【咲安価】 京太郎「あの暑い夏をもう一度」 (13)

・見切り発車
・咲安価スレ、京太郎主人公
・闘牌あり
・恋愛要素あり
・シリアスではないが、ぬるま湯ではない
・たまに地の文あり

以上、許容できる方、よろしくお願いします。

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「いけると思ったんだけどなぁ…」

メガネのレンズを大雑把に払いながら、西田順子は呟いた。
桜の季節も真っただ中、ともに降り注ぐ花粉にいつも手を焼いていた。
視力を元に戻し、手に取るのは、昨年の麻雀誌やタブロイド紙。
「清澄。一人陥落」「初出場の奇跡もここまで」「大健闘、清澄高校ベスト4!」
どの紙面も、清澄高校の健闘を称える声、落胆する声、と反応は様々になる。

清澄高校麻雀部、昨年度の全国高校生麻雀選手権で、一躍有名校になった。
そもそも、長野県という県そのものが、「番狂わせ」で世間を賑わせてきた。
県下は風越一強―――――、長い間動かなかったその勢力図も、天江衣を擁する龍門渕高校がいとも簡単に書き換えた。

もちろん、簡単にというと語弊がある、そこにはそれなりのドラマが合った。
先鋒から副将まで綱渡り的な拮抗を風越と龍門渕が演じ、その末、池田華菜選手が天江衣に完膚なきまで叩きのめされる。
天江衣、その大器の輝きを、惜しげもなく見せつけたあの一戦は、メディアの間でも未だ語り継がれている。


「…こんなこと言っちゃいけないんですけど、勝ってほしかったですね」

となりにいるカメラマンが独り言のように呟く。
独り言にしては、随分に聞えよがしで、これまで貯めてきた不満を今こそ漏らすと決め込んだ腹だ。

「あそこで勝ってくれないと、何のために東京に行ったのか…」
「十分じゃない。あそこまで行ったんだから」
「優勝してなんぼでしょう? どれだけこっちは遠征費で文句言われたか…」
「大介君、だから…」
「そんなんだったら、最初から変な期待を―――――」
「…いい加減にしなさいっっ!」
「……」

怒鳴りつけて、上下関係の権威だけで物を聞かせる。
慣れない方法ではあるが、これ以上紡がせない、紡がせられない。
私たちは、メディアであると同時に、人であることを、忘れてはいないつもりだ。

「……一番悔しいのは、あの子たちなんだから」

優希「で、その続きはどうなんだじぇ?」

京太郎「話はこれで終わりだ」

優希「終わりかよ!!」

京太郎「終わりだじぇ」

優希「真似するな!」


俺は須賀京太郎、高校二年生。
季節は桜の季節が過ぎて、もう5月。放課後になって特にやることもなく、俺は優希と教室でしょうもない話で戯れる。
咲とも和とも教室は一番離れている俺らは、腐れ縁なのか、また同じクラスになっちまった。


京太郎「んー…そろそろ帰るか?」

優希「そうだな…」

京太郎「……」

優希「咲ちゃんとのどちゃんは?」

京太郎「…」

優希「…」

京太郎「…いいんじゃね、帰ろうぜ」


どれくらいの間だろうか、あの部屋には行ってない。
俺だけじゃない、きっと咲も和も、優希も、染谷先輩だってそうだ。
あれから牌に触ってない。と言ったって、元々、俺は「触ってた」だけだったけど。

優希との帰り道、何度かこちらを覗き込むように見ていたことに気が付いた。
チラチラと、何か言いたげな目。早く、お前だって何かいう事あるだろ。
このままじゃだめだと思ってるんだろ―――――――


「…なぁ、京太郎」
「…」
「京太郎!」
「な、なんだよ」


気が付いたら、横にあった顔が俺の正面に滑り込んだ。
斜めによけようする俺の思考の半歩前で、両手でガッチリ頬を固定された。
ひやりとした両手が、彼女の真剣さを訴えかけている気がする。


「私、明日から部室に行く」
「ふぇ?」
「今言ったとおりだ、私は部室に行くじぇ!!!」

喋ろうとしたが、口が圧迫されて上手く話せない。
女の子にほっぺを触られるという嬉しいはずのシチュエーションから早く脱したかった。

「ほ、ほりあえずほのてをはなせ…」
「あ、ごめんごめん―――――」

京太郎「で、なんだっけ?」

優希「こいつ……聞いてたくせに……」

京太郎「ほっぺが圧迫されると、脳が圧迫されるからな。忘れちまった」

優希「あ、京太郎馬鹿だもんなー」

京太郎「そっくりそのまま返すぜ、平和をへいわって呼んでた奴」

優希「ふん、三元牌のドラの順番覚えてないくせに」

京太郎「っ……ふ、フリテンで上がれなくて涙目になってた癖に!」

優希「そんな京太郎は、そもそも聴牌できないくせに」

京太郎「ぐっ、さ、咲に東一で飛ばされたことがある癖に!!」

優希「そもそも咲ちゃんに本気も出してもらえないくせにー」


ぐはっ………、こいつ、何時からこんなに返しが鋭くなった?
土手っ腹に、綺麗にストレートを決められて、息が詰まったように苦しい。
二年生になって―――いや、あの決勝戦団体から、ちょっと優希は変わった。

泣かなくなった。
弱音を吐かなくなった
強くなった。

いや、本質は変わってない、優希はきっと変わってない。
けど、思い出しても長かったあの夏が、小さな少女の包む何かを変えてしまったことには疑う余地がない。


京太郎「こ……降参だ。で、続きは?」

優希「話はこれで終わりだ」

京太郎「おい!!」


だから、続きは部室で。
そう言って、優希は俺の影をわざと踏んでから、駆け出して行った。






京太郎 基礎雀力

+1のコンマの下1桁

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