――藍子の部屋――
高森藍子「~~~~♪」カキカキ
北条加蓮「…………」ジー
藍子「……♪」
藍子「……」
藍子「……ふゎう……」
加蓮「そろそろコーヒータイムにするー?」
藍子「あ……。ううん。さっき頂いたばかりですから。まだまだ大丈夫ですっ」
加蓮「飲みすぎるのもよくないもんね」
藍子「はい♪」
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レンアイカフェテラスシリーズ第89話です。
<過去作一覧>
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」
~中略~
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「お団子のカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「向かい目線のカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「鼻歌交じりのカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「秋のカフェテラスで」
前回のあらすじ:握手会の時に、お礼のメッセージカードを配りましょう。あの子が来たら、カフェのことと、店員さんのことを書いて、渡して伝えましょう。
藍子「~~~♪」カキカキ
加蓮「…………」
藍子「~~~~♪ うんっ、完成♪ 右下のはしっこに、ちいさなイラストを付けて……よしっ♪ 次は、どんなことを書こうかな……?」
加蓮「……そろそろお菓子タイムにしとく?」
藍子「大丈夫ですよ。1回休憩しちゃうと、長くなってしまいそうですから」
加蓮「自覚してるー」
藍子「ふふ。ゆっくりするのは、終わった後でっ」
加蓮「その頃にはもう真夜中になってると思うよ……」
藍子「では、今頑張ったぶん、今度一緒にゆっくりしましょうね。いつものカフェで、コーヒーでも頂きながら……♪」
加蓮「そうだね。……あ、でも私、明日はちょっと用事あるし、明後日と明々後日は――」
藍子「レッスンでしたよね。それでは、この握手会が終わった後ならどうですか?」
加蓮「……そうしよっか」
藍子「は~いっ」
>>3 下から3行目の藍子のセリフを修正させてください。
誤:藍子「レッスンでしたよね。
正:藍子「お仕事でしたよね。
藍子「~~~~♪」
藍子「……?」
藍子「加蓮ちゃん。もしかして、その後も忙しかったり……?」
加蓮「? いや別にそんなことないけど。なんで?」
藍子「う~ん。さっきの加蓮ちゃん、ほんの少しだけ表情が曇った気がしたから……」
加蓮「……アンタはそろそろ人の顔を見ないで話していいんじゃないかな」
藍子「どうしてですか~。顔を見ないと、加蓮ちゃんの気持ちが分からなくなってしまいます」
加蓮「分かられたくないって言ってんのー」
藍子「え~っ」
加蓮「もうっ」
加蓮「……なんていうかな。私って昔、約束するのが苦手だったじゃん。1週間後のこととか、1ヶ月後のこととか……」
藍子「そうでしたね……」
加蓮「あの時の気持ちが、ちょっとだけ蘇って来ちゃった」
藍子「――」
加蓮「あはは……。あはー……あーほら、今って夜だし? 外暗いし?」
加蓮「そういう時くらい、ネガティブな加蓮ちゃんが出てきてもいいと思うなー?」
藍子「う~ん……」
加蓮「?」
藍子「加蓮ちゃん。たぶんそれって、昔の加蓮ちゃんと違って……。えっと――」
藍子「こう、大きいLIVEがあって、それの準備や、レッスンをしている時……LIVEが終わったら何をしようかな? って考えるの、難しくありませんか?」
加蓮「あー……」
加蓮「……確かに、そうかも?」
藍子「ねっ?」
藍子「昔の加蓮ちゃんは、確かに約束が苦手な子だったかもしれません。でも、あの時と同じ気持ちになったとしても、今の加蓮ちゃんは、昔の加蓮ちゃんとは違うんです」
加蓮「……はは。確かにそうだね。ちょっと考えすぎちゃった?」
藍子「はい。あっ……ものごとを考えすぎてしまうのは、昔の加蓮ちゃんも今の加蓮ちゃんも一緒ですねっ」
加蓮「どういう意味ー」
藍子「ふふ♪」
加蓮「っていうかなんで超大真面目に語っちゃってるの。ちょっと昔の気持ちを思い出したって言っただけなのに」
藍子「あっ……。昔のお話をする時の加蓮ちゃんって、いつもすごく真面目な表情ですから。つい、つられてしまいました」
加蓮「そんなこと頼んでなーい。藍子。ほら、今やるべきことは?」
藍子「そうでしたね。メッセージカード、書かなきゃっ」
藍子「……」
藍子「……加蓮ちゃんのことも書いちゃおっかな?」ボソ
加蓮「こら」ベシ
藍子「痛いっ。……聞こえてましたか。やっぱり、ダメですか?」
加蓮「駄目です。あのね? 藍子の握手会に来てくれるファンのみんなは藍子に会いに来てくれてるの。なのに他のアイドルの名前を出したら、がっかりされちゃうでしょ?」
藍子「そんなことないと思うけれどな~――わっ、分かりました、分かったからチョップしようとしないで~~~っ」
加蓮「分かったのならよろしい」スッ
藍子「ほっ……」
藍子「~~~~♪」
加蓮「…………」
加蓮「…………」ウゲェ
藍子「~~~♪」
加蓮「……」チラ
藍子「~~~~♪」
加蓮「……頼んでない時はジロジロ見てくる癖にさぁ」ボソ
藍子「~~~~、?」チラ
加蓮「なーんでも」
藍子「はあ。……~~~~♪」
加蓮(……面倒を見るっていうか、藍子に対してお姉ちゃんぶるのは別にいいんだけど――)
加蓮(まぁ? ぶってるんじゃなくて、実際私がお姉ちゃん側なんだけど??)
