女(28)「しますか? 結婚」(68)
男「最近どうなん」
女「んー、まぁ仕事が大変です」
男「ほんまか。頑張ってるんやなぁ」
女「まぁ私よりしんどい人多いし」
男「そんなもん?」
女「ですね」
男「……あー、働きたくねぇ」
女「もう就活しなくなって何年ですか」
男「それ聞く?」
男「まぁ今日は俺のおごりや。食ってくれや」
女「割り勘じゃないと嫌です」
男「いつになったらおごらせてくれるん」
女「ていうか収入ないでしょ」
男「貯金はある」
女「……」ハァ
男「分かったわかった割り勘な割り勘」
女「おごられた瞬間絶交します」
男「ニートなのに絶交はせんのか」
女「それは……」
男「相変わらず変わっとるわ」
女「先輩にだけは言われたくないですね」
男「確かになwww」
男「職場の雰囲気はどうなん」
女「意外と飲み会とか多くて疲れます」
男「ああ、意外とアットホームやねんな」
女「それは危ない」
男「なんて言うんじゃあ」
女「うぇーい系?」
男「懐かしい」
女「先輩はぼっち系でしょ」
男「系ってなに系って」
女「じゃあぼっち」
男「えー。女がおるやんか」
女「……そういうのずるい」
男「え?」
女「何でもないです」
男「でもまぁ女は酒強いからええやんか」
女「別に強くない」
男「俺なんかこないだ350の缶無理やったわ」
女「それは笑う」
男「え、どうなん飲み会の帰りとかに声かけられたりせんの」
女「声って?」
男(下ネタが苦手な女にどこまで攻めるか……行くか?)
▶Yes
No
男「お持ち帰り……とか」
女「……酒なんて百害あって一利なしです」
男(……ちっ)
男「はー。まぁ俺も彼女ほしいなとかは思うけどね」
女「何のアピール?」
男「いや、俺よくなんにも興味ないように見えるって言われるからさ。あるんやでっていう」
女「それをあたしに言ってどうするん」
男「特に意味はない」
女「やっぱ先輩の方がおかしいわ」
男「そう?」
女「だいたい先輩は二次元派でしょ」
男「んー、ああそれなぁ。最近考えたんやけど、俺やっぱどう頑張っても『にわか』やわ」
女「『にわか』って?」
男「しったか的な」
女「先輩しったかなんですか」
男「しったかとは違うんかなぁ、知らんけど」
女「知らんのかい」
男「でもまぁ詳しくないしなー。好きな作品はあるけど」
女「どんな作品が好きなんですか」
男「暗い奴」
女「前言ってた女子高生が殺されるやつ書きました?」
男「あー、進んでない」
女「新人賞出す言ってたやないですか」
男「出すよ出す」
女「ほんま?」
男「ほんまやで」
男「今日は楽しかったわ。ありがとう」
女「こちらこそ」
男「また遊ぼうな」
女「はい。今から帰って何するんですか」
男「えー? 友達と電話かな」
女「またネットの人?」
男「……なに?」
女「いえ。あんまりのめりこみすぎると危ないですよ」
男「知っとる」
女「それじゃあ、また」
友「おう。帰ってきたか」
男「うん」
友「どこまでいったん」
男「別になんも」
友「はぁー、いくじなし」
男「はぁ?」
友「一生童貞やぞそんなんやったら」
男「お前のこと小説に書いてもいい?」
友「最強にして」
男「ラノベじゃない」
友「え、なに、凶悪殺人犯?」
男「そっちでもない。日常系」
友「じゃあ日常系最強で」
男「意味不明」
友「かいとんの」
男「まぁね」
友「いろいろ手ェ出してどれも完結せんのやろ?」
男「なかなかに痛いところを突くな」
友「そんなもんやろ人生」
男「確かに」
男「人生ってなんなん」
友「俺も知らん」
男「最近あれ聴いてるわハウルの」
友「ああ」
男「あれが人生?」
友「それもまた一理やな」
『その瞬間、私の眼前に銀色の鋭利なものが突き立てられた、それがナイフと気づくまで、時間はかからなかった』
男「いやでもこんなん、人殺したことないしわからんな」
友「いや、殺したことあるよ」
男「あるんか」
友「人は無自覚にな、誰かを殺しとるんや」
男「そんなもん?」
友「そんなもんや」
友「いまいくつ?」
男「29」
友「おっほwww やっばいなー」
男「友いくつだっけ」
友「いっこ上」
男「お前もやばいな。医学部受験はかどってんの?」
