桜木花道「マオーは俺が倒す!」流川「どあほう」 (96)

昔ニュー速VIPに投下したSSです
致命的な台詞ミス等があったのですがそれを修正しての投下となります

スラムダンクの湘北メンバーが魔王と戦うというトンデモな内容ですが楽しんでもらえれば幸いです

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1624513123

魔族の首領である魔王が、突如人間界に侵攻を開始した。

魔王「ふははははっ! この程度か、人間ども!
   どいつもこいつも弱すぎて、まるで相手にならんわっ!」

側近「どうやら人間界には、魔王様に対抗できる人間はいないようですな」

魔王「うむ、手応えがなさすぎる! このまま一気に人間界を支配するぞっ!」

側近「はっ!」

むろん、人間たちも国同士で団結するが、まったく相手にならなかった。

連日のように各国の代表による会議が開かれたが、打開策は生まれず、
もはやお通夜ムードであった。

「ムリだ、勝てっこない」 「魔王軍は強すぎるんだ……」 「もうダメだ……」

「どうしようもない……」 「終わりだ……」 「なんとか人類が生き延びる道を──」

しかし──

安西「私だけかね……?」

安西「まだ勝てると思ってるのは……」

「湘北国の安西国王!?」 「しかし、勝てるワケがない!」 「もう諦めるしか……」

安西「最後まで、希望を捨てちゃいかん……」

安西「諦めたら、そこで人類終了だよ」

安西には秘策があった。
彼は密かに、魔王に対抗しうる戦力を育成していたのだ。

勇者、桜木花道!

戦士、流川楓!

武道家、赤木剛憲!

盗賊、宮城リョータ!

魔法使い、三井寿!

僧侶、木暮公延!

彼ら六名は、さっそく安西のもとに集められた。

安西「ほっほっほ……いよいよ君たちの出番です」

桜木「ようやくこの勇者の出番か! 待ちくたびれたぞ、オヤジ!」タプタプ

赤木「よさんか、バカモン!」

ゴンッ!

桜木「うぐ!」

安西「魔王軍は各国を脅かし、進撃の勢いはとどまるところを知らない。
   各国ともどうにか食い下がってはいますが、戦力差は否めない」

安西「人類の運命は、今や君たちにかかっています」

安西「君たちが魔王軍に勝利を重ねれば、それは人々に勇気と活力をもたらし、
   人類全体の勝利につながることでしょう」

安西「しかし、もし君たちが敗れてしまうようなことがあれば、人々は絶望し、
   瞬く間に人類は滅ぼされてしまうでしょう」

桜木「ふん……この天才勇者、桜木に敗北の二文字はねぇ!」

流川「おめーが勇者じゃ、勝てるもんも勝てねーな」

桜木「なんだと!? ルカワ、てめえ! 戦士の分際で!」

木暮「よさないか、二人とも!」オロオロ

三井「ま、分かりやすくていいじゃねーか。
   俺たちが負ければ世界は終わりだし、勝てば世界は救われるってワケだ」

宮城「もちろん勝つのは俺たちだけどな」

赤木「よし……じゃあやるぞ、おまえら」

六人「俺たちは強いっ!!!」

安西(ほっほっほ……この六人ならやれるかもしれない……)

安西の期待通り、桜木たち勇者パーティは世界各地で魔王軍相手に大奮戦をした。

桜木「とうっ!」ビョン

魔族A「なんてジャンプ力だ、信じられんっ!」

桜木「庶民スラッシュ!」

ザシュッ!

魔族A「うぎゃあっ!」

桜木「がははははっ! さすが天才勇者!」

赤木「調子に乗るな! 今のは敵の油断があったおかげだ!」
桜木「ぐぬぬ……」

流川「どうせマグレだ」
桜木「なにぃっ!?」

ズバッ! ザンッ! ザシャッ!

魔族B「なんだ、あの若造は!?」
魔族C「くそっ、ほとんどアイツ一人に部隊をやられているぞ!」

流川(あと二匹……)ダッ

魔族B「ゲ、こっち来やがった!」
魔族C「うわぁっ! 来るんじゃねぇっ!」

ドスッ! ザンッ!

魔族B&C「ぐはぁ……っ!」

流川「終わった」

赤木「さすがだな、流川……」
三井「まったく大したヤローだぜ」

桜木(おのれ、ルカワ~……!
   たかが戦士の分際で、この勇者を差し置いて目立つとは……!)

宮城「くそっ……! あの魔族、攻撃がろくに効きやしねぇ!」

赤木「ああいうのは、俺に任せろ」ズン

宮城「ダンナ!?」

魔族D「ガハハハッ、脆弱な人間の攻撃など効かんぜ!」

赤木「うおおおおっ!」バッ

赤木は大きな石を持ち上げ、それを持ったままジャンプすると──

赤木「ウホッ!」

ドゴォンッ!

──石を魔族Dの脳天に叩きつけた。

魔族D「げ、はぁ……」ドサッ

宮城「すげぇ……!」
桜木「出やがった、ゴリ必殺のゴリラダンク!」

敵軍基地に単独で侵入を果たした宮城。

魔族E「くっそぉ~アイツ、いったいどうやってここに入ったんだ!?」

宮城(ピッキングこそ盗賊の生きる道なんだよ!)

魔族E「逃がすんじゃねぇっ!」
魔族F「あの宝箱には貴重なアイテムが入ってるんだ、絶対に取り返せっ!」

宮城「さいならっ!」ビュッ

魔族E「なんて速さだ……!」ハァハァ
魔族F「ちくしょう、逃がしちまった!」ゼェゼェ

宮城「へへへ、これで人間(こっち)がだいぶ有利になるぜ」

魔族G「なんだぁ、あの魔法使いは……?」
魔族H「なんか呪文を唱えてるが、あんな遠いところから当たるワケねぇ」

三井「“火炎呪文(ミッチャン)”」

ゴォァアアッ!

強烈な炎が、魔族たちに直撃した。

魔族G「ぐああああっ!」
魔族H「あっちぃぃぃぃぃっ!」

三井「静かにしろい。この悲鳴が……俺を甦らせる。何度でもよ」

桜木「おお、やるじゃねーかミッチー! この天才ほどじゃないけどな!」

赤木「ブランクがあったにもかかわらず、あの威力と命中率……。
   三井め……やはり魔法センス抜群だ」

木暮「お疲れ、みんな! これでこの国も魔族から解放されたよ!」

桜木「くわぁ~、今日はけっこうやられちまったぜ。あんな庶民どもに……」

流川「てめーが好き勝手動くからだ、どあほう」

桜木「なんだとォ!?」

赤木「よさんか!」

ガンッ! ゴンッ!

三井「木暮、みんなの回復を頼む」

木暮「オッケー、“回復呪文(ポカリ)”」パァァ…

勇者パーティは連戦連勝であった。

もちろん、全く問題がないわけではなかったが──

桜木「フンフンフンフンフンフンフンフンフン!」ブンブン

宮城「うわ、あっぶねぇ! 花道のヤロウ、混乱させられやがった!」

三井「くっそ、あのバカ!」

流川「まったく世話の焼ける……」

赤木「いい加減にせんか!」

ゴツンッ!

桜木「──はっ! いてて……俺はいったいなにを……!?」

流川「いつも通り、足手まといになってただけだ」

桜木「てめぇ、ルカワ~! 今日こそブチのめす!」

バキッ! ドガッ! ガスッ! ドゴッ! バキッ!

