物真似師「私は物真似師。他人のものまねをして生きている」 (53)

―ものまね小屋―

物真似師「はむっ」

物真似師「……」モグモグ

物真似師(今日はいい天気だなぁ。昨日、雨だった所為で洗濯物が溜まってるし、洗濯しよう)

物真似師「よいしょっと」

物真似師(今日は依頼くるかな……)

物真似師(別にこなくてもいいけど。働きたくないし)

物真似師「まずはこの衣装からあら――」

『すみません、物真似師様はいらっしゃいますかー?』

物真似師「……」

『物真似師様に頼みたいことがあるのですが……』

物真似師「……内容はなんでしょうか」

『おぉ! 実は三日後、城下町のほうで行われる祭りにて大道芸を披露するつもりだったのですが、芸人の一人が怪我をしてしまい、このままでは予定していた芸を披露できないのです』

『そこで、物真似師様にご依頼しようと思いまして……』

物真似師「それぐらいでしたら……」

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物真似師「どうぞ、中で詳しくお聞きします。散らかっていますが……」

少女「わぁ……。ありがとうございます! 失礼いたします!」

物真似師「飲み物は紅茶しかないですが」

少女「そんな! お構いなく!」

物真似師「いえ、お客様は持て成すようにと言われていますので」

少女「で、では、いただきます」

物真似師「今、用意します」

少女「すごい……。色々な衣装があるんですね」

物真似師「全て頂き物です。依頼料と共に使用した衣装も貰うことが多くて、溜まっていく一方です」

少女「へぇー……」

物真似師「はい、どうぞ」

少女「申し訳ありません」

物真似師「大道芸、しているのですか」

少女「はい。物心つく前からやっています。家族で芸人をしているものでして」

物真似師「このご時世に大道芸だけで生活をされているのですか。素直に感心します」

少女「まぁ、その、誇れるような仕事とはいえないですけど……」

物真似師「……」

少女「でも、今回はとっても大きなチャンスを頂いたんです。これが成功したら、きっと不自由のない生活ができるって、お父さんが……」

物真似師「城下町での祭で芸を披露するとなると、専用の会場か広場を借りないとできないですよね。他にも露店が多く出店してますし」

少女「そうなんです!」

物真似師「……っ」ビクッ

少女「今回、かなり無理をして会場を押さえたんです。地道に活動をしてきたのですが、ここでもう一旗揚げようと一念発起したんです」

物真似師「注目されたら城下町での公演や他地域からの依頼もあるでしょうね」

少女「はい! なので今回の公演、絶対に失敗は許されないんです。でも、張り切り過ぎた所為で、練習中にお父さんが怪我をしてしまって……」

物真似師「大怪我なのですか」

少女「命に別状はないんですけど、足を骨折してしまって……」

物真似師「それはお気の毒に……」

少女「歩けないどころか立てもしない状態なので、簡単な芸すらもままならないんです」

少女「そこで、噂の物真似師様にお父さんの代わりを務めてもらおうかって話になりまして」

物真似師「分かりました。どのような芸をするのか見せてもらえますか? そのものまねしますので」

少女「あの物真似師様は噂通り、一度見ただけでそっくりにものまねができるのですか?」

物真似師「ええ。一応は……。本物にはどうしても劣りますけど」

少女「すごい……! それだけで城下町で一番大きな会場も満員にできるのでは……!!」

物真似師「どうでしょう」

少女「では、早速なのですが、この芸を……」ゴソゴソ

物真似師「……」

少女「演目名、剣の舞」シャキンッ

物真似師「それでお手玉をするということですか」

少女「はい! 見ていてください」

物真似師(大丈夫かな……)

