【ミリマス】杏奈「名も知らぬ誰かの呪い」 (43)


ミリマスSS
50もいかないで終わると思います。

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指輪を拾った。


誰のだろう。
時刻は午後10時を回って暗がりの中を杏奈はふらふらと家に帰っていた。
今日はなんて言ったって杏奈のバースデーだ。


百合子さんが企画してくれて、とっても楽しい一日だった。
事務所でやったテレビゲーム大会も、人狼ゲームも楽しかった。
やっぱり紗代子さんは強かった。




杏奈はすぐに顔に出ちゃうから、ああいうのは向いてない。
でも楽しかった。


楽しい時間はあっという間に終わる。
もうすっかり遅くなって……。
まだギリギリ5月だって言うのにすっかり蒸し暑くなって梅雨の季節がやってくる。

暗い路地、街頭の明かりの下でキラリと光る”それ”を見つけてしまった。




今日はやったゲームでもドロップするアイテムを拾ったりなんてするゲームも
多少あったし、それに何よりも今はとても気分がいい。


だから。


だから杏奈はそれを拾ってしまった。



薄暗い街頭の灯りを頼りに、指輪の裏側を見る。
誰の名前も書いてないように見える。
とにかく、この場所じゃあ暗くて分からない。


家に帰ってちゃんと名前を確認して、それで……
警察に届ければいいか。



そんな風に簡単に考えていた。




杏奈は指輪をポケットにはしまわず、
なんとなく装備して家に帰っていった。

ポケットにしまうとまた落として亡くしてしまいそうで。
二度もなくされるなんてこの指輪もかわいそうだろうし。なんてね。


指を入れた時、すっと入った。

杏奈の指が小さいし細いからこの指輪はすんなりと入った。



ご機嫌で指輪も手に入れた杏奈はもうオフモードなのに
ちょっと小さめのスキップなんかして、るんるんで帰ってきた。


もう夜の10時だから当然の家は当然なのかもしれないけれど、
自宅には明かりがついていなかった。
いつもはこの時間は家にいるはずのお母さんもいないのかな。


杏奈が夜遅くなるって分かってたからどこかに外食にでも出かけたのかもしれない。



「……ただいま。お母さん?」


しーん。


返事はなかった。やっぱり外食に出かけたんだ。
それじゃあLINEでも入れておこうかな。



LINEでお母さんに「今帰ってきたよ。いつ帰ってくるの?」


ギシ……


玄関に座って靴を脱いでいた時、杏奈の背後、奥の部屋へと伸びる廊下を歩く音がする。



「お母さん?」


杏奈がくるっと振り向くと、誰もいない廊下がそこに。
なんか……いつもよりも廊下が暗く感じる。



廊下の奥に微かな明かりがつくのが見える。

「……?」


よく聞くと何かの音も聞こえる。
なんだろう……この変な音。

ザーって。





真っ暗な廊下の中を壁伝いに進む。
どうして自分の家なのに……まるで初めて入る家のような。


リビングに入ると、真っ暗な部屋の中でテレビが着いていた。
音量が最大になっていたが、映っていたのは砂嵐。





ザザ―――― ザ ザ―――



「……なんでつけっぱなし?」




リモコン、どこだろう。と思い杏奈は普段通りにリビングの部屋の電気をつける。
パッと明かりはつき、その部屋の明るさが戻ったことに杏奈はホッとしていた。


が、しかし、次の瞬間には

プツン!

と電気は消えてまた真っ暗の部屋になった。



「……っ!」


な、なにこれ。
どうなってるんだろう。


でも今の一瞬の明かりでリモコンの場所は分かった。
手探りであった場所に向かいテレビのリモコンを手に取る。


ザザ―― 






砂嵐がうるさいテレビのチャンネルを変えようとボタンを押すも変わらない。
電源のボタンを押しても変わらない。

「あれ……なんで」


昨日までは普通にテレビも見れてたのに。




パッ、とついたのはモノクロの映像だった。
頭巾をかぶった古い……日本人の女性が映ってる。

ゆっくりとした一言一言を伸ばすような歌い方の
歌が聞こえてくる。


歴史の授業の時間に映像で見せられたことがある。
戦時下の時の昭和の歌謡曲だ……。



真っ暗の部屋に
昔のレコード特有のぷつぷつとした飛ぶ音と
女性の喉を閉めたような歌が不気味に響く。

もしかしたらそういう特集なのかと思ったけど、
いつまで経っても終わらない……。


「……ッ」


杏奈は急いでテレビまで向かってコンセントを引っこ抜いた。
それでやっとテレビは消えた。





パタパタパタ……


コンセントを抜いて立ち上がった時、
小さい子供の駆け回る足音が背後でする。


この時、杏奈は分かってしまった。



もしかして杏奈、怪奇現象にあってない?



正直、杏奈、まじで怖い。ほんとうに怖い。
でも、これきっとちゃんと体験し終わったらすごいネタになる。

どこで発表するのかも未だに謎だけど。


杏奈この話しで引っ張りだこになっちゃう。


ジャーーーーーーー!!!


リビングに併設されるキッチンの水が流れ出す。



「ひぃぃい……!!」


手持ちのスマホのライトを頼りに
キッチンまで行き水を止める。


やっぱり怖い……。




キッチンを見ると……


そこには作りかけの晩御飯があった。
この晩御飯のメニューは……餃子だろうか。
作りかけの挽き肉と中途半端にフライパンの上に並べられた餃子がある。


途中でどこかへでかけた?
……そんなことするの?



