~泥門高校 アメフト部部室~
ガララッ!
モン太「帰国マーーックス!!」
セナ「ひいぃぃぃ、まだ筋肉痛が……」ギクシャク
栗田「あっ! セナ君モン太君」
まもり「アメリカでは、大変なトレーニングだったものね。
セナも、皆のお手伝いお疲れ様」
セナ「あ、う、うん。ところで……」
黒木「ミーティングって、何事だよ?」
ヒル魔「ケケケ、朗報だテメェら」
戸叶「朗報?」
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1540613021
セナ「延期っ!?」
モン太「秋大会が、っスか!? 何で!?」
ヒル魔「ニュースも見てねぇのか糞(ファッキン)チビ共」
まもり「最近よく、スポーツ業界のパワハラ問題が取り沙汰されているでしょう?」
まもり「アメフト協会にも、その疑惑が上がったみたいで、
調査委員会を立ち上げて、正式にその解明と解決に力を注いでいく事になったの」
まもり「具体的に誰かが被害を訴えた訳では無いのだけど、
協会の役員も文科省の調査には全面協力をするみたいで……」
雪光「だから、高校のも含めて、国内の大会はしばらくの間、開催を見送るみたいなんだ」
鈴音「へぇー、そんな事があったんだ」
溝六「まぁ、悪質タックル問題ってのもあったし、
数あるスポーツん中でも、槍玉に上がりやすい面はあるだろうな」
小結「た、大会!」
栗田「小結君の言う通りだよ、このままもし大会が開かれなかったら、
僕達、今年中に全国大会決勝(クリスマスボウル)に行く夢が……」
セナ(パワフル語……)
ヒル魔「心配は要らねぇ」ケケケ
ヒル魔「何が何でも大会は開かせる。ただちっと延期するだけだ」
ヒル魔「ウチにとって、少しでも鍛える時間が稼げるアクシデントはありがてぇこった。
何ならもっかいアメリカ行くか?」
十文字「俺達を殺す気か」
戸叶(ていうか、コイツが時間稼ぎのために協会のパワハラ疑惑をでっち上げたんじゃねぇだろうな……)
黒木(あり得る)
溝六「なぁに、アメリカ行かなきゃ何にも出来ねぇってワケでもねぇ」
溝六「基礎をじっくり固め直すのも、フォーメーションを詰めるのも、今できる立派な練習だ」
モン太「相手チームの戦術を研究したりとかもそうっスよね」
夏彦「アハーハー! キミが知的な事を言うとどこか新鮮だね!」ビシッ
モン太「なぁっ!? テメェにだきゃ言われたかねぇ!!」ムキャー!
<シーラヌーガー ホトケ ホォーット-ケナイ クーチビル ポーカーフェーーイス♪
戸叶「おっ?」ピクッ
ヒル魔「?」
まもり「あっ、わ、わっ……!」ピッ
鈴音「あっ、今の『SMOKY THRILL』でしょ! まも姉の着メロなんだ!」
栗田「あー、最近出てきたアイドルの子達だよね。えぇと確か……」
十文字「竜宮小町か。765プロとかいう」
黒木「俺は伊織ちゃんや亜美ちゃんよりも、あずささんだな」
戸叶「この間のアイドル大運動会見てたら、竜宮小町以外にも可愛い子いるぜ。
なかなか粒ぞろいなんだよな、あの事務所」ウンウン
セナ「く、詳しいんだね」
戸叶「ハ?」
十文字「はぁ?」
黒木「はぁぁぁああ!?」
セナ「ひぃぃぃっ!? ご、ごめんなさい!!」
黒木「何で知らねぇんだ!! 俺らの貸してやるから四六時中聴けっ!」ドサッ
戸叶「グラビア全部見やがれっ!!」バサバサ-ッ
十文字「おい、俺をコイツらと一緒にすんなよ」
セナ「はぁ……」
ヒル魔「耳障りだ、消せ糞マネ」
まもり「もう消したじゃないっ」
夏彦「しかし、僕らと同い年くらいの子達が頑張ってるのは元気もらえるねー」クルクル
鈴音「水瀬伊織ちゃんなんて、特にすごいよね」
ヒル魔「…………」
鈴音「まだ中学三年生? なのにさ、竜宮小町のリーダーで、プリプリで」
雪光「彼女、どこかの財閥の令嬢だって噂だね。それでよくアイドルの道を選んだよなぁ」
ヒル魔「…………」
セナ「ヒル魔さん、どうかしたんですか?」
ヒル魔「……」スマホ スイッ スイッ
ヒル魔「……」カタカタカタ…
ヒル魔「…………」
ヒル魔「!」ピコーン
セナ「あ、何か思いついた顔だ」
モン太「ぜってぇ良くない事を思いついた顔だなありゃ……」
~某レッスンスタジオ~
雪歩「う、わっ……きゃあっ!」ドテッ
真「雪歩っ!」
トレーナー「はーいストップー!」
真「大丈夫? ケガは無い?」
雪歩「う、うん……平気。いつもの事だから、えへへ……」
伊織「まったく、いつもの事じゃあ困るじゃない!」
雪歩「あ、伊織ちゃん……」
伊織「何回同じミスを繰り返したら気が済むのよ。
いい加減、同じレッスンに付き合わされる身にもなってほしいわ」
雪歩「うぅ……」シュン…
真「ちょっと伊織! そんな言い方は無いだろっ!」
伊織「本当の事を言って何が悪いのよ!」
真「何だと!?」
伊織「何よっ!!」
真・伊織「うぅぅぅぅぅぅ~~!!」
雪歩「あ、あの……二人ともケンカは…」
真・伊織「雪歩は黙ってて!!」
雪歩「ひぃぃ!」ビクッ
あずさ「うふふ。大丈夫よ雪歩ちゃん、真ちゃん」
雪歩「あずささん……」
亜美「そーそー、いおりんがホンキでそんなこと言うワケないっしょー!」
伊織「ちょ、ちょっと二人とも、何を言って…!」
あずさ「私もね、すっかり伊織ちゃんの足を引っ張って、怒られちゃった時があってね」
あずさ「でも、事務所に戻ると、伊織ちゃんが私にプリンをくれたの」
伊織「あ、あれは皆にもセレブの味を知ってもらおうって思っただけで…」
亜美「その前の日は、ミキミキにババロアあげてたよね?」
伊織「うっ!?」ギクッ
真「そういえば……伊織、さっき新堂さんに電話でゴージャスセレブもなかを注文していたような……」
あずさ「あら~、レッスン終わりのお茶請けにはもってこいだわ~」
亜美「お茶好きなゆきぴょんが淹れてくれた、チョ→おいしいお茶のねー♪」
雪歩「い、伊織ちゃん……」
伊織「な……何よっ! 私が好きなものを、皆に恵んであげてるだけじゃない!」
伊織「伊織ちゃんの優雅なティータイムに華を添えられるよう、
このレッスンも、その後のお茶も! ちゃんと頑張んなさいよねっ!」
雪歩「うん……うん! ありがとう、伊織ちゃん」ニコッ
伊織「……もう、何よっ」プイッ
真「ヘヘッ……なーんだ、素直じゃないんだな、やっぱり」
伊織「うるさいわねっ!」
トレーナー「よしよし、それじゃあ再開するわよー! はい、1、2、……!」
~夕方~
テクテク…
亜美「ふわぁぁぁ、いおりーん亜美もうクタクタだよぅ」グデー
伊織「レッスンだけじゃなくて、事務所でアレだけはしゃいでたら当然でしょ」
真「プロデューサーの分のもなかに練りわさび入れたのはまずかったね」
雪歩「すごい形相で流しに駆け込んでいったよね、プロデューサー……」
あずさ「皆楽しそうで何よりだったわ~」
真・雪歩「いやいやいや」
亜美「それじゃ、亜美はこっちだから。またねー!」タタタ…!
あずさ「あら~、やっぱり元気ね~。じゃあ、私もここで、失礼するわね」
真「あっ、はい」
雪歩「お、お疲れ様でしたぁ」ペコリ
テクテク…
雪歩「うぅぅ……今日も、しっかりできなかったなぁ……」トボトボ…
真「そんな事ないよ。上手に出来てた所もあったじゃないか」
雪歩「真ちゃんに比べたら、私のなんてダメダメですぅ……」
真「うーん……そういう、何というか、比べるものじゃないというか……」
伊織「まったく! いつまでもウジウジウジウジ!」ムスッ!
雪歩「伊織ちゃん……」
伊織「いーい、雪歩!? アンタの一番ダメな所はね!
レッスンが下手とか、そういう所なんかじゃないの!」
伊織「そうやっていつまでも小さい事を引きずってウジウジしてる所よ!
ダメダメなんかじゃないわよ。アンタは自分のダメダメな所を見つけすぎ!」
真「それはボクもそう思う」
雪歩「うぅぅ……」シュン…
伊織「ほらっ、そうやってまたシュンってする! まったく……」プイッ
真「まぁまぁ、伊織。あんまりそうやって責めるような事は…」
伊織「責めてなんか無いわよ!
私だって似たような経験があるから、黙ってられないの」
真「似たような経験?」
雪歩「それはど…」スッ
ガバッ!
雪歩「ッ!!?」ガサガサ-…!
真「どういう事? まさか伊織もそんなウジウジしてた時期が……」
伊織「無いわよ! でも、優秀なお兄様達と比べられて……
そう、劣等感を抱いていたのは、否定できないわ」
伊織「それでも、私は水瀬家を見返してやるんだって、そう思ったから……
だから、劣ってるかどうかなんて、大した問題じゃないのよ」
伊織「これからどうするのか、どう抗ってやるのかが大事なんじゃないかしら?」
真「へぇ、珍しく良い事を言うんだな」
伊織「伊織ちゃんが良くない事を言った日なんて無いわよ。ねぇ、雪……」
伊織「……ほ?」ピタッ
真「あ、あれ…………雪歩?」キョロキョロ
雪歩「ンーー! ンーーッ!!」ジタバタ!
賊学生A「し、静かにしろって」
賊学生B「可愛い顔して、結構力強いぞ……っとと」
葉柱「カッ! 人さらいたぁテメェもいよいよ落ちぶれたな」
ヒル魔「ほぉー? さらったのは賊学の怖~い生徒さんだよなァ?」
葉柱「テメェが言ったんだろが! もしこの事がバレたらテメェをチクって……!」
つ 脅迫手帳
葉柱「チク……逐一パシリとしてこき使ってくださいお願いシマス」ピキピキ
ヒル魔「ケケケ、分かってんじゃねぇか」スッ
ヒル魔「……あん?」
雪歩「ンー……!!」モゾモゾ!
ヒル魔「おい、糞トカゲ」
葉柱「トカゲって言うんじゃねぇ。斗影(トカゲ)は兄貴の方だ」
雪歩「ンーーーッ!!」ジタバタ!
ヒル魔「コイツじゃねぇ。トカゲになりすぎてヒトの見分けもつかなくなったか」
葉柱「アァッ!? 何だとテメェ、指示された写真通りの人間だろうが!!」
ヒル魔「知らねぇなァ」
ヒル魔「ターゲットは水瀬伊織だ。コイツはほっとけ」
雪歩「ン……!?」ピクッ
葉柱「チッ……おい、解いてやれ」
賊学生「う、ウッス」
雪歩「……ぷはっ!」
賊学生A「ご、ごめんね?」
葉柱「いいからテメェら、さっさと目当てのヤツ当たってこい」
賊学生B「は、はいっス!」ダッ!
タタタ…!
ヒル魔「チッ……そろそろ大通りに歩き着く頃だ。もうお付きの車に乗り込んでるだろうな」
葉柱「そんなに金持ちなのかよ」
ヒル魔「王城大学の筆頭出資者の、水瀬財閥っつートコの令嬢だ。
とりあえずソイツを……」
雪歩「い、伊織ちゃんを、いじめないでください!!」
ヒル魔「?」ピクッ
ヒル魔「…………」
雪歩「……!」ギクッ
雪歩「ひっ!? あ、う、うぅ……わ、私、初対面の人になんて事を……!」ガタガタ…
ジャキッ!
葉柱「あ、おいっ!?」
雪歩「こんなダメダメな私は……!」
雪歩「穴掘って埋まってますぅ~~っ!!」ザックザック!
葉柱「な、何してんだ止めろ! ってオイ何だその掘るスピード早ぇなモグラか!!」
ヒル魔「ケケケ、ウジウジしたり暴れたり、忙しいモグラだな」
雪歩「はぁ、はぁ……」
葉柱「やっと落ち着きやがった……このスコップもどっから出してきたんだ……」
葉柱「……あのな、コイツにそーいう説得はムダだぞ」
葉柱「今回だって大方、財閥の令嬢をさらって身代金要求するとか、
ロクでもねぇ事考えてるに決まってるぜ」
ヒル魔「ケケケ、誰がそんな事を狙ってるっつった糞トカゲ」
葉柱「トカゲじゃねぇっつってんだろ」
ヒル魔「言ったろ。水瀬財閥は、王城大やその附属の筆頭出資者だってな」
ヒル魔「王城高校の恵まれた練習環境も栄養管理も、水瀬の資金力があってのことだ」
雪歩「えっ……伊織ちゃん、何か、投資? をしてるんですか?」
ヒル魔(……頭は良くねぇな)
葉柱「じゃあ、その令嬢をさらって、王城へのサポートを止めろって要求すんのか?」
ヒル魔「ケケケ、そんな下品なマネはしねぇ。ちょいと聞きたい事があるだけだ」
雪歩「き、聞きたい……事?」
ガサガサッ!
伊織「あっ、いた!」
真「雪歩っ! 大丈夫!?」
雪歩「伊織ちゃん! 真くん!!」
ヒル魔「ほぉ、噂をすりゃ向こうから来やがった」
真「な、何だお前達はっ!!」
伊織「見るからに悪そうな連中ね」
雪歩「わ、私は大丈夫。でも……」
真「雪歩っ! ボクの後ろに!」
雪歩「う、うん!」ササッ…
葉柱「どうすんだよコレ、言い逃れできる雰囲気じゃねぇぞ」
ヒル魔「いざって時は、都議のオヤジにでも泣きつくんだな」
葉柱「カッ! 結局、人頼みかよ」
真「雪歩をさらってどうするつもりだったんだ!
事と次第によっては、ただじゃ済まさないぞ!」
伊織「事と次第によらなくともただで済まさないわよ。立派な犯罪じゃない」
雪歩「あ、あの……伊織ちゃん」
伊織「何?」
雪歩「実は、あの人達、私と伊織ちゃんを間違えちゃったみたいなんですぅ」
伊織「何ですって?」
真「どの辺を?」
葉柱「そこは掘り下げなくていい」
雪歩「伊織ちゃんが投資してる、ナントカっていうのが、えぇと……」
伊織「私の投資?」
伊織「一体どれの事かしら?
ブータンの紡績企業? それとも、イギリスの玩具メーカー?」
雪歩「何というか、もっとこう、王様っぽい感じの」
伊織「だとすると、デンマークの道路事業かしら。それかモルディブのリゾート産業……」ブツブツ…
葉柱・真「…………」
ヒル魔「王城」
伊織「王城……?」ピクッ
ヒル魔「テメェに聞きてぇのは、王城高校アメフト部のトレーニング環境に関するデータだ」
ヒル魔「選手、コーチ、練習時間、メニュー、機材、そしてフォーメーション……
知らねぇなら情報収集してもらう」
ヒル魔「出資者としてのコネを使えば、そう難しい話じゃねぇだろう」
伊織「王城大学附属高校の、一部活動の情報収集ですって?」
伊織「フンッ!」ファサッ
伊織「どこの馬の骨か知らないけど、まるで分かってないわね、アンタ」
ヒル魔「ほぅ?」ニヤァ
伊織「人に物を頼む態度とはとても思えないし、仮にビジネスを持ちかけてるんだとしても、
魅力的な見返りも一つだって提示してこない」
伊織「脅迫してるつもりなら、それこそお門違いよ。
相手の素性を知りながら、私を敵に回してただで済むと思っているのかしら?」
伊織「レディーの心を掴みたいなら、もう少しマシな口説き文句を覚えてからにするのね」
葉柱(カッ! 結構なじゃじゃ馬だぜ、コイツぁ)
ヒル魔「おーおー、確かにお門違いだったな」
ヒル魔「南米と中欧で貿易会社を営む優秀な二人の兄と違い、
帝王学の一つも学ばせてもらえなかった可愛い可愛いオジョウサマ」
伊織「……!?」ピクッ
ヒル魔「水瀬家を見返してやりたくて飛び込んだアイドル業で結果を残すのは、
生半可な覚悟じゃねぇだろう」
伊織「アンタ、一体どこでそれを……!」
ヒル魔「しかし、ひでぇ話だよなァ」
ヒル魔「財閥の当主たるお父様の目は、ひたむきに頑張る実の娘ではなく、
王城の方に注がれているときたもんだ」
ヒル魔「ライバル事務所であるジャリプロのアイドル、桜庭春人が所属する王城高校アメフト部のなァ」
伊織「……ッ!」
真「じゃ、ジャリプロ!?」
雪歩「桜庭君って、あの、CMも雑誌もいっぱい出てるあの!?」
ヒル魔「愛娘じゃなく、ジャリプロ桜庭春人の学校への支援を行ってきた水瀬財閥」
ヒル魔「ご実家を見返すとかいうじゃじゃ馬令嬢の覚悟がありゃ、
王城の鍵となる情報の一つや二つ仕入れてこれそうなもんだが……」
ヒル魔「ご実家からのオイタが怖ぇから手を引くなんざ、
結局、伊織サマの崇高なお覚悟ってのも買い被り過ぎちまったかなァ?」ケケケケ
葉柱(中坊の女の子捕まえて、悪魔かコイツは……)
伊織「…………」ギリッ…!
伊織「いいわよ」
ヒル魔「!」ペカー
真「ちょ、伊織っ!」
伊織「勘違いしないで! こんな男の安い挑発に乗った訳じゃないわ」
伊織「まさか、アタシに一方的に働かせるつもりじゃないでしょうね」
伊織「ビジネスといきましょう。
言ったでしょう? 相応の見返りが無いと、私は応じられないわ」
ヒル魔「ほぉ~……たとえば?」
伊織「765プロに協力しなさい」
伊織「アンタみたいな男がどう765プロに貢献できるか、自分で考えてこの場で提案してみせなさいよ」
ヒル魔「ケケケ、アイドルになれってか?」
伊織「冗談言わないで」
ヒル魔「そうだな……」ニヤッ
ヒル魔「…………」
雪歩「…………?」
雪歩「ふぇっ?」パチクリ
ヒル魔「そこの糞モグラをトップアイドルにしてやるってのはどうだ?」
伊織「へぇー、大きく出たじゃない。ぜひどうぞ、やれるもんならね」
雪歩「えっ……ええぇぇぇぇっ!?」
ヒル魔「ケケケ、面白ぇ」ニヤァ
~翌日、泥門高校 アメフト部部室~
黒木「何だこりゃあァァッ!?」
カメラ「」ジーッ
ドローン「」ヴィーン
ロボ「」ガッショ ガッショ
セナ「あ、アハハ、なんかすごく、未来的な~……」
小結「か、監視社会!!」
十文字「結構難しい言葉知ってんだな」
雪光「いや、でもこれ……たぶん、どう見ても僕達を見張ってるんだよね?」
モン太「ケルベロスも、何かカメラ背負ってやがる……」
ケルベロス「ガフォッ! ガルルル……!!」つ エサ付きカメラ
ムサシ「あぁ、それな」ザッ
まもり「あ、ムサシ君」
ムサシ「ヒル魔のヤツに、今朝突貫でやらされたんだ」
ムサシ「アイツがいない間、お前らがサボらねぇようにってな」
ムサシ「そこらのカメラから、アイツの持ってるタブレット端末に、
全て映像が行くようになってるらしい」
戸叶「本当に監視社会じゃねーか……」
夏彦「アハーハー! ムッシューヒル魔が心配しなくても僕達なら真面目に練習するさ!
さぁ鈴音、僕のロッカーから防具を……」クルクル
ガンッ
ロボ「」ギロッ
夏彦「あっ」
ロボ「」ジャキッ どぱぱぱぱぱっ!
夏彦「アリエナイィィィィィイッ!!!」ドガガガ!
ムサシ「あぁいうバカ……もとい、オイタをするヤツはあぁして粛正されるってワケだ」
鈴音「うん……別にバカは言い直さなくていいよ?」
モン太「こいつぁ、ヒル魔先輩がいる時と同じか、それ以上に注意マックスしねぇとヤベーな」
栗田「いやいや、あの、いつも通りにやっていればあのロボも怒らないと思うよ」
セナ「ところで……どうしてヒル魔さんは、いなくなったんですか?」
栗田「えっ?」
栗田「い、いやぁ……僕にはちょっと連絡が……」
まもり「溝六先生は、何か聞いてらっしゃいますか?」
溝六「アイツは昔から何にも相談してこねぇんだ」フンッ
黒木「ケッ。俺達を見張っておいてテメェはのんびりしてるんじゃ世話ねぇぜ」
戸叶「まったくだ」
ムサシ「いや、違うな」
黒木・戸叶「えっ?」
ムサシ「アイツはロクでもねぇ男だが、アメフトにだけは嘘はつかねぇ」
ムサシ「どこにいようと、自分の練習だけは欠かさず行っているはずだ」
ムサシ「凡才の上、頭は回るクセして、目標だけはバカでけぇ……
そんなバカみてぇな事を大真面目にやろうとするために」
ムサシ「アイツは、与えられたカードで何をすべきかを、良く知っている」
十文字「…………」
セナ「ムサシさん……」
モン太「よーし、ずっとここにいたって始まらねぇ! 練習行くぜっ!!」ダッ
栗田・小結「う、うんっ!」「フゴッ!」
十文字「おい、行くぞ」
黒木「はぁ~あ……すっかりスポーツマンかよ俺ら」
戸叶「知るか」
ザッ…
鈴音「えへへ、皆、何だかんだ熱心なんだね」
まもり「ふふ……そうね」
鈴音「アタシも、ちょっとこのバカ兄を片付けてきたら、給水とか手伝ってくるね!」がっし
夏彦「」ズルズル…
まもり「あ、うん」
ガララ バタン
まもり「ふぅ……さてと」
まもり「…………あら?」
まもり「これ……ヒル魔君のロッカー……」
まもり(勝手に覗いたら、悪いかな……でも、何か……?)キィ…
バサッ
まもり「きゃっ……!」ビクッ
まもり「あ……えっ?」スッ
つ アイドル雑誌
まもり「こ、これは……!?」
まもり(ヒル魔君、まさか、こういう趣味があったの!?)
まもり(いや、あのヒル魔君が、こんな世俗的な……で、でも……!)
まもり(一体……ヒル魔君に何があったのかしら……!?)
~某レッスンスタジオ~
響「うえぇぇ、そんな大変な事があったのかー!?」
千早「警察には届けたの?」
雪歩「い、いやぁ……誰も、ケガとかしなかったし、一応、円満に話はついたから……」
貴音「萩原雪歩、貴女は真、心優しい人ですね」
響「うーん、優しいだけってのとは、ちょっと違うと思うぞ……」
春香「それで、そのヒル魔さんっていう人は、いつから来るの?」
雪歩「へっ? あ、う、えぇと……」
ガチャッ
響「あ、トレーナーさん!」
トレーナー「おはよう皆、さぁ今日も……」グイッ
トレーナー「う、わぁぁっ!?」ぐいーん
バタンッ!
春香「あ、あれっ? トレーナーさーん……」
貴音「?」キョトン
ガチャッ
ヒル魔「それではレッスンを始めます」ケケケ
雪歩「ひ、ひいいぃぃぃぃっ!?」ビクゥッ!
響「こ、この雪歩の怯えよう……あーっ!!」
響「ひょっとして、お前がヒルマヨウイチだなー!?」
千早「この人が……!」
ヒル魔「トレーナーは、急遽大切な用事が入ったのでキャンセルだ」
ヒル魔「ここは、この俺がテメェらを鍛えてやる。
特別メニューだ、覚悟しやがれ糞アイドル共」ジャキッ
春香「ひえぇぇ、何か物騒な物持ってるよぉこの人……!」
貴音「なるほど……貴方が、泥門高校の蛭魔妖一ですか」
ヒル魔「……?」ピクッ
春香「え……高校生?」
雪歩「ヒル魔君、泥門高校の二年生なんだって」
響「なーんだ、じゃあ自分と同学年だな!」
雪歩「それより、貴音さん、ヒル魔君の事を知って……?」
貴音「故郷(くに)にいた時、じいやから聞かされておりました」
貴音「悪魔の如き才知を持つ、恐るべき家系がいる……
彼の者を決して敵に回すべからず、と」
貴音「四条の者と一時、雌雄を競い続けた……
蛭魔幽也の、貴方が息子……という事ですね」
ヒル魔「……何モンだ、テメェ」ギロッ
貴音「それは、トップシークレットです」スッ
春香(な、なんか並々ならぬ雰囲気……)
響「ちょ、ちょっと貴音! なんか自分、全然よくわかんないけど!」
響「そういう危ないヤツだったら、関わるのもピンチなんじゃ……!」
貴音「ふふっ、案ずる事はありませんよ、響」
貴音「敵に回したら恐ろしい……
それは、味方としてこれほど頼もしい者はいないという裏返しにもなります」
貴音「過去の事は忘れ、共に高みを目指しましょう、蛭魔妖一」
ヒル魔「生憎だが、俺はお前ら全員をトップアイドルにしろとは頼まれてねぇ」
ヒル魔「そこの糞モグラ」
雪歩「ふぇっ!? ……わ、私、ですよね?」
ヒル魔「糞デコとはソイツで話がついてる。他のヤツらはオマケだ、付き合えるヤツだけ付いてこい」
千早「随分と、偉そうな物言いだけれど……ヒル魔さん」
千早「そういうあなたこそ、トレーナーとしての能力は標準並みにあるのかしら?」
春香「それは、えぇと、そうだよね?