木暮「おいおい、よせよ! 仲間同士で争うな~!」アセアセ

チームワークにやや難があるとはいえ、桜木たちの実力は本物だった。

並の魔族では相手にならず、幹部級の魔族ですら苦戦しつつも倒してみせた。

さらに、彼らの強さに勇気づけられた各国の兵たちも奮起し、
人類と魔王軍との戦いは、圧倒的劣勢から五分五分のところまで持ち直したのである。



桜木「ま、この勇者のおかげだな」
流川「俺がいたからだ」
三井「俺の魔法があればこそ、だな」
宮城「もちろん、俺の力だろうな」

赤木「まったく、こいつらは……!」イライラ

木暮「ハハハ、まぁまぁ」

木暮(でも本当に強いぞ、このメンバーは……!
   もしかしたら本当に……本当にあの魔王を倒せるかもしれない……!)

魔王城──

側近「くそっ、いまいましい! なんなんだ、あの勇者どもは!」

側近「まさか、人間にもあんなヤツらがいたとは……」

側近「だが、まだこちらにも主力は温存されています……。
   きちんとした作戦を立てて、ヤツらにぶつけさえすれば──」

魔王「よせ」

側近「魔王様!?」

魔王「下手に作戦を立てたところで、勇者たちには通用せんだろう。
   むしろ、作戦に縛られ力を発揮できなくなる恐れがある」

魔王「奇策といわれるあらゆる作戦……。
   そのほとんどは、相手のことを考えすぎて、本来の自分を見失った姿にすぎぬ」

側近「たしかにおっしゃる通りですが……このまま野放しにはできません」

魔王「うむ……分かっておる」

魔王「だからワシは、ヤツらに真っ向勝負を挑もうと思っている!」

側近「真っ向勝負!?」

魔王「場所と時間を決めて、勇者どもと我が軍の主力で対決を行うのだ。
   人間どもに絶望を与えるため、ギャラリーは多い方がいい」

側近「なるほど、大勢の前でヤツらを叩きのめすというワケですね?」ニヤッ

魔王「うむ」

魔王「そうと決まれば、さっそく我が軍の精鋭を招集せよ!」

側近「はっ!」

まもなく世界各国に散っていた、魔王軍の主力幹部たちが招集された。

魔王「よくぞ集まってくれた」

魔王「我が配下が勇者どもの手で敗走を重ねる中、
   未だに人間たちに対し優勢でいるのはキサマらの軍勢だけだ」

魔王「だからこそ、このタイミングで集まってもらった」

巨竜、ドラゴン!

魔剣の使い手、暗黒騎士!

鉄壁の甲羅、巨大亀!

ザコキャラからの大出世、スライム!

魔王「これに魔法のエキスパートである側近と、このワシを加えた六名で、
   勇者どもを打倒する!」

翌日、桜木たち勇者パーティに挑戦状が送られてきた。

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 勇者どもに告ぐ

 我ら魔王軍の精鋭と、キサマら勇者パーティとで対決を行いたい。

 場所は世界の中心地、日時は一週間後の正午。

 こちらのメンバーはワシを含めた最強の魔族六名。

 魔族と人間のギャラリーを大勢集め、盛り上げようではないか。

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桜木「なんだこりゃ、ふざけやがって!」

安西「おそらく……我々の快進撃に脅威を感じ、
   こちらに主力をぶつけ、一気にケリをつけようという魂胆でしょう」

安西「ギャラリーを集めるというのは、大勢の前であなたたちを叩きのめすことで、
   魔族に自信を植えつけ、人間たちに自信喪失させるのが狙いでしょう」

木暮「だったらこんな挑戦、受けない方がいいのでは……」

安西「かもしれません」

安西「しかし、もし受けなければ、勇者は魔王から逃げたという風評が広がり、
   今奮戦している各国の軍隊の士気に悪影響をもたらす恐れがある」

木暮「そんな……じゃあどうすれば……」

桜木「ふん、悩むことはないぞ、メガネ君」

木暮「え?」

桜木「せっかく敵の大将が出てくるチャンスなんだ。
   真っ向から受けて立って、この勇者がマオーを倒す!」

三井「まぁ、コイツのいうとおりかもな。こんなチャンスを逃す手はない」

赤木「うむ、チマチマ各国で戦闘を繰り返すより、分かりやすい」

宮城「決まりだな」

流川「…………」スースー

安西「ほっほっほ、ではこの勝負、受けて立つことにしましょう」

その夜──

安西「これから君たちには、この水晶で魔王軍主力の映像を見てもらいましょう。
   他国の魔法使いが、映像に収めてくれました」

桜木「なにっ!? へへへ、用意がいいじゃねぇかオヤジ」タプタプ

安西「ハッキリいって、現時点での実力は彼らの方が上だ」

桜木「おい、俺たちを信じてねぇのか……!?」

安西「しかし、君たちなら一週間で彼らを超えられると私は思っている」

桜木「当然!」ニヤッ

安西(下手をすると、対決前に自信喪失させてしまうかもしれない……。
   だが、君たちはそこまでヤワではないと信じている)

<ドラゴンの映像>

ドラゴン『グハハハハ、俺の炎で焼き尽くしてくれるわ~!』ゴォォ…

宮城「うわっ、でけぇ!」

桜木「ゴリよりデカイんじゃねえか!?」

赤木「…………!」

三井「しかも、デカイじゃなく動きも巧妙だ。これは厄介だぜ」

安西「このドラゴンに対抗できるのは、ウチでは赤木君しかいないでしょう。
   当然、ドラゴンには赤木君についてもらうことになります」

赤木「分かりました……全力で抑えます!」

<暗黒騎士の映像>

暗黒騎士『我が剣のサビになれ……』ズバッ

木暮「なんて速さとテクニックだ……! 人間が次々に切り裂かれていく……!」

安西「彼は魔王軍随一の剣の使い手です。魔王軍のエースと呼べる存在でしょう」

桜木「エースだと!?」
流川「む……」ピクッ

安西「一対一の接近戦であれば、彼は魔王よりも上かもしれません」

安西「彼には──流川君に相手をしてもらいましょう」

桜木「なんで俺じゃねえんだ、オヤジ!」

流川「当然だ」

桜木「ンだと!?」ガルル…

安西「さて、次の映像にいきましょうか」

<巨大亀の映像>

巨大亀『よぉ~し、やるぞぉ~!』ノロノロ…

桜木「なんでぇ、ただのノロマじゃねーか!」

安西「彼はディフェンスに定評があります」

安西「しかし、彼を一対一で無理に倒す必要はないでしょう。
   宮城君のスピードで翻弄し、他の幹部を倒した後にじっくり攻めましょう」

宮城「任せて下さい!」

<スライムの映像>

スライム『えい、やぁっ!』プルプル

三井「コイツは全然大したことがないな……」

安西「スライムについては、ほとんど情報がありません。
   木暮君、当日は君がスライムにくっついて実力を見極めて下さい」

木暮「分かりました!」

安西「残る魔王と側近については、前線に出てきたことがないので映像がありません」

安西「側近は魔王軍一の魔法の使い手といわれています。三井君、お願いします」

三井「はいっ!」

安西「そして魔王は──」

桜木「この天才というわけだな!」

安西「いいえ」

桜木「へ?」

安西「おそらく魔王は、最初は動かず部下に戦闘を任せるでしょう。
   ですから、桜木君にはみんなのフォローをお願いしたい」

桜木「なんでこの天才が、凡人のフォローなど──」

安西「この対決、魔王が出てくるまでにどこまで敵を消耗できるかにかかっています。
   君の役割が一番重要なのです」

桜木(一番重要……一番重要……一番重要……)

桜木「よかろう! 任せとけ、オヤジ!」

流川(単純すぎる……)

