少年「お母さ……せ、先生!」女教師「……っ!」 (27)

―小学校―

女教師「今日この時間は、自由に絵を描いて下さい!」


はーいっ!


少年(先生……美人だなぁ)ポー…

少年(ところで何を描こうかなぁ……思いつかないや。先生に聞いてみよう)

少年「お母さ……せ、先生!」

女教師「……っ!」

少年(しまった! お母さんっていいそうになっちゃった!)

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同級生A「お前今、先生のこと“お母さん”っていいそうになったろ!」

同級生B「間違えてやんのー!」

少年「うっ、うるさい!」

女教師「……」ドキドキ

同級生A「ほら、先生もビックリしてるじゃん!」

同級生B「キャハハ~」

少年「うぐぐ……」

女教師「――!」ハッ

女教師「コラコラ、みんな静かにしなさい!」

同級生A「ちぇっ」

同級生B「はーい」

女教師「え、えぇ~と……なにかしら?」

少年「あっ、はい! なにを描こうか迷ってて……」

女教師「だ、だったら好きな食べ物でも描いてみたら?」

少年「は、はいっ! そうします!」

―少年の家―

少年「ただいまー!」

母「お帰り」

少年「おやつは?」

母「戸棚に入ってるわよ」

少年「わーいっ!」

母「手を洗ってからにしなさい!」

少年(先生に比べて、うちのお母さんは……大して美人じゃないし、ガミガミうるさいし)

少年(つまらないや)

父「ただいま」

少年「お帰りなさい」

父「ゲームばかりやってないで、ちゃんと勉強するんだぞ」

少年「はーい」



少年(お父さんは平凡なサラリーマン……)

少年(うちの親は、お父さんもお母さんもつまんないんだよなぁ)

少年(あーあ、もっとかっこよかったり美人だったり、ドラマチックな両親のもとに生まれたかった)

少年(たとえば、先生みたいな……)

少年(そういえば今日、先生に“お母さん”って言いかけた時)

少年(先生やたらビックリしてたよなぁ……ちょっと大げさだった気がする)

少年(もしかして、何かあるんじゃ……?)

―小学校―

少年(よーし……今日は先生の反応を見てみよう!)

少年「先生!」

女教師「な、なに!?」

少年「ごめんなさい、なんでもない」

女教師「そ、そう」

少年(やっぱり……あの一件以来、よそよそしくなってる)

少年(先生は、ぼくの“お母さん”に敏感に反応してた……)

少年(ってことはもしかして、先生って……)

少年(ぼくのお母さん!?)

少年(いや、そんなまさか……いくらなんでも……ありえないよな……)

少年(だけど、確かめてみる価値はある!)

少年(よーし……)

少年「お母さん!」

女教師「!!!」ビクッ

少年「やっぱり……!」

少年「先生、ぼくが“お母さん”って呼んだら、ものすごくビクッとしてたよね」

少年「どうして? どうしてなの?」

女教師「そ、それはね……」

少年「ねえ、ずばりいってあげようか」

女教師「な、なに?」

少年「先生はぼくの本当のお母さんなんでしょ?」

女教師「……っ!」

女教師「違うわ! なにをいってるの……」

少年「だって、そうとしか考えられない! おかしいよ、あの反応は!」

女教師「いいから……授業が始まるから教室に戻りなさい!」

少年「……はい」

―少年の家―

少年「お母さん」

母「なに?」

少年「こないだ、担任の先生に間違えて“お母さん”呼びしちゃったら、ものすごくビックリしてたんだ」

母「あら、まあ」

少年「普通、そこまでビックリしないよね。なんでだと思う?」

母「そういえば、担任の先生替わったんだったわね。その先生の名前は?」

少年「えーとね……」

母「……っ!」

少年「なんでそんな驚くの?」

母「え……」

少年「先生の名前を聞いた途端に、どうしてそんなに驚くのさ!」

母「お、驚いてなんかいないわよ」

少年「ウソつき! 驚いてたじゃん!」

少年「そういえば、先生に冗談で“先生はぼくの本当のお母さん?”って聞いたら」

少年「先生もっと驚いて、しどろもどろになってたよ」

少年「ねえ――」

母「もうその話はやめなさい!」

少年「!」ビクッ

母「いい? もう二度と先生に変なこといっちゃダメよ!」

少年「なんで――」

母「いいから!」

少年「……分かったよ」

少年「おやすみなさーい」スタスタ…

少年「……」モゾッ…





ヒソヒソ… キョウセンセイガ… マサカアノトキノ… スゴイグウゼンダナ… エエビックリシタワ… ヒソヒソ…





少年(お父さんとお母さんが何か話してる……)

