2月12日の夜。
わたしはキッチンにて、自身の成果を見つめている。
それはバレンタインのチョコレート。
ここ数日の試行錯誤の末に、ようやく完成した贈り物だ。
渡す相手は、事務所のプロデューサーさん。
霧子「でも……どうしよう……」
わたしは迷っていた。
チョコレートの形状は正方形に近い長方形。
お菓子作りに慣れているわけではないので、シンプルな形にしか出来ない。
その分メッセージを入れようと、そう思っての四角形だ。
迷っているのは、まさにその部分。
霧子(何を……書くべきなのかな……)
文字を書くための、白と黒のチョコレートペンは近くに置いてある。
絵を描くかもしれないと思って、緑・赤・黄の色も少量だが用意した。
準備は万端。
そう思っていたけれど、肝心要のところが抜けていたようである。
自分の考えの中で、チョコレートを渡すことだけが先走っていたのだ。
だから考えよう。
わたしは何故、チョコレートを贈ろうと思ったのだろう。
わたしは一体、プロデューサーさんに何を伝えたいのだろう。
霧子(やっぱり、感謝の気持ち……かな……)
すぐに思いつくのは、そういったこと。
だけどひょっとすれば、あるいは……
霧子(これは、恋の──)
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霧子「おはよう……ございます……」
翌13日の学校帰り、わたしは事務所に出社していた。
咲耶「おはよう、霧子」
摩美々「霧子おはよー」
事務所に居たユニットのメンバーは3人。
咲耶さん、摩美々ちゃん、結華ちゃん。
結華ちゃんは何やらノートと格闘していて、忙しそうにしていた。
こちらに気付いてはいるようで、軽く手を振ってくれる。
霧子「……ふあ……」
事務所に来て落ち着いたからか、急にあくびが出た。
咲耶「おや、霧子。昨日は遅かったのかい?」
霧子「あ、その……ちょっと考えごとをしていて……」
咲耶「考えごと、か……何か私に手伝えることはあるかな?」
霧子「ううん……大丈夫。ありがとう、咲耶さん……」
チョコレートのメッセージ問題。
その答えは、一晩考えても見つからなかった。
だからといって、咲耶さんに相談するようなことでもない。
それを知ってか知らずか、咲耶さんは黙って紅茶を注いでくれる。
霧子「そういえば、恋鐘ちゃん……」
今日の予定は、わたしと恋鐘ちゃんがダンスレッスンで、残りの3人が雑誌のインタビュー。
その恋鐘ちゃんだけ見当たらないのが気にかかった。
摩美々「朝から急な仕事だってさー」
霧子「朝から……」
咲耶「朝市の取材だと言っていたかな。早くから出かけていったよ」
摩美々「漁港だったけー?」
霧子「た、大変だね。恋鐘ちゃん……」
朝の寒い時間に出かけるのを想像して震える。
とは言え、仕事自体は恋鐘ちゃんが喜びそうだな、とも思ってしまう。
結華「よし、これで一段落!」
咲耶「お疲れ、結華。こっちで紅茶でもどうだい?」
結華「おお! ありがとねー、さくやん」
咲耶「ふふふ、礼を言われるほどの事じゃないさ」
結華ちゃんが隣に座る。
その表情からは、若干の疲労の色が見て取れた。
霧子「何をしてたの……?」
結華「んー? ただの大学の課題だよ。明日提出の」
霧子「その……焦ってたみたいだけど……」
結華「全然進んでなかったからね。こうして、空き時間に頑張る羽目になっちゃったのです」
妙に芝居掛かった口調で、結華ちゃんが言う。
珍しいと思った。
今まで結華ちゃんが、その手の事に追われているのを見たことがない。
学校の課題などは、出たその日に終わらせているか、綿密なスケジューリングの下で消化しているイメージがあった。
結華「いやさ。8日にアンティーカの皆で、撮影の仕事があったじゃん? それも丸一日」
霧子「うん……」
結華「その日も、もちろん講義があったわけだけど……教授が三峰の欠席を把握してなかったみたいで」
ちゃんと連絡してたのに、と結華ちゃんが困った顔で付け加える。
遡ること5日前、アンティーカ全員での撮影があった。
遠出となり、その仕事の為にわたしも学校を休んだのを覚えている。
結華「まあ、『ちゃんとしたアイドルになれましたー!』って感じだよね。これはこれでさ」
咲耶「たしかに、そういう意味では喜ぶべき所なのかもかもね」
結華「そうそう。半年前からは考えられなかったことだよ」
半年前、つまりデビューしたばかりの頃。
レッスンなどで忙しかったことに間違いはないが、学校を休むようなことはなかった。
