美琴「何? 私が弱いですって!?」(301)

美琴「LV5の私に向かって、言ってくれるじゃない……!」

上条「違う。そういうことじゃないんだ」

美琴「な……何がよ」

上条「いくら力が強くても、お前は普通の、中学生の女の子なんだから」

美琴「……」

上条「強がらなくていいんだ」

美琴「強がってなんか……!」

上条「俺の前では、弱いままでいいんだ」

美琴「――っ」

上条「ミサカ?」

美琴「これは……ちがっ、み、見ないで! あっち向いてなさい!」

予告通り立ててみたものの……

上条「わ、悪い……俺、何か酷いこと言っちまったか?」

美琴「!? アンタの、そういうところが……!!」

上条「ひぃっ!?」

美琴「もう……いいから! あっち向いてよ!」

上条「はい……」

美琴「グスッ。……そのまま両手を挙げなさい」

上条「なんで?」

美琴「挙げろ」

上条「はいっ!」

美琴「……」ギュッ

上条「!?」

美琴「う……ヒック」

上条(ああ言えば、もうビリビリされずに済むと思ったんだけど……)

上条(なんで泣くんだ? 困った……)

上条「あの……御坂さん?」

美琴「ん……グスッ。何よ」

上条「差し支えなければ、どうして泣いて」

美琴「うるさい」

上条「もう手を降ろし」

美琴「動くな」

上条(どうすればいいんだ……)

美琴「グシュ……馬鹿」

美琴「……ねぇ」

上条「はい」

美琴「アンタの言う〝か弱い女の子〟が泣いてるのよ」

上条「か弱いとは言ってな」

美琴「……」ガリッ

上条「痛い痛い痛いイタイ!?」

美琴「〝か弱い女の子〟が泣いてるのよ」

上条「その通りで御座いますね」

美琴「それは誰のせいかしら」

上条「俺……ですよね?」

美琴「そうよ。だから……」

上条「……」

美琴「その……せっ……せせ責任! とって、よ……」

上条(ヤバイヤバイヤバイ)

美琴「……」

上条(背中に当たる柔らかい感触が超ヤバイんですが!)

美琴「……」

上条(いかん、何も考えるな! いまテント張ったら完全に変質者!)

美琴「……」

上条(落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け!!)

美琴「で?」

上条「へ?」

美琴「とるの? とらないの?」

上条「何の話だ?」

美琴「……」バチッ

上条「取らせていただきます、サー!」

美琴「…………えへへ」ギュッ

上条(はあああぁぁっ!)

上条(おっぱいが! 慎ましやかなしかし確かなおっぱいが!)

上条「あ、あの……ビリビリ? そろそろ……」

美琴「……」

上条「?」

美琴「……」

上条「御坂さん?」

美琴「美琴」

上条「美琴さん」

美琴「美琴」

上条「美琴」

美琴「んふっ…………。な、なによ?」

上条「そろそろ、手を降ろしてもよろしいでしょうか」

美琴「却下よ」

上条「そんな!? でもホラ、本当に疲れてきたし……手を降ろすくらい」

美琴「下げて、その手をどうするの?」

上条「いや、その……」

美琴「じゃあ、こっち向いて。そしたら手を降ろしていいわよ」

上条「それはなんというか、今はとてもまずい予感がするのですが」

美琴「?」

上条「……」

美琴「三分」

上条「?」

美琴「このまま、あと三分だけ」

美琴「お願い……」

上条(うっ……)

上条(どうしてそんな声で言うんだよ……)

上条(何も言えなくなっちまうだろ……)

美琴「……」スリスリ

美琴「……ひっ……ぐしゅ」

上条(……また泣いてる)

美琴「ふっ……ねぇ」

上条「はい」

美琴「さっき、責任取るって言ったわよね」

上条「言わ……言いました」

美琴「どうするの?」

上条「へ? その……えっと」

上条(あー……責任ってそもそも何の責任? なんて今更訊けないし)

上条「御坂はどうしてほしいんだ」

美琴「……」

上条「……美琴はどうしてほしいんだ」

美琴「はぁ……、本当、アンタらしいわ。私にそれを訊いちゃうあたりが」

上条「??」

美琴「そうね、じゃあまずは……明日から、毎日私と一緒に登校すること」

美琴(言えた! がんばった……私は頑張ったわ!)

美琴「ど……どうよ」

上条「え? そんなんでいいの?」

美琴「!? ももももちろん帰りもよ! 毎日私と一緒に帰るのよ!」

上条「? ああ」

美琴(……何か釈然としないものを感じるわ)

美琴「いい? 約束だからね」スッ

上条(やっと解放された……)

美琴「と……」

上条「と?」

美琴「……当麻」

上条「ん、なに?」

美琴「……なんでもないっ」

美琴「そ、それじゃ、私はもう帰るわね。またね当麻!」

上条「ああ。じゃあな美琴」

上条「行ったか……」

上条「しっかし、どうしてあいつはあんなに無防備なんだ」

上条「からかわれてんじゃないんだろうな……」

上条「男子高校生の溢れんばかりの性欲を知らんのか……ったく」

上条(えーと)キョロキョロ

上条(トイレトイレ……)

美琴「うふ……ふふふ……っ」

美琴(ついに、ついに来たわ……私の時代が!)

美琴(あっ、登下校の待ち合わせの場所と時間……!)

美琴(まぁ、当麻の登校ルートは知っているし、いつも遅刻ギリギリだし)

美琴(明日会って、それから決めればいっか)

美琴「……」

美琴「当麻……とうま……かぁ。ふふ……ふひっ」

さてどうしよう

ちょっと待って。

上条「それじゃあ学校行ってくるから。大人しくしててくれよ」

イン「とうま~。今日はわたしも一緒に行く。何か嫌な予感がするんだよ」

上条「はぁ?」

イン「ねえいいでしょう? 学校が終わるまで門の外で待ってるから……」

上条「そりゃあ、明日から一端覧祭の準備が始まるから、授業はすぐに終わるけど……」

イン「じゃあ決まりなんだよ!」

上条「まあいいけど。どうしたんだ急に」

イン「うーん……わたしもよくわからないんだよ」

上条「?」

イン「……」

美琴(そろそろ来るはずね……)

美琴(あああなんか恥ずかしくなってきた……!)

