勇者「ま、魔王城の調査ですか?」(297)
国王「うむ。魔王城の詳細な情報が知りたいのだ」
勇者「詳細なとおっしゃられましても……公表されている通りですよ?」
勇者「和平による軍縮でその数は3分の1になり」
勇者「研究施設なども大半が解体されました」
国王「実際にその通りなのか?」
勇者「……もちろんです」
勇者「天界も魔界も条約を守っています」
国王「ふむ……しかし数が減っただけでその力は大差なし、ということも考えられる」
勇者「……」
勇者「よろしければご自分の目で確かめられますか?」
勇者「魔界格闘大会に招待しますよ」
国王「ま……魔界格闘大会とな?」
勇者「はい。魔王城隣のコロシアムで年に一度大会が開かれるのです」
勇者「そこに私も参加しておりますので」
勇者「観客として観に来てはいかがでしょう」
勇者「チケットは王女に渡してありますが、もう一枚残っています」
勇者「どうぞ。 これを使って王女と一緒に……」
兵士A「勇者様ー!」
国王「なんだ騒々しい」
国王「勇者との対談中であるぞ」
兵士A「はっ!申し訳ございません! ですが場内に魔物が出たのです!」
勇者「!!」
勇者「……行ってきます」
国王「すまぬ、頼んだぞ」
―調理場―
勇者「魔物はどこに?」
コック「ゆ、勇者様!」
コック「あそこです!」
ネズミ「チチチ……!」
勇者「んん?」
勇者「え、あれが魔物ですか?」
コック「は、はい!」
勇者「ただのネズミじゃ……」
コック「よく見てください! 牙が生えてるし全身筋肉質です!」
勇者「……わかりました」
サクッ
ネズミ「ギニャッ!」
コック「おお、一発で串刺しに……」
勇者「……」
ヒョイッ
勇者「普通のネズミに外付けで毒牙をつけてますね」
コック「えぇ!?」
勇者「筋肉が膨張してるのもなにか薬を飲まされたんでしょう」
コック「一体誰がそんなことを……」
勇者「まあこんな嫌がらせをする連中はいつでもいますよ」
勇者「それよりここの火を借りていいですか?」
コック「えっ?」
勇者「無駄な殺しにならないように食べようかと思って」
コック「そ、そのネズミを食べるのですか?」
勇者「はい」
コック「毒が入っているのでは?」
勇者「何度か口に入れたことのある種類なんで大丈夫ですよ」
勇者「……あ、その前に王様に報告しておかないと」
コック「国王様はこの後ずっと予定が入っていますよ」
勇者「そうですか……弱ったな」
兵長「勇者なら割り込んで謁見できるんじゃないか?」
勇者「あ、兵長さん」
勇者「……いえ、公務のジャマをするわけにはいきません」
兵長「ではオレが言付けしておこうか?」
勇者「いいんですか?」
勇者「じゃあ今のネズミの件と……」
勇者「魔王城へと出発するのは前日でいいとお伝え下さい」
数日後
魔界格闘大会前日
王女「ばかものー!」
王女「勇者の馬鹿者ー!」
勇者「ご、ごめん」
王女「父上からチケットを取り上げられたぞ!」
王女「護衛に使わせるなどと言われた!」
王女「王族二人だけで出かけられるわけ無いだろうが!」
勇者「うん、ちょっと考えが足らなかったよ」
勇者「今の魔王城は安全な場所なんだけどな」
勇者「とりあえず行ってみようか」
王女「うむ?」
勇者「今からでもB席なら買えるかもしれないし」
勇者「もし王様に追いついたらS席チケットを返してもらおう」
王女「ほう? 説得できるのか?」
勇者「頑張ってみるよ」
勇者「王女、荷物の用意はできてる?」
王女「うむ! 楽しみだったからな!」
王女「3日前からばっちりだ!」
勇者「よし、じゃあ出発しよう」
このSSは
勇者「魔法都市の調査ですか」
勇者「魔法都市の調査ですか」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/14562/1370887554/)
の続き物ですがここだけを読んでも楽しめるように頑張ります
―魔界―
王女「ふむ、二回目の到着だな」
勇者「そうだね」
王女「……うぷ」
勇者「また酔った? 少し休憩してからにしようか」
王女「いや、大丈夫だ」
王女「それで……魔王城にはどうやって行くのだ?」
勇者「この時期は、いたるところに簡易ゲートが貼ってあって」
勇者「魔界中から魔王城に直接行くことができるんだ」
王女「ほぉー……」
勇者「え、ゲートが故障?」
魔界門兵「ああ、ついさっきな」
魔界門兵「どうも今年は人数が多すぎたらしい」
魔界門兵「しばらく復旧できそうにない、他をあたってくれ」
勇者「王様は先に行ってしまったみたいだね……」
王女「ど、どうするのだ!」
王女「出場者の勇者が行けなかったら大問題なのではないか!?」
勇者「大丈夫大丈夫、まだ時間はあるよ」
―駅―
王女「こ、ここは?」
勇者「バイコーン車の駅だね」
オーク「繰り返し連絡します」
オーク「魔王城臨時直通車は正午より発進いたします」
オーク「もうしばらくお待ち下さい、ブヒ」
勇者「やっぱり出てた」
王女「おお、これに乗っていけば着くのだな!」
王女「もしかして、あの運転手はオークか?」
勇者「ん? そうだね」
王女「初めて見たがなんというか……痩せこけておるな」
勇者「ああ、それは……」
勇者「たぶんストレスだね」
オーク「今のうちに水分補給しておくブヒ……」
オーク「ほれ、お前たちも飲んでおくブヒ」
バイコーンA「ソノ水 サッキ 虫ガ入ッテイタ キタナイ」
バイコーンB「キタナイ トリカエロ」
オーク「わ、わかったブヒよ」
勇者「ユニコーンが心の綺麗な女性しか背中に乗せないというのは聞いたことあるかい?」
王女「うむ、本で読んだことがあるぞ」
勇者「それは女の人を守るためだったりするんだけど」
勇者「バイコーンはその逆でね」
勇者「心の綺麗な男性だけを乗せるんだ」
勇者「理由も逆で……」
オーク「バイコーンは人の心を汚す生き物」
オーク「というのは誤解ブヒ」
勇者「!」
バイコーンA「ヌルイガ シカタナイ」
バイコーンB「シカナタイ コレデ 我慢スルカ」
オーク「文句は多いのは仕事にこだわりを持っているから」
オーク「自分たちがしっかりと働くから周りにも高レベルを求めるんだブヒ」
オーク「だから本音で向きあえばわかってくれる、それがバイコーンという種族ブヒ」
王女「立派だな!」
バイコーンA「クサイ セリフ 言ウナブタ」
バイコーンB「マズハ テメーノ体臭ヲ ドウニカシロブタ」
オーク「あれも照れ隠しブヒ。 多分……」
王女「そ、そうか……大変そうな仕事だな……」
オーク「そろそろ時間ブヒ」
オーク「フゴフゴ……間もなく魔王城直通車が発進します」
オーク「お乗りの方はお急ぎください……ブヒ」
王女「よし! 乗り込むぞ!」
勇者「うん!」
王女「おぉー! 中も広いな!」
勇者「50人ぐらいは乗れるからね」
ゾロゾロ…
王女「お、他の客も入ってきたな」
魔族A「あれ、貴方もしかして勇者さんですか?」
勇者「ああはい、そうですけど」
魔族A「私ファンなんです! 毎年応援してます!」
勇者「本当ですか? ありがとうございます」
魔族B「お、あんたが勇者か?」
魔族B「今年もやられちまえ!」
勇者「あはは、そう簡単にはやられませんよ」
魔族C「……あなたの試合、見てて面白い」
魔族C「特にやられるときが」
勇者「えーと……今年も精一杯頑張ります」
王女「勇者はここでも人気者だな!」
勇者「微妙に変な期待もされてるけどね……」
オーク「それでは出発するブヒ」
大魔導士「ま、待っとくれー!」
オーク「ブヒ?」
魔女「なんとか間に合ったね、師匠」
大魔導士「お前がチケットを無くすからだろう!」
魔女「ふふふ」
勇者「あ、魔女さん」
魔女「おや、勇者くんに王女ちゃん。奇遇だね」
王女「おお。 お前も魔闘会とやらの出場者だったのか?」
魔女「まさか。私は付き添いだよ」
魔女「この人が魔闘会出場者の大魔導士だよ」
大魔導士「弟子がいつもお世話になっておるそうで」
勇者「いえそんな、こちらこそ魔女さんにはお世話に……」
勇者「お世話に……」
大魔導士「いつも苦労をかけて申し訳ない」
オーク「では発車いたします。移動中は席を立たないようお願いします、ブヒ」
ガタッギギー…
勇者「チケットをなくしていたんですか?」
大魔導士「そう。この馬鹿が貴重なAカードをね」
魔女「ふふふ」
大魔導士「それで多額の金を払ってこの街の人に売ってもらったわけです」
魔女「これがAカードだよ。A席のチケットだ」
王女「ほぉー……」
魔女「そしてこっちが無くしていた方のAカードだ」
大魔導士「は?」
魔女「師匠。今見つかったよ」
大魔導士「……」
王女「な、ならばそれを売ってくれないか?」
魔女「おや?王女ちゃんはSカードをもってるじゃないか」
大魔導士「Sカードを? シード選手の知り合いなのかな?」
勇者「今年は第7シードをもらいました」
大魔導士「ほぉー! 流石ですな!」
王女「それがちょっとした手違いで取りあげられてしまってな」
王女「わたしは何も持ってない状態なのだ」
魔女「そうなんだ。じゃああげるよ」
王女「む?」
大魔導士「儂の金で買ったんだが……」
魔女「またこんど返すよ、師匠」
王女「いいのか?」
魔女「この間の調査のお礼だよ」
王女「ええと……勇者」
勇者「うん。もらっておきなよ」
王女「うむ! ありがとう!」
王女「……む? 景色が横に伸びておる?」
大魔導士「やはりバイ車はいいですな」
魔女「外を見ると目が回るね」
王女「こ、これは……」
王女「単純に速いのか!」
勇者「そう。これがバイコーンが重宝される理由だよ」
勇者「とにかく引っ張る力が強いんだ。 それにスピードもある」
勇者「さらにうまく扱えばスピードが出てることに気づかないほど丁寧に加速してくれる」
勇者「……俺にはできなかったけどね」
王女「なんだ? 門がいくつも……」
勇者「このあたりは巨大迷路だね」
勇者「門が全て閉まってるとものすごい迷宮になるんだ」
王女「ほぉー……確かに門の数もすごいな」
勇者「この時期以外はアトラクションになっていて」
勇者「素早くゴールできると賞金が出るんだよ」
魔女「ふふふ、今度行ってみようか」
勇者「あ、見えない天井があるから空は飛べませんよ?」
魔女「やめておこうか」
魔女「おや、晴れてきたね」
王女「なんだ? 畑がいくつも……」
勇者「このあたりには模造太陽があって」
勇者「地上と同じような作物が育つんだ」
大魔導士「た、太陽を作った?」
勇者「最近作られた魔法で……」
勇者「光と熱を出すだけで本物には程遠いんですけど」
勇者「闇魔法と火炎魔法を応用した革新的なものだと本人は言っていたらしいです」
王女「?? 随分とくどい言い回しをするな」
―駅・魔王城前―
オーク「魔王城〜魔王城〜終点です……ブヒ」
王女「あれが魔王城……わたしの城の倍はあるな」
勇者「地下にも同じぐらいのスペースがあるよ」
勇者「まあ今日用があるのは隣のコロシアムだけどね」
王女「……!」
王女「お、おい! 後ろにもう一つ魔王城があるぞ!?」
勇者「あっちはダミーで……昔はトラップがたくさんあったんだ」
勇者「今は綺麗さっぱりなくなって住みやすい宿になってるよ」
魔女「なるほど。あそこに泊まればいいんだね」
―宿・ホテル魔王城―
リザードマン受付「ご予約の勇者様と大魔導士様ですね」
リザードマン受付「鍵をどうぞ。4日後の朝までにお返しください」
王女「4日後?」
勇者「じゃあ簡単に日程を説明するね」
勇者「今日は出場者の受付」
勇者「明日は1回戦、明後日は2回戦と3回戦」
勇者「明々後日は準決勝と決勝があるよ」
国王「……来ておったのか」
王女「父上!」
国王「勇者、どういうことだ?説明してもらおうか」
勇者「このあたりは魔界の中で最も安全な場所」
勇者「王女に危険はありません」
国王「しかし……」
勇者「それに王女を連れて行くと約束してしまったのです」
王女「う、うむ! だからわたしは帰らぬぞ!」
国王「……仕方あるまい」
王女「!! ほんとですか父上!」
王女「よかった……」
勇者「ありがとうございます」
兵長「おお、勇者か」
兵長「魔皇女というものが探していたぞ」
勇者「魔皇女ちゃんが?」
魔女「たしか魔王の娘さんだったね」
勇者「じゃあ本物の魔王城の方へ行ってみようか」
王女「うむ!」
国王「魔王城へ?」
王女「では父上! 行ってくる!」
兵長「ああちょっと待……まあいいか」
― 魔王城 ―
王女「ここが……魔王城……」
ナーガ門兵「おいおい、ここから先は立ち入り禁止……」
勇者「こんにちは」
ナーガ門兵「て、勇者か」
ナーガ門兵「魔皇女様が上でお待ちだ。急いで行ってやれ」
