女友『もしもし、東の吸血鬼?』男「どうした」 (100)
女友『今なにやってる感じ? てか暇かしら?』
男「暇じゃあ無いな。囲まれてる」
女友『は?』
男「そのままの意味だ。路地裏で十数人に囲まれてる、少なくとも」
「オラァ!」ブン!
男「よっと…友好的な感じじゃあ無いな」
女友『…また厄介事ね、はいはい』
男「またとは失礼な。確かにその通りなんだが…」
女友『アンタならなんとなるでしょ? じゃ、あとでかけ直すわ』
男「おい」ツーツー
西南地区 路地裏
「なにヨユーぶっこいてんだゴラァ!」
男「すまない。この状況で電話などしていてはお前たちに失礼だったな」ピッ
「そゆこと言ってんじゃねーっつの!」
男「……」
「テメーの噂は知ってるぜッ! あの有名な〝東の吸血鬼〟だってことはよぉ!?」
男「噂? さて何のことだろうか…」
「さっき電話でめっちゃ呼ばれてたじゃねーか!」
男「なんだ聞こえていたのか。耳が良いな」
「あったりまえよ! 俺の〝地獄耳体質〟は伊達じゃねーのよ!」
男「…地獄耳?」
「おうよ! 狙った人間が起こす音なら絶対に聞き取る体質だッ! テメーの心臓の音までバッチシ聞こえっぞ!?」
「この【街】ではこういった〝体質〟でのし上がろうとしてる奴らがいっぱい居る!
「なんせ神が認めた土地なんて呼ばれてる場所だぜ?」
「だったら最強の一番になりたいと願う奴らはたくさんいる! んだからよぉ!」ダダ!
男「む」
「おるぅあッ! ふっふ! アンタみたいな有名人をぶっ倒せばー……俺らも株があがるってもんよ!」
男「俺が有名人などと呼ばれるとは…照れるな」
「照れてるんじゃねえ!」
「…だがさっきから避けてばっかだなコイツ。本当にあの東の吸血鬼なのか?」
「知らね。つか、オレも言われてやってるだけだし」
男「…誰に命令されたんだ?」
「言うわけねーだろバーカ! 『南火女子校』のやつに言われたなんてなッ!」
男「ほう」
「お前が馬鹿かよ言うなよ! だから他校に馬鹿にされるんだぞ! 『西林男子校』の奴らは脳筋ばっかだって!」
「ふぇえ…だって…」
男「南火女子校…」
「う、うっせー! 忘れろ! 良いから忘れちまえ!」
「テメーらはやくやっちまうぞ! タコ殴りにしちまえ!」
「お、おうッ!」
男(急によくわからん展開だな。仕方ない、ここは一先ず逃走を)
「待ってください…」
男「…!」
「こ、この声は…っ?」
すた…
男「その制服、南火校の生徒…?」
「はい…そうです…どうもはじめまして東の吸血鬼…」
男「ああ、初めまして」
烏「私の名前は…烏と言います…南火校一年です…以後お見知りおきを…」ペコリ
男「これはこれはご丁寧に」ぺこり
「な、なにやってんすかボス! 俺らに任せるっていったじゃないっすか!」
男「ボス?」
烏「はい…こんな見窄らしい女ですみません…ですが、そのとおりです…」
男「すまないが、1つだけ確認させてくれないか」
烏「なんでしょうか…?」
男「俺の知る限りでは──『西林男子校』と『南火女子校』は仲が悪かったはずじゃあないか」
烏「ええ…ええ…そのとおりです…仲が悪いといいますか…繋がりが薄いと言ったほうが正しいかと…」
烏「しかしそれは表でのこと…こうやって裏で関係を結ぶことはたやすいんです…はい…」
男「なるほどな。しかし、それでは南火校と西林校の【王】が見逃すわけがない」
烏「王…? ははは…ああ、王ですか…面白いことを言うんですね…各四校に存在する【王】なんて…」
男「なんだ」
烏「そんなの意味がないでしょうに…そして意味をなくしたのは貴方…〝東の吸血鬼〟のせい…」
烏「今から四年前…『東風』『西林』『南火』『北山』に君臨していた四人の【王】を説き伏せ…」
烏「【四校戦争】と呼ばれた争いを…ただ一人でとめた…それが貴方…」
男「……」
烏「ですがその影響が今でも存在している…現在この街にいるほとんどが、平和ボケ、平和ボケ、平和ボケ」
烏「───平和ボケしまくってんスよォォォオオオオ!!!!!???」
(こ、こええ…)
(何度見てもなれねえ…あの豹変ぶり…)
烏「なんなんスかッッ!? もっと闘えよッ!? 殴り合えよッ!? 血をドバドバ流しあえよ阿呆がッ!!」
烏「体質っつー大したモン持ってるんスからッ!! なんでなんで争わないんスかッ!!? 腐れ脳みそ共がッ!」
烏「平和そうにプリン食ってねぇーでそのスプーンで人の目ん玉取り出す練習しとけっつーんだよッ!!」
烏「…ということなのでぇ? 貴方に生贄になってもらおうと思うんですぅ……はい…はい…」
男「意味がわからんぞ、色々と」
烏「簡単なことですよ…あなたが傷つき、重体となり、それを他校の【王】がやったと噂を流せばいいだけです…」
烏「そうすれば…貴方が四年前に四校に組ませた同盟…それを破棄する要因になる…」
男「だから生贄と。しかし俺が確実に〝東の吸血鬼〟だという確証がない限りは…」
烏「ありますよぉ…きちんと、私の〝体質〟がそういってますから…」
男「体質?」
烏「はい…はい…私の体質…〝観察体質〟にかかればどうってこともないですよぉ…ははは…」
キィイイイイイイイイイイイイン!
