北条加蓮「藍子と」高森藍子「言葉を探すカフェで」 (36)

――おしゃれなカフェ――

高森藍子「加蓮ちゃん。まずは、店員さんから聞いたお話を教えて?」

北条加蓮「オッケー。依頼してきた店員さんのことだけど――」

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レンアイカフェテラスシリーズ第117話です。

<過去作一覧>
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」

~中略~

・北条加蓮「藍子が忙しい日の、いつもではないカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「再認識するカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「時計の音が聞こえたカフェテラスで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「アイドルのいるカフェで」

最近のあらすじ:藍子は(事務所に届いた)カフェの店員さんからの依頼を受け、「私たちの時間」というテーマでコラムを書くことになりました。

※時間軸として、前回(と前々回)のそのまま続きとして読んで頂ければ嬉しいです


加蓮「まず、予想通りここの店員さん」

藍子「やっぱりそうですよねっ。あ、もしかして、さっき注文をした時に店員さんが来たのって――」

加蓮「このことが終わるまで、店員さん、藍子とはできるだけ話さないようにするだってさ」

藍子「そうですか……。なんだか、ちょっぴり寂しいですね」

加蓮「店員さんにも思うところはあるんでしょ。察してあげなよ。……それとも、藍子が寂しがってるって言っちゃおっかー? そしたら――」

藍子「ううんっ、いいです。終わった後で、またいっぱい話しますから」

加蓮「ふふっ。どんな話をするんだか」

藍子「? その時にはきっと、加蓮ちゃんも隣にいますよ?」

加蓮「お構いなくー♪」

藍子「え~っ」

加蓮「あの子達が来てたらそっちに遊びに行くし、来てなかったら1人でテラス席ででものんびりしておくから」

藍子「……そんなこと言って。あとから寂しくなっても、知りませんからねっ」

加蓮「はー? 藍子こそ。隣に加蓮ちゃんがいないーって泣きついてきてもいいんだよ?」

藍子「私はそんなこと言いませんっ。それを言うのは、加蓮ちゃんの方でしょ!」

加蓮「いーや、藍子の方が先に言うに決まってるっ」

藍子「言ったことないもんっ」

加蓮「顔が言うって言ってる!」

藍子「どういうことですか!」

加蓮「それ言ったら私だって言ったことないし?」

藍子「顔が言ってますよ?」

加蓮「同じこと言ってるじゃん!」

藍子「…………」

加蓮「…………」

加蓮「で、話を戻すけど」

藍子「はぁい」

加蓮「ここの店員さんが主導になって動いてたみたい。ほら、前にさ。私がクリスマスプレゼントを配った時――」

藍子「それって、病院の……」

加蓮「そう。あの時に看護師から依頼が来たこととか、表で話したこととか、店員さんも知ってるじゃん」

藍子「そうですね。表に座ってお話しするためのベンチも、店員さんが用意してくれました」

加蓮「それを聞いて、影響された……っていうのかな。あ、この手があるのか! みたいな感じになったみたいで」

藍子「ふんふん」

加蓮「で……あれっていつだったっけ。店員さんが何かのコラムを読んでて……藍子に何か言いたそうにしてた時。あったじゃん」

藍子「えっと……?」

加蓮「ほら、私が店員さんの方ばっかり見てて、藍子がちょっと不機嫌になっちゃった時の」

藍子「わ、私が? それって確か……うん、思い出しました。加蓮ちゃんが今やっている、色々なアイドルを呼んで、色々な挑戦をしてみる企画のお話をした時の――」

藍子「……あの。加蓮ちゃん。あれ、いつになったら私をゲストに呼んでくれるんですか」

加蓮「ごめん。藍子に挑戦させたいことを考えてたら26個も思い浮かんで、今絞り込み中」

藍子「そうですか~。決まったらぜひ呼んでくださ――待ってっ、26個!?」

加蓮「モバP(以下「P」)さんと色々話してて、……藍子のことが大好きなんだな、って指摘された時にちょっとだけ喧嘩しちゃった。私が意地張っちゃっただけなんだけど――」

