花丸「焼き鳥屋・宜候」弍 (40)
『夢』
花丸「ええと……こっち曲がって……ふわぁぁ…眠いずら…昨日夜更かしし過ぎたかな…」
花丸「あ、あった…ホントにオラの家に近いずら…」
花丸「……取り敢えず入ってみよう」
花丸「こんにちは……」
曜「いらっしゃいませー……あ!花丸ちゃん!」
果南「お、意外なお客さんだ」
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花丸「あ、果南ちゃんも…こんにちは」
果南「久しぶりだね、こっち帰ってきたんだ」
花丸「うん…マルの学校、ちょっと早く春休みに入るからもう帰ってきてたんだ…と言っても昨日来たばっかだけど」
果南「そっか~……学生はいいなぁ……」
曜「花丸ちゃん、何か食べる?」
花丸「ええと……とりあえずももとネギまで」
果南「あ、私も同じのちょうだい」
花丸「果南ちゃんお家からここ近いよね?よく来るの?」
果南「時々ね、海に入った後ってね…何となくお肉食べたくなるんだよ」
花丸「へえ……そうなんだ」
曜「間違いなく1番来てるお客さんだよ、果南ちゃんは」
果南「1番は善子でしょ」
曜「善子ちゃんは半分くらい皿洗いしに来てるから…」
曜「はいよ、ももとネギ…果南ちゃんの分はもうちょっと待ってね」
花丸「ありがとう…頂きます」
花丸「はむっ……うん、美味しいずら!」
曜「ふふっ、それは良かった」
果南「ほんと美味しいよね…これでお酒飲めないなんて…拷問だよ…」
花丸「果南ちゃんお酒飲めないずら?」
果南「今日は午後に仕事入っててね、流石にお酒入ったまま海に潜るのは出来ないからね」
曜「うちはドライバーとダイバーにはお酒出さないよ~」
果南「実際、潜水の事故ってアルコールが多いから…潜る用事があるときは前日から飲まないんだ」
花丸「なるほど、大変ずら…」
曜「はい!果南ちゃんの分のお肉焼き上がったよ」
果南「ありがと、あ…花丸はお酒好き?一杯くらいならお姉さんが奢るよ」
花丸「えー…でも飲めない人の前で悪いずら…」
果南「いいからいいから、ほら好きなの選んで」
花丸「じ、じゃあ…お湯割りを」
果南「お、いける口だね~…曜、お願い」
曜「OK!承ったであります!」
花丸「…果南ちゃん、お仕事って大変?」
果南「うーん…そうだね…面白い事と面倒くさい事が半々、ってトコかな」
花丸「そっか……」
果南「あはは…なんかありきたりでゴメンね、でもそんな感じだよ」
花丸「ううん、そんな……」
果南「実際にね、私は趣味を仕事に出来るって分かった時スゴくラッキーだって思ったんだ、半分遊んで暮らせるって」
果南「でもね、やっぱりお仕事ってのは面白くなかったり、やりたくない事が一杯あって…初めの頃は結構想像とのギャップで…ちょっとだけ、辛かった」
果南「……なんか辛気臭い事ばっか言っちゃったね…もちろん、楽しい事も一杯あったよ」
花丸「……やっぱりお仕事って大変なんだね…すごいずら…」
果南「そんな事言ったら…ほら、目の前に働いてる人いるよ、全然そんな感じに見えないけど」
曜「あ!失礼な!ちゃんと丹精込めてお肉焼いてるから!」
prrrrrrrrrrrr
果南「っと、電話だ…ちょっと出てくるね」
曜「はい、花丸ちゃんお湯割り」
花丸「ありがと…ずら」
花丸「んくっ…んくっ…………」
曜「…………」
花丸「こくっ……はぁ……」
花丸「……マルね、趣味で少し小説を書いてるの」
曜「小説…?」
花丸「うん、と言ってもそんなに長いのじゃなくて…短めのやつだけど」
曜「そうなんだ……高校の時から本好きだったもんね」
