女旅人「なにやら視線を感じる」(782)
俺「今日も彼女は魅力的だ」
俺「輝く髪、力の篭った目、すらりと伸びる手足」
俺「彼女のことを考えるだけで心が踊る」
俺「なんと素晴らしいことか。 これまでの人生でここまで充実した日はあっただろうか!」
俺「……む、今日もリンゴを買って行ったな。 彼女はリンゴが好きなのかもしれない」
数日前、この町のとある酒場にて。
酒を飲んでいた俺の視界の端に、店から出て行く彼女が映ったのが事の始まりである。
彼女が我が心を鷲掴みにするのにはその一瞬で十分だった。
いわゆる「一目惚れ」というやつ。
是非とも彼女にお近づきしたいと思った俺は話しかけるチャンスを窺がい続け、今に至る。
なお、これはストーカーなどという下賎なものではなく、飽くまで紳士的に、
彼女にとって最も良好かつ余裕のある時に話しかけるべきだろうという考えの下で行っている行動である。
ストーキングではない。 断じて。
彼女は女性らしい服装をしていない。 ズボンにブーツを履き、そして剣を帯びている。
女性でも護身用として持ち運ぶことはこのご時勢において珍しいものでもなくなりつつあるのだが、
彼女の持つそれは、ただの護身用 と言うには少々重すぎるような印象を受けた。
そのような身なりではあるが、いや むしろそれが、彼女の魅力を一層際立たせているのだ、と思う。
旅人なのだろうか。 だとすれば彼女がスカートの類ではなくズボンを穿き、
そして女性に不釣合いな剣を持っていることにも納得できる。
また、この数日彼女の前に仲間らしい人物が現れないことから一人旅だということが推測できる。
旅の理由までは分からないが。
俺の泊まる宿は、彼女が泊まっている旅人や傭兵などが用いる比較的安価な宿の丁度向かいに位置する。
無論それは そこから出入りする人物、主に彼女をしっかりと観察するためであり、そうでなければ
このような財布に優しくない、無駄にベッドがふかふかなホテルをなど選んだりはしないだろう。
運命の出会いから4日目の朝、陽が完全に顔を出してから行動を開始するはずの彼女が
まだ少し暗いと言える時間に宿から出て行くのを見た。 全身を覆うようにマントを羽織っている。
もしや、この町を出発するのか。 こうしてはいられない、自分も出発せねば!
慌てて身支度をし、少ない荷物をまとめ、転げ落ちるようにフロントに行きチェックアウトを済ます。
ダブルベットであるにもかかわらず独りで惨めに息子を慰める虚しい生活よ、さらば。
旅人や商人によって踏み固められた森の道、枝を踏まないように歩く。
森ならば野生生物の鳴き声や草木の茂みも手伝って尾行はしやすい。
しかし、森を抜けそれらの恩恵を受けられなくなったらどうすればいいのだろうか。
「ここで会ったのも何かのご縁、目的地までのしばしの間共に旅を過ごしませんかお嬢さん」
などと言えばいいのだろうか。 無理だ。
日が傾き始めてから、彼女は手頃な枝を拾い集め始めた。
野営の準備だろう。 野営。 夜営。
……いやいや。 ここでよからぬ妄想はすべきではない。
紳士としてあるまじき白昼夢に囚われた愚かな脳に体裁を下している間、
彼女は手早く木を積み火種を育て、立派な焚き火を完成させていた。
なんとも手馴れた感じである。 旅の経験も長いのだろうか。
ある日彼女は滝を見つけた。
水面を叩きつける音が轟く。 もう少し近づいても大丈夫だろうか。
彼女は垂れる髪を耳に掛け、袖を捲り、そして目をつぶって両手で掬った水を飲んだ。
その動作のひとつひとつが俺の中のナニカを刺激し、より一層俺を虜にした。
マントを脱ぎ、剣を下ろす。 なるほどここまでの旅で疲れた足を休めるのだろう。
ブーツを脱ぎ、ベルトを解き、服に手をかけ、って、ちょっと待て!!!!1!!11
俺「……ふぅ」
この木の後ろでは、産まれたままの姿の彼女が水浴びをしているのだろう。
滝の音に混じって、ぱしゃぱしゃと水を掻き乱す音が聞こえる。
俺が今こうして賢者になっているのは己の理性を保つためである。
よってこれは自慰と呼ぶものではなく、我が息子を制御するための調教といえよう。
俺ほどの紳士となると息子を御することなど朝飯前なのだ。
逆に御せられてしまう愚か者などそこらの発情期の猿と変わらぬ。
無論、彼女の裸など見てはいない。 女性の裸を無断で見るなど紳士としてあるまじき行為である。
だから町を発ってこの数日間に何度もあった彼女の聖水タイムももちろん見てはいないし、
その時の音も聞いていない。 事後にその香りを嗅いだりもしていない。 俺は紳士なのだ。
ペロペロしたくなる衝動も抑えることができる、立派な紳士なのだ。 血涙は流れるけども。
町に着くと、彼女はまず宿をとり 荷物を置いてから町の散策をした。
宿は一箇所しかなかったので、同じ宿に部屋を借りた。
彼女のお隣という期待に胸を膨らませ、俺も彼女を追って町を徘徊する。
ここはガラの悪い奴らばかりである。
この町には何度か来た事があったが、どうも好きになれない。
怖い人たちに絡まれたらどうしよう。 彼女が絡まれたらどうしよう。
「待ちたまえ」と俺に言えるだろうか。 ここは男として言わねばならぬだろう。
小さな広場に人だかりができていて、その中に彼女が居るのを発見した。
こんなにたくさんの人の中でも彼女だけはくっきり見える。 相変わらず美しい。
何をしているのかと視線の先を追ってみると、どうやら中央では剣の腕を競う賭け事をしているようだ。
参加費を払い、主催者側に勝つことができれば今までの挑戦者が払った金全てを頂ける、というタイプの。
彼女はその様子をしげしげと見ている。
もしや、これはチャンスではないか。 彼女が注目してくれるチャンスではないのか。
そして勝った暁には「強い男好き! 抱いて!」と俺の人生に春がやってくるのではないか!
参加費を握り締め、震える手を挙げる。
俺「おお、お、俺、やるぃます」
旦
なにやら視線を感じる。 そう思ったのはこの町に入ってからだ。
女で男のような格好、そして一人旅というのを珍しがられ、視線を向けられることは多々ある。
しかしそれはすれ違う一瞬だけのことであり、今回のように纏わりつくようなものではない。
気のせいだろうと思っていたが、道を曲がっても歩み止めてもそれは一定距離を保ったまま消えることはなかった。
これは、尾行けられている。
広場では刃引きした剣を用いた博技が行われており、人で賑わっていた。
この人混みに乗じて撒こうとしたが、そう簡単にも逃してはくれないようだ。
この町は小さく滞在期間は二,三日ほどのつもりであったが、明日すぐにでも発った方がいいだろう。
長く居ても良いことはなさそうである。
旦
散々だった。
試合に勝ったは良いものの、精一杯のキメ顔()で彼女の居た場所を振り向くと、
そこにあったのは彼女の俺への憧れの眼差しではなく、顎の割れた無駄に睫毛の長い男の暑苦しいそれだった。
その男は腰を艶かしくくねらせ、ウインクをしてハートを飛ばした。
ぞわぞわっと身の毛が弥立ち、顔が引きつると同時に下半身、主に尻の穴が震え上がる。
俺は全力で逃げ出した。
その後も稼いだ金を寄越しやがれとガラの悪い連中に絡まれ、先ほどの主催者には
商売上がったりだと言われ怖い人に囲まれ、恩恵に授かろうと物乞いがハイエナの如く集まり、
それらを蹴散らすため、とにかく心身ともに疲れまくった。
俺「ええいどけ、貴様ら野郎共にくれてやる金なぞ一銭もないわ!!」
やっとの思いで宿に戻ると、背後で「また会ったわね、ボウヤ(はぁと」と野太い声がした。
もしかしなくても、隣の部屋を借りていたのはこの男だったのである。
アタシは死んだ。 スイーツ(笑)
下半身危機への恐怖のため一睡もできなかった。
しかしそれが幸いしてか、いつもより早く出発する彼女を見逃してしまうことはなかった。
荷物は全て持って出たようだ。 この町はただの休憩ポイントだったのか。
昼行性生物は未だ夢に囚われ、夜行性生物は休み始めるこの時間帯、森は静寂に包まれている。
その静寂を破ったのは、彼女の透き通った声だった。
彼女「私を尾行けている者。 いい加減姿を現せ」
喉から心臓が出かけた。
どどどどどうしようどうしようどうしよう!?
逃げるべきか!? 素直にごめんなさいするべきか!?
前方の茂みでガサリと音がした。 彼女が来たのか。
ば、万事休すか!
追跡者「……バレちまったかぁ」
……!?
追跡者「いつから分かってた?」
彼女「あの町に入った瞬間だ。 もう一人居るだろう、出て来い」
今度こそ俺だと思ったが、またもや前方の茂みから男が現れた。
どうやら彼女の後ろに回り込もうとしていたやしい。
彼女「なんのつもりだ」
追跡者「見ての通り、あの町にゃ何の色気もねぇ、腐りきってやがる。
あんたみてぇないい女はめったに居ねぇ。 だから尾行させてもらった」
彼女「なるほど腐った町には腐った男しか居ないのだな」
尾行して、彼女を攫う機会を窺がっていたのだろう。 そして攫った暁には、彼女を慰み者として……
残念ながら彼女はこの男たちの存在を知っていたようなので、人の多い場所しか歩かなかった。
ざまぁ
追跡者「まぁつまり、オレらはヤれりゃあ良いわけだ。 死にたくなければ大人しくついて来い」
なんと男たちは刃物を取り出した!
女性に刃物を向けるだと!? 男の風上にも置けん奴らめ、恥を知れ!!
追跡者「刃物の怖さはちょーっとぐらい知ってんだろ?」
いや、もしやチャンスがまた来たのではないか。
紳士たる俺がヒーローの如く颯爽と現れ、あの野蛮な男どもを蹴散らす。
そして「お怪我はありませんかなお嬢さん」と彼女の手をとる。
「あなたのように美しい女性が一人旅など危険です、私がお供しましょう」
彼女は俺の優しさにときめくだろう。 そしていつしか……
完ッ璧だ。 欠点のない完璧なプランだ。
そうと決まれば善()は急げだ!
目を疑った。
俺は彼女を助けようと立ち上がったのだが――
彼女「金目の物を置いて去れ。 さもなくば殺す」
氷のように冷たい声でぽつりと言った。
嘲笑い、「尤も持っていれば、の話だがな」と付け足す。
彼女に向けられていた短剣の切先はいつの間にか男に向けられ、
もう一方の男は肩を抜かれた痛みで地面に伏し呻いていた。
男たちは大人しく去って行ったようだ。
彼女が男から奪った短剣が、丁度差してきた朝日に反射して鈍く輝く。
彼女は踵を返しまた歩みを始める。
その姿を、ただぼうっと見つめていることしかできなかった。
彼女は何者なのだろうか。
武器に怯むことなく立ち向かい、躊躇せずに相手の肩をはずす。
そしてあの、冷徹な眼。
一気に彼女を恐ろしく思った。
……恐ろしい?
いや確かに身体は震えているが――
これは恐ろしさからのものではない。 むしろ武者震いに近い。
下半身に潜む我が息子が威きり勃つ。
――ああ、そうか。
我、二十三にして天命を知る。
俺は彼女に踏まれるべくして生まれたのだと。
もちろん踏まれるだけであれば今でも可能だろう。
だが、今踏んでくださいとジャンピング土下座したのではただの変態さんと変わりない。
お互いを理解し、かつ両者の合意の下で踏まれたいものである。
俺に愛の篭った罵倒と踵落しを。 是非に。
そのためにもまずやはり、俺が彼女を尾行もとい研究することで
話しかける絶好の機会を見極める必要がなんとしてもあるのである。
もう一度言うがストーカーではない。
彼女が新たに訪れた町は俺にとって見覚えのある場所だった。
時刻はもう夜、彼女が町唯一の大きな宿に入るのを見届けてから、
その向かいにある行きつけの酒場に足を踏み入れた。
ママ「あら! あらあら! 久しぶりね、いらっしゃい!」
俺「ああママ、久しぶり。 変わらないね」
カウンター席の端に誘導され、サービスだと黒ビールを注いでくれた。
ここはかつて活動の拠点としていた場所、俺の古巣である。
ここを離れたのは数年前だが、何故離れたのかは忘れた。
ママと呼ばれるこの店の店主。 愛想がよく、老若男女問わず人気がある。
整った顔は初めて出会ったときから全く変わらず、皺ひとつ増えていない。
年齢を問うことはタブーとされ、しつこく訊くと鉄拳が飛んでくる。
それを除けばかなり大きな器を持った人物であるため、
一時期彼になら掘られても良いかもしれないと思ったことさえある。
ママ「本当に久しぶり。 何で戻ってきたの? 今何してるの?」
俺「いやぁ成り行き上ね。 と言うか今忙しいだろ。 俺の相手しなくていいよ」
ママ「いいのよそんなのバイトの子に任せれば。 あたしは坊やとの会話に花を咲かせたいの」
俺「いい加減その坊やってのもやめてくれないかね」
ママ「あたしから見ればまだまだ子供よ子供」
ママ「いらっしゃ……あら、初めてのお客さん?」
扉が開く。 この店に一見さんとは珍しいなと思い、ちらりと見てみる。
女性のようだ。 ん、あの髪、後姿、横顔、見たことあるぞ。
……彼女ではないか!!
飲んでいたビールが鼻に逆流してむせ返る。 油断していた。
てっきり、旅で疲れた彼女はさっさと宿で床に就くものだと思っていた。
彼女は同じカウンターの、少し離れた席に座った。
仕事終わりの男で賑わう店内では俺の高性能な耳をもってしても
彼女の清らかな、しかし裏がありそうな声は聞こえそうにはない。
ママが彼女の前にジョッキと皿を置く。
彼女はブドウ酒とチーズを注文したようだ。
軽く会話をした後、ママはこちらに戻ってきた。
ママ「で、えーと……どこまで話したかしら?」
俺「それより彼女と何を話したのか詳しく」
ママ「今の娘? 軽く挨拶した程度だけど」
俺「MOTTO MOTTO!」
ママ「……あのね、あたしの仕事はお客さんの話を黙って聞いてあげることなの。
あたしから訊き出すことはもちろん、それを他人に教えるなんて事なんて許されないわ」
肩を落とす。 そうだ、ママはそういう人だ。
いや、だからこそ人に好かれ信頼されているのだが。
ママ「尤も彼女自身、話しそうな人ではなさそうだけど」
彼女が近くに居るとなると、どうも落ち着かない。
見るに見れない。 しかし気になる。
ママ「何、そわそわして。 彼女が来てから変よ」
俺「い、いや、実は……南の町で彼女に、ひ、一目惚れしてしまったんだ。
で、話しかけよう話しかけようと思っているうちに、この町に着いてしまったと」
ママ「なに、彼女をストーキングしてたって訳? いかにも臆病者がしそうなことね」
俺「ストーカーじゃない! そして臆病者でもない、俺は慎重なんだ! あとちょっとシャイなだけだ」
ママ「同じよ同じ」
俺「そうだ、リンゴある?」
ママ「リンゴ? 料理用の酸味が強いのなら」
俺「彼女に何か作って渡してほしいんだ。 店のサービスって事でいいから」
ママ「キザな事するのね。 別料金取るわよ」
俺「良いよ。 なんと今 懐が温かい」
ちびちびとチーズをつまんでいた彼女の目の前に、出来立ての焼きリンゴが置かれる。
彼女は少し驚いたような顔をし、そしてママの顔を見上げた。
ママはにっこりと笑い、「遠慮せずにどうぞ」と口を動かした。
しばらくママの顔を見た後、焼きリンゴに目線を戻し、ナイフとフォークを手に取る。
始終笑顔のママの様子を窺がいつつ恐る恐る切り分けたリンゴを口に運ぶ。
はた、と彼女は目を丸くする。 そして僅かながらも頬が綻ぶのを、俺は見逃さなかった。
ママ「彼女、とても美味しそうに食べてくれたわね」
彼女はリンゴを食べ終えると、代金を払い宿に戻った。
空いた席を見つめながら、僅かに微笑んだ彼女の可愛らしい顔を思い出す。
鼻の下が伸びる。 ああもう、本当に彼女は可愛かった。 口元まで緩む。
もちろんママに「あちらのお客様からです」と言ってもらうこともできた。
が、警戒心の強い彼女がどこの馬の骨かも分からん糞野郎からの贈り物を怪しまないはずがない。
純粋に、彼女の笑顔が見られれば良かった。 今はそれで十分だ。
……などと思えるのは多分今、俺が久々に呑んだ強めの酒で酔っているからであろう。
店の二階はママの居住スペースとなっているのだが、昔その一角の物置のような場所を借りていた。
今も空いているという事なので、この町に居る間はそこに泊めてもらうことにした。
扉を開ける。 埃が宙に舞う。 くしゃみが止らない。 しかし文句も言えますまい。
真っ白な床に座り込み、かつて共にこの部屋を借りていた友人はもう死んだんだろうなと物思いに耽る。
いや、死んでいなかったか? 第一俺に友人なんか居たのか? 俺の一方的な思い込みだったのでは……
まぁ、過去のことなぞどうでもいい。 今重要なのは彼女である。
明日も彼女の調査をすべく、埃を吸わないよう布を被って寝た。
翌日から彼女はこの町を歩き回った。
雑貨屋の用途不明な品物を触ってみたり、怪しい薬を眺めたりしている。
本来女性が目を輝かせるであろう仕立て屋や宝石店には全く目もくれず、
逆の立場である武具屋等泥臭い店に好んで入り、実際に手に取ったりと吟味している。
尤も彼女を納得させるような武器は無かったようだが。
露店で買った牛串やリンゴを片手に広場にぽつんと置かれるベンチに座り、
行き来する人をただぼうっと眺めているだけの日もあった。
そして一日の終わりには必ずママの店に寄り、焼きリンゴを食べていた。
この町に来て二日目の夜、再び店に訪れた彼女は席に座り、
目を泳がせ、少し恥ずかしがりつつ「酒とチーズと、昨日の、焼きリンゴを」と言った。
いや実際聞いたわけではなく、彼女の口がそう動いていただけなのだが。
その時の彼女の可愛さといったらもう、とにかく、ひたすらに愛おしかった。
どうやらママの作る焼きリンゴを気に入ってくれたようだ。
以後、彼女が注文しなくても、ママは酒とチーズ、そして焼きリンゴを彼女に持成すようになった。
ママ「彼女、明日この町を発つんじゃないかしら」
焼きリンゴは彼女が毎日注文するほど美味しいものなのか、
明日からは俺も一緒に食べてみよう、そして同じ時間を分かち合おうと思っていた矢先だった。
ママ「飽くまで推測、だけどね。 彼女が何か言ってた訳じゃない。
いつもは黙って代金払って出て行くけど、今日は『美味かった』って言ってから店を出て行ったのよ」
なるほど確かにその可能性は高そうだ。 リンゴを注文することすら恥ずかしがり躊躇するような彼女が
美味しかったなどという尻がむず痒くなりそうなセリフを普段言うはずが無い。
彼女なりの、ママに対する感謝と別れの挨拶だろう。
俺「じゃあ俺も出発ってことか。 世話になったね、ママ」
ママ「また寂しくなるわね。 行ってらっしゃい、坊や」
テーブル席で酔っ払い同士の喧嘩が始まった。 椅子が倒れ、野次馬が輪になる。
ママはやれやれといった感じで溜息を吐き、カウンターを出てゆっくりと近づいていく。
無言で双方の肩に手を乗せ、にっこりと笑うと、酔っ払いの顔は赤から蒼白へと変わった。
寂しくなることなどないだろうに。
喧嘩両成敗、頭同士がぶつかる鈍い音は耳を塞いでいても聞こえた。
スレ立ててから一時間はサル無効だから、今の内にちょっとでも多く貼っておきたいんだ
支援は死ぬほどありがたい
生憎の雨だが翌日、ママの言うとおり彼女は出発した。
朝は小雨だったが、時間が経つにつれ雨脚は強くなり、昼過ぎの現在土砂降りである。
雨音で足音がかき消されるため いつもより彼女に近づけるものの、視界がすこぶる悪い。
何年も穿き続けているブーツの縫い目から水が浸入してきて不快感が半端ない。
空を見上げてみても灰色一色で切れ目が見えない。
数日雨が続くことを考えると足が重く感じた。 物理的にも精神的にも。
しかしそこに彼女がッ 居る限り 歩くのをやめないッ!
夕刻、彼女は洞穴を発見した。 今日はそこで泊まるらしい。
洞穴の中であれば、濡れていない焚き火に使えそうな枝ぐらい落ちているだろう。
さっきの町から彼女が歩く方向からして、大体の進路と次に到着する町の検討はついている。
先回りして町の入り口で待機することもできる、が。 この近辺にはクマが現れる、ことがある。
いくら彼女と言えど、クマへの対処はできますまい。
守護神たるこの俺ががおーっと彼女に襲い掛かるクマを撃退し、そしてあわよくば……!
その後を妄想もとい想像し、こっ恥ずかしくなり、ムフフフフと木の幹に抱きつく。
あれ、木ってこんなに温かったかな。 木ってこんなに毛がモジャモジャしてたかな。
……
俺「朝日が眩しいぜ……」
言うほど朝日は眩しくない。 今日も雨が降っている。
昨日のクマとの死闘の末、なんとか勝利を収めることができた。
しかし失ったものは大きく、これからの旅に支障がでることは目に見えていた。
俺「しばらくの飯、どうすっかな……」
食料は犠牲になったのだ……
翌日も翌々日も相変わらずの雨だった。
止めどなく降り続ける水は地面をぬかるませ、彼女と俺から体力を奪った。
彼女の歩くペースは明らかに落ちている。
俺の脚も重い。 心なしか身体がひどくだるく感じる。
彼女に思いを伝えられないがための恋わずらいか、とも思ったが、どうやら違うようだ。
鼻水が溢れる。 頭が痛い。
これはただの風邪だ!
馬鹿は風邪を引かないというのは嘘だったのか。
いや、それとも俺が馬鹿じゃないことが証明されたのか。 だとしたら喜ばしいことである。
ブーツの縫い目、マントの隙間から滲み、中身まで濡らす水は俺から体温をも奪った。
身体が震える。 こんなに寒いのに、汗が止まらない。
咳が出る。 くしゃみが出る。 しかしこちらの存在に気付かれてしまうためダイレクトにできない。
無理やり抑えると肺が痙攣し、呼吸も満足にできない。 ヒューヒューと喉笛が鳴る。
しかし彼女のためならば、と強引に足を動かす。
視界がぼやける。
妙に時間が遅く感じられたが、ようやく夕刻になったようだ。
彼女はまた手頃な洞窟を発見した。 暖かな明かりが見える。 火は熾せたようだ。
それならば俺のようにクマに襲われることも寒さに震えることもないだろう、と安心する。
一方の俺は近くの木の根元に大きな洞を見つけ、そこで休んでいた。
水は流れ込んでくるが、雨風を凌げるだけでも良しとしよう。 言うまでもないが火は熾せない。
食欲以前に食料がない。 採りに行く気力もない。
空腹のあまり胃液が逆流する。 びちゃびちゃと黄色い液が口から滴る。
しかしそれを拭う気力もまた、ない。
とりあえず、水を一口だけ飲んで、寝た。 明日無事に目覚めんことを。
奇跡的に目が覚めると、空は青かった。
晴れたぜきゃっほう!と子供のようにはしゃぎ喜ぼうとしたとき、
彼女が泊まっていたはずの洞窟が蛻の殻になっていることに気付いた。
SIMATTA寝過ごした!!
よく見れば太陽は真上を越している、もう昼過ぎではないか! バカカオレワー!
彼女はもう町に着いているかもしれない。
急がなければ、と重い体を引きずるように走る。 スピード的に言えば、全速力の蛙と同じぐらい。
森を抜け、町が見えてきた。
人だかりの中に、見覚えのある横顔がある。 彼女だ。
よかった追いついた、と安心しようと思った瞬間、彼女が誰かと話しているのが見えた。
男だ。
"あの"彼女が男と、しかも親しげに会話だと!!?
