【モバマス】龍崎薫「せんせぇは魔法使い!」 (136)


千川ちひろ「ん~っ」ノビー

モバP(以下P)「お疲れ様です。どうぞ、お茶です」コトッ

ちひろ「…………」ジー

P「紅茶の方が良かったですか?」

ちひろ「いえいえっ、そういうわけじゃないですよ? だた、何でかなぁと思って」

P「?」

ちひろ「プロデューサーさんって、一息吐こうかなぁと思ったらお茶を持って来てくれたり飴をくれたりするじゃないですか」

P「そうですか? 千川さんもそうでしょう?」

ちひろ「それはまあ、お仕事ですからね」ウン

P「いつもありがとうございます」ペコッ


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ちひろ「いえいえ、こちらこそ……」

ちひろ「じゃなくてですね」

P「違うんですか?」

ちひろ「私が言いたいのは、何でそんなにタイミングが良いのかということですよ」

P「そうですかね?」

ちひろ「そうですよ。仕事を取られている気がします」

P「そんなつもりは……」

ちひろ「あ、意地悪で言ってるわけじゃないですよ? ただ、私がプロデューサーさんに貰ってばかりなのが、こう……」

P「気に入らないとか?」


ちひろ「違います! 気を遣わせているみたいで申し訳ないと言うか、そんな感じです」

P「そんなことはないですよ。好きなだけです」

ちひろ「お茶を出すのが、ですか?」

P「はい。小さい頃、祖母がお茶を出すのが格好良く見えたんです」

ちひろ「格好良い?」

P「祖父が何も言ってないのにお茶を出したり御煎餅を出したり、それが魔法みたいに見えたんですよ」

P「それから真似をするようになって、祖父も喜んでくれるが嬉しくて、それが今でも続いているんだと思います」

ちひろ「へぇ~、お婆ちゃんに憧れていたんですね」

P「だって凄くないですか? まるで心を読んでいるかのような、あの自然な動き」

ちひろ(アイドルのこと以外でこんなに楽しそうに語るのって初めて見た気がする)


P「魔法の正体が知りたくて、あの頃は祖母について回ったもんですよ」ウン

ちひろ「ふふっ、魔法は教えてくれましたか?」

P「この魔法は年を取らないと覚えられないって言われました。泣きましたね、あの時は……」

ちひろ「あ~、その優しさは子供には伝わらないですよね」

P「ええ、お婆ちゃんを困らせてしまったことは今でも反省してます」

ガチャ!

龍崎薫「おっはよーう!!」

P「おはよう、薫」

ちひろ「おはよう、薫ちゃん」


薫「せんせぇ、あいお姉ちゃんは?」

P「まだ来ていないんだ。もうちょっとで来ると思うよ」

薫「そっかぁ、早く来ないかなー」

ちひろ「チョコレートのCM撮影でしたっけ?」

P「はい、二人ならイメージにぴったりだと思いまして」

ちひろ「あれ? 向こうからでなくて、プロデューサーさんが決めたんですか?」

P「僕が決めたと言うか、何度か話し合いをする中で案を出したら採用してくれたんです」

ちひろ「二人の関係は親子のような友人とありましたけど」

P「ええ、二人の距離感なら両方出せるかなと思いまして」


ちひろ「距離感?」

P「母親と言うと東郷さんのイメージが揺らいでしまうとも考えましたが、これなら違和感なく新しい一面を見せられる」

P「CMは短いですが与えるものは非常に大きいですからね。時にはドラマ主演よりも強く印象に残る場合もあります」

ちひろ「○○のCMに出てる人って言われたりもしますからね。そう考えると凄いですよね……」

P「個人的にはどれだけ時間が経っても記憶に残るものがCMだと思っています」

P「撮影とかは素人ですけど、やるからにはこっちもしっかり考えないと」ウン

ちひろ「採用して下さって良かったですね」ニコッ

P「ええ、頼りになる方ばかりです」


ガチャ

東郷あい「おはよう」

薫「あいお姉ちゃん!」

あい「おはよう、薫」

薫「今日はいっしょにお仕事だね」ニコッ

あい「ああ、こんな機会は滅多にないからとても楽しみだよ」

P「東郷さん、おはようございます」

あい「おはよう。待たせてしまったね」

P「いえ、まだまだ余裕はありますから問題はないですよ。あ、そうだ」

あい「どうしたんだい?」


P「のど飴どうですか? 檸檬味」

あい「フフッ、ありがとう。頂くよ」

P「薫にはこっちをあげよう」

薫「みかんだ!」

P(うん、二人ともいい感じだ)

P「それじゃあ、そろそろ行きましょうか」

あい「そうだね。よろしく頼むよ」

薫「いってきまー!」

ちひろ「行ってらっしゃい。撮影は大変でしょうけど、頑張って下さいね」ニコッ

P「はいっ、では!」

ガチャ パタンッ


撮影現場 控室

ガチャ パタンッ

P「ふ~っ、やっと着きましたね」

あい「お疲れ様、大丈夫かい?」

P「いやぁ、一日にこんなに頭を下げたのは生まれて初めてかもしれないです」

薫「はいっ、今日はよろしくお願いします。はいっ! せんせぇのマネ」ペコペコ

P「え、そんなだったかな」

薫「だった! カクカクしてた!」

P「そ、そっか、カクカクしてたかぁ……」

あい「張り切るのは分かるけれど、あれでは挨拶だけで疲れてしまうよ?」

P「申し訳ないです……」

あい「でも、気持ちは伝わったよ。私も薫も精一杯頑張るから見ていてくれ」ニコッ


P「と、東郷さん、ありがとうございますっ!」ペコッ

薫「ありがとうございますっ!」ペコッ

P「……薫はしなくていいんだぞ?」

薫「いいの?」

P「挨拶は大事だけど、薫は元気に挨拶するだけでいい」ウン

薫「そうなの?」

あい「頭を下げてばかりだと、相手の顔を覚えられないからね」

薫「あ、そっかー」

あい「深々と頭を下げるだけが挨拶じゃない。そうだろう?」チラリ

P「は、はい。その通りです」


あい「責めているわけじゃないよ?」

あい「ただ、君が簡単に頭を下げるような人物だと勘違いされるのは嫌なんだ」

P「東郷さん……」

薫「おこられてるの?」

P「ち、違う違う。心配してくれているんだ」

薫「心配かけちゃだめなんだよ?」

P「……そうだね。その通りだ」

P(ちょっと空回りしてた。落ち着いて行こう)


あい「少しは落ち着いたかな?」

P「はい、もう大丈夫です」

あい「フフッ。それは良かったよ」

P(東郷さんは凄いな。もっともっと頑張ろう。この人が、今よりも輝けるように)

