見滝原に微笑む刹那(まど☆マギ×ネギま!) (685)

お断り

本作では、まど☆マギ側の原作設定に就いて
こちらの都合で一つ意図的に変更した部分があります。

かなりの部分、特に前半は原作知識前提の内容になります。

それでは、スタートです

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1491067306

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何故






彼女なのか?







何故






彼女は微笑むのか?




















心から









そう思うのなら









魔法少女に









なりなさい





 ×     ×

「………夢オチ?」

鹿目まどかは、眠たい声で確認していた。
お気に入りのぬいぐるみがあって、
朝の太陽が花柄のカーテンを透かしているいつもの寝室。

ひどく、殺伐とした夢を見たと思った。
廃墟の中で痛々しく、余りにも痛々しく戦い、傷付く少女。
どちらかと言うと子どもっぽいと自覚しているまどかから見て、
長い黒髪の、華奢にも見えるけど何処か大人びて、
そして言い知れぬ悲壮感が突き刺さる少女がいた、そんな夢。

いつもの寝室、いつもの日常の光景を寝ぼけ眼にとらえるだけで、
それは優しい日常の片隅へと遠ざかる。

ーーーーーーーー

「あーさ、あーさっ」

両親の寝室では、三歳になる鹿目タツヤが、
ベッドの布団をぽかぽか叩いて楽し気に叫んでいた。
飛び跳ねヘアーのパジャマ姿で家庭菜園の父への挨拶を済ませたまどかは、
その寝室の引き戸を気持ちよくすぱーんっと開く。

「おっきろぉーっ!!」
「うっひゃあぁーっ!!!」

そのまますぱーんっとカーテンを開き、陽光と共に布団を引っぺがすまどか。
ベッドの上で悶絶する鹿目詢子、まどかとタツヤの母。

「おきたねー」

鹿目家の朝は愉快に始まる。


ーーーーーーーー

「最近どんなよ?」

洗面台で並んで歯磨きをしながら、詢子は娘に尋ねた。

「仁美ちゃんに又ラブレターが届いたよ、
今月になってもう二通目」
「直かにコクるだけの根性もねぇ男は駄目だ」

母と娘の女子トーク。

志筑仁美は小学校以来のまどかの友人、詢子とも知らない仲じゃない。
ちょくちょく頂くラブレターへの対応に困っている、と言うのも分かる、
ふんわりと気立てのいい可愛らしい本当の意味でのお嬢様。

まどかの担任の早乙女和子は詢子の個人的な友人だったりする。
まどか曰く、何でも和子先生は昨日現在で彼氏の事をのろけまくりなので
ぼちぼち継続期間が新記録、との事だが、世の中そんなに甘くはない。
と、付き合いの長い親友鹿目詢子の直感が囁く。

でもって、問われるままにそんな面々の恋愛模様をお話ししているまどかは
そっちの方には全く以て疎かったりする。
姉御肌の詢子としては、それが歯痒かったり微笑ましかったり。

1、2、3、4、5、6、7、8、9、10

つい先ほどまでの寝坊助が何処に出しても恥ずかしくない、
大人に言わせれば、とてもこれだけの子持ちには見えない
バリキャリ美女にメタモルフォーゼする。
毎朝の事ながら、そんな母の、一人の格好いい女性の姿に、
鹿目まどかは惜しみなく憧憬の眼差しを送る。


ーーーーーーーー

「どうかな?」
「ああ、いい感じ」
「うん、美味しい」

しっとりとしながら心地よい歯ざわりも残る。
家庭菜園発の茄子の浅漬けは、好評を以て朝食のお供に迎えられた。

まどかの父、鹿目知久は、まどか曰く家事の天才であり、
素晴らしい菜園の主でもあった。
それはそのまま、こうやって白いご飯が美味しい浅漬けに直結している。

まどかの知る限りパン食の時期も長かったと思うが、
何かのきっかけでこうなっている。
どっちにしろ、父の天才っぷりが微動だにしていない事を実感しながら、
まどかはいつも通り美味しい朝食を堪能する。

インゲンの味噌汁にオクラの和え物。
まどかはそのどれもこれも大半が自家製である事に今更ながら感心しつつ、
野菜多めのメニューでもネバネバオクラは元気の素だと
何時ぞや詢子が笑ってウインクしたのを思い出す。

「コーヒー、お代わりは?」
「おー、いいや」

知久の誘いに、時間を確認した詢子がぐーっとコーヒーを飲み干し、
家族とのスキンシップを交わして出勤に就く。
まどかに残された時間も、決して長いものではなかった。


ーーーーーーーー

朝の通学路で、友人の志筑仁美に母からのアドバイスを伝えたり、
自分には少々派手だ、と思いつつ
気合いの入った母に押し切られる様に装着したリボンを
友人の美樹さやかに手荒く褒められたり。
何時もの様に姦しく、
鹿目まどかは見滝原中学校の自分の教室に到着する。

朝のHRでは、担任の早乙女和子先生が
彼氏に振られて爆発すると言うまどか達にとっては割とよくある光景を経て、
転校生紹介と言うイベントが開始される。

一日の授業を終えて放課後、
まどか達が行きつけのフードコートで一服していた時には、
美樹さやかは快活に大笑いしていた。

確かに、まどかの知る限り今朝初対面の筈の転校生が
夢の中で出会った様な気がしたり、
その転校生が自分に対して何やら意味深に運命的な発言をしたり、
実際たった今まどかがそうした様に、
それをさやかに伝えれば、それはさやかなら裏表なく笑うだろう。

その事はまどかにもよく分かる。
しかも、その転校生がストレートの黒髪も見事な美少女で、
勉強OKスポーツOKのハイスペック万能選手と来たら尚の事。

もう一人、同伴している志筑仁美は、くすくすと可愛らしく笑いながらも、
或は本当に何所かで会った事があるのでは、と、
落ち着いた分析を披露する。

かくして、お嬢様らしくお稽古事に向かった仁美と分かれ、
まどかとさやかは行き着けのCDショップへと足を運んだ。
さやかは、級友である上条恭介へのお見舞いを選ぶのだと言う。

まどかにとってさやかが小学校からの幼馴染なら、
上条恭介とさやかは幼稚園以来の幼馴染。
実際、割と長い付き合いのまどかともそうであるが、
特にさやかとは、男女にしては気の置けない間柄、
それがまどかの知る上条恭介。


だけどまどかは知っている。
男勝り、お転婆、そう言って、周囲も本人すら、
何処からも否定する声は出ないだろう。

そんなさやかが、何時しか恭介の話をする時に見せる様になった、
それは紛れもなく女の子の顔。
そちら方面には疎い、と自認しているまどかでも
見ているだけで胸の高鳴りを覚える、そんなさやかの表情。

そして今、その表情は些か陰りを帯びている。
それは、別に失恋した訳ではなく、
当の上条恭介が入院してしまったから。

それも、将来を嘱望されたヴァイオリニストの卵である恭介が、
交通事故でまともに動かせない程に左手を痛めた。
その事にさやかは心を痛め、回復を祈っている。
まどかも又、二人の友人として

「………助けて………」

まどかは、CDの試聴を止める。

「………助けて………」
「?、?、?」

聞こえる。
余りのダイレクトさに、当初は試聴していたCDの音声かとも思ったが、
まどかは確かに聞いていた。
それも、頭の中に直接響く様な未体験の救援要請。
戸惑うのも当然だった。


ーーーーーーーー

「まどか、こっちっ!!」
「さやかちゃんっ!」

まどかは、白煙と共に親友美樹さやかの叫びを聞いていた。
謎の声に誘われる様にショッピングモールからその改築エリアに侵入し、
そこで、半ばボロ雑巾と化した謎生物と、
それを追跡していたらしい謎の転校生暁美ほむらと遭遇した。

今朝、転校生として同じ教室で遭遇したばかりで
少々言葉も交わしているので謎と言う程でもない筈なのだが、

少なくとも今朝彼女が着用していた見滝原中学校のものとは違う学生服、
どう見てもコスチュームプレイの類に見える服装で
狐だか猫だかなんだかよく分からない謎の小動物を追跡している、
でもって虐待している疑いが濃厚なのだから
謎の転校生と言っても差し支えは無いだろう。

しかも、同級生として言葉を交わしたら
尚の事謎が深まるのが暁美ほむらだったりする。

少なくとも美樹さやかはそう受け取ったらしいが、
それでこちらに向けて消火器を噴射すると言う
相変わらずの有り余る行動力決断力にまどかは改めて感心する。
そして、さやかと共に文字通り逃走しながら、まどかは異変に気付いた。

「あれっ? 非常口は? どこよここっ?」

さやかも気付いたらしい、気付かない方がおかしい。

「変だよ、ここ。どんどん道が変わって行く」


まどかもさやかも、彼女達、中学生に限らず、
実体験としてこの状況を言語化する事は簡単ではないだろう。
強いて言うならば、改装中の殺風景なビルディングを走っていた二人は、
いつの間にか、何やら不気味な絵画の中を思わせる、
そんな得体の知れない奥行き不明の空間の只中に存在していた。

そんな不気味な空間の中で、
まどかとさやかは更に不気味に何かに包囲されていた。
一見すると蝶々の様な。

但し、その大きさは少なくとも人間の子どもに匹敵するバカでかさ、
羽を使って歩行し髭の様な変な飾りがあり。

更に、その化け物蝶に加えて
自律行動するハサミやら鉄条網やらがうじゃうじゃと現れて二人に迫る。
まどかもさやかも、これが自分に対して友好的なファンタジーである、
と受け取る事は出来なかった。

「冗談だよね?
あたし、悪い夢でも見てるんだよねっ?
まどかっ!?」
「?」

叫ぶさやかの横で、まどかは何かを目で追っていた。
何かが二人の側を飛んで、ひゅんっ、と通り過ぎる。

「何、これ?」

さやかが発した問いへの直截な答えは独鈷、と言う事になるが、
生憎、それはさやかの語彙には含まれていなかった。
三口の独鈷が二人を囲み、一口が二人の真上に向かう。
次の瞬間、二人の周囲は衝撃波に飲み込まれたが、
二人は直接的な打撃を感じなかった。


ーーーーーーーー

「何、これ?」

巴マミも又、問いを発した。
パトロール中、魔女の痕跡を察知して
改装中のエリアに侵入、魔女の結界に突入した。
そして、どうもまずい事になっているらしい、
と察知して救助を急いだ。

そこまでは割とよくある流れだった。
しかし、その地点に到着する少し前に強烈な攻撃が行われた。
そして、到着した時には、
桜花の余燼を僅かに残し、
獲物に群がっていた少なからぬ使い魔は見事に一掃されていた。

「危ない所だったわね」

抱き合って震えていた二人の後輩に、マミは声を掛けた。

「その制服、あなた達も見滝原の生徒なのね。二年生?」
「あなたは?」
「自己紹介したい所だけど、今はそれどころじゃないわね。
使い魔は魔女と一緒に引っ込んだ? 確かめなきゃいけない事がある」

ぶつぶつ呟く先輩を、まどかとさやかは怪訝そうに眺める。

「弱まってる今なら、あっちに逃げたら逃げられるから。
後でお話ししましょう」

そのまま、マミは結界の奥へと走り去った。

(新手の魔法少女? 確かめないと………)

「うひゃあっ!!」
「さやかちゃんっ!?」

まどかがさやかの視線を追うと、そちらでは長く艶やかな黒髪が翻っていた。
まどかは何かを言おうとしたが、
取り敢えず、たった今告げられた先輩からの助言を
正反対に無視して突っ走るさやかを追跡するのが先だった。


ーーーーーーーー

「どうしてここにいるのかしら?」

後輩にたった今言われた事を真正面から無視されては、
マミの声に怒りがこもるのも無理からぬ所だった。
さやかもまどかも、それはよく分かる。

「い、いや、その、あっちに敵がいた、と言いますか………」
「そう。じゃあ、ここを動かないで」

マミはすっぱり会話を切り上げ、正面を見る。

「見て、あれが魔女よ。
さっき、あなた達を襲っていたのは使い魔。
魔女を倒せば使い魔も消える」
「倒す、って………」

三人がいるのは、得体の知れない空間の中で、
ホールの中二階に繋がる通路、
そのホール入口周辺、の様な場所だった。
そして、そのホールのど真ん中に巨大な怪物がいる。
その形状は辛うじて蝶々と何か、と呼べる意味不明な代物で、
少なくとも一人の少女が「倒せる」相手には見えない。

「下がってて」

マスケット銃で床を突き、二人の後輩をバリアで守ったマミは、
そのまま人間離れした跳躍でホールの真ん中に降下した。

(いる………)


真正面に薔薇園の魔女、周囲に使い魔、それはいい。
問題は、


(もう一人、いる)

マミは、その事を察知していた。
魔女や使い魔ではない、恐らく自分達と近い存在。
それがこの近く、このホール内にいる筈だが、
現時点では視界に入らない、敵か、味方か?

マミは少々の苛立ちを交えて小さな使い魔を踏み潰し、
憤激した魔女の椅子アタックを交わし砲火を交えて
戦いの火蓋は気って落とされた。
使い捨てのマスケットが次々と火を噴き、
マミにとっては順当に魔女を追い込んでいく。

「ああっ!!」

美樹さやかが叫び声を上げた。
状況的に言って自分達を助けてくれた、
そして、魔女と言うらしい化け物相手にも
不思議な技で丁々発止対抗していた謎の先輩。

そんな先輩に使い魔なるものが群がり、
その使い魔の群れはぶっとい蔓と化して先輩をぶうんと持ち上げ、
ホールの壁に叩き付けていた。

実の所、これもマミにとっては想定内の出来事だったが、
次の瞬間に異変は起きた。

「?」

自分を締め付ける力が緩み、マミは訝しむ。
見ると、蔓は根本から切断され、
そのままバラバラの使い魔の死体と化して消滅していった。


(見つけた)

マミが、心の中でひとりごちる。

どちらかと言うと小柄な少女、
背負っている筈が背負われている様な馬鹿でかい刀、
見る人が見れば野太刀と分かる代物を携えている事が、
彼女をより小柄に見せる。

そんな少女が不意にマミの視界に現れ、魔女に一撃加えていた。

「神鳴流奥義・斬岩剣っ!」

距離を取った魔女に瞬時に追いつき、
野太刀の一撃で巨大な魔女を揺るがす。
少なくとも、人間業ではない。

「凄い………」

最初から想像の埒外とは言え、更なる展開に
まどかもさやかも見入っていた。
小柄な少女の背丈程もある巨大な刀。
その一振り一振りが又、
常識外れな衝撃を放って巨大な魔女をぶん殴っている。

「神鳴流奥義・百烈桜華斬っ!!」

舞い散る桜華と共に、強烈な斬撃が魔女を押す。
そして、魔女がホール内の一点に追い込まれている事をマミは見逃さない。
果たして、野太刀少女が大きく飛び退いたそのすぐ後に、
魔女は地面から噴出したリボンによって雁字搦めに拘束されていた。


ーーーーーーーー

「ティロ・フィナーレッ!!」
「やった………」

到底抱え切れていない巨大な抱え筒が魔女とやらに致命傷を与えるのを見て、
美樹さやかは脱力しながら呟いた。

「さやかちゃんっ」

そして、親友鹿目まどかの声に、さやかは我に返る。

通路にいるまどかとさやかに、ホール側からざしざしと接近して来る者がいる。
それは、たった今までホールにいた筈の、
背丈程もある野太刀を担いだ一人の少女。

さやかと同年代にも思える華奢な少女がそんな野太刀を正確に振るっていた、
その事からして尋常ではないのだが、
今、さやかが感じている彼女の佇まいは戦場の軍人か侍か。
ピン、と張り詰めたものがさやかを震わせる。
こうして見ると色白で端正な顔立ちである事が、
より鋭く、清冽なイメージをさやか達に突き付ける。

まどかとさやかが息を飲んでいる間に、
バリアの境界真ん前で足音は止まった。


「………ケガはありませんか?」

さやかは、目をぱちくりさせてその問いを聞いていた。

「………あ、あのっ………
大丈夫です、有難うございましたっ!!」

ぱたん、と、体を折り、まどかは叫んでいた。

「………良かった………」

顔を上げたまどかは、優しい微笑みを見た。
まどかがそう思った時、小さく礼を返された。
真面目で、そして、少し寂し気な表情をまどかは見ていた。

「あ、えっと、はい大丈夫です、ありがとうございました」

さやかも慌てて頭を下げる。

「あなた、何者?」

背後からの詰問に対しても、
彼女は静かな微笑みと共に振り返った。
振り返りながら何かを摘み上げ、
マスケットの銃口を向けている相手に向けて放り出す。

「見つけておきました、差し上げます。
そちらの邪魔をするつもりはありませんので」
「有難う。他所の魔法少女なのかしら?」
「申し遅れました」

巴マミが真正面から見たその眼差しは、
自分が向けている銃口にも何に対しても余りにも静かで、
マミが息を飲む程に落ち着き払っていた。

「桜咲刹那、退魔師です。
そちらのあなたも、そろそろこちらに加わりますか?」

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今回はここまでです>>1-1000

続きは折を見て。

それでは今回の投下、入ります。

>>17

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「………あ………」

さやかが周囲を見回す。
得体の知れない空間は現実的な改築中のビルに姿を戻していた。
そして、桜咲刹那の言葉に応じる様に、暁美ほむらが姿を現す。

そして、まどかが気づいた事がある。
今日転校して来たほむらとはその朝のHRが初対面の筈で、
幾度か直接顔を合わせてもいるが、
まどかが知っていたほむらの表情は鉄面皮そのもの。
それ以外の表情は知らなかった。

だが、今のほむらは戸惑っている。それを隠し切れていない。

「まどかぁ」

そして、さやかが小さな声で危険を促す。

「あなた、この子、キュゥべえの事が見えるのね?」

マミは、ほむらを無視する様にまどかに声を掛ける。

「助けてくれてありがとう。この子は私の大切な友達なの」
「は、はい。私、呼ばれたんです。助けて、って、直接頭の中に」
「ふうん、そういう事」

そして、マミは改めてまどか、さやかとほむらを見比べる。

「生憎だったわね、魔女はもう片付いたわよ」
「私が用があるのは………」
「呑み込みが悪いのね、見逃してあげるって言ってるの」

マミが放った威嚇の言葉に、場の空気は再び張り詰めた。


「お互い、余計なトラブルとは無縁でいたいと思わない?」
「………後悔するわよ」
「次は、お友達になれそうなタイミングで会いたいわ。
お互いのためにも」

微笑みと共に告げたマミに、ほむらは無言のままで踵を返した。

「あなたは………タイマシ、って言ったわね。
魔法少女じゃないのかしら?」
「違うね。僕は彼女と契約した覚えは無いし、
魔法少女とは違う様だ」

マミの問いに答えたのはキュゥべえだった。

「はい、私は退魔師。
あなた達マギカ、魔法少女とは少々別の存在です。
そして、彼女達は救兵衛に見込まれた様ですが、
少し、話をすり合わせた方がいいのでは?」
「そうみたいね」

