アルミン「出来なかったら、家が所謂ゴミ屋敷化した。どうしよう」
ジャン「掃除しようぜ」
アルミン「一周回って、これはゴミではなく芸術なんだと思えば良い気がしてきた」
ジャン「逃げるなよ。お前俺に言ったじゃねぇか、何も捨てることが出来ない人には、何も変えることが出来ないだろうって」
アルミン「お恥ずかしい。まさか自分がこうなるなんて」
ジャン「とりあえず、この辺のゴミから」
アルミン「ああああああ!!そこはまだ読みかけの古書があるんだよ!」
ジャン「おぉ、悪かったよ」
ジャン「しかしまぁ……よくもこんなにごちゃごちゃと」
アルミン「ジャン!足下にも注意してくれ。貴重な資料とかが転がっているかもしれない」
ジャン「足下に転がってるような資料とか、それはもう貴重でも何でもないだろ」
アルミン「手伝って貰う立場で悪いんだけど……本当はどれも捨てなくなんかないんだよ」
ジャン「そんなこと言ってもよ。さすがに家が軋む程はダメだろう」
アルミン「倒壊すると思う?」
ジャン「やめてくれ。ゴミの下敷きで死ぬアルミンとか笑えねぇから」
アルミン「あっ、こんな場所にあったんだ」
ジャン「進まねぇから!いちいち見つけた本とか資料を読み返すんじゃねぇよ」
アルミン「懐かしいと思わない?訓練所にいた頃に読んでた本だよ」
ジャン「訓練所からパクったのかよ」
アルミン「違うよ。街で見つけて懐かしくて自分で手に入れたんだよ。内容自体は覚えちゃってるから新鮮味は無かったけどね」
ジャン「そんなもん。覚えてるならわざわざ買い直す必要無いだろうに」
アルミン「昔を懐かしむ気持ちってやつだよ」
ジャン(なんで……木とか石まで集めてんだろうか)
アルミン「おぉ、それは訓練所の敷地内に生えてた大木の枝だよ。そっちは営庭の石」
ジャン「そんなものまでいちいち集めたのか?」
アルミン「どうも収集癖って言うのかな。何となく懐かしく感じる物は拾っちゃうんだよね」
ジャン「さすがに生ゴミとかまでは手出ししてないだろうな?」
アルミン「やだなーそんなのまで集めてたら今頃アレがうじゃうじゃいるはずだよ」
ジャン「アレか……絶対遭遇するんだろうな」
アルミン「たぶんね」
~~~~~~~
ジャン「少しは整理出来たか」
アルミン「まだまだ、これからって感じだけど。お昼も近いから昼御飯食べに行こうか」
ジャン「手伝ってやってんだから奢れよ?」
アルミン「あざとい……そんなこと言ってると女の子にモテないよ?」
ジャン「十代じゃあるまいし、そんなこといちいち意識してねぇよ」
アルミン「ここ数年でめっきり老け込んだよね」
ジャン「それを言うなら落ち着いた。もしくは大人になったって言え。俺がジジイみたいだろうがよ」
《街中》
アルミン「この辺りもだいぶ復興したね」
ジャン「そうだな。人間の力ってのはやっぱりすげぇもんだ」
アルミン「ランチでいい?そこのお店お手頃な価格で味は良いんだよ」
ジャン「意外にそういうの知ってんだな。食には無頓着かと」
アルミン「昔はね。そもそも、味がどうこうよりは生きる為に食べるだけだったから」
ジャン「それはまぁ、そうか。そういうところでも年月ってのは感じるもんだな」
アルミン「ほら、ボーッとしてると他の人の邪魔だよ」
ジャン「おぉ」
~~~~~~~
アルミン「どう?」
ジャン「確かに値段の割には美味いな」
アルミン「まぁ、訓練所とか開拓地に居た頃の食事に比べたらなんでも美味しいんだけどね」
ジャン「いやいや、店の料理を比べたら悪いだろ」
アルミン「そっか。午後からも動いてもらうんだからちゃんと食べてね」
ジャン「今日だけじゃ終わらねぇだろ。だいたい、よくあんな家で生活出来たな」
アルミン「普段は調査兵団の本部とかで生活してるから、その辺は平気かな」
ジャン「お前が本部によくいるのはあれが理由だったんだな」
ジャン「ご馳走さん。まぁ、腹は膨れたわ」
アルミン「はーめんどくさいなぁ」
ジャン「待て、お前の家でお前が集めたゴミの始末なんだからな?」
アルミン「わかってるよ。でもジャンも物好きだね。わざわざ片付けを手伝ってくれるなんて」
ジャン「暇なんだよ」
アルミン「部下と遊んだりしないの?」
