モバP「人の間に潜む靄」 (87)

モバマスSSです。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1377104297

古典シリーズです。

P「えーと…あ、おーい」

頼子「……あ、おはようございます」ペコリ

P「うん。おはよう」

頼子「きょ、今日はわざわざ…」

P「いや、こっちこそ、ずっとすっぽかしてて悪かったな」

頼子「い、いえ、流石にお仕事の邪魔をするのは私としても気が引けますし…」

蘭子「やみのまっ!」

頼子「……?」

P「あぁ、実はな…」

蘭子「古の理を解し、世界を総覧するために我は闇より――」

P「えーとな、要約すると、一緒に美術館に連れていってくれってさ」

頼子「あ…そうなんですか」

頼子(どこをどう聞いたらそんな話になるんでしょう…?)

P「ダメかな?」

頼子「あ、いえ、別に構いませんけど…」

蘭子「ふふ…我が…」ムギュ

P「こらこら、外でいきなりそんな言葉使いしたら、変に注目されるぞ」

蘭子「むぅ…」

頼子「ま、まぁ、確かにそれは否めないですね」

P「ほら、頼子も言ってるんだし、な?」

蘭子「…はぁい」

美術館

頼子「自分から誘ったとはいえ、急でしたので、特別展の内容までは把握していませんでした」

P「別にいいんじゃないか?ある程度なら頼子が知ってるだろ?」

頼子「えっ、えぇ、知っている限りなら…」

蘭子「……わぁ」キラキラ

P「蘭子も楽しんでるみたいだしな」

頼子「あの…一ついいですか?」

P「ん?なんだ?」

頼子「神崎さんは、美術品が好きなんですか?」ヒソヒソ

P「そうだなぁ…、なんと言うか服装見れば分かると思うけど…」

頼子「なるほど、そういうものが何となく好きなんですね」

P「そういうことだな」

頼子「まぁ、なんにせよ…目を輝かせているのを傍から見るのは悪くないですね」

頼子(Pさんと二人きりではありませんが、こういうのも悪くはないです…)

蘭子「我が下僕よ…」クイクイ

P「どうした?」

蘭子「これは?」

P「ん?あぁ、これは…鳥名便覧だな」

蘭子「……ん?」

頼子「鳥の名前や、姿を記したものですね。…確か薩摩の方の人が書いていたはずですが…」

蘭子「おぉ、薩摩。我が火の国の隣国であるな」

頼子「……あぁ、熊本生まれなんですね」

蘭子「い、いかにもっ!」

頼子「あはは…」

頼子(神崎さんとの会話はもう少し慣れないとなぁ…)

P「楽しんでるか?」

頼子「え、えぇ、やはり、雰囲気がいいですね」

P「そうだな。午前中だと人も少ないし、静かだ」

蘭子「どことなく静謐よ」

頼子「幻想的な感じですね」

P「また、こっち関係の仕事を取ってくるからな」

頼子「あ、ありがとうございます…」

P「好評みたいだぞ、落ち着いた喋り方とか知識がな」

頼子「そ、そうですか……」カァァ

頼子「ま、まぁ…私にも目標がありますから…」

蘭子「下僕よっ!これは…?」

P「えーと、なんだろなぁ…」

頼子「それは――」

P「あ、これってなんだっけ?」

頼子「えーと…あ、そうだ。これ聞いてみますか」

P「ん?なんだそれ?」

頼子「美術館入る時に、貸して貰ったんです。音声ガイド…ですかね」

P「なるほど。今は、そんなものもあるんだな」

頼子「海外の方も…来ることがあるでしょうしね」

P「なるほどな。色々考えてるんだ」

頼子「えぇ…。そうですね。さぁどうぞ」

P「ん?あぁ、分かった」

頼子「右耳でいいですか?」

P「一緒に聞くのか?」

頼子「…ダメですか?私も聞きたいので」

P「まぁいいけどな。それじゃ、隣を失礼して…」

頼子「……♪」

P(意外に恥ずかしいなこれ…)