藍子「そ、そのお話はそのお話で気になるからあとで教えてほしいですけれど、26個ってどういうことですか!? たぶんそれ、大げさに言っていない本当の数字ですよね!?」

加蓮「だって藍子の顔を思い浮かべたらさー。藍子にやらせたいこととか、藍子とやりたいこととか、色々思い浮かんじゃうもん。しょうがないよね」

藍子「……、それは……その、じ、じゃあ私だってっ、加蓮ちゃんとやりたいことをいっぱい用意して行きますからっ」

加蓮「いやいや。決めるのこっちなんだけど」

藍子「むぅ」

加蓮「とにかく。店員さんのことなんだけど……あの時に読んでたのって、やっぱり藍子が書いたコラムだったみたいで」

藍子「ふんふん」

加蓮「自分も、このカフェのことを書いてほしい……って思ってたんだってさ」

加蓮「ただ、なんだろ。いくら仲が良くても、それを"アイドルの高森藍子"にそれを直接頼むのって申し訳ないって思ったらしくて」

加蓮「どうしたらいいかなって思って、色んな人に相談してたみたい。他のカフェの店員さんとかにね」

藍子「相談……」

加蓮「そうしたら、じゃあここの店員さん1人の依頼じゃなくて、みんなの依頼ってことで試しに事務所に出してみよう――って話になったんだってさ」

藍子「それでPさんは、色々な方が依頼されたって言っていたんですね

加蓮「そゆこと。そうそう、メニューがちょっとオシャレになってたりインテリアに時計が増えたりしてたのって、影響されたからなんだって」

藍子「……謎解きと時計のカフェ?」

加蓮「ふふっ。あのおじいさん強いもんね。依頼の件で色々話してるうちに、」

加蓮「……ほら、今私たちが脱線してるみたいに、他の話――カフェの工夫のこととか、メニューのこととかになって」

加蓮「元々、ここのカフェの内装とかがコロコロ変わったり、限定メニューが豊富なのも、影響されやすいから……って、恥ずかしそうに言ってたよ」

藍子「ふふ。感受性が豊かなんですねっ」

加蓮「結局、依頼に乗った店員さんは、ここのカフェと……時計&謎解きのカフェ、郊外の田舎みたいな雰囲気のカフェ、街角のカフェ」

加蓮「それと――"今日までのカフェ"の、店員さんだった人も」

藍子「……!」

加蓮「元気にしてるんだってさ。自分はもうカフェの店員じゃないって言い張ってるみたいだけど……誰かが巻き込んだみたいで」

藍子「そうですか……。よかった……!」

加蓮「こらこら。何安心してんの」

藍子「えっ?」

加蓮「私たちも元気だよ、今もちゃんとアイドルしてるよ、って、伝えることができるんだから……これは、その為のチャンスでもあるんだから」

加蓮「やり始めるのは、これからなんだよ。今からもう終わったって安心されたら、私も困るから……」

藍子「そうでしたね。……大丈夫っ。気合、入りなおしましたからっ」

加蓮「うんっ」

加蓮「藍子が気にしていた、店員さんみんなが望んでることなんだけど――」

藍子「はいっ」

加蓮「カフェの紹介とかじゃないの。カフェで過ごす藍子の……あるいは藍子達の時間、って訳でもないみたい」

加蓮「ただ一言。"藍子を見たい"んだってさ」

藍子「……私を見たい?」

加蓮「みんなで相談してるうちに色々考えが変わったりして、最終的にそうなったんだって。もちろん言葉通りの意味じゃなくて。でも、ちょっと漫然としてて私にも分からないんだよね……」

加蓮「言い方は色々あったけど、とにかくみんなに共通してることは"藍子が見たい"ってこと」

加蓮「それじゃ分かんないよ、って聞いてみたんだけど……」

藍子「店員さんは、なんて?」

加蓮「……ホントにその一点張り。それ以外言えない、って。でも……その時の店員さんの様子が、“言えない”っていうより“秘密にしておきたい”って感じだったからさ……」