美琴「……来た!」

美琴「って……なんであのシスターが一緒なのよ!」

イン「とうま~。なんだか心配なんだよ」ギュッ

上条「お、おい。歩きにくいから腕にしがみつかないでくれ」

美琴(……)

上条「あ、オッス美琴」

美琴「……ん、おはよう当麻」ギュッ

イン「!」

上条「みっみみみ美琴!?」

美琴「さっ、行くわよ」

上条「はぁ……」

土御門「おはようだにゃー。かみやん」

上条「おーっす土御門。今日は早く帰れてラッキーだな」

土御門「一端覧祭の下準備があるからにゃー」

上条「ところで土御門。ウチのクラスって……何やるんだっけ?」

吹寄「……」イラッ

土御門「何って……メイド喫茶に決まってるだろ」

吹寄「……メイド執事喫茶だ」

上条「え? あ、そうか。……そうだっけ?」

土御門「かみやん。何かおかしいにゃー……?」

吹寄「……まぁいい。教室の改装は今夜から始めるからな」

吹寄「いったん帰宅してから、またこの教室へ集合だ。ちゃんと来いよ貴様」

上条「ああ。わかってるよ……ん?」

土御門「ん?」

上条「……いや、なんでもない」

上条「さて、帰る前にスーパーにでも寄っていくかな。確か今日は卵の特売日のはず……」

美琴「当麻!」

上条「おお美琴。お前の学校も終わるの早いんだな」

美琴「一端覧祭に参加する学校はどこも同じスケジュールだからね」

上条「そうだ、これからスーパーに寄って買い物なんだけど、お前も来てくれ」

美琴「えっ? い、いいわよ! 付き合ってあげる!」

美琴「ちょっと当麻……いくら安いからって、ちょっと多すぎじゃない?」

上条「そうか? いつもだいたいこれくらい……いや、多いな?」

美琴「生ものなんだから、あまりたくさん買っても後で大変よ」

上条「あれ? んー……そうか。そうだな。一人じゃ消費しきれないし。戻すか」

美琴「しっかりしなさいよね……」

美琴(……しまった!)

美琴「当麻! ちょっと待って」

上条「ん?」

美琴「そ、その……当麻、学生寮で一人暮らしよね? 自炊よね?」

上条「ああ」

美琴「どうせ、アレでしょ? 男の料理とか言って、栄養のバランスを無視したようなものばかり食べてるんでしょ?」

美琴「私がやってあげるわよ!」

上条「へ?」

美琴「料理をつくって食べさせてあげるっていってんの! ……当麻の、部屋で」

美琴「おじゃましまーす!」

美琴「……ん?」

上条「どうした美琴」

美琴「ねえ当麻、アンタ一人暮らし……よね?」

上条「? ああ」

美琴「じゃあなんで女物の靴があるのよ!?」

上条「……」

美琴「当麻?」

上条「えーと……あれ? なんでだ?」

上条「ん? んんん??」

美琴(そういえば、当麻は……)

美琴「当麻……その……記憶喪失、だったわよね?」

上条「……ああ」

美琴「じゃあ……もしかして、誰かと、ど、ど…」

上条「ど?」

美琴「ドーセー……してた、の……かもしれないわね」

上条「っていっても……失ったのは数ヶ月前より前の記憶だしな」

上条「客が忘れていった、とかじゃないのか。思い出せないけど」

美琴(……靴を忘れるかしら。それに……食器……歯ブラシ……家具、雑誌や文房具なんかの小物の位置取り……)

美琴(明らかに……誰かと……女と! 暮らしていた気配が!)

美琴(あああああああああああああああっ!!!!!)

美琴「……当麻」

上条「ん?」

美琴「負けないわ。私は負けない!!」

上条「? ああ……頑張れ?」

美琴「……」

美琴(まぁいいわ……過去に何があろうと、絶対、当麻を振り向かせてみせるんだから!)

美琴「それじゃあ、台所借りるわね」

上条「ああ。あ、鍋やら包丁やらの場所は……」

美琴「それくらい見ればだいたいわかるわよ。いいから座って待ってなさい」

上条「……」

美琴「♪」ガサガサ

上条「……!」

美琴「フフ♪」トントン

上条「しまったあああああああああああ!?」

美琴「ぃひゃあっ!?」

上条「上条さんともあろう者が……大事なことを忘れていた……!」

美琴「なななな何よ? 何か思い出したの?」

上条「……ン」ボソッ

美琴「え?」

上条「エプロンだ!」

上条「お前にはエプロンが足りないっ!」

美琴「エ、エプロンがなくても、私は平気よ?」

上条「俺は平気じゃないンだよォ!!」

美琴「!?」ビクッ

上条「だが今ウチにはエプロンがないっ!」土御門「なにぃ!?」

美琴「……え? 今、」

上条「あああッ。くそ! 大失態だ……」土御門「まったくだ……」

美琴「また……?」

上条「せっかく、せっかく女子ちゅうがくせいが、男の部屋の台所で料理をしてるってのに……」

上条「いや……しかし。これはこれで……? 学校の制服そのままっていうのも……」

上条「………………………アリだな!」土御門「ねぇよ」

美琴「当麻……」

美琴(喜んでいいのかしら……?)

コンビニいってくる

風がすげー……

上条「美琴、意外と料理上手いんだな」

上条「上条さん的には、こう……あまり美味しくない料理をつつきながら
    『ど……どう? 自信ないけど一生懸命つくったの』
    『いや、美味しいよ』
    『やだ……優しい! ドッキーン☆』
    みたいなシチュエーションを期待していたんだが……」

美琴「……一度その変なキャラ付けについてじっくり話し合うべきよね」

上条「ところでさ」

美琴「ん? 

上条「美琴のクラスは何をやるんだ? 一端覧祭で」

美琴「ああ。演奏会よ」

上条「教室? じゃないよな」

美琴「まさか。コンサートホール借り切ってやるみたいよ」

上条「まじか……。やっぱりお嬢様学校は一味違うぜ……」

美琴「当麻は?」

上条「ウチは……あー……メイド執事喫茶、だ」


美琴(メイド……執事……!?)