摩美々「授業がサボれるだけで、私は嬉しいケドー」
結華「またまた、まみみんはそういうこと言ってー」
摩美々「だって、どうでもいい授業がある日だったし」
結華「そうなの? 何の科目?」
摩美々「音楽。先生のキャラがメンドー」
摩美々ちゃんが嫌そうな顔をして、結華ちゃんが『あらら』と苦笑する。
微笑ましいと、そう思った。
咲耶「霧子は? 何か気になる授業はあったかい?」
霧子「わたし……? わたしは……」
その日の授業日程に考えを巡らす。
と言えるほど考え込む間も無く、あっさりと1つの教科に思い至った。
それはまるで、予め用意されていたかのように。
霧子「……体育……」
それはまるで、ずっと気になっていたかのように。
霧子「フォークダンスの、授業があったの……」
喉に刺さった、魚の小骨。
結華「あー、三峰もやったやった。なんか思い出すと懐かしいや」
咲耶「へえ。結華と霧子の学校では、そんな授業があるんだね」
結華「さくやんの学校では無いの? フォークダンス」
咲耶「聞いたことはないかな」
霧子「摩美々ちゃんは……」
摩美々「私の学校もありませんねー。まぁ、あってもサボりますケドー」
結華「その心は?」
摩美々ちゃんは先程から、怪訝な顔つきのままだ。
とは言え、こう言う時の摩美々ちゃんが、ちゃんと会話を楽しんでいるのは知っている。
摩美々「……人の手に触れるのって、普通に抵抗あるじゃないですかぁ。特に、男子のとかは」
咲耶「私は別にあってもいいかな。学校でのフォークダンス」
摩美々「いや、咲耶は女子校じゃん」
結華「三峰はそこまで抵抗ないけどね。兄と弟いるわけだし」
摩美々「じゃあ三峰は、実際に触ったことあるの?」
結華「ううん。出席番号順で組んだら余った女子同士になった。三峰『み』だし」
摩美々「いや、『ら』行『わ』行の人いなさすぎでしょ、それ……」
摩美々ちゃんが溜息を吐いてから、わたしの方を見る。
目で問い正されている。
咲耶「ふふふ、霧子は『ゆうこく』で『ゆ』だから、結華よりもその可能性有りだね」
結華「おぉ! さくやん、上手~っ! ドンドンパフパフ~」
摩美々「……ほっとこ」
咲耶「おや、摩美々には不評のようだね。これは残念だ」
摩美々「……それで、霧子はどうなのー?」
質問の意図は、『男の人に触れる事に抵抗がないのか?』ということ。
霧子「わたしは……抵抗ない、かな……」
摩美々ちゃんが少しギョッとして、ようやく、その不満気な表情に変化が生じた。
摩美々「ホントに?」
霧子「うん……それなりに、慣れてるから……」
結華「え」
咲耶「ふむ……」
今度は結華ちゃんと咲耶さんが驚きの声を上げた。
結華「な、慣れてるって……?」
霧子「病院のお手伝いで、触れる機会あるから……」
結華「病院?」
霧子「うん……包帯を巻き直したり、小さい子をあやしたり……他だと、患者さんを起き上がらせたりとか……」
人に触れながらの動作は難しい。
上手く出来るのか、手伝いを始めた頃はとても不安だった。
当時はそれなりに心理的抵抗があったけれど、今ではもうすっかり消えてしまっている。
咲耶「……ちなみに同年代くらいの男性に、そういった医療行為で触れた経験は?」
霧子「えっと……たしか、少しくらいは……」
摩美々「その時のその人、挙動不審だったりしませんでしたー?」
結華「そうだね。きりりん、かなり整った顔立ちしてるし」
霧子「わたしの、顔……?」
摩美々「答えて、とにかく」
霧子「ちょっとだけ……落ち着きがなかったような……」
直近の一例を思い返してみれば、目を逸らし続けられていた気がする。
結華「きりりんは、その……ドキドキしなかった?」
霧子「……? ううん。そういうのは、別に……」
「「「……」」」
結華ちゃん、咲耶さん、摩美々ちゃん。
3人とも、わたしをじっと見つめて黙り込んでしまった。
結華「……きりりん、まさかの悪女の才能有り説」
霧子「え……! あ、悪……!?」
そんなことを言われたのは、生まれて初めてだった。
結華「ま、有り得ないか」
咲耶「有り得ないだろうね。霧子の行動はいつも、善意100パーセントだもの」
摩美々「ですねー」
3人が朗らかに笑う。
その理由はよく分からないけれど、こういう風に笑ってくれるなら、まあ良いかと思えてしまう。
嫌味のない笑顔だった。
咲耶「悪女になるには、霧子は根が善良すぎるよ」
霧子「善良……」
だけど何故か『善』という言葉が、強く引っかかってしまう。
またまた魚の小骨のように。
わたしは善良なのだろうか?
本当に?