頭の回転が速い。
桜咲刹那と名乗った少女にその事を感じながら、
マミも最初からそのつもりだった提案に同意する。
そして、まどかに抱かれたキュゥべえに治癒の魔力を施術する。

「助かったよ、マミ」
「お礼はこの子たちに、私は通りがかっただけだから」
「どうもありがとう。僕の名前はキュゥべえ」

キュゥべえはマミとの問答通り、まどかに礼を言った訳だが、
言われたまどかにして見ると、
ぬいぐるみの様な謎の生物が人語を喋っている時点で
その奇怪さに一歩退いてしまう。

「あなたが、私を呼んだの?」
「そうだよ。鹿目まどか、それと美樹さやか」
「何で、私達の名前を?」

名前を呼ばれ、怯みを見せながらさやかが尋ねる。


「僕、君達にお願いがあって来たんだ」
「お、お願い?」

まどかがやや怖々と聞き返す。

「僕と契約して、魔法少女になってよ」

愛らしく頷き、告げるキュゥべえを
桜咲刹那は涼し気な眼差しで眺めていた。

ーーーーーーーー

「美味しい、マミさんこれ美味しいです」
「これめちゃうまっすよ」
「美味しいです」

マミが一人暮らしをしているマンションのフラットで、
彼女が差し出したシフォンケーキとハーブティーは
三人の訪問者から惜しみない賞賛を以て迎えられた。

キュゥべえに選ばれた以上他人事ではない、
と言う事で、マミはまどかとさやかに
魔法少女に関する基本的な知識を教える。

ソウルジェムから魔法少女、魔法少女から魔女、
願いの対価としてソウルジェムを得て結界に潜む魔女と戦う。
マミとキュゥべえの口から、
世界の秘密の一端がその様に語られる。


「あの転校生も、えっと、その、魔法少女なの?
マミさんと同じ?」
「そうね、間違いないわ。かなり強い魔力を持っているみたい」

話は進むが、魔法少女同士、正確には魔法少女であるほむらが
契約を司るキュゥべえを襲撃した事に就いて、
まどかとさやかはなかなか理解が出来ない。

「これがグリーフシード、魔女の卵よ」
「た、卵………」
「運が良ければ魔女が何個か持ち歩いている事があるの」

マミが取り出したグリーフシードを、
まどかとさやかは怖々と眺める。

「大丈夫、その状態では安全だよ。
むしろ役に立つ貴重なモノだ」

キュゥべえがそういう中、
マミは再び自分のソウルジェムを取り出し、グリーフシードを近づける。

「見てて」
「あ、綺麗になった」

「こうやって、消耗した魔力を元通りにする。
それが、魔女退治の見返り。
だから、同じエリアに魔法少女が増え過ぎると、
魔女、グリーフシードの奪い合いなんて事も起こる。
それを避けるために、鹿目さんの契約を阻止しようとして………」

「それで、あんな風にキュゥべえを?」

ここまでの行きがかりで、
ほむらに対して余り虫が好かないさやかが非難を込めて言った。

「多分、そういう事でしょうね。ところで………」

その辺りまで黙って聞いていた刹那にマミが声を掛けた。


「あなたは一体どういう人なのかしら?
助けてくれた事は感謝するけど、退魔師、って」

マミの問いに、刹那が向き直る。

「夕凪」の銘を持つ野太刀を前から肩に掛け、
目を閉じてじっと聞くだけの刹那は眠っている様にも見えたが、
それにしては独特の緊張感を漂わせていたのも確か。

制服と銃士の様な魔法少女スタイルを忙しく行き来していたマミに対して
刹那はカジュアルなパンツにシャツのスタイル。

ロングとまではいかなそうな綺麗な黒髪を
サイドポニーに束ねているのはやや個性的とも言えるが、
それだけに背丈に余りそうな夕凪の、
そしてその普通の格好で魔女を半ばぶちのめした行動の違和感は只事ではない。

「大きく言えば、魔法使いと言う事になります」
「………」

その言葉を聞いた三人が三人、反応に困っていた。

「救兵衛との契約で魔法の力を得るあなた達魔法少女、
こちらでは主にマギカと呼びますが、
そのマギカに対して、私達は言わば土着の存在です。

古今東西の物語に出て来る魔術師、魔法使い。
その伝承の中には過去に存在したマギカに就いて語ったものもある様ですが、
そうでないものもかなりの数に上る。

その、そうではないもの、
マギカとは別の所で科学とも違う力を発展させて来た。
それが我々であると理解して下さい」

「………」
「ええっと、その………」

マミとさやかが言葉を探している中、まどかが怖々口を開く。


「その、絵本の中の魔法使いって事ですか?」
「そういう事になります」

真面目に答える刹那だったが、
ふっ、と、優しい先生の様な笑みを浮かべていた。

「もちろん大雑把な答えですが、
あなた達マギカと比較するならちょうどいい定義です」
「なるほど」

さやかも、なんとなく理解した様だった。

「魔法少女がいるなら魔法使いがいてもおかしくない、
そういう事ね?」
「そんな所ですね」

マミの理解に刹那が答える。

「中でも退魔師は、それもあなた達の魔女とは別の
土着の魔物、悪霊を退治する事が本来の仕事です」

「い、いるの、そういうの?」
「ええ。まあ、大概のものは
目立った害が出る前に我々が対処していますが」
「そうなんだ………」

質問したさやかが引きつった反応をする。


「さっきも言ったけど、魔女の存在も普通の人には分からないわ。
結界の奥に潜んで普通の人には見えない。
そして、人を誘い込んで命を奪う。
一般には原因不明の自殺や行方不明として処理されてる」

マミの改めての説明に、
まどかもさやかも改めて先程の自分達の危険に息を飲む。

「そういう訳で、本来私達魔法使いとあなた達マギカは交わらない存在。
伝承上、両者が交わった事や技術的に交流した事もあった様ですが、
現状では我々はそちらには関わらない、原則としてそういう事になっています。

あなた達にはあなた達の利害がある。
只でさえ双方ともに世間に隠れた力のある存在。
それが、二つの別々の勢力が関わり合っても
トラブルの懸念の方が大きいですから」

「そうね。私達としては契約した以上、
妙な人達に邪魔されずに魔女を退治させてもらいたい所ね」

「それはこちらでも理解しています。
只、一方で我々、私達が属している組織ですが、
こちらは公益目的の活動も行っています。
ですから、最近この見滝原近辺の魔女の発生件数に就いて
懸念されるものがあるとして、実態調査のために私が派遣されました」

「組織?」
「現在は関東魔法協会と言う組織に所属しています」

マミの問いに刹那が答え、
急に、変に現実的になった事をさやかは感じ取る。


「その、関東魔法協会?」

少々戸惑っているのはマミも同じらしい。

「はい。私達の管轄する裏側の秩序を司る魔法使いの組織です。
当面の所、直接あなた達と接触するのは私だけになると思いますが。
もちろん、あなた達の縄張りを荒らすつもりはありません。
そもそも、私がグリーフシードを得ても仕方がないですから。
そういう訳ですので、
当面はあなたと協力して活動したいのですが」

「話は分かりました」

刹那の説明に、紅茶を傾けていたマミが答えた。

「助けてもらった恩もある。こちらの邪魔はしない、
と、約束してくれるなら、むしろ歓迎よ」
「助かります」

マミの言葉に、刹那はふうっと息を吐く。

「そして、鹿目さん、美樹さん」

マミが二人に向き直った。

「キュゥべえに選ばれたあなた達には、
どんな願いでも叶えられるチャンスがある。
でもそれは死と隣り合わせなの」
「ううう………」
「うわぁ、悩むなぁ………」

そして、改めてマミの魔女退治に同行して魔女退治がどういうものか、
命懸けで叶えるべき願いはあるか、
それを見定めようと言うマミの提案、それを二人が受け容れるのを、
再び眠った様な桜咲刹那は片目を開いて聞いていた。


ーーーーーーーー

「なんか、サムライって感じだったよねー」

とうに陽の沈んだ帰り道、さやかが隣を歩くまどかに言った。

「あの、桜咲刹那って人。
刀持ってたのもそうだけど、無口で礼儀正しくてとにかく固い感じで、
侍って言うか、用心棒の先生って感じ」
「ウェヒヒ………」

さやかの的確な例えにまどかは苦笑する。
しかし、まどかの印象は少々違っていた。
大体の所、一見した所は、
まどかもさやかと同じ印象は持っている。

「………でも………」
「ん?」
「桜咲さん、優しい人なんじゃないかな?」

「そうかな? うん、助けてくれた訳だし、
悪い人じゃないかも知れないけど。
悪い人って言ったら、あの転校生?
キュゥべえを襲ったりして、マミさんが追っ払ってくれたけど」

「悪い子、なのかなぁ?」
「じゃないの? それじゃあまどか、又明日」
「うん」


ーーーーーーーー

「ただ今………」
「お帰り、まどか」

普段より随分遅い帰宅のまどかだったが、
それを迎えた知久はいつも通り穏やかだった。

「ママは?」
「ああ、まだかかるみたいだね」
「そう」

知久は、先輩からお呼ばれして遅くなると言う
電話連絡をまどかから受けていた。
話している内に用意が出来て、まどかは食器をテーブルに運ぶ。

「いただきます」

まどかは少し遅い、温かな夕食を口に運ぶ。

「ご馳走様」
「お粗末様でした」

いつも通り美味しい夕食、穏やかで優しい父。
現実に戻って来た感じ、と言うものをまどかは実感していた。
それと共に、どっと疲れを感じる。
とんでもなく非常識な事が色々あり過ぎて、疲れを忘れていた感じだ。

今夜はお風呂に入って早く休もう。
その誘惑が力一杯に今のまどかを引き寄せる。
もしかしたら、今日の非常識全部が夢オチになってるかも、
なんて事まで考えたくなる、まどかにとってはそんな一日だった。


ーーーーーーーー

「………」

桜咲刹那の視線の先には、四角い一軒家が存在していた。
土地と金に余裕がある郊外の内に思い切って建てて買った、
と言う感じで細々としていない。
庭付き一戸建て二階建てとしては、
表向きガラス戸の多いどっしりとした建物に、畑の一つも出来そうな、
と言うか実際出来ている広々とした庭も魅力的だ。

「動かないで」

背後からの声に、刹那は素直に両手を上げる。

「桜咲刹那、退魔師とやらがここで何をしている?」
「暁美ほむらさん、と言いましたか?」
「質問に答えてくれるかしら?」
「帰宅する途中ですけど」
「死にたい訳?」
「そのつもりなら一つ忠告しておきましょう」
「!?」

ほむらが構えていたM9拳銃。その銃口の先が、ぶれた。
銃口の先が刹那の頭をとらえていた筈が、
とらえていたと言う事実が不意に、揺らいだ。
と、思った次の瞬間には、
刹那の肘を腹に叩き込まれたほむらの体が大々的に路上を滑っていた。

「か、はっ………」
「神鳴流に飛び道具は効きません………?」

びゅうっと風の様な勢いで移動した刹那は、
吹っ飛んだほむらを捕獲しようとした。
しようとしたその時には、
ほむらの姿は刹那の視界から消えていた。


「だからと言って」

ほむらの振り下ろした
4番アイアンのヘッドの下にあった筈の刹那の頭部は、
すぐ近くの地点にすいっと移動し、
その時には、ほむらが水月に拳を叩き込まれて体をくの字に折っていた。

「こちらで私に挑むと言うのは、もっと無謀でしょうね」

いかにもつまらなそうな刹那の言動に、ほむらは戦慄を覚える。
元々特殊能力の一点を除けば直接戦闘向きではないほむらだが、
魔法少女単位で考えても桜咲刹那、生半可な相手ではない。

(つっ、痛覚遮断っ!)

刹那がほむらと少し距離をとった瞬間、
ほむらは消耗を覚悟しつつ刹那から離れる。。
そうしながら、刹那の手が光を帯びているのを歪む視界にとらえる。

「匕首・十六串」
「!?」

距離を取ったほむらに、何口もの匕首が飛翔して迫って来る。

(これはっ!?)

銃器を用意しようとするが、間に合わない。
それ以前に、そういう対処が出来る代物なのか、

「稲交尾籠………」

バシュウッ、と、周囲が一瞬強い光に包まれた。

「………」

刹那が正常な視界を取り戻し、
自らが展開した捕縛結界を確認する。
果たして、その中は空だった。


ーーーーーーーー

「秘剣・百花繚乱っ!!!」

暁美ほむらを見失い、夜の住宅街で歩みを進めていた桜咲刹那は、
大きめの公園にざしざしと立ち入り、振り返り様に夕凪を振るっていた。
衝撃波が土煙を起こし、刹那は術の影響で舞い散る桜華に目を凝らす。

ぶうんっ、と、一見すると野太刀離れした非常識な勢いで、
刹那は夕凪を斬り上げる。
ギインッ、と、何か鉄棒とでも打ち合った様な手応えはあった。
刹那は夕凪の棟を肩に掛け、鋭い眼差しで気配を伺う。

「斬鉄閃っ!!」

夕凪の斬撃から強力な「気」を放った時には、
刹那は身を交わしていた。

「アデアット」

それでも執拗にまとわりつく鋭い斬撃を、
刹那は左手の「白い翼の剣」で辛うじて受け流す。

「神鳴流奥義・斬岩剣っ!!!」

そして、刹那は力一杯の一撃を叩き込む、が、
やったか、とは思わない。
手応えが無いのは最初から分かっていた。
取り敢えず、脅威は去った様だ。


ーーーーーーーー

「どうだった?」

住宅街、夜の路上で問いが発せられる。

「強いね、並の魔法少女じゃ叶わないんじゃないかな?」
「キリカでも?」
「こちらの術で作ったズルを正攻法でぶち破りかねない、
それ程の実力だったよ。
だけど織莉子がやれと言うなら、それは些細な事さ」
「そう」

美国織莉子は、ひゅっ、と、小さな水晶球を二つ放った。
一つ目の球が空に消え、少し遅れて二つ目が飛翔する。

「折り紙?」

ひらひらと降って来たものを見て、呉キリカが言った。

「かみにんぎょう、かしらね?」

それを掴んだ美国織莉子が言い、ぽいと放り出す。
その折り目のついた紙片は、
空中で、ぼっ、と紅蓮の炎に包まれた。

==============================

今回はここまでです>>19-1000
続きは折を見て。

それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>32

 ×     ×

「ええええっ!?」
「どうしましたのっ!?」
「い、いや、なんでもないなんでもないあはははは」

朝のHR終了後、最初の休み時間にガタンと立ち上がって絶叫した美樹さやかに
友人の志筑仁美が目を丸くして声を掛け、
さやかは頭を搔いてごまかしてみせる。

「そ、そうですの」
「ウェヒヒヒ」

その側で鹿目まどかも苦笑いしているが、
さやかとまどかは目と目で通じ合っていた。

魔女やら魔法少女やらの騒動に巻き込まれた翌日。
或は夢オチでは、と言うまどかの現実逃避は、
まどかの寝室でぬいぐるみに紛れて
朗らかに朝の挨拶を決めたキュゥべえが簡単に打ち破ってくれた。

魔法少女の素質が無ければ
キュゥべえの存在を認知する事は出来ないと言う事で、
見える者には得体の知れない、でも可愛らしい小動物であるキュゥべえは
登校するまどかにまとわりついてそれを見たさやかを驚かせたり、
そんな二人を見た仁美を驚かせたりもした訳だが、
その辺りの事は割愛としておく。


実用的な面では、まどかとさやかはキュゥべえを介する形で
三年生の先輩である魔法少女巴マミと
テレパシーのチャンネルを繋ぐ事に成功した。

昨日キュゥべえを襲撃したと言う暁美ほむらも
まどか、さやかと同じ教室にいる訳だが、
学校で滅多な行動はとらないだろう、と言う予測で話を止めていた。

そして、今、もう一度マミとのテレパシーを繋いだ所、
伝わって来た話はなかなかの急展開だった。

「桜咲、さんが転校して来た、って」
「三年生だったんだ………」

ひそひそ話していたつもりのまどかとさやかは、ガタッ、
と言う物音に視線を走らせる。
そこでは、暁美ほむらが目を見開いて立ち尽くしていた。

ーーーーーーーー

昼休みに屋上で改めて鹿目まどかと美樹さやかに釘を刺したり、
その際に別の校舎の屋上から巴マミに無言の威嚇を受けたり
帰りのHRの後に同級生からのお茶のお誘いを丁重に断ったりしながら、
暁美ほむらの本日の学校生活は終わりを迎える。

(これって、本当は佐倉杏子辺りのやり方じゃないのかしら?)