蘭子「げ、下僕よっ!」

P「ん?どうかしたか?」

蘭子「な、何をしているのだっ、は、破廉恥な」カァァ

頼子「流石にそこまでじゃないと思いますけど…」

P「まぁまぁ。蘭子も聞いてみるか?」

蘭子「え、あ、うん」コクコク

P「粗方見終わったかな」

蘭子「心の器は満たされん」

頼子「そうですね。あ、Pさんお仕事は…?」

P「まだ、午後になってないから平気だと思うよ。わざわざありがとな」

頼子「いえ、以前に午後からお仕事がと言っていたので少し気になっていまして…」

蘭子「我がタスクは太陽が折り返した時からよっ!」

頼子「……えーと?」

P「蘭子は午後から俺と一緒に事務所に戻る予定だ」

頼子「なるほど。タスクってそのままの意味でしたか」

P「みたいだな。そうだ、何か食べていくか?」

蘭子「おぉ!」

頼子「いいんですか?」

P「まぁ、こんな機会も滅多にないだろうしな」

頼子「…ありがとうございます」

蘭子「いざ行かん!」

蘭子(ご飯ご飯♪)

P「頼子は事務所に行くか?」

頼子「いえ、私は家に帰ろうかと」

P「そうか…」

蘭子「もう別れか…。今生ではない分我慢を重ねるしかあるまい」

頼子「あはは…。あ、そうだ一ついいですか?」

P「ん?どうかしたか?」

頼子「いえ、やっぱりなんでもないです。それじゃ、お仕事…頑張って下さいね」

P「お、ありがとな」

蘭子「闇に飲まれよっ!」

頼子「さよなら…?でいいんですかね」

P「さて、午後からだけど頑張るか」

蘭子「……うんっ」



事務所

P「お疲れ様。それじゃあな」

蘭子「やみのまっ!」

ちひろ「元気ですねぇ…」

P「まだ14歳ですから。俺たちとは違いますよ」

ちひろ「たちってなんですか。俺たちって」

P「そのままの意味ですよ。ねぇ、菜々さん?」

菜々「えっ!?いや、まだナナは元気ですよ」

ちひろ「まぁ、プロデューサーさんの言うことも一理ありますね。あ、スタドリどうですか?」

P「頂きますね。菜々さんはどうです?」

菜々「え、それじゃ、ナナも一本いいですか?」

ちひろ「えぇ、どうぞ」

菜々「…んぐ、ぷはぁ」

P「いい飲みっぷりですね」

菜々「そ、そうですかね?」

ちひろ「そうですよ」

P「そういえば、菜々さんが14歳の時はどんな感じだったんですか?」

菜々「え、どうしたんですか、藪から棒に」

P「いえ、大した意味はないんですけど、蘭子とか幸子とか見てると14歳って結構なんと言いますか…」

菜々「はっちゃけてますよね」

P「えぇ、そうです。だから、菜々さんはどうなのかなって」

菜々「そうですねぇ…。普通の中学生でしたよ。皆とお喋りしたり」

P「そうだったんですか」

菜々「えぇ、そうだったんです。懐かしいなぁ…」

菜々「……あ」

P「どうかしましたか?」

菜々「さ、さっきのはナシです!ナナが中学生の時はウサミン星でブイブイ言わせてましたよ!」

P「そうでしたか」

菜々「あ、危うく引っ掛かるところでした…」

ちひろ(引っ掛かるというか、自爆だと思いますけど)

菜々「ま、まぁ、楽しい学生生活でしたよ」

菜々(まぁ、尤もそういう話は皆とは、あまりしてないんですけどね)

菜々(理解されなかったらされなかったで中々辛いものがありますし…)

ちひろ「ちなみにプロデューサーさんはどんな14歳だったんですか?」

P「俺は普通に部活に明け暮れる生活でしたよ。ちひろさんは?」

ちひろ「私ですか?私は…あははは」

蘭子の部屋

蘭子「……ん」

蘭子(寝れないなぁ…)

蘭子「…水でも飲もうっと」

蘭子「…ぷはっ」

ホーゥホーゥ

蘭子「…ん?」

蘭子(なんの…音?)