安西「では今日から一週間、合宿で特訓です」

赤木「よぉーし、魔王軍に俺たちの強さを見せつけてやるぞ!」

桜木「おうよっ!」
流川「うす」
三井「おう!」
宮城「よっしゃ!」
木暮「目指すは魔王討伐だ!」



……

………

六人は一週間必死で特訓し、出来る限りのレベルアップを果たした。

安西(しかし、これだけレベルアップをしても、
   単純な能力ではまだ魔王軍の方が上でしょう……)

安西(魔王軍に勝つには、当日のみんなの爆発力にかかっている……)

安西(期待していますよ、皆さん……)

対決前夜──

安西「さて、ここで皆さんに話しておくべきことがあります」

桜木「なんだ、オヤジ?」

安西「明日の心構えについてです」

安西「明日の対決、いうまでもなく全人類の運命がかかっている」

安西「おそらく、戦いは一進一退となるでしょう」

安西「君たちが魔王軍に対して優勢に戦えば、人間側のギャラリーの応援にも
   自然と力が入るだろうね」

安西「しかし、もし君たちが魔王軍に対して劣勢になると──」

安西「人間側にも、保身を考える人々が増えてくる。
   そして、勇者を応援しないで魔王軍を応援するから、
   自分の命だけは助けてくれという雰囲気になってくる」

桜木「なんだと……」

安西「魔王討伐を成し遂げたいのなら、もはや何が起きようと揺らぐことのない──」

安西「断固たる決意が必要なんだ!」

赤木(魔王討伐……!)

こうして桜木たちは対決当日を迎えた。

世界の中心地にあるコートには、人間と魔族のギャラリーが大勢集まっていた。

ワイワイ…… ガヤガヤ……

魔族側──

「やっと、あのいまいましい勇者どもが死ぬところを見れるのか」

「俺は300年魔王軍を見てるが、今年の魔王軍はいいぞ」

「ドラゴンと暗黒騎士だけで十分なんじゃねえか?」

人間側──

「なぁ、勝てると思うか?」

「厳しいだろうな。いくら勇者たちが強いといっても、相手は魔王軍最強のメンバーだ」

「とにかく今は全力で応援しよう!」

『これより両軍の紹介を行います。まずは勇者チームから──』

『武道家、赤木剛憲!』

ワアァァァァァッ!

赤木(必ず魔王討伐を成し遂げる……!)

『盗賊、宮城リョータ!』

ワアァァァァァッ!

宮城(やってやるぜ!)

『魔法使い、三井寿!』

ワアァァァァァッ!

三井(安西国王のためにも、絶対勝つ!)

『僧侶、木暮公延!』

ワアァァァァァッ!

木暮(うわぁ、すごい歓声だなぁ)ドキドキ…

『戦士、流川楓!』

ワアァァァァァッ! キャーキャー! ルカワクーン!

流川「…………」

『勇者、桜木花道!』

ワアァァァァァッ! ブーブー! ブーブー!

桜木「くっ、なんでこの勇者にだけブーイングが……!」

流川「妥当だな」

桜木「こ、このっ……!」

赤木「いいから、早く整列せんか!」

ゴッ!

『続いて魔王チーム──』

『魔族の首領、魔王!』

ワアァァァァァッ!

魔王(まぁ、ワシの出番はないと思うがな)

『魔族のブレーン、側近!』

ワアァァァァァッ!

側近(魔王様の手はわずらわせません。せいぜい楽しませて下さいよ、勇者たち)

『魔族一の巨漢、ドラゴン!』

ワアァァァァァッ!

ドラゴン「グハハハハッ、どいつもこいつもひねり潰してやる!」

魔王(今から100年前……ドラゴンが魔王軍に入ってから、
   人間界支配が夢でなくなった……)

~ 100年前 ~

ドラゴン「魔王様、もう軍を辞めます……」

魔王「…………」

ドラゴン「デカイだけで足手まといって、みんなから陰口を叩かれてるんです」

ドラゴン「もうこんな生活、耐えられません……!」

魔王「デカイだけ? 結構じゃないか。体力や技術は身につけさすことができる。
   だが、おまえをでかくすることはできない。
   たとえ、ワシがどんな名魔王であろうともな」

ドラゴン「魔王様……!」

魔王「ワシは人間界侵攻をする時、おまえを幹部にすると決めている。
   おまえならば、人間どもを蹂躙できると信じている」

ドラゴン「は、はいっ!」

魔王「よし行こうか、練習だ!」

『魔界一の剣士、暗黒騎士!』

ワアァァァァァッ!

暗黒騎士「ふん……」

魔王(コイツに一対一で勝てる剣士はまずおるまい)

『鉄壁の守備、巨大亀!』

ワアァァァァァッ!

巨大亀「やるかぁ~!」

魔王(巨大亀の守備力は、魔王軍一を誇る!)

『軟体生物、スライム!』

ワアァァァァァッ!

スライム「ボクも頑張るぞっ!」

魔王(見せてやれ、キサマの努力の成果を!)

『ただいまより、勇者パーティと魔王軍の対決を行います!』

ワアァァァァァッ!

赤木「三井……」

三井「なんだ?」

赤木「魔法で俺の筋力を上げてくれ。
   おそらくこのままでは、ドラゴンのパワーに対抗できん」

三井「オイオイ、いきなりかよ。アレはおまえにかかる負担もでかいぜ」

赤木「いいからドーピングだ!」

三井「……分かったよ。じゃあ──」

三井「ぬっ!」

巨大亀「魔法は使わせないよぉ~!」ザッ
三井「なにぃ!?」

「三井を巨大亀がマーク!?」 「あれじゃ魔法は撃てない!」 「どうする!?」

三井(くそっ、亀のくせになんて素早いんだ、コイツ……!
   今までの戦いでは、素早さを隠してやがったのか!?
   ちくしょう、振り切れねぇ……!)キュッキュッ

巨大亀「ふっふっふぅ~」キュッキュッ

魔王(出おったか、巨大亀必殺の“スッポンディフェンス”!)

魔王(あれだけ密着されれば、もはやあの魔法使いはなにもできん!
   さて次は──)

赤木(くそっ、いきなり三井を封じ込めに来るとは! フォローせねば!)ダッ

ドラゴン「させるかよっ!」

バチィッ!

ドラゴンの尻尾が、赤木を大きく吹っ飛ばした。

赤木「ぐわぁっ!」ドサッ

桜木「ゴリ!」

「マジかよ!」 「あのゴリラが吹っ飛ばされた!」 「すげぇパワーだ!」

木暮(あの赤木をあんなに吹っ飛ばすなんて……なんてパワーだ!
   まずいぞ、俺たちと魔王軍は思った以上に差があるんじゃ……)

しかし──

桜木「庶民スラッシュ!」

ズバァッ!

桜木の剣で、ドラゴンが吹っ飛ばされる。

ドラゴン「ぐおおぉっ……!」ドサッ

「おおっ!」 「あの赤毛勇者もすげぇ!」 「やってくれるぜ!」

桜木「ふははははっ、さすが天才!」

ドラゴン「や、やりやがったな……!(こんなチビ助に……!)」

側近「ちっ……ならば私の魔法で──!」
宮城「させっかよ!」

ガゴンッ!

宮城の飛び蹴りで、側近がダウンする。

側近「ぐぅっ……コイツいつの間に!」

宮城「スピードなら、誰にも負けないぜ」

コート内が大混戦になる中、冷静に睨み合う二人がいた。

暗黒騎士「……どうした、来ないのか? 俺が怖いか?」

流川「にゃろう」

ガキィン!

