調査兵団「小さな命」(50)
104期は出てきません。
もし調査兵団がこんな拾いものをしたら・・・というお話です。
壁外調査の為、壁を出てから約2時間。
荒れ果てた小さな村が見えて来た。
ハンジ「あそこが目標の村だ。」
リヴァイ「・・いるな。右の15m級3体は俺が片付ける。他のザコはお前らがやれ。」
ハンジ「了解~!じゃぁ私は3m級をいただくよ。モブリット、アンタはあの5mをやって。」
モブリット「了解です!」
リヴァイ「エルヴィン、ここは3人で十分だ。」
リヴァイはあっという間に3体倒すと、ハンジとモブリットを確認する。
彼らも巨人を倒し、リヴァイの横に立体機動のワイヤーを巻きとりながら飛び降りた。
ハンジ「早かったね。」
精鋭部隊の彼らには、数体の巨人など大した敵ではなかった。
調査兵団は巨人から5年前に奪われたウォールマリアを奪還するべく、穴をあけられたシガンシナ区の壁まで、ルートを築いているところだった。
ハンジ「村っていうか、ここ町だね。結構大きな建物じゃない。うん。救援物資を置くのにぴったりだよ。」
その建物は4階建てで、かつてウォールマリアが機能していた頃、この付近の役場となっていた建物だった。
ハンジ「うんうん。いいねいいね~。」
ハンジが上機嫌で近づこうとしたその時、
いきなり手前の建物の陰から走り出て来た何かがいた。
!? 3人に緊張が走った。
リヴァイ「おい・・・。」
ハンジ「あれは・・・?」
ハンジがそれに近寄ろうとした。
モブリット「分隊長!!巨人です!」
轟音と砂埃と建物の破片と共に、建物の後ろから巨人がゆらゆらと立ちあがった。
15mはゆうにありそうな巨人がリヴァイ達を見て大きな口を開けた。
リヴァイ「下がれ!」
ハンジ「あれは、どうする?」
リヴァイ「助ける!」
ハンジが建物にアンカーを打ち込んで飛び上がる。巨人がワイヤーを掴もうと手を伸ばす。
気づくのが遅れたのと、大きさがある為に、ハンジは形勢が不利だった。
口を開け大きな歯でハンジを咬もうとする。
ハンジに笑っている余裕はなかった。
ビシッ!!
巨人の片目が潰れた。成し遂げたのは同じ分隊長のミケだった。
ハンジ「サンキュー!」
ナナバとゲルガ―も助けに来た。
彼らが参戦してくれて、ようやくその巨人を捉えた。あえなく、巨人はうなじを削られた。
リヴァイは剣を抜くことなく、その小さなものを抱きかかえ、守っていた。
ハンジ「ふぅ~危なかったぁ。」
ハンジとミケはまだ他に巨人がいないか周りを確かめながら、
リヴァイのところに走って来た。ナナバとゲルガ―も続く。
ミケ「これは・・・。」
ナナバ「どうしてここに?」
戦闘の様子を見ていたエルヴィンが馬から降りて来た。
ミケやナナバ達をかき分け、立っているハンジの肩に手を掛けて、しゃがみこんでいるヴァイを覗き込んだ。
エルヴィン「どうしたんだ、リヴァイ?」
エルヴィン「・・!・・・これは?」
リヴァイ「・・・ガキだ。人間の。」
リヴァイに抱きかかえられていたのは、5~6歳の少女だった。
髪は腰のあたりまでボサボサに伸び、一糸まとわぬその体は、泥にまみれ、一見、獣なのか人間なのか区別のつかない程に茶色く汚れていた。
少女「ジェーーーーーーージャーーーーーーー!!!!」
いきなり少女が狂ったように叫び出した。
リヴァイ「おい、何だよ、うるせぇな。」
リヴァイが耳を塞ぐ。少女は「ジャー」とも「ジェー」ともつかない発音で叫び続けた。
ハンジ「エルヴィン、どうする?」