ホーゥホーゥ

蘭子「…梟?」

蘭子(そう言えば、CDのお仕事の時に梟と一緒に写真撮ったっけ)

蘭子「…その姿は不可視なりて、我の眼に映らず」

蘭子「……寝ようっと」

?「正直、神崎蘭子ってさ、何言ってるか分からないよな」

?「言葉が通じない、不思議系ってやつ?」

?「可愛いっちゃ可愛いかもだけど、俺はナシだなぁ。それにさ――」

蘭子「……」バッ

蘭子「…朝?」

蘭子(あ、事務所行かなきゃ…)

蘭子(なんだったんだろう…夢かな?)

すみません中座します。

期待してる
古典シリーズは雰囲気が独特な感じがして特に楽しみにしてるシリーズ

>>21
雰囲気ですか、自分ではよくありませんが気に入って頂けて幸いです。これからもがんばります。

それでは、再開します。

事務所

蘭子(なんだったんだろう…。誰の声だったのかな?)

蘭子「闇に飲まれよっ!」

夕美「あ、うーん…」

夕美(闇に飲まれよっ!ってどういう意味だっけ…?)

夕美「あはは…」

楓「……」ジー

蘭子(あれ…?通じない?)

夕美「あ…」

蘭子「し、失礼しましたっ!」バタンッ

楓「…ふっ。我は天より舞い降りし…あれ?蘭子ちゃんは?」

夕美「楓さんなにしてるんですか…」

楓「いや、蘭子ちゃんが闇に飲まれよって言ってたんで、返しを考えてたんですけど…」

夕美「さ、流石に遅いんじゃないですかね…?蘭子ちゃん行っちゃいましたし」

楓「次に来た時にリベンジします」

夕美「が、頑張って下さい…」

夕美(そういえば、なんか涙目だったような…)

楓「さてと…お仕事ですね」

夕美「頑張って下さいね楓さん」

楓「えぇ、行ってきます。やみのまっ!」

夕美「あはは…」

夕美(私は事務所でゆっくりしとこうかな…)

路上

蘭子(皆…もしかして)

ホーゥホーゥ

蘭子「……え?」

?「神崎蘭子ってさ――」



蘭子「も、もうやだぁ…」ジワァ

P「ん?蘭子どうした?」

蘭子「…え?」

幸子「…大丈夫ですか?」

蘭子「ふぇ…」ギュ

P「お、おおお?」

蘭子「……良かった」

泰葉「何かしたんですかプロデューサーさん?」ジー

P「な、なにもしてないって」

蘭子「…っく、えっぐ…」

幸子「結構本気で泣いてるんですけど…」

泰葉「と、とりあえず、私の部屋に行きましょうか。すぐですし」

P「あ、あぁ。蘭子歩けるか?」

蘭子「……」コクン

泰葉の部屋

泰葉「これ、お茶ですけど飲めますか?」

蘭子「……」コクコク

幸子「あ、ありがとうございます。ボクまでわざわざ」

泰葉「いえいえ」

P「一体どうしたんだ?」

蘭子「……」フルフル

泰葉「喋れないんですか?」

蘭子「……」ジワァ

幸子「一体どうしたんですかね…」

P「蘭子?」

泰葉「……な、なぜ口を開かぬ。魔王の眷属が聞いているのだぞ。悲しみに囚われ口を噤むだけでは、何も生まれぬぞ?」

蘭子「……」ビクッ

幸子「お、岡崎さん?」

泰葉「こ、こんな感じですかね?恥ずかしいですけど」ポリポリ

蘭子「わ、私の言葉分かるの?」

泰葉「そりゃ、分かりますよ。ね?プロデューサーさん」

P「まぁ、俺は付き合い長いしな」

幸子「ボクも問題なくわかりますよ」

蘭子「…良かったぁ」ホッ

P「うん。だから安心してくれよ…」ナデナデ

蘭子「……」コクン

P「…そろそろ話してくれないか?」

蘭子「も、もうちょっと撫でてくれたら…」

幸子「甘えまくってますね」

幸子(見てるこっちが胸焼けしそうです…)