花丸「初めはホントに遊びだったんだけど、段々楽しくなって来て……どんどん熱が入っていって…仕事に出来たらなって…」
曜「小説家さんってこと?」
花丸「うん……でも、オラには勇気がないから…普通に結局普通の就職活動もしてて…でも、諦められなくて」
花丸「それでね、いつまでも迷っててもしょうがないから……次賞に送ってみて…ダメだったらスッパリ諦める、そう決めたんだ」
曜「…そっか」
花丸「そんなんだから……一直線に自分の夢に向かった果南ちゃんが、なんだか羨ましくて」
曜「……」
曜「……私には何が正解かなんて分からない、けどね」
曜「花丸ちゃんは立派だと思う、自分がどこまで頑張るか、何をするかをしっかり考えてる」
花丸「……」
曜「……悩んだり考えたりした事はきっと無駄にはならない、私はそう思うよ」
花丸「………うん…!ありがとう」
曜「それじゃあ…そんな悩み多き若者には曜ちゃん店長がサービスしちゃおうかな…?」
花丸「え!?何ずら?」
曜「それは……よいしょ……じゃーん!はいどうぞ!」
花丸「わあ!ありがとう!……お釜…?何ずら?これ」
曜「鳥炊き込みご飯、まかないで食べてたんだけど味が決まって来たから…そろそろメニューに出そうかなって思ってるんだ」
花丸「わ!いい香りずら…!いただきます」
果南「ふぅ……仕事の電話ってどうもまだ慣れないや…」
花丸「おいしい~!お肉柔らかで鳥の味がご飯に染みてるずら……」
果南「あー!なんか良いもの食べてる!そんなのメニューになかったでしょ!」
花丸「店長の特別メニューずら!」
果南「ずるい!曜、私にも1つ!後ももとハツとビール!」
曜「果南ちゃん……お酒ダメなんじゃないの…?」
果南「それがさ、さっきの電話でどうしてもキャンセルして欲しいって謝られちゃってさ…ほら、明日も仕事ないし」
花丸「あ、マルもお酒おかわり!ビールください!」
果南「お、なんか元気出て来たね!今日はマルが付き合ってくれる?」
花丸「任せるずら!」
果南「……と、いうわけだから…曜、もう少しお願いね」
曜「……了解であります!ヨーソロー!」
果南「ふぅ……仕事の電話ってどうもまだ慣れないや…」
花丸「おいしい~!お肉柔らかで鳥の味がご飯に染みてるずら……」
果南「あー!なんか良いもの食べてる!そんなのメニューになかったでしょ!」
花丸「店長の特別メニューずら!」
果南「ずるい!曜、私にも1つ!後ももとハツとビール!」
曜「果南ちゃんお酒ダメなんじゃないの…?」
果南「それがさ、さっきの電話でどうしてもキャンセルして欲しいって謝られちゃってさ…ほら、明日も仕事ないし」
花丸「あ、マルもお酒おかわり…ええと…ビールください!」
果南「お、なんか元気出て来たね!今日はマルが付き合ってくれる?」
花丸「任せるずら!」
果南「……と、いうわけだから…曜、お願いね」
曜「……了解であります!ヨーソロー!」
果南「ふぅ……仕事の電話ってどうもまだ慣れないや…」
花丸「おいしい…!お肉柔らかで鳥の味がご飯に染みてるずら……」
果南「あー!なんか良いもの食べてる!そんなのメニューになかったでしょ!」
花丸「店長の特別メニューずら!」
果南「ずるい!曜、私にも1つ!後ももとハツとビール!」
曜「果南ちゃんお酒ダメなんじゃないの…?」
果南「それがさ、さっきの電話でどうしてもキャンセルして欲しいって謝られちゃってさ…ほら、明日も仕事ないし」
花丸「あ、マルもお酒おかわり!ビールください!」
果南「お、なんか元気出て来たね!今日はマルが付き合ってくれる?」
花丸「任せるずら!」
果南「……と、いうわけだから…曜、お願いね」
曜「……了解であります!ヨーソロー!」