そして、時間停止を使いながら
近隣の高層ポイントに移動して双眼鏡を覗く。


ーーーーーーーー

(ここは………)

地上に戻ったほむらがしばらく歩き続け、到着した先には
解体も先延ばしにされている廃墟と化したビルが存在していた。

「何か、御用でしょうか?」

屋内に入り、エントランスで周囲を見回していたほむらは、
不意に背後から声を掛けられる。
しかし、これはほむらのシミュレーションの一つでもあった。
ほむらが、振り返り様に大振りの軍用ナイフを振り抜く。

「!?」

しかし、次の瞬間、ほむらの表情を占めていたのは狼狽そのものだった。

「それが、時間停止の絡繰りですか」

桜咲刹那が左手に握る「白き翼の剣」の切っ先は、
ほむらが左腕に装着した盾に突き立てられていた。
その盾で動き出した絡繰りが、
歯車に剣の切っ先を噛んで強制停止する。

歯車から刃が抜ける、が、ほむらはとっさに地面を転がる。
この様子では、刹那が発動を逃す事は絶対に無いだろう。

ほむらが腿に装着しておいたスローイングナイフを放った。
その瞬間、刹那がほむらの視界から消え、
ほむらはバッと振り返る。

(間に合わ………)

そもそも銃弾が効く相手なのかどうかはとにかく、
ぐわっと目の前に迫っていた刹那にM9拳銃を向けながら、
ほむらの頭はどの程度のダメージを許容すべきか、
と言う損切りを考えていた。


その、刹那がぐいっと後退し、
飛んで来た一本の棒が二人の間を槍の様に突き抜ける。

「アベアット」

次の瞬間、「白き翼の剣」はカードに戻り、
振り返った刹那が
自分に打ち下ろされた一撃を鞘のままの夕凪で受け太刀する。
タンタンターンッとエントランス中央階段に足音が弾け、
踊り場でガン、ギン、ガンッ、と打撃が衝突する。

(銃剣術、我流ですね)

相手の流儀を冷静に把握しながら、
刹那が居合抜きを一閃する。

本来、野太刀である夕凪は居合には決定的に不向き、
と言うより物理法則そのものに抵触するものであるが、
その辺りは神鳴流剣士だから、と言う事になる。

刹那が回避している巴マミの攻撃は、
無から有、空中に次々とマスケット銃を発生させて
その神出鬼没な武器でぶん殴って来ると言うトリッキーさもあるが、
その殴り合いの技量自体、決して侮れるものではなかった。

刹那は再び跳躍して階段を下り、
その後をマミが放つ銃弾が追跡する。

(敷地も含めてそこそこ広い、
騒音も含めて多少の銃声も目立たない、か)

ババンッ、と、先回りする様にエントランスの床に銃弾が弾け、
ちょっと遅れて刹那が着地する。
普通であれば、上から狙い撃ちされる方が不利。
但し、刹那は神鳴流剣士。
但し、


「神鳴流奥義・百烈桜華斬っ!」

夕凪の一閃と共に、
床からぶわっと噴き出したリボンが散り散りに刻まれた。

「アデアット………?」

そして、刹那は振り返り様に仮契約カードから匕首を呼び出し、
ほんの一瞬、心の中で小首を傾げる。
そして、目の前に現れた巴マミの姿に向けて、
その胸の真ん中に手裏剣として匕首を打ち込む。

「斬鉄閃っ!!」

次の瞬間、前方からぶわっと迫っていたリボンの群れが
刹那の斬撃が巻き起こす「気」によって細切れに粉砕される。
エントランスから見下ろしていた巴マミが、
手にしたリボンを放り出して地面を蹴る。
そのリボンの先では、
絡め取られた二体のちびせつながもがいていた。

「神鳴流秘剣・百花繚乱っ!!」

渦巻く強風、衝撃波に、ほむらは思わず腕で目を抑えていた。

「続ける?」

恐らく頸動脈のすぐ上に夕凪の刃を向けられ、
つーっと汗を浮かべながら荒い息と共にマミが尋ねた。

「魔力の塊の零距離銃撃は、厳しいかも知れませんね」

胸の真ん中にマスケットの銃口を押し付けられ、
つーっと汗を浮かべながら荒い息と共に刹那が答える。


ーーーーーーーー

「一体、どういう事なのかしら?」

双方武器を引きながらマミが尋ねた。

「仮にも見滝原の魔法少女と事を構えると言うのなら、
昨日の協力の話どころか、私と戦う羽目になるわよ」
「私も、そのつもりは全くないのですが」
「じゃあ、私の体に残る記憶はなんなのかしらね?」

しれっと言う刹那に思わずほむらが口を挟む。

「昨日から背後から拳銃を向けられたり
つけ回されてナイフで斬り付けられたり
と言った事が続いていましたので、少々手荒な対処をしましたが」
「暁美さん?」
「否定する程間違ってはいないわ」

マミにじとっとした視線を向けられ、
ほむらはファサァと黒髪を払って答える。

「その点は、お互い裏で動いている者同士。
あなた方にとって得体の知れない私が
こちらをうろついている訳ですので、
私がそちらの立場でも分からないではありません」


「じゃあ、こちらが余計な事をしなければ
あなたもこちらの邪魔はしない、
これは再確認させてもらっていいのね?」

「はい」

「改めて言うわ、この人は桜咲刹那さん、
普段は魔女ではない魔物を退治する退魔師。

魔法少女とは違う、
キュゥべえの契約ではない魔法使いと言うカテゴリーに入る人で、
今は、こちらでの魔女発生に就いて調査をしているそうよ。

魔法使いだからグリーフシードも必要ない。
私はこの人に協力する事に決めた。
その意味は、分かるわね暁美さん」

じっ、と、マミとほむらが目と目で押し合う。

「マミさぁーんっ!!!」

その時、表から素っ頓狂な叫びが聞こえた。

「美樹さんっ!?」
「どういう事よっ!?」

意外な展開に、ほむらも又叫び声を上げる。

「元々、鹿目さんと美樹さんを連れて
魔法少女体験コースの最中だったのよっ」
(又、っ)ギリッ


ーーーーーーーー

三人が表に飛び出すと、
美樹さやかが斜め上に指さしてわわわわと声を上げていた。

「おおおおっ!!!」

刹那が夕凪を居合抜きし、
周辺の地上にいる一同が刹那を除き腕で目を抑える。
果たして、刹那の斬撃と共に巻き上がった強風が
屋上から落下して来たOL風の女性をとらえ、空中に巻き上げる。

「やった、っ」

鹿目まどかに縋りつかれながらさやかが声に出した。

「!?」

次の瞬間、自然の強風が空中のOLの軌道を大きく狂わせた。

「くっ!」

刹那が両腕を×字に組み、指をバキッと内側に折る。
そんな刹那を、マミが風の様に追い越した。
マミが放った大量のリボンが面積をとって
OLを下からとらえ、地面に軟着陸させる。

「巴さん、彼女を頼みます」
「分かったっ!」

刹那が建物の外周を回り始め、ほむらがその後を追う。

「気づいてる?」

ほむらが尋ねた。

「ええ。確かに、波長が普通の魔物とは少し違いますが」
(と、すると、他所の魔女が移動して来たのか)

二人が非常口の螺旋階段にたどり着く。
刹那が刀印を組み印を切って符を放つ。
そして、空間の歪みに飛び込んだ。


ーーーーーーーー

結界の中は、抜ける様な青空だった。
青空のど真ん中に、大量の洗濯紐が縦横無尽に張られている。
本当はもう少し太い紐なのだが、
その紐が大量のセーラー服の袖から袖に貫通している図は
洗濯紐にしか見えない。

(こいつが来たの)
「秘剣・斬空閃っ!」

その、空中を走る紐の一つを踏みしめて暗い笑みを浮かべるほむらの側、
別の紐の上で刹那は早速に夕凪を一閃。
空から降って来た一見して教室用の机が刹那を避けて四散する。
広々とした屋外空間に騒音が響き、
結界でなければ通報殺到だろう、と刹那は思う。
かくして、機関銃の掃射を受けた使い魔が一掃される。

(天狗之隠蓑の類か)

ほむらが掃射したM249を目にして、刹那が見当を付ける。
一旦銃撃が止まったタイミングで刹那が動き出す。
降り注ぐ使い魔もざざざっと斬り伏せ、そのまま大きく跳躍する。

「(こいつが本体、魔女)斬岩剣っ!」

空中で遭遇した「委員長の魔女」、
黒いセーラー服から計六本の腕、四本の袖にスカートから二本、
を突き出した巨大で奇怪な怪物に刹那が一撃を加え、
近くの紐に着地するが致命傷とまではいかない。

「斬鉄閃っ!!」

委員長の魔女がスカートからばばはばっと吐き出した使い魔は
刹那が夕凪の斬撃から放った「気」に飲み込まれて一掃される。


(この程度なら、多少時間をかければ)

そうしながら、刹那は目算していた。
多少面倒だが経験から言って無理な相手ではない。
取り敢えず、自分が直接「飛ぶ」までの事はないと。


その時、刹那はこれまで空中に張られていた洗濯紐とは
別のものが空中をよぎるのを見た。

洗濯紐を捉えて張られたのは、細長い黄色い絨毯だった。
はっきり言って穴だらけだが、元がリボンと考えると上等。
それに、どうも見た目は穴だらけでも簡単に踏み抜けない絨毯らしい。

「桜咲さんっ!」

絨毯の出所からマミが叫ぶ。
刹那がその絨毯に飛び乗り、
そのまま委員長の魔女の真下へと走る。

「………」

刹那の足が、「空を蹴った」。

「神鳴流奥義・百烈桜華斬っ!!」

委員長の魔女を飛び越した刹那が、落下しながら放った一撃。


「え?」

委員長の魔女は、弾き飛ばされる様にある方向に斜めに落下していた。

(くっ!)
「暁美さんっ!?」

マミが新たなリボンを撒き始めた頃には、
適当な紐の上に移動して時間停止を解除したほむらが
魔女のスカートの中めがけてRPG-7の引き金を引いていた。

ーーーーーーーー

「拾ったから使わせてもらったけど、受け取るわよね」

結界の解けた非常階段周辺で、
マミがほむらにグリーフシードを手渡す。

「ええ………有難う」
「どういたしまして」

二人が、些かぎこちなく言葉を交わすのを刹那は眺めている。
儀礼的と言えば儀礼的、
三人が戦闘に関わりグリーフシードが絡む以上、
「受け取らない」事を含めて筋を通さない事の許されない状況。

刹那は、少なくとも突っ張っているほむらの方が何処か気後れしている。
そんなほむらの一端を察していた。


「巴マミ………巴さん」

じゃりっ、と、地を踏みしめてほむらが言葉を発した。

「何かしら?」
「今、協力した事にはお礼を言わせてもらう。
だけど、あの娘達を連れ回すのは反対よ。
私達の危険に付き合わせるべきではない、
それだけは言って、おきます」

「そう、あなたの考えは分かった」

ほむらの言葉にマミも真面目に応じ、
ほむらは一礼すると踵を返して裏側から敷地を離れた。

ーーーーーーーー

「ここは?」

廃ビルの入口側、待機していたさやかと交代で
マミの介抱を受けていたOLが意識を取り戻した。

「や、やだっ、私、どうしてあんなこと、っ!?」
「大丈夫、もう大丈夫です」

少しの間朦朧としていたが、その後でパニックを引き起こしたOLを
マミは優しく抱き締めていた。

「大丈夫、悪い夢を見ただけです」
「一件落着、って感じかな」

泣き崩れるOLを宥め、落ち着かせるマミ、
それを見てさやかが言う。


確かに、今回は申し分のないハッピーエンド。
そう思って、刹那はマミを見ていた。

弱っているとは言え年上の女性を相手に、
マミはそれなりに慣れているのだろう、とも思うが、
やはり、本当に優しく、責任感の強い娘。
刹那はマミの事をそう把握し、そして、好ましく思う。

「まどか?」
「………」

一見すると少し怖い感じで、話しかけ難い雰囲気もある。
あの、持っている日本刀みたいだ、とも思う。

だけど、もしかしたらこれが本当の顔の様な気もする。

今こうして無事解決した二人、
マミとOLの二人を見ている刹那の穏やかな、
優しくすら見える横顔を見て、
鹿目まどかはふと、そんな事を感じていた。

==============================

今回はここまでです>>33-1000
続きは折を見て。

修正です

>>35
桜咲刹那が左手に握る「白き翼の剣」の切っ先は、

桜咲刹那が右手に握る「白き翼の剣」の切っ先は、

失礼しました。

それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>46

 ×     ×

学校が終わり、夕暮れ。
巴マミを先頭に鹿目まどか、美樹さやかが道を歩いていると、
前方に見知った顔が見えた。

「桜咲さん」

まどかか声を上げ、桜咲刹那が小さく頭を下げる。
マミがメールで刹那に通り道を知らせて、
都合が合えば合流する。そういう話だったが、
基本、ここ何日かの「体験ツアー」に刹那は黙って同行していた。

「マミさんも凄いけど桜咲さんも強いから、百人力ですよー」

さやかの言葉に刹那は小さく頭を下げ、
さやかはにししと笑うがまどかはちょっとした違和感を覚える。
こういう時、マミはたしなめる事はあってもくすぐったそうな感じを見せる。
だが、恐らく刹那は基本が真面目なのだろう、
この人相手に、余り調子に乗らない方がいい様にも感じていた。



ーーーーーーーー

「いますね」

とっぷりと陽が暮れてから、刹那がぽつっと言った。

「自分で察知する事が出来るのね」

ソウルジェムを手にしたマミが言う。

「私達が扱うものとは似て非なるものですが、
多少の経験があれば応用が利きます」

刹那がさり気なくまどかとさやかの前に立つのを後目に、
マミがソウルジェムを掌に乗せて夜の公園にザシザシと前進する。

ーーーーーーーー

この日の「体験ツアー」の結果は使い魔一匹、
さやか曰くここ数日は外れ続け、と言う事になる。

結界によって異界化した公園の中で、
マミは人間大の大きさの、
銃身が人間の背丈に匹敵するアンティーク拳銃を発砲して
危なげなく使い魔を仕留めていた。

そのまま、帰り道の石橋を歩きながら、
巴マミの身の上話や美樹さやかの願いへの少々の苦言、等も交わされたが、
桜咲刹那は一行に影の様に寄り添い、黙って歩いている。

「それでは、私が送って行きますので」
「お願いするわ」

かくして、巴マミと別れて刹那とまどか、さやかが帰路に就く。


ーーーーーーーー

「じゃ、まどか」
「うん」
「それでは」

無言の帰路。
さやかと別れ、まどかと刹那が二人並んで歩いている。

「鹿目さん」
「はい」
「先程、話に出た上条君、と言うのは?」

丁寧だが、まどかにとって意外な問いだった。

「………クラスメイトです。
私とは小学生の時から、さやかちゃんとは幼稚園の時からの幼馴染で」

「あの話の様子では、何かあったんですか?」

「はい。小さい頃からヴァイオリンを弾いてて、
詳しく知らない私が聞いても凄く綺麗で、何度も表彰されて。
でも、交通事故で左手に大怪我をして、それで………」

「そうですか。大怪我をして、見込み等は?」

真摯な刹那の問いに、まどかは首を横に振る。

「凄い大怪我だった、って事は分かってるけど、
それ以上の詳しい事は」
「その、ケガをしたと言うのは、何時の話ですか?」


「×月×日です」


………………

…………そう、ですか…………

………………


答えた刹那は、天を仰いでいた。

「さやかちゃん、魔法少女になるのかな………」
「魔法少女の願い、救兵衛との契約でその上条君のケガを治す、
そういう事ですか?」

刹那の問いに、まどかが頷いた。

「上条………名前を伺えますか?」
「上条、恭介君です」
「上条恭介君ですか。
その様子ですと、美樹さやかさんは彼にそうした、
幼馴染と言う以上の想いがある様に聞こえましたが」

刹那の言葉に、まどかは小さく頷く。

「上条君の話をする時のさやかちゃん、
凄く綺麗で、いつもはあんな風なのに凄く女の子で、
それで………」
「少し、危険ですね」

今まで我関せずだった刹那の言葉に、まどかが刹那を見た。
相変わらず真面目な、やや険しい表情だった。

「巴さんも口を酸っぱくして言っていますが、
元来魔法少女の在り方は命に関わる危険なものです。
契約自体がそういうものとは言え、
私情で、特に彼女の様な性格で突っ走るのはかなりリスキーです。
巴さんも釘を刺していましたが、全否定はしませんが早まらない様に、
巴さんとも相談して少し目を配りましょう」

淡々と、だが真摯に言う刹那に、まどかは小さく頭を下げた。


「有難うございます、桜、咲さん」
「呼び難いですか?」
「え、あ、ごめんなさい」
「いいですよ、刹那と呼んで下さっても。
平均的に呼び難い名字の様ですから」
「は、はい、刹那、さん」

まどかの呼びかけに、
刹那は静かな微笑みで応じていた。

「あの、刹那さん?」
「ああ、いえ」

その後で、ふっ、と斜め下を見た刹那にまどかが声をかけ、
刹那が向き直って応じた。

「そろそろですね。
それでは、お休みなさい」
「お休みなさい」

礼儀正しく応じるまどかを、
刹那は好ましい眼差しで見送った。

ーーーーーーーー

住宅街の無人の路上で、桜咲刹那は大きく、
魔法少女基準と言ってもいい大きさで大きく跳躍していた。

「あなたも、なかなか凝りませんね」

そして、気が付いた時には、
目を見開いた暁美ほむらの真ん前に立った桜咲刹那は
左手でほむらの右腕を掴みながら
匕首の切っ先を限りなく零距離に近い距離感でほむらの脇腹に向けていた。

「あれだけ凄まじい殺気を放っていては、素人でも気が付きます」

そう言って、刹那はほむらから手を離す。


「あなたの目的は何?」

「先にも言いましたが、魔法協会の退魔師として、
最近増加傾向にある見滝原近辺の魔女の動向を
公益目的で調査しています。
そのために、魔法少女である巴マミさんに同行しているところです」

「………他の二人、
鹿目まどか、美樹さやかに就いては?」

「あの二人は巴マミさんに同行していますね」
「つまり、あなたとは関係ないと?」

「現時点では、私にとっては関わりを持った民間人と言う立場です。
その場合、私の目の届く範囲では人道上の対応はしますが、
基本的にはそちら側、マギカの側で対応すべき事でしょう」

「筋論ね」

「それで、あなたの目的はなんなのですか?」
「あの二人………特に、鹿目まどかの契約を阻止する事。
それが私の目的よ」
「そうですか。
それは、今の所そちら側の問題ですね」
「ええ。無駄に争うつもりはないわ」

双方、踵を返して歩き出す。

刹那の言う通り、現時点の大元である巴マミと話を付けるしかない。
しかし、余り上手く行った試しがないので気が重い。
心の中でその様に嘆息しながら、ほむらは目的地に歩みを進めていた。

==============================

今回はここまでです>>47-1000
続きは折を見て。


ーーーーーーーー

「きゅっぷい」
「少し、外してくれるかしら?」

美国邸で、
漆黒に近づいたグリーフシードを飲み込んだキュゥべえに織莉子が告げた。

「織莉子っ! 駄目だよ無理したら。
戦うんだったら私が………」
「ごめんなさい、今回はそれだと意味が無かったから」

「ああー、狙撃、だったっけ?」
「ええ、あの刀使いをあなたが狙う、
そこを狙ってスナイパーが狙撃する」
「それを先読みして織莉子が………で、そのスナイパーは?」

キリカの問いに、織莉子が首を横に振る。

「一流のスナイパーは戦うためのあらゆる能力を身に着けている、
これは本当みたいね。それとも、彼女が別格なのかしら?」
「女だったのかい?」
「ええ、一見凄く大人びても見えるけど、私達と同年代ね」

