大学選抜戦後、秋ぐらいの想定、ファイナルは想定外
暇になったまほチョビが遊んでいるところから話が始まる
こういうこともあるんじゃねえかなあと書きたくて書いた、真面目に書いたが人を選ぶかも
いろんな漫画とかからセリフやら頂いている
最近頭が動かないので書き直しをしてない、ガバガバと捏造設定なのは許して
原作にはいないチョビ子の担任が登場、全体の5〜4分の1くらいチョビ子について喋る
それでもよければ読んでくれ
――――――――――
まほ「あぁ~……、これはいい……」フカフカ
チョビ「だろぉ~……」フカフカ
チョビ「ここのケーキバイキングは、ケーキもさることながら、この特大雲形ソファが人気なんだ……」フカフカ
まほ「池袋のプラネタリウムのやつに似ている……。あ~これは……いいなぁ……」フカァ…
チョビ「寝たければ寝てもいいぞ……。店員さんが起こしに来てくれる……」
まほ「それはいい……、だが……それではもったいないな……」
チョビ「だな、今日はケーキ食べに来たんだからな……」
まほ「ああ……、ああ……」
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チョビ「それでお前……、進路はどうするんだ」
まほ「ああ……、私は黒森峰の大学部に推薦が決まっている……」
まほ「私より、お前はどうするんだ……」
チョビ「うん……まだ決めかねていてな……」
まほ「聞いているぞ……、すでに5つの大学がお前をスカウトしに来ているのだろう……」ウトウト
チョビ「……それ個人情報だろ、何で知ってるんだ」
まほ「……にしずみりゅう……」
チョビ「……よくわからんが……、まあお前のお母さんて関係者だもんな」
まほ「それで……どこ行くんだ……」
チョビ「う~ん……、まあ正直どこでもいいんだがなあ……」
まほ「じゃあくろもりみねだ……」
チョビ「え~……?」
まほ「くろもりみねにこい……くろもりみね……くろもりみね……」
チョビ「黒森峰はなあ~……。だってお前も言ってたろ。強豪校に入っちゃうとどうしてもこう……、こういう言い方はなんだが、勝って当然というか、結果が見える試合が多くなっちゃいそうでなあ……」
チョビ「それにお前と同じ大学に入ったら、もしかして、お前を倒す機会が二度と巡って来ないかもしれんし……」
チョビ「……むしろお前こそ、黒森峰以外に行けばいいじゃないか。いい加減飽きたろ」
まほ「わたしは……おかあさまがいるから……」
チョビ「お母さん?」
まほ「いもうとはいえをでてしまった……。それはそれでもういいんだが……」
まほ「そうするとおかあさまの……きぼうをかなえてあげられるのは……、わたしだけだ……」
チョビ「しかし……」
まほ「いまのわたしがあるのは、おかあさまのおかげだ……。できるだけのことはしてあげたい……」
チョビ「西住……」
チョビ「お前……、西住流とか戦車とかとは関係なく、自分がやりたいこととかないのか……?」
まほ「ああ……?」
チョビ「やりたいことだよ、将来の夢とか……、もっと小さいことでもいいけど」
まほ「……ああ、……そうだな……、ああ……」
まほ「……ああ……」
まほ「……もうすこし……こうしてたいな……」
チョビ「あぁ~はいはい、とりあえず延長の注文しよう……」ポチッ
まほ「……ずっと……こうしていたい……」フカフカ
まほ「……それだけだ……」フカア…
チョビ「欲のない奴だなあ……、あるいは意外となまけものなのか……」
まほ「……そう……かな……」
チョビ「…………」
チョビ「…………」
チョビ「……本当に寝た」
チョビ「……よほど気持ちいいんだな……」
チョビ「…………」
チョビ「…………」ヨシヨシ
チョビ(大学選抜からこっち、お互い高校戦車道を引退した身だ)
チョビ(受験勉強があるとはいえ、ガクッと暇ができてしまった)
チョビ(結果、以前はせいぜい年に5、6回であった会合が、今ではほとんど週1ペースとなっている)
チョビ(今までは隊長同士の情報交換会ということで経費で落とせた交通費やら交際費やらが、今では全額自腹となっている。回数が激増したのもあって、かなり懐が寒い)
チョビ(財布事情はさておき、私としては、実は素直に嬉しいのだが、西住の方の事情を知ると何とも言えない)
チョビ(こいつは西住の後継者だから、スケジュールが空いたとみるや、ここぞとばかりに研修やら座学やら挨拶周りやら色々詰め込まれていて、 結局忙しさ自体はあまり変わっていないらしいのだ)
チョビ(それは疲れることだろう。話題のケーキバイキングに来ておいて、ケーキよりもフカフカのソファに感激して寝てしまうこともあるだろう)
チョビ(それでもキッチリ付き合ってくれるし、私が気を遣ってこいつを誘わなかったり誘いを断ったりすると、逆にこちらを気遣って、何かあったのか体調が悪いのか悩み事でもあるのかとわりとしつこく聞いてくる)
チョビ(掛け値のない友達だ)
チョビ(…………)
チョビ(……いや、他に友達がいないのかもしれない)
チョビ(西住との付き合いはわりと長い)
チョビ(中学2年の時に出会ったから、もう4年か5年になる)
チョビ(先輩が病欠して、繰り上がりで車長として出場した大会で、初めてこいつとやり合った)
チョビ(やり合ったと言っても出会って1秒だか半秒だかリタイアさせられたのだが)
チョビ(位置取りが良かったのだ。もしも私があのままその陣地を保持し続けられたなら、戦局はもう少し変わっていたに違いない。それがわかっていたこそ、西住は単騎でまっすぐ私の車両を排除しに来たのだろう)
チョビ(試合終了後、西住は自分がボロ勝ちした学校の陣地まで、当時既に副隊長でありながら供周りも連れずに、一人でのこのこやって来た)
チョビ(最初に応対した先輩によると、そいつは半秒でやっつけた私のメルアドを聞くためだけに、わざわざ撤収準備の忙しい時間に来たのだと言う)
チョビ(妹の方もどこか抜けているようだが、こいつもこいつで大概だった。わざわざ自分を好ましく思わないであろう集団に、一人で乗り込んできたのだ)
チョビ(当時の先輩たちは西住の行動に呆れながら、しかし面白いからと必死で隠れていた私を引っ張り出して、連絡先を直接交換させた)
チョビ(まるでナンパしに来た男子に冗談半分に突き出される女子みたいで、それはそれは恥ずかしい思いをした)
チョビ(西住は全く気にしていないようで、目的を果たして満足げに去っていった)
