ベルトルト「僕は本当に君が嫌いだ」(146)


※初SS
※48話までのネタバレを多分含む
※ベルユミ?ほんのりエロあり
※シリアスしかないです
※9/9 0時までに完結予定


ベルトルト「ユミル」

ユミル「ん?何だベルトルさん」

ベルトルト「聞いてもいい?」

ユミル「時間ねぇから一つだけな」


******


寄宿舎・食堂


サシャ「えー!?アルミンとアニが!?」

コニー「しーっ!声がでけぇよこのバカ!」

クリスタ「どうしたの?」

サシャ「あの、それが…」

コニー「昨日の夜な…見ちまったんだよ。アルミンとアニが一緒にいる所」ヒソヒソ

ユミル「はぁ?一緒にいるくらいなんだよ」

コニー「違ぇって!その…手、繋いでたんだ」

食堂の端にいる二人を見れば、あぁなるほど。確かに空気が違う。

友達とも、仲間とも違う、親密な男女の空気感。


クリスタ「そうなんだーっ!」キラキラ

コニー「ホントもうびっくりしちまってよぉ」

ユミル(あのアニがアルミンとねぇ…)チラッ


仲睦まじい二人。

予想外の組み合わせとまでは言わないが、正直意外だ。


―――ゾクッ。


ユミル「!?」バッ キョロキョロ

ユミル(敵意!?いや違う、そんな優しいもんじゃねぇ)

ユミル(殺意…に、近いな…)チラッ

コンドハナシキイテミヨウカナァー
パァンタベテイイデスカコニー
イイワケネェダロ!!

ユミル(クリスタもコニーもサシャも気付いていない?私の勘違いか?)

サシャ「どうかしたんですか?ユミル」

ユミル「…いや、何でも…―――っ」


いた。

私たちを挟んで、ちょうどアルミンとアニの反対側。


ユミル(へぇ…ただの朴念仁かと思ってたが…)


ベルトルト・フーバー。

いつもライナーの傍にいる、陰の薄い男。

能力はずば抜けて高いくせに、それを微塵も出さない。

徹底して目立ちたがらない、そんな男。

楽しそうに談笑している3人を通り越して、アルミンを…アニを見ている男。

一瞬で浮かんで、一瞬で消えた殺気。

サシャ「……で、…ル………ユミル!」

ユミル「!? あ、あぁ」

サシャ「どうしたんですか?ぼーっとしちゃって」

クリスタ「あーっ。もしかしてユミルってアルミ」

ユミル「いやそれはない」

サシャ「ホントですかぁ?」ニヤニヤ

ユミル「黙れ芋女パンぶつけんぞ」

サシャ「喜んで!!!」

ユミル「コニーの」

コニー「ふざけんなこのブス!」


幸せそうなアルミンと、少しはにかんだ表情のアニ。

兵士でなければ、街にいそうな普通の恋人たち。


ユミル(…ただの思い過ごしならいいんだが)



対人訓練


ワーワー

アルミン「クリスター!」

クリスタ「あれ?どうしたのアルミン」

アルミン「よければボクと組んでくれないかな?」

クリスタ「私はいいけど…アニは?」コソッ

アルミン「ボクとアニは実力が違いすぎるから、アニの訓練にはならないんだよ。だから」チラ

エレン チーン

クリスタ「ふふっ、そっか。じゃあお願いしようかなっ」

ビシッバシッ
パァン!!! ホォウワタァァ!!!


ユミル「あーあ。愛しのクリスタはアルミンと組んじまったし…お」

ユミル「ベルトルさん」

ライナー「お?」

ベルトルト「ユミル?」

ユミル「よぉ。よければ私と組んでくれないか?相手がいなくて困ってるんだよなぁー」

ベルトルト「…何で僕なの?」

ユミル「いやアレだ。私より背の高い相手がよかったんだよ」

ベルトルト「ふーん…」

ライナー「お前にしては珍しいな。だが、ベルトルトは俺と」

ミカサ「ライナー」スッ

ライナー ビクッ

ミカサ「どうか私と組んでほしい。エレンがアニに取られてしまった。あの女狐を排除しなければならない」

ライナー「そ、それで何で俺が」

ミカサ「大きくて重い投てき物が欲しい」

ライナー(俺死んだ)

ライナー「だがアニはアルミンと付き合っているのだから、そんな心配はしなくて大丈夫だろう?」

ベルトルト「……」

ユミル ゾクッ(また…)

どうして誰も気が付かない?

人一倍そういった気配に敏感そうなこの二人まで。

何故だ。どうして私だけが気が付く?


ミカサ「関係ない。今の私にはライナー、あなたが必要」

ライナー「チッ…不本意だが仕方がない。ベルトルト、すまないが今日はユミルと組んでくれるか?」

ベルトルト「うん…分かった」ニコッ


サァライナーイコウ
…ブジニカエッテキタラケッコンスルンダ…


ユミル「悪いなベルトルさん。私となんかで」

ベルトルト「そんなことないよ。お手柔らかにね」


ユミル(なんだコイツ…)

ベルトルト「ユミル?」

ユミル(気持ち悪ぃ)

ユミル「ははっ、アンタには絶対勝てないけどな」

ベルトルト「そんなことないよ。ユミルだって十分強いんだから」

ユミル「世辞言ってもなんも出ねぇぞー」コキッ

ユミル「じゃあまず私が暴漢役だ…来いよ、ベルトルさん」クイックイッ

ベルトルト「お言葉に甘えて…フッ!!」バッ

ユミル「ぐっ……!」バシィッ

ユミル(さすが…蹴りがクソ重てぇ…)」ビリビリ

ユミル(だが…)チラッ

ベルトルト「あはは、止められるとは思わなかったなぁ」

ユミル(全然本気じゃねぇなコイツ。余裕ぶりやがって)イラッ


ユミル(あの感覚が私の勘違いなのかそうでないのか、試させてもらうぜ)