あまり良くない言い方かもだけど、ひ、ヒル魔君もさ、この業界をどこまで……」
ヒル魔「高校アメフト大会の開催は40日後だ」
春香「ふぇっ?」
ヒル魔「40日間で、糞モグラをアイドルランクB(※)まで上げてやる」
※ランクB:ファン人数が700,000人以上。いわゆる一流アイドルレベル。
ヒル魔「そのためには、標準並みの段取り組んでるヒマなんざねぇ。
死ぬほどのレッスン積ませてやる。そう……」
ヒル魔「『死の行軍』(デス・マーチ)だ!」
一同「デス・マーチ!?」
デビバ「アイドルの事なんざ知らねー。つーか興味もねー」
デビバ「そんな硬派気取りなクールガイ共に……」
デビバ「このデビルバット様が、アイドルの世界を簡単レクチャーしてやるぜ!!」
コデビバ「生徒役はこの僕、コデビバです。よろしくです」ピョコピョコ
~デビルバットとコデビバのアイドルマスター教室 レッスン編~
コデビバ「デビルバット先生っ!」ハイッ
コデビバ「アイドルのレッスンって、どんな種類があるんですか?」
コデビバ「アホなんで分かりません、教えてください!」
デビバ「レッスンで行われるのは、この三つだ! 脳ミソかっぽじってよぉく頭にたたき込め!!」
【ビジュアル】 正しいヤツを正確に押せ! 焦るな!
【ボーカル】 流れるヤツを正確に押せ! 呼吸に気をつけろ!
【ダンス】 リズムに合わせて正確に押せ! 早くなるぞ!
デビバ「死ぬ気でパーフェクト取りやがれ!! Ya―――Ha――――!!」
ヒル魔「ケケケ、この期に及んで一コ一コ、バカ丁寧にやるとは思うなよ」
一同「えっ?」
ジャキキンッ!
ドローン「」ヴィーン
一同「えぇぇっ!?」
ヒル魔「ドローンのカメラに向けて表情作りやがれ!」
春香「うえぇぇっ!? そ、そんな動きが速すぎて……!」
ヒル魔「それと同時にステップ!」ズダダダダダッ!
響「うぎゃあーっ!! な、何するんさー、ってうぉわっと!?」
ヒル魔「踊りながら歌え! 音程外したらもう一回だ!」
千早「む、無茶苦茶だわ!」
雪歩「うっ、わ、わ……!!」アタフタ…!
貴音「い、いくら何でも無節操が過ぎます! もう少し加減を……!」
ヒル魔「時間がねぇ中でお行儀なんざ気にしてたら、取れるモンも取れねぇ」
響「時間が無いのはそっちの都合でしょ!
自分達、40日間とかいう期限なんて全然知ったこっちゃないぞ!」
春香「そ、そうだよ! 時間をかけてじっくり積み重ねていくとか……!」
千早「大きなライブとか、具体的な目標も無いままに、
いたずらに過酷なトレーニングばかりするのは、ナンセンスだわ」
ヒル魔「ほぅ」ピタッ
ヒル魔「具体的な目標がねぇのか? テメェらは」
雪歩「えっ……?」
春香「い、いや……そりゃあ、トップアイドルになる、っていう夢は、あるけど……」
ヒル魔「それを叶えるのに手段を選んでられるほど、恵まれた環境にいんのかよ」
千早「……ッ!」
ヒル魔「ケケケ、めでてーヤツらだぜ。自分達が特別だと思ってやがる」
ヒル魔「漫然と頑張っていれば、そのうち向こうから夢がやってくるってか?」
響「そ、そんなこと!」
貴音「…………」
ヒル魔「まぁいい。目標があればいいって話だったな」ニヤァ
~765プロ 事務所~
律子「う、んん~……概ね、企画書はこんな所かしら」ノビー
P「お疲れ様。竜宮小町の勢いはすごいな、感心するよ」
律子「いえ、まだまだです。
ようやく実施までこぎつけた765プロ単独ライブ」
律子「この機をしっかりモノにして、軌道に乗せていかないと」グッ
P「あぁ。俺も頑張らないとな。
チャンスを活かさないといけないのは、むしろこっちの方だ」
高木「ハッハッハ、竜宮小町のお陰で、事務所も活気が付いてきたねぇ」
小鳥「えぇ。アイドルの子達もプロデューサーさん達も、お互いに良い刺激になっているようです」
小鳥「今後の活躍が、楽しみですね」ニコッ
高木「全くだ」
ガチャッ
小鳥「あら? お客さんかしら、はーい」トトト…
黒井「ハァーッハッハッハ!
相変わらず小さい事務所だなぁ高木ィ!? まるで犬小屋じゃあないかね!」
小鳥「く、黒井社長!?」
律子「黒井社長って、あの、まさか961プロの……!?」
P「なんだなんだ?」
高木「やぁ、黒井じゃないか。今日はどうしたんだい? 小鳥君、コーヒーを」
黒井「やれやれ、相変わらず暢気な事だな、貴様は。その様子だと何も知らないと見える」
高木「あぁ、どうやらそのようだ」
黒井「フンッ! 私はセレブで心が広ぉ~いから、特別に許してやるし、教えてもやろう」
黒井「何しろこの話は、お前達765の者から持ちかけられたのだからな」
律子「私達の方から?」
黒井「今度予定される765の単独ライブに、我が961プロのジュピターも参加するのだよ」
P「な、何ですって!?」
黒井「それだけじゃあない。行われるのはジュピターと765のライブ対決だ!」
黒井「負けた方は、アイドル業界から強制追放! そういう約束だったなぁ!!」
小鳥「うええぇぇっ!?」
律子「そ、そんな! あまりにも無茶苦茶すぎます!!」
黒井「ンン~~? そちらから持ちかけた話を一言一句、私は正確に述べているに過ぎないのだが?」
律子「プロデューサー。まさか、あなたがあんな馬鹿げた事を…!」
P「じょ、冗談はよせよ! 俺がそんな話、誰にも相談無しに進めるわけ無いだろ?」
小鳥「じゃあ、一体誰が……」
高木「フゥ~ム……初耳だがまぁ、決まった話だと言うのなら、今さら変えられないだろう」
律子「しゃ、社長!?」
黒井「潔い事だな、高木ィ」
高木「大方、検討は付いている。そんな事を言ったのは、おそらく彼だろう」
高木「水瀬君が余所から助っ人として引き込んだ、泥門高校アメフト部の司令塔……
蛭魔妖一君」
律子「あ、あぁ~~……あの髪型がすごい、耳の尖った彼ですね。伊織が紹介してた」
P「ちょ、ちょっと待ってください! それならなおさら反故にすべきです!
正式な765プロの人間ですらない彼が、勝手に取り付けた約束など……!」
高木「確かに、無茶な話かも知れん。だが……」
高木「悪い話ではない。私はそう思うよ」
律子「しゃ、社長……」
黒井「ハンッ! 随分な自信だなァ? 本番で貴様の吠え面を拝める日が楽しみだ」ズイッ
ドサッ
小鳥「あら、コーヒー豆。くださるんですか?」
黒井「本番が近づくにつれ、その虚勢も薄れてくるだろう。
せいぜいこのちっこいちっこい豆の数でも数えて不安を紛らせているがいい、ハァーッハッハッハ!!」
ガチャッ バタンッ!
P「くっ……何という事だ! 社長、本当に良いんですか!?」
P「もし負けたら、彼女達は夢を諦めなくてはならなくなるんですよ!」
高木「負けたらね」
小鳥「わーい♪ すっごく高いコーヒーですよコレ」
律子「負けたらね、って……勝てばいいとか、そんな簡単な話じゃありません!」
律子「961プロのジュピターは、強敵です!
全国区のイベントやメディアを次々に席巻してきています」
律子「オーディション荒らしとしても、業界内では有名です。
961の裏金のおかげ、という噂だけでは説明できない確かな実力があるのも事実です」
律子「今のあの子達では、勝てるかどうか……!」
高木「あぁ、分かっているとも」
高木「だが、大事なのは、勝敗ではない」
P「勝敗では……ない?」
高木「彼と話をしたい。小鳥君、連絡を取ってもらえるかね?」
小鳥「あ、はい」
~レッスンスタジオ~
響「うわーん!! ヒル魔のバカぁ~、キツすぎるぞー!」
春香「とか言いながら、何だかんだ一番ちゃんとやってたのが響ちゃんなんだよね」
響「えっ、そ、そう? ふふーん、そりゃあ自分、完璧だからなっ!」ドヤッ
千早「しかし、ヒル魔さんのこんな非常識なレッスンが続くと、身が持たないわね」
貴音「ひとまず、蛭魔妖一も帰られた事ですし、私達も帰宅して身体を休めるとしましょう」
雪歩「あ、はい……あ、あの、皆」
春香「?」
雪歩「い、いや、その……ごめんなさい」
雪歩「私がダメダメだから、伊織ちゃんも同意して、ひ、ヒル魔君も、こんな……」
響「何言ってるさー雪歩! アイツがムチャなのは雪歩のせいじゃないだろー!?」
千早「我那覇さんの言う通りよ。
それに、あんな言いたい放題されたら、私達だって黙っていられないもの」
春香「そうそう! 雪歩は何も心配しなくて大丈夫だよ、ねっ?」ニコッ
雪歩「皆……」
貴音「ふふっ、真、良き仲間に恵まれたものですね、雪歩」
雪歩「はい……本当に、そう思います」
春香「? 小鳥さんから着信が……」スマホ スイッ
春香「……うぇぇっ!? 皆、大変だよぉ!!」
響「どうしたんだー、春香?」
春香「961プロのライブとジュピター対決して、ま、負けたら追放を国外が!!」
千早「は、春香! 落ち着いて!」
テクテク…
響「アハハハ! なーに、ジュピターなんて自分がいればなんくるないさー!」
雪歩「す、すごい自信だね響ちゃん……」
響「当ったり前さー! 雪歩もドンッと、大船に乗ったつもりでいてよね!」エッヘン
響「じゃあねー雪歩! ちゃんと教えた通りストレッチするんだぞー!」ダッ
雪歩「あ、うん! お疲れ様ー」フリフリ
タタタ…
雪歩(あ、あんなに踊った後なのに、走って帰っていっちゃった……)
テクテク…
雪歩「皆すごいなぁ……私だけ、ちゃんとついていけかったなぁ……」
雪歩「うぅん、いけないいけない」ブンブン
雪歩「帰ったら、ちゃんと復習しないと……皆、私を励ましてくれてるんだから、もっとがん……!」
雪歩「あれ?」ピタッ
ヒル魔「…………」テクテク…
雪歩(ひ、ヒル魔、君!?)ビクッ
雪歩(事務所の方から歩いてくる……レッスン終わった後、寄ったのかな……?)
雪歩(って、考えてる場合じゃないよぉ! か、隠れなきゃ……!)ザックザック…!
ヒル魔「…………」テクテク…
雪歩(…………ホッ。気づかれなかったみたいですぅ)ヒョコッ
雪歩(それにしても、どんな用事があったんだろう……?)
雪歩「…………」
コソコソ…
~泥門高校~
栗田「ふんぬらばっ!!」ガショーン!
セナ「はっ……はぁっ……!!」ズバババ…!
モン太「うおおぉ、キャッチマーーックス!!」ガシッ!
鈴音「やー!! モンモンナイスキャッチー!!」
雪光「ヒル魔君が置いてったロボ、『ヒルマ君』もすごい出来だねコレ」
溝六「ほれ、ケツを爆発させろ!!」ガツーン
十文字「おらぁぁぁっ!!」
黒木「ぶっ倒れろコラァァ!!」
戸叶「お前こ、そ……!!」
小結「ふごぉっ!!」
ヒル魔「……おーおーこんな時間まで」ケケケ
ガララ…
ヒル魔「……?」
まもり「あっ」
ヒル魔「何してやがる、糞マネ」
まもり「皆のトレーニング内容を記録としてまとめていたの」
まもり「ヒル魔君も、こうしてあった方が後で見直しやすいでしょう?」
ヒル魔「…………」
まもり「心配しないで。皆、真面目に取り組んでいるわ」
まもり「十文字君達も、皆……ヒル魔君がいなくても、ちゃんと」
ヒル魔「たりめーだ」ドサッ グイッ
まもり「ヒル魔君……765プロの、萩原雪歩ちゃんのお世話を?」
ヒル魔「……」ピクッ
まもり「葉柱君から、事情を聞いたの」
ヒル魔「あの糞トカゲ……まぁいい」
ヒル魔「なら、何で俺がそんな事をしてるかも知ってんだな」
まもり「大体はね」
まもり「あっ、皆にはまだ知らせてないから、安心して。
特に、黒木君達が知っちゃうと、たぶん大変だものね」
ヒル魔「アイツらだけじゃねぇ。アイドルオタクなんざ山ほどいやがる」
まもり「……どうしてヒル魔君ってそう、無茶な事ばかりするの?」
まもり「私も、アイドルの業界がどんなものかって、全然知らないけど、
40日間で一流アイドルに育てるなんて、あまりに非常識というか……」
ヒル魔「非常識でも、勝算が無きゃハナから受けてねぇよ」
まもり「勝算って、どれくらい?」
ヒル魔「まぁ、良くて1%ってとこだな」
まもり「ええぇっ!?」ガーン
ヒル魔「それに、素人連中抱えてクリスマスボウルを目指そうって俺達が、
今さら常識を語れるモンでもねーだろ」
まもり「うん……ふふっ、そうね」
夏彦「おぉ何という麗しいマドモワゼル! マネージャー志望かい!?」
ヒル魔・まもり「?」
雪歩「ひっ!? わ、私、その……!」アセアセ…
夏彦「アハーハー! 恥ずかしがる事なんてないさ!
僕の妹だって軽々しく真似事をやってるくらいだ! 誰にだってできるよ、さぁっ!」
グォッ…
夏彦「へっ?」
鈴音「バカ兄、今あたしの事バカにしたでしょっ!!」ギャリギャリギャリギャリ!
夏彦「ギャアアアァァァッ!!! おおごごごごごご……!!」
鈴音「兄さんにだけはバカにされたくないっての!!」ドギャゴガゲギグゲゴガゴ!
雪歩「ひぇぇ! あ、あの! す、すみません、私……!」
ガララッ
まもり「何の騒ぎ……あぁっ!?」
モン太「何だ?」
戸叶「何だ何だ?」
戸叶「!! あ、あぁぁ……!!」
黒木「うあぁぁっ……!!」ガタガタガタ…!
黒木・戸叶「萩原っ!!」
セナ・雪光「ゆっ!」
モン太・栗田「きぃ!?」
小結・ケルベロス「ふごっ!!」「ガフォッ!!」
雪歩「ひいぃぃっ!! い、犬ぅぅぅぅぅっ!!」ズザザザザッ!
セナ・モン太「めっちゃ逃げてる!!」
雪光「いや、犬普通の人でもケルベロスは逃げるでしょ……」
鈴音「やー!! ウソみたい、765プロの雪歩ちゃんとこんな所で会えるなんて!」
鈴音「私ファンなんです、握手してください握手!」がっし ぶんぶん
雪歩「うひゃああ、私なんてそんな、ランク低いアレのダメで……!」がっくんがっくん
ヒル魔「ケケケ、部外者が堂々と校内に忍び込むたぁ良い度胸だ」
栗田「あっ、ヒル魔!」
モン太「戻ってきてたんスか」
雪歩「ひ、ヒル魔君、違うんですぅ、これは、色々とアレがあの……」
セナ「ヒル魔、『君』!?」
戸叶「ハ?」
十文字「はぁ?」
黒木「はあぁぁぁぁああ!?」
鈴音「いつの間に妖ー兄、雪歩ちゃんとそんな親密になってんの!?」
ヒル魔「765プロにコイツのプロデュース任されてる」
一同「えええぇぇええぇぇぇっ!?」ドギャーン!
溝六「…………なるほどな。交換条件、とはいえ……」
溝六「もうちょいやり方ってモンがあんだろ。王城の秘密探るのに、そこまでやるか普通?」
栗田「先生、実に真っ当な意見……」
ヒル魔「うるせぇ糞アル中」
ヒル魔「手段なんか選んでいられるか。勝つために利用できるモンは何でも利用すんだよ」
雪歩「そ、そうは言っても……」
ヒル魔「あん?」
雪歩「ヒル魔君は、アメフトの練習も、あ、あるんですよね?」
雪歩「それなのに、私なんかのために、あれこれ面倒を見てくれて……」
雪歩「自分の練習時間も犠牲にして、見返りが、他校の情報だけというのは、どうなのかなーって」
ヒル魔「割に合わねぇってか?」ニヤッ
まもり「……?」
雪歩「率直に言うと……は、はい……」シュン…
戸叶「雪歩ちゃんが落ち込む必要なんてないんだよ?」ニコッ
黒木「あんな外道の言う事なんか、何にも気にしなくていいからね?」キラキラ
雪歩「ひっ!?」ビクッ
ヒル魔「ケケケ、気にしなくていいのはアタリだ」
ヒル魔「糞モグラもテメェらも、黙って俺の言う事聞いてりゃいいんだよ」
栗田「ひ、ヒル魔ぁ、それはあまりに乱暴なんじゃ…」
ヒル魔「黙れ糞デブ!! 腸詰めされて美味しく出荷されてーか!!」ズダダダダッ!
栗田「うひゃああぁぁ……!」ばいんばいん
雪歩「ひぃ~~ん!! い、いつもこんな感じなんですかぁっ!?」
まもり(違う……!)
まもり(無茶苦茶で横暴なのはいつもの事だけど……何だろう)
まもり(今までのヒル魔君、黙って言われた通りにしろだなんて、あまり言わなかったはず)
まもり(こんな強引に、ロクに説明もしないなんて……何か、違う)
まもり(それに、あの楽しそうな顔……)
まもり(一体……何を、考えているのかしら……)
十文字「…………」
~月刊アメフト 編集部~
『衝撃!! 桜庭春人、ジャリプロ引退の危機か!?』
ザワザワ…! プルルルルル…!
編集長「やれやれ、高校アメフト大会が延期になって、書く事が無くなって困る」
熊袋「桜庭君とジャリプロには悪いけど、とりあえず誌面を埋めるネタが出来て良かったですね」
編集長「だが、曲がりなりにもアイドルだ。
もし引退すれば、桜庭人気の分だけアメフトの注目度も下がるだろうな」
編集長「そもそも、アイドル人気にもあやかっていたのがこの業界の情けない所だが……」
編集長「アイシールド21とかも良いが、話題性のある選手やチームが出てこなければ、
我々も商売あがったりだぞ」
熊袋「う、うーん……それはそうですが……」ポリポリ…
FAX「」むぃ~ん…
熊袋「おっ?」
編集長「どうした?」
熊袋「いえ、ファックスが……アメフト協会から?」ペラッ
熊袋「こ、これは……!?」
編集長「何だ、どうしたと聞いてるんだ!」ガタッ
熊袋「あ、ある意味でもう一度、アイドル人気にあやかる事になるかも知れません……」
『アメフト協会全面協力! 765プロ V.S. 961プロ アイドル頂上ライブ対決!!』
編集長「な、なんだコレは……!?
編集長「何でアイドルのライブイベントなんぞにアメフト協会が絡んでくるんだ!」
島袋「し、知りませんよ!」
~765プロ事務所~
ヒル魔「ケーケケケケケケケ!!」ゲラゲラ!
律子「どう考えてもおかしいですよ! 最初はただの一事務所のライブイベントだったのに……」
小鳥「な、何だか、泥門高校のヒル魔君が絡み出してから、話がどんどん大きくなってきてません?」
P「アメフト協会に働きかけを行ったのも、君か? ヒル魔君」
ヒル魔「まさか。勘違いすんな、俺はアメフト協会に協力なんざ仰いじゃいねぇ」
ヒル魔「大方、俺以外の派手好きなヤツが、話を大袈裟にしたんだろうなァ」~♪
律子「ヒル魔君以外で、派手好きな人?」
ガチャッ!
黒井「ハァーッハッハッハ!!
今日の週刊誌を見たか765プロ! これでもう言い逃れはできんなぁ!?」
P・律子・小鳥「この人かーー!!」ガガーン!
高木「いやいやぁ~、参ったよ。まさかここまで大事になってしまうとはねぇ、ハハハ」
黒井「フフン。そこの小僧には大いに世話になったよ。
忌々しい765プロを公明正大に潰す機会を、こうも簡単にもたらしてくれるとは」
ヒル魔「ケケケケ、何だって話はデカけりゃデカいほどいいからな」
ワハハハハハ…!
P「なるほどな。こうなる事を見越して、ヒル魔君は961プロを巻き込んだ訳か」
春香「あ、あのー……社長達、何であんなに楽しそうに話してるんですか?」
律子「知らないわよ。何であの三人、あんなに仲良しなのかしら」
やよい「ううぅ……負けたら私達、アイドル辞めなきゃいけないんですかぁ?」
千早「いくら話を大きくしたって、厳しい条件である事に変わりはありません」
雪歩「そ、そうだよね……」
美希「……うぅ~ん、何の話?」ムクッ
黒井「うおっ!? な、何だ、星井美希か」
美希「なんかオジサン達の声がうるさくて、起きちゃったの。あふぅ」
高木「我々がいる応接室のソファーの真ん中で、今の今まで寝ていたキミも大概だがねぇ」
ヒル魔「変なヤツばかりで飽きねェな」
高木「ありがとう。全くだよ」
美希「あぁ、今度の961プロとのライブ対決のこと?」
美希「んー、ミキ的には、別に大きくても小さくても変わんないかなってカンジ」
黒井「……何だと?」
美希「だって、ミキ達が勝てばいいってのは変わんないんでしょ?」
美希「ミキが出れば、チャチャーッて上手くいくから、何にも心配いらないって思うな」
高木「ハッハッハ、これはまた、頼もしい事だ」
ヒル魔「ケケケ、言うじゃねぇか糞毛虫」
黒井「フンッ! 我がジュピターを相手に、随分と不遜な物言いだが、一つ残念なお知らせだ」
黒井「ジュピターが相手するのは星井美希、キミではない。そうだね、蛭魔妖一?」
美希「えっ?」
ヒル魔「あぁ、そうだな」
真美「えっ!? どういうこと、もう決まってんの?」
真「順当に行けば、今の765プロで最も知名度の高い、竜宮小町が相手をするって事なのかな」
黒井「蛭魔妖一が765側の代表として選抜したのは、萩原雪歩とかいうちんちくりんアイドルだ」
雪歩「…………え」
真「ゆ、雪歩がっ!?」
響「765プロの代表で、ジュピターと!?」
雪歩「そんなっ! 私、ダメですぅ!! とてもジュピターさんの相手なんて務まら……!」
美希「いいよ」
雪歩「えっ?」
美希「雪歩なら、ちゃんとやれるから安心ってカンジなの」
美希「じゃ、おやすみー」バタン
黒井「あっ」
美希「Zzzz……」スースー…
黒井「フゥ~、やれやれ。弱小事務所連中の、根拠の無い自信には困ったものだ。
あんなひんそーなちんちくりんに一体何ができ…」
ヒル魔「おい糞ブラック」
黒井「ンン~?」
小鳥(糞ブラック!?)
ヒル魔「ちゃんと老人用のオムツ履いとけよ」
ヒル魔「俺が鍛える糞モグラのステージ観て、泣きながら漏らすハメになるんだからな。
何ならそのままステージに躍り出て見せびらかしてくれてもいいんだぜ?」ケケケ
ヒル魔「名は体を表す、てなぁ良く言ったもんだぜ。
その身を挺して放送禁止の黒塗りっぷりを表現してくれりゃ世話ねぇよなァ?」ケーケケケケ!