……自分では、そうとは思えない。
霧子「あの……」
だから、その小骨を取ろうとした。
その為に何かを聞こうとして、聞くべきことに迷って。
結局、その摘出に失敗した。
いわゆるタイムアップ。
P「おはようございます」
いつのまにか、もうレッスンに出かける時間になっている。
社用車のキーを片手に、プロデューサーさんが事務所に入ってきた。
P「よし、霧子は忘れ物ないか?」
霧子「は、はい……何度も確認したので、大丈夫です……」
P「了解。それじゃあ出発だ」
社用車のエンジンが唸る。
行き先は外部のレッスンスタジオ。
レッスンと言うと、今までは事務所のスタジオで、はづきさんによるレッスンというのが常だった。
だけど近頃は、外部のスタジオを借りることも当たり前になってきている。
みんな、それだけ忙しくなったのだ。
プロデューサーさんは4ユニット16人のアイドルを抱えていて、スケジュールに頭を捻っている事が増えている。
1度、聞いたことがある。
『ちゃんと休めていますか?』と。
そしたらプロデューサーさんは、笑って答えてくれた。
『これが仕事だからな。でも、楽しんでやっているよ』
プロデューサーさんの言葉を疑うつもりはない。
それでも思ってしまう。
『いつも、お疲れ様です』などと。
……チョコレートに書くべき言葉は、これなのかもしれない。
思慕や感謝より、慰労。
霧子(でも……それも違うような……)
何かヒントを求めて、プロデューサーさんの横顔を盗み見る。
いつも通りの優しげな表情。
答えはなかったけれど、気付きはあった。
霧子(……そっか。伝えたい気持ちが、多すぎるんだ)
チョコレート問題。
その解決が、一気に遠のいた気がした。
P「……はい。はい、分かりました」
プロデューサーさんが電話の対応をしていた。
P「ええ、了解です。打診してみます。いえいえ! いつもお世話になっております」
2ヶ月ほど前に、プロデューサーさんがハンズフリーキットを新調していたのを思い出す。
使う頻度が増えたので、使いやすい物を会社として新調したらしい。
P「はい。はい、失礼いたします。それではー……」
通話が切れる。
P「……ふぅ」
霧子「お、お疲れ様です……」
イヤホンタイプのキットなので、通話の内容は聞こえていない。
プロデューサーさんはスピーカータイプにしたかったらしいのだが、社長さんに一刀両断されたと聞いている。
はづきさん情報だ。
P「……霧子」
霧子「は、はい……」
P「今週の金曜日……15日って、学校休めないか?」
霧子「……お仕事、ですか?」
P「ああ、〇〇局のディレクターさんからでな。霧子を番組に使いたいそうだ。それで、その収録が15日の午前中」
喜ぶべき事柄であるはずなのに、プロデューサーさんは浮かない顔をしている。
P「先週に引き続きだからな。断るなら断ってくれてもいいぞ。その時は、他の子を推してみるから」
霧子「……あ……」
前に休んだ8日の金曜日には、体育の授業があった。
今度の15日だって体育の、フォークダンスの授業がある。
P「出来ることなら、学校には……」
『ちゃんと行くもんだよな』と、聞こえないくらい小さな声で、プロデューサーが言い捨てる。
ほんの一瞬だけ、言う通りに断ってしまおうかと思った。
フォークダンスの授業が、とても気になってしまっていたから。
その理由は不明だと言うのに。
霧子(……ううん。ダメ、だよね……)
直ぐに考え直す。
プロデューサーさんに悟られないように、素早く考えを改める。
わたしが断ったら、またプロデューサーさんがスケージューリングに頭を悩ませることになる。
それは嫌だな、と思う。
霧子「……大丈夫ですよ、プロデューサーさん」
P「霧子、いいのか?」
霧子「はい。お仕事があるのは、アイドルとして喜ぶべきこと……ですから」
P「……そうか」
嘘はついていない。
アンティーカのみんなと話していたこと。
『ちゃんとしたアイドルになれましたー!』という感じだ。
そこに間違いはない。
P「……」
霧子「プロデューサーさん?」
P「……いや、何でもない。それじゃあ着くまで、仕事の段取りの確認をしようか」
霧子「はい、お願いします……♪」
それに、プロデューサーとする仕事の話は、やっぱり楽しいのだ。
階段を上る。
今日は荷物が多い。
ダンスシューズが合計3組と、その他に恋鐘ちゃんに渡す届け物が2つ。
届け物の1つは、恋鐘ちゃんのスマートフォン。
朝の仕事の送迎の時に車内に忘れてしまったそうだ。
そしてもう1つの届け物は伝言。
そのどちらも、プロデューサーさんに頼まれたものだ。
恋鐘「お、霧子! おっはよ~!」