美琴「当麻! これから準備があるから学校へまた戻るのよね?」

美琴「ちょっと当麻の学校、覗いてみたいの。お願い!」

上条「いいけど。美琴の方はいいのか? 準備」

美琴「いいの。ウチは特に準備もいらないし、合同リハーサルは昼間ちょっとやるだけだから」

上条「そっか。じゃあまだ時間あるから、一休みしてから一緒に行こうぜ」

美琴「ええ」

上条「……美琴、すまん。ちょっと寝るから……後で、起こして」

美琴「寝るの? じゃあ私のひ、膝を」

上条「スー……スー……」

美琴「……早いのよ馬鹿」

美琴(ていうかコイツ覚えてるのかしらね……)

美琴(一緒に登下校しようって約束……)

美琴(なんか聞いたら駄目な気がするわ……)

美琴(おっぱいまで押しつけたのに……)

美琴(もし忘れられてたら……もう立ち直れない気がする!)

美琴(……)

上条「……スー……スー……」

美琴(……寝顔、可愛い)ニヘラ

吹寄「遅いぞ貴様!」

上条「なんで!? 時間通りじゃん!」

吹寄「一〇分前行動は日本人の常識だ」

吹寄「ところでその娘は? 見たところ常盤台のお嬢様のようだけど」

上条「ああ、こいつは……友達、かな? ……暇だから手伝ってくれるってさ」

美琴(……ナイス!)

美琴「初めまして。御坂美琴と申します。私に出来ることでしたら、じゃんじゃん申しつけてください」

吹寄「ありがたい。吹寄制理だ。……ん? 君、どこかで会ったような気が……?」

美琴「あっ!」

吹寄「ああ……なるほど。あの時の」

上条「知り合い?」

吹寄「……。貴様はもう少し……いや、いい。今更だな」

美琴(同じクラスだったのね。にしても胸が……くっ!)

吹寄「じゃあ君は上条と一緒に飾り付けを手伝ってくれないか」

美琴「ええ。任せてください」

上条「なんか大人しいな……あっ。おーっす姫神」

姫神「その子は。恋人?」

上条「えっ!? ちち違う違う! 友達だって」

美琴(少しは脈があるのかしら……? でも当麻だしなあ……)

美琴(ていうか、ここに至ってもまだ脈があるかどうかすらわからない時点で……いえ、そんな弱気じゃ駄目よ私!)

美琴「御坂美琴と申します。お手伝いさせてください」

姫神「姫神秋沙。以後。よろしく」

美琴(すごい美人ね……肌も透き通るような白で、とても綺麗……)

上条「ここか……?」ゴソゴソ

姫神「違う。もっと下」

上条「ここ?」ゴソゴソ

姫神「そっちは。違う穴」

美琴「……」

上条「じゃあ……こう?」

姫神「仕方がない。私が。リードしてあげる」

上条「お、おい、姫神。手……」

姫神「んっ。ここを。ここに挿し込む」ゴソゴソ

美琴「………………っ!!」

青髪ピアス「ラウンド ワン !」

土御門「ファイッ !」

上条「なんだよ突然!?」

姫神「……。なるほど。ごめんなさい。御坂さん」

落雷すげー……

………………………。


美琴「じゃあ、私はもうそろそろ帰るわね」

上条「そっか。じゃあ送って行くよ」

美琴「ありがと。それで……また手伝いに、来てもいいかしら?」

上条「いいんじゃないか? 人手が増えるのはありがたいし。なぁ吹寄?」

吹寄「そこでいちいち私に尋ねるのが貴様の貴様たる由縁だな……」

上条「汚物を見るような目でこっちを見ないで!?」

吹寄「いいからさっさと行ってこい。この甲斐性なしが」

姫神「ちゃんと。送ってあげてね。甲斐性なし」

上条「なにこれひどいっ!」

美琴「ほら行くわよ。甲斐性なし」

青髪「甲斐性なしぃ~」

土御門「甲斐性なしぃぃ~」

小萌「甲斐性なし(笑)」

上条「もうやめてぇっ!」

整合性を取るのが難しくどうしたらいいのかわからなくなってきたのでペース落ちる

美琴「ねぇ、当麻」

上条「んー?」

美琴「明日からも、始業時間と同じ時間に集合して、一端覧祭の準備なのよね?」

上条「ああ。せっかくのお祭り気分だってのに、そのへんは嫌にきっちりしてるよな」

美琴「当然私も同じ。もっとも、私のところはちょっとした打ち合わせで終わりだけど」

美琴「だから、明日、当麻の部屋まで迎えに行くわね!」

上条「……」

美琴「……」ドキドキ

上条「……」

美琴「当麻?」

上条「あ? ああ。いいぜ。じゃあ待ってるよ……おっ、寮に着いたぞ美琴」

美琴「ちゃんと起きるのよ。じゃあまた明日!」

上条「おう。じゃあな美琴」

上条「…………ん」

上条「……ふぁ~~っ」

上条「…………バスルーム?」

上条「…………何で俺はバスルームで寝たんだ?」

上条「まぁいいか」ガチャ

五和「おはようございます当麻さん」

上条「ああ~おはよう」

五和「いま朝食の準備してますから、顔を洗っちゃってください」

上条「うん……」

上条「………………………」

上条「………………………えっ?」

五和「えっ?」

上条「へ……?」

五和「?」

上条「オーケー落ち着け俺」

上条「ここは誰の部屋? 俺の部屋だ。この娘は誰? 五和だ。よし大丈夫。間違っていない。万事解決だ」

五和「当麻さん?」

上条「違う!」

五和「!?」ビクッ

上条「いやっ。すまん……ええと」

五和「当麻さん、具合が悪いんですか?」

上条「とりあえず……そうだ五和。一つ尋ねよう……」

五和「? はい」

上条「その格好はなんだね?」

五和「何って……大精霊チラメイドですよ?」

上条「大精霊……」

五和「チラメイドです」

上条「……」

五和「……」

上条(さては土御門の悪戯……?)

五和「当麻さん? 熱でも……?」

上条「近寄らないでっ!?」

五和「えっ……」ジワッ

上条「あ、ち、違うんだ! ほ、ほらっ。その格好! その格好で近寄られると! ヤバイんだって!」

五和「この格好……ですか? でも、私は毎日この格好じゃないですか」

上条「毎日……」

五和「毎日です」

五和「ほら、当麻さん。顔こっち向けてください。真っ赤ですよ? 風邪ひいたんじゃ……」ムギュ

上条「ちょっと待ってください五和さん!? 毎日って あっ……それ駄目!? 五和ロケットがっ…あっ!」


ピンポーン

少し寝ms

おはよう

上条(美琴か!?)

五和「こんなに早い時間に、誰でしょうか?」

上条(まずい、美琴に会わせるのだけは……何かマズイ気がする!)

