~放課後 SOS団部室~
みくる「え? 涼宮さん今日学校に来てないんですか?」
キョン「ええ。珍しく休みみたいです」
みくる「どうしたんでしょう? 風邪でしょうか?」
キョン「分かりません。学校側にも何も連絡してないみたいですし」
キョン「古泉、お前は何か知らないか?」
古泉「機関からの報告によりますと、涼宮さんは今日家から一歩も外に出ていないようです」
キョン「そうなのか? 本当に何してるんだアイツ……」
みくる「電話してみたらどうですか?」
キョン「何度も電話掛けてみたんですが、アイツ出ないんですよ」
古泉「単なるズル休みでもなさそうですね。心配です」
キョン「何か厄介なことが起こる前触れじゃないだろうな?」
キョン「長門、お前はどうだ? 何か知らないか?」
長門「ドア」
キョン「ん? ドアがどうかしたのか?」
バーン!!
キョン「うーわ! 何だぁ!?」
ハルヒ「はぁ……はぁ……」
キョン「ハルヒ!? いきなり入ってくるなよ! びっくりしたじゃないか、まったく」
ハルヒ「……」
キョン「今日はどうしたんだよ、無断で休んだりして」
ハルヒ「……」
キョン「ハルヒ? どうした、何かあったのか?」
ハルヒ「みんな、ごめんなさい。本当にごめんなさい!」
キョン「……」
長門「……」
みくる「……」
古泉「……」
キョン「ハッ!! あまりのことに放心してしまった!」
古泉「涼宮さん、いったい何故謝られるのでしょうか?」
みくる「そ、そうです! 何かあったんですか?」
キョン「また俺たちの知らない所で厄介なことでもしでかしたのか?」
長門「……」
ハルヒ「あたし……」
ハルヒ「あたし、今まで散々みんなに迷惑をかけてきたわ……」
キョン「え?」
ハルヒ「自分勝手で周りのことを一切考えず……SOS団のみんなだけじゃない。もっといろんな人に……」
キョン「ハルヒ……?」
ハルヒ「今まで関わってきた人たちみんなに不快な思いをさせてきたわ……」
キョン「いやまあ、確かに強く否定はできないが……」
キョン「急にどうしたんだ? 本当に何があったんだ?」
ハルヒ「キョン」
キョン「ん? な、何だ?」
ハルヒ「今まで散々面倒な雑用ばかり押し付けてきてごめんなさい」
キョン「え、いや、あ、ああ……」
ハルヒ「あとこれ……」スッ
キョン「これって……金じゃねーか。何の金だよ?」
ハルヒ「今まで不思議探索のたびにアンタに奢らせてきたでしょ。その分を返そうと思って」
キョン「まあ返してもらえるのなら受け取るけどよ」
ハルヒ「でもごめんなさい。手持ちのお金だけじゃ足りなくて……」
キョン「いや、そこまでしなくてもいいって」
ハルヒ「ううん、足りない分はバイトしてでも返すから。それまで少しだけ待ってて」
キョン「あ、ああ、分かった」
ハルヒ「……」ジー
キョン「何だよ、俺の顔に何かついてるか?」
ハルヒ「そのネクタイ……」
キョン「ネクタイ?」
ハルヒ「以前あたし、アンタのネクタイ掴んで引っ張りまわしたことがあったわよね」
キョン「そんなことあったか?」
ハルヒ「階段の踊り場まで引っ張って行って部活作りに協力させた時と、初めて部室に案内した時よ」
キョン「ああ、あったなそういえば。よく覚えてるなお前」
ハルヒ「あの時はごめんなさい。苦しかったでしょ?」
キョン「今言われて思い出したくらいだ。気にしてないっての」
ハルヒ「さあ」ズイ
キョン「何だよ?」
ハルヒ「あたしの胸倉を掴んで引っ張りまわしなさい」
キョン「するかアホ」
なんでこうも不思議探索が毎週年中行われてるとか閉鎖空間で死傷者続出とか思われてるんだろうな
>>8
ちがうの?
ハルヒ「いいから! ほら掴みなさい!」グイッ
キョン「こら引っ張るな! 気にしてないって言ってるだろ!」
ハルヒ「あたしの気がすまないのよ! 思う存分引っ張りまわしなさい!」グイグイッ
キョン「こら! 胸元見える! 胸元見える!」
古泉「涼宮さん、落ち着いてください」
みくる「キョンくん困ってますよぉ」
ハルヒ「あ……ご、ごめんねキョン。本当にごめんね」
キョン「まったく。今日のお前おかしいぞ」
ハルヒ「そういえば」
キョン「今度は何だ?」
ハルヒ「授業中にアンタを後ろから引っ張って、後頭部を机に打ち付けちゃったこともあったわね」
キョン「SOS団結成を思いついた時のあれか。また懐かしいことを」
ハルヒ「あたしの後頭部に机を……」
キョン「やらねえよ!」
キョン「おめでたいのはお前のアタマだよ、イカレ女」
ハルヒ「何言ってんの…?えっ?ピストル?」
キョン「お前はもう用済みってことだ。それが組織の出した結論」
ハルヒ「あんたまさか」
キョン「おっと、無駄話をする気はない。グッバイ、ハルヒ」
ハルヒ「何よ。いいわよ自分でやるから。えいっ! 一人バックドロップ!」グラッ
キョン「危ねえ!」ガシッ!
古泉「おお、ナイスキャッチです」
キョン「気をつけろ! 下手すると大怪我だぞ!」
ハルヒ「だってあたし、アンタにひどいことしたのよ! 報いを受けるのが当然じゃない!」
キョン「気持ちは分からんでもないが、極端なんだよお前は」
ハルヒ「むー、じゃあ有希! その机をあたしに投げつけて!」
長門「了解」
キョン「投げつけて、じゃねえ! 長門も振りかぶるな!」
ハルヒ「邪魔しないでー!」
キョン(今日のハルヒはどうしたんだ? いったいどうなってるんだよ?)
キョン(しかし、今までの行いを反省しているとは言え、強引なところは変わってないんだな)
古泉「涼宮さん、落ち着きましたか?」
ハルヒ「うん。ごめんね、取り乱しちゃって」
古泉「いえいえ、お気になさらず」
ハルヒ「古泉くん、いつもいつもごめんなさい」
古泉「おや、何のことでしょうか?」
ハルヒ「孤島とか夏祭りの会場とか、いつもいい所を見つけてくれて手配もしてもらっているのに……」
ハルヒ「あたし、ろくにお礼も言った事がなかったわ。副団長なんだから当然だなんて思ってて……」
ハルヒ「ごめんなさい! ごめんなさい!」
古泉「いいんですよ。僕は涼宮さんや皆さんに喜んでいただければ満足ですから」
ハルヒ「それと、実は古泉くんのオセロの白い部分を全部マジックで塗り潰した犯人、あたしなの。ごめんなさい」
古泉「え?」
ハルヒ「古泉くんの鞄にこっそり『悪霊退散』って落書きしたのもあたしなの。ごめんなさい」
古泉「はははそぉですか。全然気にしてませんよははは」
キョン(顔が引き攣ってる引き攣ってる)
長門「……」
ハルヒ「有希、有希にも謝らないといけないことがあるわ」
長門「何?」
ハルヒ「以前部室にある本をフリマで売ろうとしたことがあったでしょ」
長門「……」
ハルヒ「普段ずっと本を読んでいる有希が、どれだけ本を大事にしているかなんて少し考えれば分かるものなのに」
ハルヒ「あたしはそんなこと全然考えずに軽い気持ちで本を売ろうとした。しかも有希の家にある本まで」
長門「……」
ハルヒ「有希、ごめんなさい。あたしが馬鹿だったわ」
長門「いい」
ハルヒ「お詫びに今度好きな本を買ってくるわ。バイトでお金を貯めてからだけど」
長門「そう」
キョン(あの時は結局売らなかったんだが……売ろうとしたこと自体が許せなかったってことか)
みくる「涼宮さん、少し休みましょう。はい、お茶です」
ハルヒ「はい、どうもありがとうございます。朝比奈先輩」
みくる「え?」
ハルヒ「え?」
みくる「い、今なんて言いましたか?」
ハルヒ「どうもありがとうございます、と」
みくる「その後です!」
ハルヒ「朝比奈先輩」
みくる「な、何でそんな呼び方するんですか……?」
ハルヒ「だって朝比奈先輩は上級生ですし……」
みくる「いつも通り『みくるちゃん』って呼んでいいんですよ」
ハルヒ「そんな失礼な呼び方はできないですよ。今までのあたしはどうかしてたんです」
ハルヒ「上級生の朝比奈先輩に対して敬語も使わず、先輩として敬うこともせず……」
ハルヒ「朝比奈先輩、今まで本当にすみませんでした!」
みくる「そ、そんな、頭を上げてください涼宮さん!」
ハルヒ「これからはきちんと先輩として敬っていきます」
みくる「いつもと同じように接してくれていいんですよぅ……」
ハルヒ「だめです。朝比奈先輩は上級生なんですから」
みくる「な、ならせめてその『朝比奈先輩』という呼び方だけでも変えてもらえないですか?」
ハルヒ「朝比奈先輩がそこまで言うなら……みくる先輩」
みくる「先輩はいらないです」
ハルヒ「朝比奈さん」
みくる「あの、下の名前で呼んでもらえませんか……?」
ハルヒ「みくるさん」
みくる「みくるちゃんでいいんですよ」
ハルヒ「いいえ『みくるさん』です。譲れるのはここまでです」
みくる「えう……分かりました。それでいいです……」
ハルヒ「みくるさん、あたし今までみくるさんに散々セクハラ行為をしてきました」
ハルヒ「胸を揉んだり、強引に服を脱がせようとしたり、恥ずかしい姿を写真に撮ったり」
ハルヒ「みくるさんは嫌がってたのに無理矢理……本当にごめんなさい!」
みくる「あ、うん。それはちょっともうしてほしくないです……」
ハルヒ「お詫びにあたしの胸を揉んでください」
みくる「ええ!?」
キョン「やっぱりそうくるか。こら待てハルヒ」
ハルヒ「何よ。代わりにあんたが揉むの?」
キョン「揉むか!」
ハルヒ「じゃあみくるさん、あたしの服を脱がせてください! 辱めてください!」
みくる「えっと~~あの~~それは……」オロオロ
キョン「やめろハルヒ。見ろ、朝比奈さんが困ってるじゃないか」
キョン「お前は今までやってきたことを反省すると言いながら、強引すぎて結局は迷惑をかけてるぞ」
ハルヒ「え? あ、それは……でも謝りたい……でも……」オロオロ
キョン「はぁ、やれやれ」
長門「……」パタン
古泉「おや、もう下校時刻ですね」
キョン「結局今日の団活はハルヒが謝るだけ謝って終わってしまったな」
ハルヒ「まだまだ謝り足りないわ」
キョン「たく。それで、明日の不思議探索はどうするんだ? いつも通りにやるのか?」
ハルヒ「ううん、明日は休みにするわ。あたし行かなきゃいけないところがあるから」
みくる「行かなきゃいけないところ?」
ハルヒ「神社よ」
キョン「神社? 何でまたそんなところに?」
ハルヒ「以前映画撮影の時に神社まで撮影しに行ったことがあったでしょ」
キョン「ああ、あったな」
ハルヒ「その時にあたし、神主さんにエアーガンを乱射したりしていろいろ迷惑をかけちゃったから」
キョン「ああ、あったな……」
ハルヒ「そのことを謝りに行くの。だから明日の不思議探索はなし。みんなは休んでて」
キョン「……」
ハルヒ「どうしたのよキョン、急に黙り込んで」
キョン「……俺も行く」
ハルヒ「え?」
キョン「明日は俺も一緒に神社に行く。俺も一緒に謝る」
古泉「なら僕も行きますよ」
みくる「あたしも行きます」
長門「……」スッ
キョン「長門も行くとよ。明日は全員で謝りに行くか」
ハルヒ「みんなちょっと待って! あれはあたしが悪いのよ! みんなはただ巻き込まれただけじゃない!」
キョン「お前が神主さんを撃ったとき、結局は俺達も一緒になって逃げたんだ。だから同罪だ」
ハルヒ「で、でも……何で……」
古泉「みんな謝りたいという気持ちがあるのです。だからみんなで行きましょう」
キョン「決まりだ。時間と集合場所はいつもの不思議探索と同じということで」
ハルヒ「う……うん。分かったわ……」
ハルヒ「じゃああたし、帰るわね」
キョン「おう、俺達は戸締りしてから帰るから」
ハルヒ「うん。みんな…………本当にごめんなさい」
パタン
キョン「……さて、これはいったいどういうことなんだ?」
古泉「分かりません。おそらく自宅に閉じこもっていた間に何かあったのでしょうが」
みくる「まさか涼宮さんがあんなに素直に謝ってくるなんて、びっくりしました」
キョン「反省することも謝ることもいいことだし必要なことだと思うんですけどね」
キョン「ただ、あの強引なやり方はちょっと。机に頭を打ちつけようとしたり胸を揉ませようとしたり」
古泉「とにかく普通の状態ではないことは間違いないです。早速機関のほうで調べてみますよ」
長門「……」
キョン「長門、お前も何か分からないか?」
長門「不明。何者かによる改変の痕跡がないか調査の必要がある」
キョン「そうか。頼むぞ」
みくる「それにしても……」
キョン「朝比奈さん、どうかしましたか?」
みくる「あ、ううん、何でもないことなんだけど……」
みくる「涼宮さん、あたしとキョンくんにばかり謝ってたなぁって。そんな気がして」
キョン「そういえばそうでしたね。普段のハルヒによる被害は俺や朝比奈さんに集中してますからね」
古泉「そうですね。何だか申し訳ないです」
長門「……」
キョン(もっとも……普段の団活はともかく不思議絡みに関して言えば、長門と古泉は最大の被害者とも言えるんだよな……)
古泉「とにかく原因が分かるまでしばらく様子見ですね。我々もそろそろ帰るとしましょう」
みくる「あ、戸締りはあたしがしておきます。着替えなきゃいけないから」
キョン「お願いします。さて、明日に備えて早めに帰って寝るとするか」
キョン(今回のハルヒの異変……何者かによる陰謀なのか、本当にハルヒ自身が今までの行いを反省したのか)
キョン(……厄介なことにならなければいいんだけどな)
>>9
溜息(2月)で不思議探索を「そう言えば久しくやってない」とある
後者については、超能力者が「地球全土で十人くらい」しかいないのにそう頻繁に死ぬわけないだろう
負傷はあるのかもしれないが
~翌日 土曜日 駅前~
キョン「到着っと。ギリギリセーフか?」
みくる「おはようございます、キョンくん」
キョン「おはようございます朝比奈さん。長門もおはよう」
長門「おはよう」
古泉「どうも。おはようございます」
キョン「おう。ハルヒは?」
古泉「あちらにおられますよ」
キョン「お、いたいた。ようハルヒ、おは……よ……」
ハルヒ「おはよキョン。どうしたのよ、そんな顔して?」
キョン「どうしたのよってお前……何でバニーガールの格好をしてるんだよ!?」
ハルヒ「映画撮影の時、みくるさんをバニーやウェイトレスの格好で連れまわしたことがあったでしょ」
ハルヒ「本当に恥ずかしい思いをさせてしまったと反省しているわ……」
ハルヒ「だからこそ! 今日あたしはこの格好で移動することにしたのよ!」
みくる「あたしはいいって言ったんですけど……」
キョン「そういうことか。しかしまた極端な」
ハルヒ「同じ辱めを受けてこそ、反省したと言えるのよ!」
キョン「お前も恥ずかしい思いをさせたという自覚はあったんだな。いや、今になって自覚したのか」
ハルヒ「じゃあみんな揃った所で出発するわよ!」
キョン「そういえばハルヒ、お前バニーでビラ配りとかしたことあったが、その時は特に恥ずかしがってなかったじゃないか」
キョン「こういうのはお前が『恥ずかしい』と思わないと意味がないんじゃないか?」
ハルヒ「……それもそうね。よし!」ヌギヌギ
キョン「おおおおい!? 何でいきなり脱ぎ始めるんだよ!」
ハルヒ「さすがにあたしも素っ裸は恥ずかしいわよ。これで償いになるでしょ」
キョン「やめろって! おいこら!」
ハルヒ「離しなさいよ! バニーじゃ物足りないってアンタが言ったんじゃない!」
キョン「いや確かにそうだけど! そこまでしろとは言ってない!」
ハルヒ「脱がせなさいよー!」
キョン「目的地に着く前に捕まっちまうっての! って、うわ! 凄い馬鹿力!?」
ハルヒ「がおーー!!」ブンブン!!