「……痛っ!」




手に痛みが走る。
何も触っていないのに。手には持っているスマホだけ、なはずなのに。
人差し指の付け根から切ったような傷が。


血がつーっと流れる。
指輪は逆の指につけているのに、なんで?
ぎゅうっと締め付けられるような痛みがある。



ガタガタッ……


上の階から音がする。
リビングはぞっとするくらいの、冷房もつけてないのに寒気がする。
フローリングは冷蔵庫で冷やしたような冷たさがある。


杏奈の選択肢としては別に上の階に行かなくても
このまま逃げて誰かの家に転がり込むのもあり。



何でホラー番組みたいな再現ドラマの人たちはわざわざ
それを見に確認しに行くのだろうか……。
逃げちゃえばいいのに。

自分がまさに今その当事者となっている訳だが、
その答えがやっと分かる。
気になってしょうがないんだ。

というか対峙する相手がどのようなものか確認する必要があるんだと思う。
だから杏奈は決めた。


「よし、逃げよう」



リビングを出る。
ふと、開けた瞬間だろうか……誰かが階段の方に消えた気がする。
白い……ぼやっとした何か。

でも何となく分かる。
女性だった。




「……誰」


オフモードよりももっと小さい声を絞り出す。
暗い廊下をゆっくりと歩くもどこまでも伸びているような静けさ。


意を決して階段の上を見上げる。
誰もいないいつもの自宅の二階の風景。



「……だ、誰かいるの」


もちろん返事はない。
逃げたい。でも確認しないとこれ帰ってきたお母さんが同じ目にあったら
きっと腰抜かして大変なことになりそう……。


超逃げたい。

すごいいやだ。


杏奈は階段をゆっくりと登っていく。



ギシ……ギシ……


いつもは気にならない階段のきしむ音がやけに大きく聞こえる。
手すりを掴む力がより強くなる。
同時に手汗も吹き出る。




足を掴まれた。








「いやあああああああああ!!」




足首の辺りをガッ!!!
と捕まれ階段下まで引きずり降ろされるかと思うくらいの勢いで引っ張られる。。


下なんて絶対見れない!!


もう一方の足で必死に足を掴む手を蹴飛ばして振りほどく。
パッっと離れた瞬間、杏奈は大急ぎで二階にある自分の部屋で猛ダッシュで逃げ込む。




ダダダダッ

ガチャ!

バタン!


「……はぁ、はぁ」


な、なんなの。

鍵を閉めて、ドアに寄りかかりながらずるずると腰が落ちていく。



手持ちのスマホで誰かに連絡しなくちゃ、と思ってパッと開くも
電波は入っていない。……。


普段は絶対に入っているはずの部屋の電波も入っていない。
家についているはずのWi-Fiも壊れてるのか反応しない。

スマホを持ったまま、どうにかこの状況を脱却しないと……
お母さんはどこに行ったの……。



立ち上がろうと床に手をついた時、何かに触れた。
下を見るとドアの隙間からは長い髪の毛が侵入してきていた。

「……っっ!!」

ドアからバッと離れるが、
外から開けられないはずの部屋のドアの鍵が
ゆっくりと回っていくのが見える。


「!?」



杏奈はすぐにドアノブじゃなくて鍵をぎゅっっと握りしめて動かないようにした。
下からはうねうねと髪の毛が入ってくるのを泣き叫びながら踏みつけて攻撃する。
全然効かない。


「ひぃ……はぁっ!はぁ……!やだ……」


次第に鍵の廻る力が強くなる。
鍵が突破されてもないのに部屋のドアノブが下がり始める。



ドンドンドンドン!!!

ドンドンドン!!!


ドアが壊れんばかりの叩く衝撃に
ドアノブを抑える手も、鍵を握る指も痛くてしょうがない。



「やだ……! やだやだ!! 来ないでええええ!!!」


カエシテ……


暗く低い声がドアの奥から聞こえる。



「……はぁ、はぁ……! 」


杏奈は不意にぎゅっ痛く締め付けられる指輪を外した。
指にはくっきりとあとが残り青くアザになっていた。


指輪をドアの隙間から外に滑らせるように投げる。



「はぁ……!か、返した!! これでいいでしょ!! ハァ……! ハァ……」




それからは髪の毛もずるずると引いていき、部屋の鍵とドアノブにかかる
重力もなくなった……。


「ハァ……ハァー」



月明かり刺す部屋の明かりがふっと暗くなる。
外のカーテンの隙間からは女がにたっと笑ってこちらを見ていた。



杏奈が気を失ったあと
お母さんは帰ってきて、すぐに杏奈を呼びにきた。

廊下中知らない濡れた長い髪の毛だらけになっていた。
部屋の扉の前に投げた指輪はそこにはなかった。


でも、
杏奈の指にも掴まれた足にも、青いアザが残ったままだった。


おわり


お疲れ様です。すみませんでした。
杏奈ちゃん生誕記念SSです。祝う気がなさそうに見えてとってもお祝いするのに
あんな呪いやこんな呪いがかけつけてゴーストさんたちだいしゅうごうだ わいわい でした。


普段は日刊でアホみたいな話しか書いてません。
こちらもよろしくお願いします。
【ミリマス】恵美「Pと兄貴と妹馬鹿」
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