エイラ「私と付き合ってくれないか」 (27)
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今回も地の文が入っています。
苦手な方はブラウザバック推奨です。
前スレ エイラ「なぁ、チョコミントは好きか?」
の続きです。
◇
「サーニャちゃん、あのさ……今日、この後時間あるか? 前に話していた、プラネタリウム。一緒に見に行かないか?」
終業式の帰り。
私達はここ2ヶ月、日課になっている音楽室での待ち合わせをしていた。
3回目の、デートの誘い。
いいや、彼女にとってはただのお出かけだ。
しかし過去2度のお出かけの誘いだけはどれも成功している。
私は少しずつ慣れてきたような気がして、かっこよくなっている、なんて。
そんなことを考えて、自惚れていた。
今日はキメる予定だ。
明日からは夏休みに入る。
1ヶ月と少しの間、勉強から離れられる。
しかし、それは同時に彼女に会えないということも意味している。
だから私は考えた。そして出した答えは……恋人になって、夏休みを満喫するというものだった。
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「ほら、まだ行けてないだろ? この間はさ、その……あはは……」
2度の失敗が脳裏を過ぎる。誘いだけは上手くいくのに、その内容は……。こんな失態、もう二度と御免だった。
「……はい、分かりました。そうですね、明日からは夏休みですし、良いかもしれませんね、エイラさん」
「ほんとか!? その……今からは、ダメかな……」
私は先ほどまでピアノを弾いていた彼女と、鍵盤を交互に見る。
「えぇ、いいですよ。ここは夏休み中、開放されるそうなので、たまに来る予定ですから」
それから私達は昼過ぎに最寄の駅に着くと、電車に揺られて1時間と少し。
都会までやってきた。
こんな大きな街は久しぶりで、彼女とは初めてだ。
周りには大人がたくさんいて、はぐれないかと心配した私には下心もあった。
「はぐれるといけないから……手を、繋がないか」
初めて、手を繋ごうと提案する。
私は左手を差し出す。
彼女はじっと差し出された左手を見ている。
私はその瞬間後悔した。
まだ付き合っても、告白さえもしていないのに。
さすがにこれは先走り過ぎた、調子に乗りすぎたと。
しかしその手を引っ込めるワケにも行かず、私はただ手を伸ばしていることしかできなかった。
「ありがとう、ございます……」
しかし彼女はそういうと、右手を差し出し、私の掌にその細い指を軽く乗せようとする。
触れるか触れないかのところで彼女は一度手を引くと、制服のスカートからハンカチを取り出し、掌を拭う。
それを見て、私は……以前ペリーヌに言われたことを思い出して、彼女と同じようにする。
それから私はまた手を差し出すと、彼女は今度こそ乗せる。
まるで小鳥が餌を啄ばむように、軽く。
言葉にできない、嬉しさ。
何かがこみ上げてくる。
正直、浮かれていた。
だって、本当に好きな人に触れていられるのってこんなに嬉しいんだと。
初めて知ったから。
私は慣れない街でできる限りエスコートする。
今年竣工し5月に開業した、街の、いや国のシンボルになった電波塔の下にある複合ショッピングモールに入る。
水族館に展望台、何でもあるらしい。
遅めの昼食を取るために私達はお店を探す。
「サーニャちゃんは、何が食べたい?」
「エイラさんが、最近食べてないモノがいいです」
「うーん。昨日は……えーっと、あぁ……牛丼、食べたというか、食べさせられたな」
私は昨日陸上部の帰りのシャーリーに付き合わされて行った牛丼屋を思い出す。
「しかも勝手に大盛り頼まれちゃって。肉、肉、脂、脂、そして肉みたいな感じでさ……もう見たくないなぁ……」
「ふふ……それはとっても大変でしたね」
そう話していると、私はフィンランドの童話をモチーフにしたお店に目を惹かれる。
しかし、そんなお子様のお店ではダメだと考えた私は、もう少し背伸びできるお店を選ぶ。
アフタヌーンティーをゆったり堪能できると謳い文句の店に入り、遅めの昼食を二人で取った。
それから私達はまた手を繋いで、ウィンドウショッピングをしてプラネタリウムを観に行った。
モールから繋がるトンネルを抜ける。青と白の幻想的な光と空間の演出。
上映しているのは、基本的な星についてとその星座に纏わるモノだった。
劇場に入り、傾斜型の座席に二人並んで座る。
繋いでいた手が離れる。
いつまでも握っていたかったから、座ってる時も握ろうとしたけれど。
そんな免罪符は私には浮かばなかった。
私達は天井いっぱいに広がる夜の星の下。
互いに無言でナレーションに耳を貸す。
チラリと隣を覗き見ると、彼女は悲しそうにある一点を見つめていた。