加蓮(ただ、今の私の立ち位置も、さっきも。なんだか私、出来の悪い生徒を見てる先生っぽくなってない?)
加蓮(はぁ……。先生はやだなぁ。それこそ、昔のこと引きずりすぎなのは自覚してるけど……)
藍子「~~~~♪」
加蓮「……」
藍子「~~~♪」
加蓮「……そろそろコーヒータイムにしない?」
藍子「だから、さっき頂いたばっかりですっ」
加蓮「そうだっけ」
藍子「そうですよ。さっき、ひといきついて……えっと……1時間くらいかな? しか、経ってません」
加蓮「確かに。まだ1時間も経ってないね」
藍子「~~~♪」
加蓮「……」
藍子「~~~~……」
藍子「……加蓮ちゃん。もしかして、退屈させちゃってますか?」
加蓮「…………」
藍子「退屈しちゃっているんですね……」
加蓮「よく考えてみたらこれ私やることないじゃん。メッセージカードだって藍子が全部書かなきゃいけないし」
藍子「う~ん……」
加蓮「見張ってなきゃーって使命感に燃えてたけど私が書く訳にはいかないし、かといって別に他の準備がいる訳でもないし」
加蓮「藍子を見張る必要だってないよねこれ。手、全然止まってないし」
藍子「来てくださるファンの皆さんの顔を思い浮かべると、自然と手が動くんです♪」
加蓮「これ、私いなくてもよくない?」
藍子「そんなことありませんよ。加蓮ちゃんがいてくれるだけで、楽しいですもんっ」
加蓮「なんにもしてないよ?」
藍子「一緒に同じ場所にいてくれるだけで、私は楽しいですっ」
藍子「でも、退屈させちゃうのは悪いですね……」
加蓮「……あははっ。いいよ、藍子が真剣に考える必要なんてないよ。暇つぶしの方法くらい自分で探すから」
加蓮「例えば、鼻歌交じりの藍子ちゃんをじーっと見つめるとか?」
藍子「そ、その言い方はちょっと……。見るならせめて、ちらちらっ、って見るくらいにしてください」
加蓮「その方がなんかやらしくない?」
藍子「?」
加蓮「たはは」
藍子「~~~~♪」カキカキ
加蓮「……」ボケー
藍子「~~~~♪」
加蓮「……」
藍子「~~~♪ できたっ。ここの空いたスペースには……紅葉のイラストを沿えて♪」
加蓮「……ふふっ」
加蓮「藍子ー。書いたカード見ていいー?」
藍子「はい、どうぞ。そっちに重ねているのが、書き終わったカードです」
加蓮「ん」スッ
加蓮「どれどれ?」
「"今日は来てくれて、ありがとう♪"」
「"楽しくお話ができて、それに、色々なことを教えてもらえて、とても嬉しかったです"」
「"次は、私の回りで起きた出来事のことを話したいな……。よかったらまた、私のお話も聞いてくださいね♪"」
加蓮「……………………うっわー。あざとい」ボソ
藍子「次は、何を書こうかな――?」
藍子「~~……!? あざと……っ!?」クルッ
加蓮「あざとー……。あざといって言うか、獲物を引っ掛ける蜘蛛の巣的な?」
藍子「蜘蛛の巣!?」
加蓮「捕まえたら二度と離さない、お前は私の餌となるのだ、ふははははー」
藍子「餌!?」
加蓮「藍子、いつからそういうキャラになったの?」
藍子「そういうつもりで書いてません! どれを読んだんですかっ――」バッ
加蓮「ん」スッ
藍子「これは、また来てもらえたらいいなって思っただけです。獲物なんて思ってませんっ」
加蓮「えー……。……まぁ藍子だからこんな感じか」
藍子「それ、褒めてくれているんですか? それとも、貶しているんですか!?」
加蓮「褒めてるよー」
加蓮「ズルいなぁ。こんなの書いたら絶対次もまた来るじゃん。藍子に頼まれて断れる訳ないじゃん。ズルいなー」
藍子「~~~♪」
藍子「加蓮ちゃんにもおひとつ、書きましょうか?」
加蓮「?」
藍子「ずるい、って言うなら」
加蓮「あー。えっと、そういうんじゃなくて……。ズルいって、アイドルとしてズルいっていうか、そういう意味の……」
加蓮「ううん、いいや。じゃあ、1枚書いてもらってもいい?」
藍子「は~いっ。じゃあ、今の分が書き終わってからでいいですか?」
加蓮「オッケー。その間に藍子のお母さんからお菓子もらってくるー。書き終わったら呼んでー」
藍子「? ここにいてもいいんですよ?」
加蓮「目の前でラブレター書かれるのも照れくさいし」
藍子「ふふ、そうですね」
加蓮「動揺してよ。じゃね」スクッ
<がちゃっ
<・・・。
<~~~~~。~~~~~~。
<~~。~~~~~
藍子「~~~~♪ ……よしっ」
藍子「加蓮ちゃんへのメッセージカードかぁ……」
藍子「……そういえば、あの時渡せなかった手紙――」
藍子「ううんっ。あれとこれとは、きっと違う物ですよね」
藍子「よ~しっ。書いちゃいますよ~」
藍子「拝啓、北条加蓮様――う~ん。やっぱりこれは違うなぁ……。加蓮ちゃん、で」
藍子「ええと、いつもお世話になっています――ちょっぴり堅いかな?」
藍子「じゃあ……って、これでは前の手紙と同じような内容になってますっ」
藍子「今書くのは、お礼のメッセージカードですよね」