「そいつ、魔法少女?」
「魔法少女ではない、だけど、普通の人間でもない。
刀使いと同類と思っていい。
あの場では、警告して引かせるのがやっとだった」

「とにかくっ! 織莉子はもうこれ以上危ない事をしたら駄目だからねっ!!
刀使いだろうがスナイパーだろうが、織莉子がやれと言うなら私が刻むよ」
「ありがとう、キリカ。
今回も、グリーフシードを集めてくれただけでも」
「私は織莉子の矛であり盾なんだから」

==============================

今回はここまでです>>84-1000
続きは折を見て。

それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>88

 ×     ×

「お邪魔しまーす」
「いらっしゃい」

放課後、帰宅した巴マミは、
自宅を訪れた後輩を快く迎えていた。

「あら、今日は一人?」
「はい、もしかしたら後で来るかも知れないって」
「そう」

玄関先で言葉を交わし、
鹿目まどかはリビングへと足を進める。

「刹那さん」

まどかに声をかけられ、
リビングで正座していた桜咲刹那が小さく頭を下げる。

「美樹さんは?」

マミが台所に立っている間に、刹那が尋ねる。

「上条君の所。
いいCDが手に入ったって言ってたから。
だから、一人で………」ウェヒヒヒ
「そうでしたか」

意味ありげな笑みと事情を話すまどかに、
刹那もふっと微笑みを返す。

「それじゃあ、そろそろ行きましょうか」


ーーーーーーーー

「空振りだったわね」
「そういう日もあります」

逢魔が時の魔女探索で一通り歩き付くし、
繁華街近くの歩道でマミと刹那が言葉を交わした。

「昨日、あれだけの激戦でしたし」
「そうね、たまには早く帰って休ませてもらおうかしら」

刹那の言葉に、マミが応じる。

「鹿目さんは?」
「はい、ちょっと買い物を」
「そう、それじゃあ」

まどかの返答を聞いてマミがにっこり笑い、
刹那が小さく頭を下げて取り敢えず解散となった。

ーーーーーーーー

「?」

ちょっとした買い物を終え、
駅前通りから帰路に就こうとしていたまどかは、
そこで少々不思議な光景を目にしていた。

「仁美ちゃん」

目の前を歩いているのは志筑仁美。
まどかのクラスメイトで小学校時代から仲のいい友達。
だが、ここにいると言うのは、少々不思議な光景。


「お稽古事は? ………」

地元でも名士の娘で立場も物腰もお嬢様そのもの。
こんな所にいる筈が無いぐらい多忙な筈ではあるのだが、
まどかは、たった今、思い当たる節を見つけてしまった。

「あぁら、鹿目さん、ご機嫌よぉ」

一見普通でも、長い付き合いのまどかには分かる。
微かに酔っている様な、覚束ない口調。
そして、首筋に「魔女の口づけ」。

「仁美ちゃん、何処に行くの?」
「とても素晴らしい所ですわ。
そうだ、鹿目さんもご一緒に」

そう見えるのか実際そうなのか、
動き出した仁美の動きは、ぎくしゃくと、
まどかには何処か人形染みたものにしか見えなかった。
進行方向を同じくする人が徐々に増加する。

ーーーーーーーー

仁美の後を追う内に、まどかは廃工場の中に入り込んでいた。
工場の作業場らしきスペースには、
仁美を含め相当な人数が集まっているが、
明らかに精気を欠き、それでいて、
得体の知れない希望にその目を輝かせている。

「俺は駄目なんだ………
こんな小さな町工場一つ切り盛りできなかった。
今の時代に俺の居場所なんて、あるわけねぇんだ」

この工場の経営者らしき中年男性が椅子に掛けたままぶつぶつと言い、
その妻らしき女性がバケツを用意する。
女性の行動が、塩素系洗剤と酸性洗剤の混合である事に気づいたまどかは、
本格的に意味不明な供述と共にまどかを制止する仁美を振り切り、
今正に殺人瓦斯を放とうとしていた
バケツを奪い取り、窓へと投げ捨てた。


「ひっ!?」

肩で息をしながらほっとしたのもつかの間、
未だ以て正気を失い、ゾンビ的な挙動と化した志筑仁美以下の集団が
今正にまどかをどうにかしようと迫っていた。
とっさに、逃げ出せない程に足がすくんだまどかは、
もう一度、ガラスが割れる音を聞いた。

「失礼」

集団の先頭にいた志筑仁美が、当身を受けてくずおれた。
気付いた時には、まどかは、
下から太ももと背中を支えられる形で宙を舞っていた。

「刹那さんっ!?」
「ご無事でしたか」

まどかを抱きかかえたまま、
集団から離れた場所に着地した桜咲刹那が小さく頷いて言った。

「あ、ありがとうございます」
「これは、魔女ですか?」
「は、はい、魔女の口づけが」
「そうですか」
「刹那さんっ!」

野太刀夕凪の鯉口を切った刹那にまどかが叫ぶ。

「大丈夫、無傷は難しいかも知れませんが、
出来る限り無事に終わらせます。
秘剣・斬空閃っ!!!」

早速に、「気」の螺旋があらぬ方向へと吹き飛ぶ。


「逃げて下さい、ここは私が」

「気」の一撃を受け、吹き飛ばされた入口シャッターを見て刹那が言った。

「えっ、あ、あのっ………」
「魔女は奥ですね。この程度の一般人、なんとでもなります。
………足手まといです」
「は、はいっ!」

刹那の言葉を聞き、まどかがたたたっと入口に向かう。

「斬岩剣っ!!」

早速に、集団が寄って来る前に刹那が「気」を一撃し、
精神的ゾンビ集団を牽制する。

ーーーーーーーー

「?」

昨日は激戦、
今日は割と埃っぽく探し回った割には空振り。
帰宅して、夕食後一風呂浴びた巴マミは、
リビングの鏡台に向かう途中でスマホの着信に気付いた。

「メール? 鹿目さん?」

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今回はここまでです>>89-1000
続きは折を見て。


佐倉杏子は、それなりに百戦錬磨の魔法少女である。

実戦経験も豊富、魔女相手にも、
頭と能力のある魔法少女が相手であっても、
それなりの強者として通して来た。

何よりも魔女狩り、グリーフシードを欲する強欲な合理主義者。

その強欲な強者佐倉杏子は今、結界の入口近くで
コメカミに汗を伝わせて苦笑いを浮かべていた。



うちの

大事な大事な大事な大事な大事な(以下略

せっちゃんに、



してくれはったんやろなぁ?



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今回はここまでです>>94-1000
続きは折を見て。

コメントどうもです。

それでは今回の投下、入ります。

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>>101

水干紅袴の近衛木乃香が、するりと周囲を伺う。
伏せたその目は、墨絵に描いた様だった。
それと共に、ミニオーロラの様な光の帯が
しゅるるっと木乃香の手に引き戻される。

(魔力、そのものっ?)

引き戻された光る帯は、光を失い南京玉簾、そして扇へと姿を変える。
光る帯の正体を知ったほむらは戦慄した。

要は、これも非常識に巨大化出来る南京玉簾に魔力を乗せた
半・ビーム兵器みたいなもの。
魔法少女から見てそれ自体に不思議はない。

だが、光と化した魔力そのものの威力、出力が只事ではない。
そして、それを十分コントロールしていると言う技量も。
一差しの舞と共に、爽やかな南風が結界を吹き抜けた。

「くっ!」

頭の中を強制的にかき回していた悪夢が雲散霧消し、
それを感謝する暇もなくほむらは魔女に拳銃を向ける。
木乃香が南風を放ったその隙に、
モニター型のハコの魔女
H.N.Elly(Kirsten)がすうっと木乃香に接近する。

「………アデアット………いでよ、建御雷………」

ほむらの斜め後ろでバズーカ的なものを構えた巴マミは、
一瞬、その視線の先に「鬼」を見ていた。


「神鳴流奥義・百烈桜華斬っ!
秘剣・百花繚乱っ!!!」

ほむらとマミと杏子と木乃香は、首を右から左に、
結界の端から端までハコの魔女の行き先を目で追っていた。



神鳴流奥義・斬岩剣!!

雷鳴剣っ!!!

極大・雷鳴剣っ!!!!

神鳴流決戦奥義っ、



雷光剣っっっっっ!!!!!



「えーっと、終わった?」

佐倉杏子がグリーフシードが物理的に存在しているかを懸念していた頃、
結界の入口近くで、
突入早々遠くに輝く汚ねぇ花火を眺めていたさやか☆マギカが呟いた。


ーーーーーーーー

人数だけでもカオスとしか言い様の無い状況を悪化させないために、
間違いなく警察沙汰になりそうな廃工場から撤収。
一同は夜の河川敷広場へと移動していた。

「どうしてここにっ!?」
「お知り合い?」

とにもかくにも叫び声を上げた桜咲刹那に巴マミが問いかけた。

「古くからの友人です」
「魔法使いね」

刹那の紹介と共にほむらが言った。

「どうも、近衛木乃香言います」
「ご丁寧に」

言葉通り、はんなり丁寧に頭を下げる木乃香にマミも礼を返す。

「とにかくお嬢様、どうしてこの様な場所に?」
「んー、それがなー」


ーーーーーーーー

「おーい近衛ーっ」
「はいな」

数日前の放課後、近衛木乃香は学校の廊下で
クラスメイトの朝倉和美に呼び止められていた。

「あんた、桜咲と一緒じゃなかったの?」
「んー、せっちゃんも最近色々忙しいみたいでなぁ」

ころころと笑って答える木乃香だったが、
何処か不思議そうな和美の表情が僅かな不安を呼んでいた。

ーーーーーーーー

「ちょっとこっちの情報網に引っ掛かったんだけど、
最近、見滝原に行ってるみたいなんだよね桜咲」
「見滝原?」

誘われるままに女子寮の和美の部屋を訪れた木乃香は、
そこで思わぬ情報を聞かされた。

「しかも、そっちの学校に転校してるし」
「てんこう?」

取り敢えず、意味が分からなかった。

「書類上は短期の国内留学かな?
取り敢えず、今ん所はあっちの学校に在籍してるって事なってるね」
「はやー、そんな事もあるんやな」
「驚いた?」

和美が、いつものキツネ目で言った。


「まあ、何か事情でもあるんやろ」
「まあー、そんなトコだろねー。
最近、連絡とかは?」
「それがなぁ、仕事関連で少し麻帆良を留守にする、
携帯も出られなくなると思うてそれっきりやから。
うちも邪魔したら悪いてそのままにしてたんやけど」

「んー、防犯関係のデータ、動画解析とかしてみても、
桜咲の行動範囲はその短期留学に合わせて
見滝原市内を割とあっちこっち動き回ってるみたいだね」

「物の怪でも出たんかなぁ、
ネギ君のプランとはちょっと関係無さそうやし」

小首を傾げる木乃香を、
キツネ目の和美は相変わらずおとぼけ可愛いと眺める。

「只、その辺りの事で、ちょっと気になる事があるんだわ」
「気になる事?」

口調もそうだが、木乃香に聞き返された和美は真面目な顔で頷いていた。

「マギカ、魔法少女、って知ってる?」
「サギタ・マギカ?」
「マギカだと、私らならそうなるか」

そう言って、和美はテーブルにコピー用紙を広げてペンを走らせ始める。

「いちおー私もだけど、私達魔法使い、
それとはちょっと違う魔法少女、ってカテゴリーがある訳。
その魔法少女の事を魔法使いと区別してマギカ、って呼ぶ呼び方があるって事」

「魔法少女なー」

「そ、魔法少女。どっちかってとフィクションならビブリオンとか、
そっちの方面が近いかな?
魔法使いとは別に、そういう娘らが実在してるってんだよねこれが」


「はー、そんなんほんまにいるんや」

「うん、私もこっちに関わって裏情報収集してる内に引っ掛かったんだけどね。
で、桜咲、そのマギカ、魔法少女に関わってる節があるんだな」

「せっちゃんが?」

「そ、この見滝原って所がさ、
どうもその魔法少女管轄の事件が増加してるんだわ。
本来、魔法使いはマギカ、魔法少女の事には関わらない筈なんだけど、
どうもこのタイミングが気になるんだよね」

「魔法少女管轄の事件?」

「魔法少女は魔法少女で、
彼女達が専門で退治するモンスターがいるみたいだね。
それがかなりヤバ目な怪物みたいでさ、
こっち側で関わる物の怪はある程度共存出来るけど、
魔法少女の方は、基本、人的被害、はっきり言って人を食う。
しかも市街地に発生するから放っておくとどんどん死人が出るって
物騒な連中らしいんだよねこれが」

「そんな事にせっちゃんが?」

「桜咲って人選に、この時期に長期に見滝原に出向いてるって、
可能性は低くないんじゃないかな。
近衛に伝わってないって事も含めてね」

「うちが? どういう事?」


「さっきも言ったけど、
私達魔法使いと魔法少女は基本、不干渉の立場を取ってる。
実際、今まで関わって来なかった。

なんか、色々利害関係があって、
迂闊に関わるとトラブルになるって事みたいだね。

だけど、見滝原関連の裏情報見てると、
本来魔法少女マターで対処する被害がちょっと洒落にならなくなってる。
だから、こっちから桜咲が派遣された。
仮説を立てるならこの辺りかな?」

「人を食うモンスター………せっちゃんなら………」

「まあ、桜咲なら大概大丈夫だとは思うけどね」
「当然や」
「だけど………」

話を続ける和美は、真面目な顔をしていた。

「魔法少女、って、相当なものらしいよ。
イメージだけど、実際ビブリオンとかそっち方面の魔法少女、
あれが本当にいたら現実的な戦闘力はどうなるかってね」

「んー、かわええ感じで結構わやな事になりそうやなぁ」

「そんなんが対処する怪物が相手だからね。
ま、桜咲なら問題ないとは思うけどさ。
只、見てる限り一人で行ってるのかな桜咲。
こっち側の業界関係者の情報にも引っ掛かりがないって事は」

「そやなぁ………ネギ君やアスナも最近はご無沙汰やし、
うちも聞いてへんかったさかい」


ーーーーーーーー

木乃香から経緯を聞いていた刹那は、手で額を抑えていた。

「それで、相談しようにもネギ君もアスナもいぃひんし、
何か危ない事になってへんかケガしてへんかて」
「そうでしたか。ご心配をおかけしましたお嬢様」

刹那は、嘆息してから深く頭を下げた。

「お嬢様?」

周囲から不審の声が上がった。

「はい、こちらにおわす近衛木乃香、
このかお嬢様は魔法協会トップであり京都の呪術世界を司って来た
近衛家の直系の御令嬢です。
私、桜咲刹那は近衛に仕える桜咲家、協会に属する神鳴流剣士として
このかお嬢様の側近くに仕えるものとしてもがもがもがっ!!!」

「だからー、お嬢様やなくてこのちゃん呼んでぇなて
言うてるんですけどなぁ」

ここの魔法少女達の中でも遜色ないどころか
普通にぶちのめしかねない桜咲刹那が、
口に指を突っ込まれて頬っぺたを広げられている前で、
刹那の頬っぺたを内側から広げる木乃香は京娘の微笑みで応じている。
取り敢えず、かなり「いい性格」のお嬢様であろう事は、
暁美ほむらも理解した。

「それで佐倉さん、あなたはどうして?」

「ああ、その、このかお嬢様にちょっと借りが出来ちまってな。
なんだかんだで、そっちの桜咲さんの所に案内する事になったって事。
見滝原の魔法少女と合流してるんじゃないかって言うからさ。
縄張り荒らすつもりはないから心配すんなよ」

「ええ、分かったわ」

マミと杏子が、適当な距離感で言葉を交わしていた。


「おおきに、有難うございます」

木乃香に丁寧に頭を下げられ、杏子も小さく頭を下げた。

「近衛さんの事情は呑み込めたけど、
美樹さん、あなた魔法少女の契約したの?」
「はい」

マミの質問にさやかが応じた。

「それで、早速魔女探してる内にまどかが走って来て、
魔女見つけたらマミさんにも連絡する予定だったんですけど、
もうマミさんには連絡して仁美も関わってるって言うから
放っておけなくて突入したらあんな感じで。
デビュー戦は又今度、って所ですなー」

「………」

後頭部で手を組んでカラカラ笑うさやかを、
言葉程ふざけてはいないとは分かりつつ刹那は静かに見ていた。

「美樹さん」
「はい」

刹那に声をかけられ、さやかも少々緊張する。

「では、ちょっと変身していただけますか?」
「ん? いいですよ」

さやかがソウルジェムを掌に乗せる。
杏子が怪訝な顔でマミを見る。
どうやら、マミも気付いているらしい。
刹那が左手の夕凪の鯉口を切った事に。

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今回はここまでです>>103-1000
続きは折を見て。

それでは今回の投下、入ります。

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>>111

美樹さやかの体が光に包まれ、
その姿、衣服は魔法少女と呼ぶに相応しいものへと変化する。
胸元の青を基調とした肩出しビスチェタイプのトップスと
白いミニスカートのボトムは、
実用性と言うよりもゲームの女剣士を思わせる。

「美樹さん」

変身したさやかに桜咲刹那が声をかけ、
さやかがそちらを見ると、
刹那は左手に握った野太刀「夕凪」をすうっと持ち上げていた。

「美樹さやかっ!」

暁美ほむらが叫んだ、その時には、
刹那はさやかの前方ですらりと夕凪を抜き、
さやかの目には八双に構える刹那の姿が映っていた。

(あたしっ!?)