エルヴィン「連れて帰るしかあるまい・・。」
リヴァイ「・・・でも、こいつ・・あ!待て!」
その少女はリヴァイをすり抜けようとした。リヴァイが少女のボサボサの髪を掴んだ。
リヴァイ「何だよ、このガキ。チッ!」
少女がリヴァイを睨みつけ獣のように唸った。
エルヴィン「巨人に、恐怖心で・・・パニックをおこしているのかもしれない。」
モブリット「分隊長、建物の中を確認しましょうか?」
ハンジ「・・・あぁ・・そうだね。エルヴィン、今日はやることが多い。とにかくこの少女は保護しよう。」
エルヴィン「そうだな。・・・リヴァイ!お前はその少女を見ていてくれ。」
なんで俺が・・・とリヴァイは思った。
しかしエルヴィンの命令に逆らうことはなかった。
少女は何も喋らなかった。
ただ眉間にしわを寄せ、鼻にしわを寄せ、唸っていた。
そして隙あらば、リヴァイから逃げようとした。
リヴァイ「お前な、どこに逃げたって、すぐ巨人のエサだぞ。」
言いながらリヴァイは疑問を持っていた。
それはおそらくハンジが考えていることと同じだった。
“なんでこいつはここにいる?なんでさっきの巨人たちに喰われなかったんだ。”
壁外調査を終えて帰還し、みんなエルヴィンの部屋に集まってきた。
今日の壁外調査の総括はいつものことだが、それぞれ、あの少女のことも気になっていた。
少女は壁を背にして部屋の隅にうずくまっていた。
まるで犬か、猫か、獣が丸くうずくまるような姿で。
そして眼光鋭く、こちらに目を光らせていた。
エルヴィンがそっと近づいて彼女の前にしゃがみ込んだ。
全員かたずを飲んで見守る。
エルヴィン「ねぇ、キミ。キミはどうしてあそこにいたのかな?」
少女「・・・・・・・」
エルヴィン「キミは一人でいたの?お父さんやお母さんは?」
少女「・・・・・うぅっ・・・・」少女は低く唸る。
エルヴィン「キミがあそこで何をしていたのか、おじさんに教えてくれないかな?」
全員「・・・・・プッ。」
おじさん、というところで全員吹いた。勿論少女以外だったが。
エルヴィン「何が可笑しい!」
エルヴィンは立ちあがって、後ろで見ていたみんなを振り返った。
リヴァイ「お前が聞いても怖がるだけだろうが。」
後ろのソファーに腰かけ、テーブルのお茶を啜っていたリヴァイが呆れたように言った。
リヴァイ「おい、ペトラ。」
ペトラ「はい!」
リヴァイ「お前が聞け。」
ペトラ「はい!」
エルヴィンはペトラにその場所を譲った。
ペトラ「ねぇ、あなたはどうしてあそこにいたの?」
少女はとたんに唸り声を大きくした。鼻にしわを寄せ、歯をむき出しにした。
ペトラがその迫力に怯んだ。
リヴァイはその様子を見てイラついた。取り囲んで見ていたみんなをかき分けて少女に近寄ってきた。
素早い動作で少女の髪を鷲掴みにする。
リヴァイ「おい、ガキ、てめぇいい加減にしろ!」
リヴァイがそう言い放った瞬間、少女はリヴァイに飛びかかってその耳に噛みついた。
リヴァイ「痛てぇ!」
リヴァイは反射的に少女のみぞおちを拳で殴った。
一瞬にして少女は気絶した。
ハンジ「ちょっとリヴァイ!こんな小さい子になんてことするの!」
ペトラ「そうですよ、兵長!しかも女の子ですよ!」
リヴァイは舌打ちし、耳を抑えながら、もとの場所に戻り、ソファにドサッと腰を下ろした。
エルヴィン「・・・白痴か?」
ハンジ「う~ん・・どうだろう・・。白痴だとしても・・・。巨人がこの子を襲わなかった理由がわからないな。」
エルヴィン「・・・そうだな。なんであろうと人間であれば巨人の捕食対象だからな。」