藍子「いつもありがとうございます。……え~っと……」
藍子「~~~~♪」
……。
…………。
――1時間後――
加蓮「……………………」
藍子「……あ、あはははは……」
加蓮「…………言いたいことは?」
藍子「…………あはは…………」
加蓮「何か、言いたい、ことは?」
藍子「……ごめんなさい~~~~~っ」
加蓮「アンタねぇ……! なんで1時間もかけてるのよ! メッセージカード1枚に!!」
藍子「うぅ……それがその、加蓮ちゃんに感謝の気持ちを、って思ったら、つい長くなってしまって――」
藍子「あの、ええと……。は、はいっ! 加蓮ちゃん。メッセージカードをどうぞっ。いつもありがとうございます!」
加蓮「……それはどーも――って! なんでアンタ10枚も書いてんのよ!?」
藍子「きゃあっ」
藍子「そ、それだけ加蓮ちゃんに感謝しているってことです!」
加蓮「アンタ来てくれるファンにお礼だって言ってカード10枚分手書きで渡してみなさいよ、明日から速攻ヤンデレ系アイドルの仲間入りよ!?」
藍子「相手が加蓮ちゃんだからこうなっちゃうんですっ!」
加蓮「アイドルが特定のファンを特別扱いしたら駄目でしょ!? ……って、まさに今特別扱いしようとしてるんだっけ」
藍子「ね、ねっ?」
加蓮「あぁ?」ギロ
藍子「…………」メヲソラス
加蓮「……お陰でアンタのお母さんと1時間も駄弁る羽目になったんだけど。もう……。どうしてくれんのよ……」
藍子「……な、仲良くなれてよかったですね、加蓮ちゃん♪」
加蓮「ああぁ?」ギロッ
藍子「ひいっ」
加蓮「……………………」
加蓮「……ま、……カードはありがと。今読んだら……変な顔になるの分かってるし。また今度、1人の時にじっくり読ませてもらうね」
加蓮「あといつか仕返し――じゃなかった、お返しするから」
藍子「し、しかえし……」
加蓮「ほら。もう結構な時間だし、カード作りを再開――」
加蓮「……」
加蓮「……藍子のお母さんから、これ。藍子への差し入れって、甘いクッキーもらってきたから。これ食べたらまた書き始めるわよ?」
藍子「はいっ」
……。
…………。
藍子「~~~~♪」
加蓮「……ふわ」
藍子「楽しいお話をしてくださるファンの方には、そのお礼と……また聞かせてくださいね、って! ふふっ♪」
藍子「喜んでくれるかな……? また来てくれるといいなぁ……♪」
加蓮「……くすっ」
藍子「あっ。そういえば、加蓮ちゃん」
加蓮「なにー?」
藍子「お母さんと、どんなお話をしたんですか?」
加蓮「んー……。別に。藍子の悪口とか。いつもトロいから私が見てあげてるんですーって言ったら、お世話になってますって言われた」
藍子「……」ジトー
加蓮「……うん。半分……半分の半分くらいは冗談」
藍子「……もう半分とその半分は?」
加蓮「藍子ちゃんエピソードの交換とか。そうそう。季節の変わり目の時だけ藍子ちゃんの寝相が悪くなる話とかー?」
藍子「……お母さん。そんなお話しなくていいのっ」プクー
加蓮「あと、なぜか私のことも結構聞かれたり、なんでか家事のやり方とか教えてもらってた」
藍子「あ~」
加蓮「ハァ……。そういえばさー。うちの、私の方のね? お母さんが、なぜか私が藍子の家で家事やらされたこと知っててさー」
藍子「……!」ビクッ
加蓮「……犯人アンタか」
藍子「な、なんのことでしょうか~」
加蓮「はいはい。で、最近ご飯を作ってみなさいとか洗濯しなさいとかうっさいの。やだって言ったら、その度に藍子の名前を出しやがってさー……」
藍子「あはは……」
加蓮「藍子ちゃんの方がいいお嫁さんになるわよ、とか言われた時には台所の包丁を向けてやろうかって思っちゃったわよ」
藍子「危ないですよ……?」
加蓮「次にまた何か言われたらここに家出してきてやろうかな」
藍子「私はいいですけれど……。きっと、私のお母さんも、加蓮ちゃんに家事をやりなさいって言うと思います」
加蓮「そんな気がする」グデー
藍子「~~~♪」
加蓮「意外とそんな感じだもんね、藍子のお母さん……。あふ……」
藍子「~~~~♪」
藍子「~~~……」
加蓮「……? どうかした?」
藍子「ううん……」
藍子「ふと、思ったんです。今度の握手会、あの子は来てくれるかな? って……」
加蓮「あー……。何の確証もないもんね」
藍子「そうなんですよね」
加蓮「最近よく来てくれるってだけで、その日はたまたま用事があるかもしれないし」
藍子「それに、前来てくださった時にお話したんですけれど……。最近また、色々なカフェを巡るようになったって言ってて」
加蓮「ふぅん?」
藍子「もしかしたら、そっちの方に熱中して……なんて」
加蓮「……」
藍子「……」
藍子「…………あはっ。駄目ですよね、後ろ向きに考えちゃ」
藍子「来てくれたらいいな、って思わなきゃ。来てくれる相手にも、失礼ですよね」
加蓮「そうだねー」