P「な、何という下品な煽り方だ……」
律子「大の大人が、しかも芸能事務所の一社長が、あんな挑発に乗るとは思え……」
黒井「言わせておけば言いたい事をこの小僧ーーッ!!!」ガターン!
P・律子「やっぱり!」ガーン!
小鳥「あの人、昔からあんな感じなんです……」
黒井「よぉしいいだろう! せいぜい本番を楽しみにさせてもらおうではないか!」
ヒル魔「自慢のお友達には見せつけなくていいのか? 糞ブラックの世紀の[ピーッ]ショーをよ」
黒井「醜態を晒すのは貴様らの方だ!! 言われなくともたっくさん流布してやるさ!」
黒井「逃げ場が無くなった後で泣いて謝っても遅いのだからな!
せいぜい震えてその日を待つがいい、ハァーッハッハッハッハ!!」
ガチャッ バタン!
ヒル魔「アイツ高笑いしてばっかだな」
律子「ひ、ヒル魔君っ!」
P「ヒル魔君、まずいよあぁいうのは。
大企業の社長を相手に、いくら勝つ気満々だとしても、それを露骨に示すと気を悪くされちゃうよ」
律子「そもそも勝つ気満々っていうのが信じられないわよ。
アレじゃ黒井社長の言う通り、根拠の無い自信で虚勢張ってると思われてもしょうがないわ」
ヒル魔「うろたえんな糞パイナップルに糞アルファベット」
律子「ファッキ……パイナップル!?」
P「アルファベットって、俺!? 俺のこの頭のこと!?」
小鳥(分かりやすい)
ヒル魔「テメェのペースで相手を動かすには、ビビらせんのが一番なんだよ」
ヒル魔「見ろよ、あの糞ブラック。もうHP更新してやがる。
感情的なバカは行動力があって助かるぜ、ケケケ」
P「本当だ……ライブの詳細と、協賛の企業に関する情報が見る間にアップされていく」
律子「で、でもっ! まずは勝算が無い事には交渉も何も……!」
ヒル魔「アイドルってのは、観客を雰囲気に呑ませるのが仕事みてぇなモンだろ」
律子「……!?」
ヒル魔「本番では、あんなオッサン一人だけじゃねぇ、もっと大勢の観客共をビビらせなきゃなんねぇんだ」
ヒル魔「大企業の社長だか知らねぇが、その一人や二人くらい雰囲気に呑ませられねぇでどうすんだよ」
P「ん、うーん……それとこれとは、話が違うというか……」
高木「いや、ヒル魔君の言う事ももっともだと思うよ」
小鳥「そうでしょうか?」
高木「まぁ、何にせよ、だ……」チラッ
雪歩「あっ!? え、あう……えぇと……!」モジモジ…
千早「プロデューサー……本気ですか? 萩原さんを代表にすると」
P「お、俺に言うなよ。情けない話だけど、今回は俺は何も関与してなくて……」
雪歩「わ、私、無理ですぅ! 事務所の命運を掛けたライブ対決なんてぇ……!」ジワァ…
高木「責任は私が取る。ヒル魔君の手腕に掛けるとしよう」
律子「社長……前々から気になっていた事があります」
高木「何だね?」
ヒル魔「何で部外者である俺の言う事を、社長がホイホイ聞くのかってか?」
律子「えぇ、そうよ。
あなた、聞いた話だと脅迫手帳というものを持ち歩いているそうね?」
ヒル魔「ケケケ、誰から聞いた話か知らねぇが」ニタァ
律子「まさかとは思いますけど……社長の何か、後ろ暗い事をヒル魔君が握っていると?」
律子「引いては、社長には何か後ろ暗い事があるのかどうか……」
高木「……フム」
律子「この場でお答えください、社長。
担当アイドルのプロデュースが、なぜ近所の高校生に好き勝手されなければならないのか」
律子「我々プロデューサーにも、メンツというものがあります。
これが明らかにされない限り、我々もこの事態を納得して受け入れる事はできません」
P「俺も律子と同じ意見です」
律子「ていうか、雪歩は元々プロデューサーの担当でしょう」
P「睨むなよ、ごめんて」
高木「…………ウム、分かった」
高木「ヒル魔君。私の方から説明しても構わないかね?」
ヒル魔「聞かれてんのはテメェだ。勝手にしやがれ」
高木「フフフ、ではそうさせてもらおう」
高木「だが……始めに言っておきたい事がある」
高木「キミ達が今から聞く話は、そう明るい内容のものではない」
律子「! ……やはり、社長…!」
高木「まぁまぁ、最後まで聞いてくれたまえ」
高木「私がここで話そうが話すまいが、
我々がヒル魔君に協力しなければならない事実に変わりは無い」
高木「あるいは、聞かなければ良かったと後悔するような話かも知れない」
高木「でも、キミ達がそれを聞かなければ先に進めないというのなら、話そう」
P「…………」
高木「さて……察しの通り、端的に言えば、私はヒル魔君に弱みを握られている格好になる」
春香「えっ!?」
律子「…………」
P「格好になる、とはどういう意味ですか?」
高木「この765プロを立ち上げるに当たっては、先代も苦労したんだねぇ」
小鳥「先代……前社長であり、会長の高木純一朗さんですね?」
高木「あぁ。小鳥君は、彼と仕事をしていた時期もあったから分かるだろう」
高木「社長と事務員の二人だけ……
プロデューサーはおろか、所属アイドルすらまともに確保できない時期が長い間続いた」
高木「当然、会社を満足に維持していけるような状態ではなかったワケだ」
高木「そこで、先代は魔が差してしまった……一時の気の迷いで、ギャンブルに目をつけたのだ」
高木「しかし、競馬やパチスロといった類いではない。
あてどなく彷徨い、歩いた末にたどり着いたのは、米軍基地」
高木「そこで彼は、一人の中学生に出会った」
――――――
――――
『すごいな。キミには、どのチームが勝つのかが分かるのかい?』
『ケケケ、たりめーだ。俺が賭けた方のチームを指揮してんだからな』
『なんと! こ、こんな子供が、あのような屈強な男達を手駒にするとは……』
『アメフトは力だけじゃねぇ。ところでオッサン、何の用だ』
『こっちはヒマじゃねぇんだ。冷やかしならさっさと消えやがれ』
『頼む、少年!』ガバッ
『このしがない中年男に、人生を一発逆転するための秘策を教えてほしい』
『あぁ? 何だそりゃ、新手のギャグか』
『アイドル事務所を立ち上げているのだが、何ともかんともいかなくてねぇ』
『そりゃ大変だな。そこのアタッシュケースにあるヤツ、半分やるからどっか行け』
『えっ!? た、大金じゃないか、さすがに受け取れないよ!』
『目的も無く集めただけだ。次に掛ける分だけ手元に残して、後はやるってんだよ』
『……金や賭け事がどうでもいいのなら、なぜアメフトにこだわるんだ?』
『オッサンは何でアイドルにこだわるんだよ』
『それは、アイドルが好きだからさ』
『分かってんなら聞くんじゃねぇ』
『ムゥ……なるほどな』
『で、その大好きなアイドルが集まらねぇって話か』
『そうなんだよ。有望そうな子を探しているんだけど、なかなか見つからなくてねぇ』
『ケケケケ、才能のねぇカスは要らねぇってか?』
『そ、そうは言ってない!
だが……トップアイドルにするだけの実力があるかと言われると、正直……』
ザッ
『アメフトは個性のスポーツだ』
『えっ?』
『力だけじゃねぇ、つったろ。
それぞれに、自分の得意な武器を持ったヤツらが集まって闘う』
『そこで大事になるのは武器の強さじゃねぇ。闘い方だ』
『闘い方……?』
『あるモンで最強の闘い方を探ってくんだよ』
『無いモンねだりばっかしてる雑魚には、一生理解できねぇだろうけどな』
『…………ッ!!』
『俺から言えるのはそれだけだ』
『人生逆転のラッキーパンチすら狙って出せねぇオッサンじゃ、どうせ何やってもムダだ。
その金で、せいぜい消費者金融の懐を潤してくるんだな』ケケケ
『総合力ではなく、個性……個性を活かした闘い方、か……』
『……ヒル魔君、と言ったね』
『ありがとう。とても良い勉強になったよ』
『そして約束させてほしい』
『もし、私の事務所が僥倖に恵まれ、ある程度の繁栄を得ている時に、
キミが困っているような事があれば、その時は……』
――――
――――――
高木「その時は、どうか力にならせてほしい……というワケだ」
高木「大金だけでなく、ヒル魔君に説いてもらったアメフト論は、
先代、引いては我が765プロの理念にも大いに影響を与えたという訳だね」
小鳥「先代とヒル魔君との間に、そんな事が……」
ヒル魔「その先代はどっか行方をくらましてるみてーだけどな。
よほど後ろ暗い事してんのか、この事務所」
高木「そ、そういうワケじゃないのだがね」
伊織「つまり……」ズイッ
律子「あ、伊織」
伊織「私が王城とつながりのある財閥の令嬢ってだけじゃなく、
765プロの関係者だって事も加味した上で、私を狙ったってワケ?」
ヒル魔「社長に話がいけば、断られるはずがねぇからな」
伊織「どこまで周到なのかしら……アンタ、ロクな死に方しないわよ」
P「と、とにかくだ!」
P「確かに、先代社長はあぶく銭を受け取っていたのかも知れないが、
765プロはヒル魔君に弱みを握られているというより、恩がある、という事だな!?」
小鳥「あっ、恩! そうですね、恩です! プロデューサーさん上手い!」イヨッ!
律子「ヒル魔君からもらった資本金が無ければ、今の私達もこうしていられなかった……
あーあ、なんかショックだわ」
律子「でも、社長の仰った通り……
悔しいけれど、恩人である彼のやる事にケチを付ける筋合いは、私達には無さそうね」
高木「そういう事だ」
響「う~……あのメチャクチャなレッスンが正当化されるのはイヤだぞ」
真美「真美、まだ受けたこと無いんだよねー。そんなにヤバイカンジなんだ?」
あずさ「うーん、一言で言うと、人間のやる事ではないわね~」
春香「あずささん、結構辛辣っ!?」
雪歩(あれ……何か、おかしいような……?)
ヒル魔「おら、分かったんならさっさとレッスン行くぞ糞アイドル共」ジャキキッ
春香「ひえぇぇっ!? そ、そういう危ないの持ち出さないでよぉ」
雪歩(お金をもらっていた事への恩義につけ込むのなら、
それを引き合いに、ヒル魔君は765プロに直接要求をすれば良いわけで……)
雪歩(わざわざヒル魔君が私達を……ていうか私を指導する必要、あるのかな……?)
ヒル魔「何ボーッとしてやがる。お前もさっさと来い」
雪歩(765プロは、先代が受けた恩義を無視できない。
ストレートに、ヒル魔君が他校の情報収集について要求すれば、応じていたはず……)
雪歩(何で、ヒル魔君は伊織ちゃんの依頼を無視しなかったのかな?)
雪歩(これじゃあまるで、ヒル魔君が765プロに、積極的に協力してくれ……)
ヒル魔「聞いてんのか、この糞モグラ!!」ズダダダダッ!
雪歩「ひいぃぃぃぃぃっ!?」
響「やっぱりアイツ、悪魔だぞ……」
~961プロ 社長室~
黒井「年末のライブイベントで使ったデッカいスクリーンがあっただろう!
それを即刻手配しろ!」
黒井「PRも大々的に行うぞ! 報道機関各社に連絡を取れ!
週刊誌もな! あの渋澤とかいうジャーナリストも使って構わん」
黒井「ンンー!? ……いいだろう、そこは任せよう! くれぐれもぬかるなよ!」
ガチャン!
黒井「フゥ~~……」ギシッ
ミラクル伊藤「い、いやぁ~~黒井社長。お噂に聞いていた通り凄まじい働きぶりですねぇ~~」ヘコヘコ
黒井「ンー? 誰だ貴様は」
伊藤「や、ヤダなぁ黒井社長! お約束していたジャリプロの…」
黒井「あぁ、ミラクル伊藤殿か。失礼した、どうぞそちらに」
ギシッ…
伊藤「と、言うワケでですね、ウチの桜庭ちゃんを、今度のライブイベントで使っていただけないかなー」
伊藤「なんて! エヘヘ、そういう事をお願いできればなーなんて、思った次第でしてエヘヘ」ニコニコ
黒井「フム……」
黒井「桜庭春人……アイドルランクC。ビジュアル特化のスポーツアイドルか」
黒井「ボーカルは、目も当てられないような実力だと聞いているが?」
伊藤「ウグッ……!」
黒井「雑誌の販売イベントでミニライブを行ったら、あまりの不出来に気絶したファンもいたようだな」
伊藤(この男……どこまで情報を仕入れてやがる……!)ギリッ…!
伊藤「や、ヤダなぁ黒井社長。
何もジュピターの方々と競いたいだなんて思っていませんよぉ~」ニコニコ
伊藤「むしろ、引き立て役になれればと思っているんです、えぇ」
黒井「引き立て役?」
伊藤「そうですそうです。ホラ、そういうのがいた方が、盛り上がるでしょ? ねっ?」
伊藤「ジュピターさんや961プロさんのお邪魔にはなりませんから、ねっ?」キラーン
黒井「…………」ギシッ
伊藤(……ちょっと、強引過ぎたかな?)ゴクリ…
黒井「……了解した。その桜庭春人も、イベントの出演者に加えよう」
伊藤「! ……ほ、本当ですか!? やった、ありがとうございます!!」ガタッ
黒井「だが、あくまで前座だ」
伊藤「えぇーそりゃもう! ウチの桜庭ちゃんを使っていただけるんなら全然…!」
黒井「よって、物販も桜庭春人のためのスペースは確保できない。それでよろしいか?」
伊藤「……へっ?」
黒井「大方、ライブイベントへの出演はおまけで、
本命はイベントに乗じた桜庭春人のグッズ販売による収益が目的だろう」
黒井「担当アイドルを引き立て役などと卑下するような輩に、かける情など無い。
自分のアイドルが一番であると、譲らぬ心すら無いのなら、ジャリプロは765プロ以下だ」
伊藤「な、んと……!?」
黒井「望み通り、せいぜい引き立て役にはなってもらおう」
黒井「蜜に群がるアリはアリらしく、せっせとおこぼれを掻き集めてみせることだな」
ブロロロロ…
伊藤「ぐぬぬ……あ、の、黒井とかいうキザ野郎~~!!」
伊藤「こっちが好きでヘコヘコしてると思ったか!
下手に出てりゃ調子に乗っちゃって、くっそぉ~~……!!」
伊藤「ふむ……まぁいい……」ポパピプペ♪
伊藤「……」プルルルルル…
伊藤「……あぁ、桜庭ちゃん?」
伊藤「例の話ね、あれオッケーになったよ。うん、チョロいチョロい♪」
伊藤「それでねー、ちょぉ~っと相談、したいんだけどねぇ?」
伊藤「桜庭ちゃん、やっぱりライブイベントで勝ちたいじゃない?」
伊藤「桜庭ちゃんの勝利に協力してくれる人、もちろん、王城にいたりするよねー? なんて」
~王城高校 更衣室~
桜庭「い、いい加減にしてくださいっ!!」ガタッ!
高見「!?」
進「…………」
桜庭「そうまでして俺は、そんなイベントなんか……!!」
桜庭「それに、ウチにはそんなマネに荷担するような人はいません!
もう、勘弁してくださいよっ!!」
ピッ!
大田原「お、なんだなんだ桜庭どうした、腹減ってるのか?」ズイッ
高見「空気読め、大田原」
高見「ジャリプロからか? どんな電話だ、桜庭」
桜庭「……くだらない話ですよ」
桜庭「俺がライブイベントで勝つために、
他のアイドルの妨害をしてくれる人が、王城にいないかって言うんです」
桜庭「タックル、すごいでしょって……アメフトを何だと思ってやがる……!」ギリッ
高見「なるほど……激昂するのも無理は無いな」
大田原「ばっはっは! ゲッコーするのは構わんが、イベントに勝つってのはケッコーじゃないか?」
桜庭「大田原さん……?」
高見(うわ、すっごいウンザリした顔)
大田原「勝てるならそれで良いじゃないか」
桜庭「えっ?」
大田原「よく分からんが、桜庭が勝てるというなら、俺達は何でも協力するぞ」
桜庭「ば、バカ言わないでください!」
桜庭「あ、いやっ! 大田原さんがバカって意味じゃなくて……いや、えぇと…!」
高見「桜庭、言葉を選ばなくていい」
桜庭「俺がそんな勝ち方を望んでないってことです!
そんなのに協力してもらう必要なんてありません!」
大田原「ばっはっは! そうかそうか、じゃあヤメだ」
高見「だが、大田原は一つ良い事を言った」
大田原「ん?」
高見「勝利に飢える心は、いつだって俺達アメリカンフットボウラーに無くてはならない」
高見「勝つための手段を選ばない、というのは、一つの正義でもある」
高見「進、お前はどう思う?」
進「…………」
進「……自分は、勝つための手段を多く見出せるほど、器用な人間ではありません」スッ
ガッシャン!
進「強くなる……自分の手段は、それだけです」
ガション…! ガション…!
桜庭「進……」
高見(ここ、更衣室だぞ、進……)
大田原「ばっはっは! 進も俺に負けず劣らずバカだな!」
大田原「おっと屁」ボフッ
高見「強くなる、か……」
高見(それを有言実行できる人間が、どれだけいるか……)
高見(俺達凡人は、醜く愚かしい手段にすがる可能性を常に否定する事ができない)
高見(フッ……ヒル魔妖一、か)
高見(彼なら、四の五の言わずに実行するだろう。それが目的であるなら)
高見(もっとも、あの男がアイドルのイベントに執心する姿など、想像もつかないが……)
~レッスンスタジオ~
雪歩「ひいぃぃぃぃっ!!」ダダダダッ!
ヒル魔「泣き顔しかできねーのか、糞モグラ!!」ズダダダダダッ!
伊織「ちょっとアンタ、いい加減にしなさいよ! こんな非常識…!」
ポンッ
伊織「ん?」クルッ
やよ「…………」
やよ「うっうー(低音)」ピョコッ
伊織「い、えぇぇぇっ!? 何この可愛い生き物ー!?」がっしぃ
真美「あぁっ! いおりん危ないっ!!」
伊織「へっ?」
やよ「うっうー(低音)」ジャキッ…
やよ「」どぱぱぱぱぱぱっ!
伊織「ぎゃあああーっ!! いぃだだだだだっ!!」
ヒル魔「この『死の行軍』に参加するヤツらが増えてきたからな。
俺の代わりになるヤツを数体用意した」
ヒル魔「キャラクターデザインは泥門の漫画研究会、
中身の機械はロボット工学部の連中が、快く徹夜で作ってくれたぜ」ケケケケ
真「絶対快くないだろ、それ……」
春香「あ、でも見てっ! 私や千早ちゃんみたいなのもあるよ、可愛い!」
ちひゃー「くー」ジャキンッ
はるかさん「かっかー」ズオオォォ…
千早「手にしている物騒な物さえ無ければね」
あふぅ「ナノ、ナノー!」どぱぱぱぱぱぱっ!
美希「うわっ、と。危ないなぁ、えいっ」ヒョイッ タタン タンッ!
ドローン「」ヴィーン
美希「アハッ☆ ドローンも、よく見てみると可愛いの!」ニコッ
美希「ひぁうぃご♪ ひぁうぃご きみーとー♪」タンッ タンッ
亜美「うあうあー! ミキミキすごすぎっしょー」
あずさ「ほとんど完璧にこなしてるわね~」
響「まだこのレッスンに参加して日が浅いのに、本当器用だなー美希は」
ヒル魔「ほーぅ……」
貴音「蛭魔妖一」
ヒル魔「なんだ糞銀髪」
貴音「ライブイベント本番での、765プロの代表は、美希に任せてはいかがでしょう?」
雪歩(うん……私よりも、美希ちゃんの方がずっと……)
ヒル魔「選抜に変更はねぇ」
雪歩「えっ!?」
ヒル魔「テメェだって糞モグラの方が適任だと思ってんだろうが」
貴音「ふふっ、見抜かれていましたか」
雪歩「な、何でですかっ! 私なんて、未だにこの特訓についていけてないダメダメで…!」
美希「雪歩は……」タン タンッ
雪歩「美希ちゃん?」
美希「……いよっと。全然ダメダメじゃ、ないの、っと!」タタンッ タンッ
あふぅ「ナノー……」グデー
美希「アハッ☆ いっぱい撃って疲れちゃったみたい」ナデナデ
美希「例えば、春香だったら、嫉妬しちゃうって思うな」
春香「うぇっ!?」ドキッ
美希「ううん、竜宮小町でもそう。真クンでも、響も貴音も、真美もやよいも……」
美希「千早さんになったとしても、何でミキじゃないの! って、怒っちゃう」
美希「でも、雪歩ならナットクできるの」
雪歩「それは、何で……!」
美希「雪歩は一番強いの」
雪歩「!?」
美希「一番強いコが代表になるのは、全然ヘンじゃないって思うな」
美希「ねっ、ヒルの人?」ニコッ
ヒル魔「…………」
響(あっ、ちょっとイラッとしてる)
雪歩「や、やめてよ……」
伊織「……雪歩?」
雪歩「私なんて、ダンスもボーカルもできない、泣き顔しかできない……!」
ヴィーン…
雪歩「そんな私が、皆の代表になって出場しても、惨めになるだけだよ!」
真「雪歩っ! 弱気になっちゃダメだ!」
ヴィーン…!
雪歩「私なんかに、期待しないで! 私なんか……!」
雪歩「私なんかっ!!」ジャキッ!
春香「落ち着いて雪歩! スタジオの床は掘っちゃダメ!!」
響「雪歩、スコップをしまうさー!!」
雪歩「放してっ!!」グァッ!
ドローン「」ヴィーン…!
ヒル魔「!!」
ガンッ!
ビシッ あずさ「いっ……!!」
亜美「あ、あずさお姉ちゃんっ!!」
雪歩「!?」
あずさ「あいたた、たぁ……」
ポタッ…
千早「スコップで弾いたドローンの破片が、あずささんの顔に……」
雪歩「あ、あずささ……!」
あずさ「う~ん、ちょっと、お手洗いに行ってこようかしら~……」ポタポタ…
春香「大丈夫ですか、あずささん!?」
伊織「管理人室に救急箱があったはずよ。私取ってくるわ」
貴音「プロデューサーにも連絡をしなくては」
雪歩「……ッ!!」ダッ!
真「あ、雪歩っ!?」
ガチャッ! バタンッ!
美希「…………」
あずさ「私が、ボーッとしてたから……傷つけてしまったわね、きっと」
伊織「アンタは何も悪くないわ」
真美「ゆきぴょん……どうしよう、真美達、プレッシャーかけちゃったのかなぁ……」
響「心配だぞ……」
亜美「……? あ、あれ?」キョロキョロ
やよい「亜美、どうしたの?」
亜美「ヒルヒルがいない……」
春香「ヒル魔君? あれ、本当だいない……」
千早「いつの間に、いなくなったのかしら」
~泥門高校~
ガショーン…! ガショーン…!
ムサシ「…………」
スッ
まもり「ムサシ君」
ムサシ「……精の出る事だな」
まもり「大会前だもの」
ムサシ「あんな連中、よくまとめ上げたもんだ」
ムサシ「俺が知っているヒル魔という男は、ここまで気配りができるヤツじゃなかった」
まもり「気配り、ねぇ……」
ちっちゃん「めっ、めっ! もー!」どぱぱぱぱぱっ!
こあみ「とかー」どぱぱぱぱぱっ!
こまみ「ちー」どぱぱぱぱぱっ!
モン太「ムキャー!! なんか増えてるぞオイッ!」
夏彦「ん? この弾丸、ほのかに焼き肉の匂いが……」クンクン
ケルベロス「ヘッヘッヘッ……」シーカッシャ シーカッシャ ←ナイフとフォークを研ぐ音
ケルベロス「ガァァッ!!」ドドドッ!
夏彦「アリエナイィィィィイイッ!!」ドドドドド…!
まもり「…………」
ムサシ「……まぁ、言い方は正しくねぇかも知れんが」
ムサシ「実際、アイドルの面倒見てんだろ?」
まもり「えっ? ……あ、うん。765プロの、萩原雪歩ちゃんっていう子」
ムサシ「知らねぇな」
ムサシ「だが、アイツが事を起こすからには、何か目的があるはずだ」
まもり「何でも、王城高校の機密情報を見返りにもらう事を、765プロと約束してるんだって」
ムサシ「それだけか?」
まもり「えっ?」
ムサシ「それだけのために、アイツがそんな回りくどい方法を取るとはとても思えねぇな」
まもり「……だとしたら、どうしてヒル魔君は、765プロを?」
ムサシ「知らん」
ムサシ「まぁ、俺が心配する筋合いのモンでもねぇ」スッ
まもり「あっ、どこ行くの?」
ムサシ「仕事だ」
まもり「アメフト部っ!」
ムサシ「……」ピタッ
まもり「皆……待ってるからね」
ムサシ「…………知らんな」ザッ
スタスタ…
まもり「…………」
<シーラヌーガー ホトケ ホォーット-ケナイ クーチビル ポーカーフェーーイス♪
まもり「あっ! とと……誰だろう?」ピッ!
