神谷奈緒「晴れは雨があってこそ」 (21)

地の文ありの文です。拙いですがよろしくお願いします。

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「神谷、ステップが遅れているぞ!」

「は、はいっ!」

事務所併設のレッスンフロア。次のライブにおけるメーン曲をバックに、シューズが床をこすり甲高い音を立てている。その場にはトレーナーと神谷奈緒の二人しかいなかった。最近なんだか調子の悪い奈緒は、トレーナーのフリーの時間に頼み込み、機を見てはこうして自主トレーニングに付き合ってもらっている。
奈緒が所属するユニット、トライアドプリムスの渋谷凛は力強いボーカルとステージパフォーマンスを、同じく北条加蓮は類まれなビジュアルとそれを活かすだけの表現力とにそれぞれ恵まれていた。どちらの領域も奈緒にはまだ遠く、ユニットでのライブが近づく中、同じユニットとして自分が足を引っ張らぬようせめて自分が他に比べて得意なダンスだけでも、と思い立ったのがきっかけである。
ただっ広いレッスンフロアは音を反響させ、自らのステップが刻む音がうっとおしい。奈緒は頭に入れた動きを繰り返す。でも何だか体が追いつかない。
普段ならできるターンが上手く決まらない。普段なら踏めるステップが踏めない。挙げ句の果て、振り付けのシフトで足がもつれ、転倒してしまう。ダンスレッスンフロアに鈍い衝撃が伝わった。

手でリズムを取りながらカウントするトレーナーの動きが止まり、トレーナーは首を振りながら音楽の再生をストップさせる。当の奈緒本人はなぜ自分が転倒したのか全くわからず、床にへたりこんだままぽかんとしていた。
トレーナーは奈緒を気の毒そうに見つめ、宣告するような口調で言った。

「神谷、今日はもう帰れ」

「……え?」

唐突すぎる。訳が分からずに奈緒はつい聞きかえす。運動によってひどく自己主張してくる鼓動は、動揺によってもまた自分を顕示した。

「ダンスのキレが悪い、普段ではミスをしないようなところでミスをする、そして何より全体的に粗が目立つ。まるでダンスレッスンを受けて間もない人間のようだ」

「……!」

手厳しい、いや、ともすれば突き放しているとも取れる評価は反面、トレーナーが『普段の神谷奈緒』を見ていてくれている証拠だ。自分でも調子が悪いことはわかっている。自身よりも他人に見てもらう方が動きには客観的な判断を下すことが出来るし、それがトレーナーともなれば尚更だ。しかし、そこまで分かっていても、依然として奈緒は食い下がる。

「でもっ、ライブまではもう日が無いんです!ここでマスターしておかないと……」

「マスターしておかないと、なんだい?」

食い気味に質問され、少しムッとしながら答える。

「ライブで情けない結果になるかもしれない!せっかくあたし達のライブを楽しみに来てくれたお客さんたちを、ガッカリさせてしまうかもしれないんです!」

思わず語気が強くなるあたしをトレーナーは冷静に見つめながら、口を開いた。

「あぁそうかい、理想は立派だ。しっかりとファンのことを考えている……流石はアイドル、と言ったところか。しかし、君は自分自身が見えていない。自分を満足させられないような人間に他人を満足させることが出来るか?」

「それは……」

言葉に詰まる。そもそものこのトレーニングも、いわば他のトライアドメンバーに対する劣等感のようなものから始まっていると言ってもいいだろう。ただガムシャラにレッスンを続けていてもどうにもならないのは百も承知だった。だが、こうしてレッスンでもしていないと焦燥感にあてられ何も手につかなくなってしまうのだ。重症だと自分でも感じた。

「神谷、焦りはわかるが、焦りすぎは禁物だ。出来ないものを出来るようになろうと躍起になり、身体をも壊してはそれこそ本末転倒だ」

「……はい」

うなだれる奈緒。

「当分の間、自主レッスンは禁止だ。そんな状態でレッスンなんかしても成長しないどころか体力の無駄遣いだからな。精神の成長あって初めて身体の成長あり、だ」

トレーナーはそれだけ言い切ると、さっさとレッスンルームを辞去した。取り残された奈緒は一人、トレーナーの言葉を噛み締めつつ、自分ひとりしかいなくなったこの場の静寂に押しつぶされないようにするので精一杯だった。