キョン「ひいい!? みんな助けてくれ!」
みくる「涼宮さん、落ち落ち落ちち着いてぇ!」
長門「任せて」
10分後
ハルヒ「わ、分かったわよ……バニーで妥協するわ……」
キョン「長門は強かった。ともかくやっと納得してくれたか……」
古泉「すみませんが、あまり余計なことは言わないでいただけますか?」
キョン「すまん。本当にすまん」
~神社~
キョン「何とか無事に到着したな」
みくる「すれ違う人たちの視線が凄かったですね。あたしの時もそうだったのかなぁ……?」
古泉「では行きますか。神主さんはどこでしょう?」
ハルヒ「……」
キョン「どうしたハルヒ? 急に立ち止まったりして」
ハルヒ「みんな、映画撮影の時はごめんなさい。いろいろわがままな注文ばかりつけて」
ハルヒ「それにみんなそれぞれクラスの出し物もあったのに、SOS団を優先しろなんて勝手なこと言って」
古泉「いえいえ、気にしてませんよ」
ハルヒ「でも古泉くんのクラスは演劇だったんでしょ? 映画と演劇でセリフ覚えるの大変だったはずよ」
ハルヒ「だから償いとして、あたし百科事典を暗記することにしたの」
古泉「え?」
ハルヒ「でも時間がなくて半分しか覚えてないの。本当にごめんなさい」
みくる「充分凄いです……」
キョン「ハルヒー、まだかー?」
ハルヒ「お待たせ。着替え終わったわよ」
キョン「よし。いくらなんでもバニーの格好で謝るのは失礼すぎるからな」
古泉「神主さんいましたよ。境内の方で掃除をしています」
キョン「そうか。じゃあ行くとするか」
ハルヒ「あの、すみません」
神主「おや、なんだいお嬢さん」
ハルヒ「実はお話がありまして……」
神主「はて? 君達、どこかで見たことあるような?」
キョン「ええ、実は以前俺達……」
神主「あーー! 貴様らあの時の高校生か!!」
神主「まったく! 人に向かっていきなり鉄砲を撃ってくるとは何事か!」
ハルヒ「ごめんなさい! ごめんなさい!」
キョン「本当にすみませんでした!」
神主「しかも神社の鳩にまで鉄砲を撃ちおって! この馬鹿者どもが!」
みくる「ふぇぇん、ごめんなさぁい」
古泉「大変申し訳ありませんでした」
神主「近頃の高校生はなっとらん! まったくもってなっとらん!」
長門「……ゴメンナサイ」
神主「こっちへ来なさい! たっぷりみっちり説教してやる!」
ハルヒ「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
ガミガミガミガミガミガミガミガミ…………
神主「もう2度とあんなことはしないように! いいな!」
ハルヒ「はい……ごめんなさい……」
神主「分かればよろしい。では帰ってよし」
キョン「はぁ、やっと解放された。結局1時間近く説教されちゃったな」
ハルヒ「みんなごめんね……あたしのせいでみんなまで……」
キョン「何度も言ったろ。あれは俺達も悪かったんだって」
古泉「僕達も謝らなければいけないと思ったから謝った。それだけのことですよ」
ハルヒ「……うん」
キョン「それで、これからどうするんだ? 何か他に予定あるのか?」
ハルヒ「うん。あ、ちょっと待ってて。着替えてくるから」
キョン「またバニーになるのか? お前も律儀だな」
キョン「それにしても、アイツがバニーの格好で歩いてると俺達のほうが恥ずかしくないか?」
みくる「そうですか……あたしの時も恥ずかしかったんですね……」
キョン「わああ! そんなことないですよ! すみません!」
長門「わたしもあの時は魔法使いの格好をしていた。恥ずかしかった?」
キョン「すまん。今の今までそのことをすっかり忘れてた……」
古泉「涼宮さん、遅いですね」
キョン「そういえば着替えるだけにしては時間がかかりすぎてるな」
みくる「あたし、ちょっと様子を見てきます」タタッ
キョン「なーにやってんだアイツ」
古泉「何かあったのでしょうか」
みくる「あ、あのう……」
キョン「朝比奈さん、ハルヒはどうでした? まだ着替え終わってないんですか?」
みくる「いえ、着替えはもう終わってるんですけど……」
みくる「とにかく一緒に来てくれませんか? こっちです」
キョン「そっちは境内じゃないですか。何でハルヒはそんなところに?」
古泉「行ってみましょう」
みくる「あそこです。あそこにいるんですけど……」
キョン「お、本当だ。アイツあんなところでしゃがみ込んで何やってるんだ?」
みくる「見てください。涼宮さんの前に」
古泉「あれは……」
ハルヒ「鳩さんごめんなさい、本当にごめんなさい……」
ポー ポーポー クルッポー
キョン「たくさんの鳩に謝ってる……」
古泉「おそらくあれですね。映画撮影のときに鳩が一斉に飛び立つシーンを撮るために」
キョン「鳩に向かってエアガン撃ってたな。あの時のことを謝ってるのか」
ハルヒ「鳩太郎さんごめんなさい、鳩子さんごめんなさい……」
キョン「ついに勝手に名前まで付け始めたぞ。止めた方がいいんじゃないか?」
みくる「でも、何か近寄りがたいというか」
キョン「放っとくわけにもいかないでしょう。おーいハルヒ、いい加減に……」スタスタ
ポー! クルクルポッポー! バサッ! バサバサバサバサッ!!!!
みくる「ああ!」
古泉「鳩がみんな逃げてしまいましたね」
ハルヒ「ちょっとキョン! まだ全部謝ってないのに逃げちゃったじゃない!」
キョン「え! す、すまん!」
ハルヒ「ああもう! 鳩さん待ってー!」ダダッ
キョン「あ! おいハルヒ! 待て!」
ハルヒ「戻ってきてー! まだ謝り足りないのよー!」
キョン「お前が戻ってこーい! 追いつけるわけないだろうが!」
ハルヒ「はぁ、はぁ、ぜぇ、ぜぇ……」
キョン「やっと止まったか。本気で追いつくまで走り続けるかと思ったじゃねーか」
ハルヒ「ううう……鳩さん……」
キョン「もういいだろ。鳩にもお前の気持ちは伝わったさ」
ハルヒ「でも……あたし……」
長門「……これ」スッ
ハルヒ「有希? これは……メガフォン?」
長門「大声で叫べば伝わるはず」
キョン「へえ、気が利くじゃないか長門」
ハルヒ「ありがとう有希! よーし……」ス~…
ハルヒ「鳩さんたちーー!! あの時は本当に本当にごめんなさーーい!!」
ハルヒ「はあ、はあ、ふう」
キョン「満足したか?」
ハルヒ「うん、ありがとね有希。それにしてもいつの間にこんなの用意したの?」
長門「拾った」
ハルヒ「そうなの? まあいいわ。これで心置きなく次の場所に向かえるわ!」
古泉「涼宮さん、その前に昼食にしませんか? そろそろお昼ですし」
みくる「そうしましょう。あたしもお腹ペコペコです」
ハルヒ「そうね。どこかお店に行きましょうか」
キョン「決まりだな。何か食べたいものでもあるか?」
ハルヒ「そうねー。あ、あそこに焼き鳥屋さんがあるわ。あそこにしましょう」
キョン「おい」
~午後~
キョン「さて、昼食も食べ終わったし、次はどこに行くんだ?」
ハルヒ「次は池よ」
キョン「池?」
ハルヒ「ほらほら。さっさと向かうわよ」
キョン「待て待て待て! 池ってどういうことだ!?」
みくる「池……あ! あ~~……」
キョン「朝比奈さん、どうかしましたか?」
みくる「あの、池って映画撮影の時に行ったあの……?」
キョン「映画撮影……ああ思い出した。朝比奈さんが投げ込まれた……」
ハルヒ「うん。今からそこへ行くわ」
キョン「何かまた嫌な予感がするぞ」
~池~
ハルヒ「到着っと」
キョン「相変わらず汚い池だな……」
長門「……」
古泉「それで涼宮さん、ここへ来たということは……?」
ハルヒ「うん……みくるさん」
みくる「はい、何でしょう?」
ハルヒ「あの時はごめんなさい。こんな汚い池に投げ込んだりして……」
みくる「ううん、あの時は最終的には自分で飛び込むって決めたから」
ハルヒ「それでもです! ただのその場の思いつきであんなことさせちゃうなんて……」
みくる「いいんですよ。こうやって謝ってくれたんだから」
ハルヒ「本当にごめんなさい! あたしが馬鹿でした!」
ハルヒ「もちろんただ謝るだけで済ますつもりはありません。あたしも! この池に飛び込みます!」
みくる「ええええ!」
キョン「やっぱりな。そうなるだろうと思ったよ」
キョン「念のために言っておくか。ハルヒ、やめとけって」
ハルヒ「駄目よ! 絶対に飛び込むわ!」
キョン「やっぱり説得は無駄か。ちゃんとタオルとか持ってきたのか?」
ハルヒ「その辺の準備はバッチリよ!」
キョン「そうか。分かった。気をつけろよ」
みくる「キョンくん、本当にいいんですか?」
キョン「すぐに引き上げれば大丈夫でしょう…………ってハルヒ? 何だそれ?」
ハルヒ「これ? 手足に重りを付けてるのよ。ただ飛び込むだけじゃ足りないと思って」
キョン「おま! ストップストップ!?」
ハルヒ「第1のコース、涼宮ハルヒ! いきます!」ピョーン
ザボーン!! ゴボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボ…………
ハルヒ「死ぬかと思ったわ……」
キョン「ただの入水自殺じゃねえか! 何考えてるんだ馬鹿野郎!」
ハルヒ「あたしの力なら何とかなると思ったんだけど……予想以上に凄い速さで沈んでいったわ」
キョン「確かにお前は凄い力もってるけど! 己の力を過信するな!」
古泉「危うく神が神に召されるところでした……」
キョン「まったく。長門が飛び込んで助けなかったら危なかったぞ」
長門「……」
ハルヒ「ごめんね有希。助かったわ」
長門「いい」
みくる「涼宮さん、大丈夫ですか?」
ハルヒ「何か気持ち悪い……水中で変なモノ飲み込んじゃったみたい……」
キョン「変なモノ? 長門、何だか分かるか?」
長門「カエルを飲み込むところを見た」
キョン「魚だ! ただの魚だハルヒ! 気にするな!」
古泉「涼宮さんも長門さんもびしょ濡れですね」
長門「……」ビッショリ…
ハルヒ「有希、これに着替えて。あたしの服だけど」
キョン「お前の分は?」
ハルヒ「着替えは1人分しか持ってきてないのよ」
キョン「しかしそのままだと身体に悪いぞお前」
みくる「そうだ! 鶴屋さんに頼んでみます。ちょっと電話してみますね」
ハルヒ「ごめんね有希、あたしのせいで。本当にごめんね」
長門「気にしなくていい」
キョン「2度とこんなことするなよ。って言っても、今のお前だとまた何かやらかしそうだな」
みくる「お待たせしました。鶴屋さんのお家に来てもいいそうですよ」
キョン「よし。じゃあ移動するか」
~鶴屋邸~
鶴屋「やぁやぁいらっしゃいみんな! さ、どうぞどうぞ」
みくる「急にごめんね鶴屋さん、お邪魔します」
鶴屋「ハルにゃんと長門っちはこっち。シャワー浴びないとね」
ハルヒ「ごめんなさい。いきなり押しかけてきてごめんなさい」
長門「……」
鶴屋「いいっていいって! 後で着替え持っていくよ! キョンくん達はこっち!」
キョン「ありがとうございます鶴屋さん。助かります」
古泉「涼宮さんと長門さんが来るまで、しばし小休止ですね」
鶴屋「それで何があったんだい? 池に飛び込んだとは聞いたんだけど」
キョン「えーと、実はですね……」
鶴屋「へ~~、ハルにゃんの謝罪の旅か~」
キョン「別に旅してるわけじゃないんですけど」
鶴屋「でも反省して謝るのはいいことだと思うよ! ハルにゃんも成長してるのさ!」
キョン「それはいいんですけど、やり方が極端というか……」
ハルヒ「鶴屋さん……」
長門「……」
鶴屋「おっ、2人ともさっぱりしたかい?」
ハルヒ「はい。鶴屋さん、映画撮影の時にはいろいろ迷惑をかけてごめんなさい」
鶴屋「おやや? 特に迷惑だと思ったことはなかったけど? まあいいってことさ!」
ハルヒ「……」
キョン「どうしたハルヒ?」
ハルヒ「あたし、ここでもみくるさんにひどいことをしたのよね。こっそりお酒を飲ませたりして」
みくる「あ……」
ハルヒ「みくるさん、あの時は本当にごめんなさい!」
みくる「いいんですよ、正直酔っていたのと疲れていたのでよく覚えてないですし」
鶴屋「あれに関してはあたしも調子に乗りすぎたっさ。みくる、本当にごめんね」
みくる「鶴屋さんはあの時何度も謝ってくれたじゃないですか。もう気にしてないですよ」
キョン(それにしても、本当に朝比奈さんへの謝罪が多いな。どれだけ迷惑かけてたんだか)
ハルヒ「お詫びにコレを……」
キョン「はいストーーップ! 何だそれは!」
ハルヒ「ウォッカよ。これを一気飲みしてお詫びを……」
キョン「アホか! というかどこで手に入れたそれ!」
鶴屋「いやハルにゃん、さすがにそれは危ないよ」
ハルヒ「でも……こうしないと反省したことにならないし……」
鶴屋「飲むなら少しだけ! ちょびっとだけで我慢するにょろ!」
キョン「はあ、少しだけでも何か不安だ……」
ハルヒ「きゃははははは! うひゃひゃひゃひゃひゃ!」
古泉「ものの見事に酔っ払ってしまいましたね……」
キョン「言わんこっちゃない。どうするんだよこれ」
ハルヒ「うぐ……」
みくる「ど、どうしたんですか、涼宮さん?」
ハルヒ「気持ち悪い……吐きそう……」
鶴屋「あートイレはこっちっさ。あたしも付き添ってあげるから」
ハルヒ「ううううう……」フラフラ
キョン「まったく、アイツだって酒の怖さは分かってるだろうに」
ハルヒ「……」
キョン「お、おかえりハルヒ……って、どうした? 何か様子がおかしいぞ?」
ハルヒ「吐いたら口からカエルが出てきた……」
キョン「それは報告せんでいい……」
キョン「落ち着いたか?」
ハルヒ「うん。吐いたらだいぶスッキリしたし」
みくる「よかったぁ」
ハルヒ「……みくるさん、あたしまだ謝りたいことがあるの。1番謝りたいことが」
みくる「え?」
ハルヒ「あたし……ここで酔って弱ってるみくるさんに無理矢理演技をさせました」
ハルヒ「それもかなり理不尽な……頭を叩いたりもして……それに……それに……」
ハルヒ「あたし、みくるさんのことを『おもちゃ』呼ばわりしました。本当に最低なことをしました」
ハルヒ「みくるさん、すみませんでした……本当にごめんなさい……」
みくる「涼宮さん……」
ハルヒ「キョンも……キョンは真剣にあたしのことを怒ってくれたのに、あたしはただ反発するだけで結局謝りもしなかった」
キョン「ハルヒ……」
ハルヒ「ごめんなさい……ごめんなさい……」
みくる「……いいんですよ涼宮さん。涼宮さんは本当に反省して謝ってくれました。だから許してあげます」
~鶴屋邸 外~
キョン「もう夕方だな。今日はもう解散しないか?」
ハルヒ「そうね。みんな、今日はあたしの用事につき合わせて本当にごめんね」
古泉「いえいえ、SOS団の団員として当然ですよ」
キョン「明日は日曜日だが、何か予定あるのか?」
ハルヒ「あたしは明日も行く所があるの。いろいろとね」
キョン「む、だったら俺達も……」
ハルヒ「ううん、明日はいいわ。SOS団とは関係ない、あたしの個人的な理由で謝りにいくから」
キョン「しかし、目を離すと不安というかだな」
ハルヒ「大丈夫よ、もう」
キョン「頼むからもう今日みたいな無茶はしないでくれよ」
ハルヒ「分かってるわ! 今日はこれで解散! みんな明日はゆっくり休んでね! それじゃ!」ダッ
キョン「あっ、と。あっという間に行っちまいやがった」
キョン「はあ、大変だったな今日は」
みくる「皆さんお疲れ様でした」
キョン「ハルヒは本当に大丈夫か? やっぱり明日もついていった方が……」
古泉「機関の監視がついていますからご心配なく。余程のことがない限り大丈夫ですよ」
キョン「本当か? 任せていいんだな?」
古泉「ええ。涼宮さんがおっしゃったように、明日はゆっくり休んでください」
キョン「分かった。そうさせてもらう」
長門「……」
キョン「長門もお疲れさん。今日はハルヒを助けてくれてありがとな」
長門「いい」
鶴屋「おや、みんな帰るのかい?」
キョン「ええ、今日はありがとうございました」
鶴屋「気をつけて帰るっさー。また来てねー」
キョン(今日は無事に終わったか。ハルヒのあの状態はいつまで続くんだろうな)
~翌日 日曜日 キョン宅~
キョン「む~~」ゴロゴロ
キョン「お言葉に甘えて家でゴロゴロしてはいるが……」
キョン「やっぱりハルヒが気になるな」
キョン「アイツ今日はどこに行ってるんだ? また何かトラブル発生させたりしてないだろうな?」
キョン「……気になる」
キョン「このままじゃ気兼ねなくゴロゴロできん。電話して聞いてみるか」
キョン「さすがにハルヒ本人には掛けにくいな。ここはやっぱり」ピッ
古泉『おや、あなたからの電話とは珍しいですね』
キョン「んなことはどうでもいい。今日ハルヒはどうしてるんだ?」
古泉『やはり気になりますか?』
キョン「……まあな」
古泉「続きが気になりますか?」
キョン「当たり前だ」
古泉『涼宮さんは今日、東中時代の知り合い達に会いに行っています』
キョン「東中時代の知り合い?」
古泉『涼宮さんの元カレ達です』
キョン「元カレだぁ? って、そういえば……」
古泉『あなたも話は聞いているはずです。涼宮さんは中学時代、たくさんの男性から告白され』
キョン「その全てを断ることなく、全員と付き合ったんだよな。で、全部即効で別れたと。おいまさか」
古泉『そうです。涼宮さんは自分がフった男性全員に謝るつもりのようです』
キョン「はあ、また何と言っていいのやら……」
古泉『さすがに今日1日で全員の所へ行くのは難しそうですけどね』
キョン「それで、何かアクシデントは?」
古泉『今の所は何も。皆さん様々な反応を見せてくれていますが、大きなアクシデントは起こっていません』
キョン「そうか。分かった」
古泉『また夜に電話しますね。今日の結果報告を』
キョン「おう頼む。じゃあな」ピッ
キョン「まったく、アイツはどれだけの人に謝るつもりなんだ?」
これ、谷口にも行くんだよな
~その日の夜~
古泉『どうも』
キョン「おう。で、どうだった? 突然謝られた男どもの反応は?」
古泉『いろいろでしたよ。ただただポカンとしていた方、あまりのことに思わず逆に謝ってしまった方』
古泉『気持ち悪いと言って逃げていった方、涼宮さんを見ただけで悲鳴をあげて逃げていった方、等等』
キョン「そりゃいきなりハルヒが来ただけでも驚くのに、さらに謝ってくるもんなぁ」
キョン「ハルヒの本性を知っている者からしたら不気味だったろうな」
古泉『ただ、中には何を今さらと怒る方、罵詈雑言を浴びせる方もいました』