加蓮「私、つい、藍子が困ってるんだよとか詰め寄っちゃった……」

藍子「……、」

加蓮「ごめん。ちゃんと謝ったけど……店員さんは許してくれたけど」

藍子「……店員さんがいいよって言ったのなら、大丈夫ですよ。それより、私を見たいって……」

加蓮「分かんないよね。依頼してきた店員さん、みんな藍子のことは見たことあるのに」

藍子「本当に、カフェのことではなくて、私のこと――」

加蓮「うん。話してた時の――藍子が見たい、って言い張ってる時の店員さんの顔って、秘密にしたそうな後ろめたさもあったけど、それ以上にファンの顔をしてたの」

加蓮「ステージから見る時のファンの顔みたいに。……ほらっ、私達がステージに上がる前にさ。楽しみでわくわくしてたり、まだかって焦れったくしてたりするじゃん。あれと同じ、顔……雰囲気?」

藍子「ファンの皆さんと同じ雰囲気……。私のことを、待ってくれているってことでしょうか」

加蓮「そうなのかもね。私が店員さんから聞いた限りだと、これ以上のヒントはなし」

加蓮「もし、藍子がまだ困るようなら藍子が直接聞きに行った方がいいと思うけど――」

藍子「ううん。それは、本当の本当に最後の手段です。まだ、私と加蓮ちゃんには考える時間がありますからっ」

加蓮「だよね。藍子ならそう言ってくれるって信じてた」

藍子「くすっ♪ でも……そうですか。私を見たいって言ってくれている……」

加蓮「どうしよっか。藍子の何が見たいかにもよるよね」

藍子「そうですね……」

加蓮「やっぱりアイドル活動のこと? でも藍子って、確かにカフェアイドルとして知られてるけどカフェにいる時ってだいたいオフの時の藍子だよね。いや、だからこそカフェの店員さんからは見えない藍子の姿を――」