あれか、あれなのか、つまり彼女はもう――
全身から力が抜け、膝から崩れ落ちる。
僕もう疲れたよパトラッシュ、なんだか凄く眠いんだ。
お花畑の向こうで母親が手を振っている。 今行くよ。
そういえば母親はまだ死んでいなかったなと思いながら、意識を手放した。
旦
雨が止んだ日、ちょうど町に着いた。
なんと間の悪い、こんなことならもう少しあの焼きリンゴを堪能したかったと後悔する。
ともかく、雨で疲れていた。 今日は宿を探してさっさと寝よう。
そう思いきょろきょろと見回していると、見覚えのある服装の男を見つけた。
その男もこちらの存在に気付いたらしく、小走りで近づいてきた。
気付かなかったことにして逃げようかとも思ったが結局は失敗に終わった。
伝達員「お探ししておりました。 伝令です」
心の底から舌打ちした。
「控える戦のための召集」だそうだ。
また国同士の喧嘩に付き合わねばならんことを考えると反吐が出る。
そして、そんなことも断ることのできない自分には尚のこと腹が立つ。
伝達員「馬車を用意してあります。 町の外まで」
私「疲れているのだが。 一日ぐらい、」
伝達員「馬車の中でお休みください」
融通の利かん奴だ、こいつを殺して逃げようか と思ったが面倒になりそうなのでやめた。
後からやって来た部下と話しながら馬車を待った。 呼んでおきながら待たせるとは何事か。
ゴトゴトと馬車が進む。 頬杖をつき小窓から外を眺めていると、
ボサボサの頭をした男が倒れているのを見つけた。 行き倒れだろうか。
それに気付いた部下は急いで馬車を止め、その男に駆け寄った。
お人好しな奴だ。 あんなもの放っておけば良いものを。
部下「真っ青ですがまだ呼吸があります、すぐにそこの医者に連れて行かないと!」
私「それなら――」
「当分の世話代だ」と言って、路銀のつもりで持っていたが結局余ってしまった金の入った袋を
部下の傍に投げる。 私もお人好しだなぁと、溜息を吐きながら頭を掻いた。
旦
知らない天井だ。
目覚めた俺はまずそう思った。 俺は生きているのか。 死んでいるのか。
死んでいるなら天国だろうか。 そうであって欲しいなと見回してみると、
看護婦「あんら、目ェ覚めた?」
白衣の天使、と言うには少々老け、ぽっちゃりしている。
ここは天国にあらず。
看護婦「親切な男の人がねぇ、倒れてたあんたをここまで運んでくれたんだよ」
男、か。 彼女が助けてくれたのではないか、という一抹の期待を抱いていたが、
見事にぶちのめされた。 まぁ、そうだわな。 ……彼女、か。
看護婦が蜂蜜湯を手渡してくれた。 軽くお辞儀をして受け取り、一口飲む。
温かかった。 とても温かかった。
俺「ぅぐう゛うぅ、あっだ、がいよ゛ぉぉ……」
涙が溢れた。
久々に感じた温かさのためか、彼女に男が居るかもしれないという悔しさからかは分からない。
とにかく、流れる涙をしばらくの間止めることができなかった。
その後体力は順調に回復した。
寒さと栄養不足と疲労により発生した風邪だったため、
温かい布団と食事と休憩、そして少しの薬を飲めば治るのも当然だと言えるが。
看護婦さんにはいろいろと説教された。
クマが出るのを知っていて山道を通るのは馬鹿のすることだとか、
クマから逃げるにしても食料全部渡すとかアホじゃないのかとか、
旅をするなら自分の体調管理ぐらいしろとか、好きな女性のタイプは何かとか。
女性のタイプに関しては、紳士的に「貴女のように包容力のある素敵な女性」だと答えた。
翌日のリンゴはウサギを模されていた。
目が覚めて6日目、この診療所を出ることにした。
体力はだいたい回復したし、長居しては入院費が馬鹿にならない。
身支度をする。 新しいブーツを買わないとな、と思う頭の片隅で彼女の顔が浮かんだ。
彼女はもうこの町を発ってしまっているだろう。 この町は商品の中継地、
道は多くて彼女の行く先など分からない。 きっともう、会うことはできない。
まぁ、結局俺の恋路などこんなものだ。 でなければ今まで童貞を守れているはずがない。
……諦めるのが得意になったのはいつからだろうか。
看護婦「御代は結構だよ、運んでくれた人が治療費にって大量の金を置いて行ってくれたから」
なるほどそれであのVIP待遇か。 とんだイケメンも居たものである。 どこぞの貴族だ。
ただここまで尽くしてくれた看護婦さん及び登場していない医者に敬意として
多少のチップを渡さにゃならんだろうと思い、金の入っているはずの袋をまさぐった。
しかしそれらしい感触は一向に見つからなかった。
まさか中身を盗られたのかと疑いつつ探り続けると、一枚の紙が手に触れた。
それを袋から引っ張り出すと、見慣れた字でこう書かれていた。
『 可愛い坊やへ
お金がいっぱい手に入ったそうなので、勝手に抜いておきます。
これで貯まりに貯まったツケ及び借金の約1割を返済したことになります。
最初私からお金を借りたとき、出世払いだって言ってくれましたよね。
坊やが立派に出世してくれるのを楽しみにしています。
健康には気をつけてください。
みんなのママより
p.s.早く払わねーとケツの毛を毟りに参上します 』
俺「そりゃねーぜママン!」
忘れていた、すっかり忘れていた。
俺がママの町に寄り付かなくなった理由――それは借金だ。
出世見込みのなくなった俺はママに毛を毟られることを恐れて町に近づかぬようになったのだ。
そうかあの時の笑みはそういう意味だったのか!
町を出るときに渡された食料はママの優しさでなく、普通に俺の金で買った食糧か!
なんてこった、してやられた!
頭を抱える。
俺「また働かないといけないのか!」
――
係官「はい、三ヵ月分の給料と褒賞金。 確認してくれよ」
久しぶりに仕事をして稼いだ。 貨幣が本物かどうかを噛んで確認していると、
団長が直々に話しかけてきた。 契約をもう少し延長しないか、とのこと。
俺「でもなぁ。 大きな戦には参加したくないし」
団長「大丈夫だ大丈夫! そんな博打事はやりはしないから! ね!」
見事に口車に乗せられた俺は、契約をあと半年、延ばした。
俺は傭兵である。 傭兵というと孤児だったとか逃亡奴隷だったとか
そういう泥臭い過去をもつ者が多いが、俺にはそんなヘビーな要素はない。
俺は農村で産まれた。 それなりに安定した収穫があり、冬以外は毎日の食に困らないぐらい
恵まれた環境で育った。 父と母、姉と弟の居る幸せな家庭だった。
それなのに何故そこを抜け出したかというと、当時好きだと錯覚していた女の子にフられたからである。
俺がフられた噂は瞬く間に村に広がり、居た堪れなくなった俺は、いつかでっかくなってやると言い放ち
村を抜け出した。 14歳の春のことである。
盗んだ馬で行く先も分からぬまま走り、行き倒れていたところをママに拾われた。
しばらく店などを手伝わされたが、常に草原を走り回る少年のように自由でありたい俺にとって
命令に従って働くいうのはどうも性に合いそうになく、結局は地に足のつかない傭兵となってしまった。
尤も俺は戦うことが好きなわけではない。
できる事なら争いには参加したくないのである。
だから、「基本的には」契約こそするものの戦場では極力安全な場所に避難し、
定時に帰る公務員よろしく安定した給料のみを頂くのだ。 いのちだいじに。
俺「……今回もそのつもりだったんだけどなぁ。 どうしてこうなった」
大きな戦には手を出さない、という契約だったはずだが。
どう見ても大国の国境攻めです。 本当にありがとうございました。
この戦は、いくつかの小国が同盟を結び、大国の城塞を落とすことが目的らしい。
俺が望んでいた貴族同士の小競り合いとは訳が違う。 団長め騙しやがったな!
相手の大国が城塞に配備している兵団は、いくつかある正規軍の内1つ、数は数万。
一方こちらの連合軍は数倍の人数。 数だけ見れば圧倒的、なのだが。
俺の属する兵団は、他の団が正面から突っ込み、相手がそこの守りに集中している隙を突いて
西側から後ろに回りこみ、裏から一気に城塞を乗っ取るという妙なまでに大役を担っていた。
そんな旨い事進む訳ねぇよなと思っていると、案の定敵の隊が待ち構えていた。
相手はこちらの半数ぐらい。 しかし流石正規軍だけのことはあって数など関係なかった。
教育が行き届いている、と言えばいいのだろうか。 寄せ集め集団とは違い、隊全体のレベルが高い。
更に相手の兵の中でもやけに目立つ奴がいた。 鎧からして平の兵士のようだが、
こちらの兵20人をあっという間に肉塊へと変貌させるほどの凄腕だった。 怪物かこいつは。
その様子を見た団長は大層ご立腹であり、そろそろ俺にも火の粉がかかりそうだし
退散しようと こそこそ隠れる準備をしていると、逆にそれが目立ったのか指名されてしまった。
団長「お前、傭兵だったよな! 行かないと前の分の給料も払わんぞ!」
俺「んな殺生な!」
あろうことか怪物君と一騎打ちになってしまった。
怪物君と俺の周りには兵で囲まれ輪が作られ、もはや逃げ道はない。
お前ら見てないでちゃんと戦えよ!!!
常識的に考えて多勢で突っ込んだほうがいいだろうが!
くそう戦いたくねぇよ。 ……しかし。
戦いたくはないが、死を甘んじることもできない。 せめて童貞を卒業してから。
こうなった以上、やるしかあるまい! さっさと終わらせて逃げる!
手首の動脈を切ってしまえば、だいたいの奴はひるんで戦意を喪失するものだ。
しかしこの怪物君は中々にしぶとく、結局腕一本落とすまで戦うことを止めてくれなかった。
自軍から歓声と拍手が沸き起こる。
いや拍手とか要らないからそこの道空けてくださいお願いします。
その思いも虚しく、逆に戦わなければいけない人が増えただけだった。
動き回ったために人の輪の形はくずれているが、横は崖。 結局は逃げられない。
次の相手は兜に立派な羽飾りをつけている。
その人物は「隊長」と呼ばれた。
隊長。 ここの防衛を任された隊の、隊長か。
ならばこの隊長をなんとかしてしまえば、相手方は戦意を失い道が開けるかもしれない。
さすれば俺は自由になれるのではないか!
団長「こやつを倒せば報酬は約束の3倍だ!」
半年分の給料が1年半分になるのは魅力的だが、期待はしていない。
とにかく逃げることを考えると俄然やる気が沸いてきた。
よし、ちゃっちゃとやっちゃおう。
小柄で細身の身体。 正直舐めていた部分もあったが、隊長と呼ばれるだけあった。
素早い攻撃の数々は動きに無駄がみられず、なおかつ力強い。
これは先ほどのように手首だけを狙う余裕はなさそうだ。
相手の攻撃を適当に往なし、時にはやり返したりもする。
さて、どこを狙えばやる気をなくしてくれるか。
と、手元で、ピシッという音が聞こえた。
嫌な予感がし、恐る恐る自分の剣を見てみると、皹が入っていた。
まずい、安物じゃやっぱり脆かった!
当然、刀身に皹が入ったことは相手も分かっているだろう。
これは、まずい。 本格的に。
隙の少ないこいつへの反撃のチャンスは攻撃を弾いた時。
しかしこいつは手数が多い。 こんな皹の入ったものでは弾くことなどできない。
いや、冷静になれ。 COOLになれ。
小さい脳で考えろ、もう全てを受け入れてしまえ!
攻撃を弾くと、剣は無残にも真二つに折れ、地面に突き刺さった。
得物を失い万策尽きた。 背後は崖。 逃げ道はない。
隊長は止めを刺すため、ゆっくりと近づいてくる。
そうだ、近づいて来い。
間合いが詰まる。 ――ここだ。
背中に隠しておいた短剣を握り締め、
甲冑の隙間、首元目掛け、一直線に突き上げた。
短剣を握る手が捉えたのは、首の皮と血管を切り裂く感触、ではなく
金属同士が擦れ合う振動――短剣が、兜を掠める感触だった。
だが、しくじった、とは思わなかった。
それは紛れもなく、弾き飛ばされた兜から現れたのが
三ヶ月前まで求め続けていた女性の顔だったからであろう。
驚きを隠すことができず、手を止めてしまった。
何故彼女が――
俺にとって彼女は特別な存在であるが、彼女にとっての俺はただの傭兵でしかなく、
こうやって手を止めた瞬間も彼女にとってはただの隙でしかないので お構いなしに剣を振るう。
しまった。 咄嗟に顔を腕で庇う。
瞬間、横からバンッという弾けるような音が3つ同時に聞こえた。
目を開けると、自軍から放たれたボウガンの矢が、彼女に突き刺さっていた。
彼女「あ、」
全てがスローモーションに見えた。
バランスを崩した彼女は崖淵で足を滑らせた。 手を伸ばす。
俺は咄嗟に短剣を捨て、伸ばされた彼女の手を掴む。
しかし重力に逆らうことはできなかった。
「隊長!!」と叫び声が聞こえる。
最後にボウガンを構えていた自軍の兵三人の顔を目に焼きつけ、
彼女を胸に抱え、崖の底へと落ちていった。
川の底から、木の根を伝って這い上がる。
水を吐き出し、呼吸を整える。 鎧着けての入水はもう御免だと心底思った。
落ちた場所が川だったこと。 その川が増水によって深さが増していたこと。
この二つによってどうにか生き延びた。 正直今でも信じられない。 なんというご都合主義だ。
一緒に救った彼女の様子を見る。
意識はないようだが、ちゃんと水を吐いて呼吸をしている。
ひとまず安心する傍ら、不謹慎ながらも人工呼吸という
正当な理由の下での口付けのチャンスを逃したことを悔しく思った。
空から水がぽつぽつと降ってきた。 もしかしなくても雨か。
雨には良い思い出が全くないので、とにかく雨曝しにならない場所に移動しようと彼女を抱き上げた。
都合よく発見した洞穴に彼女を寝かせ、考えた。 俺はどうすべきか。
彼女は手を伸ばせば届いてしまうほどの距離に居る。 ここまで近づいたのは初めてだ。
水分を含んだ髪は艶かしく顔にへばりつき、なんというか、もう、こりゃたまらんといった感じである。
ええいくそ、治まれマイサン! 何のための日々の調教か、今はそれどころじゃなかろうに!
まず、彼女に刺さった矢をなんとかするしかあるまい。 それで血を止めなければならない。
ってことは、包帯を巻く。 そのためには鎧を脱がせないといけない。 そのまま巻くのか?
いや、服は濡れている。 着替えか、せめて吸った水を絞らなければいけない。
やっぱり脱がせなければばばばばばばばばばb
脱がせるのか? 脱がせるのか!? むむむ無抵抗の彼女の衣服をひん剥くのか!!?
それであわよくば裸で身体を温めあったりなんかしちゃった日には俺はどうなってしまいますか!
否、落ち着け落ち着け。 我は紳士なり。 この程度で取り乱してはいけない。
兎にも角にも、優先すべきは彼女を助けること。 愚息のことなぞどうなっても良い勝手に威きり勃っておれ!
抜いたときの痛みが出来るだけ少なくなるように角度を考え、握る。
抜くぞ。 本当に抜くぞ! もちろん彼女に刺さった矢の話である。
力を込めた時、彼女は小さな呻き声をあげた。
そしてゆっくりと目を開けた。
ドキッとした。
旦
意識を取り戻したのは痛みの為である。
何故痛むのか。 ああ、ボウガンで撃たれたのか。
それで確か、足を滑らせて崖の下に落ちた。 下は川になっていたな。 いやしかし、
だからと言って助かるものか。 甲冑を着け浮き上がることもできずそのまま死んでいても――
目を開けると、ぼんやりと人影が見える。 衛生兵だろうか。
段々はっきりと見えてくる。 いや、こんな甲冑を着る者はうちの兵には居ない。
安っぽい甲冑。 金を惜しんでか動きやすさのためか、左腕にしか装備されていない腕甲。
はっとした。 こいつはさっきまで戦っていた相手ではないか!
腰から短剣を抜き、ひゃうと斬りつける。 相手の頬を掠め、赤い筋を引いた。
私「近付くな!!」
ボサボサの頭をした傭兵は驚いたように一歩下がり、両手を前に突き出す。
そして何かを言いたそうに、口をぱくぱくと動かした。
短剣を突きつけたまま睨むと、眉を下げ困ったような顔をした。
なんと情けない。 こいつに、敵に助けられたというのか!
ボサボサ頭「け、剣を降ろしてくれ。 俺に敵意はない」
男はおもむろに装備していた武器を地面に置きだした。
短剣に、どこに隠していたのかナイフを数本。 いや、しかし。
私「騙されるものか。 また油断させて殺す気だろう」
ボサボサ頭「そんなつもりは、……いや、そう思っても構わない。
とにかく、その、刺さった矢をなんとかしてほしいんだ。 血が……」
私「ふん、さっきまで殺し合っていたというのに私の心配か?」
男は下がった眉を更に下げた。
旦
困ったことになった。
現在持っている武器全てを彼女の前に晒し、手の平を向け、
完全に「降参」の形をとっているにも関わらず彼女は警戒を解いてはくれない。
ほんの少し前まで斬り合っていた上、あんな不意打ちをしたためそうなるのも当然だが。
こんな事ならうだうだと考えずにさっさと矢を抜いて適当に止血してこの場を立ち去れば良かった。
今となっては少し動いただけでも彼女に殺されてしまいそうである。 目がマジだ。
いや、彼女に殺されるのなら本望なのだが、こんな形で――「敵」として殺されるのは御免である。
俺「お、お互いの為だ、頼む」
彼女「何がだ」
俺「貴女は俺がこの場所を仲間に教える恐れがあるから、必ず殺そうとするだろう。
だが俺も命が惜しい。 だから貴女が襲ってきたらやり返す。 俺の短剣はそちらにあるが、
腕一本さえ犠牲にしてしまえば、得物を取り返し貴女の首を落とすことぐらいは容易い。 そうだろう」
俺「貴女がここを出るとしても。 落ちるところを見られているし、しかも手負いだ。
貴女の首を貰うべく、沢山の兵が探しているだろう。 その脚で逃げることが、
その腕で大人数と戦うことが、できるかどうか。 貴女が一番分かっているはず」
俺「もちろんそれは俺にも当てはまる。 そっちの捜索隊に見つかれば必ず殺される」
俺「上での連戦と、激流の中から鎧着こんだ人間を引っ張り上げてここまで運んだ。
正直、脚は棒になっている。 心っ底疲れている。 もう歩けない。 ……だから、だ」
俺「お互い。 回復するまでは、ここに隠れていたほうが良い」
彼女「……」
互いにしばらくの間静止し続けていたが、彼女が動き出した。
諦めたのか、ずっとこちらに向けていた短剣を降ろしたのである。
彼女「……得物は貴様の手の届かん場所に置いておく」
腰に収め、そして腕と脚に刺さった矢をズチュと乱暴に引き抜いた。
矢の刺さった痛々しい彼女の姿から抜き出し、とりあえず安堵の息を漏らす。
彼女「何故私の身を案じる。 慰み者にするのなら傷物は嫌か」
俺「ち、違う! それだけは断じて違う!」
彼女「では何故、しかも急に。 私が女だと分かったからか?」
俺「え、いや、その、ええと……も、もう戦う理由が無いからだ」
彼女「理由? そんなもの貴様が敵軍に属しているというだけで充分だ」
俺「いやさっきはああ言ったが、俺はもうあの兵団を抜ける。 この戦から抜け出す」
彼女「は、……怖気づいたのか」
俺「違うと言えば嘘になるが、元々この手の戦には参加しない契約だった。
なのに騙された。 契約違反。 俺はもうこの兵団に居てやる義理は無い」
彼女「それでも金にたかるものではないか、傭兵は」
俺「……この戦、どっちが勝つと思う。 うちら連合軍とそちら」
彼女「圧倒的に我が騎士団だろうな」
俺「俺もそう思う。 こんな死臭の漂うところで金が集まるわけが無い。 負け戦には興味ないよ」
矢傷を負った部分を押さえながら、彼女はふむ、と納得したような感じであった。
俺はというと、こんな形ではあるが彼女と会話できたことに感動すると同時に
緊張で心臓を口から吐き出しそうになっていた。 よく喋れた俺! よくやった! 誰か褒めて!
旦
このボサボサな頭をした男が言うことも一理あった。
確かに今の状況で外に行くのは危険である。 ここは回復を待ったほうが良い。
だがこのままこの男と居て大丈夫なのだろうか。
こいつから殺意は感じられないが、それは押し堪えているだけの演技かもしれない。
また、姦淫される恐れもある。 先ほど「それはない」と言ったが、所詮は男だ。
しかしそのつもりがあるのなら、私の意識が回復しない内にやっておくこともできたはずだ。
性欲の捌け口にするだけであれば私に刺さった矢を抜こうとする必要も無い。
どうも、解せない男だ。
視界の端で、男は押し殺したような小さなくしゃみをした。
季節は春になったと言っても雨が降ればまだまだ寒い。
川の水に至っては山の雪解け水だ、冷たくないはずがない。
しかし敵兵に見つかってしまうため火を焚くこともできない。
せめて服に含んだ水分を絞れればいいのだが、仮にも敵の前で甲冑を脱ぐなど――
パチン、という金具が外れる音がした。
見てみると、男が甲冑を脱いでいた。
唖然とした視線に気付いた男は「この前風邪で死に掛けたんだ」と言った。
いや、だからと言って警戒を完全に解いた訳でもない私の前で脱ぐか、普通。
男は服をも脱ぎ、軽く絞ってから顔と頭、身体を拭き、そしてもう一度、
今度は強く絞り、2,3度はたいてから、服を着なおした。 甲冑を着る様子は無い。
……こいつ、もしかして本当に馬鹿なだけではないのか。
ずっとピリピリしていた自分が馬鹿馬鹿しく思えてきた。
甲冑の金具を外す。 仕方ない、風邪如きで戦えなくなっては面白くない。
男は大層驚いた様子で目を丸くし、そして大急ぎで背を向けた。
ボサボサ頭「み、見てませんから、ど、どうぞ……」
何を恥ずかしがっているのか。
それよりも、丸腰の状態で敵に背を向けることの危険さを知らないのかこいつは。
肩甲、胸甲板、前当てを外し、ガシャリと立て掛ける。
旦
俺は紳士俺は紳士俺は紳士俺は紳士俺は紳士俺は紳士俺は紳士俺は紳士俺は紳士―――
何度もそう自分に言い聞かせているのは言うまでもなく彼女が背後で服を脱いでいるからである。
いつかの滝でもこのような事はあったが、あんなものはもはや序の口だ。
今は、彼女と同じ空間、この密閉空間に、彼女と居る。 言わば生の彼女だ。
彼女の小さな呼吸が聞こえる。 服と服とがこすれ合う絹擦り音が聞こえる。
皮膚と皮膚がこすれ合う音が聞こえる。 彼女を直接見ることはなくても、彼女の動く様子が
無駄に高性能な耳によってありありと脳に伝達され、そして映像化してしまう。
なんて無駄な第六感だ! くそう、たかが息子の分際で脳まで侵略しようというのか!
ええいなるものか、彼女の裸など想像してなるものか! 我は紳士ぞ!
彼女は無事 矢傷の止血も終え、滲みこんだ水も絞り出した服を着ている。
俺はほっとする一方、股間から来る無念の情に焼き殺されそうになっていた。
何故見なかった! 彼女の裸を見るチャンスだった、もう二度と無いであろうチャンスだった!
貴君は馬鹿なのか! 阿呆なのか! 賢者なのか! 臆病者なのか! ヘタレなのか!
ただ覗くというのが忍びないのであれば何かしら理由をつけて見る事は出来たはずだ!
マントを裂いたものを使わせず、貴君が持っていた包帯を渡せばその時に見ることができた!
包帯が巻き難いであろう腕、手伝ってやろうかと訊くことぐらいはできた!
殴られたり斬られたりという危険が伴っていても覗くのが男というものではないのか!
貴君は! 何故そうまでして! 紳士であろうとするのだ! 死んでしまえ!!!
