涼宮ハルヒの尻穴に指先を突っ込んだら一体どんな反応をするのかなんてことは、他愛もない世間話にもならないくらいのどうでもいい話だが、それでも思い立ったら吉日という格言もあるので、ものは試しとばかりに即実行に移し、僭越ながらカンチョーをしてみたところ。
「んあっ!?」
ぶちゅっ!
「どあっ!?」
思わず耳を塞ぎたくなるような水音が響き、そして指先に確かな湿り気を感じて、俺は遅ればせながらやっちまったな、としみじみ思った。
「すまん、ハルヒ」
「キョン……あんたの仕業ね?」
「こんなつもりじゃなかったんだ」
こんな筈ではなかった。まるっきり想定外だ。
俺は当初、もっと軽い反応を期待していた。
普通にきゃっ! なんて悲鳴をあげて羞恥で頬を染めるハルヒを眺めながら、尻穴に突っ込んだ自分の指先をくんかくんか! と嗅ぎたかった。
そんな俺のささやかな野望は、突如出現した下痢便によって儚くも崩れ去ったわけなのだが。
「……嗅ぎなさいよ」
「えっ? でもお前、たった今、漏らして……」
「いいから、早く嗅ぎなさいよ!」
「よし、わかった。嗅げばいいんだな?」
俺も男だ。うだうだ言わない。腹を決めた。
男にはやらねばならぬ時がある。それは今だ。
ゆっくりと湿り気を帯びた指先を、嗅いだ。
「くんくん……フハッ!……むぐっ!?」
ハルヒの便臭が脳天にガツンときて湧き上がる愉悦を嗤いに変換し、高らかに哄笑しようとすると口を塞がれた。なんとハルヒの唇で、だ。
「はむっ……ふむっ……あむっ」
「??!?」
こちらの口腔内に侵入してきたハルヒの舌によってたっぷりと舐られ、脳みそが沸騰した。
情熱的な涼宮ハルヒの唇と舌の味は甘かった。
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「ぷはっ……あむっ」
どのくらいキスをしていたのだろう。
途中何度も息継ぎをして、続行された。
気がつくと俺はその場に横たわっていて。
馬乗りになったハルヒに唇を貪られていた。
「はあ……はあ……キョン、お願い」
「はあ……はあ……なんだよ」
「……お尻、して?」
顔を真っ赤に染めて、煌めく瞳を潤ませ、まるで泣きそうな表情で懇願してくる涼宮ハルヒ。
なかなか拝めるものではない。貴重な体験だ。
故に俺は、少々意地悪をしてみることにした。
「尻をどうして欲しいんだ?」
「もう! ……わかってる癖に」
「とりあえず、俺の手を尻まで誘導してくれ」
「むぅ……あとで覚えときなさいよ」
いけしゃあしゃあとハルヒに命令すると、さも不本意そうにこちらの手を取り、渋々といった面持ちで自らの柔らかな臀部へと導き、囁く。
「お願い……お尻、して」
「だから、どうすればいいんだ?」
「さっきみたいに、やって」
「さっきみたいに、とは?」
執拗に尋ねると、ハルヒは恥ずかしそうに。
「……カンチョー」
「……俺にそんな下品な真似をしろって?」
「うう……さっきは自分からやった癖に」
悔しそうな涼宮ハルヒの今にも泣きそうな顔。
こいつがこんな表情をするとは。信じられん。
世界中のハルヒアンチ共に見せてやりたいぜ。
「キョン……お願い」
「ダメだ。頼み方がなってない」
「じゃあ、どう頼めばいいのよ」
不貞腐れたように口を尖らすハルヒに命じる。
「尻穴をほじってくださいって、言ってみろ」
「そ、そんなこと、言えるわけないじゃない」
「なら、この話は無しだ」
あばよ、ハルヒ。フォーエバー。達者でな。
上体を起こして、立ち去るそぶりを見せる。
慌てたハルヒは俺の服の袖を弱々しく摘み。
「待って……言うから、待って」
何度か深呼吸をして、上目遣いで口走った。
「お、お尻の穴を……ほじって、ください」
「驚天動地だ」
皆の衆、見たまえ。刮目し、瞠目せよ。
この涼宮ハルヒの可愛らしさはどうだ。
これが、これこそが我らが団長である。
思い返せば、長く苦しい日々であった。