勇者「分かりました」
王女「4階なのにこの広さ……すごいな……」
勇者「この部屋だよ。一応服を整え……」
勇者「まあ王女も知り合いだし大丈夫か」
コンコン
「どうぞ」
ガチャ
魔皇女「あら、勇者? わざわざ挨拶に来ましたの?」
勇者「あれ? 話があるっていうから来たんだけど」
魔皇女「別に呼んだ覚えはありませんが」
魔皇女「……おおかた部下が勘違いしたのでしょうね」
王女「ふむ、よくあることだな」
魔皇女「あらまぁ! ようこそいらっしゃいましたわ!」
トントン
ラミアメイド「お呼びですか?」
魔皇女「お茶をお願いしますわ」
ラミアメイド「かしこまりました」
魔皇女「さて、それでは何をお話しましょうか」
勇者「えっと……用がないならコロシアムのほうを周ろうと……」
魔皇女「あら、用なら今さっき作ったでしょう?」
王女「ふーむ……話か……」
王女「そうだ、わたしは魔闘会の話が聞きたい。 何も知らんのだ」
魔皇女「そうですか。では、ご説明しますわ!」
魔皇女「魔界格闘大会とは! 戦う機会そのもの!」
魔皇女「人間や天界人が出入りできるよう、魔界に法を整えた時」
魔皇女「魔族の窮屈さを解消するために作られた大会です」
魔皇女「その規模は年々大きくなっていて」
魔皇女「いまや三界で一番の行事といっても差し支えありませんわ!」
王女「ほぉー……」
魔皇女「ルールはとても簡単」
魔皇女「相手を戦闘不能にするか、場外に押し出せば勝ちですわ」
魔皇女「それと泥仕合にならないよう降参のルールもあります」
王女「ふむふむ、至って普通なのだな」
魔皇女「武具の使用は禁止、魔法はすべてアリです」
王女「うむ? それだと魔法を使う者の方が有利なのではないか?」
魔皇女「どうでしょうか」
魔皇女「"走って殴る"より出が早く威力のある魔法はなかなかありませんわ」
ラミアメイド「お茶が入りました」
勇者「……」
ラミアメイド「大丈夫、毒は入れていませんよ」
勇者「……いただきます」
王女「どれどれ」
王女「にが……う、うまいな!」
ラミアメイド「……よろしければ結晶糖もどうぞ」
王女「い、いただこう」
王女「甘っ! なんだこれは!!」
魔皇女「ある魔法で超圧縮した甘みの塊ですわ」
魔皇女「お茶のクセを足し算で消し去る極端な調味料です」
王女「もはや別の飲み物だな……」
魔皇女「さて、魔闘会については説明したとおりですわ」
魔皇女「次はあなたの話をお聞かせください」
王女「わたしの? 特に面白い話はないぞ?」
魔皇女「そうですわね……勇者と出会うまでの話が聞きたいですわ」
――
――――
王女「――というわけで、父上はついに折れて勇者の冒険に連れて行ってくれたのだ」
魔皇女「ご理解のある父親で羨ましいですわ」
魔皇女「わたくしのお父様なんかこの間も……」
勇者「あのさ、そろそろ向こうに」
魔皇女「相変わらず堪え性がありませんわねぇ。乙女の話を折るものではありませんわ」
勇者「えっと……」
魔皇女「分かってます。友人に会いに行くのでしょう? もういいですわよ」
魔皇女「王女さま、またいらしてくださいね」
王女「うむ!」
魔皇女「では勇者」
魔皇女「魔王城で……ああいえ、コロシアムで会いましょう」
勇者「……」
勇者「それを勘違いされたんじゃないの?」
魔皇女「……ふう」
ラミアメイド「なぜ呼んでないなどと嘘をついたのです?」
魔皇女「偶然にできた場だと思わせないと」
魔皇女「お互いに畏まってしまいますわ」
魔皇女「……昔を思い出して、ね」
―コロシアム―
ザワザワ ガヤガヤ
ザワザワ
王女「おおう……! 凄まじい人数……そして魔物も多いな」
勇者「去年はここまでじゃなかった……年々増えていってるね」
「チケット泥棒だぁー!」
勇者「ん?」
王女「む、なんだ?」
ダダダッ
赤鬼「へへへッ! 人混みに紛れてしまえばこっちのもんだ!」
王女「こっちに来るぞ!」
王女「ゆ、勇者! いけるか!?」
勇者「任せっ……て大丈夫そうだ」
王女「うむ?」
ガッ
赤鬼「な、なんだッ!? 体が動かねえ!」
グググッ
赤鬼「く、くそっ! なんの魔法だ!?」
「馬鹿め……」
赤鬼「っ誰だ! どこにいやがる!」
「魔闘会を荒らす奴は許さん……」
赤鬼「なっ……!? オレの影から何か……」
ボガッ!
赤鬼「がはっ……」
ドサッ…
影の騎士「……なーんてな」
影の騎士「よーし、大騒ぎになる前に鎮められた」
王女「な、なにが起こったんだ?」
勇者「殴ったね。 単純に」
影の騎士「げっ! 勇者!?」
勇者「こんちには。 お見事でしたよ」
影の騎士「……べ、別に人助けとかしてたわけじゃねーし!」
勇者「はい?」
影の騎士「合法的に殴る相手が欲しかっただけだし!」
影の騎士「だからチケットはお前が返してやれ! 面倒事は任せた!」
影の騎士「俺の代わりに感謝とかされちまえ! ばーか!」
スーッ
王女「き、消えた……」
勇者「あの人はシャイなところあるからね」
王女「このチケットの持ち主を探さねばな」
ゴゴゴ…
王女「む?」
三つ首の犬「あ!僕のチケット! 取り返してくれたんですね!」
王女「で、でかい……」
勇者「どうぞ。 取り返したのは影の騎士さんですけど」
三つ首の犬「ありがとうございます!」
三つ首の犬「これで弟の試合を見ることができるぞー!」
王女「うーむ……あの者なら自力で取り返せそうなものだが」
勇者「せっかくのお祭りだからね。みんな騒ぎにしたくないんだよ」
白仮面「騒ぎを起こしたくない」
白仮面「それはまさに平和への願い」
白仮面「魔族なりの秩序ができてきたということ」
王女「!! こ、今度は誰だ?」
勇者「……どこかでお会いしましたか?」
白仮面「馴れ合うつもりはない」
白仮面「私とお前は今、敵同士だからな」
勇者「えーと、出場者の方ですか?」
白仮面「私が優勝すればお前の"勇者"の称号を消す」
勇者「!?」
白仮面「それだけ言いにきた。ではさらばだ」
ドナナイ「勇者、今のは知り合いか?」
勇者「あ、ナノルナ・ドナナイさん」
王女「うむ? 名乗るな……?」
ドナナイ「ああ、その言い方で合ってる」
ドナナイ「俺は人助けが趣味でな」
ドナナイ「お礼を言われるとき、いちいち自慢することもないと思い」
ドナナイ「"名乗る名などない"とかっこつけていたら……」
ドナナイ「こんな名前で定着してしまったんだよちくしょう!!」
ドナナイ「まあそれは置いといて」
ドナナイ「あの白仮面というやつを知っているか?」
勇者「初対面……だと思います」
ドナナイ「そうか……一回戦で当たるから情報が欲しかったが仕方ない」
勇者「えっ? トーナメント表、もう出てるんですか?」
ドナナイ「今持ってるぞ? ほら」
王女「わ、わたしにも見せてくれ!」
Aブロック
┌─1 魔王
┌┤
||┌ けるぴー☆
|└┤
| └ 剣聖(200)
┤
| ┌ オルクトロスパス
|┌┤
||└ グリゴリラ
└┤
|┌ 銀髪魔族
└┤
└5 邪龍孤児院長
Bブロック
┌7 勇者
┌┤
|└ 大魔導士
┌┤
||┌ ヘルーンディーネ
|└┤
| └ 百目百眼帯
┤
| ┌ 武術の神と呼ばれたぃ男
|┌┤
||└ ギガンテス書記長
└┤
└─3 ケンタウロス将軍
Cブロック
┌─4 魔導骸骨郵便局長
┌┤
||┌ からくり下駄電話
|└┤
| └ 剣邪(300)
┤
| ┌ 白仮面
|┌┤
||└ ナノルナ・ドナナイ
└┤
|┌ エルフの徒手空拳士
└┤
└6 影の騎士
Dブロック
┌8 ヘルシルフ
┌┤
|└ デュラハンおばあちゃん
┌┤
||┌ 悪魔祓い祓い
|└┤
| └ レッサールシファー
┤
| ┌ 砂虫使い
|┌┤
||└ サイクロプス支配人
└┤
└─2 魔皇女
勇者「おっ。 いきなり大魔導士さんと当たった」
王女「ほう! 楽しみだな」
ドナナイ「そいつ初出場だろ? お前知り合い多いなあ」
勇者「ちょうど来るときに知り合ったんです」
ドナナイ「ふーん……」
ドナナイ「まあお前がノーシード相手に負けることは無いだろ」
ドナナイ「俺はお前と別ブロックだから」
ドナナイ「決勝で会おうなんて気軽には言えないけど……」
ドナナイ「諦めてるわけでもないぜ。 お前との試合」
勇者「はい、楽しみにしてます!」
王女「ほぉ……ここが大会で使うリングか」
王女「すごく広いな……」
勇者「体が大きい人も多いからね」
実況「お? 勇者か?」
王女「お、おおう!」
王女「顔が3つに腕が4つ!」
実況「ハハハ、久々の反応だな」
勇者「あれ? 阿修羅さん。その格好は……」
実況「ああ。 今年は俺が実況することになった」
勇者「ということは……」
実況「ああそうだよ! 地区大会で負けたんだ!」
実況「あんな犬タコやろうに……くそッ!」
勇者「やっぱり魔界中心部は激戦区ですね」
実況「それで勇者、もしかして受付に来たのか?」
勇者「……? はい、そうですけど……」
実況「シード選手は別に必要ないぞ? 去年も言われてなかったか?」
勇者「あっ。そうでした」
王女「つまり勇者は去年からシード選手?だったのか」
勇者「そうだよ……ん?」
ヘルシルフ「阿修羅のおっちゃーん! 受付に来たよー!」
ヘルシルフ「て、勇者様!」
ヘルシルフ「……いやいや、もう精霊はやめたんだった」
ヘルシルフ「勇者くんちーっす!」
勇者「う、うん。 こんにちは」
実況「チビすけ。お前もシード選手だろ」
ヘルシルフ「はっ! そうか!受付いらないんだった!」
ヘルシルフ「失敗しっぱい。 ……お?」
王女「む?」
ヘルシルフ「もしかして中央国のオチビちゃん?」
王女「手のひらサイズの者にチビ呼ばわりされる覚えはないが……そのとおり!」
王女「わたしが中央国の……」
王女「……別に喋っても問題ないよな?」
勇者「うん? うん」
王女「わたしが中央国の王女だ!」
ヘルシルフ「やっぱり! あたしも中央国に住んでたんだー!」
王女「ほう、そうなのか? 全く知らなかった」
ヘルシルフ「あれだよ! 極希に心の綺麗な人の前に現れるってやつ!」
ヘルシルフ「まあ実際はお腹空いてる時にタカリに行っただけなんだけどね!」
ヘルシルフ「きゃはははは!」
ヘルシルフ「それでねそれでね! 食べ物を分けてくれない人は気絶させてね!」
ヘルシルフ「適当に荷物をちょうだいしてたらね!」
ヘルシルフ「天馬隊がやってきて! でも返り討ちにしちゃって!」
ヘルシルフ「そしたら天馬騎長のねーちゃんがやってきて……」
ヘルシルフ「……」
ヘルシルフ「あわわ……」
実況「なんでトラウマを自分から話すんだよ」
ヘルシルフ「ま、まあそんな感じで人間界を追い出されちゃったわけ!」
勇者「たしかもう戻ってもいいと言っていたよ?」
ヘルシルフ「いやー、こっちに友達がたくさんできちゃったしまだいいよ」
ヘルシルフ「ウンディーネちゃんとか昔の友達も来てくれたし!」
ヘルシルフ「……そうそう!」
ヘルシルフ「ウンディーネちゃんの受付も任されてたんだった!」
実況「はあ? 本人を連れてこいよ」
ヘルシルフ「そう言うと思って持ってきたよ!」
ヘルシルフ「はいこの水! ウンディーネちゃんの手!」
実況「本物かこれ?」
ヘルシルフ「信じてよ! 偽物かもだけど」
実況「おい!」
実況「……まあいい。 どうせまた変な水を取り込んだんだろ」
実況「手の内を隠したいのは分からんでもない」
ヘルシルフ「さっすがおっちゃん! 話がわかるぅ!」
ケンタウロス「愚かな……」
実況「け、ケンタウロス将軍!」
ケンタウロス「魔界格闘大会は一大行事」
ケンタウロス「魔界だからといって理を無下にするわけにはいかん」
実況「はっ! 申しわけ……」
ヘルシルフ「ケンちゃんは相変わらずお固いねー」
ケンタウロス「……」
ヘルシルフ「『愚かな……』 ぷぷーっ!」
ケンタウロス「貴様ァ!」
ケンタウロス「そこになおれ! 成敗してくれる!」
ヘルシルフ「お断りでーす! 出場者同士の私闘は厳禁でーす!」
ヘルシルフ「それがことわりでーす!」
ケンタウロス「ならば明日まで生き方というものを説いてくれよう!」
ヘルシルフ「ひゃー! ケンちゃんが怒ったー!」
ピュー
ケンタウロス「待たんかァー!」
パカラッパカラッ
勇者「あ、ちょっと……行っちゃった」
勇者「将軍は同じブロックみたいだから、挨拶しておきたかったんだけどな」
王女「また明日会えるのではないか?」
勇者「そうだね」
勇者「今日は宿に戻ろうか」
―宿・ホテル魔王城―
勇者「おっ」
サイクロプス「〜〜〜ッ!!」
勇者「サイクロプス支配人だ」
王女「誰かともめているな。声をかけるか?」
サイクロプス「次だ!」
ピィン…パシ
勇者(コイントス?)