男「……」
烏「いいですねぇ…ほんっとイイ…なんなんですか…この状況で一切の焦りがない…」
烏「汗ひとつかかずに…脈拍も正常……ははは…マジサイコー…」
男「〝観察体質〟と言ったな」
烏「はい…はい…人は見た目だけで多くの情報を表してます…それを観察してデータ化し…把握することが出来る…」
烏「だから私は知ることが出来る…貴方の本質を…全てを…貴方以上に私は知っている…観察して、知っている」
烏「貴方がもし〝東の吸血鬼〟を語っていたとしても…嘘偽りかどうかなんて…赤子の首を捻るより簡単ですよぉ…」
男「おい、捻るな。死ぬだろ」
烏「ははは…そのとおりですね…」
「ぼ、ボス! それでどうすんすか!? やっちまうんすか!?」
烏「ええ…? あ、はい…お願いしたいんですけど…注意してくださいね…」
「大丈夫っすよ! コイツさっきから避けるばっかですし! 数で攻めれば問題無いっす!」
烏「あ、無理ですよきっと…今の貴方たちじゃきっと勝てません…数秒でやられます…」
「ええっ!?」
烏「マジで言ってますよぉ…これ、本気で勝てません…ですから私がサポートします…」
男「む」
烏「あ。今焦りましたね…? ははは…やっぱり勝つ気満々だったんですね…怖い怖い…」
男(実は逃げようと思ってたんだが…しかし、気になるな)
男「…その様子だと俺の〝体質〟も既知のようだが」
烏「観察体質ですよぉ? …ははは、なめないでください…」
烏「──東の吸血鬼。この【街】で一度だけ最強の〝体質〟と呼ばれた存在……」
烏「その〝LS体質〟も当然、対策済みですぅ」
男「…なるほどな。だから他校である『西林男子校』に協力を仰いだのか」
烏「私の南火女子校では貴方にはきっと勝てませんしね…勝率を考えるのも馬鹿らしいぐらいです…」
男「確かにな。良い判断だ、しかし…」
烏「ええ…ええ…ですが相手は最強の体質と呼ばれた存在…この状況であっても切り抜けられるのでしょう…」
烏「──なので〝観察〟します」
烏「最強とはいえ人間です…決して万能ではない…本人が気づかない隙がある…それを私が暴きだす…」
烏「あとはそれを──彼らに告げるだけ」
烏「……前方二人、両端から詰めて逃げ場を閉じろ。他の四人は隙間なく詰めて飛びかかれ」
烏「あと、殺さない程度に殴れ、蹴れ、引き裂け、血を流せェェェエエエエエエエエエエエエエ!!!!」
「おるぅううううああああああああああああ!!!!」
「やっちまぇええええ!!!!」
男「!」
烏(勝ちましたね、これ。後はもう彼がボコボコになるだけです…)
烏(彼が東の吸血鬼であっても決して逃れられない。この時、この場所を選んだ…私の観察体質の檻)
烏(【王】などという偽りの地位に現を抜かす人間とは違うのです…私は争いを好む、人が嘆き悲しむのが大好き)
烏「…貴方は必要など無いのですよ、吸血鬼」
「──そんなに悲しいことを言うな、カラス」
烏「……え?」
ドサドサドサ……!!
烏「なんっ……どう、いうことです……か…?」
「良い線は行っていた。ああ、これは本当に、俺も正直な所焦っていたよ」
烏「何をみてるのです…!! 早く次の攻撃を加えなさい…!!」
「うっ…うぉおおおおお!!!」
「し、しねええええええ!!!」
「だが悲しいな。その努力を踏み潰すようで申し訳ないが、これでは俺を──」ドサドサ…!
烏「なっ……」
男「──生贄にするなどとは到底…無理な話だ」
烏(向かっていった男どもがっ……全員、忽然と倒れて……!!?)
男「……。何をしている早く来い、後はお前だけだぞ」
烏「えっ? だってまだ他の男どもが…」
男「皆逃げたぞ。その男どもはな」
烏「っ……あの意気地なしどもがッ」
男「そう責めてやるな、状況を素早く判断するのは生き残れる最大の条件だろう」
男「なぁ〝観察体質〟?」
烏「…ッ」
男「さて、この状況はお前にどのような情報をもたらしているのか」
烏「…ま、まだまだッ…私は負けてない…!」
男「おっと、それはすまなかった。お前の体質がそういうのであれば、そうなのだろう」
烏(そうだッ…! 私にはまだ手がある…! しかし、だけどこの状況…!!)キョロキョロ
烏「ッ……どうして貴方は…この状況で体質を使えたのですかッ…!」
男「………」
烏「貴方の体質の〝LS体質〟はこの状況だと使えないはずですよぉ…!!?」
男「…本来ならな」
烏「では何故…!? そこだけが私にはわからない…!! この観察体質を使ったとしても…!!」
男「そうか。なら言ってやろう、実に簡単な話だよカラス」ずぃ
烏「っ…?」
男「例えばそう──男が喜ぶ為にはどうしたらいいだろうか」
男「好きなモノを買う。金を稼げる。趣味に没頭する。……女の子と知り合う」
男「特にこの〝女〟という部類。実に効率よく男を喜ばせることが出来る、よく出来た条件でな」
男「男ってものは安易に転びやすくなるものだ、〝心〟も……」
男「……〝地面〟もな」
烏「え……」キィイン!
