【ミリマス】百合子「人のカタチ」 (38)


ミリオンライブのSSです。
30も行かないと思います。

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「七尾百合子さんの大ファンなんです」




そのお手紙を頂いた時、嬉しいと同時に少しだけ複雑な気持ちになった。

こんな大変なはずなのに、私なんかに。
……本来であれば、喜ぶのが普通だと私も思う。



この手紙をくれた方は小学1年生の女の子。
名前はしおりちゃん。ひらがなでそう書いてあった。


彼女は……。


事故で足の骨を折っている。






現在は入院していて、することがない彼女は
大好きだった私がテレビで歌っている姿を見てお手紙を書いてくれた。


”わたし も はやく 元気 に なって
 ゆりこちゃん みたいに おどりたい”


そっか。ダンスが得意なのかな。
きっと一生懸命やっていたんだろうなぁ。

私、ダンスへたっぴなのに……。



本を読むスピードが早い私が1つの手紙をずっと読んでいることが
気になったのかプロデューサーが声をかけてくれました。


「気になるのか?」

「……はい。なんかこんな子どもたちにも私、元気を分けてあげられるのかなって」


私が座っているソファに少し間を空けて腰をかける。
ギシッと音がして私のお尻もプロデューサーの方に少しだけ沈む。




「心配するなって。百合子ならファンの皆を元気にしてあげてるさ。
 あ、そうだ! 行ってきたらどうだ?」


「えっ?」


プロデューサーの提案は意外なものでもなかった。
私自身も「もし行って励ましてあげられたら」と思っていたし。




「ほら、よくプロ野球選手が入院中で手術前の男の子とかに
 ホームラン打ったら手術を受けるんだぞ、なんて約束してるシーンを見たことないか?」

「ありますっ!」


まあドラマや漫画での話だけど。


「それを百合子もやるんだよ」

「私、ホームラン打つ機会ないですよ」

「いやいや、今度でるテレビの歌ランキングで1位取るとか……」



「うーん、難しいですね。でも言いたいことは何となく分かりました。
 このしおりちゃんが元気になるような何かおまじない的なのをして
 あげればきっと喜びますよね!」

「そうだな。少し遠くの病院なんだけど、明後日なら一緒に行けるけどどうだ?」

「うーん、明後日は杏奈ちゃんとお出かけする用事があったんですよ。
 大丈夫です。私明日行ってきますから」

「そうか。くれぐれも他の人達の迷惑にならないようにな」

「ふふ、大丈夫ですって」




こんなサプライズしたことがない私はすっかり浮かれていました。


何をお土産に持っていこう。
どんなことをしたら喜んでくれるかなぁ。
も、もし私が来て、私のことが好きすぎたら気絶とかしないかな?
なーんて、考え過ぎかな?


家に帰ってからは続きだった小説を読む。
小説を読みふけってから1時間ほどが過ぎて、


「そうだ! しおりちゃんの好きな小説を読んであげればいいか!」




ダンス好きな子が小説を読むとか、そういうのは良く分からないけれど、
それでも何か1つくらいは好きな小説があるでしょ。
きっとそれを読んであげれば喜んでくれるはず。




次の日。


私はプロデューサーに教えてもらった病院の前にいた。
片手にはお見舞いの品であるリンゴを。


入院して退屈だろうから簡単に読める小説もプレゼントで持ってきた。
今日はこれをあげてまた次回に行く時にはしおりちゃんの好きな小説を
買ってきて私が読んであげるんだ。



病院に入り、受付に御見舞に来たことを伝える。
受付のお姉さんは大きめの帽子をかぶった私を不審に思ったのか
じっとこちらを見てくる。


私は慌てて帽子を取り、怪しいものじゃないことをアピールする。
御見舞にきた女の子の名前を伝えると
受付のお姉さんは「ん?」とか「あれ?」とか言って何か焦っている様子だった。


それから「すみません、少しそちらの椅子にかけてお待ちください」
と言われ私は大人しく椅子で待つことにした。



その時だった。

「あのぉ」



「あの、すみません。人違いかもしれませんが、七尾百合子さんですか?」


ギクゥ……。
やばい、もしかしていきなり本人に見つかってしまったかもしれない。
後ろにゆっくりと振り向く。


「は、はい。一応、私が七尾です」

「わぁ、娘がね、七尾百合子さんの大ファンでね」


振り返るとそこにいた女性は40代くらいの
優しい笑顔のおばさんだった。



「はぁ……娘さんが。あっ!
 もしかして、しおりちゃんのお母さんですか?」


「えっ? どうしてしおりのことを?」


「ファンレターを貰ったんです。最近私、事務所に中々顔出せなくて
 やっと色々プレゼントとかも受け取ることができたし
 それでしおりちゃんから貰った手紙を読んで……
 居ても立ってもいられないから来ちゃったんです」