さやかはとっさに飛び退き、
振り下ろされた夕凪がごうっと唸る勢いで空を切る。
その刃が誰に向けられたか?
その、さやかにとって些か非常識な結論は、
刹那の二刀目で確信に変わる。

「さやかちゃんっ! 刹那さんっ!?」
「近づかないでっ!」

その事態に悲鳴を上げたまどかの腕を、
叫び声と共に暁美ほむらが掴み巴マミがまどかの前に立つ。


「何すんだ、よっ!?」

胴突きからの薙ぎを交わしたさやかは、
魔法で生み出した刀の様なサーベルと言うかサーベルの様な刀の様な剣で
刹那の袈裟斬りをギリギリと受け太刀していた。

横目を使ったまどかはぎょっとした。
まどかが視線を向けた佐倉と言う少女は、
そんな「真剣勝負」を不敵な笑みと共に眺めていた。
ガン、ギン、ガンッ、と、夕凪と剣が打ち合い
さやかが荒い息を吐いて飛び退く。

「なっ!?」

さやかは、驚愕した。
少なくともダースに近い剣が一斉にミサイル化して襲撃する。
流石に刹那なら死にはしないだろうが、
と、思ってその攻撃を仕掛けた。

さやかがその攻撃を放った、と、思った時には、
刹那の姿はもうさやかの目の前にあった。

まどかから見て、さやかはぎゅん、ぎゅん、ぎゅんっ、と、
白い独楽の様にマントに身を包んで回転しながら
河川敷のあっちこっちへと瞬間移動している。

それは、佐倉杏子から見たら、
刹那の一撃一撃を辛うじて交わして
這う這うの体で逃げ回っている様にしか見えない。

「ああああっ!!」

刹那に向けて跳躍したさやかの両手に、剣が握られていた。
振り下ろした右手の剣が、夕凪に受け流される。

「く、っ!」

さやかが突き出した左手の剣の突きがぎゃりぎゃりぎゃりっと反らされる。


「かはっ!」
「さやかちゃんっ!」

左の剣に何が当たった? と、さやかが思った時には、
その剣を反らしていた夕凪の鞘の先がさやかの腹に叩き込まれていた。
さやかの体が魔法少女単位で大きく吹き飛ぶ。
ずしゃあっと全身で河川敷に着地したさやかに刹那はすぐに追いついていた。

「こ、のっ!」

立ち上がったさやかの前で、刹那は右手と左手を持ち換えていた。
さやかの顔面を狙った横殴りの鞘を、さやかは瞬時にしゃがんで交わす。
刹那の背面宙返りと共に、さやかが振り抜いた剣が空を切る。
刹那が着地した時、夕凪の刀身は鞘の内にあった。

「斬鉄閃っ!」
「くっ!」

刹那が居合抜きと共に放った「気」を
さやかは横っ飛びに交わす。
体勢を立て直したさやかの目の前で、
刹那は左手にカードが握っていた。

「アデアット」

刹那がぼそっと呟いた時には跳躍したさやかが二刀を振り下ろし、
その斬撃は虚空を切っていた。

「匕首・十六串」
「ああっ!?」

気が付いた時には、
さやかの周囲には匕首に結ばれた捕縛魔法が展開していた。


「くっ、この………」
「稲交尾籠」
「あああああっ!!!!!」
「さやかちゃんっ!!」

封印の帯に縛り上げられ、足掻いていたさやかだったが
帯を走る雷の一撃に悲鳴を上げてばったり倒れた。
封印が解かれる。立ち上がろうとするが、体が言う事を聞かない。
そして、目の前に夕凪の切っ先が向けられていた。

「何、を………」
「あなたは、私の術を見た事がある筈です」

地を這いながら殺意すら籠った眼差しを向けるさやかを、
刹那は冷ややかに見下ろしていた。

「魔女は戦闘力が高い上に悪知恵がある、
人を食うために恐ろしく狡猾に魔術を用います。
その様では、死にますよ」
「だよなー」

淡々と言う刹那に、頭の後ろで両手を組んだ佐倉杏子が続いた。

「わざわざ声かけて刀見せつけてから斬り付ける
アホな殺し屋がいるかっつーの」

「な、何?
じゃあ、あたしに教えてくれた、って言うの刹那、さん?」

「そこのマミ先輩、甘いトコあるからなー」
「その辺りの事は保留にしておきましょう。
今の桜咲さんが正しいかどうかはとにかく、
桜咲さんの言葉は否定出来ないわ」
「………じょーだんっ、今まで味方ヅラして不意打ちだよ」

拘束を解かれたさやかは、荒い息を吐いて座り込む。


「では、改めて真剣勝負をしたら私に勝てると?」
「………ごめん、無理」
「それに、チーム戦では善意悪意に関わらず、
特にあなたでは味方の射線に立って共倒れしかねない。
実戦とはそういうものです」
「………そう………」

「全体的には丸っ切り素人ですが、体はよく動かしている様ですね、
恐らく女子にしては拳の喧嘩も心得ている。目と勘は悪くない。
なってしまったものは仕方がありません、
あなたの性格です、あなたとしては大真面目に考えた結果なのでしょう。
あなたを心配している友のためにも、死にたくなければ精進する事です」

「魔法少女の事を教えた私にも責任はある。
出来るだけの事はするから」
「ありがとう、マミさん」

手を引こうとするマミを制する様に、さやかが一人で立ち上がった。

「つつつ………」
「さやかちゃん、大丈夫?」
「結構、大丈夫じゃねーって………ちょっと待って」

立ち上がったさやかは、一度光に包まれてから変身を解除した。

「さやかさん、言いました?」

そんなさやかに声をかけたのは木乃香だった。

「さやかさん、回復の魔法使うんやなぁ」
「ああ、うん、願い事もそうだったからかな?
ケガとかなら結構治せるみたい」
「良かったぁ」
「だってさ、出番なしだな」
「せやな」

口を挟んで来た杏子に、木乃香は邪気の無い笑顔で応じる。


「?」
「近衛さん、もしかして回復魔法を?」

尋ねたマミに、木乃香がにっこり応じる。

「いやー、すげぇすげぇって、
このお嬢様の回復魔法、今みたいにちゃっちいのじゃねーっつーか、
魔法少女でもあんだけ出来るのはいないんじゃねーの?」
「魔法使いの中でも例外です」

杏子の言葉に、刹那が続く。

「そもそも、このかお嬢様の本来の魔法は治癒、
それも体質的な素質が桁違いです。
だから、攻撃魔法は技術的には中ぐらいも知っているかどうか、なのですが」
「ああー、物理、魔力の多さでごり押しの力押しだったよな。
それで通っちまうぐらい圧倒的って事かよ」

杏子の言葉に、刹那が頷いた。

「えーと、桜咲さんって近衛さんの友達なの?」

さやかが、改めて尋ねる。

「はいな、どうもせっちゃんが無茶してもうて」
「いや、いいっすよ。
あの人とかから見たらあたしの方が無茶だってのはその通りなんだろうし。
あんな強い人でもやられそうになるんだから、
本当にこのザマのあたしなんか幸せバカの甘ちゃんなんだろうね」

「さやかちゃん………」
「でもさまどか、なっちゃったもんは仕方がないってのも本当だから、
精々頑張る、頑張って強くなって、死んだりなんかしないから」
「うん………」
「その意気や」
「ありがとうございます」

そして、ぺこりと頭を下げたさやかから一度離れて、
木乃香は刹那に合流する。


「厳しいなぁせっちゃんは」
「今後は本当に命のやり取りになりますから」
「せやな。それでせっちゃん、
せっちゃんはどうしてここに?」

「およその所は朝倉さんが推察した通りです。
協会からの要請で、見滝原を中心に
魔女発生率が妙に上がっている地域の調査に。
只、本来魔女は魔法少女と言う独自勢力が対処しています。
通常不干渉である魔法使いと魔法少女が大っぴらに関わり合いになるのは
色々不都合がありますので、内部的にも秘密裡の調査で、
お嬢様にはご心配をおかけしました」

「そう。うちも勝手に追いかけて来てごめんなぁ」
「いえ、私が至らぬばかりで。
そういう訳で、私はもう少しこちらに留まります。
今のケースが落ち着いたら連絡します」
「ん、きっとやで」

刹那と木乃香はお互いぺこぺこ頭を下げていたが、
最終的には生真面目に答える刹那に木乃香がにっこり微笑んでいた。

「んじゃー、あたしもこれで帰るわ。
他所の縄張りでマミ先輩に加えてこんな凄腕でおっかねーのがいるんじゃ
獲物掠めるどころじゃねーって」
「あらそう」

やれやれな態度の杏子にマミが素っ気なく言い、
杏子が不敵な笑みを返す。
どうも、ほわほわな木乃香と背筋が冷たくなる「本物」の刹那に当てられ、
杏子からも毒気が抜けた所があるらしい。

「それでは、私も今日は少し仕事がありますから」
「あたしも、ホントは話したい事もあるけど、
今日は休みたい」

刹那に続き、さやかも離脱を告げた。

「そう、お茶をしながら今後の事も、って思ったんだけど」
「はい、それは明日から、って事にしてくれたら」
「ええ、待ってる」



ーーーーーーーー

「つ、っ………」
「ほらぁ」

夜道で膝をついた刹那に、
前から現れた木乃香が呆れた様に声をかけた。

「お嬢様っ?」
「だからこのちゃん言うてぇな。
大丈夫、せっちゃん?」
「ええ、ちょっと、脚に来ましたね」

そう言って、刹那は僅かに自嘲の笑みを浮かべる。
素人にいきなりテレポート紛いの移動を連発されて勘が狂った。
本気であれば瞬動で容易に対応出来る程度のスピードではあったが、
その、モードの切り替え時を僅かながら見誤った。

「ほらぁ、お腹から血ぃ出てる。
無理に血止めしてたやろ」

「皮一枚かすめただけです。
先輩ヅラして、私の方が調子に乗り過ぎましたかね?
どうでしょうか? 暁美ほむらさん?」

「あの青魚にはあれぐらいでちょうどいい。
幸い、あなたは実力も人間的にも彼女から信頼され、認められている。
あなたは正しいわ桜咲刹那」
「そうですか、それはどうも」

木乃香がくるくる舞っている側で、
すいっと現れたほむらと刹那が互いに小さく頭を下げる。


「………近衛木乃香、さん」
「はいな」
「もしかして、桜咲刹那はあなたのボディーガード?」
「大切な友達」

刹那が何かを言う前に、
木乃香はにっこりと、きっぱりと答えた。

「だから、せっちゃんに何かあるなら、
うちはせっちゃんを守りたい」

真っ直ぐと、真摯に。
そんな木乃香の言葉にほむらは何も言えない。
刹那は目を閉じ、ふっと、静かに微笑んでいた。

==============================

今回はここまでです>>112-1000
続きは折を見て。


(こんなデカイの、どこにっ!?)

ギリギリと押し合いながら、キリカの心中に混乱が生ずる。

今のキリカの相手は恐らく女だが、それにしてはバレー選手向きの大柄。
それが、たった今まであの学ラン小僧共々影も形も見えなかった。

女、それも多分同年代、
しかも一見してコスプレ忍者と言う格好と今現在の強さから言って
「同業者」と言う目もある、その特殊能力かも知れないが、
テレポートなのかなんなのか、
そこが分からないと、ちょっとまずいかも知れないと、
僅かばかりの焦りがキリカの頭をよぎる。

ギインッと、キリカの爪が苦無を力で押し退け、
更にびゅうんっと一振りされて接近していた学ラン小僧を牽制する。
学ラン小僧は、不敵に笑い身軽に後退する。

(キリカ)

キリカの頭に愛する織莉子の声が響く。

(ステッピング・ファング、全方位に)
(分かった)

キリカがざっと身構え、その目が狙いをつける。

「させるかあっ!!」

=============================

今回はここまでです>>147-1000
続きは折を見て。

感想どうもです。

それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>150

ーーーーーーーー

「炎舞っ!」
「斬岩剣っ!!」

見滝原の路地裏で、
大量に飛来する炎の剣を「夕凪」の一閃が放つ気が弾き飛ばす。
その時には、桜咲刹那の振るう野太刀「夕凪」は
襲い来る大剣を受け太刀し、弾き返していた。

「剣術は自己流。しかし、斬る事には慣れていますね。
魔女も、人も」
「………人間を斬った事は一度も無い。
恐らく今回が………」

ぼそっ、と、漏れた一言に刹那の唇が微かに緩み、
目にも止まらぬ勢いで距離が詰められる。

ふわっ、と、セーラー服状の上着が翻り、
相変わらず野太刀の物理的限界を無視した刹那の居合抜きが交わされる。
すとんっ、と、刹那の前方に敵が着地する。

一瞬ショートカットにも見える様に長い髪の毛を首の辺りで束ね、
見たまま似たもので例えるなら、黒いショートパンツ・セパレーツ水着の上に
前の開く改造セーラー服の上着の袖だけ通して
カッターナイフ状の大剣を構えている。と言う時点でもちろん非常識な存在。

そして、そのセーラー剣士天乃鈴音は、
もう一つの武器を発動すべくその手を差し出す。


「桜火!」
「秘剣、百花繚乱っ!!」

流石にこの場では、交わすだけでは騒ぎが大きくなり過ぎる。
瞬時に判断した刹那は、
自分に向かって来る猛火を更に大きな「気」で一息に飲み込んだ。

「!?」

一瞬爆発に眩んだ視界の中で、刹那は鈴音に斬り付ける。

「アデアット!」

そして、次の瞬間には、
左逆手に握った匕首で鈴音の大剣の刃を辛うじて滑らせていた。
たんっ、と、刹那が距離を取る。

「匕首・十六串………」

刹那の呪文と共に幾つもの匕首が飛び、
匕首が尾を引く捕縛結界が鈴音を捕らえた、筈だった。
その時には、中に誰もいない捕縛結界を無視した刹那が
振り返り様に夕凪を振り下ろし、その兜割りの一刀を鈴音が受け太刀していた。
ぎいんっ、と、鈴音が弾き返し、後ろに跳ぶ。
そして、刹那の視界からふっと姿を消した。

(やはり視覚効果の魔法を使う、か。
何とか気配は追っているが………!?)

そこに、乱入して来た「もの」があった。
乱入して来たものは複数、それは炎の塊。
よく見ると、箒にまたがった魔法使いの形の炎が
何処からともなく飛来して二人の戦場に割り込んでいた。

(これは、西洋魔法の精霊術っ?)

そして、炎の精霊が四散した戦場に、
額を腕で押した天乃鈴音が僅かばかり苦い顔で照らし出された。


「!?炎舞っ!!」

鈴音が放った大量の炎の剣が飛来する大量の火炎弾と激突し、
火炎弾をすり抜けた剣は炎の壁に遮断される。

「チッ!」

自分に向けて飛来した紐を思わせる炎を、
鈴音が大剣で弾き飛ばす。
そして、自分の側に着地していた新たな敵に向けて駆け出していた。

「!?」

相手は、ゴシック調の黒衣に身を包み、
後ろ髪を一度両サイドにアップで巻いて垂らした同年代の少女。
それを一刀両断しようとした刹那、
鈴音の視界の中で相手の像が揺らいだ。

「炎楯」

そして、振り下ろした刃は相手の掌から現れた炎の壁に妨げられていた。

「陽炎を、炎を扱えるのは貴方だけじゃない」

飛び退いた鈴音がざっと振り返る。

「桜火っ!!」

そして、鈴音の火炎砲が鈴音に迫っていた水の戒矢と激突し、
周囲が即席の霧に包まれた。
その時には、鈴音は、二体、三体、と、
鈴音に迫っていた得体の知れない黒マントの敵を斬り伏せていた。

(………この手応え、魔力で作られた使い魔?)


ーーーーーーーー

「ヴァンパイア・ファングッ!!」
「とっ!」

工場跡の駐車場跡地では、呉キリカが鈎爪を更に連結された長爪を振るい、
キリカに迫っていた学ラン小僧犬上小太郎が危うく飛び退く。
その時には、ぎゅるると迫っていた
巨大手裏剣の軌道をキリカの長爪が何とか反らす。

(キリカッ!)

美国織莉子がキリカにテレパシーを飛ばし、キリカが織莉子の側に戻る。
そこに迫ろうとした小太郎が危うく足を止める。
その時には、織莉子の周囲にはいくつもの水晶球が発生していた。
小太郎と、長身忍者長瀬楓が身構えた時には、
水晶球は織莉子の周囲で一斉に爆発していた。

「通さないよっ!」
「チッ!」

周囲が白煙に包まれ、
織莉子が窓から背後の建物に逃げ込んだと察知した小太郎が後を追うが、
キリカの爪が危うく小太郎の体をかすめる。

「えっ? つっ!」
「相手は俺やろ、姉ちゃんっ!」

キリカが驚いた僅かな隙に、
小太郎の手からいきなり叩きつけて来た強風に煽られて
キリカの背中が建物の壁に激突した。


(消え、た? 気配も無しに?)

キリカは未だ驚きを禁じ得なかった。
この辺にいた筈の長瀬楓がかき消す様に姿を消して気配も感じられない。

確かに、キリカともまともに戦える程に素早い相手ではあったが、
それでもバスケかバレーでもやって欲しいタイプの、
見た目の忍者とは不釣り合いな程のタッパの持ち主。

まだ白煙の残る中とは言え、
キリカが全神経を尖らせていた建物側に突っ込んだなら
幾らなんでも分からない筈が無い。

「続けるんか、姉ちゃん?」
「………とーぜんっ!!」

キリカの優先順位ははっきりしていた。
そんな奴が建物に入ったのなら、一刻も早く後を追う必要がある。

ーーーーーーーー

美国織莉子は、工場の事務所棟の階段を上り、
廊下を走りながら心の中で舌打ちした。

「あんたの用はこのお嬢さんか?」

軽口の様だが、全然笑っていない。
織莉子の視線の先では、
槍を小脇に抱えた佐倉杏子が近衛木乃香を連れて織莉子に殺意を示していた。

「このか殿」

そして、織莉子の背後から現れた楓が木乃香を呼ぶ。


「お仲間か?」

杏子の問いに木乃香が頷く。

「あなたは?」

織莉子の質問には、厳かさすら感じられた。

「ああー、あたしは佐倉杏子。
今は風見野だけど、この辺の鼠の穴にはちょっと土地勘があるからな。
なんでかなー、ゆまと言いお嬢と言い、
どうして、あたしの知り合いばっか手ぇ出してくれたかね?」

ようやく、笑みを見せた杏子は穂先を前に向けた。
次の瞬間、ふわっ、と、織莉子の周囲に水晶球が浮遊した。

「くっ!」

廊下が白煙に包まれ、側の窓ガラスが割れる。
割れた窓から一つだけ水晶球が飛び込んできた。

「逃げやがったか」

窓から下を見て、杏子が吐き捨てる。
楓は、水晶球に潰された紙人形を拾っていた。

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今回はここまでです>>153-1000
続きは折を見て。


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今回はここまでです>>162-1000

タイミング的に勝手な縁でお祝い即興してみました。
おめでとうございます。

続きは折を見て。

それでは今回の投下、入ります。

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>>164

ーーーーーーーー

しゅるるっ、と、自分に接近していた黒い触手を斬り払い、
天乃鈴音はその源へと跳躍した。

「!?」

霧の残る中、標的を見定め、隙だらけ、と踏んで斬り付ける。
次の瞬間、鈴音の手に硬い手ごたえが響く。

「かはっ!」

腹にいいパンチの感触を覚え、鈴音の足がずしゃあっと後ろに滑る。
前方にいるのは、ゴシック調の黒衣に身を固めた
金髪のお姉さん系美少女。

どうも鈴音が知る魔法少女と言うにはおかしいが、
だからと言って「普通」の範疇ではない。
取り敢えず、触手でパンチされた事は理解出来た。

「陽、ろ………」

とにかく視覚をごまかさなければまずい、何時もやっている事だ、
そう思って実行した鈴音だが、何時も通りにならない。
感覚で察したのだが、
術の基となる炎と水分のバランスが意図的に狂わされている。


「ちっ!」

斜め後方に気配を感じ、鈴音は跳躍する。
やはり黒衣姿の三つ編み黒髪に眼鏡の少女が、
鈴音に向けて拘束性の水魔法を放っていた。

そして、跳躍した鈴音の目の前では、桜咲刹那が
野太刀「夕凪」を八双に構えていた。
鈴音の剣と刹那の夕凪が衝突し、弾け、鈴音は着地する。

「おおおおっ!!!」

迫っていた触手の群れを斬り払った鈴音は、
そのまま一挙に距離を詰め、
触手の源である金髪少女の黒衣の隙間、
その白い肌に魔法で精製した短剣を突き立てた。
その時には、鈴音の右腕には鈍い痺れた痛みと共に触手が這い上っていた。

「これは一体どういう事ですか?」

何本もの触手で鈴音を縛り上げた金髪美少女
高音・D・グッドマンが、首を傾げて刹那に尋ねる。

「キリサキさん」
「何ですって?」

刹那の答えに高音が聞き返す。

「ホオズキ市を中心に何人もの少女を惨殺している連続殺害事件です」
「その犯人が彼女だと?」
「武器、太刀筋から言ってまず間違いないと」
「そうですか。まだよく分かりませんけど放置も出来ませんね。
拘束の上で協会の指示を仰ぎます………」


「!?」

高音が言いかけた時、刹那が手から気弾を放つ。
次の瞬間、飛び込んで来た円盤の様なものが
鈴音を拘束していた触手を切断していた。

「!? 神鳴流奥義、斬岩剣っ!!」

刹那が、自分に迫っていた触手を斬り払い、
間に合わないと見るや触手の群れに向けて奥義を放った。

「きゃああっ!!」

爆発音と共に、もう二人の黒衣の少女、
巻き髪の佐倉愛衣と三つ編み眼鏡の夏目萌が引っ繰り返っている。

(今、一瞬見えたのは、水蒸気爆発?)