五和「はーぃ…」

上条「はああああぁあいいいいぃっ!!!??」

上条「ちょっとまってくれ今出るから少し待ってくれ!」

上条「五和、俺はもう出るから話はまた後でな、よくわからないけど留守はよろしく!」バタバタ

五和「はぁ……?」

上条「行ってきます!」バタン

美琴「……ねぇ当麻」

上条「ん?」

美琴「さっき、女の子の声が……」

上条「テレビ! あれはテレビだ!」

美琴「そう?」

上条「そう!」

美琴「……手」

上条「手?」

美琴「手、出して。左手」

上条「ああ……」

美琴「……」ギュ

上条「美琴、お前……」

美琴「さ、さっさといっ行くわよ!」

美琴「それじゃまた後でね当麻。早く終わるだろうから後でまた手伝いに行くわ」

美琴「今日は準備二日目だから、遅くまで残るんでしょ?」

上条「ああ。よろしくな美琴」

美琴「素直でよろしい。またね!」

上条(美琴の手、なんだか小さかったな……あれが女の子の手か)

上条(……)

上条(……いかんいかん! 何を考えているんだ俺は!)

上条「はよーす」

土御門「おはようかみやん。今日もギリギリだな」

吹寄「遅い! もう既に全員来てるぞ」

上条「はい、すみません……」

上条「……? あれ、これで全員?」

吹寄「ん? ……。 そうだな。全員だ」

土御門「全員だにゃー」

上条「……そうか? うーん……」

上条「わからん」

吹寄「寝ぼけてるのか貴様。しっかりしてくれ」

吹寄「私はこれから実行委員の仕事があるので、もう席を外すが……サボるなよ?」

上条「ああ、お前も頑張れよ吹寄」

上条「そろそろ昼飯の時間だな……」

土御門「どうするにゃー?」

青髪「準備期間中は外食OKやで」

上条「じゃあみんなで外いくか? こういう時でもないと、なかなかできないよな」

土御門「おっ……。やっぱりかみやんは二人で行くといいにゃー」

上条「二人?」

美琴「こんにちはー!」

上条「早いなっ」

美琴「なんかウチってやる気ないんだもの……演奏会なんてしょっちゅうやってることだし」

上条「そっか。美琴、昼飯食ったか?」

美琴「終わってすぐだもの、当然まだよ」

上条「よし、じゃあどこかに食べに行くか」

美琴「うん、行きましょ」

土御門「かみやーん。また後でなー」

美琴「……」

上条「……あっ。おーう」

美琴(みんな、いい人ね……。それだけ当麻が慕われてる、ってことかな)

上条「美琴、ニヤついてるんだ?」

美琴「……なんでもないわよ馬鹿っ」

美琴(そういえば……)

美琴(吹寄さんと姫神さんは、お休みかしら……?)

吹寄「よし。予想通り……みんなお昼で出払ったみたいだな」

吹寄「……ゴクリ」

吹寄「……」ゴソゴソ

吹寄「……」ゴソゴソ

吹寄「……ちょっと胸がキツイな」

吹寄「……これが」ドキドキ

吹寄「メイド服……!!」

吹寄「ていうかこれ、胸開きすぎじゃないのか? そもそも胸は開いているものなのか? いいのか……?」

上条「財布財布……」ガラッ

>>105
× 上条「美琴、ニヤついてるんだ?」
○ 上条「美琴、何をニヤついてるんだ?」
すまん

吹寄「………!?」

上条「スミマセーン、シツレイシマシター」クルッ

吹寄「待て」グイッ

上条「ボクハナニモミテマセーン」

吹寄「……わかってるな? な?」

上条「イイマセーン」

吹寄「私の目を見ろ!」ギリギリ

上条「わかった! わかったから! 言わない! そして顔、顔近いって!」

吹寄「あ……?」

上条「そこで頬を染めるな! 頼むから!」

美琴「アンタ、何してんのよ……………!」バチッ

………………。

美琴「すっかり日が短くなってきたわねー」

上条「美琴さん……なんだか瞼がまだピクピクいってるんですが……」

美琴「悪かったわよ……。 ほ、ほら、着いたわよ、当麻の部屋」

上条「ああ……って、なんか忘れてるような。まぁいいか」

美琴「?」

上条「ふぅ……たっだいまー……っと」ガチャ

五和「おかえりなさい当」

上条「」バタン

美琴「なに? いまの」

上条「」フルフル

五和「当麻さん? どうしたんですか?」ガチャ

美琴「!!??」

チッ…チッ…チッ…チッ…チッ…チッ…

美琴「……」

上条「……」

五和「……」

チッ…チッ…チッ…チッ…チッ…チッ…

美琴「……」

上条「……ゴクリ」

五和「……」

チッ…チッ…チッ…チッ…チッ…チッ…

美琴「……で?」

上条「その……わかりません」

美琴「……死ぬ?」バチバチ

上条「ノー、サー!」

五和「あ、私お夕食つくりますね!」

美琴「やっぱり同棲してんじゃない」
上条「らしい……ですね……」

美琴「男らしくハッキリ言ったらどうなの!?」バチッ
上条「イエス、サー!」

美琴「誰?」
上条「う……その……」

美琴「」バチッ
上条「友人であります、サー!」

美琴「女友達と同居? 日本語じゃそれを同棲って言うのよ?」
上条「イエス、サー!」

美琴「アンタ最低よ」
上条「イエス、サー!」

美琴「本当、ド畜生ね」
上条「イエス、サー!」
五和「ですよね」

美琴「私もここに泊まるわ」
上条「イエス、サー! あれ?」
五和「えっ?」

上条「くそぅ……なんでこんなことに……」
上条(二人とも何も喋らないんだもん……気まずかった、怖かったよぅ……)


美琴(ベッド、さすがに二人じゃ狭いな……)
五和「……」

美琴(胸、すごっ。触ってみた……いやいや)
五和「……」

美琴「……あの、五和さん、起きてます?」
五和「……はい」

美琴「アイツとは、どういったご関係なんですか……?」
五和「お友達です。今は、まだ」

美琴(付き合ってはいないみたいだけど。今は、か……)
五和「……」

美琴「どうして、ど……同居してるんですか?」
五和「……? そういえば、なんででしょう……?」

美琴「?」
五和「何か……おかしいんです。以前から一緒に住んでいた、という確信だけがあって……」

五和「でも、記憶に霞がかかったように、思い出すことができないんです」
美琴「……?」

五和「そして、それを御坂さんに指摘されるまで、おかしいと思うことすらありませんでした」
美琴「……」

五和「……でも、とにかく。私にはこれはチャンスです」
美琴「!」

五和「御坂さん。勝負です」
美琴「……はい」

五和「私は……負けるつもりはありませんから」
美琴「私だって……絶対に負けません」

五和「フフッ」
美琴「ふふっ」

五和「お休みなさい、御坂さん」
美琴「はい、お休みなさい……五和さん」

美琴「……ん……ふわっ……」

美琴「……ん?」

美琴(あれ? ……五和さんが、いない……? 散歩かな?)