コンコンッ

『失礼しまーす』

P「あ、スタイリストさんが来たみたいだ。東郷さん、薫、また後で」

あい「ああ、また後で」

薫「せんせぇ、またね!」

ガチャ パタンッ


撮影現場

P(思っていたより凄いセットだな)

監督「プロデューサーさん」

P「あ、監督、今日は宜しくお願いします」

監督「あははっ! さっき挨拶したばかりじゃないですか~!」バシバシ

P「そ、そうでしたね。どうしました?」

監督「薫ちゃんの役柄でちょっと」

P「何か問題が?」

監督「場面は夜。バリバリ仕事をこなす女性が、仕事に疲れてバスに揺られる」

P「そこに薫が演じる子供が近付いてきてチョコを渡す。でしたよね?」

監督「そうです。でも、この夜ってのがキビシイんですよ」

P「何故ですか?」

監督「大人が仕事を終えて帰る際のバス。そこに子供が乗っているってのが、です」


P「まさか、それで批判が来ると?」

監督「依頼元の○○はそう考えたみたいですね。で、急遽変更することになりまして」

P「変更はどの程度ですか?」

監督「場面に変更はありません。薫ちゃんの役柄は妖精に変更します」

P「………妖精」

監督「妖精」ウン

P「あの、そんなので大丈夫なんですか?」

監督「夜に子供がダメなら、子供じゃなくすれば良いんですよ。大丈夫大丈夫!!」

P「でも、急なことで大変でしたよね? ありがとうございました」ペコ


監督「いいんですよ。私も楽しみにしてたし、セット無駄にするわけにもいかないし!」ニコッ

P(頼もしい人だ)

監督「衣装の変更は言ってあるんで問題はないです。後は役柄に伴って台詞も変更ですね」

P(あ、そうか。急には決まらないよな……)

監督「プロデューサーさんならどうします?」

P「ん~、そうですね……いっそ、台詞をなくしてみるとか?」

監督(やっぱり、この人は面白い。色々なアイドルと仕事をしているからか発想が柔軟だ)

P「駄目ですかね?」

監督「台詞ナシだと演技に誤魔化しが効かないですけど、大丈夫ですか?」

P「大丈夫です。対応出来ます」

監督「そう言ってくれると思ってました!」


P「最初からそうするつもりで僕に?」

監督「ええ、他にも案はありましたけど台詞ナシが一番良いかな~とは思ってました」

P「何故ですか?」

監督「音楽や雰囲気、画、それに合うセリフを作り直すのってとても大変なんですよ」

監督「だったら台詞をナシにして、雰囲気を引き出すような形にした方がベストじゃないかなと」

P「なるほど、勉強になります」

監督「あははっ、プロデューサーさんも思いついたじゃないですか!」

P「僕は思いついただけですよ。演出については考えていませんでした……」

監督「私も後から考えただけで最初はそんなもんです。自分の感覚を信じることは大事ですよ?」ニコッ


P(感覚か)

監督「演技に関しては撮影が始まったらということで良いですか? 細かな変更もあるので」

P「はい、分かりました」

監督「あ、そうだった。内容を大まかに書いておきました。字が汚いのは勘弁して下さいね?」

P「これは助かります。ちょっと行ってきます!」

監督「セットの調整で少し時間が空くんで、説明はお願いします」

P「分かりました!」


撮影現場 控室

P「……ということで、変更になりました」

あい「そんなことで批判は起きない、とは言い切れないな。過ぎたことは仕方がない」

あい「監督が用意してくれたメモもある。これがあるだけで助かる」

薫「せんせぇ、なんて書いてあるの?」

P「えーっと、最初の画は、会社で仕事している東郷さん。瞬く間に時間が過ぎていく」

P「場面が変わって、バスに揺られる東郷さん。流れる夜の景色を見て溜め息を一つ」

P「で、時間が止まる」

P「そこに薫扮する妖精がやって来て、東郷さんにチョコレートを渡して、隠れて様子を見てる」

P「東郷さんは薫の存在に気付くけど、気付かないふりをしてチョコレートを食べる。喜ぶ薫」

P「いたずらな、甘みが香る。○○スイートチョコレート(○○は企業名)。で、終わり」


薫「わぁ、全然ちがうね?」

あい「そうだね、最初の台本とは全然違う」

薫「でも、かおるはこっちのが好き」

P(難しいとは言わない方が良いな。変な緊張を与えると演技がぎこちなくなる可能性がある)

薫「せんせぇ」

P「?」

薫「これ似合う? しろいワンピース」

P「ああ、とっても似合うよ。本当に妖精みたいだ」


薫「えへへっ、やった」

あい「フフッ」

P「東郷さん、ちょっと」

あい「?」

P「大丈夫そうですか?」コソッ

あい「私達なら出来ると判断したんだろう? だからOKした。違うかい?」

P「そうです」

あい(やれやれ、いつもこれだ。彼は、私より私を信じている。だから、応えたくなる……)

P「東郷さん?」

あい「いや、何も心配は要らない。君は安心して見ていてくれ」ニコッ

P「はいっ!」


撮影現場

監督「次、薫ちゃん入ります」

P(今のところは順調だ。変更はここからだ)

監督「薫ちゃん、もうちょっとだけ隠れていいよー」

薫「はーい!」

監督「あいさん、微笑むのも良いですけど、次はちょっと困った感じに笑ってみて下さい!」

あい「なるほど、やってみるよ」

P(二人とも凄いな。変更なんてなかったように進んでる)

監督「……ハイ、OKでーす!」

P(良かった。良かったけど、本当はもっと東郷さんを……)


薫「む~」

あい「薫?」

薫「あいお姉ちゃん、なんかチクチクする」

あい「チクチクする?」

薫「うん。指がチクチクする」

あい「ちょっと見せてごらん?」

P「薫、どうした?」

あい「刺が刺さってるようだ。セットを触った時に刺さったのかもしれない」


P「薫、ちょっと見せて」

薫「うん……」

あい「ピンセットを借りて来るよ」

P「あ、これなら大丈夫ですよ。ちょっと待って下さい」


監督「どうしたの?」

カメラマン「薫ちゃんの指に刺が刺さったみたいっす」

監督「ふ~ん……」ジー


P「ちょっと待っててくれ」

薫「おサイフ?」

P「あったあった。これでよし」


あい(5円玉?)