ユミル「足技って言えば、アニが最高にイカしてるな」

ベルトルト「……」

ユミル「アイツは小柄だから、デカいヤツとの闘い方も上手いしな」

ベルトルト「…そうだね」

ユミル「あーあ、私もアニに教わっておけばよかった……よっ!!」ダッ

ベルトルト「っ!!?」グッ

ユミル「攻守交代だぁベルトルさん!!」バキィッ

ベルトルト「ぐっ…それはルール違反なんじゃないのかいユミル!」ビリビリ

ユミル「実際の戦闘でルールだなんだの言ってられんのかぁ!?」ビシッ バシッ

ベルトルト「全く…変な人だね、君はっ」ヒラリッ ダッ


ユミル・ベルトルト バシィッ

ユミル「はっ…なぁベルトルさん」ググッ

ベルトルト「何」ググッ

ユミル「アンタが殺したいのはアニか?それとも…アルミン?」ニヤァ

ベルトルト「!?」バッ

ユミル「なぁベルトルさん、教えてくれよ。気になって気になって仕方ねぇんだ」

ユミル「優等生で目立ちたがらないアンタの、面の下がよ」ペロッ

ベルトルト「……僕を訓練相手に誘ったのは、それが目的か」

ユミル「正解」



今まで見たことがないような、全く感情を浮かべていない瞳。

恐らくライナー以外は―――ライナーでさえ見たことがあるのか分からないような瞳。

ドロドロに腐った瞳がこっちを見てきて、予想以上に胸糞が悪くなった。

周りは相変わらず騒がしいのに、二人の間に流れる静寂が更にそれを助長させる。

―――あぁ、やっぱりコイツ。気持ち悪ぃ。


ベルトルト「…君が僕に勝ったら、教えてあげるよ」

ユミル「随分と条件が厳しいな。せめて一発食らわせたら、にしてくれよ」

ベルトルト「それはダメだよ。だって僕は君の実力を知らないから」

ユミル「私が怖いのか?」

ベルトルト「うん。怖いよ」

ユミル「乙女にひどい言い方だなぁおい」

ベルトルト「君のことが怖いし、嫌いだ」

緩く両方の拳を握るベルトルトは、相変わらず腐った瞳をしていた。

自分の世界を脅かす存在―――ユミルを排除するために、力を使おうとしている。

ユミルもそれに応えるべく、応戦の構えを取った。

張りつめた空気が肌を切り裂くようだ。今にも押しつぶされそうな圧力。

ピ、と、鳥が鳴いた。


ユミル「――――――!!!!」

ベルトルト「――――――!!!!」



空気が破裂するような音が響いて、

ユミルの鳩尾にはベルトルトの右拳が。

ベルトルトの左頬にはユミルの右拳が。

それぞれ深く抉りこんでいた。


ユミル「ガッ…は…っ…ベ、ルトル、」

ベルトルト「つぅっ…ごめんね、だって君、怖いんだもん」

ユミル「て、めぇ…」ドサッ

クリスタ「――――――ユミルッ!!!」タタッ

ユミル「」

クリスタ「ユミルッ、ユミル!」ユサユサ

ライナー「ユミル!おいベルトルト!どうしたんだ一体!?さすがにやりすぎだ!」

ベルトルト「…ごめん、勢いが付きすぎちゃって」

アルミン「と、とにかく救護室に運ばないと!」

ベルトルト「…そうだね、じゃあ責任を持って僕が行ってくるよ」ヒョイ

クリスタ「私も付いていく!」

ベルトルト「ごめんねクリスタ。でも大丈夫だから、クリスタは訓練を続けてて」

クリスタ「で、でも…!」

ベルトルト「アルミンだって、君がいなかったら訓練出来ないだろう?」

アルミン「ベルトルト…」

クリスタ「……分かった。ユミルのこと、お願いね」

ベルトルト「うん、任せて」スタスタ

ライナー「……」


******


医務室


何を泣いているんだ?


真っ白な空間に、見慣れない少年が座り込んでいた。

少し土で汚れたフードマントをまとっている少年。

同年代より大きな体躯を丸めて、必死に耳を塞いで、泣いている。


「アニ、アニ」


泣いてちゃ分かんねぇよ。


「アニ、どうして僕じゃダメなの」


聞き覚えのある名前をずっと呼んでいる彼に、見覚えがあった。


「答えてよ、アニ」


******


ユミル「…ん…」

ユミル(ここは…救護室か…)モゾッ

ユミル(っ―――!!?)ズキィ

ユミル(ちくしょ、腹がメチャクチャいてぇ…!)