藍子「…………、」

加蓮「……っと」

加蓮「ちょっと先走りすぎちゃった、かな……。ふふ。ごめんね。こういうこと考えるのって、楽しいから」

藍子「ううん。加蓮ちゃんが真剣になってくれてることも、そんな加蓮ちゃんが見られることも、私は好きですからっ」

加蓮「そ、そぉ?」

藍子「でも、今はもうちょっとだけ、ゆっくり考えたいな。1つ1つ、丁寧に」

加蓮「ごめんってばー……」

藍子「カフェのお話をするってことだと、やっぱりカフェの紹介になってしまいそうです。最近行った場所のことや、食べたもののこと」

加蓮「でもさ、そうじゃないんだよね」

藍子「そうですね。でも、店員さんは私の何を見たいのでしょうか……」

加蓮「んー……」

藍子「……ううんっ」

藍子「こういう時は、私から魅せに行っていいんだって……そうですよね。加蓮ちゃんが、教えてくれたこと♪」

加蓮「そうそう。だいたい、店員さん自身も分かってないのかもしれないよ?」

藍子「店員さんが分かっていないかもしれない?」

加蓮「自分のことだって、自分より他の人の方が詳しいかもしれないって話したじゃん」

加蓮「特に藍子は、私のことだって……いっぱい見てくれて、いっぱい知ってくれてて」

加蓮「……まぁ? それがちょっとムカつくっていうか、察し良すぎ! ってところもあるんだけど?」

藍子「むっ。それは、私が見ている……っていうこともありますけれど……加蓮ちゃんが、分かりやすいっていうのもあるからですっ」

加蓮「はぁー? これでも隠してるつもりなんですけど?」

藍子「隠れきれてませんっ。本当の加蓮ちゃんの心が、知ってほしいなって言ってますからっ」

加蓮「だからそれを見抜かれるのがムカつくって話なの!」

藍子「…………」ジー

加蓮「……何」

藍子「加蓮ちゃん。加蓮ちゃんが本当に嫌なら、私は、加蓮ちゃんのことを見ないようにしますけれど――」

加蓮「えっ」

藍子「どうなんですか? 加蓮ちゃん。しっかり、加蓮ちゃんの口から教えてください」ジー

加蓮「そ、そういうこと言うのは反則っ……。もう! 分かったわよ、分かったから……!」

藍子「くすっ♪」

加蓮「……アンタ絶対分かっててやってるでしょ!」

藍子「まあまあっ。今は、私のコラムのお話です♪」

加蓮「ぐんぬぬぬぬ……!」


□ ■ □ ■ □


藍子「う~ん……」

加蓮「結局、また振り出しっていうか、悩むことになっちゃったね」

藍子「そうですね。……でも、悩むことだって楽しいですから♪」

加蓮「そう?」

藍子「はい。悩むことっていうよりは……考えることかな?」

藍子「どうしたら、ファンのみなさんが楽しんでくれるかな。どうやったら、ファンのみなさんは笑顔になってくれるかな……って」

藍子「考える時間って、なんだか楽しくありませんか?」

藍子「もしかして、ですけれど……加蓮ちゃんが、いろいろ計画したり、企画を作ったりするのも……同じ気持ちじゃないかな、って思います」

加蓮「そうかもね……。そうなのかも」

藍子「ねっ」

加蓮「でも、私の場合はどうやったらビックリさせられるかなーってのも混じってるけど」

藍子「も~」

加蓮「藍子もそういう気持ちってある? ちょっとくらいビックリさせてみたいなー、みたいなの」

藍子「真顔で聞かないでくださいっ。その……み、未央ちゃんや茜ちゃんと一緒に何かをやる時は、ほんのちょっぴり……ほ、本当にほんのちょっぴりですよ?」

加蓮「ふふっ。前に未央が言ってたよー。藍子が時々、"え、それホントにあーちゃんが考えたこと!?"ってアイディアを出す時があるって――」

藍子「わあああああっ!? あれはそのっ、じ、冗談で言ったつもりで!」

加蓮「なんかその後に私のせいだって言われたりもしたけど」

加蓮「……まぁとにかく。藍子が楽しいって言うのなら、私はいいよ。ゆっくり考えよう?」

藍子「あ、えっと、……はいっ♪」

加蓮「藍子を見たいっていう依頼。テーマは"私たちの時間"かぁ」

藍子「加蓮ちゃん――」

加蓮「ん?」

藍子「加蓮ちゃんなら、私を見たいって思った時に、どんな私を見たいって思ってくれますか?」

加蓮「藍子を? 藍子を見たいって思った時――」

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「…………」

加蓮「…………って、どういう質問よそれ!」

藍子「ふぇ? だって、今分からないのって、私を見たいって言ってくれている部分ですから。加蓮ちゃんならどうなのかな、って考えたら、何か思いつくかもしれないって思ったんですけれど……」