「おおおぉーっ!!!」
「何をしているんですかっ!?」

高音の叫びが響き、刹那が気が付いた時には、
刹那が振るった夕凪は高音の黒衣から生じた影のヒレによって
ギリギリと防御されていた。

「いない。メイ、ナツメグッ、キリサキさんの探索をっ!」
「敵はもう一人、恐らく幻術使いです。
深追いは避けて下さい!!」
「分かりましたっ!」

愛衣と夏目萌がそれぞれの魔法で飛翔する。


「高音さん、麻帆良の学園警備が何故ここに?」
「とぼけているのですか? 3Aです」

「3A?」

「ええ、そちらの3年A組が妙な動きを見せたから追跡して来たんです。
この見滝原に入った事は確かなのですが、それ以降は不明。
学園祭、魔法世界………あのクラスが裏で動いている時は、
往々にしてとんでもない事が起きていますから。
それで、あなたは?」

「私は協会の内密の命令で、この辺の不可解事件に就いて
こちらで関わるべきものか予備調査を行っていた所ですが」

「それで、出て来たのがキリサキさんですか」

「キリサキさん一人ならとにかく、
バックアップを考えると追跡した二人が気がかりです。
私は別行動をとりますので高音さんはあの二人を追って下さい」
「分かりました。後でもっと詳しい話を」

ーーーーーーーー

「しっ!」
「とっ!!」

犬上小太郎が呉キリカの剣とも言えるサイズの鈎爪を交わし、
その次の瞬間全身を地面スレスレにした小太郎の足払いをキリカが交わす。
たんっ、と、小太郎が後方に跳躍して距離を取り、
地面から沸いた何頭もの黒狗をキリカが手も無く斬り伏せる。

「この感触、使い魔かい?」
「まあー、そんなモンやなっ!」

そう言った時には、
小太郎は猛スピードで迫っていたキリカの爪を間一髪で交わしていた。


「幾らなんでも速すぎや、
この妙な感触、なんぞズルしてるな」

学ランの首筋に新たな隙間を感じ、
つーっと汗を感じながら小太郎が呻く。
どうも、そのトリック、種が割れない事には、
獣化モードを使う事も躊躇された。

「おっ………」
「神鳴流奥義・雷鳴剣っ!!」

小太郎が到着を察するや否や、駐車場跡地が大爆発した。

「斬岩剣っ! 百烈桜華斬っ!!!」
「いきなり全開やな………」

小太郎がつーっと汗を流して呟いた通り、
キリカは早速にドカンドカンと叩き込まれる壮絶な斬撃を
ガンギンガンッと辛うじて受け流し後退していた。

「ヴァンパイア・ファングッ!!」

キリカが後ろに跳びながら放った、
長く連結された大量の爪が重い一撃を地面に穿ち、
二人がそれを交わした隙にキリカは屋根へと跳躍する。
その追跡に動いた小太郎を、刹那が左腕で制した。


「お嬢様は楓が保護しました」
「おう、そうか」

刹那の言葉に、小太郎がふうっと息を吐く。

「それで、どうしてここに?」
「朝倉さんや」
「朝倉さん、ですか」

又、と言う言葉を飲み込み刹那が応じる。

「ああ、なんか刹那姉ちゃんが色々調べてる関係で、
コノカ姉ちゃんもマギカやらの絡んでるこの街に
ちょっと出入りしてるて聞いてな。

それで、一応俺らもこっちに来てたんやけど、
そしたら、朝倉さんから遅うなっても
コノカ姉ちゃんと連絡がとれんて言うて来て。

それで匂いを辿ったりなんだりかんだりで
あの白黒コンビが最後に絡んでたのは確実て事で」

「ああ、それで合ってる。
そういう事だから楓と合流して麻帆良に戻ってくれ。
お嬢様には、当分こちらに出入りしない様に。
それから、間違っても、

「白き翼」や3Aで秘密部隊を編成してこちらに乗り込んで来る、
等と言う事が行われない様に楓に釘を刺しておいて下さい」

「それで、刹那姉ちゃんは?」

「もう一仕事残っているからな。折を見て連絡する」

過去には割と色々修羅場をくぐって来た犬上小太郎は、
その事務的な言葉を、奥歯ガタガタ言い出しそうな心地で聞いていた。

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今回はここまでです>>167-1000
続きは折を見て。

感想どうもです。

やらかした………

ここまで何度も使った「シーカ・シシクシロ」の漢字
「匕首・十六串呂」の「呂」が全部抜けてた………
完全に私のミスです、すいません。

それでは今回の投下、入ります。

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>>172

ーーーーーーーー

薔薇の花咲く夜の庭園。
麻帆良学園の夏服制服姿で無言で歩みを進める桜咲刹那は、
今、彼女が手にしている野太刀「夕凪」の
鞘の内にも等しく隠し切れぬ冷たい切れ味を漂わせる。
そんな刹那の周囲で、景色が急変する。

(これは………魔女の結界か)

「神鳴流秘剣・百花繚乱っ! 奥義・斬岩剣っ!!」

刹那が夕凪の鯉口を切ってから、
再び鞘に納め周囲に薔薇の花を見るまで。
刹那にとっても客観的にも、
それはするりと通り過ぎた一つの流れにしか見えないものだった。


「あら、片づけてくれたの?」
「匕首・十六串呂」

余りの勢いに結界を飛び出して
庭園のテーブルに落下した鉄の塊を思わせる魔女の破片を眺めて
庭園の主が声をかけた時には、
複数の匕首が猛然と空を切っていた。

自分達へと飛来する何振りもの匕首を前に、
美国織莉子はタッ、と横っ飛びし、
呉キリカは剣にも等しき大きさの鈎爪で弾き飛ばす。

その時には、庭園内の別の場所が爆発と共に白い煙に包まれ、
更に違う場所で、刹那は夕凪の刃を大きな水晶球に兜割りに叩きつけていた。

「な、に、を、しているっ!!!」

刹那は振り返り様、
猛然と自分に迫っていたキリカの爪の斬撃を夕凪で受け流す。

(下がってっ!!)

織莉子の脳に、叩き付ける様なテレパシーが流れ込む。

(こいつは、ヤバイ)

夕凪と鈎爪がチャンバラを展開する。

「私には、分かる………」

キリカがぼそっと呟く。

(だから、ここは私に任せて)

ガン、ギン、ガンッ、と、
夕凪と鈎爪がぶつかりながら相手を追跡し、詰め、それを交わしての攻防は、
丸で庭園内を竜巻が吹き千切る様だった。


「神鳴流奥義、斬岩剣っ!」
「うわっ!」

刹那に迫ったキリカが、刹那の剣が巻き起こす「気」の、
それに伴う地面の爆発に足を止める。

「斬岩剣! 斬岩剣っ!」
「とっ、わっ!」

その後も、キリカが迫る度に二人の間を爆発が塞ぎ、
それは丸で、キリカの目の前に土の壁が次々と現れているかの様だった。

「神鳴流秘剣・百花繚乱!
斬岩剣、斬鉄閃っ!」

キリカが桜華と共に突き抜ける「気」を交わした時には、
刹那は既に目の前に迫っていた。
ドドンッ、と、庭園を揺るがす勢いで、
幾つもの気の塊がそこここで爆発し、
アクロバティックに交わし続けるキリカだったが、

「お前」

低い声の方向に刹那が一刀を振るうが、それは鋭く空を切る。

「どこで、何をしている?」
「くっ!」

刹那が斜め後方に刀を振るう。
そして、刹那はブラウスの袖に鋭い裂け目を見た。

「織莉子に殺意の刃を向け、
織莉子が愛する父親の薔薇をここまで踏み躙った」

刹那の目の前で、キリカは伏せていた顔をすうっと上げて、
一筋の流血と共に頬に走る紅い傷を露にする。


「お前、もう、許されないよ」
「アデアット!」

次の瞬間、キリカの両手首辺りから延びる、
柄まで刃の鎌型武器とでも言うべき鈎爪が
刹那の右手の夕凪と左手の匕首に受け止められる。

「次、次次次次い、っ………」

興に乗って攻撃を展開していたキリカが、たっ、と飛び退く。
匕首を分裂させて放った捕縛結界がボウズに終わった、
と、悟った瞬間には、刹那は匕首を仮契約カードに戻していた。

「斬岩剣っ! 百烈桜華斬っ!!!」
「人が変わったのかな、刀使い?」

その場から飛び退き、荒い息と共にキリカが言った時には、
キリカは既に横殴りの斬撃を交わしていた。

「技のキレ、何よりも殺意が尋常じゃないね」

そう言ったキリカは更に飛び退き、
流血する左腕を右手で掴む。

「元々、私の任務はお嬢様の護衛。
意図してお嬢様に手を出そう、等と言う事は、
発想から根絶やしにする必要がある」

チャッ、と、切っ先を前方に向けた刹那は、
次の瞬間には斬り付けた一撃を
×字に組んだ両手の鈎爪に受け止められていた。

「君は、人を斬る事が出来るのかい?」
「先程、キリサキさんとやらに遭遇した」

刃が弾け、双方の間合いが開く。

「彼女は言っていたよ。
自分は人間を斬った事は一度もない、とな」
「ふうん」


にまっと笑ったキリカは、
普通に見たら容易に膀胱から尿道までがフルオープンになりかねない
刹那の眼差しを視界にとらえながら、
自分をかすめる野太刀の突きをすれすれに回避する。

「それなら私のやるべき事もはっきりしてる。
この身に代えて、ここから先には
永久に一歩も進ませない、とねっ!!」

ダッ、と、間合いを詰めたキリカを刹那が間一髪で交わし、
キリカの鈎爪が目の前の薔薇の茂みを一撃する。

「神鳴流奥義・百烈桜華斬っ!!」

キリカは後ろに跳びながら、
空中に大量の桜と薔薇が舞い散るのを目の当たりにする。

「又、君の罪が増えたみたいだね刀使いっ」
「斬鉄閃っ!!」
「ああぁあーっ!!! もう、っ、許、さないっ!!!」

一段とスピードを増したキリカの攻撃を、
刹那は夕凪を振るい交わし続ける。

「こ、のおっ!!!」

キリカの爪が薔薇の茂みを払い、
とっさに身を低くして交わした刹那がそのまま横っ飛びに逃げる。

「(バランス崩した?)もらったっ!!!」

跳躍して一撃したキリカの鈎爪を刹那は地面を転がって交わし、
振るわれた鈎爪が地面を抉る。
そして、キリカは、目を見開いた。


「い、っ、な、に? ………」

キリカの両足の裏、片膝をついた右の脛に、激痛が走っていた。

「薔薇、の、棘? まさ、か? あああっ!!!」

地面に散乱する残骸と左前方に低くにじり寄っていた刹那を発見し、
振るった爪を交わされたキリカは叫び声を上げていた。
そのキリカの左の腿には、薔薇の枝が束で突き刺さっている。

「この、威力、武器強化の、魔法?」
「只の「気」だ」
「漫、画みたい、薔薇の棘も、それで………」

キリカは飛び退いて距離を取るが、何時も通りとはいかない。

「神鳴流秘剣、風塵乱舞」
「くそっ!!」

痛みもあり、対処する間もなく、
ほぼ目の前から容赦なくキリカの顔を狙った大量の薔薇の枝は
顔の前で×字に交差したキリカの腕に突き刺さる。

「くそっ、おおおお、っっっ!!!」

その時には、キリカの右足を夕凪の鞘が払い、
その鞘はそのままキリカの右の脛を一撃していた。
そして、立ち上がろうとしたキリカは目の前に夕凪の切っ先を見る。

「薔薇の棘で全身バラバラって、悪趣味だね。
そんなに、君を怒らせたかな刀使い?」

次の瞬間、夕凪の鞘がキリカの横っ面を直撃した。




………このちゃ………私への人質として、

このかお嬢様の身に危害を加えた。

………貴様………

楽 に 死 ね る と で も 思 っ た か ? 




にいっと笑ったキリカの腹に、鞘の底が叩き込まれる。

「と、言いたい所だが、私も急ぐ身だ。
貴様の飼い主美国織莉子の居所を吐くか
ここで本当にバラバラにされるか、今すぐ………!?」

次の瞬間、キリカの姿を見失いタンッと後ろに跳躍した刹那は、
流血する左腕を握っていた。

「くっ!」

辛うじて振るった一刀が、ガキンと攻撃を弾き飛ばす。

「(スピードが上がってる、だとっ!?)
斬空掌・散っ!」
「無駄無駄無駄あっ!!!」

周囲に気弾を放った刹那は息詰まる感覚と冷汗を感じながら、
周囲の激しい動きに対して自らの動揺を鎮め、
一刀両断に刀を振り下ろす。

「惜しい」

刹那の眼前で、キリカがにまあっと笑う。


「まさに、チャンスは前髪、だね。
さあもっと、もっともっと私に見せてくれよ。
君の、愛の形を。君は、私の魂の姉妹なのか!!」

額から流れる血を腕でぐいっと拭うキリカの前で、
刹那は紐の切れたサイドポニーから流れる自らの黒髪に
僅かばかりの鬱陶しさと恐怖を覚える。

「そのケガにそのペースだと、何分、いや、もう何秒も身が持たない。
だからと言って、スピードを緩めたら私の剣の餌食。
どちらにしろ貴様は詰んでいる」
「結構」

刹那の警告に、キリカは目を見開いた。

(更にスピードをっ!?)

野太刀の長い刃が、
キリカの攻撃を見切って複数の鈎爪をギリギリと防御する。

「がああっ!!」

刹那が鈎爪をキリカごと力任せに弾き飛ばす。
それだけでも、想像もしたくない激痛の筈だ、と、刹那は察する。





結構だ!

たかだか私が死ぬ程度で私のすべてが守れるなら

大いに結構!



一際速い一撃を、刹那が夕凪で受け流す。

「お、おお………」

「もう一度だけ聞く………」

「質問は受け付けない。
私に対するすべての要求を完全に拒否する!」

「(あの痛みの中、最早壊れている、か)
………残念だ………」

刃が、交わる。

ぎゅるんっ、と、鈎爪に絡まれた夕凪が宙を舞った。

「(もらった)あ、ああ………」

そして、気が付いた時には、
刹那に渾身の一撃を斬り付けたキリカは低く空を飛んでいた。

「あああっ!!!」

そして、コントロール不能のまま薔薇の茂みに全身突っ込む。


(合気道か何か? 自分の力をそのまま流された。
刀を囮にそれを待っていた。
剣だけじゃないとは思ったけどここまで………)

キリカが体勢を立て直そうとした時には、
刹那は目の前まで迫っていた。

(空手?)