胸のすくような湯気の匂い。一口は運べば濃い鳥の香りと味が口いっぱいに広がっていく。
これからの事は分からないけど、今こうしていられるなら決して、これまでの道のりは間違いじゃない…そう思うから。
酒で上気した顔、煙に当てられ火照った肌。まだお天道が高いうちから旧友と酒を酌み交わす。ぼんやりとした頭が心地良い。夢見心地のような気分で少女は談笑を楽しむのだった。
『帰郷』
ダイヤ「ごめんくださいな」
曜「いらっしゃいませー…あ、ダイヤさん」
ダイヤ「ちょうど今実家への帰り道で、思い立ったので寄ってみましたわ」
曜「なるほど…だからそのスーツケース」
曜「あ、とりあえずお好きな席どうぞ」
ダイヤ「じゃあ…失礼して……それにしても…」
曜「なんですか…?」
ダイヤ「本当に皿洗いしてるんですね……」
善子「なによ!悪い!?」カチャカチャ
ダイヤ「数十万円分の食い逃げして永遠に皿洗いさせられてるというのは本当ですの?」
善子「その話での私の胃袋どうなってるのよ」カチャカチャ
曜「ダイヤさん、何か食べる?」
ダイヤ「あ、そうですわね…ではももとせせり、あとつくねを1つずつ」
曜「飲み物は?」
ダイヤ「申し訳ないですけど…お冷で、親戚が集まってるので実家に酔ったまま帰るわけにはいきませんわ…」
曜「はーい、かしこまりました!」
ダイヤ「善子さんはアルバイトで?」
曜「うん…と言ってもシフト超短いけど」
善子「趣味のお金は欲しいけど、そろそろ就職活動だから新しくガッツリシフトに入るバイトを始めるわけにはいかないし…」
曜「その点、シフトが自由で電話一本で休めるウチで働いてるって訳…なんていったって店長は私だからね」
ダイヤ「なるほど……善子さんには珍しく運が良かったんですわね」
善子「まぁ…そういうことね」
曜「なんていったって私が店長だからね!」
善子「なんで二回言ったの」
曜「はい、ももにせせりにつくね!お待ち!」
ダイヤ「はいどうも、いただきます」
ダイヤ「……柔らかで美味しいですわ、旨味もしっかりしてます」
曜「へへへ…ありがとうございやす」
ダイヤ「いえ、思ってたより数段……立派に働いてるんですわね…」
曜「いやー……そこまで言われると曜ちゃん照れちゃう」
善子「……」カチャカチャ
ダイヤ「正直少し心配したんですのよ?その……曜さんが夢を諦めて、落ち込んでるって千歌さんに聞いて…」
ダイヤ「そして第二報は『焼き鳥屋始めた』ですからもう……」
曜「あはは……面目無い…」
ダイヤ「いえ、立派です…しっかりと貴方は前を向いてる、昔から変わってないですわ…」
曜「…そうかな、そうだったら…嬉しい」
曜「ダイヤさんは最近どう?」
ダイヤ「社会人はそれなりに忙しいですが…まあ、ぼちぼちですわね」
善子「そういえば何で卒業して社会人なの?家の事とか…あるんじゃないの?」
ダイヤ「家を継ぐにしてもまず社会で学んでこい、ということらしいですわ」
曜「へえー……大変だ」
ダイヤ「実際学校を卒業したくらいで社会の事なんて……全然分かりませんでしたし…これで良かったんだと思いますわ」
善子「ふーん……」
曜「はい、お冷注ぐよ」
ダイヤ「どうも…後、かわとせせりをもう一本下さいな」
曜「了解!……あ、後善子ちゃんもう上がっていいよ、殆ど終わってるみたいだし…まかない作ってあげる」
善子「分かったわ、ありがと」
ダイヤ「善子さんはいつもここでお昼を?」
善子「ええ、働き終わったらね…結構沢山食べさせてくれるから…ありがたいわ」
曜「善子ちゃんなら期限危ないやつでも食べさせられるからね」
善子「ちょっと、凄い聞きづてならない事聞いた気がする」
曜「うそうそ、そんなの店に置いてないよ」