チョビ(お互い、特に私が慣れるまでしばらくあったが、それから以来、たびたび二人で会って、何事か話したり遊んだりする仲になった)
チョビ(初めは同じ戦車道を志す同世代としての付き合いだったから、戦術や装備と人員の運用などに関する勉強会が続いた)
チョビ(その後、私も西住も中学の隊長になったから、毎度、話題は予算のやりくりや後援会との微妙な関係、全国の有望な新人の発掘にまで広がり、大いに盛り上がった)
チョビ(その頃に、西住の妹が話題に上った)
中二チョビ『妹を副隊長に据えたのか、思い切ったな』
中二まほ『うん。来年、中二になる』
中二チョビ『どのくらい頼れるんだ』
中二まほ『申し分ない。実戦では、ほとんどいつでも私の代わりを任せられる指揮・作戦能力がある。準備すれば、日常でも統率力を発揮できるはずだ。なにより、中・近距離での格闘戦ではほとんど無敵だ。多分大学生や社会人チームにも負けない』
中二チョビ『それはなんとも……まるで化け物だな』
中二まほ『うん。あの実力があれば誰も口答えはするまい。あれがいる限り、うちに勝つ学校は無いだろう』
中二チョビ『まあ……、そうでなくては面白くない』
チョビ(その時の想像とは違ったが、案の定、私の高校最後の夏を終わらせたのはその妹だった)
チョビ(そこからお互いの家族の話になり、過去のこと、学校での他愛もない話をするようになって)
チョビ(やがては特別用事もないのに、やれ有名な喫茶店に行こうとか、やれ話題の映画を見ようとか、戦車道のせの字も出ない会合が増えていった)
チョビ(私は毎度口では何事か文句を垂れていたが、内心西住と会うのが楽しくて、嬉しかった)
チョビ(こいつも本当はそう感じているのではないかなと思う)
チョビ(そうだといいなと思う)
チョビ(いろいろ思い出していたらだいぶ時間が経った。日も傾き、店内の客もまばらになってきた)
チョビ(西住はまだよく寝ている)
チョビ(…………)
チョビ(……もし私の本性を知ればこうも気を許すことはあるまい)
チョビ(はあ)
チョビ(きれいな顔だ)
チョビ(漫画や小説なら、ここでキスしたりいろいろするに違いない)
チョビ(でも実際はその瞬間になにもかも失うので)
チョビ(しない)
チョビ(大丈夫、私は慣れている)
チョビ(なめてもらっては困る、だてにこの業界で生きていない。我慢と片想いは一生ついて回るのだ)
チョビ(大丈夫、私は我慢できる)
チョビ(大丈夫。大丈夫)
チョビ(ごく少数にしか知らせていないが、私はいわゆる本物の同性愛者だ)
チョビ(初恋もファーストキスも初体験も全て女性が相手だった)
チョビ(そして、実はもう3年もこの西住という女に惚れている)
チョビ(これを西住に知られるわけにはいかない)
チョビ(まず同性愛者であると知られてはならない。一頃に比べ世の中は変わり、今では法律で同性婚さえ許されている。だが、人の目や感情はまだ大きな変化を遂げるには至らない)
チョビ(西住は、週一で共に出掛ける友達が性的少数派だからと言って、蔑むことはしないだろうという、確信がある。だが、根拠は無い。それに、表面上そうしなかったからと言って、彼女が腹の底で何を考えているのかまでは分からない)
チョビ(そして、私がこいつを好いていることもばらせない。これは男女の仲でも同じことだ、当たって砕け散った後のことを考えれば当然のことだ)
チョビ(それなら距離をおけばいいのだが、しかし、こうして頻繁に顔を合わせられる状況は、私にとって幸福なのだ)
チョビ(我ながらなんとも、度し難いと思う。しかしまあ、年相応の悩みを持てて、それなりによい日々だろうとも思っている)
まほ「…………」
まほ「…………」
まほ「…………?」
まほ「……ああ……、おはよう」
チョビ「おはよう、自力で起きたな。でももうじき時間だぞ、最後に何か食べるか?」
まほ「…………」
まほ「……最後か……」
まほ「…………」
まほ「……いや……、寝起きにケーキは……いい……」
チョビ「そうか。まあ、それも贅沢のうちだ。うとうとしてろよ」
まほ「うん……、…………」
まほ「…………」
まほ「……安斎」
チョビ「何だ?」
まほ「……黒森峰、本気で考えてみてくれ……」
チョビ「ああ? ああ、う~ん……、黒森峰からはスカウト来てないしなあ……」
まほ「……そうなのか?」
チョビ「そうだよ」
チョビ「うちの実家はそんなに金があるわけじゃないからさ。特待生にしてくれるところが別にあれば、そこに行かないわけにはいかないよ」
チョビ「お前にそんなに言ってもらえるのは嬉しいけどな」
まほ「そうか……、今、どんな待遇が来てるんだ」
チョビ「そうだなあ、今のところサンダース大がすごいな。全特と入学費免除と寮費免除と戦車道の経費免除と就職斡旋で一番待遇がいい。佐世保に引っ越さにゃならんのが面倒だし金がかかるが、まあ他がタダならそれくらいは何とかなるよ」
まほ「……そうか……」
チョビ「お゛お゛~……」
チョビ「まだ早いはずなんだが、日が短くなってきたなあ。夕日が金色だぞ……」
まほ「ああ……」
まほ「……雲や空がきれいだと思うようになったのは、本当に最近だな……」
チョビ「そうなのか。なら、わかるようになって良かったな。私は練習や試合の合間に空を見ては、ああきれいだなあと思っていたよ。後輩連中と空を眺めることも、二度や三度ではなかった」
まほ「そうか。それは惜しいことをした。私も私の後輩たちと、そういう時間を持てればよかった」
チョビ「これからいくらでも眺めればいいじゃないか。私で良ければ、いつでも付き合うぞ」
まほ「本当か?」
チョビ「ああ、佐世保から駆けつけてやろう」
まほ「佐世保か……」
まほ「佐世保は遠いな……」
まほ「……佐世保には行くな、お前はここにいろ」
チョビ「まだ言ってるな」ハハハ
チョビ「寒くないか?」
まほ「ああ。安斎はどうだ」
チョビ「大丈夫だよ」
まほ「もう少しこうしていたいな……」
チョビ「そうだなあ……、このまま時間が止まればいいのになあ」
まほ「……安斎もそう思うか」
チョビ「うん」
チョビ「そうすればずっと高校生でいられる。受験も必要ないし、アンツィオで戦車道を続けられる」
まほ「それは、留年すればいいんじゃないのか」
チョビ「そんな金あるわけないだろ……」
まほ「たしか安斎は特待生だったな。全特か?」
チョビ「ああ、そうだが……、そういうの、私以外に聞くなよ」
まほ「ダメなのか?」
チョビ「そうだなあ、バイト代やお小遣いの額を聞くのに似ているな。家庭の事情に絡むから、良くない」