ベルトルト「まだ動かないほうがいいよ」

ユミル「!?」

ベルトルト「結構痛いの入ったはずだから。骨とか内臓は大丈夫だけど」

ユミル「…意外だな。アンタがここにいるなんて」

ベルトルト「あのままあそこにいたらライナーやクリスタがうるさそうだったからね。悪いけど逃げさせてもらったよ」

ユミル「アンタ、想像以上に性格悪いな…っぅ」

ベルトルト「ほら、横になって。それとも水飲む?」

ユミル「…もらおうか」

ゴクゴク


ユミル「手加減、しただろ」

ベルトルト「さぁね。でも君、一応女の子だし」

ユミル「一応女、だからな」

ベルトルト「ユミル」

ユミル「あ?」

ベルトルト「もう僕を詮索するのはやめてくれ」

ユミル「…」

ベルトルト「そうでないと僕はまた、今日みたいなことをしないといけないかもしれない」

ユミル「実力行使ってやつか」

ベルトルト「そうとも言うかもしれないね」

ユミル「…嫌だね」

ベルトルト「…何だって?」


ユミル「嫌だって言ったんだよ。別にアンタのことが知りたいわけじゃない。私は私のために知りたいんだ」

ベルトルト「僕は本当に、君が嫌いだ」

ユミル「そうか。私は嫌いでも好きでもねぇ。無関心だ」


外からは訓練兵たちの声。

消毒液と、洗いたてのシーツの匂いが混じって吐き気を覚える。

椅子に腰かけていたベルトルトは一つ息を吐き、ユミルのベッドへと近づく。

片足をかけるだけでベッドが嫌な音を立てて、ユミルは眉をひそめた。


ユミル「情熱的だな」

ベルトルト「どうしたら君は消えてくれる?殺せばいい?再起不能になるまで叩き潰す?それとも犯して開拓地送りにする?」ギシッ

ユミル「どれもベルトルさんのリスクが高いからオススメしないな」

ベルトルト「そうなんだよ。だから君がもう関わらないって言ってくれればそれで終わるんだ」


ユミル「やーだね」

ベルトルト「何なの君」

ユミル「何だと思う?」

ベルトルト「面倒くさいヤツ」

ユミル「キャラ変わってんぞベルトルさん」

ベルトルト「僕を隅の隅まで知ってから変わってるとか言ってよ」

ユミル「じゃあ隅の隅まで教えてくれよ」

ベルトルト「はぁ?」イラ

ユミル「面の下からほくろの数からケツの穴の皺の数まで」ニタッ

ベルトルト「…何言ってるの君」

ユミル「詮索しない条件作ってやるよ。…私に協力しろ」

ベルトルト「協力?」


ユミル「私の今現在の成績順位は?」

ベルトルト「確か…7位」

ユミル「上位にはなりたくないんだ」

ベルトルト「は?」

ユミル「どうしても私は上位に入りたくない。…いや、一時期は考えたんだが、ちょっと無理すぎてな」

ベルトルト「話が見えてこないんだけど?」イライラ

ユミル「上位のメンツがなかなかに濃すぎてな。私が抜けないといけないんだ」

ベルトルト「内地行きを蹴るってこと?」

ユミル「元からそんなものに興味はない」

ベルトルト「やっぱり変わってるね、君」


ユミル「だからちょーっと、私の順位を下げるのに協力してほしいんだ」スッ

ベルトルト「!?」

ユミル「素行不良、ってヤツをな。大丈夫大丈夫。アンタの名前は絶対に出さないから」ギシッ

ベルトルト「ちょ、ユミル!」

ユミル「黙ってろよ」

ベルトルト「それ僕のリスク高すぎない!?」

ユミル「黙ってろって言っただろ。詮索されたくなかったら、な」

ベルトルト「僕初めてなんだけど…!」

ユミル「じゃあ」スッ

ベルトルト「!? 見えな…」

ユミル「目ぇつぶってろ。で、―――好きな女のことでも考えてろよ」グイッ


アイツが内地に行って、平穏な日々を過ごせるなら自分はどんなことだって出来る。

他の奴らの順位を下げるように画策することだって。

何とも思っていない男に股を広げることだって。

全ては、あの馬鹿が付くぐらいのお人よしの為。

―――違う。自分の為だ。



ベルトルト「くっ…ぁ…」ビク

ユミル「…」ジュゥッ

ベルトルト「ユミ、なんで、何も喋らないの」

ユミル「好きな女のことでも考えろって言ったろ。声なんて、聞こえないほうがいい」


声も聞こえず、姿も見ず。

ただ肉欲の感覚だけを受けていれば、きっとこの男も少しはマシだろう。



ユミル(はっ…でけぇ)

ベルトルト「も、くち、やめてよ」

ユミル(図体でかいからかな)

ユミル(挿入れても大丈夫かな)

ユミル(―――何してんだろ、私)クチュ

ベルトルト「ぁっ…!」

ユミル「ッ……!!」ズブ



外から響いてくる訓練兵たちの声。

室内で反響する卑猥な音とは不釣り合いすぎて、笑いそうになる。

固く目を閉じているベルトルトに馬乗りになっている自分にも、笑いそうになった。



痛くて、熱くて、苦しくて。

世の中の男と女は、どうして好き好んでこんな行為をするのだろうか。


ユミル(お互い好きだからか)ズブッズブッ

ベルトルト「あ、あ、あっ…ダメだ、これ…ッ」

ユミル(痛い)

ベルトルト「……!!!」ガシッ

ユミル「!?」グルンッ

ユミル(ば、馬鹿っいきなり)

ベルトルト「はっ、アニっ、アニっ」パンパン

ユミル(畜生この馬鹿激しすぎる…!声が、出るっ)


ユミル「ッ…っ!!」ユサユサ

ベルトルト「アニ、アニ…っ」パンパン

ユミル「っ、っ」

ユミル(変な気分だ。好きでもない男に、私じゃない名前呼ばれて)

ユミル(クリスタ…)