加蓮「あ、あぁそういう感じの」

藍子「?」

加蓮「なんでもないっ。私は……それはもう、私にからかわれて慌ててる藍子?」

藍子「加蓮ちゃん、もっと真剣にっ」

加蓮「真面目に答えてるよ? ちょっと前……ホントに"ちょっと"前だよ。藍子のことをそんなに知らなかったことの話になるんだけどさ」

加蓮「藍子のこと、……ほら、あんまりよく思ってなかった頃の、話……ってしていい?」

藍子「……、」コクン

加蓮「大丈夫。私がただ話したいだけで……受け止めきれなくても、いつかの時みたいに怒ったりはしないよ」

加蓮「昔の私って、藍子のことを八方美人で誰にでも優しい顔をして……って思ってたんだけど、カフェで話すようになってから印象が変わってさー」

加蓮「あ、これ話していいんだ、ってことが分かって。で……遠くから藍子を見ていた頃の、藍子ってムカつくヤツ! みたいな考えも、ちょっとだけ残ってて」

加蓮「誰にでも優しい表情を崩してやりたい、本当の顔を暴きたい――なんてさ」

加蓮「じゃあ、意地悪とかしたりして慌てさせたら見れるかな、って思ったの」

加蓮「ホントに昔のことだよ? 今は……単に見たいからってだけ?」

藍子「……それ、今の方が駄目な気がしますよ?」

加蓮「えー」

藍子「でも……そうだったんですね」

加蓮「あくまでこれは私のことだし、そーいう時期もあったよって話」

加蓮「……はぁ。今にして思うとこう……なんか、馬鹿だったなーって感じ」

藍子「まあまあ。昔は昔、今は今、ですよっ」ナデナデ

加蓮「それ今一番刺さるー……」

藍子「今の加蓮ちゃんは、私のこと、ちゃんと好きでいてくれているんですよね?」

加蓮「それはもちろ――って、こらっ。どさくさに紛れて何言わせようとしてんのっ」

藍子「ちぇ~」

加蓮「油断も隙も……ったく」

加蓮「でもこれはコラムの話には使えなさそうだよね。じゃあ、他のことで、藍子の見たいところ……」

藍子「じ~……」

加蓮「……あ、あはは……そんなにせがまれると話しづらくなっちゃうじゃん」

藍子「えっ。そんな目になってましたか?」

加蓮「なってたなってた。しょうがないなぁ、藍子ちゃんは」

藍子「あはは……」

加蓮「ファン目線で考えてみよっか。ファンのみんながあまり知らなさそうで、藍子の知りたいって思うようなこと……。やっぱり、普段何をやってるかとか?」

藍子「そうですね。普段はお散歩をしたり、写真を撮ったり、カフェに行ったり――」

加蓮「そうなんだけど、その辺はだいたいみんな知ってるね」

藍子「あと、加蓮ちゃんとここでお話したりっ♪」

加蓮「それも?」

藍子「でも、みなさんそれもご存知かもしれませんね」

加蓮「誰かさんが言いふらしまくってるし、ファンレターはもう連名みたいになっちゃってるもんね……」

藍子「ううん、でも、加蓮ちゃんのことを教えてほしいって相談は今でもときどき来ますよ」

加蓮「それってアイドルのみんなからじゃなくて?」

藍子「アイドルのみんなからもですし、ファンの方からもです。あと、スタッフのみなさんと、他の事務所のアイドルの方からと――」

加蓮「アンタの周りは一体どーなってんの……。まぁでも、今は藍子の話だよね」

藍子「そうですね。……」ジー

加蓮「?」

藍子「ううん。あの、少し思ったことなんですけれど」

加蓮「うん?」

藍子「……怒らないで聞いてくださいね?」

加蓮「う、うん。多分怒らないと思うけど……?」

藍子「私の見ている加蓮ちゃんのお話とかは、どうかなって……」

藍子「私のことも、加蓮ちゃんのことも、知っている方は知っていると思います。おかげさまで、ファンのみなさんからもカメラの相談やおすすめのカフェなど、いろいろな質問を頂いたりして……」

