『第5話 どこにもいない私』
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――さいたまスーパーアリーナ前
『パッション!』
『セクシー!』
『パッション・セクシー!』
ありす「セクシーバインド!」ビュルルルルルッ!!
ガションッ!!
ゆっこ「いまです! 魔物が弱ってますよ!」
魔物「ぴにゃ……ぴにゃ……」
『クール!』
ありす「ヴァリアブルパフォーマンス!」
『マジデ・クール・マジカ・タチバナ!』
ありす「これで! ストロベリーフレグランス!」ジャキンッ!
ギュオオオオオオオッ!!
魔物「ぴにゃあああああ……」シュウウウウウ……
パアアアアアッ!
ジャラッ……
ありす「いちごの甘さで、浄化完了です」
ゆっこ「ふぃー……スタージュエルの回収回収っと」フワフワ
文香「……終わりましたか?」コソコソ
ありす「はい、大丈夫です。というか、今日は結界が張られていないから早いうちにここから離れませんと……」タタタタタッ!
ゆっこ「まーた結界が張られていないんですか……うーん……」
……
…………
――夜、橘家(ありすの部屋)
ありす「ふぅ、やっと帰れました」
ゆっこ「今日も仕事先で魔物が出てきて大変でしたねー」ゴソゴソ
ありす「もう慣れましたけど……何やってるんですか?」
ゆっこ「報告書作りです。戦闘の報告はしっかりやりませんと……ん、連絡が……」
ゆっこ「はいもしもし、ユッコです。はい……はい、え? この前の魔物の調査依頼の件ですか? 何かわかりましたか?」
ありす「それじゃあ私は、明日の学校の準備でも……」
ゆっこ「はい……はい……ええっ!? てことは、やっぱりユッコが来ている世界にも……ひええ……」
ありす「?」
ゆっこ「そうですか……分かりました。ユッコの保険金については町のほうに……はい、それじゃ」
ありす「どうしたんですか?」
ゆっこ「王国から調査結果の連絡が来たんです。ほら、たまーに魔物が出ても結界が張られなかったり、よくわからない変な特性を持った魔物がいたりしたじゃないですか」
ありす「ああ、そういえばいましたね。体が霧状になったり、鉄と同じ硬さになったりする魔物でしたね」
ゆっこ「そうなんです。そういった魔物は、魔物たちを統率しているヤツらが特別に手を加えている可能性の高い魔物だったみたいです」
ありす「統率しているやつら?」
ゆっこ「はい、魔物たちは大神官穂乃果という悪いヤツが召喚、使役しているんです。そして、大神官穂乃果の下には数人の幹部がいます」
ゆっこ「側近の数名や、四天王……みたいなのもいたような気がします。あとは、末端にも現場レベルで指揮する存在もいるみたいで」
ありす「色んな世界を侵略しているだけあって、一応組織的な相手だったんですね」
ゆっこ「はい……ただ、幹部たちがいる世界は王国の正規職員が向かっているはずなので、ユッコが来ているこの世界はそれほど大変じゃなかったはずなんですけど」
ありす「派遣は派遣らしい業務しか与えられていないはずってことですか」
ゆっこ「むー……あ、そうです、話は変わりますけど週末の準備、できましたか?」
ありす「へ? ああ、マジカルランドに行く準備ですか? 着替えくらいならバッグに用意しましたけど」
ゆっこ「お金も日本円はマジカルランドじゃ使えませんからね。後は貴重品だけ持っていればオッケーです」
ありす「……ちなみに、行先は本当に魔法の国なんですよね?」
ゆっこ「はい! 魔法の国マジカルランドです! ユッコの成績が良かったので、帰省に合わせてありすちゃんたちも連れてきていいよって王国から特別に許可が下りたんです」
ありす「へえ、確かマジカルランドに行って直接一緒に戦う魔法少女は、強い力を持った人だけってお話でしたけど」
ゆっこ「そっちについては王国側で別の世界の魔法少女のアテがあるらしくて、近々招待するらしいですよ。まあありすちゃんはユッコの実家に遊びに来てもらうってだけです」