まほ「そういうものか。覚えておこう。悪かった」
チョビ「うん」
まほ「……でも、それなら学費は一円も払ってないのだろう。1年分くらい払ってもいいじゃないか」
チョビ「無茶を言うなよ、全特でなければあんな私立の学園艦に私が入るわけないだろ、生活費だけでも大変なんだぞ」オイオイ
まほ「そうか。もし安斎が私の娘か何かで、私が西住の財産を好きに使っていい立場なら、いくらでも留年させてやるのにな」
チョビ「ハハハ、できてもせんわバカ!」
まほ「……私が言ったのは、今このとき、この瞬間、時間が止まればいいということだよ」
チョビ「ああ……でもそしたらお前、家に帰れないぞ」
まほ「こうしていられるなら別にいい……」
チョビ「…………、お前、家で何かあったのか?」
まほ「何かって……、…………、まあ、最近は忙しいからな……」
まほ「疲れたのかもしれないな……」
チョビ「そうか。西住の虎も疲れるか」
まほ「そうだ……。腹も減るし、眠くもなる……」
まほ「……ああ、こんな風景を、このまま、お前とずっと眺めていたいな……」
チョビ「ああー……、それはいいな……」
まほ「……だろ……」
チョビ「…………」
まほ「…………」
チョビ「…………」
まほ「…………」
チョビ「……でも、ま、二人だけなんて、そんなの寂しいだろ」
まほ「…………」
まほ「……そうだな」
チョビ「…………」
まほ「…………」
まほ「…………」
まほ「…………」
まほ「実はな、安斎」
チョビ「うん」
まほ「……今度、見合いをするんだ」
チョビ「…………」
チョビ「…………」
チョビ「は?」
まほ「……男の人と付き合うのは初めてだから、少し緊張している……」
チョビ「いや、いやいやいや」
まほ「どうした」
チョビ「……まずお前、お見合いと言ったか……」
まほ「そうだ」
チョビ「いつ……?」
まほ「次の日曜日だ」
チョビ「そ、それで、男と付き合うだって……?」
まほ「ああ。まだ写真でしか見たことは無いが、普通に会話できるようならとりあえず付き合ってみるつもりだ。もちろん相手が応じればだが……」
チョビ「おい!!」
まほ「なんだ、突然」
チョビ「おかしいのはお前だろ!」
まほ「そんなにおかしいか? 戦車道一本だったから、恋愛には疎くてな……」
チョビ「違う! どうしていきなり付き合うつもりなんだ!? そんなに顔がいいのか」
まほ「いや、どうかな……、下駄のような顔……、かな」
チョビ「下駄ってなんだ!」
まほ「どうしたんだ安斎、少し落ち着いてくれ」
チョビ「ちょっと無理だなあ!?」
チョビ「……普通は、好きになった人と付き合うんじゃないのか?」
まほ「ああ……、まあ、そうなんじゃないか?」
チョビ「普通は、お見合いのように出会いを強制されるのは嫌なんじゃないか?」
まほ「いや、それは人それぞれというか……、安斎も少し偏見が入っていないか?」
まほ「お見合いは強制というものではない。嫌なら断っていいんだし」
チョビ「ま、まあ確かにそうかもしれないが……」
チョビ「い、いや、お前んとこのお見合いはどうせ強制みたいなもんだろ!」
まほ「それについては何とも言えないな」
チョビ「どうして好きでもない相手と付き合うことについて前向きなんだ?」
まほ「それはお前、家柄がなあ」
チョビ「イエガラ! お前は良家のお嬢様か!」アイエエエエ
まほ「実はそうなんだ……」
チョビ「そうだったなあ!」
チョビ「だってお前……、お前は既に戦車道で名を成しているし、正直、見目も美しいじゃないか」
チョビ「性格も真面目で優しい」
チョビ「お前、より取り見取りなんだぞ。道行く人誰だって、お前みたいなお嬢さんと付き合いたがってるんだ」
チョビ「それをお前、どこの馬の骨ともわからん下駄男とだな」
まほ「安斎、まるで父親のようだな」フフッ
チョビ「……いや、笑っているがな、本当に、どうしてだ。本当はお前にだって、おかしいのはわかってるだろう」
まほ「お前の言うことは分からなくもないが……、おかしい……、というほどでもないよ」
チョビ「いや、おかしいだろ」
まほ「……本当は今まで無理を言って、見合いは断り続けてきたんだ。戦車道に集中したかったからからな……」
まほ「でも今は引退して余裕がある。もうわがままも言っていられない」
チョビ「だってお前、戦車道の練習やら試合やらが終わっても、家のあれこれがあるから結局忙しいんじゃないのか」
まほ「結婚は公式の行事だからな。結婚周りの話は、大抵の用事に優先してしまうんだ。むしろこの話が続く限りは、ずるずると後回しになっているものもある」
まほ「また大学で戦車道を始める前に、とりあえず今のうちに会ってみて、可能なら婚約まで進めたいんだよ」
チョビ「……つまり家のために、誰でもいいから結婚するっていうのか」
まほ「誰でもとはいかない。それなりの相手だ」
チョビ「おんなじことだ!!」
チョビ「だってお前が選んだ相手じゃないんだろう? お前が好きになった相手じゃないんだろう!?」
まほ「何人かに絞られた中から私が選ぶんだ。これなら私が選んでいることになるだろう?」
チョビ「…………」
まほ「安斎」
チョビ「…………」
まほ「安斎……、どうして泣くんだ」
チョビ「うぅ~~~……。笑うなよ……、だって……おかしいだろ……」グスッ
まほ「安斎。私は結婚した後に、その人のことをちゃんと好きになる自信がある」
まほ「だから私はちゃんと自分で幸せになれる。安斎は私のことより自分のことを心配していろよ」
まほ「私は安斎には、いい大学やいい職場で、いつか素敵な恋愛をして、幸せになって欲しいと思っているよ」
チョビ「うぅ~~~~……、ふぐううぅ~~~~~……」
まほ「ありがとう、安斎……」
まほ「……安斎はかわいいな……」イイコイイコ
チョビ「やめろよぉ……」
まほ「……落ち着いたか?」
チョビ「うん……。あ゛~……。顔がめちゃくちゃなんじゃないか……」
まほ「どこか入ろう」
チョビ「うん……。いや……、今日はもういい……疲れた……」
まほ「そうか……、何だかすまないな」
チョビ「……いや、別にお前が悪いわけじゃない……」
チョビ「ちょっとカルチャーショックを受けただけだ……」
チョビ「私も好き放題言い過ぎたかもしれない……」
まほ「どうかな」
チョビ「……でも西住。これだけは言わせてもらいたいんだがな」
まほ「うん」
チョビ「……おまえと結婚したいやつなんて、世の中にごまんといるんだ……。本当だぞ……」