藍子「ごめんなさい加蓮ちゃん。今のは、聞かなかったことにしてくださいっ」
加蓮「外暗いもん。後ろ向きになったっていいんじゃない?」
藍子「じゃあ……そういうことで!」
加蓮「ねー」
藍子「~~~♪」
加蓮「……」
藍子「~~~~♪」
加蓮「……でもまぁ、期待していいんじゃない?」
藍子「~~……?」
加蓮「私もそれは不安になってさ。ほら、お昼にドヤ顔で喋ったけど、心では都合良く考えすぎかも……って思ってたんだ」
藍子「……そうだったんですね。わかりませんでした。加蓮ちゃん、すごく自信満々にお話してたから」
加蓮「ふふっ。久々に藍子を騙せちゃったー♪」
加蓮「でも、半分その通りなんだ」
藍子「半分、その通り?」
加蓮「あの子はきっと、来てくれるって信じることができたの」
藍子「……」
加蓮「どうしてって、んー……これ言うの、ちょっと照れくさいんだけど?」
加蓮「……はいはい。言うから。無言で見つめて来ないの」
加蓮「あの子のこと、私より藍子の方が詳しいだろうけど――でも、私にだって分かることがある」
加蓮「藍子のことが、掛け値なしに好きだってこと」
加蓮「藍子のことが好きな子、って考えたらさ。根拠もないのに信じれるようになっちゃった。きっと藍子の期待に応えてくれる、って」
加蓮「だって、私もそうなんだし? 藍子のことを好きな子の気持ちなら、私の方が――」
藍子「…………」
加蓮「…………」
藍子「……ええと……ありがとう?」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……あーもー、ほら、さっさと書くの再開しなさい!」
藍子「そ、そうですね。再開しなきゃっ」
加蓮「ああもうっ……。涼しいのになんか暑いよ……」
藍子「あははは……。あっ、そうだ。ちょうど1枚書けましたし、私ちょっとお風呂に入って来ますねっ」
加蓮「うんうん、それがいいよ。それがいいね」
藍子「行ってきま~す」
加蓮「お風呂の中で寝ちゃ駄目だよー?」
<がちゃ
<・・・
<~~~~~。~~~、~~~~~~~~~~
<~~~
<……~、~~~
<……
加蓮「……ふう」
加蓮「もー、だから言いたくなかったのに……。……絶対言いたくないって訳でもないんだけどね」
加蓮「はぁ」(天井を見上げ)
加蓮「……」ボー
加蓮「……」
加蓮「あ、そうだ。漁ってやろー♪」スクッ
加蓮「今がチャーンスっ。まずは定番の机から――」ガサゴソ
<がちゃ
藍子「…………………………………………加蓮ちゃん?」
加蓮「え゛っ」
藍子「……………………」
加蓮「……………………お、お早いお戻りで……」
藍子「加蓮ちゃん」
加蓮「い……いやー藍子ちゃん? お風呂はゆっくり浸からないと駄目だよ? ほら、美肌とか疲労とか気にしないとって、事務所の大人もよく言うし?」
藍子「加蓮ちゃん!!」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……な」
藍子「な?」ギロ
加蓮「何で戻ってくるのよせっかく机とか本棚とか漁るチャンスだったのに!!」
藍子「えっ……な、なんでそこで加蓮ちゃんが怒るんですかっ、というかどうして怒れるんですか!? 怒っているのは私の方です!!」
<ギャーギャー
<ギャーギャー
――数秒前のやり取りがこちら――
「お母さ~ん。私お風呂に入ってくるね」
「は~い」
「……あ、待って。藍子。その前に、1回部屋に戻ってみたらいいんじゃない?」
「え?」
「ほら、試しに♪」
「……? お母さんがそう言うなら……?」
――4日後 握手会会場――
<ザワザワ
<ザワザワ
<こっちオッケーでーす
藍子「はい。私も、準備オッケーですっ」
藍子「メッセージカードの枚数、ちゃんとチェック。いち、にー……」
藍子「男性の方には、こっちのカードを渡して、女性の方にはこっちを……」
藍子「それで、私と同じくらいの年の方には、こっちのカードっ」
藍子「うん、大丈夫!」
藍子「……"ヒミツのカード"は、ここに置いて……」
藍子「……」
藍子「……ねえ、加蓮ちゃん。やっぱり、"ヒミツのカード"って言い方はやめておきませんか?」
加蓮「…………」
藍子「加蓮ちゃん? 加蓮ちゃ~、」
加蓮(スタッフの服+目深に被った帽子+某メガネ魔人からもらったメガネ)「名前を呼んじゃ駄目でしょっ」コソッ
藍子「あっ……!」
加蓮「……」キョロキョロ
<ザワザワ
<ザワザワ
<マッタリ
加蓮「大丈夫そう……かな?」
藍子「ほっ」
加蓮「あのね? 私はただの、藍子のプロデューサーさんがねじこんだスタッフの1人で、
藍子の知り合いだけど密かに藍子のアイドル活動が気になってて、
ファンとして握手会に参加するのはちょっと抵抗があるけど1回だけでいいから来てみたくて、
普段バイト漬けだからこういうのに慣れてるから大丈夫だろうって紛れ込ませてもらった一般人の子。いい?」