友「女あさりに忙しい」
男「さいてー」
男「……」カチッ
男「……」カチッ
男「お、未経験歓迎……」
友「いい求人あったか?」
男「うーん、営業……あ」
『応募条件 30歳以下の方 ※長期雇用によるキャリア育成を図るため』
男「童貞だの魔法使いだのどうでもいいんだ」
男「こっちは笑えないもんなぁ」
友「ん? なに」
男「いや」
友「働かなくてもいいんやで」
男「そういうわけには……」
友「親もいる、貯蓄もある。なんでわざわざしんどい思いをしなくちゃいけないのか」
男「勤労は義務じゃん」
友「お前は義務だから働くのか? 違うだろ? 自分の生活のためだろ? 誰だってそうだ」
男「……」
友「それが保証されてるなら、働かなくたっていい」
男「保証なんてされてない」
男(両親ともにもうすぐ還暦を迎える)
友「されてるやん。で、金なくなったら親からせびれ」
男「……どうしてそこまで?」
友「ん?」
男「浪人何年目なん? 普通、何年もしてたら見切りつけて就活するやろ」
友「お前が俺を責めるのか?」
男「いや、そういうつもりじゃないけど……」
友「恨んでる、って言ったら笑う?」フフッ
男「え?」
友「恨んでる節があるかもしれない、親を」
男「ああ」
男(俺かと思った)
友「別に確たる何かがあったってわけじゃないんだ。普段の言動とか、接し方とか――どうでもいいようなことで確執は深まるもんさ」
男「うーん……」
友「俺はいつか医学部に合格する。そして親や、ガッコの先生や、社会を見返す」
\ゴハンヨー/
男「すまん、飯呼ばれたわ」
友「おう、またな」
男「……」
友「はよ切れよwww」
男「今度オフ会しようや」
友「受かったらな」
男「一生無理やんけ」
友「うっせ」
母「誰と話しとったん」
男「……友達」
母「友達なんておったん」
男「……飯、ありがとう」
母「いいえー」
『きょう未明、大阪府――で、自宅に住む――さん夫婦が何物かに刃物で刺され、病院に運ばれましたが、死亡しました』
『犯人は未だ逃走中とのことで、警視庁は行方を調査しています』
母「物騒ねえ」
男「……ああ」
男(社会を見返す、か……)
男(見返す価値なんてあるのか? いや、ないからこそ――)
男「」カチッ
男「」カチッ
男(転職サイト――こんなんで就職できるのか?)
男(ハロワの方がいいのか? いや、友人の紹介――)
男(親のコネ――)
男(父親は俺を見限っているだろう)
男(なんで、いつからこうなったのかなぁ)
男「」カチッ
『1時間4万円~! 好みのアノ娘が待ってます☆!』
男(1時間4万円って高くね?)
男(あ、この子好みだな……)
男(生活が保障されている、か)
男(でも例えば、あんなふうに急に殺されでもしたら――)
『20XX年 サスペンス部門新人賞』
男「全然書いてねぇや」
男(なぜ俺はサスペンスを、それも探偵要素のないサイコサスペンスを書くのか)
男(それは多分俺自身が、)
男(あの犯人と変わりないからだ)
ボーイ「ああ、その娘ですね。いまちょうど――空いてます」
男「じゃあよろしくお願いします」
ボーイ「はい。フロントまで嬢が迎えに来ますから。お金は終わった後、その子に渡してください」
男「はい」
ボーイ「あ、来ました」
嬢「こんばんは~!」
男(かわいい)
男「よ、よろしくお願いします」
嬢「じゃあいこっか」スッ
男(手、繋ぐのか?)
嬢「恋人繋ぎ、しよ?」
男(恋人……)スッ
男(恋人ってなんや)
嬢「♪」ギュ
男(あ……)
チン
嬢「4階だよ」
男「はい」
嬢「はい? ふふ、リラックスして」チュ
男「あ」サッ
嬢「? なんで避けるの?」
男「あ、そういうのは……」
嬢「キス嫌なの? じゃあ」チン
男「違うんだ」
嬢「何が違うの?」
男「抱きに来たわけじゃない」
嬢「は?」
男(やっぱおかしいよな)
嬢「行く? 行かない? エレベーター閉まっちゃう」
男(ほんとに俺は何しに来たんだろう)
男「行きます」
嬢「嬉しい♪」
男(帰ってもいいような気がした)
嬢「ここ来るの初めてでしょ?」
男(俺はこのかわいい女の子に何を求めているのか)
嬢「シャワー一緒に浴びる? 先行く?」
男(性的な慰め? 精神的な慰め?)