善子「営業停止レベルの嘘を普通につかないでくれる!?」
ダイヤ「はぁ………」
曜「ほら、ダイヤさん呆れちゃったよ…」
善子「貴方によ」
ダイヤ「いえ…なんていうか…働いてても変わらないな、と思いまして」
善子「高校生から成長してないって事?」
ダイヤ「まあ、そうですね」
曜「あ…否定しないんだ…」
ダイヤ「いつまでも子供みたいな事で無駄に騒いではしゃいで……」
善子「散々な言われよう」
ダイヤ「……」
曜「……」
善子「……」
ダイヤ「……しかも成人して何年も経って…なのに全く大人としての自覚が無く……」
善子「ええ……続くの…」
曜「今の『でも…それが良いのかもしれませんね』とか言う流れだろぉこれ!」
善子「あ、結構似てる」
曜「『ろぉ』がポイントね、伊達に幼馴染やってないよ」
ダイヤ「そういうところですわ……」
善子「もう無理ね、私達は変えられないわ」
ダイヤ「全く…貴方達は…」
曜「開き直りが肝心!あ、かわとせせりです」
ダイヤ「……」
ダイヤ「曜さん、冷酒頂けますか?」
曜「へ…?」
ダイヤ「気が変わりました、一杯くらいなら…大丈夫でしょう」
曜「……あ」
善子「あ!私もビール頂戴!お金払うから!」
曜「…………うん、了解!ヨーソロー!」
曜「じゃあ私も……何飲もうかな」
善子「アンタは飲むな!まだ昼!接客!」
ダイヤ「………はぁ………全く」
冷酒を一口、口に含む。澄み渡るような辛さが心地いい。ついぞ酒というものを飲んでなかった、随分久し振りな気がした。
昔馴染みのの後輩を見つめる。背格好は少し変わったが、纏う雰囲気はそのままだ。
その事がなんだか、妙に嬉しい。
家に帰れば家族が待っているだろうか、昔馴染みは元気だろうか。期待で少し口元が綻ぶ。
でもきっとそれは、この熱が覚めてからでも遅くはない。
騒ぎ立てる二人を横かは小言で突きつつ、私は僅かになった冷酒を喉へと流し込んだ。
『変わらぬもの』
千歌「こんにちは」
曜「……千歌ちゃん、いらっしゃい」
千歌「閉めるとこだった?」
曜「ううん、まだあと一時間は営業時間」
千歌「そっか…よかった」
曜「どこでも座ってね…って言っても椅子数個しかないけど」
千歌「うん、座らせて貰うね」
千歌「うーん…何にしようかな…」
千歌「そうだ!なんかおススメとかない?店長拘りの逸品、みたいな!」
曜「うーん…おススメかぁ……あ、しいたけあるよ」
千歌「それを勧めるのは焼き鳥屋としてどうなの…」
曜「いや…だってメニューだし…」
千歌「お肉食べたいの!お肉の串を適当にお願い」
曜「はいよ、飲み物は?」
千歌「……ビール頂戴!」
曜「了解!」
千歌「いやー…やっと来れたよ…ホントは直ぐにでも来たかったんだけど…中々時間が無くてねー…」
曜「旅館のお仕事、大変?」
千歌「学生の頃からちょくちょく手伝ってたけど…やっぱ段違い、責任が違うもん」
曜「そっか……」
千歌「世間の休日が旅館にとって1番大変だし…お陰でみんなと休みが全然合わないし…あはは、数えたらキリがないや」
曜「でも…千歌ちゃんは頑張ってる、偉いよ」
曜「それと……はい、ビール」
千歌「……ありがと」
曜「ももとかわ、あとハツ」
千歌「あー!…久々にお肉だ…」
曜「あんまりお肉食べないの?」
千歌「いやね、ウチでお客さんに出す料理魚が多いから…ついついそっちに偏っちゃって」
曜「なるほど…さ、さ熱いうちにどうぞ」
千歌「あ、うん!いただきます!」
千歌「はむっ……うん!おいしい!ザ・肉!って感じ!」
曜「う…ん…?まあ……良く分かんないけど褒めてくれてありがと…」
千歌「みんな此処に来たりしてる?」