キョン「そっか……ハルヒはどうしてた?」
古泉『それでもひたすら頭を下げて謝っておられました』
キョン「本来ならそっとしとくべきだよな。今さら謝りに行く必要があったのか?」
古泉『あったのでしょう。涼宮さんにとっては』
キョン「それで、何か大きなアクシデントはあったのか?」
古泉『……ええ。実はですね』
~回想~
ハルヒ「せっかく告白してくれたのに、あたしのわがままであっさり別れて本当にごめんなさい!」
男「はぁ? いきなりそんなこと言われても訳分かんねーんだけど?」
ハルヒ「だから、あたしのせいで不快な思いをさせたと思って……」
男「うーん、お前ってそんなキャラじゃなかったろ。何だってんだよ」
ハルヒ「それは……その……」
男「……分かった、許してやる」
ハルヒ「ホントに!」
男「たーだし! ヤラせろ」
ハルヒ「え?」
男「許す代わりにお前とヤラせろって言ってんだよ。しばらく行った所にホテルあるからよ」
ハルヒ「それは……その……だめよ……」
男「いいから来いっつってんだよ! 俺に悪いと思ってんだろ!」
ハルヒ「待って! 待って!」
キョン「ハルヒが下手に出るのをいいことにそんなことしようとした奴がいたのか。とんだゲス野郎だな」
古泉『涼宮さんは謝っている人に対しては極端に下手に出るみたいで』
キョン「それでその後はどうなったんだよ?」
古泉『警官に扮した機関員が助けに入りました。みっちりとお灸をすえておきましたよ』
キョン「そうか。ところで古泉、閉鎖空間はどうなってるんだ?」
古泉『実はここ最近、1つも発生していないのですよ』
キョン「そうなのか? 最近のハルヒは随分不安定だと思うんだが」
古泉『以前にもありましたでしょう? しょんぼりしすぎて、かえって発生させていない状態のようです」
古泉『ただ、それもいつまで続くかは分かりません。いつその均衡が崩れてもおかしくない状況ですから』
キョン「そうか、今後も注意が必要だな。いろいろ報告ありがとよ」
古泉『いえいえ、それではこの辺で。おやすみなさい』プツッ
キョン「はあ、やっぱり面倒事を起こしてたか。目を離すとやっぱり不安だ」
キョン「明日からはまた学校か。今度は誰に謝るんだろうな?」
~翌日 月曜日 教室~
キョン「危ね、遅刻ギリギリだ」
国木田「おはようキョン」
キョン「おはよーさん。あれ? ハルヒはまだ来てないのか」
国木田「うん、そうみたい。珍しいね」
キョン「まったく。もうすぐHR始まるぞ」
キョン(まーたどっかで謝ってるのか? 謝るのはいいが、日常生活に支障が出るのはどうかと思うぞ)
岡部「よーし席に着け。HR始めるぞー」
キョン(結局来なかったな。ただの遅刻ならいいんだが……)
岡部「ん? 涼宮はいないのか? 特に連絡は受けていないぞ。またこの間みたいにズル休みか?」
キョン(もう何度目だ嫌な予感。頼むから早く来てくれよハルヒ……)
~1時限目終了 休憩時間~
キョン(まだ来ない……こりゃ電話して聞いてみたほうがいいな。心配だ)
国木田「キョン、どこか行くのかい?」
キョン「ああ、ちょっとな」スタスタ
キョン(誰もいない所……階段の踊り場あたりでいいか)
キョン「よし、ここなら誰にも見つからないな。電話電話っと」ピッ
キョン「早く出ろハルヒー……お、出た」
ハルヒ『もしもし。何よキョン?』
キョン「何よじゃないだろ、学校にも来ないで。お前今どこにいるんだよ?」
ハルヒ『空港よ』
キョン「はあ! 空港! 何でそんな所に?」
ハルヒ『ちょっとカナダまで行こうと思って』
キョン「カナダだとぉ! 何でそんなところに行こうとしてるんだよ!」
ハルヒ『朝倉涼子よ』
キョン「へ? あ、朝倉?」
ハルヒ『入学してからしばらく、あたしがまだ誰とも話そうとしなかった頃、朝倉だけは親身に何度も話しかけてきてくれた』
ハルヒ『それなのに、あたしったらただただうざいとしか思わなくてろくな態度を取っていなかったわ』
ハルヒ『あたしはそのことを謝りたいの。だからカナダまで行かなきゃ駄目なのよ!』
キョン「事情は分かったがいくらなんでも無茶苦茶だ! 直接行かなくても電話すればいいだろう!」
ハルヒ『だって番号知らないんだもの。先生達も誰も知らなかったし』
キョン(そりゃそうだよな。そもそも朝倉はカナダにもどこにもいないんだから)
キョン「か、カナダに行くって言ってもお前アイツの詳しい住所知らないだろ! どうやって捜すんだよ!」
ハルヒ『自力で捜し当ててみせるわよ』
キョン「出来るか! いや、お前ならやっちまいそうな気もするが! とにかく一旦帰って来い!」
ハルヒ『だめよ。あたしは行かなきゃ行けないの。じゃあね』プツッ
キョン「あ! アイツ切りやがった!」
マジキチだろ
キョン「くそっ! もう1回掛け直すか…………あーもう! アイツ出ねぇ!」
キョン「とにかくここでジッとしていてもしょうがない! 何とかしないと!」ダッ
古泉「おっと。ここにおられましたか」
キョン「うわっとぉ! って古泉か! 今ハルヒがだな!」
古泉「その様子ですと事情は知っているようですね。部室へ移動しましょう」
キョン「え? ああ、分かった」
~部室~
みくる「キョンくん!」
長門「……」
キョン「朝比奈さん! 長門も!」
古泉「これで全員揃いましたね。さて、困ったことになりました」
キョン「ああ、どうするんだ? このままだとアイツ本当にカナダまで行っちまうぞ」
>>75
日本語でおk
古泉「今のところは機関が飛行機の離陸を遅らせています。しかしそろそろ限界のようです」
キョン「それはハルヒの能力によるものか? 『何が何でもカナダに行きたい』と願っているからとか」
古泉「それもあるかもしれませんね。それも厄介なのですが、それ以上に厄介なことが……」
キョン「何だよ、それ以上に厄介なことって?」
長門「朝倉涼子の復活」
キョン「はい?」
長門「朝倉涼子が復活する可能性がある。涼宮ハルヒが『朝倉涼子に会いたい』と強く願うことによって」
キョン「マジか!? 嫌だー! ナイフはもう嫌だー!」
みくる「キョンくん落ち着いてぇ!」
古泉「そうならないためにも何か対策を立てないといけません。長門さん、何か案はありますか?」
長門「電話を掛ける」
キョン「今のアイツは誰の説得にも耳を貸しそうにないぞ。どうするんだよ?」
長門「こうする」ブツブツブツ……
キョン「ん? 今何をした……って、うわ! 何だこの声!?」
みくる「きょ、キョンくんの声が女の子の声に!?」
キョン「何だコレ何だコレ!? って、これまさか朝倉の声か?」
長門「そう」
古泉「これはまた何と言いますか」
キョン(朝倉)「俺の声を朝倉の声に変えたってことは、これで朝倉のフリをしろってことか?」
長門「そう。この携帯を使って」スッ
キョン(朝倉)「……分かった。何とかやってみる」
みくる「ふわー、キョンくんの声可愛いー……」
キョン(朝倉)「朝比奈さん……と、とにかく掛けるぞ」ピッ
ハルヒ『もしもし。誰よあんた?』
キョン(朝倉)「あ、ハルヒ。じゃない涼宮さん。俺、じゃなくてわたしよわたし。朝倉涼子よ」
ハルヒ『え!? あ、朝倉!? 本当に!』
キョン(朝倉)「本当だ。じゃない、本当よ」
ハルヒ『え? え? 何で? というか何であたしの番号知ってるの?』
キョン(朝倉)「あー、えーと、そう! 長門! じゃないや長門さんから聞いたの!」
ハルヒ『え? 有希から? そういえば同じマンションに住んでたんだっけ?』
キョン(朝倉)「え、ええ。今回の事情も長門さんから聞いたわ! わたしに話があるんだって?」
ハルヒ『あ! そうなの! あたしあなたに謝りたいことがあるの!』
キョン(朝倉)「謝りたいこと?」
ハルヒ『えっと、あたしがまだ誰とも打ち解けてない時期に、あなた何度も話しかけてくれたわよね』
ハルヒ『それなのにあたしったら、その好意を踏みにじるようにそっけない態度をとってたわ』
ハルヒ『だから……ごめんなさい。あの時は本当にごめんなさい』
キョン(朝倉)「あらあら。そんなこと気にしなくていいのに」
ハルヒ『ううん、あたしはどうしても謝らないといけなかったのよ』
キョン(朝倉)「分かったわ、許してあげる。気にしなくていいのよ」
ハルヒ『……やっぱり直接会って謝った方がいい?』
キョン(朝倉)「だーめ! あまりみんなに心配掛けちゃだめよ。早く帰ってあげなさい」
ハルヒ『……うん、分かった。それじゃあね』
キョン(朝倉)「はあ、何とかうまくいったな」
古泉「お疲れ様です。お見事でした」
みくる「キョンくんの声、やっぱり可愛いー……」
キョン(朝倉)「朝比奈さん……あ、長門。この声元に戻してくれるか?」
長門「無理。あなたの声は一生そのまま」
キョン(朝倉)「え”え”え”え”え”!!」
長門「……」ブツブツブツ…
キョン「嘘だろ長門! ってあれ? あーあーあー……元に戻った?」
長門「……」
キョン(……今のは長門なりのジョークだったのだろうか……?)
古泉「さて、これで涼宮さんは今頃学校に向かってきてくれているはずです」
古泉「とりあえず危機は回避しましたし、我々も授業に戻るとしましょう」
キョン「そういや2時限目さぼっちまったな。やれやれ」
>>77
日本語でおk
~昼休み~
谷口「よおキョン、2時限目は何でさぼったんだ?」
キョン「黙」
谷口「喋れよ!」
国木田「そういえば最近、涼宮さんどうしたんだろうね。今日も休みだし」
谷口「そうだよな。キョン、何かあったのかよ?」
キョン「あー、まー、それはだな……」
ガラッ
ハルヒ「……」
キョン「おっ、噂をすれば。やっと来たかハルヒ」
ハルヒ「おはよ」
キョン「おはよって時間じゃないだろ。まったくまた無茶をしてみんなに心配掛けやがって」
ハルヒ「うん……ごめんね」
谷口「……」
国木田「……」
キョン「ん? どうしたんだお前ら?」
谷口「い、今、涼宮がお前に謝ってなかったか……?」
キョン「あ、ああ」
ハルヒ「謝ったわよ。それがどうかしたの?」
谷口「どうかしたのって……え、ええええぇぇぇぇええええぇぇええ!!」
キョン「そこまで驚かんでも……まあ驚くよなぁ」
ハルヒ「……」
キョン「どうしたハルヒ? 早く席に着けよ」
ハルヒ「……ねぇ2人とも聞いて。あんた達に謝りたいことがあるの」
国木田「え? 僕達に?」
谷口「謝りたいこと……だと……?」
ハルヒ「あんた達2人には野球大会とか映画撮影とかいろいろSOS団の活動を手伝ってもらったのに」
ハルヒ「あたしは1度もまともにお礼も言ったことがなかった……」
ハルヒ「しかも、あたしはあんた達を人数合わせとしか見てなくて、適当な扱いしかしてこなかった」
ハルヒ「だから謝りたいの。2人とも、今まで本当にごめんなさい!」
谷口「……」ポカーン
国木田「……」ポカーン
キョン「おーい、2人とも戻ってこーい」
国木田「あっと、ごめんつい。えっと涼宮さん、僕は全然気にしてないよ」
国木田「SOS団の活動に参加するのは何だかんだで楽しかったからね。むしろお礼を言いたいくらいさ」
国木田「だからさ、今度また誘ってよ。是非とも喜んで参加するからさ」
ハルヒ「……うん」
国木田「ね、谷口もそうだろう?」
谷口「……」
キョン「谷口?」
谷口「お前……本当に涼宮か……?」
ハルヒ「……」
谷口「お前とは5年連続で同じクラスだからよ。何だかんだで付き合い長いんだが……」
谷口「お前は絶対『ごめんなさい』なんて口にするような奴じゃねえ。そんな性格じゃねえ」
谷口「本当に……お前涼宮か……」
キョン「谷口よ、信じられん気持ちは分かるが……」
キョン「ハルヒは…………本気だ」
谷口「……」
ハルヒ「……」
谷口「えーあー、何て言うかだな、まあ気にすんな! 俺も楽しかったからよ! いいってことよ!」
谷口「しかし本当に驚きだ! まさかお前に謝られる日が来るなんてよ! ははははは!」
キョン「だとさ、ハルヒ」
ハルヒ「うん。本当にごめんなさい」
ハルヒ「あと谷口、もう1つ謝りたいことが……」
谷口「へ? 何だ?」
ハルヒ「中学の時、あんたがあたしに告白してきて付き合うことになったわよね」
キョン「え?」
国木田「え?」
谷口「げっ!?」
ハルヒ「でも結局はわずか5分で別れた。ただのあたしの一方的なわがままで」
ハルヒ「せっかく告白してきてくれたのに、ごめんなさい!」
谷口「わーわー! 待て待て! ストップストップ!」
キョン「やっぱり中学時代に最短5分でハルヒにフラれた男って……」
国木田「君だったんだね、谷口……」
谷口「ああそうさ! 無様にフラれたのさ! でも気にしてないヨ! あははけうghどいsんふぃ!」
国木田「あ、壊れた」
キョン「お前な、おもいきり傷口に塩を塗りこむなよ……」
ハルヒ「え? え? ご、ごめんなさい!?」
~放課後 部室~
キョン「すまん。掃除が長引いちまってな……って、何してるんだみんな?」
みくる「あ、キョンくん」
古泉「どうも。あなたも手伝っていただけますか?」
長門「……」
キョン「何だ何だ? パソコンを全部持ち出して何しようってんだ?」
ハルヒ「コンピ研に返すのよ」
キョン「返す?」
ハルヒ「そう、これらは全部卑怯なやり方で巻き上げたモノだから……」
ハルヒ「だからきちんと謝罪をした上で、全て返すべきなのよ」
キョン「うーん、少しもったいない気もするが、そういうことなら」
ハルヒ「それじゃ手分けして運びましょ。キョンと古泉くんは団長机のデスクトップパソコンをお願い」
キョン「あいよ、了解」
ハルヒ「じゃあコンピ研のところに行くわよ」
~コンピ研 部室前~
キョン「あのー、すみませーん」
コンピ研部長「誰だい? って君達か。何の用だい?」
ハルヒ「あの、このパソコンなんですけど……」
コンピ研部長「んん? 何か君、口調がおかしくないかい?」
キョン「あーいや、そこには突っ込まないであげてください」
古泉「お宅からいただいたパソコンを返しに来ました」
コンピ研部長「はえ? パソコンを? どどどういうことだい?」
ハルヒ「このパソコン、脅迫と言う卑怯な手で強奪してしまい、本当にすみませんでした!」
ハルヒ「それにただパソコンを奪うだけでなく、精神的なダメージまで与えてしまいました」
ハルヒ「本当に本当にすみませんでした! パソコンはこの通り、全てお返しします!」
コンピ研部長「ええええええ!!」
キョン「……………………という訳でして」
コンピ研部長「そ、そういうことか。いきなり謝られたからビックリしたよ」
キョン「じゃあこのパソコン全部、中に運び込みますね。朝比奈さんと長門も」
みくる「あ、はぁい」
長門「……」
コンピ研部長「ふむ……」
古泉「すみません。このパソコンはどこに置けばよろしいでしょうか?」
コンピ研部長「あー……ちょっと待ってくれたまえ」
キョン「どうかしたんですか?」
コンピ研部長「そのデスクトップパソコン、それは返してもらおう。ひどい方法でとられたからね」
ハルヒ「ごめんなさい……」
コンピ研部長「だがその4台のノートパソコンは返す必要はないよ。それは君たちの物だ」
キョン「え?」
ハルヒ「え……な、何で?」
コンピ研部長「それは君達が僕達とのゲーム対決で勝利して勝ち取ったモノだからね」
コンピ研部長「それに、あの時は僕達の方がインチキをしてたわけだし。文句は言わないよ」
キョン(へえ、心が広いんだな。正直見直した)
ハルヒ「で、でもでもでも……」
コンピ研部長「いいんだよ。むしろうちは助かってるんだから」
キョン「助かってる?」
コンピ研部長「長門さんだよ! 彼女はどんな不具合もバグもシステムエラーも即座に直してくれるし」
コンピ研部長「さらにはメーカーも真っ青なオリジナル新型OSの開発までしてしまった!」
コンピ研部長「僕達にとっては毎日が驚きの連続だよ。まさに貴重な人材だ! 勉強になる!」
コンピ研部長「それに長門さんがいると華やかだからね。今やコンピ研のアイドルさ!」
キョン「あのー、すみません。少し落ち着いてくれますか?」
コンピ研部長「え? ああすまない。少し興奮してしまった」
コンピ研部長「今言ったように、長門さんが来るようになって、うちとしては大いに助かってるんだ」
こういうのもなかなか
コンピ研部長「ハッキリ言って、パソコン4台なんか目じゃないくらいの価値がある!」
コンピ研部長「だからパソコンは返さなくてもいい。むしろ長門さんに手伝って貰えるなら安いくらいだ」
キョン「だとさハルヒ」
ハルヒ「……分かりました。お言葉に甘えます」
コンピ研部長「うむ! ついでに長門さんが次期コンピ研の部長になってくれると助かるんだが……」
キョン「すみませんが、それは丁重にお断りさせていただきます」
コンピ研部長「やっぱり駄目かい……残念だ」
みくる「えと、それではこのパソコンは部室に持って帰りますね」
長門「……」
古泉「では、このデスクトップパソコンだけ、中に入れておきますね」
キョン「だな。ハルヒ、ちょっとそこどいてくれ。中に入れん」
ハルヒ「……」
キョン「ハルヒ?」
ハルヒ「あたし、まだ部長さんに謝らないといけないことがあるの」
コンピ研部長「え? まだ何かあったかい?」
ハルヒ「コンピ研の皆さんがSOS団にゲーム対決を申し込んできた時……」
コンピ研部長「ふむふむ」
ハルヒ「あたし、あなたの頭におもいきりドロップキックをぶちかましてしまいました……」
コンピ研部長「あ、あー……あったねぇそんなことも……」
キョン(部長氏が「勝負! 勝負!」と連呼してたら、真横からハルヒが飛んできたっけな)
ハルヒ「あの時は本当にすみませんでした。しかもあの後さらに話も聞かずに殴りかかろうとしたり」
コンピ研部長「ま、まあ、謝ってくれればそれでいいさ。は、はは……」
キョン(せっかく忘れてたのに思い出してしまったって顔だな)
ハルヒ「さあ」グッ
コンピ研部長「どうしたんだい? 急に中腰になったりして」
ハルヒ「あたしの頭におもいきりドロップキックをぶちかましてください!」
コンピ研部長「え、ええええ!?」
キョン「やっぱりこうなるのか……」
コンピ研部長「じょ、冗談じゃない! 女の子にそんなことできるわけないじゃないか!」
コンピ研部長と部員に謝罪
↓
簡単に許さん誠意見せろオラ
↓
りーんかん
と思ったオレのwktk返せ…
>>108
強引すぎるだろ常考
ハルヒ「遠慮しないでください! さぁさぁさぁさぁ!」
コンピ研部長「ひいいいい!!」バターン!