少女「はっ!」シュッ

少女「はいっ、よっ、ほっ!」

物真似師「……」

少女「せいっ! と、こんな感じです」

物真似師「分かりました。やってみましょう」

―村―

芸人「ふんっ」

芸人「いだだだだ!!」

女性「ちょっと、無理しないで」

芸人「バカ野郎! これぐらいの怪我で寝ていられるかよ! 本番は三日後なんだぞ!!」

女性「だからって、動けないでしょ」

芸人「うるせえ! 祭の会場を押さえるのに借金だってしたんだぞ! 中止になんてできるわけねえだろ!!」

女性「だから、今あの物真似師様に……」

芸人「なにぃ? どういうことだ」

女性「失敗はできなんだから、物真似師様に頼ることにしたの」

芸人「なんだと!? よりによってものまね野郎にか!?」

女性「それしか方法がないじゃない」

芸人「ふざけんな!! あいつは――」

少女「ただいまー。物真似師様に来てもらったよー」

物真似師「お邪魔します」

芸人「こいつが……」

物真似師「どうも……」

女性「よく来てくださいました、どうぞ」

芸人「帰れ」

少女「え……?」

物真似師「……」

芸人「てめえの手は借りねえ! 帰れ!」

少女「な!? お父さん! なんてこというの!?」

芸人「他人のものまねで食ってる奴に手伝って欲しくねえよ」

女性「でも、これしか方法は……」

芸人「こっちは芸を完成させるために何十年と繰り返し練習してきたんだ。それを簡単にマネられちゃあ、商売あがったりだ!」

物真似師「私はものまねをするだけです。貴方達の芸を他所で見せることは絶対にありません」

芸人「それを信じろってか? 無理にきまってるだろ!」

物真似師「……分かりました。帰ります」

少女「ちょ、ちょっと待ってください!! 物真似師様ぁ!!」

物真似師「貴女の父上のいうことも尤もです。マネをされてほしくない人だって決して少なくありませんから」

少女「で、でも……」

女性「あなた、いい加減にして。もしこのまま中止になったら、それこそ借金しか残らないでしょ」

芸人「これぐらいの怪我なんざ、唾付けてれば治る!」

女性「なわけないでしょう。意地張ってないで、お願いしましょう」

芸人「死んでもごめんだ」

女性「もう!」

物真似師「では、これで。洗濯物が溜まっていますので」

少女「ま、まって! お願いします!! 物真似師様しか頼る人がいないんです!!」

芸人「やめろ!! そんなものまね野郎にだけは絶対に頼るんじゃねえよ!!」

少女「お父さんは黙ってて!! 動けないくせに!!」

芸人「明日にはピンピンしてらぁ!」

少女「骨が飛び出すぐらいの怪我したのに無理に決まってるでしょ!?」

女性「あなた、このままじゃ一家全員、首を吊ることになるわよ。私、そんなことをなるぐらいなら、田舎に帰るから。もちろん、娘もつれて」

物真似師(帰りたい……)

芸人「好きにしろぉ! 知るか!! けっ!!」

少女「お父さん……」

女性「分かりました。行きましょう」

少女「え!? でも……!?」

女性「苦労をかけるかもしれないけど、信じてついてきてほしいと言われ15年……。もう信じられないわ」

女性「田舎に帰らせていただきます」

芸人「おう! 帰れ帰れ!!」

女性「行くわよ」グイッ

少女「お、お母さん!? ちょっと……!?」

物真似師(本当に出て行っちゃった……)

芸人「せいせいすらぁ! お前も、早くでていきやがれ!!」

物真似師「……はい。さようなら」

芸人「二度と顔みせるなよ!!」

物真似師「はい」

芸人「本当にいけ好かねえやつだぜ……」

物真似師(良い天気……。洗濯しないと)

女性「あの……」

物真似師「はい?」

女性「これが今、渡せる限界のお金です」

物真似師「……」

女性「あの人を助けてあげてください」

物真似師「でも……」

女性「本当にバカで融通がきかなくて、強引で、頭でっかちで、面倒で、気難しい人ですけど……」

物真似師(そこまで言うんだ……)

女性「それでも、私はあの人の妻なので……」

物真似師「……」

女性「どうか、お願いします」

少女「物真似師様、お父さんを助けてあげてください」

物真似師「それなら貴方達で助けてあげればいいのに」

女性「ああなったらもう、私たちを舞台にはあげてくれないでしょう。けれど、物真似師様なら……きっと……」

芸人「なんとか……しねえとな……大見得切ったんだ……意地でも成功させないと……」

物真似師『すみません』

芸人「なんだこらぁ!!」

物真似師「あなたのものまねをすることにしました」

芸人「はぁ? 何も頼んでねえだろ!! 帰りやがれ!!」

物真似師「――やなこった!!」

芸人「なぁ!?」

物真似師「誰がてめえの指図を受けるかってんだ!! 俺は決めたぞ!! やるったらやる!!」

芸人「ざけんじゃねえ!! ものまね野郎に縋るほど、おちぶれちゃいねえよ!!」

物真似師「バカ野郎!! その使い物にならねえ足で何ができるってんだよ!! はぁん!? 添え木にすらなりゃしねえじゃねえかよ!」

芸人「て、めえ……! いってくれんじゃねえか!!!」

物真似師「こっちが助けてやるっていってんだよ! 黙っててめえは従っておきゃあまるっと解決だろうが!」

芸人「だから!! お前の手だけはぜーったいにかりたくねえっていってんだよ!!」

物真似師「だから!! お前のことを手伝ってやるっていってんだよ!!」

芸人「真似すんじゃねえええ!!」

物真似師「まぁいい。とりあえず、この芸を見やがれ」シャキンッ

芸人「そりゃあ、うちの娘が得意な……」

物真似師少女「はいっ、よっ、ほっ!」

芸人(こいつ……噂通り、見ただけで真似ができるのかよ……)

物真似師「はいっ!」パシッ

物真似師「どうだ?」

芸人「ふ、ふんっ。娘の芸ができたからって、次の公演じゃ前座にしかなんねえよ」

物真似師「――話は聞いています。綱渡りをしていて、落ちてしまったとか」

芸人「ああ、そうだよ。文句あるか」

物真似師「その芸、見せてもらえますか」

芸人「この足が見えねえのかよ!? できねえよ!!」

物真似師「出来る人は?」

芸人「低い位置、短い距離での綱渡りなら、うちの嫁ができる」

物真似師「なるほど」

芸人「けどまぁ、出ていっちまったからなぁ。ものまね野郎も、元ネタが見れないんじゃあ、ものまねのしようがねえな! がっはっはっは!」

>>12
訂正

物真似師少女「はいっ、よっ、ほっ!」

物真似師「はいっ、よっ、ほっ!」

物真似師「そうですね……」

芸人「もういいだろ。さっさと出て行け」

物真似師「では、奥さんのものまねをします」

芸人「はぁ?」

物真似師「――これが今、渡せる限界のお金です」

芸人「……!?」

芸人(このやろう……声色まで似せられるのか……!?)