藍子「それ、"ただの"って言うにしては……。それを考えたのって、加蓮ちゃ――あ、えっと……あ、あなたなんですか?」
加蓮「なんか設定とか考えてると楽しくなってきちゃって、色々追求しちゃった」
藍子「想像していると、楽しくなってしまいますよね。ドラマの登場人物みたいっ」
加蓮「密かに憧れてるけど表には出せない的な?」
藍子「きっと、こっそりと見守る役ですね」
加蓮「そしたらたまたまプロデューサーさんっていう人に出会えて、それがきっかけで?」
藍子「いつか、私のファンになってくれますか?」
加蓮「あーそれ決めゼリフっぽい! 1話の最後くらいでそれ言うの。だけどこう、すごい困った顔して――」
加蓮「……って。何いつものお喋りモードになってんの」
藍子「つい♪」
加蓮「ただでさえ周りから変な扱いされかねないのにこうして藍子と喋ってたらスタッフさんも不審に思って、」キョロキョロ
<マッタリ
<マッタリ
<ユルフワー
加蓮「…………」
藍子「それなら、大丈夫だと思いますよ?」
加蓮「……そうみたいだね」
藍子「私、握手会の前やLIVEの前に、こうしてスタッフさんとお話することって結構ありますから」
<おーい、誰か看板設置を手伝ってくれー
藍子「あっ、私も手伝います~っ」パタパタ
加蓮「あ」
加蓮「……」
加蓮「……」
加蓮「……私も手伝お」テクテク
……。
…………。
<あと10分でーす
加蓮「ヒミツのカードって言い方が嫌なら、"例のカード"くらいにしとく?」
藍子「それでは、あんまり変わらないような……」
加蓮「なら"シークレットカード"」
藍子「もっと特別感が出ちゃってますっ。このカードがあの子用の特別であることは、バレないようにしないといけないんですよね?」
加蓮「一応ね。やっぱりファンを特別扱いするのって、いい目では見られないと思うし……」
加蓮「思う、し……」
<マッタリー
<マッタリー
<ユルフワー
<なー、あんなスタッフっていたっけ? ほら、藍子ちゃんの側にいる
<あぁ、なんか藍子ちゃんの知り合いだって、プロデューサーが
<藍子ちゃんだしアリかー
<アリよりのアリ
加蓮「……なんか馬鹿正直に考えてる私が馬鹿みたいになってきた……」
藍子「バレないようにするために、でも分かりやすい呼び方……。う~ん……。何か、いい名前ってないかなぁ……」
加蓮「で、藍子は藍子で何真剣に考えてんの……」
藍子「木を隠すなら森の中、ですよねっ。逆に、"カード"とだけ呼ぶのはどうでしょう。他のカードは、"メッセージカード"って呼ぶようにすればっ」
加蓮「なんかマジな暗号みたいなこと言い出してる……。あー、それでいいんじゃない?」
藍子「加蓮ちゃ――じゃなくて。え、ええと、……友だちちゃん!」
加蓮(この握手会が終わったら段取りの台本丸めて10回くらい叩こ……)
藍子「言い出したのは、そっちなんです。もっと、真剣に考えてください?」
加蓮「……友達ちゃん。それって今、本当に真剣に考えるべきことなのかな?」
藍子「ふぇ? ……あっ。確かにそうでしたね」
藍子「ん~~~~っ。そろそろ時間かな?」
藍子「……あっ、スタッフさん。ファンの方は、もうみんな来てくださっている……ですか? ふふ、よかった♪」
加蓮(……あーあー、藍子の笑顔にやられてるよスタッフさん。握手席の待機列はあちらですよー。なんてねっ)
藍子「私は、いつでも準備オッケーですっ。……はい♪ では、始めてしまいましょうっ」
加蓮(さて、あの子は来てくれてるかな? 不安よりも……。ふふっ、楽しみだね♪)
……。
…………。
「あっ、前にも来て頂きましたよね。今日も、ありがとうございます♪」
「この前、近くの小川までお散歩に行ったんです。そうしたら、お魚が集まってきて――」
「新しいカフェですか? わあっ♪ 是非行ってみたいですっ。教えてくれて、ありがとうございます♪」
「そうだったんですか~……。大変だったんですね……。私でよければ、応援させてくださいっ」
~~~~~。
~~~~。
~~~。
加蓮「――"高森さん"。そろそろ次の方に……」
藍子「えっ、もう……? うぅ、ごめんなさい。もっとお話を聞きたいんですけれど……」
藍子「また来てくださるんですか? ありがとうございます♪ では、今のお話の続きは、その時にしましょうねっ」
加蓮「……カード」ボソッ
藍子「あっ。待ってくださ~いっ。今日は、みなさんにお礼のカードを渡しているんです」
藍子「はいっ。ありがとうの気持ちを、メッセージカードに込めました。応援していただき、ありがとうございます♪」スッ
藍子「次の方――今日は来てくださり、ありがとうございますっ」
加蓮「……ふう」
加蓮(これで8人目。……ヤバいなー。私まで時々呑まれそうになっちゃう)
<~~~~、~~~~~~っ♪
<~~~~
加蓮(こうして改めて見てみると、藍子ってホント、アイドルっていうより……優しい女の子っていうか。クラスの人気者的な?)