流川と暗黒騎士、エース同士の一騎打ちが始まった。

キィンッ! ガキィン! ギャリン!

「なんだありゃあ!」 「すげぇ戦いだ!」 「どっちも譲らない!」

ワアァァァァァッ!

ギィンッ! キィンッ! カキィン!

魔王(暗黒騎士とまともにやり合える人間がいたとは……計算外だ!)

桜木(おのれルカワ~! またしても目立つような真似を……!)ギリッ

桜木(まぁいい、この天才も大活躍をして目立てばいい!)チラッ

ドラゴン「オラァッ!」ドゴッ
赤木「ぐあぁ……っ!」

桜木(ゴリめ、またあの大トカゲにいいようにやられてやがる)

桜木(よぉ~し、すぐ天才らしい助太刀に──)ダッ

スライム「えぇ~い」プニョッ

桜木「ぐわっ、なんだコイツは!? 庶民スラッシュ!」ブンッ
スライム「おっと」ヒョイッ

桜木「ぐぬぬ、すばしっこい!」

木暮「すまん桜木、逃がしてしまった!」ハァハァ

魔法主体の側近を、蹴りとダガーで追い詰める宮城。

側近(くっ……くそっ、なんてスピードだ! 接近戦じゃ勝ち目はない!)

宮城(いける! コイツを倒せば、一気に俺たちが有利になる!)ダッ

しかし──

スライム「よっこらしょ」プニィッ
宮城「うわぁっ!?」

側近「ナイスです、スライム!」

側近「“針呪文(センドウ)”!」

ズドドドドッ!

無数の小さな針が、宮城に突き刺さった。

宮城「ぐわぁぁぁっ!(ノータイムで撃ってきやがった!)」

桜木「リョーちん!」

桜木「おのれこの天才率いるパーティが、あんなザコにコケにされるとは……!」

木暮(あのスライム……戦闘能力は低いが、一番やっかいかもしれない!
   巧みに動き回って、俺たちのチームプレイをことごとく潰している……!)

試合開始5分──

まだ魔王が戦闘に参加していないにもかかわらず、
状況は勇者側にとって思わしくなかった。

流川は暗黒騎士との戦いで手一杯。

大黒柱である赤木はドラゴンに抑え込まれ──
魔法使い三井は巨大亀にへばりつかれ、まだ魔法を一発も撃てていない。

残る桜木、宮城、木暮の三人はスライムの動きに翻弄され、
側近の魔法によって苦しめられていた。



魔王(どうやらワシの出番はなさそうだな。
   今、魔王軍を動かしているのは側近でもドラゴンでもなく──)

魔王(スライムだ!)

~ 50年前 ~

スライム「どうかボクを、魔王軍に入れて下さい!」

魔王「キサマが……?」

体力があるわけでも、魔法が使えるわけでもなく、技は体当たりだけ……。
魔王軍は到底ムリだとワシはいった。
モンスターにはショックな言葉だ。

スライム「とにかくボクなりに頑張りますので!」
魔王(悔しくはないのか?)

そうではなかった。

スライムは戦闘において、徹底的に敵と味方の動きを観察していた。
さらに1日500回の体当たりの練習を欠かさなかった。

スライムは唯一できる体当たりで、味方をサポートする道を選んだのだ。

スライムの働きは大いに魔王軍を助け──

魔王「スライムを魔王軍幹部に任命する」
スライム「はいっ!」

──異例の大出世に、異論は出なかった。

魔王「魔王軍(ウチ)に天才はいない。だが、魔王軍(ウチ)が最強だ!」

スライムのせいで、思ったような動きができない桜木。

桜木「くっ、たかがスライムなどに……!」

宮城「しょせんスライムだ! 花道、一気に叩きのめせっ!」

桜木「おうよ! リョーちんっ!」ブンッ
スライム「おっと、危ない」ヒョイッ

桜木「なにっ!?」

スライム「うおおおおおっ!」プルン

ドゴッ!

桜木「ぐわぁっ!」

スライムの体当たりで、体重が数倍はあろう桜木の体が吹っ飛んだ。

宮城(マジかよ!?)

ドラゴン「魔王軍幹部の座を取った男だぞ、ナメんなよ」
スライム「ドラゴン……」

桜木「ぐっ……!」

「勇者たち、ヤバイんじゃね?」 「いいトコないじゃん」 「もう負けだな……」

早くも人間側のギャラリーに、諦めの色が漂い始めた。
魔王が戦っていない状態でこれでは、無理もないかもしれない。

赤木(いかん、ここはこの俺がなんとかせねば……!)

赤木(この俺が……!)

ドラゴン「グハハハハッ! どうした、もっとぶつかってこい!」
赤木「くうっ!」

ザシュッ!

ドラゴンの爪攻撃が、赤木の頭を切り裂いた。

赤木「ぐおっ……!」

赤木(俺が……俺が、コイツに勝たなければ……!)ハァハァ

三井(あのヤロウ……熱くなりすぎだ!
   あんなデカイ相手と、まともにパワー勝負してどうすんだ!)

三井は巨大亀のマークを振り切れずにいた。

三井(こういう時は、俺がやらなきゃならねーのに……!
   このカメがしつこすぎる!)ハァハァ

巨大亀(くっくっくぅ~、息が乱れてきたなぁ~?
    やはり側近様のデータ通り、コイツにはスタミナがないぃ~!)キュッキュッ

三井(ちくしょう、振り切れねぇっ!
   だが、コイツを振り切らねぇと、魔法が撃てねぇっ!)ハァハァ

巨大亀(絶対に振り切らせないよぉ~!)キュッキュッ

三井(くそっ、俺はなんであんな無駄な時間を──!)ハァハァ

三井は安西によって勇者パーティに選ばれた後、
怪我が原因ですさんでしまった時期があった。

三井「勇者パーティなんか、ぶっ潰してやる……!」

しかし、仲間の説得と──

木暮「なにが魔王討伐だ……夢見させるようなこというな!」
宮城「一番過去にこだわってるのは、アンタだろ」

安西によって──

三井「安西国王……魔王討伐がしたいです……!」

──パーティに復帰したのだった。

しかし、二年のブランクはやはり大きく、技術はともかくスタミナに不安があった。

三井(くそっ、ここで働けなけりゃ……俺は本当の大バカヤロウだ!)ハァハァ

三井「うおおおおっ!」ダッ

巨大亀「なにぃ~!?」

「ここにきてすげぇダッシュ!」 「あのカメを振り切ったぞ!」 「マジかよ!?」

三井(あのドラゴンに生半可な呪文は通じねぇ……ならば!)

三井(ここで俺がすべきことは、赤木を立ち直らせることだ!)

三井「“召喚呪文(チャージドタイムアウト)”!」

召喚呪文を使うと、ランダムで何者かを召喚することができる。
三井は賭けに出た。

三井(頼むっ! すごいヤツが来てくれ!)

ズゴゴゴゴ……

ボワァァァン……

赤木の目の前に、包丁を持った板前が現れた。

赤木「なんだ!?」ビクッ

三井「なんかとんでもないもん呼び出しちまった!」
桜木「ゴリよりでけぇ! ボ、ボス猿!?」

板前は大根を剥きながら、赤木に告げる。

魚住「華麗な技を持つドラゴンは鯛……」

ドラゴン(俺は竜なんだけど……)

魚住「おまえに華麗なんて言葉が似合うと思うか。赤木、おまえは鰈だ。
   ──泥にまみれろよ」

赤木「!」

シュウウウウ……

魚住は帰っていった。

安西(三井君……ファインプレーですよ)

赤木(そうか……)

赤木(俺が勝てなければ、このパーティは勝てないと思っていた)

赤木(だが、そうじゃない!)