ハンジ「人間であれば・・・か・・・そうだとすると、エルヴィン、巨人はこの子を人間として認識していなかったことになるね。」
リヴァイ「テメェ、そりゃどういうことだ。」
ハンジ「う~ん・・・どういうことだろう。それに何故この子はあんなところをフラフラしていたのか・・・。あそこの村は壁から馬で2時間もかかるところなのに。一体、こんな小さな子がどうやってあそこまで・・・」
ハンジ「いや違う・・・。あそこまで行ったんじゃない。最初からあそこにいたんだ・・・多分。・・・」
ハンジ「ねぇ、この子はいくつぐらいに見える?」
全員「・・・・・。」
ハンジ「エルヴィン、いくつに見える?」
エルヴィン「そうだな、多分、5~6歳か・・。いや、もう一つ二つ上だろうか?」
ハンジ「だよね?ウォールマリアが巨人の手に落ちたのは5年前だ。・・・これはあくまで仮説だけど、その時、あの子はまだ赤ん坊か、まだよちよち歩きくらいだったんじゃないかな・・・。マリアの陥落で巨人に親が殺され、偶然あの子だけが生き残ったとする・・。そして・・・。」
リヴァイ「おいおい・・・巨人が育てたとでもいうのかよ。」
ハンジ「いや、巨人じゃない。例えば・・野生動物だ。子を亡くしたばかりの・・・。狼とかクマなんかが、乳を与えるのに他の動物を探すことはたまにある。」
リヴァイ「なんだよ、それは。」
ハンジ「哺乳類は、子を産むと体内のメカニズムで母乳がでるようになる。でもすぐに子を亡くしてしまうと、その母乳を吸うものがいない。だから代わりに母乳を吸ってくれるものを探すんだ。」
リヴァイ「まさか。」
ハンジ「もし、よちよち歩きの頃に死に別れたのだとしたら、ようやく自分でモノを食べる頃だ。あとは見よう見まねで、野生動物の中で暮らしていたんじゃないのだろうか。」
リヴァイ「はぁ?」
ハンジ「動物のように育ったんじゃないかな。まぁ・・仮説だけど。」
リヴァイ「だから・・・巨人はあのガキを、動物だと認識していた・・・ってことか?」
ハンジ「あぁ。」
エルヴィン「野生の少女か・・・。なるほど。動物なら巨人は捕食しないな。それにこの粗野で乱暴なところも合点がいく。言葉を喋らないこともな。」
リヴァイ「いずれにせよ、やっかいなガキだ。ここに置いておいたって仕方ない。孤児院にぶち込むか、憲兵団のクソ野郎にでも引き渡すのがスジってもんだろ。」
ハンジ「それは駄目だ!」
リヴァイ「何故だ。」
ハンジ「考えてみろよリヴァイ。この子は、巨人のことをいろいろ知っているかもしれない。もし仮説が正しければ、5年だぞ。5年も巨人と一緒に生き延びていたんだ。あの、壁の外を。」
リヴァイ「生き分かれただけで、親がどっかで生きているかもしれないだろ。今頃ウォールシーナにいるかもしれない。」
エルヴィン「その可能性は低いな。」
リヴァイ「どうしてだ。」
エルヴィン「もし親が生きていて、この少女を探しているのなら、我々調査兵団に捜索の依頼が来るはずだ。憲兵団のやつらが壁の外までこんな小さな子をわざわざ探しに行くとは思えんが?」
リヴァイ「・・・・」
ハンジ「とにかく、この子はここに置いて、まず言葉を教えよう。巨人の謎がとける可能性だってあるのだから。エルヴィン、この子は調査対象だ、いいだろう?」
エルヴィン「・・・いいだろう。上には報告しておこう。捜索依頼が出ていないかも、一応確認しておく。」
ハンジ「イヤッホぅ~!」
リヴァイ「・・・・。」
コメントありがとうございます。
がんばります!