物真似師「あの人を助けてあげてください」

物真似師「本当にバカで融通がきかなくて、強引で、頭でっかちで、面倒で、気難しい人ですけど……」

芸人「……」

物真似師「それでも、私はあの人の妻なので……。どうか、お願いします」

芸人「……」

物真似師「一言一句ものまねさせていただきました」

芸人「そんなことで俺が説得できるとでもおもってんのかよ。馬鹿馬鹿しい」

物真似師「――ちょっと嬉しいじゃねえかよぉ、ちくしょうめ」

芸人「そんなこと言ってねえだろ!!」

物真似師「あなたのものまねをしたら、自然と出た台詞です」

芸人「てめえのものまねは完璧じゃねえな!!」

物真似師「心得ています」

芸人「いちいち癪に障るやつだなぁ……!!」

物真似師「私は本物に成りきることはできません。ですが、他の者を騙せるぐらいには似せられる自信があります」

物真似師「それはあなたが自身の芸に対して持っている誇りと同じです」

芸人「……」

物真似師「マネさえさせてもらえれば、期待には応えるつもりです」

芸人「この足じゃ、何もできねえんだよ。もう無理だ」

物真似師「……」

芸人「分かってる。俺は頑固者だ。下げる頭なんてどこかに置いて来ちまった。いつもあいつには迷惑と苦労をかけてきたよ」

芸人「支えてくれてきたのは、あいつだけだった……。感謝してもしたりねえ……」

芸人「だから、もうこれ以上、俺に関わってほしくないんだ。俺は、独りで成功させる。失敗するって分かっていても、成功させるつもりでやんねえと、あいつに申し訳が立たねえからな。すまねえが、出て行ってくれ」

物真似師「……わかりました」

物真似師「――俺に関わってほしくないんだ。俺は、独りで成功させる。失敗するって分かっていても、成功させるつもりでやんねえと、あいつに申し訳が立たねえからな。すまねえが、出て行ってくれ」

女性「……」

物真似師「以上です」

女性「あの人ったら……」

物真似師「頑固者なんだからぁ、もぅ~」

女性「そ、そんなこと思ってません!!」

物真似師「そうなのですか」

少女(物真似師様って意外とお茶目なのかな……)

物真似師「最大の芸である高所綱渡りをやりますので、一度見せてください」

女性「ですが、私ができるのは低所でしかも短距離ですよ?」

物真似師「綱渡りのものまねができれば、高さも距離も関係ありません」

女性「え……」

物真似師「私が真似をするのは『綱渡り』ですから」

女性「命にかかわりますよ……? 失敗したら旦那のように……」

物真似師「なりません。失敗のものまねをするつもりはありませんから」

―会場―

女性「ここで私たちの芸を披露するつもりだったのですが……」

物真似師「あの一番高い柱の上で綱渡りを?」

少女「はい。お父さん、あそこから落ちちゃって……」

物真似師「よく助かりましたね」

少女「落ちたときのために用意していた分厚い布の上に落ちたので、なんとか……」

物真似師「どちらにしても幸運だと思います」

女性「綱渡りの準備ができました。本番のものより半分以下の高さと長さですが」

物真似師「構いません。見せてください」

女性「はい。では、この長くしなる棒を持ちまして……」

女性「ほっ……はっ……」フラフラ

物真似師「……」

女性「――っと、なんとか渡りきれました」

少女「やったー」パチパチパチパチ

物真似師「では、ものまねしてみます」

―翌日 城下町 会場―

芸人「くっ……。ふぅー……」

芸人(村から大した距離じゃねえのに……。半日もかかっちまったな……。この足がまともなら……)

芸人(文句言ってる場合じゃねえな。本番は二日後だ。この足でもできる芸を用意しねえと……)