烏「まさか…うそ……本気でそのようなことが出来るとでも…?」
男「………」
烏「あ、貴方は……己の体質を発動させるために……?」
男「人にはよく驚かれる。なにせ自分の心すら騙すのだから、器用すぎて気持ち悪いとまで言われたこともあるよ」
烏(ッ……見誤った…! 私は本質的な部分を観察しきれてなかった…ッ!!)
男「さて、南火のカラス───お前はどのような『イベント』を望む?」
烏「ッ……!!」
男「俺の体質は、俺ほどまで器用じゃあないのでな。下手すればお前を心を曝け出し──」
男「──いや、お前の裸体を曝け出してしまうのかもしれないからな」
烏「っ……この気持ち悪い腐った脳みそがッ! 近寄るなッ!! 菌が移る!!」
男「腐ったか。それも確かに合っている」
烏「よくもまぁ堂々としてられますねぇ!? あなた、相当なキチガイですよぉ!?」
男「それも合っているな」
烏「なんなんですかぁッ!? 貴方って自分に何も後悔というものが存在しないんですか!?」
男「……」
烏「気まぐれに四校戦争を閉じさせッ! この街で最強を名乗り!」
烏「──そして身勝手に姿を消し、何事もなかったように日常を過ごす貴方は!!」
烏「なんの躊躇いもなく全てを無に返したことにッ…何も思ってないんですかぁ!?」
男「…カラス、残念だがそれはあってはいない」
烏「なにをッ…」
男「後悔はしている。自分が実に馬鹿げたことをしたのだという、後悔はある」
烏「ハッ! 何を世迷い言をッ…東の吸血鬼の名が泣きますよぉ!?」
男「…そうだな」
烏「くっく…ですがねぇ! 東の吸血鬼! 私はまだ貴方を諦めていませんよ…!」キラン!
烏「どんなに時が経とうともッ…貴方が過去にしたことはずっと付き纏う!」
男「ああ、知っている」
烏「私は貴方が憎いッ! だから傷つけるッ! ……そのための準備もしている!!」
男「……」
烏「覚悟してくださいぃい……! 貴方は多くの人間を助けたかもしれませんがぁ!!」ババ!!
烏「少なくとも私は救われなかったのですからァ!!」シュ!
男「…」すっ…
男「あいたっ」コケッ
バシュ!
キィン!
烏「え……」
男「確かにその〝準備〟とやらは本質を突いている」
烏「……うそ」
男「この俺に対して、この〝LS体質〟に対して、効果的な対策だ」
烏「っっっっ……!!!」
男「だがな、それはもう乗り越えているんだよ」
男「ノーパンは無意味なんだ、カラス」パサリ…
烏「きゃあっ…きゃああああ!!! ヘンタイー!! 死ね死ね死ね死ね!!」ばばっ!
男「そこまで言うか。上下の制服を脱がしただけだというのに」
烏「なんてっ…なんてっ…こんなこんなこんなこんこんこん!!!」
男「しかし見事だった観察体質、俺の〝LS体質〟をここまで見破ったのはお前で…ああ、二人目だが」カチャ
烏「ひっ…東の吸血鬼ぃ……その体質ッ……!!」
男「うむ。この〝LS体質〟……お前のような女子生徒には効果的なものだよ」
烏「ううっ……なんてことですかッ……!!」
烏(あの男どもを〝不自然な形で転ばせ気絶させた〟のも)
烏(私の〝転ぶように見せかけて服を全て脱がした〟のも)
烏「すべてッ…その体質ってわけなのですかッ…!!」
男「…その通り俺の〝LS体質〟───」
男「〝ラッキースケベ体質〟のチカラだな」
男「俺が歩けば──パンツが見える」
男「俺がコケれば──服を脱がす」
男「俺が本気になれば──………」
男「お前は丸裸だ」
烏「っ……!!」
男「カラス。お前が何故ノーパンだったのか、それは言わなくてもわかるが」
男「確かに俺は『下着を見るために起こるイベント』に特化しているためだな」
男「…その逆をつけば、下着をつけてない奴には〝ラッキースケベ体質〟は発動できない」
男「その隙をつくつもりだった。違うか?」
烏「……っ…」
男「もう一度言おう見事だった。四年前に出会っていれば中々の敵だっただろう」すっ…
パサァ
烏「え…」
男「だが今は違う。お前と俺は敵じゃあない、そもそも敵なんて存在はしない」
烏(上着を上から掛けて…?)
男「…お前を傷つけてしまったのなら謝る。本当に済まなかった」ぽん
烏「……」なでなで
男「今は確かに…都合のいい街になってしまっているよ。だが、そんな街もいいじゃあないか」
男「──争いは無い方がいい。お前にもきっとそう思える日が来るはずだ」
烏「……………」
男「どうした?」
烏「……っ……!」バシン!