赤木(俺にできることは、この体で他のヤツを活かすことだ!)

赤木(現時点で俺はドラゴンに負ける……。でも、勇者パーティは負けんぞ!)

ドラゴン(このゴリラ……目つきが変わりやがった!)

赤木「ぬおおおっ!」バッ

「飛び上がったぁっ!」 「なにする気だ!?」 「ま、まさか──!」

ドラゴン「俺より高く──!?」
赤木「フンガァ!」

バチィンッ!

ドラゴン「ぐごぁっ!?」

振り下ろすような凄まじい平手打ちが、ドラゴンにクリーンヒット。

宮城「よっしゃあ、ダンナ!」
桜木「ゴリ必殺のハエタタキだっ!」

三井「赤木のヤロウ、完全復活だな」ニヤッ

赤木がドラゴンにキツイ一撃を与えたことで、他のメンバーにも力が宿る。

桜木「行くぞ、リョーちん!」

桜木「フンフンフンフンフンフンフンフンフン!」ブンブンブンブン

スライム「うわっ、なんだこれ!」
側近「なんというムチャクチャな剣だ!」

桜木が“フンフンオフェンス”で、敵の混乱を誘ったところに──

宮城「おりゃあっ!」

バキィッ! ドゴォッ!

スライム「うわぁっ!?」
側近「ぬぐぉっ!」

──強烈な飛び蹴りを浴びせる。

木暮(いいぞ……! 赤木のプレーでみんなに力が戻った!)

流川VS暗黒騎士──

ギィンッ!

暗黒騎士(あの武道家が復調したら、コイツにも力が入り始めた……!)

流川「世界一の戦士ってどんな戦士だと思う……」

暗黒騎士「?」

流川「きっと世界を救う戦士だと思うんだよな。俺はそれになる」

流川「一歩も引く気はねーぜ」

ガギィンッ! ──ザシュッ!

暗黒騎士「ぐぅっ!?」

魔王(暗黒騎士が一太刀浴びるなど、何十年ぶりだ!?
   いや一対一では、初めてかもしれん!)

魔王「側近、暗黒騎士をフォローしろ!」

側近「はっ!」

三井「桜木、そいつに魔法を唱えさせるなぁっ!」

桜木(今こそ合宿での二万回の素振りの成果を見せてやる!)

桜木「おうよ、合宿スラッ──」
スライム「とうっ!」プルッ

桜木「おのれ、またジャマを!」

側近「さすがですよ、スライム。“召喚呪文(チャージドタイムアウト)”!」

宮城「くそぉっ、コイツ呪文の詠唱がとんでもなく早い!」

ズゴゴゴゴ……

側近の魔法で呼び出されたのは──

流川の目の前に、大阪人が現れた。

南「おまえがエースや」

ガッ!

流川「ち……!」

流川の顔面にエルボーが決まり、片目を塞いだ。

南「うち薬局やねん」ヌリ…
流川(なんなんだ、いったい)

──が、すぐ治った。

宮城「よし、ラッキー!」
桜木「どうせなら毒を塗り込め!」

側近(これは……失敗してしまいましたね……!)

一転して、今度は魔王軍のチームワークがチグハグになってきた。

魔王(おのれ……赤木がドラゴンに一矢報いてから、流れが変わった!)

魔王(こうなれば……ワシが出るしかなかろう!)

ザッ!

「魔王が!?」 「ついに魔王が動いた!」 「ここからが本番だ!」

安西(そう、ここからが本番ですよ……)

側近「申し訳ありません、魔王様! 我らが不甲斐ないばかりに──」

魔王「シケたツラするでないわ! 観客が見ておるぞ!」

側近「はっ!」

魔王「さて、さっそく暴れさせてもらおうか!」

魔王「“隕石呪文(アイチノホシ)”」

ヒュルルルル……

諸星「はっきりいって、自信なし」

ドガァッ!

上空から降ってきた諸星が、桜木を蹴り飛ばした。

桜木「ぐわぁっ!」

三井(あれほどの高等呪文をあっさり使うとは……!
   魔王の名はダテじゃねーってことか!)

ドラゴン「グハハハハッ! さすが魔王様だぜぇっ!」
赤木「おのれぇっ!」

暗黒騎士「これはもう、キサマ程度に手こずってはおれんな」
流川「にゃろう……!」

側近「さて、私たちも魔王様に負けていられませんね」
スライム「はいっ!」

魔王の加入で、崩れかけていた魔王軍が瞬く間に立ち直った。

安西(ふむ、魔王が加わったことで、魔王軍にもさらなる力が宿りましたね……。
   ここで流れを持っていかれては、勝ち目はなくなりますよ……)

宮城「しっかりしろォ! 流れは自分たちで持ってくるもんだろがよ!」

魔王(む、あの盗賊は精神的にタフだな。先に叩いておくか)

魔王「なるほど、キサマが我が軍の軍備を次々に奪ってくれたという盗賊か……。
   こんなチビだったとはな」

宮城「んだとぉ……!」イラッ

宮城が飛びかかるが、逆に足を掴まれてしまう。

魔王「キサマのすばやさは厄介だからな、先に始末しておこう」

ブオンッ!

魔王は壁めがけて、宮城を投げつけた。

宮城(やべぇっ!)

木暮「まずいっ!」
桜木「リョーちん!」ダッ

バシッ!

壁に激突する寸前、桜木が宮城をキャッチした。

桜木「リバウンド王、桜木!」

魔王「なんだとっ!?」

宮城「すまねぇ、花道!」
桜木「ふははははっ、任せたまえ!」

魔王(アレが勇者、桜木花道か……。
   勇者というわりに、赤木や流川には劣るという認識だったが──
   あの瞬発力は、あなどれんな……!)

赤木(こういうピンチの時こそ、俺がみんなを支えなければ!)

赤木「あーっ!!!」

ビリビリビリビリ……

「赤木が吼えたぞ!」 「すげぇ気迫だ!」 「あれで本当に人間なのかよ!」

ドラゴン「吼えたって何もやらせ──」

赤木「ウホッ!」

ドゴォン!

赤木は近くに落ちていた石を、ドラゴンの頭に叩きつけた。

ドラゴン「ぐおお……っ!」ガクッ

「出たぁっ!」 「ゴリラダンクだ!」 「効いてるぞ!」

赤木(これでしばらくドラゴンは動けん! みんなをフォローせねば!)

まず赤木はハエタタキで、側近とスライムをぶっ飛ばす。

バチィンッ!

側近「ぐえぇっ!」
スライム「うぎゃっ!」

桜木「さすがゴリ!」

赤木「いや、さっきのおまえのリバウンドも見事だった」

赤木「俺も少しはいいところを見せんとな!」

さらに、三井にへばりついている巨大亀を持ち上げ──

巨大亀「なんだぁ~?」

魔王「まさか──!」
赤木「ウホッ!」

ズガァンッ!

──巨大亀で魔王の頭にダンクを決めた。

ワアァァァァァッ!

桜木「すげぇぞ、ゴリッ!」
木暮「赤木……!」

魔王(くぅぅ……っ! なんという屈辱だ!)