ありす「まあ……別に、行くのは3連休の日ですし、構いませんけど」
ゆっこ「またまたー、そんなクールぶっちゃって。夢と希望の国のマジカルランドですよ? ありすちゃんがウッキウキになる姿、ユッコのサイキック千里眼には見えていますからね」
ありす「あのですね、昼間からパチ屋に入り浸ったり夜に熱心に業務報告書を作成している派遣妖精の姿を見て、何を期待すればいいんですか」
ゆっこ「まーまー! そんなこと言わずに楽しみにしておいてくださいよ! お土産くらいならユッコがお金出してあげますから!」
ありす「はいはい……」
……
…………
――週末、公園(雑木林)
文香「そうですか……その、魔物たちを変化させている幹部という存在が……私たちの世界にも……」
礼子「大丈夫なの? 幹部なんて危なそうな相手、この前の運動会の時にいたかもしれない敵なんでしょう?」
ありす「実際に出てきてから考えるしかないですね。私でどうにかなる相手なのかはわかりませんが、最近は色々な衣装も頂いていますし」
文香「ありすちゃんの、クール……幸子さんの、カワイイ……美穂さんの、キュートの衣装、ですね……」
礼子「私のセクシーの衣装と、茜ちゃんのパッションの衣装もあるわね。色々な姿に変われるようになったけれど……」
ありす「はい。みなさんから頂いた力を使いこなせば何とかなると思います。実際これまでもその力に助けてもらいましたから」
ゆっこ「はーい、それじゃ今から戻ります。後は帰還後にまた連絡します」
文香「お話は……終わりましたか?」
ゆっこ「はい。王国のほうに帰省の連絡もしましたし、今回は王国には行かないので色々な手続きもカットできますしね」
ありす「それで、ここに来て何をするんですか?」
ゆっこ「ありすちゃんのマジカルクローゼットの中に、このスタージュエルを入れてください」
ありす「鍵穴に嵌めるんじゃなくて、入れるんですか?」
ゆっこ「クローゼットの中にジュエルを入れると光の柱が出来上がるので、その中に飛び込めばマジカルランドに行けますよ!」
ありす「どれどれ……」カチッ!
ピカッ!
文香「まぶしっ……」
礼子「……凄いわね。本当に光の柱が出来上がったわ」
ゆっこ「それじゃ行きましょうか。目立っちゃいますし急いで入りましょう!」ピョンッ!
ありす「あ、ちょっと待ってください」ピョンッ!
文香「あ、ありすちゃんも……躊躇せずに飛び込みましたね」
礼子「思い切りの良さも、子供の特権ね……私たちも行きましょうか」ピョンッ!
……
…………
――マジカルランド、マジカルランド王国前
ゆっこ「というわけで、ここがマジカルランドのマジカルランド王国前です!」
ありす「本当に妖精の国だ……」ボソッ
文香「……」
ゆっこ「あ、いま別の世界から移動してきた方々をお迎えする為の風船が上がりましたね。まああれはただの演出ですけど」
礼子「凄いわね……ここは、王国なら城下町の入り口、かしら? みんな小さいサイズなのね」
ゆっこ「そうです! あ、少々失礼……サイキックビーム!」ビビビビビビッ!!
ありす「あわわわわっ!? な、何するんですか!?」
シュルルルルル……
ありす「……おや? なんだか視線の高さが」
文香「……ユッコさんと、同じ目線に、なりましたね」
ゆっこ「さすがにこっちの世界で人間が元の大きさのままで動くのは大変ですからね! ユッコたちと同じサイズになってもらいました」
『間もなくー、モバマスシティ経由、レアメダル製造工場行きの汽車が、出発しまーす』
ゆっこ「あっ!? そうですそうです、今回王国には入れないので、ユッコの実家のモバマスシティに行くんですが、汽車の時間ギリギリだったんですよ!」
礼子「あら、そうなの? 王国のほうも華やかそうだけれど……まあ、機会があったらってことね」
ゆっこ「すみませんが汽車に乗り遅れると次が結構待ちますので駅に急ぎましょう!」ヒューンッ!