監督「撮って」

カメラマン「はい?」

監督「早く、あの三人を撮って。プロデューサーさんの後ろから、顔が映らないように」

カメラマン「わ、分かりました」


P「薫、手を貸して」

薫「う、うん。いたくしない?」

P「痛くしない、大丈夫だよ」ニコッ

P「いいかい? こうやって、5円玉で上から押すと……」


薫「あ、とげが出てきた」

P「後は1円玉を二枚使って、挟んで、取る」ピッ

薫「わぁ、せんせぇすごーい!」

P「昔、教えてもらったんだ。役に立って良かったよ」

あい「…………」


カメラマン「何つーか、優しい顔してますね。母ちゃんみたいな……」

監督「…………」カキカキ

監督(プロデューサーさんは、あいさんの新しい一面を見せたいと言っていた)

監督(さっきの撮影ではいつもカッコイイあいさんだ。あれじゃあ足りない)

監督(でも、これなら使えるかもしれない。後で掛け合ってみよう)


監督「よし」

トコトコ

薫「?」

監督【せんせぇにチョコレート食べさせて】

薫「えへへ」

P「薫? どうしたんだ?」

薫「せんせぇ、お礼にチョコレートあげる。あーんして?」

P「あ、もらってたのか。え~っと」チラリ

あい「あーんして?」

P「」

薫「せんせぇ、とけちゃうよー」


P「あ、あーん」

コロン…

薫「おいしい?」

P「……ん、甘い」

あい「甘いのは嫌いかい?」

P「チョコレートなんて久しぶりに食べました。美味しいですね」

あい「私も食べてみようかな」

監督「ハイ、OK!!」

あい・P「えっ!?」

カメラマン「いやぁ、良かったっす」


あい「撮っていたのかい?」

カメラマン「はい、監督の指示っす」

監督「プロデューサーさん、これ使えるかもしれないですよ!」

P「使えるって、何にですか?」

監督「CMって、短めのも流すじゃないですか」

P「編集されたやつですか?」

監督「ええ、それです。その編集したパターンの他に今のも使えないかなと思いまして」

監督「撮影現場の風景を流すCMもあるじゃないですか? あれですよ、あれ」


P「いやいやいや、無理ですよ!」

監督「微妙なところですけど、ちょっと話してみます。連絡は後日、ではまた!!」

P(行ってしまった)

あい「面白い人だね」

P「面白いですけど、大丈夫でしょうか」

あい「まあ、あのまま使われることはないだろうね」

P「きっと何か考えがあるんでしょうけど……撮影は終わりましたし、支度して帰りましょうか」


あい「そうだね。控室に戻ろう」

薫「はーい」

P(東郷さんのスーツ姿、やっぱり綺麗だな)

あい「ん?」

P「いえ、行きましょう」

あい「そう言わずに、もう少し見惚れていても良いんだよ?」クスッ

P「かっ…」

あい「か?」

P「か、おる、行こうか?」

薫「あるいてるよ?」

あい「くっ…フフッ」

薫「せんせぇ、かおまっかだよ?」

ここまでです。

変わってますけど>>1です。
今日はここまでという意味でした。申し訳ないです。


1週間後 事務所

あい『いたずらな、甘みが香る。○○、スイートチョコレート』

ちひろ「おぉ、来ましたね~」

P「どうですか?」

ちひろ「プロデューサーさんが言っていた感じは出ているんじゃないですか?」

P「感じ、ですか」

ちひろ「ええ、あいさんの顔を見ると二人は仲が良いんだろうなぁと思います」ウン

ちひろ「薫ちゃんが可愛い、まるで天使って、反響も凄いみたいですよ?」カチカチ

P「それは良かったです」

ちひろ「もう一つの方はどうですか?」


P「既に決まりました。新たに撮るようです」

ちひろ「良かったじゃないですか!」

P「まあ、それはそうなんですけど……」

ちひろ「どうしたんですか?」

P「参考に渡されたものがちょっと、これなんですけど」

ちひろ「あるなら言って下さいよ~。じゃあ、早速見てみましょう」

カチャ

P「あ、ちょっと」

ちひろ「え~、良いじゃないですか、折角ですから見ましょうよ」ポチッ


薫『せんせぇ、お礼にチョコレートあげる。あーんして?』

あい『あーんして?』

P『』

薫『せんせぇ、とけちゃうよー』

あい『甘いのは嫌いかい?』

ナレーション『ありがとうを貴方に。○○、スイートチョコレート』



ちひろ「出来てるじゃないですか!!」

P「だから、これは見本です! そのまま使うわけにはいかないでしょう!?」


ちひろ「え、でもプロデューサーさんの顔は見えてないし、音声も切ってありますよね?」

P「画的に問題があるんです。きちんと台本書いて、新たに俳優を起用するらしいです」

ちひろ「勿体ないような気がしますね」

P「表情はとても素晴らしいですけど、照明とかがないので駄目ですよ」

ちひろ「そうですかね? 撮影終わりで素の感じが出ていて、私は良いと思いますけど」

P(女性特有の感覚なのかもしれない。覚えておこう)

ブー ブー

P「はい、もしもし。はい、はい、分かりました。すぐに行きます」

ちひろ「早速ですか?」

P「ええ、監督からでした。ちょっと行ってきます」


ちひろ「プロデューサーさん」

P「はい?」

ちひろ「近々、凛ちゃんのレコーディングもあります」

ちひろ「どちらかが疎かになることはないと思います。ただ、張り切り過ぎて体を壊さないように気を付けて下さいね?」

P「はい。千川さん、ありがとうございます!」

ガチャ パタンッ

ちひろ(プロデューサーさん、頑張って)


廊下

P(千川さんのお陰で助かった。よし、まだ時間はある。渋谷さんの様子を見に行こう)

コツコツ

P(スポーツドリンクは……)

チャリンチャリン ガコンッ

P(これでよし……)

P(いや、待て。集中しているだろうし、邪魔になるなら終わるまで待っていた方が)

ウロウロ

渋谷凛(あ、プロデューサー)

トントン

P「はい?」

凛「なにウロウロしてるの?」

P「あれっ、渋谷さん?」

凛「で、何してたの?」

P「丁度、行こうか悩んでいたんですよ」ウン


凛「あのさ、悩むくらいなら来てよ」

P「ごもっともです……」

凛「何かあった?」

P「いえ、レッスンの様子を見たかっただけです。あ、これどうぞ」スッ

凛「……ありがと」

キュッ コクコク

P「休憩だったんですか?」

凛「違うよ、今日はもう終わり。ボーカルレッスンは2時間にするってさ」

P(調整してるのか、もうすぐだからな……)


凛「最近はかなり忙しそうだったね」

P「ええ、中々顔を出せずにいましたけど、これからは大丈夫です」

凛「本当?」

P「CMの方は落ち着きましたからね。もう一本撮ることになりましたけど、何とかします」

凛「体は一つなんだから無理しないでよ?」

P「僕は大丈夫ですよ」ニコッ

凛(いつもこれだ。しっかり休んでるのかな)