キョン「あ、ドア閉められちまった……」
ハルヒ「ちょっと! 開けて! 開けてくださーい!」ドンドン!
コンピ研部長『いい嫌だ! 今の君は怖い! もういいから帰ってくれ!』
キョン「あ、そういえばまだこのデスクトップパソコン、返してないですよ?」
コンピ研部長『それももういい! さっきも言ったが、長門さんで充分元は取れてるんだ!』
キョン「はあ、だとさハルヒ。もういい加減諦めろ。ドロップキックはきついっての」
ハルヒ「それだけじゃないの! まだ謝りたいことがあるの!」
キョン「まだあるんかい。お前どれだけコンピ研に迷惑かけてるんだ?」
ハルヒ「以前喜緑さんからの依頼で、部長さんのマンションに調査に行ったことがあるでしょ?」
ハルヒ「その時に部長さんの部屋に不法侵入したことを謝りたいのよ!」
キョン「あったな、そんなのも……」
ハルヒ「どうしても謝りたいのに……何とか入れないかしら? 窓から侵入するとか?」
キョン「不法侵入したことを謝りたいのに、不法侵入してどうすんだ」
キョン「諦めろハルヒ。これ以上は逆に迷惑になるぞ」
ハルヒ「う……せっかくお詫びの品も持ってきたのに……」
キョン「お詫びの品?」
ハルヒ「わらび餅よ。結構高いやつ。不法侵入した時に冷蔵庫にあったわらび餅食べちゃったから」
キョン「用意のいい奴だな」
ハルヒ「仕方ないわ。ではこれはみくるさんにあげます」
みくる「え? あたしにですか?」
ハルヒ「賞味期限が3日過ぎたわらび餅を、毒見として無理矢理食べさせたから……だからそのお詫びです」
みくる「あ、じゃあそれは皆さんで食べましょう。あたしお茶淹れますから」
キョン「そうですね。というかいい加減部室に戻ろう。パソコンも元に戻さないと」
ハルヒ「みんなはお茶を楽しんでて。あたしはまだ行く所があるから」
キョン「どこにだ?」
ハルヒ「先生達に謝りにいくのよ。いろいろ迷惑かけたから」
キョン「先生達に?」
ハルヒ「迷惑かけたのもそうだし、怒られても反発するだけだったから……」
ハルヒ「迷惑をかけた先生全員に謝ってくるわ。みんなは来なくていいわ。これはあたしの問題だから」
キョン「……大丈夫か? 激しく不安なんだが」
ハルヒ「大丈夫よ。じゃ行ってくるわね」ダッ
キョン「あ、おい! ってあっという間に行っちまった。本当に大丈夫か?」
古泉「大丈夫だと思いますが……」
キョン「……それで、機関の調査で何か新しく分かったことはあるのか?」
古泉「こちらではいまだに原因は分かっていません。長門さんはどうですか?」
長門「調査の結果、外部からの何らかの改変の痕跡は一切見つからなかった」
キョン「ということは、ハルヒ自身が能力で自分を変えたってことか?」
古泉「あるいは能力云々一切抜きで、今までの自分の行いを反省したと言う可能性もありますが」
キョン「それはないんじゃないか? ないと思う」
古泉「おや、ひどいですね」
みくる「皆さん、お茶が入りましたよ」
キョン「どうも。とりあえず一旦休憩にするか」
~夕方~
ハルヒ「ただいま……」
キョン「おかえり。随分遅かったな」
ハルヒ「1人1人に謝って周ってたら思ったよりもかかっちゃったわ。しかもまだ全員に謝ってないし」
みくる「涼宮さん、お疲れ様です」
ハルヒ「ありがとうございます、みくるさん。はぁ……」
キョン「どうした? 随分と元気ないな」
ハルヒ「ほとんどの先生は軽い注意で許してくれたんだけど、中には激しく説教してくる先生もいたから」
キョン(ハルヒに対する恨みが溜まってたのか……?)
ハルヒ「でも仕方ないわよ。あたしはそれだけのことをしたんだし……はぁ」
キョン(あのハルヒが叱られて落ち込むなんてな。以前はどんなに叱られても平然としてたのに)
ハルヒ「はああ……」ドヨーン…
キョン「重症だな。頼むから変な気は起こさないでくれよ」
ハルヒ「変な気って何よ?」
キョン「あ、いや、その、今の落ち込んだお前見てるとだな……その、自殺とか?」
ハルヒ「はぁ? そんなことするわけないでしょ!」
ハルヒ「いい? あたしはまだまだ謝らないといけないの! 死んでる暇なんてないわよ!」
ハルヒ「それに、自殺というのは逃げなのよ! あたしは絶対に逃げたりしないわ!」
キョン「あ、ああ、すまん。悪かったよ、変なこと言っちまって」
ハルヒ「もう。じゃあみんな帰りましょ。下校時刻過ぎちゃってるわ」
みくる「あ、は~い」
古泉「ふふ、あの様子なら大丈夫そうですね」
キョン「ああ。いかに性格が変わって弱っているとはいえ、やっぱりハルヒはハルヒか」
長門「まだハッキリとした原因は分からない。引き続き調査を進める」
キョン「ああ、頼むぞ」
キョン(まったく。ハルヒはいつまで謝り続けるんだろうな。全ての人に謝り終わるまでか?)
キョン(普段のハルヒにも手を焼くが、こんなハルヒも調子が狂っちまうな)
物語作り易いキャラクターが揃ってるって誰かが言ってた
~翌日 火曜日 教室~
キョン「お、今日はちゃんと来たな」
ハルヒ「おはよキョン」
キョン「しかし俺より遅いのは珍しいな」
ハルヒ「朝に野球部のみんなに謝りに行ったのよ。野球大会の練習の時に強引にグラウンド借りたから」
キョン「……何か迷惑かけなかったろうな?」
ハルヒ「かけてないわよ。ボール磨きとかグラウンド整備とか手伝ったわ」
キョン「ほう、それは偉いじゃないか」
ハルヒ「ユニフォーム洗濯するために脱がせようとしたら、みんな逃げちゃったけど」
キョン「おい」
~昼休み 部室~
キョン「よう、長門。たまには部室で昼飯食おうと思ってな。いいか?」
長門「構わない」
キョン「よっこらしょっと。ハルヒの奴は休み時間のたびにすぐにいなくなりやがる」
キョン「少しでも時間があれば謝りに行ってる。謝りに行った先で騒ぎを起こさなければいいんだが」
長門「そう」
キョン「そういえばお前、今日は珍しく本を読んでないんだな」
長門「涼宮ハルヒが変化した原因に関するデータを解析中」
キョン「そうなのか。それで、何か進展あったか?」
長門「涼宮ハルヒが自分自身に何かしらの改変を行ったことは確実」
キョン「やっぱりそうなのか。しかし、何でハルヒは自分をあんなふうに変えたんだ?」
長門「分からない」
キョン「動機はいまだ不明、か。いくらなんでも1日であんなに変わるのはおかしいからな。何かあったと思うんだが」
長門「それを今調べている」
キョン「そうか……すまんな長門。お前に頼りっぱなしで」
長門「いい」
キョン「……」
長門「……」
キョン「……なあ長門」
長門「何?」
キョン「その解析とやら、大変か?」
長門「……そうでもない」
キョン「そうか……」
長門「そう」
キョン「……」
長門「……」
キョン「……そろそろ昼休みが終わるな。俺、教室戻るから」
長門「そう」
キョン「じゃあ、な。お前も遅れないようにな」
~放課後 部室~
みくる「ええ! 涼宮さんがバイトですか!」
キョン「何でも今日と明日の2日、放課後にバイトをするそうです」
キョン「俺に返す金とか、他にももろもろ。以前バイトしてでも返すと言ってましたからね」
キョン「俺に説明し終わるや否や、さっさと飛び出していってしまいました」
みくる「それで、何のバイトをするんですか?」
キョン「朝比奈さんも覚えてるでしょう? 着ぐるみを着てのスーパーでの風船配りです」
みくる「風船配りって、以前夏休みにあたし達がやったバイト、ですか?」
キョン「そうです。あの時は俺達だけが働いて、ハルヒはのんびり涼しい所でアイス食ってましたからね」
キョン「その贖罪のためにこのバイトを選んだと言ってました」
古泉「ちなみに、このバイトが終わった後、もっと別のバイトを見つけてお金を稼ぐみたいですね」
古泉「今回のバイトだけでは足りないみたいで。今回のバイトは僕達に対する贖罪がメインみたいです」
キョン「……そのことを知ってるってことは、お前も噛んでるんだな?」
古泉「ええ。僕はもっと楽に稼げるバイトを紹介したのですが、どうしてもこのバイトをと仰られましたので」
キョン「そうか」
みくる「涼宮さん……」
キョン「……」
古泉「気になりますか?」
キョン「そりゃ気になるだろう。アイツ、また変なことしてなけりゃいいんだが」
みくる「じゃ、じゃあみんなで見に行きましょう! あたしも心配ですし」
古泉「そうですね。今日は結構な暑さですしね」
キョン「決まりだ、行くか。長門、準備しろ」
長門「分かった」
キョン「さて、我らが団長様はどんな感じで働いてるんだろうな?」
~スーパー~
キョン「ここだな。さて、ハルヒはどこだ?」
古泉「あのカエルの着ぐるみを着た方が恐らく涼宮さんかと」
カエル「ふ、風船どうぞ……あ、どうぞ……」
みくる「涼宮さん、何だかフラフラしてますね……」
キョン「この暑さですからね。そりゃあきついでしょう」
カエル「ちょ、蹴らないで……風船全部持っていかないで……」
キョン(思い出すな。あの真夏日のバイトのことを……)
キョン(俺達が苦労してるってのに、アイツ1人だけノンビリしてやがったんだよな……」
カエル「はぁ……はぁ……う…………ぜぇ……ぜぇ……」
キョン(……くそ、少しだけ自業自得だとか思っちまった)
カエル「え? 終わりですか? お、お疲れ様でした……」
みくる「あ、終わったみたいですね」
古泉「では、行きますか」
ハルヒ「ぷはっ! この着ぐるみの頭、あっつい……」
キョン「よう、ハルヒ」
ハルヒ「キョン!? みんなも!? え? 何で!」
キョン「何で、はないだろ。みんなお前を心配して見に来たんだ」
みくる「そうですよ涼宮さん」
古泉「今日はお疲れ様でした」
長門「……」
ハルヒ「みんな……ごめんね、わざわざ来てくれて」
キョン「しっかしこの着ぐるみ、相変わらず暑そうだな」
みくる「はい涼宮さん、お水です」
ハルヒ「あ、ありがとうございます」
キョン「早く着ぐるみ脱いで着替えて来いよ。見てるほうも暑い」
ハルヒ「そうね。ちょっと着替えて……あ、あれ……?」フラフラ
キョン「おっとっと! 気をつけろよ。何かフラフラしてるぞ」
ハルヒ「ご、ごめん……」
キョン「……お前、まさかまた罪滅ぼしのためとかで重りとか付けてるんじゃないだろうな?」
ハルヒ「そんなモノ付けてないわよ」
キョン「そうか、ならいいんだが」
ハルヒ「身体中にホッカイロ貼り付けてるだけで……」
キョン「何だホッカイロかこのスーパー馬鹿!!」
キョン「剥がせ! 今すぐホッカイロ全部剥がせ!」グイグイ
ハルヒ「ちょちょちょっとキョン! どこ触ってるのよ!」
キョン「ああもう! 朝比奈さん! 長門!」
みくる「は、はい! 涼宮さん、剥がしますよ! 着ぐるみも脱いでください!」
長門「……」グイグイ
ハルヒ「ゆ、有希!? 脱がすのは着ぐるみだけでいいのよ!?」
古泉「僕はお店で氷を貰ってきますね」ダッ
キョン「後は涼しい所に移動させて……何か扇ぐものも……」
みくる「あつっ! 涼宮さん、身体が熱いです!?」
長門「水分補給が必要。飲んで」
ハルヒ「ごぼぼぼぼ……」
キョン「よくこんな状態でバイトやり遂げたな。って感心してる場合じゃないな。まったくこの馬鹿は」
キョン「どうだハルヒ、大丈夫か?」
ハルヒ「少しボーとするけど、もう平気よ」
キョン「……長門、どうだ?」
長門「容態は安定している。もう動いても大丈夫」
キョン「そうか。頑丈な奴だなお前は」
ハルヒ「当然よ!」
古泉「この調子なら本当に大丈夫そうですね。安心しました」
キョン「……で、何でこんなことした?」
ハルヒ「だって……あたし、みんなが必死に働いている時、自分だけ涼しい所でノンビリしてたから……」
ハルヒ「みんなの苦労を……苦しみを……あたしも味わうべきだと思ったのよ」
キョン「いい加減にしろ! 何度も言ってるだろう! そこまでする必要はないって!」
キョン「何度同じこと繰り返せば気が済む! そうやって無茶するたびに俺達に心配を掛けて……!」
ハルヒ「ご、ごめんなさい……ごめんなさい……」
キョン「ハルヒ、もう2度とこんな無茶はするな。絶対だ! 明日のバイトは普通にやれ。分かったな!」
ハルヒ「うん……ごめんなさい……本当にごめんなさい……」
キョン「はぁ、少し言い過ぎたか?」
古泉「……いえ、我々も同じ気持ちでしたから」
みくる「涼宮さん、あれで本当に無茶をやめてくれればいいんですけど」
古泉「おっと」ピッ
キョン「どうした?」
古泉「機関からです。どうやら久々に閉鎖空間が発生したみたいです」
キョン「……やっぱりさっきのあれが原因か?」
古泉「いえ、ここ数日はいつ閉鎖空間が発生してもおかしくない状態でしたので」
古泉「それがたまたま今のタイミングで発生しただけですよ」
キョン「そうか」
古泉「では、僕はこれで。行って来ます」
キョン「な、なあ古泉」
古泉「何でしょうか?」
キョン「やっぱり閉鎖空間の処理……というか神人退治って……大変か?」
古泉「あなたが僕にそのようなことを聞いてくるとは珍しいですね」
キョン「……」
古泉「……そうですね。大変じゃないと言えばもちろん嘘になりますが」
古泉「これが……僕の使命ですから」
キョン「使命……か」
古泉「おっと、迎えが来たようです。では、僕はこれで」タッ
みくる「あたし達も帰ります。キョンくん、じゃあね」
長門「……」
キョン「ええ、また明日。長門も気をつけてな」
キョン「……」
キョン「なーんで俺は古泉にあんなことを聞いちまったんだ? 何かハルヒに影響されたか?」
キョン「にしてもハルヒにはきつく言い過ぎたか? 俺だって人に偉そうに言える立場じゃないだろうに」
キョン「……人に偉そうに言える立場じゃない……か」
~夜 キョン宅~
(キョン「その解析とやら、大変か?」)
(長門「……そうでもない」)
キョン「……」
(キョン「やっぱり閉鎖空間の処理……というか神人退治って……大変か?」)
(古泉「……そうですね。大変じゃないと言えばもちろん嘘になりますが」)
(古泉「これが……僕の使命ですから」)
キョン「……くそ、あいつらの言葉が頭から離れん」
キョン「長門、古泉、そして朝比奈さんも……みんないつもハルヒ絡みの事件を解決するために裏で苦労している」
キョン「分かってたつもりだったが……何で今になってこんなに考えちまうんだ……」
キョン「これもハルヒの影響か……?」
キョン「あ~~~~」ゴロゴロゴロゴロ…
キョン「眠れん……」
~翌日 水曜日 学校~
キョン(結局ほとんど眠れなかった……)
ハルヒ「3時限目終わったわね! ちょっと行ってくる!」ダッ
キョン(ハルヒは相変わらず休み時間のたびにどこかへ謝りに行ってるな)
キョン(どうやら昨日のダメージは引きずってないようだ。これで無茶もやめてくれればいいが)
キョン(……)
キョン(ハルヒはああやって自分のしてきたことを反省して、いろんな人に謝って周っている)
キョン(そんなハルヒに俺は随分と偉そうなことを言ってきたが……)
キョン(俺自身はどうなんだ? 俺は誰にも迷惑をかけずに生きてきたか?)