エキセントリックな言動に振り回され、いつも裏方としてフォローに回り、そのことで感謝されたことなど一度もなく、いつか絶対にギャフンと言わせてやろうと心に決め、そして今日この日この時この瞬間、ギャフンならぬ脱糞の憂き目に遭わせることに成功し、マウントを取った。
だけどな、ハルヒ。
俺はやっぱりこう思う。
そんなの、お前らしくないってな。
「ハルヒ」
「……なによ」
「お前に殊勝な態度は似合わないと思うぜ」
「あんたが言わせたんでしょうが!」
「痛ってぇなこの野郎!」
ゴツン! とゲンコツを落とされて。
あまりの痛さに涙目になりつつも。
やはりハルヒはこうでなくてはと、思った。
「だいたい、あたしだけってのは不公平よ!」
いつもの調子を取り戻した我らが団長、涼宮ハルヒは早速無理難題をふっかけてきやがった。
「あんたもお尻を出しなさい!」
「なるほど。それもそうだな。わかった」
文句を言うことなく、尻を晒して突き出した。
もう長い付き合いだ。その要求は読めていた。
俺の肛門と対面したハルヒは意外にも狼狽し。
「え、えっと……」
「ん? どうした、ハルヒ?」
「う、うっさい! どうもしないわよ! あんたがいきなり汚いものを見せるのが悪いのよ!!」
やれやれ、素直じゃない奴だ。ハルヒらしい。
それにしても汚いものとは。少々ショックだ。
ここは大袈裟に落ち込んだふりをしてみよう。
「そうか……悪かったな」
「えっ?」
「汚いものを見せちまってさ」
「ふ、ふんっ……わかればいいのよ」
「すぐに仕舞うから、許してくれ」
「ま、待って!」
かかった。実に御し易いチョロい愛い奴め。
「んん? どぉしたぁ? 仕舞いたいんだがぁ?」
「さ、さっきはその……言い過ぎたっていうか」
しどろもどろとなったハルヒは行動で示した。
「んっ」
ちゅっと尻にキス。仕方ないな。許してやる。
「ね、ねぇ、キョン」
「なんだ?」
「その……触っても、いい?」
暫く俺の肛門に熱い視線を注いでいたハルヒは意を決したように口を開き、接触をせがんだ。
「特別だぞ」
「ふ、ふんっ……団員その1の分際で偉そうに」
「やっぱりやめておくか?」
「もう! 意地悪しないで!」
しょうがない。ここは団長様を立ててやるか。
「くれぐれも丁重に扱えよ」
「わ、わかってるわよ」
とかなんとかいいつつ、ハルヒは俺のいたいけな尻穴にいきなり指を突っ込んできやがった。
ずぼっ!
「ぬあっ!?」
「へぇ……中はあったかいのね」
体内なんだから当たり前だろう。ホカホカだ。
そんなことよりももっと事前慣らすとかさ。
そうした一般常識というものがないのかね。
まあ、いきなりカンチョーした俺が言えた義理ではないことは確かなので、我慢してやる。
「キョン、もっと力抜いて」
「んなこと言われてもだな……」
「そんなに物欲しそうに指を締めつけないで」
どこの誰が物欲しそうに締めつけてるって?
これは異物を排除しようとする正常な反応だ。
言わば生理現象であり感情は含まれていない。
それを証拠に、ハルヒの尻穴だってほら。
「んあっ!?」
「お前もすごい締めつけだぞ」
「う、うっさい! バカキョン!」
罵声をあげつつ、キュッと締めつけてくる。
「たまには素直になったらどうだ?」
「……どういう意味よ」
「俺はお前に尻穴をほじられて気持ちいいぞ」
「……よくそんな恥ずかしいこと言えるわね」
「お前はどうなんだ?」
尋ねると、ハルヒはぷいっと顔を背けた。
「なら、もっとほじってやろう」
「んああっ!? キョン、ほじほじしないで!」
「お前が答えるまで、ほじるのを、やめない」
するとハルヒは負けじと反撃してきた。
「この、いい加減に、しろっ!」
「いぎっ!?」
なんとハルヒは指を2本に増やしやがった。
「よくも団長を困らせてくれたわね!」
「ハ、ハルヒ、待て。落ち着け……話し合おう」
「もう二度と使い物にならなくしてやるわ!」
なんてこった。どうしてこんなことに。
このままでは俺のバージンが消失する。
なんとかせねばと思考を巡らせ、閃く。
たったひとつの真理へと、行き着いた。
今しかない。ここだ。ええい、ままよ。
「むんっ!」
ぶりゅっ!