美琴(わ! もうこんな時間!)

美琴(しまった……今日は朝から合同リハだった! 寮に戻って楽器取って……ギリギリ!?)



美琴「当麻ー! 私、先に出るわね! 今日も手伝いに行くからよろしく!」ガチャ

上条「んー………いってらっしゃい……」モゾモゾ

上条「ふぁ~~……。おーっす」

土御門「おはようだにゃーかみやん」

青髪「オィーッス」

神裂「おはようございます」

上条「悪い、昨夜はなかなか眠れなくてさぁ……」

土御門「そういえば、昨日はいやに静かだったにゃー?」

青髪「そっか、土御門は隣の部屋やったな」

神裂「ようやく全員揃いましたね。今日は小萌先生が朝会を開くそうです」

上条「ああ。悪いな待たせちまって」

上条「ん? 何か違和感が……全員って、これで全員だっけ?」

神裂「ええ。これで全員ですが?」

土御門「全員だにゃー」

上条「……えーと、そう……か。そうだな。うん」

上条「んっ?」

神裂「んっ?」

上条「神裂?」

神裂「なんでしょう」

上条「どうしてここにいるんだ?」

神裂「どうして……とは?」

上条「どうして、今、この教室に、いるんだ?」

神裂「はぁ……どうして、と言われても。私がここの生徒だからですが……?」

上条「その格好で? ていうか刀はマズいんじゃないの」

神裂「何を今更。いつも通りの格好でしょう」

上条「……」

上条「……また、か」

上条(……また?)

神裂「?」

神裂「上条当麻。そこの釘を取ってください」

上条「ああ。ほら」

神裂「ありがとうございます」

上条「……」

上条(なんか、こうしてると違和感がなくなってきたなぁ……)

上条(馴染んできたっていうか……?)

神裂「上条当麻。今度はその角材を……」

上条(そういえば、昨日も……こんな)

神裂「何をぼーっとしてるんですか」

上条「あ、悪い……ほら、これか?」

神裂「ありがとうございます……ふふ」

上条「どうした?」

神裂「いえ……何故でしょうね。無性に可笑しくて……良いものですね。こういう日常は……」

上条「ああ。そうだな……」

神裂「フフ……おや?」

上条「よう、美琴。遅かったな」

美琴「……そちらは?」

上条「ああ、友達……? の、神裂火織だ」

神裂「今の間はなんですか」

美琴「御坂美琴と申します」

神裂「ああ、神裂火織です。よろしく」

美琴(……なにやら良い雰囲気だったわね)

美琴(いろいろ突っ込みたいところがあるけれど。何より……)

神裂「?」ボイーン

美琴(敵!! この人は敵だ……!)

美琴「……」ギュッ

上条「あっ、おい美琴?」

神裂「……おっと」ドン

上条「ぐぁぁぁあああぁーーっ!?」

神裂「失礼、手が滑って角材を落としてしまいました」

上条「足が、足がぁ……!」

神裂「申し訳ありません。私が責任を持って保健室へ連れて行って差し上げましょう」

美琴「……」

美琴「……ふんっ!」ダンッ

上条「ひいぃぃいあああああっ!?」

美琴「ゴメンね当麻、足が滑ったわ」

上条「おまっ、今の、わざと……!!」

美琴「私がキッチリ責任をとって保健室に連れて行ってあげるわね」

上条「なんだか知らんが、今日も酷い目にあった……」
上条「何かずっとみんなから可哀想な目でみられてたし……」
美琴「本当、何ででしょうね?」

上条「はぁぁ……」
美琴「それじゃあ私はここで。また明日ね」

上条「あ、美琴……その、今日はウチまで来ないのか?」
美琴「!!」

美琴(そうだ……五和さん! あの人は誰よりも危険だわ!)
美琴(でも、そろそろ寮監に目を付けられてきているし……最悪、バレたら一端覧祭終了日まで謹慎も有り得る……!)
美琴(う~~。背に腹は代えられないか)
美琴「……今日は帰るわ。手を出しちゃ駄目よ!」

上条「何に?」
美琴「」ダンッ
上条「ほあぁア!」

美琴「じゃあね当麻。また明日!」
上条「~~~~ッッ」

美琴(……今日も、いなかったわね。姫神さん)
美琴(……それに、吹寄さんも)

飲みに行ってくる。
明日また立てると思う

駄文にお付き合いありがとう
いってきます

ごめん酔っぱらっているので寝ます

保守ありがとう
さて、今日中に終わるか心配だ……

上条「ん、ふぁっ……っ」
上条(…………バスルーム)
上条(…………一人なのに?)

上条「ううーん……?」ガチャ

御坂妹「おはようございます、あなた。とミサカは」

上条「」バタン

上条「……んんー?」
御坂妹「」コンコン

上条「何か、似たような体験を思い出しそうな……」
御坂妹「」バンバン

上条(デジャブ……っていうんだっけ?)
御坂妹「」ドンドン

上条(それにしても落ち着いてるな、俺……)
御坂妹「」ドゴン
御坂妹「」ガチャガチャガチャ
御坂妹「」ダンダンダンダンッ
御坂妹「」ガチャガチャガチャガチャガチャ
上条(ひぃーーっ!?)