男「むっ!」
烏「気安く触るなゲス野郎ッ…! 男にもラッキースケベ起こせるヘンタイが…ッ!!」ばばっ!
男「何処へ行く?」
烏「うるさいですぅ! ばぁーか!!」すたたっー!
男「…半裸で帰るつもりか」
男(まあいい。南火校の生徒だ、どうにか切り抜けるだろう)
男「しかしなんだ…異様に疲れたな…」コキッ
男(久しぶりに変な体質の使い方をしたせいか…うむ…)
男(男にもラッキースケベ起こせる変態、か)
男「…だが何が可笑しいんだ。単純な話だろうに」
男(ただ男を異性と見る心構えをすれば良いだけの話だろう)
男「そうすれば勝手に相手が慣れないイベントを起こして自滅する、理にかなってるじゃあないか」
男「言うなればそれも──〝ラッキースケベ体質〟のチカラだ」
男「これの何が可笑しい──はっくしょん!!」
男「ズズズ…む? なんだ風邪でも引いてしまったか…?」
男(それはまずいな明後日には───)
男「──修学旅行が始まってしまうというのにな…」
~~~~
女友「…大丈夫かしらアイツ」ピッ
「どうしたの?」
女友「いやね、さっきあのバカに電話したんだけどさ…」
「うん」
女友「なんかまった厄介事に巻き込まれてるみたいなのよねぇ」
「あはは。彼らしいね」
女友「うん、笑い事じゃないんだけどね。女、ちゃんとわかってる?」
書き溜めここまでなんだ
これは
女友「アンタの体質って何なの?」男「…」
の続きです
書きます
女「わかってるよ。だけど彼なら大丈夫だよきっと」
女友「えらく信じてるわね…」
女「女友ちゃんだって信じてるくせに。だって彼は私の〝体質〟を…」
女「…救ってくれた人なんだからね、疑うことすらバカらしいよ」
女友「うぐっ…まぁ確かに…」
女「心配なの? じゃあ助けに行けばいいのに…貴女の体質なら力になると思うけど」
女友「い、いいのよ! 別に、あたしだってそこまで心配してないし!」
女「そっか。くすくす」
女友「…なんで笑うのよそこで…!」
女「ううん何でもない」
女友「っはぁ~…まぁいいわ。てか、アンタはもう準備終ったの?」
女「もう終わったよ。楽しみだね修学旅行」
女友「そうねっ! いやー流石に今年も無いんじゃないかなって焦ったわほんっと」
女「うん、そうだね──」
女(──今から二十年前……この土地で起こった大地震、3つの街を巻き込み崩壊させた最悪の災害)
女(しかしその災害で死傷者はゼロ──奇跡が起こったこの土地を人々は【黄泉市】と呼ぶようになった)
女(だけど奇跡はそこで終わらなかった。この土地に住んでいた──生まれた──人々に、)
女(〝体質〟と呼ばれる特殊なチカラが目覚め始める)
女(そして街の中に東西南北と中高混同の学校を設立し──中央に【黄泉市総合病院】が建てられた)
女(その〝体質〟を管理、そして育てるために作られた──この【街】に…私達は住んでいる)
女「私、修学旅行なんて初めてだよ」
女友「あたしも初めて。小学校も中学校も〝外〟が色々とうるさくって中止だし」
女「それはそうだろうね。だって体質なんて怖いだろうから…」
女友「怖がり過ぎなのよまったく。この街に住んでる奴らは皆、ただの病気だとしか思ってないわよ?」
女「価値観の違いだと思う。いくら隔離されてないと言っても…外の人達が来ること滅諦にないしね」
女友「まるで海外じゃない、ここ」
女「もしかしたら他の惑星だと思われてるかもね」
女友「あっはは。確かにそうかも、けど! 今回はちゃーんと外に出させてもらいますからね~っと」
女「けれど良く許可が降りたと思う…まぁ二泊三日だけれど」
女友「十分よそれで。あたし渋谷に行ってみたいのよ! あのスクランブル交差点? あれ行ってみたい~」
女「え? で、でも…行く先は京都だけだよ…?」
女友「えっ?」
女「……」
女友「嘘でしょ? 本気で言ってる?」
女「う、うん」
女友「……」ショボン
女「げ、元気だしてっ? 大丈夫だよ! 京都もきっと楽しいよ…?」
女友「いっぱい買い物しようと思ったのに…バイト、いっぱいしたのに…」
女(だめだ! 負のオーラが凄いことに…)
女友「ううっ……うぐぐっ……!」ぎりッ
女「ど、どうしたの? 女友ちゃん?」
女友「むっかぁあああああつく!! なんなのそれ!? うがぁーーー!!」
女「っ……!」びくぅ
女友「こ、このっ…この怒り…! どう収めてやろうかしら…ッ!? あぁあんッ!?」
女(しおり確認しなかった貴女が悪いんじゃ……って言ったらもっと怒るだろうなぁ)
女友「んぐぐッ…あ! そうだ! アイツで色々と鬱憤を晴らさせればいいじゃない!」
女「えっ?」
女友「そうよアイツよアイツ! 東の吸血鬼! 今回の修学旅行って『東風校』と『南火校』が一緒にでしょ?」
女「う、うん。2校同時で行って短期間で済ませる…のが狙いみたいだから」
女友「ウフフッ…そうじゃない、あれから色々と世話してあげてるし…今回でチャラってことにして…フフフッ…」
女(悪い顔だあー…)
女友「んじゃ決まり! じゃあさっそくまた連絡ね~」ピッピッ
女「一体何をする気なの…?」
女友「うん? 東の吸血鬼に連絡取って、二日目の自由時間を付き添わせるのよ」
女友「そして奢らせる! ランチもお土産も全て! 見てなさいよ吸血鬼ぃ~うふふ!」
女(本気の顔だ…それにしても凄いことを考えるなぁ女友ちゃん…)
女友「あ、東の吸血鬼? もうそっちは終わった? やるわねぇ、流石じゃない」
女(流石は彼女の体質──〝クズ体質〟ってところなのかな…?)