息子よ、貴様の気持ち、分からんでもない。
しかしそのように己の欲望のままに行動し続けていれば必ず身を滅ぼす。
いやだからと言って段階を踏めば彼女の裸を覗き見ても言いという訳ではなく、
覗きという行為そのものが紳士のマナーに反するのだ。
どうしても裸を見たいというのであれば、然るべき道を通らねばなるまい。
たとえこのまま30を過ぎ魔法使いになろうとも、紳士の道を外してはいけない。
紳士であろうとする理由。 愚問だな。 そんなもの貴様が存在するからに決まっている。
だが、喜べ愛する馬鹿息子。 良い事を教えてやる。彼女は今、鎧を着てはいない。
鎧を着けても嵩張らない為に中に着られた服は、旅の最中のそれよりも薄手だ。
つまり身体のラインが前よりはよく見える、しかも至近距離だ。
彼女は貧乳――もとい、控えめだ。
それからしばらく、互いに何も話さないまま、ただ時間だけが過ぎた。
俺としては是非とも彼女と会話をしてみたかったのだが、何を話せば良いのか分からないし
彼女も会話をするような雰囲気ではなかった。 仮にも彼女にとっての俺は敵兵なのだ。
雨が止んだ。
日が暮れ始めると、彼女は鎧を装備し始めた。
名称のよく分からない防具の数々を慣れたように装着していく。 あまりにも重々しい。
暗くなってから出発するつもりだろう。
傷が痛まない訳は無いが、彼女は俺と違って騎士、やることがある。
それに自身の事が分からないほど馬鹿でもないだろう。 無理に引き止めることはできない。
陽が沈み辺りは暗くなる。 手入れを終えた短剣を収め、彼女は立ち上がった。
そのまま立ち去ると思っていたが、意外にも声をかけて下さった。 ありがたや。
彼女「貴様、本当に戦場から逃げるのか」
黙って頷くと鼻で笑われた。 臆病者だと、負け犬だと思われたろうか。
外の様子を伺い、安全を確認してからゆっくりと洞穴から出る。
彼女「次に戦場で会ったら、必ず殺す」
そう言い残し、闇の中に消えていった。
俺「さて、と」
彼女が立ち去った今、もう此処に居る必要は無い。
担保として彼女に渡していた短剣その他諸々を拾い集め、洞穴を抜ける。
申し訳ないが、俺は彼女に嘘を吐いた。
我が団の野営地を目指し、足を進めた。
弓兵「いやーまさか生きてるとはな! あれだろオレの矢のおかげだろ?」
夜中、野営地に戻ると、偶然にも見張りをしていたらしい同僚が話しかけてきた。
曰く、俺が彼女と崖から落ち、相手も隊長を失ったことで動揺する――かと思われていたが、
そのような事はなく、むしろ有力らしい俺を失ったこの団が乱れまくり、兵の数は半分になった。
団長の指示により撤退、明日は正面から攻めろ、とのこと。 士気は高くはないようだ。
弓兵「でも惜っしいよなー、女隊長殺しそびれたんだもんなぁ。
それさえ出来りゃ、給料も思いのまま、もしかしたら騎士にもなれたかも知れねぇよ」
俺「でもあの隊長に俺が殺されなかったのは お前らの矢があったればこそだ。
礼がしたい、他の二人も連れてきてくれ。 あぁ、他にばれちゃいけないから内密にな」
野営地から少し離れた場所、俺と顔をニヤつかせた男三人が輪を囲む。
酒を飲みながら俺の生還を喜んだり「オレの矢はどこに当たった」と自慢話をする。
「じゃあ」と俺が腰に手を伸ばすと、男たちは待ってましたと言わんばかりに目を輝かせた。
俺「お前の矢は確か、腕に当たったんだな」
野営地からかっぱらってきた長剣を抜き、男の肩を切り落とす。
「ギャアアアアア」という悲鳴が響き、森に住む野鳥がバサバサと羽ばたいた。
弓兵「テメェ! 何のつもりだ!!」
俺「るせぇ!! 戦士の神聖な決闘に横槍入れて汚しやがって! 恥を知れ!!」
弓兵「オレたちゃお前を助けようと――」
俺「ヴァルハラで懺悔しなッ!!」
彼女の仇を討って、やり残したことはなくなった。
あとは金を少しくすねて、闇の中へスタコラサッサと逃げ出した。
―――
見渡す限りの人人人人人人馬人人人馬人人……流石王都、と言うべきか。
町は国の守護英雄である かの騎士団を、紙吹雪と鼓膜が破れるほどの拍手と歓声で迎えていた。
鎧を着け威風堂々と馬に跨り、黄色い歓声に囲まれる国の英雄達の中に彼女の姿を見つけた。
他の隊長達に見劣りしない程、彼女は輝いて見えた。
噂によると、俺と分かれた後も連合軍の隊長格の首をいくつか落としたらしい。 あの傷で。
この国において、功勲最高位を受けた騎士団のみが入る事を許された正規軍。
その中でも最強と言われる団で、軍内いや国内唯一の武勲で以って成り上がった女戦士がいる事、
そしてその女隊長の名前――傭兵をしている以上、知らないわけがない。
彼女の名前を知りたい知りたいと思っていたが、まさかとっくに知っていたとは。
やはり高嶺の花というか、俺程度では手の届かない存在なのだな、と少々寂しくなった。
俺「最っ悪だよもう……」
王都、狭い路地にある酒場にて、自棄酒。
思わず口に出してしまうほどに最悪な気分であった。
俺「何たって俺ぁいつもこんな……」
俺「ちくしょう……」
酒を片手に俯く。
最悪だ。
一目見た瞬間から、近付きたいと、会って話しがしたいと――そう思い続け、
1ヶ月以上もの間、ずっとずっと、追い続け――振り向いてもらえないかと、
参加したくもない闘技会に参加し下半身を狙われ、勝手に買って出た
クマからの護衛のおかげで食料を奪われ飢えと寒さで死に掛けたりと――
少しは、努力をしていた、つもりだった。
しかしどうだ。
実際彼女が振り向いたときの俺は、彼女の敵――
しかも彼女の部下を何人も一生戦う事の出来ない身体にし、
それどころか彼女自身をも殺しかけた。 取り返しのつかないことをした。
彼女はもう、俺を敵としか――殺しの対象としか、見てはくれないだろう。
こんなことになるのなら、ずっと遠くから彼女を眺めているだけでよかった。
例え彼女に振り向かれる事はなくとも俺は眺めているだけで心が躍り、
そしてぽかぽかと温かい気持ち 「合席をしてもいいか」 になる事ができた。
例え彼女に 「おい」 想い人が居たとしても、彼女さえ幸せなのならば、
笑顔が見ることができるのならば、それだけで 「おい、聞いているのか」
俺「だぁーうるせぇえええ!!!! 勝手に座tt」
彼女「なら、座らせてもらう」
旦
壮大な歓迎を受け、城に導かれる。
下女に言われるがままに風呂に入り、頭を洗う。
着替えとして用意されたドレスは断固拒否した。 誰が着るか、あんなもの。
祝賀会が行われる大聖堂に入ると、また拍手で迎えられた。
貴族の娘達に囲まれ、きつい香水の匂いが充満し息苦しくなる。
抜け出した先では御曹司に囲まれ、少しでも目に留まろうと花束だの指輪だの渡される。
毎回の事ではあるが、いつまで経っても慣れないな。 他のお偉いさんの白い目も。
こっそりテラスから飛び降り、城から出る。
あんな所に居ては窒息してしまうのではないか、と襟のボタンを外しながら思う。
夜中だというのに街はまだ活気に溢れており、人々は酒を浴びるように飲んでいた。
まぁ、戦は終わったのだ。 浮かれるのも良かろう。 そして私も飲もうと思った。
狭い路地を抜け、行きつけの酒場に向かう。
出入り口で寝ている酔っ払いを蹴り退かし店内に入ると、こちらもやはり混んでいた。
空いている席は無いかと見回していると、店の奥から店主が現れた。
店主「やや、隊長殿! どうしてまたこんな所に――」
私「空いていないようだな」
店主「そんなものでしたら客を追い出してでもご用意させていただきます」
私「いや。 あそこ、一人は座れそうだ。 合席させてもらおう。
自分で頼んでおく、店主は営業を続けてくれ、忙しいだろう」
どこかで見たことあるようなボサボサの頭が、そのテーブルに突っ伏していた。
何かをぶつぶつと言っているし、寝ているわけではないのだろうと話しかける。
が、耳に届かなかったらしく、もう2,3度声をかけてみた。 今度は聞こえたらしい。
ボサボサ頭「だぁーうるせぇえええ!!!! 勝手に座tt」
なるほど、見たことがあるような気がしたわけだ。
ボサボサの頭をした傭兵は、目を点にしてしばらく硬直した後、驚いてか椅子から転げ落ちて
後頭部を強打し、頭を抑えてのた打ち回った。 大袈裟な奴だ。
旦
ぶつけた頭はまだ痛むが今はそれどころの話ではない。
目の前に、目の前にだ。 彼女が居る。 彼女が座ってゐる。
俺を殺しに来たのかと思ったが、どうやら単純に酒を飲みにきただけのようだ。
店員が酒の入った樽を持ってきた。 彼女はそれを指差す。
彼女「私の酒だ。 好きに飲めば良い」
なんて畏れ多いことを!!
完全に酔いが醒めてしまった俺の向かいで彼女は黙々と酒を飲み、チーズをつまむ。
自分の酒を置いてもらっていることからしてこの店の常連なのだろう。
ここを選んで正解だった。 ……いや、失敗だろうか。
彼女の今の服は、おおよそ庶民では手が届かないほどに高そうなものだった。
ドレスなどの女性用ではなく男物なのだが、それが妙に似合っている。
彼女は苦しいのかそれを着崩し、襟を胸元まで開けていた。
鎖骨が、わずかに、見えます。
ところで彼女は何故今 此処にいるのだろうか。
城に入っていくところは見た。 今は祝勝会の真っ最中ではないのか。
今の彼女の服装からして参加はしていたのだろうが――
彼女「……なんだ」
俺「あ、いや、」
しまった、無意識のうちに見てしまっていたか。 急いで逸らし、壁のシミを見る。
しかし見るなと言うのも無理な話だ。 横のテーブルの酔っ払った親父より
目の前の可愛い姉ちゃんに視線が流れてしまうのは当然なこと、仕方が無い。
先ほどの「なんだ」を言うために顔を上げた彼女はそれからまた酒に目線を戻す
……のではなく、何かに気付いたかのように俺の顔をじっと見つめた。
な、何ですか顔に何かついてますかそんなに見られると緊張して吐きそうになります
彼女「お前、以前どこかで会ったことがあるか?」
俺「せせ戦場で……」
彼女「それ以前、だ」
いや俺はそりゃあもう会ったとかそういうレベルじゃなくて1ヵ月ずっと同じ時間を
過ごしていたわけですからそう思うのも当然ですが貴女がそう思うのならそれは
人違いだと思います というかそうでないと俺が困るのです非常に
彼女はしばらく、チーズをつつきながら記憶を巡らせていた。
俺はずっと想い続けた女性が目の前に居るというのに脂汗が止まらない。
そして、「ああ」と思い出したかのように声をだした。 俺もここまでか!
彼女「行き倒れたことがあるだろう」
しばしの間の後、間抜けにも「へ」という言葉しか出なかった。
彼女「秋口、西にある商業が発達した町の目の前でだ。 覚えは無いか」
職業柄行き倒れそうになったことは多々あるが、
秋に、町の目の前で倒れるなど――思い当たるのは一度しかない。
まさか。
俺「助けてくれたのは男だと聞いた」
彼女「ああ、実際助けたのは私の部下だ。 甲斐甲斐しい奴だ。
私は金こそ払ったものの行き倒れなぞ放っておけという立場だった」
俺「そ、そう、なのか……」
思わず笑みがこぼれる。 そうか、彼女(とその部下)が俺を助けてくれたのか。
もしかしたらあの時最後に見た、彼女と親しげに話す男――それが部下だったのかもしれない。
だとすれば彼女に男は居ないと考えてもよいのではないか。
すまない部下よ、俺は早とちりしていた。 あんたを恨むことなどなかった。
何度も何度も藁人形に釘を打ったこと、できれば許して欲s
彼女「ちなみにその部下というのが、お前が私の前に戦った奴だ」
旦
そういった瞬間、ボサボサの頭をした男の表情が固まった。
唇をわななめかせ、そして手で顔を覆った。
ボサボサ頭「……貴女に謝らなければならない。 彼にも侘びをいれたい」
思わずきょとんとしてしまう。
そしてくつくつと笑いながら「お前本当に傭兵か」と言った。
私「あいつも恩を着せようとした訳ではないし、戦場での斬った斬られたは恨みっこなしだ。
詫びることも謝ることもなにもない。 あいつが腕を失ったのはあいつが弱かったからだ」
何故か男を慰める形になってしまったが、男は黙ったまま動かない。
私「……恨みはしない。 ……が。 あの時の戦い、お前は手を抜いていた。
敢えて、殺さなかった。 これがあいつにとって、どれ程の屈辱だったか分かるか」
私「その後私がお前に戦いを挑んだ理由――
お前の、貴様のその中途半端な態度が気に食わなかったからだ」
私が本陣に戻り医務室を訪れた時、部下は力をなくした目で、
「もう戦うことはできません、せめて貴女の手で殺してください」と言った。
戦場で死ぬことを許されなかった戦士の、なんと無惨なことか。
ボサボサ頭「……すみませんでした」
男の目は赤かった。 ……なんというか、拍子抜けした。
もう一度「お前本当に傭兵か」と訊くと、「さぁ」と力ない返事が返ってきただけだった。
旦
店員「……さん! お客さん! 閉店だよ、起きて!」
垂れた涎が接着剤となり、机と頬を一体化させていた。
それをベリベリと剥がし、目脂を除いて目を開くと困った顔をした店員が居た。
俺「ふぁれ、彼女……隊長さんは」
店員「とっくに帰られました。 お代も貰ったから、あとはあなたが帰ってくれれば」
箒で尻を叩かれるようにして店から追い出された。
お客様は神様じゃないのか! なんたる接客か!
町に朝を告げる鐘が鳴り、頭にぐわんぐわんと響く。
イラつくほどに清々しい朝日に照らされながら、とっておいた宿があるであろう道を歩く。
いつの間に寝てしまったのだろうか。
彼女が俺に説教したことは覚えている。 そして俺が気に食わないと言ったことも。
目の前でそんなことを言われて多分泣いてしまったんじゃないかと思う。
ママに言われたが、どうやら俺は酔いすぎると感傷的になってしまうらしいのだ。
彼女に会ったことで酔いが醒めたと思ったが、身体はそうでもなかったようだ。
頭が痛い。 ああこれは二日酔いだ。 だから今も感傷的なのかもしれない。
現在 猛烈に死にたい気分だ。
10レス投下したらちょっと寝かせてもらっていいかね
すまんまじすまん出来るだけ早く起きるようにする
ふらふらと宿の階段を上り、ベッドに倒れこむ。 薄い枕に顔を埋め「ああああああああ」と叫ぶ。
枕どころか壁まで通り抜けて隣の部屋まで聞こえているだろうが構うものかそんなこと。
叫んでいると激しい吐き気を催した。
急いで共有トイレに駆け込み、中身を戻す。 他の誰かが朝のおはよう一発目を済ませた直後らしく、
肥壷の底からもんもんとあふるるその匂いと生温かさは吐き気を更に促進させた。
だれか優しく俺の背中をなでてくれ、と感傷に浸っていると、扉がドンドンと叩かれ
「さっさと出ろ後ろが閊えてるんだ」と男の声が聞こえた。 なんて空気の読めない男だ。
こいつには紙の裁きが下るであろう。
尻を拭くために用意された柔らかい藁全てを持って、トイレから離れた。
その後しばらく寝てから、何もすることが無いので町をぶらぶら歩くことにする。
しかしすぐに疲れたので広場のベンチに腰掛けた。
そしてどうやって死のうかと、ぼーっと考える。
用水に顔をつっこんで溺死しようか。
だめだ、糞尿で臭くて顔を突っ込む勇気が無いし、第一深さが足りない。
馬車に轢かれてしまおうか。
いやそれでは死ねない、全身打撲とかでただ痛い思いをするだけだ。
酒を浴びて火を点けようか。
却下。 目の前で焼け死んでいく様子を見たことあるがあれは最後の最後まで苦しそうだ。
あーでもないこーでもないと出てきた案を次々に潰していく。
自分に刃を向けようかという考えは最後まで出なかった。
結局自分に何が足りないかというと、自決する勇気である。
そんなことを考えながら、前も同じように死のうとしていたことがあったことを思い出した。
何故死のうとしていたのかはよく思い出せないが、ただ一つ分かっていることがある。
そんな思いを俺からぶっ飛ばしたのが、彼女であること。
あの時偶然に俺の視界に入った彼女が、俺を絶望から救い、
そして彼女自身が希望となって、俺をここまで奮い立たせた。
俺は彼女を女神のように崇めた。
――そうだ、考え直せ。
只の農民の子たる俺が神と言うべき彼女に近付こうなどできるわけがないのだ。
羊は所詮羊飼いに飼われる存在、もちろんラム肉として食されるのであればそれもまた本望なのであるが、
恋愛に関してはアウトオブ眼中、たかが羊が神とねんごろになる夢を見るなどおこがましいと思え!
それに前言ったではないか、例え彼女に嫌われたとしても、
彼女が笑顔になれるのなら、彼女が幸せになれるのであればそれでいいと。
俺はずっと影から彼女を見守れば良い。 期待など抱いてはいけないのだ!
俺は立ち上がる。 そして向かおう彼女の元へ!
嗅覚と聴覚を極限まで集中させろ。 彼女の匂い。 汗の匂い。 髪の匂い。
彼女の呼吸、出来るだけ鳴らさないように工夫された静かな静かな足音――
ずっとずっと彼女を追いかけていたではないか。 分からないはずがない!
復ッ活ッ! 俺復活ッッ! 俺復活ッッ!
なお、俺は影から彼女を応援する、とても純粋なサポーターなだけであり
決してストーカーではない。 勘違いをされてはいけないので、再三再四。
早々だが、大きな壁に直面した。 物理的にも比喩的にも。
ちょっと考えれば分かることであるが、彼女は騎士なので宮廷暮らしだ。
当然、城壁と見張り塔が建てられ、彼女に近付くどころか敷地内に入ることもできない。
忍び込むにしても、この宮廷の構造はよく分からない。
また、宮廷内では食事と酒が与えられ、十分に運動する施設も娯楽もある。
そんなところからわざわざ彼女が外に出る必要があるのだろうか。
昨日の酒場の常連客だとしても、彼女は目立つから多く来ている様に思えるだけで
実際はそんなに行っていないのかもしれない。 俺が毎日行ければいいのだが、そんな余裕は無い。
出鼻をくじかれた。
どうすっかなーと手をズボンのポケットに突っ込む。
ガサリ。 ……ガサリ?
この音には聞き覚えがある。 紙が――それも小さな紙が、くしゃっと潰れるような音。
嫌な予感しかしない。 なんだ。 もしかして、ママからの不吉な手紙第二段が
この何ヶ月もの間ずっとこのポケットに入っていたとでも言うのか。
生唾を飲む。 ケツの毛を毟られるどころの話ではなくなるかもしれないが、意を決して。
震える手で紙を掴み、そして開く。
旦
面倒な仕事を片付けてから、宮廷を出ていつもの酒場に向かった。
昨日ほどには込んでおらず、空いている席はちらほら見える。
店員「今日も来てくれたんですかぁ、ありがとうございます! 席はこちらに――」
私「いやいい、すぐに帰る」
空席に案内しようとする店員を制し、店内を見回す。
昨日と同じ場所にボサボサの頭を見つけ、そこに足を向けた。
私に気付いたボサボサの頭をした男はすっくと立ち上がり、緊張したような面持ちで深々と頭を下げた。
旦
ポケットに入っていた紙には、初めて見る字で「日暮時に同じ場所で」と書いてあった。
よく考えれば、このズボンを買ったのはこの町に来てからだ。 ママのはずがない。
ということは、ポケットに物を忍び込ませるチャンスがあるのは彼女だけということになる。
彼女の直筆。 家宝にしよう。
これを読んだ瞬間、俺は言い表せないほどのわくわくと不安に駆られた。
俺が彼女と親密な関係になることを諦めた矢先の事である。 いったい何が始まるんです?
もしかして俺、殺されるのではないか?
様々な期待と不安を抱きながら、とりあえず遅刻してはいけないと思い
日が暮れる前の、日時計で言うところの2時間前に店に到着した。
店は開いておらず、店の前で1時間待たされた。
席について考えた。
彼女が俺を殺そうとここに呼び出しても不思議ではない。
恨まないとは言ったが、実際殺されそうになった+部下の無念を晴らす=殺戮という方程式しか見えない。
ただ。 万が一、万が一だ。
万が一ということは、万が9999は殺されるということですね、俺が。 だって論理的にそうなるじゃないですか。
残りの1で彼女が俺と話したいと思って呼び出したとしたら、俺はなにか気の利いたことが言えるだろうか。
世の女性にモテる男いわゆるリア充は、どのようにして女性を口説いているのだろうか。
女性とお付き合いした経験の無い自分には分からない。
とにかく、質問攻めにしてみよう。 時間はある、先に考えておけ。
ご趣味は。 好きな色は。 好きな食べ物は。 好きなリンゴ料理は。
何故俺をまた誘ったか。 何故昨日、祝勝会があったにもかかわらずここに居たのか。
騎士になる前はどんな生活をしていたか。 何故騎士になったのか。
ああ、昨日の酒代についてのお礼もしなければ――
いろいろと考えたが、彼女の顔を見た瞬間頭が真っ白になった。
それに、どうやら俺とお喋りをしに来たわけではないらしい。
彼女「付いて来い」
俺の顔を見るなりそう言って、店を出てしまった。
急いで飲んでいた分の代金をテーブルに置き、彼女を追って店を出た。
追って見る、彼女の背中。 ずっと見慣れたものであったが、近くで見るのは新鮮だ。
歩くたびに髪が一本一本揺れているのが分かる。 その髪の残り香も――Excellent.
彼女「この辺でいいだろう」
彼女に連れられた先は、町から少し離れた場所にある小高い丘だった。
人気は全く無い。 とても静かな場所だ。
俺「えっと……何する? んですか?」
彼女は「うむ」と頷き、そしてこちらに振り返った。
ふわっとなびく髪から現れた彼女の冷たい目は、真っ直ぐ俺を捉えていた。
彼女「お前に決闘を申し込む」
俺「は、え? ま、待ってくれ、なんでそんな急に」
彼女「前は途中で邪魔が入った。 だから今、決着をつけようと言うのだ」
抜いた剣の切っ先はぶれることなくこちらを向いている。 彼女は本気のようだ。
しかし俺は、彼女とは、戦いたくはない。 どうする。 ここから逃げるか。
じり、と一歩下がる。
彼女「貴様はまた逃げるのか」
俺「え、あ……」
彼女「ならば剣を抜け!」
彼女は戦士の誇りを重んじている。 特に、決闘においては。
戦場で彼女が俺に決闘を挑んだ理由は、俺の態度が気に入らなかったから。
部下との決闘で、俺が手を抜いて生かしたこと、それが――
彼女「貴様は昨日、謝りたいと、詫びたいと言った。 その気持ちが本当なのなら」
俺「!……」
確かに、そうだ。
俺は恩人に対する無礼を詫びなければならない。 償わなければならない。
剣を抜く。
次は、手を抜くことは許されない。
旦
剣を抜いた瞬間、表情が変わった。 まるで別人のようだ。
いつも泳いでいた目は、今は真っ直ぐこちらを見据えている。
静かで、それでいて全くの迷いの無い目――
こいつはおそらく、前の決闘で、私との戦いでも手を抜こうとしていた。
あの時剣が折れていなければ、私も腕を落とされていただろう。
もし本気になったのなら、きっと多くは受けきれない。
勝負は、最初の一手に賭ける。
焼けるように赤い太陽の光が横から差す。
風の音だけがさらさらと流れ、草木を優しく揺らした。
太陽は徐々に傾きを増し、影を伸ばしていく。
そして地平線に沈んだ時、夜を告げる鐘が鳴り響き――
同時に地面を蹴った。
旦
結果から言うと、勝負は一瞬でついた。 俺が勝った。
鐘がなった瞬間、彼女も同時に動き出した。
俺は上段から振り下ろす。 彼女はそれを読み、打ち落とし、そのまま一撃を食らわそうとした。
しかし俺の、力に任せた剣はそうはさせず、彼女の剣を叩き折り、
そして彼女の首元――ギリギリのところで、止まった。
俺「首取った」
しばらくの間の後剣を下ろし「ぶはぁ」と今まで溜めていた息全てを吐き出した。
一撃に集中しすぎた、鼻血が出そうだ。
彼女の目は見開かれたまま動かない。
ぺたんと地面に座り、震える手から、折れた剣が零れ落ちた。
やりすぎてしまったかもしれない。
心配して顔を覗き込むと、彼女は可笑しそうにくつくつと笑い始めた。
彼女「くっく……はは、ははは! なんだ、お前、本当に強いんだな」
俺「いやぁ、それほどでも」
彼女「謙遜するな。 それとも今のも本気ではなかったか?」
俺「そんなことは。 全力で、負かしてやろうと」
彼女「ならばよし」
彼女は膝を抱えてちょこんと座った。 なんて可愛らしいんだ。
そして地面をぽんぽんと叩き、横に座るように促した。
いいいいのか? いいのか!? かかかっかか彼女の横に座っちゃっていいのか!?
いや彼女がそう言っているんだ、お言葉に甘えて座るべきだろう! そうだろう!
この巡ってきた奇跡ともいえるチャンスをみすみす逃してなるものか!
ただし息子よ、出来るだけ冷静であれ。 興奮しては、また彼女を失望させてしまう。
大きく深呼吸し、緊張しながら、彼女の横に、座った。
彼女「……なんで正座なんだ」
俺「いややっぱり貴女や彼に申し訳ないと」
彼女「だから、もういい」
正座を崩し、胡座をかく。 草木がさらさらと揺れる。
彼女はそれを毟り、そして手を放して宙に舞わせた。
彼女「解せんな。 お前ほどの実力があれば騎士団に入ることも容易いだろうに」
俺「まぁ、契約の延長じゃなく、正式に入団の勧誘も何度かはあったけど……」
彼女「ならば何故。 傭兵で埋もれるには勿体無い。 金にも困るだろう」
俺「そうなんだけどなぁ。 ……騎士様の前で言うもんじゃないけど、面倒臭そうだし」
彼女「面倒、か。 ……そうか。 そうだな」
妙に納得したようにうんうんと頷く。
「本当に、面倒だ」と呟き、そしてまた草を毟って放すを繰り返した。
そのままぼーっと何も話さないまま時間が過ぎた。
彼女は膝を抱える腕に顎をのせ、飽いた左腕では未だに草を毟り続ける。
俺はそんな彼女の様子を見て、可愛いなぁとずっと思っていた。
空には星が目立ち始めた。 彼女は「さて」と立ち上がる。
彼女「そろそろ、戻るか」
なんでも最近夜になると狼が現れ、商人が襲われる被害が続出しているらしい。
彼女は町に向かって歩き始めた。 俺も立ち上がり、尻についた草や土をぱっぱと掃う。
夜の街は仕事終わりの男たちで賑わう。
そんな中を彼女と並んで歩いているのだ。 これは大きな進歩と言えよう。
俺「えっと、宿、この辺なんだけど」
ここで彼女が「酒を飲みに行かないか」と言ってくれる事を期待していたが、
興味無さ気に「そうか」と言われるだけだった。 そうだった、期待してはいけないんだった。
小さくなっていく彼女の背中を見て、ある事を言い忘れていたのを思い出した。
俺「昨日、奢ってくれてありがとう」
彼女は立ち止まってこっちを見た。
そしてしばらく考えた後、小さな声で、だが確実に、こう言った。
彼女「また、奢ってやる」
かくして、俺は彼女の「飲み友達」の称号を得たのである。
旦
ボサボサの頭をした男と決闘をした夜以来、そいつとはよく共に酒を飲む仲になった。
頻度は週に一度程度。 あらかじめ都合の良い日を伝え、その日に会う、という感じである。
もちろん急に仕事が入る場合もあり、そのときは素直に「すまんかった」と言う他無い。
酒は基本的に、私がキープしている樽から注いで飲んでいるが、ある日あいつはビールを頼んだ。
私にはビールを飲んだ経験が無く一口だけ貰ったことがあるのだが、どうも口には合わなかった。
酒を飲んでいる間、あいつは私に、自身の経験を色々と話して聞かせた。
女に振られて家出したこと、初めて傭兵として戦った時のこと、
戦から逃げるつもりがいつの間にかしんがりになっていたこと、
クマに襲われ食料全てを奪われたこと、それが原因で死に掛けたこと――
そのような話の流れで「貴女はどこの生まれなのか」と訊かれたことがある。
相手はただの傭兵であるし、別に隠す必要性も見られなかったので正直に言った。
私「どこで生まれたのかは知らん。 物心ついたときには奴隷として売られていたからな」
ボサボサ頭「え、うそ、奴隷? 意外だなぁ」
私「だからろくな教育も受けなかった。 まだ、字を書くのは慣れない」
これは言うべきことじゃなかった。
前にポケットに忍ばせたメモに書いた字を、酷く馬鹿にされたような気がした。
尤もこいつに悪気は無かったようなのだが。
また、お互いに全く話さないという日もあった。 ただ共に酒を飲む、というだけの。
いやむしろ日数的にはそっちの方が多かったように思う。
こいつも無言の間を無理やり埋めようとするタイプの人間ではないらしい。
旦
あれ以来彼女とは週に一度、多くて二度ぐらいの頻度で共に酒を飲むようになった。
もちろん彼女は騎士で忙しくて当然だから来れない日もあったが、それでも俺は嬉しかった。
常ではないが定期的に、彼女を間近で見ることができるのだから当然である。
本当に、彼女の守護神だとかサポーターだとか言っていた日が懐かしく思える。
彼女は傭兵である俺に気を使ってか、彼女の酒を振舞ってくれていた。
しかし流石に毎回は悪いと思い、ある日自分の金でビールを頼んだら、
飲んだことが無いらしい彼女が興味を示し、なんと、俺のジョッキで、一口、飲んだのである。
不味そうに顔を顰めたがそんなことはどうでもいい。 彼女に「これって間接キスだよな?」って言ったら
……どうなるの?