チョビ「だから家のために妥協なんかしないで、好きに選べよ……。一生のパートナーだろ……」
まほ「…………。ありがとう……。安斎は優しいな……」
まほ「…………」
まほ「でもそれはできない。できないんだよ、安斎」
まほ「私は西住の長女だ。結婚して、なるべく多く、健康で優秀な子を成す義務がある」
まほ「そのために、なるべく早く、健康でそれなりの相手と結婚しなくてはならない」
まほ「……そういう風に準備してきたんだよ。ずっと、ずっと前から」
まほ「私の身体はそのためにあるんだ」
チョビ(その後なにごとかしばらく自分でも信じられない勢いで叫んだ後、速足で寮に戻ろうとしたのだが、)
チョビ(結局寮に辿り着く前に激しい吐き気に見舞われて、近所のコンビニのトイレで一時間ちょい嘔吐した)
チョビ(よく行くコンビニだったのでとても恥ずかしかったが、それどころではなく本気でゲェゲェ喉が鳴った)
チョビ(不思議な色の吐しゃ物が便器に飛び出たのにゾッとしたけど、今思うとあれは消化される前のケーキとかパフェだったのだろう)
チョビ(暑さと寒さが交互にやってきて、嘔吐と一緒に体力をガンガン削って私を動けなくした)
チョビ(店員らに心配されて様子を見に来られたのがとても恥ずかしかった、行きつけなのにもう行けない……)
チョビ(翌日体重計に乗ると見事に痩せていた)
チョビ「というわけでな」
電話「ははあ、それは何とも……、大変でしたね」
チョビ「それからというもの数日間、脱力した日々が続いて、今日ようやく起きれたんだが、そういえば余計なことやら失礼なことやらたくさん言ってしまったような気がして、いま自己嫌悪がすごいところだ……」
電話「アハハ……」
チョビ「いやまあ、家庭の事情というのはそれぞれで、私が自分の物差しで物事を考えすぎていたということなんだが……」
チョビ「いやしかしだな、『私の身体はそのためにあるんだ』とか言いながら下っ腹をさするのは、あれはどうかと思うぞ。かなり応えたぞ」
電話「それはまあ、確かに強烈ですね」
チョビ「だろう!? いや安心したぞ、やっぱりショックだよな? 普通じゃないよな?」
電話「まあ、ショックというか、確かにあの人にしては何と言うか表現が露骨かなあと」
チョビ「いやまあ、あいつはもともと直裁なやつだと思うけど」
電話「確かにそうなんですが、でもデリカシーはありますから」
チョビ「やはり普段とは違うのか?」
電話「どうでしょうか……今はそばにいないから確信は持てませんけど、あの人のことですから、無意識というより、何か理由があってわざとやっているような気がします」
チョビ「それは、やはり、私があんまりしつこく言ったから、黙らせるつもりでやったんだろうか」
電話「それはどうでしょうか……」
チョビ「もしそうなら大成功だ、胃の中のもの全部出たからな……」
電話「ていうか、アンチョビさんそこまでダメージ受けたんですね」
チョビ「うん……」
電話「よっぽど好きなんですねえ……」
チョビ「うん……」
チョビ「…………」
チョビ「……いや、ちが、違わないが、うん……」テレテレ
電話「それにしても困りましたね。こうなるともしかしなくても手詰まりですよ」
チョビ「……そうじゃないか!? おい、話と違うじゃないか、お前大丈夫ですイケますよって言ってたじゃないか!」
電話「あっれぇ~? おっかしいなぁ~」
チョビ「おっかしいなぁ~じゃないぞ! ていうか家の情報くらい回って来ないのか!?」
電話「いやそれが、もう跡継ぎにならないのはほぼほぼ確定しているので実際的な話はそんなに頻繁には……」
チョビ「そういえばお前、家を出たって聞いたけど、それはつまり寮に入ってるとかそういう話じゃなくて、もしかして」
電話「いやあ~実は卒業後に婚約して、大学卒業してから籍入れることになりまして」エヘヘ
チョビ「はあ~~~~~~~~!?」
チョビ「い~~~~~~~なぁ~~~~……」
チョビ「…………」
チョビ「……いや、うん。おめでとう、よかったな」
電話「はい、ありがとうございます」
チョビ「あ~、それで家の方にも了解とったのか」
電話「ええ、大学選抜戦の時に一度実家に付き合ってもらいまして、その後そういう段取りになりまして」
チョビ「ははあ~、よくもまあ、」
チョビ「あー、うん、」
チョビ「しかしせいぜい半年の恋愛でよく婚約まで話が進んだなあ」
電話「いや~まあそれもあって、籍を入れるのは大学卒業後なんですけども」
チョビ「でもおおかた大学では同棲するんだろ?」
電話「ええ、実は」
チョビ「お前はなぁ~……」
チョビ「…………」
チョビ「…………」
チョビ「……うん、とにかく、おめでとう」
電話「ありがとうございます」
電話「アンチョビさん」
チョビ「うん?」
電話「既に気づいてると思いますが、私と彼女のことは、母にいいように使われてしまったかもしれません」
チョビ「……というと?」
電話「私が子供を自然には望めない家族を作ろうとしていて、それを母が早々と認めてしまったせいで、姉はそうではない家族を作ることを求められてしまった」
電話「西住家に寄せられていた縁談がすべて姉に向かうことになり、姉は高校戦車道を引退したこの隙に誰かを選ぶことを暗黙の裡に強いられることになってしまった」
電話「……ということです。……多分」
チョビ「……うん」
電話「すみません、アンチョビさん。私のせいです」
チョビ「いや、そんな……」
電話「いいえ、アンチョビさんは怒っていると思いますし、怒っていいと思います」
チョビ「…………」
電話「でもそのうえで、私はアンチョビさんに幸せになってもらいたいと思います。それは姉ではない誰かを新たに見つけて欲しいということではありません」
電話「そして誰より、私は姉に幸せになってほしいと思います。それができるのは多分アンチョビさんをおいてほかにいないと思います」
チョビ「お前はいつもそう言ってくれるが、いったい何の根拠があるんだ」
電話「……私はアンチョビさんを応援したくていつもお電話させてもらってますが、私の口からは、知っていることの全部は言えません……」
チョビ「…………」
チョビ「…………」
チョビ「そうは言うがな。西住は見合いを望んでいるし、仮に私にチャンスがあったとしても、そもそも、西住が同性愛者の私を受け入れてくれる可能性は高いはずが無いんだ」
チョビ「いつも世話になってる友達のお前のことを恨んだり怒ったりすることは決して無いが、……でも現状、望みはほとんどないよ」