泰葉「輿水さんお茶のお代わりはどうですか?」

幸子「あ、ありがとうございます。しかし、凄いですね一人暮らしなんて」

泰葉「慣れちゃいました。それに、定期的に見に来てくれる人がいるんで」

幸子「誰がですか?」

泰葉「私…の知り合いの方がです」

幸子「そ、そうですか」

P「おーい」ペチペチ

蘭子「……ん」スゥ

P「蘭子寝ちゃったんだけど…」

泰葉「あらあら…。私のベッドに寝かせていいですよ」

P「運んでくるか。幸子、そこの扉開けてくれ」

幸子「は、はいっ」

P「お、ありがとう。次は、そっちのドアを開けてくれ」

幸子「はい…ってなんでそんなに岡崎さんの部屋の間取りに詳しいんですか」

P「まぁ、来たこと何回かあるし。流石に寝室に行ったことはないけど、そこら辺は勘でな」

幸子「…凄まじい勘ですね」

P「なんというかな。それじゃ、寝かせるとするか」

P(まだ14歳だもんな…)

幸子「しかし、一体どうしたんでしょうねぇ…」

泰葉「プロデューサーさん心当たりは?」

P「だから何もしてないって。昨日だって博物館行ったし…」

幸子「…デートですか?」

P「そんなんじゃないよ。頼子もいたし」

泰葉「そうなんですか」

幸子「そこで変わったことは?」

P「特になかったかなぁ…」ピリリリリ

P「あ、ごめんな」ピッ

P「はい。もしもし」

ちひろ『あ、もしもし、プロデューサーさん今、大丈夫ですか?』

P「平気ですけど」

ちひろ『蘭子ちゃんが、事務所出て行ったきり帰って――』

P「蘭子なら、今、一緒にいますよ。眠った所です」

ちひろ「…はい?」

P「えーとですね――」

ちひろ『なるほど。そういうことでしたか。とりあえず、所在が分かるなら良かったです』ハァ

P「えぇ、後は俺に任せて下さい」

ちひろ『はい。ありがとうございます』

P「それじゃ、失礼しますね」

幸子「ちひろさんですか?」

P「そうだよ。なんでも蘭子が心配で電話掛けてきたらしい」

幸子「なるほど…」

泰葉「神崎さんどうしましょうか…?」

P「出来れば安静にしておきたいんだが…」

泰葉「私は別にいいですよ。仲良くなれる機会ですし」

P「……」

泰葉「…どうかしましたか?」

P「…いや、変わったなぁと思って」

泰葉「そ、そうですかね…」ポリポリ

蘭子「……ん」

蘭子(ここ…どこ?)

泰葉「あ、目を覚ましたみたいですよ」

P「お、良かった良かった」

蘭子「…私は?」

P「家に来てから寝ちゃったんだよ」

幸子「予想外の出来事の連続で流石のボクも驚きましたよ」

蘭子「ご、ごめんなさい…」

幸子「あ、いや、そういうわけじゃなくてですね…」

P「結局どうしたんだ?」

蘭子「ふ、梟が…」

P「梟?」

蘭子「梟の鳴き声が聞こえるの…。その後に、皆が私のことを…」ジワァ

P「なるほどなぁ…」

P(俺には聞こえないけど、蘭子には聞こえるのかな?)

幸子「そ、そんなことないですって!きっと聞き間違いです。ボクが言うから間違いないですよっ!」ドヤァ

泰葉「…それじゃ、今日は一緒に寝ましょうか?」

蘭子「……いいの?」

泰葉「はい。同じ事務所のアイドルじゃないですか。我が眷属ですから」

蘭子「…ふっ、いかにも。今宵は二人で魔翌力を蓄えようぞ」

泰葉「そうですね。一緒に寝ましょうか」

蘭子「…ありがと」

車内

幸子「神崎さん大丈夫ですかね…?」

P「…優しいな幸子は」

幸子「と、当然ですよ、ボクなので」

P「そうだな。それじゃ、気をつけろよ」

幸子「…むぅ、そのリアクションは、分かってませんね」

幸子(まぁ、Pさんにかかれば、平気だと思うんですけど)