ジャン「俺の性格だからな。部下がヘソ曲げて辞められても困るからよ」
アルミン「だいぶマシになったとは思うんだけど?」
ジャン「わりと長い付き合いだからだろ。部下はそう都合良く解釈してくれねぇよ」
~~~~~~~
ジャン「こっちの本とかは?」
アルミン「えっと……下から二番目と左から四番目は捨てても大丈夫だよ」
ジャン「お前記憶力良いのは良いんだが、ほとんど捨てるのが無いじゃないかよ」
アルミン「そっちの白い本はさ、ベルトルトが好きだったんだ」
ジャン「あいつか」
アルミン「右側の黒っぽくなった本はライナーが好きだった」
ジャン「よく覚えてんな。そういえば、あいつらもお前と同じくらい読書家だったな」
アルミン「うん。面白い本も教えてもらった」
ジャン「ん?」
アルミン「どうかした?」
ジャン「これって……立体機動装置だよな?」
アルミン「残骸だよ。それは捨てる気はない」
ジャン「いや、赤錆ってか……これ血か?」
アルミン「そうだよ。そこの棚にあるのは、回収出来た調査兵団の皆の立体機動装置だよ」
ジャン「お前、集めたのか?」
アルミン「うん。遺族がいた場合はその人達にちゃんと許可は貰ってるよ」
ジャン「わざわざ行って来たのか?」
アルミン「あはは、ちょっとおかしいかな……」
ジャン「ここら辺は綺麗に整頓されてるな」
アルミン「サシャとかコニーのがあるよ。そっちのケース」
ジャン「あの二人か、あいつ等良い奴だったよな」
アルミン「そうだね。あの二人と最後まで行動が多かったのはジャンだったよね」
ジャン「まぁ、つるみやすかった。マルコが居なくなってからは特にな」
アルミン「マルコか、マルコのは無いんだ。生家を訪ねてもみたけど……ごめん」
ジャン「いや、あいつは物なんか無くても忘れることはねぇよ」
アルミン「そっか」
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アルミン「疲れた……」
ジャン「三時間くらいやってもまだあんのか。お前どうやって拾って来たんだよ」
アルミン「荷馬車とか使った時もあるよ。しかし、拾うこと自体は苦労しないのに、片付けるとなると大変だね……ははは」
ジャン「なぁ、アルミン。結構な人数の兵士が心理カウンセリングを受けてるのは知ってるよな?」
アルミン「知ってるよ。きっと、僕のこういう行為も何かしら病名を付けられる。そういうのは嫌なんだ」
ジャン「嫌なのか」
アルミン「僕は僕の意志で、ここにある物達を集めた。病気なんかじゃない。ここにある物は皆、意味が在るものだから」
ジャン「でも捨てないとな。お前の記憶力なら、物が無くても忘れることは無いだろ。いや、忘れないようにしたらいい」
アルミン「わかってる。本当に必要な残って欲しいものだけを残すことにするから」
ジャン「俺も、死んでたら……お前に何かしら集められるのか」
アルミン「あはは、どうかな?ジャンの顔は記憶に残りやすいから」
ジャン「お前な!人が真面目に!」
アルミン「冗談だよ。ふふ」
~~~~~~
ジャン「今日はこのくらいにするか」
アルミン「さすがに限界だね……」
ジャン「なぁ、使えるやつは兵団で欲しい奴にやれば良くないか?」
アルミン「欲しがる子いるかな?」
ジャン「……実用目的と女の部下なら意外に欲しがる奴も多いんじゃね?」
アルミン「えー?女の子が?」
ジャン「意外に人気あるってよ。お前」
アルミン「またまた、それは上官ってのがあるからだよ」
ジャン「はいはい。そんじゃ呑みにでも行くか」
アルミン「禁酒は?」
ジャン「たまにはな」
《酒場》
ジャン「久しぶりに飲む酒は意外に美味いな」
アルミン「それは掃除で疲れたからじゃないかな」
ジャン「お前は普通に飲んでるよな」
アルミン「まぁね。良い具合に色々ぼやけさせてくれるから、今の世界は少し……明るすぎる」
ジャン「ほとんど死んだ。でも俺達は生き残った。犠牲が多すぎて勝ったのか負けたのか……曖昧だな」
アルミン「あはは、そんなこと言ってると皆に怒られるよ」
ジャン「そうか。どのみちいつかは死んじまうしな」
アルミン「少し長引いただけだよ」
ジャン「話は変わるけどよ。浮いた話はねぇのかよ」