武術の、ではなく、キリカの目には武器が見えなかった。

「アデアット」

ガサッ、と茂みが鳴り、
刹那の右手から突如現れた匕首は、
次の瞬間刹那の手に肉を抉る鈍い感触を伝えていてた。

==============================

今回はここまでです>>175-1000
続きは折を見て。


ーーーーーーーー

見滝原の仮住まいであるアパートに戻った刹那は、
浴室でシャワーを浴び、ぐっ、ぐっとその手を拭っていた。
ふうっと嘆息してから浴室を出て、
体を拭った辺りで音に気が付く。
それは、「最重要」を示すものだった。

「こ、これは学園長、この様な時間にっ!!」

スマホで電話を受けた刹那は、
その場で深々と頭を下げる。

「こ、この度はこのかお嬢様を、私がいながら、
何と申し上げて………」

「うむ、その事も関連してじゃが………」

「………積極的攻撃をやめろ、と?」

「色々と事情は聴いたが、
元々はこちらが魔法少女のテリトリーに割り込んでの事。
このかには当分そちらに近づかない様にその辺りの事も注意しておいた。
無論、この件に就いては刹那の非ではないと、重々理解した上の事じゃ。
故に、そのままそちらで元の任務に戻る様に」

「ご温情、感謝いたします。
美国織莉子、呉キリカをこちらから攻撃する事はやめて
見滝原での元の任務に戻る様に、と言うご指示ですね?」
「そういう事じゃ、引き続きよろしく頼む」

==============================

今回はここまでです>>218-1000
続きは折を見て。

それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>224

ーーーーーーーー

「間違いないのですね?」

ホオズキ市内で佐倉愛衣に合流した高音・D・グッドマンが確認する。

「はい、あの新聞販売店に。どうやら住み込みの様です」
「そうですか。キリサキさんの動きは夜間、それを待ちましょう」

高音の言葉に愛衣と夏目萌が頷き、踵を返す。

「夕凪新聞、ですか………」

こうして場所を把握した後、愛衣と高音、夏目萌は、
近場のファミレスでモーニングを頼んでいた。

「配達中を見つかったって事は、逃げ出さないですかね?」
「多分………ないと思う」

萌の言葉に、愛衣が言う。

「根拠は?」

高音が尋ねる。

「彼女は、私に見つかってからも淡々と新聞配達を続けていました。
もっと言うと、桜咲さんや私達に面が割れても平然としています。

念のため、認識阻害を張った上空から彼女の帰りを待っていましたが、
取り敢えず普通に戻って来ています。

とにかく、ネットなんかで確認したキリサキさんだとするなら、
彼女、普通じゃないです」


「キリサキさんが普通だったら困るけど」
「普通だから普通じゃない」

萌の言葉に愛衣が真面目に答える。

「つまり、キリサキさんが全く普通に新聞配達の勤労少女をしている、
と言う事ですね」
「そうです」

高音の答えに愛衣が頷く。

「だから、印象ですけど、
これから「普通」を捨てて逃げ出すとは考えにくい」

「そうですか………メイ」
「はい」

「あのキリサキさんの実力、どう見ましたか?」

「魔法のスペックは高い。
だけど、術師の練度が何処か追い付いていない。
剣士が外付けの魔法具で強力な魔法を使っている、
そういう印象でもあります」

愛衣の言葉を、高音は黙考して聞いていた。

「協会には?」
「少し待ちます」

萌の問いに対する高音の答えは、
二人にとって少々意外なものだった。

「何か、嫌な感じがします。
3Aや桜咲刹那も、私達が全く預かり知らない所で動いていた。
思い過ごしならいいのですが、キリサキさんの被害は看過出来ない。
この一日二日に限っては、私達は個人的に行動します。
そして、偶発的にキリサキさんを確保して、
それから協会の指示を仰ぎます」


ーーーーーーーー

魔法使い、魔法少女、結構な激動の夜が終わり朝が来て、
一部に例外はあったものの、
その後に続いたのは至って平凡な学校生活だった。

「美樹さんですか?」
「ええ」

放課後、夕暮れ過ぎに、
スマホを使っていた巴マミと桜咲刹那が言葉を交わす。

「元々、上条君のお見舞いの後で合流の予定だったけど、
ちょっと予定が変わってこっちには来られないって」
「そうですか」

かくして、この日は二人で魔女退治の散策を開始する。

ーーーーーーーー

「おや」
「あっ!」

夜、自宅を飛び出しそのまま走り出した鹿目まどかは、
それから程なく桜咲刹那と遭遇していた。

「どうしました?」
「さ、さやかちゃんがっ!!」


ーーーーーーーー

「一体何をしているんですかっ!!」

高速道路上の跨道橋に、
下の走行音にも負けない大喝が響き渡る。

「救兵衛におよその事は聞きました。
それが、一度は私に剣を教わろうとした者の行動ですかっ!?」
「刹那さん、ごめん………」

既に魔法少女姿で槍を担いでいる佐倉杏子の側で、
制服姿の美樹さやかが目を反らす。

「駄目だよさやかちゃんっ」

「いいでしょう」

まどかが先にさやかに駆け寄る中、
刹那は、野太刀「夕凪」を無造作な程に抜き放ち、
切っ先を前に向けて歩き出す。

「荒稽古を付けましょう。
あなたには過ぎた玩具を弄ぶその性根、叩き直します。
五体満足で帰れるとは思わないで下さい」
「ヒュウッ」
「さやかちゃん謝ってっ!!」

大真面目にザシザシと迫る刹那の姿に、
杏子が口笛を吹きまどかが悲鳴を上げる。
まどかも知っている、刹那の剣には嘘も冗談も無い事を。
しかも、今の刹那には大真面目に加えて何処か不機嫌な気配がある。
そして、さやかの気性もまどかにはよくよく分かっている。

「ごめん、まどか。
刹那さん、これだけは譲れないんだ。
止めたいなら………」
「さやかちゃん、ごめん!」

まどかが、光り出したソウルジェムをさやかの手から奪い取る。
そして、跨道橋から下の高速道路へと投げ捨てた。



「チッ!!」

即座に刹那が駆け出し、高速道路へと飛び降りる。

「任せて」

そこで、刹那は一瞬だけ、真横に暁美ほむらの姿を見た。

「………あれ? ………」

刹那が戻った時には、
跨道橋の床に横たわっていた美樹さやかが、
鹿目まどか、佐倉杏子、暁美ほむらに囲まれて
目を覚まし身を起こしている所だった。

「………つまり、ソウルジェムは魂の器で、
百メートル以上離れたら肉体から魂が離脱して死亡した状態になる。
そういう話をしていた、と言う事ですか?」
「そういう事になるね」
「あんた、冷静だな」
「多少、場数を踏んでいると言うだけです」

杏子の言葉に、刹那が応じた。

「とにかく………」

コメカミに指を押し付けたほむらが口を挟む。

「この事を巴マミに話すのは少し待ちましょう」
「そうですね。
今のこの状況を見ても、彼女にしても相応のショックはある筈です」
「そうだね、正直ショックと言うかなんと言うか」

刹那の言葉に、さやかが乾いた笑いと共に言って立ち上がる。


「あなたも、落ち着くのは難しくてもこれ以上短気を起こさないで下さい。
あなたが、得た力で人を助け、
様々なものをもたらした事は確かなのですから。
折を見て少し話しましょう」

「うん。今はちょっと、帰らせてもらうわ」

さやかが、ぎこちなく笑みを浮かべながらぎくしゃくと動き出す。

「まどかさん、彼女をお願いします」
「うん。一緒に帰ろう」
「うん………」
「あー、あたしも帰るわ」

かくして、三々五々解散して行く。
最後に残った刹那が、ぽつりとつぶやく。

「………それでも、終わる道がまだ残っている」

ーーーーーーーー

チリ、ン………

「貴方の名前…教えて?」

夜のホオズキ市内。何時もの魔女探索のパトロール中、
魔法少女詩音千里は路地裏でその声を聞いた。

「教えて…貴方の名前」
「…答える義務はないわ」
「そう…残念ね」
「伏せてっ!!」

千里は、突如割り込んだ怒号に従った。

「くっ!」

ぶおっ、と、周囲の地面に一瞬燃え立つ火線が走り、
そのまま蛙飛びした千里は、振り返り様に魔法拳銃を発砲する。


「紫炎の捕らえ手っ!」
「桜火っ!」

横を向いた鈴音は、飛んで来た炎の捕縛魔法を
剣から放った炎で呑み込む。

「火の9矢!」
「炎舞」
「風楯っ!(手数が多過ぎるっ!)」

上空から監視していた箒から飛び降り、介入した愛衣は
鈴音が放った大量の炎の剣に攻撃魔法を相殺され、
更に斜めに降り注ぐ炎剣に対して防御を張る。

「エルサルマ………風楯っ!!!」

愛衣が次の魔法を放とうとした時には
鈴音はごうっと迫っており、
鈴音が振るう大剣を愛衣は防御魔法で、
更に魔法の箒オソウジダイスキで受け流す。
鈴音がぶうんっ、と、剣を大きく横薙ぎし、
大きく飛び退いた愛衣が胸元を抑えた。

(かなり、硬い………)
(黒衣でなければ真っ二つね)

詩音千里は、
肌面積の大きな水着にセーラー服マントと言うのが近い大剣の少女と
巻き髪に黒衣姿で箒を振るっている少女の争いを油断なく見ていた。

当初は割り込んだ黒衣をセーラーマントが凌ぐ形で、
今は灰色のセーラーマントが押している。

千里の見た所、黒衣の攻撃距離は遠距離、
対して、セーラーは遠距離も使えるが基本が剣士タイプ。
黒衣はセーラーマントの距離に捕まってしまい防戦一方。
そうなると、こちらも遠距離タイプの千里も迂闊に介入出来ない。

どうもあの黒衣が異常に堅牢らしく、
そうでなければ一度や二度はグロ画像を見ていた頃だ。


「チサト、大丈夫っ!?」
「良かったっ!」

望んでいた近距離の到着に千里が叫んだ。

「あっちの灰色が多分、キリサキさん。
かなりの剣の使い手で遠距離の炎も使うから、
第一は捕獲、手に余るならって事でお願い」

「オッケーッ! 行くわよこの変態キリサキ魔っ!!」

鈴音の視線が動いた一瞬で、愛衣はタンッと飛び退き、
突入した千里の魔法少女パートナー
成見亜里紗の大鎌の柄が鈴音の剣と激突する。

「えっ?」
「紫炎の捕らえ手っ!」
「チッ!」

亜里紗が鈴音をぶち抜いた、と思った鎌が空を切り、
その側で、正確に鈴音を狙った捕縛魔法を
炎をまとった鈴音の剣が叩き落す

(キリサキさんは幻術の様なものを使ってる?
だけど、黒い少女は恐らくそれを見抜いてる)

千里が推測する間にも、亜里紗と愛衣の即席コンビは、
特に打ち合わせるでもないまま割と効果的に動いていた。

「メイプル・ネイプル・アラモード………」
「炎舞………」
「紅き焔っ!!」
「よっしゃあっ!!

鈴音が放った大量の炎剣を空を舐める火炎が呑み込み、
その後から亜里紗が突撃して剣と鎌の柄が衝突する。
その間に、地面に幾筋かの火線が走り、周囲を照らす。


(今度こそ………)
「かはっ!!」

一瞬不愉快気に眉を動かした鈴音は、
下から振られた鎌の柄を腹に打ち込まれ、
咳き込みながら足を後ろに滑らせた。

「もらったあっ………」
「桜火っ!!」
「のわっ!!」

トドメとばかりに大振りに振り被った亜里紗を強力な火炎魔法が襲い、
亜里紗は慌てて身を交わす。

「くっ!」

そのまま愛衣に駆け寄ろうとした鈴音が、ステップを始めた。
鈴音の前方では、愛衣がステップを踏みながら
鈴音の足元を狙って次々と速射の火炎弾を撃ち込んでいる。

「狙いは分かるけど、ちょこまかウザイ………」

今すぐにでも背中に鎌を叩き付けたい亜里紗が
的を絞れない苛立ちを口にする。

「桜火っ!」
「風楯っ!!」

それでも鈴音が発動した巨大な炎を愛衣が防御し、
その間に迫っていた鈴音の一刀を、
愛衣がバーベル持ちした箒で受ける。

「らあああっ!!」

その間に背後から亜里紗が迫っていたが、
一瞬早く動いた鈴音の剣が
ぶうんと横薙ぎに亜里紗を牽制する。


(いけるっ!!)

詩音千里が、魔法拳銃を構えた。

「正義の使徒、高音・D・グッドマンここに見参!!!」

さっ、と、そちらに視線を向けた成見亜里紗は、
目が点になった。
その視線の先の空中には、馬鹿でかい黒いエイリアン、
とでも呼ぶしかない代物が浮遊している。

「メイ、よく時間を稼ぎました、

私が来たからには決まったも同然。

さあキリサキさん、神妙に縛につきなさいっ!!」

千里が放った魔法解除弾は、

黒衣姿の夏目萌を引き連れ、
その背景に巨大な触手影人形を浮遊させながら
この戦場に勇躍踊り込んだ、

黒衣姿の高音・D・グッドマンの

颯爽たる勇姿へと真っ直ぐ吸い込まれて行った。

「………えーと………私、まだ何もしてなかったよね………」

==============================

今回はここまでです>>225-1000
続きは折を見て。


ーーーーーーーー

「何が、起きているの?」

昼休み、二年生校舎の屋上と三年生校舎の屋上入口近くで、
それぞれ暁美ほむらと巴マミが、
前方で翻る黒いサイドポニーを眺めながら棒立ちで呟く。

「わーっ」
「すっごーいっ」

三年生校舎の屋上では、巴マミと同じクラスの女子生徒数人が
黄色い歓声を上げていた。

彼女達のクラスには最近同性の転校生が転入して来ており、
普段はむっつり不愛想な転校生が何となく興味を示したので
スマホでこっそり見ていた洋楽動画をそのまま見せたところ、
一分以内の謎の挙動を経て今に至っていた。

「ウ、ウェ、ヒヒヒ………」

ほむらの隣では、
ほむらと少々込み入ったお話しをする予定だった鹿目まどかが
思わぬ成り行きと素晴らしくハイスペックな完コピダンシングに
取り敢えず笑うしかなかったので乾いた笑いを漏らす。

その間にも、まどかの前方では、
アニメの中のアイドルダンスが、
投げキッスと共にハイクオリティで再現されていた。

==============================

今回はここまでです>>235-1000
続きは折を見て。


>>239差し替えです

==============================

「私は、スズネちゃんを助けてあげてたんだよ。
ニセモノの記憶で蓋をしてっ!
辛いでしょ? 痛いでしょ?
やっちゃったのはあいつら、あんたのお仲間。
終わるよ、みんな、あんた達が地獄の窯の蓋を開けたせいでね。
アーッ、ハッハッハッハッ!!」
「このっ!」

亜里紗が振り上げた拳を千里が抑えた。

「ソウルジェムが急激にっ、私の手持ちで………」
「あ、ああ、あ………つ、ばき………」
「!?」
「ああ………ツバキ………」
「!?」

頭を抱え蹲る鈴音に駆け寄ったのは茉莉だった。

「スズネちゃん、私、覚えてるマツリの事っ!」
「………」
「マツリだよっ。お話ししたよね、ツバキの事も」
「マツ、リ………」
「ずっと、ずっと探してた、ツバキの事も、スズネちゃんの事も。
スズネちゃんの事は忘れてたけど、でも、ずっと、ずっとずっと会いたかった、
ツバキと一緒にいたスズネちゃんにっ!!」

茉莉が鈴音の手を取り、焦点の合わなかった鈴音の目が
茉莉の前向きな目を捕らえた。

「………又、話がしたい。
後で………少し、長い話になる」

鈴音の返答に、茉莉が小さく頷いた。

==============================
差し替えは以上です。
一言で言って読み込み不足による修正、ごめんなさい。
今回はここまでです、続きは折を見て。

それでは今回の投下、入ります。

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>>243 >>244

ーーーーーーーー

オハヨー
オハヨー

「さやかちゃん、おはよ!」
「おはようございます、さやかさん」
「あ、ああ。おはよっ」

朝、せせらぎ流れる通学路で、
何時もの三人が合流し、挨拶を交わす。

「んー、ちょっとばかり風邪っぽくてね」
「さやかちゃん………」
(ふむ………)

並木、と言うか林に近い木々の中で、
桜咲刹那はそんな三人の姿を捕らえ心の中で呟く。

(空元気、ですか………視線?)

そして、改めてさやかの視線を追う。

(松葉杖の少年………成程………
………あの様子は少し厄介………彼女も?)

どちらかと言うと自分に不向きな方面の懸念に、
刹那は小さく嘆息する。


ーーーーーーーー

「?」
「どうしましたの、さやかさん?」

帰りのHRを終えた教室で、
つと視線を上に向けたさやかに志筑仁美が尋ねた。

「ん、いや、鼠かなって。気のせいかな?」
「嫌ですわね」

少し眉を潜めた仁美は、気を取り直して
きりっとした眼差しを親友に向ける。

ーーーーーーーー

「あら」

教室で帰り支度をしていた巴マミは、
スマホを取り出して小さく声を上げる。

「どうかしましたか?」

そんなマミに、最近クラスメイトになった桜咲刹那が声をかけた。

「ええ。美樹さん、風邪は治ったんだけど
用事が出来たので今日は先に行っててくれって」
「そうですか。私もこれから用事がありまして」
「桜咲さんも?」
「ええ、すいません」
「謝る事は無いわ。元々私の側の仕事なんだから」
「では、失礼します」

相変わらず折り目正しいクラスメイトをマミは見送る。
多分、友達と言ってもいいと思うのだが、
一方で他人行儀に見えるのは、
最近はちょっと崩れた所が見えても折り目正し過ぎるからだろうか。


ーーーーーーーー

(わあー)

何時ものファーストフード店で着席した美樹さやかは、
少し後に入って来た女性客を見て、少々見惚れていた。

それは、同席した友人志筑仁美も同じ、
或は、もっとお熱かも知れないと、
仁美と付き合いの長いさやかは察知していた。

さやかから見て、その女性客はよく見ると少女なのは分かるのだが、
年齢は少し年上と言った所か。
ロングと言う程ではない黒髪をポニーテールに束ね、
サングラスをかけていても美人の部類に入るのは分かる。

何より、取り立てて逞しくも見えないむしろ小柄な体格の筈が、
SPか、と言いたくなる黒いパンツスーツが何故かドハマリして見える。
そんな、年頃の女の子がふと見惚れる凛々しい雰囲気を身にまとっている。

こほん、と、仁美が咳払いをして、さやかがそちらを見る。
その一瞬に、黒スーツの少女は、
さやかの背後の背もたれの裏側にすっと触れていた。

「………それで、話って何?」

気を取り直して、さやかが仁美に尋ねる。
その頃には、二人の意識を外れた黒スーツは少し離れた席に着席し、
ジャケットの内側から伸ばしたイヤホンを耳に差していた。


ーーーーーーーー

さやかが帰宅して、改めて外出した時には、既に陽は沈んでいた。
これから、闇に潜む怪物を退治に行く正義の味方。
と、心を奮い立たせようとするだけで、鼻の奥が辛くなる。
そして、街灯の下に立つ大事な友達の存在に気付き、
又、胸に来る。

「まどか」

さやかが声をかける。
それでも、付いて来てくれる、付いて行きたい、と、
心からさやかを気遣ってくれる。
付き合いの長いさやかにはその真情がよく分かる。
だからこそ、その綺麗な心に触れて、
さやかはとうとう泣き崩れる。