ドタタタタッ

少年「なにをコソコソ話してるの!」ガラッ



母「きゃっ!?」

父「お、起きてたのか……!」



少年「ん? 二人してなに見てるんだよ!」

少年「これは……!? 新聞の記事……?」



≪男児誘拐事件、犯人特定できず……≫



少年「なんだよこれ! 男児誘拐事件……!?」

母「あっ……」

父「これは……」

少年「やっぱりそうだ! ぼくは正しかった!」

少年「やっぱり先生が本当のお母さんだったんだ!」

少年「うわぁぁぁん!」タタタタタッ

父「おいっ!」

母「待ちなさい!」

……

…………


―先生の家―

ピンポーン…

女教師「はーい」

少年「やっと見つけた……」ボロッ…

女教師「どうしたの!?」

少年「先生……ぼく、家出してきたんだ。今日からここで暮らすからね」

女教師「ど、どうして!?」

少年「だって、あの人たちはぼくの両親じゃないから」

女教師「またそんなこといって……」

女教師「あの二人は、間違いなくあなたのご両親よ。私が保証します」

少年「でも……でも!」

少年「先生の話をしたら、お父さんとお母さん、ある誘拐事件の新聞記事を見てた!」

女教師「……」

少年「犯人は見つかってないって……あの人たちが犯人なんだ!」

女教師「違うのよ!」

少年「何が違うの!?」

女教師「あなたの両親は犯人じゃない!」

少年「じゃあ誰が犯人なの!?」

女教師「……私よ」

少年「……え?」

少年「先生が……犯人……?」

女教師「……驚いたでしょ?」

女教師「まだ学生の頃、私、子供を流産してしまってね」

女教師「あ、流産っていうのは、お腹にできた赤ちゃんが死んで出てきちゃうことね」

女教師「それがきっかけでその時の彼氏とも別れてしまって……人生に絶望してたの」

少年「……」

女教師「そんな時、まだあなたのご両親と幼いあなたを見かけたの」

女教師「私の目には、あなたたちがとても幸せそうに、輝いて見えたわ」

女教師「そして……ふと魔が差してあなたを誘拐してしまったの」

少年「……!」

女教師「一週間……だったかしら。私はあなたを育てた」

女教師「警察の捜査は難航してるみたいだったし、もうこのままあなたを育てちゃおうとも考えた」

女教師「だけど、やっぱり……あなたを家まで返しに行ったの」

女教師「全ての事情を話して、警察に突き出されることも覚悟してたわ」

女教師「そうしたら……」



父『あなたの事情とお気持ちはよく分かりました。息子を返してくれてありがとう』

母『あなたのことは警察には言いません。警察には家の玄関に息子が置かれていた、と伝えます』

父『ただし、これからは真っ当な人間になって下さい。二度とこんなことはしないで下さい』

父『これがあなたを見逃すただ一つの条件です……』



女教師「二人は……私を見逃してくれたの」

女教師「元々大学で遊んでた私だけど、それから心を入れ替えて先生を目指したのよ」

少年「そうだったんだ……先生がぼくを……」

女教師「私は……先生でありながら犯罪者よ。許して……とは言わないわ」

少年「……先生」

少年「一週間、ぼくを傷つけたりせず育ててくれてありがとう!」ペコッ

女教師「!」

少年「じゃあ、そろそろぼく帰るね」

少年「安心してよ!」

少年「ぼく、甘さも口の堅さも親譲りだから!」

女教師「もう……この子ったら……」

―少年の家―

少年「ただいま!」

母「ああっ、お帰り!」

父「心配してたんだぞ……!」

少年「ごめんね、お父さん、お母さん」

少年「ところでぼく、先生から全部聞いちゃったんだ」

父「……! そ、そうか」

母「先生が……話したのね」

少年「うん! だけどぼくぜーんぜん気にしてないよ!」

少年「それとさ……ぼく、うちの両親はなんてつまらないんだって思ってたけど」

少年「お父さんとお母さんもすごいドラマを抱えてたんだね」

父「お、おいおい……」

母「ドラマってほどのものじゃないわよ」

少年「だからってわけじゃないけど……お父さんもお母さんも大好き!」

父「……ありがとう」

母「さ、今度こそ寝なさい。明日、遅刻しちゃうから」

少年「はーい!」







~ おわり ~

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