とりあえず、その日彼女が帰った後、そのジョッキを買い取った。
これも家宝にします。 ありがたや。
店員の姉ちゃんに「お二方はお付き合いになられてるのですか?」と訊かれたときは心臓が出かけた。
そうであれば心底嬉しいのだが彼女に失礼があってはいけないと、断固否定させてもらった。
彼女自身も「そんなわけあるか」と全く動揺せずに吐き捨てたし、俺に気など無いのだろう。
そうに決まっている、うん。 ……うん……。
彼女は「会話に間があるとどうしても埋めたくなる派」の人間ではなく、無言の時間も愛した。
何を喋ればいいのか解らない俺にとってそれ以上のことはないが、流石に毎回はどうだろうと思い
たまに、俺の経験してきた事を話した。 もちろん彼女の後を付いて歩いたことは話さないが。
多分、俺の話をちゃんと聞いてくれていたと思う。 「難儀だったな」と言ってくれたり、笑ってくれたりした。
尤もそれは鼻笑いや嘲笑いばかりであったが、たまに見せる笑顔が、たまらなく可愛かった。
一度だけ、彼女の話を聞いた。
驚いたことに彼女は正規軍騎士で貴族という身分でありながら、出身は逃亡奴隷だったのである。
だから字を書くことが出来るようになったのは最近の事なのだそうだ。
書類などの文章は側近に任せ、サインだけは自分で書くという。
俺「へぇ、でも前貰ったメモ見る限り上手だと思う、可愛かったよ丁寧で」
ポケットに入れられたメモには、アルファベット一字一字丁寧に行書体で書かれていた。
俺は素直に褒めたつもり、だったが――飛んできたのは右ストレートであった。
彼女「う、うるさい! 自分の名前ぐらいは、筆記体で書けるっ」
初めて、顔を赤くした彼女を見た。 ムキになるその姿たるやまことに可愛らしく――
俺はその日息子との拮抗に負け、数年ぶりに床オナをした。
自身の不甲斐なさと後悔で枕を濡らした。
しかし、幸せの日もそう長くは続かなかった。 俺の財布が悲鳴をあげたのである。
基本、飲む酒は彼女が買い溜めたものであるから酒場ではあまり金を使わないが、
長きに渡る宿代とママに返すための積立金、そして路銀のことを考えると
これ以上遊んでは暮らせないのである。
その旨彼女に伝えると、「そうか」と素っ気なく言われただけだった。
彼女の俺に対する思いを知った気がする。 なるほど、やはり俺は所詮その程度か。
……ア、アタイ、寂しくなんか、ないんだから、ね……!
とにかく、一ヶ月もの間居座ったこの町を誰の見送りもないままで旅立った。
旦
ボサボサの頭をした男はまた稼ぐために町を出て行った。
あいつは傭兵であるし当然の事だと思い、出て行くことを告げられた時も大して反応しなかった。
私には引き止める理由はないし、宿代をだしてやる義理もないのである。
あいつが居なくとも私の生活が変わるわけではない。
面倒な仕事を坦々とこなし、時間があればいつもの酒場のいつもの場所で酒を飲む。
どこかで大きな戦でもない限り、その繰り返しである。
この日の夜も晩餐会があった。
息苦しくなるような衣装を身に纏い、息苦しくなるような場所で、抜け出したい衝動に駆られる。
主催者――国王陛下の乾杯の音戸の後、配られたワインを飲むフリをする。
私が兵団の隊長となり、爵位と騎士の号を得る際の祝勝会で、同じように渡された酒を
毒見として飲ませた使いが目の前で痙攣を起こして死んで以来、こういう場所では飲まないことにしている。
女でありながら騎士という身分を認めたがらない老害大臣達の白い目、
わらわらと集まり婚約とダンスを求め、断る毎に聞こえる貴族御曹司の陰口、
それに嫉妬した、着飾ることしか脳の無い貴族令嬢の嫌味――
いつまで経っても慣れることができない。
本当に、面倒で、つまらない。
私にとって、この狭い路地にある酒場は唯一心の休まる場所だった。
この、少し汚くて、泥臭い雰囲気のこの場所が、自分を懐かしい思いにさせた。
そんな場所にあの男を誘うようになった理由は、自分でもよく解らない。
ただの気まぐれだったのか。
――いや。
あいつには、気を使わないで済む。 傭兵だから――だろうか。
よくは解らないが、あいつの話を聞けば、あいつが居れば、
私の中の言い表せないような怒りなどのもやもやが和らぐような、そんな気がした。
そんなことを考えてしまうのは、慣れないビールを飲んでいるからだろうか。
目の前の席には今、誰も居ない。
旦
九月、リンゴが旬を迎え美味しい季節です。
この町を経って五ヶ月、よう生き残ったなぁと自分でも感心する。
とりあえず前と同じ宿に部屋を確保する。
店主曰く、この五ヵ月の間にライバル店が出没したこと以外
この国や町、及び軍に大きな変化は特には見られなかったとの事。
よし、ならば彼女に会いに行かなければ! というか会わないと死ぬ!!
定期的に彼女に会って話すという事が当然になっていたお陰で、
この町を発ってから「彼女に会いたいバイタリティゲージ」は一週間で頂点に達してしまい、
頭がどうにかなってしまいそうだった。 今正気なのは彼女の使ったジョッキがあるからに他ならない。
歩くときも食べるときも寝るときも彼女を思い浮かべ、
そればかりか仕事場でも彼女を思い浮かべたもんだから危うく命を落としかけた。
そんなこんなで危ない橋を何度か渡り、今回は金銭的危機には陥らないほどの金を稼いできた。
全然追いつける様子がないが、先回りして支援
足早に例の酒場へと向かった。
今日彼女が来るとは限らないが、可能性が無いわけではないのだ。
いつもの席に座り彼女が来るのを待った。 久々に会うからかは解らないが、
初めて彼女とここで待ち合わせた時のように、ドキがムネムネして破裂しそうだった。
店のドアが開く度に彼女ではないかと振り向く。
しかしそこにあるのはオヤジの姿ばかりで、今日はもう来ないかもなと諦め最後の酒を注文した。
その時、カランと来客を告げるベルが鳴った。
足音が聞こえる。 この足音には確か聞き覚えがある。
それは何歩か歩くとぴたりと止まった。
数秒静止した後、また動き出し、歩く度にそのテンポは速くなった。
そしてまた、真後ろで止まった。
振り返ると、恋焦がれた愛しい女性が、目の前に居た。
彼女「お前、いつ帰ってきた」
俺「今さっき」
彼女「……くたばったと思っていた」
俺「御覧の通り、脚もついてますぜ」
彼女「……そうか」
正直、彼女が俺のことを覚えているとは思わなかった。 彼女にとって俺など、
飲み仲間にしたってモブキャラであるから、五ヵ月も出番が無ければ記憶から失せてしまうと思っていた。
彼女はいつも通り、俺の向かいに座った。
その顔は相変わらず美しく、可愛らしかった。 髪はまた短く切ったようだ。
彼女「……右目」
俺「え、あぁ、矢がズチュッと」
彼女「痛くないのか」
俺「もう結構前の事だから」
彼女はまた「そうか」と言って、鼻から大きく息を漏らした。
もしかして、心配してくれたのだろうか。 だとしたら大変喜ばしいことである。
旦
店に入った瞬間、鼓動がドクンと鳴ったのが分かった。
いつもの席に、見覚えのある頭。
――まさか。
足を早め、その後ろにつくと、そいつは振り返った。
相変わらず髪をボサつかせた男は、相変わらずの笑顔だった。
私「お前、いつ帰ってきた」
ボサボサ頭「今さっき」
右目は矢で射られたらしい。
騎士団という集団の中で隻眼だというのであれば仲間内で補うことはできるが、
あいつのような個人の傭兵の場合助けてくれる者などいないだろう。
これはかなりのハンデになってしまっているのではないか。
しかし元気そうで何よりであった。 思わず深い安堵の息が漏れる。
……私は安心しているのか、この男が帰ってきて。 何故だ? ……分からない。
とりあえず、ビールを二つ注文した。
すると男は驚いたような顔を見せ、ビール苦手じゃなかったかと訊いた。
私「最近、美味いと思い始めた」
嘘である。
ジョッキを掲げ、コゥンというぐぐもった音が鳴る。 乾杯。
四分の一程度飲み、一息をつく。 慣れはしたが、やはり美味いとは思えない。
私「で。 どこに行っていた」
ボサボサ頭「地方貴族同士の小競り合いとか色々。 某有名傭兵団に当たっちゃって困ったよ」
私「それでその目か」
ボサボサ頭「負け戦確定して逃げようと思ってたら流れ矢が」
なんとも下らん理由で右目を失ったものである。
運が悪かったなとしか言いようが無い。
血の滲むような特訓のお陰でスラスラと筆記体で文章を書けるようになったとか、
話したいことはあったが、結局は何も喋らなかった。
いつものように、無言で酒を飲みチーズとつまむだけだった。
しかし、それでもよかった。
こいつと居るだけで、この五ヶ月で荒んだ私の心は綺麗に洗われるような気がした。
何故そう思えてしまうのかは分からない。 分からないが――
私「久々に会えて嬉しかった」
去り際に言ったこの言葉は、私の素直な気持ちであろう。
旦
彼女とは特に会話はなかった。 まぁ、いつも通りである。
この五ヶ月でどんなことがあったか彼女に聞きたいと思っていたが、
彼女を見るだけで俺の心はふくふくと満たされた。
しばらく飲んだ後、彼女は「明日も早くから仕事がある」と言って席を立った。
彼女と別れるのは残念だが、今日偶然にも会えただけでも良しとしよう。
彼女「久々に会えて嬉しかった」
彼女が横切るときにそう言った。
その言葉の意味を理解するのにはしばらく時間を要した。
俺「旦那ァ、久々に会った子が『会えて嬉しかった』って言ったんだ。 どう思う?」
宿屋「誰だそりゃ」
俺「え、あー……お店の娘なんだけど」
宿屋「そりゃただの営業だな、またお店に来てくださいねー(はぁと)っていう」
俺「いや、言いなおそう。 その子とは飲み友達だ。 お姉さんがいっぱい居るバーじゃない」
宿屋「ほー? でもどっちにしたって社交辞令だろうよ」
俺「しゃ、社交辞令……」
宿屋「お前みたいに収入の安定しない根無し草に脈があると思うな。 期待するだけ無駄だ無駄」
俺「そっか……そうだよなぁ……」
期待するだけ無駄、か。 そうだ、そうなんだが。
そんな希望の全く無い状態から、今の彼女の飲み友達というポジションまで辿り着けたという事実が
俺にもうちょっと先まで行けるのではないかという甘い期待を持たせてしまっている。
自惚れるな。 調子に乗るな。 付け上がるな。
自分に言い聞かせながら、今日も――今回は四日ぶりに、店に入る。 と。
珍しく彼女が俺よりも先に席について、テーブルに伏していた。
寄ると、俺に気付いた彼女は、とても疲れたような顔をあげた。
そんな彼女の顔も色っぽ――ではなく。
俺「何かあった?」
訊いても、彼女は「いや」とかぶりを振るだけだった。
こんな疲れた表情は見たことがない、何かあったに違いないが――
彼女が言いたがらないのなら無理に訊くこともあるまいと、黙って席についた。
しかし、どうも酒も進んでいるようには見えない。
こんな所に寄らず、はやく帰って寝たほうがいいのではないかとさえ思う。
チーズをつまみながら、ちらりと彼女を見る。
やはり、何か話しかけたほうがいいのだろうか。 しかし何を言えばいいのか――
彼女「なぁ」
俺「あ、はい」
彼女「お前は次、いつ町を出る」
俺「……はい?」
やっとこさ追いついた
話の内容はありきたりだが、何故か面白い
ロミジュリのような展開じゃなくてよかた
ななな何故そんなことを知りたがりますか!
そりゃ、こっちに金があってこの町に彼女がいるのなら一生ここに居たいけども
そんな事を彼女に言うわけにはいかんだろう。 俺は彼女のことをどうしようもない程に
好きだけれども、彼女にそんな気があるわけないから、そんな事を言ったら引かれる。
俺はやっと掴んだこの「飲み友達」というポジションを手放したくはないのだ。
とは言っても、もし彼女が俺を嫌い、もう一緒には飲みたくない、
さっさと町から出て行けと言うのであれば、彼女の望んでいることであるし、大人しく従う他ない。
俺「……この町は料理が美味い、特に今は秋だから、まぁ金の続く限りは。
あ、でも、もし出て行けと言うのであれば、その……いつでも出て行けます、はい」
彼女「そうか。 ……なら、出て行って欲しい」
俺「あ、…………は、」
彼女「それで、私も連れて行って欲しい」
すみませんちょっといみがよくわかんないです。
ワタシモツレテイッテホシイ? watasimo tureteittehosii? 私も……
……
俺「っはあぁぁあああ!!?」
彼女「おい静かにしろ」
俺「あはい」
俺「え、ちょ、っと、え、つまり、一緒に旅を……え?」
彼女「ああ」
俺「え、お、おお……ま、まずはおお落ち着くぁwせdrftgyふじこ」
彼女「お前が落ち着け」
酒を一気に飲み、一息ついて、まず落ち着く。
危ない危ない、紳士たるもの常に冷静であるべきだ、落ち着いて考えよう。
まず。 彼女は確実に、共に旅をしようと――そう言った。
俺「話が見えない。 どうしてそんな事を」
彼女「……私は、疲れたんだ」
俺「疲れた?」
彼女「あそこでの生活が嫌になったんだ」
旦
今日は珍しく、全くと言っていいほどにすることが無かった。
午前の鍛錬が終えてから軽く汗を洗い落とし、部屋に戻る。
側近に訊いても提出すべき書類があるわけでも誰かに会う約束があるわけでもなく、
本当に、何も無かった。 面倒は面倒だが無かったら無かったで困るものである。
本棚から適当に一冊選び、ソファに腰掛けパラパラと捲る。
これは最近読んだばかりだな、と思っていると、ドアが開く音が聞こえた。
王子「うわぁ~、せんまい部屋ァ」
ずけずけと入ってきたのはこの国の王子であった。
双子の弟で、王位継承位第二位の17歳の少年である。 ろくに勉強しようともせず、
甘やかされたこいつは随分と我侭に育ってしまった。 御聡明な兄とは正反対だ。
私「殿下。 こんな狭い部屋に何の御用で」
王子「別に用は無いんだけどさぁ」
王子は部屋をきょろきょろと見回した。 勲章を流し見、そして壁に掛けられた剣の前で足を止める。
実際に手に取り、しげしげと見つめ、そして振りかぶってみたりする。
素人が剣を振るというのは流石に危なっかしくて見ておられず、王子に近付いて注意する。
私「無闇に触れては危険です、お止めください」
王子「だいじょーぶだよ、剣ぐらいちょっとは習ってんだからさぁ」
王子は、近付いた私の顔をじっと見る。
身長は私と同じぐらいか少し大きいぐらい。 顔はまだ青臭い。
王子「ここまで近くで見るのは初めてだけどキミ、可愛い顔してるんだね」
私「……勿体無いお言葉で」
相手をするのは面倒臭い。 さっさと帰ってくれないか。
そう思うも、王子は帰るような素振りは見せない。
私の周りをゆっくりと歩き、私の身体を嘗め回すように見る。 嫌な目つきだ。
決していい気分はしない。 王子でなければとっくに剣の錆になっていたろうに。
王子「よし、決めた」
背後から声が聞こえたと同時に、太股に気色悪い手がねっとりと触れるのを感じた。
ゆとりですまんが、さるよけって何?
王子「キミはボクの所有物だ」
私「……戯れ事はお止めください、殿下」
王子「ふざけてなんかないよ」
尻を撫で回していた手は徐々に前に移動し、そして私の陰部へと到達した。
私は思わず腰の短剣に手を伸ばす。
私「殿下。 私にも限度が御座います。 それ以上続けると言うのであれば――」
王子「どうなるの?」
ぱっと私から手を放す。 そして私の前に歩み出てナスビのような顔を近付けた。
王子「ねぇ、どうなるの? ボクをそのナイフで殺そうって言うの? ねぇ」
王子「いいよ、別に。 でも王子であるボクに少しでも傷つけたりしたらどうなると思う? ねぇ」
王子「それに本当は感謝してほしいんだよねぇ、王子であるボクに相手してもらえるんだから。
……将来、兄上にもし不幸があったら、次の王の座はボクのものになる。
その時、もしかしたら王妃にキミを選ぶかもしれないんだよ? そういうのも捨てちゃうワケ?」
王子「……いいのかなぁ。 キミがもし、すこしでもボクに反逆の意を見せたりしたら――
ボク、凄く怒るだろうね。 何をするだろう? 例えば、キミの属する騎士団を潰しちゃうとか?」
私「……! 卑怯なッ!!」
王子「何とでも言えば良いよ。 よく考えてよね、ボクはどっちでもいいから。
キミが大人しく言うことを聞いて、ボクのオモチャになるか、
反発してキミ個人としてのプライドを守る代わりに、キミの大切な恩人や仲間がいる団を潰すか」
私は血が滲むほどに下唇を噛締め手を握り締め、王子は目を細め口の端をつり上げた。
短剣から手を引いた瞬間押し倒され、私の唇はあっけなく奪われてしまった。
ばいばいさるさん
短時間に同一人物だけが大量に書き込むと書き込めなくなる現象
IPかえるか他のやつが書き込めば何とかなる
たぶん
>>227
なるほどそういうことか、説明サンクスコ
( ゚∀゚)o彡°れいぽ!れいぽ!
抵抗する唇を貪り、強引に舌をねじ込み、絡ませる。
離すと、間には白い糸が引いた。
憎たらしい程に可笑しそな顔の王子が馬乗りにして見下す。
王子「弱いモンだねぇ騎士団の隊長さんも! たった一言で!」
王子「最初から決まってるんだよ、選択の余地がないことなんか!」
私の腰から短剣を抜き取り、服の端に切れ込みを入れる。
王子「権力の前じゃ、キミみたいなたかが平民の人間なんかさぁ!!」
そして力任せに引き裂き、乱暴に服を剥ぎ取り、私の上半は裸を露にした。
王子「うわっ!!?」
王子は私の上から転げ落ちた。 そして怪物を見るかのように、私を指差す。
王子「な、なんだ、お前、そんな身体で……!!
そんな化け物みたいに醜い身体が、女のものだって言うのか!?」
そして未だに倒れる私に寄って、「汚らわしい」「奇形」と腹を蹴る。
口に入ったゴミを外に出すかのように、臭い唾を私の顔に吐き捨て、
王子「あ゛ー興ざめた! 気分悪ぃ!! 帰る!!」
と、床を踏鳴らしながら部屋から出て行き、壊れそうなほどに強くドアを閉めた。
取り残された私は、しばらくそのまま天井を見ていた。
ソファに凭れ呼吸を整えていると、ドアがノックされ下女が入ってきた。
ケーキを焼いたから食べないか、とのこと。 何も言わずに手を振った。
私「それより、服を引っ掛けて破いてしまった。 替えを頼む。 楽なやつを」
下女「はい、分かりました」
服を取りに部屋を出ようとしたが、ドアの前で足を止めた。
私の表情を窺がい、おどおどと少し口ごもりながら私を心配した。
下女「……大丈夫ですか? お顔が、真っ青です」
何も言わないまま、またひらひらと手を振る。
下女は困ったような顔をし まだ何か言いたげだったが、そのまま部屋を出て行った。
膝を抱きかかえ、顔を埋める。
あのボサボサの頭をした男のだらしない顔が見たいな、と思った。
ボサボサ頭「何かあった?」
開口一番がそれだった。 下女にも言われたが、私は相当酷い顔をしているようだ。
この男もやはり何か言いたげではあったが、何も言わないまま席についた。
こいつは、私のことをどう思っているのだろうか。
やはり弟王子やそこらの傭兵達の様に――私を慰み者としか見ていないのか。
それとも、この町にいる間だけ共に酒を飲む、ただそれだけの人間だと思っているのか。
そして、私はどうなのだろう。 私はこいつをどう思っているのか。
戦場で仇として出会い、情けをかけられ助けられ、そしてまた偶然この場所で出会ったこの男を。
決闘で清々しいほどに負かされ、数えられる程度しか共に酒を飲んでいないこの男を――
共に旅をしたいと、告げた。 いつの間にか口が勝手に喋っていた。
当然こいつは大層驚いたが、酒を飲んで深呼吸をすると落ち着きを取り戻し、
そして真っ直ぐ私の顔を見て問うた。 何故そんなことを言うのか、と。
私「私は、疲れたんだ。 あそこでの生活が嫌になったんだ」
いろいろな出来事が頭を過ぎった。
どれもこれも、吐き気がするほどに嫌な事ばかりだ。
言いたいことは山のようにあった。 言うことができれば、どれだけ楽になるだろうか。
しかし喉から搾り出すことができたのは、たったこれだけの言葉だった。
私「もちろん、お前が嫌だと思うのであればそれでいい、今日の話は忘れてくれ」
忘れて、今までのように、毎日じゃなくてもいいから共に居させてくれ。
どうか私から離れないでくれ、お願いだから――……言える、わけがない。
だいたい嫌がるに決まっているのだから、こんなことを言っても余計に――
いや、それとも旅をしようと言った時点で――嫌われてしまったかもしれないな。
しかしその予想は大きく外れた。
ボサボサ頭「えっと、じゃあ、行こっか」
少し恥ずかしがる男の言葉を聞いた瞬間、
私の中の糸のようなものがプツンと切れ、目の前が真っ暗になった。
旦
店員によると、彼女は開店前から来てそれからずっと飲み続けていたらしい。
酒が進んでないように見えたのは限界が近付いていたからだったようだ。
だったら、あの言葉も酔った彼女の戯言なのだろうか。
糸がプツンと切れたように眠る彼女を見て考える。 どうしたものか。
最初に彼女がそうしたように、このまま店に放置しておけばいいのだろうか。
いや、彼女のような美しいかつ可愛い女性が無防備にもこんな場所に寝ていては
他の酔っ払った客に何をされるかわかったものではないし、放置はダメ絶対。
彼女の肩を揺すってみる。 起きる気配なし。
だめだこりゃ
宿屋「お? 兄ちゃん今日は早かtt」
彼女を背負う俺の姿を見た宿屋の旦那がぽかんとしているのを尻目に、急いで部屋に運び込む。
唯一の狭いベッドに彼女を寝かし、ボロい布切れのような毛布をかける。 無いよりはマシだろう。
規則的に胸を上下させ、すぅすぅと寝息をたてる。 髪は乱れて彼女の顔にかかっている。
そして何より、まだありありと残っている、彼女の体重を担っていた俺の背中が捉えた感触――
彼女の、小さいながらも確かにあった柔らかなモノの感触が、俺の頭を、股間を刺激し、
今にも爆発させようとしていた。
これはいかん。 これはいかん!! これは、俺の理性が保たん!!
いくら彼女が寝ているとはいえ、その横で息子を宥めるというのも……不可ッ!!
宿屋「で、何でオレんとこに居んだよお前は」
俺「萎えさせるには旦那を見るのが一番だと思った」
宿屋「失礼な、見ろこの肉体美」
俺「なんというビールっ腹。 あー萎えた萎えた」
宿屋「だいたい萎えさせる必要がどこにあるんだ。
折角たぶらかした女だろ、さっさとぶち込みゃいい。 女を待たせちゃいかんぜボウヤ」
俺「たぶらかしてなどいない! 酔いつぶれちゃったから仕方なく、」
宿屋「なるほど酒を飲ませて無理やりか。 でも後悔するぜェきっと」
俺「だから、そんなつもりは無い!」
宿屋「無いっつーか出来ないんじゃねーの。 臆病っつーか甲斐性なしっつーか」
俺「俺は紳士なだけだ!!」
俺「……というわけでさ、俺をここで寝かしてほしい」
宿屋「だめ。 却下。 客は客室で寝ろ」
俺「じゃあ新しく部屋を借りる。 多少高くてもかまわん」
宿屋「却下。 満室」
俺「ふざけんな客来ねーってボヤいてたのどこのどいつだ!!」
宿屋「うるせー店主が満室っつったら満室なんだよ!!