まもり「ヒル魔君から……?」
鈴音「……あ、いたっ。まも姉ー、給水手伝ってー!」
まもり「…………」
鈴音「? まも姉どうしたの?」ヒョコッ
まもり「全員でモグラを探せ……?」
鈴音「?」キョトン
~公園~
雪歩「うぅ……うぅぅぅ……」ポロポロ…
雪歩「あずささん……う、あぁぁ……!」ボロボロ…
雪歩「私、なんてダメダメなんだろう…………う、うえぇぇ……!」
――やーい、よわむしゆきほー!
雪歩「……!」ピクッ
雪歩「ふ、ふぇぇ……」
雪歩「ヒック…………ヒック……」
ブォン ブォン…!
雪歩「……?」
ドッドッドッドッドッ…!
黒木「そっち、いたか?」
戸叶「いや、いねぇ」
十文字「もっかい回るぞ。下手すりゃ穴掘って埋まってる可能性もある」
黒木「うへぇ。そんなん無理ゲーじゃねぇか……」
雪歩(あの人達、泥門高校の……)
戸叶「まぁ、雪歩ちゃんに会うためだ、しゃーねぇな。
ヒル魔の野郎の命令なのは気にくわねぇが」
雪歩(……!)
十文字「関係ねぇ。俺達は信じて従うだけだ」
十文字「アイツの言うとおり、あの萩原雪歩が俺達のキーパーソンになるってんならな」
雪歩(!? えっ……)
黒木「お前の口から「信じる」なんつー言葉が出るたぁな」ニヤニヤ
戸叶「カッカッカ。素直に雪歩ちゃんに会いてぇって言えねぇだけだろ」
十文字「るっせぇな、さっさと行くぞ」グイッ
ブロロロロロロ…!
雪歩(い、今、何て……?)
雪歩(私が、キーパーソン……泥門高校の人達の……!?)
雪歩(ど、どういう事なん……)ソォーッ…
桜庭「えっ?」
雪歩「へ?」
雪歩「ひ、ひぃぃぃぃっ!?」ビクゥッ!
桜庭「うわあぁっ!? き、君は765プロの!?」
雪歩「な、何でジャリプロの桜庭春人さんがここにっ!? ご、ごめんなさいごめんなさい!!」ザックザック!
桜庭「お、落ち着いて雪歩ちゃん! ていうかどうやって掘ってんの遊具の中だよ!?」
雪歩「………………」
桜庭「そんな事が、あったんだ……」
雪歩「私、あずささんにも、ヒル魔君にも……皆にも、迷惑かけてしまって……」
雪歩「こんな私が、ライブイベントに出る資格なんて、ありません……」
桜庭「…………」
雪歩「……小さい頃」
桜庭「?」
雪歩「私、近所の子達に、いつもいじめられてて……」
雪歩「よわむしゆきほー、だなんて……」
雪歩「時々、助けてくれる子もいたけど……その子にも、いじめられたり……えへへ」
桜庭「アイドルの世界に入ったのは、そんな自分を変えたかったからかい?」
雪歩「ううん」フルフル
雪歩「きっかけは、友達が勝手に応募しちゃったオーディションでした」
雪歩「それが、何かの拍子で受かっちゃって……でも」
雪歩「考えようによっては、桜庭さんの言ったように、チャンスかもって」
雪歩「ダメダメな自分を変えなきゃって、ずっと……」
雪歩「でも、ダメな人は、きっと……何をやっても、ダメなんだなぁって……」
桜庭「雪歩ちゃん……」
桜庭「俺が所属しているアメフトチームには、高校アメフト史上類を見ない天才がいる」
雪歩「えっ……?」
桜庭「持って生まれた才能が、全然違うんだ」
桜庭「おまけに、誰よりも努力家でさ……そんなの、差が縮まりっこないって思うでしょ?」
桜庭「トップクラスの世界には、そんな選手がゴロゴロいるんだろうな」
桜庭「どうあがいたって、俺はそいつらの足元にも及ばない……」
桜庭「もしそうだとしたら、俺は夢を見てはいけないのかな?」
雪歩「!? えっ……」
桜庭「最後は才能の壁が立ちはだかるのなら、“ダメダメ”な俺の頑張りは、無意味なのかな」
雪歩「そ、それは……そんな事ありません!」
雪歩「桜庭さんは、私なんかと違って、ちゃんと……!」
桜庭「…………」
雪歩「ッ…………いえ……」
雪歩「すみません……知りもしないのに、無責任でした……」
桜庭「構わないよ……俺も、ついこの間アイドルを辞めた人間だ」
雪歩「……えっ!?」
桜庭「だが、一つだけ言わせてほしい」
桜庭「君はきっと、怖がっているだけなんだ」
桜庭「自分の夢を口にして、裏切られるのが怖いだけなんじゃないかな、って」
桜庭「もしそうだとしたら……どうか、その考えを改めてほしい」
桜庭「無責任な言い方だけど、君の頑張りを笑う人なんて、どこにもいない。
どうか、俺には追えなかった、アイドルとしての夢の続きを見せてくれ」
桜庭「俺みたいな凡人に、これからも夢を与えてやってくれないか」
雪歩「……桜庭さん」
桜庭「それとも、簡単に諦められるようなものだったのか? 君の夢は」
雪歩「……違います」フルフル
雪歩「諦めたくなんか、ないんです……」
雪歩「きっかけは、そうじゃなかったかも知れないけど、自分を、変えたい……」
雪歩「簡単に諦められるような夢を、追っていたなんて……」
雪歩「プロデューサーや、皆を付き合わせていたなんて、思いたくなくて、だから……」
雪歩「諦めたくありません」
雪歩「どこまでも私、ダメダメだけど……」
雪歩「強くなりたいと願った自分を、裏切りたくないんです」
桜庭「……ありがとう。すごく、励みになったよ」スクッ
雪歩「え、い、いえっ! 私の方こそ、全部、勇気づけられたというか……」
桜庭「雪歩ちゃんが宣伝してる、『萩原印の焼肉のタレ』、俺好きなんだ」ニコッ
桜庭「これからも応援してるよ、雪歩ちゃん」
雪歩「は、はいっ」
雪歩「ありがとうございましたぁ!」ペコッ
桜庭「……」スッ
テクテク…
雪歩「…………」
雪歩「皆、心配してくれてるかなぁ……」
雪歩「連絡しなくちゃ、えぇと、まずは……ひ、ヒル魔君かなぁ、やっぱ」
ズドドドドド…!
雪歩「ひっ!?」ビクッ
キキィーッ!
セナ「はぁ、はぁ……!」キョロキョロ
雪歩(ま、また誰か来たみたい……い、一体誰が……)ソォー…
セナ「公園……えぇと、雪歩さんが、気弱な子だとしたら……」
セナ「例えば、僕だったらこういう遊具の影とかに隠れたり、なぁんて……」ソロォ…
セナ「えっ」
雪歩「あっ」
雪歩「ひ、ひぃぃぃぃっ!?」ビクゥッ!
セナ「ひぃぃぃぃっ!? ご、ごめんなさいごめんなさい!!」ペコペコッ!
雪歩「い、いえぇぇ私こそごめんなさい!! あの、び、ビックリしすぎて……!!」アタフタ…!
セナ「な、なるほど……それは、大変でしたね……」
雪歩「泥門の人達にも迷惑をかけちゃって、すみません」ペコッ
セナ「いえいえっ! ほら、困った時はお互い様というか、悪魔みたいな人に困らされてる者同士といいますか」
雪歩「ふふっ……ありがとうございます。えぇと…」
セナ「せ、セナです。小早川瀬那、って言います」
雪歩「セナ君……ありがとう、セナ君」
タタタ…!
亜美「あ、いたいた→! 皆ー、ゆきぴょんいたよ→!」
雪歩「!?」
セナ「う、わわっ……!」
あずさ「あらあら~、泥門の生徒さんも一緒だわ~」
美希「雪歩ー!! 雪歩はまったく逃げ足速いの!」
雪歩「あずささん、美希ちゃんっ! 皆っ!!」
セナ(あ、完全に場違いになっちゃう気がする)
雪歩「あ、あずささん……」
雪歩「ごめんなさい! 私、あずささんに謝りもしないで、飛び出して……」
あずさ「ううん」フリフリ
あずさ「いいのよ、大丈夫。ビックリしちゃうのも、無理ないわよね」
あずさ「ケガの事なら平気よ。お医者さんも、一週間もすれば跡も残らず治るでしょう、って」
雪歩「あぁ……良かった、本当に……!」ジワァ…
あずさ「これからは、ドローンの近くでスコップを振り回すのは、止めましょうね?」ニコッ
雪歩「はい……はいっ!」ポロポロ…
律子「ていうかスコップ振り回すのを止めなさいよ、そもそも」
雪歩「それで、その……」グスッ
雪歩「とても、厚かましいお願いなんですけど、私……やっぱり、ライブに……」
伊織「これは、私の推測なんだけどね、雪歩」
雪歩「えっ?」
伊織「あの日、ヒル魔は私をさらおうとしていたのではなくて……」
伊織「ひょっとして、最初から雪歩を狙っていたんじゃないかしら」
雪歩「えっ!?」
――アァッ!? 何だとテメェ、指示された写真通りの人間だろうが!!
――知らねぇなァ。
雪歩「ヒル魔君が、最初から私をさらう気だった……?」
千早「なぜ、水瀬さんはそう思うの?」
伊織「今のご時勢、コンプライアンスとか守秘義務とかうるさいでしょ?」
伊織「筆頭出資者が相手だからといって、組織の機密を外部に漏らすような事を行うのはあり得ないの。
情報管理が疎かだと思われたら、信用もガタ落ちだものね」
伊織「それはアイツも分かりきっていたはずよ」
セナ(だからヒル魔さん、隠しカメラとか、ほとんど非合法的な方法で強引に情報収集してるんだな……)
伊織「つまり、コネを利用して王城大附属高校の情報をある種正面から手に入れろというアイツの要求は、
周到なアイツの性格から考えても、納得ができないのよ」
響「うえぇっ!? どういう事だ、ワケが分からないぞー!」ワシャワシャ
真「伊織が目的じゃない、というのはともかく……なぜ、雪歩が目的だったんだろう?」
やよい「うぅー、ヒル魔さんは、ただ雪歩さんをプロデュースしたかった、ってことですかー?」
律子「とても信じられないけど……今ある情報だけでは、そういう事になりそうね」
セナ「ひ、ヒル魔さんが、雪歩さんのプロデュースをしたがっていた……!?」
『ケケケケ、アイドルランクアップだー! ファンもたくさんだー!』
『やったな雪歩! I.A.大賞受賞に向けて突っ走るぜ、Ya―――Ha――――!!』
『はいっ! これからもご指導、よろしくお願いしますぅ!!』
セナ「全然想像できない……」
P「なんか同じ画が浮かんだ……」
伊織「まぁ、今言った守秘義務云々っていうのは、新堂からの受け売りだけどね。
知っていたら、私もあの場で言い返せていたんだけど」
セナ「言い返したとして、まともに取り合うような人ではないですけどね……」
真「それは言えてる」
伊織「釈然としないけど……
結局はアイツも隠れアイドルファンだった、って考えるしか無いんじゃない?」
伊織「そうでもなきゃ、説明つかないでしょう。こんな回りくどい行動原理なんて」
春香「確かに……そうすると、ヒル魔君は雪歩のファンだったんだね」
雪歩「ううん、違うよ」フルフル
春香「へっ?」
雪歩「さっき、泥門高校の人達が、話してたの」
雪歩「私が、泥門高校のキーパーソンなんだって、ヒル魔君が言ってたって……」
雪歩「バイクに乗った、ちょっと怖い三人組の人達」
セナ「十文字君達だ……」
響「セナは、何か聞いてなかったのかー?」
セナ「え、えぇと……たぶん、僕がいない時に話してたのかなーって」
雪歩「もしそうなら、ヒル魔君はやっぱり、泥門高校アメフト部が第一なんだと思う」
雪歩「でも、どうして私が、キーパーソンなのかなって……」
美希「それって、そんなにじゅーよーなの?」
雪歩「えっ……」
美希「ミキ的には、別にそんなの分かんなくたって、どうでもいいって思うな」
美希「だって、雪歩がパパーッて出てジュピターに勝てばいい、ってのは変わらないでしょ?」
雪歩「だ、だから! どうして美希ちゃんは、私の事を強いって言ってくれるの?」
美希「そんなの決まってるよ」
美希「雪歩が一番、一生懸命な頑張り屋さんだからなの! アハッ☆」
雪歩「美希ちゃん……」
貴音「えぇ、美希の言う通りです」ニコッ
貴音「雪歩は、蛭魔妖一の『です・まぁち』に、ただの一度も欠席をした事がありません」
やよい「それどころか、終わった後に自主練だってしてて、すごいですー!!」
亜美「コッソリ付いてったら、公園で一人で特訓しててチョ→ビビったよねー、真美」
真美「うんうん! ゆきぴょんのスタミナは化け物か!って思ったよね。
真美達、ただでさえ足がボーのように辛かったのに」
雪歩「み、見てたのぉ!?」ガーン
真「雪歩、夜遅くになるのは、家の人がうるさいんじゃ……」
雪歩「一応、お弟子さんの若頭が味方して、コッソリ裏口から逃がしてくれてるから」
雪歩「セキュリティカメラとか錠前とかも、全部壊して、そこからそぉっと……」
セナ(お、お弟子さん……?)
伊織「まっ! 本来であればこの伊織ちゃん率いる竜宮小町が出てやりたい所だけど」
伊織「あんなに常識外れの努力をしておいて代表になれない子がいるんじゃ、理不尽にもほどがあるもの」
伊織「だから、今回ばかりは努力賞として、アンタに譲ってあげるわ。
その代わり、ちゃんと961プロをやっつけなさいよね!」
雪歩「ううぅぅ、プレッシャーかけないでぇ……」
ザッ…
セナ「ん?」
ヒル魔「見つけたんならさっさと連絡しろ、この糞チビ!!」ズダダダダッ!
セナ「ひぃぃっ!? ひ、ヒル魔さん!!」
雪歩「ひぃぃぃぃぃっ!!」ビクッ
伊織「ヒル魔、雪歩ならもう心配いらないわよ」
ヒル魔「あん? そうか」
伊織「何よ、反応薄いわね」
ヒル魔「テメェのデコほどじゃねぇよ」
伊織「でこっ!? ……!!」ムッキィ!
真「伊織、ストップ! 落ち着いて、どうどう!」がっし
ヒル魔「おい、雪歩」
雪歩「は、はいっ?」ピンッ
雪歩(初めて名前で呼ばれた気がする……)
ヒル魔「あの糞ブラックはバカみてぇにでけぇ会場をおさえた上に、あらゆる業界に広告を投げてやがる」
ヒル魔「当日は、ゴミカスみてぇに観客がウジャウジャ集まるだろう。
お前とジュピターのライブ対決を目にするためにな」
セナ「ちょ、ちょっとヒル魔さん、これ以上プレッシャーは……!」
貴音「いいえ、良いのです、小早川瀬那」
セナ「あ、はいすみません」ササッ
雪歩「…………」
ヒル魔「いいか、一度しか聞かねぇ」
ヒル魔「たとえどんな手を使ってでも、お前は勝ちてぇと思うか?」
雪歩「……ジュピターさんに、勝ちたいかどうかは、分からないんです」
雪歩「でも……」
雪歩「私は、自分に勝ちたい」
雪歩「これ以上、ダメダメなままはイヤだから……」
雪歩「ライブで勝てるか分からなくても、それに出て何かが変われるなら……」
雪歩「皆が信じて、送り出してくれたステージの上で、その何かを掴み取って!」
雪歩「強い私になりたいんですぅ!」
ヒル魔「……ケケケ、良く言った」
ヒル魔「勝てなくても精一杯頑張りたい、とかいう生ヌルい返事しやがったらどうしてやろうかと思ったぜ」
雪歩「ヒル魔君……」
ヒル魔「いいか、『死の行軍』も後半戦だ」
ヒル魔「これまで以上に死にたくなるほどの辛さでも、楽に死ねるとは思うんじゃねぇぞ」
ヒル魔「お前が望む、まさに自分との戦いだ。覚悟しやがれ」
雪歩「は、はいっ!」
セナ(うーん、結局、ヒル魔さんがプロデュースに乗り気だった理由は分からずじまいかぁ)
タタタ…
まもり「セナ、ヒル魔君!」
セナ「あ、まもり姉ちゃん!」
ヒル魔「遅かったな風紀委員、シュークリームでも探してたか?」
まもり「それはもう止めて! って……」
まもり「うわぁ……765プロのアイドルさん、勢揃いなのね」
P(この子、雪歩に似てるな、髪型とか……ちょっとデカくなった雪歩というか)
P「と、えぇと、今日はもう遅いし、泥門高校の方々にもご迷惑だから、そろそろ皆解散しよう」
一同「えぇー?」
P「えぇーじゃない。雪歩の親御さんも、そろそろ心配する時間だろう?
いくらお弟子さんが協力してくれるとはいえ、年頃の女の子達が夜中にウロウロするのは……」
亜美「あ、じゃあさ!」ハイッ!
亜美「皆でゆきぴょんの家に行けばいいんだYO!」
律子「はぁっ!?」
亜美「そうすれば、ゆきぴょんのオヤゴさんも心配しなくて済むっしょ?」
真美「さっすが亜美! 何とも大胆かつ欧米的、チョ→グッドアイデアだYO!」
P「ば、バカ言うな! それじゃますます雪歩の家にご迷惑……!」
雪歩「もしもし」
雪歩「あ、大丈夫って言ってますぅ」
セナ「話早っ!?」
雪歩「泥門高校の人達も、よろしければお越しください。
お世話になってる皆さんに、おもてなしをしたいってお父さんが」
まもり「そ、それは私達、いいですよそんな! あまりに図々しい…」
ヒル魔「今アメフト部のヤツら全員に「来い」ってメール送ったぞ」
まもり「ヒル魔君っ!」
セナ「すごい、住所と写真付きで……マメだなぁ」
まもり(……?)ピクッ
まもり(どうしてヒル魔君、雪歩ちゃんの家の住所を……?)
~どこかの裏山~
モン太「ムキャー! 何でだ、全っ然見つかんねぇっ!!」
夏彦「アハーハー! 僕はもう3匹も見つけちゃったよ!」
ピローン♪
モン太「おっ?」
夏彦「どうしたんだい、モン太君?」
モン太「ヒル魔先輩のメールだ。全員モグラの家に来い、って」
夏彦「? どういう事だい? 今まさに、僕達はモグラを家ごと探している最中なのに」
モン太「……あ、住所も送られてきた」
夏彦「へぇー、最近のモグラはすごい豪邸に住んでるんだねぇ、って……」
モン太・夏彦「モグラじゃないっ!!」ガガーン!
~雪歩の家~
テクテク…
P「こ、これが……」
亜美「ゆきぴょんの家かぁ」
ズゥーーーン…
律子「一度、親御さんとの面談で来ましたが、やはり大きいですね……」
雪歩「この時間はもう、正門は空いてないので、裏口から入りますね。
どうぞ、こっちですぅ」
テクテク…
セナ「う、裏口までがまた長いですね……」
真「もう少ししたら見えると思ったけど」
雪歩「……あっ」ピタッ
まもり「…………あれは……!」
トンテン カン…
ヒル魔「何してやがる、糞ジジイ」
ムサシ「……ん? お前らこそ、何だ皆して」
雪歩「裏口……直して、るんですか……?」
ムサシ「ウチに注文があった」
ムサシ「裏口の錠前がぶっ壊されちまってるから、建て付け直して、新しいカメラも設置してくれってな」
ムサシ「夜遅くにココから出入りする奴がいないよう、造りもシステムも強固なものにしてほしいとよ」
雪歩「そ、そんな……!」
響「そ、そんな事しちゃったら、雪歩が夜遅くまで特訓できなくなっちゃうぞ!」
律子「でも、一人娘を預かる親の立場としては、容認しきれないのも無理は無いわよね……」
P「うーん……レッスンメニューの方を検討し直すか、ヒル魔君。
何も『死の行軍』を夜遅くまでやる事だけが、取るべき手段って訳じゃないだろう?」
ヒル魔「それで勝てるっつーんならな」
雪歩「お、お願いですぅ! どうか……!」
ムサシ「…………」
雪歩「私が両親を説得します! だから、この裏口は直さないでください!」
ムサシ「既に受けた仕事だ。今さらちゃぶ台はひっくり返せねぇ」
雪歩「それでも! ううぅぅ……!」
雪歩「私、やっと決心できたんですぅ。
ダメダメな私でも、皆の、代表になって、ステージに立つんだって……」
雪歩「お願いです……せめて、悔いや未練は、残したくないんです……」
雪歩「トップアイドル、目指したいんです……!」
ムサシ「…………未練、か」
ヒル魔「そういやどっかにいたなァ、アメフトに未練タラタラの女々しい野郎が」
ムサシ「…………」
セナ「ムサシ、さん……?」
ヒル魔「納得いかねぇ状況に陥る悔しさを知るテメェが、同じ思いをコイツにさせんのか?」
ムサシ「……寝言を言うな。俺のは遊びじゃねぇ、仕事でやってんだ」
ムサシ「それに、もう工事は終わった」スクッ
雪歩「えっ……」
ムサシ「この時間、この裏口から出入りする事はもうできねぇ」
雪歩「う、うぅぅ……!」
ムサシ「……この裏口からは、な」
美希「へ?」キョトン
まもり「どういう、こと……?」
ムサシ「おい」
雪歩「ひっ!? は、はい……?」
ムサシ「謙遜なら誰でもできる」
雪歩「……!」
ムサシ「トップを目指すとかいう大言を吐けるのは……」
ムサシ「負けた時、その吐いた唾も、周囲からの嘲笑も、黙って啜る覚悟がある奴だけだ」
ムサシ「お前にその覚悟があるか?」
雪歩「…………」キュッ
ムサシ「…………フン」
ザッ
ムサシ「…………」
雪歩「あ、そっちは、生け垣が……」
ムサシ「………………」グッ…
バゴォッ!!!
春香「!?」
セナ「いぃぃっ!?」
真「い、生け垣を……蹴り飛ばして、粉砕した……!」
パラパラ…
雪歩「あ、あわわわ……!」
ムサシ「裏口は直した」
ムサシ「新しく出来た『勝手口』については、俺の知った事じゃない」
まもり「ムサシ君……!」
雪歩「……ありがとうございますぅ!」ペコッ
ヒル魔「ケケケ、回りくどい事しやがる」
ビィーーーーーッ!!
やよい「わあぁぁっ!? な、何ですかー?」
律子「警報っ!?」
雪歩「あ……そういえば、そういう事になるんでしたぁ」
伊織「つ、つまりヤバイって事……!?」
ダダダダ…!
黒服A「何者だっ!」
黒服B「出あえ、出あえー!!」
黒服C「ざっけんなコラァ!!」
ムサシ「まずいな……親父にどやされる」
セナ「そういうレベルを超えてませんか、コレ!?」
真美「明らかにカタギじゃないっしょー!」
まもり「ちょ、ちょっと待ってください! これには事情が…!」
ザンッ
ヒル魔「……」バチバチバチ…! つ スタンガン
まもり「ヒル魔君……ちょっと、落ち着いて……!」
黒服達「お縄につけコラァァァッ!!」グワァァ!
響「うぎゃあー!! もうダメだーー!!」
ヒル魔「……」グォ…!
ダッ!
小結「フゴッ!!」ガシィッ!
黒服達「ぬうぅっ!?」
ヒル魔「!」
まもり「こ、小結君!?」
ドッスドッス…!
栗田「こ、小結君待ってぇ~~!!」ドッスドッス…
黒服A「ぐ、ぐぬぬ……何だこのチビ!?」
黒服B「ナメるな、こっちは三人がかりだぞ!」
黒服C「こ、のっ……!」ググ…
小結「……ッ!」グググ…
がっし
黒服達「え」
栗田「追いついた」ホッ
栗田「ふんぬらばっ!!」ぶわっ!
黒服達「うわあぁぁ~~!?」すぽーん
小結「危機っ!」
伊織「え、何?」
栗田「つまり、765プロアイドルの皆さんが悪漢に襲われているとの危機的状況が……」ペラペラ
ガミガミガミ…!
雪歩父「この馬鹿者共がっ!! 雪歩の友人の方々を襲うたぁ何考えてやがるっ!!」ガミガミ…!