「すげえ奴がいるぞ!!」

「なんだあれー!」

「祭に向けての練習じゃねえの?」

芸人「な、なんだぁ? なんでこんなに人が……」


物真似師「ほっ……はっ……」フラフラ


芸人「な……あ……!?」

「見てるこっちがハラハラするぞ、おい」

「こえー!! 落ちたらどうするんだ!?」

「でも、命綱はつけてるっぽいぞ」

芸人「あ、あのやろう……!!」

物真似師「よいしょっと」スタッ


「渡りきりやがった!!」

「すげー!!」


物真似師「さてと……。よっと、ほっ……はっ……」フラフラ


「折り返したぞ!」

「あれがゴールじゃなかったのかよ!?」


芸人「お、おいこらぁ!! 降りて来い!! バカ野郎!!」

物真似師「どうも」

芸人「どうもじゃねえよ!! 降りてこいって言ってんだよ!!」

物真似師「分かりました」

兵士「なんの騒ぎだこれは」

芸人「あ、やべぇ」

兵士「おい、ここで大道芸をしていいのは祭のときだけだぞ。何をしている」

兵士「事と場合によっては当日、ここで芸を見せられなくなるぞ」

芸人「すみません、こいつ新人なもんで、ここの決まりを知らないんですよぉ、へへへ」

物真似師「……」

芸人「お前も謝れ」

物真似師「すみません、こいつ新人なもんで、ここの決まりを知らないんですよぉ、へへへ」

芸人「真似すんなぁ!!」

兵士「……ふざけているのか?」

芸人「ちがうんです! こいつ育ちがよくなくて……!! ほら」

物真似師「

>>20
投下ミス

兵士「事と場合によっては当日、ここで芸を見せられなくなるぞ」

芸人「すみません、こいつ新人なもんで、ここの決まりを知らないんですよぉ、へへへ」

物真似師「……」

芸人「お前も謝れ」

物真似師「すみません、こいつ新人なもんで、ここの決まりを知らないんですよぉ、へへへ」

芸人「真似すんなぁ!!」

兵士「……ふざけているのか?」

芸人「ちがうんです! こいつ育ちがよくなくて……!! ほら! 自分の言葉で謝れ!!」

物真似師「すみませんでした」

芸人「俺のほうから言い聞かせておきますので、ここは何卒穏便に……」

兵士「会場で練習したい気持ちは分かるが、こうして人が集まると我々も動かざるを得なくなる。自重してほしい」

芸人「そらぁもう、わかってますよぉ」

兵士「なら、いいが……」

物真似師「……」

兵士「くれぐれも気を付けるように」

芸人「お前、何余計なことしてんだ。もしここで公演ができなくなったら、何もかもが水の泡なんだぞ」

物真似師「それは聞かされていなかったので……」

芸人「ここいらの兵隊も最近はピリピリしてんだからよぉ。やめてくれよな」

物真似師「分かりました」

芸人「で、なんで綱渡りなんてしてたんだ」

物真似師「ものまねをしていただけです」

芸人「あいつに頼まれたのか」

物真似師「はい」

芸人「そうか……」

物真似師「絶対に成功しなければならないのでしょう?」

芸人「そ、そうだけどよぉ……。妻も娘も出て行った。俺の足も無様なままだ。どうにもなんねえよ。けど、諦めるつもりはねえ」

芸人「足が動かなくても出来る芸はあるからな」

物真似師「御一人でやるつもりなのですか」

芸人「昨日からそういってんだろ」

物真似師「私では力不足でしょうか」

芸人「だから、俺ぁものまね野郎を雇う気はねえんだよ」

物真似師「私は貴方に雇われたわけではありません。貴方の娘さんに依頼されました」

芸人「ぐ……」

物真似師「無論、貴方が力づくで私を止めるというのでしたら、遠慮なく実行していただいて結構です。恐らく、力では敵わないでしょう」

物真似師「貴方が」

芸人「う、うるせえ!! 万全だったら、お前なんかに負けるかよ!!」

物真似師「その通りです」

芸人「は……?」

物真似師「その足が折れていなければ、私では貴方に敵いません。それが、物真似師です」

芸人「……」

物真似師「でも、今の貴方より私の方が多くの芸を行えます」

芸人「ちっ……。お前、本当になんでもできるのか」

物真似師「目の前で実演していただけるのでしたら」

芸人「頭おかしいぜ……やっぱりよぉ……」

物真似師「良く言われます」

芸人「いいか!! 芸の道は一日にしてならず!! 本来なら一朝一夕で身につくもんじゃねえんだよ!!」

物真似師「……」

芸人「だから、物真似師ってやつが俺は大嫌いなんだよ。他人様の技術で拍手喝采を掻っ攫っていくからな」

物真似師「そういった物真似師もいるでしょうね」

芸人「俺はお前を信じねえ。だから、今からお前に教える大道芸、曲芸は、封印する」

物真似師「私は真似たものを他で使用することはありません。物真似師の誇りに賭けてお約束します」

芸人「うるせえ!! これは俺の誓いだ!! てめえのことなんざ、どうでもいいんだよ!!」

物真似師「もぉ~、強情なんだからぁ」

芸人「妻の真似するんじゃねえよ!!!!」

物真似師「失敬しました。あまりにも怒っているので、和ませたかったのですが」

芸人「和むかぁ!! 真面目にやれぇ!!」

物真似師「はい」

芸人「調子狂うぜ……」

物真似師「何から見せてくれるのですか」

芸人「お前、娘にいくつか芸を見せてもらったんじゃねえのか。あの剣の舞だけじゃねえよな?」

―村―