折角シングルベッド一つの密室なんだから童貞ぐらい捨てて来い!!」
その後も口論は続いたが、結局別の部屋で寝ることは許されなかった。
くそう、あのおっさんめ。 明日奥さんにおっぱいパブ行ってた事バラしちゃる。
朝の日差しがこうこうと輝き、小鳥の囀りが聞こえる。 俗に言う朝チュンである。
窓から差すその清々しい光が作り出す陰で、俺は膝を抱えて蹲っていた。
俺は何もしなかった。 出来なかったのではなく、しなかったのである。
無防備、無抵抗の彼女を前にして俺は、何もしなかったのである。
一晩耐え抜いたこの俺を誰か褒めてやって然るべきだ。
とりあえずロビーに降りる。
カウンターの奥では宿屋の奥さんが朝食を作っていた。
俺に気付くとニカッと笑い「もうちょっとだからね」と言った。
宿屋の旦那と奥さんは喧嘩こそするものの、仲良く今までやってきたのだろう。
俺が居ない間にライバル店が増えたりもした。 それでも、これからも二人三脚で続けていくのだろう。
そんな夫婦の仲に皹を入れるのは、やはり良心が痛む。 他人が介入するのは野暮というやつだ。
俺「前、旦那さんが若いお姉さんのいっぱい居る店に居たよ」
宿屋「俺の部屋で一緒に寝ようってことだよ、言わせんな恥ずかしい///」
朝食を持って部屋に戻る。 と、ドアの閉まる音で彼女は起きてしまった。
彼女「ん……」
もぞ、と動く。 かわいい。 うっすらと目が開く。 かわいい。
上半身を起こすも、まだぼーっと目を擦っている。 超絶かわいい。
キョロキョロと見回し、俺と目が合う。 その瞬間ぱっと見開かれた。
彼女「な、なっ……!!」
俺「お、おはよう……」
彼女「私の剣は!!」
寝起きどっきり。 死ぬほどかわいい。
というか起きてまず剣の心配か。 ベッド脇の壁に掛けてあるのを指差す。
彼女「……私の部屋、ではないようだな」
俺「酔いつぶれて寝ちゃったんで、運ばしてもらいました」
「そうか」と言いながら彼女は自分の胸、そして下腹部を触って確認し、
そして小さく安堵の息を漏らした。 俺はそんなことしてないので安心してください。
彼女「……酒場からは、宮廷の方が近かったと思うが」
俺「いやそうだけど……そこには行きたくないだろうと思って」
はっとしたような顔をする。
彼女「……昨日は、とんでもない事を口走ってしまったな」
俺「酒かなり飲んでたみたいだしなぁ」
酒を飲んだ勢いで、思ってもいないことを言ってしまうことはある。
当然、今回――彼女が共に旅をしたいと言ったことも、そうだと思っていた。
その時だけでも俺は死ぬほど嬉しかったから、今嘘だったと言われても
ヘコタレ……ないことは絶対にないが、まぁ仕方ないかと諦めることはできる。
彼女「うむ、だから……その時の言葉、取り消して欲しい」
俺「あ、……はい」
ほらほらほらほらぁぁぁああああ!!!
所詮夢だったんだよちくしょおおおおおおおおおお!!!
くそ、どいつもこいつもイライラするな・・・壁斬り捨てちまった・・・
彼女「それでだな」
俺「あはい」
彼女「傭兵のお前に、依頼する。 内容は私の旅の同伴、護衛」
彼女「報酬は当分の食費と宿代。 どうだ、引き受けてくれるか」
つまりは――
しばらく固まったあと、黙って頷く。
彼女はにっこりと笑って「ありがとう」と言った。
半分投下終わったよ!やったねたえちゃん!
>>269
ワロタどこのSAMURAIだよお前w
あと半分か
長いようで短い
寝食無しでがんがれ>>1
一階のロビーにはボコボコにされた宿屋の旦那がぽつねんと立っていた。
理由は知っているが「どうしたのその顔」と訊いてみた。 「放っておけ」
宿屋「それよか朝の決まり文句! 『昨夜はおたのしみでしたか』?」
俺「あっおいこら!」
言ったとき、彼女がちょうど階段から降りてきた。 旦那の表情が固まる。
そして、俺と彼女の顔を指を差し、交互に確認した。
宿屋「たたったたたた隊長殿ぉぉおおおおおッ!!!?」
彼女「朝から騒々しいな」
宿屋「え、どっ……おい、もしかして前言ってた飲み友達って」
俺「彼女がその」
宿屋「な、なんだってー!!!」
宿屋「た、隊長殿! お言葉ですが何故このような糞野郎とセッk」
言わせねぇよ!と首元にナイフを突きつける。 このおっさんなんてこと言いやがる!
彼女はやれやれといった感じで「勘違いしないでいただきたい」と言った。
彼女「妙な噂を流してもらっては困るのだ。
私が酔った勢いで男との肉体関係をもってしまったなどという隊の沽券に関わるような事は特にな」
宿屋「は、ハイすみません、それにこんな男にゃそんな勇気も意気地もありませんでした!」
俺「あのなぁ」
その後、俺が町を出ることを旦那に告げると、一瞬寂しそうな顔を見せた。
宿屋「また泊まりに来い。 死ぬんじゃねえぞ」
俺「旦那もおっパブ行き過ぎて奥さんに殺されないようにな」
宿屋「テメェかぁぁあああああッ!!!」
彼女「お前の気遣いには感謝するが、結局は一度戻らねばならない」
宿を出てからそう言った。
旅にはそれなりに準備が必要であるし、なにより彼女は騎士団五番隊隊長という
かなり高い地位の人物であるため、いろいろと片付けなければならないことがあるのだろう。
というか、そういう重要人物が急に席を離れることに上からの許可など下りるのだろうか。
そんな事を考えながら、俺は食料の調達に勤しんでいた。
旅の間に彼女が食べる量、好きな食べ物、苦手な食べ物は全て把握しているつもりだ。
なんせ一ヶ月彼女を見続けていた、彼女の食生活のことなら俺に任せろ。
それプラス、俺自身が食べる分も買う。 手に持つ袋はなかなかに重い。
こ、これが、二人分の食料の重さか……!
変態紳士のこの出世は異常
待ち合わせをしていた町の東門に寄り掛かりながら、シャクシャクとリンゴを食べる。
彼女が来るのは夜か、下手したら明日……いや、もしかしたら外出の許可が下りないかもしれない。
心配事は多々あるが、それよりも俺は待ち合わせという行為そのものの方にこそ感じるものがあった。
そわそわというか、わくわくする。 どうした自分、ティーンエイジャーに戻ったつもりか。
日時計で言うところの午後二時過ぎ、思っていたよりかなり早く彼女は現れた。
その姿は去年ずっと追い続けていたときのそれと同じで、俺にとってはそれが最も馴染み深い服装である。
彼女「待たせたな」
俺「いや、俺も今ちょうど買い終わったところだから」
やったことはないがデートの待ち合わせみたいだな、と思った。
しかし今の彼女との関係は「依頼主」と「傭兵」なのである。
何故俺に頼んだのかという質問に対して、彼女は「目の前に居たお前が傭兵だったから」だと答えた。
結局のところ旅をするのは――傭兵であれば、誰でも、よかったのだ。
チン介「めっちゃ深いやん」
旦
私にとってボサボサの頭をした男が、他の男に比べて何か特別な存在である事には違いなかった。
私はその本心を、あいつに知られてしまうことを恐れた。 それが重荷となって、嫌われてしまうのを恐れた。
共に旅をしたいという願いを「依頼」と改めたのも、その依頼をそいつにした理由を単純に
「傭兵だったから」と言ったことも、本心を探られないようにするためだった。
「元敵兵」、「飲み仲間」、「傭兵と依頼主」、「旅の相方」
あいつとの仲を、これ以上は望まない。 そして崩したくもない。
――私は、私が思っていた以上に臆病者らしい。
そう思いながら、行きたくもない宮廷に足を踏み入れた。
さっさと用を終わらせて、待ち合わせの場所に急ごう。
待ち合わせの東門に腰を預けてしゃがんでいる男を見つけた。
食べ終わったリンゴの芯を歯に咥え、カクカクとさせて遊んでいる。 待たせてしまったようだ。
私に気付くと立ち上がり、芯をその辺に吐き捨てる。
そして荷物からごそごそと何かを取り出し、私に放り投げた。
微妙にずれた位置に飛んだそれを受け取ってみると、リンゴだった。
……確かに私はリンゴには目が無いが、こいつに言った覚えはない。
けど、まぁ、有難く頂いておこう、うん。 一口齧る。 美味しい。
その様子を見ると男はにっこりと笑い、歩き始めた。
ボサボサ頭「じゃ、行こうか」
旦
さて、彼女との二人旅が始まってしまったわけだが。
彼女が共に旅をしたいと告げたときは「おおっもしや」と思ったけどそんなことはなかったぜ!
現在「元敵兵」、「酒飲み友達」、「依頼主と傭兵」と「旅の護衛」が俺と彼女の関係、
それ以上を期待してはいけないし、また俺はこれを維持していかなければならない。
どうしてだろうな、去年はあんなに望んでいた彼女との旅なのに嬉しい反面胃がキリキリする。
きっと俺は彼女との接し方が分からないのだ。 いつもあった間を埋める酒は、もう旅では使えない。
妄想で何度も何度も描いた彼女とのらぶらぶちゅっちゅハッピートラベルライフでは
何かのトラブルに巻き込まれピンチの彼女の前にこの俺が颯爽と現れるのが常であった。
しかしそんな超ご都合主義なToLOVEるは現実で起こるはずも無く俺の活躍の場は無い。
すなわち俺には今のポジションを維持するだけの自信はない!
俺は彼女を見るだけで楽しいが、彼女にも旅を楽しんでもらわないことには意味がないのだ!
彼女は俺の右側、少し後ろを歩いた。
多分右目が潰れた俺に対する彼女の気遣いで それはまことに嬉しい事ではあるのだが、
しゃくしゃくとリンゴを齧る彼女の可愛い姿を視界の端ですら捉えることができなかった。 無念。
ぽりぽりと右頬を掻いていると、不意に「おい」と彼女が話しかけてきた。
振り向いてみると、彼女の手には眼帯が握られており、こちらに差し出していた。
彼女「陥没していては痛々しくて見てられん。 隠しておけ」
oi おい これはあれか彼女からのプレゼントと見てよろしいか! 紀伊店のか!
そしてごそごそと荷物を弄った音がしなかったことから彼女のポケットに入っていたと推測できる。
彼女と密着状態にあった布だと。 素晴らしいこれはクンカクンカする他ない!
否そんな姿を晒すなど紳士としては恥ずべきだ。 ここは――
目に装着するとき鼻の前を通り過ぎる瞬間に、こっそりと匂いいや香りを嗅ぐべきであろう。
俺「ありがとう死ぬほど嬉しいです」
彼女「死ぬほどってな……ま、まぁ喜んでくれたみたいで何よりだ」
俺「でもどうだろう、ガラ悪そうに見えないかねこれは。 盗賊みたいに」
彼女「間抜け面に締りが出たし丁度良いんじゃないか」
俺「間抜けって……そんな風に思われてたのか」
彼女「間抜けで優柔不断だな」
俺「否定も肯定もできんとは!」
これは友人としての会話なのだろうが、やはり彼女とのそれは楽しかった。
眼帯というプレゼントも貰ったしもう人生の最盛期と言っても過言ではないだろう。
出発が遅かったこともあるが、空はあっという間に暗くなってきた。
歩きながらせっせと拾った枝を組み、フリントで火種を作って火を育てる。
俺が塩漬け肉を切り分けて串に刺し ぢりぢりと焼いている間、彼女は小さな鍋でスープを作っていた。
「初日ぐらい贅沢してもいいだろう」とのこと。 かかかか彼女の手作り料理だよおい!!
食卓には肉の串焼き、小さなパン、酒、そして彼女手作りの豆と野草のスープが並んだ。
酒を掲げ、乾杯。 ジョッキやグラス同士がぶつかる爽快な音ではなく、
動物の胃袋に入った酒がボチョンと揺れる音しかしなかったが、まぁそんなものは味に関係ない。
スープをまず一口、飲む。 間を入れずに二口目、三口目と口に運ぶ。
なんという美味さだ! かつてこれほどまでに美味いスープを飲んだことがあっただろうか!
豆に合った絶妙な調味料の加減、加えられたバターによるまろやかさ、
そして何より目の前で彼女が作ったという事実が俺の頬を削げ落とした。 今なら死んでも良い。
旦
渡した眼帯に喜んでくれたようだった。 医務室には義眼もあったが、
髪がボサボサで髭も毎日どこかしら剃り残しがあるズボラな男にそれが合うとは思えなかった。
正直、眼帯も似合ってはいなかった。 と言うより、あいつという男のイメージに合わなかった。
まぁきっとすぐに慣れると思うし、ずっと窪んでいるのを見せつけられるよりはマシだろう。
旅の初日だということで、景気付けにマメのスープを作ってみた。
軍行中 部下達によく振舞っていたものだが、こいつの口にも合ってくれたらしくペロリと食べてしまった。
そんなに喜んでくれるのなら、毎日でも作ってやりたい。 ……旅中は無理か。
夕食が終わり、私の腹は満たされた。 そして、心まで満たされた。
あいつが美味そうにスープを飲むのを見たからだろうか。
私「去年も、一人で旅をしていたんだ」
ボサボサ頭「なんで?」
私「大した理由はない、ただぼーっとしたかったんだ。 尤も戦の準備ですぐ終わってしまったが」
ボサボサ頭「なるほどね」
私「それで、やはり単身では夜襲が心配で落ち着いて寝ていられなくてな。
今回も一人旅でも良かったんだが、それもあってお前に旅の同行を頼んだわけだ」
ボサボサ頭「それなら部下の誰かでも良かったんじゃ」
私「あいつらは信頼こそ出来るが、やはり上司と部下だからな。 堅苦しいだろう。
その点お前は傭兵でお互い気を使う必要もないし、私より腕が立つ。 ……信頼も、できる」
ボサボサ頭「え、……信頼、されてるんだ」
私「駄目か?」
ボサボサ頭「いやいや! そんなことは」
ボサボサ頭「そ、それより……こんな急な旅、上が許してくれたのか?」
私「許可か。 書類ならすんなり通った」
ボサボサ頭「えっそうなの?」
私「……正直、廷内での私の評価はあまり良くない。
由緒正しき正規軍の隊長という地位に居座るには私は相応しくないと、そういう声が多い。
私が女だからか、若すぎるからか、平民――奴隷出身だからか、とにかく気に入らないと」
私「そんな中でも私が居られたのは武勲があったからだ。
武勲があったから――利用価値があったから、なんとかしがみ付いていられた」
私「だが半年前、連合軍との戦で勝利を収めた。 圧勝だった。
そんな勝ち方をしてしまったら、他の国もしばらくは不用意に手はだせなくなる」
私「戦がなくなる。 私は武勲を挙げられなくなる。
武勲を挙げられない私は軍に利益を与えない。 評価を下げる邪魔者でしかない」
私「せめてと思い鍛錬や事務仕事を頑張っても、それは副隊長にだってできる。
こんな立場のない私になんか、休暇や外出の許可が下りないわけがないだろう」
支援
私「……あ、す、すまん。 長くなってしまったな」
ボサボサ頭「いや……それはいいんだ、けど、騎士団を抜けようとは思わないのか?
そんなしがらみが嫌だったから旅をしようと思ったんだろ、それなら……」
私「……旅をしようと思った理由はそれだけでもない。
私は『駒』だ。 どこに行くも自由だが、いざと言う時の為に抜けることはできない」
私「それに私は副団長に恩義があるし、またあの人の下で働きたいとも思っている。
今では特に、私のことを信頼してくれている大切な部下も居るからな。 抜けられないさ」
男は眉を下げ、しばらく黙った後「そっか」と言った。
何故、私はこいつにこんな話をしてしまったのだろうか。 こんなことを聞いたって困るだけではないか。
こいつは本来、私とは全く関係のない――
ボサボサ頭「でも、じゃあ、この旅の間だけでもそういうの忘れて、一緒に楽しもう」
―― 一緒に楽しむ、か。 無関係などではない、こいつは立派な「友人」ではないか。
きっと、どんな事があってもこいつと居れば、私は楽しく感じられるだろうな、と思った。
旦
しばらくの会話の後、明日に備えてそろそろ寝るかと提案した。
もちろん性的な意味ではなく。 本当はそうであってほしいけれども。
クジを引いた結果、俺が先に見張りをすることになった。
彼女が言ったように一人旅では自分を守るものは自分しかないので
獣や盗賊に襲われやすい夜などは、おちおち寝てもいられない。
その点二人旅は交代すれば、時間は少なくともぐっすり眠ることが出来る。
尤も一人旅に慣れきってしまった俺は――恐らく彼女も、熟睡は出来ないと思うが。
木に背を預け剣を抱いている彼女も、目は閉じているものの起きているに違いない。
今日の彼女は珍しく自身についてを語ってくれた。 そして俺を信頼していると言っていた。
どちらも大変喜ばしいことである。 やっぱり今が人生のピークだ。
いやその話ではなく。
なんというか、騎士という職業は俺が想像していたよりも面倒くさそうであった。
辞める事すら許されないとは俺が一番嫌なタイプの仕事ではないか。
……いや、彼女だから、か。 彼女はかなり腕の立つ人物であるから他の兵団に入られることは避けたい。
また自身は語らなかったが、彼女はその容貌から市民から絶大なる人気を誇り、団のイメージアップにも繋がる。
しかし平民出身の女性である彼女を隊長などという高い地位に就けては他の平民出身の兵士がつけあがり
代々貴族の家柄が後を継いでいくという正規軍の威厳を損なうことにもなる。
また、旅に出たくなった理由は他にあると言った。
きっと彼女は、俺のような平民には想像のつかない様な しがらみの中で生きているのだろう。
「そういうのを忘れて旅を楽しもう」と言ったは良いが、俺に彼女を楽しませる――
いやせめて、気を紛らわすような力があるのだろうか。
ようやく聞こえてきた彼女の寝息に耳を澄ませながら、考えた。
それから何日も経ったが、彼女と俺の距離は相変わらず「友人」から一歩進めない。
いや、彼女からしてみればそれですらなく、まだ「酒飲み仲間」「依頼主と傭兵」かもしれないが。
本来、疲れた彼女の心を癒すというのが目的の旅であったのだが、
逆に俺ばっかりが気を遣わせて、しかも癒されているような気がする。
歩くときは常に俺の広くなってしまった死角に居てくれるし、
見張りが終わって俺が起こすときは子猫のように目を擦って超絶可愛いし、
逆に彼女が俺を起こすときは、彼女が直に俺の肩をぽんぽんと叩いてくれるのだ!
まさに至福のときであった。
彼女に訊いたところ、旅は原則として戦で召集がかけられるまでは続けられる、だそうだ。
しかし「遊歴」として宮廷から出ている間は給料が与えられないので長期に亘ってそれを志願した前例がなく、
また、あまりにも顔を出さなければ いくら忌み嫌われていようと「アイツは何をサボっているんだ」と
お偉いさんからの評価が更に悪くなってしまう、ということで上限は半年から一年ほどだそうだ。
尤もそれは「遊歴」の期限であって、彼女が俺と旅を続けてくれる時間の話ではない。
途中で飽きてしまえば、俺とはサヨナラバイバイすることだってできるのだ。
今のように何の目的もなく旅を続けていては必ず飽きてしまう。
せめて一箇所でも行きたいと思える場所があればいいのだが――
ある町の宿、ベッドの上に胡座をかいて考える。
なお宿はツインでなくシングルを二部屋借りることにしている。
残念と思う反面、息子の戒めは遠慮なく行えるので少しありがたい。
長年愛用してきた地図を広げる。
まず、彼女は各地に点在する軍の駐屯地には近付きたくはないだろう。
また、俺は今更気まずいという理由で実家には絶対に近寄りたくない。
と、すれば。
地図の、ある町をてんてんと指す。 ママの町はどうだろうか。
あそこならば、今の時期はリンゴが採れるしまた焼きリンゴを食べることが出来る。
彼女はきっと喜んでくれるし、俺も一度食べてみたいと思っていた。
よし、そうと決まればさっさと彼女に報告して明日出発しよう。
もっと変態度を増すべき
旦
男が提示した町は去年の旅で寄ったことのある場所だった。
行った事があるのなら再度訪れる必要は無い、と言うところだが、
確かその町はあの焼きリンゴを食べた町だったため、断ることができなかった。
いや、むしろあっちから提示してくれて有難いとすら思った。
私が提案した場合、理由を訊かれては困る。 「焼きリンゴを食べたいから」などと言えるものか!
なんでも、こいつの知り合いが居るとかなんとか。
知り合い。 男だろうか。 女だろうか。
……いやいや、相手の性別など何故私が考えるのだ。
関係ないだろうに。
旦
今いる町からママの町までは結構な距離があったため、
翌日 例の商業町に寄るという旅商人に馬車に同乗させてくれと頼んだ。
自分たちの食費は(彼女が)出すし、俺は傭兵だから用心棒ぐらいにはなると説明すると
「旅は道連れ世は情けって言うしなぁ」と、渋々ながら承諾してくれた。
商人夫婦と七歳と五歳の兄妹、そして使用人が二人の計六人キャラバンで、
馬車は三台ある。 扱う品物は薬草から生活雑貨までいろいろと揃えているようだ。
それだけの馬を維持できるのなら、かなり儲かっているに違いない。
二台は商品がぎっしり詰められているため、
俺たちは一家と共に日用品等が積んである車に乗せてもらうことになった。
母親と兄妹の向かいに彼女と俺が隣り合って座っている。
兄妹は最初剣に興味を示していたが母親に危険だと一喝され、次は俺の目に興味を示した。
兄「にーちゃん目がないんだね」
妹「ね。 いたくないの?」
俺「痛くないよ。 こんな傷は傭兵の勲章ってんだ、格好良いだろ」
兄「なんかよく分かんないけどカッコイイ!」
彼女「ふん、逃げる途中に刺されてか」
兄「えっ逃げたの?」
妹「カッコわる~い」
俺「なんてことを!」
兄妹は眼帯をめくったり、無くなった目の部分をつついてみたり、
眼帯を自分につけて遊んだりした。 おい少しでも傷つけたらケツ叩くぞ糞餓鬼共!!
……などと、彼女の前で大人気ないことも言えない。
母親が馬車で はしゃぐなと注意しても、静かになるのはほんの一瞬だけである。
父親「兄ちゃんが傭兵なのは分かったけどよ、
姉ちゃんは何やってんだ? まさか同じ傭兵ってわけでも無ぇだろ」
確かに傭兵ではないが、騎士だと答えることもできないだろう。
彼女は少し考えてから「貴族だ」と言った。 夫婦は驚いた様子である。
彼女「と言っても、地方貴族でそんな金や権力があるわけではない。
今は家出中のようなもので、用心棒として傭兵のこいつを雇っている」
父親は「ふーん」と納得したようだ。
まぁ、家出中というのもあながち間違いではない。
日が落ちてくると馬を止めて野営の準備を始めた。
兄妹はせっせと仲良く枝を集め、手伝いをしている。 微笑ましい。
夕食はパンとチーズと、肉と野菜の煮付け、酒であった。 子供はそれを水で割る。
また、肉は我々が提供したものである。
食事が終わると寝るまでの間各自の時間を過ごす。
父親は使用人と明日進むルートを確認し、母親は妹に地面を使って字の読み方を教える。
彼女は剣の手入れをしていて、俺はそれを見つつ同じく剣の手入れをする。
兄「ねーちゃん」
彼女に話しかけた。 彼女は顔を上げ「剣は貸さんぞ」と腰に収めた。
兄は「そうじゃなくって」と言い、んふふふふと不敵な笑みを浮かべた。 そして
兄「おっぱい攻撃ーっ!!!」
彼女の両のむむむむむ胸を揉みやがった!!!!
oh.....hin-nyu.....
兄マジナイス
妹もそれに乗じてボサ男にちんこ攻撃だ!!
俺「こンの糞餓鬼ィィイイイイ!!!!」
背中をむんずと掴み彼女から引き剥がす。
この餓鬼揉みやがった!! 幾度となくチャンスがあった俺すらしなかった乳を揉みやがった!!
この糞餓鬼め!! うらやまけしからん俺にも揉ませろ畜生ォォオオオ!!!
兄「んだよ良いだろー! にーちゃんだってもんでるんだろー?」
俺「やるかッ!!」
やりたいわ!!
彼女のペターンオパーイを指でつつーってして後ろから揉みしだきたいわ!!
兄「でもそんなにやわらかくなかtt」
俺「黙れ耕すぞ!!!!」
耕すwww
彼女「おい、そろそろ放してやれ。 所詮子供のイタズラだろう」
優しすぎる。 これが子供の特権という奴か、俺も子供に戻りたい。
しかしそんな考えは「二度目は無いが、な」という彼女の発言によって撤回された。
笑っていない目はマイサンをキュッとさせた。 しかし何故だろうドキドキする!