黒服達「す、すみません知りませんで!! どうか平に、平にぃ!!」ペコペコ!
亜美「ゆきぴょんのお父さん、めっちゃ怖いね……」
セナ「えぇと、アハハ……あの顔の傷、どこで付いたんだろ?」
雪歩父「で、だ……」ギロッ
雪歩父「お前にも話がある」
雪歩「……お父さん」
雪歩父「そう怖い顔をするな、雪歩よ」ニヤッ
雪歩父「お前も俺の娘だ。
一度言い出したら聞かねぇ頑固モンだってのは、俺が一番よく知ってる」
雪歩「えっ?」
雪歩父「裏口から黙ってコッソリ出て行くのは止めろって言ってんだ」
雪歩父「次からは、ちゃんと正門から出入りしなさい」
雪歩「お、お父さん……!」パアァッ
雪歩母「皆さん、ようこそお越しくださいました。
お夕食の準備が出来ておりますので、どうぞお入りください」ニコッ
美希「やったー! 一番乗りなのー!」ピョーイ
やよい「雪歩さんのお母さん、すっごい美人さんですー!」キラキラ
栗田「なんだ、お父さんは最初から認めていたんだね」
雪歩「はい、良かったですぅ」
ムサシ「……ん? ひょっとして俺、蹴り損か?」
まもり「ムサシ君、それよりも人の家の生け垣を勝手に壊しちゃダメでしょう」
ムサシ「そうか」
まもり「ていうか雪歩ちゃん、高校三年生で、私達より年上だからね?」
ムサシ「そうか」ミミホジ
~夜道~
鈴音「あーもう! どこ行ってんのよあのバカ兄!!」プンスコ!
雪光「モン太君も一緒にいるはずだけど……連絡した場所に行っても見つからなかったね」
鈴音「私達が行くから動かないで待ってて、って言ってんのに」
鈴音「あぁーあ! 本当なら今頃私達も萩原雪歩ちゃん家のパーティーにいたのになぁ」
鈴音「バカ兄なんてほっといて、そっちに直行すりゃ良かった」
鈴音「ごめんね雪ぴょん、こんなのに付き合わせちゃって」
雪光「い、いやぁ僕は別に……
というか、雪ぴょんは止めない? 萩原雪歩さんに失礼的な……」
鈴音「……ねぇ、ところでさ」
雪光「ん?」
鈴音「雪ぴょんはどう思う? 妖ー兄のこと」
雪光「どうって?」
鈴音「何で妖ー兄が雪歩ちゃんのお世話にお熱なのかってこと」
鈴音「泥門高校アメフト部のキーパーソンになる、って話、どーにも分からないなぁって」
雪光「……これは、僕の推測なんだけど」
雪光「たぶんヒル魔君は、雪歩さんに勝ちたいのかも知れない」
鈴音「雪歩ちゃんに勝ちたい? 妖ー兄が?」
鈴音「どういう事? 雪歩ちゃんはアメフト選手じゃないし、全然関係ないじゃん。
あ、それともゆくゆくはアメフト選手にさせようとしてるとか?」
雪光「いや、そうじゃなくて」
雪光「あれだけ勝ちにこだわる人が、あんなに熱心になる理由……
僕には、一つしか考えられないんだ」
雪光「彼は今、何かに勝いを挑んでいる……
そして、それに勝とうとしているんじゃないか、って」
鈴音「雪歩ちゃんが、トップアイドルになれたら勝ち……みたいな?」
雪光「うーん……そこには当然、ヒル魔君にも何らかのメリットがあるはずなんだけど……」
鈴音「別に、何にもメリット無いよね?」
雪光「そうだね」
鈴音「なーんだ、やっぱり雪ぴょんにも分かってないんじゃん。頭良いのに」
雪光「ガリ勉だから分かるっていうものではないよ……ただ」
鈴音「ただ?」
雪光「ヒル魔君、楽しそうだな、って」
鈴音「……それは言えてるね♪」
鈴音「あ、でさ。本番はもう、すっごい大きな話になってんでしょ?
王城の桜庭春人も出るって」
雪光「えぇっ、そうなの!?」
鈴音「それに、これは本当に噂のウワサでしか無いんだけどさ……」
鈴音「ジャリプロが、他の出演者達を出場不能にしてやろうって画策してるとか……」
雪光「……どういう意味、それ?」
鈴音「わ、私もウワサでしか聞いてないから、分かんないよ」
雪光「そういう滅多な事は、あまり言わない方がいいよ。桜庭君も可愛そうだ」
鈴音「あ……そ、そうだね。ごめんなさい」シュン…
雪光「ハハハ、僕に謝る事は無いよ」
鈴音「それもそうだねっ」シャキン!
雪光「切り替え早いなぁ」
ハハハ…
スッ…
阿含「………………」
――――――
――――
『……と、二社の芸能事務所共同で開催されるライブイベントに注目が集まっています。
主催者の一人である961プロダクションの黒井社長のインタビューです』
『我が961プロのジュピターは、社長である私自らスカウトし……!』
『あぁ、なんかジュピターが出てくるライブですよね?』
『ヤダぁ~~! 早く北斗サマに会いたいですー!』
『自分達、最初から萩原雪歩さん一筋なんで。当日も精一杯……!』
ガヤガヤ…
「チケット取れた?」「サイトにアクセスすらできねぇ~」「マジで?」
「えぇ~、桜庭君出ないの?」「あら、ニュース見てないの?」「桜庭君、この間ジャリプロを……」
~レッスンスタジオ~
キュッ タタン タンッ!
ドテッ!
春香「!?」
真「雪歩っ!!」
雪歩「はぁ…………はぁ……!」
ヒル魔「…………」
律子「…………限界よ、ヒル魔君」
ヒル魔「みてぇだな」
雪歩「はぁー、はぁーっ……う、ぐっ……」グッ…
フラッ…
真「雪歩、座ってて! 安静に……!」グッ
パシッ!
雪歩「……ッ」フルフル
真「ゆ、雪歩……」
律子「見て分かるでしょ。この状態で、続けさせる訳にはいかないわ」
ヒル魔「常識的に考えりゃな」
伊織「……アンタ、さっきから何が言いたいのよ」
伊織「まさか、無視して続けるだなんて言い出すんじゃないでしょうね」キッ
ヒル魔「この『死の行軍』は、ハナから限界を超えるのを目的とするトレーニングだ」
ヒル魔「限界に達して、初めてスタートなんだよ」
響「こ、このままじゃ雪歩が壊れちゃうぞ! もう止めてあげてよ、お願いさー!」ガシッ!
ヒル魔「止めるかどうか、決めるのはアイツだ」
雪歩「はぁ……はぁ……」
ゆきぽ「ぽえぇ~……」
雪歩「え、えへへ……心配、しなくていいよ?」ナデナデ
雪歩「ちょっと、転んだだけだから……いつもの、事だから……」
ガクガク…
雪歩「……やります」
真美「む、ムチャだよぅゆきぴょん……」グスッ…
ヒル魔「大抵のヤツなら、こう考える」
ヒル魔「自分はやるだけやった、充分に頑張った、もういいだろう、ってな」
千早「……?」
雪歩「はぁ、はぁ……」スッ
ヒル魔「コイツは、安い慰めで自分を言いくるめる事なんざ考えちゃいねぇ」
ヒル魔「勝利に飢えるってのは、そういう事だ。
まして、他の誰かじゃなく、自分への勝利ってのは曖昧な分タチが悪ぃ」ジャキン
美希「自分への、勝利……」
雪歩「……ッ」ギリッ
ヒル魔「ちんちくりんのクセして、生意気なヤツだぜ。ケケケ……覚悟はいいか?」
雪歩「はいっ!」
ズダダダダッ…! タタン タンッ タンッ…
あずさ「雪歩ちゃん……」
ゆきぽ「ぽ、ぽえぇ~……」グデー…
伊織「……」ナデナデ
伊織(心なしか、雪歩に似たこの子も、随分くたびれているように見えるわね)
ズダダダッ…! キュッ! タタンッ タンッ…
貴音「……蛭魔妖一」
貴音「貴方の狙いが、少し見えてきた気がします」
打ちのめされた事が無い選手など存在しない。
ただ、一流の選手はあらゆる努力を払い、速やかに立ち上がろうとする。
並の選手は、少しばかり立ち上がるのが遅い。
そして、敗者はいつまでもグラウンドに横たわったままである。
――テキサス大学アメリカンフットボールコーチ ダレル・ロイヤル
~ジャリプロ事務所~
伊藤「…………」ブクブクブク…
『辞表 桜庭 春人』
伊藤「さ、桜庭ちゃんが……」
伊藤「こんな……あぁ…………」
伊藤「あ、諦めないぞ……!」グッ
伊藤「絶対に桜庭ちゃんは、アイドルとしてまだやれるんだ」
伊藤「アメフトなんていうボール遊びに取られてなるものか!」ダッ!
ガチャッ!
伊藤「おいっ、車を出……!」
伊藤「せ……って、え?」
社員A「あ、あがが……!」
社員B「……」ピクピク
伊藤「え……き、キミは、たしかアメフト、の……」
阿含「……あ゛ぁ~~~~、やっと来やがったか」スクッ
スタスタ
伊藤「な、何しにココへ来たんだっ!?
というか、キミ、まさかウチの社員に乱暴を…」
ガッ ドンッ!
伊藤「ひっ!? い、痛い……!」ググッ
阿含「泥門のカスがバックアップしてるアイドルがいるんだってな」
伊藤「へっ?」
阿含「テメェのカスアイドルを引き立たせてやるってんだよ」
阿含「俺が765プロのソイツを出場不能にしてやりゃいいんだろ?
王城に持ちかけた話を、俺が代わりにやってやろうじゃねぇか」
伊藤「き、キミ、どうしてそれを……!?」
阿含「もちろんタダとは言わねぇ」
阿含「ビジネスと行こうぜ、なぁ……?」
~765プロ事務所~
ヒル魔「おーおー、天下の961プロ様のクセにケツの穴の小せぇこった」ケケケ
黒井「何だとぉっ!? ぐぬぬいいだろう、では500万だっ!!」
高木「ひ、ヒル魔君~。ちょっと困るよ、私そんなお金持ってないよ?」
黒井「ハァーッハッハッハ!! さすがは弱小事務所だな高木ィ!
たかだか500万ぽっちも払えないとは、惨めにも程がある!」
ヒル魔「その500万ぽっちを提示するまで散々ゴネてた、ケチくせぇ社長サマは誰かなァ?」ケーケケケ!
黒井「な、何だとぉっ!? お、おのれぇ言わせておけば、ならば700万だっ!!」
ギャーギャー…!
P「なぁ、あれ何やってんだ?」
律子「ライブイベントでお金を賭けるんですって。負けた方が勝った方に」フンッ
P「えぇっ!? ちょ、ちょっと待てよ、負けたらウチが700万払うってこと!?」
律子「もっと上がるんじゃないんですかー?」
律子「まったく! 男共ときたら、揃いも揃ってバカみたい!
勝手にしなさいよ、もう知らないんだからっ」プンスコ
小鳥「ふふっ、それにしても楽しそうですね」
律子「当事者が、あんな必死になって頑張っているのに……!」
小鳥「雪歩ちゃん、あれからどうですか……?」
律子「……何とか、レッスンメニューはこなしています」
律子「でも、終わった後は、自分で立てなくなるほどに疲労困憊の状態で……
正直、本番当日まで壊れないでいられるかどうか……」
小鳥「……そうですか」
P「……俺から、彼に話をしてみよう」スクッ
律子「あっ、プロデューサーさん」
コンコンッ
ヒル魔「……?」
P「ヒル魔君……ちょっといいかな?」
~765プロ事務所 屋上~
P「…………ふぅ~、っと」ノビー
P「屋上は、主に喫煙所だ……俺はタバコは吸わないんだけどさ」
P「仕事で失敗したり、嫌な事があったら、ここに来てボーっとして、気分転換するのが
好きなんだ」
ヒル魔「…………」
P「遠くに電車が……ほら、あそこ。あぁして通り過ぎるのを眺めたりさ」
P「泥門高校は、方角的にはあっちかな。君は電車通学かい?」
ヒル魔「……テメェの仕事の愚痴を聞くために俺は呼ばれたのか?」
P「いや、雪歩の話だ」
P「俺は雪歩のプロデューサーだ。
いくら君への協力が社長の肝入りとはいえ、担当アイドルが壊されるのを黙って見過ごす事はできない」
ヒル魔「…………」
P「だが、止める気も無い」
ヒル魔「?」ピクッ
P「なぜなら、あのレッスンを完遂してステージに上がる事が、彼女自身の願いだからだ」
P「だから、屋上に連れて来たんだ。
俺が今言った事を律子に聞かれたら、どやされるからね」
P「実際、担当アイドルを守ろうともしない俺は、プロデューサー失格だろうな」
ヒル魔「…………」
P「だが、教えてくれないか」
P「君は、なぜそこまでして雪歩にこだわるんだ?」
P「アメフトとアイドルは、まるで真逆……真裏の世界だ。
彼女のプロデュースが、君のアメフトにどれだけ関わるというんだ」
ヒル魔「アメフトは、敵と味方しかいねぇ」
P「…………」
ヒル魔「倒さなきゃならねぇヤツらがいる。
そのための特訓があり、揃えたカードをどう切るかの戦略を立てる」
ヒル魔「大まかに言えば、その連続だ」
ヒル魔「逆に聞くが、アイドルの世界はどうだ?」
ヒル魔「倒さなきゃならねぇヤツがいるのか?」
P「どうだろうな……目標は、皆それぞれある」
P「憧れていた人のようになりたい、家族を養いたい、楽しみたいキラキラしたい……
それぞれだ。一概にはとても言い尽くせない」
P「だから楽しいんだ。
13人が13通りの夢を持っていて、それぞれに応じたプロデュースがある」
P「倒す、倒されるという明確な結末が無い分、アメフトよりも不明瞭ではあるのかも知れないな」
ヒル魔「そういう事だ」
P「えっ?」
ヒル魔「確かに、世界の裏側だ……だから、違う」
ヒル魔「目標が明確なら、取るべき手段も明確だ」
ヒル魔「到達してぇって願う夢が曖昧で不明瞭じゃ、行き先もルートも分からねぇはずだ」
ヒル魔「だが、あの糞モグラは自分を見失わずに前を見続けていやがる」
ヒル魔「それが気にくわねぇのと、知りてぇってだけだ」
P「知りたい……雪歩の強さの秘密を、か」
ヒル魔「もうこんなつまらねぇ事聞いてくんじゃねぇぞ、糞アルファベット」ザッ
P「すまない、最後にもう一つだけ聞かせてくれ」
P「君が初めて雪歩に出会ったのは、いつなんだ?」
ヒル魔「賊学のヤツらとさらった時だよ」
ガチャッ キィィ…
バタン…
P(……そんなはずは無い)
P(予め雪歩をさらう事を画策していたのなら、もっと前から雪歩を知っていたはずだ)
P「どういう事なんだ……」
~本番二日前 レッスンスタジオ~
雪歩「~~~ッ♪ ~~~~~♪」タンッ タン…
雪歩「~~♪ ~~~、~~~~~!♪」キュッ タッ タンッ!
雪歩「…………はぁ、はぁ……!」
律子「文句無し、ね…………よくやったわ、雪歩」
やよい「うっうー!! 無事『死の行軍』おしまいですー!!」ピョーン!
真美「やったぁー!! 亜美タッチ!」
亜美「タッチ!! やよいっちもタッチ!」パチン!
やよい「はいターッチ!! いぇい!!」パチン!
たかにゃ「しじょ!」 スッ 【祝 完走】
あずさ「本当に、よく頑張ったわね、雪歩ちゃん……」
雪歩「はぁ、はぁ……あ、あずささん、私……」
あずさ「私、実はね? 本当は雪歩ちゃん、やり遂げられないんじゃないかって、思っていたの」
あずさ「もしそうなっちゃったとしても、雪歩ちゃんが自分を追い詰めたりしないように、
ちゃんとフォローしてあげなくちゃって、色々と考えてはいたのだけれど……」
あずさ「余計なお世話だったわね。ふふっ……本当に、すごいわ雪歩ちゃん」
雪歩「私は……迷惑、かけちゃったあずささんの、ぶ、分まで……え、っぐ……!」ジワァ…
あずさ「……その思いだけで、十分よ」ギュウッ
雪歩「う、わぁあぁぁ……!」ポロポロ…
春香「ううぅぅ、雪歩ぉ、すごいよぉ頑張りすぎだよぉ……!」グスッ
貴音「彼女の持つ、挫けぬ強い心による努力が結実した瞬間です。真、お見事です」
美希「ほらっ、ミキの言ったとおりでしょ?
この調子でやれたら、本番もきっとラクショーなの!」
雪歩「そ、そうだ本番!」ハッ!
伊織「さては『死の行軍』を終えた達成感に酔いしれて、本番を忘れてたわね」
響「いいじゃんかそれくらい! すっごいレッスンを終えたばっかりなんだぞ!」
雪歩「ううぅぅ……じゅ、ジュピターさん達に勝てなかったら、
私達、アイドル辞めなきゃいけないんでしたぁ……!」
千早「しかも、負けた方が勝った方に1000万円を支払うという話らしいわね」
律子(あ、また増えたんだ)
ヒル魔「ケケケ、戦う前からビビってんじゃ勝敗は見えたモンだな」
雪歩「ヒル魔君……」
ヒル魔「テメェみてぇなビビりでも、闘志を奮い立たせる魔法の掛け声がある」
雪歩「えっ!?」
ヒル魔「知りてぇか?」ニヤッ
~泥門高校アメフト部~
一同「ぶっ!!」
一同「こ!」
一同「ろす!!」
一同「Yeah―――!!!」
雪歩「ひいぃぃぃ……!」ガタガタガタ…!
P「何という恐ろしい掛け声だ……」
モン太「それくらい、相手に勝つ! つー気合いが必要なんスよ!」
十文字「別に反則行為をしてまで相手をぶっ殺すワケじゃねぇ」
律子「で、でも、アイドルが本番前に行う掛け声としてはどうかと思うわよ」
栗田「まぁまぁ! 一つのおまじないみたいなものだと思って」
まもり「気持ちは分かりますけど、慣れると意外と、違和感なくなりますよ」
P「そりゃそうだろうけどさ。あんまそのー、アメフトとアイドルは違うっていうかさ……」
セナ「僕も、最初はおっかなかったですけど……」
セナ「誰かに勝ちたいって気持ちを奮い立たせるには、一番だと思っています。
あと、情けない自分にも、とか」
雪歩「自分に、勝ちたい……アイシールドさんでも、そう願う時があるんですね」
セナ(あ、そっか今防具着けてるから……うん、そうね)
ヒル魔「モノは試しだ。こっち来て一緒にやってみろ、糞モグラ」
雪歩「…………」ゴクッ
イソイソ…
黒木「うっひょぉ……雪歩ちゃんが隣に」
戸叶「バッカお前、鼻の下伸びてんぞ」
雪歩「わ、私は……」
雪歩「皆さんのご期待に応えられるか、分かりません。だけど……」
雪歩「やっぱり、勝ちたいです。
勝って、支えてくれた765プロの皆や、ファンの人達に、恩返しをしたいなぁって」
雪歩「もちろん、ヒル魔君や泥門高校の皆さんにも……だから」
雪歩「私、勝ちに行きます!」
ヒル魔「勝ちに行くんじゃねぇ。ステージに立ったら考える事は一つだ」
ヒル魔「会場に来ているヤツら、丸ごとビビり倒して殺しやがれ」ケケケ
雪歩「うえぇぇぇっ!?」
一同「ぶっ!!」
雪歩「あ、わっ、ぶっ……!」
一同「こ!」
一同「ろす!!」
一同「Yeah―――!!!」
雪歩「い、いえぇぇぇぇいっ!!」
ヒル魔「寝てんのか糞モグラ!! 主役がタイミング外してんじゃねぇ!!」ズダダダッ!
雪歩「す、すいませぇぇんっ!」
ヒル魔「もう一回だ!」
一同「ぶっ!」
一同「こ!」
一同「ろす!!」
一同「Yeah―――!!!」
雪歩「いえぇぇぇぇいっ!!」
コソコソ…
渋澤「クックック……」スチャッ
渋澤「……旦那。良い土産ができましたぜぇ」
20時頃まで席を外します。
残りはあと5分の2くらいです。今日中に投下しきる事ができればと思います。
~当日 ライブイベント会場~
セナ「うわあぁぁ……」
ガヤガヤ…
モン太「すげぇ人数だな。注意マックスしねぇとすぐに迷子になっちまうぜ」
栗田「でいへほいっはいでへふほー(出店もいっぱい出てるよー)」モリョモリョ
セナ・モン太「既にすごい量っ!!」
鈴音「泥門デビルバッツでーす! あっ、こんにちはーデビルバッツでーす!」パタパタ
まもり「鈴音ちゃん、何してるの?」
鈴音「あっ、まも姉も手伝って! 妖一兄から言われて、ウチらの宣伝してるの」ピラッ
『最凶チーム 泥門デビルバッツ ○月×日 アメフト東京大会初戦!!
アイシールド21の殺人走法が炸裂する瞬間を見逃すな!!』
セナ「走(ラン)でどうやって殺人を……?」
モン太「これ、本当に宣伝になんのか?」
鈴音「会場にいる全員をビビらせろ! ハートを掴むってのはそういう事だ!」ケケケ!
鈴音「って言われたもーん♪」
まもり「鈴音ちゃん、ヒル魔君のモノマネ上手いね……」
黒木「主役でもねー俺達が観客のハート掴んでどうすんだよ」
溝六「で、そのヒル魔はどこにいんだ?」グビッ
雪光「一足早く会場に行くって言ってました」
<シーラヌーガー ホトケ ホォーット-ケナイ クーチビル ポーカーフェーーイス♪
まもり「あっ……」ピッ
セナ「まもり姉ちゃん、どうしたの?」
まもり「……ヒル魔君から。頼みたい事があるんだって。
ちょっと行ってくるわね。セナ、私の分まで物販見てきて!」タッ
セナ「あっ」
タタタ…
溝六「本当に付き合ってねぇのか、あの二人?」
セナ「うぇ、い、いやぁ~……僕にはとんと……」ポリポリ
溝六「まぁなんだ……結局アイツ、アメフトの練習もしっかりこなしてたからな」
溝六「アイドルさんの面倒の方が疎かになってんじゃねぇかって心配したが……」
セナ「いえ、それが聞いた話じゃ、むしろあっちにいる時の方が生き生きしてたぞ、って」
戸叶「……聞いた話って、お前それ誰から聞いたんだよ?」
セナ「えっ? い、いやあの、我那覇響ちゃん、って子から」
戸叶「ハ?」
十文字「はぁ?」
黒木「はぁぁぁああ!?」
セナ「ひぃぃぃっ!? ご、ごめんなさい!!」
モン太「ていうか、絶対十文字も765プロのアイドル好きだろ」
十文字「あん? む、ぐ……」
十文字「……ま、適当に物販でも見て回るか。まだ時間あんだろ」ザッ
鈴音「誤魔化したー♪」ピョコッ
雪光「あっ、雪歩ちゃんのグッズだ……焼肉のタレ、買おうかな」
夏彦「僕らも行こうか鈴音! 鈴音の着れるサイズのTシャツがあるといいね」グッ!
鈴音「へっ、兄さんそれどういう意味?」
夏彦「アハーハー、最近言ってたじゃないか、シュークリームを食べ過ぎて太ったとか…」
鈴音「太って!! な、いっ!! つーの!!」ギャリギャリギャガゲガギドギャゴ!!
夏彦「ア゛ア゛ア゛ァァァァァァッ!!!」
黒木「バカはほっとけ」
戸叶「だな」
テクテク…
小結「………………?」
小結「……ッ!?」キッ
ザワザワ… ガヤガヤ…
小結「…………ッ」ハッ… ハッ…!
セナ「小結君、どうしたの?」
小結「ッ!!」クルッ
小結「し、神龍!!」
セナ「しんりゅう?」
小結「ッ!!」コクコク!
セナ「しんりゅう? ……」
セナ(ど、どういう意味なんだろう……神竜……げ、ゲーム!?)
セナ(それともあの7つのボールの……でも何でこのタイミングでそんな話題!?)