霧子「ふふ、おはよう……恋鐘ちゃん……」
レッスンスタジオの扉を開けると、恋鐘ちゃんが元気よくストレッチをしていた。
朝から仕事だったはずなのに、全然疲れている様子がない。
霧子(恋鐘ちゃん、さすがだな……)
恋鐘「霧子? うちの顔に何かついとると?」
霧子「……あ、ううん。なんでも、ないよ……」
見惚れていても仕方がない。
取り敢えず、頼まれごとをやり遂げてしまおう。
霧子「恋鐘ちゃん、これ……プロデューサーさんから……」
恋鐘「おお、うちのスマホやね!」
霧子「それと、これも……」
恋鐘「これは……ダンスシューズ? うちに?」
霧子「恋鐘ちゃんの、靴底が擦り切れてきてたから……危ないかなって……」
恋鐘「う、うちに買うて来てきれたと……!?」
霧子「うん……プロデューサーさんが、経費で落としてくれて……」
3組のうちの1つを渡して、残りを足元に置く。
恋鐘「プロデューサー? 一緒に買いに行ったと?」
霧子「わたしもダンスシューズを新しくしたくて、プロデューサーさんに付いて来てもらったの……」
わたしの靴も使い潰して寿命が来ていた。
霧子「そこで、恋鐘ちゃんの靴のことを思い出したんだ……」
恋鐘「そんで買うて来てくれたんね。ありがとーね、霧子!」
どうせ消耗品だから、と言ってプロデューサーさんは5組ほど購入していた。
事務所に取り置いておくそうだ。
結果としてだが、ユニット全員お揃いのダンスシューズになる日も遠くないのかもしれない。
恋鐘「……そやったら霧子、なして昔の靴も持って来てると?」
恋鐘ちゃんが、わたしの足元に目を向ける。
新品の靴とボロボロになってしまった靴が並んでいる。
霧子「その……最後に、見学してもらおうと思ったの……」
恋鐘「見学……」
霧子「捨てちゃうんだけど……お世話になったから、何かしてあげたくて……」
ダンスシューズはこれが4足目。
2足目も3足目も、捨ててしまう直前には同じことをした。
その時もボロボロの靴が、とても悲しく感じられたのを覚えている。
恋鐘「……そんなら、うちも真似するたい」
恋鐘ちゃんが自分の靴を、わたしの靴の隣に置く。
そして満足気に胸を張る。
恋鐘「よし! 今日のレッスンもば~りばりに頑張るたい!」
いつでも来い、といった風にガッツポーズをした。
それはとっても、恋鐘ちゃんらしい動作だ。
だけどレッスンの開始までには、もう少し時間がある。
そう言うところも含めて、恋鐘ちゃんらしい。
霧子「恋鐘ちゃん。その……伝言、なんだけど……」
まだ時間があるのなら、最後の頼まれごとまで果たしてしまおう。
恋鐘「伝言? プロデューサーから?」
霧子「うん。その……『これからは、そういう時には必ず一声かけること』」
伝言の意味するところは知らない。
プロデューサーさんには『言えば伝わるから』と聞いていた。
実際その通りだったようで、恋鐘ちゃんの顔がみるみる青くなる。
恋鐘「うっ……プロデューサーの言う通りたい。こればっかりは、ちゃーんと反省せんといかんばい……」
恋鐘ちゃんがガックリと肩を落とした。
だから慌てて、その伝言の続きを言う。
霧子「『だけど、よくやったぞ』」
恋鐘「……! ホント!? ホントに、そう言っとったと!?」
霧子「う、うん……」
恋鐘「~~っ! やっぱりプロデューサーは、よーく分かっとるたいねっ!」
今度は黄色い笑顔。
霧子「……『あと、スマホ忘れには絶対に厳禁。気をつけること。覗かれたって文句は言えないぞ』」
恋鐘「あ……」
霧子「『俺は覗いたりしないけどさ』」
恋鐘「……っ! そ、それはいかんばいっ! プロデューサーは、絶対にいかんよ!!」
最後に、シュッと赤く染まる。
恋鐘「プロデューサーに見られたら、うち、死んでしまうけん……」
コロコロと表情を変える恋鐘ちゃんを見ていると、こちらまで楽しい気持ちにさせられる。
それでいて、そんな恋鐘ちゃんはとても可愛らしい。
おそらく誰が見たってそう思う。
恋鐘「そ、その……今朝のことなんやけどね」
霧子「うん……漁港の取材、だったっけ…」
恋鐘「そうたい」
照れを誤魔化すためか、恋鐘ちゃんが話を変える。
ちょうど聞きたいと思っていた話だ。
恋鐘「そんでね。うち、歌ってしまったんよ」
霧子「歌? えっと……その朝市で、ってことだよね……?」
恋鐘「そうなんよ。日の出前に入って、色々と回って……あ、どっちかと言えば卸しの市やったんやけどね?」
小売りではなく卸し。
一般の人より業者の人のほうが多かった、ということだろうか。
恋鐘「最後の方までは良かばってん。人ば減ってきて、そろそろ撤収せんね~……って時に話しかけられたと」
霧子「歌え、みたいなことを?」