キョン(そんなわけないだろう。知らず知らずのうちに周りの人に不快な思いをさせてきたかもしれない)
キョン(長門、朝比奈さん、古泉……この3人には謝らないといけないことがある)
キョン(いや、この3人以外にももっと……)
キョン(ハルヒだけじゃない。俺だって反省しないと。1度自分がやってきたことを振り返ってみるか)
キョン(今までこんなこと考えたこともなかった。きっかけをくれたハルヒには感謝しないとな)
~昼休み~
谷口「ようキョン、一緒に飯食おうぜ」
キョン「ああ、おう」
国木田「涼宮さんは?」
キョン「生徒会長のところに謝りに行ってるよ」
谷口「まーだあいつ謝罪行脚続けてるのか。にしてもアイツにいきなり謝られた時には驚いたぜ」
国木田「そうだね。本当に何があったんだろう? キョンは何か知ってるの?」
キョン「……」
国木田「キョン?」
キョン「え? あ、ああ、何だ?」
谷口「おいおい、何をボーッとしてるんだ。涼宮のせいでお前までおかしくなったのか?」
キョン「まあ、そうだな……なあ2人とも」
国木田「何だいキョン?」
キョン「その、何と言うか…………すまん」
谷口「はあ? 何をいきなり謝ってるんだ?」
国木田「すまんって……キョン、僕達に何かしたっけ?」
キョン「今回のハルヒの件があって、俺もいろいろ考えたんだよ」
キョン「俺も謝らなければいけない人達がたくさんいる、ハルヒのおかげで気づけたんだよ」
谷口「……で、それが何で俺達に謝ることになるんだ?」
谷口「涼宮からは散々被害を受けてるが、お前に何かされた覚えはないぞ?」
キョン「俺もハルヒと同じだよ。お前ら2人をただの人数合わせとしか見てなかった」
キョン「そんな考えだから、お前らに対する扱いもいつもいつも適当だった」
国木田「そうかなぁ? そんなことないと思うんだけど」
キョン「それに……」
谷口「何だ? まだあるのか?」
キョン「映画撮影の時、俺は心の中でお前ら2人のことを『ザコ』と見下してたんだ……」
谷口「……」
国木田「……」
キョン「友達に対して『ザコ』扱いだぞ……本当にひどかったと思う。だから、すまん!!」
谷口「う~~~ん……」
国木田「はは、ザコ扱いはひどいなぁ」
キョン「すまん……」
国木田「でもさ、涼宮さんの時も言ったけど、何だかんだで楽しかったからね」
国木田「それに、キョンはちゃんと正直に謝ってくれた。別に言わなければ分からなかったのに」
国木田「だからいいよ。僕は全然気にしていないよ。谷口もそうだろ?」
谷口「む、まあな。お前に誘われたおかげで朝比奈さんや鶴屋さんとお近づきになれたし」
谷口「それによ、お前が気にする必要はまったくない。なぜなら……」
国木田「なぜなら……?」
谷口「俺も密かにお前のこと見下してたからよ!!」
キョン「こんの野郎!」
国木田「あはは」
~放課後 部室~
キョン(他にも謝るべき人は結構いるよな。新川さんに敬語使わなかったり、生徒会長にタメ口聞いたり)
キョン(しかし、まずはSOS団のみんなだな。最初は……)
みくる「あれ? キョンくん、パソコン使うんですか?」
キョン「え、ええ。ちょっとやることがありまして……」
キョン(今部室には俺と朝比奈さんしかいない。好都合だ)
みくる「涼宮さん、今日もバイトなんですよね?」
キョン「ええ、昨日あれだけ言いましたから、もう無茶なことはしてないと思うんですけど」
みくる「そうですね。あ、今お茶を淹れますね」
キョン(俺は朝比奈さんに謝らなければいけないことがある……それは……)カチカチ
キョン(この、mikuruフォルダ……)
キョン(この朝比奈さんの恥ずかしい写真を消さずに残していたことを謝らないと)
みくる「キョンくん、どうかしたんですか? 何だか難しい顔してるけど」
キョン「あ、い、いいえ、何でもないです!」
キョン(確かに俺のやったことは悪いことだ。しかし……しかし!)
キョン(果たしてこのまま正直に打ち明けるべきなのか……?)
キョン(打ち明ければ朝比奈さんは間違いなくショックを受ける……)
キョン(そりゃそうだ。とっくに消されたと思ってた自分の恥ずかしい写真が、実はまだ残ってたんだから)
キョン(それもただ単に俺の個人的な理由で……やはりこれは、むしろ知らない方がいいんじゃないか?)
キョン(打ち明けずにフォルダだけ消してしまえば、朝比奈さんはショックを受けずにすむ……)
キョン(わざわざ余計なショックを与えずに、俺の心の中だけにしまっておくべきじゃないのか?)
キョン(そもそも、ここで『謝る』という行為は本当に朝比奈さんに対する反省なのか……?)
キョン(ただ単に「俺はちゃんと謝った」ってことで自己満足したいだけじゃないのか……?)
キョン(そうだよな……世の中知らない方がいいこともある……ここはやはり黙って……)
キョン(いやいやいやいやいや!! 何を考えてるんだよ俺は!!)
キョン(何が黙ってた方がいいだ! それは単に逃げてるだけじゃねえか!)
キョン(くそっ! さっきからグダグダと! 自分の都合のいいように考えてるんじゃねえよ!)
みくる「あの、キョンくん? さっきから頭を抱えてるけど大丈夫ですか?」
キョン(悪いことをしたから謝る! それだけのことじゃねえか! よし、謝ろう!)
みくる「キョンくんってばぁ」
キョン(打ち明けたら、俺は確実に嫌われるだろうな。それは自業自得だ、仕方ない)
キョン(しかし、これが原因で俺と朝比奈さんだけでなく、SOS団全体までギクシャクするようになったら……)
キョン(ああああもう!! 謝るって難しい!!)
みくる「もう! キョンくん!」
キョン「はーい!! あ、え? 何でしょう?」
みくる「どうしたんです? 随分悩んでるみたいですけど?」
キョン(どうする……? ええい! いけ!!)
キョン「あ、朝比奈さん!」
みくる「ひゃ! えと、何ですか?」
キョン「俺、朝比奈さんに謝らないといけないことがあります」
みくる「え? 謝らないといけないことって……キョンくんがあたしに、ですか?」
キョン「そうです」
みくる「な、何でしょう……?」
キョン「……これです」カチッ
みくる「あ、それってmikuruフォルダですか? 以前見つけて気になってたけど、すっかり忘れてました」
みくる「でも、それがキョンくんの謝りたいこと……?」
キョン「中身は……これなんです」カチカチッ
みくる「あ! これって……以前涼宮さんが撮った……?」
キョン「そうです……消すのが惜しくてこっそり保存してました」
みくる「何で……キョンくんが……」
キョン「すみませんでした! 本当にすみませんでした!」
みくる「…………」
キョン「…………」
キョン(沈黙が……重い……)
キョン「あ、あの……」
みくる「……」スタスタ
キョン「え……?」
みくる「……」コポコポ
キョン「朝比奈さん……?」
みくる「はいキョンくん、お茶が入りましたよ。飲んでください」
キョン「え? えっと、え?」
みくる「飲んでください」
キョン「は、はい! 分かりました!? 飲みます!」
キョン「紫色のお茶……? どんな味が? ズズッ…………はぶしゅ!!」ブバッ!!
キョン「ぐええ! く、口! 口の中が爆発した!?」
みくる「うーん、ちょっと変わったお茶を買ってみたんですけど、やっぱり駄目だったみたいですね」
キョン「えっと、朝比奈さん? これはいったい……?」
みくる「うふふ。キョンくんは正直に謝ってくれましたし、これで許してあげます」
キョン「え……?」
キョン「ほ、本当ですか……」
みくる「確かにちょっとショックでした。でも、そこまで嫌でもないんです。何でかな?」
キョン(散々ハルヒの被害を受けたせいで、変な耐性がついちゃったのか……)
みくる「それに……あたしの方がキョンくんには随分と迷惑をかけていますから……」
みくる「だから……あたしの方こそごめんなさい、キョンくん」
キョン「そんな! 俺は1度だって迷惑だなんて思ったことはないですよ!」
みくる「ありがとうキョンくん。あ、画像は消しておいてくださいね。やっぱり恥ずかしいし」
キョン「はい、勿論です。今すぐに消します」
キョン(よかった……本当によかった……)
キョン(……しかしこれ、本来なら100%嫌悪されるケースだよな)
キョン(天使のような朝比奈さんだからこそ許してくれたんだ。感謝して、本当に反省しないとな)
キョン「これでよし。全部消しましたよ」
みくる「はい、確かに確認しました」
キョン「朝比奈さん、本当に本当にすみませんでした」
古泉「どうも、こんにちは」
長門「……」
みくる「古泉くん、長門さん、こんにちは」
キョン「よう古泉。昨日の閉鎖空間はどうだったんだ?」
古泉「規模はそんなに大きくはありませんでしたので、すぐに処理できました」
古泉「もっともこれを皮切りに、閉鎖空間の発生が増えることはほぼ確実なようですが」
キョン「そう、か……やっぱり超能力者って大変なんだな」
キョン「はあ、何で俺は今まで……」
古泉「……どうかされたのですか? そういえば昨日も少し様子が変でしたが、何かあったのですか?」
キョン「ハルヒがああやって謝ってまわる姿を見て、俺もいろいろと考えたんだよ」
古泉「……」
キョン「……古泉、それから長門。俺はお前らに謝りたいことがある」
長門「……?」
古泉「謝りたいこと、ですか?」
キョン「ああ。聞いてほしい」
キョン「古泉、俺は今までお前に対してろくな態度をとっていなかったと思ってな」
古泉「そうですか? そんなことはないと思うのですが」
キョン「いや、俺はお前を最初、すかした態度のいけ好かない奴、気持ち悪い奴だと思ってたんだ」
キョン「それにお前は顔がいいから、さぞ女にモテるんだろうなという僻みもあったのかもしれん」
古泉「……」
キョン「もちろん1年以上も一緒に過ごしてきて、そんな考えもだいぶ変わったさ」
キョン「……ただ、やっぱり心のどこかでそんな気持ちが残ってたんだろうな」
キョン「俺はお前に対して、気を使うということを一切してこなかった……」
キョン「ハルヒのご機嫌取りや閉鎖空間での仕事が忙しいお前に対し、『俺は関係ない』とばかりに冷たい対応しかしてこなかった」
キョン「今考えれば、本当に申し訳ないことをしてきたと思う。だから……すまん!」
古泉「……」
キョン「……」
古泉「……」
キョン「……何でそんな驚愕の表情をしているんだよ」
古泉「あ、いえ、すみません。少し驚いてしまいまして。まさかあなたがそのようなことを言うとは」
キョン「そうか。やっぱり俺はそういう奴だと思われてたんだな。そりゃそうだよな……」
古泉「すみません、そんなつもりではなかったのですが」
キョン「いいんだ。俺が悪かったんだよ……」
古泉「いじけないでくださいよ。ですが、そうですね……」
古泉「あなたは何も悪くありませんし、謝る必要もありません」
古泉「むしろ……謝りたいのは僕の方ですよ」
キョン「どういうことだ……?」
古泉「あなたは涼宮さんに選ばれたとはいえ、本来はただの一般人です。ごくごく平穏な人生を歩めるはずだった」
古泉「それが何度も命の危機に直面したり、世界のために奔走したり……」
古泉「そんな涼宮さん絡みの危険な世界にあなたを巻き込んでしまった。そのことは本当に申し訳ないと思っています」
キョン「……別に俺を巻き込んだのはお前ではないだろう」
キョン「それに、元は一般人なのに巻き込まれたという意味では、お前だってそうだろう?」
キョン「それも俺よりもずっと過酷な……」
古泉「……」
キョン「長門」
長門「……何?」
キョン「お前にも謝りたい。本当にすまなかった」
長門「……」
キョン「お前にはずっと助けられっぱなしだ。それなのに、俺はお前のストレスに気づいてやれなかった」
キョン「あの冬の事件の時、俺は誓った。お前にできるだけ負担をかけないようにしようと」
キョン「しかし、結局は今でも俺はお前に頼りっぱなしだ……」
キョン「おそらく、心のどこかで『いざとなれば長門がいる』という甘い考えを持っていたんだろうな」
長門「気にしなくていい」
キョン「いや! 俺はもっとお前の力になりたい。お前の負担を減らしてやりたい!」
キョン「長門、古泉、朝比奈さん。みんな聞いてほしい」
キョン「俺は今までずっと受け身だった。傍観者だった」
キョン「ハルヒの起こした面倒ごとを解決するために奔走したこともあったが……」
キョン「それも全て『巻き込まれた』と思ってた。自分をずっと『被害者』だと思い込んできた」
キョン「あの冬の事件の時、俺は変わろうと思った。傍観者でいるのはやめようと思った」
キョン「しかしそう決心したものの、結局は変われていなかったんだろうな……」
キョン「あの冬以降の事件にしたって、俺がもっと気を配っていれば防げたものもあったかもしれない」
キョン「だから……これからは、俺は全力を尽くす!」
キョン「事件が起きないように。事件が起こってしまってからも。俺は被害者面せずに全力を尽くす!」
キョン「みんなの負担を減らすためにも。そして、ハルヒのためにも……」
長門「……」
古泉「……」
みくる「……キョンくん」
古泉「我々は立場上、どうしても涼宮さんに強く出ることはできません」
古泉「ですから普段の涼宮さんの対策については、むしろ我々の方があなたに依存してきました」
古泉「そのことに我々は感謝していますし、謝罪をしたいとも思っています」
みくる「……いざと言う時の決断はキョンくんにばかり任せてきましたもんね」
古泉「あなたばかりが負い目を感じる必要はないんです。ですから少し、肩の力を抜きませんか?」
キョン「いいや! 頑張る!」
古泉「ふふ、分かりました」
みくる「あ、あたしだって! あたしだって頑張ります!」
古泉「頑張ることは素晴らしいのですが、あまり気負いすぎないようにしてくださいよ。ねえ長門さん?」
長門「わたしの中に湧き上がってくるもの……これは……何……?」
長門「うまく言語化できない。しかし…………決して悪いものではない」
古泉「さて、こうして絆が深まったことですし……」
キョン「ああ、肝心のハルヒが今どうしてるのかが気になるな」
みくる「昨日あれだけキョンくんに言われましたから、無茶はしていないと思うんですけど」
キョン「それでも気になるものは気になりますし、今日も行くとしますか」
古泉「そうですね。では準備しましょう」
長門「……」
キョン「しかし……」
古泉「どうかしましたか?」
キョン「俺たちの結束がこうして高まったのはいいが、やっぱり俺たちの中心にはハルヒがいないとな」
キョン「毎回事件が起きるたび、アイツだけが蚊帳の外だからなぁ」
古泉「それは仕方がないです。涼宮さんが世界を改変する能力を持っている以上は……」
キョン「まあ、それは分かってるんだが……何だか仲間外れにしてる気分だ」
古泉「ですから事件以外の時は、それを忘れるくらい我々5人で思い切り楽しめばいいんですよ」
みくる「そうですよ。5人揃ってこそのSOS団なんですから」
キョン「……そうですよね。今回の件が解決したら、また5人で遊びに行くとしますか」
眠気が限界
もう寝る
続きは昼ごろから
おやすみ
おはよう
保守してくれた人、本当にありがとう
続きから再開
~スーパー~
キョン「あれ? ハルヒがいないぞ」
みくる「どこに行ったんでしょうか?」
古泉「あそこに店長さんがいます。聞いてみましょう」
キョン「あの、すみません!」
店長「おや? 君達は確か涼宮さんの」
キョン「そのハルヒはどこにいるんでしょうか? 様子を見に来たんですけど」
店長「ああ、涼宮さんならここにはもういないよ」
キョン「え! どういうことですか! 何かやらかしてクビになったんですか!?」
店長「違うよ。今日は涼宮さん、昨日よりも調子が良くてね。思ったよりも早く風船がなくなったんだ」
店長「それで早めにバイト終了ということにしたんだ。あの子は本当によく頑張ってくれたよ」
キョン「そ、それでハルヒは家に帰ったんですか?」
店長「いや、何か行く所があるとか言ってたよ。バイト代貰うとすぐに走って行っちゃったよ」
キョン「そうですか……ありがとうございました」
みくる「涼宮さん、どこに行ったんでしょう?」
キョン「古泉、機関の監視はどうなってるんだ?」
古泉「今聞いています。しかし、電話がなかなか繋がらなくてですね……」
長門「……」
キョン「電話か。あ、そうか。電話すればいいんだ」ゴソゴソ
ヒーーヒッヒッヒ!! ヒーーヒッヒッヒッヒーー!!!!