ありす「あ、ちょっと待ってくださーい!」
……
…………
――汽車内
ありす「汽車は私たちの世界のものとほとんど変わりませんね」
文香「はい……外観は、可愛らしい装飾でしたが……」
礼子「なんだか、遊園地のアトラクションに乗っている気分ね」
ゆっこ「ふーむ……王国は先日、魔物たちの出現報告があったハイカキン山に向けて大規模な討伐部隊を編制……大丈夫でしょうか……」ブツブツ
ありす「新聞ですか? 何か気になる記事でもありましたか?」
ゆっこ「そうですねぇ……色々気になるといえば気になりますけど」ペラッ……
「車内販売はいかがですかー? おにぎり、お弁当、冷たいお飲み物がありますよー」
ゆっこ「あ、すみませーん、お弁当4つで」
「はいどうぞ……あら、貴方たちは……もしかして人間?」
文香「は、はい……」
ありす「小さくなったとはいえ、私たちは2等身じゃありませんしね」
「まあ、まあっ! それじゃあ、もしかして魔法少女?」
ゆっこ「ああっと、ここでそのお話は……みなさん、今回はお仕事で来たわけじゃないので……」
「あら、そうだったの。ごめんなさいね、いつも私たちを助けてくれてありがとうございます。それじゃあ」
礼子「……やっぱり、私たち人間は珍しいのかしら?」
ゆっこ「そりゃ少し前は、よっぽどの事態じゃないと人間がマジカルランドに来ることはありませんでしたからね。はいお弁当」
ありす「新聞やメディアの報道で魔法少女たちはよく取り上げられているみたいですし、魔物との戦いが始まってからはこの世界に来る人間も増えたってとこですかね」
ゆっこ「そんな感じです。何でもしばらく前に、マジカルランドに迷い込んだ人間がいたってお話は聞きましたけど」
文香「……お弁当は、私たちの世界のものと、あまり変わりないのですね」
ゆっこ「魔法の国らしい食べ物なら町に着いたら食べさせてあげますよ」
礼子「それにしても……のどかな景色ね」
ありす「そうですね。もっとこう……うるさい感じの景観をイメージしていたんですけど」
ゆっこ「郊外はそこら辺の田舎みたいなもんですよ。王国や町は賑やかですけどね。というか、別にレジャー施設じゃないんですから……」
文香(やはりイメージしていたのとは違う……)
ゆっこ「まあ、観光施設はありますから、滞在中はそこを案内しますね」
……
…………
――数時間後、モバマスシティ
ゆっこ「到着です! ここがモバマスシティです!」
ありす「お……おおおお……」
ゆっこ「ふっふっふ……どうやら言葉も出ないようですね」ドヤァ……
文香「中世の……ヨーロッパのような、街並みですね」
ありす「舗装されている道に商店街……汽車の中もそうでしたけど、町には妖精がたくさんいますね」
礼子「あら? あそこ……道の端で人形が動いているわね」
ゆっこ「あれは町のお掃除人形くんです。ささっ、色々見て回りたいと思いますが、まずは町長の家に行きませんと」
ありす「町長の家?」
ゆっこ「帰省したのでご挨拶と、みなさんを紹介しませんとね」
……
…………
――モバマスシティ、町長の家
ゆっこ「ただいまー」ガチャッ!
町長「これユッコ! なーにがただいまじゃ!」
ゆっこ「うっひぃっ!? サイキックビーム!!」ビビビビビビッ!
町長「効かぬわ! サイキックビーム返し!」ビビビビビッ!!
ゆっこ「ぎゃああああああっ!?」
ありす「家に入るなり物騒な……」
町長「おっと、失礼しました。お見苦しいところを見せてしまって」
ゆっこ「いててて……不意打ちなら一本取れると思ったんですけど……」
礼子「はじめまして。今日は、ユッコちゃんからのお誘いでお邪魔しますわ」
町長「おお、ご丁寧にありがとう。1、2、3人……人間の方々が3人もいらっしゃるとは」
ゆっこ「この妖精がモバマスシティの町長です! 私にサイキックパワーの制御方法を教えてくれた師匠でもあります!」
町長「いやぁ、ユッコの馬鹿者がお世話になってるそうで……」
ありす「は、はあ……」
礼子「家の中の物も、全部妖精サイズなのね」
文香「私たちも、小さくならないと入れないサイズですね……」
町長「ところで……魔法少女になられる方は……」
ありす「私ですけど」
町長「おおっ! こりゃまためんこい子が……うむ、確かに魔法少女の面影がある……魔法少女としてのお名前を聞いてもよろしいですか?」
ありす「マジデ・クール・マジカ・タチバナです」
町長「マジデ・クール……おお、人気ランキング139位の!」
ありす(この前より上がってた)
文香「通称……クールタチバナです」
ゆっこ「そうですよー。ちなみに、文香さんと礼子さんは、現地で私とありすちゃんのお手伝いをしてくれてる人間です」
町長「ふうむ、お二方が……」
文香「は、はい……」
礼子「私たちは、ありすちゃんに助けてもらったときの成り行きから……になるけれどね」
町長「マジカルランドに来ても問題ない、ということであれば……もしかしたらお2人も魔法少女の素質があるかもしれませんなぁ」
文香「えっ……」
ありす「ふ、文香さんと礼子さんがですか!?」
ゆっこ「あ、そういえばお2人はあっちの世界でも普通にゆっこと話してましたね。すっかり気づきませんでしたけど」
礼子「い、いえ……でも私、この歳で魔法少女になるのはちょっと……衣装も、イメージとは合わないだろうし……」
ゆっこ「ま、そうですね! 魔法少女といえばありすちゃんくらいの年齢の子がなる存在ですし、イメージもありますからね!」
町長「ほっほっほ……おや、ありすちゃんや、その手に持っているものは?」
ありす「え? これですか? タブレットですけど」
町長「ふむ……どれ、せっかく遊びにきてくれたことじゃ、ちょっと貸してもらえんかの?」
ありす「はあ、どうぞ」
町長「む……むむむむーん……! サイキック、マジカル……カーッ!!」
ビビビビビッ!!