御坂妹「マジ失礼極まりねーなこのドサンピンが、とミサカは遺憾の意を表明します」
上条「悪かったって」

御坂妹「……」チラッ チラッ
上条「スカートがどうかしたのか?」

御坂妹「……チッ」
上条「どうして欲しいんだ本当に……」

御坂妹「ところで私がせっかく用意して差し上げた朝食は召し上がらねえのかよ? とミサカはややイラつきながらも尋ねます」
上条「朝食って……やっぱコレそうなんだ?」

御坂妹「はいィ? 何かご不満がァ? とミサカは頭の悪そうな脅しを入れつつ聞き返します」
上条(軍用レーションじゃん……)

御坂妹「お口に合いませんか……、とミサカはわかりやすく落ち込んで見せます」
上条「いや、そんなことは……ないぞ。いただきます」
上条(スポンジみてぇ……)モソモソ

ピンポーン

上条(……美琴か!?)ガタッ
上条「そんじゃ学校いってくる!」バタバタ
上条「留守番よろしくな!」
御坂妹「あっ! まだお仕置きは終わっ」
上条「!?」バタン

上条「おーっす美琴」

美琴「おはよう当麻。はい、手!」

上条「はいはい……」

美琴「……」ジーッ

上条「……?」

上条(こっちか?)

美琴「……ふふっ」ギュッ

上条「……」

上条(しかし……これって)

上条(端から見たら普通に恋人同士だよな……?)

美琴「♪」

上条(でも……)

美琴「どうしたのよ?」

上条「いや、なんでもない……」

上条「はよーっす」
土御門「おはようだにゃー」
青髪「うぉーっす」
一通「遅ェぞ三下ァ。これで全員揃ったなァ? とっとと朝会始めンぞォ」

上条「なぁ……これで、やっぱり全員か?」
一通「はァ? ……。これで全員だろォがよ?」
土御門「全員だにゃー」

上条「……」
一通「?」
上条「だよな……」

上条「……」
上条「なぁ土御門、なんかモヤシ臭くねーか?」
土御門「くせえくせえ」
一通「……。ああン?」

小萌「二人とも、好き嫌いはいけませんですよー」
小萌「あ、一方通行ちゃんは実行委員の打ち合わせに行っちゃってくださいー」

上条「うわぁ……お前が実行委員なの? マジで?」
一通「はいィ? 何かご不満がァ?」
上条「キモ……」
一通「よォ~し。よく言ったァ、まずはどっからだァ? 鼻か? 耳か? 好きなトコ選べ」ガチャッ

小萌「はいはい喧嘩はあとにしてくださいなのですー」

急用

美琴「当麻ー、コレはどこに置けば良いのー?」

上条「ああソレは……どこがいい土御門?」

土御門「んー? それなら共同資材置き場がいいかにゃー」トンカン

土御門「痛っ」

小萌「土御門ちゃん、大丈夫です?」

一通「おいィ、てめェらァ」ガラッ

一通「そろそろ帰っとけェ? 上から文句言われても面倒だかンなァ、主に俺がだけどよォ」

青髪「おっ。もうこんな時間なんやな」

土御門「まだまだ作業が残ってるのににゃー……痛っ」

上条「おっし、美琴。帰ろうぜ」

美琴「……」

上条「美琴?」

美琴「あっ、ううん? なんでもないわ」

上条「美琴。さっきからぼーっとしてるけど、どうかしたか?」

美琴「ううん。なんでもない」

上条「そうか? それならいいんだけど」

美琴「心配してくれるの? ありがと」

上条「あ、いや、別に……」

美琴「今夜は、月が綺麗ね」

上条「……そうだな」

美琴「今日はここまででいいわ。じゃあね」

上条「ああ。じゃあな美琴」

上条「ただいまー」

御坂妹「おかえりなさい、あなた」

上条「ですよねー」

御坂妹「私にしますか? 私にしますか? それとも私? とミサカは詰め寄ります」

上条「……何を言っているのかさっぱりなんですが」

御坂妹「本当にあなたは愚鈍ですね、とミサカは蔑んでみます」

上条「おまえ結構……かなり毒舌だよね……」

御坂妹「それともやっぱり、わざとなのでしょうか? とミサカは少し踏み込んでみます」

上条「……」

ピンポーン

上条「おっ? 誰だろ」

上条「はーい」

土御門「かみやん。話があるにゃー」

暗くなった路地の片側に、明かりの点いた街灯がぽつぽつと並んでいる。
少女は俯き、不安げな面持ちのまま、帰路を急ぐ。

「……」

ふと、視界の端に人影を捉えた。
街灯の下にじっと佇む、長い金髪の、白装束の男性。

少女は、なるべく意識しないように心がけ、そのまま歩を進める。
男の前を横切った直後だった。

「楽しいかね?」

声を掛けてきたことよりも、その言葉に驚き、少女は振り向く。

「綱渡りに必死だったようだが、とうとう足を踏み外してしまったな?」

薄く微笑を湛えている。

「興味本位で断りもなく繋げてみた手前、あまり悪く言うのは憚られるが・……」
「君には些か失望している。もう少し私を楽しませて欲しいところだな」

少女は息を呑む。

「もう気付いているのだろう?」

それだけ言うと、男は虚空へ消えた。

上条「何だよ土御門。話って」

御坂妹「粗茶ですが」
土御門「ああ、おかまいなく」
上条(馴染んでるなー……)

土御門「かみやん。最近、何か思うことはないかにゃー?」
上条「何かって……何がだよ」

土御門「そうか。いや、それは今はいい」
土御門「ところでかみやん。俺の能力は知っているかにゃー」
上条「何を今更。Lv0の肉体再生、だろ?」

土御門「そっちの量……あー、御坂妹はどうかにゃー?」
御坂妹「Lv2相当の発電能力……欠陥電気ですが?」

土御門「量……あー、御坂妹はどうかにゃー?」
御坂妹「Lv2相当の発電能力……欠陥電気ですが?」

土御門「今、それを使えるかにゃー?」
御坂妹「……」

上条「御坂妹、頼む」
御坂妹「承知しました、とミサカは首を傾げながらも応じます」

御坂妹「……」
上条「……」
土御門「……」

御坂妹「……? おかしいですね。不調のようです、とミサカは言い訳してみます」
上条「どっか悪いのか?」
御坂妹「決まっているでしょう」
上条「やめてっ! その先を言わないでっ!」

土御門「ともかく……俺も、能力が使えないみたいなんだにゃー」

土御門「それどころか、そもそも自分が能力を使える……」
土御門「というより、能力を〝使えない〟ことを忘れていた気がするにゃー」
御坂妹「そういえば……ミサカも似たような感想を持ちました、とミサカは付け加えます」