セナ「ダメだ、小結君ごめん! く、栗田さんちょっと通訳…!」
店員「あー、お客様!! 困りますっ! あー!! お客様っ!! あーお客様!!」
栗田「うまふぃす」モゴモゴ
セナ「他人のフリしといた方が良さそうだ」(真顔)
小結「…………」ゴクリ…
~会場 765プロ控え室~
春香「はい、雪歩っ! 春香さんお手製のクッキーですよー♪」
雪歩「あ、ありがとう春香ちゃん」
律子「はーるーか。本番前にそんなもの食べたら喉がパサパサしちゃうでしょ?」
春香「ぱ、パサパサしませんよぉ! ちゃんとしっとりテイストに作ったんですから」
貴音「なるほろ、びみでふね」モゴモゴ
春香「なああぁぁぅ!! た、貴音さん全部食べないでっ!」
雪歩「えへへへ」ニコニコ
伊織「私達の命運がかかった大一番の前だってのに、随分とリラックスしてるじゃない」
雪歩「あ、伊織ちゃん」
千早「私では、春香のように気の利いた事は出来ないけれど……」スッ
コトッ
千早「お茶を……萩原さんの口に合わなければ、無理して飲まなくてもいいから」
雪歩「ううん、千早ちゃん」
ズズズ…
雪歩「はぁぁ……落ち着きますぅ」
雪歩「……ありがとう、千早ちゃん。嬉しい」ニコッ
千早「わ、私は、別に……」カァァ
亜美「ねーねー兄ちゃん、ゆきぴょんの出番そろそろ?」
P「ん? もう少しかな。
ジャリプロの桜庭春人が出なくなって、セトリも繰り上がったし」
響「アレは驚いたよなー。まーアメフトと両立するのは難しかったんだろうけどさ」
やよい「……あれ? うー、でもおかしい気がします」
真「何が、やよい?」
やよい「ここに来る前、外に桜庭さんの物販スペースがあった気がしたかなーって……」
真美「何だ、じゃあやっぱり出るの?」
律子「いや、もうプログラムは組まれてあるわよ。彼が出る予定は無いわ」
あずさ「あら~、じゃあ、何で桜庭春人さんの物販があるのかしら~?」
律子「そんな事聞かれても……」
律子「……ところで、先ほどからヒル魔君の姿が見えないけれど」キョロキョロ
雪歩「なんか、用事があるって言ってましたぁ」
伊織「本番直前の担当アイドル放るほどの用事って、何よ」
P「今日のステージ用マイクも、彼が持ってきてくれる手筈になっていたはずだ。
そろそろ準備をさせたい所なのだが……」
響「アイツの事だから、絶対ロクでもない用事に決まってるぞ」
雪歩「あまり良くない事を企んでいるのは、たぶんそうだと思います」
雪歩「だけど、ヒル魔君はたぶん、私を勝たせるための準備をしているんだと思うんです」
伊織「大した信頼関係ね」
雪歩「えへへ、あの……理由が無い事は、たぶんしないと思うから、あの人」
律子「……それもそうね」
P「ところで、美希は寝坊か?」
真「あ、そろそろ着くって連絡ありました。ボク迎えに行ってきます!」ダッ
P「しょうがないヤツだなぁ、アイツも」
~会場外 物販スペース~
キャーッ! サクラバクーン!! チョーダイチョーダイ!!
伊藤「あ、アハハハ。はい押さないでー、まだまだグッズはありますよー」
女性客「キャーッ!」「Tシャツくださーい!」
伊藤「ハハハ、は、は……!」チラッ
男「ぐっ……う、うあぁ……」ピクピク…
伊藤「ハハハ……」カタカタ…
伊藤(き、気まずい……ていうか)
伊藤(コレ、犯罪だよねー、フツーに考えて……!)ガタガタ…!
伊藤(やっぱり乗っちゃマズかったかなー! でも断れなかったよなー!?
殺されるって思っちゃうもんなー!?)
女A「ねーねー! 今日は桜庭君ライブに出るんですかー!?」
伊藤「はぇっ!?」ビクッ
女B「やだぁ、出るに決まってるじゃない! 出ないのにグッズ売るわけ無いでしょ?」
女A「えー? だってさーニュースやってたじゃん。引退するとかって」
女B「バカね、私達ファンを驚かせるためのフェイクニュースよ。ねー店員さん?」
伊藤「あ、アハハ……私一応社長なんだけどね」
伊藤(どうしよう。言いづらい……でも、言えない)
伊藤(こんな良い立地で、こんな繁盛してるのに……)
伊藤(正規の販売店員を半殺しにして得たスペースで売った所で、嬉しくもなんとも……!)
伊藤(桜庭ちゃん……ごめん。私は間違えてしまったようだ……)
伊藤(彼に唆されたとはいえ……)
~会場外通路~
ゴキャッ
警備員「あ、がっ……!?」
ドサッ
ツカツカ…
阿含「……チッ。カスの汚ねぇ血が付いた」ゴシゴシ
阿含「…………」
阿含(……この辺りだな)
阿含(…………?)ピタッ
テクテク…
美希「ふわぁぁ…………あふぅ」
美希「おんなじような通路ばっかりで、よく分かんないの」
美希「控え室、どこから入るのかなぁ?」
阿含「…………」ニヤッ
美希「デコちゃんに電話しよっと。あ、でも待っていればそろそろ真クンが迎えに…」
阿含「そこの君」
美希「ん?」クルッ
阿含「萩原雪歩さんに会いたいんだけど、どこかな?」
美希「え、雪歩?」
美希「あー。ひょっとしてファンの人でしょ。
ダメなんだよ? 本当はここ、関係者以外立ち入り禁止なの」
美希「それに、ミキも迷ってる最中だから、聞かれても答えらんないの。ゴメンね?」
阿含「あぁ、そうなんだ。じゃあ一緒に探さない?」スゥ…
美希「えっ、なんで?」サッ
阿含「……!」ピクッ
美希「?」キョトン
阿含(……コイツ、死角から伸ばした俺の手をナチュラルに避けやがった)
美希「ミキの話聞いてた? ファンの人は、ここに来ちゃダメなの」
美希「雪歩のファンなら、そういうレーギはちゃんと持っててほしいって思うな」
阿含「……あ゛ぁ~~~、そうそう」ポリポリ
美希「?」
阿含「雪歩ちゃんの面倒見てる、ヒル魔ってヤツ、いるだろ?」
阿含「ソイツにちょっと用があるんだわ。言わなくて悪かったけどさ」
美希「あ、なんだ、ヒルの人のお友達? じゃあ話は早いの!」
美希「と言っても、ミキも場所分かんないから、他の人に聞こ?
どこかいないかなぁ?」キョロキョロ
阿含「…………」
美希「ムムッ、あっちに人の気配が。ねぇねぇ、そこの人ー!」タタタ…
阿含「…………」
美希「あれ、寝てるのかな?
警備員さんがお寝坊さんじゃ困るの、ねーねー起き…」グイッ
警備員「」ゴロン
美希「て…………」
美希「……ッ!?」ゾォッ…!
美希「な……何、これ……!?」
美希「誰が、こんなひどいこと……!」
ズォォッ…!
美希「ッ!?」
シュバッ! スカッ
タッ
美希「……ッ!」
阿含「やっぱりテメー、俺の動きが見えてやがんな」
美希「……ファンの人じゃないの?」
美希「警備員さんに、こんなひどい事をして……!」
阿含「……あ゛~~~~?」
阿含「ククク……ファンだと? 俺がカス共の?」
阿含「笑いに来てやったんだよ。それと、現実を教えてやりにな」
美希「えっ……」
阿含「ヒル魔とかいう狡いだけのカスが、同じく才能のねぇヤツ捕まえて、
夢見て努力しちゃってるらしいからよ」
阿含「そういうウジ虫共を」
阿含「プチッ」
阿含「と踏み潰してやるのが最高に楽しいってだけだ」
阿含「ジャリプロと961プロからは、邪魔者を潰した謝礼もオマケでもらえるしな」
美希「雪歩を、どうするつもりなの!?」
阿含「どうもしねぇよ。ただ横にいるプロデューサーをリタイアさせてやるだけだ」
美希「!!」
阿含「961の社長、アイドルには危害を加えずに陥れろとかメンドくせぇ注文付けやがったからな」
阿含「今日、萩原雪歩の隣にいるのが、ヒル魔なのか正規のプロデューサーか知らねぇが……」ゴキゴキッ
阿含「精神的支柱が倒れりゃ、夢見ちゃったカスの無駄な努力もめでたくGAME OVERだ」
美希「…………」
阿含「だから安心しな、アイドルには手ェ出さねぇよ」
阿含「まぁ終わった後に違う意味で……」
ザッ
阿含「?」クルッ
テクテク…
P・雪歩「…………」
美希「あっ! ゆ、雪……!?」
阿含「マイク持ってやがる……ククク、いるじゃねぇか」スッ
ギャオッ!
美希「は、速っ……危ないっ!!」
阿含「死ね」グァッ
ボッ!
P「」ガスッ!!
阿含「ッ!?」
タッ…
美希「が、ガードしたの!?」
阿含「……テメェ」
阿含(あの男……俺の手刀を、まるで槍みてぇな掌底で……)
阿含「“槍”……?」
美希「あの人、プロデューサーじゃないの」
阿含「あ゛ぁ~~~?」
美希「だって、ミキ達のプロデューサー、頭がPの字だもん」
阿含「……誰だ、テメェ」
P(?)「…………」ゴキッ
スッ
進「…………やるな」ゴキキッ
阿含「王城の、進清十郎……」
阿含「一丁前にスーツか……テメェにコスプレ趣味があるとはな」
阿含「何してやがる。こんなアイドルイベント、テメェの出る幕じゃねぇだろ」
進「ヒル魔妖一に頼まれた。お前を止めろと」
阿含「何だと?」
美希「ていうか……雪歩も、雪歩じゃないよね?」
阿含「……?」
雪歩(?)「うぅぅ……は、恥ずかしい」
クルッ
まもり「でも、畏れ多くても、雪歩ちゃんを守るためならって」
美希「あー! ヒルの人の彼女さんなのー!」
まもり「か、彼女じゃありませんっ!!」
美希「でもすごいすごい! ソックリだったの。
あ、それひょっとして本番用のマイク?」
美希「身長も雪歩より大きいのに、きゅ~って縮こまってる感じがゼツミョーってカンジ」
ザッ
高見「見た目の身長というのは、姿勢の差、気の持ちようによる所が大きい」
高見「姿勢が変われば、見た目の印象なんて5cmくらいは変わるものさ」
美希「あ、また知らない人なの」
阿含「王城の投手(クォーターバック)か。
何をしてやがる。ヒル魔のカスにこき使われてるたぁ情けねぇ」
高見「こき使われている、か……彼がどう思っているかは知らないが」
高見「俺達にとっても、明確な利があっての事だ。だから彼に協力している」
阿含「……何?」
進「春の関東大会では対峙できなかった、金剛阿含……」
進「一年前、王城が屈辱を味わってから、どれほど力を付けたか。
俺を狙いに来るお前の、その力量を確かめる機会を得たが……」
進「今の手刀を見るに、どうやらそれほど成長してはいないらしい」
阿含「あ゛ぁ~~~!?」
阿含「今ので俺の力量を見抜いたつもりか。笑わせんな、カスの分際で」
高見「阿含……君の力はよく分かっているつもりだよ。何せ一年前にこの身で思い知らされた」
高見「だから俺達も努力した。
それが無駄かどうかは、関東大会でウチと当たった時にでも確かめてみるといい」
高見「そして……今回、ヒル魔に協力しているのは、他ならぬ俺達のチームメイトからの要望でもある」
高見「俺達も、努力する者に感情移入してしまうものなんだ。
“天才”には、一生分からないことかも知れないがね」
阿含「…………」
まもり「王城の人からの要望?」
美希「ていうか、ミキ、一つだけ気になるんだけど」
美希「彼女さんが持ってる雪歩の本番用マイク、そろそろ届けないとマズくない?」
まもり「あ、そ、それは……どうしよう」
高見「任せてくれ」スッ
まもり「あっ」
高見「彼から渡された、このバッグに」スッ
高見(なるほど、ご丁寧にアメフトボール型のバッグか……用意周到な事だな)
高見「……あそこに、この会場の別棟となる建物があるだろう」
高見「大物アーティストなどが、ヘリコプターであそこに到着し、会場へ向かう演出も時折あるそうだ」
高見「当然、あそこからステージへ至る通路もある」
美希「それがどうしたの?」
高見「東京大会の本番前に、一足早くお披露目する事になるが……」
高見「まぁ、関東大会まで隠し通すつもりも無いから、阿含……君に見られても問題は無い」グッ
スゥッ…
阿含「……?」
高見「」ドギュアッ!
美希「!?」
まもり「な、投げた!? アメフトボール型のバッグを……!」
ギューン…!
阿含「ククク、どこに投げてやがる」
阿含「せいぜいあの建物の屋上を狙ったんだろうが、こんな高さじゃ飛び越えて向こう側に落ちるぜ」
高見「いいや、狙い通りだ」
阿含「?」
ダッ!
美希「あっ、誰か屋上にいるの!」
まもり「あ、あの人は……!!」
阿含「……!!」
高見「これが、新生王城の武器の一つ……」クイッ
桜庭「……ッ!」バッ
『エベレストパス』
バシィッ!!
まもり「桜庭君っ!!」
美希「た、高ぁーい!」
阿含(あの身長、あの腕の長さ……あんな高い到達点で、捕りやがった)
高見「桜庭も、苦しみながら努力を重ねて、今の王城に無くてはならない存在に成長した」
高見「そんなアイツからの頼みだったんだ。
今日のために非常な努力を重ねた萩原雪歩のステージを、俺達も守りたい」
まもり「高見君……」
阿含「……なるほどな」
高見「桜庭っ!! それをステージ裏にいる萩原雪歩へ届けろ!」
桜庭「はいっ!」ダッ!
阿含「……カス共が、どこまでも無駄なあがきをしやがって」
阿含「ヒル魔みてぇな素人が、アイドルのプロデュースの真似事をして何になる?
そんな才能のねぇカスの指導を受けた所で、その道の天才にはどうせ敵わね…」
美希「そこのヘンな髪の人」
阿含「……あ゛ぁぁ~~~?」
美希「さっきから聞いてれば、才能とか天才とか、カスとかうるさいの」
美希「そんなに才能が好きなら、才能と結婚でもすればいいって思うな」
まもり「ちょ、ちょっと、美希ちゃん……!」オロオロ
美希「大体、本当に雪歩が勝てるわけ無いって思うなら、余計なジャマしなくたって良いでしょ?」
美希「まともな勝負にならないように、妨害しようとするのって、なんかおかしいの」
美希「正々堂々とやらない卑怯な人が才能がどうとか、チャンチャラおかしいってカンジ」
阿含「…………」イラッ
美希「雪歩は、強い子だよ。ミキが言うんだから、間違いないの」
美希「才能なんかよりずっと強いものを、雪歩はちゃんと持ってるよ」
阿含「…………」
高見「どうする、阿含?
このままいけば、桜庭が無事に雪歩ちゃんへマイクを届けるだろう」
まもり(あ、今雪歩ちゃんって言った)
高見「俺達もこれ以上、いたずらに事を荒立てるつもりは無い。
このまま君が帰ってくれるなら、俺達も何もしない」
進「…………」
阿含「……あ゛~~分かったよ、メンドくせぇ」ポリポリ
阿含「俺だって、わざわざ手間暇かけてまで妨害してぇワケじゃねぇからな。
そこの星井美希の言い分ももっともだ」
美希「ホント? アハッ、物分かりが良くって助かるの!」
阿含「あぁ、だから大人しく帰るよ」ザッ
高見「そうか」スッ
阿含「なんて言うと思ったか? カス共が」
ザウッ!!
進「!」
まもり「えっ……!?」
高見「なっ、まずい!! 桜庭のもとへ行くつもりだっ!!」
美希「えー!? 何でそんなネチネチするのっ!」
進「止める……!」ゴキッ
ザッ!
阿含「小遣い稼ぎもあるが……」
阿含「カス共が俺の思い通りにならねぇってのが一番腹立つんでな!」
ドドド…!
【AGON V.S. SHIN】
進(右か、左か……!?)
進(どちらでも、来るなら来い、金剛阿含)
進(俺のスピアタックルとお前の走、どちらが勝るか、勝負だ!)
ザンッ!
進(左ッ! 甘い!!)
進(小早川セナに比べれば、金剛阿含、この程度かっ!)ゴキッ
阿含「ククク……」ザォッ!
高見「いや、あの方向は……!」
進(とった!!)
『スピアタック……』
進「!!?」ビタッ
美希「う、わわっ……!?」
阿含「どうした?」ニヤッ
ゴォッ!!
阿含「女がいたんじゃ、自慢のスピアタックルも出せねぇか。紳士なこった」
進「……ッ!」
高見「あいつ、星井美希のいる方へカットして、彼女を盾代わりに……!!」ギリッ
進(逃げられたか……!)
ダッ!
阿含「ククク、後はこのまま桜庭春人を潰しゃあいい」
阿含「アイツももうアイドル引退して、ボディーガードもどうせ付いてねぇんだろ」
黒井「そうはいかん」ピッ!
ザザザッ…!
阿含「!?」キキッ
黒服「金剛阿含だな。貴様をしょっ引けと、社長からの命令だ」
阿含「社長……お前ら、961プロの連中か」
阿含「オイオイ、何を勘違いしてやがる。俺はお前らの社長から依頼をされてだな」
黒服「……」つ タブレット端末
ヴゥン…!
阿含「……?」
黒井『……金剛阿含、キミはエラーを犯した』
阿含「あ゛ぁ~~?」
黒井『アイドルに手を出さない……そういう約束だったはずだな?』
黒井『765プロの者とはいえ、キミは星井美希を危険な目に遭わせた。
よって、取引は決裂だ。同時にキミは、このライブイベントの招かれざる客となった』
阿含(コイツ……最初から難癖つけて、俺との取引を破棄する気だったな……!)
黒井『残念だが、そういう訳だ。即刻この会場から出て行ってもらおう』ヴン…!
高木「やぁ、まさかキミが美希君を庇ってくれるとは、ありがたい事だねぇ」
黒井「勘違いするなよ高木。
あの不届き者との取引を白紙にする手頃なネタがあったから活用したまでの事だ」
高木「ウム、そういう事にしておこう」
ザッ
黒服「大人しく、この会場から出て行ってもらおうか。それとも怖い目見るか?」
阿含「……カス共が、俺を止められると思ってんのか」
~ライブイベント 会場内~
ザワザワ…!
マシンガン真田「さぁーいよいよ近づいてまいりました、世紀のライブ対決!!」
真田「961プロのジュピター V.S. 765プロの萩原雪歩!!
実況は私、『しゃべる速射砲』ことマシンガン真田と……!」
真田「毎度おなじみ、月刊アメフト編集部の熊袋さんにお越しいただいております!!
熊袋さん、よろしくお願いします!!」
熊袋「ど、どうも……ていうか、何で私と真田さんがここに呼ばれているんでしょうか?」
真田「我が社のアイドル担当の実況マンは盲腸で入院中でして、
熊袋さんはアメフト協会の御推薦だという風に聞いておりますが!?」
熊袋「おりますが!? って言われても……!」
熊袋(誰だ、こんなオファーを出したのは!? ていうか当て込んだのは……!?)
ケケケケ
モン太「い、いよいよ始まんぜ……!」ドキドキ
セナ「さ、サイリウム、あったよね? えぇと、雪歩さんの、白、白……」ゴソゴソ
雪光「雪歩ちゃんとジュピターの出番はまだ先だよ」
パッ!
鈴音「あっ! 見て見て、なんか映像流すみたい!」ピョコッ
戸叶「おっ、アレは……」
『会場にお越しの皆さんへ』
『きっとこの会場内には、何度もライブに来た事あるぜっていう百戦錬磨の強者もいれば……』
『僕みたいに、ライブってどういうもんなの? 何すればいいの?
友達に誘われて初めて来たけど全然分かりません、っていう人もいるかと思います』
『そんなヤツらのために……』
デビバ『Ya――Ha―――!!
イベントの開催前に、これから俺達がライブのいろはを教えてやるぜ!!』
コデビバ『師匠、お願いします!』
~デビルバットとコデビバのアイドルマスター教室 ライブ編~
コデビバ『デビルバット師匠っ!』パタパタ
コデビバ『さっそくだけど、アイドルのライブってなんか色々ルールとかあるんですか?』
コデビバ『バカな僕にも分かるように教えてください! アチョー!』
デビバ『とにかく曲に合わせて、流れてくるヤツを正確に押せ!』
デビバ『だが、スコアを稼ぐにはそれだけじゃ足りねぇ』
デビバ『コミュで培ってきた絆を爆発させろ! 『思い出ボム』!!』
デビバ『タイミングは一度きりの超必殺技! 『バーストアピール』!!』
デビバ『使えるモンは何でも使って、死ぬほどスコアを稼ぎやがれ!!』
コデビバ『? ……!?』
デビバ『ライブに来た時の観客はだなっ!!』グリンッ
コデビバ『は、はいっ!』
デビバ『アイドルの歌声を妨害するほどの大声を無闇に出したり……』ア˝ア˝ァァァッ!!!
デビバ『やたらとジャンプしたり……』ビョーン!
デビバ『手を大きく振り回したり……』グルングルン!
デビバ『とにかく危ねぇ事、他のヤツらの迷惑になる事は禁止だ!』クワッ!
デビバ『コールは分からなけりゃ無理すんな!』
デビバ『周りのヤツらは皆仲間だ! 困ってるヤツがいたら助け合え!』
デビバ『そしてこの瞬間を楽しむ事、感動を味わう事に全神経を注げっ!!』
デビバ『命燃やしやがれ!! 分かったか糞ドルオタ共ーー!!』ゴオオォッ!
ウオオォォォォォ…!!! パチパチパチパチ…!!
黒木「こんなん作ってたのか……」
十文字「なんかアイツ、こういうトコ変にマメだよな」
セナ(でも分かりやすいかも……)
栗田「ペンライト持ってない人いるー? あ、先生」
溝六「いいよ俺は」
モン太「あっ、やべっ、黄色しか持ってねぇ。何でだ」
小結「亜美真美っ!」フゴッ
夏彦「僕なんかジャケットの裏側にペンライト全色装着してるよ!」ぶゎさっ
戸叶「ライブ終わったらどーすんだよそのジャケット……」
鈴音「私手伝わないからね、それの後処理」
むぃ~ん…♪ むぃ~ん…♪
セナ「う、うわっ!? 携帯が……」
モン太「うお、俺もだ! 何だこんな時に……」ピッ
栗田「……ヒル魔からだ」
鈴音「えっ!?」
十文字「泥門デビルバッツは全員、防具を着て別棟に集合……?」
黒木「はあぁぁあ? 防具なんて持ってきてねーぞ」
ドルンドルン…!
セナ「?」クルッ
警備員「うわぁあぁぁっ!? な、何をしている止まりなさいっ!!」
葉柱「カッ! 止まれと言われて急に止まれるかよっ!!」ズギャギャッ!
セナ「葉柱さんんっ!?」
キキィッ!
葉柱「さっさと乗れっ! こっちの頭数は用意してあるぜ」
モン太「そ、そう言われてもよ……!」
警備員「待てーーっ!!」ドタドタ…
雪光「……ひょっとして、ここにいたら僕達も捕まるのでは?」
十文字「そうだな」
ギャロロロロッ!!
鈴音「やーーーっ!!」
葉柱「振り落とされんなよ!」
溝六「ヒル魔の仕業か……相変わらずあの野郎、無茶苦茶やりやがる!」
賊学生「ひぃぃ、コイツ重っ!!」
栗田「す、すみません」ズシーン
~会場別棟~
タタタ…!
桜庭「はぁ、はぁ……!」
桜庭(まさか、アイドルを辞めてから、こんな形でアイドルに関わる事になるなんて)
桜庭(でも……)
――諦めたくありません。
――強くなりたいと願った自分を、裏切りたくないんです。
桜庭「あんな事言われちゃ……」
桜庭「こっちだって、負けてらんないよな!」
ダッ!
ザッ!
桜庭「ッ!?」キキィッ
黒服「いたぞ! アメフトだっ!!」
黒服「潰せ!! ひっ捕らえろー!!」グワァッ!
桜庭「な、なっ……!?」
桜庭「何でこうなるんだー!?」ダダーッ!
黒井「……イベント内に新たな不届き者が現れた。それも複数だ」
黒井「バイクで会場内を荒らし回っているそいつらは、高校のアメフト関係者だという」
黒井「不穏分子は全て排除しろ。アメフトは潰せっ!」
桜庭「お、俺はただこのマイクを届けに……!」ハッ
つ アメフトボール形のバッグ
桜庭「アメフト要素、これーッ!?」ガビーン
黒服「もう逃げられんぞ、この野郎っ!!」ダッ!
桜庭(まずっ……ルートが、塞がれ……!)
「…………ケケケ、ありがとよ糞ブラック」
「ご丁寧にお膳立てしてくれてなァ?」ニヤァ
グァッ…!
石丸「ふんぐっ!」ガッ!
黒服「なぁぁっ!?」
桜庭「で、泥門の……!?」
桜庭「誰だっけ?」
石丸(初登場でこの扱いっ!?)ガーン
石丸(いいよいいよ……)
ダダッ!