ゆっこ「おおー! ありすちゃんのタブレットの形が変わりましたよ!」
文香「す、すごい……ファンタジーなフレームに……」
ありす「あ゛ー!? 何してるんですか! これじゃサポートの対象外になりますよ!」
町長「ふぃー……完成じゃ。この機械に、みなさんの助けになるような機能を追加しておきましたぞ」
ありす「ええええ……」
町長「余程の衝撃がない限り壊れんようになったし、いままで使えた機能も問題なく使用できるはずですじゃ」
ありす「……確かに、ブラウザも開けますし、他のアプリも……ていうかこっちの世界で電波届くんですね」スッ、スッ……
礼子「そこら辺は魔法の国なのかしらね」
町長「ユッコや、王国には内緒じゃぞ」
ゆっこ「無断で別世界の道具を加工するのは本当はダメされてますからね。わかりました!」
町長「というわけでみなさん、ユッコの帰省中はこの町でゆっくりしていってください」
町長「町の者たちも、みなさんが来ることは知っていますので、妖精たちの中でも気にせずに生活してください」
文香「ありがとう……ございます」
ゆっこ「それじゃゆっこの家に荷物を置いてから観光にいきましょうか! いろんな場所に案内しますよ!」
……
…………
――モバマスシティ(大通り)
ありす「大通りの大道芸、ふわふわ飛びながら郵便受けに手紙を入れる妖精やふくろう、楽器演奏をしながら移動している馬車……」
礼子「ちょっとおかしいところもあるけど、イメージしていた魔法の国って感じね」
ありす「そうですね。こういうのでいいんですよ、こういうので」
文香「……」キョロキョロキョロキョロ
ゆっこ「文香さん、あんまりキョロキョロしてる首痛めちゃいますよ?」
「あっ! 魔法少女のクールタチバナだ!」
ありす「へっ?」
「わぁー! ほんとうだ! ユッコちゃんのお手伝いをしてくれてるクールタチバナだ!」
「他の人間もいるー!」
「ユッコちゃんおかえりー!」
ドドドドドドドッ!!
ありす「わわわわっ!?」
ゆっこ「ぬおおおおおっ! さ、3人が町の妖精たちに……って、みんな来るって知ってたからそりゃ興味ありますよね」
「魔法少女! 魔法少女に変身してー!」
「びゅーんって空飛んで! 一緒に空飛ぼう!」
ありす「え、ええ……いえ、あの、用もなく変身は……というか、私そもそも飛べない……」
「人間のお姉ちゃん! こんにちは!」
「人間がこの町に来るなんてすごい! ユッコちゃん、大活躍だね!」
文香「え……あの、その……」
礼子「わ、私たちまで囲まれるの……? 魔法少女に変身するのは、私たちじゃなくてそっちのありすちゃんよ?」
ゆっこ「ユッコみたいな仕事をしていない限り、みんな別の世界に行きませんからね。人間が気になるんですよ」
「魔法見せて―!」
「へんしんしてー!」
ありす「あ……あううう……」
ゆっこ「ほらほらみなさん! 今日はユッコたちはお休みに来ているんですから、あんまり囲まないでくださいねー!」パンパンッ!