シャワーを浴び、事務所に戻った奈緒はソファに座りながら雑誌を読んでいる加蓮を視界に捉える。普段なら後ろから声でもかけて驚かせてやろうという所だが、今はとてもそんな気分ではない。ソファには近づかず、冷蔵庫にまっすぐ進み、スポーツドリンクを取り出して一気に煽る。冷たい甘みと酸味が喉を走り、さっぱりとした後味は多少なりと奈緒の中のもやを取り払ったように思える。一口で半分ほど減ったスポーツドリンクの蓋を締めたところで、背後に気配を感じる。

「加蓮かっ!?」

必要も無いのに大仰なアクションで振り返る。が、そこに立っていたのは加蓮では無かった。

「よう、お疲れ」

「Pさん……」

なーにビビってんだ?と軽く笑みを浮かべるこの男は奈緒の、というよりはトライアドプリムスのプロデューサーであった。

「調子はどうだ?」

何の気なしに発せられた質問だろうが、今の奈緒は素直に答えられない。

「うーん…まぁ、それなり……かな?」

あやふやになった回答にしかし、プロデューサーは特に聞き返すでもなく、そうか、とだけ答え自分のデスクへと戻っていった。
その時に見せた奈緒への目線が、どこか不自然なものに感じられたのは今の自分がナーバスになっているからか。うまく表情を読めず、自分の気持ちに整理もつけられない。他愛ない、ほんの短い会話だったはずなのに心にかかるもやはその質量を増したような気がして、鉛を飲んだような気分に辟易する。

「なーおっ!」

「どわぁぁ!なんだ!?」

一人思案に耽り、まったく周りが見えていなかったようだ。いつの間にか目の前にいた加蓮にいきなり抱きつかれ、奈緒は混乱する。加蓮がソファから立っていたことも、自分の前まで来ていたことも全く気付かなかった。

「もう、何回も呼んでるのに全く気付いてくれないんだから」

「悪い悪い……」

頭を掻きながら、胸中にもやを押し込める。この感情を加蓮に知られるわけにはいかない。

「ねえ、奈緒はあれ、見てくれた?」

あれ?全く心当たりがない。

「何のことだ?」

「えーっ!あれだよ、私が表紙の雑誌!」

「あぁ!」

言われて気づく。たしか少し前、加蓮に撮影の仕事が入っていたっけ。それが雑誌の撮影だった、というわけか。

「ごめん、まだ見てない。今日が発売日だったのか?」

正直に答えると、加蓮はほっぺたをぷくっと膨らませる。わざと指でまゆを吊り上げ、さも『私は怒っていますよ』とでも言わんばかりの表情をつくる。面白い。

「奈緒の薄情者ー。ぶーぶー」

口を尖らせる加蓮。そんなふざけた表情も何だか可愛らしくて、でもそこで遂にダムは決壊する。

「あっははは!なんだその顔!」

こらえ切れずにお腹を抑えて笑う奈緒に対して、元の表情に戻った加蓮もつられて笑う。そうしてひとしきり笑った後、不意に加蓮が呟く。

「あー良かったっ」

「何がだ?」

「やっと奈緒が笑ってくれたよ」

「!」

どきりとする。加蓮やプロデューサーの前では普段通りの自分を演じられていると思っていたが、もしかすると想像以上に暗い雰囲気を垂れ流していたのかもしれない。

「ここ最近、なんだか奈緒、変だったから」

ポツリともらす加蓮をみて、奈緒はあぁと腑に落ちる。加蓮は何も奈緒のもやに気づいた訳では無いのだ。加蓮はずっと奈緒の目を見ていた。加蓮は他人の表情の変化にすごく敏感だ。幼少期の経験からであろうが、いつもなら気遣いとなりありがたいそれも今の奈緒には傍から見てもおかしいという事実を突きつけられているようで、とても気分が良くなかった。