加蓮「うんうん」

藍子「加蓮ちゃんだって、たぶんそうだと思います。でも、私の見ている加蓮ちゃんのことを知っている方って、そんなにいないんじゃないかなって」

藍子「加蓮ちゃんの好きなところや、加蓮ちゃんとよくするお話、一緒に食べたもの……とか」

加蓮「分かるけど……でもさ、」

藍子「はい。分かっています。それは加蓮ちゃんのお話で、私のお話ではなくて……だから、私のコラムに載せるのは間違いかもしれないって」

藍子「けれど……ほらっ。前に私が書いたカフェのコラムだって、確かにカフェの外観や内装、メニューの紹介など、カフェそのものをお伝えはしましたけれど」

藍子「同時に、私が見たもの……私の感想とかだって書きました」

藍子「それと同じことではないでしょうか? 私の見ている、加蓮ちゃんのお話って」

加蓮「…………」

加蓮「……分かるけど……。分かるんだけどさ……」

藍子「……分かりましたっ。別のことを考えてみますね?」

加蓮「ごめんね? せっかく見つけた道を塞ぐようなことを」

藍子「ううんっ。怒らないで聞いてくれてありがとう、加蓮ちゃん」

加蓮「……確かに、いつもの私なら"人のことばっかりじゃなくて自分を優先しろっ"とか言っちゃいそうだね」

藍子「そうそう。そう言われることを覚悟していました」

藍子「あと、加蓮ちゃん。今日の加蓮ちゃんはちょっと謝りすぎですっ」

加蓮「あー……」

藍子「そうじゃなくて、前向きにいきましょっ? ほら、こういう時は――」

加蓮「…………いや、さすがにこれはごめん以外に言い様がないって」

藍子「では、加蓮ちゃんが謝らないようなお話にしましょうか」

加蓮「変な気遣い」

加蓮「藍子のことを見せる、かぁ……」

藍子「見せる?」

加蓮「うん。今度はアイドル側の視点で考えてみようかなって。私なら、どう藍子のことを見せるかなあって……」

加蓮「……でもやっぱり、なんだろ。そんなすごく特殊なことじゃなくて、日常的っていうか、すぐ近くのものばっかり思いつくんだよね」

藍子「……、」

加蓮「多分Pさんもそうじゃないかな。お散歩してる藍子とか、写真を撮って誰かに見せてあげてる藍子とか、そういう日常的なことを思い浮かべると思うし……」

加蓮「一応、藍子のステージとかも思いつくけど、それだってド派手な演出とかあんまりしないじゃん。いつもより派手目にやるポジパのステージだって、けっこう身近なものを集めたりしてて――」

藍子「……ねえ、加蓮ちゃん」

加蓮「ん。……何か思いついた?」

藍子「1つだけ。ただ、その前に確かめたいことがあります」

加蓮「うん」

藍子「コラムの文量って、指定されていないんですよね?」

加蓮「来てないよ。気になるなら聞いてみるけど」

藍子「ううん。私からPさんに……お願いしてみます」

加蓮「確認じゃなくて、お願いなんだ?」

藍子「はい。通るかどうか分からなくて……もしかしたら、とても迷惑かもしれませんけれど――だから、加蓮ちゃん」

加蓮「はいはい。藍子がいいって言うまでずっと側にいるって言ったでしょ?」

藍子「……ありがとう。では、ちょっと連絡してみますね」ポチポチ

加蓮「って、結局何を?」

藍子「今の加蓮ちゃんが言ってくれたことで、ちょっとひらめいたんです」

藍子「前に私が、カフェコラムを書いていた時……そして何を書くか悩んでいた時に、加蓮ちゃんが、私の日記っていうだけで読みたいと思ってくれる人がいっぱいいる、って言ってくれましたよね」

加蓮「言った覚えはあるけど……」

藍子「日記みたいに……私が見ているものを、私が考えていることを、そのまますべて書いてみたいんです。着飾ったり、いいところだけを抜き出したりするのではなくて」

藍子「もしそれを、ファンのみなさんが望んでくれるのなら……思ったままを書いてみたいなぁ、って」

加蓮「見ていることや考えてることを、思ったままにそのまま書く、か。……いいんじゃない? うん。それ、すっごくいいよ! 藍子を見たいって、きっとそういうことだよっ」

藍子「加蓮ちゃんもそう思ってくれますかっ?」

藍子「それに、それならさっき私の言った……"私が見ている加蓮ちゃん"のお話だって、書いてもいいですよね?」

加蓮「うーん。……オッケー?」

藍子「やった♪」

加蓮「って、別に私の許可制じゃないんだけどさ?」

藍子「ふふ。加蓮ちゃんが駄目って言ったら、書けないことですもん」

加蓮「何それー。圧かけてる?」

藍子「そんなことないですよ~」

藍子「でも、そうして書いていくってなったら、結構な量になると思って。だから、Pさんにお願いしないといけないんです」

藍子「好きなことを、好きなだけ書いていいですか。日記みたいに書いてみたいんです、って……」ポチポチ

加蓮「藍子。ちょっとストップ。さすがに無制限でって言われたら、Pさんも困っちゃわない?」

藍子「なので――えっ?」

加蓮「ほら、コラムの期日的なのだってさ。指定はされてないけど、だからって10年待ってくださいとか言う訳にもいかないでしょ?」

藍子「あっ、確かに……。それなら、今から何ページくらいかかりそうか考えて、」

加蓮「そこで提案なんだけど、こう……藍子ちゃんの1日、とかじゃないけどさ。"1日のうちに起きた出来事を日記にするくらいの量よりちょっと多め"ってことにしない?」

加蓮「別に、実際には1日の出来事だけしか書いちゃいけない訳じゃなくて、例えば"今日はこういうことがありました。この前には似たことがあって……"みたいな風に書いてもいいんだし」