モン太「桜庭先輩っ!」
セナ「桜庭さん、僕達が加勢しますっ!」
桜庭「なっ、君達……!」
黒木「さっさと行くぞ。雪歩ちゃんの出番が近ぇんだ」ゴキゴキッ
桜庭「……あぁ!」
~会場 舞台裏~
響「も、もう始まっちゃうぞ……!」ドキドキ
伊織「別にアンタが緊張する必要ないじゃない」
亜美「そういういおりんこそ、手が震えているみたいですなぁ?」
伊織「な、はぁっ!?」
あずさ「無理も無いわ。
あれだけの練習を重ねた雪歩ちゃんを、間近で見てきたんですもの」
律子「そうですね……当の本人は、緊張どころかすごい集中力ですけど」チラッ
雪歩「………………」
P「あぁ、後は……ヒル魔君を信じるしかない」
やよい「ヒル魔さん、お腹壊したりしてないでしょうか?」
春香「どちらかと言うと、対戦相手のお腹を壊してそうな類の気がする」
ザッ
冬馬「別に腹なんか壊しちゃいねぇよ」
真美「あーっ! あまとうだー!」
冬馬「あまとうじゃねぇ!」
北斗「チャオ☆ 今日はよろしく頼みますよ」
P「本番直前に敵情視察か。大した余裕だな」
翔太「と言われても、舞台袖はここしか無いんだから、本番前にもなれば一緒になるでしょ?」
千早「それもそうね」
雪歩「ジュピターさん」スッ
春香「雪歩……」
冬馬「……萩原雪歩。面と向かって話すのは初めてだな」
雪歩「はい。私が……あまり、度胸が無くて、顔も合わせられなかったから……」
冬馬「へっ! そんな貧弱なメンタルで俺達と戦おうなんざ、百年早いぜ」
翔太「それに、このライブ、勝った方の事務所が2000万円もらえるんでしょ?」
北斗「3000万じゃなかったか?」
律子(また増えてる!?)
雪歩「わ、私、ひんそーでちんちくりんで、皆の足を引っ張ってばかりのダメダメですけど……」
雪歩「それでも」キュッ
冬馬「……!」
雪歩「導いてくれた人がいて、応援してくれた皆がいたから、今日、私はここに来ています」
雪歩「だから、勝ちたいです……勝ちます」
翔太「へぇ……」
北斗「冬馬……どうやら彼女は強敵だぞ」
冬馬「……言ってくれるじゃねぇか」ギリッ
冬馬「だがな。俺達だって今日のためにハンパない練習積んできてんだ。
自分だけが特別だと思うなよ」
冬馬「ステージで、格の違いってヤツをお前らに見せつけてやるぜ!」
貴音「その言葉、そっくりそのままお返ししましょう」
冬馬「な、何っ!?」
貴音「萩原雪歩が」
雪歩「うえぇぇっ!? た、貴音さん!」
律子「そりゃ、あなたが勝負するんだから、あなたが見せつけるんでしょうよ」
冬馬「口の減らねぇヤツらだぜ、765プロ……!」ワナワナ…
パッ!
冬馬「ん?」
真美「また会場の、モニターがついたよ?」
伊織「また何か映像が流れるのかしら」
『会場に来ている観客諸君!』
P「く、黒井社長!?」
北斗「いつの間にか、こんなビデオを用意していたなんてねぇ」
翔太「クロちゃんこういう所、変にマメだよねー」
『ウィ。そう……私は961プロダクションの社長、黒井崇男だ』
『765プロとかいうチンケなプロダクションが調子に乗っていると聞いてなぁ?』
『そんな井の中の蛙共に、我が961プロが誇るアイドル達をご紹介しよう』
『どこぞの弱小事務所とは違う、圧倒的なパフォーマンスに驚嘆するがいい!』
『さぁ~降臨せよっ!! ジュピタァー!!!』
ワアアァァァァァ…!!
『~~! ……~~……♪』
キャアァァァァァ…!!!
律子「さすがに、レベルが高いわね。所作の一つ一つ、どれを取っても繊細で無駄が無いわ」
冬馬「当然、だぜ! 今日の俺達があの程度だと思うなよ。
もっとすげぇの見せてやるからな!」
響「ぐぬぬ……!」
『と、いう訳で……ジュピターの魅力、諸君らにも存分に分かってもらえたと思う』
『それに引き換え、あの765プロの萩原雪歩とかいう女はぁ……?』
『ぶっ!』
『こ!』
『ろす!!』
『Yeah―――!!!』
『いえぇぇぇぇいっ!!』
律子「あ、アレはっ!?」
P「泥門高校に行った時の、掛け声! どこであんな映像を……!」
ザワザワ…!
真田「あぁーっと!! これはマズいです!」
真田「コンプライアンスだかなんちゃらが厳しいこのご時勢
アイドルとしては非常に不適切な言動が会場に流れてしまいましたー!!」
真田「素人目にもこれはとってもマズいヤツじゃあないでしょうか、ねぇ熊袋さん!?」
熊袋「素人って言っちゃったよ。でも……ある意味アメフトだから許される掛け声とも言えます」
熊袋「765プロにとって、逆風には間違いないでしょう。961プロの周到な戦略ですね」
『ハンッ! やーれやれだ、こんな下品で野蛮なアイドルを擁立するなど、
やはり下賤な事務所はやる事が違うなぁ~?』
『常識的な感覚を持っている観客諸君らであれば、
どちらがアイドルとして正しい姿であるか、分かってもらえる事を期待している』
『では、せいぜい楽しんでくれたまえ! ハァーッハッハッハッハ!!』
伊織「マズイわね……今の、印象は最悪よ」
亜美「で、でもぉ! アレは本当にアレしちゃう意味じゃなくって、気合を入れるっていうか……!」
貴音「そう、好意的に受け取ってくれる方々だけではないでしょう」
響「うわーん! どうするんだ、あんなの卑怯だぞー!!」ワシャワシャ
北斗「卑怯も何も、実際にああいう事を言ってしまっているのは、そちらの方じゃないのかい?」
春香「うぅ……何も言い返せない」
冬馬「純粋なパフォーマンスだけで勝負したかったのに、あのオッサン……余計なマネをしやがって」
翔太「でも、ぶっちゃけこの勝負、もう決まったようなもんかな?」
雪歩「ううん」フルフル
千早「萩原さん?」
冬馬「……?」
雪歩「ヒル魔君も、泥門高校の皆も、ずっと私に良くしてくれたから」
雪歩「確かに、あの掛け声は、とても恐ろしくて物騒なものではあるけれど、その……」
雪歩「私、後悔はしていません。もし、それが原因で、負ける事になるとしても」
雪歩「後ろめたい事をしたとは、思っていません」
あずささん「雪歩ちゃん……」
冬馬「へっ! 開き直ってりゃ世話ねぇぜ。あんな事言ってファンのハートを掴……」
『続いて、765プロ側のプロモーションビデオをどうぞ』
冬馬「あん?」
律子「765プロの、PV……?」
P「何か作ったのか?」
律子「私は何も知りませんよ」
律子「まさか……」
『ハンッ! やーれやれだ、こんな下品で野蛮なアイドルを擁立するなど、
やはり下賤な事務所はやる事が違うなぁ~?』
やよい「あ、あれっ!?」
響「黒井社長じゃないか! どうしてアイツが出てくるんさー!?」
千早「いいえ、それだけではないわ。これは……」
『常識的な感覚を持っている観客諸君らであれば、
どちらがアイドルとして正しい姿であるか、分かってもらえる事を期待している』
貴音「先ほどと、同じ映像……?」
『では、せいぜい楽しんでくれたまえ! ハァーッハッハッハッハ!!』
パッ!
『……お、オホン』
春香「あ、あの子。泥門高校アメフト部の、マネージャーさんだよね?」
『ところが黒井社長は……』
『765プロの萩原雪歩の強さを知ると、態度を一変』
『ヤダヨー、負けちゃうヨ~~! 萩原雪歩、強すぎるヨー!』ガタガタ
『おしっこチビっちゃったヨ~~!』ガタガタ
律子「!? ……ぶふっ!」
亜美「あ、アハハ!! 何アレー!!」ゲラゲラ!
北斗「黒井社長が、に、ニワトリになってる……!」プクク…!
『おおお! 鳥うまそー!』バシィッ!
『ひぃぃ、逃げろ!』
『太陽拳!』ビカッ!
『ひぃ、眩しい!』
ドシーンッ!
『おうふっ!?』
『貴様ら765プロの手先共がこのセレブな私によくも…!』
『ハンッ』
『ハ?』
『はぁ?』
『はぁああああ!?』
『アハーハー!』
ズドドドドドド…!
『ぴぎゃああああぁっ!!』
ギャリギャリギャリ!
『あががががががっ!!』
ジュージュー…!
ムシャムシャ… パクパク…
ドッ!! ワハハハハハハハ…!!
真美「ひぃー!! ひぃー!!」ゲラゲラ!
春香「アハハハハハ!! わ、笑っちゃいけないんだけど……!」
千早「く、くふふ……!!」
黒井「えぇぇぃっ!! 何だあのビデオは、消せっ!! 消せぇ!!」プンスコ!
スタッフ「そ、それが、システムが何者かにハックされているらしく……!」
「ケケケ……NASAエイリアンズの時に作ったヤツに、
糞アゴヒゲと糞チアの分をちょいと足して、再利用」カタカタ…
「さて、仕上げだ」カタカタ カチッ
パッ!
P「こ、今度は何だ? また映像が切り替わっ……」
律子「あれは……この会場の外?」
真田「どうやらこの映像は、生中継のようですね!!」
熊袋「王城の、桜庭春人選手と……泥門デビルバッツの姿が見えます!」
~会場外通路~
ドローン「」ヴィーン
ケルベロス「ガアァッ!!!」ドドド…!
セナ「ひぃぃっ!! け、ケルベロスが……!?」
モン太「何でカメラを背負って、こっちに走ってくんだよ!?」
ケルベロスカメラ「」ジィーー…
桜庭「そういえばこのバッグ、ほのかに焼肉の匂いがするような……」
一同「それだーっ!!」ガビーン
黒服達「高校生のガキ共め! 大人しくしろ!!」ザッ!
幸光「前門の虎、後門の狼か……!」
夏彦「どのみち、進む方向に代わりはないさ!」グッ
桜庭「あぁっ!」
桜庭「行くぞ! 泥門と王城、ライブイベント限りの共同戦線だっ!!」
【961 PRO. V.S. DEIMON & OHJOH】
一同「うおおおぉっ!!」ダッ!
黒服「なっ!?」
黒服「こ、こいつら……!」
真田「こ、これは……!」
熊袋「黒木君と小結君が、黒服の人達への壁となる間……」
熊袋「泥門後衛(バックス)陣のセナ君、モン太君と、石丸君……
そして、控えの雪光君とえぇと、何かもう一人!」
熊袋「い、今までの泥門のメンバーリストにはありません!
アゴヒゲの人までもが、王城の桜庭君のリードブロッカーとなって……!」
夏彦「ジェントル瀧夏彦と呼んでくれ!」キラーン
モン太「何言ってんだこのバカ!!」
伊藤「さ、桜庭……ちゃん……?」
伊藤「あんな必死で、アメフトを……!」
小結「ふごぉおぉぉぉっ!!」グオオッ!
黒服「な、何だコイツらのパワー……!?」
黒木「いけぇオラァァァァッ!!」ガガガッ!
桜庭「ッ!!」シュパァッ!
真田「抜けたーっ!!」
ファン「キャーッ!! 桜庭クーン!!」
ファン「さ、桜庭くん……!」ガクッ
伊藤「行けぇーー!! 桜庭ちゃぁーーーんっ!!!」
モン太「泥門と王城、即席チームの連携マックスだぜ!!」
セナ「で、でも、まだ黒服の人達がたくさん……!」
黒服「ここは通さぁん!!」ザザッ
石丸「む、無理なんじゃないかなこれ……」
雪光「……!」
雪光「皆っ!」
夏彦「何だいムッシュー!」
雪光「僕の後ろについてっ!」ダッ
桜庭「えっ!?」
セナ「そんな、雪さんの力じゃ……!」
黒服「オラァァッ!」バシッ
雪光「うわあぁっ!!」ズテーン
モン太「やべぇ!! いくら何でもムチャだぜ雪さんっ!!」
黒服「何だぁ? コイツだけやけにヒョロガリだぜ」
雪光「そう、僕の力じゃ満足に相手なんてできない……」
雪光「だから、こういう手に頼らざるを得ないんだ」スッ
つ 萩原印の焼肉のタレ
黒服「ん?」クンクン
黒服「何だこれ、焼肉のタレがスーツに……」
黒服「あっ」
ケルベロス「ヘッヘッヘッ……」シーカッシャ シーカッシャ ←ナイフとフォークを研ぐ音
黒服「何ぞこの犬ぅー!?」
黒服「何で二足歩行ぉー!?」
ケルベロス「ガッフォ!!!」ドドド…!
黒服「ひええぇぇぇっ!!」
ダダダ…!
桜庭「よしっ、この階段を降りて、後は会場まで一直線だ!!」ダッ!
黒服「待てぇぃっ!!」ズラァッ!
モン太「くっそ! いい加減しつこいぜ!!」
セナ「……!!」グッ
桜庭「アイシールド21!」
セナ「桜庭さん……!」
桜庭「アレくらいの連中なら、君にとって何のことは無いだろう!」
ビッ!
セナ「う、わっ!」パシッ
桜庭「皆、アイシールドの道を開けるんだ!!」ガッ!
石丸「よ、よしっ!」
モン太「壁マーックス!!」ガッ!
夏彦「天才僕のジェントルブロック!!」ガガッ!
黒服「ぐっ、お、往生際の悪い……!」
桜庭「行けぇっ!!」ガガッ!
セナ「……!」コクッ
グッ…
ギャオッ!!
黒服「な……!?」
ズバァッ!
黒服「何だアイツは!! 何だあのスピード!?」
真田「来た来たァーー!! 泥門デビルバッツの伝家の宝刀!!」
真田「謎のランニングバッカー、アイシールド21の電光石火の走りが炸裂ゥーー!!!」
熊袋「な、NASAエイリアンズ戦とは、段違いの走りです!」
熊袋「一体、どんなトレーニングを……!?」ゴクリ…
律子「すごいっ!! 陸上選手並みの、あんなスピードで走る人が!」
やよい「うっうー! まるで光みたいですー!!」
響「セナー! ちばりよー!!」
真美「へっ?」
伊織「セナ? 何言ってんの?」
千早「我那覇さん。あのアイシールドさんと、小早川さんは別人よ」
響「えっ? な、何を言ってるんだ皆?」
響「どっからどう見てもセナじゃないか!!」
セナ(い、行けるかも……!)
セナ(いや、行けるかもじゃない……ヒル魔さんがつきっきりで指導した雪歩さんのために……)
セナ(雪歩さんに、このマイクを届けるために……!!)
セナ「行けるかもじゃない、行くんだっ!!」
黒服「こっちだ、逃がすなっ!!」ザッ
セナ「やっぱ無理かもー!」ガーン
グオッ
戸叶・十文字「うおらあぁぁぁっ!!」ガガガ!
栗田「ふんぬらば!!」ガガッ!
黒服「うおおおおぉっ!?」
セナ「み、皆っ!!」
黒服「く、こ、この……コイツらのどこに、何でこんな力が!」ググッ…!
十文字「生憎、お前らがアイドルの世話にお熱になってる間にな」
十文字「こっちは、どっかの野郎のせいで、すっかりアメフト漬けになってんだよ!」
戸叶「アメフトバカ、ナメんじゃねぇぞオラァッ!!」グオォ!
黒服「う、うわあぁあぁ!!」ググッ…
栗田「ふんぬらばぁ!!」グオォッ!
【図】
●●戸十 栗●●
セナ
↓
●●戸十 栗. プチッ
セナ
グオオッ!
セナ「ひ、開いたっ!!」カッ!
シュバアッ!!
戸叶「っし!!」ガッツ!
栗田「やった!」
黒服(大)A「マッタク、フガイナイ」ズゥーン
セナ「いいぃっ!?」
黒服(大)B「ココハ、トオシマセーン」
真田「おおぉっと、ここでまさかの961プロ黒服のボス二人組が登場だァーーッ!!」
真田「二人とも何という巨体ッ!! 間違いなくスーツは特注でしょう!!」
熊袋「喋り方からすると、日本人では無さそうですね」
【961 PRO. BOSS×2 V.S. SENA】
セナ(だ、ダメだ……!)
セナ(こんな、通路のほとんどを塞がれちゃったら……)
セナ「ていうかどんだけ巨体っ!?」ガビーン
黒服(大)A「オナワニ、ツキ・ナ・サーイ」グアッ!
ブオッ!
真「せぇいやぁっ!!!」ドガッ!
黒服(大)A「ヌゥッ!?」グラッ
セナ「あ、き、菊地真さんっ!?」
進「……!!」ゴキッ!
『スピアタックル』ズガァッ!!
黒服(大)B「ガッ!? ファ……!!」グラッ
セナ「!? し、進さんっ!!」
進「行けっ!!」
真「早く、雪歩の所へ!!」
【961 PRO. BOSS×2 V.S. SENA & MAKOTO & SHIN】
セナ「はいっ!!」ギュアッ!
『デビルバットゴースト』
ゴオオォォッ!!
進「!?」
進(あの走りは……!!)
真田「あぁぁーーッと!!
王城の最強ラインバッカー進清十郎と、765プロの菊地真君の援護を受けてぇ!!」
真田「見事にラスボスをも通過ーッ!!」
熊袋「ラスボスて……」
ワアァァァァァァァァッ!!
「すげぇー、何だ今の!」
「アメフトだってよ! このチラシにある、泥門とかいう高校生らしいぜ!」
「さっきすごいタックルしたあの黒髪の人も素敵ー!」
「雪歩ちゃんのマイクを運んでくれてるんだってよ!」
「すげぇ凝った演出だなっ!」
「行けー、頑張れー!!」
ワアアアアァァァァァァァッ!!!
鈴音「やーーっ!! 会場の人達が、泥門デビルバッツを応援してくれてるー!!」
溝六「ヒル魔の野郎、泥門のPRも目的のうちか!」
まもり「……!」
まもり「ヒル魔君の言っていた、雪歩ちゃんがキーパーソンになるって、これの事……!」
真「へへっ、やっりぃー!!」ガッツ!
進(……今の小早川セナの走り)
進(俺のスピアタックルで棒立ちになった所を抜いたように、普通の人間には見えただろうが……)
進(あの超高校級のスピードを、全く落とさずに左右に消える……)
進「クロスオーバー……ステップ…………!」
セナ「……!!」ダァッ!
黒服「早く、早く会場の扉を閉めろ!!」
ガァァ…!
セナ「ひぃぃっ、間に合わないっ!!」
十文字「いや、行ける」
十文字(お前の脚なら行ける……!)
十文字「翔べッ!!」
セナ「……ッ!!」バッ!
黒服「なっ!?」
オオオオォォォッ!!
「食らいやがれ」
「40ヤード(36m)4秒2、光速の人間砲弾……」
『デビルバットダイブ』
ギュバアァッ!!
黒服「何ぃーー!?」
真田「扉を抜けたァーー!!!」
真田「そして、アイシールド21が会場の中に今ダァーイビーーング!!」
セナ「やっ……!!」
セナ「あっ」
雪歩「あ、アイシールドさん……!」
律子「い、勢いがつきすぎて、内廊下の手すりを飛び越して……」
P「観客席へ……まずい、真っ逆さまだ! 大事故になるぞ!!」
セナ「あ、あぁぁ……!」
セナ(そりゃ、そうだよね)
セナ(調子に乗ってジャンプしちゃったけど……)
セナ(普通に考えて、会場の中は、防具を着けていない一般のお客さん達で一杯で……)
セナ(僕みたいな貧弱でも、タックルしたら怪我しちゃうよねー)
セナ(大事故に、なっちゃうよねー、的な……終わったかなーなんて)
ガシッ
セナ「えっ?」
セナ(う、上から、僕を誰かが……飛んでる最中なのに……?)
ヒル魔「よくやった、糞チビ」
セナ「ひ、ヒル魔さんっ!?」
真田「こ、ここでまさかの泥門デビルバッツ悪魔の司令塔!!」
真田「ヒル魔妖一君が、な、何と……!?」
熊袋「ショー演出用のワイヤーで自分の体を吊って、その状態でアイシールド21をキャッチ……!」
ヒル魔「Ya――――Ha――――!!!」ガアアッ!
セナ「ひいいいぃぃぃっ!! 怖いぃぃぃぃぃっ!!!」
雪歩「ヒル魔君っ!!」
伊織「な、何てハデな登場……!」
P「ちょ、ちょっと待て! ワイヤーアクションは演者を吊るための人員が必要だ!」
P「今、ヒル魔君を吊っているワイヤーを操っているのは一体……!?」
ギュッ グイィ…!
ムサシ「……相変わらず人使いの荒い野郎だ」グィーッ
真田「ヒル魔君がアイシールド21を抱えたまま、ステージまで一直線ーー!!」
スタッ!
ヒル魔「悪魔の走りでフィールドをねじ伏せるノートルダム大のエースランナー!
アイシールド21が所属する泥門デビルバァッツ!!」
ヒル魔「コイツの走りが見れる高校アメフト東京大会初戦は、一週間後の13時からだ!!
今のが生で観たけりゃ、会場までお前ら死ぬ気で来やがれっ!!」
ワアアァァァァアァァァァッ!!! ヒューッ……!!!
律子「ステージに降り立った後の第一声が、アメフト大会の宣伝……」
P「大したタマだ」
雪歩「ひ、ヒル魔君……すごいねいきなり」
ヒル魔「待たせたな糞モグラ、こっからがようやく本番だ」
セナ「あ、あのぉ、僕はもうこの辺でいいでしょうか。ば、場違い感が…」
ヒル魔「それでぇ~?」クルッ
セナ(聞いてない!)
冬馬「チッ、無茶苦茶な事しやがって」
冬馬「そんなアイドルと関係無い演出で会場を沸かせたってなぁ。
結局はステージの上でパフォーマンスできなきゃ意味ねぇんだよ!」
翔太「冬馬君、ワイヤーアクションやった事無いから妬んでるんだよ」コソッ
冬馬「なぁっ!?」
北斗「あまり悪く思わないでくれ、これも君達の演出を認めている証拠さ」
冬馬「か、勝手な事言うんじゃねぇ!」
ヒル魔「おーそうかそうか、今のじゃ物足りねぇか」ケケケ
ヒル魔「ウチの学校の敷地内に無断で侵入して隠し撮りした映像を公開するっつー違法行為を、
こうして公衆の面前で披露する961プロ様はやはり一味違うよなァ?」
冬馬「なっ……!?」
響「や、やっぱ違法なのか?」
春香「う、うーん……不法侵入、みたいな感じかな?」
伊織(コイツだって黒井社長の肖像権侵害してそうな映像勝手に流してたけどね)
ヒル魔「そんなお行儀良い961プロが、まさか俺達の試合前の掛け声を馬鹿にしていたとはな。
アイドルと関係無い演出で沸かせたって意味ない、って言ってたクセに?」
ヒル魔「相手を殺すつもりで倒そうだなんて下品な言葉、まさか言えないよなァ。
コソコソ他人を叩くのに精一杯な小心者の、慎ましやかな961プロ様じゃなァ~?」ケーケケケ
セナ(大勢のファンの目の前で、トップアイドルさんをめちゃめちゃ煽ってるよこの人……)
冬馬「な、ナメんじゃねぇ!! 俺達が765プロにビビッてるって言いてぇのか!?」
冬馬「俺達はそんな卑怯なマネをして勝とうだなんて思っちゃいないぜ!
お前達を隠し撮りして、勝負する前から蹴落とそうだなんてな!!」
北斗「おいおい、冬馬」
黒井「ムッ!? い、いかん! アイツを止めろ!!」
冬馬「ビビッてない証拠に、俺も言ってやるぜ!! そして宣言してやる!!」
冬馬「皆も、俺と一緒についてきてくれよな!!」クルッ
ワアァァァァァァァッ…!!
亜美「あっ。あまとうコレ言っちゃいけないヤツじゃない?」
千早「好きにさせてあげましょう」
冬馬「……」スゥゥ…
冬馬「ぶっ!!」
冬馬「こ!!」
冬馬「ろすっ!!!」
観客「Yeah――――!!!」
イエェェェェェ…!!!
~~
黒服「ガッ、ハ……!」ドサッ
阿含「……?」
阿含「随分、物騒な掛け声だな……本当にアイドルのライブか?」
テクテク…
初條「ようやく着いたよー、たぶん時間ピッタリだねぇ」デレデレ
初條の彼女「やぁんもう、早く入ろうよー」イチャイチャ
阿含「寄こせカス」べちーん
初條「へぶっ!?」ドテーッ
初條の彼女「出会い頭にチケットを強奪―っ!?」
ワアァァァァァ…!!! パチパチパチ…!!!