「きゃあっ!?」
「フハッ!」
ぶりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅぅ~っ!
「きゃああああああああああああっ!?!!」
「フハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
ご覧の通り、と言っても、伝わらないだろう。
擬音の通り、俺は脱糞した。肛門を守る為に。
ついでに冒頭でハルヒにレジストされた愉悦と哄笑もぶち撒けておく。ああ、実に清々しい。
糞を垂れながらハルヒの尻穴をほじくり回す。
「ひぅっ! キョン! かき混ぜないで!?」
「フハハハハハハッ!漏らせば諸共だぁ!」
「あたしはもう漏らしたじゃないの!?」
「まだ宿便がたっぷりと残ってるだろ?」
ハルヒの尻穴に指を突っ込む、そして抜く。
挿れる、抜く、挿れる、抜く、挿れる、抜く。
断続的な刺激を一定感覚で与え続けてやると。
「んっ!? ふぁっ……キョン、なんか来る!」
「よし来た! 任せろ! オーライ! オーライ!」
「怖いよ、キョン……! 何も見えない……!」
「安心しろ、夜明け前が一番暗いものさ」
「手、離さないで……!」
「ああ、わかった」
互いに自由な片手をしっかりと握り合う。
空が白み始めた。日の出は近い。すぐそこだ。
指先に異質な感触が伝わる。下りてきた。
あとは出口を抜けるだけ。道案内は任せろ。
「ハルヒ、聞いてくれ」
「なによ! こんな時に!」
「以前、お前は恋は精神病だと言ったな?」
「それがどうしたって言うのよ!」
「いや、別にどうもしなさいさ。俺も同感だ」
「なら話しかけんな! 気が散るでしょ!?」
「だがな、ハルヒ。これだけは言える」
「勿体ぶらずにさっさと言いなさいよ!!」
「たとえ精神病だとしても、俺は構わない」
「キョン……?」
「お前とならば何も怖くない。望むところさ」
今の俺たちの現状は間違いなくイかれている。
そんなことはわかってる。それでも良かった。
ゆっくりと唇を寄せ。触れた瞬間、静止した。
俺はキスをして、それをハルヒは受け入れた。
それだけで良かった。そして、それが全てだ。
「はあ……はあ……こんなの頭がおかしくなる」
「はあ……はあ……もともとおかしかっただろ」
焦点の合っていない熱い視線が交わされる。
もっと、もっとだ。もっとハルヒが欲しい。
このまま突き進めば、どこに辿り着くのか。
それが知りたくて夢中で唇を重ね、貪った。
舐り、吸って、飲み干し、また吸い付いて。
熱くて荒い吐息を互いに吐いてまた吸って。
「もう……らめ」
ふと、ぷっつんと、ハルヒの気がふれた。
ぶりゅっ!
「……やれやれ」
ぶりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅぅ~っ!