アルミン「無いね。全くない」
ジャン「前から思ってたんだが、変なところはハッキリし過ぎてるよな」
アルミン「うーん、ありのままっていうか考える必要がない事実だからかな」
ジャン「二十代だぞ?」
アルミン「ジャンはいるの?」
ジャン「俺もいねぇな」
アルミン「僕に言えないじゃないか」
ジャン「それもそうか、ハハハハハ」
アルミン「やっぱりまだ?」
ジャン「それは乗り越えたんだが、なんなんだろうな。わからね」
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アルミン「そろそろ帰ろうか、明日も忙しいから」
ジャン「そうだな。残りのは休日にまとめて片付けちまうか」
アルミン「また手伝ってくれるの?」
ジャン「最後までちゃんとやらないと俺の気分的にな」
アルミン「気分か、それでも手伝ってくれて嬉しいよ」
ジャン「おう、じゃあまた明日な」
アルミン「うん。今日は手伝ってくれてありがとう」
ジャン「おう」
アルミン(たまには自分の家で寝るかな。あの部屋は、綺麗なままにしてあるし)
《後日・休日》
ジャン「おぉ、スッキリしてるじゃねぇか」
アルミン「ジャンのおかげだよ。部下の子とかも持ってってくれたりしたから」
ジャン「でも、それは初日に比べたらの話で……」
アルミン「はは……まだまだあるね。どうしようかな」
ジャン「その為に休日に早起きして午前中から来てんだ。やるぞ!」
アルミン「うん。でも、実際捨てる物はほとんど無くなって来たんだけどね」
ジャン「俺には大量にあるように見えるんだが」
アルミン「そこら辺のはね。こっちのは全部ダメなんだ」
ジャン「なぜだ。違いがわからないんだが」
アルミン「そっちは、壁内の思い出だから皆が見えなくても平気だけど、こっちのは壁外の思い出だから」
ジャン「皆ってなんだよ」
アルミン「そこに部屋があるよね」
ジャン「あぁ、一番綺麗にされてるっぽい部屋か」
アルミン「そこから、この一角は直線になってる。いつも皆が見えるように」
ジャン「アルミン……皆ってのは同期達のことを言ってるのか?」
アルミン「最初はエレンとミカサのだけだったけど。今じゃ、集まって皆になっちゃった」
ジャン「ちょっと見て良いか?」
アルミン「うん」
ジャン「……これは、ジャケットとか立体機動装置関連に、指輪や装飾品に本達。皆のか」
アルミン「うん。何でだろ、集めても、誰が生き返る訳じゃない。でも、集めてると安心した」
ジャン「アルミン……」
アルミン「たくさんの人が死んで、結果として壁外には行けるようになった。でも、それを見ないで死んだ皆に見せたかった」
アルミン「壁外の色々な物を、壁外に出る度に拾っては、その一角に置いたんだ。皆から見えるように」
ジャン「そんなことしなくても……あいつらなら、その、死んでも色々な世界を自由に見てるんじゃないか?」
アルミン「そんなのわからないじゃないか。死んで、目に見えない世界だとか不確定な存在がなかったら?」
アルミン「皆が、何も見れないまま、ただ無になったとしたら?僕はそんなの嫌だ」
ジャン「アルミン」
アルミン「だから、皆の遺品に少しでも壁外を見せてあげるんだ。調査兵団の僕には、それが出来るし、生き残った僕にはそれをやらないといけないんだよ!」
ジャン「落ち着けアルミン」
アルミン「僕だっていつかは老い衰えて行く。それなら少しでも遠く、少しでも新しい物を皆に見せたいんだ」
ジャン「お前さ……一応は、自由になれたんだから……そこまで過去に囚われるなよ」
アルミン「おかしなことを言うね。僕は自分のしたいことをしながら生き抜いてるだけだよ」
ジャン「お前が、3人で壁外を見てまわる約束をしてたのはお前自身から聞いた。同時に、なんで自分が生き残ったのかを嘆くのも聞いた」
アルミン「……そんなこともあったね。今は違うよ」
ジャン「違わねぇだろ。そんなことあいつらは望んでねぇよ」
アルミン「望む、望まないの問題じゃない。やるんだよ。これからも続けないといけないんだ」
ジャン「……そんなに忘れていくことが不安か。物に執着持ち出したのもあいつ等を亡くしてからだもんな」
アルミン「そんなんじゃないよ。忘れることなんかあるわけないじゃないか」