物真似師「剣の舞。はっ! とうっ!!」シャッシャッ

芸人「よし、次」

物真似師「消える大樽。この大きな樽に布を被せまして……」ファッサァ

物真似師「さん、に、いちっ」バッ

物真似師「はい、消えちゃいましたー」

芸人「次ぃ」

物真似師「ねこむすめ。にゃーん、にゃんっ。ゆるしてにゃんっ」

芸人「……娘の芸が受けなかったときの芸まで完璧じゃねえかよ」

物真似師「ものまねをしているだけです」

芸人「合格だ」

物真似師「え?」

芸人「合格だっていってんだよ!! 手品も曲芸もなにもかもだ!! 当日はお前に任せる!! 報酬はその日の売上金の7割!! それでいいな!!」

物真似師「そんなに頂けるのですか」

芸人「うるせえ!! おれぁ何もできねえからな!! 黙って受け取れ、ボケ!!」

物真似師「分かりました」

芸人「くっそ……これだからものまね野郎は嫌いなんだよ……簡単に人の技を盗みやがって……」

物真似師「一つだけよろしいでしょうか」

芸人「んだよ」

物真似師「私は貴方達の技術を決して軽く見てはいません。数十年の努力が詰まっているものだということは、真似した時点で身に染みています」

芸人「簡単にこなしておいてよくいうぜ」

物真似師「私は物真似師です。ものまねができないことは許されない。だからこそ、死ぬ気でものまねをしています」

物真似師「毎度、一芸一芸に自分の力の全てを注ぎ込んでいます」

芸人「……んなの、当たり前だろうが」

物真似師「貴方たちの芸は決して簡単にマネできるものではありません。それは物真似師の私が保証します」

芸人「ものまね野郎に保証されてもうれしくねえな」

物真似師「申し訳ありません。それでは、私は自宅に戻ります」

芸人「おい」

物真似師「はい?」

芸人「怪我、するんじゃねえぞ」

―ものまね小屋―

物真似師「疲れた……」

物真似師「今日はもう寝よう……」

物真似師「……」

物真似師(あの人、案外優しいのかもしれない)

物真似師(今後、あの人の真似をするときは気を付けよう)

物真似師「……」

物真似師「うぅん……」

物真似師「……やっぱり、お腹空いた。何か食べよう」

物真似師「いつかの料理人の真似で作ってみようかな……」

物真似師「――ヘイ、らっしゃい!! 今日はいい魚が手に入ってるぜ!!」

物真似師「魚を使った料理を振る舞ってやらぁ!」

物真似師「この捌き方は誰にも真似できねえんだぜ! おらおらぁ!!」ザンザンッ

物真似師「……」

物真似師「お湯が先だった」

―祭当日 城下町―

国王「本日はこの国が生まれた記念すべき日である!! 大いに騒ぎ、祝福をしようではないか!!!」

「「おぉぉぉ!!!」」

芸人「祭りが始まったな。さぁて、行くぞ」

物真似師「はい」

芸人「もっと元気だしていけよ。こういうときは声を張れ、声を」

物真似師「がんばりますっ」

芸人「そうじゃねえ。俺みたいにやるんだよ。わかんだろ」

物真似師「分かりました」

物真似師「――最高だぜぇ!! おらぁぁ!!! 騒いで騒いで騒ぎまくるぞぉぉぉぉ!!!」

芸人「そうそう!! いい感じだぁ!!!」

物真似師「愛しの妻よ!! 娘よ!!! 世界で一番俺が愛してるぞぉぉぉ!!!!!」

芸人「そんなことおもってねえよ!!!!」

物真似師「そうなのですか?」

芸人「……いくぞ!! 本番まで時間ねえぞ!!」

―会場―

兵士「異常は?」

衛兵「いえ、ありません」

兵士「警戒を怠るなよ」

衛兵「はっ!」


芸人「兵隊がうようよいやがるな」

物真似師「厳戒態勢ですね」

芸人「時期が悪いからな。何が起こっても不思議はねえさ。まぁ、この大道芸会場を荒そうって輩はいねえだろうけど」

物真似師(色んな噂が私の耳にも届くぐらい国内が荒れているみたいだし、仕方ないのかも)

芸人「さ、んなことより準備しろー」

物真似師「了解」

芸人「って、準備もくそもねえか。お前は物真似師だもんな。見たことを真似るだけだ」

物真似師「その通りです」

芸人「……悪いが、頼むぞ。お前の綱渡りが話題になって、結構客も集まってるみてえだしな」

物真似師「心配いりません。私はものまねしかできないので」

芸人「――ただいまより、我が一座の大道芸をみていただきます!! 上手くできましたら、盛大な拍手を!!!」

芸人「いけっ」

物真似師「はい」

「あいつだ、あいつ」

「綱渡りしてた人?」

物真似師「どうもー。今日は御集り頂き、まことに感謝いたしまーっす」

物真似師「私たちは村を転々とし、芸に磨きをかけ、そして今日! この建国記念祭という大舞台で芸を披露できるまでになりました!!」

物真似師「これも偏にみなさんのご声援あってこそ!」

物真似師「でも、本日は一見さんが多いみたいなので、やっぱり私の実力でここにいるみたいでーす!!」

「……」

物真似師「にゃーん、にゃんっ」

「かわいい」

「いいじゃん」

芸人(娘にやらせりゃあもっとウケてたはずなのによぉ)

物真似師「では、早速見て頂きましょう。剣の舞!!」シャキンッ

物真似師「はいっ! ふっ! はっ!!」シャッシャッ

「おぉ!」

「なんかこえー!」

「かっこいいぞー!!」

兵士「……」

物真似師「とお!!」キリッ

パチパチパチパチ!!!