兄「んだよー、母ちゃんなら夜父ちゃんがやっても怒らないのにさー」
母親「ち、ちょっと!!」
父親「おいこら!!!」
夫婦の赤裸々話には俺も彼女も使用人も苦笑いするしかない。
妹は頭に「?」を浮かべ、兄の頭には拳骨によるたんこぶが盛り上がった。
夜はさらに更け、静かになる。 酒を飲みながらちらりと彼女を見ると、
ある一点をぼーっと見つめていた。 その視線の先を追ってみる。
そこには、母親が肌蹴た毛布を兄妹に優しくかけてやる姿があった。
彼女「……家族、か」
ぽつりと呟いた。 そう言えば、去年の旅の中でも彼女はぼーっとしている時があった。
確かあれは広場で、あの時も仲良く遊ぶ家族の姿があったような気がする。
彼女は奴隷出身だと言った。
もしかしたら、親の温もりも覚えていないうちに離れ離れになってしまったのかもしれない。
だとしたら、こんな光景は見ていて羨ましいだろうな、と思う。
切なげな彼女の目を見て、後ろから抱きしめてやりたいなぁと思った。
もちろんそんなことをしても多分鉄拳が飛んでくるだけである。
ですね
包みこんでやれ、ひんぬーも一緒に
翌日、馬を走らせ車内で会話をしていると、失明によって更に高性能になった俺の耳が不審な音を捉えた。
急いで荷台の後部に行き、カバーの隙間から、今通ってきた道を見る。
彼女「どうした」
俺「このキャラバン以外の蹄音が聴こえた気が」
「そんな馬鹿な」と言いつつも、彼女も揃って隙間から後ろを見る。 と、先ほど超えた丘の下から
五つの影が現れた。 それらは左右に散らばり、手には光るものが見える。 恐らく、武器。
俺「親父さん、多分盗賊が近付いている」
父親「何ィ!? に、逃げるかっ!?」
俺「いやこの物量じゃ逃げられん、それに下手に逃げると品物や馬が撃たれる」
父親「じゃあどうしろってんだ!」
父親が使用人に馬を止めるよう合図を送ると、三台の馬車はゆっくりと止まった。
そして間もなくして盗賊の乗った馬がやってきて、馬車を前後左右から囲んだ。
頭目と思われる人物が父親に近付く。
頭目「大人しく荷物を捨てるか。 良い判断だな」
父親「品物はくれてやる。 だから家族には手を出すな」
頭目「そうだな。 じゃあ……そこの女と後ろの二台を渡してくれりゃ、他は無傷で返してやるよ」
指名された彼女は黙ってゆっくりと立ち上がり、頭目に近付いた。
頭目「そうそういい子だ、大人しく――」
そして、頭目の髭だらけの頬に、唾を吐き出した。
俺も彼女に上から見下されて唾を吐きつけてほしいものである。
仙人の域に達したなボサ男
頭目「……糞アマめ。 交渉決裂だ! 野郎共! 皆殺しにしてしまえ!!」
俺「応!!」
響いたのは俺の声だけである。
一つしかない返事、それも知らない声に頭目はぎょっとし、振り返る。
「あれ!?」と間抜けな声を出し、俺の横で伸びている四人の盗賊の姿を見て更に驚いた。
目線を俺に戻したのでにっこりと笑って「どうも」と言うと、
顔面蒼白になった頭目も「どうも」と口の端をヒクつかせて返した。
頭目「へへ、えっと、失礼しました!」
馬の両の腹を蹴り、頭目は四人の部下を置いて走り去っていった。
なんたる小物臭か。
彼女「やけに静かだったから全員一撃で殺したものだと思っていたが、気絶しているだけか」
俺「まぁ、無垢な少年少女に血を見せるわけにもいかんだろうと思ってね」
彼女「器用な真似するのだな。 しかし生かしておいて大丈夫か?」
俺「ボウガンは壊したし、大丈夫じゃないかな」
彼女「随分とお優しいのだな。 いつか裏目に出るぞ」
俺「それは困った」
気絶した四人を木に縛りつけ、それらの馬の手綱は近くの木に掛けておいた。
キャラバンに戻ると拍手で迎えられ、少々恥ずかしい気分になる。
また、その日の夕食では本来商品であるはずの高い酒が振舞われた。
父親「いやぁ助かった! 盗賊が来たって聞いてどうなることかと思ったぞ!」
俺「用心棒として仕事しただけなんだけどね」
母親「んー、護衛の途中でなければ正式に雇いたいところだったわ」
父親「なぁ。 姉ちゃん、良い傭兵雇ったなぁおい!」
彼女「え、あ、う、うむ、こいつは有能な傭兵だ」
……傭兵、かぁ。 彼女に有能と思われているのは非常に喜ばしいことなんだが、
やっぱり俺の評価は「傭兵」から動くことはないんだろうな。
蹴散らされた四人の盗賊の内の、一番弱い癖に甘い汁だけすすってる糞野郎が俺です
旦
夕食の後の自由時間、ボサボサの頭をした男は兄の相手をしていた。
盗賊をあしらってから兄のあいつに対する眼差しは尊敬のものへと変わり、勝手に「師匠」と呼んでいた。
兄「ししょーすっげーカッコよかった! ねぇアレどうやんの!?」
ボサボサ頭「どうやんのってなぁ。 説明すんのか?」
盗賊団の頭目が父親に近付いた瞬間、男はこっそりと荷台の後ろから出る。
私は頭目と話し、時間を稼いでいる間に雑魚共を片付ける、という段取りだった。
しかし時間稼ぎが必要でなくなるほどに、あいつは手早く四人を倒した。 殺しもせず、音も出さず。
「音も出さず」と言えば、あいつと共に歩いているときにいつも思っていることがあった。
足音が異様に静かなのである。 あいつが私の後ろを歩いた時、本当に付いて来ているのかと疑うほどに。
無論戦場において相手に行動を察知されないよう足音を極力出さないようにすることはある。 私もそうだ。
しかしだからと言って、人間がここまで静かに行動できるものなのだろうか。
以前酒を飲みながら聞いた話では、あいつは
「ずっとぶらぶら旅して好きなように生きたいけど、それでは食うに困るから春夏は頑張って働く、
秋は食べ物が美味しいから食べ歩き、冬は寒いから金があれば働かない。 実質働いてるのは半年程度」
だそうだ。 はたして傭兵如きの安月給で半年も働かないで済む程の蓄えができるのだろうか。
いや。 経験から言って、どんなに報奨金を貰おうとそれは無理だ。
あいつは、かなりの手練れである。 地方など給料のケチった戦に出るには勿体無いほどだ。
あれだけの腕があれば、もっと多く金が手に入る仕事があるはずだ。
例えば――暗殺、とか。
……ないな、それは。
「無駄な殺生は好まん」と言うばかりか恩人を斬ってしまったことを泣きそうなほど後悔するような男だ。
あいつに、そんなことができるとは思えない。
俺が馬です
妹の方が、母親の影からちらちらとボサボサ頭を見ていることに気付いた。
昨日まではもっと積極的におんぶだのだっこだのをせがんでいた様に思うが。
見ていると、私の視線に気付いたらしい母親が口を開いた。
母親「初恋の相手はパパでもお兄ちゃんでもなく、
傭兵のお兄さんだったみたいね。 格好良かったから仕方ないかな」
妹「なっなんで、そんなこと言うのーっ!」
妹は耳を真っ赤にして「ママのバカバカ」と小さな手で母親をポカポカと叩いた。
なんというか、これが微笑ましいというやつだろうか。
きっとこの五歳の少女は、あいつのことが好きなのだろう。
尤も私は、人を好きになったことがないので、それがどういう感情なのかは分からない。
分かろうとも思わない。 恋愛など、戦場で邪魔になるばかりではないか。
旦
その後は何事もなく順調に進み、一週間程で商業の町に着くことができた。
夫婦と使用人二人と握手を交わし、たまに遊びに来てくれと言われた。
どうやら彼らはこの町一の大商人の跡取りらしく、今はすぐに発つものの冬はここで過ごしているらしい。
兄「オレオレ! ぜってーししょーみたいに強いヨーヘーになる!」
俺「やめとけやめとけ、ロクな金貰えなくて食うに困るぞ」
兄「じゃあ騎士! かっちょいい騎士になる!」
彼女「それもやめておけ」
口を尖らせ「なんでだよぉ」と文句を言う兄の頭にぽんぽんと手を乗せ、
彼女「大人しく家業を継げ。 強くなったら、それで家族を守ってやれ」
目はとても優しく、そしてどこか切なげであった。
俺は耳が痛い。 戦にはご縁のない俺の故郷では家業を継ぐのは長男の役目であるためだ。
別れの挨拶も終え、さぁ行こうかという時に足がずっしりと重くなった。
見てみると、俺の左脚には目を赤くした妹がぎゅっとしがみ付いていた。
「あらあら」と母親が苦笑いする。
母親「ほら、お兄さん困ってるでしょ? バイバイしなきゃ」
脚から引き剥がされた妹の目には大粒の涙が溜まり、顔はくしゃくしゃになっている。
どうしたもんかなと目線の高さを合わせるために しゃがみこむと、いきなり飛びついてきた。
そして選りにも選って彼女の目の前で、俺のほっぺにちゅーをしたのである。
唖然としていると、五歳の少し増せた少女はさっと放れ、そしてぱたぱたと母親の場所まで走った。
妹「ばいばい!!」
賑やかな町が一瞬静まるほどの大きな声で叫び、腕がもげるのではないかと思えるほどに大きく手を振った。
遠く離れ、人混みに紛れても、少女は小さな手を振り続けた。
妹の将来が不安だw
ボサ男みたいな変態好きになっちゃらめ><
人生強くてニューゲームしたいでござる
夢や希望に溢れてた時期が俺にもありました。
宿にて一泊し、朝、この町を出発した。
ママの店のある町までは、雨さえ降らなければ五日程で行くことができるだろうか。
「行きはよいよい帰りは辛い」と言った感じで、この町から行くには最短ルートでも少々時間がかかる。
彼女「確かお前はここで倒れていたな」
途中でからかわれる。 彼女とその部下を傷つけたことを未だにずるずると引きずっている俺にとって
それは冗談になっておらず、思わず顔を顰めてしまう。 その様子を見て、彼女はくすくすと笑った。
なんとなくだが、彼女の笑顔は最初よりも柔らかくなったような気がする。
特にあの家族と接してから――……つまりは、俺の力ではないわけだ。
全くの二人きりというのは久々のことであった。
今は馬の蹄音も貨車の音も、兄妹の喧嘩声や歌い声も何も聞こえない。
森が風によってざわめく音と野生生物の蠢く音、
そして右後ろからの彼女の静かな足音だけが俺の耳に届いた。 少し、緊張する。
そんな沈黙を破ったのは再び彼女である。
彼女「……あそこで倒れていたということは、この道を通って、その途中クマに襲われたのだな」
俺「そうなるね」
彼女「私も去年この道を通って、さっきの町に行った。 着いたのはお前が倒れていた日と同じ日だ」
俺「へ、へぇ~」
彼女「つまりは、お前は私のすぐ後ろを歩いていたことになる」
ひやり、と汗をかく。
俺から彼女の姿は見えないが、視線だけは感じる。
素足でイラガの幼虫を踏んでしまったかのように、ぢくぢくと背中を突き刺す。
しまった、話のネタにと思って喋ったが、それではいつどこを通ったのか教えているようなものではないか。
もしやこんなところで後を尾行けていたことがばれるのではないか。 おいおいおいやばいよやばいよ!
俺「ぐぐぐ偶然だね!」
彼女「偶然か?」
俺「偶然! 偶然!!」
彼女「その後戦場でも会ってるんだ。 偶然にしては出来すぎていないか」
俺「それは本当に偶然だから!」
彼女「『それは』?」
のおおおおおおおおおおおおおおおおお
俺「……と、とにかく、本当に偶然だ!」
彼女「偶然なぁ」
俺「いいいくつかの偶然が重なるとそれが必然だと思ってしまう傾向は人間の悪い癖だと思います」
彼女「む……なら、本当に偶然なのか? それにしてはやけに不自然な否定だが」
俺「いやだって、……俺がずっと後付けてたみたいに思われるのは……」
彼女「確かにそのように思われるのはいい気がしないな」
俺「そ、そうそう」
彼女「そうか。 すまんな、お前を信用していると言いつつストーカーまがいの事をしていたのではと疑った」
俺「はははやるわけないない」
彼女「もし本当にやっていたとしたら軽蔑しかしないな」
おれ に 9999 の せいしん てき ダメージ! ▼
エロゲでは全ては必然なんだよ
パンを咥えたあの娘も、見知らぬ可愛い娘との同棲も
旦
「いくつかの偶然が重なるとそれが必然だと思ってしまう」というあいつの言葉には心当たりがあった。
半年ほど前、兄王子――陛下からの信頼も厚く、すでに国の一部の統治を
任せられており別の場所で暮らしている――が、宮廷に訪れていたときである。
下女「聞いてくださいよ! 本日殿下が……無能じゃないほうの殿下がいらしているのですけど!
なんと、五回! 五回も廊下ですれ違っちゃったんです! しかも三回、目が合ったんですよ!」
私「それは偶然だったな」
下女「偶然なんかじゃないんです! そんなに偶然が重なるわけがないんです!
限られた時間の中であんなに目が合っちゃったら、もう偶然なわけがないんです!
きっと私と兄殿下は運命の赤い糸で結ばれちゃっているんです! きゃーどうしましょう騎士様!」
無能じゃないほうww
ただ偶然同じ場所を通り、ただ偶然目が合った、それも一方的な勘違いかもしれないというのに、
たったそれだけで、それが運命の仕業だという下女を酷く馬鹿にした覚えがある。
多分、同じようなものだろう。
そう、ただ単に偶然が重なっただけではないか。 偶然同じ時期に同じ道を通っただけだ。
それだけで私の後をついてきたのではないかと考えるのは自意識過剰というものだ。
足音はおいておくとして、尾行する者特有の視線だって全く無かった。
第一あいつには私を追う理由などないではないか。
戦場でも、酔いつぶれた時も、私に何もしなかったのだから。
日が暮れると小さな洞穴の入り口に火を焚き、質素な夕食を済ます。
限られた食料を取り合って喧嘩する声も聞こえたりはぜず、とても静かなものだった。
ボサボサの頭をした男が荷物を探り「デザート」と言ってまたリンゴを放り投げた。
食料は一緒に買って回ったはずだが、リンゴを買った覚えは無い。
私「いつの間に買ったんだ」
ボサボサ頭「肉を吟味している間にちょろりと。 金は俺のだから安心して」
私「何故、リンゴなんだ」
ボサボサ頭「今の時期美味いし、安いからね」
こいつ本当は、私の好物がリンゴであることを知っているのではないか。
齧り付くと、口の中で甘く少し酸っぱい果汁がじゅわりと染み出た。 やはり、美味い。
翌日、翌々日もひたすら歩き続けた。 去年のように雨が降ることはなさそうでなによりである。
ボサボサの頭をした男はこの道をよく通るらしく、この数日も全く地図を見もせずすいすいと進んでいく。
ならば何故今更クマになど襲われたという話になる。 「運悪くしっぽ踏んだんだよ」 馬鹿か。
近道もいくつか知っているらしく、少々険しい道も歩いた。
私が歩けると言ったから通っている道なのに、なにかと手を貸してくれようとしている。
実際無理しているところなどないので「助けなどいらん」と出された手を払いのける。
眉を下げる仕草は、相変わらず眼帯には似合わない。
昔女に振られた理由について話しながら小さな川の側を歩いていた時である。
突然、目の前の男が立ち止まった。 その肩に私の鼻がぶつかりそうになる。
文句を言おうとすると、男は閉じた口の前に立てた人差し指を運んだ。
「静かに」という合図である。
こいつは耳がいい。
いつか馬車に乗っていたときも後ろから迫る盗賊の蹄音に気付いたほどである。
今回も何者かの気配がしたのだろう。 ……まさかクマが現れた訳でもあるまい。
ボサボサ頭「……ちょっと、多いかも」
熊の尻尾・・・だと・・・
言った瞬間、背後でガサリと茂みが揺れる大きな音がした。
私とボサボサ頭の視線はそこに奪われる。 先には武器を持った者。
と、一瞬私の視界の端――男の死角で、何かがきらりと光った。
まさか。
男を突き飛ばす。
バン、という音と共に放たれた矢は、また、私の肩を射た。
ボウガンを持った男は舌打ちをし、そして逃げていく。
ボサボサ頭が私の名を叫ぶ。
追いついた支援
私「大事無い、さっさと追え!!」
ボサボサ頭「……ッ すぐ戻る!!」
ボウガンの男を追い、私は残される。
刺さった矢を抜こうとすると、またガサリと音がして三人の男が現れた。
手には、剣を持っている。
私「……いいだろう、丁度腕が鈍っていたところだ」
思わず笑みがこぼれた。
久しぶりに剣を抜く。
旦
木々を掻き分け雑魚の首を飛ばしボウガンを放った男を追う。
あいつの走り方は少々おかしい。 裾に隠れているが、もしやあれは――
崖に追い詰めると、相手は動きを止めこちらに振り返った。
その顔には見覚えがあった。
弓兵「よぉ」
かつての戦場で、同じ傭兵として雇われていた――
そして、決闘の途中にボウガンを放ち、彼女の左脚に命中させた男。
俺「なんのつもりだ」
弓兵「そりゃこっちの台詞だよなァ?」
弓兵「テメェの為を思ってあの女隊長を撃った! しかしどうだ、テメェはその恩を仇で返しやがった。
おかげで碌な飯にもありつけやしねぇ! こんな片脚無ぇカタワなんか誰も雇いたくねえってよ!!」
弓兵「しかもだ! やっと見つけたテメェは、あの女隊長と仲良くしてやがるじゃねえかよ!
一緒に落ちた場所でヤって仲良くなったのか? そんなことでオレの人生めちゃくちゃにされたのか!?」
俺「お前の人生なんか知るかお前の存在価値なんか彼女に比べればシラミ以下だ」
弓兵「一々ムカつく野郎だな。 ……まぁ良い! テメェを殺すつもりだったが、
あの女がそんなに大事だってんならむしろ外して正解だったみたいだな!」
俺「どういう意味だ」
弓兵「あの矢には毒がたっぷりと塗ってあった! テメェは一生悔やんで死ね!!」
この弓兵はケツの毛毟られて氏ね
アナザーストーリー
~復讐に心を支配された男、弓兵~
弓兵の左の義足を叩き折り、マウントポジションをとる。
首元につきつけた剣は既に薄い皮膚を切り血を滴らせていた。
俺「解毒剤を出せ今すぐだそうすれば楽に殺してやる」
弓兵「んなもん無えよ!! 毒はヘビのもんだ、一度食らったら必ず死n」
手首を捻ると弓兵の首からは汚い血が噴き出した。
役立たずに興味はない。
立ち上がり、彼女の元へ急いで戻る。
俺「……俺の、せいじゃないか! くそ……!!」
この弓兵の気持ちはよく分かる
こいつもうこれから生きていけないだろうな
言いたいことも言えない
弓兵(お前ら)「リア充死ね」
彼女の名を呼ぶ。 彼女の名を叫ぶ。
返事は無い。
地面に剣が突き刺さっているのが見えた。
近付いていくと、そこにはぐったりと木に凭れる彼女の姿があった。
再び彼女の名を呼ぶ。
返事は、ない。
彼女の手には、肩に刺さっていたであろう矢が握られている。
ここに来る前に、俺が斃した覚えの無い者の死体が五体転がっていた。
彼女はそれらを斃した後、矢を抜いたのだろう。 だとすれば、毒はもう全身に――
そして返り討ちに・・・
>>396
こんな世の中じゃ
膝から崩れ落ち、うなだれる。
俺のせいだ。 俺のせいだ。 俺のせいで彼女は。
俺があの時、仕返しにとあいつの脚を切り落としたから。
俺があの時、あいつに僅かな情けをかけて生かしておいたから。
彼女の言うとおり、裏目に出た。
聴覚の妨げとなる小川の側を歩いて足音に気付くのが遅れたのは俺ではないか。
目の前の敵に惑わされて死角の敵に気付けなかったのは俺ではないか。
俺は、彼女の護衛をするためにこの旅をしているのではないのか。
何が護衛だ、守られているのは自分ではないか!
そればかりか、守るべき人を死に至らしめてしまったではないか!!
奇跡「ちょっと通りますよ」
彼女に対する恩をまた仇で――しかも最悪な形で、返してしまった。
もう、俺は、死を以ってその罪を償うしかない。
短剣を抜き、自らの首に構える。 今はもう、迷いは無い。
ぐっと力を込める。
こつん。
何かが頭に当たる感触がした。
枝だろうか、木の実だろうか。 顔を上げてみる。 と。
彼女「何を、やっているんだ」
彼女の手は拳骨。 どうやらそれに叩かれたらしい。
しばらく見つめ合ってから、
俺「ぎゃぁああああぁあ生き返ってるうぅぅうううううっ!!?」
彼女「勝手に殺すな!」
彼女は毒にやられて死んでいた、のではなく、単に休んでいただけなようだ。
ヘビ毒による症状――激痛や腫れの広がり、頭痛や吐き気などは認められないとのこと。
あの弓兵がヘビ毒と騙されて偽物を掴まされたという結論に至った。 考えてみれば、
収入の無くなった傭兵如きに致死性の高い毒薬などが買えるわけが無いのだ。
彼女「ただな。 ……血が、止まらん」
俺「……そういうことは早く言ってくれ!」
彼女を抱きかかえ、近くの洞窟まで運ぶことにした。
彼女「は、放せっ! 自分で歩けるっ!」
今回ばかりは言うことを聞けない。 血が止まらないのに歩いては出血量を増やすだけである。
図々しくもこんなことをして彼女に嫌われてしまうかもしれないが、彼女の命には代えられない。
しかしこの、嫌がるような、少し恥ずかしがるような彼女のこの顔、非常にかわいいです。
痛みが少ないこと、血が止まらないことから、矢に塗られていたのは
ヒルの唾液に近いものではないかと考えられる。 直接死に至ることはないものの、
治らない傷口から良からぬ病原菌が入り込んでしまう恐れがあるため処置は急いだ方がいいだろう。
悪くない、むしろ良い
ある程度の広さのある洞穴を発見し、彼女をそこで降ろした。
彼女「すまん、重くなかったか」
俺「鎧着込んだ状態と比べると空気運ぶようなもんだったよ」
彼女「む……す、すまん」
目が覚めた瞬間斬りつけてきた去年と比べ、彼女も随分しおらしくなったなぁと思う。
あの時の頬の傷は深く、未だに消えていない。 良い記念だし傷の下に日付も彫っておこうか。
という冗談はさておき、とにかく彼女が前言ったように
俺をすっかり信頼してくれているようで、改めて思うが大変喜ばしいことである。
そろそろ脱いでいいですか?
さて問題が発生した。 否、発生することは分かっていた。
彼女の頼みにはことごとく「はい」としか返せないイエスマン・俺である。
もちろん「包帯巻くの、手伝ってくれるか」という頼みにもイエスマンは発動してしまったのである。
その頼み、つまりどういうことか。
「正当な理由があるのなら、裸を見せてもいい」 と、そ、そういうことだ。
……いや そういうことっていったいどういうことだってばよ!!
俺「いやちょっと考え直して欲しい! 包帯巻くってことは、
俺に、その、は、裸を見られてしまうってことだろ! いいのか俺に頼んで!」
彼女「お前は衛生兵に対しても裸を恥らえと言いたいのか?」
俺「ええええええ、あー……うーん……」
な、なるほど、今の俺は衛生兵扱いか。 俺がいるから仕方なく俺に頼んでいるだけか。
そうだね誰かがしなきゃいけないもんね俺が特別ってわけではないよね!!
リア充死ね
破傷風か敗血症か
ただ一つ、現在ですら半勃起状態の愚息をもつ俺には彼女に言っておかなければいけないことがある。
俺「えっと非常に恥ずかしながら俺も一応男の端くれですので、いざというときは斬って下さって構いません」
彼女「え、あぁ……はは、そうか。 ……まぁ、大丈夫だろう」
大丈夫って。 何が大丈夫なんだ。 彼女が俺に絶大なる信頼をおいているということか?
それはそれで嬉しいのだが、かれこれ長い付き合いになる彼女の裸をまだ一度たりとも見ていない俺が
そのような期待に応えられるかどうかは正直わからない。 いつ息子が爆発するかも分からない。
ああくそう昨日抜いておけばよかったとか今更そんな後悔しても遅いのである。
彼女「包帯、用意できたらナイフも一緒に持ってきてくれ」
俺「ナイフ? まさか俺のn」
彼女「血でへばり付いて脱げない。 服を切る」
非常に残念ながら、包帯の準備はとっくに完了している。
生唾を飲み、深呼吸をする。 腹ァくくれ! さぁ、いざゆかん!!