女友「何ですって? また相手の服を脱がしてしまった? サイッテー…死ねば?」
女「……楽しみだなぁ修学旅行」
女(一体なにが起こるんだろう。きっと、本当に楽しい時間を過ごせられるのかも知れない)
女(二泊三日の修学旅行──貴方はどう感じているのかな…?)
次の日 北地区 喫茶店
男「無理だな」
女友「はぁっ!? なによ無理って!」
男「確かに今回の修学旅行は──東風と南火が一緒に行われる」
女「どうして無理なの? 自由時間ぐらいは時間を合わせられると思うけど…」
男「…確かにな」くいっ
女友「あによ。もったいぶってないでハッキリ言いなさいよ」
男「東風も二日目は自由時間だ。此方も合わせられる、しかし──」
カランカラーン
男「──む、こっちだ友」
友「やあやあお待たせ。ごめんね遅れちゃって」
女友「遅いわよねアンタ」
友「あはは。ちょっと妹の様子を見に行ってんだ、お久しぶりだね二人共」ガタ…
女「うん、お久しぶり友くん」
女友「何時ぐらいぶりかしら? 二ヶ月ぐらい?」
男「あの『騒動』からは、それぐらい経っているな」
友「僕も会いに行こうとは思ってたんだけどねーあはは、男が行ってるみたいだから良いかなって」
女「…あの時はどうもありがとう」
男「まだ言うのかお前は、気にするなと言っただろうに」
女「うん、そうだけど。でも何時だって私は皆に感謝してるから…」
女友「感謝し過ぎなのよアンタは」
友「そうだよ。過ぎたことはもう戻らない、そして答えを見つけられたのなら尚更だ」
男「ああ、お前は──二ヶ月前と違って己の〝体質〟に脅かされていない」
男「そして救ったのは俺らでもなく、お前のチカラで乗り越えたんだ」
女「……うん、ありがとう皆」
女友「ほーらまた感謝してるじゃない。気にしないでいいから、ね?」
友「さて、どうも話が逸れた気がするね。それで? 一体何の話をしてたんだい?」
女「あ、うん。男君が時間を合わせられるのは無理だってことを言ってて」
友「なるほど、修学旅行の自由時間のことかぁ。うん、僕も無理だって思うよ」
女友「ど、どうしてよっ!? なんで無理なわけ!?」
男「一言で言えば──それは『風紀委員会』だ」
女「風紀委員会…?」
女友「なによ風紀委員会って…それがどーしてダメな理由になるワケ?」
友「あのね、東風の風紀委員会って言えば、僕らの学校では結構有名なんだ」
友「──〝絶対厳守の風紀〟を掲げた委員長を中心に」
友「総勢三十人の〝番犬〟を従えて、東風の風紀を忠実に守っているんだよ」
女「な、なんだか凄いね…」
友「それはもう凄いよ。あの風紀委員会に何組のカップルが破局されたのかなぁ」
男「聞いた限りだと百は下らんそうだ」
女友「ひゃくって…」
友「あはは。事実だろうねきっと、だから今回の修学旅行はかっこうの餌場なんだ──」
友「女子校との修学旅行。何かが起こってもおかしくない展開だろう?」
女友「あ、あんたの所の東風は共学じゃない! 別に西林みたいに男子校じゃないから…!」
友「関係ないさ。そう決めたという話はもう耳に入ってるし、絶対厳守の風紀が張られるはずさ」
女「でも二年生だけが修学旅行だから…人数も減るんじゃないのかな?」
友「良い所を突いたね。そう、例え三十人と居ようとも二年だけで絞られれば…」
友「なんとたった三人になる」
女友「…なによそれ、じゃあ平気じゃない。三人なら監視を掻い潜ってでも」
男「……」
友「だってさ男。どうするの?」
男「そうだな…ここからは俺から話そうか」
女「?」
男「その絞られた風紀委員…三人の中の一人。そいつが厄介でな」
女「厄介って…あなたが言うほどの?」
男「俺だからこそ言えるのだろうな。そいつは──元、俺の仲間だ」
女友「仲間って…アンタが〝東の吸血鬼〟を語ってた時のっ!?」
男「ああ、『四校戦争』を止めた際に他校の生徒含め数人の仲間が居たが」
男「その一人が今では、東風の風紀委員に所属している」
友「名は〝魔女の番犬〟だよ」
女「魔女…? 番犬…?」
男「風紀委員──その委員長を務める〝魔女〟に心頭しているんだ」
女「それで魔女の番犬…」
男「昔から頭の硬いやつでな。一度決めたことを頑固として曲げない、そしてあの〝体質〟だ」
女友「一体何の体質なワケ…? アンタが厄介って言うぐらいだけど…?」
男「それは〝努力体質〟──決めたことをやり通すまでやり切る、そんな体質だよ」
女友「………」
女「………」
友「微妙そうだね。けれど一度会ってみればわかるけれど、本当に厄介な体質だよ」
友「──だって男が一度も勝ったことがない相手だからね」
女「うそ」
女友「アンタ…勝てないの…?」
男「…ああ勝てないな。一応〝魔女の番犬〟の性別は男だが、対処のやり方は色々とある」
男「しかし俺の〝LS体質〟が効かないんだ。アイツには一切な」
女「……凄いんだねその人…」
女友「じゃあアンタ最強じゃないじゃん」
男「うぐッ」
友「あはははは。たしかにね、だから当時の男はすぐさまに番犬を仲間にしたんだよ」
女「敵になる前に囲う必要があったの?」
男「…当時の俺はそこまで考えてなかったな。ただ、脅威に感じたのは確かだ」
友「当時は気に入ったから、なんて言ってたけれど。まぁ僕も仲間にして正解だったと思うよ」
女友「…そんな奴が今は風紀委員に…でも、アンタが一言言えばどうにかなるんじゃないの?」
男「そこだな。今回俺が無理だという理由は」
男「〝努力体質〟──番犬、アイツはもう俺の仲間ではない」
男「むしろ俺のことを恨んで、敵視しているんだ」
女「……どうして?」
男「昔の話だ。俺が最強と名乗り、この【黄泉市】で一番となって──」
男「──後に俺がその座を捨てた時、アイツが見限ったのだ」
女友「…アンタが最強の座を捨てたのが理由ってこと?」
男「そうだな。アイツは何処か当時の……四年前の俺を神格化として見ていた」
男「その人間が落ちぶれ地に落ちたんだ。失望するのも分かる」
友「それは捉えようさ男。君は悪くないんだよ」
男「ああ、知っている。大丈夫だ」
友「そっか!」
女(友くん嬉しそう)
女友「ちょ、ちょっと待って。つまりはどういうこと?」
女友「アンタの元仲間が風紀委員で、その風紀委員がウザくて自由時間は一緒に行動できない」
女友「しかもその元仲間──番犬に、アンタは勝つことが出来ないってワケ?」
男「というか関わりたくないな」
友「右に同じ」
女「えらく嫌われてるね…あはは…」
女友「なっ…なによそれぇー…詰んじゃってるじゃないの…」
男「しかし、なぜそんなに行動したがるんだ?」
女友「うっさいっ」
男「む…なんだその言い草は」
女「まあまあ。ここで 言い争いしても仕方ないよ」
友「その通り。しかしだけど、これだけ条件が悪いと無理に同行するのはって思うけどなぁ」
女友「…そうね、んな面倒くさい連中に目をつけられるのも嫌だし」
男「……」
女「…どうしたの?」
男「む? いや…お前はどうなのかと思ってな」
女「どういうこと?」
男「その、なんだ、お前は俺たちと一緒に……う、うむ」
女「うん?」
男「い、いっ…一緒に自由時間を過ごしたいのかと思ってな…」
女「……」
男「それが少々気になっているのだが…ま、まぁ気にするな」
女「…うん、したいよ」
男「お、おおっ?」
女「私は貴方と一緒に修学旅行を楽しみたい」
友(わお)
女「だって最初で最後の修学旅行…大切な大切な時間なんだもの」
男「…そんな大切な時間を俺と一緒に?」
女「うん。居たい」
男「…………ソウカ」
女友「照れてるんじゃないわよ」
男「う、うるさいぞっ」
友「あはは。男もちょろくなったね~」
男「なにがちょろくなっただ! 俺はなにも言ってはいないぞ!」
友「そうだねー」
男「むぐぅう」
女友(ほら、もっと言ってやりなさい…揺れてるわよアイツ…)
女「え? どういうこと?」
男「し、しかしだな。いくら俺でも出来ないこともあるのだが…っ?」
友「いい機会じゃあないか男。これを期に乗り越えてみたら?」
男「…お前も巻き込むぞ」
友「君が望むなら本望さ。昔からそうだろうボクは?」
男(相変わらず扱い難い奴め)
女友「それで? どうすーんの? ……東の吸血鬼さん?」
男「…っ……」
女「……」じっ
男「っ……仕方ない、な」
友「ふふっ」
女友「おー! やったわよ女!」
女「わーい!」
男(一体どうなる…この修学旅行…)
修学旅行当日 黄泉市中央駅
男「…久しぶりに来た。外に行く機会など無いからな」
友「あるのは大人たち限定だしね。少なくとも学生の身分では難しいもの」
男「俺達の席は…ここか」
友「やった窓側だね!」
男「なにが嬉しい。これからずっと地下を通って行くんだぞ」
友「抜ければ外じゃないか。それを一番で見たいんだ、ふふっ」
男(そういうものか…)
友「あはは。久しぶりだなぁ外は~」
男「お前は途中からこの街に転校してきただろうに」
友「それでも嬉しくなるものさ。ここは僕が生まれた街じゃない──」
友「──それに〝体質〟だってボクは持ってないし、外が恋しくなるのは仕方ないよ」
男「…当時、数日でこの街に馴染んだ奴が言うセリフじゃあ無いな」
友「褒め言葉として受け取っておくね。あ、ジュース買ってこようか?」