電話「……私に言えた義理ではありませんが、姉が西住をもう少し蔑ろにしてくれればと思います。……家と人生とを天秤にかけることなんてしなくてもいいのに……」
チョビ「…………、でもそれが西住なんだ……」
電話「…………」
チョビ(そう、西住は西住流の女で、西住流のために生きているんだ……)
チョビ(あの女にはあの女の正義があって、それを横からおかしいと言っても仕方がない……)
チョビ(法に触れるわけでも、人に迷惑をかけるわけでもない……)
チョビ(自覚のある人間が、自分で納得して行う行動に文句をつけるもんじゃない……)
チョビ(…………)
チョビ(…………)
チョビ(……大丈夫……大丈夫だ……)
チョビ(私は大丈夫……ちゃんと納得できる……ちゃんと……)
チョビ(大丈夫……)
チョビ(……大丈夫……)
チョビ(…………)
チョビ(…………)
チョビ(……ああ……二度寝してしまったのか……)
チョビ(まあ……受験期だから、ちょっとやそっと休んだくらいで何も変わらない……)
チョビ(…………)
チョビ(携帯が鳴ってるぞ……出たくないなあ)
チョビ(…………)
チョビ(…………)
チョビ(…………)
チョビ(知らない番号だ……)
チョビ「はい……」
電話「もしもし。アンツィオ高校戦車道元隊長の、安斎千代美さんのお電話でよろしいですか?」
チョビ「はい、そうですが」
電話「はじめまして。私、黒森峰女学園大学部入試広報課の者です」
電話「本日は安斎さんに戦車道でのスポーツ特待生制度のご紹介でご連絡致しております」
電話「今、少しだけお時間よろしいですか?」
チョビ「はい……」
チョビ(つまるところこうだ)
チョビ(入学費免除の全特、その他の教材費免除、引っ越し代並びに寮費あるいは住居費免除、戦車道の経費一切合切免除、別途研修費という名の多額の小遣いが毎月口座に振り込まれ(要領収書)、携帯代とか外食費とか帰省にかかる費用や何なら土産代まで大体無制限に何でも負担するので)
チョビ(戦車道特待生として来てほしい、なるべく早くうんと言ってほしいという話であった)
チョビ(これで私に声をかけた大学は6校目となるが、こんな漫画のような待遇、聞いたことがない)
チョビ(先行して直接の連絡となったが、明日にも担任を通して正式な打診が来るらしい)
チョビ「…………」
チョビ「あ、ということは明日は登校しないとダメなのか……」
チョビ「先生か……」
チョビ「会いたくないなあ……」
担任「来たかね。まあ座れよ」
チョビ「はい」
担任「こちら、聖グロからアホのように送ってくる紅茶だ。銘柄はよくわからんなあ」
チョビ「はい」
担任「……んー……、この香りがいいのかどうなのかもいまいちわからんね」
チョビ「淹れ方がいまいちですが、味はまぁまぁです」ズズ
担任「結構」
担任「既に聞いてると思うけども、安斎に第六の幸福を呼ぶお手紙です。どうぞ」
チョビ「はい」
担任「……安斎、最近、黒森峰の関係者と何かあった?」
チョビ「……いいえ、特に無いと思いますが」
担任「変だな」
チョビ「というと?」
担任「普通は夏の内に唾を付けるものだ。お前がアンツィオに呼ばれたのも中3の夏休みだっただろ。空きでもできたかなあ……?」
チョビ「珍しいですが、無いとも言えません」
担任「だね」
担任「それでどうするか決まりそうか?」
チョビ「いいえ。まだ決めかねています」
担任「そうか。まあよりどりみどりの中に、さらにメインディッシュが来たからな」
担任「それに安斎には、特待をすべて蹴って、よその大学を普通に受験する道もあるし、あるいは進学をやめて留学したり、就職する道もある」
担任「ちょっと一年二年くらいボケッとするのもいいだろ、今は先生が若かった頃とは違うから」
担任「期限までよく悩みなさい。わかんなくなったらいつでもおいで」
チョビ「はい」
チョビ(担任は戦車道の授業を担当している)
チョビ(私がアンツィオに来たのは、彼女が私を戦車道のスポーツ特待で呼んだからだ)
チョビ(曰く3年もろもろ込みで1200万円の買い物との話だ)
チョビ(しかし私は3年もやって、結局彼女の期待に沿うことが出来なかった)
チョビ(本当はこうして顔を合わせるだけで、とても気まずい……)
チョビ(それでも彼女は、今に至っても本当によくしてくれる)
チョビ(元は聖グロ出身の大学選抜の隊長で、もし当時プロリーグがあれば彼女の職場はここではなかったはずだ)
チョビ(だが教職についてからというもの、実力があるのにも関わらず、彼女は勝つことにこだわらなくなった)
チョビ(一説によるとその結果、かの島田流を破門されたとのことだ)
チョビ(先日島田流に知己ができた際に聞いてみると、どうやらどこかの夢見がちな誰かの作り話なのではないかとわかったのだが)
チョビ(しかし実際、そんなこともあったのかもしれないと思わせるような、強く気高く、何より自由な女だ)
チョビ(私もこうありたいと思ってついてきた)
チョビ(……今はなにより、私の友にそうあってほしい欲しいと思う)
チョビ(……しかし、)
チョビ(それは、)
チョビ(私のわがままなのだ……)
担任「安斎」
チョビ「…………」
担任「安斎」
チョビ「……あ、はい」
担任「安斎、涙拭きなさい」ティッシュティッシュ
チョビ「……えっ」
担任「どうも心ここにあらずだな。休みも続いているし」
チョビ「そんなことはありません」
担任「あるよ」
担任「何日か前、個人寮の近所のコンビニでゲロ吐いて店員にタクシー呼んでもらったそうだね」
チョビ「それはそうですが……、いや、何でご存じなんですか」
担任「バイトほっぽりだしてお前の背中を一時間ちょいさすってたのがペパロニだったんだよ」
チョビ「…………」
担任「お前あいつに全然気付かないで始終敬語だったからって、かなり心配してたぞ」
担任「今度なにかおごってやりなさい」
チョビ「……はい……」
担任「まあ、先日の大学選抜戦では大活躍だったようだし、気が抜けるのも仕方がないが」
チョビ「……恐縮です」
担任「でも、いつも言っているだろう。戦車道は人生の一部であっても全部ではないんだよ」
担任「お前たちはそれ以外にも、食べて寝て恋愛しなきゃならないんだ」
担任「何か考えていて、行き詰まっているのなら話してごらん」
チョビ「特にありません」
担任「そうかね」
担任「安斎」
担任「学校の先生というのは、決して学生と友達にはなれないんだ」
チョビ「同感です」
担任「その代わり、君たち学生は、どこまでも我々先生に迷惑をかけていいんだよ」