物真似師「ありがとうございまーす」

芸人(悔しいが……見事だなぁ……)

物真似師「それでは続きまして……」ゴソゴソ

物真似師「みなさんの前にあります、この大樽。見事に消してみせましょう!!」

物真似師「この布をかけまして……」

物真似師「さん、に、いち……」

物真似師「はいっ!! どうですかー! 消え去ってしまいましたよー!」バッ

「「おぉぉー!!!」」パチパチパチパチ!!!

物真似師「――さぁさぁ。遂に最後の演目とあいなりました。最後のお見せするのは上空にあります!!」

物真似師「みなさんの頭上にあるあの綱を渡りきってみせましょう!!」

物真似師「今回は、命綱など無粋なものはつけません!!」

「「おぉぉー」」

物真似師「では、しばしお待ちください」

芸人「これで最後だ……。大丈夫か?」

物真似師「問題ありません。ここで眺めていてください」

芸人「気を付けろよ」

物真似師「はい。失敗はみていないので、真似できません」

芸人「むかつくな、相変わらず」

物真似師「事実です」

芸人「頼んだ」

物真似師「私はものまねをするだけです」

芸人「うるせえ、はやく行って来い」

物真似師「わかりました」

少女「大丈夫かな……物真似師様……」

女性「きっと成功するわ」

少女「だよね……」


芸人「それでは最後の大技『綱渡り』をとくとご覧あれ!!」


物真似師「……」

物真似師「ほっ……」フラフラ


「お、おぉ……」

「揺れてるぞ……」


物真似師「んっ……あっ……あぁ~……」グラッ


「ひゃぁぁ!? おちるぅ!!」


物真似師(わざと体勢を崩すのも技のひとつというのは勉強になる)


兵士「あ、あぶないなぁ……死人がでたら問題だぞ……」

物真似師「ほっ……よっ……」


「もうちょっとだ……」


物真似師「っと」スタッ

物真似師「はい、大成功ー!」


「「ワァァァー!!!!」」

少女「やったぁ!!」

女性「流石、物真似師様ぁ!!」


芸人「今一度、大きな拍手を!!!」

パチパチパチパチ!!!

物真似師「成功しましたね」

芸人「やっぱり、すげえよ」

物真似師「いえ。では、私から挨拶をさせていただきます」

芸人「なに?」

物真似師「これにて全演目無事終了いたしました」

物真似師「しかし、見て頂いた芸の数々は偽物です」

芸人「は?」

「どういうことだ?」

「にせもの?」

物真似師「一座の長があの綱から足を滑らせ、落下し、足を骨折してしまった所為で、本来の完成度で芸をお見せできませんでした」

兵士「なに……?」

芸人「(ばかやろう、それは秘密だっ! 練習してたってバレたら面倒だろうが!!)」

物真似師「あ、そうですね。ええと、ここではない場所で綱渡りの練習をしており、その際に怪我をしてしまったのです」

物真似師「私は急遽、雇われた応援の者です。練習不足もあり、御見苦しい芸を披露してしまい、誠に申し訳ありません」

「あれで完成度低いのかよ」

「じゃあ、本来の芸ってもっとすげえのか」

物真似師「はい。勿論です。一座の長の怪我が治り次第、本物の大道芸を皆さんにお見せすることをお約束します」

芸人「……」

物真似師「ですので、これからもこの一座を応援してほしいのです。よろしくお願いします」

「あの綱渡りはすごかったなぁ」

「俺、あれ以上ってなると気になるよな」

「やるならみにいきてえなぁ」


物真似師「これで大道芸の発表は終了ですね。おめでとうございます。大成功と言ってもいいでしょう」

芸人「お前、最後の挨拶は誰のものまねなんだよ」

物真似師「はい?」

芸人「どうしてあんなこと言っちまったんだ。やりにくくなるだろ」

物真似師「申し訳ありません。ですが、ものまねでしかない芸は本物ではないので、それを伝えておきたかったのです」

芸人「余計なことばっかしやがってよ……」

物真似師「……」

少女「お父さん! 物真似師様にお礼いわなきゃ!!」

芸人「おま……」

女性「全部見ていたわ。物真似師様、夫のことを助けていただき、ありがとうございます。感謝しかありません」

物真似師「ものまねの依頼をこなしただけです。深く感謝される覚えはありません」

女性「とんでもありません。本当に、ありがとうございます」

>>37
訂正

「俺、あれ以上ってなると気になるよな」

「あれ以上ってなると気になるよな」

少女「お父さんもお礼!」

芸人「むぅ……」

物真似師「――礼の言葉なんかいるかよぉ。礼なら、お前の芸で返してくれよな」

芸人「……」

物真似師「それが芸人ってもんだろぉ?」

芸人「だなっ!! ハッハッハッハ」

物真似師「ハッハッハッハッハ」

少女「もう……」

芸人「復活したら絶対に招待してやるからな。てめえがそのとき、病気になってようが、足が砕けてようが、俺ぁ引き摺ってでも連れていくからな!!」

物真似師「望むところだ、糞野郎!!」

女性「行きましょう」

芸人「なんで戻ってきたんだよ。俺は独りでもやっていけるんだぜ!」

女性「はいはい」

少女「物真似師様!! 貴方に依頼して良かったです!! それでは!!」

物真似師「さようなら」

―城下町―

ガヤガヤ……ワイワイ……

物真似師「……」

物真似師(お祭りだけあって、人が多い……。早く家に帰ろう)

物真似師(依頼料、こんなにもらちゃったけど……よかったのかな……。もらい過ぎな気も……)

「やすいよ、やすいよー! お! そこの兄ちゃん!! みてってよ!! 良い物そろってんだぁ」

物真似師「私ですか」

「お? 嬢ちゃん、か? まぁ、どっちでもいいや。ほら、みてくれよ。このアクセサリーとか、どうだい?」

物真似師「んー……。興味ないです」

「そんなこというなって。こっちなんてどうだ? 似合うとおもうぜぇ」

物真似師「いりません」

ドンッ!!