みくる「ひゃ! 何ですか今の!?」
キョン「っと、電話だ。ん? ハルヒから? いいタイミングだな」ピッ
キョン「おいハルヒ、お前今どこにいるんだ? みんな捜してるんだぞ」
ハルヒ『キョン……』
キョン「どうした? 何かあったのか?」
ハルヒ『あたし死ぬわ』
キョン「はあ!?」
キョン「おいこら! どういうことだ!」
ハルヒ『あたしは死ぬべきなの……ごめんなさい……』
キョン「何言ってるんだ! 一体何があったんだハルヒ!」
ハルヒ『もう迷惑はかけないから……今までごめんなさい……』
キョン「こっちの話を聞けって! そもそもお前、昨日自殺は絶対しないって言ってたじゃないか!」
ハルヒ『甘かったです。ごめんなさい』
キョン「そんな簡単にすますな!」
ハルヒ『おもしろき こともなき世が いとおかし』
キョン「辞世の句を読むな! しかも少しおかしいし!」
ハルヒ『もう切るわ。さようならキョン』ピッ
キョン「あ! おい! もしもし! くそっ、どうなってるんだ!」
みくる「きょ、きょ、キョンくん! あの、今、自殺がどうのって……」
古泉「どうやら深刻な事態になったようですね」
キョン「……古泉、機関と連絡はとれたのか?」
古泉「ええ。たった今、ようやく」
キョン「ハルヒの居場所は?」
古泉「現在は駅前にいるそうです。ですが……」
キョン「ですが? 何だ?」
古泉「どうしても涼宮さんのいる所へ近づけないそうです。恐らく自殺を邪魔されたくないと思っているからだと」
キョン「何でハルヒはわざわざ俺に電話してきた?」
古泉「心のどこかでは自殺を止めてほしいと思っているのでしょう」
古泉「おそらく、今の涼宮さんに近づくことができるのは……」
キョン「……ええいクソ!!」ダダッ!
みくる「きょ、キョンくん!?」
キョン「ハルヒの所へ行きます! 自転車をぶっ飛ばせばまだ間に合う!」ガチャガチャ
キョン「よし! 待ってろよハルヒ!」
~駅前~
ハルヒ「さて……と。別れは言ったし、死ぬ準備をしないと」
ハルヒ「どうやって死のうかな……あんまり人に迷惑がかかる死に方は駄目よね」
ハルヒ「飛び込み自殺は論外ね。たくさんの人に迷惑をかけてしまうわ」
ハルヒ「人目につくところは避けた方がいいわね。誰もいない所でひっそりと……」
ハルヒ「なるべく身体に傷がつかないほうがいいかな。焼身自殺も入水自殺もやめとこう」
ハルヒ「やっぱり首吊りかしら? ベタだけどそれが1番ね」
ハルヒ「よし決定。あとは場所だけど……樹海ってここから遠いかしら?」
ハルヒ「ひょっとしたらキョン達が来ちゃうかもしれないから、なるべく早く移動しないと」
ダイスーキナヒトガトーオイー♪ トオスギテナキタクナルノー♪
ハルヒ「……誰よ、こんな時に」ピッ
キョン『くおらっ! ハルヒ!!』
ハルヒ「ひゃ! って、キョ、キョン!?」
キョン『今そっちへ向かってるからな! そこを動くな!』
ハルヒ「む、向かってるって……いいわよ来なくて! あたしは一人でひっそりと死にたいの」
キョン『それをさせないために急いでるんだろうが! いいから俺が着くまで待ってろ!』
ハルヒ「何よもう! あたしみたいなクズは死ぬべきなの! 生きてちゃいけないの!」
キョン『死んだらそれまでだろう! 死ぬのは償いにはならん! 生きて償えよ!』
ハルヒ「う……で、でも」
キョン『それに……お前が死ぬのは俺にとって1番の迷惑だ!』
ハルヒ「え? ど、どういうことよ……」
キョン『俺だけじゃない。朝比奈さんも長門も古泉も……みんなお前が死ぬと迷惑するぞ!』
ハルヒ「何でよ……何であたしが死ぬのが迷惑なのよ……?」
キョン『誰もお前の死なんか望んでないってことだ。お前が死んだら誰がSOS団を引っ張っていく?』
ハルヒ「……」
キョン『お前まだ謝ってない人もたくさんいるだろう? 死んだらそれもできなくなるんだぞ』
ハルヒ「……うん」
キョン『まだまだ言いたいことはたくさんある。いいかハルヒ……』
キョン『~~~~で、だな。ん? おい、聞いてるのかハルヒ?』
ハルヒ「う、うん……」
キョン『だから俺が言いたいのはだな……』
ハルヒ「待って待って! もういい! もういいから!」
キョン『ん? もういいってどういうことだ?』
ハルヒ「あれからずーっとネチネチネチネチ言われてもうウンザリよ!」
ハルヒ「分かったわよ。自殺なんてもうしないから。あたしが悪かったわ」
キョン『おお、分かってくれたかハルヒ』
ハルヒ「そりゃあれだけ言われたらね。あんたってあんなに口がうまかったっけ?」
キョン「ふふ、それは……」
???「うおおおお! ハルヒー!! 見つけたぞー!」
ハルヒ「え?」
キョン「はあ、はあ、ぜえ、な、何とか間に合ったみたいだな……」
ハルヒ「あれ? キョン? え、今電話で話して……?」
キョン『おや、彼が到着したようですね。では失礼』ピッ
ハルヒ「あら、電話切れちゃった。どうなってるのよ?」
キョン「何をブツブツ言ってるんだ、お前?」
ハルヒ「あんた、自転車こぎながらあたしに電話してたの?」
キョン「電話? いや俺はしてないぞ? 全力で自転車こいでたんだからそんな余裕ないっての」
ハルヒ「ええ? でも確かにあれはアンタの声……あれぇ?」
キョン「そんなことより! お前自殺なんて馬鹿な真似はやめろ!」
ハルヒ「へ? うん、もうやめたわよ。さっき電話でそう言ったじゃない」
キョン(電話? 電話ねぇ。俺は掛けた覚えはないから当然古泉達の仕業か)
キョン(しかもハルヒのこの様子だと、どうやら俺の声で掛けたみたいだな。長門のあの能力か)
キョン(何で俺の声にしたのかはともかく、古泉達はうまいこと時間稼ぎしてくれたみたいだな)
~スーパー前~
古泉(キョン)「さて、あとは彼がうまくやってくれるでしょう」
みくる「古泉くん、お疲れ様でした」
古泉(キョン)「長門さんのおかげで助かりました。今の涼宮さんには彼の声しか届かなかったでしょうからね」
長門「いい」
古泉(キョン)「しかし自分の声が違うというのはなかなか違和感を感じますね」
みくる「びっくりするくらいキョンくんの声です」
古泉(キョン)「僕はちゃんと彼を演じられていたでしょうか?」
みくる「目を瞑ってたらキョンくんとしか思えないほど上手でしたよ」
古泉(キョン)「はあ、やれやれだ……」
みくる「あ、それ似てます~」
古泉(キョン)「朝比奈さん、好きです」
みくる「ひゃあああ! そそ、その声で言うのやめてくださいぃ~!」
長門「…………」
ハルヒ「ごめんねキョン、心配かけちゃって」
キョン(時間稼ぎだけじゃない。自殺を思いとどまるよう説得まで済ませちまってる)
キョン(何というかさすがだな。俺は焦っちまってそこまで頭がまわらなかった……)
キョン(後で礼を言っておかないとな。さて、今俺がやらなきゃいけないことは……)
キョン「ハルヒ、何でいきなり自殺しようなんて思ったんだ? いったい何があったんだ?」
ハルヒ「……」
キョン「何か理由があるはずだ。話してくれないか?」
ハルヒ「……バイトが思ったよりも早く終わったから、余った時間をどうしようかなと思って」
キョン「ふむ」
ハルヒ「それであたしが東中時代にフッた男たちの中でまだ謝っていない人がいたから……」
キョン「なるほど、そいつのところへ謝りに行ったってわけか」
キョン「……それで、そいつとの間で何かがあったと」
ハルヒ「うん……」
~回想~
ハルヒ「お願い、話を聞いて! あたしは謝らないといけないと思って……」
男「しつこいな! それがうぜーって言ってんだよ! お前の謝罪なんていらねーんだよ!」
男「お前にこっぴどいフラれ方をしたせいで、俺はみんなに笑われて大恥をかいたんだ!」
男「トラウマだったぜあれは。せっかく忘れてたのに……わざわざ思い出させてくれやがって……」
ハルヒ「だから……そのことを謝ろうと……」
男「俺はもうお前の顔なんか見たくなかったんだよ! 何で今さら俺の前に現れるんだよ!
男「ホントお前って人をイラつかせるのがうまいよな。ああもう! うぜぇうぜぇうぜぇ!!」
ハルヒ「……」
男「なあ、お前死ねよ」
ハルヒ「……え?」
男「どうせ今の高校でも他人に迷惑かけまくってんだろ? お前が生きてたって害にしかならねえよ」
男「お前みたいなクズは死ぬべきなんだよ! 死ね! 死ね! 死んじまえ!」
ハルヒ「あたしは……クズ……迷惑……生きてちゃいけない…………死んだ方が……いい」
キョン「なるほど、そんなことがあったのか」
キョン「しかし、いくらなんでも言い過ぎだその男は。なあハルヒ……」
ハルヒ「分かってるわよ。さっきまでのあたしはどうかしてたわ。もう大丈夫よ」
キョン「そ、そうか?」
ハルヒ「そりゃショックだったけどね。でもだからって死んだら何もならないものね」
キョン「そうだぞハルヒ。分かってるんならいいさ。じゃあみんなのところに戻るとするか」
ハルヒ「うん、そうね。みんなにも謝らないと」
キョン「じゃあ行くか。っと、ちょっと待ってくれ。先に電話で連絡しておかないと」ピッ
古泉(キョン)『やぁどうも』
キョン「その声……やっぱり長門の能力か?」
古泉(キョン)『ええ。涼宮さんは無事ですか?』
キョン「ああ、今からそっちに連れて行く」
古泉(キョン)『了解しました。お待ちしています』
キョン「自分の声と会話するというのもなかなか気持ち悪いな。俺が着くまでに元に戻しとけよ」ピッ
キョン「よし、じゃあ行くとするか」
~スーパー前~
キョン「到着っと」キッ
ハルヒ「あ……みんな」
みくる「ああ! す、涼宮さーん!」
ハルヒ「みくるさん……ごめんなさい、心配かけちゃって」
みくる「ううん、いいんです。よかったぁ、無事に戻ってきてくれて」
ハルヒ「有希も古泉くんも……本当にごめんなさい」
古泉「いえ、僕は涼宮さんの強さを信じていましたから」
長門「……」
みくる「涼宮さん! もうこんなことしたら駄目ですよ!」
ハルヒ「はい、ごめんなさい……」
みくる「もう……でも本当によかった……」ギュッ…
ハルヒ「みくるさん……」
キョン「やれやれ、何とか普通に戻ったか」
古泉「どうやら最悪な状態からは脱したようですね」
長門「……」
キョン「いきなり電話してきた時はこの世の終わりみたいな声してたからな」
古泉「そうですね。これでいつもの涼宮さんに戻ってくれれば嬉しいのですが」
ハルヒ「あああーーー!!」
みくる「ど、どうしたんですか涼宮さん!?」
ハルヒ「アリさんの行列を踏んづけちゃった! アリさんごめんなさい! 本当にごめんなさい!」
キョン「……だめだ、相変わらずの状態のようだ」
古泉「そんな甘いことはありませんよね」
長門「振り出しに戻る」
ハルヒ「アリ24さんごめんなさい、アリ25さんごめんなさい……」
古泉「あれではしばらく動きそうにありませんね」
キョン「よし、だったら今のうちに作戦会議だ。この後どうするか相談しよう」
みくる「あ、あたし涼宮さんの傍で見てますね」
キョン「お願いします、朝比奈さん」
みくる「はい。涼宮さーん」タタッ
キョン「さて、あの様子だとまたいつ自殺しようとしてもおかしくないな」
長門「今の涼宮ハルヒはとても不安定な状態」
古泉「何か対策を講じる必要がありますね」
キョン「もう様子見などと悠長なことは言ってられないな」
古泉「しかし、涼宮さんがああなった原因について分からないことには……」
キョン「だよなあ。機関や長門があれだけ調べてもまだ判明してないし……」
古泉「涼宮さん本人に聞いてみますか?」
キョン「え? もう聞いたろ?」
古泉「僕は聞いていません。むやみに刺激するのはよくないと思いましたので」
キョン「そういえば俺も聞いてないような……誰かが聞いてると思って……」
古泉「どうなんでしょう、長門さん?」
長門「涼宮ハルヒがなぜ豹変したのか。そのことを涼宮ハルヒ本人に尋ねた者はいない」
キョン「……」
古泉「……」
キョン「はは、まさかこんな盲点が……」
古泉「とにかく急いで涼宮さんに聞いてみましょう。もっとも素直に話してくれるかは分かりませんが」
キョン「そこは駄目元だ。おーい! ハルヒ! 朝比奈さん!」
ハルヒ「アリ354さんごめんなさい、アリ355さんごめんなさい……」
みくる「アリ211さんごめんなさい、アリ212さんごめんなさい……」
キョン「何をやってるんですか、朝比奈さん……」
みくる「あひゃわあ!? ごごごめんなさい! ついつられちゃって!」
キョン「はあ。ああいや、それよりハルヒよ、話がある」
ハルヒ「何? まだ全部のアリさんに謝ってないんだけど」
キョン「後にしろ。お前に聞きたいことがあるんだ」
ハルヒ「聞きたいこと?」
キョン「お前……何でここのところみんなに謝ってまわるようになったんだ?」
ハルヒ「それは……今までの自分の行いを反省して……」
キョン「それにしたって行動に移すには何かきっかけがあったはずだ。なあ、何があったんだ?」
ハルヒ「……」
キョン「ハルヒ?」
ハルヒ「言ったって……信じてくれないわよ……」
キョン「いや、信じる」
ハルヒ「え?」
キョン「お前の言うことなら俺は、いや俺達は信じる。それがどんなことでもな」
古泉「そうですよ涼宮さん」
みくる「話してくれませんか?」
長門「……」
ハルヒ「キョン……みんな……」
ハルヒ「……分かったわ。話すわ」
キョン「そうか。ゆっくりでいいからな」
ハルヒ「でもちょっとタンマ」
キョン「うおい! 何でだよ!?」
ハルヒ「トイレよ。さっきからずっと我慢してて……」
キョン「はあ、まったく。しかし今のお前から目を離すわけにはいかん。俺も着いていくぞ」
ハルヒ「アンタ、女子トイレにまで着いてくる気?」
キョン「う……いや、しかし……」
みくる「キョンくん、あたしが着いていきますから」
キョン「そ、そうですか。よろしくお願いします朝比奈さん」
キョン「まったく、緊張感がないというか……」
古泉「そこまでピリピリしても仕方ありません。少し落ち着きましょう」
キョン「だな。しかし、本当に大丈夫か?」
古泉「大丈夫でしょう。目を離すといっても数分ですし朝比奈さんもついてますし」
キョン「そうだよな。たかが数分で事態が急変するわけないよな」
キョン「……遅いな。いくらなんでももう戻ってきてもいいはずだが」
古泉「そうですね、何かあったのでしょうか?」
みくる「きょ、キョンく~ん……」
ハルヒ「……」
古泉「おや、2人ともようやく戻ってきたようです……ね……」
キョン「……なあ古泉、1つ聞いていいか?」
古泉「何でしょう?」
キョン「何でハルヒはあんなドンヨリとしてて、朝比奈さんは泣きそうな顔をしてるんだ?」
ハルヒ「……」ブツブツブツ…
古泉「どうやら只事ではないようですね」
キョン「おいハルヒ! どうした! 何があったんだ!」
ハルヒ「……」ブツブツブツ…
キョン「何だって? 小声でよく聞こえないぞ」スッ
ハルヒ「みんな……ごめんなさい…………本当に……ごめんなさい……」
キョン「ハルヒ……」
古泉「朝比奈さん、一体何があったのですか?」
みくる「あ、あの、それが…………ああ!?」
古泉「ど、どうしましたか!」
みくる「す、涼宮さんが……」
古泉「涼宮さんが?」クルッ
キョン「な……ハルヒが……消えた……目の前でいきなり消えちまった……」
古泉「涼宮さんが消えた……? それは……むっ」
キョン「ど、どうした古泉?」
古泉「涼宮さんがなぜ消えたのかが分かりました」
キョン「なに! なぜなんだ古泉!?」
古泉「閉鎖空間です。巨大な閉鎖空間がたった今発生しました」
キョン「閉鎖空間? どこにだ?」
古泉「ここです」
キョン「ここ?」
古泉「我々が今いるこの地点、ここを中心に急激に閉鎖空間が拡大しています」
キョン「ま、まさかハルヒは……」
古泉「ええ、その閉鎖空間の中にいるようです」
みくる「どうしよう……あたしのせいです……あたしの……」
キョン「朝比奈さん、いったい何があったんですか?」
みくる「それが……」
~回想~
ハルヒ「スッキリした。じゃあ戻りましょうか、みくるさん」
みくる「うん、待たせたら悪いですからね」
ハルヒ「あれ?」
みくる「どうしました、涼宮さん?」
ハルヒ「あそこにいるの、生活指導の先生じゃない?」