幸子「それじゃ、失礼します。送って貰えて嬉しかったですよ」

事務所

P「お疲れ様です」

楓「かみのみっ!」

P「…なんですか一体」

菜々「なんでも、蘭子ちゃんの真似だそうです」

楓「神のみぞ知る。略してかみのみです」

P「ちなみに意味は?」

楓「それは…神のみぞ知りますっ!」ドヤァ

菜々「ナナもさっき同じ質問してしまいましたよ…不覚でした」

ちひろ「なんでも、お仕事帰ってきてからずっと考えてたみたいです」

楓「もっと、褒めてくれてもいいんですよ?」チラ

P「お疲れ様です」

楓「お疲れ様でーす…」シュン

ちひろ「そういえば、蘭子ちゃんは大丈夫でしたか?」

P「えぇ。平気ですよ。でも、その、なんというか…」

菜々「歯切れが悪いですねぇ、どうかしましたか?」

P「えぇ、実は…」

菜々「なるほど、梟さんですか…」

P「俺には見えないけど、確かにいるらしいんですよ」

ちひろ「まぁ、いないから大丈夫。って言って平気な感じじゃなさそうですね」

P「そうなんですよね。病は気からとも言いますしなんとかしてやりたいんですけど…」

菜々「え、そんなの簡単じゃないですか」キョトン

P「そうなんですか?」

菜々「はい。蘭子ちゃんには見えてるんですよね?」

P「見えてるのかは知りませんけど…感じるとは言ってたような」

菜々「なら、蘭子ちゃんの世界の中で倒しちゃえばいいんですよ」

P「……はい?」

菜々「チャンネルを合わせる感じでこうズバっと」

ちひろ「経験がありそうな感じですね」

菜々「…ナナも、そういうのがありましたから」

P「…なんとなく分かりました。ありがとうございます」

菜々「い、いえ、もしかしたら適当なこと言ってるだけかもしれないんで、あくまで頭の片隅にちょこっと置いといて下さい」

P「いえ、流石です」

菜々「そ、そうですか…えへへ」

ちひろ「さすが経験者は違いますね…」ボソッ

菜々「聞こえてますよ、ちひろさん」

ちひろ「へっ?あ、ほら、早く仕事終わらせて帰りましょうよプロデューサーさん」

P「は、はい。分かりました」

菜々「それじゃ、ナナはこれで帰りますね。お疲れ様でしたー。楓さんも帰りましょ」

楓「それじゃ、このままお酒でも?」

菜々「な、ナナはJKですので…、その…えーと…」

楓「私のお家でならどうですか?」

菜々「…ちょっとだけならですよ?」

楓「はい♪ありがとうございます」

ちひろ「お疲れ様でーす」

P「それじゃ、そろそろ帰りますか」

ちひろ「そうですね。お疲れ様でした。あ、今日は、私もお友達と約束があるので電車で帰りますね」

P「そうですか。お気をつけて」

ちひろ「はい。お疲れ様です」

古本屋

店員「……くぁ」

店主「もう閉めていいよ?」

店員「…もう、少しだけいいですか?」

店主「別に店番してくれるなら細かいことは言わないけど」

店員「…ありがとうございます」

店主「そんなに彼と話したいのかい?」

店員「…彼?」

店主「ほら、今までだったらこんなに夜遅くに店を開けてたり、朝早くから店に立ったりしなかったじゃないか」

店員「…あぁ、プロデューサーさんのことですか?」

店主「そうそう。その彼だよ」

店員「別に、何か…したいというわけではないです」

店員「ただ、面白そうな本を手に入れたのでそのお話をしたいなと…」

店主「だから、こうやって待ってるわけだ」

店員「…まぁ、否定はしませんけど」

店主「青春だねぇ」

店員「青春ですか?」

店主「あぁ、なんだか甘酸っぱいよ」

店員「そうなのでしょうか…。私はこの感情を…言葉にする術がないのでなんとも言えないのですが…」

P「こんばんは」

店主「お、件の彼が来たみたいだね。ほら行ってらっしゃい」

P「あ、どうも」

店員「こんばんは…今日は何を?」

P「ちょっと探しものを…」

店員「今日は暇潰しじゃないんですね」

P「え、あ、いや、まぁ、今日も皆帰っちゃったんで来たんですけどね」

店員「そうなんですか?」

P「えぇ…何かありました?」

店員「い、いえ、そんなことは…そ、それより、何をお探しですか」

P「そうですねぇ…なんて言えばいいか」

店員「……?」

P「梟についての本とか…ありますか?」

店員「…飼い方の本でしょうか?」

P「いや、えーと、なんて言うのかな…梟を取り扱った本なんですけど」