P「あ、そうだ。CMは見ましたか?」


凛「うん、見たよ」

P「どうでしたか? 渋谷さんから見て」

凛「良かったよ。二人とも良かったけど、薫の色が強いよね」

P「やはり、そう思いますか……」

凛「あいさんが負けてるってわけじゃないよ? あれは見せ方の違いだと思う」

P(よく見てる。こんなに若い子まで気付くとなると、次のCMは絶対に必要だ)

凛「あのさ」

P「はい?」


凛「今から時間ある? 歌詞のことで相談したいんだ」

P「これから打ち合わせなので、戻ってからなら大丈夫です。疲れているなら明日でも……」

凛「いい、待ってる」

P「分かりました。戻ってから話しましょう」

凛「気を付けてね?」

P「はい。では、また後で!」

スタスタ

凛(うん、プロデューサーは元気だ。私も頑張ろ)


ガチャ パタンッ

ちひろ「凛ちゃん、お疲れ様」

凛「うん。ちひろさん、なに見てるの?」

ちひろ「もう一本別のCMを撮るらしくて、その見本です。凛ちゃんも見ますか?」

凛「いいのかな?」

ちひろ「事務所に来たものですから大丈夫ですよ」ポチッ

凛「これ、プロデューサーだよね?」

ちひろ「やっぱり分かります?」

凛「この事務所のアイドルなら全員分かるよ。仕草とか、背中で……」

ちひろ「ふふっ、そうですね」


凛「あっ、今の」

ちひろ「どうしました?」

凛「あいさんの顔、もう一回見せて」

ちひろ「は、はい」


あい『あーんして?』

あい『甘いのは嫌いかい?』


凛「……これだ」

ちひろ「えっ?」

凛「ちひろさん、もう一回」

ちひろ「は、はい」


某所 会議室

監督「……ということで良いですか」

P「ええ、先程連絡は取りましたので大丈夫です」

監督「では引き続き、あいさん、薫ちゃんは決定。俳優のついては後日改めてということで」

P「はい」

監督「熱が冷めないうちに取り掛かりますんで、急ぎになりますけど宜しくお願いします」

P「分かりました」

監督「じゃあ、今日はこの辺にしときましょうか」

P「ありがとうございました」ガタッ

監督「プロデューサーさん、この後晩ご飯でもどうですか? スタッフも含めて」

P「ちょっと事務所に連絡します」

監督「じゃあ、外で待ってますんで!」

P(ご飯か、これは最初から想定しておくべきだった。渋谷さんには明日しっかり謝ろう……)


事務所

コツコツ

P(助かった。何とか早く帰ってこられた。車じゃなかったら居酒屋行きだったな)

ガチャ パタンッ

P「ただいま戻りました」

凛「お帰り」

P「………渋谷さん。何で」

凛「遅かったね。何してたの?」

P「事務所には連絡したはず」

凛「約束したよね? 待ってるって言ったよね?」


P「も、申し訳ありません……」

凛「今のは冗談だよ」シレッ

P「………今度、ドラマに出てみますか?」

凛「怒るよ」

P「冗談です」

凛「ハァ、ちょっと座って待ってて」

P「え?」

凛「いいから待ってて」スタスタ


P(渋谷さん、どうしたんだろう?)

スタスタ

P(あ、来た)

凛「はい、お待たせ」コトッ

P「ココア……これは渋谷さんが? ありがとうございます」

凛「大袈裟。粉とお湯を混ぜただけだよ」

P「そんな言い方しなくても……あ、うまい」

凛「……ん、いつもお疲れ様」

P(優しい子だ。見た目とは違う温かさがある。もっとこういうところを見せていきたい)


凛「ねえ、なんか言ってよ」

P「えっ? あ、凄く嬉しいです。本当に」ウン

凛「そっか、良かった……」

P「でも、どうしたんですか? こんなに遅い時間まで待ってるなんて」

凛「歌詞のこと」

P「何か不安が?」

凛「うん。ちょっと掴めなくて、分からなくなってたんだ」

凛「曲調は激しいから勢いで押せるかもって思ってたけど、やっぱり、そう甘くないみたい」


P「分からないとは、どの辺りがですか?」

凛「全体的な雰囲気かな。求めて、私に溺れて、そういう感覚は分からないんだ……」

P「自分でなくても良いのでは? 小説などで曲に合う人物を見付けて、その人物になりきって歌うとか」

凛「私も同じ事を考えた。それで、モデルを見付けたんだ」

P「モデル? どんな感じですか?」

凛「私に溺れろ、じゃなくて、ゆっくり優しく溺れさせる感じかな」

P「優しく溺れさせる、ですか。誰を参考に?」


凛「それは秘密」

P「事務所の人ですよね?」

凛「秘密だってば」

P「……東郷さんですか?」

凛(鋭い)

P「いや、包容力と言うと他にも候補が……」ウーン

凛(私は見本を見て感じたけど、プロデューサーは前から気付いてた。ずっと、あいさんを見てたんだ)

P「あ、こんな時間だ。送ります。ご家族に連絡はしましたか?」


凛「したけど、いいの?」

P「勿論です。ちょっと待っていて下さい」

凛「うん」

凛(あいさんの表情、多分だけど、あれはきっと……私には出来ない表情だ)

P「行きましょうか」

凛「ごめんね?」

P「?」

凛「折角感覚を掴んだから、どうしても伝えたくてさ」

P「いいんです。僕も渋谷さんと話せて良かったです。迷ったら相談して下さい」

凛「……ありがと」

ーーーー
ーーー
ーー


P「渋谷さん、渋谷さん?」

凛「んっ、あれ?」

P「着きましたよ」

凛「寝てた……」

P「今日はゆっくり休んで下さい」

凛「うん」

ガチャ パタンッ

P(さてと)

コンコン


P「?」カチッ

ウイーン

P「どうしました?」

凛「プロデューサーさんもちゃんと休んでよ?」

P「ええ、今日はもう休みます」

凛「うん、そうして。それじゃあ、また明日」

P「ええ、また明日」

ブロロロ…

P(まず、候補に挙がった俳優を調べよう。なるべく年齢が近くて、実力がある若手……)