上条「〝使えない〟ことを忘れて? それは……またなんで?」
土御門「それがわかれば苦労はないぜよ」

土御門「かみやんの幻想殺しはどうだにゃー?」
上条「使えるかどうかは……そもそも確認できないな」
土御門「そして俺は魔術も駄目っぽいみたいだにゃー」

土御門「そこでかみやん。他に忘れていることは何かないかにゃー」
上条「そういう質問は流石に困るな……」
御坂妹「……ミサカは」

上条「ん?」
御坂妹「ここに住んでいる経緯がどうしても思い出せません、とミサカは不安を露わにしてみます」
御坂妹「ミサカは、どうしてここにいるのでしょう?」
上条「……」

上条「……?」
上条(今朝、御坂妹がいるたことに……どう思った?)
上条(どうしてそれが思い出せない?)
上条(どうして今更になってこんなことを考える?)
上条(そもそも、御坂妹がいたこと自体、不自然すぎるはずなのに)
上条(もう、それが当たり前のことのように馴染んでいる)

上条「なあ土御門」
土御門「なんだいかみやん」
上条「何か……作為的なものを感じないか?」
土御門「というと?」
上条「たとえば能力が使えないこと、そこにいるはずのない人物がいること、それを不思議に思うこと……」
上条「そういった、俺たちが不審に思うようなことに限って、俺たちは忘れている」
上条「というより、忘れていっている」

上条「あまりに都合が良すぎる」

土御門「確かに……けど」
土御門「誰かが意図してこの状況を作り出したっていうのなら」
土御門「いったい誰が、何の為に? どうやって?」
上条「……」
土御門「少なくとも、俺には心当たりはないにゃー」
土御門「尤も、心当たりを忘れているだけ、かもしれないがにゃー」
上条「……」
御坂妹「埒があきませんね、とミサカは溜息をつきます。はぁ」

土御門「……」
上条「……」
御坂妹(しかし、この状況はまるで……)

上条「……明日、学校へ行けば……多分、わかる気がする」
土御門「心当たりが?」
上条「ああ……外れていたるほうが、いいのかもしれないけれど」

上条「ところで、今夜は徹夜だな」
御坂妹「?」
上条「今までの話……ときどき互いに確認してないと、忘れてしまいそうだ」
土御門「たしかに」

上条「おはよーす」
土御門「おはようだにゃー」
刀夜「やあ、おはよう」
青髪「オィーッス、ってなんや、えらいフラフラやな?」
土御門「ちょっと遅くまで起きててにゃー……」
一通「てめェら完璧遅刻だ。朝メシ奢ってやる。鉛玉でいいかァ?」
刀夜「ほらほら喧嘩はよしたまえ」

上条(結局、三人ともいつの間にか寝てしまった……)
上条(三人、同時に)
上条(また何か、大事なことを忘れてしまったような気がする……)
上条(でも、何かを忘れたってこと自体はまだ忘れていない、か?)
上条(それにしも、美琴、来なかったな……)

小萌「朝会はじめますですよー」

ちょっと落ちる

一通「おォし、てめェら帰れ。時間だ」

上条(美琴……)

土御門「かみやん、心当たりはどうだったにゃー」

上条「いや……ん?」

美琴「……」

上条「……美琴」

美琴「……確かめに、きたの」

上条「……なにをだ?」

美琴「神裂さんは、いる?」

上条「……」

美琴「五和さんは、どうしてる?」

上条「……」

美琴「吹寄さんは? ……姫神さんは?」

上条「……」

美琴「銀髪のシスターの娘は、元気?」

上条「……!」

――消えた。

美琴「私が……」

美琴「ごめんっ、もう帰るね!」

上条「……あっ! 美琴!」

街灯の下には、やはり金髪長身の男が佇んでいた。
また現れると、少女は確信していた

「ようやく茶番劇は終わりのようだな」

「……アンタは、どうしてこんなことをしたのよ」

「おや、聞いてなかったのか? 興味本位だ。アレイスターには秘密だがな」

「みんなを巻き込んで!」

「心外だな。私は場を提供しただけだ」
「この舞台の配役は、君が決めたのだよ。……もっとも、一部は違うようだが」

「っ!」

少女の前髪からバチバチと火花が散る。

「幼稚な八つ当たりは感心しないな」
「ここで私に何をしようと無駄なのは、聡明な君ならわかっているだろう?」
「幕を降ろすためにはどうすれば良いか、ということも」

「……!」

すべて図星。反論の余地などなかった。

「君は最初から知っていたはずだ」

男はまた、虚空へ消えた。

土御門「はぁ……昨晩のメモがあってよかったにゃー」
上条「おかげで話を戻さなくて済んだな」
上条「それすらも、忘れたり気付かなかったりする可能性もあったけどな」
御坂妹「使える女、ミサカ10032号をよろしくお願いします、とミサカは熱くアピールしておきます」

土御門「で……話ってのは?」
上条「ああ。やっぱり……」
御坂妹「……ズズ」

上条「夢だよな……? 誰かの」

御坂妹「……ボリボリ」
土御門「……」
上条「…………?」

御坂妹「……ズズ」
土御門「かみやん……」
上条「あれ? もしかして……」

土御門「まぁ……みんな薄々は気付いていると思うにゃー」
御坂妹「ええ。おそらく誰も恥ずかしくて口にしないだけです……とミサカは……ボリボリ……煎餅うめえ」
上条「いいもんっ!ちょっと鈍いくらい全然気にしないもんっ!」

土御門「呆れたような話だが……」
土御門「俺たち超能力者が力を使うには……〝自分だけの現実《パーソナルリアリテイ》〟が必要にゃー」
土御門「他人の夢の中には、〝自分だけの現実〟がない。そりゃあ能力が使えるはずがない」
土御門「これが一番納得できてしまうにゃー」
土御門「で、もしここが他人の夢だとすれば……〝本人〟がいてもいいはずなんだにゃー」

上条「そして……その〝本人〟だけは」
御坂妹「能力を使えるのでしょうね、とミサカは先回りします」
土御門「何せ夢だから自由自在にゃー」

上条(美琴……)

土御門「そもそもの原因は知る由もないが」
土御門「まぁ、状況はホストコンピュータとクライアントコンピュータの関係が近いかにゃー」
御坂妹「あるいはチャットサーバとクライアント、だと、わかりやすいでしょうか」
上条「俺たちは、他人の夢にログインしてる状態ってわけか……」

土御門「俺はこれ以上他人の夢に付き合っていられないにゃー」
上条「……」
土御門「俺たちが夢から覚めるには……」
土御門「〝本人〟を見つけて目覚めさせれば万事解決……のはずにゃー。たぶん……」
上条「……」

土御門「ただし」
上条「……権限、か?」
土御門「妙に察しが良いにゃーかみやん」

土御門「おそらくだが……〝本人〟はこの状況を望んで作っている」
上条「……」
土御門「不用意に接触しても、システムをシャットダウンさせることができない可能性が高いにゃー」
土御門「下手をしたら、全て忘れるように記憶をリセットされてしまうかもしれないにゃー」
上条「……それは、たぶん」
上条「大丈夫だ」

権限なら……ある。
おそらく。
最初から与えられている。

いつも、どっちの手を握っていた?
俺の右手を、避けていなかったか?