ベルトルト「ぅぁ、やば…!」ズルッ

ベルトルト「―――!」ビュッ

ユミル「!!」ビク

ベルトルト「はっ、はぁ…」ハァハァ

ユミル「…思いっきりケツにぶっかけやがって…」

ベルトルト「…、襲ってきた張本人が、何言ってるんだよ」

ユミル「うるせぇよ。あーもういいや」

ベルトルト「…」ゴソゴソ

ユミル「ほら」バサッ


ベルトルト「うわっ!僕の服投げないでよ!」ボフッ

ユミル「もう行けよ。…優等生のベルトルト・フーバーくんは、サボりなんかしちゃダメだぜ?」ニヤニヤ

ベルトルト「…やっぱり、君なんか嫌いだ」

ユミル「そーかよ。あぁ、ベルトルさん」

ベルトルト「何」ガラッ

ユミル「また頼むぜ」

ベルトルト「……」ピシャッ



足音が遠のく。

ほんの数分前まで、男女の睦みごとを行っていたとは思えないほどあっさりと。

腹部に気怠い痛みと、腰に圧迫感を感じてユミルは眉をひそめた。



ユミル「ホント、何してるんだろうな私」



脱ぎ捨てたズボンをはき直し、息を吐く。

最初はほんの少しの好奇心。

普段徹底的に自分の存在を隠しているベルトルトが発した気配。

そのものに、強く惹かれた。

あの男がただの嫉妬からだけであんな状態になったのか。それとも更なる理由があるのか。

クリスタ以外の人間のことを知りたいと感じたのは、本当に久しぶりだった。

好意ではなく、ただの好奇心。



ユミル「…まぁ、もう少し楽しませてもらうかな」



シーツに薄く散った鮮血を、ユミルは見なかったことにした。


書き溜めてきます
読んでくださっている方いらっしゃたら嬉しいです
ありがとうございます


******





夢を見た。

繰り返し繰り返し見る悪夢を。

ベリックが醜い巨人に食われて、僕とライナーは彼を助けられなくて。

ライナーと、アニと、僕で任務のために訓練兵に加入して。


ライナーは壊れていった。

金髪で小柄な少女に恋をして。仲間なんてものを作ってしまって。

彼は兵士なのか戦士なのか。確実に戦士だと、僕は言えない。


ちょっとだけ再開しています
優しいレスありがとうございます、泣きそうです


アニだってそうだ。

あんなに任務に対して真剣だったアニでさえ、遠くに行ってしまった。

エレンたちと関わるようになって、―――アルミンと恋に落ちて。

アニは戦士から、一人の少女へと変わりつつあった。

僕があんなに焦がれて、あんなに愛した二人はどこに行ってしまったのだろう。

こんな世界とっとと終わらせなきゃ。

僕が二人と離れるなんて。ライナーが、アニが傍にいない世界なんて。

ライナー、君は戦士だろう?こっちを見てよ。

アニ、戻ってきて。アルミンなんかより僕のほうがずっとずっとずっとアニを見てきたんだよ。

アニ。アニ。どうせ殺してしまう人の所になんて行かないでよ。


でも僕の声は、背を向けた二人には届かなかった。

******

ID変わっちゃってますが1です



ベルトルト「はぁっ…はぁっ…」


あまりに寝苦しくて目を覚ませば、外はまだ真っ暗だった。

いつのまにか僕の足はベッドからはみ出していて、少し宙ぶらりんな状況だ。

隣に眠っているライナーを起こさないように注意しながら、ベッドから抜け出す。

寝汗で額にはり付いた髪を剥がして、そっと部屋から抜け出した。


ベルトルト(相変わらず最悪な夢だ)ペタペタ

ベルトルト(べたべたして気持ち悪い)ペタペタ


あの医務室からすでに一年が経過していた。

多い時は週に一度、少なくとも月に一度、僕はユミルと体を重ねるようになった。

ほとんどユミルから誘ってくる形ではあるが。

消灯時間を過ぎてから堂々と出歩くユミルは当然の如く教官に目を付けられ、何度か懲罰房に入れられたりもした。

そのおかげかユミルの順位は着々と下がり、ユミルは11位の成績で安定し始めている。

抜けたユミルの代わりに上位入りを果たしたのは、あのクリスタだ。

ユミルの考え通りに事が運ぶのは少々癪に障るが、まぁそれも一種の彼女の努力の結果だ。


ベルトルト(ちなみに僕は当然バレないよう出歩いている)キリッ


ユミルとセックスする時は、暗黙のルールと呼ぶべきものがある。

僕は絶対に目を開かない。ユミルは声を出さない。

そして、キスをしない。

何度もセックスしておいて今更とも思うが、そこはユミルも女の子なのだろう。

きっと最中に目を開けば、そこには僕が焦がれている彼女とは似ても似つかない姿があるのだろう。

陽に眩しい金髪ではなく、闇に溶けそうな黒髪が。



ベルトルト(とっとと水浴びて、寝よう)


水飲み場への近道は、普段あまり使われていない空き教室の前を通ること。

何度か彼女に手を引かれて訪れた空き教室。

こっちは教官が見回りに来ないから、逢引には持って来いなんだぜ―――。

ユミルは相変わらず嫌な笑顔でそう言っていた。

確かに僕も夜中ここの前を通った時、中から押し殺した声を聞いたような気がする。

だから、今この瞬間聞こえてきても、またかと、思うだけ、で。

微かに揺らめく蝋燭の火が漏れても、またかと、思って。



ベルトルト(…皮肉すぎる)


僕が”アニ“を抱いていたこの教室で。


「アルミン、アルミン…っ」


本物のアニの体が、揺れていた。

今すぐこの場から逃げ出したいのに、足が動かない。

あれだけ好きで好きでたまらなかった少女が、あろうことか滅ぼさなきゃいけない相手に。

薄く開いた扉は、まるで自分を誘っているようで。

見たくないのに、見なければいけないという感情が。


「アニ、すごく可愛いよ、アニ」


やめろ。アニの名前を呼ぶな。

僕はずっとアニと一緒にいて、アニを見てきて、アニを、アニをアニをアニをアニを―――。

めまいがして、立っていられなくなりそうだ。





ベルトルト(殺してやる)



僕からアニを奪う奴は。

たとえアニがそいつにどれだけ想いを寄せていても。

ねぇ、アニ。そいつを殺せば、君は戦士に戻ってくれる?

昔みたいに僕を見てくれる?そうに決まっているよね?

待ってて、アニ。今すぐそいつを踏み潰してあげる。

人類も全て殺して、僕とアニとライナーで故郷に帰ろう。

そして幸せに暮らすんだ。

物語はそうじゃなきゃいけないだろう?