帰り道 車内

あい「思っていたより早かったね」

P「そうですね。急な変更だったので、もっと時間が掛かるものと思っていました」

あい「最初から考えていたのかもしれないよ?」

P「何があっても対応出来るように用意していたと?」

あい「私はそう思うよ。現場に慌てた雰囲気はなかったからね」

P「最終的に一つしか採用されなくても、それに代わるものを準備しておく。勉強になるなぁ」

あい「それは何事にも言えることだからね。私も勉強になったよ」

P「………」


あい「どうしたんだい?」

P「薫は寝てますか?」

あい「うん、長時間集中して疲れたんだろう。それで? 私に何か言いたいことがあったんじゃないのかい?」

P「……今日はとても良かったです。でも、当初考えていたものとは違いました」

あい「あのCMで私のイメージの幅を拡げると言っていたね。そのことかな?」

P「そうです。別角度から捉えると言うか、見せ付けると言うか、一瞬で焼き付けるような……」

あい「………」

P「撮影は順調で、もう終わってしまったけど、それを貴方に見せられなかったことだけが残念でならない」


あい「私に?」

P「自分では見えていない部分、それが分かれば、貴方はもっと輝ける」

P「下手をするとイメージが一変して崩れてしまうけど、今回は監督にも恵まれて絶好の機会だった」

あい「そう悔しがらなくても大丈夫さ。必ず、次はある」

P「でも、次がどれだけ先になるか分からない。CM依頼なんて……」

あい「君なら出来るさ。私は、そう信じている」

P「………」

あい「どうしたんだい?」


P「東郷さん」

あい「?」

P「もっと頑張ります。今よりも、ずっと。だから、待っていて下さい」

あい(無自覚とは恐ろしいな……)

P「どうしました?」

あい「……アイドルでいられる時間は短い。いつまでも待てないよ?」フイッ

P「大丈夫です。僕は、出来ます」

あい「フフッ。そうだね。その時が来るのを待っているよ」

P「あの、何で顔を背けているんですか? ちょっとバックミラーの角度を」クイクイ

あい「い、いいから、君は運転に集中するんだ。後ろばかり気にしていては駄目だよ」


P「は、はぁ」

薫「ん~?」パチリ

あい「あ、薫、起こしてしまったね……」

薫「あいお姉ちゃん、どうしたの?」

あい「いや、なんでもないよ。大きな声を出して悪かったね」

薫「ううん、そうじゃなくて」

あい「?」

薫「あいお姉ちゃん、かおまっかだよ?」

刺×
棘○

>>57
凛「プロデューサーさんもちゃんと休んでよ?」×

凛「プロデューサーもちゃんと休んでよ?」○


ミスしてしまいました。気を付けます。また後で。

>>57から

翌日 事務所

あい「この中から? 私が?」

P「あくまで出演者側の希望という形ですけど、決め手にはなります」

あい「そう言われても難しいよ。どれも見たことのある俳優さんばかりだ」

P「変な言い方になりますけど、気に入った方がいたら言って下さい」

あい「気に入ると言われても……」

P「難しいですか?」

あい「ああ、折角提示してもらって悪いけど、この中なら誰にでも任せられるんじゃないのかい?」


P「確かにそうかもしれません。でも、片っ端から声を掛けることは……」

あい「確かに。しかし、これは参ったな……」

トテテ

薫「どうしたの?」

あい「この中の誰が良いかと聞かれてね。薫は誰が良いと思う?」

薫「ん~。あ、この人!」

P「薫はその人が良いのかい?」

薫「うん。この人がいい」

あい「知ってる人?」

薫「ううん。この中で一番せんせぇみたいだから」


P「僕?」

薫「だって、せんせぇの役なんでしょー?」

P「いや、まあ……そうなのかな」

あい「雰囲気が似てるのかな?」

薫「わかんない。わかんないけど、この人がいい」

P(感覚、信じてみるか)

あい「私は彼でも構わないよ。君はどうだい?」

P「そうですね。では、監督と話してみます」

薫「きまったの?」

P「薫のお陰でね」ニコッ

薫「やったー!」


あい「良かったのかい?」

P「ええ、東郷さんの言う通り、この中なら誰でも任せられます。ただ」

あい「?」

P「一番現実的なのは薫が選んだ俳優なんです。この中で一番若く、まだ露出は多くない」

P「演技についてはあまり分かりませんでしたけど、惹かれる部分もある」

あい「何故候補に?」

P「必ず応じると思ったからです。事務所も、彼の知名度を上げたいはずですからね」

あい「なるほど」

P「後は、薫の感覚を信じるだけです。精一杯やってみます」ガタッ


あい「待ってくれ」

P「?」

あい「睡眠は取っているのかい?」

P「いえ。でも、大切な時ですから仕方ないですよ」ニコッ

あい「……時間が空いたら、きちんと休むんだよ?」

P「分かりました。では!」

ガチャ パタンッ

あい「………」


トテテ

薫「どうしたの?」

あい「彼が心配でね」

薫「せんせぇが?」

あい(……いや、薫には言わない方が良い。きっと、私達のせいで彼が眠れていないと考えてしまう)

薫「あいお姉ちゃん?」

あい「朝ごはんを食べていないみたいだったから、ちょっと心配でね」

薫「そっかー。ねえ、あいお姉ちゃん、おみみかして」

あい「?」

薫「えっとねー」

コショコショ

あい「フフッ。分かった。手伝うよ」


某所 喫茶店

監督「この子ですか」

P「意外ですかね?」

監督「プロデューサーさんなら、もうちょっと上の世代にするかと思ってました」

P「僕も最初はそう考えていましたけど、出演確実なのは彼です」

監督「他に理由は?」

P「女性層を狙った部分はあります。彼にも初めてのCMですから、初々しさが出る」

P「見本をどこまで再現するのかは分かりませんが、短い間に多くのものを見せられるはずです」


監督「面白い!」ビシッ

P「そうですか?」

監督「ええ、CM終了ではなく、これから何かが始まる感じを出せると思います」

監督「慣れている俳優だと、当然、仕事を終えた感じを出すと思うんですよ。でも、彼ならきっと……」

P(凄いな)

監督「あ、台本は出来てるんで見て下さい」

P「早いですね」

監督「まあ、プロデューサーさん、あいさん、薫ちゃんの映像はありますからね」

監督「それを書き起こして、ちょっと付け足しただけですよ」


P「あの日のやり取り、そのままだ……」

監督「あははっ! あまりに良かったもので」

P「これ全部入りますかね?」

監督「大丈夫、入れてみせますよ」ニコッ

P(め、めちゃくちゃ格好いい!!)

監督「他に質問はありますか?」

P「えっと、俳優の顔は?」

監督「出しますけど、一目では分からないようにします。話題にして欲しいので」

P「次も狙ってます?」


監督「ええ、出来れば第二弾、第三弾と続いて欲しいですね~。ドラマ仕立てにして」ニコッ

P(この人は凄い。分かってたけど、やっぱり凄い)

監督「じゃあ、今日はこの辺にしますか」

P「そうですね。忙しい中、ありがとうございます」ペコッ

監督「あははっ、それはプロデューサーさんもでしょ?」

P「え?」

監督「前に言ってたじゃないですか、そろそろ凛ちゃんのレコーディングだって」コソッ

P「覚えてたんですか?」

監督「興味のあることは覚えてますよ。あんなに熱く語られちゃあ忘れませんって」


P「いや、お恥ずかしい……」

監督「プロデューサーさん」

P「何でしょう?」

監督「もっと、大きな流れを作りたいですね。僕等で」

P「え、ええ、そうですね?」

監督「それでは、また」

カランカラン…

P(大きな流れって何だろう? ま、それは置いといて、一度戻って渋谷さんの様子を見よう)

P(トレーナーさんにも話を聞いてみて、それから一休みだ。よしっ!)