加蓮(でもアイドルなんだよね。……あっそっか。私と正反対のアイドルなんだ)
加蓮(私と藍子が違うってことなんて、今まで何回も味わってきて、その度に寂しかったり、それが面白かったりして来たんだよね)
加蓮(……ふふっ。変なの)
<~~~~~♪
<~~~
加蓮「っと。時間……。高森さん。そろそろ次の方に」
藍子「も、もうですかっ? あと3分、ううん2分だけっ。せめて今のお話だけでも最後まで……」
加蓮「はいはい、いいから――時間も推しているので」
藍子「ううぅ……。あっ、これメッセージカードです。ありがとうの気持ちを込めて――」
……。
…………。
加蓮(それからも藍子は、何人かと握手会――というか、もうお喋り会みたいなことをこなして)
加蓮(折返しも過ぎた頃――藍子の横顔に、ほんのちょっとだけ曇りが見え始めた頃だった)
藍子「次の方――あっ!」
加蓮(来たっ!)
「こ、ここここんにちわ!!」
「あんなに練習したのにどもりすぎ! あっ、こんにちは!」
加蓮(ね? 藍子のことが好きな子の気持ち、私の方が分かってるでしょ?)
藍子「ふふ、こんにちは♪ いつも応援してくれて、ありがとうございますっ」
「う、うえぇへ? あ、ああえとえと……どう、どういたしまして!」
「それは何か違わない!? すみません、コイツがいつもこんなので!」
加蓮(……ごめん。前言撤回。私こういう気持ちはちょっとわかんない)
藍子「ううん、大丈夫。ほら……落ち着いてください。ゆっくり、息を吸って……吐いて……」
「すううーーー……はぁああーーーー」
「すぅー、はぁー……」
加蓮(すぅー、はぁー……ハッ! なんで私までっ)
藍子「落ち着けましたか? ……よかった。では、改めて……」
藍子「いつも応援してくれて、ありがとう♪」
「あ、え、う……こ、こちらこそ、あの、いつも、応援してます!」
「よし! よく言えた! ……?」チラッ
加蓮(!)サッ
加蓮(やっば、目が合っ……いや、でもバレてない……よね?)
「あわわ、あわわわわ……!」
「え? いやまさか――って、コイツまた痙攣してるし! 落ち着け!」
藍子「今日は、私がお話する番かな? そうですね……この前、雨が降った日に、公園に行ってみたんです。そうしたら――」
「ほわ~」
「ほわぁ」
……。
…………。
藍子「――そうしたら、その時に」
加蓮「……高森さん。時間」
藍子「え? もうそんな時間……? ごめんなさいっ。今日のお話は、ここまでみたいです」
「ほわ~」
「ほわぁ……はっ。いっ、いえいえ、コイツのためにありがとうございます! ……こら、トリップしてないで手を離せ!」
「ほわ~」
「ぐぬぬコイツ意外と力強いぞ……!」
加蓮「なんか親近感……。高森さん。カード」
藍子「はい。今日は、来てくださったみなさんにメッセージカード――カードを配っているんです。お礼の気持ちを込めて、書かせてもらいましたっ」
藍子「どうぞっ。"帰った後にゆっくり読んでもらえると"嬉しいな♪」
「は、は! ありがとございま!」
「え、あたしももらっていいの!? ありがとうございます!」
藍子「また来てくださいね~♪ 次の方~っ」
加蓮(ふうっ……。目標達成、だね。よかった――)
「ほわぁ……ほわぁ……」
「大丈夫? ふらふらしてるよ? 大丈夫ー?」
「カード……メッセージカード……うえぇへへへへぇ」
加蓮(……なんか凄い顔してるのは見なかったことにしよ。)
藍子「そうなんですか? ふふっ、良かった♪ 私も、うまくいけばいいなぁって密かに応援していたんです♪」
……。
…………。
――数日後 おしゃれなカフェ――
加蓮「……」ペシ
藍子「痛いっ。急になんですか?」
加蓮「そういえば握手会の時に藍子のこと10回くらい台本で叩いてやろうって思ってたの、今思い出して」
藍子「そんなこと思い出さなくていいですっ。……あの、ちなみにそれって……私が、何か失敗しちゃったから?」
加蓮「うーん、失敗じゃないんだけど……。っていうかなんで叩こうって思ったんだっけ? あははっ、忘れちゃったよ」
藍子「忘れたのならはたかなくていいですよね!?」
加蓮「ってことで藍子、頭出してー。あと9回はたくから」
藍子「忘れたのならはたかなくていいですよね!?!?」
加蓮「そこまで言うならしょうがないなぁ。全く。藍子はワガママだね」
藍子「まるで私が悪い子みたいに……!?」
加蓮「ごくごく……ふうっ」
藍子「ごく、ごく……。ふう……♪」
加蓮「なんか、静かだよね。今日」
藍子「今日は、他にお客さんもいませんから……」
加蓮「ね」
藍子「なんだか、時間が巻き戻ったみたい。ここ最近は、いつも色々な方の顔を見ていましたから」