物真似師「いたっ」

大男「ってなぁ、このやろう。気を付けろ」

物真似師「すみません」

大男「けっ。腰抜けが」

物真似師(怖い人……。離れよう……)

「準備ができました」

大男「そうか。すぐに行く」

「始まりますね」

大男「焦るなよ。見つかったら終わりだからな」

物真似師「……」

物真似師(家で寝たい……)

「おーい!! そこのお嬢さぁーん! 貴方に似合う、可愛い服、どうだい?」

物真似師「私ですか」

「あ、あれ? おとこ……? じゃないよね、さぁ、これ! んー、とっても似合うわぁ!」

物真似師「いりません」

「もっと似合う服もあるから、みていきなさいよぉ」

物真似師「服はたくさんあるので」

「今日は祭りなんだからいいじゃない、ほらほらぁ」

―ものまね小屋―

物真似師「ただいま……」

物真似師「つかれた……ほんとうにきょうはもうねよう……」バタッ

物真似師「……」

物真似師(久しぶりに楽しい仕事だった気がする……)

物真似師(いつもは……嫌な仕事が多いから……)

物真似師「……」

物真似師(あの人たちがもっと大きな場所で芸を披露するなら……私も見に行きたい……)

物真似師(次は観客として……あの芸を楽しんでみたい……)

物真似師「ふぅー……」

物真似師(でも、もう一度……綱渡り……しても……)

物真似師「……」

物真似師(あ……いしきが……)

物真似師(あしたは……いいことが……あります……よう……に……)

物真似師「すぅ……すぅ……」

―翌朝―

物真似師「すぅ……すぅ……」

『郵便でーす』ガチャンッ

物真似師「うぅん……なにかきた……?」

物真似師「なんだろう……」ゴソゴソ

物真似師「……」

物真似師(依頼状……差出人は……いつものひと……)


物真似師へ。

本日、北の村に出向いて欲しい。村の位置を記した地図を同封しておく。
その村に今回の依頼人がいる。
この手紙を見せれば、分かってもらえるはずだ。


物真似師「……」

物真似師「きがえなきゃ……」

物真似師「やだな……はたらきたくないなぁ……」

物真似師「はぁ……」

―北の村―

物真似師「……」キョロキョロ

「お前か?」

物真似師「あ、はい? もしかして、この手紙……」

「この服を着て、俺の声色を真似てみろ」

物真似師「はい……」ゴソゴソ

物真似師「――これでいいのか?」

「すげえな。気持ち悪いぐらいだぜ。んじゃ、この荷物をもって、夜11時に城下町の酒場にいる男に手渡してくれ。その男は目印に分厚い本をテーブルに広げずに置いているはずだ」

物真似師「わかりました」

「あと、荷物の中身は絶対に見るんじゃねえぞ」

物真似師「はい」

「それじゃあな。報酬はその男からもらってくれ」

物真似師「了解です」

物真似師「……」

物真似師(お仕事は夜か……。折角、早起きしたのになぁ……)

物真似師(眠いし、帰ろう……。お昼寝でもしようかなぁ……)

『ふざけんじゃねえぞ!!!』

物真似師「……!?」ビクッ

『こんなものが商品になるわけねえだろ!!! ばかやろうぉ!!!』

物真似師(なんか騒いでる……。どうでもいいか、早く家に帰ろう)

ガシャーン!!!

物真似師「……!?」ビクッ

弟子「どうして……!! どうして認めてくれないんですか!! 師匠!!!」

鍛冶師「認めるだぁ!? 一人前を気取るにゃあ50年はええだよ!!」

弟子「くっ……!!」ダダッ

物真似師「おぉ」

弟子「あ、す、すみません……。お、俺、急いでいるので……!」ダダダッ

物真似師(大変そう)

鍛冶師「どうして……。どうしてわからねえんだよ……バカ弟子がぁ……はぁ……。すみません、うちの弟子が失礼なことをしたようで」

物真似師「いえ。私は気にしません」

鍛冶師「そうはいかないようです。その持っている服、どうやら弟子が汚していったみたいですよ」

物真似師「え? あ、ほんとだ」

鍛冶師「さっきまで鉄を打ってたからあいつの手、かなり汚れていたはずです。それでぶつかったときに付いてしまったんでしょう」

物真似師「洗濯しないと」

鍛冶師「よければ俺に洗わせてくれませんか」

物真似師「え? いいです」

鍛冶師「そうおっしゃらずに。この村の住人じゃない人は皆、客人。客人に無礼などご法度です」

物真似師「本当に気にしてません」

鍛冶師「俺が気にするんです。どうか、俺の気持ちを落ち着かせるために、その服を洗わせてください」

物真似師「……わかりました」

鍛冶師「ありがとうございます。中にどうぞ」

物真似師「お邪魔します」

物真似師(帰りたかったのになぁ)