「ちぇー」
「ユッコちゃんだけずるーい!」
ゆっこ「いやユッコは仕事ですからね?」
ありす「ふぅ……」
「あ、あのっ……」
ありす「ん?」クルッ
「……」
ありす「女の子……どうしたんですか?」
「この子がね、クールタチバナに渡したいものがあるんだって!」
ありす「わ、私にですか?」
「こ、これ……ど、どう、ぞ……」
ありす「小さい箱……中は、魔法少女の衣装……の、プレートのアクセサリー?」
「みんなで作ったんだよ!」
「ユッコちゃんが教えてくれたの! クールタチバナはマジカルクローゼットで変身するんだって!」
「魔法少女は、かわいい衣装を着て変身するんだもの!」
「あの……わ、私たちのために、いつも、悪い魔物たちをやっつけてくれて……あ、ありがとう……」
「ありがとう、クールタチバナ!」
「ありがとう!」
「ありがとう!」
ありす「……」
礼子「ほら、ありすちゃん。何か言わないと、ね?」
ありす「あ……えっと」
ありす「……は、はい。ありがとう……ございます」
「クールタチバナがよろこんでくれた!」
「やったー!」
「今日はお祭りだー!」
ゆっこ「まったくもー……すみませんね、お騒がせしちゃって」フワフワ
ありす「い、いえ……」
……
…………
――数時間後、夜、モバマスシティ、ゆっこの家
文香「晩ご飯……とても、美味しかったですね」
礼子「そうね。お皿も浮かせて持ってきていたし、魔法の国って感じの食事だったわ」
ゆっこ「いやー、レストランに行ったらみなさんのためにって、シェフがタダでごちそうしてくれましたからね! ユッコもタダ飯にありつけてラッキーでした!」
ありす「……」パカッ、パカッ
ゆっこ「おや、どうしたんですかありすちゃん?」
ありす「いえ……」
礼子「あら、それ、町の妖精たちから貰ったアクセサリー? マジカルクローゼットに入れたのね」
ありす「はい」
文香「……マジカルクローゼットに入れると……そのアクセサリーの、衣装に……変身できるのでしょうか?」
ゆっこ「いやいや、これは町のみんなが作ったものですし、そういう力はないですよ。てか衣装じゃなくてアクセサリーですし」
ありす「……」パカッ、パカッ
礼子「嬉しいの?」
ありす「……そうかも、しれません」
文香「みなさん……事前に、町長さんからお話があったとはいえ……たくさんの方々が、ありすちゃんの傍に集まっていましたね」
ゆっこ「まー、魔法少女には魔物を退治してもらってみんな感謝してますし、そのアクセサリーもお礼ですからね」
礼子「そうね。普段はたまに報道されるだけか……魔物を倒したらすぐにその場所から離れるもの。こんな形で、お礼を言われたことってないんじゃないかしら?」
ありす「……そうですね」
……
…………
………………
……………………
――モバマスシティ、郊外
??「うーん、魔力の跡を追いかけて―……へー、王国に行かないでこんなトコに来てたってワケか」
??「あのクソムカツク上司たちがハイカキン山に行ってるから、てっきりそっちに行くかと思ってたけど……ま、いっか☆」
??「こっちで暴れておく仕事もあったし、それじゃぶっ飛ばしにいくぞー☆」
……
…………
………………
……………………
――モバマスシティ、ゆっこの家
<カーン! カーン! カーン! カーン!
文香「おや……?」
ゆっこ「むむっ!?」
ありす「なんの音でしょうか?」
礼子「鐘の音……かしら」
ゆっこ「そんな……この音は!?」
――キィィィンッ!!
ありす「この感覚……!?」ガタッ!
ガチャッ!
町長「ユッコ! ユッコや!」
ゆっこ「町長! もしかして!」
町長「魔物がきよった! みなさんと一緒に避難しなさい!」
ゆっこ「いやいや、町のみんなの避難は!」
町長「いまやっておる! 奴等め、ハイカキン山に王国の討伐隊が向かったときにきおって!」
ゆっこ「町長は町の人たちの避難を! 魔物の相手はさすらいの妖精ゆっこの仕事です! ありすちゃん!」
ありす「はい! 文香さんと礼子さんは町のみなさんの避難を! あとユッコさん、外に出たら私たちの体を元の大きさに戻してください!」
文香「は、はい……!」
礼子「わかったわ。ありすちゃんもユッコちゃんも気を付けて!」
ゆっこ「いきますよ!」
……
…………
――モバマスシティ
「わー!」
「魔物だー!!」
「にげろー!」
魔物1「ぴにゃああああああっ!!」ズガガガガガガァンッ!!
ドガアアアアアンッ!!
ゆっこ「げげっ!? もう町の入り口に魔物が!?」
ありす「のんびりしていられません、ユッコさん!」タタタタッ!!
ゆっこ「はい! スタージュエルです!」ビュッ!
ありす「マジカルチェーンジ!!」
パアアアアアアッ!!!!
シュパアアアア……
「あ、あれは!」
「魔法少女だ! 魔法少女が魔物をやっつけにきてくれた!」
パアアアアア……
ありす「クールにいきます! マジデ・クール・マジカ・タチバナ!」
「クールタチバナだ! カッコいい!」
「クールタチバナかわいい!」
ゆっこ「みんなー! 危ないから避難しておいてくださーい!」
ありす「町の中で戦ったら被害が……!」タタタタタッ!
ゆっこ「むむむー……サイキック……ふっ飛ばし!」グググッ!
魔物1「ぴにゃっ!?」
ありす「魔物が吹き飛んで町の外に……!」
ゆっこ「ありすちゃん! 町長に弄ってもらったタブレットを! 恐らく今回は魔物も1匹だけではないと思います!」
ありす「えええええ……そんな索敵機能みたいなものがいつの間に……」スッ、スッ……
ピッ、ピッ……
ありす「町の外の地図に、丸い点が3つ……3匹はいるみたいですね」
ゆっこ「どうやら近くに固まっているみたいですね。一気に片付けましょう!」
ありす「はい!」
魔物1「ぴ、ぴにゃ……!」
魔物2「ぴにゃ!」ズシンッ、ズシンッ!