みくる「あ、ホントです」
ハルヒ「あたし、あの先生にはまだ謝ってないんですよ」
みくる「え?」
ハルヒ「あたし、ちょっと行って謝ってきます。みくるさんはそこで待っててください」タタッ
みくる「あ! 待ってください! キョン君達が待ってますよ!」
ハルヒ「すぐに済みますからー」
みくる「でもでも、えーと……あ、あたしも行きます! 待ってくださーい!」タタッ
ハルヒ「先生、今までたくさんご迷惑をおかけして本当に申し訳ありませんでした」
先生「他の先生方から話は聞いていたが……お前に謝られる日が来るとは正直思ってなかったよ」
ハルヒ「……」
先生「でもまあ、分かればよろしい。元気なのは結構だがほどほどにな」
ハルヒ「はい、本当にすみませんでした」
先生「もっと周りのことも考えるようにな。口には出さなくても迷惑だと思ってる奴はたくさんいるぞ」
先生「お前のとこの、えーと、SOS団だったか? そこの連中だって本当は迷惑してるかもしれないぞ?」
ハルヒ「え?」
先生「有無を言わさず強引に入部させたんだってな。そこの朝比奈にいたっては書道部までやめたとか」
みくる「え? あ、それはその……」
先生「4人とも他にやりたいことがあったかもしれんのに。可哀想にな」
先生「しかも毎度毎度お前の起こす騒ぎに巻き込まれるわ、お前の悪名で他の部員まで悪く見られるわ」
先生「みんな実際に迷惑してるんだぞ。だからこれからはもっと他の人のことも考えるようにな」
ハルヒ「迷惑……みんなが……あたしのせいで…………」
キョン「はあ、それでハルヒは閉鎖空間を発生させるほどの鬱モードに突入したってわけですか」
古泉「自殺騒動が治まったと思ったらこれですか。一難去ってまた一難ですね」
みくる「本当にごめんなさい! あたしがついていながら……」
古泉「朝比奈さんのせいではありませんよ。涼宮さんのあの様子では遅かれ早かれこうなっていたでしょう」
キョン「それにしても、死ねと罵られた時より『俺達に迷惑だと思われてる』と言われた方がダメージがでかいとはな」
古泉「それだけSOS団が、僕達の存在が大切なものだったということでしょう」
キョン「そう、か」
古泉「それよりも急ぎましょう。事態は一刻を争います」
キョン「む、そうか。ということはやっぱり……?」
古泉「ええ、僕達も閉鎖空間に向かいます。皆さん、僕の身体に触れて目を瞑ってください」
キョン「よし」スッ
みくる「は、はい」スッ
長門「……」スッ
古泉「では……行きます」
古泉「もう目を開けても結構ですよ」
みくる「こ、ここが閉鎖空間ですか。暗くてちょっと怖いですね……」
キョン「俺は何度も来てるからいい加減慣れましたけどね」
キョン「それで古泉、一刻を争う事態ってそんなにやばいのか?」
古泉「ええ、このままでは涼宮さんが自分自身を消滅させてしまう恐れがあります」
キョン「何だと!? 確かにやばいな……」
古泉「急ぎましょう。あっちの方角から涼宮さんの存在を感じます。着いてきてください」
キョン「そういえばこの閉鎖空間、神人が全然いないな」
みくる「神人ってキョンくんが言ってた白くて大きなお化けですか?」
古泉「この閉鎖空間はいつものものとは違う、特別なもののようです」
キョン「特別?」
古泉「見ての通り神人がいません。そしてどうやら他の機関のメンバーは入って来れないようです」
古泉「この閉鎖空間に入ることを許されたのは僕達だけです。恐らく無意識にでしょうが」
キョン「そうか。心のどこかで俺達に止めてほしいと思ってるのかもな」
古泉「要するにこの閉鎖空間は世界を作り変えるためのものではなく……」
古泉「自分自身を消滅させるため。ただそのためだけに作られたものなんですよ」
キョン「ようは壮大な自殺ってことか。自殺ならさっき止めたばかりだというのに」
長門「振り出しに戻る」
キョン「それで古泉、ハルヒの所にはまだ着かないのか?」
古泉「そこです。そこの曲がり角の向こう!」
キョン「なに!? そうか、よし! ハルヒ!」ダッ
ハルヒ「……」ブツブツブツ…
キョン「やっと見つけた。手間かけさせやがって」
キョン「おいハルヒ! しっかりしろ! おい!!」
ハルヒ「…………ん……あれ……キョン……?」
キョン「ハルヒ! お前にいったい何があった? 何でそんなに謝るようになっちまったんだ?」
ハルヒ「……」
ハルヒ「あたし……夢を見たのよ」
ハルヒ「その夢の中でどことも分からない場所をあたしは歩いていた」
ハルヒ「すると、誰かがあたしの前に現れた」
キョン「誰か? 何者だそいつは?」
ハルヒ「あたしよ」
キョン「は?」
ハルヒ「あたしの前に現れたのは、もう1人のあたしだったの。でも何となく分かったわ」
ハルヒ「コイツはあたしの『偽者』なんかじゃない。コイツも『あたし自身』なんだって」
キョン「何でそんなことが分かったんだ?」
ハルヒ「分かっちゃったんだからしかたないじゃない。なんとなくよ」
ハルヒ「それで、そのもう1人のあたしは言ったわ。『いい加減にしなさい!』と」
ハルヒ「当然あたしは言い返したわ。『何のことよ!』と」
ハルヒ「そしたらそいつは、あたしが今までどんなに悪い事をしてきたか、どれだけ人に迷惑をかけてきたか」
ハルヒ「それはもう徹底的に非難してきたわ。そして言い放ってきた。『全ての人達に謝りなさい!』と」
ハルヒ「最初は言い返したわ。『何でアンタなんかに偉そうに説教なんかされなきゃいけないの!』」
ハルヒ「でもそいつったら全然人の話聞かないの。説教してばっかりで」
キョン「まさしくお前そのものだな」
ハルヒ「うっさいわね。それで埒が明かないと思ってドロップキックかましたの」
キョン「おい」
ハルヒ「でも避けられたわ。逆にカウンターのラリアット喰らっちゃった」
ハルヒ「チョップ喰らわせようとしたらハイキック、ヘッドバット食らわせようとしたらボディブロー」
ハルヒ「もう全部返り討ち。なぜかそいつにはまったく敵わなかったわ」
ハルヒ「そして三角締めを極められた時、あたしは抵抗するのをやめた……」
キョン「……」
ハルヒ「それからもあたしへの非難と説教は延々と続いたわ、最初はあたしも聞く耳を持たなかったんだけど……」
ハルヒ「だんだんあたしの中に『罪悪感』が芽生えてきたの。あいつの言葉って妙に心に響くのよね」
ハルヒ「そして、その『罪悪感』はどんどん大きくなっていった……」
ちょいと中断
ハルヒ「気がついたらあたしは目を覚ましていた。そこはいつものベッドの上……」
ハルヒ「もちろん『もう1人のあたし』はどこにもいなくなってた」
ハルヒ「でもあたしの中に芽生えた『罪悪感』は消えることはなかった……」
ハルヒ「ううん、それどころかどんどんどんどん大きくなっていって……」
ハルヒ「みんなに謝らないと……あたしが今まで生きてきて迷惑をかけた人達みんなに謝らないと……」
ハルヒ「そのことだけが頭を支配して、いてもたってもいられなくなって、家を飛び出して……」
ハルヒ「走って走って走って学校に到着して。その時に気づいたんだけど、その時はもうすでに放課後だった」
ハルヒ「あたしったら随分長く夢を見てたのね。それで教室にはすでに誰もいなかったから部室に行って……」
キョン「それでドアを開けて開口一番、『みんなごめんなさい……』か……」
古泉「なるほど、そういうことだったんですね」
みくる「涼宮さん……」
長門「……」
キョン「しかしもう1人のハルヒか。本人は偽者じゃないと言っているが、どういうことなんだろうな?」
古泉「恐らく涼宮さんの深層意識が具現化した存在なのではないでしょうか」
キョン「深層意識?」
古泉「あくまで仮説ですが……普段の涼宮さんは非常にアグレッシブで常に前に進み続けてきました」
キョン「周りの迷惑も考えずにな」
古泉「しかし、心の奥底ではそのことに対し罪悪感も感じていた。謝りたいと言う思いもあった」
キョン「普段のハルヒを見てると、到底信じられないがな」
古泉「以前も言ったでしょう。涼宮さんは常識的な考えも持っていると」
古泉「ですが、涼宮さんはあのような性格です」
古泉「素直に謝ると言うこともできず、その思いを心の奥底にどんどん蓄積させていった」
古泉「そして積もりに積もったその思いが1つの人格を形成し、具現化してしまった」
キョン「それが夢の中でハルヒを非難した、もう1人のハルヒか?」
古泉「おそらく」
キョン「長門、どうなんだ?」
長門「その仮説でほぼ間違いないと思われる」
キョン「心の奥底では反省していた、か。あのハルヒがな。なかなか信じられないが……」
ハルヒ「ごめんなさい……みんな……ごめんなさい…………」
みくる「涼宮さん! しっかり! しっかりしてくださぁい!」
キョン「あれを見ると、信じざるを得ないよな」
古泉「当然といえば当然です。特殊な能力を持っているとはいえ、涼宮さんだって人間なんですから」
キョン「それで、どうすればいいんだ? どうやったらハルヒを元に戻せる?」
古泉「そうですね。まずはそのもう1人の涼宮さんに出てきてもらう必要がありますね」
キョン「そりゃそうだろうな。で、そのもう1人のハルヒとやらはどこにいる?」
キョン「まさかこの閉鎖空間のどこかにいるんじゃないだろうな? だとしたら探しきれんぞ」
長門「そこにいる」スッ
キョン「え? そこって……」
ハルヒ「ごめんなさい…………ごめんなさい…………」
キョン「いや、あれはもう1人のハルヒじゃなくて本物のハルヒじゃあ……?」
古泉「なるほど。その『もう1人の涼宮さん』もあくまで本物の涼宮さんですからね」
長門「そう。常に共にいる」
キョン「何? どういうことだ?」
長門「……」ブツブツブツ…
キョン「ん? 何をしてるんだ長門…………って!?」
ハルヒ(?)「アンタいい加減にしなさいよね! さっさと死になさいよ!」
ハルヒ「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
みくる「ひゃああ! す、すす、涼宮さんが2人!?」
キョン「あれが……『もう1人のハルヒ』か……」
古泉「そのようですね」
ハルヒ(?)「アンタなんか生きててもしょうがないの! みんなが迷惑してるの!」
ハルヒ「ごめんなさい……生きててごめんなさい……」
キョン「見かけではまるっきり区別がつかんな。ハルヒ(強)とハルヒ(弱)とでも呼ぶか」
キョン「さて、ともかく接触を試みないことには始まらないな。うまく説得しないと」
キョン「おい、ハルヒ」
ハルヒ(強)「みんなアンタが悪いのよ! 分かってるの!」
ハルヒ(弱)「あたしが悪い……みんな……みんな…………」
キョン「あの、もしもーし?」
ハルヒ(強)「みんなアンタのせいで苦しんできた! その苦しみをアンタも味わいなさい!」
ハルヒ(弱)「あたしも……苦しむべき……」
キョン「聞けよ! 脳内爆弾女!!」
ハルヒ(強)「何ですって!」
ハルヒ(弱)「失礼ね!」
キョン「いや、何でお前まで反応するんだよ!」
ハルヒ(弱)「あ……ご、ごめんなさい、ごめんなさい……」
キョン「あ、しまった……」
古泉「仕方ありません。今はこっちが先決です」
キョン「そうだな。朝比奈さん、そっちのハルヒを見ててもらえませんか?」
みくる「はい。今度こそ任せてください!」
キョン「さて、と。なあハルヒよ」
ハルヒ(強)「何よ?」
キョン「お前はずっとハルヒの傍にいたのか?」
ハルヒ(強)「当然よ。あたしだって『涼宮ハルヒ』なんだから」
キョン「まさか傍にいる間、ずっとああやって罵倒し続けていたのか?」
ハルヒ(強)「そうよ! アイツったらひどいのよ! 自己中心的だし人に迷惑掛けまくるし!」
ハルヒ(強)「あまりにひどいから我慢しかねて、こうしてあたしが説教してやってるのよ!」
キョン(なるほど。こいつはハルヒの罪悪感、謝りたいという気持ちが具現化した存在だったな)
キョン(口こそ悪いが、こいつはハルヒの『良心』とも言えるわけだ。しかしなあ……)
キョン「お前、いくらなんでもきつく言い過ぎだ。見ろ、あんなに落ち込んじまって」
ハルヒ(弱)「死にたい……あたしは……死ぬべき…………」
みくる「そんなことないですよ、涼宮さん!」
ハルヒ(強)「駄目よ! まだまだ言い足りないし、アイツもまだまだ反省が足りないわ!」
ハルヒ(強)「もっとよ! もっともっと謝らないといけないのよ!」
キョン「謝らないとってお前、アイツは散々謝ってきたじゃないか。あとどれぐらい謝ればいいんだよ?」
ハルヒ(強)「これまで生きてきて、関わってきた人達全員によ!」
キョン「そんな無茶な」
ハルヒ(強)「無茶だろうがしなくちゃいけないの!」
キョン「お前な、謝る謝るってむやみやたらに謝ればいいってものじゃないだろう。極端すぎるんだよ」
キョン「事実、謝られて逆に不快感をあらわにした人もいただろう?」
キョン「しかも重りをつけて池に飛び込んだり、ホッカイロ貼って着ぐるみバイトをしたり……」
キョン「そして遂には自殺騒動だ。死んだら何にもならないというのに」
ハルヒ(強)「むぅ…………でもアイツ、生きてる価値あるの? 生きてても迷惑かけるだけよ?」
キョン「お前なぁ……」
キョン「さすがはハルヒ、とことん強情だな。さて、どうしたものか」
古泉「ここはやはり、彼女の出番でしょうね」
キョン「長門、か」
古泉「ええ、今の精神力が弱っている涼宮さんなら、情報操作を施すことも容易なはずです」
キョン「そうなのか、長門?」
長門「そう」
キョン「しかし……できれば情報操作は使ってほしくない。お前に負担をかけたくないんだ」
長門「大丈夫。やる」
キョン「へ? やるって……?」
長門「涼宮ハルヒに情報操作を施し、元の状態に戻す」
キョン「え、いや、しかしだな長門……」
長門「わたしという個体は…………涼宮ハルヒを助けたいと思っている」
キョン「長門……」
長門「……」
キョン「……そうか。分かったよ、長門」
キョン「長門、頼んだぞ」
長門「任せて」
キョン「今度何でも好きなもの奢ってやるからな」
長門「カレー」
キョン「ああ、10杯でも20杯でも好きなだけ食え」
古泉「それで、情報操作を施すと言いましても、具体的にはどうするんですか?」
長門「2人の涼宮ハルヒのうち、どちらか1人を消滅させる」
キョン「はい?」
長門「2人の涼宮ハルヒのうち、どちらか1人を消す」
キョン「いや、そこは言い直さなくてもいい」
キョン「しかしハルヒを消滅させる、か……大丈夫なのか?」
長門「平気。元の涼宮ハルヒに戻るだけ」
キョン「うーん、分かったような分からんような……」
古泉「つまりですね、2つに分裂している人格のうち、片方の涼宮さんの人格を消滅させる」
古泉「そのエネルギーが残ったもう片方の涼宮さんと融合し、元の1人の涼宮さんに戻る」
古泉「どうでしょうか、長門さん?」
長門「その解釈で間違いはない」
キョン「なるほど。消すなんていうから殺す的な意味かと」
古泉「そんなわけないでしょう」
キョン「よし、じゃあ頼んでいいか長門?」
長門「了解。どっち?」
キョン「え? どっちって?」
長門「どちらの涼宮ハルヒを消滅させる?」
キョン「……そうか、どっちも本物の『涼宮ハルヒ』なんだよな」
長門「性格のベースとなる方を決めてほしい」
キョン「性格のベース、か……」
古泉「つまりですね」
キョン「いや、これぐらいは分かる。つまり……」
キョン「ハルヒ(強)を消せば、ハルヒ(弱)を非難する存在がいなくなり、いつもの傲慢なハルヒに戻る」
キョン「ハルヒ(弱)を消せば、傲慢なハルヒが消えて、周りに気を配れる謙虚なハルヒになるってことか」
キョン「元のハルヒに戻すというのは分かる。だが謙虚なハルヒにするというのはどうなんだ?」
キョン「また自殺未遂を起こしたり、いろいろ厄介なことになったりはしないか?」
古泉「それは、今まで原因が一切分からなかったからですよ」
古泉「こうして原因が分かった以上、ある程度対策は立てられます。僕ら機関が全力で何とかします」
古泉「そういう選択肢もあるということを念頭においていただければと。僕からも聞きたいことがあります」
キョン「何だ?」
古泉「あなたこそ本当に元の涼宮さんに戻したいのですか? 日頃涼宮さんの言動には散々不満を漏らしていたではありませんか」