翔太「あちゃー……言っちゃったよ」
北斗「どうやら、キミの手の上で踊らされちゃったようだね。765の臨時プロデューサーさん」
ヒル魔「ケケケ、どっかの糞ブラックといい、直情バカは扱いやすくて助かるぜ」
黒井「ぐぬぬぬ……あの男、猪口才なマネを……!」ワナワナ
律子「冬馬君に同じ掛け声を言わせる事で、さっきの雪歩のマイナスイメージをチャラにした……」
P「そして同時に、泥門デビルバッツのイメージアップとPRか」
P「この土壇場で、あの臨機応変な発想と対応力……
ヒル魔君は、出るとこ出たらとんでもない大人物になるんじゃなかろうか」
律子「あまり想像したくありませんね」
冬馬「ふぅ……さて、余計な前フリはここまでだ」
冬馬「さっさと決着をつけようぜ、765プロ。
文字通り、アイドルとしての勝負をな」
ヒル魔「ケケケ、どうやら良い具合に観客共もあったまりやがったようだしな」
伊織「いよいよね……しっかりやんなさい、雪歩っ!」
雪歩「う、うんっ!」コクッ
小鳥「皆様、大変長らくお待たせいたしました。ただいまより、特別イベントとして……!」
小鳥「961プロのジュピターと、765プロの萩原雪歩による、ライブ対決を行いますっ!!」
ワアアァァァァァァァァァァッ!!!!
【JUPITER V.S. YUKIHO】
デビバ『Ya――――Ha――――!!!』
ゆきぽ『POEEEE!!』
くろちゃん『HAHAHAHAHA!!!』
らせつ『DAZE!! DAZE!!』
桜庭「…………」
スッ
高見「来ていたか、桜庭」
桜庭「! 高見さん」
ワアァァァァァ…!
高見「未練があるか? アイドルの世界に」
桜庭「……全くありません」
桜庭「脈絡も無しにスカウトされて、放り込まれて、訳も分からず使い回された……
初めから、俺の住む世界ではなかった」
桜庭「でも……」
――どこまでも私、ダメダメだけど……
――強くなりたいと願った自分を、裏切りたくないんです。
桜庭「俺がアレだけ言っても、最後まで彼女は、自分がダメだと頑なに言い張った」
桜庭「俺にとっての進のように……」
桜庭「そういう才能の壁に、誰しもいつかはぶち当たる……彼女にもそれが分かっていたはず」
桜庭「それでも、トップアイドルという夢を見る事を、あの子は諦める気が無いんです」
桜庭「その先にある結末を、俺は見てみたい。
自分の非力さを見つめた上で、なぜ立ち向かうのか、何を得るのか……」
高見「……才能の壁に立ち向かう、か」
高見「俺も興味がある。
自分を信じて疑わないジュピターの強さと、自分を否定し続けた萩原雪歩の強さ」
高見「見せてもらおうか……どちらの強さが本物なのかを」コオォォ…
高見「このVIP席で」
桜庭「ていうか……大田原さん、どこに行ったんですか?」
高見「会場の近くでパンツを脱いで、警備員に捕まったらしい」
進「……」
黒木「てめっ、このデブもっと寄りやがれ!」
戸叶「ステージが見えねぇじゃねぇか!」
栗田「ご、ごめん、そう言われてもぉ……」
やいのやいの
鈴音「やっぱ妖一兄って、結構面倒見良いよね」
まもり「うーん、そ、そうね……」
冬馬「まずは俺達からだぜ!!」
翔太「僕のダンスで燃え尽きさせちゃったらゴメンねー」
北斗「それじゃあエンジェルちゃん達、チャオ☆」
テクテク…
キャアアアァァァァァァ…!!!
~~♪
ワアァァァァァァァァァァァ…!!!
春香「や、やっぱりすごいなぁ、ジュピターの皆……」
響「ううぅぅ……ほ、本当に観客の皆、燃え尽きちゃわないか心配になる盛り上がり方だぞ」
貴音「鬼ヶ島羅刹の、普段の豪語は、絶対に負けないという覚悟の現れ……
彼らもまた、真、並々ならぬ研鑽を積んできたのでしょう」
雪歩「…………」ドクン… ドクン…
ヒル魔「おい糞モグラ」
雪歩「は、はいっ!?」ドキッ!
ヒル魔「お前は観るな。こっち来い」
雪歩「ふぇ……?」パチクリ
ヒル魔「聞こえねぇのか」
雪歩「は、はい! ごめんなさい……」
テクテク…
伊織(……いつもと様子が違うわね)
美希「あれー、雪歩は?」ヒョコッ
あずさ「あら~、美希ちゃん、間に合ったわね~」
千早「いえ、間に合っていないような……」
真「ボクが探しに行っても、全然見つからないんだもの。
そうこうしている内に何だかんだ巻き込まれちゃったし……」
真「ところで、雪歩はどこに行ったの?」
亜美「ゆきぴょんならさっきヒルヒルが……」
伊織「亜美っ!」
亜美「うえっ!?」ギクッ
伊織「今は、二人だけにしておきなさい」
伊織「私達は、余計な邪魔をしない方がいいわ」
あずさ「伊織ちゃん……うふふ」
美希「……アハッ☆ 何ともデコちゃんらしいの!」ツンッ
伊織「デコちゃん言うな! つつくな!」ムキーッ!
真「そっか」ポリポリ
真(ヒル魔……雪歩を頼んだよ)
~舞台裏~
ヒル魔「……ケケケ、待ちに待った本番だな」
雪歩「う、うん……」
ヒル魔「やるだけやった」
ヒル魔「自分は頑張った」
雪歩「……」
ヒル魔「これ以上の頑張りは考えられない」
ヒル魔「だから、どんな結果になろうと、ステージ上では今の自分にできる精一杯のことをやろう」
雪歩「……」
ヒル魔「なんて事を考えている糞カスゴミクズはぁ……!!」ジャキキッ!
雪歩「…………」
ヒル魔「……ケケケ」
ヒル魔「どうやら、俺の目の前にはいねぇようだな」スッ
雪歩「……ううん」フルフル
カタカタ…
ヒル魔「……」
雪歩「怖いの……」カタカタ…
雪歩「ヒル魔君や、皆に、あれだけ支えられて、倒れそうになるくらいまで頑張って……」
雪歩「こ、これだけやって、もし……」ガタガタ…
雪歩「もしっ! 何も、で、できなかったら……」
雪歩「負けるのが怖いんじゃないの……私の……私が、今までの成果を、何も……」
雪歩「せっかくやってきたレッスンの、成果を、全然……は、発揮、できなかったら……!」
雪歩「自分の力を、何も、出せないまま終わっちゃわないか、と、とても怖くて……!!」ガタガタ…
ヒル魔「今日まで君が行ってきた……」
雪歩「へ?」
ヒル魔「気が遠くなるほどの鍛錬は、ここぞという時、君を守る自信という名の武器となる」
ヒル魔「しかし、あるいは、それは気負いという名の刃となって君に立ちはだかるだろう」
ヒル魔「飼い慣らせるかどうかは、君次第だ」
ヒル魔「ミシガン大学の名将、アレン・ゴールドウィンが、
カレッジフットボール史上初の大会四連覇をかけた決勝戦の前に、選手に語った言葉だ」
雪歩「…………」
ヒル魔「ステージに上がる前から、膝が震えるほど緊張してるってんなら、
お前のやってきた努力は本物だ」
ヒル魔「あとは、お前の腹一つなんだよ」
雪歩「私の……」
スッ
律子「…………」
ヒル魔「ビビらせたもん勝ちだ」
雪歩「……!」
ヒル魔「努力を重ねた自分の、イメージできる最高の姿が最大の敵だってんなら……」
ヒル魔「その自分をビビらせろ」
雪歩「自分を……ビビらせる?」
ヒル魔「ケケケ、今まで散々ダメダメだのちんちくりんだの罵ってやがったテメェ自身にビビッてたら世話ねぇ」
ヒル魔「ぶりっ子こいてた化けの皮が剥がれてきたか?」
雪歩「そ、そんな、違いますぅ! 私は、自分を変えたいだけで……!」
ヒル魔「なら好都合だ。変えるためのステージなら、すぐそこにある」
ヒル魔「夢を叶えるチャンスが目の前にあって、疼かねぇヤツがいるのかよ」
雪歩「夢……!」
ヒル魔「死に物狂いで獲りにいこうと、お前は今日まで練り上げた」
ヒル魔「あとは、獲るだけだ」
雪歩「…………」
ヒル魔「ケケケ、自分に勝ってこい」
ヒル魔「自分にビビッてステージ上でウレションして、ネットに画像をばら撒かれやがれ。
そして鬱病になってハゲ死ね」
雪歩「そ、そんなぁ!?」
雪歩「でも…………えへへ」
雪歩「…………」スゥ
雪歩「ヒル魔君」
ヒル魔「あん?」
雪歩「ありがとう。行ってきます」コクッ
タッタッタ…
ヒル魔「…………」
ワアァァアァァァァァァァァァァ…!!!! パチパチパチ…!!!
冬馬「皆、ありがとう!!」
翔太「これからも、僕達ジュピターをよろしくね!」
北斗「チャオ☆」
キャアアァァァァァァァァァァァ…!!!!
P「……悔しいが、文句なしのパフォーマンスだな」
真美「こ、これ、ゆきぴょんでも勝てるかどうか心配だよぅ……!」ハラハラ
伊織「ここまで来たら、信じるしか無いわ」
美希「ミキは、初めからなーんにも心配してないよ?」
響「ほ、ホントかー?」ドキドキ
タッタッタ…!
春香「あっ、雪歩っ!」
雪歩「皆、お待たせー!!」
P「時間が無い! すぐにステージへっ!」
雪歩「はいっ!!」
やよい「雪歩さんっ! はいたーっち!!」サッ
雪歩「えへへ。はいたーっち!」パチンッ!
真「雪歩、ボク達も!」
雪歩「うんっ!!」
パンッ! パチン! …
雪歩「行ってきますぅ!!」ダッ!
タッタッタ…
真「雪歩……」
ヒル魔「…………」
伊織「いよいよね……」ゴクリ…
律子「……ヒル魔君」
ヒル魔「……何だ、糞パイナップル」
律子「ごめんなさい……さっきのあなたと雪歩の話を、聞いていたわ」
律子「余計な関係性になっていないか、心配だったから。でも……」
律子「ありがとう。雪歩は、良いコンディションでステージに臨む事ができたようね」
律子「アメフトにも、良い言葉があるのね。鍛錬は、自信にも気負いにもなるという……」
ヒル魔「あぁ」
ヒル魔「アレはさっき考えた」ニカッ
律子「はっ!?」
ヒル魔「口はどんだけ動かそうとタダだ」
ヒル魔「でまかせやハッタリでも、あのモグラがやる気になるんなら儲けモンじゃねぇか」
律子「……まったく、あなたという人は、つくづく底が知れないわね」
ヒル魔「テメェんとこのアイドルなら、底が分かんのか?」
律子「えっ?」
ヒル魔「俺は、まだアイツの底を把握しきれちゃいねぇ」
伊織「!?」
律子「……何ですって?」
ワアァァァアァァァァァ…!!!
雪歩「……み、皆さん」ドキドキ
雪歩「こんにちはっ!」ペコォッ!
雪歩「え、えぇぇと、な、何から話したら良いのか……!」
ドッ! ワハハハハハハハハ…!
ヒル魔「自主練しているとか言っていたが……」
ヒル魔「アイツ、俺とのレッスンの後、俺が手配した『死の行軍』用のロボットを一体借りて……」
ヒル魔「自分の家で、まったく同じレッスンメニューを、そっくりこなしてやがった」
律子「!? なっ……!!」
P「そ、それは……つまり、二倍のレッスンメニューを、雪歩は……!?」
響「し、死んじゃうぞ! 終わってからも自分で『死の行軍』をやってたのか!?」
伊織「! だから、あの雪歩型のロボットだけ、他のよりくたびれて……!」
雪歩「わ、私は……皆と比べて、ダメダメで、何やっても下手で……」
雪歩「いつも、迷惑をかけてばかりなんですけど……」
雪歩「ダメダメな自分を変えたくて、この世界に、入りました」
雪歩「それが、出来るかどうか……分かりません」
雪歩「私にとっては、それはとても困難で、険しくて……
ひょっとしたら、無理なのかも知れません」
雪歩「でも、それはたぶん……私にとっては、あまり関係が無い、というか、その……」
雪歩「辿り着けるかどうかじゃなくて、ただ、登りたかったんです」
雪歩「簡単に、叶えられるものじゃないからこそ、目指したかったんです」
雪歩「自分でもビックリするくらい、頑張って……」
雪歩「あぁ、いえ! あの、すごく頑張ったから、良いステージを期待してくださいってワケではなくて……!」ブンブン
雪歩「本当に……最後は、そんな自分自身を、ビックリさせてあげるしか、無いのかなって」
雪歩「だから……!」グッ
雪歩「私は、もう一度この言葉を言います」
雪歩「自分の殻を、破れるように……自分をビックリさせて、自分に勝てるように!」
オオォォ…!? ザワザワ…
雪歩「皆さんも、どうか、私について来てください!」
雪歩「皆の勇気を、私にください! お願いですぅ!!」
ワアアアァァァアァァァァ!!!
P「ま、まさか……!」
律子「止めなさい、雪歩っ!! そんな言葉、言ったらもう取り返しが……!!」
ムサシ「フッ……言わせてやれよ」
ムサシ「勝つ事だけを目指したヤツの、覚悟の咆哮だ」
スゥゥ…!
雪歩「ぶっ!!!」
「こっ!!」
「ろすっ!!!!」
雪歩「いええぇぇぇぇぇぇぇぇぇいっ!!!」
観客「Yeah―――――!!!」
イエエエェェェェェェェェェ!!!! ワアアアァァァァァァァァァァ!!!
鈴音「……!」ビリビリ…!
まもり「会場が、一つに……!」
ヒル魔「ケケケ、言ったろ」
ヒル魔「ビビらせたもん勝ちだってな」
タンッ キュッ! タタンッ!
雪歩「~~~~♪」
ワアアァァァァァ…!!!
桜庭「! これは……!」
高見「素人目にも分かる……」
進「爪の先まで行き渡らせた表現力に、決してブレないボディバランス」
進「激しい振り付けの最中でも、安定した歌声を保てるだけの肺活量」
進「そして……」
タン タタン…! タンッ!
雪歩「~~~♪ ~~~~ッ♪!」
ワアアアァァァァァァァァァァァァ…!!!
モン太「すげぇ……輝きマックスじゃねぇかよ……!!」
夏彦「アハ、ハー……こんなの、眩しすぎるじゃないか」
黒木「チキショウ、バカの言う通りだぜ……!」グスッ
小結「ふごっ……!」ウルウル
ヒル魔「自分なんてダメだと、常に自分を否定し続けた」
ヒル魔「最大の敵は、いつまでも勝つ事への自信がつかない自分自身だったってワケだ」
高見「“勝てるはずが無い”から、“勝てるかも知れない”になり……
“負けるはずが無い”まで練り上げるためのトレーニングがある」
高見「それはきっと、アメフトだけではなく、アイドルの世界でも一緒なんだろう」
高見「彼女は、たった一人で、自分自身へのおそれと戦い続け……
そのメンタリティが、凄まじい練習量をこなす地盤となり……」
高見「その成果が、今にある」
桜庭「自己評価の低い気弱な少女は、ステージの上では唯一無二の輝きを放つアイドルだった」
桜庭「あれは……アイドルの理想像です」
キュッ! タン タンッ!
ALRIGHT* 今日は泣いたら
ALRIGHT* 明日がもっと強くなる
頑張って!!
新しい一歩踏み出そう
律子「雪歩……!」ホロリ
あずさ「……素晴らしいわ、雪歩ちゃん」
雪歩「~~~ッ♪!」
雪歩(私……)
雪歩(変われたかどうかって、どうやって分かるのかな……)
雪歩(あれ、変わるって……何だろう?)
雪歩(いつから、私は、ダメダメな……)
――やーい、よわむしゆきほー!
雪歩(……あぁ、そうか)
例えばいつか今日が
懐かしく思う日が来ても
この気持ち色褪せないで
ずっとずっと忘れないで
雪歩(やっと分かった……だから、ヒル魔君……)
雪歩(ありがとう……!)グッ
タタンッ! キュッ タッ タンッ!
雪歩「~~~ッ♪! ~~~~♪!」
ALL LIGHT* 笑顔の光で
ALL LIGHT* 夢に太陽を上げよう
今すぐ
どこまでだって
さあ! 出発オーライ*
ワアアアアァァァァァァァァァァァァァァ!!!!
伊藤「これが、本物か……!」ボロボロ…!
黒井「…………」
高木「良いステージだ……彼のおかげだな」
黒井「……負けた方は、アイドル業界から強制追放。そういう約束だったな」
高木「生憎、私は約束を守るのが、昔からどうにも苦手でね」
黒井「フンッ……私は、貴様のそういう甘さが嫌いなのだ」
黒井「……昔からな」
セナ「う、うっ……すごいよぉ、雪歩さん……!」ポロポロ…
鈴音「良かったね……本当に、良かったね!!」グスッ!
まもり「うん……!」ツー…
セナ「今日の、雪歩さん……なんというか、上手く言えない、けど……」グッ…
進「……桜庭」
桜庭「ん?」
進「俺には、アイドルの事は分からない。だが……彼女に教えてもらった」
進「目指し続ける事の強さを」
セナ「挑んで、戦い続ける生き方を……教えてもらえた気がする」
阿含「………………」
冬馬「……フン」
北斗「どうやら……完敗、だな」
翔太「すっごいなぁ……僕達も、あそこまでなりたいな」
冬馬「なるに決まってんだろ。次は負けねぇ」
ワアアァァァァァァァ…!!
雪歩「はぁ……はぁ……!」
雪歩「あ、わっ……ふぇ……?」ジワァ…!
雪歩「あ、ありがとうございましたぁ!」ペコッ
雪歩「ありがとう……ございましたぁ……!!」ポロポロ…!
ワアアアアァァァァァァァァァァァァァァ!!!!! パチパチパチパチ…!!!!
ヒル魔「…………」
P「ヒル魔君……もし君が最初に出会っていたのが、アメフトではなくアイドルだったなら……」
P「さぞかし君は、優秀なプロデューサーになっていただろうと、俺は思う」
ヒル魔「仮定の話に構ってやれるほど、こっちはヒマじゃねぇ」
P「……そうか」
P(否定はしないんだな)
ヒル魔「それに……まだアイドルじゃなかったしな」
P「えっ?」
ヒル魔「こっちの話だ」
ワアアァァァァァァァァァァ…!!! パチパチパチ…!!
ヒル魔「………………」
タッタッタ…!
真「雪歩っ!!」
雪歩「真ちゃん……皆……!」
春香「すごかったよぉ、雪歩!」ガシッ
雪歩「うん……ありがとう……えへへ」グスッ…
雪歩「あっ……」
ヒル魔「…………」
雪歩「……ヒル魔君」
ヒル魔「……ケケケ、喜べ雪歩」
ヒル魔「今日からテメェは、糞モグラから糞アイドルに格上げだ」
雪歩「……うんっ! えへへ」ニコッ
伊織「あのね雪歩……糞とか言われて何喜んでんのよ」
雪歩「ううん、伊織ちゃん」フルフル
雪歩「私には、それで十分なの」
雪歩「ね、ヒル魔君?」
ヒル魔「知らねぇな」ケケケ
雪歩「えへへ」ニコニコ
ワアアァァァァァァァァァァァ…!!
――――
――――――
――――――
――――
『アイドル』
それは、女の子たちの永遠の憧れ
だが、その頂点に立てるのは、ほんの一握り……
そんなサバイバルな世界に、
13人の女の子たちが足を踏み入れていた。
「……選手諸君」
~高校アメフト大会 会場~
理事長「まずは、本大会の開催が、予定より大幅に遅れてしまった事をお詫びしたい」
理事長「高校スポーツの本分は、教育です」
理事長「ラフプレーがしばしば起こり得るこのアメリカンフットボールにおいてこそ、
健全な精神が尊ばれるであろう事は、一般的な常識でありましょう」
理事長「その中で、皆それぞれに思いの丈を込め、勝利を渇望し、
今日まで厳しいトレーニングを重ねてきただろうと思います」
理事長「だが、全国大会決勝(クリスマスボウル)へ行けるのは」
理事長「ただ一校のみなのです」
理事長「ラフプレーを励行するものでは決してない。だが……」
理事長「誤解を恐れず、真実を言おう」
理事長「アメフトは君達に、スポーツマンシップなど求めてはいない」
理事長「敗者に敢闘賞は無く」
理事長「勝者のみが栄光を得る世界」
理事長「君達の使命はただ一つだ」
理事長「勝て!!」
桜庭「……」
進「……」
セナ「…………」
理事長「ただ今より」
理事長「全国高等学校アメリカンフットボール選手権」
理事長「開会いたします!!」
ウオオオォォォォォォ……!!!
ワアアァァァァァァァ…!!!
~ライブ会場~
P「……雪歩」
雪歩「はい」
P「やっぱ……あの掛け声は、止めにしないか?」
P「パンクバンドとかじゃあるまいし、女の子のアイドルがあまり言うべき言葉じゃないぞ」
雪歩「……分かっています、プロデューサー」
雪歩「でも、私にとっては、大切にしたい言葉なんです」
P「気持ちは、分からなくはないがな……」ポリポリ
真美「まーまー兄ちゃん、ゆきぴょんの好きにさせてあげたまえよ」ヒョコッ
亜美「そーそー。ネコでも動かないようなガンコ屋さんだもんね→、ゆきぴょんはさ♪」ヒョコッ
貴音「亜美、それを言うなら、梃子でも動かない、では?」
亜美「そうともゆう」
律子「まぁ、不本意ですけど、アレを楽しみにしているファンも相当数いるようですし」
真「やっちゃいましょう、プロデューサー!」
P「うーん……よしっ、分かった! 行ってこい!」
雪歩「はいっ!」
~~
ザワザワ…
ヒル魔「さぁて、待ちに待った初戦だ」
栗田「ひぇぇ……網乃サイボーグスの人達、皆すごい体格だなぁ」
夏彦「アハーハー! 筋肉だけがアメフトじゃないですよ!」ピシーッ!
雪光「ほ、ホントに体柔らかいね夏彦君……」
モン太「パワーで負けようが、気力とキャッチマックス! で勝ぁつ!!」グッ!
ヒル魔「そうだ。俺達はクリスマスボウルに行く」
ヒル魔「必ず全員で行く!」
ヒル魔「それを邪魔しようってカス共が目の前にいるが……」
ヒル魔「どうする?」ニヤッ
~~
雪歩「……皆さん、今日は来てくれて、ありがとうございます」
雪歩「私はずっと、ダメダメでした」
雪歩「今でもダメダメです」
雪歩「そうして、突き落とされて……ついこの間、私は救われました」
雪歩「自分に勝て、って、言ってくれた人のおかげで、今の私がいます」
雪歩「そうして、ファンの人達を喜ばせることができるなら……」
雪歩「私は、もっともっと自分と戦って、ビックリさせて、勝ちたいって思うんです」
雪歩「ううん、私だけじゃありません」
~~
十文字「どうするもこうするも……」ニヤッ
戸叶「決まってんじゃねぇか」
セナ「雪歩さんのおかげで、こんなに泥門にもファンが増えて、だから……
恩返ししなきゃかなー、って?」
小結「女神っ!!」
黒木「あぁ、雪歩ちゃんっつー勝利の女神に誓って、ぜってぇ負けてらんねぇぜ!」
ヒル魔「ケーケケケケケ!!」ゲラゲラ
ヒル魔「揃いも揃って、お前らすっかり鼻の下伸ばしてやがる」
ヒル魔「悪魔は神には頼らねえ」
ヒル魔「むしろ俺達の世界の裏側にいる、女神ヅラしたモグラまで丸ごとビビらせてやれ!」
一同「おおおおぉぉぉっ!!」
雪歩「私が今立っている世界の、裏側にいる人達にも負けないように」
雪歩「私がもっとキラキラに輝いて、そこにいる人達もビックリさせてあげる事がてきたなら、って」
雪歩「だから、皆さん……殻を破って、私に勝つための勇気をくださいっ!」
雪歩「一緒に、お願いしますぅ!!」
ウオオオォォォォォォッ!!!
スゥゥ…!
ヒル魔「ぶっ!!!」
「こ!!」
「ろす!!!」
雪歩「いええぇぇぇぇぇぇぇいっ!!!」
ワアアァァァァァァァァァァ…!!!
~おしまい~
『アイドルマスター』と『アイシールド21』のクロスオーバーSSです。
終盤、アイドルマスターの楽曲『ALRIGHT*』の歌詞を 一部引用しております。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
それでは、失礼致します。
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません