ゲンドウ「久しぶりだな、シンジ」【2スレ目】 (233)

このスレは

ゲンドウ「久しぶりだな、シンジ」

の続きです


新劇をベースにしてますが、テレビ版設定やオリジナル設定、オリジナル解釈も多少入ってます


『前スレのあらすじ』

ネルフが腐ってて
シンジがひどい目に遭って
レイがシンジを追い出そうとして
第五使徒が殲滅されて
ゲンドウが良い人

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1375790215

ー 戦略自衛隊駐屯所 応接室 ー


曽根「よう、碇君。まさか君の方から訪ねて来るとは思ってなかったからびっくりしたよ」

シンジ「その……すみません。突然訪ねて来ちゃって」

曽根「構わない、構わない。なにせこっちから訪ねようと思ってたぐらいだからな。丁度良かったよ」

木田「俺たちも、君の事が気になってたからな。袖すり合うも他生の縁と言うし。それに、この前、使徒がまた来たから尚更だ」

曽根「とりあえず、先にお礼を言わせてくれ。またエヴァに乗ってくれてありがとう。それだけでも俺たちにとってはありがたい」

木田「よく逃げずに乗ってくれたよ。おまけに使徒も倒してくれて。本当にありがとう」

シンジ「………………」フイッ……

シンジ「……その…………すみません…………」


曽根「どうした? 急に浮かない顔して?」

シンジ「だって……街が……メチャクチャになったから…………」

木田「ああ……そうか。だが……それは君が気にする事じゃない。あれは使徒がやった事だ」

シンジ「でも……僕…………」

シンジ「本当は…………本当は…………」ツー……

シンジ「お礼とか……言われるような事なんて……」ポロポロ……


曽根「…………何か訳ありのようだな。俺たちで良かったら話を聞くぞ?」

木田「話すだけでも、気は紛れるものだ。それに、少なくとも俺たちは君より十年近くも生きてる。何か力になれる事もあるかもしれない」

曽根「亀の甲より年の功ってやつだな。そう言う程、俺たちも生きてはいないが……。ま、話してみなよ。話すだけでも、楽になるもんだぜ」

シンジ「……はい…………」ゴシゴシ……

ー 全ての事情説明後 ー


曽根「なるほどね……。一度逃げ出した事を気にしてるのか……」

木田「気休めを言う訳ではないが、君ぐらいの年齢ならその選択は当然の事だと思うが。俺たちだって同じ立場だったらきっと逃げてるだろう」

曽根「街に関しても君が責任を感じる事じゃない。全ての責任は使徒とネルフにあるからな」

木田「君はよくやってくれてるよ。俺たちの想像以上に。使徒を二体も倒してる訳だからな」

シンジ「でも…………」ゴシゴシ……

曽根「まあ、そこら辺は気にしない方がいい。少なくとも君の責任じゃあないさ。それよりも、問題はネルフの方だな……。まさかそこまで非道いところとは…………」

木田「俺たちが考えていた以上に、ろくでもないところだったみたいだな。……それについては深く同情するよ」

曽根「……個人的には、君はもう逃げてもいいと思うんだが、それはしたくないという事なんだよな? 綾波レイの為に」

シンジ「為と言うより……僕の責任ですから……」

木田「……君の責任、と言うのもまた違うとは思うが……。しかし、行くも叶わず、退くも叶わずという状況だな。ずいぶんと難しい」

シンジ「どうすればいいでしょうか、僕……」

曽根「そうだな…………とりあえず君のお父さんに頼んでみるのが一番だろう。外国に行ってるとは言え、電話は出来るはずだ。親の七光りと言われるかも知れんが、この際、手段はどうでもいいだろ?」

シンジ「あ……でも……。携帯、僕、壊しちゃったから……」

木田「番号は覚えてるかい?」

シンジ「えと……はい」コクン

木田「それならここから少し行ったところに喫茶店がある。そこは使徒の襲撃を受けてないから無事だ。そこの公衆電話を使うといい。俺の携帯を貸してもいいんだが、知らない番号からだとまず出てくれないだろうからな」

シンジ「あ……でも……その…………」

曽根「ん……? ああ、そうか。君一人でこんな時間に喫茶店に入る訳にはいかないか。ちょっと待ってろ。隊長に掛け合って、少しだけ時間をもらってくるから」

シンジ「あ……あの……えと……それもあるんですけど……その……」

木田「……? ひょっとして電話をかけるお金がないとかか? それぐらいなら出してあげるが……」

シンジ「え……でも…………それは悪いです……」

曽根「気にするな。前も言ったが、これは親切の押し売りってやつだ。俺たちがそうしたいんだから、君が遠慮する理由なんてないさ」

木田「じゃあ、少しだけここで待っててくれ。すぐに戻って来るから」

シンジ「あ……あの…………」

曽根「ん?」

シンジ「二人とも、本当にありがとうございます」ペコリ

曽根「気にすんなって」ニコッ

木田「大した事じゃないさ」ポンッ

ー 喫茶店 ー


カランコロン……


木田「そこの奥の席にするか。あそこなら誰にも話は聞かれないしな」

曽根「そうだな。碇君はそっち側に座りなよ」ストン

シンジ「あ、はい……」ストン

木田「……」ストン


曽根「……さてと。ところで、碇君、君、お腹は空いてないか? 折角だからついでに軽く何か食べてかないか?」

シンジ「あ……でも……」

木田「遠慮はする事ないさ。それに俺たちも食べたい」

シンジ「えと……じゃあ……あの……お願いします」

曽根「OK。サンドイッチでいいかい? あんまりがっつりって気分でもないだろうからな」

シンジ「はい。ありがとうございます」ペコリ……

木田「じゃあ、それとコーヒー二つにするか。君はオレンジジュースでいいか?」

シンジ「はい。すみません、何から何まで……」

曽根「ま、それはもう言いっこなしにしとこうか。それより、先に電話してくるといいよ。これ、テレカ。使ってくれ」

木田「不安事は先に片付けた方がいいからな。話してる間に俺たちは注文しておく」

シンジ「あ……はい!」ガタッ


シンジ「」トコトコ……





曽根「……上手くいくといいけどな」

木田「……そうだな」

ー 数分後 ー


シンジ「」トボトボ……

シンジ「」ストン……

シンジ「…………」


曽根「……その、駄目だったのか?」

シンジ「電話が繋がらなかったんです。それでネルフの方に電話したら、父さん、どうも南極に行っているみたいで……電波が届かないとかそんな事を言われました……」

木田「いつ帰ってくるかは聞いたのかい?」

シンジ「聞きましたけど……いつになるかわからないそうです。ただ、最低でも一週間以上はかかるだろうって……」

曽根「……参ったな。その一週間か二週間の間に使徒が攻めてきたらアウトって事か……」

木田「綾波レイが怪我したまま出撃する、という事になるな。もっとも、それはこの五日間の間もそうだったんだろうが……」

シンジ「僕……本当にどうすれば……」シュン……

シンジ「…………」ハァ……

曽根「ん…………」

木田「…………」


曽根「碇君……あまり気は進まないが、他の手もある事はあるぞ……」

シンジ「え! ホントですか!?」パアッ

曽根「ああ、ただ……」チラッ……

木田「……後々、面倒な事になるかもしれない。いや、かもしれないではなく間違いなくそうなるだろう」

シンジ「?」

曽根「……最悪の場合、君がエヴァに乗ってネルフ本部を壊さなければならなくなるかもしれない」

シンジ「え!?」

曽根「それでもいいか……?」

シンジ「……あ…………………………」

シンジ「その……それってどういう事です? 何で僕がネルフ本部を……」

曽根「いや、それは最悪のケースの場合だ。実際にはまずそんな事は有り得ないと思う。ただ、そうなる可能性も否定出来ないって事だ」

木田「例えば、君がエヴァに乗って戦うという事は、最悪、使徒に負けて死ぬ可能性もあるという事だろう? それと同じようなものだと思ってくれればいい」

シンジ「あ…………」

曽根「気付いてなかったって顔だな。まあ、そうかもな。人は大体、自分が死ぬ可能性をあまり考えない。電車に乗ってる時、脱線する可能性をまず考えないのと一緒だな」

木田「……少し話がずれたな。本題に戻ろう。それで、碇君、君はどうする? 君自身の手でネルフを壊す事になるかもしれないが、それでもこの手を使ってみるか?」

シンジ「その……それってどんな事をするんですか?」

曽根「それは君が決断してからでないと言えないんだ、すまないな。……ただ、意地悪でこんな事を言ってる訳じゃないのは確かだ」

木田「聞いたら、引き返せれなくなる。そんな内容なんだ」

曽根「どうする……? 」

シンジ「………………」

シンジ「……あの……一つだけ聞いてもいいですか?」

曽根「なんだ?」

シンジ「最悪、ネルフ本部を壊すって……それって、人を殺すって事です?」

曽根「…………」

木田「……君自身が、直接、殺す事は恐らくないだろう。だが、建物の崩壊に伴い、それに巻き込まれて死ぬ事はあるかもしれない……」

曽根「……それは恐らく君次第だろう。君がどう考えどう動くかによると思う。君は軍人でも何でもないからな。拒否する事は出来るはずだ。その後がまた大変だろうが……」

シンジ「そうですか…………」


シンジ「結局、全部、僕次第なんですね…………。何でこんな事になったんだろう…………」

曽根「人生ってのはほとんどが自分の決断次第さ……。まだ子供の君にそれを強いるのは酷だとは思うけど」

木田「……俺たちは、提案やアドバイスは出来る。でも、それ以上は出来ない。君の人生に関わる事だから、君が選ばなきゃいけないんだ。辛いとは思うが……」

シンジ「…………」

曽根「……未来がどうなるかなんて誰もわからない。君がここでエヴァのパイロットをやめるというのも、決して悪くはないと思うんだ。エヴァのパイロットになって良い事なんかありはしないだろうからな……」

木田「……今の状況だと、どちらの道を選んでもきっと君は後悔すると思う。酷い言い方になるかもしれないが、どちらの後悔がより重いかを考えた方が、君にとってはいいかもしれない」

シンジ「……………………後悔…………」

シンジ「………………」ボソッ……


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


シンジ (ダメだ、この人たちに任せてたら、この子が死んじゃうよ…!)

シンジ (僕が、僕が、何とかしなくちゃ!!)

シンジ『くっ!』キリッ

シンジ『ごめん、綾波! ちょっとだけここで待ってて!』

レイ『……碇…君…?』

シンジ『すぐに病院に戻らせてあげるから! だから少しだけ待ってて!!』ダ ダダッ!!!

レイ『碇…君……』


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シンジ(……考えてみれば、初めからそうだったんだよね…………)

シンジ(……綾波を死なせないために、僕、エヴァに乗ったんだ…………)

シンジ(……それだけは後悔してない…………)

シンジ(……それなら………………)


シンジ「」キリッ

シンジ「……わかりました。やります! どんな方法か僕に教えて下さい!」キリッ

曽根「……一応、もう一回確認するけど、本当にいいのか?」

シンジ「はい!」

曽根「……そうか」

木田「……わかった。それなら話そう。ただし、今からする話は絶対に誰にも言わないようにしてもらわなければいけない。秘密は厳守してもらう。いいかい?」

シンジ「はい」コクン


木田「……実は、方法はさっきと大して変わらない。コネを使う。パイロットの登録抹消の権限を握っているのが、その葛城三佐だというなら、更にその上から命令を出してもらえばいい」

シンジ「だけど、父さんは…………。副司令からって事ですか?」

木田「違う。それだとコネクションがない。それに、司令がいない間に勝手な独断で決めれるとは思えない」

シンジ「えと……じゃあ誰から……?」

木田「ネルフではなく、全く別方向からのコネを使う」

曽根「前に少し話しをしたが、ネルフは超法規的な特務機関だからどんな組織であろうと、その決定に横槍を入れる事は出来ない。ただ、横槍を入れる事は出来ないと言っても、日本国内にある以上、少なからず決定に影響を与えれる組織はあるって事さ」

シンジ「……?」

木田「第二新東京市の面々、と言えばわかるかな? つまり、日本政府だ」

シンジ「!?」

ー 学校 ー

ー 休み時間 ー


ケンスケ「碇のやつ、今日も休みなんだな……」

トウジ「せやな……今日は綾波も休んどるから様子は聞けへんし……」

ケンスケ「聞いても、知らない、の一言で片付けられるんだろうけどさ……。何度聞いても、それ以外の言葉、喋ってくれないし……」

トウジ「せやな…………」



ケンスケ「……そういえば妹さんの具合、あれからどうなんだ? 熱、結構続いてたんだろ?」

トウジ「ん、まあ……熱はもう引いたんやけどな……」

ケンスケ「けど?」

トウジ「よっぽどか怖かったんやろな……。看護師さんの話やと、夜、よくうなされてるそうやわ……。夢に結構出てくるとか……そないな事、言うとった……」

ケンスケ「……そっか…………」

トウジ「せや…………」



トウジ「その…………ケンスケ……」

ケンスケ「何?」

トウジ「……ホンマ、あの時はすまんかったな……。親父さんにまで迷惑かけてもうて……」

ケンスケ「ああ、いや、それはいいんだ……。パパも気にするなって言ってたし……」

トウジ「せやけど…………」

ケンスケ「…………それと……もうあの時の事は忘れろって……」

トウジ「そないな事言われてもな……。忘れたくても忘れられへんわ……。あないな事…………」

ケンスケ「うん…………」

ケンスケ「…………」

トウジ「…………」


アイフォン『』ピピピピッ、ピピピピッ


ケンスケ「……あれ、どうしたんだろ、パパからだ」

トウジ「なんや、電話か? 何かあったんやろか……」

ケンスケ「いや、メールだよ。何だろ?」ピッ

ケンスケ「…………」

ケンスケ「ええっ!?」

トウジ「なんや、どないしたん、ケンスケ!?」ビクッ

ケンスケ「碇のパイロット登録が抹消されたって……」

トウジ「ホンマか!?」

ケンスケ「で、今日、田舎に帰る事になってたけど、今、行方不明になってて、諜報部が探してるって……。パパのところにも連絡が来たって……」

トウジ「おい、ケンスケ!」ガタッ

ケンスケ「わかってる! 俺も一緒に行くよ! パパがこんなメール送ってきたって事は、多分そういう事なんだろうから!」ガタッ



ヒカリ「あっ、ちょっと二人とも、どこへ行くのよ! もうすぐ授業始まるわよ!」

トウジ「委員長! この前話したやろ、碇の事や! 授業とかそんなん言うとる場合ちゃうねん!」

ヒカリ「碇君の事…………?」

ケンスケ「そうなんだ、委員長。悪いけど、先生には上手く言っといてくれないかな。頼むよ!」

ヒカリ「……わかった。クラスの皆とも話して口裏合わせとく。二人は早く行って」

トウジ「すまんな! ほな!」ダダダダダッ

ケンスケ「サンキュー、恩に着るよ!」ダダダダダッ


ヒカリ「頼んだからね、二人とも」クルッ


ヒカリ「みんなー! ちょっと聞いて! 碇君の事!」

クラスメイト「」ザワザワ……

ヒカリ「もう先生が来るまで時間ないから、とにかく私の言う事に皆は話を合わせて! お願い!」

クラスメイト女子「わかった! 任せて!」コクン

クラスメイト男子「OK! 任せろ!」コクン

ー 喫茶店 ー


木田「改めて言うが、碇シンジ君。今から話す事は絶対に誰にも言わないでくれ。もしも、この事が明るみに出たら俺たちはまず間違いなく懲戒免職……いや、良くて懲戒免職かな。悪くての場合は想像もつかない」

シンジ「……!」

曽根「……元の発端はうちの隊長からでね。統合作戦本部でつい先日から極秘裏に始められた『エンジェルゲーム』ってやつを内々の話で俺たちに教えてくれたのさ」

木田「多分、君との繋がりが俺たちにあったからだろうな。そんな機密事項を簡単に漏らすような人じゃない」

シンジ「……その……何ですか、その『エンジェルゲーム』って?」

木田「一言で言えば、『ネルフ制圧のシミュレーション』だ」

シンジ「え!?」

曽根「ゲームとついてはいるが、それは便宜上つけただけのものだ。隠語というやつに近いかな。実際、行われているのは、テレビゲームみたいな遊びではなく、実戦を想定した本格的なものだよ」

木田「ネルフ本部の見取り図を元に、警備体制や対人防御システムなど、現状でわかっている要素を全て考慮に入れて、どのルートからどういう風に攻めれば制圧出来るかを真面目に検討している」

曽根「早い話、戦自は近い未来にネルフを攻める可能性があるかもしれないと思っている訳だ」

シンジ「……ネルフを……」

木田「もう少し正確に言うなら、日本政府がネルフの制圧を可能性として視野に入れてるという事だろう。戦自は独立組織ではないからな。クーデターや災害時を除けば、政府の命令以外で勝手に動く事は絶対にない」

曽根「つまり……日本政府が戦自にその可能性をほのめかしたという事になる。あるいは極秘裏に計画を立てるよう命令したかのどちらかだな。単なる遊びで統合作戦本部がそんな事をするはずがない」

シンジ「……でも、何でそんな事を…………」

木田「理由までは、ただ話を聞いただけの俺たちにはわからない。だが、そうなると君の立場や立ち位置は大きく変わってくる事ぐらいは簡単にわかる」

曽根「……ネルフを制圧するのに一番の障害は何か? これは軍人でもない君でもわかるだろう?」

シンジ「エヴァ……ですよね?」

木田「そう。戦自の持つ兵器で、エヴァに対して有効なものは一つもないからな。あえて挙げるなら、N2爆雷ぐらいだが、それだとネルフ本部ごと全て破壊してしまう」

曽根「目的が殲滅ではなく制圧なのだから、少なくともN2爆雷は絶対に使わない。だが、それを使わずにエヴァを二体も相手にするのは難しい」

木田「そこまで考えれば、対策はもう、三通りしかなくなる」

曽根「要領的には第二次世界大戦中の空母への対策と同じだな。当時はトマホークミサイルなんてものはなかったから、満載している戦闘機をどう倒すかが問題となった。これは防衛大学の座学で習った事だから、俺たちでもすぐに想像はつく」

木田「エヴァをどうにかするには、エネルギー源を断つか、発進する前に制圧するか、あるいはパイロットを先に確保するかだ」

シンジ「僕や綾波を…………」

曽根「ただ、実際問題として、エネルギー、つまり電力か。これを押さえるのは難しいだろうな。あれだけの巨大な組織が、生命線となる電力に関して、何も備えてないとは考えられない」

木田「少なくとも、組織が機能する最低限の発電装備ぐらいは自前で持っているだろうからな。あそこは軍隊に限りなく近い。補給に関しては隙がないはずだ」

曽根「だから、現実的には、発進する前に機体とパイロットを押さえる方向で戦自は考えているだろう。それに、こっちの方が遥かに簡単だ」

木田「乱暴な方法だが、パイロットを拐った後で襲撃すればいい」

シンジ「!?」

曽根「……君は結構危険な立場にいるってのが理解出来たかい? まあ、まだ計画段階だし、そもそも実際に実行に移すかすらも曖昧な事だから、当面、危険はないはずだけどな」

木田「だからこそ、それを逆手にも取れる」

シンジ「……あの、どういう事です?」

曽根「君、自ら、こっち……戦自というよりは日本政府かな。そちら側につけばいいって事さ」

木田「幸い、うちの隊長は統合作戦本部のお偉方と個人的な繋がりがあるからな。隊長も君の事は気にしていたようだし、話はつけてくれるだろう」

曽根「これまでの話をすれば、戦自を通じて防衛省へと話がいき、そして防衛省の官僚が話し合って、恐らく防衛大臣を通じて、君がまたエヴァのパイロットになれるよう政府に働きかけてくれるだろう。その可能性は高い」

木田「俗に言う口利きというやつだな。独立組織とはいえ、ネルフも防衛省ーー端的に言えば日本政府の意向を完全に無視するのは都合が悪い。重要事項ならともかく、君をもう一度パイロットに再登録するぐらいなら多分問題ないだろう」

シンジ「…………でも、それって……僕がエヴァを使って、ネルフを制圧するって事に……」

曽根「まあ、それは最悪のケースだよ。その可能性はかなり低い。戦自としてはエヴァを無力化するだけで十分だからな」

木田「逆に、その時は君に出撃させないようにするのではないかと思う。君がもしも裏切ってネルフ側についたら、戦況が逆転してしまうからな」

シンジ「…………」

木田「……まあ、誤魔化したところで仕方がないからはっきり言うが、君は政府の協力者になるという事だ。悪い言い方をするなら寝返りだ」

シンジ「寝返り……ですか」

曽根「そう。ネルフ制圧を考えた時、エヴァがこちらの味方になっていれば向こうは完全に切り札がなくなるのさ。それだけでも心理的な効果がある」

木田「恐らくその時は、君は黙ってエヴァを持ち出し、後は見ているだけという立場におかれるだろう。あるいはそれすらもないかもしれないが」

曽根「何にしろ、日本政府としてはエヴァパイロットの協力者がいた方が都合がいいってのは確かだろうな。内情も探りやすいだろうし」

シンジ「それって……スパイって事ですよね……?」

木田「有り体に言えばそうなる。が、君に危険な真似はさせないはずだ。それに、色々な事を探るだけの権限や経験が君にはない」

曽根「エヴァの現状況を聞かれる程度だろう。君は知っている事だけ答えればいいはずだ」

シンジ「…………その……綾波や父さんは……?」

曽根「ネルフ制圧に踏み切った時、どうなるか、という事か?」

シンジ「はい。どうなるんでしょう」

曽根「……君のお父さんの事については何とも言えない。ネルフを制圧しようとする理由がわからないからな。ただ、ここは日本だから殺されるだとかそういった物騒な事だけはないはずだ。制圧する時だって催涙弾などを用いたごく穏便なものになるだろうしな」

木田「恐らくは、拘束された後、裁判にかけられ判決を受けるというところだろう。それにしたって何かしたという訳でもないのだから、実刑判決が出るとは考えにくいし、あるいは裁判とかもなく、ただ単に解任されるだけかもしれない」

シンジ「……そうですよね。少し……安心しました」ホッ

木田「それと、綾波レイの場合は、制圧後は完全に放免だろうな。子供だという事と、エヴァのパイロットになっていたというそれだけの事だから、彼女には捕まる理由がない」

曽根「制圧前の場合は、さっきも言った通り拘束される事になるだろう。それに失敗した時は、彼女はエヴァに乗っているはずだから、恐らく君をエヴァに乗せ、綾波レイの乗るエヴァを取り押さえるよう命令がいくはずだ」

シンジ「…………もし、僕が取り押さえられなかった場合は……」

木田「…………その時はどうなるかわからない」

シンジ「大ピンチって事ですね…………」

曽根「……どちらにしろそうなったら、君も他人の事を心配している状態ではなくなっているだろうからな……。そこまで考える意味はないかもしれない……」

シンジ(取り押さえられなきゃ、僕も綾波もただでは済まないって事か…………)

シンジ(でも……このまま乗れないよりは……!)

シンジ「…………わかりました。…………お願いします」キリッ

曽根「そうか。……了解した」ニコッ

ー 三時間後 ー

ー 戦略自衛隊駐屯所 応接室 ー


木田「」ガチャ……

木田「OKだ、碇君。隊長から上へと話してもらって、少なくとも、今のところ、戦自は君に協力していくという方針が決定された。もちろん、君も戦自に協力するという前提だが」

曽根「……にしても、ずいぶん早かったな」

木田「非公式な上、表に出せない話だからな。会議も手続きも必要ない上、統合作戦本部のお偉方が電話で話し合うだけで済む話だ。早くて当然だろう」


木田「……で、碇君。戦自が君に協力すると決めた以上、君をもう一度パイロットにしなければ話にならない。早ければ今夜にでも、防衛大臣を通じて誰か大物の政治家ーー恐らく内閣総理大臣に連絡がいき、そこで密談が行われるだろう」

木田「結果はまあ、そう心配する事もないだろうけどな。でなければ、君への協力がそう簡単に決まる訳がない」

シンジ「ありがとうございます!」

木田「いや、俺たちは大した事はしてないさ。それにこれはギブアンドテイクだ。礼を言われるような事じゃない」


木田「それと……君とのパイプ役は、俺たちがなる事に決まった。だから、何か困った事があったら何でも言ってくれ。戦自で出来る事があれば協力を惜しまない」

シンジ「ありがとうございます!」ペコリ

曽根「……そう言えば碇君、君、携帯が今ないんだよな?」

シンジ「あ……はい」

曽根「木田、携帯の用意は?」

木田「大丈夫だ。抜かりはない。……これを使ってくれ。古い機種で申し訳ないが、一応スマホだ」スッ……

シンジ「……いいんですか?」

木田「いいと言うよりも、ないと連絡が取れなくて困った事になる。電話代とかは全て戦自持ちだから好きなように使ってくれて構わない。俺たちの電話番号は既に登録してある」

シンジ「……あ、はい……わかりました」

木田「あと、君をどこか別のマンションに移り住む事が可能なよう、取り計らいもお願いしておいた。今の環境は劣悪のようだからな。一人暮らしの方がまだいいだろう?」

シンジ「ホントですか!?」パアッ

木田「ああ、そっちは色々と手続きや許可があるからすぐにとはいかないが、近い内には住めるようになるだろう。形式的には、完全に他人名義の家になるから、居候という形になるだろうが、実際に住むのは君一人だ」

シンジ「ありがとうございます!」

曽根「良かったな、碇君。もうしばらくの辛抱だ」ニコッ

シンジ「はい! 本当にありがとうございます!」

ー 帰り道 ー


シンジ「良かった……。綾波の事はこれでどうにかなりそうだし……」テクテク……

シンジ「それに、ミサトからも離れられる……。本当に良かった……」テクテク……

シンジ「…………そう言えば父さんと暮らすって手もあるんだよね……」テクテク……

シンジ「あっ!」

シンジ「そうだ……忘れてた…………」

シンジ「ミサトと暮らさないと、僕、多分、エヴァに乗れないんだよね…………。そんな事を言われたっけ…………」

シンジ「…………ぬか喜びか……。その事、木田さんに伝えとかないと…………」スッ……

スマホ『』…………

シンジ「そういえば、スマホって初めて使うな、僕……。えと、フリック入力だったっけ……?」

スマホ『』スイッ……

シンジ「ふうん……」

スマホ『』スイッ……スイッ……







小林「ん? あの子、ひょっとして……。ええと、今日渡された転送データで一応確認っと……」スッ

スマホ『』スイッ、スイッ、スイッ……

小林「うん……。多分間違いない。こんな所で何してんのよ、あの子。全くもう!」

ー ネルフ本部 ローソン内 ー


ミサト「うーん……毎日、外食やコンビニ弁当だと流石に飽きるのよね……。カロリー高いし、お腹、また出てきちゃったし……」

ミサト「今日はおにぎりだけでサクッと終わりにしようかしら……」

Prrrrrr、Prrrrrr、Prrrrrr

ミサト「ん? 電話……?」スッ

ミサト「リカから? シンジ君、見つかったのかしら?」ピッ

ミサト「もしもし、リカー。シンジ君、見っかったの?」

小林『あ、はい。無事、見つかりました。ありがとうございます。森川さんもすごい喜んでて、今度、ステーキ奢ってくれるって言ってくれたんですよー♪ 一食、得しちゃいました』

ミサト「あらー、いいわねー、ご馳走じゃない」

小林『あ、やっぱ葛城さんもなんですね。ご馳走と言えばステーキみたいな。人工肉のが最近多いんで、今は、そうでもないんですけどね。そこら辺は世代なんですかね?』

ミサト「」ムカッ

ミサト「あんた、ホント一言多いわよ。今度の給料査定、厳しくしてもらうように言うわよ」イライラ

小林『あっ、すみません! つい……。今度、ケーキでも差し入れますんで、見逃して下さいよー』

ミサト「ケーキかあ……。最近ちょっち太り気味なんで、まあ、それはいいわ。で、あの子は今どこにいるの?」

小林『車の中です。もうすぐ駅に着くとこですね。暴れて暴れて押さえつけるの大変だったんですよー。応援呼んでやっと今、ってとこですから』

ミサト「もうすぐ駅か…………」

小林『葛城さん?』

ミサト「ちょっち待っててくれない、私も今から行くから。私が来るまでそのまま駅前でシンジ君ごと待機してて」

小林『え、でも……』

ミサト「いいからそうして。ここまで遅れたら、今更急いだって大して変わらないでしょ。それに、すぐに行くわ」

小林『 あ、はい……。わかりました……。葛城さんがそう言うなら……』

ミサト「じゃ、よろしくね」ピッ……


ミサト「さてと……」キョロキョロ……

ミサト「ま、おにぎり買ってからでもいいわよね。どれにしようかなと……」

保守

ー 駅前 車の中 ー


小林「全くもう、すぐ来るとかいいながら、葛城さん、ちっとも来ないじゃないの」ブツブツ……

シンジ「………………」


うつむきうなだれたままのシンジ……


小林「ねえ、暇だしちょっと向こうのコンビニ入ろう」

諜報部員A「大丈夫ですか? また逃げ出すんじゃ……」

小林「大丈夫よ。逃げ場所なんかもうないって流石にわかってるでしょうし。ね?」

シンジ「………………」


小林「それに発信器取り付けといたから平気よ」ヒソヒソ

諜報部員B「はあ…………そうですか…………。まあ、小林さんがそう言うなら…………」

小林「決まりね。さ、行くわよ」ガチャ、バタン

シンジ「………………」


小林「あなたも来るのよ、ほら。全く手間がかかるわね」グイッ

シンジ「………………」ガチャ……バタン…………

ー 駅周辺 ー


トウジ「ケンスケ、急げや!」ダダダダダッ

ケンスケ「碇のやつ、まだ行ってないよな? なぁ、トウジ?」ダダダダダッ

トウジ「わからへん、わからへんさかい、急いどるんやがな!」ダダダダダッ

ケンスケ「あ! おい、トウジ! あれ! あそこ!」キキィッ!!

トウジ「碇やがな! 良かったわ! 急ぐで!」ダダダダダッ

ケンスケ「あ、ちょっと待って!」ダダダダダッ

ー 駅前 ー


トウジ「碇!」ダダダッ……

ケンスケ「碇!」ダダダッ……


シンジ「……?」


小林「誰、あの子たち? クラスメイト?」

シンジ「………………」


トウジ「碇……」ハァハァ……ハァハァ……

ケンスケ「碇……」ハァハァ……ハァハァ……


シンジ「………………」

トウジ「あ、あんな、碇……」

ケンスケ「待って、トウジ!」

トウジ「?」

ケンスケ「あ、あの、すみません! 少し碇と話をさせてもらっていいですか」

小林「別に構わないけど?」

ケンスケ「あ、えっと、そうじゃなくて……。その……出来れば三人で」

トウジ「お願いします!」ペコリ

小林「えー、そう言われてもさー。こっちも仕事だしね。三人だけってのはちょっとねー」

シンジ「………………」ウツムキ

ケンスケ「あ、あの、良かったらコレ……」スッ……

小林「? ……何、この封筒?」ガサッ

小林「…………へえ」

ケンスケ「どうかお願いします! 少しの時間だけでいいんで」

小林「……じゃあまあちょっとだけよ。私たちは少し離れた所で監視してるから。それでいいわよね?」

ケンスケ「はい!」


シンジ「……?」

ー 諜報部が場所移動後 ー


シンジ「相田君……だよね?」

ケンスケ「ああ、うん。覚えててくれたんだ。それは嬉しいけど、でも、時間がないみたいだから、手短に話すよ」

トウジ「ワシらな、碇がエヴァのパイロットをやめるって聞いて、慌てて学校から飛び出してきたんや!」

シンジ「え…………?」

トウジ「ワシらがこないな事、言えた義理やないけども、どうかやめんといてくれへんか! お願いや!」

ケンスケ「碇、俺からも頼むよ! どうかやめないでくれ、この通りだから!」ペコリ!!

トウジ「頼む、センセ! ホンマにこの通りや!」ペコリ!!

シンジ「あの、でも………………」

トウジ「わかっとる! お前がエヴァのパイロットを……ちゅうか、ネルフなんかにおりたないいうんはようわかる!」

シンジ「ええと……そうじゃなくて…………」

ケンスケ「僕らさ、この前、エヴァに乗っただろ? あの時、実感したんだよ。もちろん使徒とかと戦うってのも命がけなんだろうけど、問題はその後だったんだよ!」

トウジ「あの後な、メガネとロン毛からワシら散々言われまくったんや! ゴミだとかクズだとか、無駄飯ぐらいだとか、ホンマ散々やったわ! ケンスケもワシも足蹴にされてな……!!」グスッ

ケンスケ「死ねとか平気で言われたよ……!! あの指揮とってたヒステリー女もそうだったけど、あれはもう人じゃないよ! 鬼だよ、悪魔だよ!」グスッ、ヒック

トウジ「その後、ケンスケのオヤジさんがすぐ来てくれなかったら、ワシらホンマに何されとったか、わからへん!」グスッ

ケンスケ「しかも、あの二人、パパにまで散々言ってきて……!! 悔しかったよ、俺!!」グスッ、エグッ

トウジ「なのに、ケンスケのオヤジさんが、お詫びに新しいギターとパソコンを買う言うたら、コロッと態度変えよってな……!!」グスッ、ヒック

ケンスケ「僕らの誤解だったみたいだとか、悪い事をしたねとか言って、何もなかったみたいに笑って帰っていってさ……! あっちこそ人間のクズだよ……!!」エグッ、ヒック

トウジ「さっきの女かて、ケンスケが商品券渡しただけであれやで! あそこはホンマに腐っとる!!」グスッ、ヒック


シンジ「そっか…………。やっぱりトウジたちも無事じゃすまなかったんだ…………」フゥ……

ケンスケ「だからさ、碇……。碇がこれまでどんな目に遇ってきたかってのは、薄々、俺らもわかってるよ……!」グスッ、ゴシゴシ

トウジ「ごっつ顔腫らしとった理由もわかったわ。あいつらにひどい事をされたんやろ!?」グスッ、ゴシゴシ

シンジ「……うん…………」

ケンスケ「だから、こんな事、俺らだって本当は言いたくないよ。出来れば、このまま、エヴァのパイロットをやめて欲しい。でもさ、でもさ……!!」

トウジ「もう一人のパイロットが綾波や言うやないか……! あいつ、両手骨折しとるんやで! そんなんでどないしてあのバケモンと戦える言うねん!」

シンジ「…………うん」

ケンスケ「使徒にやられるのは目に見えてるからさ。そうしたら、ネルフで働いてるパパも……クラスの皆も……」

トウジ「ワシのおとんも妹もや! 皆、死んでまう!」

ケンスケ「だから、お願いだよ、碇! どうか、エヴァに乗ってくれ! 頼むよ!」

トウジ「碇、頼む! この通りや!! お前しかおらへんねん!!」ザッ

シンジ「えっ!?」


その場で土下座をするトウジ。驚き焦るシンジ


シンジ「あ、あの、鈴原君、やめてよ、こんな所で」

ケンスケ「碇、頼むよ!」ザッ

シンジ「相田君まで!」


ケンスケも土下座。更に焦るシンジ


車「」ブロロロロ……キキィ!!


ガチャッ

ミサト「……」バタンッ


シンジ「ミサトさん!?」


『そこへ丁度ミサトが現れた』

すみません、遅くなりました。シンの公開までに完結出来るといいんですけど……
とりあえず、今回の更新はここまでです

酉つけ忘れました
念のため

ミサト「……なに、これ。どうしたの?」ツカツカ

トウジ「げっ!」

ケンスケ「ミサトさんって……! 確かエヴァに乗った時の……!」

ミサト「ああ……あの時のクソガキどもね。何でこんな所に」チッ

ミサト「おまけにこんな道の真ん中で土下座までして。一体何をさせてるのかしら、シンジ君」ジロッ

シンジ「あ、あ、あの、ミサトさん! これには訳が……!!」

トウジ「ち、違うんです! あの時の事をワシら謝りに来ただけで! それと、あの時はホンマすいませんでした! 堪忍したって下さい!」ガバッ

ケンスケ「碇は何も悪くないんです! 全部、僕らが悪いんです! だから、碇を怒らないで下さい! お願いします!」ガバッ


再びミサトに向かって土下座する二人


ミサト「…………ふうん」


冷淡な目でそれを見つめるミサト……

ミサト「まあ、反省はしてるみたいだから、その事はもういいわ。それよりも」

トウジ「は、はい!」

ミサト「シンジ君が悪くないってどういう事よ?」

ケンスケ「あ、あの、それは……!」

トウジ「あ、アレです! あん時、ワシらが碇に無理矢理頼んだんですわ! エヴァに乗せてくれ言うて! な、せやろ、ケンスケ」

ケンスケ「は、はい! そうなんです!」

シンジ「!?」


ミサト「は? じゃあなに、シンジ君があなたたちを誘った訳じゃないって事?」

トウジ「そうです! だから、碇はなんも悪ないんです!」

ケンスケ「僕らが頼んだから仕方なくだったんです! だから、僕ら、それを謝りに来てて!」

ミサト「……それ、本当なの、シンジ君? 二人にそう言わせてる訳じゃないでしょうね?」ジロッ

シンジ「え、あ、あの……!」


困った様に、二人をちらと見るシンジ


トウジ(碇、うなずけ!)

ケンスケ(碇、そうだって言ってくれよ!)


目でそう語る二人

シンジ(どうしよう……!)オロオロ

シンジ(そうって言ったら、二人が大変な事になるに決まってるし……!)

シンジ(でも、違うって言ったら、絶対ミサトは僕をエヴァに乗せてはくれないだろうし……!)

シンジ(このまま、田舎に帰っても、木田さんや曽根さんがどうにかしてくれる可能性はあるけど……!)

シンジ(でも、その時も結局ミサトと住む事になるだろうから、その後、何されるかわからないし……!)ギリッ


目を閉じて唇を強く噛むシンジ


シンジ(どうしよう! どうすれば……!!)

ミサト「シンジ君、早く答えなさい。どうなの?」

シンジ「あ、あの…………! その…………!」


トウジ(アカン、このままやとまずいわ!)

ケンスケ(トウジ、どうする!?)

トウジ(しゃーない! 覚悟決めるで!)スクッ、タタッ


立ち上がり、シンジの元に詰め寄るトウジ


ミサト「?」

シンジ「……鈴原……君?」


トウジ「碇、ワシを殴れ!」

シンジ「えっ?」

トウジ「前に、殴って無理矢理脅したお返しを受けな、ワシの気がすまんねん! だから、思いっきり殴れ!」

ミサト「殴って脅したですって……?」ピクッ


トウジ「センセ、今の内や、ワシを殴れ! お前のせいでこうなった言うて殴れ!」ボソボソ

シンジ「ダ、ダメだよ、鈴原君! 僕には出来ないよ、そんな事……!」ボソボソ

トウジ「早うせんかい! このままやと、あのババア、ずっと疑ったままやで! だから、思いっきり殴れ!」ボソボソ

シンジ「でも、でも、僕は前に綾波を……!! だから、もう人には暴力をふるわないって決めたから……!!」ボソボソ


ミサト「ちょっと、その殴って脅したってどういう事よ?」


トウジ「早うせい! 怪しまれるやろ!」ボソボソ

シンジ「だ、だけど……!!」ボソボソ

トウジ「しゃーない! すまん、碇!」ボソボソ

シンジ「え?」ボソボソ


トウジ「ええい、早うせんかい!」バキッ!!

シンジ「ぐあっ!!」ドサッ!!


ミサト「な……!?」

トウジ「さっさとせえへんから、こないなんねん! このグズが!!」ゲシッ!!

シンジ「あぐっ!! ……す、鈴原君、何を……!?」


倒れたシンジを蹴りつけるトウジ


ミサト「ちょっと、あんた!! シンジ君に何て事をするのよ!!」グイッ!!

トウジ「んぐっ……苦し……!!」


そこに鬼の様な形相で割り込み、トウジの胸ぐらを掴みあげるミサト


ミサト「そうよね、よくよく考えてみれば、あれだけしっかり私と約束したシンジ君がそんな簡単に裏切る訳ないものね……!」

ミサト「全部、あんたたちのせいで……! 私の可愛いシンジ君を殴りつけて脅すなんて……!!」

トウジ「がっ! 息が……!!」ゲホッ!!

ミサト「許さないから!!」ヒュン


そのまま振りかざされるミサトの掌


バシンッ!!


トウジ「ぐあっ!!」


思わず苦痛の声を漏らすトウジ


シンジ「鈴原君!!」

ケンスケ「トウジッ!!」

ミサト「人を暴力で脅すなんて最低ね!」ヒュン!!

バシンッ!!

トウジ「がっ!!」

ミサト「土下座して謝ったぐらいで済む問題じゃないでしょうが! 反省しなさい、反省をー!!」ヒュン!!

バシンッ!!

トウジ「ぐはっ!!」


シンジ「や、やめて下さい、ミサトさん!!」ガシッ

ミサト「この……! 離しなさい!!」ヒュンッ!!

バシンッ!!

シンジ「がふっ!!」ドサッ

ケンスケ「や、やるなら僕もお願いします!! トウジだけが悪いんじゃないんです!!」

ミサト「わかってるわよ、そんな事!!」ヒュンッ!!

バシンッ!!

ケンスケ「ぐわぁっ!!」ドサッ


ミサト「」ハァハァ、ハァハァ


トウジ「ぐっ……!」ゴシゴシ

ケンスケ「ト、トウジ……!」グスッ

シンジ「ミサト……さん……」ハァ……ハァ……

小林「……あのー、葛城さん? もう大丈夫……です?」オズオズ

ミサト「んっ……ああ、リカか……。いたの?」ハァ……ハァ……

小林「えっ、まあ、はい……」

ミサト「ちょっち悪いけど、シンジ君、借りるから」

小林「はあ……どうぞ」

シンジ「えっ?」

ミサト「シンジ君、こっちに」グイッ

シンジ「……は…い…………」


トウジ「……い、碇のやつ、大丈夫かいな……」ゴシゴシ

ケンスケ「……わかんないよ……そんなの……。それよりトウジ、唇切ってるから……。これ、ハンカチ。使ってくれ」スッ

ー 少し離れた路地 ー


ミサト「さてと、シンジ君」

シンジ「は、はい!」ビクッ

ミサト「親戚の家に帰るんだって?」

シンジ「…………はい。そう聞かされました……」

ミサト「そう……」

シンジ「………………」


ミサト「シンジ君自体は……帰りたいの?」

シンジ「僕は……帰りたくないです……! エヴァに乗りたいです……!」

ミサト「……うん」コクン……

シンジ「あの……ミサトさん! 僕をまたエヴァに乗せて下さい! お願いします!!」

ミサト「……私も出来る事ならそうしてあげたい。さっき、あのクソガキどもから事情も聞いたしね……」

シンジ「あ……」

シンジ(ごめん! 鈴原君、相田君!! ごめん!!)

ミサト「……だから、この前の事は特別に見なかった事にして、そのままあなたをエヴァに乗せてあげたいと思ってるわ。でも……」

ミサト「碇司令からの命令だし、説得しようにも、今、司令とは連絡がつかないからね……」

シンジ「はい…………。南極に行ってるって聞きました…………」

ミサト「ええ、そう。だから……」

シンジ「……やっぱり、僕はもうエヴァには乗れないんですか……?」

ミサト「……司令が南極から戻ってきたら説得するのは出来ると思うわ。ただ、これは私から言ってもしょうがないならシンジ君が自分でしなきゃいけない事だけど」

シンジ「……それは……します! 必ず父さんを説得しますから!」

ミサト「……だったら、それまであなたの身柄をもう一度私が預かる事ぐらいは出来るわ。これは司令からの命令とはまた別の事だから」

ミサト「もちろん、その間はエヴァに乗って出撃する事は出来ないけどね。ただ、予備パイロットという事にして、訓練という形で乗せてあげる事は出来るかもしれない」

シンジ「本当ですか! それでお願いします!」パアッ

ミサト「あらあら、喜んじゃって……。あくまでまだ仮の話よ」フフッ

シンジ「仮でもいいです! 嬉しいです! ありがとうございます、ミサトさん!!」ペコリ

ミサト「いいのよ。私もこのままあなたみたいなクズを放り出すのは後味が悪いしね」ニコッ

シンジ「は、はい! 僕、頑張りますから!」

ミサト「さてと。それじゃそうと決まったところで帰りましょうか。私はリカのところに行って少し説明してくるから、シンジ君は先に車に入ってなさい」

シンジ「はい!!」

ミサト「じゃ、ちょっち待っててね」トコトコ……



シンジ「行ったか……」


シンジ「大丈夫……綾波をエヴァに乗せない為なら何だって我慢できる……」

シンジ「大丈夫……!」ブルブル

シンジ「僕は耐えれるから……!」ギュッ……!!


強く拳を握りしめるシンジ…………










  


EVANGELION

The unreasonable world



You were able to escape, but did not choose it

副題の邦訳


エヴァンゲリオン

不当で理不尽で滅茶苦茶で道理をわきまえない現実を無視した世界

あなたは逃げる事が出来た。しかし、それを選ばなかった










  

ー 二年前 ー

ー ジオフロント、スイカ畑の横の小さな仮設住宅 ー

ー 綾波レイ、回想 ー


昨日の夜の事だった

私がスイカ畑に水をまきおえてから家に帰ると、ドアの前に一人の男の子が立っていた

お母さんやたまに来る碇司令を除けば、この家に訪ねて来る人なんて誰もいなかったから、何か不思議

そう思ってたら、その男の子は悲しげな顔を見せて、私に言う


カヲル「この平穏な日常を壊すようで悪いけど……」


何、この子? 言ってる事が変


カヲル「明日、大きな災いが君に訪れる」


なに言ってるの? 意味がわからないんだけど


カヲル「僕が気付いた時にはもう遅かった。残念だけど、君の平穏な日常は、明日で全て壊れる事になる」


私と同じ歳ぐらいの男の子と二人で向かい合っていて、でも普通の子は絶対こんな事言わないよなって思ってなんか怖くなる

カヲル「君がお母さんと呼んでいる人物……赤木ナオコ博士はもうこの家には二度と戻って来ないよ」

カヲル「彼女は既に別の場所に旅立ってしまった」


何、言ってるの? お母さんが帰って来ないなんて事あるはずない

明日は私の中学校の入学式なんだから。今日はそのお祝いに、前から私が欲しがってた帽子を買ってくれるって、今朝、約束したばかりなんだから


カヲル「災厄というのは、不意に襲ってくるものじゃないよ」

カヲル「実際には、予兆も警告もあったんだ。それを君も僕も見逃していた」


意味がわからない。だけど、私の足が勝手に震えだす

お母さんはたまに夜一人で泣いてたりする時があった。でも、私がどうしたのって聞くと、何でもないって言って、優しく抱き締めてくれた

あなたは心配しないでいいのよって。私がどうにかするからって……。私が守るからねって…………


カヲル「彼女も限界を迎えていたんだ。碇ゲンドウがこの組織の中の飴だとしたら、彼女は鞭だった。その分、周りからの反発や反感は強かったのに、彼女はそれを一人で受け止めなければならなかった」

カヲル「その上、実の娘からも疎まれ裏切られている。君という存在がいなかったら、彼女はもっと早く決断していたに違いない」


実の娘? なに言ってるの? お母さんの子供は私だけなのに…………

なんなの、この子、誰なの?


カヲル「……僕の名前は渚カヲル。君にとっての、最後の警告さ」


怖い。私の背中がぞくぞくする。この子、言ってる事がおかしい。絶対におかしい

カヲル「だから、君は今、決断しなきゃいけない」

カヲル「ここから逃げ出すという事を」


非日常的な事が起こっている。でも、私はそれを覚えておくべきだったのだ。非日常的な事、突飛な事だって起こる

カヲルという少年が言う


カヲル「ここから逃げた後の暮らしがどうなるかは僕には想像がつかない」

カヲル「ただ、楽な暮らしが出来る訳ではないというのは確かだろう。君には頼る人もいないし、中学生だから働く事も出来ない」

カヲル「出来れば僕も君の手助けをしてあげたいのだけど、僕はリリンとの契約によって縛られていて自由に動けない……」

DSSチョーカー改「」ピッ、ピッ……


少年の首についたチョーカーが小さな光を点滅させている。なんなの、そのチョーカー?


カヲル「それに、僕はこれから先、長い眠りにつく事になっている」

カヲル「実はここに今、こうしているのもギリギリなんだ。僕はもう行かなくちゃいけない」

カヲル「君にとっては意地悪に聞こえるかもしれないけど、もちろんその反対さ」

カヲル「願わくば今日の夜の内に逃げてほしい。明日から君のエヴァパイロットとしての訓練が始まる」

カヲル「赤木ナオコが引き伸ばすだけ引き伸ばしてきたけど、それももう限度を迎えた」

カヲル「その事と、これまでの軋轢、実の娘とゲンドウの交際が発覚した事も重なって、とうとう彼女の精神の糸は切れてしまったのだろう」

カヲル「ほとんど衝動的なものだったみたいだからね…………」

カヲル「……僕はもう行くよ。君に幸運と幸福がある事を祈ってる」クルッ


悲しい瞳を見せ、そして、そのまま少年は私の視界から消えた……



私はこの日の夜の内にここから逃げるべきだったのだ


少年の警告を信じて、きちんと逃げるべきだったのだ


いつもの平穏な日常がなくなるとか、いきなりお母さんがもう二度と帰ってこなくなるとか、普通に生きててどうやって信じろっていうの?


でも、もうそんな警告。遅い。役に立たない


私はその日の内に逃げなかったし、次の日になってもう逃げられなくなった事を知った


黒服の男数人が私をムリヤリ家から連れ出し、エヴァとかいう巨大なロボットに乗せた


説明もろくにされないまま指示通り動かせと言われ、少しでも失敗すると酷い罵倒と容赦のないビンタが飛んできた


ようやく終わって泣きながら家に帰ると、家は完全に打ち壊されていた


お母さんとの思い出の品も全部消えていた。代わりにボロボロのマンションに連れて行かれ、そこでこれからは一人で生活しろと言われた


私はその日夜通し泣き続けた

大人が子供の精神を壊すには、七日もあれば十分らしい

これまでお母さんによって育まれた私の色々な感情は、たった七日で全て壊された





第一の日、楽しみの感情が壊される


第二の日、喜びの感情が壊される


第三の日、哀しみの感情が壊される


第四の日、怒りの感情が壊される


第五の日、苦しみの感情が壊される


第六の日、お母さんが零号機のエントリープラグの中で自殺した事を知って、私に最後に残っていた希望も絶望も全て壊される


第七の日、感情はその役割を終え、私は自分で作った小さなお母さんのお墓の前で空っぽの心のまま静かに涙だけを流す




それからの私は、叩かれたり蹴られたり酷い事を言われたりしても、全く涙を流さなくなった


そうして一ヶ月も過ぎた頃、私はあの人たちの行動がなんとなくわかるようになった


あの人たちは、自分に迷惑や面倒がかかるのをすごく嫌う


でも逆に、面倒や迷惑を代わりに請け負ってくれる人や、親切にしてくれる人にはすごく甘い


それがわかった私は、進んであの人たちの面倒や迷惑を引き受け、彼等に親切にした


外部端末を使ってあの人たちの仕事の肩代わりもした


お母さんが生きている頃、私に色々な事や勉強を丁寧に教えてくれたのは多分この為だったんだろう


気がつくと、私はあの人たちの仕事の半分以上を引き受けていて、それがいつの間にか当たり前になっていた


そうする事で、あの人たちは私に何も酷い事をしなくなった。だけど、代わりに私は寝る暇もろくにないほど忙しくなった


私は逃げても良かったと思う。その機会は何回かあった。でも、お母さんのお墓を残して他のところには行きたくなかった


街だとかクラスメイトだとか人類だとかそんなものはどうでもいい。ただ、お母さんのお墓だけは守りたい


私に愛情をくれたのはお母さんだけだから…………

でも…………


碇君…………


私の怪我を心配して代わりにエヴァに乗った男の子…………


私の代わりに…………


だから…………


碇君をこのままエヴァに乗せちゃダメ…………


碇君だけは何としてもここから逃がさなきゃいけない……


だから…………!


その為には何だってする…………!


どんな事でも……!!


お願い……! 碇君……!!


ここには二度と来ないで……!!


逃げて……!! 逃げて……!!! 逃げて……!!!!









ー 現在 ー

ー レイの家 ー


レイ「夢…………?」ムクリ……

レイ「お母さんの夢…………。二年ぶりぐらいに見た…………」

レイ「」ツー

レイ「……?」

レイ「」ツイッ……

レイ「これは涙……? 泣いていたの、私……?」

レイ「……まるで気がつかなかったけど…………」スッ


無表情のまま、涙を手で拭き取るレイ


レイ「……もう起きないと……」ソッ……


ベッドから起き上がる


ゴチャゴチャ……

レイの部屋には所狭しと、CDやDVD、パソコンの機器、楽器、漫画、雑誌、小説、化粧品、レトルト食品、等々……大量の物が整頓されて置いてあり、ほぼ物によって埋まっている


レイ「」スクッ

コトッ

レイ「……?」


立ち上がった時、キャビネットの上に置いてあったゲンドウの眼鏡が床に落ちた


レイ「………………」


レイ「」スッ

グシャッ!! バリンッ!!


それを踏みつけ粉々に割り砕く


レイ「……」スタスタ


何事もなかったかの様に放置して、そのままシャワーを浴びに行くレイ……

ー 翌日 ー

ー 学校 ー


シンジ「」ガラッ


トウジ「センセ!」パアッ

ケンスケ「碇! 良かった、無事で!」パアッ


シンジ「あ……あの…………」

トウジ「ホンマ良かったわー! あの後、センセが車で連れていかれたさかい、どないなったのか全然わからんかったし」

ケンスケ「心配してたんだぜ! でも、またこうして会えて良かったよ」

シンジ「二人とも……その顔の腫れ……。それにあの時は…………ごめん……」シュン

トウジ「なんやセンセが謝る事なんか一つもあらへん! 逆にワシが謝らなかん! 二回も殴ってもうて、ホンマすまんかった!」ペコリ

ケンスケ「碇、ごめんな! 俺からも謝るよ!」ペコリ

シンジ「そんな……! 僕の方が謝らなきゃいけないのに……!」

トウジ「ええて! それより、センセ。エヴァのパイロットになる件は…………」

ケンスケ「考え直してくれたのか……? どうなったんだ、碇……?」

シンジ「うん……」コクリ

シンジ「エヴァには乗れると思う。まだ確定じゃないけど……多分……」

トウジ「ホンマか! センセ、ありがとな!」パアッ

ケンスケ「本当にありがとう! 碇!」パアッ


トウジ「」クルッ

トウジ「おーい、委員長! それにみんな! センセがエヴァのパイロットやってくれるて!」

ヒカリ「ほんとに!?」パアッ

クラスメイト一同「やったあ!」パアッ


シンジ「これって……」

ケンスケ「俺らがクラスの皆には説明しといたんだ。だから、少なくとも俺ら全員は碇の味方だよ。手伝える事があったら何でも言ってくれよな!」ニコッ

シンジ「……うん」

シンジ「ありがとう」ニコッ

シンジ「えと……ところで綾波は……?」キョロキョロ

ケンスケ「ああ、多分今日も休みだよ。って言っても元々あまり学校に来る方じゃなかったけど……」

シンジ「そうなんだ…………」

ケンスケ「何をしてるのかよくわからなかったけど……エヴァのパイロットだったんだな」

シンジ「うん」

ケンスケ「綾波は……平気なのか? あんな所にいてさ……」

シンジ「多分。綾波が怒られたりしてるところ、見た事ないし。皆、綾波の事は誉めてたから……」

ケンスケ「ふうん……。何でだろうな……。まあ、それならそれでいい事なんだけど……」

シンジ「うん……」

ー 学校終了後 ー

ー ネルフ本部、エレベーター ー


シンジ「えと……格納庫に行くにはこのエレベーターでいいのかな?」ポチッ

シンジ「今日は多分乗れないだろうってミサトは言ってたけど……でも、綾波やエヴァの事が気になるし……」


チンッ
ガコッ…………

到着してゆっくり開くエレベーター


レイ「!?」

シンジ「綾波!?」


思いがけずはちあう二人

レイ「碇君……? 何でまだここに……?」

シンジ「あ、うん。それはとりあえず中で話すよ。それよりも手のケガ、片方は包帯が取れたんだね。良かった!」パアッ

レイ「…………包帯……」


中に乗り込むシンジ。少し困惑気味のレイ。

レイ「……それで、どうしてここに?」

シンジ「ミサトさんにお願いして、もう一度エヴァに乗れるように頼み込んだんだ。まだ父さんと連絡がつかないから、本決まりじゃないけど……」

レイ「そう…………」

シンジ「でも、きっと何とかなると思う。綾波は嫌がるかもしれないけど、でも、ケガしてる間はせめて僕がエ」

バチンッ!!

シンジ「がっ!!」ドサッ

レイ「…………」


レイのビンタが炸裂し、思わずその場に倒れるシンジ。

レイ「もう来ないでって言ったはず……」

シンジ「綾……波…………?」ヒリヒリ


見下ろすようにシンジを見つめるレイ。頬をおさえて呆然とするシンジ


レイ「もう顔も見たくないって言ったのに……」

シンジ「あ、あの、でも……その手のケガが治るまでは僕がエヴァに乗っ」

ゲシッ!!

シンジ「あぐっ!!」

レイ「……」


倒れているシンジを蹴りつけるレイ。

レイ「……帰って、碇君。ここには本当に二度と来ないで」ゲシッ、ゲシッ!!

シンジ「い、痛い! やめてよ、綾波、痛いよ!」

レイ「……それは体が痛いの? それとも心が痛いの?」

シンジ「どっちもだよ! だからや」


ゲシッ!


シンジ「がふっ!!」

レイ「…………」


チンッ
ガコッ…………


ゆっくりとドアが開く


レイ「……次に見かけたら、また蹴るから」

レイ「……さよなら、碇君」タタタッ


シンジ「うっ……ぐっ…………」ピクピク


逃げるように駆け足で去るレイ。お腹をおさえてうずくまったままのシンジ


ガコッ…………


再びゆっくりとエレベーターのドアが閉まっていく……

ー トイレ、洗面台 ー


シンジ「げはっ!」ゴホッ、ゴホッ

シンジ「……痛い…………」


お腹を軽くおさえるシンジ


シンジ「無茶苦茶やるなあ……綾波も…………」

シンジ「……でも……ミサトに比べればマシか……」

シンジ「頬もそんなに腫れてないし…………」

シンジ「ははっ…………何で僕、こんな目に合ってるんだろう…………」


乾いた笑い。そして、自虐的な目を鏡の中の自分に向けるシンジ


シンジ「……とにかく、今日はもう帰ろう。格納庫に行ったら絶対綾波と会うだろうし……」

シンジ「夕飯の買い物と、料理と掃除と洗濯もしなきゃいけないし…………」

シンジ「」クルッ

シンジ「……何で…………」トボトボ……

ー ネルフ本部、休憩所 ー


ミサト「って訳でね」

リツコ「へえ、そうなの。じゃあ、結局元の鞘におさまったのね」

ミサト「そういう事」ニコッ

リツコ「まあ、それならそれで私からはどうこう言うつもりはないわ。あの子の再教育をしっかりね、ミサト」

ミサト「任せといてよ。ただ、問題は碇司令をどう説得するか……」


プシュン


ミサト「?」

リツコ「あら、レイじゃない。今日の分の仕事は終わったの?」

レイ「いえ……これからです。それよりも赤木博士。一つお願いが」

リツコ「お願い? 珍しいわね、あなたがそんな事を言うなんて」

ミサト「どったの?」

レイ「碇君が……エヴァのパイロットとして戻って来てたので」

ミサト「ああ、うん。そうよー。って言っても本決まりじゃないし、上手く本決まりになったとしても予備扱いになるとは思うけどね」

レイ「予備……」

ミサト「うん。だから今のとこ、ここでのエヴァの正式パイロットはレイ一人よ。つまり、もうシンジ君に出番を盗られたりするような事はないだろうから、そこら辺は安心して」ニコッ

レイ「……そうですか…………。でも、訓練やシンクロテストは……?」

ミサト「それは一緒。別々でやる意味なんかないし」

リツコ「とはいえ、あなたは訓練の必要なんかないから、やるのはシンジ君一人だけね」

レイ「……碇君だけ…………」

レイ「………………」


何か考え込むレイ


ミサト「あ、でリツコにお願いって何?」

レイ「……碇君のパイロットの登録抹消は可能ですか?」

リツコ「……レイ。あなた一人がエヴァ乗りたいっていう気持ちはわかるけど……」

ミサト「わがまま言っちゃあ、ダメよ。シンジ君はさっきも言った通り予備扱いになるだろうから、それぐらいは認めなさい」

リツコ「いいわね、レイ? 同じパイロット同士仲良くやるのよ。シンジ君にも後で同じ事は言うし、出来るだけあなたの邪魔はさせないようにするから」

レイ「……それは命令ですか……?」

リツコ「ええ、そうよ。命令」

レイ「………………わかりました」


軽く唇を噛むレイ

レイ「それなら赤木博士。私が碇君の訓練をしますから」

リツコ「あなたが?」

レイ「はい……。私がします」

リツコ「……私としては別に構わないけども。あれほど無駄な時間はないしね」チラッ

ミサト「うーん……私も別にそれでいいわよ。レイが引き受けてくれるって言うならこっちも安心だしね」

レイ「……そうですか。ありがとうございます」ペコリ

ミサト「いいのよ、別に。レイには普段から色々と面倒見てもらってるからね。気にしないで♪」

リツコ「そうね。これからも宜しくね、レイ」ニコッ

レイ「はい。…では、私はこれで失礼します。やる事がまだ残っているので」

ミサト「うん、じゃね」バイバイ

リツコ「私たちはもうあがるけど、後は宜しくね、レイ」ニコッ

レイ「…はい」ペコリ


レイ「」クルッ

レイ「」スタスタ……


プシュン……



リツコ「さてと……それじゃ行きましょうか。ミサト」ガタッ

ミサト「ええ、そうねー。にしても、この前の使徒のせいで街しっちゃかめっちゃかになっちゃったからねー。エステ行くだけなのに、面倒な事になったわよねー」ガタッ

リツコ「本当ね。今度の決算の時、ここにエステの施設を増設する事を検討してみてくれない?」テクテク

ミサト「んー、まあ、考えとくわ。フットサル場とか、テニスコートとか、色々と要望が多くてねー」テクテク


プシュン…………

ー 夜 ー

ー ミサト宅 ー


ミサト「うん、美味しい♪ シンちゃんもやれば出来るじゃない。この煮物とかいい味出してるわー♪」パクパク

シンジ「ミサトさんのお口に合って良かったです。嬉しいなあ」

ミサト「それに今日はビールもキンキンに冷えてて。シンちゃんはやっぱやれば出来る子なのよねー♪」グビッ、グビッ

シンジ「何もかもミサトさんのおかげです。ありがとうございます」ペコリ

ミサト「いいの、いいの、お礼なんてさ♪ この調子でしっかり頑張るのよ」

シンジ「はい! ミサトさんの為に精一杯努力します」

ミサト「うんうん。男子三日会わざればなんとやらってやつね。洗濯も掃除も靴磨きもきちんとやってあるし。あ、シンちゃん、ビールお代わり」

シンジ「はい」スッ、コポコポ……

ミサト「そうそう。そうやってやると泡も立ちにくいからね。よく覚えてたわ、偉いわよ」

シンジ「ありがとうございます」

ミサト「ああ、そうだ。お風呂はわいてる? この後、入るからさー」

シンジ「あっ、それは……」ビクッ

ミサト「は? 何、忘れてたの?」

シンジ「すすすすみません! すぐにわかしてきますから!」ダダダダダッ

ミサト「走るな! 埃が立つでしょうが!」

シンジ「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」



ミサト「全く……。誉めて損したわ……。結局、クズはそんなにすぐには変わらないって事ね…………」ブツブツ

ー お風呂上がり後 ー


ミサト「それじゃ、シンジ君。私はもう寝るから」

シンジ「はい! お休みなさい、ミサトさん」

ミサト「明日、またお風呂わかしてなかったら、流石の私も怒るから。いいわね?」ジロッ

シンジ「は、はい! 必ずわかしときますので!」

ミサト「ふん……どうだか……」ガラッ

ピシャンッ!!

シンジ「ご、ごめんなさい……」


シーン…………

ー シンジの部屋 ー


ガラッ……

シンジ「」トコトコ……

シンジ「ふうっ…………」ドサッ……


重い息と共にベッドに倒れこむシンジ


シンジ「やっと今日一日が終わった…………」ボソッ

シンジ「昨日は学校がなかったからまだマシだったけど……」ボソッ

シンジ「今日は夕方の内に全部やらないといけなかったから…………」ボソッ

シンジ「掃除も髪の毛一本でも落ちてると、ミサト怒りだすから気を抜けないし……」ボソッ

シンジ「緊張と疲れのせいでもう…………」ボソッ

シンジ「…………zzZ」


ガラッ!!


シンジ「」ビクッ!!

ミサト「シンジ君、なにあの部屋の片付け方は! 元の位置に全部戻せって言ってあったでしょうが!」

シンジ「すみません! すみません!」

ミサト「おまけに美容液が切れてるのに気づかないってどういう事! ふざけるんじゃないわよ!」ブンッ!!

ガンッ!!

シンジ「ぐっ!」


空の美容液を投げつけるミサト


ミサト「今すぐコンビニ行って買ってきなさい! 他のコンビニならともかく、ネルフ本部の中なら営業してるはずだから! 早く!」

シンジ「は、はい!」トタタタ!!


ミサト「ホント、気のきかないやつね……!」イライラ

ー 翌朝 ー

ー 学校 ー


シンジ「」トロン……

トウジ「お、おい、センセ。大丈夫かいな……。ごっつ眠そうにしとるけども……」

シンジ「うん……大丈夫…………。でも、話しかけないでくれるとありがたいかな…………。先生が来るまでの時間、少し眠りたいから…………」

トウジ「一体どないしたんや? 昨日の夜何かあったんか?」

シンジ「何にも…………。ただ、買い物に行ってただけ…………。行ってる間に電球も切れたからってそれも買いに行ったから結局二往復したけど…………」コテン

シンジ「……zzZ」


机の上に突っ伏して眠るシンジ


トウジ「……センセ」

ケンスケ「碇…………」


思わず顔を見合わせる二人

ー 昼休み、屋上 ー


ガチャッ

レイ「」テクテク


レイ「……寝てるのね」

シンジ「……zzZ」


レイ(今日……訓練があるって伝えておかないといけないのだけど…………)

シンジ「……zzZ」

レイ(熟睡してるから……起こしたくはない……)

レイ「」ストッ


その場に腰を下ろすレイ

スマホを取り出して地面に置き、ケガしてない片手で操作をし始める


レイ「……」スッ、スイッ、スッ、スッ、スイッ……

シンジ「……zzZ」

キーンコーンカーンコーン♪

レイ(予鈴……)

レイ(もうすぐ昼休みが終わるけど……)チラッ

シンジ「……zzZ」


レイ「」ゴソゴソ


メモ用紙を取りだし、シンジの今日の予定をそこに書き込む


レイ「」スッ

レイ「」スクッ、スタスタ……

バタンッ……


それを置いて、屋上から出るレイ

ー 学校終了後 ー

ー ネルフ本部、廊下 ー


シンジ「ん……まだ少し眠いけどずいぶんマシかな……」トコトコ……

シンジ「寝てて授業には遅れちゃったけど、それは鈴原君たちやクラスの皆が誤魔化してくれてたし……」トコトコ……

シンジ「助かるというか、嬉しかったなあ、あれは……」トコトコ……

シンジ「訓練は、またどうせリツコやミサトに散々言われるだけだろうけど……」トコトコ……

シンジ「でも、我慢しなきゃ…………」ピタッ


訓練室の前で立ち止まるシンジ


シンジ「」スー……ハー……スー……ハー……

シンジ「よし、行こう」

プシュン……


ゆっくり呼吸を整えてから中へと入る

ー ネルフ本部、訓練室 ー


プシュン……

シンジ「碇シンジです! 訓練に来まし……綾波!?」

レイ「…………」ツカツカ


咄嗟に身構えるシンジ。構わず近くに寄るレイ


バシンッ!!


シンジ「痛っ!!」

レイ「…………」


無言で頬をはたく綾波

シンジ「綾波が何で……」ヒリヒリ

レイ「私が碇君の訓練をする事になったから……」

シンジ「綾波が……?」

レイ「ええ、そう」スッ……

バシンッ!!

シンジ「うぐっ!!」

レイ「」バシンッ!! バシンッ!!

シンジ「がっ! あぐっ!!」


シンジ「綾波……!! 何で叩くの!? 昨日、ミサトさんから話は聞かなかった!? 確か綾波にも僕の事を話したって……!」

レイ「ええ、それは聞いた……」

シンジ「じゃあ何で……!? 僕は絶対に綾波の邪魔はしないから……!! むしろ、その逆なのに何で……!!」

レイ「…碇君が私より遅く来たから……」

シンジ「それだけで……!?」

レイ「ええ、そう」スッ

バシンッ!!

シンジ「ひぐっ!!」


レイ「…………それじゃ碇君、今日の訓練を始めるから。早くエントリープラグの中に入って」クルッ

レイ「」スタスタ


シンジ「そんな……綾波まで…………!」


無表情のまま踵を返す綾波
思わず泣き出しそうになるのをぐっと堪えるシンジ

ー エントリープラグ内 ー


シンジ「うっ……やっぱりまだこの中は少しだけ怖い…………」ガクガク

シンジ「それに頬が痛い…………」ジンジン

レイ『……それじゃ碇君。訓練を始めるから』

シンジ「」ビクッ

シンジ「う、うん……!」

レイ『……まずは碇君。ATフィールドの中和を覚えて』

シンジ「ATフィールド……?」

レイ『……ええ、そう。とりあえず今日はそれだけ』

シンジ「あ、あの、綾波……。ATフィールドって何……?」

レイ『……ATフィールドは心の壁。……人が人の形でいられる為のもの』

シンジ「……えっと……綾波……。言ってる事がよくわからないんだけど……」

レイ『……詳しい事はいいから。とりあえず覚えて。これを覚えないと…………』


そこで不意に途切れるレイの言葉


シンジ「……綾波?」

レイ『……じゃあ…始めるから』

シンジ「あ、うん…………」コクン


よくわからないままうなずくシンジ

ー 訓練終了後 ー


シンジ「……終わった」

シンジ「でも……良かった……。訓練自体はまともだった……。ミサトとかリツコの時は酷かったから……」

シンジ「」スタスタ


プシュン……


訓練室に戻って来るシンジ


シンジ「あの……綾波」

レイ「何……?」

シンジ「もう僕、帰っていいんだよね? 早くしないと掃除とか料理の時間がなくなっちゃうから……」

レイ「ええ。もう帰っていいわ」

シンジ「あ、うん、じゃあまた明日……」クルッ

レイ「碇君、待って」

シンジ「?」

レイ「これ……」スッ

シンジ「本……? ずいぶん分厚いけど……?」

レイ「エヴァの起動マニュアル。それとこれも……」スッ

シンジ「これは……?」

レイ「ノート型の外部端末」

シンジ「へえ……。でも、これをどうして僕に?」

レイ「明日までにエヴァの起動方法を覚えてきて。次からはこれを使って全部一人でやってもらう事になるから」

シンジ「明日まで……!? これだけ分厚い本を全部読んで覚えろって言うの!? そんなの無茶だよ! 読むだけでも三日ぐらいかかりそ」

バシンッ!!

シンジ「あぐあっ!!」

レイ「明日まで」

シンジ「そ、そんな無理だよ……!!」

バシンッ!!

シンジ「ぐっ!!」

レイ「全部、必要な事だから……。死にたくなかったら覚えてきて」

シンジ「で、でも……!!」

バシンッ!!

シンジ「がっ!!」

レイ「……必ず、覚えてきて」キリッ

シンジ「……綾……波?」


シンジの瞳を見つめ、ものすごく真剣な表情を見せる綾波

その真剣さに口を挟めなくなるシンジ


レイ「……覚えてきてなかったら、また叩くから」クルッ

レイ「」スタスタ……


プシュン……


シンジ「……これ、全部だなんてそんな……!」


途方にくれるシンジ…………

ー 夜 ー

ー ミサト宅 ー


ミサト「あれ? シンジ君、その頬どうしたの? なんか腫れてるけど?」

シンジ「あ、えっと……その…………」

ミサト「うん?」

シンジ「…………今日の訓練の時…………その…………」

ミサト「訓練? レイに何かされたの?」

シンジ「…………あ、いえ、あの…………」フイッ

シンジ「……よそ見してたら壁にぶつかっちゃて…………」

ミサト「へー。壁にね。相変わらずどんくさいわね、シンジ君は」

シンジ「ご、ごめんなさい…………」

ミサト「ま、これからは気をつけるようにしなさいよ。レイに迷惑をかけないようにね」

シンジ「はい…………」

ミサト「あっ、そうそう、シンジ君。リツコから聞いたんだけど、明日、碇司令と連絡が取れるようになるそうよ」

シンジ「ホントですか?」パアッ

ミサト「は? 私が嘘を言うとでも思った訳?」ジロッ

シンジ「ち、違います! そういうんじゃなくて、ただ驚いたものですから!」アセアセ

ミサト「ふーん……。まあ、いいわ。で、シンジ君」

シンジ「はい!」

ミサト「エヴァに乗りたいようなら、しっかりお父さんを説得するのよ、いいわね?」

シンジ「はい、大丈夫です!」

ミサト「一応先に言っておくけど、碇司令に心配がかからないよう説得するのよ。シンジ君が今みたいに使えないやつだってわかったら、司令は絶対にエヴァに乗せてくれないだろうから、そこは上手く誤魔化しなさい。わかった?」

シンジ「……はい」

ミサト「うん。それならいいわ。私の方でも出来るだけ誤魔化しておくから。じゃ、明日学校終わったら発令所に来なさい。連絡とってあげるから」

シンジ「はい!」

ミサト「よろしい。で、今日のご飯は何?」

シンジ「あ、今日は湯豆腐です。カロリー低いし、栄養もあるので……」

ミサト「湯豆腐かあ……。久しぶりね、いいじゃない」ニコッ

シンジ「あ、ありがとうございます!」

シンジ(……良かった。時間なかったから簡単に出来るやつを選んだんだけど、助かった……)ホッ

ー 晩ご飯終了後 ー

ー ミサト入浴中 ー


スマホ「」Prrrrrr、Prrrrrr

シンジ「あれ、電話……?」

シンジ「……木田さんからだ」ピッ

シンジ「もしもし?」


木田『ああ、シンジ君か。その後どうだい? 酷い事はされてないか?』

シンジ「……何とかやってます…………」

木田『そうか……。相変わらずか……。だが、今日はいい知らせが二つもある。君の辛抱もあと少しだ』

シンジ「いい知らせですか?」

木田『ああ。だが、その前に一つ確認しておきたい事がある。今、周りに人はいるかい?』

シンジ「あ、いえ……。ミサトは今、お風呂に入っているので、僕一人だけです」

木田『そうか。それならいい。念を押すようで悪いが、僕や曽根の事は誰にも言わないでくれ。もちろん戦自との繋がりの事も。ネルフの誰かに気づかれるとお互い不幸な事になる』

シンジ「はい、わかっています」コクン

木田『じゃあ早速本題に入ろう。あまり時間もないようだしな。もし葛城三佐が風呂からあがるようならすぐに電話は切ってくれ。その時はこちらに何か言う必要はないから』

シンジ「はい」

木田『まず一つ目のいい事だが、君をエヴァのパイロットにするよう、政治家の誰かが……これは俺も知らないんだが、とにかくその誰かが働きかけてくれたそうだ』

シンジ「そうですか。良かった……」ホッ

シンジ「それで話はまとまったんですか?」

木田『いや、司令が不在というのを理由に保留されたそうだ。とはいえ、近いうちに返事をもらうという約束は取り付けたそうだが』

シンジ「…………そうですか……」

木田『そう気を落とした声を出すな。大きな組織で即決する事なんてのは滅多にないんだ。多少、時間がかかるのは仕方がない』

シンジ「そうですね……。あっ、そういえばさっきミサトから聞いたんですけど、明日には父さんと連絡がつくって……」

木田『それは初耳だが……。しかし、都合がいいな。それなら明日、君の方からも電話してお願いしてみるといい。日本政府からの非公式な要請もあるのだから、無下には出来ないはずだ。君にとっては強力な援護射撃という事になる』

シンジ「はい。ありがとうございます」

木田『で、もう一つの良い知らせの方だ。君のマンションを借りておいた。いつでも住めるから、早い内に引っ越してくるといい。そこでは大変だろう』

シンジ「あっ!」

木田『どうした?』

シンジ「いえ、あの……。引っ越し、出来ないんです……。ミサトがここに住めって言ってるので……」

木田『……そうなのか?』

シンジ「はい……。エヴァのパイロットとして僕を教育するとかで…………。実際はいいように使われてるだけですけど…………」

木田『そうか…………。それも何とかならないのか? 君のお父さんに相談してみるといいと思うが……』

シンジ「……駄目なんです。ミサトの機嫌を損ねるとエヴァに乗れなくなるんです。パイロットとして登録されても、使徒が来た時に出撃させてくれなかったら意味がないので……」

木田『…………そうか、わかった』ハァ……

木田『しかし、ネルフはやはりどうかしてるな……。機嫌一つで作戦が決まるのか…………』

シンジ「………………はい」シュン……

木田『ああ、いや、すまない。君の立場を考えず失言を吐いた。許して欲しい』

シンジ「あ、いえ、謝らなきゃいけないのは僕の方です。折角マンションを用意してもらったのに、そこに住めないっていうのを言い忘れてて……」

木田『なに、それは構わないさ。君は君で色々と大変だろうからな……。まあ、マンションの方はとりあえず保留にしておこう。その内、使う日も来るかもしれない』

木田『とりあえず住所を言うからそれをメモしてくれないか』

シンジ「あっ、はい」

シンジ「」カキカキ

シンジ「終わりました」

木田『よし。ああ、それとあと一つだけ。今から言う住所と電話番号もメモして欲しい』

シンジ「あ、はい……」カキカキ


シンジ「あの……メモし終えましたけど、ここは……?」

木田『そこは病院だ。第三新東京市のではないが、君にとってはそっちの方が都合がいいだろう』

シンジ「病院……」

木田『そこの院長とは話がもうついてるから、仮に君がそこで診療を受けたとしても絶対に外部に漏れる事はない』

木田『だから、人に言えない怪我とか……』

木田『……少し言いにくいが、心の怪我とかもだな。精神安定剤だとか抗鬱剤だとか睡眠薬だとか、そういったものも言えば処方してくれるはずだ……』

木田『もしも必要だと感じた時は必ずそこに行ってくれ』

木田『…………それと、君はいつだってそこから逃げていいという事も忘れないで欲しい』

木田『軍では、民間人の避難は女子供を最優先させる。これは世界共通のルールだ』

木田『子供にそこまでの事を強いる権利は俺たち大人にはないんだ……』

シンジ「………………」

ー 電話終了後 ー

ー シンジの部屋 ー


シンジ「明日……父さんと話をするのか……」

シンジ「何からどうやって話したらいいんだろう……」

シンジ「綾波との事をそのまま話したら……」

シンジ「駄目だ……。綾波は僕を庇ってくれたんだから……それを話す訳にはいかないや……」

シンジ「それに……父さんも……」

シンジ「父さんがまともだって保証なんか何一つないし…………」

シンジ「使徒が来てたのに、僕とどうでもいい話ばかりして…………」

シンジ「………………」

シンジ「」ウッ……

シンジ「なんか泣きたくなってきた…………」グスン……

シンジ「これだけ分厚いマニュアルを全部今日中に覚えろって綾波には言われたし……」

シンジ「出来っこないよ、そんなの……」グスン……

シンジ「母さん……助けてよ…………」グシュッ……

シンジ「うっ……」ゴシゴシ


そう言いながらも、涙を拭いて操作方法の勉強にとりかかるシンジ…………

ー ネルフ本部、司令室 ー


ブンッ

SOUNDONLY『なんだ、冬月』

冬月「碇か。今日の内に通信が繋がって助かった。少し面倒な事になってな」

SOUNDONLY『面倒?』

冬月「ああ、初号機パイロットの件だ。与党の幹事長が今日直接私のところに来て文句を言ってきた。どうして彼のパイロット登録を抹消したんだとね」

SOUNDONLY『……パイロットの件については部外秘のはずだが』

冬月「漏れるところからはだだ漏れだ。今に始まった事ではないがな」

SOUNDONLY『しかし、何故、初号機パイロットの事で文句を言われる?』

冬月「お前の息子は使徒を二体倒してる。一方レイの方には実績がない。実積があるパイロットの登録を抹消するというのは納得がいかないという事だ」

冬月「それと、ここには二体エヴァがあるのに、パイロットが一人というのも備えとしては不十分だろうとな。保身ばかり気にかける彼ららしいと言えばらしいが」

SOUNDONLY『言いたい連中には言わせるだけ言わせておけばいい。どうせ彼らには何も出来んよ』

冬月「しかし、体裁上は取り繕わなければならないのは事実だ。それに葛城君から聞いた話では、お前の息子もエヴァに乗りたがっている」

SOUNDONLY『……シンジが?』

冬月「ああ、そうだ」

SOUNDONLY『しかし、冬月……』

冬月「お前の言わんとしている事はわかる。だが、それは逃げではないのか?」

SOUNDONLY『………………』

冬月「何の為にお前は自分の息子を呼んだのだ? エヴァのパイロットとしてだけではあるまい。我々の目指すところはその先にある」

SOUNDONLY『………………』

冬月「少しは息子の話も聞いてやれ。逃げてばかりでは先へと進めないのだからな」

SOUNDONLY『……わかった』

ブンッ


冬月「逃げてばかりでは、か…………」

冬月「説教する資格など私もないがな…………。逃げてばかりだ、私も…………」フゥ……

ー 翌日 ー

ー 学校 ー


シンジ「おはよう…………」ウトウト

トウジ「センセ、どないしたんねん!? 顔腫れ上がっとるし、目が真っ赤やないか!?」

シンジ「……何でもないよ…………。ごめん、今日も寝るから……」コテン

トウジ「何でもないて、何でもない訳ないやないか! どないしたんねん、センセ!」ユサユサ

ケンスケ「またあのおばさんに叩かれたのか、碇ぃ……?」ハラハラ

シンジ「……そうじゃないけど…………。でも、今はもうどうでもいいんだ…………。昨日、徹夜したから……。お願いだから少しだけでも寝させて…………」ウトウト

ケンスケ「寝させてって…………。でも、もうすぐ先生が来ちゃうし…………」

トウジ「……ろくに寝られへんやろ…………」

シンジ「五分だけでも全然違うから…………」ウトウト


ケンスケ「…………」

トウジ「なあ、ケンスケ……何とか碇を寝させられへんかいな……」

ケンスケ「そうは言ってもさ……」

ヒカリ「待って。私にいい考えがあるから」

トウジ「委員長?」

ヒカリ「碇君を保健室に連れていくの。熱があるって言えば、ベッドで寝させてもらえる事は出来るはずだから。温度計は私が何とか誤魔化すからきっとなんとかなる」

トウジ「ホンマか!? 頼むわ、委員長!」

ヒカリ「任せて」ニコッ

ヒカリ「さ、碇君。行きましょ。立てる?」

シンジ「え……あの……でも…………」ウトウト

ヒカリ「大丈夫。碇君は何にも心配しなくていいから。先生にもうまく言っておくし」

ケンスケ「嫌だって言っても連れていくからな、碇」

トウジ「せや。わいらに任しとき」

シンジ「みんな……ありがとう……」


そのまま保健室に連れていかれるシンジ


レイ「………………」


それを黙ったまま眺めるレイ

ー 学校終了後 ー

ー ネルフ本部、発令所 ー


ミサト「ああ、来た来た」

シンジ「あ、あの、ミサトさん。父さんと連絡が取れるって……」

ミサト「ああ、うん。ちょうど今、繋がってるところ。司令室へ行くわよ」

シンジ「は、はい!」

ー ネルフ本部、司令室 ー


プシュン……

ミサト「葛城三佐です。サードチルドレンを連れてきました」

冬月「そうか。御苦労だったな」

ミサト「いえいえ、大した事ではないので」

シンジ「あの……父さんは……」

SOUNDONLY『シンジか……』

シンジ「あ、はい!」

SOUNDONLY『葛城三佐から既に話は聞いている。エヴァのパイロットになりたいそうだな』

シンジ「う、うん……!」

SOUNDONLY『そうか…………』

シンジ「うん…………」


SOUNDONLY『………………』

シンジ「………………」


SOUNDONLY『……学校ではうまくやってるそうだな。友達もたくさん出来たと聞いた』

シンジ「え? あ、うん…………」コクン

SOUNDONLY『そうか…………』

シンジ「うん…………」


SOUNDONLY『………………』

シンジ「………………」

SOUNDONLY『……学校では』

シンジ「うん……」

SOUNDONLY『人気者だというのも聞いたが……』

シンジ「……??」

SOUNDONLY『違うのか?』

シンジ「あ、えと……」チラッ

ミサト「」コクン

シンジ「あ、う、うん。みんな良くしてくれてるよ」

SOUNDONLY『そうか……。それならいい』

シンジ「……うん」

SOUNDONLY『……バスケ部にも入ったそうだな。そちらはどうだ?』

シンジ「????」

シンジ「あ、えと……あの…………」チラッ

ミサト「」コクン

シンジ「ちょ、ちょっと練習がきついかな……。毎日くたくたになっちゃって…………」

SOUNDONLY『そうか……。大変かもしれないが、頑張るんだな』

シンジ「あ、えと、あの…………うん…………」

SOUNDONLY『……父さんは学生時代は帰宅部だった』

シンジ「あ、そうなんだ…………」


SOUNDONLY「………………」

シンジ「………………」


SOUNDONLY『……シンジ、今はきついかもしれないが、人は慣れる生き物だ』

シンジ「うん…………」

SOUNDONLY『その内、そのきつさにも慣れていくはずだ』

シンジ「……うん」

SOUNDONLY『耐えていれば、その内、良い事もある』

シンジ「うん……」

SOUNDONLY『それを覚えておけ』

シンジ「……わかった」

SOUNDONLY『もしも、お前が試合に出られるような事があればその時は……』


冬月「碇、話の腰を折ってすまないが、そろそろ時間だ。ドイツ支部と連絡を取る約束になっていただろう」

SOUNDONLY『……そうか。わかった』ショボン……

シンジ「あの、父さん、僕をエヴァのパイロットにするって話は……」

SOUNDONLY『その件は葛城三佐に一任すると決めてある。……葛城三佐』

ミサト「はい」キリッ

SOUNDONLY『すまないがシンジの事をよろしく頼む。迷惑をかける事も多いだろうが、これまで通り良くしてやってくれ』

ミサト「はい、お任せ下さい」

SOUNDONLY「では、冬月。後を頼む。そちらに戻るまで、あと二週間以上はかかるだろうからな」

冬月「船だからな、それは仕方があるまい。また何かあったら連絡する」

SOUNDONLY『ああ』

ブンッ……

ミサト「……という事でシンジ君。あなたをエヴァンゲリオン初号機の予備パイロットとして正式に再登録します」

シンジ「はい!」パアッ

ミサト「よろしいですね、副司令?」

冬月「ああ。私からは何もない……」

冬月(言ったところで無駄な事だしな…………)

ミサト「では、のちほど正式な書類をお持ちしますので、それに判をお願いします」

冬月「わかった……。サードチルドレンは君に任せよう」フゥ……

ミサト「ご理解が早くて助かります。いつもこうならありがたいんですけどね」

冬月「………………」

ミサト「それじゃ、シンジ君。行きましょうか。これから訓練があるんでしょ?」

シンジ「あ、はい…………」チラッ

冬月「」フゥ……


プシュン……


二人が去った後、もう一度ため息をつく冬月


冬月「ナオコ君が生きていればもう少しマシだったのだろうが……」ハァ……

ー ネルフ本部、訓練室 ー


シンジ「えっと……これでエントリープラグにLCLを注入…………」カタ……カタ……

レイ「…………」


自分で書いたメモを見ながら、外部端末を使って起動操作していくシンジ

それを横で眺めるレイ


シンジ「で、起動は……これかな?」ポチッ


ガコッ!


不意に飛び出すエントリープラグ


ブシュッ!!


そしてLCLの緊急排水


レイ「」スッ

バシンッ!!

シンジ「あぐっ!!」


無言で飛ぶ強烈なビンタ…………

ー 訓練終了後 ー

ー トイレ ー


シンジ「いたた……」ヒリヒリ

シンジ「間違えると容赦なく叩かれるや……」バシャバシャ


顔を洗って頬を冷やすシンジ


シンジ「……さっきよりはマシかな…………」


鏡を見て頬の腫れ具合を確かめる


シンジ「結局、今日は起動操作だけで終わっちゃったか……」

シンジ「それに……」チラッ

シンジ「また新しいマニュアル本が…………」ハァ……

シンジ「今度は都市の戦闘形態へ移行だとか他にも色々…………」

シンジ「エヴァのパイロットってこんなに覚える事が多いんだ…………」ハァ…………


深いため息を吐くシンジ



それから12日後…………



ー ミサト宅 ー


ミサト「シーンちゃん♪ ちょっとこっちおいで」

シンジ「」ビクッ

シンジ「あ、あの、何ですか、ミサトさん! 何か僕、また失敗とかしてました!?」タタタッ

ミサト「?」

ミサト「んーん、そんな事ないわよー。最近シンちゃんよくやってくれてるし」

シンジ「そ、そうですか……」ホッ

ミサト「まあ、あくまでそれは私の指示の範囲内ってだけで、一人前にはまだ程遠いけどねー」

シンジ「ご、ごめんなさい……」

ミサト「まあ、そこらへんはおいおいね。今までのクズっぷりを考えるとそれだけでも大した進歩よー」

シンジ「あ、ありがとうございます!」

ミサト「うん、でね。レイから昨日聞いたんだけど、訓練の方もだいぶ良くなってるみたいじゃない。あのレイが珍しく誉めてたわよ」

シンジ「綾波が…………?」ソッ


無意識に自分の頬を触るシンジ


シンジ(未だによく引っ張ったかれるんだけど…………)

シンジ(エヴァの起動や発進とか大体の事はもう覚えたのに…………)


ミサト「だからさ、シンちゃんにご褒美をあげようと思ってね」

シンジ「え?」

ミサト「なによ、その顔は? 嬉しくないの?」

シンジ「い、いえ、すごく嬉しいです! ちょっと驚いちゃったんで!」アセアセ

ミサト「うん。そうよね」ニコッ

ミサト「じゃあ、はい、これ」スッ

シンジ「……何ですか、これ?」

ミサト「銀行のキャッシュカード。通帳はこっちね」

シンジ「キャッシュカード……」

ミサト「ほら、この前シンちゃん正式にエヴァのパイロットになったでしょ?」

シンジ「あ、はい……」

ミサト「って言ってもシンちゃんはまだ中学生だから、法律上は正式雇用じゃなくて単なるお手伝いって事になってるのね」

シンジ「そうなんですか……」

ミサト「もう少し正確に言うと、民間人の自主的協力者って事になってるのかな? でも、それだとお給料が出ないからさー。シンちゃんだって色々と欲しい物とかあるでしょ?」

シンジ「あ……えと……」

ミサト「だから、それは私からのおこづかい。これからは毎月渡していくから、好きなように使っていいわよ」ニコッ

シンジ「…………」

シンジ(……覚える事がまだたくさんあるし、ミサトの世話で時間なんか全くないから、使う事なんかまずないだろうけど……)

シンジ「わ、わあい、嬉しいなあ! ありがとうございます、ミサトさん!」

ミサト「うんうん。でも無駄遣いしちゃあダメよん」チョン

シンジ「は、はい! 気をつけます!」

ミサト「ま、大した金額じゃないから、そんな無駄遣いするほどもないだろうけどね」

シンジ「えと……いくら入ってるか、見てもいいですか?」

ミサト「いいわよん♪」

シンジ「楽しみだなあ。どれだけ入ってるんだろう」ペラッ

シンジ「え……これ…………」

シンジ「0がいくつも…………1、2、3……」

シンジ「に、二百万円!?」

ミサト「ん? 少なかった?」

シンジ「あ、あ、あの…………」オロオロ

シンジ「こ、こんなにもらってもいいんですか、ミサトさん……?」オズオズ

ミサト「いいわよ、別に。それ、シンちゃんのお給料みたいなものだからさー」

シンジ「で、でも……」

ミサト「それにホントはもっと多いんだけどね。レイには毎月二千万円渡してるし」

シンジ「二千……万……!!」

ミサト「人類を守ってる訳だし、それぐらいは当然でしょ。特にパイロットなんてメインな訳だしさ」

シンジ「あの……でもこれ、ミサトさんのお給料から出てるんですよね……?」

ミサト「ううん。違うわよ。いくら私でもそんだけのお給料はもらってないわよ」

シンジ「じゃあどこから……」

ミサト「それさー。ネルフの年度予算から」

シンジ「予算……?」

ミサト「そ。ネルフには色々な予算があるんだけど、その中に対人防衛予算ってのがあるの。でもさあ、ネルフを襲おうとする人なんかいるわけないじゃない? ここがぽしゃったら全部パーになるんだからさ」

シンジ「………………」

ミサト「だからその予算を、ちょいと経理を抱き込んでこっそり私の口座に入れてるのよねー。で、それを福利厚生だとかエヴァパイロットのお給料とかにあててるの」

シンジ「」

ミサト「本部にあるフリードリンクだとかプールだとかビリヤード場は全部その結果よ。他にも慰安旅行だとか忘年会や新年会とかまあ色々使ってるけど」

ミサト「で、まあ、シンちゃんにも二千万円あげようかなって思ったんだけど、シンちゃんビル壊しちゃってるから、その分は毎月弁償してくって形でね」

シンジ「あ…………」

ミサト「それで、今のシンちゃんの働きを考えたら二百万円ぐらいが妥当かなって事でそれだけ。これからのシンちゃんの頑張りによっては、少しずつ上げていってあげるつもりではあるけどね」ニコッ

シンジ(本当にメチャクチャなんだ、ネルフって…………)

スマホ「」Prrrrrr、Prrrrrr

シンジ「あれ? 電話だ……」ゴソゴソ

シンジ(木田さんから……)

シンジ「すみません、ミサトさん。ちょっと出ますね」

ミサト「ああ、うん。いいわよ」


シンジ「」ピッ

シンジ「もしもし」

木田『シンジ君か。この電話に対する返事はいらない。それに用件を言ったらすぐに切る。この電話の内容は誰にも言わず、もしも誰かに聞かれたら間違い電話だと伝えてくれ』

シンジ「……?」

木田『新たな使徒が来た。戦自の観測所からの連絡だから間違いない。すぐにネルフ本部に向かう事を勧める』ピッ

ツーツーツー

シンジ(使徒が…………)



第六使徒(ラミエル)襲来



ー ネルフ本部、地上 ー


第六使徒「」フインフイン……


第六使徒「」トウチャクー♪


第六使徒「…………」


シーン……

ー ネルフ本部、発令所 ー


マヤ「監視対象物の分析パターンは……青ですね。色もそうですけど」

リツコ「わかりやすいわね」クスッ

マヤ「ホントですね」クスクス

リツコ「さてさて、それじゃお仕事しましょうか、マヤ。ミサトや日向君に連絡を入れてくれる?」

マヤ「あ、はい。でも、多分日向君は来ないと思いますよ」

リツコ「あら、どうして?」

マヤ「今日は第二新東京市でDST48のライヴがあるそうなので」

青葉「そういう事です。あいつ、昨日からずっとその話をしてましたし」

リツコ「ああ、道理で朝から見かけなかったのね」

青葉「はい。有給も取ってるので、多分、携帯の電源も入ってないと思います」

リツコ「それなら仕方ないわね。……それにしても折角の日曜日か台無しね、マヤ」

マヤ「ホントです。今日は暇だったら編み物でもしようかと思ってたのに……」

リツコ「あら、誰かにプレゼント? ついにあなたにもいい人が出来たのかしら?」クスッ

マヤ「もう、そんなんじゃないですってば、先輩!//」

青葉「そんな照れなくても」

マヤ「青葉君までからかわないでよ!//」

リツコ「」クスクス

青葉「」ハハハッ

マヤ「もう!//」

ー ネルフ本部、地上 ー


第六使徒「…………」


シーン……


第六使徒「」キュインキュイン……


ドリルを出して穴を堀り始める第六使徒


第六使徒「…………」ガリガリ


シーン……


第六使徒「…………」ガリガリ


シーン……

ー ネルフ本部、発令所 ー


レイ「」タタタッ

レイ「遅くなりました。今から出撃します。よろしくお願いします」ペコリ

リツコ「ああ、はいはい。頑張ってね、レイ」

青葉「今度こそ写メ撮っとくよ。任せといてくれ」ニコッ

マヤ「決めポーズとか考えといてね」ニコッ

レイ「……決めポーズ……ですか…………」

青葉「やっぱりさ、そういうのがないとしまらないからね。記念だし、いい思い出になると思うよ」

マヤ「何年かした後に見ると、ちょっと照れくさかったりするんだけどね」クスッ

青葉「ま、それも含めての思い出だからさ」ハハハッ

レイ「わかりました……。考えておきます……」

マヤ「うん。じゃあ行ってらっしゃい」バイバイ

リツコ「よろしくね」

レイ「……はい」コクリ


レイ「」クルッ、タタタッ……


プシュン……


発令所から急いで出ていくレイ


リツコ「それにしても、相変わらずの愛想のなさね、レイは」

マヤ「まあ、それがあの子ですし」

青葉「ああ、そう言えばマヤちゃん。葛城さんに連絡は取った?」

マヤ「あ、ごめん、忘れてた。今から電話するね」

リツコ「ミサトも非番の日に可哀想ね」

マヤ「そうですね。まあでもこればっかりはどうしようもないですし」ガチャッ、トゥルルル、トゥルルル…………

ー その二分後 ー


プシュン

シンジ「」ダダダダダッ


リツコ「あら、シンジ君じゃない」

青葉「今回は来るのはまあまあ早かった方かな……。確かに前よりはマシになってるみたいだけど……」


シンジ「」ハァハァ、ハァハァ……

シンジ「す、すみません! 遅くなりました! 今からすぐに出撃します!」

青葉「あ?」

シンジ「」ビクッ


リツコ「」フゥ……

リツコ「シンジ君、あなたはあくまで予備よ。レイがどうしても出撃出来なかった時の為だけにいるという事をきちんと自覚しなさい」

シンジ「あ、あの、でも! 綾波は手に怪我をしていますし、格納庫には初号機がまだあったから! だか」

リツコ「黙りなさい。レイが乗ると言っている以上、あなたは意味のない存在なの。それとも、またレイから出撃のチャンスを奪う気?」キッ

シンジ「い、いえ、そういう訳じゃ……!」

青葉「だったら黙ってろよな、うっとうしい。ギャーギャー騒ぐなよ」チッ

シンジ「す、すみません……。その、だけど……」

リツコ「聞こえなかったのかしら、シンジ君? それとも聞いていたとしても理解できないほど頭が悪いのかしら? 黙りなさい」

シンジ「あ……う…………!」



マヤ「ああ、はい、葛城さん。そうなんですよ。そんな感じで友達と一緒にたまたま入ったそこのイタリアンのお店がすごい雰囲気良くって」ニコッ

ミサト『あら、いいわねー。今度私も行ってみようかなー』

マヤ「はい、是非。メニューもたくさんあったんで、きっと気に入ると思いますよ。味も本格的でしたし」

ミサト『うーん、聞いてたらなんかお腹空いてきちゃった。ねえ、マヤ。今日の夜にでも行く? 私が車を出すからさー』

マヤ「ホントですか? お願いします」ニコッ

ブンッ……

SOUNDONLY『エヴァンゲリオン零号機、発進準備完了しました』

リツコ「そう。じゃあちょっと待っててくれる」

SOUNDONLY『はい』

シンジ(綾波……。まだ手に怪我してるのに……)


リツコ「」クルッ

リツコ「マヤ、エヴァの発進準備が終わったみたいよ。ミサトにそう伝えて。それと、いつ頃こちらに来るのかも聞いておいて」

マヤ「あ、はい」

ミサト『ん? なに、エヴァの発進準備って? 今日なんかあったっけ?』

マヤ「ああ、すみません。話に夢中で言い忘れてました。えっとですね。今、本部に使徒が来てるんです」

ミサト『あ、そうなの? あらー、最悪ね。折角の休みだっていうのにさあ』

マヤ「ですよね。さっきも先輩とそんな話をしてて」

ミサト『ホントよね。で、状況は?』

マヤ「どうなんだろ……? ちょっと待ってて下さい」

マヤ「青葉君。使徒って今、何してる?」

青葉「ん? ああ、なんかドリルみたいので穴掘ってるよ。すげー地味な事してる」

マヤ「そうなの? あれだけ綺麗なのに……。なんかもったいない感じ……」

青葉「そういえば、あの使徒ってあれに似てるんだよな。占いやダウジングとかで使う振り子の…………。ええと……ええと……なんて名前だったけ、あれ?」

マヤ「ええと……ペンデュラム?」

青葉「そう、それそれ! なかなか名前が出てこなくってさ。ここまで出かかってたんだけど」

マヤ「時々あるよね、そういう事。私もこの前ね」

ミサト『ちょっとおー、マヤ。まだなの?』

マヤ「あ、ごめんなさい。つい話がそれちゃて」

ミサト『待つ身にもなってよねー、もう』

リツコ「マヤの悪い癖ね、直しなさいよ」クスッ

マヤ「すみません」テヘ

青葉「マヤちゃんだけじゃなくて、僕も悪かったですね。すみません」ハハッ


シンジ(そんな事、どうでもいいよ! 今、使徒が来てるのにっ!)イライラ

SOUNDONLY「………………」

ミサト『で、どうなの、状況は?』

マヤ「穴を掘ってるみたいですね」

ミサト『それ以外は?』

マヤ「青葉君、それ以外は?」クルッ

青葉君「いや、何も。しかも掘るのすごい遅いな。前の使徒二体に比べると、こいつ絶対ミソッカスだろ」

マヤ「ミソッカスだそうです」クルッ

ミサト『ミソッカスww』

リツコ「wwwwww」ブハッ

マヤ「……なんか先輩のツボに入ったみたいです…………」

ミサト『ああ、そうなんだ…………』


ミサト『まあ、それはさておき……』

ミサト『ミソッカスなら私がわざわざ指揮をとる程の事でもないでしょ。副司令に任せておいて』

マヤ「副司令は今日は盆栽の会に出席してていませんけど……」

ミサト『あ、そう……。全く、肝心な時に使えないわね』ブツブツ

マヤ「そうですね。必要ないと思ってまだ連絡もとってないですけど、とります?」

ミサト『いいわ。めんどくさい。それならレイに任せておいて。一応私も行くけど、その時にはもう殲滅してるでしょ』

マヤ「はい、多分。じゃあレイにはそう伝えておきます」

ミサト『うん。よろしくー』ガチャッ

ー EVA零号機、エントリープラグ内 ー


マヤ『レイ、聞こえる?』

レイ「はい」

マヤ『葛城さんが勝手に出撃していいって言ってたから、好きなようにしていいわよ』

レイ「はい」


レイ「」カタカタ
ノート型外部端末「」


レイ「……それでは出撃します」

マヤ『うん。頑張ってね』


レイ「エヴァンゲリオン零号機、発進……」カタカタ
ノート型外部端末「」ポチッ



シュバッ!!

発進するEVA零号機

ー ネルフ本部、地上 ー


第六使徒「…………」ガリガリ……


シュバッ!!


第六使徒「」ピクッ……


第六使徒「」ガシンッ!!


瞬時に形態変化する第六使徒


第六使徒「」キュイーン……


加粒子砲の準備を整える

ー ネルフ本部、発令所 ー


青葉「あれ?」

リツコ「……? どうしたの、青葉君?」

青葉「いえ、使徒の形態が変わった途端、内部に高エネルギー反応が……また故障かな?」

リツコ「あり得ないわ。この前しっかり点検して直したばかりよ」

青葉「て事は…………」

シンジ「」ハッ!!

シンジ「綾波っっ!! 避けてっ!!!」


必死の形相で叫ぶシンジ


SOUNDONLY『碇く……?』


チュドーンっ!!!!


SOUNDONLY『きゃあああぁあぁああっ!!!』


シンジ「綾波ぃ!!!!」


加粒子砲の直撃を食らう零号機…………

リツコ「あら……」

マヤ「これ、ちょっとまずくないですか、先輩?」

青葉「どうします?」


SOUNDONLY『ぁああああぁあいああああっ!!!!』


シンジ「綾波っ!!!」ダダッ!!


ほとんど反射的に、空いてる端末に飛びつくシンジ


シンジ「綾波!! 今助けるから!!」カタカタ!! カタカタ!!


そのまま急いで操作。零号機の前に防護壁を展開し、ブロックのボルトを爆破して零号機を強制的に救急ケージへと回収する


青葉「お前、何勝手な事をしてやがるっ!!」バキッ!!

シンジ「げふっ!!!」ドサッ!!


青葉に殴られ、椅子から転げ落ちるシンジ


シンジ「で、でも、こうしないと綾波が……!!」

青葉「それを決めるのはお前じゃないだろ!! 独断で判断して大変な事になったらどうするつもりだ!! 口答えするなっ!!」ゲシッ!!

シンジ「いぐっっ!!」


思いきり蹴られるシンジ…………


リツコ「……全く……ゴミね」

マヤ「最低…………なに、この子…………」


それを冷ややかな視線で眺めるリツコとマヤ…………

ー 救急ケージ ー


整備員A「おい、どうなってんだよ、これ! 何でさっき出撃した零号機がボロボロになってこっちに来てるんだ!?」

整備員B「知るか! とにかく非常時って事とレイちゃんが乗ってるのは間違いないんだ! 急いで助けろ!」

整備員C「おい、誰か! 救護班を呼んでこい! すぐにだ!」

整備員D「エントリープラグを強制的に排出させろ! こっちでも操作は出来たはずだろ!」

整備員E「それと誰か上と連絡をとれ! 何がどうなってるんだよ、これはよ!?」

ー 二十分後 ー


ミサト「ごみーん、お待たせー。途中まで見てたテレビの続きがちょっと気になっちゃってさー」テヘ

マヤ「ああ、葛城さん。おはようございます」

リツコ「休日に御苦労様。あなたもコーヒー飲む?」

ミサト「ああ、うん。もらうわー。ありがと」

リツコ「いいのよ、ちょっと待ってて」スクッ、トコトコ

ミサト「砂糖少な目でね」

リツコ「わかってる」トコトコ

ミサト「ところでさ、マヤ。何で使徒がまだいるの? レイは?」

マヤ「レイは今、医務室です。使徒の攻撃によって気絶しちゃったみたいなので」

ミサト「へ? レイが? 使徒に? 何で?」

マヤ「加粒子砲の直撃を食らったんです。出会い頭だったので、レイもよけられなかったみたいで。運が悪かったですね」

ミサト「へー……交通事故みたいなものね。まあ、そういう時もあるか……」

リツコ「でも、まあ、次は大丈夫でしょう。きっと」トコトコ

リツコ「はい、ミサト。コーヒー」スッ

ミサト「ああ、うん。ありがとー」

リツコ「熱いから気をつけてね」

ミサト「わかってるってば。で、今の状況は?」

マヤ「相変わらず使徒は穴掘ってます。それ以外は何もなしですね。青葉君はそれ見るの飽きちゃって、コンビニに立ち読みしに行っちゃいました」クスッ

ミサト「平和ねー♪ じゃあ、レイが起きるのを待ってもう一度出撃って事ね」

リツコ「ええ、そうよ。それ待ち。まあ、二、三時間後には起きるでしょ」

ミサト「となると結構ヒマね……何してよう?」

リツコ「ネットでも見ていたら。結構な暇潰しにはなるわよ」

ミサト「ま、しょーがないか。そうしてるわ。あ、そうそう、シンジ君は? あいつこっちに来てる?」

リツコ「…………ええ、来てるわ。医務室にいるはずよ」

ミサト「医務室?」

マヤ「…………レイの事が心配なんじゃないですか、きっと」

ミサト「あ、そう…………」

ミサト(なんだろ、今の間……?)

ミサト(まあいっか……)

ー ネルフ本部、廊下 ー


シンジ「えっと……綾波の病室は……」キョロキョロ

シンジ「向こうかな……」トコト


シンジ「痛っ……!」ビクッ

シンジ「さっき蹴られたところがまだ痛いや……」


奥歯を噛み締めて耐えるシンジ


シンジ「……でも、骨は折れてないってわかって良かった……。それに綾波も無事だったみたいだし…………」

シンジ「……それにしても、相田君や鈴原君の話を聞いてて助かったよ…………。あんなに物に弱いとは思わなかったから……」

シンジ「テレビに洗濯機に冷蔵庫…………全部、最新型だから多分七十万円ぐらいかかるけど、どうせ使わないお金だからいいか…………」

シンジ「」テク……テク……

シンジ「ここだ……」

シンジ「空いてるかな……?」ガチャッ……

シンジ「……入るよ、綾波」ソッ

ー ネルフ本部、病室 ー


シンジ「」テクテク……

シンジ「綾波……寝てるの?」

レイ「……」スースー、スースー……


ベッドに横たわり静かに眠っているレイ


シンジ「……気絶してたって聞いたからまだ起きてないんだ…………」

シンジ「…………起きるまで待とう」

シンジ「」ソッ……ストン


近くの椅子に座るシンジ……

ー ??? ー


レイ『……ここは?』

レイ『壊されたはずの私の家…………でもスイカ畑がない…………』


チビレイ「お母さん、待って……」タタタッ

ナオコ「はいはい。慌てなくても置いていかないわよ。ゆっくり来なさい」ニコッ


レイ『お母さん……。それに……私……?』


ナオコ「ほら、ここ。司令に頼んで建ててもらったの。今日からここがあなたと私の家よ」

チビレイ「ここに住むの…? もう水槽の中には入らなくていいの…?」

ナオコ「ええ。あれはもうおしまい。それとカプセルの食事もね。これからは私が色々作ってあげるわ」ニコッ

チビレイ「食事……?」

ナオコ「ええ、そう。お母さん、結構得意なのよ。って言っても、もう何年も作ってないから少し心配だけど」

チビレイ「心配……?」

ナオコ「上手く作れるか自信がないって事。そうだ、レイもお手伝いしてくれる?」

チビレイ「うん……する。なんだかよくわからないけど、お母さんを手伝う」

ナオコ「そう。レイはやっぱりいい子ね」ナデナデ

チビレイ「…………//」

ナオコ「どうしたの?」

チビレイ「……頭を撫でられるとなんだかポカポカする…//」

ナオコ「ふふ、そう」ニコッ

ナオコ「そういうのはね、照れるとか嬉しいとかそういうのよ」クスッ

チビレイ「てれる……うれしい…………」

ナオコ「ええ。その内レイにもわかるわ」

チビレイ「うん…//」


レイ『……お母さん………………』

ヒュン……


レイ『景色が……変わった……?』

レイ『ここは……スイカ畑……?』


ナオコ「そう。そうやって穴を掘って……」

チビレイ「こう?」ザクザク

ナオコ「それだと掘りすぎよ」クスッ

ナオコ「そんなに深く掘らなくていいわよ。これぐらい」ザク……

チビレイ「んー……?」ザク……

ナオコ「うん。そう。それでこの種を中に入れて……」

チビレイ「うん」コロン

ナオコ「それでまた土を被せて埋めるの」

チビレイ「んしょ」ザッザッ

ナオコ「次はこっちね」

チビレイ「うん。……ねえ、お母さん」

ナオコ「何?」

チビレイ「これ、何が出来るの?」

ナオコ「それは秘密♪ 育ってからのお楽しみよ」

チビレイ「やだ。教えて」

ナオコ「じゃあヒント。大きくて甘い物よ」

チビレイ「……?」

ナオコ「そして、お母さんの好きな物」ニコッ

チビレイ「……なんだろう?」

ナオコ「なんだろうね」クスクス

チビレイ「うー…………」


レイ『スイカ……』

レイ『お母さん、毎年……美味しいって食べてた……』

レイ『私が育てたスイカだからって…………』

ヒュン……


レイ『また景色が……』

レイ『今度は家の中……』


レイ「ねえ、お母さん。勉強、退屈。テレビ見ていい?」

ナオコ「ダメ」

レイ「だってさあ」


レイ『私も大きくなってる……10才ぐらい?』


ナオコ「今、あなたに必要なのは勉強。将来きっと役に立ってくれるんだから」

レイ「でもー……」

ナオコ「でもじゃないの。その問題集が終わったら見てもいいからそれまで我慢よ」

レイ「はーい……」シブシブ

ナオコ「でも、レイ。あなたが賢くて本当に良かったわ。流石、私の娘ね」ニコッ

レイ「やめてよ、お母さん。照れるでしょ//」

ナオコ「はいはい」クスッ

レイ「あ、そういえばお母さん。ここよくわからないんだけど。この三角関数」

ナオコ「ああ、それ。これはね……」


レイ『お母さん……。勉強の教え方うまかった……』

レイ『赤木リツコ博士の親だもの……』

レイ『……だって、私のお母さんだもの…………』

ヒュン……


レイ『今度は……山?』

レイ『そういえば一度だけお母さんとキャンプに……』


レイ「ほら、お母さん、早くー♪ 遅いよー」

ナオコ「仕方ないでしょ。ずっと研究ばかりでろくに運動なんかしてなかったんだから」

レイ「言い訳、言い訳♪」

ナオコ「それよりもレイ。はしゃぎすぎよ、あなた。そんなに嬉しい?」

レイ「だってさ、外に出るのかなり久しぶりだもん。確かにジオフロント広いけどさー、もう飽きちゃったからねー」

ナオコ「そう……。ごめんね、レイ。お母さん、ずっと暇がなくて」

レイ「いいの、いいの。それよりお母さん、ほら景色見て! すごい綺麗だよ♪」

ナオコ「ほんとね。綺麗……」

レイ「お母さん、感動が足りない。こんなに綺麗なのに」

ナオコ「わかってる。でもレイ、その前にちょっと休憩しましょ。お母さん、疲れちゃった」

レイ「だらしないなあ、まったくー」

ナオコ「お母さんだって、そんなに若くないのよ、もう」

レイ「普段はまだまだ若いって言ってるくせに」

ナオコ「それとこれとは別」

レイ「はいはいっと♪」クスクス


レイ『よく笑ってる……昔の私……』

レイ『今の私は、もう笑い方なんて忘れてしまったけど…………』

レイ『……お母さん、そういえばこの頃からあまり笑わなくなった…………』

ヒュン……


レイ『今度は……格納庫……?』

レイ『どうして……?』


ナオコ「」フラフラ


レイ『お母さん……? 酔ってるの……? 歩き方が……変』


ナオコ「零号機…………」フラフラ

ナオコ「レイが明日乗る機体…………」フラフラ

ナオコ「ごめんね、レイ……。ごめんね……」フラフラ


レイ『お母さん……! 何、その瓶……? それに、何で私に謝ってるの……?』


ナオコ「お母さん、もうダメみたい……。もう疲れちゃった……。もう生きていたくないの……。嫌なの……」カタカタ

ガコッ……


レイ『エントリープラグが……! お母さん、まさか……!?』


ナオコ「ごめんね、レイ……。ごめんね……ごめんね……ごめんね……ごめんね……ごめんね……」フラフラ


レイ『お母さん! ダメ、やめて! 入らないで!! その中に入っちゃダメ!!』


ナオコ「」スッ……


レイ『お母さん!! やめて!! お母さん!! お母さん!!!』

レイ『やめてぇっ!!!!』

ー ネルフ本部、医務室 ー


レイ「」ハッ!!

レイ「」ハァハァ……ハァハァ……

レイ「……夢………………」ハァハァ…………


シンジ「綾波……? 気がついたの?」

レイ「……? …………碇君?」ソッ……


シーツをどけてゆっくり起き上がるレイ


シンジ「大丈夫? なんかうなされ……うわっ!?///」

レイ「……?」

シンジ「あ、あの、綾波! シーツを戻して! 胸が見えてる……!! 綾波、今、裸になってるから!///」

レイ「シーツを?」

シンジ「いいから戻して!///」

レイ「…………」スッ……

レイ「……これでいい?」

シンジ「う、うん……///」ドキドキ

シンジ「……//」ゴクッ


思わず生唾を飲むシンジ

レイ「…………」

シンジ「…………//」ドキドキ


レイ「……碇君」

シンジ「あ……ご、ごめん!// でも、ちょっとしか見てないから……///」

レイ「碇君はどうしてここに?」

シンジ「あ、その……綾波が心配だったから……//」

レイ「……心配…………」

シンジ「だから、あの、綾波が起きるまでここにいようかと思っただけで……。べ、別に見るつもりだとか、そんなつもりは全くなくて……」

レイ「使徒は……?」

シンジ「え……。あ、えーと……まだ上にいると思うよ。こっちに来てからどこにも行ってないから、よくわからないけど…………」

レイ「……そう。……私の外部端末はどこ…?」

シンジ「あ、それはすぐ横の棚の中に」

レイ「ここ?」スルッ……

シンジ「あ、だ、だから綾波!/// シーツで隠しててよ!///」

レイ「どうして?」

シンジ「どうしてって……!/// あ、えと、その……!/// ちょ、ちょっと待ってて! 何か着るもの取ってくるから!///」ダダダッ

ガチャッ、バタンッ


レイ「…………」


レイ「」スッ……
ノート型外部端末「」


レイ「」カタカタ
ノート型外部端末「」…………


レイ「…………」


レイ「」カタカタ
ノート型外部端末「」…………


レイ「…………」


レイ「ダメ……。起動しない……。壊れてるのね…………」

レイ「代わりを取ってこないと……」ソッ……

レイ「」スタスタ


全裸でそのまま外に出ようとするレイ

ガチャッ、バタンッ


シンジ「綾波。入院用のガウンがあったから、これに……いっ!?///」

レイ「?」

シンジ「綾波!/// そんな格好で立ってないでよ!/// これ着て!!///」スッ

レイ「……これを着ればいいの?」

シンジ「う、うん!/// あ、あの、僕、部屋の外に出てるから!///」ダダダッ

ガチャッ、バタンッ


レイ「…………」

レイ「」スッ……

レイ「」モゾモゾ


素直にガウンを着るレイ

ー 廊下 ー


シンジ「はー……びっくりした……///」ドキドキ

シンジ「綾波、恥ずかしくないのかな……///」ドキドキ

シンジ「僕の方が恥ずかしいじゃないか……///」ドキドキ


ガチャッ


レイ「…………」

シンジ「あ、綾波……着替え終わったんだ//」ドキドキ

レイ「」クルッ、スタスタ……

シンジ「あ、待って。綾波! どこ行くの?」

レイ「…外部端末が壊れてたから、新しいのを代わりに持ってこないといけないの」

シンジ「それなら僕が行くよ。綾波は寝ててよ」

レイ「…………」

シンジ「病室に僕の外部端末があるから、とりあえず綾波はそれを使ってて。部屋の隅に置いてあるから」

レイ「……わかったわ」

シンジ「あんまり動いちゃダメだよ!」タタタッ


レイ「………………」

レイ「」クルッ、スタスタ

ガチャッ……


再び医務室に戻るレイ

ー 医務室 ー


レイ「」スタスタ

レイ「……これね」
ノート型外部端末「」

レイ「」カタカタ


使徒との戦闘データを呼び出すレイ


レイ「…………」


データを見ながら考え込む


レイ「」カタカタ
ノート型外部端末「」


端末を操作してMAGIに計算させるレイ


レイ「………………」


再び深く考え込むレイ…………

ー 十数分後 ー


ガチャッ

シンジ「お待たせ、綾波。持ってきたよ」

レイ「………………」

シンジ「綾波……? どうしたの? 何か考え事?」

レイ「……ええ」

シンジ「……そう…………」ソッ、ストン……


よくわからないまま近くの椅子に座るシンジ


レイ「………………」

シンジ「………………」


しばらくそのままの状態が続く

シンジ「その……綾波。何を考えてるの?」

レイ「…………使徒を倒す方法……」

シンジ「……そう、なんだ。でも、綾波が考えなくても……」

レイ「私が考えないと、きっとまた同じ結果になるから……。また同じ目にあうから……」

シンジ「………………」


シンジ(……確かにそうかも…………。ミサト、かなり適当だし…………)

シンジ(……まともな作戦なんか立てる訳ないか…………)

シンジ(…………なのに、何で綾波はまたエヴァに乗ろうとしてるんだろう……)

シンジ(あんな目にあったのに…………)

シンジ(下手したら死んでたかもしれないのに…………)

シンジ(どうして……?)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


レイ『……後悔…してるから……』

シンジ『…後悔……?』

レイ『そう。後悔……』コクッ……

シンジ『……何に対して…?』

レイ『……警告に…対して……』

レイ『私には……もうそれ以外何も残ってないから…………』

レイ『後は……ネルフ本部が壊れないようにするだけだから…………』

シンジ『……綾波の言ってる事が……僕にはよくわからないよ………』

レイ『わかる必要はないから……。それに、碇君はわからない方がいいの……』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


レイ「………………」

シンジ「………………」


シンジ(どうしてなんだろう…………)

シンジ「……綾波……あのさ…………」

レイ「……何?」

シンジ「今度は僕がエヴァに乗ろうと思うんだけど……」

レイ「必要……ないから」

シンジ「だけど……」

レイ「必要ないの。……いらないの、碇君は」

シンジ「……綾波が乗るって言ってる限り、僕はエヴァに乗れないんだ。だから……」

レイ「……だから碇君はいらないの…。私が乗るから」

シンジ「…………でも、綾波はケガしてて、そのケガは僕が……僕のせいだから……」

レイ「碇君……気が散るからもう話しかけないで。邪魔……」

シンジ「………………」


シンジ「……あ、じゃあ綾波。その……せめて僕も使徒を倒す方法を考えるから……」

レイ「………………」

シンジ「まだ、倒すいい方法を思いついてないんだよね? それぐらいはいいでしょ?」

レイ「………………」

シンジ「綾波……」

レイ「…………碇君が今持っている外部端末、貸して」

シンジ「え? あ、うん……」スッ……

レイ「」カタカタ
ノート型外部端末「」

レイ「……はい、これ。使徒の戦闘データ」スッ……

シンジ「ありがとう、綾波!」パアッ


シンジ(やった! これでひょっとしたら綾波だけじゃなくて、二機で出撃出来るかもしれない。綾波より先にいい案を思いついてミサトを説得出来れば何とかなるかも……!)

ー 使徒のデータ確認後 ー


シンジ「…………これ……もしかして……ほとんど詰んでない…………?」

シンジ「近寄れない上、ATフィールドの中和も難しくて、そのATフィールドもエヴァの武器以外だとまず貫通出来ないなんて…………」

レイ「……N2爆雷を使うと、本部ごと壊してしまう量が必要……」

シンジ「うん……でも、それ以外の方法がないんだよね…………」

レイ「そうね……。でも、それだけはしないから」

レイ「ここの本部が壊れるのは絶対にダメ……。お墓もなくなるから……」

シンジ「お墓……?」

レイ「私は……もう、二度と壊させない……」

シンジ「二度と……?」

レイ「……碇君には関係ない話だから…」

シンジ「……あ……うん…………ごめん」

レイ「……どうして謝るの…………?」

シンジ「ごめん……」

レイ「……そう…………」


シンジ「……それにしても、どうすればいいんだろう、これ…………」

レイ「……わからない…」


シンジ「………………」

レイ「………………」


シンジ「………………」

レイ「………………」


シンジ「…………あっ!」

レイ「……?」

シンジ「ごめん、綾波。ちょっとここ離れるから」スクッ

レイ「……何か思いついたの?」

シンジ「あ、ううん、そういう訳じゃないけど、とにかく離れるね。また後で必ず来るから!」タタタッ

ガチャッ、バタンッ


レイ「…………?」

ー ネルフ本部、倉庫 ー


ギギィ……

シンジ「よし。ここなら誰にも聞かれないよね」

シンジ「えっと木田さんに電話すればいいかな……」ピッ、トゥルルル、トゥルルル


木田『……もしもし』

シンジ「あ、木田さんですか。碇シンジです」

木田『の、様だな。先に聞くけど、この電話。誰かに聞かれそうな所で話はしてないだろうね?』

シンジ「はい。大丈夫です」

木田『そうか。それならいい。それでどうしたんだい、シンジ君』

シンジ「あの……お願い、って言うか、考えて欲しい事があるんですけど」

木田『何かな』

シンジ「使徒の倒し方です」

木田『…………どういう事か詳しく説明してほしいんだが』

シンジ「あの……最初から話すと少し長くなるんですけど大丈夫です?」

木田『構わない。話してくれ』

ー 事情説明後 ー


木田『……なるほど。予想通りというか、予想を通り越して呆れるというか驚くというか……。つまりネルフの中ではあの使徒を倒す算段を全くつけてないという事か』

シンジ「はい。多分ですけど。でも、まず間違いないと思います」

木田『それで現状況は、至ってかんばしくないという訳だな。装甲板を全て貫く予想時刻は今日の午前0時近く……つまりあと七時間ほどか』

シンジ「はい。それまでに何とかしないとまずいと思うんです。というより、綾波が起きてるのをミサトたちが知ったら、すぐにでも出撃させかねないんで……」

木田『そうか……。ろくでもない上、時間もないんだな……』

シンジ「それでどうしたらいいか困ってて……だから」

木田『………………』

シンジ「あの、何とかならないですか?」

木田『…………そのまま少し、いや、かなりだな。携帯の電源を入れたまま待っていてくれ。綾波レイに関してはまだ気絶中のままにしておくといい』

シンジ「…………それはわかりました。だけど……」

木田『大丈夫だ、心配するな。至急、こちらで緊急の作戦会議を開いてもらうから』

シンジ「戦自で……」

木田『そう。俺だけでは今すぐいい案は思いつかないが、だが戦自は、戦略、戦術、戦闘のプロ集団だ。必ずいい作戦案を出す事を約束する。だから待っていてくれ』

シンジ「……わかりました。お願いします」

木田『ああ、じゃあ急ぐからこれで切るよ。決まったらまた連絡する』ピッ

ツー、ツー、ツー


シンジ「お願いします、木田さん……」

この木田さんって人の声は大塚明夫さんのイメージ?それとも神谷明さん?

>>181
ご想像にお任せで。ただ、神谷さんのイメージじゃないのは確かです

ー 二十分後 ー

ー 再び倉庫 ー


シンジ「……ヤシマ作戦……?」

木田『そう。その名の通り日本中の電力を集める。あの使徒のATフィールドが聞いた通りのデータなら、それだけのエネルギーが必要だという結論が出た』

シンジ「でも、電力って何に……?」

木田『戦自研で開発中の大出力陽電子自走砲だ。それで使徒を狙撃する』

シンジ「えと……よくわからないんですけど…………」

木田『大丈夫だ。セッティングはこちらで行う。君はエヴァに乗って引き金を引くか、もしくは一撃目を外した時の為に備えて、盾を持って待機していてもらうだけでいい』

シンジ「……二機でするんですか?」

木田『ああ、狙撃する方は狙撃ポイントから動けなくなるからな。怪我をしている綾波レイを乗せたくないという気持ちはわかるが、やはり二機でした方がいい』

木田『それに、操作自体はそれほど難しいものじゃない。恐らく片手でも出来る事だ。問題はないと思う』

シンジ「…………どっちが危険なんです?」

木田『正直なところを言えば、どちらも危険だ。しかし、気づかれず一撃で仕留めきれば何事もなく無事に終わる。どちらが狙撃するかは、精度の高さで決めた方がいい』

シンジ「エヴァの操縦が上手い方がって事ですよね?」

木田『そうだな。エヴァに関しては、俺たちではデータ不足だから、それはそちらで決めてくれ』

シンジ「……はい」

木田『それよりも、問題はこの作戦をどうやってネルフに承認させるかだ』

木田『戦自と日本政府の総力をあげれば、ギリギリだが時間には間に合うという結論が出た。だが、ネルフ抜きではこの作戦は進められない』

シンジ「……それは、どうしてですか?」

木田『ネルフの要請を受けて、我々が協力するという形でなければまずいからだ。でないと、君と戦自との繋がりが露見する恐れがある』

シンジ「……ああ、はい」

木田『とはいえ、時間がないので、極秘に準備はこちらでもう勝手に進めているが……。だから、君にお願いした事は一つだけだ』

木田『この作戦案を、どんな手を使ってでもいいからネルフに承認させてくれ。宜しく頼む』

シンジ「……わかりました。やってみます」キリッ

木田『よし。それなら作戦の細かい内容は、ファイルにしてアップローダに上げてあるので、それを確認してくれ。今からサイトとファイルナンバー、それとパスワードを言う』

シンジ「あ、あのやり方がよくわからないんですけど……」

木田『そうか。じゃあ、そのままパソコンか何かを立ち上げてくれ。電話でこのまま指示するから』

シンジ「あ、はい」

ー 医務室 ー


ガチャッ、バタンッ


レイ「」スースー……スースー……

シンジ「綾波、大丈夫。僕だよ」

レイ「」ムクッ……

シンジ「それで、綾波。いい作戦が出来たんだけど……」

レイ「……どんなの?」

シンジ「その前に綾波。この作戦がいいと思ったら、僕もエヴァに乗せてくれるよう、ミサトに頼むって約束してくれる? 二機でする作戦だから」

レイ「…………」

シンジ「綾波、お願いだよ。それに綾波だって使徒を倒さないと困るんだよね? だから……」

レイ「…………わかったわ。ただし、今回だけ。それでもいい?」

シンジ「今回だけ、か……。でも……。ううん、わかった。あんまり時間がないみたいだし、とりあえず今はそれでいいよ」

レイ「……それでどういう作戦?」

シンジ「これ」スッ……


自分の外部端末をレイに渡す


レイ「」カタカタ
ノート型外部端末「」

レイ「………………」


しばらくそれを眺め、考え込むレイ

レイ「……碇君」

シンジ「何?」

レイ「……これ、碇君が考えたものではないと思うけど、どうしたの? 戦自の兵器の詳細を碇君が知っているはずないもの」

シンジ「あ、えと……。その…………」

レイ「その?」

シンジ「あ、あの、ごめん。言えないんだ、それは」

レイ「……そう」

シンジ「ごめん……」

レイ「……別に謝らなくていいから」

シンジ「うん……。あ、それと綾波! この作戦が僕からのだって他の人に知られたくないんだ。だから、それは誰にも言わないでくれる。これもお願い、大事なことなんだよ!」

レイ「ええ、わかったわ。……誰にも言わないから」

シンジ「お願いだよ、綾波!」

レイ「わかってる。……約束は守る」

シンジ「良かった……」ホッ


シンジ「……それで綾波。この作戦なら大丈夫だと思うけど、どう?」

レイ「……ええ。いいと思う」

シンジ「えと、じゃあ時間がないからこれを急いでミサトに納得させなきゃいけないんだけど……」

レイ「……それは問題ないわ。私がするから」スッ……
スマホ「」ピッ、トゥルルル、トゥルルル

シンジ「出来るの?」

レイ「ええ」
スマホ「」トゥルルル、トゥルルル……


ピッ

ミサト『はーい。もしもーし。レイ、起きたの?』

レイ「はい。ご迷惑をおかけしました」

ミサト『ううん。いいのよ、別に。体の方はもう大丈夫?』

レイ「はい。…問題ありません」

ミサト『うんうん。良かったわ。エヴァには乗れそう?』

レイ「はい。……ただ、葛城三佐。その前に一つお願いがあります」

ミサト『お願い?』

ー 数分後 ー

ー ネルフ本部、発令所 ー


ミサト「うん。うんうん。……わかったわ。ただし、レイ、こんなわがままは本当に今回だけよ、いい?」

レイ『はい。申し訳ありません』

ミサト「あー、いいのいいの。堅苦しい事は。それさえわかってればいいからさ。じゃ、早速こっちも準備始めるから切るわよん」

レイ『はい。ありがとうございます』

ミサト「うん。じゃねー……」ピッ


マヤ「……葛城さん。今の電話、レイからですよね? どうしたんです? 何か渋ってたみたいですけど……」

ミサト「んー、ちょっちね……。珍しくレイからわがまま。使徒を倒すのをド派手にやりたい、みたいな内容の事を言われてね」

リツコ「派手に? どういう事かしら?」

ミサト「なんかさ、銃を使って使徒を撃ち抜きたいんだって。発想が子供と言えば子供よねー」

マヤ「話してるとそんな感じはあまりしませんけどね。でも、楽しそう」クスッ

リツコ「ふーん……。それで?」

ミサト「うん。で、銃を使って使徒を倒すのを自分で計算したらしいんだけど、それには戦自の陽電子砲がいるとか何とか」

リツコ「戦自ね……。でも、それは徴発するだけだから問題はないと思うけど?」

ミサト「そっから先がちょっち問題なのよね。日本中の電力を集めるって言ってるからさ」

マヤ「日本中のですか? 流石にそれはちょっと……」

ミサト「うん。私もそう言って断ろうとしたんだけどさ。よくよく話を聞いたら、なんか明日レイの誕生日らしくって」

リツコ「あら、そうなの? 全然知らなかったけど」

ミサト「そ。私も知らなかったんだけど」

マヤ「私もです。でも、それがどうつながるんですか?」

ミサト「だから今日の午前0時丁度に、祝砲がわりに使徒を撃ち抜きたいんだって。電気を消して、ケーキのろうそくを吹き消すみたいな、あんな感じなんじゃない?」

リツコ「……確かにそれは派手ね。面白そうではあるけども……」

ミサト「うん、まあ、そうなんだけどさー……。でも、流石にそれだけの為に日本中の電力はねー……。だからやっぱりダメにしようと思ったんだけど、レイに一生のお願いとか言われちゃったからさー……」

マヤ「確かに珍しいですね。あのレイがそんな事を言うなんて……」

ミサト「うん、まあねー……。ほら、私たち色々レイには世話になってる面があるじゃない? 断るのもどうかと思ってねー……」

リツコ「で、結局、OKしてしまったのね?」

ミサト「うん」テヘ

リツコ「呆れた、と言いたいところだけど……」

マヤ「まあ、私たちに迷惑がかかる事でもないですからね。それぐらいはいいんじゃないですか?」

ミサト「そうよね。私もそう思ってさ」

リツコ「そうね。仕方がないわね」ハァ……

ミサト「そういう事。ま、どうせやるならいっちょ派手にやりましょうか。今度お礼もするってレイも言ってたし」

マヤ「そうですね。その後、どこか店を貸しきりにして誕生日パーティーでも開いて……」

ミサト「マヤが言っていた店にすれば一石二鳥よね。あ、そうそう。その前に一応副司令から許可をもらっておかないと」

リツコ「ミサト、祝砲の準備はどうするの?」

ミサト「そこら辺はレイが自分で計画考えたって言ってたから、これから確認。ま、どうせその通りにしてって下に回すだけで済むだろうけどね」

マヤ「じゃあ私はお店に連絡して、営業時間を伸ばしてもらいますね。ネルフの名前を出しても問題ないですよね?」

ミサト「いいわよん。好きにして」

マヤ「私も、何だかちょっと楽しみになってきました。電気がないって事は真っ暗闇になるから、きっと祝砲撃つ時、綺麗ですよね」ニコッ

リツコ「そうね」クスッ

ミサト「じゃあ、いっちょ準備を始めましょうか。誕生日プレゼントも買ってこなきゃいけないしね」ニコッ


ミサト「さてさて、副司令の携帯はと……」ピッ、ピッ

トゥルルル、トゥルルル……

ー ジオフロント、スイカ畑 ー

ー 事情説明後 ー


ミサト『……という訳で、レイの為に承認をお願いします』

冬月「構わんよ、好きにしたまえ」

ミサト『そうですか。ありがとうございます』

冬月「用件はそれだけかね? 盆栽の品評会がまだ終わってなくてね……」

ミサト『ええ、それだけです。ではでは』ガチャッ

冬月「…………」フゥ……
ガラケー「」ツー、ツー、ツー

冬月「盆栽など私はした事もないのだがな……」


冬月「…………」スッ……

冬月「」ポンポン……


しゃがみこんでスイカを軽く叩く冬月


冬月「今年もいいスイカが出来そうだ……」

冬月「それにしても、戦自の陽電子砲か…………。恐らく考えたのはレイではなかろう。ならば一体誰が…………?」

冬月「少し調べてみる必要があるかもしれんな……」クルッ

冬月「」テクテク……


スイカ畑をゆっくり後にする冬月…………

ー ネルフ本部、医務室 ー


レイ「」ピッ、ピッ
スマホ「」トゥルルル、トゥルルル

レイ「もしもし、綾波です。……はい、ご心配をおかけしました。もう大丈夫です」

レイ「いえ……。それよりも一つお願いが」

レイ「はい、ありがとうございます」

レイ「……はい。零号機を狙撃専用のG型装備に換装をお願いします。……はい、そうです」

レイ「いえ、ですがその内、指示が行くと思います。……多分その指示の中にも換装は入ってないと思いますので、それをお願いしたいんです」

レイ「はい。ありがとうございます。お礼はまた後日に」

レイ「いえ……。それより、そちらに技術長はいますか?」

レイ「はい、代わって下さい」

レイ「…………」

レイ「もしもし、綾波です。……はい、ご迷惑をおかけしました。……いえ、問題ありません」

レイ「はい。……それで一つお願いがあります」

レイ「ええ、はい。……そちらに後で指示が行くと思いますが、使徒を陽電子砲で狙撃する事になっています」

レイ「はい。……はい。わかっています。なので陽電子砲の自動調整機能をEVAに組み込んで欲しいんです。陽電子砲が届き次第大至急でお願いします」

レイ「……はい。お願いします。ええ。……わかっています。それはまた後日に。はい……」


シンジ「……???」

シンジ(……何なんだろう、これ??)

シンジ(何で綾波が取り仕切ってるの??)

シンジ(それに、さっき誕生日だからって…………)

シンジ(あれ、絶対ウソだよね…………)

シンジ(というか……ミサトも誕生日だからって日本中の電力を集めるのを納得しちゃうの??)

シンジ(どうなってるの……このネルフって…………)

ー ネルフ本部、発令所 ー


ミサト「うーん……」


端末のヤシマ作戦資料に目をやるミサト


リツコ「あら、どうしたの。難しい顔して。日本政府から停電の件について何か文句でも言われた?」

ミサト「ああ、ううん。そっちはびっくりするぐらいすんなりだったわ。おまけに職員を総動員して協力までしてくれるって。まあ、使徒を倒す為にって言ったからってのもあるんだろうけどさあ」

リツコ「へえ、珍しい事もあるものね……。でも、まあそれは良かったんじゃないの。うるさい事を言われなかったんでしょ」

ミサト「うん。副司令の方も問題なかったしね。最近、素直で助かるわー。前に一言いったのがきいてるわね」

リツコ「いい事ずくめね。なのに、何で難しい顔をしてたの?」

ミサト「ああ、うん、これ。レイからの指示だと、祝砲撃つ時、それを使徒に気づかれないよう、無事な山側の砲台を使って攻撃するってあるんだけどさ」

リツコ「それがどうかしたの?」

ミサト「これ、ちょっちまずいと思うのよねー……。ほら、この前の使徒が壊した武装ビルとかまだ直ってないでしょ? おまけにその修復予算もまだおりてないからさ」

リツコ「そういえばそうね。やった事と言えば瓦礫の撤去だけだったかしら?」

ミサト「そ。で、この状態でもしまた壊したら、本部が完全に丸裸になっちゃうのよね。それに、修復予算があまりに大きいとゼーレも出し渋るみたいだし」

リツコ「そうなの?」

ミサト「うん。で、下手したら抜き打ちで監査も入りかねないからさ。そうなると、ちょっちどころかかなりまずいでしょ?」

リツコ「そうね。ゼーレに着服がバレるのだけは何としてでも避けないといけないから……」

ミサト「だから、この案を却下したいんだけど……でも、そうなると今度はレイが使徒に狙われて祝砲が撃てなくなる可能性があるのよね……。だからどうしようかなって」

リツコ「ふうん……。そうね、だったらシンジ君を初号機に乗せて囮にすればいいんじゃない? あの子、どうせ暇でしょ?」

ミサト「あ、なるへそ。それいいわね。シンジ君、どうせ盾持って立っているだけだし……うん、そうしよ。リツコ、サンキュー」ニコッ

リツコ「どういたしまして」クスッ

ー 祝砲(ヤシマ)作戦発動前 ー


ミサト「さてと、それじゃそろそろレイは零号機に乗って配置についてね♪」

レイ「…はい」

ミサト「で、シンジ君は初号機に乗って、盾持って、その隣の山で騒いで」

シンジ「は…い!?」
レイ「……!?」

リツコ「シンジ君、あなたにはレイが祝砲を撃つまで……要は午前0時まで使徒の注意をひきつける事をお願いするわ。いいわね?」

シンジ「あの……ひきつけるって……。それ、つまり…………」

ミサト「うん。囮。しっかりね♪」ニコッ

シンジ「あ…………あの…………」オロオロ

リツコ「……あら……何かしら、シンジ君。何か文句でも?」ジロッ

シンジ「」ビクッ

ミサト「シンちゃん。折角エバーに乗せてあげてるのに、そういう態度とるわけ?」ジロッ

シンジ「ご、ごめんなさい! そうじゃないです! 文句なんかないですから!」

レイ「……あの……葛城三佐……!」

ミサト「レイ、あんたはさっさと着替えて準備」

レイ「…………!」

ミサト「何? これだけわがままきいてるのよ。これ以上はいくらレイでも流石にダメよ。わかってるでしょ?」

レイ「…………は…い……」グッ……


口を固く結んで思わず拳を握るレイ


シンジ「……綾波…………」


それを横目で眺めるシンジ…………

ー 着替え終了後 ー

ー 山の上 ー


レイ「………………」

シンジ「………………」


二人ならんで座るレイとシンジ……


レイ「………………」

シンジ「………………」


レイ「……ごめんなさい…………」ボソッ

シンジ「?」

レイ「………………」

シンジ「どうしたの、綾波……?」

レイ「………………」

シンジ「何で今、謝ったの……?」

レイ「……碇君を、こんな目にあわせてしまったから…………」

シンジ「それは綾波が謝る事じゃないよ。悪いのは全部ミサトさんやリツコさんだし……」

シンジ「それに僕が自分で乗るって行ったから……。綾波に頼んだのも僕だし……」

シンジ「全部、僕の責任なんだ……。だから……」

レイ「………………」


それでも沈痛な表情を崩さないレイ……

レイ「………………」

シンジ「………………」


シンジ「……ねえ、綾波…………」

レイ「……何…?」

シンジ「……綾波は……どうして僕をエヴァに乗せたがらないの?」

レイ「………………」

シンジ「目障りだとか、邪魔だとか、それは何度も聞いたけど…………」

シンジ「……でも、そうじゃないような気がして…………」

シンジ「僕の事が邪魔なら……今、綾波がそんな悲しそうな顔してるのが不思議なんだ…………」

レイ「………………」

シンジ「それに、僕がエントリープラグに閉じ込められた時も助けてくれたし……」

シンジ「僕がケガさせたのに、その事を庇ってくれたし……」

シンジ「……色々とひどい事もされたし言われたけど……。でも、優しい時もあって…………」

シンジ「僕は綾波が何を考えてるのか、全くわからないから……」

レイ「……碇君は、わからなくていいの。……関係ないもの」

シンジ「…………うん、そうかもしれない……。僕に、綾波が何を考えているかなんて知る権利なんかないかもしれない」

シンジ「……でもさ…………。前にミサトが言っ……ミサトさんが言ってたんだ」

レイ「…………何を?」

シンジ「……伝える事を恐れていてはどちらも一歩も前に進めないんじゃないかって……」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ミサト『…でも、人と人との繋がりなんて、長さではなく深さの方が大事なものだし、伝える事を恐れていてはどちらも一歩も前に進めない様な気がしてね』