男「いや、いい」
友「了解。じゃあ自動販売機で買ってくるから」すたたっ
男「……ふー」
クラスメイト「よー男ー」
男「ん、どうした?」
クラ「トランプしようぜっ? ババ抜きだ!」
男「…別にいいぞ」
クラ「よっしゃ! ほらお前らもやるぞ!」
「フフフ…拙者に挑むとはいい度胸ですなぁ…男殿…?」
「熱い…ここ熱いよ…」
「やべー! 保温体質の山田が制服燃えてる!」
男「先生を呼べ。近くにいるはずだ」
「ヌッ!? お待ちくだされ山田殿!? 拙者の〝発酵体質〟が反応して菌が…!?」
「ぎゃー!? お菓子が急にカビ生えたー!?」
「うぉおおおおお!? 〝敏感体質〟のやつが目を回してる!!」
「せんせぇー! 匂いがやばいっす! 換気換気!!」
男「よし、配り終わったぞ。だれから引く?」
クラ「俺からな。ほら山田も早く火を消せって!」
「し、仕方ありませんなっ…このままデュエルと行きましょうか……!!」
友「うわっ。どうしたのこれ? なんの騒ぎ?」
男「いつも通りだろう」
クラ「友友、お前もする? ババ抜き?」
友「あ、うん。したいけど皆ちょっと気をつけて…!」
クラ「どした?」
友「隣の車両に来てるんだよ…番犬たちがさっ」
「「「番犬…っ!!?」」」
男「本当か」
友「う、うん。見回りをしてるみたいで…ほら皆ちゃんとして! 初日から残念なことになっちゃうよ!」
「お、おおっ! とりあえず火を消せ! 換気は!?」
「終わってるよー! こっちは平気ー!」
男「…来るぞ」
ウィーン
「──ったくよぉ~めんどくせーんだよ一々見回りっつーの?」
すたすた
「確かに修学旅行だからってよぉ? いくら俺たち番犬が居るわけだからよぉ」
番犬「馬鹿騒ぎする面倒くせー奴らなんてわかねーだろ、なぁ?」
友「…きた」
男「無視しろ。トランプに集中だ」
クラ「あ、ババだ」
「フッフッフ…」
すたすた
番犬「…んあ? なにここ、変な匂いしない? 気のせい?」
クラ「……」
男「…ババじゃないな」
友「次はボクの番だね」すっ
番犬「………あ~? よく見れば、んん~? あ~?」
友(来たよ男…)
男(無視をしろ)
番犬「よくみれば、よく目をかっ開いて見れば? んん~……もしかして男っすか?」
男「次はお前だぞ」
クラ「お、おうっ」
番犬「……ッチ、無視かよ」
番犬「まぁーいいけどなぁ、カカ! 今回は俺が風紀員として努めさせてもらうからよぉ」
男「……」
番犬「昔見たいなぁ? 身勝手に動き回れると思うんじゃねーぞ…ゴラ?」
男「……」
番犬「ケッ…行くぞお前ら」
風紀「はいはーい」
すたすた… ウィーン
友「っはぁ~疲れた~」
クラ「相変わらず目の敵にされてんな~ホントなにがあったん風紀委員とよ」
男「知らん。勝手に突っかかってくるだけだ」
「ほほぅ。それはそれは…拙者気になりますぞ」
友「あはは。気にしたってしょうもないことだよ、はい、ボクは上がりね」パサ
クラ「なにぃ!? 速すぎね!?」
「なぬぅ!?」
男「俺も上がりだ」
クラ「ぎゃー!!」
「のほほほぉ!?」
最後尾付近 車両内
女「…………」キラキラキラ
女友「ズズ…アンタめちゃくちゃ輝いてるわね…」
女「電車だよ!? 電車! なにこれ凄いよ女友ちゃん!」
女友「あ、うん…だけど私乗ったことあるしそこまで…」
女「へぇーすごいなぁーこれって何かな? ストッパーみたいだけど、開いた!?」
女友「窓の鍵よ…」
女「ふぇ~!! そうなんだぁ~!!」キラキラ
女友(駄目だわ、もう何を言ってもこのままで居そう…)
女友「…そういえば東風の生徒は前方の列車なのかしら」
女友(列車を丸々借り切るなんて豪快ね、ほんっと。まぁそれぐらいしないといけないか)
女友「2校合わせて旅行だし…ん?」
ウィーン
女友(前方のドアから誰か…ウチのクラスじゃないわね…あれは…)
「ほら早く歩けよ」
「邪魔なのよ。とっとと運べば?」
「…ごめんなさいねぇ…ちょっと足が悪いのよぉ…」
「言い訳言ってんじゃねーよ」
「いいからさー? 歩いてくんない?」
女友「…あれは…黒猫じゃない」
黒猫「……」すた…すたすた…
女友(そういえば黒猫のクラスは最後尾…だったかしら)
黒猫「……」ずり…ずり…
女友(──てか、それにしても酷い有様ね)
黒猫「……」ガチャガチャ…
女友(あの黒猫がもつ沢山の荷物はジュースかしら? 一体何本分なのよアレ)
「ちんたら歩くなって言ってんじゃん、聞こえてないの?」
「んだからよー退けよもう! オラ!」ぐいっ
黒猫「っ……」ドシャ
ガラガラ…コロコロ…
「あー! 落としたー! もうそれ私いらなーい!」