レッスン場

凛「~~♪」

P「どうですか?」

トレーナー「昨日とは表現が違いますね。良い感じです。きっと、感覚を掴み始めたんだと思います」

P「曲調とは違って、何と言うか可愛らしいですね。聞こえ方が全然違う」

トレーナー「ええ、当初は大人っぽく歌おうと頑張っていましたけど変えたみたいです」

トレーナー「最初のイメージからすると、年上の女性が周囲の男性を虜にするようでした」

P「でも今は、年若い女性がお願いしているみたいですね。私に溺れて…か」

トレーナー「納得したんでしょう。歌詞を自分なりに解釈して、それを表現する」

トレーナー「歌は作詞した時に生まれると言いますけど、歌って生まれ変わる時もある。歌は二度生まれる」


P「格好いいですね」

トレーナー「何かの本に書いてありました」ニコッ

凛「~~♪」

P(きっと、いや、必ず上手く行く)

トレーナー「さて、そろそろ戻ります。渋谷と話して行きますか?」

P「いえ、今はいいです。折角仕上がって来ていますから」

トレーナー「じゃあ、プロデューサーさんが来ていたと伝えておきますね」

P「はい。引き続き、よろしくお願いします」

トレーナー「任せて下さい」ニコッ

P「では、失礼します」ペコッ


事務所

P(やっと、休める。東郷さんにも心配掛けてしまったし、ちょっとでも眠ろう)

ちひろ「プロデューサーさん!」

P「どうしました?」

ちひろ「さっき監督さんから連絡があって、俳優の○○さんが決まったとのことです」

P「良かった。でも、随分と早いですね」

ちひろ「二つ返事だったみたいですよ? 明後日から撮影を始められるって言ってました」

P「そうですか! それは良かった!」

ちひろ「話題性がある内に畳み掛けたいって、かなり気合いが入っていましたよ」ニコッ


P「僕も頑張らないと」ウン

ちひろ「その前にしっかり休んで下さい。仮眠室は空いてますから」ニコッ

P「千川さん、ありがとうございます」ペコッ

ちひろ「いえいえ、給湯室におにぎりがあるので、お腹が空いたら食べて下さいね?」

P「分かりました。ちょっと休んだ後で食べます」

ちひろ「はいっ」

P(安心したら急激に眠気が……早く仮眠室で休もう)

ガチャ パタンッ

P「……決まって良かった」ゴロン

P(今日明日で、俳優さんの事務所に電話してしっかり連携を取ろう。東郷さんに俳優が決まったこと話して、渋谷さんとも話して)

P(それで、明後日は撮影に行って、渋谷さんのレッスンに顔出して、それから、それから……)カクンッ

P「……zzzZ」


ーーーー
ーーー
ーー


P「………はっ!」

P(うわっ、こんなに眠ってたのか。千川さん、気を遣ってくれたんだ)グゥー

P(お腹空いたな。確か給湯室におにぎりがあるって言ってたっけ。頂こう)

ガチャ パタンッ

P(おにぎり、おにぎり)フラフラ

ちひろ(あ、プロデューサーさんがダメになってる)


P(これは、手紙?)

『あいお姉ちゃんとおにぎりつくりました。

 たくさん食べて、しっかり休んでください。

 せんせぇ、だいすき。

                 かおる』


P「…………」

『お疲れ様

 どうだろう、少しは休めただろうか? おにぎりの味はどうだい?

 君には本当に感謝している。大切な時期なのは分かるけれど、体を大事にして欲しい。

 何だか長くなってしまったね。連絡を待っているよ。

                東郷あい』


P「………」グシグシ

P(美味しい。こんなに美味しいおにぎりを食べたのは生まれて初めてかもしれない)

P(プロデューサーになって良かった。もっと、皆のために頑張ろう)

凛「泣いてるの?」

P「泣くに決まってるよ。だって、こんなに心の……」


凛「心の?」

P「………いつから見ていたんですか?」

凛「天井見上げて涙がツーってなってる辺りから見てたかな」

P「そうですか」モグモグ

凛「ふーん。なかったことにする気?」

P「何もなかったでしょう? 別に恥ずしいことでもないですからね」

凛「タメ口だった。あんな喋り方するんだね」

P「失礼しました」

凛「そうじゃなくて、いつもはあんな感じなの?」


P「家族や友人と話す時はあんな感じですね」

凛「何でそんな喋り方するわけ?」

P「それはまあ、大人ですから。それに近すぎて良いものでもないでしょう?」

凛「私達との距離ってこと?」

P「ええ、親しすぎるのはどうかと思います。今のような関係が望ましいです」

凛「それってさ、事務所から言われてたりするの?」

P「……秘密です」モグモグ

凛「あ、逃げた」


P「渋谷さんもモデルが誰か答えなかったので、おあいこですよ」

凛「案外、子どもなんだね」

P「子どもが大人になっただけですからね」モグモグ

凛「ちょっとイメージ変わったかも」

P「僕もです」モグモグ

凛「……美味しそうだね」

P「…………あげませんよ?」サッ

凛「取ったりしないよ!」

P「そうですか、安心しました。あ、今日の歌は良かったですよ」


凛「来てくれてたんでしょ?」

P「ええ、渋谷さんらしい歌声でした。背伸びせず、媚びているわけでもなく、とても真っ直ぐで」

凛(そんな風に思ってたんだ)

P「とても可愛らしいかったです。甘えているような感じがしました」

凛「クールで売り出してたのにね」

P「角度の問題ですよ。角度が変われば、違った顔が見える。それも渋谷さんです」

凛「………」

P「もっと豊かな表情、もっと優しい笑顔。貴方の内面は必ず評価されます。大丈夫です」ニコッ

凛「プロデューサーは?」

P「?」


凛「プロデューサーは誰かに見せないの? 素の、プロデューサーじゃない表情……」

P「そう言われると、最近は見せる暇がないですね」

凛「大変じゃない?」

P「いえいえ、楽しいので平気です」ウン

凛「……本当?」

P「………本当だよ。大丈夫、心配ないよ」

凛「フフッ、分かった。もう聞かない」

P「送りましょうか?」

凛「いいの?」

P「勿論です。さあ、行きましょう」

凛(初めて本当の声を聞けた気がする。ありがとう、プロデューサー)


夜 自宅

P(自分の部屋なのに落ち着かない。久々だからな……)