魔物3「ぴにゃああ!」ズシンッ、ズシンッ!
ありす「入口の外なら魔法を使っても大丈夫ですね! ストロベリーショット!」ボボボボンッ!!
魔物1「ぴにゃっ!?」ドガアアアアアンッ!!
ありす「この町で暴れさせるわけにはいきません! ストロベリーフレグランス!」ギュオオオオオオオッ!!
魔物1「ぴにゃああああああ……」シュウウウウウ……
魔物2「ぴにゃああああああ……」シュウウウウウ……
魔物3「ぴにゃああああああ……」シュウウウウウ……
ジャラジャラジャラッ!!
ゆっこ「やりましたね! 3匹相手でも全然やれるじゃないですか!」
ありす「ふぅ……そうですね。とにかく、町にこれ以上の被害がでなくてよかっ――」
??「おりゃー☆ シュガーはぁとアタック!」パアアアアアッ!
ありす「は?」
ゆっこ「魔力!? サイキックシールド!」
ドガアアアアアアアンッ!!
ありす「わわわっ!?」
ゆっこ「ハート形の魔力……まさか!」
??「おやおやー? お偉いさんたちがハイカキン山に行ってるから、てっきり王国の戦力はそっちに行ってるんだと思ってたけど、餌がまだいるぞぉ☆」
ありす「あなたは……もしかしてこの前の……!?」
??「口の利き方が悪いぞ☆ それにあなた、じゃなくてスゥィーティーな、シュガーはぁと、って呼んで☆ 呼べよ」
ゆっこ「ま、まさか……大神官穂乃果の幹部……!?」
ありす「この人がユッコさんが話していた、大神官穂乃果の幹部……!」
??「おーい、はぁとの話きいてたかー? 大神官穂乃果の幹部なんてダサい呼び方しないで、はぁとのことはシュガーはぁとって――」
ありす「えっと、この人は……佐藤心、26歳、スリーサイズは不明……このタブレット、相手の情報もスキャンできるんですね」
ゆっこ「さすが町長! ユッコの師匠なだけありますね!」
心「おいいいいぃぃぃ!? なんではぁとの本名分かるんだよ! ふざけんな! 個人情報だぞ!」
ありす「それで、佐藤さん」
心「はぁとって呼べっつってんだろ! 呼べ!!」
ゆっこ「語尾がキツくなってるってことは、相当マジみたいですね……それじゃ……えっと、なんでしたっけ?」
心「しゅがーはぁとだぞ☆ しゅがーはぁとでもシュガーはぁとでもシュガーハァトでも、色々採用されてるから好きに呼んでいいぞ☆ 呼べ♪」
ありす「これは魔力……まさか、しゅがーはぁとは……」
心「うーん? はぁとはアンタたちのだーいっキライな大神官穂乃果の部下だぞ☆ ガキんちょ魔法使い♪」
ありす「……魔物を従えている大神官穂乃果の幹部であれば、会話をして終わりというわけにはいきませんね」ジャキンッ!
ありす「んー? やんのかやんのか☆ いいぞかかってこい☆」
ありす「……魔法の杖よ! ストロベリーショット!」ボボボボボンッ!
心「……」
ドガアアアアアアンッ!
ゆっこ「おお、直撃!」
ありす「やりましたか!?」
心「……煙いぞ☆」ケホッ
ありす「なっ……!?」
ゆっこ「効果がない……これは相当ヤバイんじゃ……!」
礼子「ありすちゃん!」
町長「ユッコ!」ヒューンッ!
ありす「み、みなさん!? どうしてここに……」
文香「町のみなさんは、避難させたので……まだありすちゃんが、戻ってこなかったので……」
心「おーおー、ギャラリーも増えてはぁとのやる気もあっぷあっぷ☆」
礼子「あの人は……人間? 私たち以外の……」
ゆっこ「大神官穂乃果の幹部です! 恐らく、この前の運動会の日にゆっこたちの近くにいた……」
礼子「あのとき、変な気配がしたと思っていたけど、貴方だったのね……!」
ゆっこ「ありゃ、他の人間も気付いてたってワケ? ま、あのときはちょーっと見学してたけどへぼ魔法少女だったからはぁとでも楽勝かなーって思って☆」
ありす「……あまり、甘く見ないでください!」サッ!
『クール!』
『セクシー!』
ありす「ヴァリアブルパフォーマンス!」
『クール・セクシー!』
パアアアアアアンッ!!
ありす「魅せます、マジデ・クール・セクシー・タチバナ!」ボインッ!