赤木「今だ三井!」

三井「おうよ!」

ここぞとばかりに、魔法を唱えまくる三井。

三井「“攻撃力増強呪文(ホワチャア)”!」

パーティ全員の攻撃力が上がった。

三井「“防御力増強呪文(イケガミ)”!」

パーティ全員の守備力が上がった。

三井「“日焼け呪文(マキ)”!」

パーティ全員の肌が少しだけ黒くなった。

「出やがった!」 「三井の三連続魔法だ!」 「3ポイントだァーっ!」

巨大亀「すいません、魔王様ぁ~!」
魔王「忘れろ! すぐに三井につくんだ、これ以上好き勝手やらせるな!」

三井の呪文でパワーアップしたパーティは、一気に戦況を盛り返す。
これで形勢は分からなくなった。

試合開始30分後──

勇者パーティと魔王軍の戦いは全くの互角であった。

赤木は力勝負に固執しないことで、ドラゴン相手に善戦。
流川は暗黒騎士と一進一退の攻防を続け、
桜木、宮城、木暮も、魔王、側近、スライム相手にどうにかふんばっていた。

だが──

三井「ぜぇ……ぜぇ……」フラッ

桜木「ミッチー、大丈夫か!?」

三井「バカヤロウ、俺を誰だと思っていやがる……!」

三井の体力と魔力が、限界に近づきつつあった。

三井(チクショウ……! このカメのしつこいマークと魔法の連発で、
   ずいぶんスタミナをロスしちまった……!)

巨大亀(くっくっくぅ~、そろそろかなぁ~!)

巨大亀「甲羅アタック!」シュルシュル
三井「!?」

ズガァッ!

巨大亀が高速回転しながら、三井にタックルをかました。

三井「が、は……っ!」

ドザァッ!

十数メートル吹き飛んだ三井に、もはや立ち上がる力は残っていなかった。

桜木「ミッチー!」
赤木「三井!」
木暮「三井!」
宮城「三井サン!」
流川「先輩……!」

巨大亀「やったぞぉ~!」

魔王「フハハハハッ、よくやったっ!」

これで人数が五対六になり、勇者パーティは一気に不利になった。

木暮「みんな、なんとか頑張るんだ!」

魔王「フハハハハッ! この差は頑張りでどうなるものではないわぁっ!
   一気に決めてしまえっ!」

スライム「えーいっ!」プルン

ドガァッ!

木暮「うわぁっ!」

側近「これで大がかりな魔法を唱える隙もできますね」

側近「我らに仇なす者たちの“平常心”と“判断力”を奪い取り……
   “自信”と“攻撃意欲”を消失させたまえ……」

側近「“能力減退呪文(ゾーンプレス)”!」

ズオオオオ……

勇者パーティ全員の能力が下げられた。

スライム(出た、側近様の最強補助魔法! これで決まりだ!)

ただでさえ人数で不利な上に、能力を下げられた勇者パーティ。
魔王軍がここぞばかりに猛攻をしかける。

暗黒騎士「側近様のゾーンプレスが、だいぶ効いているようだな……。
     一気に動きにキレがなくなったぞ……?」

ザシュッ!

流川「ちいっ……!」

ガギィンッ! キィンッ!

エース対決は、ここで暗黒騎士が一歩リードした。

ドラゴン「これで終わりだっ!」

ゴォアアアッ!

ドラゴンが吐いた炎を、動きが鈍った赤木がまともに喰らってしまう。

赤木「ぐああああっ!」

魔法使いが倒れ、エースと大黒柱が抑えられては、もはや手のうちようがない。

木暮(ここまでか……!)
宮城(ちくしょう……!)

しかし、一人だけ諦めていない男がいた。

桜木「ふん、だらしねぇぞオメーら……。
   やはりこの勇者がやらなきゃならねーようだな!」

桜木は大きく深呼吸をすると、大声で叫ぶ。

桜木「マオーは俺が倒す!」
流川「どあほう」

ザワザワ…… ドヨドヨ……

「なに考えてんだアイツ」 「まだ諦めてねぇのかよ」 「すげぇ……!」

観客がどよめく。

桜木「どうだオメーら、これでもう勝つしかなくなったぜ」

魔王(コイツ、これだけの差を見せつけてもまだ気力があるというのか……。
   ふははははっ! 面白いッ!)

グオッ!

魔王が桜木にトドメをくわえんと、一気に迫る。

桜木「庶民スラッシュ!」

ザシュッ!

桜木「ゴール下スラッシュ!」

ズバッ!

桜木「アーンド頭突き!」

ゴツンッ!

魔王「が……っ!」ドサッ

桜木の三連撃を受けた魔王が、初めてダウンした。

ワアァァァァァッ!

観客が沸き上がった。

側近「おのれぇっ! よくも魔王様を──!」

すると桜木はスライムを片手で掴むと、そのまま思いきり側近の頭にぶつけた。

ブチャッ!

スライム「うぎゃあっ……!」
側近「あぐぅ……!」

「スライムダンクだっ!」 「スライムダンクが決まったっ!」 「すげぇっ!」

ワアァァァァァッ!

ギャラリーの盛り上がりが最高潮に達する。

桜木「どうだキツネ! テメーなんぞ、この俺の足元にも及ばねーんだ!
   オメーは一生そのヨロイ男とたわむれてろ! がーっはっはっは!」

流川「…………」ピクッ

暗黒騎士(ん、コイツの剣に力がこもった……!)

桜木の奮闘に影響されてか、流川の動きが一気によくなる。

ガキィン! キィンッ! ガィンッ!

暗黒騎士(なにぃ!? ゾーンプレスで、能力が下がったハズなのに……!)

流川「俺は世界一の戦士になる、おまえを倒してな」

キィンッ! ギャィィンッ! ゴキィンッ!

暗黒騎士「人間如きが……!」

安西「…………!」ブルッ

安西(見てるか谷沢……おまえを超える逸材がここにいるのだ……。
   それも二人同時にだ……)

かつて、安西は桜木たちの前に谷沢という戦士を育てていた。
本来の予定では、安西は彼を勇者にするつもりだったのだ。

しかし、安西の厳しい指導に嫌気がさした谷沢は、
まだ基礎もできていないのに勝手に勇者を名乗ってパーティを作り、
魔王討伐に出発してしまった。

谷沢は才能と体格に恵まれ、装備も高級品だったため、
最初のうちは順調に勝利を重ねた。

しかし、他国から送られてきた谷沢の映像を水晶で見た安西は──



安西(まるで成長していない……)

安西(ちゃんと地道な修業をして、レベルアップしているのか?)

安西(パーティメンバーともうまくコミュニケートできてないようだ)

安西(そもそもこのパーティはなんだ!?
   ろくに回復をしない僧侶、後先考えず大魔法をぶっ放す魔法使い、
   剣の性能に頼りきりの戦士……まるでまとまっていない)

安西(これじゃ谷沢は魔王軍に殺される!)

安西は谷沢と連絡を取ろうと努力したが、谷沢はつかまらなかった。

その後──



いつかの国王の言葉が、近頃よく頭に浮かびます。

「おまえのためにパーティがあるんじゃねぇ、パーティのためにおまえがいるんだ」

このパーティは誰もぼくを回復してくれません。

国王やみんなに迷惑をかけておきながら、今おめおめと帰るわけにはいきません。
いつかぼくの剣で魔王を倒せるまで頑張るつもりです。

勇気ある者──その名を名乗るだけで、ぼくは強くなれると思ってたのかなぁ……。



安西のもとに一通の手紙が届き──

谷沢は魔王軍どころか、魔王軍に恐れをなしたパーティメンバーの裏切りで
命を落としたという悲報が入った。

試合に戻り──

赤木がドラゴンの巨体を持ち上げ、地面に叩きつけた。

ドグシャアッ!

ドラゴン「が……は……っ!」

ワアァァァァァッ!