P(あ、そう言えば連絡下さいって書いてあったっけ)

P(おにぎりありがとうございました。薫には撮影の時にお礼します)

P(よし、これでいいかな)ポフッ

P(明日も仕事だけど走り回ることはない。ゆっくり仕事が出来そうだ)ゴロン

ブー ブー

P「はい、もしもし」

あい「こんばんは」

P「東郷さん、どうしました?」

あい「駄目だったかな」


P「いえ、そんなことはないです」

あい「少しは休めたかい?」

P「ええ、千川さんも気を遣ってくれたので、ゆっくり眠れました」

あい「そうか、それは良かったよ」

P「おにぎり、ありがとうございました」

あい「あんなことしか出来なくて申し訳ないよ」

P「充分です。元気が出ました」

あい「そうか……」

P「あ、俳優さんが決まりましたよ? 明後日からの撮影です」


あい「ちひろさんに聞いたよ」

P「そ、そうでしたか……」

あい「撮影には同行するのかい?」

P「勿論です」

あい「よろしく頼むよ」

P「任せて下さい」

あい「フフッ。君は頼もしくなったね」

P「色々な方々に鍛えられましたからね。あれから担当が付いて中々会えない人もいますけど」


あい「皆、忙しくなったからね」

P「見えないけど、それぞれが頑張っています。ライブ、ドラマ、舞台、様々な場所で」

あい「……そうだね」

P「大丈夫!」

あい「えっ?」

P「東郷さんも頑張ってます。負けたくない気持ちは大事ですけど、比べる必要はないです」

あい「…………」

P「一緒に頑張りましょう。仕事なら僕が沢山取ってきますから」ウン

あい「君は心が読めるのかい?」


P「声を聞いていると、ちょっとだけ分かります」

あい「……ありがとう。これからも頼むよ?」

P「こちらこそ、よろしくお願いします」

あい「それじゃあ、そろそろ」

P「そうですね。お休みなさい」

あい「おやすみ……」

P「あの、何かあったんですか?」

あい「いいや、何もないよ。さあ、ひと思いに切ってくれ」


P「いや、えっと……」

あい「フフッ、冗談だよ」

P(電話って恐い)

あい「お休み、○○君」

P「えっ!?」

ピッ ツーツー

P「」

ブー ブー

P「?」

 東郷あい
『さっきのは忘れてくれ。おやすみ、プロデューサー』

P(こういうところが、ずるいと思う……)


はい、そこから先は順調でした。

あいお姉ちゃんと若手俳優さんと、私。

CMは話題となり、ネット上では、これは新しいドラマの撮影ではないかとの噂も立ちました。

その反響を受けて、何と、本当にドラマが作られることになったのです。

監督はCMを担当した監督さん。

主演は、あいお姉ちゃんと若手俳優さんです。

更に、丁度レコーディングを終えたばかりの、凛さんの曲が使用されることになりました。

先生と監督さんが考えていた案だったようです。

この曲はドラマの内容にぴったりで、その年間ランキング1位となりました。


あ、お話を戻しますね。

ドラマは仕事に生きてきた女性が職場の後輩に恋をするというストーリー。

頼りない彼が、彼女を支えるようになり、恋に落ちいていく。

設定だけをみればありきたりでしたが、二人の演技はとても新鮮なものでした。

あいお姉ちゃんが恋をして段々と変わっていく姿、表情が柔らかくなっていく様子に、誰もが魅了されたことでしょう。

先生も、新しい一面を見せることが出来たと大満足でした。

あいお姉ちゃんのドラマと凛さんの曲はどちらも順調で、脚光を浴びることとなります。


綺麗なドレスを着て壇上に立つ、あいお姉ちゃんと凛さん。二人とも、笑っています。


あの時の先生は正に魔法使いでした。

一つのCMがドラマとなり、自社アイドル二人を瞬く間に頂点に押し上げたのです。

ドラマが終了しても人気が落ちることはなく、更に忙しい日々が待っていました。

でも、そんな時、二人は初めて衝突しました。

その理由は、今になっても分かっていません。





P「お話とは何でしょう?」

あい「君の試みは成功した。私もあの時よりは前に進めたと思う」

あい「だが、君はどうした? 現場に顔を見せることも少なくなった」

P「それは、新しい仕事の打ち合わせなどで……」


あい「以前の君は今の仕事を大切にする人間だった」

P「今でも大切にしています。僕は東郷さんのためにーー」

あい「私のため?」

P「そうです。貴方のためです」

あい「フッ、私は一度でも仕事の催促をしたか? 次の仕事を望んだか?」

あい「今となってはCMなど幾らでも取ってこられるか?」

あい「ドラマも、舞台も、今では『次』など幾らでもあるということか?」


P「それは違います!!」

あい「だったら!!」バンッ

あい「……だったら、答えてくれ」

P「………何でしょうか」

あい「君は、私をどうしたいんだ」

P「えっ?」

あい「私の何を見せたい? 私に何を見て欲しい? 君は、どんな私を見たいんだ……」

P「東郷さん、僕の話を聞いて下さい」

あい「………私には、今の君が何を目指しているのか分からないよ」

P「東郷さん、待って下さいっ!!」

あい「…………」

ガチャ バタンッ

ここまで

>>1です

全員心優しい人達として書いているつもりだったんですけど、それが都合良く見えたのなら申し訳ありません。

Pが自分のことしか考えない独り善がりな性格になっているとは思いませんでした。思慮が足りず申し訳ありません。

「あなたのため」が間違っても口にしてはならない言葉だとは知りませんでした。

たった一度の発言で信頼を失ってしまうので、発言には気を付けなければなりませんね。

私には、誰にも好かれるような、一度も失敗しない人間を書くのは難しいようです。

それでも良ければ読んで下さい。許容出来ない方は無理をしないで下さいね。

先生は考え込むことが多くなりました。

私はいつもの先生を知っているから、そう思ったのかもしれません。

あまり先生を知らない人からしたら、ちょっと疲れているようにしか見えなかったかもしれない。

そんな先生を助けてくれたのは、凛さんでした。

何を話したのかは分からないです。

分からないですけど、先生は、凛さんに助けられたのだと思います。



凛「大丈夫?」

P「ええ、大丈夫です。ご心配お掛けして申し訳ありません」


凛「ねえ、あいさんと何があったの?」

P「………」

凛「話してよ。何を考えてるのか、教えて」

P「……正直、ちょっと分からなくなってしまいました」

凛「?」

P「お仕事を取ってきて、アイドルの活躍が評価されて、僕はまた仕事を取ってくる」

P「単純に言えば、僕の仕事はそんな感じです。最近は仕事の量も増えて来ました」

凛「そうだね」


P「これは皆さんが結果を出したからこそです。これで良かったのだと思っていました」

凛「違ったの?」

P「違うと言うか、お互いの考えがズレているような気がしました」

P「当たり前に仕事をしていると、そう思っていたのですが、その姿勢が良くないようです」

凛「姿勢ってどういうこと?」

P「先々の仕事の打ち合わせなどで、現場に顔を出せる機会は少なくなった」

P「以前なら、もっと今の仕事を大切にしていたと、東郷さんはそう言っていました」

凛(プロデューサーが前とは違う。それは分かる気がする)