私には、それがどこかは分からなかった。
しかし、彼女のその顔が、私にはいつまでも忘れられなかった。
劇場を出ると、スタッフに呼び止められる。
どうやら自分の誕生月の星座のポストカードが貰えるようだった。
誕生日を告げると、うお座のポストカードを貰う。
彼女はというと、別のスタッフに対応されていた。
私はその時聞き逃さなかった。
彼女の、誕生日を。
8月の……。
「どうだった? プラネタリウムも良かったと思うんだけど……」
「えぇ、とっても良かったです。見に来る機会なんて無いですし、音楽も幻想的で星もキレイで。ありがとうございました」
「あはは、そういってくれると嬉しいな。さぁ、そろそろ帰ろうか……遅くなっちゃう」
午後18時。
電波塔の外を出ると、曇り空だった。
私はどこで告白するかを頭の片方で考えながら、明日になるまで降らないでくれよと祈る。
曇ってしまったが、前に一度連れていってくれた彼女が好きなあの山に登って、告白するんだ。
それは、もう2週間も前から考えていた。
最寄の駅まで帰り着いた私は、いつもどおり彼女を家まで送り届ける。
「なぁ、まだ時間……あるか?」
彼女は私の瞳をじっ見つめる。
何かを察したんだろうか。
「……はい、あります……」
セミの声は、もう聞こえなかった。
それから私達は落ちる陽を頼りに、彼女の家の近くの山に入る。
山といっても、頂上までは舗装された道があり、ソコには開けた公園がある。
やはり残念なのは曇り空だったことだ。
私はこの時、緊張のし過ぎで無言だった。
彼女も、無言。
互いの無言は、同じ行動でも、全く違う意味を持っていたように思えた。
歩いて5分、山の頂上に着くと私達は公園の奥、街が見下ろせるところまで歩く。
彼女は落下防止の手すりに掴まり、下の町を眺める。
彼女はソレをどんな気持ちで見ているのだろうか。
少しずつ電灯がついていく、私達の町。
地上の星のように見えるだろうか。
「……サーニャちゃん。あの、さ……大事な話があるんだ」
彼女は私の言葉でこちらを向く。
風になびく、肩まで伸びた髪、そして制服のスカート。
顔は、暗くてよく見えなかった。
言ってしまった。
もう、後には引けないから。
緊張で心が震える。
大事な瞬間なのに、気分も悪くなる。
頭がクラクラして吐きそうだ。
胸の奥がザワつく。
手は震えていたから無理やり、ぐっと握り締めた。
世の中のカップルは、こんな苦しい思いをしているのかと気付くと、恋って難しいんだな。
と当たり前のことを、当たり前のように考えていなかった自分を恥じた。
「私は……一目見た時から、キミのこと……サーニャちゃんのことが好きだった」
彼女は俯いている。
返事は無い。
私はこの日のために散々練習して、用意した言葉を忘れて、頭を真っ白にさせてしまっていた。
だけど思い浮かんだ言葉を、素直にがむしゃらに彼女に紡ぐ。
「喋るようになってから、もっと好きになった。そして今日も、昨日よりもっと好きになった。
私はキミと、サーニャちゃんともっと一緒にいたい。
だから、もし良かったら……そのっ! 私と、付き合ってくれないか」
そうして左手を差し出す。
今日初めて繋いだ、左手。
それはただの下心だった。
けれどこの左手は。
それよりも、もっと大事な意味を孕んでいた。
無言。
お互い、またしても無言。
そして彼女は痛いくらいの静寂を破る。
「嬉しいです。ありがとう、ございます。エイラさん……」
そういう彼女は、ちっとも嬉しそうじゃなかった。
その声と、雰囲気と。
何より、俯き加減で話す悲しそうな顔に、私は……。
―――私は。
嫌な予感がした。
いいや正確には。
それは現実となった。
「貴女を音楽室の外で見つけた時。
最初はただの嫌がらせだと思っていました。
もうお気づきかと思いますが、私……クラスでも浮いているんです。
いいえ、相手にされない、いるのかいないのか分からない、幽霊みたいな子だと。
だから、またからかわれているんだと。
そう思っていました。
けれど違った。
いつからか毎日聴きに来る貴女に、私は興味を持った。
貴女は顔を見せはしないけど、いつも来てくれた。
私の名前も顔も知らないのに。
そして私は気になった。
どうして私のピアノを聴きに来てくれるのか。
どんな人か知りたくなった。
私のピアノを、ずっと聴いてくれる貴女を。
だから声をかけた。それが、あの日です。
それからの毎日はとても楽しかった。
貴女とお話するのが、近くで聴いてくれているのが嬉しかった。
誰かが隣にいてくれたことなんてなかったから、とても、とても。
でも。
そんな楽しい思いをすると、私は怖くなった。
いつか、私の元を去ってしまうんじゃないか、愛想を尽かしてしまうんじゃないかって。