担任「迷惑かけておくれよ。お前はいい子過ぎるよ」
チョビ「そうでもありません」
チョビ「私は3年間、全特でこの学校に置かせてもらいましたが、結局アンツィオを優勝に導くことができませんでした」
担任「ホントだよなあ」
担任「お前にはたっぷり金がかかってるっていうのに、結局2回戦止まりなんだもんなあ」
担任「職員会で思いきりいびられる私の身にもなってほしいなあ」
担任「私の若い頃なら、あんな素人の寄せ集めなんぞには決して負けないのになあ」
チョビ「…………」
チョビ「…………」
チョビ「…………」グス
担任「……冗談だよ……泣くなよ……」
チョビ「すみません……わかってるんですが……最近なんだか涙もろくて……」ズズッ
担任「おいおい重症だな……」
担任「ちょっと隣においで」
チョビ「いえ、しかし」
担任「いいからほら」グイグイ
チョビ「…………」ノソノソ
担任「お前を呼んだのは、名目上はお前に実力があったからだ。実際お前は今でも、個人能力なら同世代で三本の指に入るだろう」
担任「私が言うんだから間違いないよ」
担任「でも、私が本当に買っていたのはお前の情熱なんだよ」
担任「お前があの西住の後継者とライバル関係にあるという噂があって、全然信じられていないが」
担任「ちゃんと見てる連中はみんな知っていたんだ。お前とやり合う時だけ西住の気迫が違うんだもの」
担任「西住の小虎と何度も食い合うなんて、相当なカロリーだったろう。そうはできまいよ」
担任「お前ってばキューポラから出てる顔が毎度死にかけててなあ」
担任「“もういやだ、早くおうちに帰りたい!”って泣き叫ばんばかりの、もうかわいくてかわいくてしょうがない顔だったよ」
担任「でもお前は逃げずに公式非公式で都合6回やり合って、1回はあれを姉妹ごと完全に下して見せたろう。うちに来る直前の、中学の最後の練習試合だね、覚えてるよ」
担任「西住というのは幸せな女だね」
担任「お前がそうやって戦車道にぶつけている熱量を、うちの連中にも見せてやりたくてね」
担任「私はこんな女だし、それに私はどこまで行ってもただの教師だから」
担任「お前が来てくれたおかげでアンツィオの戦車道も大きく変わった」
担任「相変わらずの馬鹿共だが、戦車道や何かに命を懸ける瞬間が、一生のうち何回かあってもいいのだと覚えた」
担任「お前も、ホントはああいうノリが苦手なメガネの真面目ちゃんだったはずなのに、一生懸命合わせてくれたしなあ」
担任「お前もほかの連中も、上手くバランスをとって行くということを、結局体得はできなくても、そんなやり方があることを知ったんじゃないかなと思う」
担任「これは大きな成果だと思う」
担任「戦車道は人生の一部であって、人生はもっと大きいんだ」
担任「ちゃんと欲張らなきゃダメなんだよ」
担任「でも、私もたまに不安になることがあるよ」
担任「もしかしてお前は黒森峰にでも行くべきだったんじゃないか、あるいは大洗に行くべきだったんじゃないか」
担任「十分な実力があるのに、それに見合う栄誉を与えてやれなかったことが私は悔しいよ」
担任「栄誉を秘める人であれと、いつも言っていることと矛盾するけど……、まあ私も人の子ということだね」
担任「すまないね、安斎」
担任「だから安斎。せめて今後は、今度こそ、お前が真に望む進路をとることを、私は望むよ」
担任「ちゃんと欲張るんだよ。欲しいものは全部、ちゃんと欲しいと言うんだ。そしてそのために生きなさい」
担任「わかったかね」
チョビ「…………」
担任「いいこだね」ヨシヨシ
担任「じゃあ安斎。せっかくだからもう何日か風邪でもひいて休んで、それで気が向いたらまたおいで」
担任「今度はもう少しましなお茶が入れられるように、私も勉強しておこう」
担任「……お前の欲しいものは何だろうね」
チョビ「…………」
チョビ「…………」
チョビ「…………」
まほ「急に呼び出して悪かったな」
チョビ「いや、いいんだ、ちょうど地元に停泊中だったし」
まほ「西住流の師範代が、ここ静岡に住んでいる。気まぐれでなかなか顔をお見せにならない方だから、母から使いを頼まれたんだ」
まほ「そのついでと言ってはなんだが、先日のことを直接会って謝っておこうと思ってな……」
チョビ「謝ることなんてないのに……」
まほ「……何だか目が赤くないか」
チョビ「昼間、目にゴミが入ってしまってな。思い切りこすってしまったんだ」
まほ「あまりこすると目に悪いぞ、戦車乗りの目は大事なんだ」
チョビ「だよな」ハハ・・・
まほ「とにかく、あの日はすまなかった。一方的に話してしまった。たしかに、あまり気持ちの良い話ではなかったよな」
チョビ「いや……、あれは本当に悪かった。お前の家の事情に、私が口を出していいものではなかった」
チョビ「取り乱してしまって、こちらこそ悪かった」
まほ「……いや……、他人事なのに、あんなに真剣に物を言ってくれて、嬉しかったよ」
チョビ「…………」
まほ「…………」
まほ「……それで、進路は決まったか」
チョビ「……先日になって突然、黒森峰大からスポーツ特待の誘いが来た。……破格の待遇だったぞ」
まほ「すごいじゃないか」
チョビ「すごいよな」
まほ「では、決まりだな」
チョビ「何がだ」
まほ「破格というからには、きっと今までの5校より待遇が良かったんだろう」
まほ「それなら何を迷う必要がある。黒森峰に来い、一緒に戦車に乗ろう。お前となら、きっと楽しい戦車道ができる」
チョビ「……なあ、西住。試みに聞くが、」
まほ「なんだ」
チョビ「あの馬鹿みたいに待遇の良い特待は、お前がなにか関係しているのか」
まほ「さあ、なんの話だ」
チョビ「……西住」
まほ「…………」
まほ「……私はただ、西住の後継者が唯一恐れる女がアンツィオにいるという話を、何回か、何人かにしただけだ」
チョビ「…………」
チョビ「…………」
チョビ「そういうのは良くないぞ、西住。私でなければ腹を立てていたかもわからん」
まほ「……安斎。言っておくが、これは決してお前に情けをかけたとか、立場を利用して恩を売ろうとしているとか、そういうことではないんだ」
まほ「ただ単純にお前にそばにいてもらいたいだけなんだ」
まほ「お前と一緒に大学で戦車道をしたり、学生生活を送れたら楽しいだろうと、本当にそれだけなんだ……」
まほ「たしかに、お前には理解し辛いかもしれないが……、」
まほ「私はもう、そのために、手段を選べなかったんだよ」
まほ「もしかしてそれでお前の誇りを傷つけたのなら謝る」
まほ「……すまない……」