P「東郷さんの言っていることは分かります。分かりますが、以前のようには……」

凛「出来ないの? もうちょっと仕事量を抑えたりとかさ」

P「今は忙しい時期ですが、今後緩やかに減っていくとは思いますよ?」

P「ただ、減らすとなると難しいですね。これでも絞っているんです」

凛「じゃあ、理由は他にあるんじゃない? 他に何か言ってなかった?」

P「私をどうしたいのかと、そう言っていました」

凛「どう考えてもそれでしょ」


P「しかし、僕の気持ちは変わっていませんよ? 以前と同じ気持ちです」

凛「そうじゃないよ」

P「?」

凛「もっと見て欲しいんだと思う。きっと、不安なんだよ」

P「不安、ですか?」

凛「仕事が増えて色んなことをしていく内に、自分がどんな感じだったのか分からなくなる時があるんだ」

凛「そんな時に一人だと苦しいよ。私も、ちょっとはそうだから……」


P「そうでしたか……」

凛「悩んでないで直接話すべきだよ。何もせずにいると時間だけが流れるから」

P「……そうですね。渋谷さん、ありがとうございます」ペコッ

凛「ううん。私、もう行くね?」

P「はい、頑張って下さい」ニコッ

凛「うん、プロデューサーもね」ニコッ


凛(……いつかはこんな時が来る。それは、あの時から分かってた。これで良かったんだ)


それから先生は合間を縫って現場に顔を出すようになりました。

先生と話している時の、あいお姉ちゃんの安心した顔を憶えています。

二人の関係も以前と同じようになって、会話は以前より増えたように思いました。

忙しいけれど充実した毎日。

そんな日々が数ヶ月続いたある時、先生は倒れてしまいました。

先生はずっと無理をしていたのだと思います。

多くの仕事先、その打ち合わせ、合間を縫って現場を訪れて、また打ち合わせ。

この業界で一日二日寝ないことはよくあると聞きますが、先生の負担は相当なものだったようです。



あい「大丈夫かい?」

P「はい、点滴が終わる頃には良くなると思います。ちょっと無理をしてしまいました」


あい「まだ仕事は落ち着かないのかい?」

P「もう少しだけ今の状態が続くと思います。それでも、以前と比較すると大分楽です」

あい「……そうか」

P「ごめんなさい、東郷さん。あの時、貴方の異変に気付けなくて……」

あい「謝るのは私の方だよ。君のことを考えずに、我が儘を言ってしまった」

P「そんなことはないです。言ってくれなかったら、もっと大変なことになっていました」

あい「君がそんなことになるなら言わなかった」

P「芸能界ではよくあることですよ。管理がなっていなかったんです」

P「あるアイドルは、一週間で何時間眠れるか考えろと言われたそうですから」

あい「君はアイドルじゃない」


P「でも、代わりはいませんから」

あい「分かっているよ。そんなことは……」

P「大丈夫。今を乗り切れば、何とかなります」

あい「そんな顔で言われても納得出来ない」

P「……もうちょっとだけ、待っていて下さい」

あい「……信じても良いんだね?」

P「勿論です。もう二度と、こんなことにはなりません」

あい「一つ、頼みがある」

P「?」

あい「仕事が落ち着いたら、君のーーーーー」


先生は今まで通りにお仕事を続けました。いえ、今まで以上だったかもしれません。

私も心配だったけど、先生は力強く笑って、大丈夫だと言うだけでした。

今思うと、先生はそういうものをとうに超えていたのかもしれません。

あいお姉ちゃんも、多忙の中にあって、弱音を吐くことは一度もありませんでした。

そして、瞬く間に時が流れて……


あい「お疲れ様」

P「は、はい。お疲れ様です」

あい「緊張してるのかい? 私のドレス姿なんて見馴れたものだろう?」


P「いや、それはそうですけど、こんな場所で食事をするのは初めてなもので……」

あい「………」

P「あれっ、どうしました?」

あい「ドレスは見慣れているだろうと言われて、まさか肯定するとは夢にも思わなかったよ」

P「あっ、綺麗ですよ?」

あい「今更取って付けたように言われても嬉しくないね」フイッ

P「今まで見た中で一番綺麗です。誰よりも」

あい「おや、照れてるね」


P「当たり前ですよ」

あい「それは、私にだから言うのかい?」

P「………」

あい「ここまで来て黙りか。私はてっきり、答えを聞けるものと思っていたよ」

あい「私はあの時、君の気持ちを知りたいと言ったはずだよ?」

P「………」

あい「……まあいいさ。こうして食事が出来るだけでも嬉しいからね」

P「っ、東郷さん」

あい「なんだい?」

P「貴方にだからです。貴方にしか、言わない」


あい「本当?」

P「本当です。初めて会った時から、貴方だけを見ていました」

あい「初めて会った時から?」

P「あの、そこを詳しく聞くのはやめて下さい。お願いします」

あい「フフッ。分かったよ」

P(本当に綺麗だ。緊張する)

あい「あまり実感は湧かないけれど、何というか、不思議な気分だよ……」


P「初めて見ます。東郷さんの、そんな表情」

あい「見せたのは二度目だと思うけどね」

P「えっ?」

あい「なんでもないよ。この先はどうするつもりかな?」

P「ちょっと早くないでしょうか?」

あい「急かすようで悪いけど、もう待たされるのは嫌なんだ」

P「……分かりました」

P「東郷あいさん、僕とーーーー」




それからどうなったのか?

先生はもう一度だけ魔法を使いました。

最初で最後、人生で一度きりの素敵な魔法。

あいお姉ちゃんを、決して魔法の解けることのない、お姫様にしたのです。

終わります。
最後まで読んで頂いてありがとうございます。

エレ速「荒れるから許否」

きのこ「※少ないから載せてやるよ」

あやめ「ちゃおラジサイコー!!」

126:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします[sage] 2018/07/09(月) 02:41:11.09 ID:yyStwI3PO
エレ速は記載『許否』してるのかな。

128:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします[sage] 2018/07/09(月) 10:47:17.91 ID:zkbkrsk+O
エレ速「荒れるから『許否』」


こんな間違いをする奴が二人もいるなんて吃驚。
ID:kiRg4JJ7Oの言う通り粘着してる奴は複数いたんだね。

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