俺「ふざけんな、ドラゴンボール!」 (14)
俺という人間を一言で表すなら、ダメ人間である。
勉強もスポーツもダメ、芸術方面もさっぱり分からず、ファッションセンスも皆無。
遊びだって知らないし、もちろん恋人なんかいない。
ダメなりに頑張ろう、という気概すらない。
あえて取り柄を挙げるならば、悪いことをしたことがない、くらいのものだろうか。
しかし、それだって単に悪事をはたらく度胸がないだけのことである。
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この先どれだけだらだら生きようと、俺に明るい未来がないことくらい分かる。
年を食い、よぼよぼになる前にいっそ自分で自分に始末をつけた方がいいのかもしれない。
実際、死のうとしたこともある。
だが、いつも直前で怖くなってやめてしまう。
“自殺できる”というのも一つの才能なのだな、とつくづく思い知らされた。
ある休日、俺はぶらぶらとあてもなく街をさまよっていた。
その時だった。
遠くで光がぱっと輝いたかと思うと、俺の体はまるで体重がなくなったかのように軽くなり、
今までいた世界とは全く違う世界に飛ばされていた。
気がつくと、俺は行列に並んでいた。
俺の他にも青白い火の玉がずーっと並んでいる。
ようやく俺が先頭になった時、目の前に座っているいかつい大男が手帳を片手に俺をこう評した。
「お前は生前、特に悪いことはしておらんようだな……。よって、天国行きとする!」
間抜けな俺は、この時になるまで自分が死んだことに気づいていなかった。
死ぬ直前、最後に見たあの光が俺の命を一瞬にして奪ったのであろう。
俺が送られた天国は――
まさに楽園だった。
穏やかで清らかで、死んでるのだから当然だが、体が軽い。
周囲には優しい人ばかり。どこを見ても美しいし、何をやっても楽しい。
なんの苦痛も強制もない、文句のつけようのないユートピアだった。
悪いことをしないでくれて、ありがとう。
俺は生まれて初めて、じゃなかった、死んで初めて自分に感謝した。
ところが、俺の天国生活はいきなり終わりを告げる。
何か抗いようのないものすごい力が俺を引き寄せ――
再び意識がはっきりした時には、俺は現世に戻っていた。
あの忌まわしき現世に……。
現世に戻った後の俺はみじめだった。
一度も死んでなかったならともかく、一度でもあの天国の素晴らしさを味わってしまったら、
この苦痛に満ちた現世に耐えられるわけがない。
かといって、相変わらず自殺する勇気もない。やはり死ぬのは怖いのだ。
またあの光が俺を殺してくれないかなと祈りながら、中身のない毎日を送る日々。
俺は唯一の取り柄だった“悪いことをしなかった”をあっさりと捨て去り、
人を罵り、人を傷つけ、酒を浴びるように飲み、みるみる落ちぶれていった。
最期の瞬間はよく覚えていない。
街の片隅でゴロツキと言い争いになり、腹部に鋭い痛みが走ったと思ったら、
俺の意識は闇に吸い込まれていった。
二度目の死だ。
二度目の生を終えた俺は、再び行列に並ぶ。
以前、俺を天国行きにしてくれた大男は、俺を見るなり顔をしかめた。
「なんだこれは……。かつて戦いに巻き込まれ死んでしまったお前を、
せっかく孫悟空たちがドラゴンボールで生き返らせてやったというのに、
ろくな人生を送っておらんではないか」
どうやら、俺の一度目の死は、なにやら超人的な力によるものだったようだ。
とてつもない化け物が地球に現れ、街を攻撃し、俺はその巻き添えになったのだ。
しかし、ドラゴンボールとやらの力で俺は生き返ってしまい――
「これではとても天国送りにすることはできん。お前は地獄行きとする!」
かくして俺は地獄に送られることになった。
自業自得である。
それでも俺は、心の底からこう叫ばずにはいられなかった。
「ふざけんな、ドラゴンボール!」
― 終 ―
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