サイクロプス「数字の方!」
ギガンテス「絵の描いてある方!」
バッ
サイクロプス「当たりだ! オラァ!」
ドゴッ
ギガンテス「へぶッ!」
ピィン…パシ
ギガンテス「もう一度絵だ!」
サイクロプス「数字だ!」
ギガンテス「……おっしゃァ! どらァッ!」
サイクロプス「ぶへッ!」
勇者「……部屋に行こうか」
王女「うむ……」
勇者「えーっと……5階のB部屋……」
王女「城と同じ大きさだけあってすごい広さだな……」
大魔導士「おや、今お帰りですかな」
勇者「あ、大魔導士さん」
勇者「いきなり当たるみたいですね」
大魔導士「明日はよろしくおねがいしますよ」
勇者「はい。 お互い頑張りましょう」
王女「楽しみだな!」
大魔導士「そうそう」
大魔導士「これから瞑想に入るのでなるべく部屋には来ないでくださいね」
勇者「本気ですね。わかりました」
王女「ここがわたしたちの部屋だな! そこそこに豪華だ!」
勇者「よし! 寝るか!」
王女「む!? 早いな!?」
勇者「明日に備えたいからね!」
勇者「それに今日いろんな人にあったから……」
勇者「魔闘会が楽しみでしょうがない」
勇者「一刻も早く明日になって欲しいんだ!」
王女「そ、そうか……おやすみ」
勇者「ああ! おやすみ!」
王女「とはいえ……わたしはそこまで眠くないぞ」
王女「暇になってしまったな」
ガチャッ
王女「む?」
魔女「勇者君、私もこの部屋で寝るよ」
魔女「なんとなく踊っていたら師匠に追い出されてしまったんだ」
王女「なにをやっておるのだ」
勇者「すぅ……すぅ……」
魔女「おや、もう寝てるのかい?」
王女「相変わらず寝付きはいいな」
魔女「起こしてベッドを譲ってもらおう」
王女「ダメだろう」
魔女「ベッドから下ろして私がそこに寝よう」
王女「わたしたちは付き添いの立場だろう」
魔女「じゃあ王女ちゃんのベッドを使わせてもらうよ」
王女「ダメだ」
魔女「ふふふ、冗談だよ」
魔女「あ、のどが渇いてたんだ。ついてきてくれないかな」
王女「そんな風だから追い出されたのではないか?」
王女「……まあちょうどよい、暇ではあった」
王女「勇者は安全な場所だと言っておったし」
王女「少し探索するか」
魔女「ふふふ、ありがとう」
テクテク
魔女「確か外に井戸があったんだ」
王女「水飲み場なら各階になかったか?」
魔女「汲みたての冷たい水が飲みたいんだよ」
王女「一人で行ってこればいいだろう」
魔女「夜道は怖いからね」
―宿の裏―
魔女「このあたりのはずだよ」
王女「暗くてひと気がないな」
ポゥ…
魔女「おや? 何か光ってるね」
王女「れ、霊のたぐいか?」
「ごめーとう!」
ヘルーンディーネ「あたしは精霊ウンディーネ! よろしくね!」
王女「うわっ!」
王女「びっくりした……」
ヘルーンディーネ「ごめんごめん、ひと目のつかない所で寝たかったからさ」
魔女「君、なにか変わってるね」
王女「そういえば……ウンディーネとは水色で透き通っている精霊だと聞いたが」
王女「お前は赤く光っておるな」
ヘルーンディーネ「ふふーん、このぼでーはね!」
ヘルーンディーネ「今回のために用意した秘策なの!秘密なの!」
王女「ふむ、そうか……」
王女「む?」
王女「今更だが出場選手にウンディーネなんていたか?」
ヘルーンディーネ「へっ?」
ペラペラ…
魔女「いないね」
ヘルーンディーネ「えぇっ!? そんなはずは……」
ヘルーンディーネ「ちょっと見せて」
魔女「どうぞ」
┌7 勇者
┌┤
|└ 大魔導士
┌┤
||┌ ヘルーンディーネ ←
|└┤
| └ 百目百眼帯
ヘルーンディーネ「うわっ! ヘルーンディーネ!? 何この名前!?」
王女「わたしに言われても知らん」
王女「……ああ」
王女「そういえばヘルシルフという者がおったから……」
王女「ヘル・ウンディーネを縮めたものなのではないか?」
ヘルーンディーネ「そんな! あたしは別に追い出されてないのに!」
魔女「そういえば」
魔女「去年はB席で見ていたんだけど」
魔女「君は紫色の体で出場してなかったかい?」
ヘルーンディーネ「あれは毒沼の水をちょうだいして……」
ヘルーンディーネ「はっ!」
ヘルーンディーネ「そういえばあの時"地獄からきた精霊"とか言われた!」
王女「その時にイメージがついたみたいな」
ヘルーンディーネ「ひどい!」
ヘルーンディーネ「こうなったら! 願い事でなんとかするしかない!」
ヘルーンディーネ「優勝したらあたしの名前はウンディーネですって宣言しよう!」
王女「願い事?」
ヘルーンディーネ「あれ、知らないの?」
ヘルーンディーネ「優勝者は魔王の発言力で一言だけ喋れるんだよ」
王女「ほぉー……」
王女「……勇者は何を願うつもりなのだろう」
ヘルーンディーネ「勇者って第7シードの人だよね?」
王女「うむ。友人だ」
ヘルーンディーネ「ふふーん! 残念だったね!」
王女「む?」
ヘルーンディーネ「その人は2回戦で敗退だ!」
ヘルーンディーネ「お友達のシード権はあたしがもらうよ!」
ヘルーンディーネ「このマグマの体でね!」
王女「……」
王女「地獄が定着しそうだな!」
ヘルーンディーネ「あ! これ言ったらダメだったんだ!」
ヘルーンディーネ「ごめん! 勇者って人には内緒にしてて!」
王女「……まあ構わんが」
魔女「ふふふ、他人の能力をペラペラ喋ったりしないよ」
ヘルーンディーネ「ほんと!? ありがとう!」
ヘルーンディーネ「そうだ! お礼に前に使ってたあたしの体液あげる!」
ヘルーンディーネ「飲めるぐらいにはきれいだよ! たぶん!」
王女「いらん」
魔女「もらうよ」
王女「!?」
翌日
魔界格闘大会初日
実況『ついにこの日がやってきた!』
実況『第五回!魔界格闘大会の時間だぁあああああああああ!!!!』
ウォオオオオオオオオ!!!
実況『今年の実況と解説と進行はこの阿修羅が担当します!!』
実況『では早速!開会式の言葉を!』
実況『貫禄の優勝候補!一番人気!魔王様からいただきましょう!!』
ザッ ザッ
魔王「……」
ワァアアアアアアア!!
王女「す、すごい歓声……」
王女「あれが……魔王……」
魔女「大きいよね。勇者君の倍ぐらいある」
実況「魔王様、拡声魔法機を」
魔王「必要ない。 自分で使う」
魔王「……ゴホンッ」
魔王『力とは!! 不動産である!!!』
魔王『古来より、我々は全てを力で解決してきた!』
魔王『生きるため、奪うため、気に入らないものを潰すために拳を振るった!』
魔王『しかし今! 世界は平和になり、力を使う機会は激減した!』
魔王『では己を高める行為は無駄になったのか! 否!!』
魔王『力とは!己の価値を示す最も明確で揺るぎない指標!!』
魔王『力とは!使う場がなくともひたすらに磨き続けるものである!』
魔王『そして! 今年も力を示す場を用意した!』
魔王『余を含む強豪を打ち倒し! 三界最高の価値を証明したものには!』
魔王『どんな願いでも叶えることを約束しよう!』
ワァァアアアアア!!!
実況『では一回戦!!』
実況『地獄魚馬少女けるぴー☆! 対するは、剣だけは冴え続ける剣聖(200)!』
王女「どっちも一癖ありそうだな」
魔女「これはけるぴーちゃんだろうね」
王女「む、なぜ分かるのだ?」
勇者「格闘大会というルール上、人型はちょっと不利なんだよ」
王女「うむ? 勇者は出場者だろう? ここにいていいのか?」
勇者「俺の出番はまだ先だし、立ち見するぐらいなら問題ないよ」
王女「ふむ……それで人が不利とはどういう意味だ?」
勇者「この大会では武具の持ち込みができないからね」
勇者「丸腰で魔法の使えない人はちょっと厳しい大会なんだ」
勇者「四足歩行や体の大きいやつを相手にするわけだからね」
王女「勇者も魔法は得意じゃないだろう?」
勇者「落雷魔法はこういう場だと結構便利だよ」
勇者「タメがバレにくいからね。 相手からすれば下級魔法のように出が早い」
王女「ふむ……それでは魔法を使うならどんな形がいいんだ?」
勇者「魔法中心で戦うなら、姿形はほぼ関係ないよ」
勇者「そりゃあ素早かったり頑丈だったりするに越したことはないけどね」
王女「しかし魔皇女は不利だと言っていたが……」
勇者「ここに来る人なら、向かってくる相手への対策手段ぐらい持っているさ」
魔女「ふふふ、特に師匠はすごいよ」
魔女「下級魔法で牽制しながら上級魔法のタメができるんだ」
魔女「あれを倒すには下級魔法に突っ込むしかないね」
勇者「えっと……」
勇者「その情報は俺に言っちゃダメなんじゃ……」
魔女「ふふふ」
魔女「ほんとだ」
――
――――
実況『勝者! 勇者!』
勇者「あちち……」
大魔導士「ぐぅ……完敗です」
大魔導士「火炎魔法を顧みず突っ込んでくるとは……」
大魔導士「魔闘会本戦で小細工は通用しないということですかな」
勇者「あ……いやその……」
大魔導士「……?」
魔女「ふふふ」
魔女「すみません」
大魔導士「お前かぁーっ!」
――
王女「一回戦突破だな、おめでとう勇者」
勇者「うん。 ありがとう」
勇者「魔女さんは?」
王女「なにか罰を与えられたらしい」
王女「戦術を教えたのは故意じゃないと伝えたのか?」
勇者「うん……そしたら『それならもっと問題だ!』って」
王女「そうか……」
勇者「それで試合は今どのあたり?」
王女「うむ、Cブロックの……」
ドナナイ「く、くそっ! どうなってやがる!」
白仮面「無駄だ」
バシィッ
実況『ドナナイ! 防戦一方だ!』
実況『白仮面の周りは闇に包まれたまま!! 中の様子が分からない!!』
ドナナイ「くそったれ! これでどうだ!」
ブォンッ スカッ
実況『ドナナイの拳が闇に潜り込む! しかしそのまま突き抜けた!』
スッ
白仮面「……」
実況『ああっと! 闇から出てきた白仮面が後ろをとった!』
実況『そして――』
ドナナイ「ぐぁああ!!」
ドサッ
実況『決まったァーッ! 勝者!白仮面!』
白仮面「……」
王女「名乗らない人、負けてしまったな」
勇者「すごい……あんな戦い方もあるんだ……」
勇者「白仮面、一体何者なんだろう……」
―コロシアム裏―
魔女「ふふふ」
魔女「下ろして」
大魔導士「駄目だ。もうしばらく頭を冷やせ」
魔皇女「……見つけましたわ」
魔女「あ、魔皇女ちゃん」
大魔導士「おや、あなたは……」
魔皇女「お初にお目にかかります。 魔王の娘、第2シードの魔皇女ですわ」
大魔導士「……なんのようですかな?」
魔皇女「少し聞きたいことがありますの」
魔女「なんでも聞いてよ。縛られてるけどね」
魔皇女「あ、いえ。 そちらの大魔導士様に」
魔女「ふふふ」
――
――――
実況『勝者! サイクロプス支配人!』
実況『これにて1回戦、本日の試合は全て終了です!』
王女「おお! 支配人勝ったな!」
勇者「シード選手も全員残ったし、とりあえず番狂わせはなかったね」
王女「本番はこれからというわけだな!」
ケンタウロス「魔闘会の本番は3回戦からだがな」
勇者「あ、将軍。 お久しぶりです」
王女「ええと……第3シードのケンタウロス将軍か」
ケンタウロス「お主が最近勇者とつるんでいるという王女か」
王女「うむ、わたしが中央国の王女だ! よろしく頼む!」
ケンタウロス「人間の王族はもう少し品があると思っていたが……」
王女「なっ……!?」
ケンタウロス「まあいい、子供は元気が一番だ」
ケンタオウロス「そうでなければ生き残れない」
勇者「……そうですね」
王女「それで、本番は3回戦からとはどういう意味だ?」
ケンタウロス「それだけシード選手とノーシードの差が大きいのだ」
ケンタウロス「我々がどこぞの馬の骨に負けることはない」
勇者「将軍、私はその考え方が好きではありません」
勇者「ノーシードでも強い人はたくさんいます」
ケンタウロス「それはお前が機転と経験を頼りに戦うタイプだからだ」
ケンタウロス「もっと基礎能力を高めよ」
ケンタウロス「そうすれば足元をすくわれる心配もない」
ケンタウロス「では本番のリングで会おうぞ」
王女「なんだ、嫌味なやつだな」
勇者「心配してくれたんだよ、多分」
王女「どうだか知らんが……」
王女「負けるなよ、勇者」
勇者「まずは次、2回戦だ」
―宿・ホテル魔王城―
王女「今日はまだ寝ないのか?」
勇者「思ったより早く決着がついちゃったし」
勇者「体も心も落ち着いてるよ」
王女「そうか。 なら一つ聞きたいことがある」
勇者「うん、なんでも聞いてよ」
王女「勇者は何故魔王城に住んでいたのだ?」
勇者「……」
勇者「えっ?」
勇者「その話は誰から聞いた?」
王女「う、うむ? 違うのか?」
勇者「えっ?」
王女「使用人の態度が客人をもてなすものではない気がしたのだが……」
勇者「……そっか」
勇者「合ってるよ。 俺は昔魔王城住んでた……もちろん本物の方にね」
王女「それは一体……」
勇者「待って」
勇者「その話はちょっとややこしくなるから」
勇者「質問するなら一つにまとめてほしんだ」
王女「ど、どういう意味だ?」
王女「話したくないなら別に構わんぞ?」
勇者「もう隠しておくことでもないよ。 聞かれたなら答えるさ」
勇者「ただ……」
勇者「事実をすべて話すと思惑を誤解される恐れがあるんだ」
勇者「だから、王女が核心だと思う部分だけを聞いてほしい」
王女「……」
王女「少しだけ考えさせてくれ」
勇者「うん、いいよ」
王女「前回の冒険での……教会関係者の反応を見るに」
王女「勇者は明らかに天界側の人間だ」
勇者「……」
王女「だがそう推測すると」
王女「魔界に友人が多すぎる気がするのだ」
王女「だから……」
王女「勇者よ、お前はどのような立場で魔王城に住んでいたのだ?」
勇者「……」
勇者「人質だよ」
王女「……そうか」
王女「わたしはその答えを好意的に解釈すればよいのだな?」
勇者「うん、そうしてくれると助かるよ」
翌日
魔界格闘大会二日目
実況『魔闘会の最も長い一日! それが二日目!』
実況『今日最初の試合は! 魔王様 対 けるぴー☆!』
けるぴー☆「まおーさま! のうみそ!のうみそおいしい!?」
魔王「余の肉の味か」
魔王「そうだな……余は魔王であるから……」
魔王「美味であろうな……!」
けるぴー☆「やったー!」
実況『でははじめェッ!』
王女「あ、あんなやつが出場していいのか?」
勇者「もともと相手を殺しても失格じゃないからね」
王女「なに?」
勇者「武具の禁止は道具による優劣を付けないためのルールなんだ」
勇者「だから例えば、武器を生成する魔法なんかは試合中に使ってもいい」
勇者「大抵の場合はそのエネルギーを直接ぶつけたほうが早いけどね」
けるぴー☆「いただきまーす!」
実況『けるぴー☆! 魔王様に飛びかかる!』
魔王「では食らうがいい!」
ガボッ
けるぴー☆「ふへっ?」
実況『魔王様! 相手の口に手を突っ込んだ!』
けるぴー☆「もごーっ!」
ドシャァアンッ
実況『そして地面へ叩きつける!』
魔王「ぬんッ!」
ズガァァァアアアンッ
実況『さらに相手の口内で爆発魔法!』
王女「お、おいおい……」
けるぴー☆「がぼぼぼぼ……」
実況『けるぴー☆戦闘不能! 勝者!魔王様!』
ワァアアアアアアア
けるぴー☆「お、おほしさまがみえる……」
王女「あ、あれで生きておるのか!?」
勇者「まあみんな丈夫だからね」
王女「すごいな……」
勇者「なんだかんだで死人の少ない大会だよ」
勇者「さて、俺は次の次だし」
勇者「そろそろ控え室の方に行ってくるよ」
王女「うむ! 頑張れよ!」
―選手控室―
勇者(なんだ? やけに涼しいな)
ヘルーンディーネ「やっときた! 遅ーい!」
勇者「えっと……初めまして」
ヘルーンディーネ「あ、堅苦しいのは抜きね! それが嫌で魔界に来たんだし!」
勇者「……うん、分かったよ」
勇者「よろしくね、ヘルーンディーネさん」
ヘルーンディーネ「はい違う!」
勇者「えぇっ!?」
オルクトロスパス「ブハァーッ!!」
実況『出た! オルクトロスパスの蒸気のブレス!』
実況『炎のブレスと水のブレスを同時に吐く必殺技だァ!!』
邪龍「グワッ!」
実況『おおっと! 邪龍孤児院長!そのまま突っ込んだ!』
ゴッ
オルクトロスパス「グアァーッ!!」
実況『豪快な体当たり!! 巨体を巨体がふっ飛ばした!!』
ドシャァアアアンッ
実況『場外に落ちたァ!! 勝者は邪龍孤児院長です!』
邪龍「……」
実況『これがシード選手の貫禄か! いつもより光り輝いて見えます!』
キラキラ
実況『いや! ほんとうに輝いている!』
実況『鱗の汚れが蒸気で良い感じに落ちているぞ!』
邪龍「……」
ニヤリ
実況『本人も満更でもなさそうだッ!』
勇者「そうか……邪龍さんが……」
ヘルーンディーネ「さあさあ! あたしの出番だ!」
実況『次の試合は! 平和の使者勇者 対 地獄の使者ヘルーンディーネ!』
ヘルーンディーネ「ひどすぎる!」
勇者「あはは……苦労してるんだね」
実況『では試合開始ッ!』
ヘルーンディーネ「さあ! 魔法を解いて……触ってあげる」
実況『マグマの体を持つヘルーンディーネがゆっくりと接近!』
ヘルーンディーネ「あ! 言っちゃダメだよ!」
勇者「2回戦なんだからみんな知ってるよ」
ヘルーンディーネ「たしかに!!」
ペタッ
勇者「そして、先に触るのは俺だ」
ヘルーンディーネ「なっ! なにするの!?」
勇者「……やっぱり弱い冷却魔法を全身にかけてたんだね」
勇者「戦闘中以外は不便そうな体だ」
パキパキ…
ヘルーンディーネ「え? えっ!? 体が……」
ヘルーンディーネ「固まっ……」
勇者「だから! 俺の魔力を流しこんで強化する!」
勇者「冷えて固まれ!」
パキパキパキ……
ヘルーンディーネ「」
実況『ヘルーンディーネ! 溶岩と化してしまった!』
実況『戦闘不能とみなし、この勝負は……』
ボガッ
勇者「がはっ!」
ドシャァァッ
勇者(な、なんだ!? 何をされた!?)
実況『ゆ、勇者! 殴られ吹き飛ばされた!!』
勇者「なぐ……!?」
ヘルーンディーネ「なーんだ」
ヘルーンディーネ「固まってても動けるじゃん!」
勇者「な、なんだって!?」
勇者(くそっ! 落ち着け……!)
シュッ シュッ
ヘルーンディーネ「ふふーん! かかってきなさい!」
勇者「落雷魔法!」
ドガァァアアアンッ!!
ヘルーンディーネ「はいそれきかない!」
勇者「な!?」
実況『ヘルーンディーネに雷が襲い掛かる! が、無傷!』
ヘルーンディーネ「あなたが強化してくれた魔力の膜が」
ヘルーンディーネ「雷の通り道になったってわけ! たぶんね!」
勇者「ぐ……」
勇者(あ、あわ、慌てるな……向こうから攻めてこないのは動けないからだ)
勇者(胴体部分は地面と接合されているはず!)
ダッ
勇者「つまり!」
ヘルーンディーネ「お! 来たね!てぇいっ!」
ブオンッ
勇者「懐に飛び込めば!」
実況『空を切るヘルーンディーネの腕!』
勇者「一方的に攻めぶべらっ!!?」
ドシャァァアアア
実況『!!』
実況『た、体当たりに膝を合わせたァーッ!!?』
ヨロッ…
勇者「う……ぐ……」
勇者(な、なんてこった……!)
ヘルーンディーネ「危なかった……けど!」
ヘルーンディーネ「あし! という発想!!」
ヘルーンディーネ「固形の体でも歩けば移動できる!」
ヘルーンディーネ「やばい……あたし天才だった……!」
実況『二本足で立つ岩石の体! ゴーレムのようだ!』
実況『ゴーレム・ウンディーネ……』
実況『ゴーレムーンディーネの誕生だァアアアアア!!!』
ヘルーンディーネ「また変な名前がっ!?」
勇者(く、くそっ……2発も顔に直撃した……)
勇者(視界が霞む……まずい……!)
ヘルーンディーネ「と、とにかく! 大チャンスだ!!」
ヘルーンディーネ「いくよっ!」
ヘルーンディーネ「シード権ガッポリ岩石ぱーんち!!」
ダッダッ
ズテッ ガッシャーン
ポキッ
コロコロ…
ポテッ
「「あ」」
実況『勝者! 勇者!』
王女「な、なんだ? なにがどうなった?」
魔女「あの子がとどめを刺しにいって」
魔女「なにもない所で転んで」
魔女「その衝撃で腕が取れて」
魔女「転がって場外に落ちたみたいだね」
王女「なんという……」
―選手控室―
ヘルーンディーネ「ひどい! ずるい!」
勇者「いやその……」
ヘルーンディーネ「二本足で走るのって超むずかしいじゃん!」
ヘルーンディーネ「なんで教えてくれなかったのさー!」
勇者「そんなこと言われても……」
ヘルーンディーネ「もういい! 来年はもっとすごい体を用意してくるから!」
勇者「……」
ヘルーンディーネ「その時また勝負だ! あたしのライバル勇者!」
勇者「う、うん」
勇者「楽しみにしてるよ」
ヘルーンディーネ「おぼえてろー!」
ガシャン ガシャン
ズテッ
ヘルーンディーネ「あぅっ」
勇者「井戸まで付いて行こうか?」
ヘルーンディーネ「だ、だいじょうぶ!」
魔皇女「無様な試合でしたわね、勇者」
勇者「……魔皇女ちゃん」
魔皇女「あのまま負けていたら来年まで笑いものにするところでしたわ」
勇者「勝ったからいいじゃないか」
勇者「それに強かったよ。 えっと……ウンディーネさん」
魔皇女「自分が倒した相手を持ち上げても誰も得をしません」
魔皇女「わたくしがシード選手の戦いというものを見せてあげま……」
ワァアアアアアアアアアアア!!
魔皇女「!」
勇者「お、今日一番の歓声だね。 見に行こうか」
実況『ここで大番狂わせーッ!!』
実況『第六シードの影の騎士を打ち破ったのは……』
実況『初出場! 白仮面だ!!』
白仮面「……」
魔皇女「あの仮面は……」
勇者「魔皇女ちゃん、知ってるの?」
魔皇女「勇者は覚えていませんの?」
魔皇女「生存報告会で何度か見かけたでしょう」
勇者「大教会で? 覚えてないなあ」
魔皇女「……まあ、あそこに天界の敵はいないでしょうし」
魔皇女「あなたはさぞリラックスして食事をとっていたんでしょうね」
勇者「……」
勇者「ということは、あの仮面の人は教会の関係者……?」
魔皇女「もしくは……」
白仮面「詮索はそこまでだ」
勇者「!!」
魔皇女「!!」
白仮面「……」
魔皇女「ベスト8、おめでとうございます」
白仮面「勇者、私が以前言ったことを覚えているな?」
勇者「……あなたが優勝したら」
白仮面「ああ、勇者の名を取り潰す」
魔皇女「なっ!?」
白仮面「……そして魔皇女も魔王も私が倒す」
白仮面「首を洗って待っていろ」
勇者「うーん……謎は深まるばかりだ」
勇者「一体何者なんだろう?」
勇者「あの組織の人かな」
魔皇女「勇者、あなた馬鹿なんじゃありません?」
勇者「えぇっ?」
魔皇女「大教会に潜り込めるような奴らなら泳がせてませんわ」
魔皇女「あの人は少なくとも……」
魔皇女「勇者の……いえ」
魔皇女「"あなたの"味方でしょうね」
――
王女「大丈夫か? 勇者」
勇者「ああ、体は問題ないよ」
勇者「さっき治癒魔法をかけてもらったからね」
魔女「次はいよいよ上位シード」
魔女「格上が相手だね、勇者君」
勇者「望むところだ!」
勇者「……そういえば魔女さんは朝いませんでしたよね?」
魔女「急にお腹が痛くなってね、少し遅れたよ」
勇者「なにか変なものでも食べたんですか?」
魔女「覚えがないなあ」
――
影の騎士「うぅ〜ん……」
魔皇女「影の。 手ひどくやられましたわね」
影の騎士「ああ、魔王んとこの嬢ちゃんか」
魔皇女「まこうじょですわ。 いい加減そうお呼びくださいませ」
影の騎士「わかったわかった」
魔導骸骨「それで影ノ。 相手はどんなやつダっタのダ?」
影の騎士「げ、骨もいっしょかよ」
魔皇女「あら魔導骸骨。 いましたの」
魔導骸骨「魔皇女様、そろそろあなタの出番です」
魔導骸骨「我輩はそれを伝えに参りましタ」
魔皇女「あら、もうそんな時間?」
魔皇女「では影の。 お話は後で聞かせてもらいますわ」
影の騎士「……ま、話してやるつもりもないけどな」
魔導骸骨「ナニ?」
影の騎士「俺は魔王城とは関係のない魔族だし」
影の騎士「あの仮面が優勝しても構わないのさ」
魔導骸骨「貴様……そこまでしてシード番号を死守しタいのか」
影の騎士「は? そんなんじゃねえよ」
影の騎士「単にお前らがやられるところが見たいんだよバーカ」
魔導骸骨「なんダそれは? 理解に苦しむ」
魔導骸骨「やはり馬鹿ダっタか」
影の騎士「なんだとバーカ! バーカバーカ!!」
――
魔皇女「ふんっ!」
バシッ
サイクロプス「ごふっ!」
実況『強烈な蹴りが炸裂! 巨体が浮いたァ!』
サイクロプス「く、くそ……このオレが格闘だけで……」
魔皇女「これが野試合ならそうしましたが」
魔皇女「さすがに魔闘会では万全を期していますわ」
サイクロプス「なに……?」
魔皇女「魔法は2つほど使っていますの」
魔皇女「一つは重力魔法。 これでわたくしの重心を少しだけずらしています」
魔皇女「もう一つは弱体化魔法。 あなたを少しだけ不調にしています」
魔皇女「つまり、魔法であなたの勘を鈍らせていたのですわ」
魔皇女「気づかれないように……ね」
サイクロプス「あァ? んじゃなんで話すんだよ!」
魔皇女「あなたの能力を見切ったので余裕ができたのと」
魔皇女「場を盛り上げるためですわ」
魔皇女「さあ! ここまでコケにされたら遠慮もないでしょう!」
魔皇女「殺す気でかかってきてくださいませ!」
魔皇女「叩き潰して差し上げます!!」
――
――――
魔女「さて、これで2回戦は全部終わったから……」
魔女「魔闘会も大体あと半分だね」
王女「ここからが本番らしいがな」
魔女「えーと……今残ってるのは……」
王女「あの白仮面以外はシード選手が残ったみたいだぞ」
魔女「ブロックで分かれてるとちょっと見にくいね」
王女「しかたない。わたしがまとめてやろう」
┌1 魔王
┌┤
|└5 邪龍孤児院長
┌┤
||┌7 勇者
|└┤
| └3 ケンタウロス将軍
┤
| ┌4 魔導骸骨郵便局長
|┌┤
||└ 白仮面
└┤
|┌8 ヘルシルフ
└┤
└2 魔皇女
王女「こんなところだな」
実況『さあ! ここからは魔闘会3回戦だ!』
実況『一試合目は魔王様対……邪龍孤児院長!!』
魔王「……今年は棄権しないのだな」
魔王「職を与えて正解だったか」
魔王「余はうれしいぞ」
邪龍「グルル……」
実況『では試合開始ィ!!』
邪龍「ガァ……!」
ブワッ ゴゴゴゴゴ…
魔王「ほう、これが……」
実況『いきなり大技! 暗黒太陽魔法だ!!』
ズ…
魔王「来い!」
実況『魔王様に直撃!! ……が、爆発しない!!』
邪龍「ギッ!?」
魔王「せっかくの新魔法だ。 二人で味わおうではないか」
スタスタ…
実況『魔王様! 太陽を抑えながら歩いて接近!!』
実況『そして――――』
魔女「王女ちゃん、目をつぶった方がいい」
王女「む?」
カッ
ドガァアアアアァァアアアアアアン!!!