胸中に押し込めたはずのもやはさらに質量を増し、あけすけな奈緒の胸から出ようともがいている。そのこと自体もそんなことに悩む自分も見せたくなくて。

「────ごめん」

耐えきれなくなった奈緒は加蓮の脇をすり抜け、事務所から出る。大きな音を立ててドアを閉めると同時、押し込めていたもやは胸を突き破り、瞬間的に奈緒の全てを支配した。そうして何を考える間もなく、気づけば奈緒は走り出していた。

何処へだなんてそんなもの全く考えずに、ただ道を足が赴くままに走り続けた。

どれだけ走っただろうか。気づけば息は乱れ、足はガクガクと震えている。辺りを見回すと、いつの間にか知らない土地に来てしまったようだ。戻らなければ、そう思うやいなや、今日起こった出来事がフラッシュバックする。不調の自分。トレーナーの言葉。プロデューサーの眼差し。そして横目でちらりと見た加蓮の驚きにも似た表情。全ての記憶が目まぐるしく暴れだし、感情の奔流はついに奈緒の自制心を少しずつ削り始め、声にならない声を上げながら奈緒はよろよろと並び立つビルの間の路地裏へ入り込み、ヒビの入ったセメントに背中を預けながら座り込んだ。

「あぁぁぁぁぁぁ!」

叫ぶ奈緒に周りの人間はこちらを見るが、丁度路地裏のパイプに阻まれ奈緒の姿は通りからは見えない。収まりのつかない感情は奈緒の中を暴れ回った挙句、とうとう口から強引に外に出たのであった。
どれほどの時間が経っただろうか。ひとしきり叫んだ後、唐突に平生を取り戻した奈緒はまた全てを後悔し、自分の不甲斐なさに絶望する。

「あたしは……最低だ……」

「そうだね、最低だ」

「っ!」

口を衝いて出た言葉に答える声。今一番聞きたくない声でもあり、聞きたい声でもあった。心の中で奈緒は自嘲的に笑う。声だけで誰だかわかってしまう。でもそれを確かめるのが怖くて、顔を上げられない。膝の間に顔を埋める奈緒に向かってその声は告げる。

「勝手に飛び出して、みんなに心配かけて本当に奈緒は最低だよ」

最低だ、という言葉とは裏腹に、その声には温もりがこもっていた。そして、怒りも。顔を上げると、やはりそこには彼女が居た。

「凛……」

涙で視界がぼやけているが、間違えようもない。ずっと一緒にユニット活動をしてきたのだ。

「みんな心配してるよ、事務所に戻ろう」

優しく言う凛に、さっきまでとは違う感情が堰を切ってとめどなく溢れ出す。

「うぁぁぁぁぁん!」

抑えのきかない感情に今日どれほど振り回されただろう。たった今出てきた感情は一瞬で熱い滴となり、頬を流れ落ちる。凛はほんの少し驚いた顔を見せたがすぐに微笑み、奈緒を優しく抱きしめてくれた。

「大丈夫、大丈夫だから」

囁く凛の言葉に安心すると同時、事務所を出る時に見た加蓮の表情が蘇る。ああ、なんという事だ。あの驚いた表情は奈緒を心配してのものだったのだ。愚かな奈緒はようやくその事に気付き、頬を流れる滴はその勢いを増す。
こんなに優しいふたりに嫉妬し、劣等感まで抱いてあまつさえそこから来る個人的感情でふたりにも迷惑をかけてしまった。奈緒は、あたしは。

「あたしは……最低だ……!」

「そんなことは無いさ」

上から降り注いだのは、もう一つの聞きたかった声。今度は真っ直ぐ上を向ける。凛と離れ、ぐしゃぐしゃになった目元をぐいっと袖で拭って向かい合う。

「Pさん、あたし……」

「分かってる。気づいてやれなくて済まなかった」

本当に済まなそうに言うプロデューサーに、今更ながら罪悪感を覚える。何もプロデューサーが悪いことをしたわけじゃない。奈緒が勝手に劣等感を抱いて、勝手に飛び出して来ただけだ。そう謝られると逆にこちらが申し訳無くなる。なんだかいたたまれなくなった奈緒は、ちょっとプロデューサーを見るのが恥ずかしくなってそっぽを向きながら言った。