そして、消えた少女たちの代わりに、この舞台に上がってきた人たち。
彼らはきっと、〝誰かが足りない〟という不自然な状況を取り繕うために……引きこんだのだ。俺が。

そして、そもそも少女たちは何故消えた?
もう、わかっている。

御坂妹「……ズズ、そういえば」
御坂妹「昼間、お姉様がこの部屋を尋ねてきました」
御坂妹「あなたに会いに来た、というわけではなさそうでしたが……」
御坂妹「様子が変でした。何かあったのでしょうか? とミサカは少し心配します」

だとすれば……考えたくはないが。
次は御坂妹の番なのかもしれない。

消えるとは限らない。
無害で無邪気な理由だ。
だが、自分が行った仕打ちに、彼女は……美琴は耐えられるだろうか?

月明かりが差し込む教室で、少女は窓を開け放ち、ぼんやりと外を眺めていた。
少年は、散乱する改装資材を慎重に避けながら、少女へ近づく。

美琴「……あの時と、なんだか似てるわね」
上条「……今度は、電撃は勘弁してくれよな」
美琴「馬鹿」

軽口を叩く少年に、少女は疲れたように苦笑を漏らす。

美琴「その顔。もう、全部わかってるんでしょ?」
上条「……」

インデックス。
姫神秋沙。
吹寄制理。
五和。
神裂火織。

美琴「本当、私の醜いところ、見せちゃったわね」
美琴「自分に愛想が尽きたわ」
美琴「アンタの言ったとおりだった」
美琴「私は……やっぱり、弱い」

美琴「嫉妬なんて、つまらない理由で」
美琴「消しちゃうだなんて」

美琴「私はきっと、薄々は気付いていた」
美琴「自分が消したんだ、って」
美琴「だって……都合が良すぎるでしょ?」
美琴「私にとって邪魔な人だけが、消えるなんて」

美琴「でも、言えなかった」
美琴「アンタを……独り占めしたかったから」
美琴「アンタと一緒にいるのが、楽しかったから……」
美琴「アンタといつまでも、二人きりでいたかったから」
美琴「アンタを誰かに奪われるのが、怖かったから!」

美琴「軽蔑、してもいいのよ」
上条「しない」
美琴「だって、私は……!」
上条「お前は何もしてない」
美琴「でも消したわ!」
上条「死んじゃいない」
美琴「簡単に許さないでよっ!」
美琴「私は!」
上条「うるせぇ!」

美琴「……!」

親に悪戯を見咎められた子供のように、少女は身を竦ませる。
それを見た少年は、痛みを堪える子供のような顔を見せた。

上条「嫉妬なんて、誰だってするだろ」
上条「そんなのは、弱さじゃない」
上条「本当に弱いのは、俺だ」
美琴「……」

上条「俺の右手は、お前も知ってるだろ?」
上条「こいつが、俺に与えられるはずの幸運を、片っ端から消しちまうらしい」
上条「根っからの不幸体質。疫病神ってわけだ」
美琴「……」

上条「敵だったら倒せばいい……どんなやつからだって、守ってみせる」
上条「だけど、それだけだ」
上条「この右手は、何も掴めない。何も築けない」
上条「守ろうと思ったものを、壊してしまうかもしれない」
上条「大事にしたくても、傷つけてしまうかもしれない」
美琴「……っ」

この少年は、ひどく重いものを背負っている。
いつも、平気な顔をして。
少女は胸が押し潰されそうになる。

上条「だから、怖くて、逃げていた。気付かないふりをして」
上条「本当は気付いていたのに。逃げた」
上条「御坂美琴に……触れられなかった」
上条「お前を、安心させてやることができなかった」
上条「これは……俺の弱さが招いた結果なんだ」

美琴「……。それでも、私は……」
上条「それでも自分が弱いと思うなら、強くなればいいだろ!」
美琴「そんな、簡単に……!」
上条「俺も強くなるから」
美琴「……」
上条「俺とお前とで一緒に、少しずつ、強くなればいいだろ」
上条「二人なら、大丈夫だ」
上条「俺はお前一緒となら、強くなれる」
美琴「……っ」

美琴「……」
美琴「……許せない」
上条「お前、まだ……!」
美琴「違うわよ」
美琴「そこまで、言ってくれちゃって……だから」
上条「?」
美琴「……馬鹿ね」
美琴「当麻。手」
上条「あ? ああ……」
美琴「右手っ!」
上条「はいっ!」

美琴「今から、ここが私の居場所よ」
上条「え……?」
美琴「本当に馬鹿……だけど。当麻らしくて安心したわ」

両手で優しく、包み込むように。

美琴「私はもう、大丈夫」
美琴「だから……当麻」
美琴「私の幻想を、消してちょうだい」
上条「美琴……」

少女は、少年の右手を握りしめる。

少女の身体が、少年の身体が、教室が、月と星が。
静かに、儚く、消えてゆく。

上条「美琴! 俺は、お前が」
咄嗟に、少女は人差し指で少年の口を押さえた。
美琴「駄目よ。私から先に言わせなさい。あっちに帰ってから、ね」

いつもの時間、いつもの場所。
平日の朝、あの少年は必ずこの道を通る。
少女は少し早めに寮を出て、少年を待っているつもりだった。
けれど、どうやら時間を少し間違えたらしい。
少年は既にそこにいた。
近寄る少女に向き直り、右手を差し伸べる。

――毎日一緒に、って、約束だったろ?

胸が詰まり、心の中でさんざん練習してきた台詞が出てこない。
溢れようとするものを必死で抑えるが、碌に前が見えない。
声が漏れないよう、少年の胸に顔を押しつける。
悔しくて仕方がない。
この唐変木は、何故こうも私を泣かせるのが上手いのか。
結局、私はまだまだ弱い。

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