震える右手を押さえて、口元へ持っていく。

歯を立てて、硬い皮膚に食い込ませて。

全てをなかったことにするために。


ユミル「…ちょい待ち、ベルトルさん」ガシッ

ベルトルト「!?」ハッ



僕の右手を掴んだのは、ここにいるはずのない人物だった。

珍しく気まずそうな顔をしているユミルは、有無を言わさず僕を連れて外へと足を向ける。

無理矢理引っ張られたからか、それとも動揺を隠しきれていないのか。

足を縺れさせながら、僕は何とかその場から離れた。

何も言わずに僕の前を進んでいくユミルに対して、僕は初めて、彼女をちゃんと見たような気がした。


水飲み場を過ぎ、兵舎裏の人気がない場所までたどり着くと、ユミルはようやく僕の手を放した。

情けなく座り込んでしまった僕の隣に腰を下ろす。



ユミル「……」ハァ

ベルトルト「……」

ユミル「…アンタ、よっぽど運が悪いんだな」

ベルトルト「…ユミルは、知っていたの?」

ユミル「あー…まぁ、な」

ベルトルト「そっか…」グスッ

ユミル「ちょ、泣くなよ!」アタフタ


ベルトルト「アニ、なんで、アニ…」グスグス

ユミル「もうっ!」ガシッ

ベルトルト「!!」グラッ

ベルトルト「ちょ、ちょっとユミル…」

ユミル「肩ぐらいなら貸してやるから、いいからとっとと泣ききれこの馬鹿」

ベルトルト「…低い、固い」ズズッ

ユミル「うるせぇ黙れ鼻水つけたら殺す」ポンポン

ベルトルト「っ…う、ぅ…」

ベルトルト「アニっ…やだよ、アニ…」ズビズビ

ユミル「……」

ベルトルト「一緒に帰るって…約束したのに…」ヒック

ベルトルト「どうしてアルミンと、どうして行っちゃうの」ズズッ

ベルトルト「怖いよ、アニ、助けて、ライナー」ヒグヒグ

ユミル「……」

ベルトルト「僕を、一人にしないで」


最初はユミルの肩に頭だけ置いていたのが、右手がユミルの肩を抱いて、左手が小さな頭を抱いて。

いつのまにか僕はユミルに縋って、泣いていた。

僕を気遣ってか黙っているユミルは、ただ優しく僕の背中を叩いてくれていた。

このまま彼女の優しさに甘えてしまいたいと、頭の片隅で思う。

おかしい。僕は。


ベルトルト(ユミルが嫌いなのに)


ユミル「…落ち着いたか?」

ベルトルト「うん…ねぇ、ユミル」

ユミル「うん?」


ベルトルト「しよう」ギュッ

ユミル「…珍しいな、アンタから言ってくるの」

ベルトルト「うん。でもきっと君に乱暴なことをしちゃうよ」

ベルトルト「痛いって泣かせるかも」

ユミル「そうか。いいよ」

ユミル「おいで、ベルトルさん」



ねぇ、アニ。ライナー。

君たちが戦士を捨てると言うのならば。

僕も、一瞬だけでいいから。

君に恋い焦がれるただの男でいさせて。


また書き溜めてきます
皆さんにお返事をしたいのですが、別マガ発売までに完結させたいので焦ってます

ぷぷぷズラバカKYwww
ありがとうございます!


書き溜めたので投下
物語のペースが速すぎるのは気にしないでください
眠くなるまで頑張ります


書き込むたびにIDが変わるのはなんででしょうか…

******


まずい所に出くわしたと思った。

予想外に眠れなかったのと、部屋にアニがいないことが気になって部屋を出たのが間違いだった。

とりあえず風にでも当たりに行くかと、例の空き教室の前を通り過ぎようとしたら声が聞こえてきた。

確信を持って中を盗み見れば、案の定金髪が二人で組んず解れずしている。

お互いがお互い(ユミルから見れば)小さい体を揺らして、お互いを求めあっている。

荒い息の合間にアニ、だの、アルミン、だの、名前を呼び合っているから余計に必死に見える。



ユミル(ベルトルさんが見たら卒倒もんだな)


一年前から体だけの関係を持ち始めた男は、何故かアニに恋慕を抱いている。

訓練中もあまり話しているのを見たことはなかったので、正直意外だった。

むしろそれまで興味すら持っていなかったという方が正しいだろう。

私の世界はクリスタによって始まり、クリスタの為に終わる予定だからだ。

せめて今度こそ、私は自分の好きなように生きると、あの鎖に誓った。

―――好きなように生きているから、あの時の殺気にさえも興味を持ったのだろうか。


ユミル(おーおー派手に腰振っちゃって。そろそろラストスパートか?)ニヤニヤ

コツコツ

ユミル「!」

ユミル(誰か来る…)サッ

ユミル(…げ、うっわタイミング悪ぃ…)

ユミル(よりにもよってベルトルさんかよ…気付く…よな、さすがに)ヒヤヒヤ

ベルトルト「―――!」

ユミル(あぁぁぁ気付いちまったぁぁぁアルミン死んだなこりゃ…っ!?)ゾクッ

ユミル(うわぉ久しぶりなこの感じ)トリハダ


薄ぼんやりとしか見えないが、きっと今のベルトルトは般若のような顔をしているのだろう。

この殺気がそれを物語っている。抜き身の刃を押し当てられたような―――むしろもう突き刺さっているのか?



ユミル(…ん?何しようとしてるんだ…?)



ベルトルトの右手が、口元に持っていかれる。

最初は叫びそうになるのを堪える為かと思ったが、どうも様子が違う。

あれは…噛みちぎろうとしている?

何でと一瞬考え、至った答えに、驚愕した。



ユミル(おいおいおいおい待てまさか!!!)バッ


ありえない答えに頭痛が起きる。

しかしそれが答えなのだとしたら、ベルトルトの行動全てに合点が行ってしまう。

必要以上に目立たないのも、いつもライナーの傍にいるのも、あの殺気も。

訓練でいつも本気を出さないのは―――怪我を避けていた為。


ユミル(よりにもよって…畜生!!)ガッ

ユミル「ちょい待ち、ベルトルさん」




******



ベルトルト「っぅ、アニっ…」ユサユサ

ユミル「…っ、ぅ、ッ!!」



瞼の裏の世界には、いつもアニがいる。

金髪を揺らし、薄い灰青の瞳に涙を浮かべて、僕の名前を呼んでいる。

腕を僕の首に巻きつけて、腰を揺らして。

繋がっている箇所から、指を上へ滑らせていく。

腰。へそ。肋骨。乳房。鎖骨。

白くて細い、女の首。首が、白いクビが。

僕の片手だけですっぽり収まる細い首。

浮かび上がる筋を撫でて、感触を味わって。


『ア、ルミン…ッ』



少し力を込めれば折れてしまいそうな首。クビ、が。

人間の状況なら、首の骨を折れば死ぬだろうか。

ひたり、と。もう片一方の手を重ねて。ゆっくり体重をかけて。



『ァ…ルミ…』



僕の名前を呼ばない声など、僕を見ない瞳など。




「…っぁ…あ…」



ゆっくりゆっくりゆっくり力を込めて。

小さく軋む音が、やけに大きく響いて。ゆっくり。



「ゃ…ガ、ァ」



今この手で君を殺してしまえば、君は僕のものになるだろうか。



ベルトルト「アニ…愛してる」グッ

ユミル「ッ…ま、て…ベルトル、さ」

ベルトルト「!」ハッ


慌てて手を離せば、ユミルが咳き込む声が聞こえた。

ユミルの首を絞めていた手を離し、手探りで髪を撫でる。

てっきり何か言ってくるかと思ったが、先ほどの制止の言葉から声を発する気配はない。

その代わりにユミルの指が僕の胸元に優しく触れた。


ベルトルト(…こんな優しい指をしていたっけ)