シンジ『…………』

ミサト『お互いどう思っているかを伝えなければ、それは相手には永久に伝わらないかもしれない』

シンジ『…………』

ミサト『お互いどうしたいか、どうされたいかを伝えなければ、その想いや願いは永久にすれ違うかもしれない』

シンジ『…………』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

シンジ「……あの時、僕はミサトさんの言葉なんかほとんど聞いてなくて……」

シンジ「でも、この言葉だけは印象に残ってたんだ……」

シンジ「……綾波の事を考えてたから」

レイ「………………」


シンジ「僕がエヴァに乗る理由なんてそんなものなんだ」

シンジ「最初はケガしてた綾波の代わりに……。次はビルを壊した罪滅ぼしの為に……。その次は街の為にとか、みんなの為にとか…………」

シンジ「それで、結局、綾波にケガさせた罪滅ぼしの為に…………」

レイ「………………」


シンジ「最初はエヴァになんか乗りたくなかった。全部どうしようもなくて、乗らなきゃいけない状況に追い込まれて、仕方ないから乗って……」

シンジ「乗りたくもないのに、乗せて下さいってわざわざ自分からお願いして……」

レイ「………………」


シンジ「今もそういうのは変わってないんだ。乗りたくないのは確かなんだ。でも……」

レイ「………………」

シンジ「綾波だけは守らなきゃいけないって思ったから……。僕がケガさせたから……僕の責任だし、それに……」

シンジ「なんか放っておけなくて……」

レイ「………………」

シンジ「綾波からしたら迷惑かもしれないけど、でも今日みたいに役に立てる日はきっとあるだろうし……」

レイ「……私は、そんな事されても嬉しくないから。……迷惑だから…………」

シンジ「うん……ごめん」

レイ「謝らないで」

シンジ「…………ごめん……」

レイ「……やめて、碇君。本当に困るの。お願いだからやめて。碇君が謝る度に心がズキズキするの」

シンジ「…………?」


表情を歪めるレイ…………

理由がわからないシンジ…………

シンジ「………………」

レイ「………………」


しばらく無言のままの二人……

やがてシンジが口を開く


シンジ「……それで、綾波。どうして僕をエヴァに乗せたがらないの?」

レイ「………………」


答えないレイ…………

しかし、だいぶ間があってポツリと呟く


レイ「……エヴァに乗ったって……いい事なんか一つもないから」

シンジ「…………うん……そうだと思う」


レイ「………………」

シンジ「………………」


レイ「碇君には……私の様になってほしくないから……」

シンジ「……?」


レイ「………………」

シンジ「………………」


レイ「私にはもう、感情とかほとんど残ってないの……」

シンジ「?」

レイ「……ここにいて……全部、壊されてしまったから」

シンジ「……綾波?」

レイ「もう、涙を流しても悲しくないの……。何か面白い事があったとしても笑えないの……」

シンジ「………………」

レイ「涙自体、もう流れないの……。夢を見てる時に流す事はあっても、悲しくはない。笑顔はもう作り方がよくわからない。……悲しい事も面白い事も、もう何一つないの……。私にはもう、これ以上何もないの……」

シンジ「……そんな」

レイ「私はもう……泣く事も笑う事も出来ないの…………」

シンジ「そんな……!」


レイ「…………碇君、時間よ。もう行くわ」スクッ

シンジ「綾波……!」

レイ「碇君、あなたは何もしないで。使徒は私が一人で倒すから」クルッ……

レイ「…さよなら」


シンジ「…………綾波」


去っていくレイを呆然と見つめるシンジ…………

ー ネルフ本部、発令所 ー


ー 午後11時50分 ー



青葉「時間ですね」

ミサト「了解。それじゃ、祝砲作戦を発動」

マヤ「はい。陽電子砲、狙撃準備。第一次接続開始」カタカタ

青葉「各方面の一次及び、二次変電所の系統切り替え、開始します」カタカタ


何事もなく進められる発射準備


ミサト「さてと……。それじゃ、シンジ君に通信を繋いで」

マヤ「はい」カタカタ

マヤ「通信、繋がってます。どうぞ」


ミサト「シンジ君、聞こえる? 時間だから予定通り、その場で踊って」



ミサト「…………シンジ君?」

ー 初号機、エントリープラグ内 ー


シンジ(綾波…………)

シンジ(……綾波もここでひどい事をされてたって事……?)


シンジ(泣く事も笑う事も出来ない…………)

シンジ(……でも、確かに僕も……もうあまり泣かなくなった…………)

シンジ(……あまり笑わなくなった…………)


シンジ(……だって、泣くと怒られるから…………)

シンジ(楽しい事や嬉しい事なんて、ほとんどないから…………)

シンジ(いつのまにか色んな感情を抑えるようになって…………)


シンジ(感情がほとんど残ってない…………?)

シンジ(心のほとんどを壊された…………?)

シンジ(ここで……ネルフで…………)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ミサト『あなたはこれまで人に迷惑しかかけてないのよ!! いい加減やめてよね、ホント!!!』


リツコ『ミサトとの約束の手前、根気強くいこうと思っていたけれど、私にも限界というものがあるのよ。この生ゴミ!!』


ミサト『シンジ君には罰として、そこで何時間か反省してもらうから』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

シンジ(……一体どれだけの間…………)

シンジ(……どれだけの事を言われたり、されたりしてきたの…………?)

シンジ(……叩かれたり蹴られたりとか……エントリープラグに閉じ込められたりとか…………)

シンジ(……僕の時は綾波が助けてくれた…………)

シンジ(……でも、綾波はきっと誰も助けてくれる人がいなかった…………)


シンジ(綾波……!)グシュッ……


シンジ(……ごめん……気づかなくて……!)エグッ、エグッ……

シンジ(……ごめん…………!)グシュッ、ヒック……

ミサト『シンジ君! 聞いてるの!!』

シンジ「」ハッ!!

ミサト『あんたいい加減にしなさいよ!! 頭だけじゃなくて耳まで腐ってんの!? さっきから何回呼んでると思ってるのよ!!』

シンジ「ご、ごめんなさい!!」ゴシゴシ!!

ミサト『謝る暇があったら、ちゃっちゃと動く!! どんくさいわね、ホント!!』

シンジ「すみません!! すぐに!!」

ミサト『まずはジャンプ! 早く!』

シンジ「は、はい!!」

ー 山頂 ー


ピカッ

スポットライトが当てられる


EVA初号機「」ピョーン、ピョーン!!


その中で垂直飛びをする初号機



ー ネルフ本部直上 ー


第六使徒「」ガリガリ


第六使徒「……?」



それを発見する第六使徒


第六使徒「」フシギー


第六使徒「…………」


ちょっと観察中

ー 零号機、エントリープラグ内 ー


レイ(碇君、どうして……!?)

レイ(何でEVAを動かしてるの!?)

レイ(動かないでって言ったのに……!!)



青葉『第三次接続、完了。そのまま第四次接続に移行』

マヤ『レイ、もうそろそろよ。午前0時になる十秒前からカウントを始めるから、それに合わせて撃ってね』


レイ「は…い……」グッ


レイ(ダメ……私はもうここから動けない……)


レイ(碇君、無事でいて……!!)

ー ネルフ本部、発令所 ー


ミサト「ちょっとシンジ君! そんな普通のジャンプの仕方でどうすんのよ! そんなんじゃ囮にならないでしょ!」

シンジ『え……? あ、あの、でも他にどうやって……?』

ミサト「一回転してみたりとか、マリオみたいにジャンプするとか色々あるでしょうが!! そんぐらい自分で考えなさい!!」

シンジ『マリオ!?』

ミサト「上にブロックがあるつもりで、ほら、早く!!」

シンジ『え、あ……』オロオロ

ミサト「さっさとする! スマブラとかマリオぐらい一度はやった事あるでしょうが、あんた!!」

シンジ『な、ないです!』アセアセ

ミサト「うるさい! 早くしなさい!!」

シンジ『は、はい!!』

ー 山頂 ー


EVA初号機「」ピョイン、ピョイン!!


マリオ跳びをする初号機




ー ネルフ本部、直上 ー


第六使徒「…………」


第六使徒「」テキー?


第六使徒「……」


第六使徒「」ガシンッ


第六使徒「」キュイーン…………



ドウンッッ!!!



加粒子砲、発射!!

ー ネルフ本部、発令所 ー


シンジ『うわああああああっ!!!』


ガガ、ピーッ……


マヤ「通信、及び映像。途切れました」

ミサト「ま、そうなるかあ……。回復するまでしばらく待ちね」

マヤ「はい。あ、そうだ、葛城さん。おせんべい食べます。持ってきたんですけど」スッ

ミサト「あら、ありがと。もらうわ」


マヤ「」パリパリ、モグモグ

ミサト「」パリパリ、モグモグ

ー 山頂 ー


モクモク……

もうもうとあがる煙……

何もかも吹き飛ばされた山頂……


EVA初号機「」…………


倒れたまま、動かない初号機……




ー 初号機、エントリープラグ内 ー


シンジ「あ、ぐ……!!」


激痛に顔を歪めるシンジ


シンジ「行かなきゃ……!」スッ……


震えながらもゆっくりと操縦桿に手を伸ばす


シンジ「行かないと綾波が……!!」ガシッ


涙を流しながらもしっかりと手で掴む

ー 零号機、エントリープラグ内 ー


レイ「碇君!!」



青葉『レイちゃん、第五次接続まで完了したよ』

ミサト『最終安全装置、解除』パリパリ、モグモグ

マヤ『レイ、撃鉄起こして』パリパリ、モグモグ


レイ「……!」

レイ(早くしないと、また……!)

レイ「くっ……!」ガシッ



ー 零号機、狙撃ポイント ー


零号機「」ガチンッ
陽電子砲「」キュイーン……


電力が陽電子砲に蓄積中…………

地球の自転、磁場などの計算が自動で行われる

ー ネルフ本部、直上 ー


第六使徒「」ピクッ……


それに気がつく第六使徒



第六使徒「」ガシンッ


第六使徒「」キュイーン……


ドウンッ!!!


今度は零号機に向けて加粒子砲、発射!!




ー 零号機、狙撃ポイント ー


零号機「!!?」


チュドーンッッ!!!!


凄まじい爆音と爆風が巻き起こる!!

ー ネルフ本部、発令所 ー


ミサト「あ…………」

マヤ「やらかしちゃいました……?」


ガガ、ピーッ……


再び通信と映像が途切れる


ミサト「ま、レイなら何とかする……かな?」

マヤ「……どうでしょう」

リツコ「とりあえず、救護班の用意だけはさせておきましょうか」

ミサト「それと、私たちの避難準備もね。なんかあったらヤバイし」

青葉「ですね」

ゴソゴソ


いつでも退避できるよう用意を始めるミサト、リツコ、マヤ、青葉

ー 零号機、エントリープラグ内 ー



レイ「碇…君……!!?」


目を開けると、そこには盾で加粒子砲を防いでいる初号機の姿が……


レイ(でも、このままだと盾が持たない……!!)

レイ(早くっ!! 早くっ……!!)


狙撃の自動調整がなかなか終わらない陽電子砲


レイ「早くっ!!」


思わず声に出すレイ

その間にも、初号機の持つ盾はどんどんと蒸発していく……


レイ「早くっ!!!」

ー 初号機、エントリープラグ内 ー


シンジ(もう……盾が持たない……!!!)

シンジ(でも、ここで逃げたら綾波がっ……!!!)


歯を食い縛り、その時に備えるシンジ



盾「」パリンッ…………

砕ける盾……



シンジ「うわああああああっ!!!」


それでも、零号機の前に立ち、加粒子砲の直撃を食らわせないよう身をていして守るシンジ

ー 零号機、エントリープラグ内 ー


シンジ『うわああああああっ!!!』


レイ「碇君!!」

レイ「もういいの!! 逃げて!!」

レイ「早くっ!!」


シンジ『ぐあああああああああっ!!!』


レイ「碇君、逃げてっ!!!」



ピピピピピピピピ、ピーッ!!


陽電子砲の自動調整完了!


レイ「くっ!!」ガチッ!!


ヒュイン!!

ドウンッッ!!!


陽電子砲、発射!!!

ー ネルフ本部、発令所 ー


ピーッ

ブンッ……


マヤ「あ、映像回復しましたね」

ミサト「どりどり」


丁度、陽電子砲が発射される瞬間が映しだされる


ミサト「おおっ! やるじゃん、レイ!」

リツコ「流石ね」

マヤ「綺麗……」

青葉「そうだな……」

ー ネルフ本部、直上 ー


第六使徒「!?」


チュドーンッ!!!


第六使徒のコアに直撃が決まる!!


第六使徒「…………」

第六使徒「」ガシンッ

第六使徒「」ピエーッ!!!!!


第六使徒「」グラッ……


第六使徒「」ブシュー……!!


血のような物を体中から吐き出して、ゆっくりと倒れこむ第六使徒…………




第六使徒、殲滅!!

ー ネルフ本部、発令所 ー


『ただ今、午前0時をお知らせします』


ミサト「よっしゃあ!! 時間ピッタシ!!」

リツコ「おめでとう、レイ!」パチパチ

マヤ「ハッピーバースディ、レイ!」パチパチ

青葉「誕生日おめでとう、レイちゃん!」パチパチ



拍手喝采で溢れかえるネルフ本部…………

ー ジオフロント、スイカ畑近くの小さな墓 ー


冬月「終わったか……」

墓「」………………


冬月「幸か不幸か、私もまた生きながらえたようだ…………」フッ

墓「」………………


冬月「これで死海文書は掟の章へと行を移した。じき、あの少年も目覚めるだろう」

墓「」………………


冬月「修正は大幅にあったが、概ね計画通りに事は進んでいる。それまで何事もなければいいのだが…………」フゥ……

墓「」………………

ー 零号機、狙撃ポイント付近 ー


レイ「碇君!!」タタタッ!!


初号機のエントリープラグを強制排出させて、そこへと走るレイ


レイ「碇君、今、助けるから!!」ガシッ

ジュウッ……

レイ「熱っ!!」

レイ「ぐっ!! うっ!!」ググッ!!

レイ「くっ!!」ガコッ!!


無理矢理、エントリープラグのハッチを開けるレイ……

ー 初号機、エントリープラグ内 ー


ガコッ……!!

レイ「碇君!!」


シンジ「……うっ…………」

レイ「碇君、大丈夫!! 碇君!!」タタッ


駆け寄ってシンジの両肩に手をかけるレイ


シンジ「……あ……や…なみ……?」

レイ「良かった……! 碇君が無事で良かった…………!」グスッ……

レイ「良かった…………!」ポロポロ……


その場で涙をこぼすレイ……


シンジ「綾……波…………」

レイ「……」ポロポロ……

シンジ「綾波は……泣く事も笑う事もないなんて……嘘じゃないか…………」

レイ「……え…?」ポロポロ……

シンジ「……感情がほとんど残ってないとか、壊されたとかそんなの嘘じゃないか…………」

レイ「…………」ポロポロ……

シンジ「今、綾波……泣いてる…………」

レイ「え……?」ポロポロ……

シンジ「綾波は……感情を壊された訳じゃないよ……。上手く出せなくなっただけだよ…………」

レイ「碇君…………」ポロポロ……

シンジ「大丈夫だよ、綾波……。きっとまた元に戻るから……」グスッ……

レイ「…………」ポロポロ……

シンジ「楽しい時には笑って、悲しい時には泣けるようになるから…………」グスッ、ポロポロ……

レイ「碇君、私、おかしいの……涙がさっきから止まらないの…………」ポロポロ

レイ「何で……?」ゴシゴシ……

シンジ「」スッ……


ゆっくりと綾波の手を取って、涙を拭くのをやめさせるシンジ


レイ「碇…君……?」ポロポロ……

シンジ「大丈夫だよ、綾波……。泣いていいから……」グスッ、ヒック……

レイ「でも……」ポロポロ……

シンジ「泣いたって誰にも怒られないから……。誰にも何もひどい事を言われないから……。だから、だから…………」グスッ、グシュッ……

レイ「碇君……」ポロポロ……

シンジ「」ソッ……


自然と優しくレイを抱き寄せるシンジ……


レイ「碇君……?」ポロポロ……

シンジ「これからは、僕が綾波の分も半分引き受けるから……。エヴァに乗って、誰にも文句を言われないぐらい一生懸命頑張るから……。だから、泣いてよ…………。笑ってよ、綾波…………」グスッ、ヒック

レイ「…………ぅっ……」ボロボロ……

シンジ「……これからは、辛い事は二人で分けて……。楽しい事を二人で見つけて行こう……。だから、今は泣いて…………。大丈夫だから……。大丈夫だから…………」グスッ、ポロポロ……

レイ「ぅ……。碇…君……!」ボロボロ……


シンジ「大丈夫……」ギュッ……

レイ「ぅぅ…っ……」ギュッ……


二人で大粒の涙を流しながら、抱き合うシンジとレイ…………












     

ー 月面、タブハベース ー


カヲル「……」ムクッ……


ブンッ……

SOUNDONLY『…………』



カヲル「……わかっているよ。あちらの少年が目覚め、僕との契約の時が来たのだろう」

SOUNDONLY『そうだ。汝が契約を遂行する日も近い』

カヲル「」フッ……

カヲル「全てはゼーレの意のままに……。今の僕は操り人形も同然の存在だからね……」


そう言いつつ、首もとを撫でる様に触るカヲル……


DSSチョーカー改「」ピッ、ピッ、ピッ……


その首には静かな点滅を繰り返すチョーカーが…………


カヲル「僕でも外せないチョーカー……。原罪の象徴という事だろうか……」


悲しそうな表情を見せるカヲル…………


SOUNDONLY『……汝の責務、ゆめゆめ忘れるでないぞ、渚カヲル……。裏切りは許さん……』

ブンッ……


それだけ言い残し、消えるモノリス


カヲル「…………」

カヲル「今度はろくでもない世界に生まれて来てしまったんだね……君たちは……」


淋しそうに一人呟くカヲル……


カヲル「だけど、どんな手を使おうとも君たちは幸せにしてみせるよ……」

カヲル「例え僕が消えようともね…………」


DSSチョーカー改「」ピッ、ピッ、ピッ、ピッ…………






つづく


まだスレがかなり残ってますけど、どうしても『序』と『破』で分けたいので、こちらはここで一旦終わりにします

ここまで読んで下さった方、コメントして下さった方、ありがとうございます


次スレ立てます

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【破】ゲンドウ「久しぶりだな、シンジ」【3スレ目】


【破】ゲンドウ「久しぶりだな、シンジ」【3スレ目】 - SSまとめ速報
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