「きたねぇな。新しいの買ってこいよ」
黒猫「……」
女友(おー怖…ってあの黒猫をいびってる連中って、元黒猫組じゃない)
黒猫「……」ひょい…ひょい…
女友(噂本当だったのね。あの一件以来…女の体質をめぐって起こった騒動)
女友(その主犯だった黒猫が、更に南火の王に負けて…その立場を失墜した)
女友「…不幸ねほんっと。まぁ仕方ないと思うけど。本でも読んで無視しとこ」
黒猫「……」すたすた…
女友「……」
黒猫「…あらぁ?」くるっ
女友「……」
黒猫「これはこれは…ウフフ…もしかしてもしかしなくてもぉ、女友さぁん?」
女友「……」
黒猫「お久しぶりねぇ…私ってばここ最近、授業に出てなかったからしょうがないのだけれどもぉ」
女友「……」
黒猫「まぁ、まぁ、そんな話は置いといてね。ふふふ、今日はなんて言ったって修学旅行よぉ?」
黒猫「私ってば楽しみで楽しみでしょうがなかったのよ…うふふ、だって幸せじゃない? 旅行って?」
黒猫「そんな一大イベントに出れるなんて…本当に私って幸せよねぇ~」
女友「……」ペラ
黒猫「ふふっ、それじゃあ何時か機会があればまた。ではでは~」
すた…すたすた…
女友「……」
女「ふぁー!! ……あ、あれ? 女友ちゃん…?」
女友「ん? どうしたの?」
女「気のせいだったらいいんだけど…何処か車両内が静かじゃない?」
女友「…気のせいよ、うん」
女「ほんと…? そっか、気のせいなのかな…」
女友(周りも手出ししにくいでしょうしね。あれだけ悪い噂流れた黒猫相手に…)
女友「…因果応報よ、気にしない気にしない」ペラリ
女「? あ、女友ちゃん! もうすぐ外に出るって!」
女友「え? 本当に?」
女「うん! あそこに表示が出てるから──」
ガタン…ガタン…
女「……わぁああ!」
女友「おおー!」
~~~
男「そろそろだな」
友「だね、外だよ皆!」
クラ「マジかよ…オレ初めてだよ…びっくりしちゃうよ…」
「拙者も初めてですぞぉー!!」
「きゃー! めっちゃ楽しみぃー!」
「ドキドキしてるよ! やっばいどうしよ!」
男(外の世界……それは師匠、あなたが見た世界なのでしょうか)
友「来るよっ」
ガタン!
「「「「「ぉおおおおお~~~~!!」」」」」
数時間後 宿泊ホテル
男「…疲れたな」
友「ん、後数分で晩ご飯みたいだね」
男「いまさらの話だが、どうしてお前と同じ部屋なんだ?」
友「うん? あはは」
男「聞かないでおこう」
友「良い判断だ男。さてさて、今日は騒ぎ疲れたね~」
男「皆、外は初めてだろうからな」
友「電車から降りてバスで移動中も凄かったよね。マックがある! やべー! ってさ」
男「そうだな。黄泉市にもできればいいものの」
友「どうなんだろうねぇーあ! そういえば男!」
男「どうした?」
友「あの件だけのことだけど…覚悟は決まったの?」
男「……」
友「その顔は決めてないな? 駄目だよ、君が言ったんじゃないか…今日で覚悟を決めておくって」
男「…番犬のことか」
友「そうとも。昨日はあれから喫茶店で話し合っただろう?」
男「うむ…しかしだな」
友「じゃなきゃ女さんと一緒に過ごせないよ」
男「…嫌な脅し方をするな」
友「そう? そう思うのならごめんね、あはは」
男「…。俺がすることは唯一つだったな」
友「うん、君がすることはひとつだけ───」
「──〝LS体質〟で騒動を起こすんだ」
男「……」
友「それも東風と南火が集う一瞬にだよ。そして、生徒たちをごちゃまぜにする」
男「…だが大丈夫か、問題になった場合は俺は…」
友「それは僕が保証しよう。今回は外で修学旅行だ、教師を含め多くの人間が警戒にあたっている」
友「いくら何十人も居る生徒でも、本気を出した教師たちには敵わないんじゃないかな?」
友「まぁここに【王】が居た場合は…どうなるかわからないけれどね」
男「南火の王は三年。そして東風も…今は不在だ」
友「そうだね。だから騒動が肥大する可能性は低い、それに起こす場所も考えているよ」
男「………」
友「大丈夫さ。君が考えるほどのことは…きっと起こらないはずだ」
男「俺は…」
友「男。君は確かにその体質を使って…四年前は苦しめられた、そして後悔している」
友「だけど乗り越えたんだろう? 女さんの一件と同じく、君も変わったはずなんだ」
男「…ああ、そう思っている」
友「ならコレも乗り越えるんだよ。何時までも過去に拘るのは良くないはずだから」
男「……ああ、わかった。がんばろう、自分の為に」
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