その手を取ってキスをすれば、びっくりしたように離れていく。

アニとは違う、少し筋張った手。

ごめんねと呟いて、僕は腰の動きを再開した。



******




ベルトルト「ねぇ」

ユミル「ん?」ゴソゴソ

ベルトルト「教えてよ、どうして僕だったの」


セックスが終わっても珍しく立ち去らないと思ったら、そんなことを聞いてきた。

乱れた髪を軽く整えて、男の方をちらっと見た。


ユミル(めっずらしい。私の方見てやがる)



アニとアルミンの肉欲を見てしまったベルトルトが行おうとしていた行動。

自傷行為。自分に痛みを与える行為。

あくまで勘だが、この男は巨人だ。

となると必然的にライナーもその仲間ということになる。

―――ではアニは?

おそらく仲間だ。ベルトルトのアニに対する執着がそれを物語っている。

さっきベルトルトが口走った「一緒に帰る」という言葉。

仲間で、女としてアニを見ているから―――その両方の立場をかっさらっていったアルミンに殺意を覚えている。

それとも人にほだされているアニに対してか?それはまだ分からない。



ユミル(両方って可能性もあるよなぁ)

ベルトルト「ユミル」

ユミル「あー…最初は誰でも良かったんだ」

ユミル「たまたまその時、一番関わったら面白そうだったのがアンタだったんだ」

ベルトルト「……」

ユミル(ま、知りたくねぇ秘密に気付いちまったのは失敗だったかな)ガシガシ

ユミル「…それに、アンタは私と似てる」

ベルトルト「え?…僕がユミルと」

ユミル「認めたくないけどな」

ベルトルト「やめてよ、嫌すぎる」

ユミル「珍しく同意見だ」



最初は、クリスタと一緒に憲兵団に入るつもりだった。

アイツが貴族連中にいい顔をされていないのは分かっている。

だから、憲兵団に入ってもクリスタを守れるように。

―――クリスタにとっては、憲兵団も調査兵団も命がけだ。文字通りのな。

だが私が抜けなければ上位十番にクリスタが入る余地は、正直ない。

私にとってはクリスタが上位に入ることが一番の目標であり決意だ。


ユミル(それに、あんまり私の存在は知られたくない)



ユミルという名前を王政や貴族、ウォール教の連中が知らないとも限らない。

もし下手に嗅ぎまわられたらそれこそ私の人生が終わってしまう。

第二の人生を終わらせるには、まだちょっと早すぎる。

だから―――


ユミル(あまり目立ちたくないのはお互い様だ)

ベルトルト「ちょっとユミル黙らないでよ」

ユミル「うるせぇよ。…ほら、とっとと帰るぞ」スクッ

ユミル(巨人同士、なんて共通点まで見つけちまった)

ベルトルト「自分勝手」ボソッ

ユミル「それこそお互い様だ」ボソッ

ユミル(あーあ、最悪だ)



明日の座学は、いねむり確定だ。


書き溜めてきます
細切れ過ぎてすみません
エロ書きてぇ!!!!!!

素晴らしい!素晴らしいぞ!

ん、なぜかIDが同じだが1読者です


投下します
どうせまたID変わってんだろ知ってんだよ!

******

「10番、クリスタ・レンズ」


私の役目は終わった。

震える足を隠しきれずにいるクリスタを見て、人知れず安堵する。

今だけは自分を自画自賛してやりたい。そんな気分だ。

クリスタがちらりとこちらを見てくる。おいおい。私のことが好きなのは分かるけどもうちょっと我慢しろよ。

このつまらない儀式が終わったらお前を抱きしめて、顔中にキスしてやるから。

ほら睨むなよ女神様。前向けって。



ユミル「……」


さすがだな、ベルトルさん。三人そろって内地行き決定おめでとう。

涼しい顔しやがって。そういう所が気に食わないんだ。

アンタの巨人はどんな姿だ?ちょっと興味もあるが、まぁこの秘密は死ぬまで黙っていてやるよ。

アンタからバラすのならそれは別だけどな。



「後日配属兵科を問う」

「本日はこれにて第104期、訓練兵団解散式を終える…以上!」



******



クリスタ「ユミル!」

ユミル「おう私の女神様。上位入りおめでとう」ヘラヘラ

クリスタ「ふざけないで!」バンッ

ライナー「ク、クリスタ?」

クリスタ「私が上位だなんてありえない。…ユミル、あなた一体何をしたの?」ジィッ


解散式が終わったと同時に、クリスタは可愛い顔をぷんぷんさせてユミルに詰め寄った。

それでも身長差が20センチ以上あるので、ユミルを威圧させることは到底できない。



ユミル「よっと」ヒョイッ

クリスタ「きゃぁっ!」ダキカカエラレ

ユミル「クリスタの実力を教官様方が認めたんだろー?」チュッチュッ

クリスタ「きゃっ、ユミルくすぐったい…!じゃなくて降ろしてよー!」ジタバタ

ユミル(何だこの生物)

ライナー(結婚しよ)