恋鐘「ううん。そうやね……」
そこで1度切って、恋鐘ちゃんが考え込む。
恋鐘「『お前など本物の長崎もんじゃない!』」
霧子「……!」
恋鐘「みたいな感じやろか?」
その言葉が、キツイ方言で発せられたのだろうと直感できた。
さっきの間は、翻訳の時間だったらしい。
そしてその人は……なんと言うか、過激な人だ。
恋鐘「それから……『長崎もんのアイドルなら、長崎の歌を歌ってみろ!』って言われたばい」
霧子「プロデューサーさんは……?」
恋鐘「ちょうど外しとって、おらんかった」
霧子「それで、歌を……」
恋鐘ちゃんの気持ちも分かる。
その人の言い草には、トゲがあるように思う。
恋鐘「うち、佐世保のみんなの歌ば歌ったんよ。漁師のオッチャン達に教えて貰った、大切なもん」
霧子「そしたら……」
恋鐘「思いっきり泣かれたばい。『お母ちゃん、お父ちゃん……!』って」
霧子「そ、その人……ホームシックだったんだね……」
衝撃的な展開だ。
私も親元を離れれば、そんな風になる時が来るのだろうか。
恋鐘「そいで……うちは歌ってしまったし、泣いとる人はおるしで、人が集まってくるやろ?」
霧子「そう……だよね……」
恋鐘「そこで誰かが、自分の国の歌ば歌い始めよったと。いつのまにか、そういう雰囲気になっとった」
……その時点で、事態は恋鐘ちゃんの制御を離れたのだろう。
その先を、恋鐘ちゃんが語ってくれる。
気が付いたら、色んな人が持ち回りで歌っていたこと。
それが楽しくて、一緒に歌ったりしたこと。
多くの人が笑顔だったこと。
そして、その話の小さなオチ。
恋鐘「プロデューサーが戻ってきた頃には、小さなライブみたいになっとったんよ」
絶句するプロデューサーさんの姿が、目に浮かぶ。
最初の所から、その光景たちを想像してみた。
初めて行った場所で、見知らぬ人に絡まれて、『歌ってみろ』と凄まれて。
それなのに逃げ出さないで、ちゃんと歌って見せて、誰かを感動までさせて。
挙句の果てに、その場の空気を変えて、その場に居る多くの人を笑顔にした。
……全くもって、破天荒すぎだと思う。
『一声かけてくれ』というプロデューサーの言葉はもっともだ。
非日常的な状況を引き起こしたのは事実。
一歩間違えていれば、恋鐘ちゃん自身が危険な目にあっていたかもしれない。
だけど、それ以上に憧れてしまう。
その後のプロデューサーさんの、『よくやったぞ』という言葉に頷いてしまう。
パフォーマンスで人の心を動かして、その行動を変えて、1つの世界を作りだす。
まさしくアイドルだ。
そんなことが出来てしまう恋鐘ちゃんは、本当の本当に凄い人。
霧子「……恋鐘ちゃんは、さすがだね」
思っていることが口を衝く。
霧子「怖くは……なかったの?」
恋鐘「それは全然よ。昔、お父ちゃんが言っとったけん」
誇らしげに、恋鐘ちゃんが言う。
恋鐘「『海の男に悪いもんはおらんー!』って!」
霧子「……」
そういう問題なのか、とも思う。
だけど、その言葉で理解できた。
恋鐘ちゃんとわたしの違い、恋鐘ちゃんがそう出来た理由。
きっと恋鐘ちゃんは、どこまでも自然体なのだろう。
恋鐘「それによ? うちら、こんなに頑張っとるんやけん。そやったら……」
底の擦り切れた靴を拾い上げる。
恋鐘ちゃんは、そういうものだって誇らしげに、こう言えてしまうのだ。
恋鐘「その成果を見せたい思うんは、ぜーんぜん悪いことじゃなかろ?」
ガタンゴトンと音を立てて、目的の駅に電車が停まった。
事務所の最寄駅だ。
わたしはイヤホンを外し、スマホを鞄にしまって立ち上がる。
霧子(恋鐘ちゃん、カッコよかったな……)
帰りの電車の中で恋鐘ちゃんを見ていた。
今朝の漁港での一幕、その一部始終。
誰かが撮影されていたらしく、その動画がツイスタに投稿されていたのだ。
それを見終えて、わたしは喉をさする。
霧子(……魚の、小骨……)
勿論、そんなものは実在しない。
気になるけど、気にせずにいることはできて、気づかないうちに消えてしまうもの。
些細なわだかまりの比喩表現。
そのはずだったのに。
霧子(……わたし、フォークダンスの授業に行きたかったんだ……)
恋鐘ちゃんの言葉を聞いたら、その正体が見えてしまった。
そうして分かったら、その痛みは鋭さを増してしまった。
霧子(……わたし、誰かに認めて欲しかったんだ……)
頑張っていたから、その成果を誰かに見せたかった。
練習して得意になったから、それを誰かに見て欲しかった。
咲耶『霧子は根が善良すぎるよ』
霧子(……それは違うよ、咲耶さん……)
わたしは『見てもらいたい』という欲を、この感情を、とても『善』とは思えない。