店員「うーん…。ここにはないかもしれないですね」

P「そうですか。まぁ、そうですよね」

店員「はい。申し訳ありません」

P「いえいえ、気になさらず」

店員「…あの、今、お時間ありますか?」

P「え、あ、はい」

店員「あの、この本読んだことありますか?」

P「この間読みましたよ」

店員「本当ですかっ?」パァァ

P「えぇ、最後のトリックが凄かったですね」

店員「私も思わず声を出してしまいました」

店主「文香。そろそろ帰った方がいいよ」

店員「あ、はい」

P「…文香さんって言うんですか」

文香「はい。鷺澤文香と申します」

P「そうだったんですね。あ、もうお帰りになるのなら駅まで送っていきますよ」

文香「でも…」

P「いや、正直な話、本の話を続けたくてですね…」

文香「そ、そういうことなら…」

P「読み直すと、確かに矛盾が生じてるんですけど普通は気に留めないですよねぇ」

文香「そ、そうですね…」

文香(さっき、叔父さんに変なこと言われたせいで…なんだか変な感じだなぁ)ドキドキ

P「…鷺澤さん?」

文香「はいっ!どうかしましたか?」

P「いえ、どこか上の空だったので」

文香「そ、そうでしたか?」

P「……?」

文香「い、いえ、大丈夫ですよ」

文香「一つ聞いていいですか…?」

P「えぇ」

文香「ある本で、読んだ話なんですが…」

P「はい」

文香「少女は、お花屋さんのお手伝いをしていて、その店番をしているお店に毎朝訪れる男の人と数言話すのが楽しみでした」

文香「その男性が朝現れなければ、夜少し遅くまで店を開けてまで待っていました」

P「ふむふむ」

P(健気な子だなぁ…)

文香「その男性と話している時は、とてもフワフワとした気持ちになれるそうです」

P「なるほど…」

文香「この時の、少女は、か、彼に対して、どのような気持ちを抱いていると思いますか?」

P「そうですねぇ…。背景が分からないから何とも言えませんけど、恋、そう、恋でもしてるんじゃないでしょうか?」

文香「こ、恋ですか?」

P「勿論、好いた惚れたの恋愛か分かりません。もしかしたら親愛の情かもしれませんけど。愛しいと思っているのは間違ってないかと…」

文香「そ、そうなんですね…」

文香(愛しい…ですか)

P「あ、そろそろ、御茶ノ水ですけど」

文香「あ、そ、そうですね」

P「それじゃ――」

文香「あ。あの」

P「はい?」

文香「じ、実は私、し、新御茶ノ水なんです」

文香「だから…だから、も、もう少しだけ…いいですか?」

P「そうなんですね。それはすみませんでした。それじゃ行きましょう」

文香「は、はいっ!」

文香(実際は御茶ノ水駅なんですけど)

文香(私が空想の少女と同じ気持ちかは、まだ分からないけれど)

文香(これが、私の今出来る最大限の勇気…です)

P「それじゃ、今度こそ」

文香「わ、わざわざ送って頂いてありがとうございます」

P「いやいや、それじゃお疲れ様でした」

文香「おつか…あっ」

P「ど、どうかしましたか?」

文香「梟のお話を一つ思い出しました」

P「本当ですか?」

文香「えぇ…源氏物語に似たようなお話が…」

P「そうですか、ありがとうございます」ギュ

文香「え、あ、はい。その、離していただけると…」カァァ

P「あ、すみません。それじゃ、ありがとうございます。助かりましたっ」

文香「…お疲れ様です」



P「さてと…、源氏物語だったか」

P(とは言ったものの原本があるわけでもないからなぁ…)

P「どうしたものか…」

P(ここは…仕方ないか)ピポパポ

P「あ、もしもし、頼子か?」

頼子『梟のお話ですか?』

P「あぁ、源氏物語にあったらしいんだが」

頼子『…源氏物語や、鳥の歌合に登場していますね』

P「そうなのか」

頼子『えぇ、声はすれども姿を見せず。薄気味悪いものとして描かれていますね。その辺りは鵺に近いものがあります』

P「鵺?トラツグミのことか?」

頼子『えぇ、平家物語にその一説があるはずです。…こんなことを尋ねてくるなんて何かありましたか?』

P「いや、大したことじゃないんだありがとな」

頼子『いえ、頼りにして下さってありがとうございます…』

P「しかし、蘭子の世界か…」

P(どんな風な感じなんだろうか…)