ユミル「いいかクリスタちゃん。ありえないなんて言ったら、上位入り出来なかった他の連中にも失礼だと思わないか?」

クリスタ「うっ…」ヒヤアセ


ユミル「まさかクリスタはそんな残酷なこと言わないよなぁ?」ニヤニヤ

クリスタ「うぅー…」ショボン

ライナー「結婚しよ」(そうだぞクリスタ)

ユミル「心の声が出てんぞこのゴリラが。つーか何でまだ残ってんだよ」ギロリ

ライナー「それは、あれだ。クリスタがいるから」

ユミル「黙れよ。なークリスター」ウリウリ

クリスタ「ユミルくすぐったいー!」キャッキャッ

ライナー「うらやま」

ベルトルト「ライナーったら」



クリスタを抱きかかえたまま、ユミルはベルトルトに視線を送る。

二人だけの合図。瞬きを、ゆっくり二回。ほんの少しだけゆっくりと。

―――今夜、会おう。

相変わらず目を開かない、声を出さない関係ではあったけれども。

一つだけ変化したことがある。

ベルトルトがアニと呼ぶことが減ったのだ。

それを不思議と思うことはユミルにはなかった。

アニとアルミンは相変わらず恋人同士のようだ。あの教室で密会をしていることも知っている。

ベルトルトは夜中あの教室の前を通ることはなくなったし、あれほど鋭かった殺気も最近は滅多に出てこない。


―――分かった。


唇だけでそう返事をされ、ユミルは口の端を上げた。



******



ユミル「憲兵団に行くんだろう?」

ベルトルト「うん」

ベルトルト「ユミルは?」

ユミル「さぁな」


宴会の熱もだんだんと冷め始め、半数以上が眠りに付いたであろう時、二人は医務室にいた。

教官室からも遠く、普段なら鍵がかかっている絶好の穴場。

鍵なんてものはユミルがあれよあれよという間に外してしまったが。



ユミル「ここから、全部が始まったな」

ベルトルト「僕にとっては地獄のような日々だったよ」

ユミル「いいじゃねぇか。タダで女とヤリまくれたんだから」ダハハ

ベルトルト「初めては好きな人とって、僕だって思ってたんだよ」ムッ

ユミル「…明後日、配属兵科が決まる」

ベルトルト「…そうだね」

ユミル「終わりにしよう、ベルトルさん」

ベルトルト「そうだね、終わりにしよう」

ユミル「アルミンは調査兵団。アニは憲兵団―――かっさらうなら、これからが勝負だな」

ベルトルト「アルミンは壁外調査で失敗。傷心のアニを僕が慰める。嫌なストーリーだ」



どっちが先にベッドに押し倒したのか、分からない。

変わらない洗いたてのシーツと、薬品の匂い。

僕たちの、私たちの関係は。何かが変わったのだろうか。


ベルトルト「ん…ん」ペロペロ

ユミル「っ~~~!」ビク

ユミル(なんなんだ一体!今日はねちっこすぎる!!)


自分の股の間から顔が覗いているのを見るのは、あまりいい気分ではない。

顔を背けて手を口に押し付ける。そうすれば、声は出ない。



手持無沙汰な左手がシーツを握りしめ、快感を逃がそうとする。

粘着質な水音が鼓膜を震わせるこの感覚にだけは、ついぞ慣れることはなかった。


ベルトルト「ビチャビチャだね」ピチャ

ユミル「―――!?」カァッ

ユミル(なんだなんだそんなこと言ったことないじゃないかコイツ!!)

ユミル(最後だからか!?ちょっと感傷的になっちゃってんのか!?)

ユミル(畜生!なんなんだよこの感じ訳わかんねぇ!)キュン

ベルトルト「挿入れるよ」ズッ

ユミル「~~~っ!!!」ビクビク

ベルトルト「あれ…もしかして、これだけでイっちゃった?」

ユミル「っ!!!」ブンブン

ベルトルト「でも中、すっごいキツい」ギュゥ



ユミル(うるせぇよこの馬鹿っ)プイッ

ベルトルト「ねぇ」ズボッ

ユミル「っぅあ!?」


ベルトルトの指が二本、口腔に押し込まれる。

口を閉じれなければ声を殺せない。歯を立てたら―――


ユミル(まさかそんなんで巨人化はしないと思うけどさぁ!)フガフガ

ユミル「はっ、はにふんだよっ!……んぁあっ!」グチュ

ユミル「あっ、ア、嫌、こんな、嫌ぁっ」ズッズッ

ベルトルト「くっ、キツっ…!」パンパン

ユミル(噛み切るぞ!)クアッ

ベルトルト「歯、立てたら、もっと、ひどいこと、するから…ねっ!」ズンッ!

ユミル「!?ひ、ひきょ…あぁっ!」ビクビクッ



頭が溶けてしまいそうだ。

このまま何もかも溶けきって、消えてしまえたら。

運命のことも。任務のことも。

全部全部忘れて。







((一緒にいられたら))



ユミル(…何考えてんだ私)

ベルトルト(…どうしちゃったんだろう、僕)

ユミル(こんなヤツ興味なかったのに

ベルトルト(彼女のこと嫌いだったのに)

ユミル「ひっ!も、無理っ、それ以上っ、はいんないっ!」グッグッ

ベルトルト「大丈夫、大丈夫だからっ、なか、中出すよっ」パンパン

ユミル「だめ、だめだめだめっ…あぁぁっ」ビクンビクン

ベルトルト「クッ…っぅ―――!!!」ドクッ



******



ユミルが寝息を立てているのを見るのは、これが初めてだった。

僕の予想外の行動のせいか、彼女は行為が終わった瞬間ほとんど気絶するかのように眠りに落ちた。

常備されているタオルで体を拭いてやれば、小さく身じろぎする。

普段の姿からは想像が出来ないくらい、彼女は少女だった。


ベルトルト(ねぇ、アニ、ライナー)


汗で少し湿った黒髪を一筋掬う。

意識して触れたそれは、柔らかかった。


ベルトルト(僕は、戦士のままでいるよ)


情など全て、ここに置いて行こう。

全てが始まってしまったこの場所に。




ベルトルト(だから)