邪龍「キュー……」
ズズゥゥウウウン…
実況『邪龍孤児院長、ここでダウン!!』
魔王「……こんなものか」
邪龍「ギ……ギャ……」
ググ…
実況『しかしさすがは元三魔将軍! まだ立ち上がる!!』
魔王「ハハハァ! そうこなくては!!」
魔王「ちょうど魔法のタメも終わったところだ!!」
邪龍「キュッ!?」
魔王「特大熱光線!!」
チカッ
ドシュゥウウウウン
邪龍「ギョワァアアアァァアアアアア!!!」
実況『決まった!!』
実況『"魔王ビーム"だァーッ!!!!』
王女「ひどい……」
王女「勇者アレとも……む?」
魔女「目がチカチカして何も見えない……」
魔女「試合はどうなったんだい?」
王女「お前が目を瞑れと言ったのではないか」
王女「なぜ太陽の魔法を直視したのだ」
魔女「ふふふ、自分も目をつぶることを忘れていたよ」
実況『さあ! 3回戦第二試合!!』
実況『勇者 対 ケンタウロス将軍!!』
ケンタウロス「……」
勇者「……」
ケンタウロス「駆けるが如く生き」
ケンタウロス「道の如く軌跡を残す」
ケンタウロス「全ての道は主のため」
ケンタウロス「三魔将軍ケンタウロス、先陣を駆る!!」
勇者「栄光は勇者の名のために」
勇者「勇者の名は平和のために」
勇者「目指すは魔闘会の頂!」
勇者「……行きます!」
実況『試合開始ッ!!』
王女「今の掛け合いはなんだ?」
魔女「お約束のようなものだね」
ダッ
勇者(俺は挑戦者の立場だ! 最初から全開で行く!)
勇者(意地でも隙を作って!叩くしかない!)
勇者「うぉぉおおおおお!!!」
ケンタウロス「ウォォオオオオオ!!!」
バッ
勇者(一番ダメージがありそうなのは……やはり顔面!)
勇者(ジャンプして回し蹴りだ!)
勇者「どりゃああ!!」
ケンタウロス「ケンタウロスラリアットォ!!」
ボガッ!
勇者「ぐあっ!」
ケンタウロス「グアッ!」
実況『いきなりお互いの攻撃が顔面にヒット!』
ドシャァァアアア
実況『しかし吹き飛んだのは勇者だけ!!』
勇者(怯むな! ウェイトに差があるからこうなるのは当然だ!)
勇者(次は馬の腹を狙う!)
勇者「うぉおおおお!!」
バッ
実況『再び両者接近!!』
ケンタウロス「甘いッ!」
ダッ
スカッ
勇者(!! 加速した!!)
実況『空を切る勇者の蹴り!』
実況『将軍はその勢いで大きく移動!』
ケンタウロス「距離がとれたな」
ポゥ…
実況『そして! 魔法で鉄の槍を生成……』
勇者「今だっ!」
ドガァァアアアンッ
実況『落雷魔法だァアアアア!!!』
ダダダダダッ
ケンタウロス「もとより」
勇者「っ!!」
実況『煙の中から将軍が飛び出した!!』
ケンタウロス「一本目は避雷針にするつもりであった」
勇者「しまっ――――」
バキッ ベキボキッ
実況『き、決まったァァアアアアア!』
王女「そ、そんな……」
王女「勇者が……轢かれた……」
ケンタウロス「手応え、いや、足ごたえあり」
ケンタウロス「骨を踏み砕く感触がした」
勇者「ま、まだだ……!」
ケンタウロス「そうか。 ならば……」
ポゥ…
ケンタウロス「二本目の槍で心の臓を貫いてくれよう」
魔皇女「あらあら、予想通り大ピンチですわね」
王女「ゆ、勇者が……」
魔皇女「……よろしいんですの?」
王女「な、なにがだ?」
魔皇女「わたくしの立場からは、どちらも頑張れとしか言えませんが」
王女「そ、そうか!」
王女「勇者ぁあああああ!!」
王女「負けるなぁあああああ!!!」
勇者「う……うわぁああああああああ!!!」
バッ
実況『勇者!! 再び飛び蹴りを放つ!』
スッ
ケンタウロス「迎撃する必要もない」
実況『がしかし! 簡単にかわされた!!』
ケンタウロス「着地の瞬間を狙い突く! それで終わりだ!」
ガシッ
勇者「と、捉えた!」
実況『勇者!将軍に飛び乗ったァ!!』
ケンタウロス「な!?馬鹿なッ!?」
ケンタウロス「!!! そ、そうか!! 一本目の槍で方向転換をブハァッ!」
ボガッ
勇者「勇者パンチ!!」
勇者「パンチパンチパンチパンチパンチパンチ!!!!」
魔皇女「ケンタウロスという種族は」
魔皇女「後ろに乗った相手を攻撃する手段がないのですわ」
王女「なんと……」
魔皇女「……まあ、上出来と言っておきましょう」
ケンタウロス「」
実況『ケンタウロス将軍! 後頭部をタコ殴りにされ気絶!!』
実況『勝者! 勇者!!』
勇者「や……やった……!」
バタッ…
実況『さあ! 次の試合は!!』
実況『第四シードの魔導骸骨郵便局長!』
実況『対するはなんと初出場のノーシード! 白仮面!』
――
――――
勇者「うぅーん……」
ケンタウロス「気がついたか」
勇者「ここは……?」
ケンタウロス「コロシアムの医務室だ」
ケンタウロス「……」
ケンタウロス「完敗だ」
勇者「えっ?」
ケンタウロス「知略と勇気を合わせた、模範の如き戦いぶりであった」
勇者「そ、そんなことは……」
勇者「針鞍をつけていれば手も足も出ませんでしたし……」
ケンタウロス「お前は勝ったのだ。堂々としていてくれ」
ケンタウロス「それが敗者のためとなる」
勇者「……はい!」
ケンタウロス「それに……魔王様がいる」
ケンタウロス「我の戦闘も主のためになった」
ケンタウロス「必ずお前を完膚なきまでに叩き潰してくださる」
勇者「……」
勇者「全力で戦うのみです」
ケンタウロス「それでいい」
レッサールシファー「あ、勇者さん起きてたんですか?」
勇者「はい。 この治療はあなたが……」
レッサールシファー「ええ、もう動いても大丈夫ですよ」
レッサールシファー「骨も明日までには再生すると思います」
勇者「ありがとうございます。 あなたも出場者なのにここまでしてもらって……」
レッサールシファー「まあ私は1回戦で負けましたからね」
レッサールシファー「……見た目が天使っぽいというだけで覚えさせられた回復術ですが」
レッサールシファー「誰かの役に立ててとてもうれしいです」
勇者「立派ですね」
レッサールシファー「あはは、魔界ではあまり褒められない考え方ですがね」
勇者「じゃあそろそろコロシアムに戻りますね」
レッサールシファー「はい。 明日もがんばってください」
ガチャ
勇者「ん?」
王女「ゆ、勇者! もう大丈夫なのか?」
勇者「王女じゃないか。 ずっと部屋の前で待ってたのかい?」
王女「う、うむ……治療中だと邪魔になると思ってな」
勇者「大丈夫だよ」
王女「そうか……ともかく」
王女「よく勝った! さすが勇者だ!」
勇者「ああ! ありがとう!」
魔女「おや、勇者君。 傷はもういいのかい?」
勇者「はい。 試合はどうなってます?」
魔女「まださっきの続きだよ。 膠着状態みたいだ」
王女「ということは……」
勇者「やっぱりすごいな。 局長と互角なんだ」
実況『ここで魔導骸骨局長接近ッ!!』
魔導骸骨「ようやく見切っタ。その闇の衣の正体」
白仮面「……」
魔導骸骨「"光魔法"ダな?」
白仮面「!」
魔導骸骨「光を偏らせ闇を擬似的に作り出す」
魔導骸骨「邪龍のやつが闇魔法で太陽をつくるのと同じ原理ダ」
白仮面「……それがどうした」
スッ
白仮面「!?」
実況『白仮面の拳がすり抜けた!』
魔導骸骨「原理さえわかってしまえば」
魔導骸骨「正しい位置の確認ができ」
魔導骸骨「我輩の世界へ案内できる」
実況『こ、これは……局長が消えたァ!』
パッ
白仮面「!?」
白仮面「こ、ここは!?」
魔導骸骨「亜空間ダ」
白仮面「なあっ!?」
魔導骸骨「その声が素か。 やはり聞いたことがあるな」
白仮面「っ!」
白仮面「……」
魔導骸骨「まあよい、さらばダ」
パッ
白仮面「!」
魔導骸骨「中空ダ」
魔導骸骨「場外へ落ちろ」
白仮面「……き」
白仮面「きゃぁあああああ!!!」
ドサッ
実況『決まったァ!!』
実況『魔導骸骨郵便局長の』
実況『亜空間郵便殺法だァアアアア!!!』
勇者「そ、そうか! あの人は……!」
実況『白仮面! シード選手2連突破はならず!』
白仮面「……」
白仮面「今のは……」
魔導骸骨「亜の魔法の一つ、亜空間高速移動魔法」
魔導骸骨「位置のわかっている相手なら引きずり込める」
魔導骸骨「……もっとも」
魔導骸骨「降雨魔法などで場を乱されると成功率は下がっタが」
白仮面「!!!」
白仮面「あなたは……私の正体を……」
魔導骸骨「今日のうちに帰ってしまうのダな」
魔導骸骨「そうすれば大事になることもないダろう」
実況『次は本日最後の試合!』
実況『魔皇女様対ヘルシルフ!』
白仮面「……」
勇者「大丈夫ですか?」
白仮面「何のようだ。 無様な私を笑いに来たのか」
勇者「違いますよ」
勇者「ただ少しお話をと思っただけです」
白仮面「……」
白仮面「毎年……」
白仮面「毎年このようなことをしているのですか!?」
勇者「その通りです」
勇者「天馬騎長様」
――
ヘルシルフ「ぐぬぬぬ……」
実況『火炎魔法が羽をかすめたァ!』
魔皇女「あらあら、もう時間の問題ですわね」
ヘルシルフ「と、特大空気圧……」
魔皇女「させませんわ」
ドシュッ
ヘルシルフ「きゃぁ!」
魔皇女「特大魔法は気づかれないように使うものです」
魔皇女「このように!」
バッ
パキィィイイイインッ
実況『氷山魔法がヘルシルフの足を捉えた!』
ヘルシルフ「うそっ!? だってさっき……」
魔皇女「弱い魔法を使いながらタメを行う……」
魔皇女「昨日覚えたばかりの新戦術ですわ!!」
魔皇女「そしてっ!」
ダダダッ
魔皇女「氷山を駆け上がるわたくし!」
バッ!