意識を手放し、括約筋がその意義を失った。
ハルヒは俺に馬乗りになったまま、脱糞した。
温かい糞を一身に浴びながら、抱きしめる。
呆れつつ、半ば投げやりになりつつ、本気で。
意地っ張りな団長を慈しみ、愛すると誓った。
「なあ、ハルヒ」
意識を手放したハルヒは答えないが、続ける。
「この世の不思議はわりと身近にあるんだぜ」
ほんの少し手を伸ばせば、それはそこにある。
ふとした思いつきで、カンチョーしたように。
お互いに手を伸ばせばそれに触れ合えるのだ。
それは深淵。
謎に包まれた、神秘の玄関口。いや、出口か。
尻穴という名の深淵は、こちらを覗いている。
「あれ……キョン?」
「気がついたか」
しばらくして、ハルヒの意識が戻った。
「あたし、今まで何を……?」
「ちょっと隣の芝生を覗いただけさ」
「隣の芝生?」
キョトンとして、ハルヒは気づく。
「なんで揃って下だけジャージなわけ?」
「知りたいか?」
すっかり都合の悪いことを忘れたハルヒに。
ニヤリと笑って、そう言ってやると。
なんとなく察したようで、頬を染めながら。
「また今度にしとく……」
「賢明な判断だな」
また今度と、ハルヒは未来に持ち越した。
それはすなわち愉しみを長持ちさせる秘訣だ。
その時が来るまで、せいぜい気長に待とう。
なに、焦ることはない。何故ならば。
俺たちの精神病は始まったばかりなのだから。
【涼宮ハルヒの秘ケツ】
FIN
おまけ
あまり尻穴のことばかりにかまけていると、ひょっとしてそのような性癖の持ち主ではないかと邪推する者が出そうなので、釈明の代わりにひとつハルヒにまつわる真面目な話をしよう。
ようやく夏も終わり、うだるような暑さとおさらばした9月下旬のよく晴れたとある日のこと。
肌寒くも感じられる朝の空気はもともと寝起きの悪い俺から起床する気力を奪い、体温で温められた布団の中でぬくぬくと過ごしていると。
ふと、ハルヒに会いたいと思った。
何故そんなことを思ったのかなんて聞かれても、確固たる理由など存在せず、強いて言うならば、これから冬にかけて人肌恋しい季節が訪れるので年中常夏の涼宮ハルヒを身体が求めたのだ。
そんな本能に従って連絡を取ってみると。
『駅前のスタバ』
極めて短い文章が届き、時間指定がないことから今すぐ来いということだと察した俺は、即座に支度を整えて、秋晴れの高い空の下に出た。
「よお、待ったか?」
「遅い。罰金」
チャリを激漕ぎして迅速に待ち合わせ場所まで向かった俺であったがその努力は報われず、スタバの前には既にハルヒが仁王立ちしていた。
本日は休日であり、当然涼宮ハルヒは私服姿で、秋物のコートを羽織ったその出で立ちは、いつもよりもずっと大人びて見え、見惚れた。
ひとまず店内に入りメニューを眺め、尋ねる。
「何が飲みたいんだ?」
「季節限定のやつ」
みると、スイートポテト風味らしい。
興味を惹かれたのでそれを2つ注文した。
サイズはトールで、俺はアイス。
ハルヒのはフラペチーノである。
「ん……悪くないわね」
「俺もフラペチーノにすりゃ良かった」
「あんたには似合わないわよ」
言わせておけば。似合わなくて悪かったな。
けっと、不貞腐れると、ハルヒは破顔した。
その眩い笑顔に見惚れつつ、話題を振った。
「ところで、ハルヒ」
「なによ」
「今でも宇宙人やらと戯れたいと思うか?」
「当たり前じゃない」
どうやらその願望は、未だに根強いらしい。
「実は俺も昔、そんな漫画的アニメ的特撮的な連中に憧れていた時期があった」
「へぇ? あんたがねぇ……」
やや照れ臭いながらも若かりし頃の若気の至りを暴露すると、ハルヒは興味を持ったらしく。
「似合わないわね」
「またそれか……」
こいつは俺をなんだと思ってるのかね。
「てっきりあんたはサンタクロースも信じていない小賢しい子供だとばかり思っていたわ」
「それについては異論はない」
確かに俺はクリスマスにしか仕事をしない赤い服を着たおっさんの存在を信じていなかった。
「だが、その他の存在については信じていた」
「ふーん。今は?」
「居ないだろうとは思いつつも、出来れば居て欲しいみたいな、最大公約数的な考えだ」