「決まったぁーっ!」 「ドラゴンダンクだ!」 「ゴリ絶好調ーっ!」

魔王(くっ……!)

魔王(あの桜木のせいで、一気に勇者パーティが息を吹き返した……!
   戦い方はシロート同然だが、さすがは勇者といったところか!)

魔王(仕方あるまい!)

魔王「ワシが宮城を倒すっ! 側近、巨大亀、スライムは三人がかりで
   桜木をツブせっ!」

魔王「木暮とかいう僧侶は放っておいてかまわん!」

赤木「…………!」

魔王が宮城に襲いかかる。盗賊である宮城が勝てる相手ではない。
しかし、宮城も持ち前のスピードで粘る。

ブオンッ! ブウンッ!

魔王「おのれ、小僧がっ! ちょこまかと!」
宮城「へっ、当ててみやがれ!」ハァハァ

一方、三対一になった桜木は大ピンチだった。

側近「“針呪文(センドウ)”!」ビュビュビュッ
巨大亀「甲羅クラッシュ!」ドゴッ
スライム「とりゃあっ」プニュッ

桜木「この勇者に、よってたかって……!」グラッ

三人の幹部の猛攻で、桜木は瀕死になっていた。

だが──

赤木「木暮フリーだ、唱えろっ!」

木暮「“大回復呪文(フレーフレー)”」パァァ…

赤木「うおおおーっ!」
流川「お」
宮城「おっしゃあ!」

パーティ全員の体力が回復した。

魔王「な!?」

魔王(しまった──! あの僧侶、全体回復呪文など使えたのか!?
   くそっ、真っ先に始末しておくべきだった!)

魔王(全体回復など、何度もできる呪文ではない……。
   使うべきタイミングをずっと待っておったのか!)

魔王「ワシのミスだ……!」

魔王(アイツも僧侶として頑張ってきた男なんだ……。
   侮ってはいけなかった……)

三井「俺は……だれだ……?」フラッ

三井「“火炎呪文(ミッチャン)”……!」

ゴォアッ!

強烈な炎が、巨大亀にヒットした。

巨大亀「うわぁ~っ! なんで三井が復活してるんだぁ~!?
    あの呪文で回復しきれるダメージじゃなかったはずだぁ~!」

三井「おう、俺は三井……諦めの悪い男……」

巨大亀(コイツ、不死身かぁ~?)ゾクッ

木暮の回復呪文で、ここにきて勇者パーティが一気に優位に立った。

──かに思われたが。

ダウンしたままの桜木。

桜木「…………!」ハァハァ

回復呪文の直前に、桜木が集中攻撃で受けた傷は深かった。

赤木「大丈夫か!?」
宮城「花道!」

桜木(くっ、体が動かねぇ~……せっかくメガネ君が回復してくれたってのに……!
   ちくしょう、動けぇ……!)

木暮(マズイ……! 俺の少ない魔力じゃ、あの呪文を一発使ったら、
   もう回復呪文は使えない──!)

流川「…………」

流川「もう立てないんなら、ジャマにならねーように寝てろ。
   立てるんならさっさと立て」

桜木「────!」ブチッ

桜木「ざけんな、キツネ! この勇者がもう立てないワケがねーだろうが!」ガバッ

ワアァァァァァッ!

流川の激励(?)で、桜木も復活を果たした。

スライム「落ち着こう。まだあわてるような場面じゃない」

スライム「あの僧侶の全体回復にはしてやられたけど、
     アレであの僧侶はガス欠、魔法使いもフラフラのハズ。
     こちらの数的有利は変わらない」

スライム「ここからが勝負だよっ!」

ドラゴン「おうっ!」
暗黒騎士「うむ」
巨大亀「了解ぃ~!」
側近「分かりました」

魔王(よし、スライムのおかげで動揺は少なくて済んだ……。
   もう互いに余力は少ない……おそらくあと数分で決着する!)

赤木「木暮のおかげで、なんとか俺たちの首が繋がった……」

赤木「いいかみんな、全てを賭けてくれ……!」

赤木「ここからの数分間、全てを出し尽くすんだ!」

赤木「数分後、コートに立っているのは俺たちだっ!」

桜木「おうっ!」
流川「うす」
宮城「もちろん!」
三井「分かってるぜ!」

木暮(頼むみんな……! 頑張ってくれ……!)

『試合再開です!』

ピピピ~~~~~!

ワアァァァァァッ!

赤木&三井&宮城&流川&桜木「うらぁぁぁぁっ!!!」

先ほどまでのように、各自マッチアップするかと思いきや──
勇者パーティは一斉にスライムめがけて突撃した。

スライム「なに──!?」

ズガァンッ!

スライム「ぐわぁっ!」

五人分の突撃を喰らい、スライムは壁に激突し──

スライム「ま、魔王様……す、みま……」ガクッ

──動かなくなった。

魔王(ぬかったわ! コイツら、ワシらのチームプレーの要となっていた
   スライムを真っ先にツブしに来るとは……!)

魔王「だが、こちらの方がまだ戦力は上だっ! かかれぇっ!」

側近「“睡眠呪文(ジュギョウ)”!」

流川「む……」クラッ

流川「…………」スースー

側近「流川を眠らせました! 今です、暗黒騎士!」

暗黒騎士「……もらった!」ブオンッ

──ガキィンッ!

刃は受け止められた。

暗黒騎士「!?」
流川「何人たりとも俺の眠りを妨げるヤツは許さん」

ズシャアッ!

逆に、寝起きの流川の一閃が暗黒騎士を斬り裂いた。

暗黒騎士「ぐはぁ……っ!」ドサッ

側近(なんという誤算! あの戦士、眠った方が強かったのですか!?)

三井「テメーの相手は俺だぜ!」
側近「む!?」

三井「“召喚呪文(チャージドタイムアウト)”!」
側近「“召喚呪文(チャージドタイムアウト)”!」

二人は同時に召喚呪文を唱えた。
三井は鉄男を、側近は彦一を召喚した。

召喚獣同士の戦いが幕を開ける。

バキィッ!

彦一「なんてパンチ力……要チェックや……」ドサッ

側近「私の召喚獣が……!」

鉄男「次はテメェだ! モップクラッシュ!」

ドゴォッ!

側近「ぐふっ……こ、こんな……!」ドサッ

鉄男のモップをまともに喰らい、ついに側近も崩れ落ちた。

鉄男「じゃあな、マジックマン」シュウウ…

三井「これで俺の魔力も……すっからかんだ……」ハァハァ

宮城が走りまわり、巨大亀とドラゴンの注意を引く。

ダダダダダッ!

ドラゴン「なんてスピードだ! 目で追い切れんっ!」
巨大亀「くっ、くそぉ~っ!」

宮城「今だ、ダンナ!」

赤木「おうっ!」ガシッ
巨大亀「うわぁ~!?」

赤木は巨大亀を持ち上げると、空高く飛び上がり──

赤木(もうこの一撃で俺は倒れてもいい……やっと掴んだチャンスなんだ!)

赤木「ウホォォォッ!」

ズガドゴォンッ!

──巨大亀をドラゴンの脳天に叩きつけた。

巨大亀「こ、こんな……」ガクッ
ドラゴン「バカ、な……」ドサッ

「うおおおーっ!」 「過去最高のゴリラダーンクッ!」 「すげぇ~っ!」

「一撃で二人倒した!」 「スゴすぎるっ!」 「ゴリラだぁ~っ!」

安西(これだ……! 勇者パーティにあって魔王軍にない爆発力……!)

ワアァァァァァッ!