魔皇女「不必要に高く跳ぶわたくし!!」
ヘルシルフ「ひぃっ!」
魔皇女「からの! 必殺!!」
ヘルシルフ「こ、降参!」
魔皇女「えっ!?」
魔皇女「ええっ!!?」
ズルッ ズデデデデデデデ
ドシーン
実況『魔皇女様! 氷山から場外へ滑り落ち!大きく尻餅をついた!』
実況『しかしその前に降参宣言がありました! 勝者は魔皇女様です!!』
魔皇女「あいたたたた……」
魔皇女「ちょっとヘルシルフさん!?」
魔皇女「そのタイミングは、あまりにもあんまりなんじゃありません!?」
ヘルシルフ「えへへ。 めんごめんご」
―医務室―
白仮面「……」
勇者「ここに用があるのは選手の人だけです」
勇者「今の選手はあなたを除けば全員シード持ち」
勇者「仮面を外しても大丈夫ですよ」
白仮面「……」
カポッ
天馬騎長「勇者……もうやめましょう」
天馬騎長「あなたは十分に働きました」
天馬騎長「これ以上身を危険に晒す必要はありません」
勇者「……俺が好きでやっていることですよ」
天馬騎長「そんなことを言って……」
天馬騎長「あなたにもしものことがあったら、私は……私は……!」
勇者「大丈夫、俺は死にませんよ」
天馬騎長「……」
天馬騎長「強く……なったのですね」
勇者「分かりません。 ですが、今の生活は気に入っています」
天馬騎長「そうですか……」
天馬騎長「もうあなたは昔のように」
天馬騎長「私のことを……」
魔皇女「あら」
魔皇女「誰かと思えば、お姉さまではありませんか」
天馬騎長「……あなたにはそう呼ばれたくありません」
勇者「魔皇女ちゃん、試合は?」
魔皇女「もちろん勝ちましたわ」
魔皇女「それよりお姉さま、酷いんじゃありません?」
魔皇女「5年も同じ屋根の下で暮らした仲でしょう」
天馬騎長「……それと呼び方とは別の話です」
魔皇女「はぁ……変わらずお固いのですわね」
魔皇女「それで、本日は変装までしてなんのご用ですの?」
天馬騎長「……」
天馬騎長「私は優勝出来ませんでした。 話すことはありません」
天馬騎長「ここはそういう場所なのでしょう?」
魔皇女「間違ってはいませんが、それは真に受けすぎですわ」
魔皇女「もう少し肩の力を抜いてくださいな」
魔皇女「……というか本当に優勝するつもりでしたの?」
天馬騎長「もちろんです」
魔皇女「ということは、勇者の名を消すというのも本気でしたの?」
天馬騎長「……」
勇者「魔皇女ちゃん、もういいじゃないか」
勇者「話したくないこともある」
天馬騎長「……ゆ、勇者!」
勇者「は、はい?」
天馬騎長「あなたはなぜ赦すのですか!」
勇者「ゆる……えっ?」
天馬騎長「天を……私を憎んでもいいんですよ?」
天馬騎長「あなたに優しくされたら……私は……」
魔皇女「うへぇ、めんどくさいですわね」
魔皇女「勇者、だから言ったでしょう」
魔皇女「帰ったその日に家族全員を殴っておいたほうが後腐れないと」
勇者「そんなことできるわけ無いだろ」
魔皇女「できましたわ」
魔皇女「抱きかかえに来るお父様の顔をジャンプしつつ思い切り」
勇者「えー……」
魔皇女「話がそれましたが、お姉さま」
天馬騎長「……なんでしょう」
魔皇女「あなたが勇者の姉でありたいなら」
魔皇女「もっと気楽に生きることを勧めますわ」
王女「なん……だと……」
勇者「あれ? 王女?どうしてここに」
王女「医務室に行って帰って来なければ心配するであろう」
王女「それよりも!」
王女「さっきの話は本当なのか!?」
勇者「それは……」
王女「姉が!年上の兄弟がいるなら!」
王女「昨日の問いが嫌な繋がり方をするぞ!」
勇者「昨日話したとおりだよ」
王女「……」
王女「信じていいんだな」
勇者「うん」
王女「わかった! 信じよう!」
魔皇女「王女さまは物分かりがよくて頼もしいですわね」
天馬騎長「……」
王女「ええと……」
魔皇女「では、わたくしが紹介しますわ」
魔皇女「こちらは天馬隊……天界の中心部隊の長で」
魔皇女「勇者の姉に当たる……」
魔皇女「天馬騎長お姉さまです」
天馬騎長「今日はただの白仮面として扱って欲しいのですが……」
魔皇女「お姉さま、こちらは勇者とわたくしの友人、王女ですわ」
王女「よろしく頼む」
天馬騎長「……お噂はかねがね聞いております」
天馬騎長「勇者とはほどほどに仲良くしてくださいね」
影の騎士「勇者。ここにいたのか」
勇者「あれ? 影の騎士さん」
天馬騎長「あなたは……」
天馬騎長「影の里の古株の騎士の隊長の前任さんでしたね」
影の騎士「お、おう。 適当に縮めて呼んでくれ」
影の騎士「つーかあんたは……まあいいや」
影の騎士「それよりも」
影の騎士「勇者、魔王のやつが呼んでたぜ」
王女「い、いよいよ魔王か!」
勇者「そういえば明日の最初に当たるのか……」
―コロシアム地下・魔王専用室―
コンコン
「勇者か」
勇者「はい」
ギィィイ
魔王「入れ」
勇者「お久しぶりです」
勇者「魔王様」
魔王「言うまでもないが、明日の一試合目に余と勇者はぶつかる」
勇者「はい」
魔王「魔闘会で戦うのは二度目だな」
勇者「あの時はノーシードでしたから一回戦で当たりましたね」
魔王「人数も少なかったからな」
魔王「……」
魔王「不思議なものだ」
魔王「あれほど戦いの日々に飽いていたというのに」
魔王「近年はこの日が楽しみで仕方ない」
勇者「……分かります」
魔王「お前が5年間を生き抜き」
魔王「世界に平和をもたらし……勇者の称号を手に入れ、そして……」
魔王「余の前に立ちはだかることを誇りに思う」
勇者「魔王様や三魔将軍の方々の協力あってこそです」
魔王「ああ、その"魔王様"というのを間違っても場内で使うでないぞ」
魔王「勇者が魔王を敬うなど萎えることこの上ない」
勇者「……え"っ?」
勇者「もしかして、今年もアレをするのですか?」
魔王「もちろんだ」
魔王「余が魔王で、貴様は勇者なのだからな」
翌日
魔界格闘大会最終日
王女「ええと……今日はいきなり勇者の試合なのだな」
魔女「しかも相手は魔王だね」
王女「しかし妙に静かだな……」
実況『……新暦5年』
実況『次々と魔王軍を打ち倒し、勝ち進む勇者』
王女「な、なんだ?」
実況『魔王城に乗り込み』
実況『将軍でさえ止めることができず』
実況『今! ついに魔王様の目前までやってきたァ!!』
ザッザッ…
勇者「えと……」
勇者「ま、魔王ー!!」
勇者「お前の悪行もこれまでだ!!」
魔王「来たかッ! 勇者ッ!」
勇者「魔物から人々を守るためー!」
勇者「み、皆が安心して暮らせる未来のためぇー!」
勇者「今! お前を討つ!」
魔王「ほう……人間風情が粋がりおって」
魔王「その華奢な四肢を引き裂き!」
魔王「ハラワタを喰らい尽くしてくれよう!」
ワァァアアアアアアア!! ウンコモクウノカ!?
マオウサマァアアアア ユウシャヲブッコロセェエエエエ
王女「なんだ? この茶ば……掛け合いは」
魔女「ファンサービスだね、多分」
勇者「行くぞっ!」
魔王「かかってこい!」
ダッ!
勇者(セリフの都合上、俺の先手が約束される!)
勇者(正々堂々と戦いたい気持ちもあるけど……)
勇者(力量の差を考えれば、この利点を生かさないと勝ち目はない!)
勇者(全力の拳を! 腹に打ち込む!)
勇者「だりゃあッ!」
ドスッ
魔王「カハッ」
実況『クリーンヒットォ!!』
勇者(入った! そして効いた!)
ヌッ
勇者「!」
勇者(掴みかかりにきた! 今からじゃかわせない!)
勇者(だから……)
ドガァァアアアン
勇者「ぐぁ!」
魔王「グッ!?」
実況『そして間髪入れずに落雷魔法!!』
勇者(俺も少しダメージを負ったけど……)
勇者(これで相手の意識を一瞬ずらせた!)
勇者(脇を抜け後ろ側に……)
ガシッ
勇者「あれっ」
魔王「捕まえたァッ!」
勇者「どわっ!」
グイッ
実況『魔王様! 落雷に一瞬もひるまない!』
実況『勇者を持ち上げた!』
勇者(まだ間に合う! もう一発……)
勇者(っ!?)
勇者(掌から魔力を流し込まれてる!)
勇者(俺の体の中に魔力の流れができてるんだ!)
勇者(これじゃ魔力が練れない!魔法が使えない!)
バッ
実況『魔王様! そのまま高く跳躍!』
勇者(な、なんだ!?)
魔王「オオオオォッ!!」
実況『そして全体重をかけ、勇者を抑えたまま落下ァ!』
勇者(や、やばい! これは……!)
ズンッ!
勇者「うぎゃぁあぁぁあああああ!!」
実況『決まったァ〜ッ!』
実況『"魔王バスター"だァアアアアアア!!』
勇者「ぐ……う……」
勇者(意識が一瞬飛んだ……相手は今どこ……だ……!?)
ビュオッ
勇者「!!」
バッ ドゴッ
実況『魔王様の追い打ちパンチ! しかし勇者これをかわす!』
勇者(あ、危ない! ほとんど勘でかわした!)
ダッ
勇者(まぐれでもなんでもいい! 今攻めるしかない!)
実況『勇者、魔王様の腕を駆け上がる!』
勇者「うぉおおおおッ!」
ドゴォッ
魔王「グッ!」
実況『回し蹴りが首筋にヒット!!』
…ニヤリ
勇者(……ま、まさか首への攻撃を誘導された!?)
魔王「ブハァッ!!」
ゴォォオオオ!
勇者「ッ!!」
実況『魔王様! 火を吹いた!!直撃だァ!!!』
勇者(あ、熱い! そして何も見えない!現状の把握ができな……)
ガシィッ
勇者(!? しまった……また……!)
実況『そして火だるまの勇者を構わず掴むッ!』
グルッ
魔王「ハッハァーッ!!」
ドガァァアァアァアアアアンッ
勇者「ぐあぁああああぁぁああああ!!!」
実況『空中で一回転し叩きつけたッ!!!』
実況『"魔王ファイアーボンバー"だァアアアアアア!』
勇者「う……あ……」
実況『勇者ッ! さすがに動きが止まる!!』
バッ
勇者「!!」
実況『魔王様ッ! 更に追い打ちを掛ける!』
ドスゥンッ
勇者「がぁああ!!」
実況『両足で踏みつぶしたッ! 魔王スタンプだァ!』
実況『そして猛攻はまだ続くッ!!』
王女「ゆ……勇者……」
魔女「うわあ、こりゃすごいね」
勇者「ぎゃあぁぁあああああ!!!」
実況『魔王エルボーだァアアア!!』
勇者「うぎぎぃいぃいいいい!!」
実況『魔王固めが決まったァアアアア!!!』
勇者「ぐぁああああぁあ!!」
実況『魔王スープレックスだァアアアア!!!』
勇者「うぶわぁああああああ!!!」
実況『魔王ドライバァァアアァアアァアアアアア!!!!!』
サイクロプス「オラ勇者ァ! しっかりしやがれェ!!」
ベキベキ… ブォン!
実況『観客席からイスが投げ込まれたァ!!』
魔王「ほう!」
実況『それを魔王様が手に取っ……』
実況『あっ――』
――
――――
王女「……者!!」
王女「勇者!! しっかりしろ!!!」
勇者「う……ん……?」
王女「おお勇者! 気がついたか!!」
王女「よかった……ピクリとも動かないから……」
勇者「ここは……」
王女「医務室だ」
勇者「そっか……」
勇者「俺、負けたんだ……」
勇者「そうだ、試合は今どうなってる? 魔皇女ちゃんは?」
王女「馬鹿者!!」
勇者「!?」
王女「そんなことよりもっと自分の体を心配してくれ!」
王女「こんな戦いを毎年やっていては、いつか本当に……」
勇者「……」
勇者「大丈夫、俺は死なないよ」
王女「……」
王女「わたしは……」
王女「勇者は絶対に負けないものだと思っていた」
勇者「あはは、それは買いかぶり過ぎだよ」
王女「だって……勇者はどんな状況でもどこか余裕があった!」
王女「最後にはなんとかしてくれると思わせてくれた!」
王女「それなのに……」
勇者「……今回ので底を見せちゃったかな」
王女「それに、ここの観客はおかしい!」
王女「勇者がやられるところを見て! あんな試合でなぜ盛り上がるのか!」
王女「勝負がついておるのにあそこまでの攻撃を……魔王も魔王だ!」
勇者「あ、あはは……間違ってないじゃないか」
勇者「俺も魔王……も、全力で盛り上げただけだよ」
王女「しかし! 最後は凶器まで使っていた!!」
魔皇女「あれは流れ的に"アリ"ですわ」
魔皇女「勇者、無事元気そうで……」
魔皇女「まあ、なによりですわ」
王女「……」
魔皇女「王女さま、言った通りでしょう?」
魔皇女「勇者もそこまでヤワじゃありません」
勇者「魔皇女ちゃん、試合はどうなった?」
魔皇女「う……」
勇者「?」
魔皇女「も、もちろん勝ちまし……たわ」
魔女「いやあ、面白い試合だったよ」
勇者「魔女さん、魔皇女ちゃんの試合を見てたんですか?」
魔女「ああ、お互いに弱体化魔法をかけてね」
魔女「持久戦になって結局判定で勝ちが決まったんだ」
魔皇女「地味で退屈な展開になってしまいました」
魔皇女「魔導骸骨は慎重だからやりにくいんですわ」
魔皇女「……それはさておき、勇者」
勇者「ん?」
魔皇女「あなたは優勝した時なにを願うつもりでしたの?」
勇者「願い事?」
魔女「そういえばそんなのもあったね」
勇者「優勝することそのものが目的だったし……」
勇者「一つでも多く勝とう。としか思ってなかったからなあ」
勇者「別にないや」
魔皇女「はい?」
魔皇女「願い事がないと言いました?」
勇者「うん」
魔皇女「……あきれた」
勇者「えっ?」
魔皇女「いいでしょう。 わたくしがあなたに最高のプレゼントを差し上げますわ」
勇者「ど、どういうこと?」
魔皇女「わたくしの勝利をあなたに捧げる、と言ったのです」
魔皇女「では、動けるところまで回復したら試合を見に来てくださいな」
王女「……大丈夫なのか?」
勇者「うん、行くよ」
勇者「すごく嫌な予感がするけど」
――
――――
実況『で、出るぞ……』
魔王「ウォオオ!」
魔皇女「きゃああああ!!」
ドゴォオ
実況『"魔王バスター"だァアアア!!』
実況『アッ!?』
魔王「!?」
実況『なんと!? 叩きつけた場所に魔皇女様がいません!!』
魔皇女「技には……思わぬ抜け道があるものですわ」
魔王「お、お前!」
魔皇女「そう! この時のために特訓を重ねて来ました!」
魔皇女「これが……わたくしの……」
グギギィィイイ
魔皇女「"魔王バスター・バスター"!!!!」
魔王「……ッ!」
実況『魔皇女様! 足で首を絞めあげる!!』
魔王「」
ズズーンッ
実況『魔王様! 泡を吹いて倒れたァーッ!』
実況『勝者は!』
実況『優勝したのは!!』
実況『魔皇女様だァァアアアアア!!!』
ワァアアアアア!