嬢「ねえ、聞いてる?」
男(違う、見下しに来たんだ)
嬢「ねえってばぁ」ムギュ
男(体を売ってお金を稼ごうとする女を)
少ないけどここまで
また明日更新します
嬢「もー、お兄さん全然話聞いてくれない」
男「おじさんやけど」
嬢「ばかだなー、営業トークだよぉ」
男「ああ」
男(馬鹿正直な子だな)
嬢「馬鹿正直にそんなこと言う? って思ったんでしょ」
男「え、あ、いや」
嬢「だってお兄さん変な人だし、別にいいかなって。危険な人ではなさそう」
男「危険な人って?」
嬢「……そろそろ来てるかもね」
男「え?」
嬢「ほんとに抱かないの?」
男「ああ」
嬢「じゃあお話ししよっか」
男「話?」
嬢「何か話したいことがあるんでしょ? でなきゃわざわざお店まで来ない」
男「ああ……」
嬢「それとも、ほんとに何もしないでお金くれるつもり?」
男「話すよ。聞いてほしいことがあるんだけどさ……」
嬢「うん」
友「風俗行ったぁ!?」
男「ああ」
友「おお、ついにか。で、どうだったん初体験は」
男「何もしてない」
友「は?」
男「何もしない」
友「ガチで?」
男「ガチ」
友「……いくらしたん」
男「だいたい4万くらい」
友「いやさすがにアホwww え? マジ? え!?」
男「だいたい、初体験がどうこうってのは俺より友の方が知ってるだろ」
友「ああ……」
男「どうなの」
友「どうって……まぁ気持ちよさだけならオナニーの方がええな」
男「マジ?」
友「まぁそういうのって、相手を満足させるためみたいなところがあるからなぁ」
男「なるほどなぁ」
友「しんみりすんなwww」
男(ああいう人もいるんだなぁ)
――
男「楽しかったよ」
嬢「嘘でしょ」
男「聞いてもらえて安心した」
嬢「まぁ気が向いたら来れば? 抱きに来てもいいんだし。てゆーかそういう場所だし」
男「ああ」
嬢「! 静かに」
サングラス「嬢出せって言ってんだろォ!!」
ボーイ「ですから彼女は今他のお客様の対応中で……あ」
男「なにあれ」
嬢「しゃべらないで。裏口から出て。ボーイに案内させる」コソ
男「え?」
サングラス「嬢ちゃ~ん!! 待ってたよぉ!! なんでさっきいなかったの? ボクのことだけが好きなんじゃなかったの? ねぇ? ねぇ? そうなんだよねぇ!!」ズイ
嬢「あー! サングラスさぁん♪ 来てくれたんですね♪ ありがとう~!!」
サングラス「答えろよ」
嬢「ん? 行こっか♪」
サングラス「答えろつってんだよぉ!!」ドンッ
ボーイ「男さんですね。本日はありがとうございました。大変恐れ入りますが、倉口の方へご案内しますので、こちらへ……」スッ
男「え、でもあの子は」
ボーイ「大丈夫です。それよりこっちへ」
――
男(振り向きざまに俺が見たのは、彼女のウインクだった)
男(最初ボーイにしたものだと思っていた。けどあれは、俺にだったのか?)
男(また来てね、って、)
男(そういう意味?)
今日はここまで
次回更新は未定です
友「あーでもほんと馬鹿だなぁ。4万も支払ったのに何もしないなんて」
男「いや、俺は収穫あったと思うよ」
友「何もせずに帰ったのに?」
男「うん」
友「本当、お前は変わったやつやな」
男(あの時……)
――
嬢「なに? 聞いてほしい事って?」
男「俺、ずっと働いてないんだ」
嬢「……そうなんだ」
男「……驚かないんだ」
嬢「まぁ、そういう人多いよ。ここに来る人は」
男「金とかどうなってるんだろうな」
嬢「知らないよ、それは」
嬢「でもそれって、甘えてるんじゃないの?」
男「え?」
嬢「仕事ってさ、いやもちろん私は『普通の』仕事は分からないけど――どの仕事もきついと思うよ。それをさ、みんな一生懸命やってる訳じゃん。それはやっぱ、どんなに暗い世界にいてもやらなきゃいけないことだと思う」
男「暗い、世界?」
嬢「これは私の勝手な解釈かもしれないけど、仮に私たちの住む場所が『暗い』場所だとしても――仕事は全うしなきゃ。もちろん人には言えない理由で稼いでる子もいるし、ちょっとおつむが足りない子もいるけど」
嬢「私は、たとえオジサンたちが蔑んだ目で私を見ようと、精いっぱいのおもてなしはしたい。それが私の、仕事だから」
男「……ごめん、そのおもてなしを断るようなことして」
嬢「そう思うんなら、また来てよ。別に、そういうのを強要するわけじゃないから。お互い話して楽になるなら、それでいいじゃん」
男「君は、俺と話して楽になったの」
彼女は、返事のかわりに、俺の頬にキスをした。
嬢「頑張って。君には見込みがある」
男「何の見込み?」
嬢「いつか自分で気づくよ」
少ないけどここまで
次回更新は月曜日の予定
某日 本屋
男「……」
『合格者はこう答えた! 必勝面接対策20XX』
男「……」スッ
男「……」ペラ
『面接は本来楽しいもの!』
男「面接は本来楽しいもの……あほくさ」
男「人生は……」
男(本気じゃない、棚に戻すのが面倒なだけ)
男「……」
店員「こちらどうぞー」
男(例えば、この店員)
店員ピッ「一点で1300円になります!」
男(こいつと同じことを、俺はできるか?)