安西(しかし、残る魔王は本当に手強いですよ……)

魔王(くぅぅ……! スライムをやられ、混乱していたところを各個撃破されたか……)

魔王(いや、そもそも木暮を先に倒しておけばこんな事態には──!)

魔王(部下たちの敗因はこのワシ……ワシの部下は最高の戦いをした!)

魔王(だが、ワシがおる以上、魔王軍は負けてはおらぬ!)

魔王「キサマらが部下を倒しているうちに、準備は整ったっ!
   まとめて片付けてくれるわ!」

魔王「“即死呪文(テクニカルファウル)”!」

これは魔の瘴気を発生させ、敵全体を死に追いやるという呪文である。
たとえ死なずとも、大ダメージは免れない。

赤木「ぐぅぅ……っ!」ガクッ
三井「ぐああっ!」ガクッ
宮城「なんだこりゃ……!」ガクッ
木暮「なんて呪文だ……!」ガクッ

魔王「さすがに即死はせんか……。
   だが、消耗した体でこの呪文を受けるのはキツかろう!
   ふはははは……!」

魔王「さて……」チラッ

魔王「かろうじてワシと戦う力が残っているのは、キサマら二人だけか」

桜木「一人で十分だ!」ハァハァ
流川「オメーがいらん」ハァハァ

桜木「庶民スラーッシュ!」

スポッ!

桜木の剣は疲労のためかすっぽ抜け、どこかへ飛んでいってしまった。

桜木「あああーっ!」ガーン
流川「どあほう」

魔王「これでワシと戦えるのは流川とやらだけ、か」
流川「…………」

だが、暗黒騎士と長時間打ち合った流川に、魔王を倒すほどの体力はなかった。

魔王「そんなヘトヘトで、ワシの相手になれると思うか!?」

ドゴォッ!

流川「ぐぅ……っ!」

魔王「ふははははははははははっ!
   剣のない勇者に、体力の残っていない戦士……勝負は見えたな」ニヤッ

ズガァッ!

魔王の拳によって、ダウンさせられる流川。

流川「ぐ……!」

魔王「ふははははっ!」

魔王「ワシはな、こうやってワシに挑んだきた愚か者どもが、
   地面に転がっているのを見下すのが好きなのだ!」

流川「よくしゃべるヤツだ……」ハァハァ

ギィンッ!

魔王「無駄だっ! 今のキサマでは、ワシに傷一つつけることすらかなわん!」

流川「…………」ハァハァ

魔王「トドメだっ!」

グオァッ!

魔王の爪が、流川を引き裂く寸前──

流川「!」

桜木「左手はそえるだけ……」

流川が放り投げた剣が──

パシィッ!

──桜木の手に渡った。

ズシャアッ!

魔王の爪に引き裂かれる流川。胸から血を噴き出し、崩れ落ちる。

魔王(あの天上天下唯我独尊男が、パスを出すとは!)

桜木「…………!」チャキッ

魔王(だが、勇者に流川ほどの剣の腕はないハズ!)ギロッ

桜木「ルカワの剣なんて死んでも使いたくねえけどよ──」

桜木「やっと……ダンコたる決意ってのができたよ」チャキッ

魔王「終わりだ、勇者っ!」グオオッ

桜木は試合前の一週間で身につけた、あの技を思い返していた。

ザンッ!

桜木「おおっ、できたぜ! オヤジ!」

安西「ほっほっほ、ついに会得しましたね」

安西「二万回、素振りをした成果がありましたね、桜木君。
   コツは左手はそえるだけ、ですよ」

桜木「おうっ!」

桜木「さっそくこの技に名前をつけねーとな!」

桜木「えぇと、合宿で身につけたから──」

魔王「ぬぅっ!?」

桜木「合宿スラッシュッ!!!」





   ザ   ン   ッ





桜木の一撃が、魔王を一刀両断にした。

魔王「し、信じられん……!」

魔王「この、ワシがやら、れるとは……」

魔王「だが……これで終わりではない、ぞ……」

魔王「いつか必ず……はいあがってみ、せる……」

魔王「負けた、ことがある……と、いうのが……いつか……必ず……」

魔王「おおき、な、財産に……な……る……」

魔王「ふは、はははは、ははっ! ……は、は……!」

ブワァァァ……!

不気味な笑い声を響かせ、魔王は消滅した。

疲労困憊ながらも歩く桜木、重傷を負いながらも歩く流川。

歩み寄る二人。

桜木「…………」

流川「…………」

そして──



この日初めて、水と油の関係だった二人がハイタッチを交わした──



桜木「…………」プイッ

流川「…………」プイッ

三井「あの二人が、やりやがった……」

宮城「花道……流川……!」

木暮「やった……! やったぞ……っ!」

桜木「メガネ君、これで人類の寿命が延びたな」
木暮「泣かすなよ……勇者のくせに」

赤木「…………!」グスッ

桜木「さぁ、整列だ」
赤木「おう……分かっとるわ!」

流川「ま、名前だけとはいえ勇者なんだから、あのくらいは……やんないと」

桜木「ンだと!?」ガルル…

魔王を除いた11名が、コートの中央に整列する。

『ただいまの対決、勇者パーティの勝ちです!』

「あ(りがとうございま)したっ!」





勇者パーティの奮闘によって勇気づけられた人間たちの軍は──

その後の魔王軍残党との戦いでウソのようにボロ勝ちした。

こうして魔王軍は魔界へと追いやられ、世界に平和が戻った。
勇者パーティの面々もそれぞれの道を歩み始めた。

宮城は盗賊から足を洗い、三井とともに気ままな旅に出た。

宮城「なんでついてくるんすか、三井サン」

三井「なんだよ、なんか文句あるか」

宮城「いや、別に……」

三井「俺は赤木や木暮みたいに、マジメにってのはどーも性に合わん」

宮城「じゃあ、二人で財宝探しでもしますか!」

三井「おもしれぇ!」



赤木と木暮は湘北国にて、各々の技能を生かし働いている。

木暮「よう」

赤木「おう」

木暮「赤木、道場の方はどうだ?」

赤木「どいつもこいつも根性が足らん! 一年後には、何人残っているか分からんな」

木暮「ハハハ、少しは手加減してやれよ」

赤木「おまえも教会で授業をやってるんだろ? 頑張れよ」

勇者桜木はというと、魔王戦でのムリがたたり、リハビリ生活を送っていた。

桜木(うぬぬ、おのれルカワめ……!
   どっかの戦士団にスカウトされたらしいが、この勇者の補欠に決まってる!)

安西「ほっほ、元気があり余っているようですね。
   それでは、今日のリハビリはキツめにいきますか?」

桜木「おうよ!」

安西「それでは、久々に“アレ”になるとしましょうか……」ゴゴゴ…

桜木「アレ?」

安西「桜木、ダッシュ200本いってこい」ゴゴゴ…

桜木「えっ」

安西「分かったのか? 分からんのか?」ゴゴゴ…

桜木「わ、分かった!」

白髪鬼安西の地獄のリハビリによって、桜木もまもなく復帰することができた。

やがて──

桜木「ルカワ、てめえ! この勇者を差し置いてまた出しゃばりやがって!
   悪党どもをほとんど一人で倒しやがって、個人プレイヤロウめ!」

流川「だれかがモタモタしてたからだろーが、どあほう」

桜木「なんだと!?」

流川「敗北者め」

ドガッ! バキッ! ドゴッ! ベキッ! バキッ!

「またやってるよあの二人」 「だれか止めろよ」 「だれが止められるんだよ……」

桜木と流川は湘北の戦士団に所属し、末永く国の平和と安全を守り続けたということだ。




                                   ~おわり~

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