加蓮「そういうのがあるのかな? タイミングが良かったのかな」
加蓮「それとも、私らしくない言い方をするなら……神様の気まぐれみたいなの、とか」
藍子「……あは♪ 本当に加蓮ちゃんらしくないっ」
加蓮「はいあと9回」ペシ
藍子「痛いっ」
加蓮「あるじゃん。定例LIVEなのに妙にお客さんが多かったり、新曲出したのに変にダウンロード数が少なかったり」
藍子「う~ん……。あるかなぁ……」
加蓮「えー。ない?」
藍子「あんまり心当たりはないかもしれませんね。加蓮ちゃんには、そういうことがあるんですか?」
加蓮「たまにね。モバP(以下「P」)さんには、そういう浮き沈みは気にするなって言われてるけど……」
藍子「でも、お客さんがいっぱい来てくれた時は、喜んでいいと思います」
加蓮「じゃあ次から、その日のポテトは大盛りにすることにしよっと」
加蓮「……そして奈緒に食べさせよ」
藍子「注文は、食べられる量にしましょうね……」
加蓮「いーのいーの。私の周りには、私の代わりに食べてくれる人がいる。今まで生きてきて、こんなに幸せなことって他にないよ――」
藍子「他にいっぱいありますよね、絶対」ジトー
加蓮「あはははっ」
加蓮「……」ズズ
藍子「……」ズズ
加蓮「ふうっ」コトン
藍子「……、」コトン
藍子「そわそわ……」
加蓮「……気になる?」
藍子「あはは……。分かっちゃいますか?」
加蓮「そりゃね。ま、気持ちは分かるけど」
藍子「来てくれるでしょうか……」
加蓮「あの握手会が終わって、次の休日。来るとしたら、今日か明日」
藍子「……今にして思うと、ちょっと強引だったでしょうか?」
加蓮「ちょっとはね。でもいいんじゃない? ああいう子には、ああいう感じで」
藍子「そうでしょうか。それならいいんですけれど……」
加蓮「急用なら仕方ないけど、そうじゃないならきっと来てくれるよ。だって」
藍子「私のことを好きでいてくれる子の気持ちは、加蓮ちゃんがよく知っているから! ですかっ?」
加蓮「あと8回!」ペシ
藍子「痛いっ」
加蓮「目の前で言われるとほんっと……。なんで私、藍子に言っちゃったんだろ」
加蓮「握手会って言えばさ。藍子ちゃんのメッセージカード、ちょっとだけ話題になったみたい」
藍子「話題?」
加蓮「あの日の夜にSNSでエゴサ……これエゴサって言っていいの? とにかく藍子のこと検索してみたの」
加蓮「そしたら"藍子ちゃんにメッセージカードもらった!"みたいな投稿があってさー」
藍子「……そ、その方、なんて言ってましたか?」
加蓮「気になるー?」
藍子「気になりますっ」
加蓮「……」ニヤニヤ
藍子「教えてください! おっ、教えてくれないのなら……な、なにかしちゃいますからね。なにかされたくなかったら、教えてください!」
加蓮「あっははは! それで脅しになると思ってるの?」
藍子「む~っ」
藍子「……あっ、そうだ!」
藍子「教えてくれないなら、今日はずっと、加蓮ちゃんのことを呼び捨てで」
加蓮「その人はカードもらったって投稿だけだったけど、」
藍子「……」
加蓮「……微妙に不満げな顔をしないの。その投稿へのリプライが阿鼻叫喚だったよ」
藍子「あびきょうかん!?」
加蓮「エモい、ズルい、ヤバい、尊い、ゆるふわ~、自分もほしい、殺してでも奪い取る(通報され凍結)、藍子ちゃんは天使、ゆるふわ~、俺も行けばよかった、何故俺は仕事を優先してしまったのだ、お前は名誉藍子ちゃんファンだ、ゆるふわ~、次はいつだ、ところでスタッフの顔になんか見覚えあった気が、ゆるふわ~」
加蓮「こんな感じ」
藍子「あ、あははははは……。……ゆるふわがみなさんに伝わって、よかったです」
加蓮「最近流行ってるの? リプライをゆるふわ~で埋めてくの」
藍子「流行してほしいですね。みなさんで繋ぎましょう、ゆるふわの輪♪」
加蓮「……」ズズ
藍子「……」ズズ
加蓮「ふうっ」
藍子「……あれ? えっ? 加蓮ちゃん、もしかしてスタッフさんに変装したのがバレたんですか!?」
加蓮「どうだろ。結局私の名前は全然見なかったし、大丈夫じゃない?」
加蓮「……あー、でも後からPさんには怒られちゃったけど。藍子と喋りすぎだって」
藍子「あ~……」
藍子「次はいつ、って仰ってる方もいたんですね」
加蓮「うん。藍子には話行ってない? Pさんから」
藍子「う~ん……。特には?」
加蓮「ふぅん。じゃあやらないのかな。Pさんもファンの反応くらいは見てると思うけど……」
藍子「またいつか、Pさんからお願いされるかもしれませんね」
藍子「ううん、お願いされなくても……メッセージカード、また書いて、みなさんに渡したいな……♪」