藍子「なるほど~……。だから、ちょっと多め?」

加蓮「そうそう。どう? 物足りないなら、3日分とかでもいいと思うけど」

藍子「ううん。いいアイディアだと思いますっ。それに、それくらいって言った方が、Pさんにも伝わりやすいですよね」

加蓮「そゆこと。実際のページ数は言ってないけど、こうして例えればなんとなく頭に思い浮かぶでしょ?」

藍子「1日の日記くらいの量……あっ、本当です♪ これくらいだって、浮かんできますね」

加蓮「ね?」

藍子「では……1日の出来事を、日記にするくらいの量より、ちょっと多めの量を書きたいんですっ」ポチポチ

藍子「……って、加蓮ちゃんが提案してくれました♪」

加蓮「こら。藍子が思いついたってことにすればいいでしょ」

藍子「ふふっ。加蓮ちゃんって、きっといつもこういう風にPさんと相談したり、計画を立てたりしているんですよね」

藍子「Pさんが加蓮ちゃんの提案をたくさん受け入れているのも、そういう説得力があるからかな、って思って」

藍子「だから、その加蓮ちゃんの名前をお借りした方が、Pさんも納得してくれそうって思っちゃいましたっ」

加蓮「……そーいうテクニックもあるから否定できないけどさぁ」

藍子「それに……テーマは、私"たち"の時間――私と、加蓮ちゃんの時間ですもん」

藍子「私が思いついたことと、加蓮ちゃんが思いついたこと、どちらもPさんに送っちゃいましょう♪」

加蓮「そこまで言われると、もう……。はいはい、いーからとっとと送るっ。ぐずぐずするなら私が代わりに送信するよ?」

藍子「わ、待ってっ。私から送りますからっ」

藍子「……はい、送信しました! ふぅ~……」

加蓮「お疲れ。今は……6時過ぎかぁ。晩ご飯にはちょっと早いかな。甘さたっぷりのココアでもどう?」

藍子「いいですね。あ、でも、私は店員さんとお話しない方がいいから――」

加蓮「じゃ、私が注文してきてあげる」

藍子「ありがとう、加蓮ちゃんっ」

加蓮「行ってきまーす。藍子はそこで、Pさんから返信が来るのを1人でびくびくしながら待ってなさい?」

藍子「えっ。……あ、ちょっと~! 加蓮ちゃん! も、も~っ! そういうこと言うからドキドキしてきちゃったじゃないですか~!」

……。

…………。

<ブルブル

加蓮「ずず……ん」

藍子「ふうっ」コトン

藍子「……Pさんから、メッセージの返信です」

加蓮「代わりに開いてあげよっか?」

藍子「ううん。大丈夫。でも、ちょっとだけ待っていてくださいね」

藍子「……すぅ~……」

藍子「よしっ」

藍子「……」ポチポチ

藍子「……!」パアッ

藍子「加蓮ちゃんっ。大丈夫そうです! Pさんが、あいっ――私の書きたいくらいに書いていいって!」

藍子「それに、私の自由に書いても大丈夫だって言ってましたっ」

藍子「雑誌の編集さんともうお話は澄んでいて、私が書いたものを楽しみに待ってるって!」

加蓮「ふふっ。おめでとう」

藍子「あとは、書いていくだけですよね。私が見ている風景、私が思っていることを、そのまま……」

加蓮「こら。燃えてるのは分かるけど、さすがに今からすぐにっていうのはキツイってば」

藍子「あ……ついっ」

藍子「ねえ、加蓮ちゃん。今度、ここで書きませんか?」

加蓮「ここのカフェで?」

藍子「はい。ここでなら、自然な気持ちで書くことができそうですからっ」

加蓮「じゃ、せっかくだし朝から来て、1日めいいっぱい使っちゃおっか」

藍子「はいっ! コラムのタイトルは――」


【つづく】



次回、第118話
高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「今日も、私とあなたとの時間を」

来週日曜日に投下予定です。また読んでいただければ嬉しいです。

>>33 5行目の藍子のセリフを修正させてください。申し訳ございません。

誤:藍子「雑誌の編集さんともうお話は澄んでいて、
正:藍子「雑誌の編集さんともうお話は済んでいて、

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