チョビ「……西住……」
チョビ「どうしてそんなに私に来てほしいんだ。聞かせてくれよ」
まほ「それは……、…………」
チョビ「…………」
まほ「…………」
チョビ「…………」
まほ「……すまない。来て早々で悪いが、今日は日が悪かったようだ。この埋め合わせは、またいずれする」
チョビ「西住、帰るな」
まほ「…………」
チョビ「西住」
まほ「…………」
チョビ「西住……」
まほ「…………」
チョビ「今日は私も一つ決心をしてここにきてるんだ。帰るなら私の用が済んでからにしてくれ」
まほ「決心とは……、何の決心だ」
チョビ「うん……」
チョビ「…………」
チョビ「…………」
チョビ「…………」
チョビ「西住。……お前に、結婚を前提に交際を申し込みたい」
チョビ「顔しか見たことないような、よく知らないような奴のところになんて行くな。そのくらいなら、偽装でも仮面でもいいから、私と結婚しろ」
チョビ「そうすれば、少なくとも見知ったやつと、何年も笑って喋ってたやつと一緒にいられるだろ」
チョビ「それで、せめてそのあとで本当に好きになった男性と結婚し直して、そこで義務を果たせ」
チョビ「同性婚は私たちが生まれる前から法律で許されているし、私とお前の付き合いや因縁は長い。言い訳はいくらでも立つだろう」
チョビ「もちろん、誓って、……うなづかないお前に触れることはない……」
チョビ「…………」
チョビ「……西住。私のために、自由でいてくれ」
まほ「…………」
まほ「…………」
まほ「安斎……」
チョビ「……ど、どうして笑うんだ」
まほ「……安斎。私がおかしな話をしたせいで、きっと混乱しているのだろう」
まほ「すまなかったな」
チョビ「いや……、違う、そうじゃない」
チョビ「私は本気なんだ」
まほ「そうなのか?」
チョビ「当たり前だ! 冗談でこんなこと言えるか!」
まほ「つまり、私が望まぬ結婚をするんじゃないかと、それで私が不幸な人生を歩むのではないかと、心配してくれているんだろう」
チョビ「そ、そうだ」
まほ「安斎、私は言っただろう。私はちゃんと、結婚した相手のことを好きになると」
まほ「だから、お前の想像しているようなことにはならない」
まほ「まだ誰になるのかも正式には決まっていないが……、私はちゃんと、結果的には好きな人と結ばれて、その人の子を成すんだ」
まほ「だから心配はいらないんだよ」
チョビ「違う、そうじゃなくて」
まほ「そうでないなら、何なんだ」
チョビ「ぐ、うう、う…………」
まほ「…………」
まほ「……安斎。同性婚というのは大変だ。法律では20年ほど前に認められ始めたが、未だに世間の風当たりは強いらしい」
まほ「隣近所で噂されたり、職場で嫌がらせを受けたりすることも未だあると聞くじゃないか」
まほ「お前はそんな結婚生活でいいのか?」
チョビ「私は大丈夫だ! そんな連中に負けたりしない」
まほ「では私はどうなる。私にくっついてくる、西住の名はどうなる」
チョビ「そんなの……、私が……」
まほ「…………」
チョビ「……そう言われると、私にはなにも言えなくなる……」
まほ「……だよな」
まほ「私もかなりずるい言い回しだと思うが、それが、今のこの国での結婚だ。所詮、そんな世の中だ」
まほ「納得したか」
チョビ「…………」
まほ「さっきのことは忘れた方がいいなら忘れるし、たまに思い出して、いつか酒の席ででもからかっていいならそうすることにするが、どうする」
チョビ「…………」
チョビ「いや……」
チョビ「……いや……、待て。順序が良くなかった」
チョビ「大事なことを確認しないまま話をしていた」
チョビ「もう一度話させてくれ」
まほ「うん……?」
チョビ「まず……西住。お前、一緒にいて、私が普通ではないと感じたことはないか」
まほ「…………。質問の意味がわかりかねるが、そういうことはない」
チョビ「だが、私は普通ではないんだ。この事がわかってからずっと誰にも言わないでいたから、これは家族も知らない」
チョビ「相談に乗ってくれた2人の後輩と、私をここまで導いた恩師だけだ」
チョビ「本当はお前にこそ知って欲しかったが、もしかしたらそれでお前が遠ざかってしまうのではないかと思うと怖くてできなかった」
チョビ「他の誰から嫌われてもそれは……嫌だったんだ」
まほ「……安斎。私はお前が何を言ってもお前から遠ざかることはないと思うが……」
まほ「私はそれが何かをまだ知らないし、今後気にすることも無い。だから、不安に耐えてまで言わなくてもいい」
まほ「人と人が仲良くするために、必ずしも全てを分かり合う必要はないんだ。言えないことがあってもいいんだ」
まほ「私にだって、安斎に言えないことくらい、いくつもあるんだ」
チョビ「……西住は優しいな……」
チョビ「……だがもうダメなんだ。私も、もう、私の欲しいものを手に入れるために方法を選んでいられないんだ」
チョビ「私は3年間、お前のことを恋愛対象として見てきた」
チョビ「西住、私はお前のことが好きだ。多分愛しているんだ。私と付き合ってくれ。……付き合ってください」
まほ「…………」
まほ「…………」
まほ「……そうか」
まほ「……安斎。それでは、お前は同性愛者なのか」
チョビ「そうだ」
まほ「私のことが好きなのか」
チョビ「そうだ」
まほ「……私は告白されたのか」
チョビ「そうだ………」
まほ「…………」
まほ「……つまり、話というのは、決心というのは、それなんだな」
チョビ「そうだ」
チョビ「……私は今日、お前を手に入れるために来たんだ」
まほ「…………」
チョビ「…………」
まほ「…………」
チョビ「…………」
まほ「……お前というやつは……」
チョビ「…………」
まほ「……いいだろう、こうなればもう仕方ない、恥も外聞もない……」
まほ「全部話してやろう、私がどういうつもりだったのか」
まほ「……お前が今何をしたのか」
まほ「こうなったら、もしかしたら、会えるのは今日が最後になるかもしれないからな」
チョビ「…………」
まほ「……私は西住の長女だ。西住の恩恵を受けて育ってきたし、それによって生じるあらゆる義務を果たしてきた」
まほ「それはこれからも変わらない。西住家が”後継者の後継者”を欲するなら、それも私の仕事の内だ」
まほ「だから私はそれを家元の望む方法で達成するつもりでいた」
まほ「だがそれと私の個人的な望みは別だ」
まほ「それが両立しないものだとしても、私は私の望んだものを手に入れることを諦めたりはしない」
まほ「西住の女なら当然そうだと思わないか」