心「おおっ、ナイスバディじゃん♪」
ありす「行くわよ、シャイン・セクシーダイナマイト!!」カッ!
心「セクシーはぁとアタック!」カッ!
ドガアアアアアアアンッ!!
ありす「くっ……!?」
礼子「相打ち!?」
ギュンッ!
心「そらそらそらっ!」ビュッ!
ありす「シールド!」サッ!
ガキィィンッ!!
心「んー、セクシーがなってないぞ♪ はぁとのほうがよっぽどセクシーだぞ☆ セクシーだろ?」
ありす「このっ……! 離れなさい!」ブンッ!
心「おっと!」ビュンッ!
ありす「それなら……!」カチッ!
『キュート・カワイイ!』
パアアアアアアンッ!!
『マジデ・キュート・カワイイ・タチバナ!』
ありす「フフーン! 今日も可愛くいきますよ! キュートカワイイボイス!」
『カワイイ!』
『カワイイ!』
『カワイイ!』
心「しゅがーはぁとぼむ☆」ボボボボンッ!!
ドガアアアアアンッ!!!!
心「そんな半端な可愛さではぁとの可愛さを止められると思ってんのか☆」
文香「そ、そんな……」
ありす「くっ!」カチッ!
『パッション!』
パアアアアアアンッ!!
『マジデ・パッション・マジカ・タチバナ!』
ありす「行きますよおおおおおおお! バーニング……ボンバー!!!!」ボオオオオオオッ!!
心「へー……パッションならっ!」フワッ!
ありす「あっ!?」
ゆっこ「と、飛んだ!?」
心「ほれほれ、こっちまで飛んできてはぁとの顔に一発ぶちかましてみな☆」
ありす「う、ううう……」
心「そっかぁ、飛べないなら仕方ないな☆ それに……」スッ……
心「パッションではぁとに勝てると思うなよ! ラブリーはぁとボム!!」パアアアアアアッ!!
ありす「魔力……っ!?」
ドガガガガガガガガガガァンッ!!!!
ゆっこ「クールタチバナ!」
文香「あ、ありすちゃん……!」
心「オラオラオラァッ☆」ドガガガガガガガガァンッ!!!!
シュウウウウウウウ……
ありす「う……う、あ……」グググッ……
礼子「ありすちゃん!」
心「んー? まだ形残ってるじゃん?」フワッ
ありす「ま、まだ……」ググッ……
ドサッ!
心「体はボロボロでもやる気だけはまだありまーすって感じだな? いたそー♪」
ありす「う……う、うう……」
??「いや~ん、超ザコ☆ そんな汚い面ではぁとの顔を拝むなんて許さないぞ☆」バキッ!!
ありす「あぐっ……!」ドサッ!
ゆっこ「ありすちゃん!!」
文香「いけません……あ、ありすちゃんが……」
礼子「他の魔物も……このままだとこの町が……!」
魔物「ぴにゃ、ぴにゃ……」ズシンッ! ズシンッ!
心「持ってきた魔物はまだいるぞ☆ ま、このザコがこんな体たらくだし、どうしようもないだろうケド♪」
ゆっこ「あ、ありすちゃんの魔法が、全然通用しないなんて……」
心「どうだ、はぁとも強いだろ☆ 大人しく降伏すれば苦しまないように――」
「みんなー! いくぞー!」ビューンッ!
「クールタチバナを助けるんだ!」ビューンッ!
ドドドドドドドッ!!
心「ん?」
町長「お、お前たち! 避難はどうしたんじゃ!」
「クールタチバナがピンチなんだから、みんなで助けないと!」
「魔法少女にはいつも助けてもらってるんだから、私たちだって!」
ゆっこ「自警団のみんな……!? いけません、逃げてください!」
礼子「みんな逃げて! こっちに来ちゃダメよ!」
心「うーん……泣ける話♪ はぁとの涙腺も崩壊してるぞ☆ てわけで、死ね♪」パアアアアアアッ!!
ドガアアアアアアアンッ!!
ゆっこ「サイキックシールド! み、みんな……!!」
シュウウウウウウ……
「……」
「……」
「……」
文香「そ、そん……な……」
ゆっこ「みんな!!」
心「こんな小さい奴らがいくら群がっても、はぁとに敵うはずないだろ☆」
ありす「み、みなさん……こ、このっ……」グググッ!
心「おっ、まだ立つとは根性あるぞ☆ ほらほら、がんばれがんばれ♪」
ありす「こ、の……よくも……!」
心「はいざんねーん♪」バキッ!!
ありす「あがっ……」ドサッ!
心「はぁ……まだ分かんないのコイツ?」ガスッ!