「……ごめん」

「奈緒が謝る事じゃないさ。もう日も暮れてきた。通りに車を停めてあるから早く帰ろう」

「うん」

こくんと頷く奈緒。それを見て凛とプロデューサーは安堵の笑みを浮かべている。
全てのもやが無くなった訳では無い。けれど、自分を心配してくれる人がいる。優しく抱きしめてくれる人がいる。迎えに来てくれる人がいる。そんなみんなとユニット活動をやっていける事を改めて幸せだと感じた。
そんな幸せに比べれば、自らの劣等感なんて瑣末なことなのだと感じた。

……………………………………………

「────だから、あたしがふたりよりもずっと劣ってるって思って……」

事務所に戻り、凛も加蓮も帰った後、奈緒はプロデューサーに自身の心中を吐露していた。何だかこんなに自分ひとりで溜め込むのも馬鹿らしいと考えたのだ。
全てを聞き終えたプロデューサーは大きく息をつき、奈緒に手招きをする。テーブルを挟んでソファに座っていたプロデューサーの方に顔を寄せ────

「いてっ!」

デコピンをされた。

「な、何すんだよPさん!」

ハハハと笑うプロデューサーに抗議する奈緒。額を抑えながら浮かした腰を再び落ち着ける。

「奈緒、お前はさ、難しく考えすぎなんだよ」

「どういうことだ?」

「じゃあ一つだけ質問しようか」

プロデューサーは少し間を取り、奈緒の表情を伺っている。奈緒にはプロデューサーが何を言いたいのかわからない。

「奈緒はアイドルをやってて、楽しいか?」

「当たり前だろ、そんなの!」

つい声が大きくなる。そんなもの考えるまでもない。自分がステージに立って目の前の光の海に手を振るのを想像しただけで高揚するし、自分の声が入ったCDがショップにおいてあるのを見ると心から嬉しく思う──まぁ、少しは恥ずかしいが──これを楽しいと言わずしてなんと言うのだろう?
奈緒の答えを聞いたプロデューサーは満足そうに笑うと、

「そういう事だ」と腕を組んだ。

「いや、どういう事だよ」

「それが俺の仕事だってことだよ。奈緒が楽しく仕事できるようにするのが、俺の仕事」

「それは……わかるけど」

でも、何の解決にもなっていない。確かにアイドルは楽しいけど、奈緒の話からは少し逸れている。

「でも、Pさんだって思うだろ」

「何をだ?」

「あたしよりも、さ」

声が詰まる。これを言えないがために奈緒の中のもやはふくらんだ。そのもやは今、とても小さくなっているがいつまた大きくなって奈緒を支配しないとも限らない。ええい、乗りかかった船よと意を決して一息に言う。

「だったらさ、Pさん」

「ん?」

「もっとあたしのいい所、一緒に見つけてくれよ!ふたりに負けないくらい、すっごい魅力をさ!」

「……あぁ!」

「あたし一人だったら抱え込んじゃうけど、Pさんと一緒ならそんなことないと思うんだ!だから改め……て……」

急に口ごもる奈緒。どうかしたのかと訝るプロデューサーが目を覗き込んでくるが、まともに目を見られない。

「くあぁ~っ!なんか今あたし、すっごい恥ずかしいこと言った気がする!!」

先ほどと同じく熱くなる頬。だけども、そのうちから溢れ出るものは全くの別物だった。奈緒を覆う恥ずかしさの中、心の奥はじんわりと優しい暖かさに包まれていた。

ピピピピッ!ピピピピッ!