ジャン「確かに、一人ならな。でも、現実は沢山だ。それも一気に失っちまった」
ジャン「だから、そいつ等を少しでも忘れない為に収集を始めたんだろ」
アルミン「違うよ。違う違う違う違う!違うに決まってるじゃないか!僕が皆を忘れるなんて!絶対にそんなことない!」
ジャン「そうか、悪い。俺だけが不安だったのかもな」
アルミン「ジャン?」
ジャン「お前ほど頭は良くないが、それでも悪いってほうじゃないとは思うんだ」
ジャン「だがな、あれだけ濃い時間だったはず、一緒に戦った奴らの記憶も少しずつ薄れて来てる」
ジャン「やっぱり、一番優しいのも忘れることだが、一番恐ろしいのも忘れることなんだと思うんだよ」
アルミン「ジャン……」
ジャン「だから、酒を禁酒したり……まぁ、楽しいことをしないようにしたりもして来たんだがな」
ジャン「ほら、楽しい記憶ってのは無条件に上書きしていくだろ」
アルミン「だから、自然と楽しいことから身を?」
ジャン「今じゃ壁外に出れるんだぜ?これだけでも楽しいのによ。恋人だの、娯楽や嗜好品だのやってたら……どんどん記憶がな」
ジャン「結局、お前は物の収集に走り、俺は不器用に足掻いただけの違いだ。忘れることが怖いってだけだよ」
アルミン「……」
ジャン「せっかく集めたあいつ等の形見なら捨てる必要はないと思う」
アルミン「僕は捨てないよ」
ジャン「だが、その部屋の物だけにしろ。他は捨てようぜ」
アルミン「でも……」
ジャン「壁外の物なんかわざわざ集めなくても、俺達がちゃんと見て、喜んで、笑ってれば……その、あいつ等も喜ぶだろ」
アルミン「だけど……」
ジャン「交流のあった同期で残ったの俺とお前だけなんだからよ」
ジャン「調査兵団としてもだな壁外のこととか、一緒に未来だけ見て生きて行こうぜ」
アルミン「……くくっ、あははは」
ジャン「アルミン?」
アルミン「それってプロポーズ?未来を一緒に?あははは」
ジャン「はぁ!?お前は男だろうが!」
アルミン「ははは、冗談だよ。あはは、前に部下の女性から君と僕が付き合ってるみたいにからかわれたからさ」
ジャン「誰だよ!そんな変なこと言うの」
アルミン「うーん……生き残った者は生き残った者で、同じような表情してるように、他人からは見えちゃうのかもね」
ジャン「そういう物なのか。そうか、そうかもな」
アルミン「踏ん切りがついたよ。あの部屋の物以外は全て捨てる。皆の遺品はあの部屋だけで収まるから」
ジャン「よし、ならさっさと片付けて今日も飲みに行くぞ!」
アルミン「またー?」
ジャン「おう、あいつ等との思い出を肴に飲むんだよ」
アルミン「泣くかもね」
ジャン「あいつ等は喜ぶかもな」
アルミン「泣くのに?」
ジャン「自分達が思い出されて悪い気はしないだろ」
アルミン「そういう物なのかな」
ジャン「忘れられて、誰からも思い出されないよりは、きっとな」
アルミン「よし、ならがんばって片付けよー」
ジャン「おう!」
アルミン(何も捨てることができない人には、何も変えることができないだろうと思ってた)
アルミン(人間性とか、犠牲とか色々考えてた日々は今は無いけど)
アルミン(壁外に行けるようになった今でもエレン、ミカサ、皆、隣に居ないのは凄く寂しい)
アルミン(その分、一緒に見られなかった景色を一つでも多く目に焼き付けていくよ)
ジャン「おい、そっち側持てよ」
アルミン「うん。足下気をつけてね」
ジャン「おう」
~~~~~~~~
ジャン「終わったぁぁ!」
アルミン「夕方だけどね。お疲れ様」
ジャン「よし、飲みに行くぞ!これからは恋愛とかもしてみっか!」
アルミン「急にどうしたの?」
ジャン「なんつーか決別したって感じだな。ちゃんとした恋人作って、脱童貞ってな!」
アルミン「えっ?ジャンまだだったの?」
ジャン「えっ!お前違うの!?そういうのはちゃっかりヤってんのかよ!」
アルミン「あははは、どうだろうね。まぁ飲みに行こうよ」
ジャン「くっそ!絶対に聞き出してやるからな!」
アルミン「はははは」
おわり
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