目を開いて見たユミルの姿は、やっぱり恋い焦がれていた少女とは違う。

陽に眩しい金髪と、闇に溶けそうな黒髪。

釣り目だけど大きな灰青の瞳と、キツく三白眼な灰茶の瞳。

身長だって全然違うし、アニの方が胸だって大きい。

アニは柔らかそうだけど、ユミルは全体的にちょっと筋っぽい。

全然正反対なのに。


ベルトルト「さようなら、ユミル」


アニよりも薄く紅い唇に、僕は最初で最後のキスをした。




******



ベルトルトが立ち去った医務室は、全てが二年前に戻ったようだった。

何も始まらなかったかのように。


ユミル「……」ムクッ




ユミル「馬鹿」


書き溜めてきます
次の投下で最後になります
眠くならないので朝までに完結しそうです
いっぱいコメントくださって、本当にありがとうございます


きっとまたID変わってるだろうけど、投下します
最終パートは短いけどこれで完結予定です
世界は残酷で美しいって誰かが言ってた




ユミル「嘘つきだな、ベルトルさんは」

ベルトルト「なんで?」

ユミル「結局調査兵団に入ってんじゃねぇか」

ベルトルト「それはライナーが悪いんだよ」

ユミル「ホントにあのゴリラは。救いようがないよな全く」

ベルトルト「ユミル」

ユミル「ん?何だベルトルさん」

ベルトルト「聞いてもいい?」

ユミル「時間ねぇから一つだけな」

ベルトルト「うん。あのね」







ベルトルト「どうして僕を庇ったの?」





ベルトルトの背を抱いていたユミルは、さぁなと呟く。

自分の前面に回っているユミルの再生した右腕に触れ、ぬくもりを感じる。

だんだん首回りに生温かい液体が纏わりついてきたが、不思議と気持ち悪くはなかった。

よいしょ、と体を反転させてユミルを抱きしめる。

ユミルを横目で見れば、彼女のうなじスレスレにブレードが深々と突き刺さっていた。

常人なら既に死んでいるであろう深手でも彼女がまだ喋れているのは、巨人だからに他ならない。



ミカサが“僕”を殺すために振り下ろした刃は、僕を庇ったユミルに突き刺された。

見事に動きを止められた二人の周りは、自由の翼を背負う兵士たちに囲まれている。


二人に逃げ道は、ない。


もう終わりが近いと、知らず腕に力がこもった。

恐怖も当然あるが、それよりも“彼女”と離れ離れになるのが一番怖かった。




(彼女っていうのが、アニのことなのか、違うのか)


ライナーは兵団に捕らえられ、もう動くことはできないだろう。

アニも生死不明だ。兵団に捕まったのか、それとも。

もうベルトルト一人になってしまった。

ベルトルトとユミルを囲む無数の刃。その中のどれが、命を奪うのか。

おそらくそれは、目の前にいる同期の少女のものであろう。

刃を補充し、黒く、冷たい瞳で二人を見下ろす少女。


ミカサ「…ユミル。あなたに対して、処分命令は出ていない」

ユミル「おー、そうかー」




ミカサ「エレンを連れ去ったそいつらの手助けをしたことは、確かに許せない」

ミカサ「でも、あなたが死んだら、クリスタが悲しむ」

ユミル「ありがとな、クリスタの…ヒストリアの心配してくれて」

ユミル「アイツ普段強がってるけど、本当はすごい泣き虫だから」

ユミル「ミカサ、助けてやってくれ」


頼むよと、ユミルは息が漏れ始めた喉で、呟いた。

ユミルの角度からは見えていないであろうが、ミカサはしっかりと頷く。

腕の中の温もりがぶるりと震え、終わりが迫っていることを嫌が応にも思い知らせてくる。


ベルトルト「ねぇ、ユミル、再生できないの」

ユミル「ブレード刺さったまんまだから無理」

ユミル「人間状態でもうなじって弱点なんだな」




弱弱しく、ユミルの手がベルトルトの背に回る。



ユミル「ごめんな、ベルトルさん」

ベルトルト「え?」

ユミル「ついていってやるのが私で」

ベルトルト「…ううん、いいんだ」



二人の顔が、真正面に向き合う。

どちらからともなく笑みをこぼして、本当の本当に何も始まらなければ―――。

巨人も、この世界も、全てが違っていたら満ち溢れていたであろう笑顔を、浮かべて。




ベルトルト「知ってるだろうけど、僕嫉妬深いんだ」

ユミル「知ってるよ」

ベルトルト「だからユミル。ついてきて」

ユミル「あぁ。ついて逝ってやるよ」



“恋人”でも“仲間”であったかさえ怪しいけれど。


ユミル「私の人生だ。ちょっと予定が変わったけどな」ニヤ

ベルトルト「ホント、君って馬鹿だよね」クスクス




ベルトルト「ごめんねミカサ。お待たせ」

ミカサ「…いいのね、それで」

ユミル「あぁ」


ミカサが刃を振り上げるのが、見える。


僕たちは、私たちは世界に憎まれながら。

先に退場して、待っているよ。



ユミル「ベルトルさん」

ベルトルト「何?」

ユミル「最期に嫌いだって言ってくれないか?」

ユミル「そう言ってもらえたら、笑って死んでいけるんだけど」

ベルトルト「そうなの?じゃあダメだよ」






ベルトルト「きっとユミルのこと、泣かせちゃうから」







1です
本当は最初に注意って書こうとしたんですが、ネタバレなのでやめました
ごめんなさい

たくさんコメントくださってありがとうございました
朝なのでみなさん寝てください自分も寝ます

でもミカサさん、まだブレード振り下ろしてないよね

ありがとうございました

乙!乙!
好きだた!

バットでもハッピーでもあるエンドいいね。


僕のためにの人かな。


トリ付けてみました。ちゃんと付いてるかな

バイトから帰ってきたらたくさんコメント付いててびっくりしました
こんなに読んでもらえていたなんて嬉しいです
ss書くの楽しかったので、また細々と書きます

>>141
初投稿なので違います
でもそのss好きです

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