「うわぁあ!?」

いきなり鳴り始めた電子音に頬の暑さも忘れ驚く奈緒。奈緒が赤面しているのを見て笑っていたプロデューサーは自分のデスクへと歩み寄り、その音の発生源を止めた。

「ケータイ……?」

奈緒がつぶやく。どうやらそれはケータイのアラーム機能だったようだ。時間が来れば勝手になり始めるシステムを予めセットしておいたのだろう。プロデューサーがケータイで示した時間は0時を指していた。どうやらいつの間にか日を跨いでしまったらしい。でも、なぜプロデューサーはこんな時間にアラームをセットしていたのだろう?考える奈緒に、プロデューサーは一つの包みを渡す。

「ハッピーバースデー、奈緒」

「え……?」

再びプロデューサーはケータイをかざす。そこにはしっかりと9/16と……奈緒の誕生日が示されていた。

「すっかり……忘れてたよ、ハハ」

乾いた笑いの奈緒とは対照的にプロデューサーは満面の笑みを向ける。

「これ、開けてもいいのか?」

「もちろん」

渡された包みを開けると、中から出てきたのは数枚の写真と、綺麗にラッピングされた箱だった。その写真に写っていたのは、なんとすべて奈緒が映されたものだった。事務所で凛と雑談している写真、スタジオで加蓮と歌っている写真。そしてトライアドプリムスでの初ライブの時の写真。その全てが、奈緒の満面の笑みを写したものであることに気が付いた。

「Pさん、これ……」

プロデューサーは優しく微笑みながら言った。

「奈緒が一番活き活きしてる時のことを思い出して欲しくてな。最近なんだか奈緒が落ち込んでいるみたいだ、って加蓮にも言われてたし」

「……!」

ぽろぽろと涙がこぼれる。やっぱり自分は馬鹿だ。大馬鹿だ。自分のことしか見えていなかった。周りの人達はみんな、奈緒の事をこんなにも想ってくれているのに、自分は何もみんなに返せていない。その不甲斐なさと、だけど確実に感じる嬉しさに涙を流した。

「!そういえば……」

手に持っていたラッピングされた箱を開けてみる。中から出てきたのは、二重に重なって揺れる三角形のアクセサリがついたブレスレットだった。

「綺麗……」

ブレスレットを持ち上げてみると、光の当たる角度によって色の淡さが変わる、綺麗なブルーの石が使われていた。それはまるで、トライアドプリムスというユニットと奈緒自身を表しているようで。

「Pさん……」

「なんだ?」

「ありがとう、本当に嬉しいよ……ありがとう……!」

とめどなく溢れる涙を拭うこともなく、ただただ泣く奈緒の頭を、プロデューサーは撫でてくれた。その手のひらの感覚が何だかとても優しくて、あんまりにも恥ずかしくて絶対に声には出せないけれど、ずっと続けていてほしい。そう思ったのだった。

────翌朝。

「神谷、そこでターンだ!よし、ちゃんと出来てるじゃないか!」

早朝のユニットレッスン。昨日と同じレッスンフロアで、今度は凛と加蓮と一緒にダンスレッスンを受けていた。

「奈緒、すっごいキレキレじゃん!もしかして、Pさんと何かあったなー?」

ニマニマとお腹をつついてくる加蓮。

「な、何もない!本当だってば!」

狼狽える奈緒をみて、凛が笑う。いつも通りの光景。だけど、いつもよりちょっといい日。昨日という雨の日を超えたからこそ、今日という晴れの日を迎えられたんだ、と奈緒は本気でそう思う。

「こら北条!ちょっかいを出すな!まだ休憩時間じゃないぞ!渋谷もいつまで笑ってるんだ!もう一度最初から繰り返すぞ!」

『はい!』

トレーナーの叱責が飛ぶ。凛と加蓮はそれに応える。定位置に付いたふたりの背中を見て、奈緒は考える。何も焦ることは無い。自分たちはユニットなのだ。今回は奈緒が助けてもらった。ならば次は、もしも凛や加蓮が転んだ時に手を差し伸べられるように努力しよう。あたしの為じゃなく、みんなのために。

再び曲がかかり始める。その中央で華麗にステップを踏む奈緒の左腕には、二重の三角形が淡いブルーの光を揺らしていた。

おわり

奈緒誕生日おめでとう!時間ギリギリでしたね……

これからも奈緒が笑ってもっともっと活躍できますように!

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