藍子「ファンの方の顔を思い浮かべて、1枚1枚書くあの時間と、渡した時のみなさんの笑顔……。ふふっ!」
加蓮「あははっ。いい顔しちゃって……」
藍子「その時には、加蓮ちゃん。また、パジャマパーティーをしましょうね?」
加蓮「えー、どっちかって言えば合宿じゃない?」
藍子「パジャマパーティーですっ」
加蓮「合宿!」
藍子「パジャマパーティーっ」
加蓮「合宿っ!」
加蓮「そういえば私、あの時先に寝ちゃってたけど……なんか変なこと言ってなかったよね?」
藍子「う~ん、特には……。「ポテト……」とか、「サンタ……」とか、そんなことをつぶやいていたくらいですね」
加蓮「……本当でしょうね?」
藍子「本当ですよ。安心してくださいっ」
加蓮「ならよかった」
藍子「ただ、起きた時にはびっくりしちゃいました。加蓮ちゃんが、私に覆いかぶさっていましたから」
加蓮「……どんな夢を見てたんだろうね、私」
藍子「覚えていないんですか?」
加蓮「たぶん藍子が出てきたんだろうなーってくらいは。あ、そういえば私、なんか夢の中で藍子に飛びかかっていったような覚えが」
藍子「飛びかかっていった!?」
加蓮「だから現実でも藍子にのしかかってたのかも。ごめんね?」
藍子「ううん。びっくりはしましたけれど、大丈夫ですっ」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「…………」
藍子「…………」
加蓮「……すみませーん!」
藍子「……すみませ~んっ」
加蓮「あっ」
藍子「あ……」
藍子「……ふふ。ひょっとして、加蓮ちゃんもそわそわしてる?」
加蓮「そりゃ……まあ。ね?」
藍子「そうだったんですね♪」
藍子「――あっ、店員さんっ」
加蓮「コーヒーありがと。美味しかったよ。……注文。注文かぁ……注文だよね……。藍子、何かある?」
藍子「う~ん……」パラパラ
加蓮「……店員さん、そんな変な顔して見なくてもいいでしょっ。見るなら藍子にもその顔向けなさいよ――あっ、コイ……この人、藍子を見るなり一瞬で接客スマイルに!」
藍子「ふふ、ごめんなさい。今は、注文はないんです」
藍子「あっ……でも、お伝えしたいことが1つあって」
加蓮「そういえば言ってないんだっけ。あの子のこと、ちゃんと伝えられた……と思うよ」
藍子「はい♪ だからきっと、近いうちにここに来てくれると――」
<からんころん
藍子「?」チラ
加蓮「……あっ!」
「わぁ……。ここが、藍子さんのいつも来ているカフェ……」
「おおぉ。なんかちょっと、あたし場違いな気がするぞ?」
「そんなことないよ。カフェの門は、誰にだって開いているの――わ、わああああああっ!? 藍子さんんんん!?!?!?!?」
「ちょ、一瞬でうるさっ、ってホントだ! いる!?」
加蓮「やっほー」ヒラヒラ
藍子「ふふ、こんにちは♪ またお会いしましたねっ」
「こここ、こんこんこんこん、こっこここっここ……」
「大丈夫!? 首もげるよ!? あ、こんにちは! すみませんコイツがいつもこうで!」
藍子「ううん。あっ、そうだ。是非、店員さんともお話していってください。実は、あのカードは店員さんにお願いされて――」
加蓮(……あーあ。せっかく久しぶりに静かな、昔みたいな場所になってたのになー)
加蓮(お客さんが2人増えちゃった。あーあ)
加蓮(……)チラ
<どうぞこちらで♪ 一緒にゆっくり過ごしま――
<わ、わわわたしあのっあっちの席でいいですあっちの席! 席!
<そうっすよ、というかコイツたぶん気絶しちゃうんで
<え~っ。せっかく、あの日の続きをお話したかったのにっ
<……? あなたは、ここの店員さん?
<ご注文が決まったらお呼びください。それと……
<おおお? コイツと話したい? はあ……じゃあ、あたしは邪魔みたいだしあっちの席に――うわっ凄い顔するな! 分かった、ここにいるから!
加蓮(こんなんじゃ、2人も絶対ここに通い詰めになっちゃうよ。藍子とのんびりする時間がさらに減っちゃうね。あーあ)
藍子「……? 加蓮ちゃん、どうしたんですか? なんだかすっごく嬉しそうっ♪」
加蓮「そういう藍子こそ、嬉しそうだよ?」
藍子「はい♪」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……あははっ」
藍子「……ふふっ」
<えっ、店員さんも藍子さんのファンなんですね! 私もなんです!
<出た、5分で仲良くなれるスキル! ……でも今日はちょっと違うのかな? よかったね、友達がまた増えて
【おしまい】
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