魔皇女「……」
魔皇女「三界にその名を轟かせる魔王も」
魔皇女「わたくしの前ではただの親、ということですわ」
勇者「ひ、ひどい……」
実況『では! 魔皇女様!』
実況『優勝者の言葉と! 願い事を宣言してください!』
魔皇女「分かりましたわ」
魔皇女「……拡声魔法っ!」
ポゥ…
魔皇女『わたくしが! 今、三界で一番の実力者となった!魔皇女ですわっ!』
ウォオオオオオオオオオオ!!
魔皇女『五年目……歴史ができつつある魔界格闘大会』
魔皇女『それを壊すことなく、闘い抜いたこと』
魔皇女『お父様の娘として、相応の価値を示せたこと』
魔皇女『そして一人の参加者として、祭りを楽しめたこと』
魔皇女『今日のすべてを誇りに思いますわ』
魔皇女『……』
魔皇女『しかぁし!』
魔皇女『一つだけ、納得できていないことがあります!』
勇者「……あ゙っ」
魔皇女『わたくしには数多くの友人がいます』
魔皇女『その誰もが強い"個"を持ち、利を求め戦い続ける修羅ですわ!』
王女「しゅら……?」
魔女「すごい例え方をされてしまったね」
魔皇女『しかしその中にただ一人! 欲の欠けた者がいます!』
魔皇女『"願いことを考えてなかった"などとのたまうベスト4!』
魔皇女『勇者その人ですわ!』
王女「ま、まさかこれは……」
魔女「おやおや、名指しとはね。 勇者君も大変だ」
勇者「……」
魔皇女『勇者とは長い付き合いでしたが……いえ』
魔皇女『昔からの友だからこそ、拳を交えなければ気がすみません!!』
魔皇女『つまり!』
魔皇女『わたくしの願いは!』
魔皇女『勇者とのエキシビジョンマッチ!!』
ワァアアアアアアアア!!!
勇者「じゃあ行ってくるよ」
王女「い、行くな! まだ傷が……」
勇者「条件は似たようなものだよ」
実況『な、なんということでしょう!!』
実況『さすが魔皇女様! 最後まで盛り上げてくれます!』
勇者「……行事の為なら、協力するよ」
魔皇女「勇者、あなた勘違いをしていますわ」
魔皇女「願い事は自分のためにするもの」
魔皇女「わたくしはただあなたが気に入らないだけ」
魔皇女「宣言に偽りはありませんわ」
勇者「……」
魔皇女「最も、あなたはこの戦いに勝つ意味が薄い」
魔皇女「よって面白いルールを用意しました」
勇者「えっ?」
王女「もはや盛り上げるためだけの戦いではないか……」
王女「勇者、無茶はしないでくれ……!」
魔女「というかできないんじゃないかな」
王女「む?」
魔女「勇者君は簡単に負けちゃう気がするな」
魔女「魔王と同じ理由で」
実況『なんだっ? 何かが運ばれてきます!』
王女「お?」
勇者(テーブル? なんでまた……)
ガラガラ…
勇者(それに……ど、銅鑼?)
魔皇女「……こほんっ」
魔皇女『ルールを説明しましょう!』
魔皇女『わたくしと勇者は一定時間ごとに』
魔皇女『二つの競技で戦います!』
魔皇女『一つはもちろん純粋な戦闘!』
魔皇女『もう一つは……』
コトッ
魔皇女『盤上の格闘技、チェスですわ!』
勇者「これは……さすがに予想できなかったなあ」
魔皇女「これなら勇者がわたくしに遠慮していても」
魔皇女「拳を振るうことなく勝つことができますわ」
勇者「遠慮なんてしないよ」
魔皇女「……ここまでしないとそうしないくせに」
勇者「……」
魔皇女「さ、お掛けなさい」
勇者「でかいね、チェス盤と駒。 ポーンが拳ぐらいあるよ」
魔皇女「なんとなくでも周りから戦況がわかるようにするためですわ」
魔皇女「勇者、チェスのルールは分かってますわよね?」
勇者「うん。西の国の文化だよね」
勇者「何度か指した程度だけど知ってるよ」
魔皇女「わたくしは定石の本をいくつか読みましたわ」
勇者「チェスの本を? どこで?」
魔皇女「……」
魔皇女「ここで長話をするわけにも行きませんわ」
魔皇女「観客にはチェスを知らない者もいるでしょう」
魔皇女「つまらない長考をしても得はありません」
魔皇女「一手5秒。 よろしいですわね?」
勇者「この勝負は魔闘会優勝者の申し込み」
勇者「俺に断る権利はないよ」
魔皇女「……では始めましょう!」
魔皇女『銅鑼を!』
実況『魔闘会初のエキシビジョンマッチ! はじめェ!!』
ゴゥワアアアアアアン
魔皇女「先行はわたくしですわ!」
コトッ
勇者「どっちが有利かも知らないや」
コトッ
魔皇女「……!」
コトッ
コトッ
勇者「……!」
ガタッ ガタッ
実況『おおっと!? 両者立ち上がった!!』
魔皇女「気づいたようですわね」
勇者「ああ、チェス盤が大きすぎる」
勇者「座ったままじゃ奥まで届かない」
ババババババッ
実況『これは!?』
実況『二人共素早く駒を動かす!!』
実況『傍から見ると殴り合っているようだ!!』
ゴワァァアアアアンッ
実況『ここでドラがなった!』
魔皇女「あら……もう終わりですの」
勇者「まだまだ序盤といったところかな」
実況『次はいよいよ……本当の殴り合いだァ!』
魔皇女「……さて」
魔皇女「魔闘会の場で拳を合わせるのは初めてですわね」
勇者「そうだね」
魔皇女「わたくし、期待しておりますの」
魔皇女「がっかりさせないでよ」
勇者「!!」
ゴワァァアアアアンッ
実況『第二ラウンド、開始ィ!』
魔皇女「はぁっ!!」
ダッ バッ
実況『魔皇女様! 火炎魔法と共に突っ込む!』
勇者「無理に付き合わないっ!」
バッ
実況『勇者! うまく横にかわした!』
勇者「そこだっ!」
ドガァアアアンッ
実況『そして落雷魔法!』
勇者「まさかこれで終わりじゃないだろう!?」
魔皇女「当然っ!」
バチバチッ
ブォン
勇者「うぉっ!?」
実況『魔皇女様の連撃! これもなんとかかわす!』
実況『そして魔皇女様! 無傷です!』
魔皇女「帯電魔法……わたくしのオリジナルですわ」
魔皇女「氷柱魔法!」
勇者「くそっ!」
ダダダダッ
実況『氷柱を落とす下級魔法! しかしすごい連打で迫力十分!』
実況『勇者! 防戦一方だ!』
魔皇女「そらそらっ! もっと楽しませて頂戴な!」
バッ
パキィィイイイインッ
勇者「んなっ!?」
実況『氷山魔法だ! 勇者の半身が埋まったァア!』
勇者「くっ! 動けない!」
魔皇女「今ですわ!」
ダダッ バッ
魔皇女「助走をつけて飛ぶわたくし!」
魔皇女「そして!」
実況『こ、これは!!』
魔皇女「必殺! イナズマキィイック!!」
バチバチ
ドゴォォオオオッ
勇者「ぐぁああああ!!」
実況『直撃ィィイイイ!! ガードごと持っていかれたァ!』
ドシャァアア
実況『氷山から吹き飛ばされる勇者の体! これは効いた!』
勇者「う……く……」
勇者「うぉおおおおお!!」
ダッ
実況『こんどは勇者が突っ込む!』
魔皇女「最初から全開で来ないから先手を許すんですわ」
魔皇女「終わらせてあげましょう!」
勇者「おりゃぁっ!」
ブンッ
魔皇女「っ!」
バキィッ!
魔皇女「痛っ――! これは!」
勇者「……剣術なら、こっちに分がある!」
実況『勇者!さきほどの氷柱を手に取り攻撃!』
実況『氷柱が折れはしたが魔皇女様にダメージを与えたァ!』
勇者「氷柱はまだまだある!」
ゴワァァアアアアンッ
実況『ここで終了ォオ!』
王女「勇者……」
魔女「今のところ互角と言った感じだね」
王女「どっちでもいい……早く勝負がついてほしい……」
王女「……」
王女「いや」
王女「やはり勝って欲しいと思ってしまうな」
魔女「ふふふ、そうだね」
トンッ
実況『さあチェスの再開だ! まだ序ば……』
トンッ トンッ
魔皇女「あ……あら……?」
実況『こ、これは!』
勇者「局面が進むと、本に書いてないような展開になるよね」
トンッ
スッ トンッ
魔皇女「あ……」
実況『魔皇女様! クイーンを取られてしまった!!』
勇者「さあこれで、俺はどんどん攻めていける!」
トンッ
トンッ
魔皇女「く……勇者あなた!」
魔皇女「戦闘の時間! ずっとチェスのことを考えて!」
トンッ
トンッ
勇者「うん、蹴りを入れられるまでは考えてたよ」
勇者「このまま……チェスで勝つ!」
魔皇女「そんなつまらないこと……させませんわ!」
実況『魔皇女様! 5秒いっぱい使っていく!しかし勇者がそれを許さない!』
ゴワァァアアアアンッ
実況『ここで終了! 再び戦闘へと移ります!』
勇者「次の次……いや、次で決める!」
魔皇女「次は来ませんわ。ここで終わらせます」
勇者「格闘でも、負けるつもりはない!」
魔皇女「……うふふ、楽しいですわね」
魔皇女「やはりわたくしの願いは間違っていませんでした」
ゴワァァアアアアンッ
実況『では開始ィ!!』
勇者「よし、もういちど氷柱を持って……」
フワッ
勇者「!!」
実況『これは!? 全ての氷柱が浮かび上がった!』
魔皇女「重力魔法……そして」
チカチカチカチカッ
勇者「しまっ――」
魔皇女「全方位からの熱線魔法!!」
勇者(逃げ場がないっ!なら突っ込む!)
ダッ
実況『お互いに接近!』
ドシュドシュドシュドシュ
勇者「ぐぁああ!!」
実況『複数の熱線魔法が直撃! 勇者が体制を崩す!』
スッ
魔皇女「さよなら、勇者」
勇者(懐に入られた!)
勇者(防御が間に合わない!どうにか一発……)
魔皇女「ひっさつ!」
魔皇女「ジャンピング!」
魔皇女「アッパァアアアアア!!!」
ドゴォッ
勇者「ぐぁぁああああああ!!」
実況『……』
ドサッ
実況『か……』
実況『カエルパンチが決まったァアアアアアアアアアア!!!』
グッ
魔皇女「満足の行く勝利でしたわ!」
実況『魔皇女様! 勝利のガッツポー……』
勇者「ぐ……」
勇者「ぐぎぎ……」
実況『ゆ、勇者! 立ち上がります!』
魔皇女「あらぁ、まだ動けますの?」
魔皇女「では隙だらけなことですし、最後はもっと派手な……」
ガクッ
魔皇女「!!」
実況『おおっと! 魔皇女様も片膝をついた!』
魔皇女「まさか……」
魔皇女「あの時、勇者の拳がわたくしの顎に……?」
魔皇女「……」
魔皇女「仕方ありませんわね」
魔皇女「奇抜な姿なので万人受けはしてもらえませんが……」
魔皇女「確実な方法をとりましょう」
バッ バババッ
魔皇女「―――へんし」
ゴワァァアアアアンッ
実況『ここでドラァ!!』
魔皇女「……」
魔皇女「もうすこし融通をきかせてもいいじゃない」
勇者「魔……皇女ちゃん、今のは……」
魔皇女「第二第三の奥の手ですわ。恐怖しなさい」
勇者「……いや、次で決めるよ」
魔女「勇者君、頑張るね」
王女「盛り上がればいいのなら……」
王女「あのまま倒れていても良かったはず……」
王女「なぜまだ危険を冒して……」
王女「……」
王女「勝算が……あるから……?」
トンッ
勇者「な……!」
魔皇女「気づいたようですわね」
魔皇女「そう! もうチェスで勝つ気などありませんわ!」
勇者「な……な……」
魔皇女「その代わりキングの周りにコマを集め!」
魔皇女「次のラウンドまでつなげ、勝利を」
トンッ
勇者「ナイトっ!」
魔皇女「えっ」
実況『キングに逃げ場がないッ!』
実況『チェックメイトだァアアアアア!!!』
実況『ということは!』
実況『エキシビジョンマッチの勝者は……』
実況『勇者だァアアア!!』
ワァアアアアア! ブーブー!