曜「うん、時々…なんなら今日の昼過ぎダイヤさんと善子ちゃん居たよ」
千歌「え、嘘!?うわー……仕事後回しにしてお昼に行けばよかった……」
曜「あはは…また集まれば良いよ、暫く実家にいるみたいだし」
千歌「善子ちゃんの不運に乗り移られた……」
千歌「んくっ………ビールおかわり」
曜「……はいよ」
千歌「なんだか変わらないね、曜ちゃんは」
曜「千歌ちゃんまでそんな事…」
千歌「誰か言ってたの?」
曜「ダイヤさん、善子ちゃんと一緒で高校生気分だって言われちゃった」
千歌「あはは、らしいや……『いつまで高校生気分ですの!?』…こんな感じ…?」
曜「お昼の時は違ったけど…どっちかっていうと高校の頃に似てる」
千歌「良く怒られてたね…私もだけど」
曜「それで、変わらないって?」
千歌「前、相談くれた時…船のお仕事もう無理かもしれないって言ってた時、私すっごく心配したんだ」
曜「あはは…その節はご迷惑をお掛けしました…」
千歌「ううん全然…でもね、私が何もしなくても立派に新しい道を見つけて、立派に歩いてて、凄いなって思ったんだ」
曜「ううん…挫けて、一杯悩んでる、何回もダメになってた…私は全然強くないよ」
千歌「……曜ちゃんが一杯悩んで、?いてたのは分かってる……」
千歌「でも、今こうやって私に焼き鳥を振舞ってくれてる」
曜「……」
千歌「……」
曜「…………締めの一言にしてはシュールだね」
千歌「ええ…?今シリアスなシーンだっただろぉ!」
曜「あ!やっぱ似てた!」
千歌「何と!?」
曜「はい、砂肝とちょうちん」
千歌「これ…何?」
曜「卵になる前の黄身だよ、そのまま口に入れて食べてね」
千歌「へぇ……はむっ……わ!すごい…トロッとしてて濃厚で……」
曜「とろけて柔らかい感じだから、砂肝と出したんだ」
千歌「…コリコリとトロリ…なるほどなるほど……」
千歌「あ、時間……ごめん、もう閉店時間だね」
曜「あー……ううん、大丈夫だよ」
千歌「え、でも……」
曜「別に、閉めたら二階に行くだけだから…飲み物、要る?」
千歌「………黒ビール」
曜「はい、まいど」
曜「そう言えば苦いの、飲めるようになったんだね…昔コーヒーとか嫌いだったのに」
千歌「うん…自分でも割と驚いてるけど…結構味覚変わったみたい」
曜「そっか……はい、黒ビール」
千歌「ありがと……あれ、そっちのグラスは?」
曜「………」
千歌「……?」
曜「……私の」
千歌「…………」
曜「……何さ」
千歌「善子ちゃんから聞いてたけどまさか本当に勤務中に飲もうとするなんて…」
曜「いや…!ほら!営業時間外だから!ほら!」
千歌「まだお客さんがいるのに…?」
曜「……ほら、閉めたらここも私の家だし…宅飲み…みたいな?」
千歌「はい、曜ちゃん」スッ
曜「え、どうしたの千歌ちゃん…返品?」
千歌「バカなこと言ってないで曜ちゃん、乾杯だよ、乾杯」
曜「あぁ……うん…!そうだね」
千歌「何だかなぁ…肝心なとこで抜けてるのは変わらないっていうか…」
曜「えへへ…よく言われる」
千歌「曜ちゃん、乾杯」
曜「…乾杯」
静まり返った木造りの小屋にグラスの音が響き渡る。年月が変えてしまう物も有れば、変えられぬ物もきっとあるだろう。
どんな道を通ったとしても、またきっと巡り合う。
灰白の炭から登る煙。落ちた脂の焼ける心地よい音。外は光が消え去りすっかり暗くなっていた。ぽつぽつと立つ電灯と月光だけが夜道をぼんやりと照らす。
二人の少女が顔を付き合わせ、酒を酌み交わす。たわいない話を肴に、夜はゆっくりと更けて行く。
おわり
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