自分の中にある普遍的な思いを『善』だと信じれない。
だってそれは
ひけらかす、ということじゃないか。
もし仮に、恋鐘ちゃんが同じクラスの女の子だったとしよう。
フォークダンスの授業で、恋鐘ちゃんが踊る。
綺麗に、華麗に、魅力的に、誰よりも人目を引いて踊る。
そして、わたしは拍手をする。
それが咲耶さんでも、摩美々ちゃんでも、結華ちゃんでも、わたしは同じことをするだろう。
焦がれて、賞賛して、素直に拍手をしているに違いない。
だけれども、踊るのが自分ならそうならない。
それらは容易に逆転してしまうのだ。
ひけらかしている、という意識が真っ先にやってくる。
自分だけの為じゃないか、という考えが鎌首をもたげる。
わたしは自分の行いを、『悪』だと断じてしまう。
周囲の反応など関係なく、わたしはその行為自体を恥じてしまう。
……つまり、他人が行えば受け入れられる『善』で、自分が行えば恥じるべき『悪』になる。
そこに理論的な帰結など無い。
感性の話に、そんなものは持てない。
ただ『わたし』という人間が、そういう風に出来ているという話。
元より、魚の小骨は存在しなかった。
この痛みは、外部からもたらされた鋭い棘ではない。
自身の代謝にによって作られた、刺す痛みを持つ炎症だったのだ。
踊ってみたかったのは、本当の気持ち。
誰かに認められたいという気持ちも、嘘じゃない。
だけれども、自身のそれを『悪』だと思ってしまうから。
だから、わたしはフォークダンスを踊らない。
……そう決めた判断は、決して不正解じゃない。
そう、思いたいのだ。
歩いて、目的地にたどり着く。
明かりが点いている事務所を見上げる。
そうした時に、ふと呟きがもれた。
霧子「……まだ、いるのかな……」
息が白くなっている。
初めて事務所を見上げた時には、色はついていなかった。
それは春先のことだったから。
あの時のわたしは、何を思って事務所を見上げていたのだろう。
霧子(たしか……『変わらなくちゃ』って、ずっと考えてた……)
不安で包帯を巻いてしまう自分。
人とズレた感性を持つ自分。
今日みたいに、自由になれない自分。
それらを隠して、消してしまいたいと思っていた。
それらを『矯正』してしまいたくて、わたしはアイドルになった。
霧子(今もそれは変わらないけど……だけど……)
『変わらなくちゃ』から『変わりたい』へと、その思いは弱くなった。
そうしたのは、プロデューサーさん。
プロデューサーさんと過ごしている日々の中で、それは不思議と弱くなっている。
霧子「……まだ、いるよね……」
もう1度だけ、呟きがもれる。
階段を上る。
酸素を求めて息を吸う。
わたしの中の何かを、また弱めてもらいたくて。
わたしは階段を駆け上がる。
P「……き、霧子か。驚いたぞ」
プロデューサーさんが目を丸くしている。
それを見て、扉を開けるのに勢いがつき過ぎてしまったことを理解した。
霧子「はぁ……はぁ……プロデューサー……さん……」
P「どうしたんだ、霧子? トラブルか? それとも何か……」
霧子「い、いえ……! 何でも、ないんです……! 何でも……」
急いで息を整える。
プロデューサーさんが居たのは嬉しい。
だけど、プロデューサーさんに余計な心配はかけたくない。
霧子「その……駅からここまで、走ってきたので……」
P「そ、そうか。あまり無理はするなよ?」
霧子「はい……プロデューサーさんは、ご休憩中ですか……?」
プロデューサーさんは、くつろいでいる様子だった。
最近にしては珍しい。
ノートパソコンの目の前に座って、熱心にその画面を見つめている。
P「まあ、そんなところだ。今日は仕事がトントン拍子に進んでな」
手に持っている飲み物は、コーヒーでなく紅茶。
それだけのことが何だか嬉しい。
霧子(……邪魔は、しない方がいいよね)
レッスンに行く時には入り切らなかった荷物を、急いで鞄に詰める。
プロデューサーさんが休めているのを見て、少しだけ心が満たされた。
だから、今日はもう帰ろう。
伝えたいこと、聞いて欲しいこと、してもらいたいこと。
多くのものがあった気がするけれど、それらはしまい込んでおこう。
上手く言葉に出来なさそうだから、今はそうしてしまおう。
霧子「それでは、プロデューサーさん……」
言葉を口にしながら、出口の方に振り返る。
P「……待ってくれ、霧子」
プロデューサーさんが、その行動を言葉で制した。
心が微かに震える。
P「俺は、霧子が来るのを待ってたんだ」
霧子「わたしを……ですか……?」
P「そうだ。霧子を、だ」
プロデューサーさんが立ち上がる。
それから、ノートパソコンの画面をわたしの方に向ける。
そこに映っていたのは、フォークダンスの動画だった。