私は貴女みたいに上手く喋ることもできないし、友達もいない。
運動が出来るワケでも、明るく振舞うこともできない。
私、面白くないんです。何もできない、迷惑をかけてばかり。
だから、貴女はいつか私を嫌いになってしまいます。
だって、私といて楽しいという人は今までいなかったんですから。
それが、いつも一人の証拠なんです。
このまま一緒にいて楽しく過ごしていても、いつかは別れが来る。
それはとても寂しいんです。
いつか終わりが来るというのなら、そんな関係、私はイヤ。
ずっと一緒にいて。
そして、いつかいなくなってしまうのであれば。
いなくなって寂しくなる前に。
私は、離れていきたい。
そうすれば、あまり寂しくはありません。
それはやっぱり寂しいですが、長く一緒にいて離れられてしまうのは、もっと辛いし、悲しい。
それが私なんです。
私は貴女のことをずっと悩んで考えて、そして今日、答えが出ました。
貴女は私と一緒にいてはダメなんです。
貴女のことが、もっと気になってしまったら、私はダメになる。
貴女も、私がダメにしてしまう。
だから、私に関わるのは、もう止めて欲しいんです……」
彼女の抱いていた現実は、私の理想とは、もう既にかけ離れていた。
私は彼女の言葉に、何の反論も出来ず、ただ苦し紛れに話しかけることしかできなかった。
「そんな……だって、そうしたらサーニャちゃんはまた……」
「いいんです。私は一人でいるのが苦ではありませんから。
今まで一人でいたんです。これからも一人でいい……。私は、私だけでいいんです」
「ウソだ」
「ウソじゃ、ありません」
「私は見てたぞ。あの音楽室で寂しそうに一人でピアノを弾くキミを。
寂しくないと言いながら、じゃあどうしてあんな悲しい顔をしていたんだ。
寂しい以外に、何があるっていうんだ」
「……っ!」
彼女は答えない。
悲しそうに目を伏せる、その顔を見つめる。
たっぷり5分の時間を使うと彼女は顔をあげる。
悲しそうな微笑を浮かべた顔を。
「……そうです。その通りです。
人と一緒に。いいえ、貴女といるのが、こんなにも楽しいだなんて。
知らなければ良かった。
ごめんなさい、貴女とは付き合えません。
もう私に構うのは止めてください。
もう私を、ほうっておいてください。
今日のプラネタリウム。とっても楽しかったです。
ありがとうございました。一生、忘れません。……さようなら」
彼女はそこまで一気に捲くし立てると、一礼してから走り去っていった。
私は、声をかけることができなかった。
動くこともできず、ただ彼女の話を聞いてるだけの木偶の坊だった。
彼女の本心を聞くことすらできなかった。
うな垂れる。
暗くて足元がよく見えない。
瞬間、首筋に冷たいモノを感じてゾクリとする。
彼女にフラれて、雨に降られて。
乾いた笑いが口から漏れる。
彼女の考えていた現実を。
私の理想は何も気付いてやれなかった。
「ごめん……」
その言葉は、本格的に振り出した雨音に消されて、彼女には届かなかった。
◆
私は部屋についてから、声を押し殺して泣いた。
だって。
私は嬉しかったから。
同時に、悲しくもなった。
私が、もう少し貴女に近づけるような女の子なら。
どんなによかったことか。
どうして私は彼女の友達のように話せないのか。
どうして私は彼女の友達のように笑えないのか。
どうして、どうして、どうして。
何度も自問を繰り返すけど、答えは見つからなかった。
「助けて……」
その言葉は、顔を埋めた枕に消されて、彼女には届かなかった。
テテテテンッ デデデンッ! つづく
オワリナンダナ
読んでくれた人ありがとう。
前回、次回はエイリーヌですと言いましたが、百合は嘘つき。
次回は今度こそエイリーヌ、リクエスト頂いた智ビューです。
少し地の文続きになりますが、お付き合いください。
某まとめサイト様、並びに各所でコメントくださる方、いつもありがとうございます。
それでは、また。
ストパン3期アルマデ戦線ヲ維持シツツ別命アルマデ書キ続ケルンダナ
乙です
僕はニパイラも待ってます
智ビュー来るんですか!? やったー!
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| お疲れ様です |
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. / |/ ヽ `ヽ::/ 〃 \ \∧
/ /, / / ハ. /'′ /{ ヽ \ ' \
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| 乙ナンダナ |
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