「あいつ本当は泣き虫だから…」

困ったように笑う。

「だから、近くにいる誰かに縋りたかっただけ」

その笑顔はどこか寂しそうで。

「でも、あいつなりに頑張ってたんだ」

「綾乃が元気ないから、少しでも元気出してほしかったんじゃないかな…」

「結局は綾乃に迷惑かけちゃっただけだけど…」

歳納京子は、あの日のように私と遊びたかったのかもしれない。

それなのに私は、自分の気持ちばかり優先して…。

「私が、もっとしっかりしてれば…」

「綾乃は綾乃で一生懸命だったんでしょ?」

私の言葉を遮る船見さん。

「それを言うなら私だって、きちんと京子のこと止めてれば…」

「……」

「うまく噛み合わない事だって、あるよ…」

「……」

「京子と仲直りしてあげてね」

「…ええ」

「ありがとう、船見さん」

絶対に違う
彼女は人間であって天使では無い
それは僕の妄想にすぎない

放課後、歳納京子を屋上に呼び出す。

怯えた瞳で私を見つめる歳納京子。

これが本来の歳納京子の性格なのだろうか。

「綾乃、私…」

「もういいわ。怒ってないから」

「私の方こそイライラして…、ごめんなさい」

素直な気持ちを伝える。

「綾乃は悪くないよ!私が…」

「はい、おしまい!」

「…え?」

ひぃぃるとぉおおおおおお よぉるぅのおおおおお
あいだああああでぇ~~~ とぉきぃはとまるぅ~

どぉおぞ~ ああなぁたああああ
さよなあああらをおおおおお くださぁああああい~

「千歳は私達が喧嘩することなんて望んでないから」

―――綾乃ちゃんと歳納さんがもっと仲良うなれたらなーって。

「……」

「むしろ逆。もっと仲良くなってほしいって思ってるはずよ」

―――精一杯サポートするで!

「だから、仲直りしましょう?」

「…いいの?」

「また迷惑かけちゃうよ?私…馬鹿だから…」

「迷惑じゃない歳納京子なんて偽者よ」

「わ、私も…すぐには素直になれないかもしれないけど…」

単純に、今更態度を改めるのが恥ずかしい。

「綾乃は…」

「綾乃はツンデレのほうが可愛いよ?」

酷い不意打ちだ。

「かわ…!?」

顔が赤くなる。

でもそれは、以前までの気持ちとは違っていた。

「と、とりあえず最後まで聞きなさいよっ!」

「ご、ごめんごめん」

なんだか懐かしい、このやりとり。

「その…生徒会の仕事も落ち着かないし、て…手伝ってほしいときは、声…かけるから…」

歳納京子の顔に、笑顔が戻った。

「…うんっ」

私が恋をしていた、歳納京子の笑顔。

「よーし、それじゃあ早速手伝うよ!」

「え、今日はそこまで大変じゃ…」

「いいからいいから。結衣達連れて生徒会室行くから、先に行ってて!」

「と…歳納京…!」

言うが早いか。

その背中は、校舎に吸い込まれていった。

「……」

ただ一人、取り残された私。

空を見上げる。

どこまでも澄み切った青空。

この空の下のどこかにいる、千歳。

この想いは届くだろうか。

「千歳、私頑張るからね…」

いつかまた、胸を張って千歳に会えるように。

おわり。

乙でした

やっぱ千歳ちゃんは天使やな

乙やでー

これは素敵…おつおつ

一気に読めた
たいへんよかった
おつでした

すばらしい
おつ

―――エピローグ―――

理科準備室にて。

お?