「ふん。つまんない考え方ね」
さもつまらなそうに、鼻を鳴らされた。
反論は出来ない。自分でもそう思うからだ。
しかし、現実ってのは大抵そんなものだ。
この世の物理法則は実によく出来ている。
そしてそんなつまらない世界は退屈である。
「なあ、ハルヒ」
「なによ」
気を取り直して閑話休題。本題へと移ろう。
「お前はそんな連中を見つけて、友達になって、一緒に遊んで、どうしたいんだ?」
前々から聞いてみたかった質問だった。
ハルヒはそんな連中と友達になりたいらしい。
そして一緒に遊びたいのだと言っていた。
その願望はこいつが知らないだけで叶った。
既にハルヒはそんな連中と友達である。
そいつらと遊んで、戯れて、どうしたいのか。
するとハルヒは気まずそうに目を逸らして。
「別に、どうもしないわよ」
それは愚鈍な俺でもわかる明白な嘘だった。
何せハルヒの願望は若かりし頃の俺の願いでもあったので、その真意は手に取るようにわかる。
「特別な連中ってのは、魅力的だよな」
ハルヒはそっぽを向いたまま、何も言わない。
「そいつらと関わっているだけで、なんだか自分も特別な存在になれたような気がするもんだ。だけどな、ハルヒ。それに何の意味がある? それで自分が特別になれるわけじゃない」
「うるさい」
短く、一言だけハルヒは声を荒げた。
しかし席を立つそぶりはなく、座ったまま。
空っぽの飲み物の容器を握りしめて、下唇を噛んで、泣きそうになっているハルヒを見て、居た堪れなくなった俺は、やれやれと溜息を漏らしつつ、おかわりを注文してやった。
「別に咎めるつもりはないんだ」
ただ認識を共有したかった。それだけだ。
その自覚は、子供の俺でも持てたものだ。
ならば俺よりも断然聡明な頭脳を持つ涼宮ハルヒが、そのことに気づいていない筈もなく、気づけないのはおかしい。ありえないことだ。
「俺はお前と同じ気持ちだ」
「あんたと傷を舐め合うつもりはない」
ああ、くそ。どうしてこうなる。何故なんだ。
どうしてわかってくれない。どうすりゃいい。
どうしたら、この分からず屋と心を交わせる。
「……あんたの言いたいことは、わかってる」
不意に、涼宮ハルヒがこちらの心情を汲んだ。
「でも、あたしは諦めたくないの」
「ハルヒ……」
「実在するのかどうかも定かではない存在にもし会えたとして、友達になれたとして、その時にちっぽけで普通過ぎる自分と向き合うことになって、それでどれだけ悲しくて辛い思いをしたとしても、それでも……あたしは……!」
こちらを見つめ、必死に自分の本心を吐露するハルヒは、いつにも増して激情的に、いつにも増して本気で言葉を紡ぎ、一雫の涙を流した。
それを見て、意地を張っているのはこいつではなく自分なのだと気づき俺も本心を吐露した。
「お前は特別だ」
涼宮ハルヒは特別な存在だ。
こいつには願望を実現する能力がある。
古泉に言わせれば、神のような存在だ。
だがしかし、そんなことはどうでもいい。
俺が言いたいのは、そんなことではなくて。
「お前は俺にとって、特別な存在だ」
「キョン……」
これで伝わっただろうか。
自分の本心はハルヒに伝わっただろうか。
不安になって、早口で言葉を重ねる。
「だからもしもお前がちっぽけな自分に耐えられなくなったとしても、その時は、俺が……」
「もういい」
ああ、やっぱり駄目だったらしい。
やはり、涼宮ハルヒには伝わらない。
それっきり興味を失ったらしく。
ハルヒはちゅごごっと、飲み物を飲み干して。
「……まったく、甘ったるいんだから」
拗ねたように口を尖らせ、今更文句を言う。
甘ったるい飲み物の容器を睨み、握り潰す。
そしてにやりと笑い、こちらを横目で見て。
「あんたには似合わないわ」
結局それか。やれやれと首を振りつつも。
自分でもそう思ったので、反論はしない。
とはいえ、これで暫く暖は取れるだろう。
迫り来る冬に備え、俺たちは身を寄せ合った。
【涼宮ハルヒの暖冬】
FIN
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