彼女の肌着姿ですら初めてな俺である。 肌着といっても女性らしくビスチェを着込んでいるわけが無く、
俺はもちろんのこと男が着るような、吸汗性を重視した綿100%のタンクトップであった。
ナイフを持った彼女はそれにビッと切れ込みを入れる。 そしてそのまま真っ直ぐ下におろし、
タンクトップの前面は二分される。 片方ずつ腕を抜き、彼女の上半身は露わになった。
しかし、俺の視線の先は彼女の控えめな乳房でも、鎖骨でも、へそでも、くびれでもなく――
鍛え上げられた身体にある、数え切れないほどの、傷であった。
彼女「だから、大丈夫だと言っただろう」
はっとした。
彼女「私が襲われ、脱がされても……大体、それで終わる」
ここで何かを言わなければならない。 何かをしなければならない。 それは分かっていたのだが。
結局、彼女の水の催促があるまで、何もすることができなかった。 最悪だ、俺。
水をかけ、血を洗い流す。 傷に滲みるのか彼女は小さな声で呻いた。
矢が刺さっていたのは肩というより胸に近かった。 重要な部分を傷つけてはいなかったものの
防具を装備していなかったために案外深い部分にまで達していたらしく、出血量は多い。
こうやって診ている間にも血はどくどくと溢れ出た。
綺麗(であろう)布を重ね傷口にあてがい、少々きつめに包帯を巻いていく。
見てしまうのは彼女に失礼である事は分かっているのに、どうしても、傷に目がいってしまう。
メイスの類で背中をえぐられた痕、無数の矢傷の痕、肩から深くまで斬り込まれた痕、
背中にも腹部にもある、焼き鏝を押し付けられたような明らかに拷問によるものと思われる痕――
小さいものから大きなものまで、たくさんの消えそうにない傷が残っていた。
彼女「汚いだろ」
視線に気付いた彼女はぽつりと言った。 一瞬だけ包帯を巻く手を止めてしまった。
「そんなことはない」と言ったが、それでは説得力の欠片もない。
彼女「気を遣わなくて良い、慣れているし気にしない」
俺「気なんか遣ってない。
……他の人がどう思っているのかは知らないけど、俺はこの身体が汚いとは思わない」
俺「確かに傷だらけで『綺麗』と言えるものではないかもしれないけど……
傷は戦士の勲章というか、一人の人間として頑張って生きてきた証みたいなものだ。
だから、俺はこれが汚いとなんか絶対思ったりしない。 むしろ、その、ええと……」
「魅力的だ」「美しいとすら思う」
言葉は思いつくのだが、喉の手前で閊えてしまう。
結局言いたかったことは言えずに包帯を巻き終え、
「また明日取り替える」という事務的なことしか伝えられなかった。
いつの間にか外は暗くなり、秋の気温はどんどん下がっていく。
しかし残党が居るかもしれないという警戒もあり、火を熾すことはできない。
相手に居場所を教えることになる上、またボウガンで狙われたらひとたまりも無い。
彼女は包帯を巻き終えてからすぐ、半ば気絶するかのように眠りについた。
荒かった呼吸は安定してきているものの、失血による体温の低下は否むことが出来ない。
その上地面や石壁の冷たさは俺と彼女のマントごときで防げるとは思えない。
火を熾せない今、彼女の身体を温めるには――……
彼女と俺の現在の関係は「依頼主と傭兵」と、多分「信頼関係のある仲間」とか「友達」。
超えてはならない一線はあるが、彼女は今、寝ている。
「裸で温め合う」
ついに、繰り返された妄想を実践するときがきたのである。
わっふるわっふる
夜這いじゃねえかww
わっふるわっふる
結論を言うと、やっぱりそれもできなかった。
臆病者とでも根性なしとでもなんとでも言えばいい。 俺は紳士でありたいのだ。
しかし彼女を温めるという行為をやめたわけではない。
後ろから、彼女を抱き寄せる。 これで一応は温かくなるはずだ。
俺の腕の中で、彼女は静かに寝息をたてている。 それは俺に確かな安心感を与えた。
先ほど見た、彼女の背中。 女性に相応しくない形容詞であるが、筋肉に覆われていたそれは逞しく見えた。
逞しいはずであるのに、今目の前にある背中は何故こんなにも小さく弱弱しく見えるのだろうか。
それは彼女が「女性」だからか。 それとも「彼女」だからだろうか。 それとも、傷だらけだったからだろうか。
少し触れただけでも壊れてしまいそうだった。
彼女の、愛しく小さな背中を抱きしめ、優しく、起こさないように、耳の裏にそっと口付けをした。
「友達」の一線、ちょっと越えてしまったなぁと、後ろの壁に頭をごんとぶつけた。
一方その頃、俺は一人ボサボサ男と女を探す途中で転んで足を挫いていた
何時間も彼女を抱きつつの見張りを続けていたが、彼女の様子を見る以外にすることがなかった。
残党を懸念してこうやって見張りをしていたわけだが、実は残党など居なかったのではないか。
だとしたら今の数時間非常に無駄な時間を過ごしたことになる。
いや彼女の寝息を聞いたり彼女の体温を感じたり彼女の髪の匂いを嗅いだりする時間が無駄なのではない。
むしろそんな状況で見張りが出来るということは幸せだと言っても過言ではない。
しかし、何の意味もなく警戒し続けるというのは精神的に、非常に疲れるのである。
その緊張の糸を緩めても良いのではないかと考えた。
こうやって彼女を温めることも重要だし出来れば続けていたいのだが
残党が居ないとなればその役目は焚き火に任せることも出来るし、俺には他にもしたいことがあった。
俺「……ふぅ」
愚息のしつけの時間である。 二人旅となると、どうしてもこのような時間の確保は難しい。
しかし何故だろう、彼女をオカズにしたわけではないというのに彼女に対する罪悪感が半端ない。
その理由は、俺の手に握られている彼女の血に汚れたタンクトップが知っているに違いない。
その後は彼女の服を川で洗濯をしたり、湧き水を確保して蒸留したり、
栄養のある(主に貧血に良しとされる)野草を集めたり、剣にこびりついた血糊をふき取ったりと、
なんだかんだしている間に日が昇り始めた。
今日も天気がよさそうである。
今年はここを通る間に雨が降りそうになることもなく、心から良かったと思う。
ナイフで無精髭を剃っていると、洞窟から彼女がもそっと這い出てきた。
四つん這いで、目はぼうっとしている。 こんなかわいい生物がこの世に存在して許されるのか!
そして、その出てきた彼女の第一声が
彼女「あれは、何かの儀式でもやっていたのか?」
俺「生贄の儀式を」
暖をとるため彼女の周りに小さな焚き火を燈したのだが、
それが規則的に並んでいたために面白がってその間に線を引いた。
絵本で見たような、いわゆる魔法陣のようなものである。
彼女「いい歳して何やっているんだ」
尤もな意見である。
朝食を作っていたのだが、まだ出来上がっていなかったので先に包帯の交換をすることになった。
洞窟に戻ると目の前で彼女が脱ぎ始める。 どんなストリップ・ショウよりも俺を興奮させてしまう。
彼女は衛生兵をはじめとする、目的が治療である者の場合ならば目の前でも抵抗なく服を脱げるのだそうだ。
俺は恥ずかしいことこの上ない。 絶対にB地区とか直視できない。
そこらへんは視界に入れないように気をつけながら、包帯を解き傷口を見た。
完全にとは言えないが、血は止まってきているようだし ひとまず安心する。
尤も傷が塞がるまではまだ時間がかかりそうではあるが。
新しい当て布に交換し、また包帯を巻き直す。
後ろから巻いているため、彼女の両の脇から腕を通して包帯を左手から右手に受け渡すのだが
その瞬間俺の腕に、彼女の胸の、筋肉ではない部分に、そしてその先端に、触れそうになってしまう。
今こんなことを考えてしまうのは下劣で不純であることは重々承知なのだがこれは意識せざるを得ない。
少しでも手の位置を変えればダブルクリックの後揉みしだくことなど簡単にできてしまうのである。
そんな誘惑にも耐えられるのは俺が紳士であるからに他ならない。
俺ほどになれば彼女の髪をクンカクンカするだけで我慢することができるのだ。
昨日彼女は「身体を見れば萎える」ような事を言ったが、実際に萎えた奴居るのかよ。
こんな魅力的な身体を前にして萎えた糞野郎が居るのかよ! 馬鹿じゃねーのか!!
「俺特製薬草スープ」が完成した。 椀によそい、彼女に手渡す。
瞬間、彼女は眉間に皺をよせた。 しばらく睨めっこをした後、恐る恐るスプーンで掬い、口に運ぶ。
彼女「……お前これ味見したか」
俺「はははもちろん。 する訳がない」
彼女「飲んでみろ。 生きた虫を噛締めた味がするぞ」
俺「お断る。 どんな味だよそれ。 あ、でもほら良薬口に苦しって言うし」
彼女「いい事を教えてやる毒薬もまた口に苦い!!」
俺「うわやめr…………ッ!! ッッ!!」
スープの入った椀を無理やり口につっこみ、俺に飲ませた。
顔が緑色に変色しかけた。 なんだこの味わ!! これが虫の味なのか!!
熱いわ不味いわ苦いわでとにかく大変だった。 豆とキノコがせめてもの救いである。
それでも、彼女はなんだかんだで具だけでも食べてくれた。
味はともかくとして、これは身体に良いに違いないから、とのこと。
もちろん俺も食べた。 彼女にだけ罰ゲームを与えるわけにはいかないからである。
全裸に靴下、ネクタイ、これぞ紳士である
これだから変態は まったく困ったものである
旦
賑やかな朝食を済ませてから、目的の町に足を向けた。
背負って行こうかと提案されたが丁重に却下させてもらった。
これ以上こいつに迷惑をかけたくはなかった。
こいつに迷惑をかけたくはなかった、のだが。
しばらく歩いて正午過ぎ、休憩をとってから、立ち上がることができなくなった。
吐き気がするほどの眩暈と発熱――朝は、なかったはずなのだが。
背負われ、近くの洞穴に運ばれた。
結局迷惑をかけてしまっているではないか。
馬鹿か、私は。
目を閉じていると、突然額に冷たい感覚が走った。
驚いて見てみると、どうやら男が水でしぼった布を乗せてくれたようだ。
目の上に乗せる。 ひんやりとしていて、気持ちいい。
傷口から病原菌が入り、体内の抗体とそれらが絶賛奮闘中なための発熱ではないか
というのが男の考えであった。 解熱剤はあるが、それなら無理に飲まないほうがいい、とのこと。
私「……すまない、お前には迷惑をかけてばかりだ」
ボサボサ頭「なんで謝るんだ、俺が謝りたい位なのに。
俺の目さえあれば俺を庇って矢を受けることも今こうして苦しむこともなかった」
私「それでも……、すまない」
ボサボサ頭「……」
一生脱いだ
ボサボサ頭「……包帯、どうしよう。 これ以上悪くなる前に、巻き直す?」
私「いや、大丈夫だ。 ……お前は私の身体に触れること、嫌がらないのか」
ボサボサ頭「嫌がる理由が見つからないけど」
私「そうか。 ……ふふ、私を脱がそうとした奴らは皆、
私を汚物のように見るというのに…… お前は、優しいのだな」
ボサボサ頭「汚b……酷い奴が居たもんだな」
私「そんなのばっかりだ。 傭兵も、貴族も、弟王子も」
ボサボサ頭「え、おっ、王子ィ!? 王子って国の? なんで……」
私「性欲の捌け口にするためだ」
ボサボサ頭「そうじゃない、そういうことは、王子だからって許されることなのか!?」
私「王子だから、だ。 それに強姦でもない。 契約の下での"和姦"だ」
ボサボサ頭「なっ――」
私「騎士団を潰さない代わりに、大人しく所有物になると。 そういう契約だ」
ボサボサ頭「な、んだよ、それ……、そんな一方的なものが契約って言えるのかよ」
私「そんなもんだ。 ……結局、そこまでは至らなかったがな。
私の身体を見て、私の上から転げ落ちたんだ。 はは、滑稽だ、驚くあの姿、本当に滑稽だった!」
私「所詮、私は駒だ。 権力など無に等しい。 だから、身体を触られても、服を破られても、
化け物だと罵られても身体を蹴られても顔に唾を吐き掛けられても、何も、できないんだ」
私「……何も、できなかったんだ」
私「私の大切な部下達を、騎士団を盾にされて、何もできなかったんだ」
私「あんな屈辱を受けて、私は、あの糞生意気な餓鬼一人もこの手で殺してやることができなかったんだ!!」
私「結局私は、権力の前じゃ何もできない! 私は弱い! 弱い自分が嫌で嫌で仕方ないッ!!」
私「本当に、本当にッ……嫌になった、だから、あの日、お前に……ッ」
私「……すまない、お前は、関係なかった、のに……、
自分勝、手な、私の我侭に、付き合わせて、迷惑、ばかりかけ、て……ッ」
私「すまない、すまない、本当に、すまない……」
溢れる涙は布に吸収されたが、嗚咽を隠すことはできなかった。
男は、何も言わない。 どんな顔をしているのか。 見ることも出来ない。
嫌われてしまったろうか。 しかしそれでもいい。
男が立ち上がる気配がした。 私の元を離れるのだろうか。
しかし、私が捉えたのは男が歩き去るものではなく、私の身体がふわりと浮き上がるような感覚だった。
私「お、おい、何を……」
ボサボサ頭「町に向かう」
私「なら私を置いていけ、もう一緒に行動する必要なんか――うわっ」
ボサボサ頭「こんな汚い場所じゃ破傷風にもなりかねない。 ほら喋ると舌噛むぞ」
私を背負い、有無を言わさずとして走り出した。
辺りはそろそろ日が落ちてくる。 それなのに、私を背負ったまま町に向かおうというのか。
無茶な――
それでも私は、振り落とされないようにしがみ付いた。
薄れていく意識の中、こいつだけはもう手放したくないとひたすらに願い続けた。
俺「ウヒョーッ 最高にいい女連れてるじゃねえか! そいつと金置いてとっとと失せな!」
はいよ、ひとまずお疲れ様
乙兵
ボサ男が無能な方の殿下をれいぽして感動のフィナーレ
支援しぇん
下げてる奴なんなの
>>495
削除し忘れたんだよ、言わせんな馬鹿野郎
ここまで盗賊団
ここで誤爆をするのがいつもの俺
しかし今日の俺はそんなヘマはしないぜ
あとほんのちょっとだけど、お付き合い願う
懐かしい温かさに目が覚めると、見覚えの無い部屋だった。
額には濡れた布が乗せられており、それは既にぬるくなっていた。
重い上体を起こす。 と、丁度その時部屋のドアが開かれた。
「あら」と言って現れたのは、あの酒場の、若き女店主であった。
女主人「目、覚めたみたいね」
町には、着いたらしい。
ここは彼女の店の二階の生活スペースで、この部屋は余っていたのだという。
何故、病院でも宿屋でもないのだろうか。
しょっ…しょうがないわねぇ、あんたがそこまで言うなら……つ、つ、付き合ってあげなくもないわよっ!
まとめにかかったか
私「……あいつは」
女主人「あいつ? ああ、自分の部屋で寝てるわよ」
私「自分の部屋? ここにあいつの部屋があるのか」
女主人「そ。 この町に居る時はそこに泊まってるわね、十年ぐらい前から」
知り合いが居ると言われてこの町に来た。 その知り合いというのが恐らく彼女の事だろう。
見た目からして30代といったところだろうか。 左目の泣き黒子が印象的な、美しい女性。
あいつとは十年来の仲だという。 この家にはあいつの部屋もある。
歳は少し離れているが、この女主人はあいつの、……恋人、なのだろうか。
女主人「で。 貴女は、どういう関係なの? 一緒に旅をしているようだけど」
私「……ただの、旅の護衛として……傭兵として、あいつを雇っていただけだ」
女主人「護衛ね。 それにしては貴女の方が怪我してるみたいだけど。 役立たずなんじゃない?」
私「そんなことはない! あいつは私の為に何でもしてくれた、あいつはいつでも――」
女主人「あら。 ふふ、貴女、あの子のことを好きになったの?」
私「な、何を言う!! あ、貴女は、あいつの恋人ではないのかっ!! そんな事を言って、」
女主人「恋人ぉ?」
きょとん、とした。 しばらく黙った後、急に吹き出し、そして大笑いした。
なんだ、私は何か可笑しなことでも言ったのか? 恋人ではないのか? じゃあ一体なんだと言うのだ。
女主人「ごめんなさいね、あたしのこれ、女装なのよぉ」
言葉の意味を理解するのに時間がかかった。
理解したところで「はぁ!?」という驚きの声しかでなかった。
女装主人「あーおっかしい、まさかあの子の恋人と間違われる日がくるなんて夢にも思わなかった!」
女装主人「ま、恋人ではないから遠慮なく話してね。 あの子の事、好きなの?」
私「…………分からない」
女装主人「分からない?」
私「恋愛沙汰にはむしろ批判的で、経験がなかった。
人を好きになるということが、どういう感情なのか……分からないんだ」
女装主人「そう、じゃあ……貴女は、あの子の事をどう思っているの?
難しく考える必要はないわ。 思いついた言葉を言うだけでいいの」
私「どう、思っているか……」
私「……最初は、憎たらしいとしか、思っていなかったんだ」
私「それが何度か会ううちに、あいつと話すと気が楽になると気付いた。
それだけだと思っていたんだが。 半年ほど、会えなくなる時期があった。
たった半年なのに、会えないだけで、私の心にはぽっかりと穴が空いたような感じがした」
私「多分寂しかったんだ。 だから久しぶりに会ったときは、とても嬉しかった」
私「あいつは優しすぎる。 どんなに迷惑をかけても笑ってくれる。
私の傷だらけの身体を見ても『汚くない』と言ってくれた。 嘘でも、嬉しかった」
私「私は、あいつと居るだけで楽しいし、心も満たされるような気持ちになれる」
私「私は、あいつから、離れたくない」
女装主人「……その想いを、あの子に言ったことは?」
私「言えるわけがない。 あいつにとって私は『友人』で『依頼主』だ。
そんな事を言ってしまって、この関係すら壊れてしまうのが、……怖いんだ」
女装主人「……そう」
女装主人「貴女はあの子の事が好きなのね。 それも、どうしようもないぐらいに」
「後で薬、持って来るから」と言って女装した店の主人はこの部屋を出て行った。
取り残された私はベッドの上で一人、丸くなる。
……私は、あいつの事が、好きらしい。
そうか、好きだったのか。 私はずっと、あいつの事が好きだったのか。
あいつの事を考えるだけで心が満たされ、そして心が締め付けられるような思いがしたのも、
あいつの事が好きだったからか。
自分の気持ちに気付いてしまった。
――いや、違う。 本当はずっと気付いていた。 ただ認めたくなかっただけだ。
人を好きになることは拠所を求める弱者のすることだと、戦場では邪魔になるだけだと、
人を好きになってしまうと敵に付け入る隙を与えることになるだけだと、弱くなってしまうと、
今までそう思い続けてきた自分を全て、否定してしまうようで――
人を好きになるというのは、こんなにも、辛いことなのか。
弓兵(おまえら)「」
今「夜は短し歩けよ乙女」読んでる俺にとっては森見登美彦っぽさがよくわかる
支援
旦
現在の俺はすこぶる不機嫌であった。
昨晩――いやむしろ今日の早朝と言える、既に店も閉まってしまった時間に
俺はママの店に転がり込み、彼女の介抱、そして王子と王宮の資料と馬を要求した。
しかしそれが通ることはなく、ママは俺にも寝ろと言うばかりだった。
気に食わなかった俺は力尽くで資料だけでも手に入れようとした。
ママに片腕を外されようが、とにかく、俺は弟王子を、殺してやりたい一心だった。
その思いも虚しく顎に強烈な一発を食らってしまった俺は今までずっと気を失っていた。
肩を固定している包帯を煩わしく思い、それを解いていると、
ノックもせずにママが入ってきた。
ママ「駄目じゃない、解いちゃ」
ベッドの際に腰掛けるママを睨みつけると、「随分と遅い反抗期ね」と言って溜息を吐いた。
俺「どうして行かせてくれなかったんだ」
ママ「あんなフラフラな状態で行かせられる訳ないでしょ。
ましてや相手はこの国の王子様。 ……あなたには荷が重過ぎる」
俺「でもあの糞餓鬼を殺さなきゃいけない」
ママ「どんな事情があるのかは知らないけど、
今自分が出来る事と出来ない事を見誤っちゃ駄目。 だからいつまで経っても坊やなの」
俺「でも」
ママ「私情を挟んでもロクな事にならないのはよく知ってるでしょ? 諦めなさい」
俺「……」
俺「……彼女は」
ママ「目は覚めたわ。 今から薬貰いに行くけど、具体的にどんな症状なの?」
不思議なことに、彼女を背負ってここに向かう途中、急に俺にも彼女と同じ症状が現れた。
もちろん俺は毒の矢を食らっていたわけでもないし、その他の雑魚の攻撃を食らった覚えも無い。
菌が進入できる傷口はなかったし、風邪を引いていたわけでもない。
去年と違って全くの健全体であった俺が、何故こうなってしまったのか。
ママ「変なものでも食べたんじゃない?」
変なもの。 心当たりはある。 朝食べた、「俺特製薬草スープ」である。
もう忘れたいというのに、歯の間に詰まったカスがその味をいちいち思い出させる。
しかしそれは不味かっただけで、身体には良いはずだった。
俺「使ったのは薬草だ、確認もした。 それと町で買った豆と木の実、あとキノコ」
ママ「キノコ?」
俺「昔からこの時期この辺で採れてた、美味しいやつ」
するとママは「あー」と言って目を覆った。
ママ「何年も帰ってきてなかったし、去年もすぐ発っちゃったから知らないのかもね。
そのキノコ、急に毒性を持ち始めて倒れる人が続出したのよ。 今はもう栽培禁止になってるわ」
なん……だと……
と言うことは、待て。 俺が今こうやって寝ていざるをえない状況になったのも、
彼女が熱に浮かされ大変苦しい思いをしているのも全て、俺のせいだということになる。
俺「……まただまただよもうやだ俺死にたい」
ママ「あんたの死ぬ死ぬ詐欺はもう飽きたわ」
軽くあしらわれ、額を指でトンと押された。 去年まで無かった羽毛の枕に頭がぼすっと埋まる。
「病人は大人しくしてなさい」と水で絞った布を顔にべちゃりと投げつけられた。
流石頼れる俺らのママン
ママ「で。 どういう経緯であなた達が知り合ったのかは知らないけど……やっぱりまだ好きなわけ?」
俺「好きだよ」
ママ「あら。 ふふ、きっぱり言うのね」
俺「好きじゃなきゃこんな熱くならない。物理的にも精神的にも。 彼女のためなら死ねる」
ママ「そんなに好きならいい加減本人に言っちゃえばいいのに。 意気地なし」
俺「……だよなぁ」
ママ「『俺は紳士だ』って言わないのね」
俺「ただ臆病なだけなんだよ俺は……」
ママ「……過去に振られたこと、相当トラウマになってるのね。
怖いんでしょ、また振られることが。 振られて、今の関係が崩れるのが怖いんでしょ」
黙って頷くと、呆れたように「本当、そっくりすぎて笑っちゃうわ」と呟き溜息を吐いた。
いったい何が、誰にそっくりだというのか。
旦
薬の影響か、ベッドに倒れこんだ瞬間枕に意識を吸い取られるように眠りに落ちてしまった。
そして目覚めた現在、先ほどまでの身体のだるさは全て消えていた。
窓の外を見てみればもう暗くなっていた。 下の階からは酒を飲む賑やかな声が聞こえる。
部屋を出て薄暗い廊下を通り、あいつの部屋の前で立ち止まる。
少し戸惑いながらも扉をノックする、が、返事は聞こえない。
ギィと軋む扉を開けると、窓もなく埃っぽい小さな部屋にベッドがあり、そこにあいつは横たわっていた。
胸が規則的に上下している。 近付いてみると静かな呼吸が聞こえる。
どうやら、まだ寝ているらしい。
床に膝をつき、特徴的なボサボサの髪を掻き分け、顔を覗き込む。
無精髭は生えているものの、安らかに眠るそれはどこか幼く見える。
いつも陥没している眼窩を隠していた眼帯は右手に握られていた。
私が、初めてこいつにあげた物。
そういえばこいつは大層喜んでくれていたな。 今も大切にしてくれているのだろうか。
ぼうっと考えていると、こちらに気付いた主人が近付いてきた。
女装主人「あら。 起きるの待ってるの?」
私「え、あ、いや、別に待っていたわけでは。 ただ見ていただけだ」
「ふーん」と言うと、主人はおもむろに男に近付き、
そして目にも留まらぬ速さで鳩尾に強烈な一撃を放ったのである。
ボサボサ頭「お゛ぶッ!?」
主人の予想外の行動に私は唖然とするしかなかった。
ボサボサの頭をした男も咳き込みながら起き上がり、突然の事態に混乱していた。
ボサボサ頭「ゲホッ……、え、何、敵襲……!?」
女装夫人「女性を待たせちゃ駄目じゃない、坊や」
「え」と言いながら、私を見た。 私など女性扱いするほど女らしくもないだろう、と思っていると
ボサボサ頭はかなり驚いた様子でベッドから転げ落ち、そして壁に後頭部を打ち付けた。
こんな光景は前にも見た気がする。 これが「デジャ・ビュ」というやつか。
女装主人「二人ともお腹へってたら下にいらっしゃい、ご馳走するわよ」
そう言ってぱたぱたと部屋を出て行った。
とても急がしそうである。
ママン√はないの?
旦
ママの強力な一撃によって目が覚め、そして目の前にいた彼女に驚いて
ベッドから転げ落ち、頭を打ち付けたために完全に覚醒した俺である。
ママとの会話で改めて彼女のことを好きであると確認したからか、
どうも彼女と二人きりというのはドキドキしてしまうものである。
当の彼女の顔までが赤く見えるのは、蝋燭の明かり加減のためだろうか。
彼女「今の、大丈夫だったか。 モロに入ったが」
俺「はは……まぁ、多分手加減されてたから大丈夫だと思う」
彼女「す、すまないな、私がここに居たばっかりに。 もう出て行くから、ゆっくり休んでくれ」
俺「あ、いやいや。 今ので完全に目ぇ覚めたし良いよここに居て」
そう言って、何気なくベッドに座るように促した。
彼女は少し戸惑いながらも、すとんとベッドに腰を下ろした。
俺「えっ……と、もう熱とか大丈夫?」
彼女「ん、お蔭様でな」
俺「で、その熱の原因なんだけど、実は、その……」
彼女「スープに入っていたキノコだろう。 聞いた」
俺「……ごめん」
彼女「何故謝る。 知らなかったのだろう?」
俺「知らなかった、なんて免罪符にはならない」
彼女「お前は同じ毒に侵されながらも私をここまで運んでくれた。
私にお前を責める理由はない、むしろ感謝したいことばかりだ。
あのスープだって私の為に作ったのだろう。 だったら悪いのは私だ」
彼女は「私が悪い」と言い張った。 俺も「俺が悪い」と言い張った。
責任の擦り付け合いとは全く逆の口論――それは激化していき、
いつの間にか喧嘩にまで発展してしまう。 お互いに譲れないのである。
俺のキノコをry
彼女「じゃあお前があの矢に射られたかったと言うのか? とんだ酔狂ではないか!」
俺「俺は護衛だ! 護衛として雇われている身がなんで守られなくちゃいけないんだ!!」
彼女「雇い主には傭兵の品質を管理する義務がある!!」
俺「傭兵にそんなの必要ない!