少女は言葉を一切喋らなかった。
しかし、唯一発する叫び声から、いつしか、調査兵団で「ジェーン」と呼ばれるようになっていた。
ハンジの仮説を裏付けるように4つ足で掛け回っていたが、ひと月程経つと、
2足歩行が上手くなり、逃げ出そうとすることもなくなってきた。
誰かが散歩に連れて行き、誰かが適当に食物を与える。
まるで、調査兵団で飼われている一匹の犬のようであった。
体を洗うと、少し小ざっぱりとしてきれいになった。
よく見るとその顔立ちは、目が大きく、鼻がちょこんと小さく、なかなか愛らしかった。
しかし表情の無さゆえに、雰囲気はいつも暗く、陰鬱な感じがした。
そして、更に深い闇だったものは、ジェーンの心だった。
笑うことは無く、泣くことも無い。
ただ人をじっと見つめ、機嫌の悪い時は唸った。
リヴァイ「ジェーン!おい!ジェーン!遠くに行くなよ!」
今日ジェーンを散歩させているのはリヴァイであった。ハンジに頼まれしぶしぶ受けたのである。
広い野原に出ると、ジェーンは突然四足で走り出した。
「ジェーン!おいジェーン!」
ジェーンは足が速かった。
突っ走って突然止まり、しゃがみこんだかと思うといきなり飛び上がったり、一人でくるくると遊んでいるように見えた。
けれども追いついたリヴァイは、ジェーンの顔を見てギョッとした。
その口に大きなバッタを咥えていたのである。
ジェーンはムシャムシャとそれを食べた。
口の中で噛み砕き、ゴクリとそれを飲みこんだ。
人類最強の兵士と言われるリヴァイも、さすがにジェーンのその姿にぞっとした。
そして思った。
“人間?こいつが?この野生の少女が・・・?”
リヴァイがそう考えているうちに、ジェーンは次の虫を捕まえた。
「おい、お前、飯、食ってないのか?」
ジェーンがリヴァイを見上げた。
「何でそんなもの喰うんだよ。気持ち悪りぃ。」
リヴァイの言葉はジェーンの耳に意味をなさなかった。
ジェーンはまた虫を口に運んだ。
「・・・お前、人間だろ。」
口の中で咬んだ後、地面に吐き出した。
巨人の真似なのだろうかと、リヴァイは思った。
ジェーンはまた虫を追いかけ始めた。
リヴァイがジェーンを抱きかかえてやめさせる。
「止めろ!」
「うぅぅ・・・・・・。」ジェーンは唸った。
ペトラ「兵長!!」
リヴァイは声のする方を見た。ペトラだけでなく、後にリヴァイ班と呼ばれることになる3人の兵士がこちらに歩いて来た。グンタ、エルド、オルオである。
ペトラ「ジェーンの散歩、今日は兵長ですか?」
リヴァイ「・・あぁ。」
エルド「珍しいですね。兵長なんて。」
リヴァイ「クソメガネに頼まれてな。」
オルオ「・・・・!兵長!こいつ・・・口に・・何か、虫の足が・・・!!」
ペトラ「えぇ??・・・ひっ!!」
ジェーンの口元を確認したペトラの顔が引きつった。眉間にしわを寄せ、両手で口を覆った。
グンタ「おい、お前、何食ったんだ?」
グンタがジェーンの口を自分の手で拭った。
リヴァイ「誰か、今日こいつに飯をやったか?」
ペトラ「ハンジ分隊長が・・・。」
リヴァイ「飯が足りねぇんじゃねぇのか・・・。」
ペトラ「ジェーンはあまり食べないみたいです。パンは全く食べないし。野菜も・・。」
リヴァイ「じゃ、何を食ってる?」
ペトラ「肉です。」
リヴァイ「肉?」
ペトラ「はい。しかも・・・生肉だそうです。」
リヴァイ「・・生って・・うっ・・。」
ペトラ「でも、肉は兵団にとっても貴重だし、それほどの量はあげられないみたいです。」
リヴァイ達はジェーンを見下ろした。
ジェーンは尻を地面に落とし両手をついて犬のように座っていた。
ジェーン「・・・・・」
グンタ「それにしても・・・・兵長・・・。」
リヴァイ「・・・何だ。」
エルド「この子は、一応・・女の・・。」
オルオ「パンツくらい・・・その・・・・イテっっ!!!」
オルオが言いかけたところでその脇腹にペトラのひじ鉄が入った!