勇者「あはは……みんな満足って感じではないね」
魔皇女「……ルールはわたくしが決めたもの、この結果に不満はありませんわ」
魔皇女「ただ、あなたがここまで勝ちにこだわるなんて……」
魔皇女「とても意外でしたわ。 理由を聞いてもよろしくて?」
勇者「……」
勇者「勇者は絶対に負けないもの、らしいからね」
勇者「頑張ってみたんだ」
魔皇女「……そう」
魔皇女「自分のために戦える者が一番強い」
魔皇女「そうあなたに教えてあげるつもりでしたが……」
魔皇女「逆に教えられる結果になったしまいましたわね」
勇者「魔皇女ちゃん……」
魔皇女「勇者、来年は決勝戦でやりましょう」
魔皇女「必ずあなたをわたくしの前に跪かせて見せますわ!」
勇者「ああ! 楽しみにしてるよ」
勇者「……すでにもう倒れそうだけどね」
実況『ではこれにて!』
実況『第五回 魔界格闘大会を終了します!!』
――
――――
王女「勇者! 勝ったな!」
勇者「うん、なんとかね」
魔女「願い事が叶わないのが残念だね」
勇者「まあおまけみたいな試合でしたから」
王女「それでは帰るとするか!」
勇者「ああいや、その前に会っておかないといけない人が」
王女「うむ? 誰だ?」
―コロシアムS席―
王女「ここがわたしが来るはずだった……」
勇者「も、もうそれはいいだろう?」
王女「もう大体の観客は帰ってしまったようだが……」
国王「魔界格闘大会、しかと堪能させてもらったぞ」
王女「ち、父上!」
勇者「魔王城の実態……その参考になりましたか?」
国王「うむ」
国王「彼らは現状を、平和な世を楽しんでおる、我々と同じくな」
国王「今のところ戦争の意思はないようだ」
王女「せ、戦争!? 何を言って……」
勇者「それでは、中央国は」
国王「ああ、軍縮に踏み込んで問題ない」
国王「数々の国益、そして平和の伝達」
国王「今まで本当にご苦労であった」
国王「世界に平和をもたらす者、勇者の名に恥じぬ働きであったぞ」
勇者「……」
勇者「ありがとうございます」
王女「ど、どういうことだ? なんの話を」
勇者「とりあえず中央国からの依頼は一区切りついたってところかな」
王女「依頼……?」
国王「平和の調査とその報告」
国王「それを勇者に頼んでおったのだ」
国王「お前も経験を積んだ。あとはもう分かるであろう」
王女「……」
王女「では! 勇者はもう……」
王女「わたしと冒険はしてくれぬのか!?」
勇者「そんなことはないよ」
王女「えっ?」
勇者「王女はまだ魔界でやり残したことがあるだろう?」
王女「!!」
勇者「……その用事が終わったら地上にも用がある」
勇者「そしたら他の国の調査を受けることになるけど」
勇者「中央国に寄る機会もあるさ」
王女「……そうか! そうだな!」
勇者「冒険も!調査も!」
勇者「まだまだ終わらな……」
ドガァアアアアアンッ!!
勇者「いっ!?」
王女「な、なんだ!?」
勇者「あー……」
勇者「魔王城の方から聞こえたね」
王女「つまりこれは……」
国王「勇者、状況の説明をせよ」
勇者「はい」
勇者「イライラして暴れているものと思われます」
国王「ほう?」
勇者「見に行ってみましょうか」
―魔王城―
魔皇女「うわっ! 勇者!?」
勇者「なにがあったの?」
魔皇女「察しているくせにそれを聞きますの!?」
王女「うむ! 聞かせてくれ!」
国王「魔皇女殿、是非お願いしたい」
魔皇女「そんなっ! あなた方まで……」
魔皇女「……仕方ありません、お答えしましょう」
魔皇女「一枚」
魔皇女「壁一枚で済ますつもりでしたの」
王女「なにをだ?」
魔皇女「負けた鬱憤を……ぶつけるものですわ……」
国王「なんと……」
魔皇女「そしたら邪龍が止めに入って……」
魔皇女「あまりにもタイミングが良かったので」
魔皇女「腹を思い切り殴り飛ばしたら思いのほか飛んで……」
魔皇女「こんなことに……」
勇者「うわ、すごい大穴だね……」
ドカン! ドカンドカンドカン!
ギョワァァァアアア!!
王女「こ、今度はなんだ!?」
勇者「あーあー……大砲の火薬に引火したね」
魔皇女「うぅ……邪龍は火薬など効きませんが……」
魔皇女「消火と……謝罪に行ってきますわ」
タッタッタッ
国王「……」
王女「邪龍という者は本当に大丈夫なのか?」
勇者「多分大丈夫だよ」
勇者「ぎょわーって聞こえたけどね」
王女「……」
王女「父上」
王女「無礼を承知で一言」
国王「なんだ? 柄にもなく改まりおって」
王女「今の魔王城を見ていて思ったのですが」
王女「平和になったのかどうかで悩んでいた父上は」
王女「……」
ニッ
王女「馬鹿みたいだな!」
勇者「!?」
国王「……はっはっは! 本当に無礼だな!」
勇者「お、王様?」
国王「理解していたつもりだったが……ようやく実感できた」
国王「子供が元気であること、それが平和の証なのだな」
勇者「……そうですね」
おわり
おまけ
勇者「銀鉱の調査ですか」
勇者「銀鉱の調査ですか」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/14562/1368806285/)
の後処理の話です
王女「こ、ここが孤児院か?」
勇者「そのようだね」
王女「大きすぎやしないか? 砦のようだぞ?」
勇者「邪龍さん……孤児院長に合わせてあるみたいだね」
王女「……今更だが、なぜドラゴンが孤児院長になるのだ?」
勇者「邪龍さんは言葉を話せないから」
勇者「三魔将軍をやめてからずっと仕事がなかったんだ」
勇者「でも、あの娘は竜の言葉が分かるだろ?」
勇者「だから……」
勇者「魔導骸骨郵便局長も今しかないと思ったんじゃないかな」
―魔界大孤児院内部―
王女「うむ? 薄暗いな……」
勇者「まだ子どもたちが入っていないのかな?」
勇者「……」
「どりゃー!」
ゲシッ
勇者「あいたっ!」
少年「あれ? おかしいな……」
少年「首の裏を思い切り叩けば気絶するはずなのに……」
勇者「や、やったなー!」
少年「うわー! にげろー!」
王女「……あいつがいるということは」
パチッ
王女「うわっ! 眩しい!」
邪龍「ゴギャアアアアアア!!!」
王女「うわああああああ!!!」
少女「ちょ、ちょっと院長! 驚かせてどうするんですか!」
邪龍「ゴガ?」
少女「サプライズ? でもそれだと恐がらせちゃいますよ」
王女「……」
少女「え、えへへ……」
少女「久し振りだね」
王女「うむ!」
王女「元気そうでなによりだ!」
少年「とびかかれー!」
子供A「どりゃー!」 子供B「うりゃー!」
子供C「そりゃー!」
勇者「うわっ! あいたたた!」
王女「たくさんの子供がいるのだな」
少女「うん。 私達の村以外の子も多いよ」
王女「ここではどんな暮らしをしているのだ?」
少女「うーん……今までとあまり変わらないかな?」
王女「……なんだと?」
少女「う、ううん! もちろん悪いことはしてないよ!」
少女「ええと、お料理にお洗濯……」
少女「あと、院長が勉強を教えてくれたり……」
少女「それ以外の時間は、みんなと遊んでる……かな」
王女「そうか……」
少女「王女ちゃん……私、この暮らしを続けてもいいの?」
王女「うむ?」
少女「王女ちゃんが魔界に孤児院を作るべきだって言ってくれたから」
少女「私たちはこんな生活ができてるけど……」
少女「毎日がとっても楽しくて、充実してるんだよ?」
王女「?? いいことではないか」
少女「でも、私はたくさんの人を殺したよ」
少女「それが生きるためでも、悪いことなんでしょ?」
王女「……」
王女「それを自覚できているなら、大丈夫だろう」
少女「王女ちゃん……?」
王女「わたしは子供だ、経験が足りん」
王女「だから説教もできない。ただの受け売りになってしまう」
少女「そんなこと……」
王女「しかし、ひとつだけ言えることがある」
王女「わたしは、もう悲しくないぞ」
少女「!!」
少女「うん、ありがとう!」
王女「そうだ、勇者なら良いアドバイスをくれると思うぞ」
少女「……」
王女「あいつは経験の塊のようなやつだからな」
少女「うん……そうだね」
王女「おーい! 勇者ー!」
「なにー?」
王女「罪の意識に悩まされるときはどうすればいいのだー!」
「うーん!」
「そのままでいいと思うよー!」
少女「……?」
「大抵いつもやるべきことがあると思うからー!」
「過去を引きずりながらでも、それを一生懸命頑張ればいいよー!」
「向き合うのは辛いけど時々は頑張る感じでー!」
「あいたっだだだだ! コラ!武器は使うなよ!」
王女「……らしいぞ」
少女「そっか……そうだね」
――
――――
少女「もう帰っちゃうの?」
王女「うむ。 あまり長くなると皆が心配する」
勇者「またちょくちょく来るよ」
少女「……」
勇者「……俺にはやるべきことも、やりたいこともある」
勇者「君もすぐにそうなるさ」
少女「……はい」
少年「勇者! こんどは魚の取り方を教えてくれよ!」
勇者「魚? あの村は沼に囲まれてたじゃないか」
少年「竜に乗ってると生き物はみんな逃げちまうし」
少年「子供だけで小舟に乗るとクラゲに対処できないんだ」
勇者「ふーん、それで……」
勇者「わかった。 今度泳ぎも一緒に教えよう」
少年「本当か!?」
勇者「ああ、約束だ」
邪龍「ゴギャギャガガ??」
勇者「えっ? なんですか?」
少女「送って行こうか、と言ってますね」
王女「いいのか?」
邪龍「ギャガガ」
少女「子供を乗せるのは嫌いじゃないそうです」
勇者「あれ? じゃあ俺は徒歩ですか?」
邪龍「ガッガッガ!」
少女「……えっ?」
王女「な、なんと言ったのだ?」
少女「え…えっと……」
少女「勇者さんは足にでもぶら下がればいいんじゃないですかね」
勇者「えぇっ?」
邪龍「ガ?」
勇者「い、いえ……そうさせてもらいます」
王女「ではな! また会おう!」
少女「うん!」
邪龍「ゴォオオオー!」
バサッ バサッ
少女「……行っちゃった」
少年「最後の、院長はなんて言ってたんだ?」
少女「……」
少女「お前は俺達の家族同然だろうって」
少年「ふーん……」
少女「驚かないの?」
少年「なんかしっくりきたんだ」
少年「案外俺たちと境遇が似てるのかもな」
ビュオー
王女「うわー! 速いな!」
邪龍「〜♪」
勇者「楽しそうですね、邪龍……孤児院長」
邪龍「ギャ!」
勇者「これも、王女のおかげだね」
王女「わたしの?」
勇者「孤児院ができたのは王女のおかげだろう?」
王女「しかしそれは勇者が……」
勇者「あの村を、あの子たちを導けたのは君だけだ」
勇者「俺はあくまでそれを手伝っただけ」
勇者「王女。 もっと誇っていいことだよ」
王女「そうか……な……?」
王女「……」
王女「な、なんだか照れるな……」
―中央国―
王女「ゲートまであっという間だったな! 乗り心地も良かった!」
勇者「うおお……腕がぷるぷるする……」
王女「さてと、城に戻るか! 父上に心配は無駄だと教えてやらねば!」
勇者「うん、じゃあまたね」
王女「……」
王女「うむ?」
勇者「俺は次の国に行くよ」
王女「つ、次の国? どこへだ?」
勇者「うーん……どこにしようかな?」
王女「決めてないのか?」
勇者「なかなか決められないんだ。 どの国も魅力的だからね」
勇者「西の国はのどかで神秘的な場所が多くある」
勇者「東の国は沢山の人がギラギラとした欲を持っている」
勇者「南の国には大きな砂漠と……反逆組織があるって噂だし」
勇者「人間界にも行きたいところは山ほどあるんだ」
王女「勇者は他の国にも行ったことがあるんじゃないのか?」
勇者「うーん、ぐるっと見て回った程度だからね」
勇者「詳しく調べないと調査とは言えないし」
王女「……もう少し中央国に居てくれないか?」
勇者「うん?」
王女「3回の冒険……勇者にとっては冒険と呼べないものだったかもしれんが」
王女「わたしにはとても魅力的だった」
王女「この充実した日々をまだ続けたいのだ……だめか?」
勇者「……ごめんね」
王女「……そうか…………」
王女「では……またな、勇者」
王女「中央国に寄ることがあれば顔を見せに来てくれ」
勇者「あはは、名の通り中央にある国だからね。何回も行くことになるよ」
王女「うむ、そうだな!」
王女「次の調査も頑張ってくれ!」
勇者「ああ!」
この後も、世界を平和にした者・勇者の冒険は続く
それが彼のやるべきこと、彼のやりたいことである限り
おまけおわり
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