護衛である俺を庇うぐらいなら最初から俺なんか必要なかったんじゃないのか!?」
彼女「ッ、黙れ!! 貴様は私に雇われている身だ!
私の勝手な行動に口を出される義理はない!! 何故、そこまで私に口答えするのだ!!」
俺「好きだからに決まってるだろうが!!」
「俺のせいで嫌な思いさせたくない」と言おうとしていたのだが――
その裏にあった本音を、勢いで、つい、ぽろりと、言ってしまった、のである。
ファック
しまった、と口を押さえるが今更口を封じても時既に遅し。
場の空気が凍り付く。
彼女は、掴んでいた俺の胸倉から右手を放した。
そして俺の顔に強烈な鉄拳を食らわせ、走って部屋を出て行ってしまった。
ああ、だめだ。 絶対に、完全に、完ッ全に、嫌われてしまった。
どうしよう。 死にたい。
しかし俺が自決するのを危惧してか暗器を含む武器全てをママに没収にされている。
どこかに殺傷力のあるものは――
いや、その前に、死ぬ前に。 彼女に謝っておかなければならない。
彼女を追い、走り出す。
旦
与えられた部屋に駆け込み、扉を閉じ、そしてそれに背を凭れしゃがみこむ。
何度深呼吸をしても脈拍が落ち着かない。
あいつはなんと言った? あいつは今、何と言った?
私を好きだと――そう、言ったのか?
馬鹿な。 馬鹿な。 馬鹿な。 そんな訳ない、そんなことあるはずが――
コンコン、と背後の扉が叩かれる。
思わずびくりとしてしまい、開けるべきか開けざるべきか戸惑っていると、
扉の向こうから「開けなくてもいい」と静かな声が聞こえた。
ボサボサ頭「ごめん、さっきのは俺のせいで傷ついて欲しくないって意味で……」
ボサボサ頭「……いや、やっぱり……さっきのは、俺の本音。
ずっとそうだった。 でも黙ってた。 ……怖くて言えなかった」
ボサボサ頭「所詮俺は傭兵の糞野郎だから、言ったところでどうなるかなんか分かってた。
……言って、振られて、敬遠されて、一緒にしていた旅が終わるのが、怖かった」
ボサボサ頭「だからずっと黙ってた。 ……ごめん」
ボサボサ頭「でももういい。 言ってしまった。
もう俺となんか居たくないだろ? 契約、切ってくれて構わない」
ボサボサ頭「俺はもうここを出るから……安心して身体休めるといい」
ボサボサ頭「旅、すごく楽しかった。 ありがとう。 それじゃあ」
騎士様は私が貰っていきますね
脳が命令を下す前に、立ち去ろうとしていた男を引き止めていた。
隔てていた扉を開き、驚き固まる男の手首を引っ張り、強引に部屋に入れた。
そしてその手を掴んだまま、「本当なのか」と尋ねる。 声が、震えている。
私「私の、目を見て、もう一度、言って欲しい」
男は口をぱくぱくさせた。 そして深く深く深呼吸し、
そしてあの決闘の日のように真っ直ぐと私の目を見据えた。
ボサボサ頭「ずっと、す、好きだった」
なぜこんな大事なときに声が裏返るのか。 それはさておくとして――
その言葉に、何の偽りも感じなかった。 その瞬間、私の目からは滝のように涙が流れた。
私「…たしを、好きでいてくれるのか? こんな私を好きでいてくれるのか?」
私「こんなに我侭な私を、こんなに迷惑をかけてしまった私を、
こんなに醜い身体をした私を、本当に、お前は、好きでいてくれるのか?」
ボサボサ頭「うん」
私「……っ、私も……、ずっと、ずっとずっと好きだった」
私「お前のことが、好きで好きで堪らなかった。 だけどずっと言えなかった。
お前が私のことを嫌っているのではないかと、煙たがっているのではないかと思っていた」
私「怖かった。 私も、お前と離れることが怖くて、ずっと、言えなかった……っ」
漏れる嗚咽を止めたのは私自身ではなく、こいつであった。
未だに私が掴んでいる手で私の肩を抱き、もう片方で私の流れる涙をそっと拭う。
そしてその手をゆっくりと顎に沿わせ、軽くしゃくると、そのまま優しく唇を重ねた。
★壁殴り代行始めました★
ムカついたけど壁を殴る筋肉が無い、壁を殴りたいけど殴る壁が無い、そんなときに!
壁殴りで鍛えたスタッフたちが一生懸命あなたの代わりに壁を殴ってくれます!
モチロン壁を用意する必要もありません!スタッフがあなたの家の近くの家の壁を無差別に殴りまくります!
1時間\1200~ 24時間営業 年中無休!
, ''二=-― -、
/,'" )'ー、 壁殴り代行では同時にスタッフも募集しています
/ /''ー ' /'"`` ' 、 筋肉に自身のあるそこのアナタ!一緒にお仕事してみませんか?
/: / ヽー'ノ::::.... )-、,, ∧__∧ 壁を殴るだけの簡単なお仕事です!
l゙::: / リ:/ ::: ノ::::.... ヽー 、:( ´・ω・` ) 、 ______
', | / l|// /::" ::/ ̄ヽヽ、、、,,,:::: | ',::::: `'ー、,、-''"´
',ノ,'' イ' ::/ ィ / :/ ゙''':::::| ヽ;;;;; `゙;;'''';;ーi、,,、- '''''"彡゙ll|ソ ,
{ | l| /,,;イ / / ::| ::」``ヽ;;;;; ,、;;;ヽ、ヽ;; 、,,,ッ
ヽ リ '" } /ノ l| / :|" 三三`' 、( );; ヾ'、○} { '
ヽ ヽ" :l l l| / :}、::::: `' 、;;; ;;; ', ゙''、 j 、|.
ヽ ヽ { " / | リ:: ヽ::: '' 、从 ',、 ミヽ ゙' 、.|
ヽ :: \ '、 ミ / 、 ゙l::: ゙ll ゙ll:',ヽ ゙' 、, ゙{
ヽ ::: ミ '、 ミ |::: ヾ::::: ゙ll ゙l|l::::゙、 { |
ヽ::::: リl|l|::: ', ゙ll: |::::::゙、人|; /
゙l ゙ミ /:l. :レ'::} ', ノ、;;;;;;;ヽ l|/ヽ
|`-、ミ /:::::::| } |:::...... ,,、 '",、、゙゙''ー''´ ',
|゙、::::`' 、,_ _/:::::::/ :} /::::::::::::,,、-''" {○ ゙ll`' 、 ゙l|: |
一方その頃、俺はクマのエサとなっていた
>>550
おい
おい、お前絶対狙ってたろ?
旦
さて、まさかの予想外ともいえる彼女からの告白――彼女も、俺が好きだと、
そう言われたおかげで勢いにまかせて唇が触れる程度であるが彼女とキキキキキスをしてしまった訳だが。
ドキドキドキドキといつもの二倍の脈拍が自身から聴こえる。
彼女の桃色の可愛らしい、そして柔らかな唇に勝手ながらファースト・キッスを奪ってもらった俺は、
プラスαとして唇を放した後の彼女の、赤らんだ顔+涙ぐんだ+上目遣いという超絶コンボによって
内心息絶え絶えであった。 彼女の可愛さは致死量を超えてしまった。 可愛すぎて生きるのが辛い。
この先どうすればいいのですか我が息子よ。 この童貞畜生めにどうか教えてやってつかあさい。
しかしそんな問いかけも虚しく返事は返ってこない。 当然である。 息子といえど、俺なのだ。
ああくそう、なんのための日々の妄想だったのだ! これだから童貞は!
しかし、やることがわからなくても、わからないなりに、頑張らなければならないのである。
おいお前らパンツ脱げ
やることは分からない、分からないが、単純にもう一度、キスをしたいと思った。
顔を近づける。 彼女はそれを理解したように目を瞑り、低い身長を補うため背伸びをした。
舌を入れても彼女は抵抗しなかった。 絡め、放し、そしてまた絡め合う。
唇を貪り、更に強く絡め合うため彼女の頭の後ろに手を回す。 彼女も、俺の背中に手を回した。
熱く、荒い鼻息が互いの顔にかかる。 相手の鼓動までが伝わってくる。
唇を離すと、二人の間にねっとりとした白い糸が引いた。
彼女を軽く押す。 ベッドの縁に足を掛け、仰向けに倒れる。
そしてその上に、俺が覆いかぶさる。
耳まで赤くした彼女は、潤んだ目でじっと俺を見つめている。
服の中に手を滑り込ませる。 包帯の上から胸を撫でる。
柔らかな先端部に触れると彼女は熱い息を漏らした。
もう限界だよママン
これはもう、辛抱堪らん。 彼女の服に手をかけ、脱がそうとした。
すると彼女は「待ってくれ」と言い、俺の行動を制止させた。
彼女「……明かりを、消してくれないか」
俺「なんで」
彼女「こんな汚い身体なんか、見たく、ないだろ」
俺「前も言ったけどそんな事思ってない。
傷だらけだけど、俺はむしろそれが魅力的だと思うし、美しいと思うよ」
彼女「でも」
俺「それに俺は、恥ずかしがる顔をじっくり見たいんだよね」
彼女「……ばか」
んふぅぅばかぁぁあんんなぁななんあななんあんあんあんあん
>俺「それに俺は、恥ずかしがる顔をじっくり見たいんだよね」
童貞はこんなこと言わない!!
ママン√は・・・
めし
>>575
これが主人公補正というものだよ・・・
めしかよおおおおおおおおおおおおおお
ひとまずお疲れ様
次はいつ頃だよ
俺も正直腹へって仕方ない
最近寒いからお腹温めとけよ
パンツ破り捨てた
壁は壊すものではなく、乗り越えるものだと知った時
あなたはまた一歩成長するのだ
―――――
―――
―
ママ「昨夜はお楽しみだったみたいね」
朝起きて、昼の部開店準備中の店に降りた俺にママが放った第一声である。
朝っぱらからなんてことを!と思うものの否定も出来ず、目をそらして苦笑いするしかなかった。
俺「も、もしかして、声、漏れてた?」
ママ「残念だけどお客さん賑わってて全然聴こえなかったわ。
だから驚いたわぁ、さっき様子を見に行ったら一緒に寝てるんだもの」
ひとまず安心した。 もし俺以外に彼女の喘ぎ声を聞かれてなどいたら彼女はこの町を歩けなくなる。
そして俺にも、彼女のあの甘い声を俺だけのものにしたいと いっちょまえな独占欲があった。
ママ「どうする、朝ご飯食べる?」
俺「いや、彼女がまだ起きてないし、しばらく待つよ」
「そ」とあいづちを打ちながら、ママは俺の顔を見てニコニコとした。
ああきっと話を聞きたいのだろうなと思い、彼女を待つ間馴れ初めを語ることにした。
俺「彼女、実はこの国の、」
ママ「正規軍の女隊長さんでしょ?」
俺「あら」
どうやら知っていたらしい。
まぁ、酒場の店主でありギルドマスターの一面も持つママの事だから、
彼女のような有名人の顔ぐらい知っていてもなんら不思議なことではない。
だったら去年ちょっとぐらい教えてくれたってよかったのになぁと思いながら話を続ける。
とうとうこの話もラストかぁ(´・ω・`)
俺「実は去年ここを発ってから、クマに襲われて行き倒れて離れ離れになったんだよ」
ママ「災難だったわね。 去年は木の実が不作だったからかしら」
俺「で、しばらく入院して、彼女のことは諦めて仕事を再開したんだ。 借金返すために」
俺「春にあった戦に当然彼女は参加してたんだけど、
偶然その時俺も丁度参加してたんだよね。 この国の敵、連合軍側に」
ママ「あら、とんだ負け戦だったわね。 その目はその時?」
俺「いやこれはもっと後。 で、彼女と一戦交えて、その後いろいろあって俺は戦線離脱。
戦終わった王都の酒場にて偶然再会、決闘やりなおして、それ以降一緒に酒を飲む仲に」
俺「しかも行き倒れている時の俺を助けてくれたのは
偶然町を出るために通りかかった彼女(とその部下)だったらしいんだ」
ママ「へぇ~、偶然に偶然が重なったわけ」
俺「そうそう。 嬉しい限りだよ本当」
ママンやばすぎワロタ
旦
窓から差し込む眩しい朝日に目が覚める。
身体を起き上がらせた拍子に肌蹴た毛布から現れたのは、一糸纏わぬ姿の自分だった。
ああ、そうか、昨日はあいつと――……
思い出しただけで、顔が熱くなる。
性交自体は初めてではなかった。 昔傭兵のとき一度、五人の男に回されたことがある。
捨てられた後に残っていたのは、下半身の苦痛と、喪失感と、恐怖感と、屈辱感だけだった。
しかし今は、それらの一つも感じていない。 今あるのは、幸福感のみである。
恐ろしいと思っていた男の身体を受け入れることが出来たのは、あいつだったからに他ならない。
まさか、性行為というものに、ここまで魔力があるとは――
こんなものに溺れては、いつかは身を滅ぼすな、と思った。
私の横にあいつの姿はなかった。
代わりに、ベッドの横にある椅子の上に、脱ぎ捨てられていたはずの私の服が
丁寧に折畳まれ置かれていた。 あいつの仕業か。 変なところで几帳面なやつだ。
それを手に取り着込んでいく途中、胸や首筋に赤い点があることに気付いた。
虫にでも刺されたか? ……いや、違う。 これはあいつが吸い付いた痕か。
あいつめ、なんてものを残してくれたのだ。
廊下に出てあいつを探す。 一階に降りてみると、店の主人の小さな声が聴こえた。
この扉の向こうは酒場のスペースだろうか。
旦
ママ「ずっと、好きだったものね。 いろいろと思うことあるんじゃない?」
俺「……そうだなぁ」
ママ「全部吐き出していいのよ。 お客さんの話を聞くのがあたしの仕事だから」
俺「お客さんって。 そんな寂しい扱いだったの俺」
ママ「息子って言って欲しい?」
俺「嫌だよちんこついた母親なんか」
ママ「誰が母親って言ったのよ、あたしは女装が好きなだけで女になるつもりはないのよ」
俺「はいはい。 ……えっと、じゃあちょっと聞いてくれるかな」
ママ「ふふ、どうぞ」
ママンは女隊長より超絶美人
まさか・・・この流れ・・・
俺「まず去年、丁度一年前の今の時期町の酒場で見つけた彼女に俺は運命的な何かを
感じたよ。 一目惚れすると同時に彼女が俺の何かを変えてくれるんじゃないかってね。
それから彼女に話しかけるために彼女の後をつけた。 話しかけるなら彼女が望んだ
時に話しかけたいからね。 だから彼女の研究とも言える。 この研究の時間は本当に
楽しかった。 彼女の歩行速度。 彼女の歩幅。 歩くときの癖と、それによる足音。 手を
振る角度。 歩くことで揺れる輝かしいまでに靡く髪とマントと、伸び縮みする大臀筋。
彼女の呼吸音。歩いた後の彼女の髪の残り香。 少し汗の匂いの混じった、甘い香り。
彼女の嫌いな食べ物。 彼女の好きな食べ物。 朝食と夕食のレパートリー。 一日に食
べる量。 彼女が去った後に残された、彼女が食べていたと思われる骨付き肉の残り
かすは有難く頂戴させてもらって大切に大切に舐めさせてもらったよ。 ごちそうさまです」
俺「彼女の行動のひとつひとつが、俺の中のナニカを刺激したんだ。 欠伸をする彼女。
くしゃみをする彼女。 木の根に躓きそうになる彼女。 頭を掻く彼女。 伸びる彼女。
髪を耳に掛ける彼女。 水を飲んで一息を入れる彼女。 休憩中に溜息を吐く彼女。
というか、もう、彼女が存在するというだけで俺は常に元気になれたんだと思うんだよ」
俺「一緒に酒を飲むようになった彼女。 彼女はある酒場の常連客でね、ボトルまでキープして
もらっているんだ。 その酒をよく飲ませてもらっていたんだけど、それはただのワインじゃ
なくて、シードルも少し混ぜられた彼女オリジナルブレンドなんだよね。 他の酒を混ぜる事
はよくあるけども、シードル、リンゴ酒を混ぜるってあたりいかにも彼女らしいよね。 その酒
はもちろん美味しかったんだけど、なにより彼女オリジナルよいう事実に最も美味を感じた。
酒を飲んでる間は無言のことが多かったけど、たまにお互いの話をしたりするんだ。その時
の彼女の見せる表情といったら後ろを歩いていては絶対にみることのできないものだし、な
により目の前の席に座っているものだから本当に近い距離なんだよね。 なんというか、もう
凄く可愛いんだよ。 いつものつんとした鋭い目ももちろんいい。 だけど時折見せる無邪気な
笑顔とか、柔らかい笑顔とか、人を見下して嘲笑う顔とか、心身ともに疲弊している顔とか、
もう何から何まで可愛いんだよね。 本当に、彼女の顔はずっと見ていても飽きないんだよね」
俺「旅を始めるとき、彼女は眼帯をプレゼントしてくれたんだ。 これね。 彼女には内緒だけど、
これ内側に日付を刺繍したんだよね。 記念日っていうのかな、とりあえず忘れないように。
彼女に貰ったということと、それが貰うまで彼女のズボンのポケットもしくは彼女に握られて
いたと思うとどうしても匂いを嗅がずにはいられなくなるよね。 もちろん大っぴらにはしない
けどさ。 俺はプレゼントだと勝手に思ってるけど、彼女にとっては目の陥没が見苦しかった
のかもしれない。 だけど、心配をしてくれているのかもしれない。 そうかんがえるとやっぱり、
俺はこの眼帯を装着しているだけで幸せな気分に慣れるんだよ。 手放したこともほとんどない」
キモいという点だけはおまえらにそっくりだな
俺「酔いつぶれた彼女を初めて背負ったとき、俺は地獄を見たよ。 それは背中に襲い掛かった。
遠目で観ても分かるとおり、彼女の胸は他の女性に比べれば小さい分類なんだよ。 ほとんど
が筋肉になってしまってるんだ。 でもその考えは浅はかだったよ。 背中に彼女を感じて分か
った。 彼女も、胸は、ある。 胸の下部。 明らかに筋肉と言い難い柔らかな部分があったんだ。
確かに小さい。 小さいけども、確かにそれは、その宝石は、そこに存在したんだよ。 それで、
昨日。 俺は彼女の許可を得、初めてまじまじと見ることに成功した。 包帯を取り替えるときに
だって観ることはできたけども、それは俺のプライドというか俺の中の紳士が許さなかったんだ。
で、その、彼女のおっぱいなんだけど、やっぱり、小さいんだ。 でもそれって大変素晴らしい事
だと思うんだよね。 彼女は騎士で、女を捨てていると思われているかもしれないけど、実はそん
なことは決してないんだよ。 確かにあの筋肉に覆われた身体は女性らしいとは言い辛いけども
それでも彼女は立派な女性なんだよ。 彼女は、その筋肉に覆われた身体が、身体を鍛える
ことで小さくならざるを得なかった胸が、女性らしくないことを、本当は気にしている、とても可愛い
女性なんだよ。 だからあのとき蝋燭の火を消すように頼んだんだと思うんだ。 俺はそんなこと
気にしない、むしろそうやって気にしている彼女が非常に魅力的だと思うんだけどさ。 で、その
彼女の胸はこう、後ろから乳輪付近を指で押さえて、それでゆっくりと揉みあげたんだけど、やっ
ぱり後ろからやったのが良かったのか、凄く手に収まるような感覚が良いんだよ。 さっき地獄
って言ったけど、それは悪い意味ではないんだ。 俺は、地獄のような、歓喜を味わったよ。 うん」
俺「あ、それでね。 話はちょっと戻るんだけど旅の途中で――」
ママ「ああ、もう、いいわ」
俺「え、なんで? まだちょっとしか話してないんだけど」
ママ「いいから。 ……っていうか。 逃げなさい」
「へ、」と言いながら、ママの視線の先を追う。 と。
そこには、にっこりと笑う、彼女が立っていた。
もちろん目は、笑ってない。
サーッと一気に血の気が引くのがわかった。
席から立ち上がり、後ずさる。
俺「おおっおおおおおはよう、どどどうかな体調は」
彼女「ああ貴様のおかげで順調だ、見ろ、肩ももう軽く回せる」
指を鳴らし、肩をぐるんぐるんと回しながら、俺に、一歩一歩近付いてくる。
俺「え、ええっと、その、あの、いつから、聞いていたのでしょうか?」
彼女「『じゃあちょっと聞いてくれるかな』辺りからだな」
俺「は、ははは、それって最初からって事じゃん超ウケル」
そう言った瞬間に、俺は彼女に背を向け店から出て抜け出そうとした。
しかしその試みは軽く打ち砕かれた。
彼女は目にも留まらぬ速さで走り、俺の目の前に立ちはだかる。
そして前方に走り続けようとする慣性を利用して俺を投げ飛ばした。
得意分野になると、とたんに饒舌になる・・・お前らそっくりや
第二回戦が始まるというのか、朝から酒場で
うつ伏せに倒れる俺を踏みつける。 地団太を踏むように何度も何度も踏みつける。
彼女「貴様! 貴様は!! 去年からずっと私を尾行けていたと言うのか!!!」
俺「げふッ! いや、それは、研究あぶッ!!」
彼女「ぬかせ!! なにが研究だ単にストーキングしていただけではないか貴様はッ!!」
俺「紳士d……!」
彼女「前、後ろに居たのは偶然だと言ったな!! あれも嘘だったのか、あァ!?」
俺「んう゛ッ!!」
彼女「ましてや、私の、私の……ッ! ち、……ッ、このぉッッ!!!」
俺も踏まれてえええええええ'`ァ,、ァ(*´Д`*)'`ァ,、ァ
ち……ッん…?
俺「ごっ、ごめ……! し、死んじゃう!! 本当に死んじゃう俺!!!」
彼女「ああ死ね死んでしまえ!!!!」
俺「おごぉ゛ぉおおおおおおおおおお」
彼女は両脇に、俺の脚を挟んだ。
そして俺に跨り、美しいフォームの逆エビ固めが完成した。
俺「……ほっ……!」
俺「本望なりィィイイイイ!!!!」
fin.
oh....BAD END......いやhappy end乙乙
>>1
お疲れ様でした!面白かったよーww
~第一部~完
やっと投下終わったぜーフゥハハハー
支援してくれた人、保守してくれた人、読んでくれた人全てに感謝
童貞にエロシーンなんか書けるはずなかったんや!
>>1
折角やからコテあったら晒してくれ
童貞なら仕方ない
ちょっと俺も好きな娘ストーキンg・・・もとい研究してくる
ヽ ! '")二'ユ、 / /´ 了__,.ィ´__,∠-<イ
l { ゾ' ー< + 十 / ノ-‐づ、 '´_ノ-‐''"´,_,/
l ! ´フつ::ュ.) / , ‐'フ´-ノ '´_>‐''"´_ノ
, ' | ,' ¬ヘニ ヽ-ュ._ / _,. - '´/ ,∠-''"
| ,' ¨! ム ^) ⌒>‐'⌒) +/ jノノ/´ 'フ_,/ ア
| '7 `っ<^ 'ン⌒'_`ニ=-―-/ /"´,っ ‐、/´‐'_,xく
| i '´ ,ィジ>'´ / / 人 ) イ -‐ _ノ
+| 丶.: .: .: ,;〃/ / /う _六 ,'ぅ 丿- '''"´丿
+ \ / / ,ノ、,) -' --┬ '''"´
`ー-ー プ ´´' /// 〈 、ヾ`,"'' -‐'゙ ,.ニ-‐< X^}
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| , /ニ._''",,ノ `>!´彳 〈、_入_,ト、{,,ヽ
十 ', 仭 丿 `"ァー--イ { ; ミ、、x{._,入,入\
+ (ユうァ'′ _ ;彡 ; ' ノ } ,.' r'Vハ{.¦{¦{ !}
∨`′ 〈ス九ヘ}jtメ _爻ヾf` ヽ._,火_,火_/`''′
(と!i`×、_ _rタ、SpY
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ノメ, / {人トイ
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/ // .| / ト、
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`'ー-、__ ̄ /
`'ー-、/
>コテ
ない
>森見登美彦
大好き
>過去SS
このスレに関係ないし黒歴史だよ言わせんな恥ずかしい
>この後
焼きリンゴ食べて仲直り。続編書かないけど
予定では、スレ立ててさる無効時間に70投下、
その後支援もなく20時間以上一人でもそもそ続けてひっそり落ちる予定だったんだけど
その期待をものすごい勢いで裏切られたよ。マジサンクス
今回もbadエンドにするつもりだったけどhappyにしてよかった
>>670
気になってるのそこじゃないけど騎士団云々とか何も問題なく
最終的に二人は仲良く暮らしました めでたしめでたし
でいいんだな!遊歴?とか言う期限の伏線が回収されず怖かったけどこの後も幸せなんだな!?
>>673
なあなあエンドにしたのは各自の想像に任せるためだぜい
このSSまとめへのコメント
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