ペトラ「こ、こんな小さな、は、裸の・・お、女の子を舐めまわすように見て!!みんな、は、恥ずかしくないんですか!!」
言ってるペトラも赤面だった。
ジェーンはいつも、素っ裸だった。何を着せてもビリビリに破いてしまうのだった。
リヴァイ「バカ!だ、だったらお前のパンツでも履かせておけ!」
ペトラ「えぇ///!?」
リヴァイ「あとは任せた。俺は忙しいんだ。犬の散歩なんかしてられるかっ。」
リヴァイはそう早口でもごもご言うと、スタスタと立ち去った。
ペトラ「へいちょ~う。私のパンツって・・・・ひどい・・・。」
オルオ「・・今のは、兵長、怒ったな。」
エルド「いや、別に、舐めまわすように見てたつもりはないが・・・なぁ?。」
グンタ「あ?・・・あぁ・・・・も、もちろん。」
ジェーンが急にリヴァイの方へ四足で掛け出した。
あっという間に追い付き、リヴァイに飛びつく。
不意をつかれてリヴァイはそのままうつ伏せに地面に倒れた。
リヴァイ「痛ってぇ・・・。」
リヴァイはジェーンに向き直った。ジェーンはリヴァイに馬乗りになった。
ジェーン「クゥゥゥ・・・・。」
リヴァイ「何だ!」
リヴァイの顔をジェーンが舐めた。
リヴァイ「うっ!止めろ!」
リヴァイはジェーンをはねのけて上半身を起こした。
リヴァイ「き・・汚ったねぇ・・・。」
リヴァイはハンカチで自分の顔を何度も拭いた。
ペトラ「兵長!大丈夫ですか?」
グンタ「ジェーン、駄目じゃないか!」
エルド「兵長を押し倒すなんて・・・。」
オルオ「・・・命知らずな・・。」
リヴァイは立ち上がると無言で服についた泥を払い、また歩き出した。
リヴァイ(あいつ、全然、気配がしなかった・・・。)
後ろをチラリと振り返ると、ジェーンはエルドと手をつないで2本足で立っていた。
ただリヴァイを見つめ、無表情で。
連続投下すいません。
今日はここまでです。
読んで下さった方、ありがとうございました。
その夜の事だった。
仕事を終え、リヴァイは真夜中近くまで剣を磨いたりしていた。
ドンドンドンドン・・・・・。
リヴァイの部屋の戸が乱暴に叩かれた。
ハンジ「リヴァイ!いるか?リヴァイ!」
リヴァイ(・・・何だ・・・やっと終わったところなのに・・)
ハンジ「リヴァイ!入るぞ!ジェーンが大変だ!」
リヴァイ「何だ?」
戸が開くと、髪を下ろしたハンジが血相を変えて立っていた。
リヴァイ「どうしたんだ。」
ハンジ「ジェーンが凄い熱なんだ。」
リヴァイ「熱?」
ハンジ「昼間は何ともなかったか?」
リヴァイ「あぁ。」
ハンジ「それに、食べた物を戻している・・・」
リヴァイ「・・・・。」
ハンジ「とにかく一緒に来てくれ。」
リヴァイの脳裏にバッタを口にしたジェーンが浮かんだ。
リヴァイは上着を一枚羽織るとハンジと一緒にジェーンの部屋に向かった。
ハンジ「夕方、食べるものを持って行ったんだが、全く口をつけようとせず、水を少し飲んだだけだったんだ。何かいつもと変だと思って気になってはいたんだが・・・。」
説明しながら、ハンジはジェーンの部屋へ急ぐ。
ハンジ「さっきもう一度部屋へ行ってみたら、苦しそうな息で、とにかく熱が高い。」
ハンジはジェーンの部屋の戸を開けた。
ジェーンは床に布団を敷いて寝ていた。横向きになり、膝をかかえるように丸くうずくまり、苦しそうな表情だった。リヴァイはその額に手を当てた。
リヴァイ「確かに。熱があるな。」
ハンジ「だろ?」
リヴァイ「医者は?」
ハンジ「今呼んでいる。・・・・自分がずっと一緒についていてやれば・・・こんなことには・・・。」
リヴァイ「何言ってんだ。関係ないだろ。」
ハンジ「そうだろうか。」