P「リアルじゃなくて、リアリティってことなんだろうけど」

P「それらしいことをして梟を退治すればいいのかな?」

P「そんな簡単なことでいけるといいんだけど…」

P「とりあえず、明日試してみよう」

P宅

P「ただいま」

P「ん?メール?」

P(頼子か…)

頼子『こんばんは。追伸です。もう一つ梟のお話がありました。ある話に声争いに負けると命を取られるという言葉がありました。それではおやすみなさい』

P「おやすみ。っと」ポチポチ

P「命を取られるか…。随分と物騒だなぁ…」

P「そういえば、大丈夫かな二人とも…」

P「一応岡崎さんには連絡しておこう…」

翌日

周子「…ん?どうしたの…珍しい」

P「いや、ちょっとな」

周子「あたし、朝得意じゃないんだけど…」

P「そんなに朝早いわけじゃないけどな。悪い、ちょっとお願いがあるんだが…」

周子「なに?」

P「借りたいものがあるんだ」

泰葉の部屋

P「さてと…」

泰葉「蘭子ちゃんはまだ寝てますよ?」

P「そうなのか?」

泰葉「昨日よっぽど疲れたんですかねぇ…。というか、何をするんですか?」

P「ちょっとね。あ、岡崎さんにもお手伝いして貰うんだが…」

泰葉「別に構いませんけど…」

P「ありがとうございます。それじゃ、ちょっと起こして…」

泰葉「ちょ、ちょっと待って下さい!私が起こしてきますから」

P「あ、そうだな。ごめんごめん」

泰葉「もう…」

蘭子「……」ボケー

P「蘭子ー起きてるか?」

蘭子「……」コクン

P「寝てるなこれは」

泰葉「そ、そうみたいですね…」

P「と言うか…杞憂だったかな」

泰葉「神崎さんのお話ですか?」

P「色々よくない話を聞いたからさ」

泰葉「そうなんですか…」

ホーゥホーゥ

蘭子「……」ビクッ

P「ど、どうした蘭子?」

蘭子「そ、そこに今…」

P「なるほど、岡崎さんこれを」

泰葉「え、ぷ、プロデューサーさん!?」

泰葉(木の板?)

P「これを持ってそこに、立ってて下さい」

泰葉「え、あ、はぁ…」

泰葉(何もない所で一体なにを…?)

蘭子「……え?」

泰葉「ぷ、プロデューサーさん?」

P「…まだ、そこに見えるか蘭子?」

蘭子「……うん」

泰葉「あのー、私はいつまで…」

P「せいっ!」

トンッ

泰葉「きゃっ」

泰葉「な、何をするんですかっ!?」

蘭子「あ…」

P「どうだ」

蘭子「当たった…消えちゃった…」

P「そうか、それはよかった」ホッ

泰葉「…一体何がどうなったんですか?」

P「蘭子に憑いてた梟を退治したんだ」

泰葉「…はい?」

蘭子「……ほゎ」ポケー

P「いきなりで、悪かったな。岡崎さんには最初から説明するよ」

P「蘭子は顔でも洗っておいで」

蘭子「…うん」

泰葉「…なるほど。神崎さんの設定に合わせたということですか」

泰葉(ファンタジックな世界観って感じなのかな…?)

泰葉(さっきの光景は神崎さんにはどう映ったんでしょうか)