心「魔法少女なんて言うくせに、真似っこしかできないヤツがはぁとに勝てるわけないだろ☆ ん?」
ありす「う、ぐ、ううう……」
心「真似っこするしかない程度で、自分じゃなーんにも出来ない奴は最初からお呼びじゃないっつの!」
ありす「そ、そん、な……それじゃあ、私、は……」
ありす(私は、どこにも……)
ありす「う……」ガクッ
パアアアアアアッ……
文香「あ、ありすちゃんの……変身が……」
ゆっこ「いけません、このままではありすちゃんが! サイキックビーム!!」ビビビビビッ!!
心「そんなのきくわけないだろ!」ビュンッ!
ゆっこ「うっ……!」
町長「むぅんっ!!」サッ!
バチィッ!!
心「ん、なんだコイツ☆」
ゆっこ「ち、町長!」
町長「ユッコ、よく聞け! お前は町の中に入った魔物を、みんなで力を合わせて倒すんじゃ! 避難している町の者たちのところに行かせてはならんぞ!」
パアアアアアアアッ!!
心「おおっ? はぁとの足元に魔法陣でもない変な模様が浮かんでる?」
ゆっこ「町長……何をやってるんですか、町長!」
町長「ユッコ……みなさんを、しっかりお守りするんじゃぞ」
ゆっこ「町長―!!」
バシュンッ!!
文香「き、消え、た……?」
ゆっこ「町長……まさか、しゅがーはぁとと一緒に、サイキックテレポートを……!?」
礼子「……そうよ、町は!?」
魔物「ぴにゃあああああっ!!」ズガアアアアアアンッ!!
文香「さ、先程の魔物が……町の中で……」
ゆっこ「町長……町長……!」
礼子「……文香ちゃん、ありすちゃんを連れてみんなを避難させた場所に行って、残りの自警団の妖精たちを呼んできて頂戴!」
礼子「私とユッコちゃんは町の中の魔物と、逃げ遅れた妖精を……ユッコちゃん!」
ゆっこ「みんな……町長、ありすちゃん……」
ありす「……」
礼子「……文香ちゃん、ありすちゃんをお願い。出来るわよね?」
文香「は……はい……」
礼子「それじゃお願い。ユッコちゃん、行くわよ! ここにいるだけじゃ、どうにもならないわ!」
ゆっこ「……」
礼子「ユッコちゃん!」
ゆっこ「……はい、行きませんと……魔物は、倒さないと!」
文香「あ、ありすちゃん……しっかり、してください……」グッ……
ありす「……」
ゆっこ「文香さん、ありすちゃんをお願いします。すみませんが礼子さん、町に誰かが残っているかもしれません。避難のお手伝いをお願いします!」
礼子「ええ、行くわよ!」
……
…………
………………
……………………
心「おーおー、ずいぶんと遠いところまで飛ばしてくれたじゃん? お・じ・い・ちゃ・ん♪」
町長「う、ううう……」ググググッ……
心「こーんな遠くに飛ばされたら、はぁと元の場所に戻るの大変なんだけど? 謝って? 謝れ☆」
町長「ぐっ、うぅ……」ギリギリギリ……
心「最後に言い残すことがあるなら聞いてあげるぞ☆」
町長「す、すまん……ユッコ……」
ゴキッ!!
ドサッ……
町長「……」
心「……」スッ……
心「……さーてと、それじゃ、ここから頑張って戻るとしますか。あのガキんちょ魔法少女をぶっ潰さないと☆」
つづく
……
…………
………………
……………………
『次回予告!』
ゆっこ「いままでありすちゃんにはたくさん助けてもらいました。だから、今度はゆっこの番です!」
文香「私も、礼子さんも……ありすちゃんがいてくれたから……私も、そのお礼が……したいんです。どんなに怖く、恐ろしいことがあっても……」
心「やるじゃん、妖精がまだこんな抵抗できるなんて思ってなかったぞ☆」
裕子「いつも命懸けなんです! だけど今度は、それ以上に……ユッコのサイキックパワーを全部使った、フルパワーです!!」
礼子「大丈夫よ、みんな。ありすちゃんはきっと……戦いに行った、ユッコちゃんも文香ちゃんも……」
ありす「……」
『どうしてその力が、魔法と呼ばれるのか。どうして、あなたにその力が集まったのか』
『あなたには、分かるはずです』
ありす『私に集まった光……そう、この光は……』
心「ようやく出てきたとか遅いぞ☆ それじゃあさっさと、はぁとにぶっ飛ばされよっか♪」
ありす「残念ながらそうはいきません。私はもう、気付きましたから」
『最終話 本当の私』
ありす「それは、私を輝かせてくれたこの光……だから、みなさんに本当の私を見てもらいます!」
――
――――
おわり
HTML化依頼出して終了
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