部屋の戸が開いて、モブリットと医者がやって来た。白髪で眼鏡をかけた老人だった。
モブリット「分隊長、先生を呼んできました。」
ハンジ「ありがとう。モブリット。夜中に悪いね。」
モブリット「いえ。」
ハンジ「先生。この子なんですけど。」
医者は床に敷かれた布団に裸で横たわるジェーンを見て驚いた。
医者「・・・!これは・・?」
ハンジ「先生、詳しいことは後です。とにかく今すぐ容体を見て下さい。」
医者「・・わかった。それじゃ、まず仰向けにしてくれんかのう。」
言われた通り、リヴァイとハンジは横向きだったジェーンを仰向きにして、足を伸ばした。
医者が胸に聴診器をあてる。難しい表情でジェーンを診察していく。
熱を確認し、ジェーンの口の中も観察した。一人で首を傾げたり、納得したように頷きながら、医者の診察は続いた。ハンジとジェーンはその様子をじっと見守っていた。
一通り診察を終えて、医者は聴診器を外した。
表情は厳しいままで口は真一文字に結ばれたままだった。
ハンジ「先生・・・どうですか?」
医者「・・・喉がかなり赤く腫れている。熱もかなりあるようだし。」
ハンジ「えぇ・・・。」
医者「・・・猩紅熱(しょうこうねつ)かもしれん。」
ハンジ「猩紅熱?」
リヴァイ「治るのか?」
医者「それは何とも言えん。とにかく安静にして熱が下がるのを待つことだ。」
ハンジ「どのくらいで下がるんでしょうか?」
医者「それは・・・体力次第じゃのう。1週間かもしれんし、2週間かもしれん。」
ハンジ「そんなに・・・。」
医者「とにかく絶対安静じゃ。何か服を着せて、それから頭を冷やすんじゃ。」
医者は2,3指示をすると部屋から出て行った。ハンジはジェーンに服を着せる為に自分の寝着を取りに部屋へ戻った。
モブリット「・・・治るんでしょうかね。」
リヴァイ「さぁな。・・治らなかったら、お前らの隊長がご乱心だな。」
モブリット「・・・本当にそうです、兵長。分隊長は、ジェーンに言葉を教えるのに必死なんです。」
リヴァイ「お前は、こいつが本当に言葉を喋ると思うか?」
モブリット「それは・・・・。」
リヴァイ「俺には、そう思えんがな・・・。」
モブリット「兵長・・・。」
ハンジが寝着を片手に部屋へ戻って来た。寝着だけでなく、エルヴィンも一緒だった。
ハンジ「あぁ、モブリット、ありがとうね。もう部屋に戻っていいよ。悪かったね。」
モブリット「いえ。それでは失礼します。」
モブリットは部屋から出て行った。エルヴィンはジェーンの前にしゃがみこんだ。額に手をあて熱を調べていた。
エルヴィン「・・・それで、医者は何といってる?」
ハンジ「猩紅熱じゃないかと。」
エルヴィン「猩紅熱か・・・。」
ハンジ「熱が下がるのを待つしかないらしい。」
エルヴィン「為す術は無しか・・・。」
ハンジ「エルヴィン、この子をシーナの医療所まで運べないだろうか。」
エルヴィン「シーナ?」
ハンジ「あそこは王都だ。ここよりもう少しマシな治療ができるだろう。薬もあるかもしれない。自分がジェーンについていく。」
エルヴィン「それは駄目だ。」
ハンジ「どうして?」
エルヴィン「君にはやることがあるだろう。分隊長がいなくてどうするんだ。」
ハンジ「じゃ、他の誰かに・・・。」
苦しそうに息をする少女を見下ろしながら、エルヴィンは心を決めた。やはりこの少女自身に決めさせるしかない。生きるも死ぬも、この少女自身なのだ。
エルヴィン「ひと月たって、この子は言葉を喋りそうか?」
ハンジ「え・・・いや・・・それは・・・。そんなにすぐには喋らないだろう。」
エルヴィン「じゃぁどのくらいだ?」
ハンジ「それは・・・わからない。」