店員「1300円ちょうどお預かりいたします!」
男(声をかけ、商品を通し、金を数え、受け取り、そして間違いの無いようお釣りを渡す)
店員「ブックカバーはどうされますか?」
男(無理だ。俺には無理だ。全てが怖い)
店員「あの、お客様?」
男(理由とか対処法とか、そんな具体的なものなんかない。ただ漠然と、怖いんだ)
男(こんなものが怖いなんて思っている俺が怖い)
男「あ、いら、ないです」
店員「ありがとうございました!」ニッコリ
男(営業スマイル怖い)
公園
男「なんて言ってる間に29だよ」
ブランコ「……」
男「怖い怖いって、俺が一番怖いよな」
滑り台「……」
男「話し相手いなくて、一人で話してるんだもんな」
ベンチ「……」
男「通報されるよな」
コーヒーカップ「……」
男「なあ!」ゲシッ
ブランコ「……」
男「なんとか言えよ!」ゲシゲシッ
滑り台「……」
男「誰かなんとか言えよ!」
男「あほくさ」
男「なーにが面接は楽しい、だ」
男「だったら一生面接してろ」
男「お前たちに俺の何がわかる」
男「たった20分の面接で、お前に俺の29年の何がわかる」
男「大した中身じゃない、だけど29年だ」
男「そうだろ?」
男「そうだろ?」
おっさん「あんた、大丈夫かい」
男「あっ」
男(聞かれたか?)
おっさん「最近物騒だからねえ。ほら、テレビでやってたろう、行方不明の殺人犯」
男「ああ……」
おっさん「この辺をうろついてるらしいよ。用がないなら早く帰りな」
男「すんません」ザッザッ
おっさん「あ、そうそう」
男「はい?」
おっさん「ABC殺人事件、って知ってるかい」
男「アガサ・クリスティ?」
おっさん「アレの真似し始めたらしいよ」
男「誰が」
おっさん「殺人犯」
男「嘘でしょ」
おっさん「テレビでやってたよ。最初に殺した夫婦は阿川さん。奥さんの旧姓馬場」
男「Cから始まる苗字なんてない」
おっさん「どうとでも取れるさ。チヒロさんとか、チエコさんとかね。外国人かもしれない」
男「なんでそんなにしゃべるんや」
おっさん「クク、僕が犯人かと思ったかい?まさか」
おっさん「ネットは何でも教えてくれる」
男「ネット……ガセだろ」
おっさん「反転世界では闇が真実さ」
男(何言ってんだ……)スタスタ
おっさん「あ、そうそう。僕の名前はクスノキさ。死んだらよろしく。君は?」
男「……」
男「……ヤマモト」
男(みんな最初は同じだったはずだ)
男(母親のお腹から生まれ)
男(のびのびと育ち)
男(世の中のことを何も知らないまま)
男(無垢なことを恥だとすら思わないまま)
男(みんな平等に、甘い匂いのする教室で勉強してたはずだ)
男(なのに、何だこれは)
男(何だ、これは?)
???「おい、救急車!」
???「警察が先よ!!」
???「今の、見えたか?」
???「犯人はどこに行った!?」
???「まだそう遠くへはいってないはずだ」
男(あ)
男(そういや俺帝王切開だったわ)
男「最初から負け組か、はは」
俺は、アスファルトに転がる死体を見ながら、そうひとりごちた。
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