期待

ktkr

期待

「おー、杉浦。何か用か?」

「先生に、お願いがあります」

「私に?」

「先生にしかできないことなんです」

「ふむ、爆弾か」

「違います」

「…ふふ、わかってるよ」

「すみません。先生しか頼れなくて…」

「いいさ。私も松本が卒業してしまったから、お前の気持ちが少し分かる」

「私に任せておけ」

「…ありがとうございますっ」

西垣ちゃんかっけえ

しゅ

「姉さん、まだ少し肌寒いし、風邪引いちゃうよ?」

春。

新居のベランダで。

「…うん、もうちょっと」

きっとあの空の向こうに、綾乃ちゃんがいる。

「やっぱり、手紙捨てなければ良かったかな…?」

すぐに諦められるほど、安っぽい気持ちではない。

想いを伝えればよかったと後悔してばかりだ。

「ううん、これでええんよ」

誰にともなく呟く。

「綾乃ちゃんの幸せの邪魔、したくないから」

脳裏に、幸せそうな綾乃ちゃんの笑顔を思い浮かべる。

「……」

それでも、妹は不満気だ。

「…嫌な思いさせて、ごめんな」

「姉さんが、決めたことだから」

「…うん」

三年生になった。

こっちに来てからできた友達も、ちらほら同じクラスに居た。

だけど。

窓際の席、一人ぽつんと座る女の子。

その姿が、あの日の彼女に重なる。

「……」

緊張で凝り固まった表情、姿勢。

なんだか放っておけない。

「あの、うち池田千歳っていいます」

最初は、凄く驚いた表情。

「友達に、なってくれへんかな?」

次の瞬間には、可愛らしい笑顔に変わる。

本当に、あの日の彼女を見ているようだ。

(綾乃ちゃん、うち頑張るからね…)

当たり前でなかった日常が、当たり前になっていく。

新しい学校。

新しくできた友達。

見慣れない町の風景も、見慣れた町の風景に変わっていく。

夏が過ぎ、秋が深まり、冬を越えて。

また、春が来る。

桜が散る中、高校生活が幕を開ける。

学校へ向かう道の途中。

見慣れた公園の前で。

私は、懐かしいあの人の姿を見た。

人は、当たり前のことが当たり前でなくなったとき、涙を流す。

例えば。

もう会うことはないと思っていた大好きな人に、また会えたとき。

西垣ちゃんイケメンすぎ濡れた

「綾乃ちゃん…?」

幻かと思った。

「千歳」

その声は、私のよく知っている綾乃ちゃんの声だった。

「ど、どうして…」

「だって、連絡先も教えてないのに…」

誰にも教えないでほしいと先生方にお願いしたのは、他でもない私だ。

「手紙を読んだの」

手紙?でも、あれは捨てたはず…。

「千鶴さんにお礼言わなきゃね」

…本当に、姉想いの優しい妹だ。

きたきたきた

イイハナシダナー

「私、もう一度千歳に会いたくて…」

「だから、西垣先生にお願いしたの」

「千歳の進学先を調べて欲しい、って」

…確かに、進学先までは口止めしていなかったけれど。

会いに来るどころか、同じ学校を受験してくるなんて、相変らず無茶をする子のようだ。

「この一年で分かったことがあるの」

「私には千歳がいないとダメだって…」

「一人暮らしもまだ慣れなくて…」

「また色々と助けてくれると、凄く嬉しい」

涙が頬を伝う。

「綾乃ちゃん…うち、また綾乃ちゃんの傍にいてええの?」

「もちろんよ」

嬉しくて。

キマシタワー!!!

「せっかく…諦められるかもって…思えるようになってきたとこなのに…」

「…ごめんなさい」

「…責任、とってな?」

「望む所よ」

私が大好きな、その笑顔で。

「これからもよろしくね、千歳」

以上です!
さっきのあやちとSSが切ない感じで終わったから急遽エピローグを追加してやった
反省はしてない

支援ありがとうでした!

【速報】木間市に塔が急ピッチで建設中

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         ▼/       木間
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 木間市タワー [Kima City Tower]
     (1990竣工 継続中 日本)

乙!

また凄い作品が来たな
最後の再開が泣けた
乙!

乙です

エピローグでさらにハッピーになって良かった
乙乙

後日談もとてもよかったよ
おつ!

乙!

綾千美しすぎてヤバい

後日談まで素晴らしすぎる
おつおつおつやでぇ

乙…

素晴らしかった
後日談もおつおつ

乙!


良作だな


やっぱ百合って良いとしみじみ思う

乙乙!

乙!

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