エルヴィン「ハンジ、この子が巨人の謎全てを解決してくれるわけじゃない。」
ハンジ「・・・・。」
エルヴィン「我々は、やらなくてはならないことが他にも山ほどあるんだ。」
ハンジ「それはわかっている。でも・・!」
エルヴィン「もし、この子の命がここで尽きたのなら、それまでだ。」
ハンジ「エルヴィン!」
ハンジの呼び掛けには応えず、エルヴィンは部屋から出て行った。ハンジは両手を握りしめ、その場に立ち尽くした。なぐさめるように、ハンジの肩にリヴァイが片手を乗せた。
リヴァイ「できることはやったさ。」
ハンジ「・・・リヴァイ。」
リヴァイ「お前は、自分の部屋で休め。ジェーンには俺がついてる。」
ハンジ「いや。自分が看ている。」
ハンジはジェーンに持ってきた自分の寝着を着せ始めた。見ていたリヴァイも手伝った。
ハンジ「・・・ここの暮らしが、合わなかったのだろうか。」
リヴァイ「ガキが熱出しただけだろ。普通のことだ。」
ハンジ「しかし、猩紅熱だよ。」
リヴァイ「・・・5年も一人で生きて来たガキだ。その生命力を信じろ。」
ハンジ「・・・そうだね。」
二人は着せ終わると無言で床に座り込んだ。けれどもハンジはすぐに立ち上がり、水を桶に汲んで来た。その水桶でタオルを絞り、ジェーンの額に置いた。
あとはジェーンの回復を祈るのみだった。
その少し前。
エルヴィンの部屋をキースが訪ねて来ていた。今は訓練兵団で、若き兵士たちを教育しているが、かつては調査兵団の団長として、エルヴィンらを率いていた。
エルヴィン「珍しいですね。ご自身で訪ねて来られるとは・・・。今の訓練生はどうですか?えぇと・・・確か・・。」
エルヴィンは茶をテーブルに置いた。
キース「104期だ。」
エルヴィン「もう104期ですか。」
キース「変わり者ぞろいだが、優秀な者もいる。お前のところには何人行くかな。」
エルヴィン「一人でも多くお願いしますよ。」
キース「はは。それはどうだろうな。本人次第だ。」
エルヴィン「高い志が無いと、調査兵団は難しいでしょうね。」
キース「・・・死にに行くようなものだからな。憲兵団なんかに比べれば・・・。」
二人「・・・・・。」
キース「それはそうと、エルヴィン。面白い話を聞いたのだが。」
エルヴィン「何でしょう。」
キース「調査兵団に、子供がいるそうじゃないか。」
エルヴィン「・・・?といいますと?」
キース「まさに虎の子じゃないのか?いや、狼の子か?」
エルヴィン「あぁ、あの少女のことでしょうか。」
キース「少女・・女か。壁の外で拾ってきたとかいう・・。」
エルヴィン「そうです。最近2本の足で歩くようにはなりましたが、まだまだ・・・。言葉も喋りませんし、こちらの言うこともわかっているかどうか・・・。」
キース「なるほど。ただ噂では、人とは思えない身のこなしだとか。」
エルヴィン「伝わっていますか?そうですね。身が軽く、身体能力は高いかもしれません。」
キース「親が生きている可能性は?」
エルヴィン「調べさせていますが、その可能性はほとんど無いでしょう。」
キース「そうか。それじゃ・・・孤児、だな。」
エルヴィン「・・・でしょうね。」
キース「エルヴィン、その少女、訓練兵団で預からせてはくれないか?」
今日はここまでです。
アニメ終わっちゃいましたね・・。
長く更新できずにすいません。
時間がかかっても最後まで書ききりたいと思いますので、
長い目で見守ってください。
よろしくお願いします。。
コメントありがとうございます!!
がんばるぜ~~~!!
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