キョン「う……」
古泉「謙虚な涼宮さんになれば、自分勝手な言動で振り回されることはなくなります」
古泉「対策さえ立てれば、騒動を起こすこともなくなるでしょう」
古泉「どうしますか。いつもの涼宮さんか、謙虚な涼宮さんか」
古泉「どちらを選びますか?あなたが決めてください」
キョン「ちょっと待ってくれ! 俺が1人で決めるのか!?」
古泉「ええ、あなたが決めてください。我々はそれに従います」
みくる「そうです。キョンくんが決めてください」
キョン「朝比奈さん、いつの間に……」
みくる「涼宮さんがまた涼宮さんをいびり始めたので……」
古泉「これは別に、あなた1人に決断を押し付けると言うことではありません」
みくる「うん、キョンくんが決めたことならあたし達は納得できます」
長門「……」コクリ
キョン「みんな…………分かった。俺は~~~~~~~~~」
古泉「分かりました」
みくる「あたしも賛成です」
長門「始める。こっちへ来て」
ハルヒ(強)「ん? 何よアンタ達?」
キョン「すまんな。悪く思わないでくれよ」
~翌日 木曜日 放課後の部室~
ハルヒ「やっほー! みんな揃ってるー!」バァン
古泉「どうも」
みくる「こんにちは。今お茶を淹れますね」
長門「……」
キョン「お前は相変わらず元気だな」
ハルヒ「当たり前よ! あたしから元気を取り上げたら何が残るって言うのよ!」
ハルヒ「……いや、結構残るわね。あたしは元気を取り上げられたくらいじゃビクともしないわ!」
キョン「よく言うよ、まったく」
ハルヒ「さあて、今日はっと……」
キョン「なあ古泉、ハルヒは昨日の閉鎖空間での出来事を……?」
古泉「ええ、予想通り夢だったと処理したようですね」
キョン「みんなに謝ってまわったことは?」
古泉「それは覚えていると思いますよ。もっとも今そのことについてどう思ってるかは分かりませんが」
ハルヒ「みんな! 今週の土日はキャンプに行くわよ!」
みくる「キャンプですかぁ。いいですね」
ハルヒ「もちろんただのキャンプじゃないわ! SOS団らしく素晴らしいキャンプにするわよ!」
古泉「どうやら昨日までの暗さはないようですね」
キョン「いつも通りのハルヒだな。あとは……」
ハルヒ「それで土日なんだけど……誰か都合の悪い人いる?」
キョン「あ~ハルヒよ、土日はちょっと用事があってな。行けないんだ」
ハルヒ「そうなの? 他に行けない人は…………どうやらキョンだけみたいね」
ハルヒ「でもキョンが行けないんじゃあ仕方ないわね。来週の土日はどう?」
キョン「ああ、来週なら大丈夫だ」
ハルヒ「みんなも来週は…………OKね! じゃあ日取りは来週の土日で決まり!」
みくる「はい涼宮さん、お茶です」
ハルヒ「ありがと! みくるちゃん!」
みくる「はい」
ハルヒ「うーん……」
みくる「どうかしましたか?」
ハルヒ「やっぱりみくるさんと呼んだほうが……それに敬語も……」
みくる「いいんですよ、いつも通り接してくれれば。あたしもその方が嬉しいですし」
ハルヒ「そうですか……うん! 分かったわ、みくるちゃん!」
古泉「どうやら、うまくいったみたいですね」
キョン「いつもなら他人などおかまいなしにゴリ押しするアイツが……変わるもんだな」
キョン「さっきもちゃんとみんなの予定を聞いてから決めてたし……気配りもできるようになったようだ」
古泉「ふふ」
キョン「何だよ?」
古泉「まさか、あなたがあのような提案をするとは思ってもいませんでしたよ」
~回想 昨日の閉鎖空間~
キョン「みんな、本当にいいんだな?」
古泉「ええ」
みくる「お願いします」
キョン「よし、長門、やってくれ」
長門「分かった」スッ
ハルヒ(強)「え? え? 何? 何をする気なの?」
長門「……」ブツブツ…
ハルヒ(強)「何かよく分からないけどやめて! やめてよ!」
キョン「……すまん長門! ちょっと待った!」
長門「……」ピタッ
みくる「キョンくん?」
古泉「どうかしたのですか?」
キョン「なあ長門。ちょっと考えてみたんだが……かなり突飛な案だが聞いてくれるか?」
長門「何?」
キョン「どちらか片方の存在を全部消すんじゃなくて、お互いの存在を半分ずつ消すことってできないか?」
みくる「半分ずつ、ですか?」
キョン「ええ、半分ずつ消して、残った半分ずつが合体して1人のハルヒになる」
キョン「そうすればいつものハルヒのアグレッシブさと今回のハルヒの謙虚さ、両方を兼ね備えたハルヒになる」
キョン「そう考えたんだが、どうだ?」
古泉「あの、いくらなんでもそれは……」
キョン「そうだよな……こんな子供みたいな考え、うまくいくわけが……」
長門「できる」
キョン「できるの!?」
みくる「できるんですかぁ!?」
古泉「本当ですか! それは何というか、結構な反則技ですね」
キョン「ともかくよかった! それで頼む、長門!」
長門「了解した。半分ずつ消滅させる」
キョン「あっと。たびたび止めてすまんが、ちょっと待ってくれ」
長門「……」
みくる「どうしたんです、キョンくん?」
キョン「いえ、このままさっさと情報操作を施した方が手っ取り早いのは分かってるんですが……」
キョン「半分とはいえ、いきなり消されるのは可哀想ですからね。何とか説得して納得してもらいます」
みくる「……うふふ、優しいんですねキョンくん」
キョン「ところで古泉、2人のハルヒに事情を説明しても大丈夫なのか?」
古泉「ここでの出来事は全て夢として処理するでしょうから、大丈夫だと思われます」
キョン「そうか。安心した。それじゃあ、説得するとしますか」
キョン「おい、ハルヒ」
ハルヒ(強)「何よ?」
キョン「お前ら2人、握手しろ! そして仲直りしろ!」
ハルヒ(強)「はあ? いきなり何言ってるのよ?」
キョン「ああ、実はだな…………」
ハルヒ(強)「ふーん、こいつと1つにねぇ……」
キョン「そうだ。頼む」
ハルヒ(強)「お断りよ! 何であたしがこんな奴と!」
ハルヒ(弱)「あ、あたしもちょっと……」
キョン「お前らが手を結べば全てがうまくいくんだ。どちらか一方の人格を消すのは気が引けるからな」
ハルヒ(強)「嫌よ、消すんならこいつだけを消せばいいじゃない!」
ハルヒ(弱)「うん、あたしだけが消えればいいのよ……」
ハルヒ(強)「みんなだって、こいつのせいで今まで散々迷惑をかけられてきたでしょ!」
ハルヒ(強)「こいつがいなければ、みんなもっと楽しい学校生活が送れていたのに!」
ハルヒ(強)「キョン! こいつに勝手にSOS団に入れられたせいで迷惑したでしょ?」
キョン「はあ。あの時期にどの部活にも入ってなかったことから察しろよ。俺は暇を持て余してたんだ」
キョン「だがお前がSOS団に入れてくれたおかげで、退屈しない楽しい毎日が送れてる」
キョン「迷惑なんかじゃない。むしろ感謝したいくらいさ」
ハルヒ(弱)「……え?」
ハルヒ(強)「何よそれ! 訳わかんない!」
ハルヒ(強)「有希! 有希はもともと文芸部員なのに、勝手にSOS団の部員にされちゃったのよ!」
ハルヒ(強)「しかも部室まで勝手に乗っ取られて! 迷惑だったでしょう?」
長門「文芸部にはわたし1人しかいなかった。あのままではわたし1人でずっと過ごすことになっていたはず」
長門「SOS団のおかげで、わたしは1人ではなくなった。感謝している」
ハルヒ(弱)「有希……」
ハルヒ(強)「みくるさん! あなたは書道部まで辞めさせられて、拉致されて無理矢理入れられたんですよ!」
みくる「最初はびっくりしちゃいましたけど、でも今はとっても楽しいです」
みくる「普通だったらできないような体験もたくさんできましたし、あたしも感謝してますよ」
ハルヒ(強)「古泉くん! あなたは転向初日でいきなり部室に連れてこられて入部させられたのよ!」
ハルヒ(強)「もっと他の部活も見たかったでしょ! ひどいと思ったでしょう!」
古泉「いやぁ、実は転向初日でなかなかクラスに馴染めなかったんですよ」
古泉「おまけにその時は、バイト関係で気持ちが荒んでいたのですよ。しかし涼宮さんのおかげでその気持ちも吹き飛びました」
古泉「ですから涼宮さんには本当に感謝しています。SOS団の副団長であることを誇りに思っていますよ」
ハルヒ(強)「むうう……うーん…………」
キョン「ハルヒ……」
ハルヒ(弱)「みんな……それ……本当なの……?」
古泉「ええ、もちろんです」
みくる「これがあたし達の本心ですよ」
長門「……」コクリ
キョン「これで分かったろ、ハルヒ」
ハルヒ(強)「む……」
キョン「SOS団に入れられたことを迷惑だなんて思ってる奴はいない。みんなお前には感謝してるんだ」
キョン「だからさ、少しだけでいい。自分を誇ってやらないか? 自分を許してやらないか?」
キョン「前向きな心も謙虚な心も、どちらも大切なんだ。だからお前ら2人には仲直りしてほしい」
ハルヒ(強)「……」
ハルヒ(弱)「……」
ハルヒ(強)「分かったわよ…………みんながそこまで言うなら……」
ハルヒ(弱)「あたしも…………頑張ってみる……」
キョン「そうか……ありがとう、2人とも」
古泉「流石ですね」
キョン「俺だけじゃない。みんなのおかげだろ」
みくる「そうですね。みんなの想いが通じたんですよ」
長門「……」
キョン「じゃあ長門……頼む」
長門「了解した…………」ブツブツ…
ハルヒ(強)「ん……」パァァァ…
ハルヒ(弱)「あ……」パァァァ…
キョン「む……これは……」
ハルヒ(強)「あら?」
ハルヒ(弱)「~~~~!」
みくる「ひゃあああ!」
古泉「これは……何とも」
キョン「上半身だけのハルヒと、下半身だけのハルヒか……なかなか見られない光景だな」
キョン「なあ長門、あれ大丈夫なのか?」
長門「大丈夫。死んだわけではない」
ハルヒ(上)「テケテケテケテケ……」ジリジリ…
古泉「あの、涼宮さん……ちょっと怖いです……」
ハルヒ(下)「~~~~♪」タタタタッ
みくる「きゃあああ! 追いかけてこないでくださーい!」
キョン「まあ元気に走り回ってるようだからそれは分かるが、いつまであの状態なんだ?」
長門「直に融合する」
ハルヒ(上)「テケテケ……あれ? 何か身体が光って……?」
ハルヒ(下)「~~~~!!」
みくる「す、涼宮さん?」
古泉「どうやら離れた方がよさそうですね」
パアアアアアアア!!!!
キョン「うわ! 光が大きく……!!」
シュウウウウウウウ……
キョン「ん? どうやら収まってきたようだな。さて、どうなった?」
ハルヒ「スゥ……スゥ……」
みくる「あ……」
古泉「どうやら……」
キョン「ああ。無事、元に戻ったようだな」
長門「まだ」
キョン「え?」
パアアアァァァァァァ!!!!
キョン「わ! またハルヒの身体が光って……!」
長門「先程半分ずつ消滅させたエネルギーが今体内に戻った。これで完全に元通りになった」
キョン「そ、そうか。とにかくよかった」
ハルヒ「スゥ……んん……スゥスゥ……」
キョン「まったく、のんきな寝顔だな」
古泉「ふふ、皆さん、空を見てください」
キョン「空? あ! 空に亀裂が!」
みくる「な、何ですかあれぇ! えええええ!」
古泉「閉鎖空間が消滅するんですよ。慌てなくても大丈夫です」
パキィィィィィィィ……ンン……
みくる「あ……空が元に……」
キョン「もうスッカリ日が暮れてるなぁ……」
長門「……」
キョン「とにかく……ハルヒが無事でよかった」
ハルヒ「ムニュムニュ……スゥ……スゥ……」
キョン「それで、ハルヒの性格はどうなったんだ? うまくいったのか?」
古泉「それは涼宮さんが目を覚ますまで分かりませんよ」
キョン「だよな。今日はもう帰ろう。もうクタクタだ」
古泉「ええ、そうしましょう」
キョン「ハルヒは俺が家まで送り届けよう。よっこらせっと」グイッ
みくる「あ、あたしも行きます」
古泉「僕もご一緒しましょう」
長門「……」
キョン「そうだな。みんなで我らが団長を送り届けるとするか」
キョン「さぁて、ハルヒの家はどこだったっけな?」
古泉「もう一度いいますが、あなたの提案は本当に意外でしたよ」
キョン「自分でも変な案だと思うがそんなにか?」
古泉「あなたは必ず元の性格の涼宮さんに戻すと思っていました。性格を変えるような真似は嫌うかと」
キョン「確かに、これが第3者の干渉によってハルヒの性格が変えられようとしていたのなら、何が何でも阻止しようとしただろうさ」
キョン「しかし今回は、あくまでハルヒ自身の潜在意識によって性格が変わったんだ。自分自身で反省して性格を変えたんだ」
キョン「だからハルヒの、ハルヒの潜在意識の意思を尊重するべきだと思ったんだよ」
古泉「そうですか」
キョン「……」
古泉「……」
古泉「大丈夫ですよ」
キョン「は?」
古泉「本音を言った所で僕は軽蔑したりはしません。むしろ思いは同じだと思いますよ」
キョン「むぅ……そうだな」
キョン「さっきは格好つけたこと言っちまったが……」
キョン「あの性格のハルヒが1番都合が言いと思ったからそうした。そういう気持ちもある」
キョン「アグレッシブ過ぎるハルヒだと、いろいろ振り回されて疲れる」
キョン「謙虚過ぎるハルヒだと、こっちがいろいろ気を使ってしまってこれまた疲れる」
キョン「だったらそれぞれ半々の性格のハルヒならちょうどいい。俺にとってもみんなにとっても都合がいい」
キョン「本音を言えばそんな気持ちがあったのも事実だ」
キョン「みんなには散々あんなに偉そうなことを言ってたくせにな。こんな俺を軽蔑するか?」
古泉「先程も言ったでしょう。僕もあなたと同じ思いだと」
古泉「あの性格の涼宮さんなら閉鎖空間が発生する頻度も確実に減少するでしょう。感謝していますよ」
キョン「……これで良かったのか?」
古泉「あなたも言っていたではありませんか。涼宮さんは自分自身の意思で変わったのです」
古泉「我々は、ほんの少しその手助けをしただけですよ」
キョン「……」
ハルヒ「ねぇみくるちゃん、キャンプの場所なんだけど、ここなんてどうかしら?」
みくる「うーん、あたしはこっちの方が面白そうです」
ハルヒ「有希はどう思う?」
長門「……こっち」
キョン「古泉、あそこにいるのは本当にハルヒなんだよな?」
古泉「紛れもなく涼宮さんですよ。以前よりも少し優しい、ね」
ハルヒ「こらそこの2人! コソコソ2人だけで話してないでこっちに参加しなさい!」
古泉「おっと」
キョン「はいはい、今行くよ」
ハルヒ「みんなで相談して内容を決めていきましょう! 楽しいキャンプにするわよ!」
キョン(そうだよな。ハルヒは変わったんだ、自分自身の力で。いろいろ反省し、悩み抜いた末に)
キョン(俺も今までの自分を振り返ってみよう。そして反省すべきことは反省して……)
キョン(……変わらないとな。ハルヒだって変われたんだ。俺だって)
~夕方~
ハルヒ「あら、もうこんな時間。続きは明日にしましょ」
古泉「では、僕はこれで失礼します」
長門「……」
みくる「お疲れ様です。涼宮さん、キョンくん」
ハルヒ「うん。戸締りはあたしがしとくから」
バタン
キョン「お前はまだ帰らないのか?」
ハルヒ「アンタこそ」
キョン「何を見てるんだ?」
ハルヒ「ん、これ」
キョン「七夕の笹か。これがどうかしたのか?」
ハルヒ「あたし、どうしても会いたい人がいるのよね。今はどこにいるのかさっぱり分からないけど」
キョン「会ってどうするんだ?」
ハルヒ「謝りたいのよ。散々面倒なことを手伝わせちゃったから」
キョン「そうか」
キョン「しかし、それだったら『手伝わせてごめんなさい』より『手伝ってくれてありがとう』の方がいいんじゃないか?」
ハルヒ「そうかしら?」
キョン「『ごめんなさい』も大事だが、『ありがとう』の方が言われて嬉しいだろ」
ハルヒ「あんた結構クサいことを平気で言うのね」
キョン「ほっとけ」
ハルヒ「でもそうね、これからはそうするわ」
キョン「そうか」
ハルヒ「ねえキョン」
キョン「何だ?」
ハルヒ「ありがとね」
~おしまい~
何とか無事終了
支援してくれた人
保守してくれた人
本当にありがとう
では
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