P「あぁ、正直どうやっていいか分からなかったから手さぐりでやってみたんだけど上手くいってよかったよ」

泰葉「…正直な話、その梟は思い込みだったんですか?」

P「それは何とも言えないな。ただ、そういう夢を見たせいで、そういう不安なものを見たのかもしれない」

泰葉「なるほど、枯れ尾花という奴ですね。それで、プロデューサーさんは私にダーツを投げたと」

P「流石に岡崎さんの部屋の壁に穴を開けるわけにはいかないしな」

泰葉「ま、まぁ、結果的にそうですけど、びっくりしましたよ」

P「いや、すまなかった」

泰葉「あ、それと一ついいですか?」

P「うん?」

泰葉「別に岡崎さんでもいいんですけど、やっぱり、皆と合わせて泰葉って呼んで貰えませんか?」

P「いいのか?」

泰葉「えぇ。特別な感じがして嫌なんです。前のプロデューサーさんと何か約束をしているのなら別ですけど」

P「いや、アイツはそんなことは言わないからな。分かった。これからもよろしくな泰葉」

泰葉「はい。こちらこそ」

蘭子「あ、あの…タオルってどこに…」

泰葉「あ、洗濯カゴに入れておいて下さい」

P「お、蘭子、さっぱりしたか。それじゃ、ここに座ってくれ」

蘭子「……」コク

P「どうだ。もう何ともないか?」

蘭子「わ、我は真意を得たり。力が滾るぞ!」

P「平気みたいだな」

蘭子「…しかし、いきなり、弓を持ち出し、梟を撃退するなど。かのアポロンの生まれ変わりか?」

泰葉(プロデューサーさんは、ダーツを投げただけなんですけどね)

P「あぁ、実はな。蘭子が危機に陥ってたから真の力を解放したんだ」

蘭子「…わぁ」キラキラ

泰葉(神崎さんの目が輝いてる…)

蘭子「そ、それはもしや…!」

P「あぁ、海の上の扇に当てるのも造作ないことだぞ」

蘭子「…凄いっ!」

P(とりあえず、これでなんとかなったかな…)

P(ダーツも碌に出来ない俺がそんなこと出来るわけないんだけどさ)

P「それじゃ、昨日の分を取り返す為に今日は頑張るかっ!」

蘭子「うむっ!」

泰葉「あ、私も行くんで一緒に行きましょうか」

事務所

P「おはようございます」

ちひろ「あ、おはようございます」

蘭子「闇に飲まれよっ!」

楓「かみのみっ!」

蘭子「…ひゃっ!」ビクッ

P「またですか…楓さん」

楓「ふふーん♪」

夕美「あ、蘭子ちゃんやみのまー」

蘭子「や、やみのまっ!」パァァ

蘭子(良かった。言葉も通じてる)

蘭子(全部気のせいだったのかな…?)

P「お、夕美も来るの早いな」

夕美「いや、花をここに置いてると気になっちゃって」

ちひろ「確かに、前に、私とプロデューサーさんがやらかしそうになりましたからね…」

ちひろ(プロデューサーさんと私が、徹夜明けのテンションでエナドリを水で割った物をあげようとして…)

夕美「そういうこと。だから早く来てお世話してるの」

幸子「あ、もう平気なんですか?」

P「そうみたいだぞ」

蘭子「昨日は…その…」

幸子「ボクの次くらいには可愛いんですからもっと胸を張っていればいいんですよっ!」

P「あはは。幸子め」ナデナデ

幸子「な、なんですか…もう」

菜々「おはようございます」

P「あ、おはようございます」

菜々「あ、蘭子ちゃんが来てるってことは、なんとかなったんですね」

P「えぇ、おかげさまでなんとか」

菜々「昨日の今日で何とかするあたり流石ですよね」

P「まぁ、たまたまチャンネルが合致したって感じですかね」

蘭子「あ、闇に飲まれよっ!」

菜々「漆黒の闇に塗られし魔王よ、更なる高みを目指して共に頑張ろうぞ!」

蘭子「んんっ!?」

P「菜々さん?」

菜々「ゴホンっ。これくらい、ウサミン星人にかかれば余裕のよっちゃんですよ☆」

P(ウサミン星人って凄いなぁ…)

終わりです。見て下さった方ありがとうございます。

頼子が話に出した、声に負けると食われてしまうと言うのは、堀麦水『三州奇談』からの引用です。

源氏物語の夕顔やいくつかの唄にも、梟の声は不気味な存在として捉えられています。

声はすれども姿が見えず、どこか不安になるようなそんな存在として描かれています。

また、平家物語で鵺は、不気味な声を鳴らす存在として描かれており、退治されるまでその姿は描かれていません。

その鵺を退治した方法として、源義家が弓を鳴らして怪事を治めたことから弓の名手が退治をすることになり、退治しました。

なるべく登場するキャラに偏りがないように努力していきたいと思いますので、これからも宜しくお願いします。

弓を鳴らすと言えば、梓弓が有名ですよね。

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