鍛冶師「今、菓子と飲み物を持ってきます」

物真似師「お構いなく」

鍛冶師「よいしょ、よいしょ」ゴシゴシ

物真似師「……」

物真似師(初めて会った人間にここまで優しくできるなんて、ちょっと変わってるなぁ……)

鍛冶師「なんとか汚れは落ちそうだな」

物真似師(刃物がたくさんある……)

鍛冶師「刃物に興味あります?」

物真似師「別にないです」

鍛冶師「はっきりいいますね」

物真似師「料理人は包丁にすごい拘りがあったりするのは知ってますけど、普通は切れたら十分じゃないのですか」

鍛冶師「まぁ、そうですね。包丁にしろ、斧にしろ、剣にしろ、拘るのは切ることを仕事にしている者たちと、その作り手ぐらいですから」

鍛冶師「故にこういう場所も少なくなってきました……。今ではなんでも型にはめて、冷まして、ちょっと研いで出来上がり。打つ工程が大事だってのに、そういう粗製乱造された粗悪品ばっかりになってしまって……」

物真似師(お昼ご飯は何にしよう……)

鍛冶師「すみません。愚痴ってしまって」

物真似師「大丈夫です。聞いてなかったので」

鍛冶師「あっはっは。なら、いいですか。ほら、汚れは綺麗に落ちましたよ。干しておきますね。今日の天気なら昼過ぎには乾くでしょう」

物真似師(このお菓子、美味しい)

物真似師「はむっ」

鍛冶師「貴方は今日はどんな用事でこんな辺鄙な村へ?」

物真似師「仕事です」

鍛冶師「仕事……。うーん……。商人には見えないし、かといって同業者にも……」

物真似師「私は物真似師です」

鍛冶師「もの……まね……」

物真似師「はい。依頼人がこの村にいたので、来ました」

鍛冶師「他人の生業を盗みとる、あの……?」

物真似師「はい」

鍛冶師「……」

物真似師「気分を害したのなら謝罪します。服はまたあとで取りに来ますので。失礼します。お菓子、美味しかったです。では」

物真似師(天気良いし、外でお昼寝でもしよう)

鍛冶師「待ってください。その……俺の依頼をきいてはもらえないですか……?」

物真似師「え? 依頼、ですか」

鍛冶師「噂でしか知らないですが、物真似師は絶対に本人を越えられないとか……」

物真似師「はい。どうしても劣ってしまいます。見よう見真似をするだけなので、中身が伴わないのです」

鍛冶師「噂は本当なのですか」

物真似師「他人の技術を完璧に盗み取ることなど、できはしません。それがものまねです」

鍛冶師「それなら尚の事、貴方に頼みたいことがあります」

物真似師「はぁ……」

鍛冶師「弟子の目を覚まさせてやってほしいんです」

物真似師「どうやって?」

鍛冶師「あいつ、この世界に入って丸五年になるんですけどね。最近、そろそろ独り立ちしたいって言いだして」

物真似師「良いことですね」

鍛冶師「それは自分の育てたやつが看板掲げて、一人の職人として生きていこうとするのは嬉しいです。でも、まだ完璧じゃない」

鍛冶師「奴は俺の真似をしているだけなんです。あいつの打った鉄には熱さがない」

物真似師「真似……」

鍛冶師「こういうと弟子バカと思われるでしょうけど、あいつは天才です。たった五年で俺の真似ができるようになったんですから。でも、だからこそ、俺を越えて本物になってほしいんです」

物真似師「本物……」

鍛冶師「そこで、思い知らせてやりたいんです。自分の打ったものがどれだけ鈍らなのかを」

鍛冶師「貴方が俺の真似をして鉄を打つ。それはおそらく、弟子とほぼ同等のものとなるでしょう」

物真似師「お弟子さんも真似をしているだけ、というのであればその通りです」

鍛冶師「お前のやってることなんて昨日今日、鎚を持ち上げた人間にだってできるんだって思わせるんです」

鍛冶師「そしたら、あいつも少しは謙虚になってくれるかと思うんですがね」

物真似師「なるほど。でも、お互いが作ったものの優劣はどのように測るんですか」

鍛冶師「さっきあいつが作ったモノがあります。これをあなたにも作って欲しいんです」

物真似師「これはナイフ……?」

鍛冶師「依頼された果物ナイフなんですがね。これじゃあ商品にならないと言ってやりました」

物真似師「良いナイフだと思いますけど」

鍛冶師「俺も良いナイフだと思ってます」

物真似師「でも、これはあなたの真似でしかないと」

鍛冶師「弟子ってのは師匠よりも上に行かないといけない。俺はそう考えてしまう古い人間なんですよ」

物真似師「……」

鍛冶師「物真似師さん。手伝ってください。依頼料はきちんと払います」

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