P「……咲耶たちから話を聞いた。霧子の授業のことも聞いた」
その動画はプロの踊りや、イベントを収めたものではない。
もっと教育的な、言うなれば授業で使うようなものだった。
P「他にも霧子の様子とか。そういった見聞きしたことの中から、色々と考えたよ」
プロデューサーさんが言葉を続ける。
つとめて優しい声色で、どこか間違いを恐れるように。
P「正直、確信なんてない。間違えてたら笑ってくれていい。その上で言わせてもらうぞ」
わたしは何も言えずに、いつか聞いた言葉を思い出していた。
P「霧子は……フォークダンスをしてみたかったんじゃないのか?」
それはたしか、結華ちゃんの言っていた言葉。
『プロデューサーはずるい人』
事務所のレッスンスタジオ、そこの音響機材とノートパソコン。
それらを接続しようと、プロデューサーさんが作業をしている。
それを手伝うことができずに、わたしはそれを見つめている。
P「……俺さ」
間を気にしたのか、プロデューサーさんが語りかけてくれる。
P「俺はさ、プロデューサーだろ?」
霧子「……はい……」
P「プロデューサーが第一に考えるのはアイドルのことだ。良い意味だけじゃなく、悪い意味でも」
商品価値だとか企業戦略だとかさ、と寂しそうに付け加える。
P「そういう立場の人間だからさ。アイドル『幽谷霧子』を優先して、霧子本人に損を強いることもあると思う」
霧子「そ、損だなんて……!」
P「強いているよ。仕事の為に学校を休ませるなんて、その最たるものだ」
プロデューサーさんの声に、強い怒りとか悲しみは感じない。
P「その辺りはお互い納得できていることだと思ってるから、一々悩んで立ち止まったりはしないけどさ」
感じるのは諦観と哀憫。
P「そうは言っても、そこに罪悪感を覚えないわけじゃない。それを割り切れるほど俺は強くなれない」
そして、自嘲と決意。
P「だから、大切にしたいんだ。アイドルとして必要なものも、不必要なものも。霧子が感じたもの全部を」
そこでちょうど、音響機材が動き始める。
緩やかなBGMが空間を流れ出す。
プロデューサーさんの声に、力強さの様なものが宿る。
P「立場が最優先になってしまうけど、それでも、俺はそれ以外にだって全力を尽くしたい」
そこでようやく、わたしは勘違いに気が付いた。
わたしは勘違いをしていた。
プロデューサーさんは、勘違いをしている。
フォークダンスの授業を受けたかった本当の理由まで、プロデューサーさんは辿り着いていない。
わたしが拘っているのは『フォークダンスの授業を受けること』だと思っている。
P「『授業に出たかった』って気持ちも、霧子がそう思ったのなら、俺は大切にしたい」
だけど、それに気が付いても、プロデューサーさんが滑稽には見えなかった。
それはきっと、プロデューサーさんがもっと大きな物によって動いているから。
P「付け焼き刃の先生で申し訳ないけど、俺に授業をさせて欲しい」
さっきまで、フォークダンスの動画を見ていた意味が分かる。
事務所に入ってきた時に、プロデューサーさんが驚いていたことへの解釈が変わる。
P「ええっと……こういう時の出だしは、たしか……」
感じていた威厳の様なものが立ち消えて、より親しみ深いものとなってまた現れる。
P「ああ、そうだ。しゃ……」
プロデューサーさんがピンと背筋を伸ばす。
そうしてから、わたしに手を差し伸べる。
P「……Shall we dance?」
霧子「……っ……」
プロデューサーさんは顔を赤くしていて、恥ずかしがっているのが、どうしようもなく分かる。
その上にコテコテな表現だから、まるで格好が付いていない。
それなのに、だと言うのに。
恥ずかしがりながらも、格好付けてくれることが分かってしまうから。
『恥』を感じながらも、自分の感性と真っ直ぐに向き合えているから。
その姿がとっても、カッコよく見えてしまう。
霧子「I would lo……」
思わず、何かを口走ってしまいそうになる。
その大切な言葉だけは、取って置くためにじっと堪えて、プロデューサーさんの手を取る。
霧子「I would like to do……です。プロデューサーさん……」
触れた手が、じんわりと熱を帯びる。
P「まずは、右足から行くぞ」
霧子「はい……♪」
音楽に合わせて2人で動く。
かけ声と足音が重なる。
それだけで、もう心地が良い。
P「1、2、3、4……1、2、3、4……じゃあ次は……」
プロデューサーさんが時折たどたどしく指導を入れてくれて、わたしがそれに応える。
どちらにもちゃんとした知識が無いのだから、無意味にじゃれ合っているだけになってしまう。