お母さんは目を丸くして驚いていた。
うるうると揺れる瞳からは大粒の涙がすっと溢れ落ちた。


「ありがとうございます。ありがとうございます」


そうお礼を言うお母さんに私はなんて声をかけていいか分からずに
肩に手を置いて


「大丈夫ですよ。もし良かったらお部屋まで案内していただけますか?」

「いえ、もうこの病院じゃないんです」

「……?」



「家が近くて退院させてもらったんです」




「そうなんですか?」

「すぐここから5分も歩いたところです。
 あの……もしよろしければそちらまで来ていただけませんか?」

「えっと……大丈夫ですよ」

「ありがとうございます。ありがとうございます」



私はそれからお母さんに着いて行く形で道を案内されることに。

お母さんからしおりちゃんが如何に私のことが好きで
家ではいつも私の話をしていて、
その時の顔がすごく楽しそうでまるでお母さんも一緒に楽しんでくれているみたいだった。



その楽しそうに歌っている姿は私にそっくりなんですって。
なんだかそうやって言ってもらえるのって嬉しいですね。


本当に5分程だろうか、
歩いた所についたのは、普通の民家………………だった。




ギィィ……鉄の門をあけて玄関まで入る。
玄関の上の灯りは仄かに点灯しているのかオレンジに光る。
そのまわりは埃と蜘蛛の巣で白くなっていた。


「……」

「さ、入って」


少し不思議な家なのかな。
まあいいか。それよりも早くしおりちゃんに会いたいなぁ。
やっと会える!



薄暗い玄関は靴が何足か綺麗に並べられている。
これはきっとしおりちゃんの靴かな? と思う
小さな靴が置いてあるのを見つける。


それと同時に奥の方でテレビの音?がする。
奥のお部屋でテレビを見てるのかな。


「ただいまー。しおりー?テレビ見てるのー?」

「……お、お邪魔しまぁす」



驚かせようと私はバレないように小声でお家の中に入る。
お母さんの後ろを着いていき、ついにご対面……き、緊張してきた。





「さあ、七尾さん、ご挨拶してあげて」

そう言われて私は元気よくテレビの音がする部屋に入る。
テレビの前にあるソファにいるのが分かった。


私はそこに近づいていく。


「こんにちは~、しおりちゃん。七尾百合……こ、です」









テレビの前のソファに座っていたのは、

人形だった。






「……っ。え、えっと」


「しおり~、ほら大好きな七尾百合子さんが来てくれたわよ~。
 ほら、ご挨拶して~」


お母さんは人形を頭を
掴み私に向けて頭を下げさせる。

「はぁいよくできましたねえ~」




「七尾さん、しおりに挨拶して」

サーッと血の気が引くのが分かる。

「えっ、えっとあの……」



「 早く挨拶してェ!!!!! 」




「ひっっ、あ、あの七尾百合子です!」


「それはお土産じゃないの……?」

「えっ、ああ、そうなんです!はい、これ」

「私にじゃなくてしおりにあげて」


うぅぅうう。嫌だ、すごいいやだ。
顔が怖い。お母さんの豹変ぶりもすごいけれど、とにかくこの人形がいやだ。
見たくない見たくない。


「は、はい。これ病気とかじゃないけど、御見舞といったらリンゴかと思って……」


とビニール袋のリンゴを袋ごと渡す。
人形と目があってしまった。本来のドール人形にもあるはずの
眼球はくり抜かれていた。



もう駄目だ。逃げよう。
帰りたい帰りたい帰りたい。

そ、そうだ。トイレ!


「あ、あのお手洗いって……ありますか?」

「出た左の奥よ」

「お、お借りしますね……」


うぅぅ、更に奥に行かないとないのかぁ。



「ほら、ここよ」


着いてきてるし、ご丁寧に扉まであけられちゃってるし。
私は仕方なくトイレにはいる。
とりあえず様式の便器に何も脱がずに座る。


ここから出たら一目散に玄関に向かって走ろう。
携帯もギュッと握りしめて、いざという時のために。



ジャー。無駄に一回流す。
流す取っ手がちょっとベタついていた。最悪……。
トイレから出るとお母さんは居なくなっていた。どこに……?


トイレに入るときにはお母さんがドアを空けたせいでトイレの更に奥の方は見えなかった。
でも今は見えている。



もう一つの部屋があり、そのドアが空いていて薄暗い部屋の中が見える。




大量の壊れた人形が散乱する部屋の……その真ん中で
お母さんがブツブツブツブツと何かをつぶやきながら一人で遊ぶ後ろ姿だった。


私は動けなかった。
心臓の音だけが頭に響く。


お母さんは激しく人形をガシャガシャと揺らして日本語にもならない言葉で
まるで言葉を知らない赤ちゃんが何かを訴えるかのように
人形を振り回し……



首が取れた。




取れた首は私の足元までゴロゴロと転がってくる。



首を追うように振り向くお母さんと目が合った瞬間……



「 ァあ゛ぁぁあ゛あ゛~~!!! 」



不気味な笑い声と共に、床を這いずり回るように私の方へ
ドタバタドタバタと猛スピードで寄ってきた。



「 ッッッ!!!! 」






私は全力で玄関まで走り、履いてる時間なんてない靴を拾い上げ
鍵をあけチェーンを外し、裸足のまま外に飛び出した。


しばらく裸足のまま走ったあと靴を履きながら遠くに見えるあの家を見た。
二階の窓から赤子のようなに指をしゃぶるあのお母さんの顔が見えたので
私はまた走って逃げた。


おわり

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