まほ「だがいくつもの筋書きを考えたが、その中で一番現実的な方法はお前を愛人にして囲うことくらいだった」
まほ「将来、十分な経済力と余裕が手に入るころ、お前のことを全力で説得して、それでダメなら金と権力を使ってお前を捕まえるんだ。しかし、それはお前のプライドを傷つけるやり方かもしれないと思う。だから実行はまずできないと思う」
まほ「とにかく私はお前のことが欲しい、お前にそばにいて欲しいんだ」
まほ「辛いことがあればお前に抱き着きたいし、嬉しいことがあればやはりお前に抱き着きたい。抱きしめて欲しい」
まほ「私の性格や外面が災いして、結局今まで一度もそんなことすらできなかったが、そうしかけたことは何度もある」
まほ「お前に素敵な恋愛をしてほしいと言ったがあれは真っ赤な嘘で、本当はお前に恋愛などしてもらう気は全くない」
まほ「わかるか」
まほ「私はお前のことが好きなんだ、多分愛しているんだ」
まほ「おかげで普段ならやらないような突飛で支離滅裂な発想ばかりが頭を駆け巡って、お前と一緒になることばかりを考える」
まほ「何が西住流の後継者か、こうなればただの18歳の子供だ」
まほ「お前には私だけを見ていてほしい」
まほ「だが、現実はそうならない」
まほ「私はお前を愛することができない。それなら弱い私はせめてお前を遠ざけなくてはならない」
まほ「嘘でも、私と決別したお前の未来を望み、祝福してやらねばならない」
まほ「私はそうしようと思ったのに」
まほ「お前は」
まほ「お前というやつは」
チョビ「……つまり、お前は両性愛者なのか?」
まほ「そういうことにしないと私は男と結婚できなくなるが、本当は同性愛者だ。初恋もファーストキスも初体験も女性だ」
チョビ「……私と同じだな」
まほ「そうなのか……」
まほ「…………」
まほ「……お前とそこまで進んだ相手が憎らしいよ。いずれ必ず、名前を聞かせてもらおう」
チョビ「…………」
まほ「……さて」
まほ「安斎」
まほ「悪いが私は西住の名を捨てるつもりはない。これは私の持ち物なんだ。だから将来、どういう方法でか、私は子を成さなくてはならない。それもなるべく多く」
まほ「それと同時に、もう隠さないが、私はお前のことが好きだ、抱き締めてキスして、その先の先の先までしたい。お前としかしたくないし、お前には私以外とさせたくない」
まほ「この2つを満足させるために、お前と近い将来不倫をしたいと思っている」
まほ「まあ言ってみれば、これが私の選択しうる、お前の言うところの自由ということだ」
チョビ「……なんつー大胆なやつだ……」
まほ「これが西住流だ」
チョビ「ああ、いまのは冗談だとわかったぞ」
まほ「それで、どうする。……私の愛人になるか?」
チョビ「…………」
チョビ「私はお前のことが好きだ、お前がしたいというなら、先の先の先まで付き合うよ。……と思うよ。……いずれ」
チョビ「でもお前に適当な男と結婚してもらうのは嫌だ」
チョビ「そのくらいなら、私と結婚してほしいんだ」
まほ「…………」
まほ「分かって言っているのか。本当に大変だぞ、想像よりずっと重いものを背負うことになる」
まほ「何度でも繰り返すが、私は西住の名を捨てるつもりはない。これは私の持ち物なんだ。くっついて離れない。これは母に対する義理を果たすため、そして妹の自由を守るためでもある」
まほ「私と家族になるならば、お前にはそれらを私と一緒にそれを背負ってもらわなくてはならない」
まほ「他人が背負うにはどうしようもなく重いだろう。その覚悟がお前にあるのか」
まほ「現実的には、まず私の両親を説得しなければならない。これだけで並みの結婚50回分くらいは苦労するだろう」
まほ「仮に説得できたとしても、そのあと将来何とかして子供を何人か作るなり引き取るなりしなくてはならない。iSPなどの特殊不妊治療は実用化されて日が浅いし、金はかかるしリスクも心配だ」
まほ「そして、その後もきっと一生続く世間からの冷たい視線に一生耐え続けなくてはならない」
チョビ「…………」
チョビ「……そんなの、やってやるしかないだろ」
チョビ「私はお前を自分のものにしたいんだから、お前の持ち物や欲しいものは全部私のものでもあるんだ」
チョビ「そのために必要なことは、私の仕事の内なんだ」
まほ「……不倫相手なら、そんな大変な思いをさせなくても、一生養ってやれると思ったのにな……」
チョビ「……私はお前を誰かとシェアする気はないぞ」
まほ「…………」
まほ「……そうか」
まほ「では、決まりだな」
まほ「じゃあ安斎。まずは、恋人になろう」
まほ「大学では一緒に住もう」
まほ「大学を出たら結婚しよう」
まほ「そしたら養子をとるか、何とかして子供をたくさん作って、西住を盛り立てよう」
まほ「これからずっと一緒にいよう、安斎」
チョビ「……ああ、わかった。全部わかったよ、西住」
チョビ「…………」
チョビ「…………」
チョビ「…………」
チョビ「……あれ? 私が告白したのにどうしてお前が仕切る流れなんだ」
まほ「まあ、将来的にお前が西住の家に嫁ぐことになるのだし、仕方ないんじゃないか」
まほ「それにこういうものは生まれながらの性分というか、受け攻めというかタチネコというか」
チョビ「えっ」
まほ「ああ言葉はわかるんだな、まあ当然か」
まほ「ちょうどいい。今日は泊まりがけで来ているから、宿でじっくりお互いのことについて勉強しよう」
チョビ「勉強ってどういう意味だ!?」
まほ「大丈夫だ、私はどちらにでも合わせられる。安心して身を委ねろ。性の一致不一致は下手を打つと離婚自由にもなる大事なことだぞ、しっかりと意思疏通しなくてはな」グイグイ
チョビ「やめろ、おい、離せ!」
まほ「”私が親の金でとったちょっとだいぶいいホテルにたまたま近所のお前が遊びに来て話し疲れて寝てしまって偶然泊まってしまった”作戦だ」
チョビ「やめろお!!」
おわり
最後まで読んでくれた人ありがとう
結婚編は……?
>>70
すまん最近頭がパーなので何も思いつかぬ
思いついたら何か書く
まほチョビで見たかったものが全部ここにあった。ありがとう
>>73
喜んでもらえて嬉しい、ありがとう
妹は会長かワニあたりかな
乙
>>75
せっかく明言を避けたのでここでも伏せるけど大体その辺の想定、ありがとう
途中まで西さんと何故か勘違いしてた
>>77
えー誰を?
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