でも、それだって楽しくて仕方がない。
霧子「いち、に、さん、し……いち、に、さん、し……♪」
P「いち、に、さん、し……いち、に、さん、し……」
この時間がずっと続いて欲しい。
心の底から、そんなことを願ってしまう。
だから、それは不意打ちだった。
P「霧子のダンス、上手になったよな」
ゆったりとした曲の最中、プロデューサーさんがそう呟いた。
霧子「そう……なんでしょうか……?」
P「間違いないよ。俺はダンスの専門家じゃないけど、霧子のことはずっと見てきたから」
霧子「……ありがとう、ございます……」
P「俺に礼を言うことじゃないよ。霧子は、いつもレッスンに一生懸命だったからな。当然の結果だ」
霧子「……あ、あり……ご……ます……」
声が消え入りそうになる。
やっぱり、プロデューサーさんはずるい人だと思った。
『ダンスレッスンの成果を、誰かに認めて欲しかったんだ』
隠そうとしていたそんな気持ちを、プロデューサーさんは、あっさりと撃ち抜いた。
霧子(そうだよ……プロデューサーさんは、ずるい人だ……)
わたしが半日かけて自覚した気持ちを、殆ど話していないのに言い当ててしまう。
今のように、隠そうとしていた気持ちを軽々と暴き出してしまう。
そして、その上で、どんな気持ちも受け入れて肯定してくれる。
一番欲しい、言葉をくれる。
思えば、この人はずっとそうだった。
こんなに深く深く、汚い所も綺麗な所も、全て見抜いて受け入れてもらえるのならば
『変わらなくちゃ』なんて気持ち、弱まって当然だ。
そんなのずるい。
ずるくて、ずるくて、ずる過ぎて──
何より暖かくて、愛おしい。
霧子(プロデューサーさんがずるい人なら、わたしは嘘つきな人だ……)
男の人に触れても何も感じないなんてのは、嘘だった。
触れるのには慣れてるからドキドキしないなんて、大嘘だった。
それが嘘になるなんて、全く考えもしなかった。
霧子(だって、こんなに暖かくて熱いから……)
2人だけのフォークダンス。
踊っていれば手と手が触れて、離れて、また触れて。
プロデューサーさんの手に触れるたび、何度も手の平と指先が熱くなる。
霧子(こんなに寒くて冷たいなんて、知らなかったから……)
離れるたびに体の芯まで冷たくなって、寂しくなって。
また触れた時に、もっともっと触れていたくなる。
その温もりを手放しがたくなる。
霧子(……だから、わたしは大嘘つきな人)
隠すくせに、本当は見つけて欲しくて。
何かしてあげたいのに、何でもないと言って。
自分では受け入れられない自分を、誰かと一緒に受け入れたくて。
霧子(だから、わたしは──)
プロデューサーさんは、その全てに寄り添ってくれる人だから。
霧子(──わたしは、この人が大好きなんだ)
チョコレートに文字をのせる。
言葉の形を表面に薄く掘ってから、その部分に黒のチョコペンを走らせる。
『I love you』と、チョコレートしっかり刻み込む。
メッセージカードの方には、『お疲れ様です。いつも、ありがとうございます』と書いた。
慰労も感謝も慕情も、その全部が伝えたい気持ちだから。
霧子(あとは、仕上げをするだけ……)
買い足した白いチョコペンで、刻んだ文字の上に絵を描いていく。
絵を描いて、文字を見えなくしてしまう。
まだ伝えるには早すぎる気持ちだから、白い花の絵を使って隠してしまう。
選んだのは、白のツツジの花。
その花言葉は『初恋』。
気持ちを大切にしまい込んでおく、チョコレートにとっての包帯さんだ。
花びらを1枚1枚慎重に描いて、完成した頃には日付が回ってしまった。
もう2月14日、バレンタインの日だ。
花言葉。
その意味に、プロデューサーさんは、気付いてくれるだろうか。
変に抜けていることがあるから、気付いてくれないかもしれない。
やっぱり博識だから、ちゃんと気付いてくれるかもしれない。
でもそれは、どちらだって良い。
わたしが好き放題に作ったこのチョコレートを、喜んでくれればそれでいい。
それだけで、わたしは幸せな気持ちになれるはずだ。
霧子(でも……どちらかと言えば……)
この想いが通じて欲しい。
恥じることなく、今はそう思える。
そんな気持ちごと、チョコレートを丁寧にラッピングして袋詰め。
そうして出来た小包みを、優しく胸の前で抱き締める。
霧子(ハッピーバレンタインです、プロデューサーさん……♪)
その場でステップ。
そしてわたしは、心の中で気持ちを伝える練習をする。
いつかのその日を思い描きながら。
終わりです。お目汚し失礼しました。
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