「あんた、何で……何でそんなに、優しいかなぁ……
あたしには、そんな価値なんてないのに……」

ーーーーーーーー

影の魔女の結界内。
おぞましく、悲しい光景を前に、
目を見開き立ち尽くしていた佐倉杏子の横を、
ばびゅんっ、と、何かが突き抜けて通り過ぎた。

「ア、ハハ?」

自分を縛り上げ、持ち上げていた触手が消し飛んだ、
と、思った時には、
そう思ったさやか自身も強烈な打撃で弾き飛ばされていた。


「やばっ!」

前方の光景に尋常ならざるものを察知した杏子が、
まどかの元に走った。

「神鳴流決戦奥義、真・雷光剣っ!!!」

杏子がまどかをかばう中、
結界そのものを揺るがす様な大爆発が巻き起こる。

「おいっ、大丈夫か!?」
「まどかっ!!」
「う、うん、大丈夫」
「桜咲刹那っ!」
「いや………」

怒りの形相で顔を上げるほむらを杏子が制する。

「信じらんねぇけど、安全だった。
こっち飛ばさない様にあの威力コントロールするって、
どんだけなんだよあいつ」

杏子がごくりと息を飲む前で、
爆風にその身を転がしていたさやかがゆらりと立ち上がった。
そのさやかに、刹那は「白き翼の剣」の切っ先を向けていた。


「じゃま………するなあっ!!………」
「………はは………」

杏子が、乾いた笑いを漏らす。
馬鹿でかい建御雷の一振りと共に、さやかが血迷って振るった刀身は
鍔元からへし折れてどこかに吹っ飛んでいた。

「おふっ!」

そして、「白き翼の剣」の柄の底がさやかの腹に叩き込まれる。

「この………」

さやかが顔を上げた瞬間、刹那の裏拳がさやかの頬を捕らえる。

「こ、の………」
「痛くないですか?」

その声は、静かに響いた。

(なみ、だ?)
「私は、痛いです」

そして、刹那はどん、と、掌でさやかの胸を押した。

「これは、あなたの体と心が血を流して得たものです。
返却する事は私を侮辱する事と心得て下さい」

杏子は、さやかに背を向けて立ち去る刹那を見送り、
グリーフシードを手にすとんと両膝をついた
さやかの肩をぽんと叩く。

「いい先輩じゃん。あんまし独りで意地張んなよ。
何せアレだからな、
力ずくでも独りにさせてくんねーんじゃね?」

==============================

今回はここまでです>>245-1000
続きは折を見て。

始まったか………

原作プロローグは余韻だったけど、
13巻冒頭から繋げて来たか。

それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>250

ーーーーーーーー

「何やってんだ?」

佐倉杏子は、魔女の結界を出た所で、
そこに突っ立っている桜咲刹那に尋ねる。

その刹那は、ネコミミ和風メイド服と言う
堅物な刹那にしてはキテレツな姿で、
建御雷の切っ先を体の正面の地面にドン、と、突き立て、
杏子から見て薄気味悪い笑みを浮かべて立っている辺り、
悪い予感しかしなかった。

「皆さんには、
これからちょっと
ミーティングに参加していただきます」

「ミーティング?」

行きがかり上、杏子と一緒に結界を出た美樹さやかが尋ねる。

「ええ、巴マミさんを交えて、
ソウルジェムの事等々に就いてすり合わせを行います」
「どうしてあなたが仕切ってるのかしら?」
「私の事情です」

暁美ほむらの問いに、刹那はにっこり返答した。


「このパーティー、あなた達は否定するでしょうが、
私から見たこのパーティーはこのまま行けば早晩瓦解します。
余所者だからこそ見える事もありますから。
そうなると、こちらとしても色々困るものでして」

「お断り、って雰囲気じゃなさそうだなぁ」

槍を肩で担いだ杏子と刹那が笑みを交わす。
そして、その一瞬の壮絶なやり取りに、
美樹さやかは目を見張った。

「今の、見切れるのかよ」

大槍を手槍のサイズに戻した杏子が、
「白き翼の剣」を八双に構えた刹那に言う。
なお、この場合の手槍とは槍術用語であり、
二分割してはめ直す様な携帯用ではない。

「身近に如意棒使いがいますので」
「やるじゃん」

次の瞬間、高速の剣と槍が再び打ち合い、弾ける。

「!? 百烈桜華斬っ!」

馬鹿長くなった槍の柄がゴム化し、
柄のしなりと共に刹那を狙った槍の穂先が
刹那の斬撃に乗せた「気」のカーテンに弾き飛ばされる。

その時には、杏子はそこに踏み込み斬り付けた刹那の一撃を交わしていた。
刹那が振り下ろした「白き翼の剣」が持ち上がる前に、
本来の機能に戻った槍の柄が上から剣を押さえつける。

「す、ごい………」

その激突に、さやかが息を飲む。
魔法少女だからこそ分かる、
やはり杏子はヴェテランの魔法少女であり、刹那は強者の剣士。
到底今の自分が及ぶ実力ではない、と。


ぎゃりっ、と、槍と剣が一回転し、横殴りの槍の柄を跳び越えた刹那が
タタッ、と動いて袈裟斬りに斬り付ける。
そして、空を切った「白き翼の剣」に、
上から槍の柄が叩き付けられた。

「アデアット!」

「白き翼の剣」が地面に叩き落され、刹那の新たな得物を杏子は鼻で笑う。

「どうしたどうしたあっ!?
そんなちっこいのであたしの首の届くのかよおっ!?」

叫んだ杏子が、手槍サイズの槍で幾度も突き、払いを繰り出すが、
刹那も流石にしぶとく交わし続ける。
ニッ、と、笑った杏子の目の前で、杏子の槍が多節棍に化け、
膨大な節の連結棍が、範囲攻撃と言うべき規模で浮遊を始めた。

「匕首・十六串呂、稲光尾籠っ!!」
「!?」

次の瞬間、そのまま刹那を縛り上げようと高々と動いた連結棍が、
その直前に刹那の結界術式の雷帯に絡め取られた。

「くっ!」

杏子が、自分が絡め取られる前に一度多節棍を消滅させる。
その時には、刹那の手からも得物が消え、
杏子は刹那の当て身をすれすれで交わしていた。

(まっ、ずいっ………)

もちろん、魔法少女は基本スペックが人間離れして強い。
しかし、それは現状退魔師である刹那もやり様によっては似た様なものだ。
そして、魔法少女同士で争う事はあっても、
魔法少女の仕様は魔女と戦う事を基本としている。


「あんた、素手もイケる口かよっ!?」
「神鳴流は武器を選ばずです」
「くそっ!」

ハメられた、と、杏子は腹の中で吐き捨てる。

自分は実戦経験はあるし、汚い事だって平気だ、と、杏子は思っていたが、
この清廉誠実を絵に描いた様な桜咲刹那こそ、実戦にも誠実と言う事だった。
気に入った、と言いたい所だが、
目下その的が自分だと言う所が最大の問題だった。

我流の素手喧嘩が魔法少女基準でも決して弱くない杏子だからこそ、
鍛錬に鍛錬を重ねた洗練された動きのキレ。
その鍛え抜いた芯があるからこそ、そこからあらゆるパターンに
応用と自信で応じる事が出来る刹那の桁違いな技量が分かる。

仕切り直そうにも、明らかに杏子の基礎を読み切っている刹那は、
杏子が槍を作り出す前に素手の間合いからの攻撃を途切れさせない。

「そらっ!」

一瞬の隙を突き、復活させた槍で突きの一撃を繰り出す。
そして、この時も、杏子の勘はハメられた、と警報を響かせた。
果たして、杏子は頭上に刹那の気配をとらえる。
つまり、跳び越えられた。
杏子が振り返るが、槍の重みに引きずられた体がワンテンポ遅れる。

「浮雲・桜散華」

ずっがぁーんっ、と、迫力の投げ技一閃。
只の倉庫街と言う場所柄、
まともな人間ならばトマト的な何かになりかねない馬鹿げた地響き。

「つーっ………」

「白き翼の剣」を回収しつつ接近する刹那の前で、
杏子は半身を起こしてぶんぶん頭を振る。


「つえぇなぁ、せっちゃんは」

その瞬間、ここにいる大半の者が異変に気付く。
「白き翼の剣」の刃を杏子の首筋に向けた辺りで、
刹那はぱちくりと瞬きをしていた。

「らあっ!」
「!?」

次の瞬間、杏子の頭頂部が刹那の鼻を一撃していた。

「おふっ!」

そして、杏子の拳が刹那のリバーをとらえる。

「おら、あっ………?」

距離を取った杏子が、刹那の頭に槍の柄を振り下ろす。
それは、建御雷に受け止められた訳だが、
そこで、ここにいる全員が、
何かゴゴゴゴゴゴゴゴと聞こえそうな異変に気付く。

「え、ええと、どうかした? せっちゃん?」

思わずあは、は、と笑って尋ねた佐倉杏子の記憶は、
ピキッ、と言う幻聴と共に
白黒反転した恐怖の目を見た辺りで一時中断されていた。


「神鳴流決戦奥義、真・雷光剣」

建御雷を一振りした後、桜咲刹那は、
「白き翼の剣」を肩に掛けて美樹さやかに向けてにっこり微笑んだ。

「棟打ちですのでじきに目を覚ますでしょう。
ちょっと予定を変更して
DEAD OR ALIVE
と言う事になりましたが、
ミーティングに参加すると言う事に異存は?」

暁美ほむらの足首に繋がる稲光尾籠の一帯を握って
とてもとても可愛らしく微笑む刹那の目の前で、
ゆっくり首を横に振る
美樹さやかの瞳のハイライトは節電モードに入っていた。

==============================

今回はここまでです>>251-1000
続きは折を見て。


「簡単に言いましょう。
この世界には、あなた達が知らない所で人間を食らう魔物がいる。
そして、それを退治する側の者もいる。
私もそうですし、美樹さやかさんもしかりです」
「さやかが!?」

恭介が驚きの声を上げる隣で、
仁美が力強くこちらを見るのを刹那は見ていた。

「そうです。詳しい事情は申し上げられませんが、
事情により彼女はテレビのヒーローの様な使命、能力を持つ身となっています。
つまり、あの様な魔物を狩る立場です。
ですから、先ほどあなた達が見た様に、
身体や回復の機能が人間離れして強化されている所もありますが、
中身、少なくとも頭の中身は
間違いなくあなた達の知っている美樹さやかさんです」
「………謝らなくては………」

ぽつりと言った仁美に、刹那が小さく頷く。

「そ、そうだ、さっきさやかに、っ………」

恭介が気が付いた時には、その鼻先に夕凪の鞘の底が向けられ、
恭介は腰を抜かしそうになった。

「もちろん人に知られてはならないミッションであり、
今回はその無知と言う事で、むしろこちらの不手際と言う事で聞き流しますが、
私としても、
大切な仲間を侮辱された時為すべき事は心得ているつもりです」
「はい」

一瞬、杏子ですらひやりとする眼差しが向けられたが、
それでも、恭介は精一杯の返答を返す。
刹那は静かに微笑んでいた。

「では、先ほどの私の説明を聞いたと、
美樹さんにはそう伝えて、後は今まで通り接してあげて下さい。
今後、この件に関しては深く関わらず、もちろん他言無用で」
「はい」
「分かりました」


「あの、刹那さん」
「はい」

そこで、さやかが刹那に声をかけた。

「仁美や恭介に説明してくれたって。
有難うございました。
お礼、言いそびれてすいません」
「いえ、私も急にこちらに戻って来ましたから。
それで、その後の進展は?」

真面目な顔で尋ねる刹那にさやかは笑って首を横に振る。

「色々あったから一時休戦だって。
いい友達持ったよあたし。
本当に、いい友達、いい仲間を持った、ね、まどか」
「ウェヒヒヒ」
「気ぃ付けろよ」

そこに杏子が口を挟む。

「そういう事に女の友情は無いって言うからな、
案外そう言っといて」
「あー、そう言えばアーニャちゃんもいつぞや言うてたなぁ、
向こうにはちょうどいい諺があるて」
「うん、分かってる」

さやかがにこっと笑い、紅茶の残りを口にした。

==============================

今回はここまでです>>308-1000
続きは折を見て。

それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>319

ーーーーーーーー

「なんか、歴史的って言うか」
「うんうん、歴史の重みを感じるね」

麻帆良の西洋風の街並みを歩きながら、
鹿目まどかと美樹さやかが改めて言葉を交わす。

「………おい」
「気が付きましたか?」

佐倉杏子の言葉に桜咲刹那が応じた。

「ねぇ、まどか………」
「何?」

ちょっと口調が変わったさやかにまどかが聞き返す。

「結界?」
「えっ?」

暁美ほむらが発した聞き慣れた単語にまどかが聞き返した。

「まさか、でも、これって………」
「さやかちゃん?」
「だって、人が、他にいない」

さやかの言葉に、まどかがハッとして周囲を見回した。
車が通らないのはとにかく、他の歩行者の姿すら見えない。


「脱出します。佐倉さん、しんがりをお願い出来ますか?」
「おう」

刹那の冷静な言葉に、杏子が不敵に笑って答えた。

「では、他の人は私について来て下さいっ!」

刹那が建物に向けてダッと走り出し、杏子を除く面々がそれに続いた。

次の瞬間、路地から飛来して来た幾つかの光の塊を
杏子の槍が弾き飛ばす。

(光の矢? 一つ一つがちょっとした打撃攻撃ってか)

そして、杏子は、路地からざざざっと姿を現した
黒いローブ姿の相手を見据える。

「なんだ、てめぇ?」

返答代わりに、又、幾つもの「光の矢」が杏子を襲い、
杏子はそれを苦も無く叩き伏せる。
更に、不意の突風が一瞬杏子の視界を妨げる間に、
黒ローブは杏子との距離を詰めていた。

「おらっ!」

黒ローブが、杏子の横殴りの槍を交わす。

「の、野郎っ!」

二度、三度と槍の打撃、そして突きを交わされ、
いらっ、と来た杏子が、馬鹿長く変化した槍を振り上げた。
そして、杏子の一振りと共に、馬鹿長い多節棍が
杏子の前方の空間を範囲攻撃でもする様に展開した。


「(これで)どうだ、っ!?」

百戦錬磨の魔法少女佐倉杏子が、締め上げた、
と、その感触まで妄想した瞬間、
黒ローブは集中して巻き付いた多節棍のすぐ横にいた。

(なん、だぁ? 確かに普通じゃねぇがこっちの基準で特別速い訳じゃねぇ、
テレポートや幻術でもない、只、交わしただけに間違いない。
なのにここまで一発も?)

杏子が、再び飛んで来た光の矢を、体を開いてやり過ごす。

「うぜぇうぜぇうぜえっ!!!」

杏子が槍を手元に戻し、
黒ローブを狙って突き、払い、そのどちらもするする交わされる。

(しま、っ!?)

とっさに自分の顔の前で槍を振るった杏子が、その迂闊さを呪う。
杏子の目の前で槍の柄に破砕されたのは、複数の試験管だった。
かくんと膝をついた杏子の瞼が、急速な睡魔に屈する。

ーーーーーーーー

「桜咲刹那、これはどういう事っ!?」
「詮索よりも安全を確保します」
「ああもうっ、雨とか降ったっけっ!?」

路地裏を走りながらほむらの問いを刹那が流し、
さやかが悪路に悪態をつく。

「!?」

ほむらが気配に振り返った次の瞬間には、
そこに存在していた黒いローブの「敵」にほむらは一撃され、
吹っ飛ばされたほむらの背中が近くの建物の壁に叩き付けられていた。


「ほむらちゃんっ!」
「お嬢様鹿目さん私の後ろにっ!!」
「こ、んの野郎っ!!!」

瞬時に変身して飛び掛かったさやかの一刀を、
黒ローブはすいと交わしてさやかの後ろ首に手刀の一撃を加える。

「さやかちゃん!!」

どうと地面に倒れ込んだ親友の姿にまどかが今度こそ悲鳴を上げた。

「だい、じょうぶ………」
「まどかっ!! ………!?」

さやかが呻きながら身を起こそうとし、
頭を振り、ざっと前に踏み出したほむらは強制的に足を止めた。

「なっ!?」
「なに、これ?」

地面から噴き出した、
大量の紐の様な水に雁字搦めにされているほむらを見て
ようやく身を起こしたさやかが目を見開く。
たっ、と、刹那が一瞬で間合いを詰め、野太刀「夕凪」を抜き放った。
野太刀で居合、と言う物理法則に挑戦する神鳴流剣士ならではの一撃を、
黒ローブはするりと交わして地に潜る様に姿を消す。

「な、何よこれっ!?」
「捕縛結界です」

ほむらの問いに刹那が答える。


「学園警備とこちらの仲間に救援要請を出します。
美樹さん、それまで暁美さんのガードを、
任せて大丈夫ですか?」

「おーけーおーけー、
杏子や刹那さんに結構ボコられてるからね、
この程度なんて事ないって、ててて」
「冗談じゃないわっ! まどか、っ」

「見た所、直ぐに解除するのも力ずくで突破するのも無理です、
私が安全な所まで誘導しますから大人しくしていて下さい。
ここで無理をしても消耗するか最悪大怪我です」

「って、事だからここはあたしに任せといて。
今度来たらぶった斬る」

コメカミに汗を伝わせながら、
大股開きで正眼に構えたさやかが宣言する。

「それでは、お嬢様はしんがりをお願いします」

刹那の言葉に、近衛木乃香は力強く頷く。

「分かった。まどかちゃん、うちとせっちゃんから離れんといてなっ」
「はいっ」
「大丈夫や、せっちゃん強いんやから!」


ーーーーーーーー

「もしもし? うん、こっちで確保して………
何、それ?」
「?」

教会で、着信したスマホの通話を終えた裕奈の目が見開かれていた。

「どうしたの?」
「襲撃、された」
「!?」
「こっちに来てる巴さんのお仲間が襲撃されてるっ!」
「襲撃、って、魔法使いなのっ!?」

「質問の答えはイエス、
そうとしか思えないけど誰がやってるのか分からない。
今、刹那さんがガードして安全な所に避難中、私も出るっ!!」

「置いて行くとか言わないでしょうねっ!?」

ーーーーーーーー

路地裏を抜け、行き着いた先は世界樹前広場だった。

「「アデアット!」」

巨大な神木「蟠桃」に向かう巨大な上り階段の幾つもの踊り場。
簡単に言えばそういう作りの「世界樹前広場」にたどり着いた桜咲刹那は、
夕凪と長匕首の二刀で上段から突っ込んで来た斬撃を弾き飛ばした。

「下がってっ!」

まどかを背に隠した水干緋袴姿の木乃香が、
飛来した水晶球を魔法障壁を込めた白扇からの強風で吹き飛ばす。


「あなた達、ここで、
麻帆良で私達を手に掛けると言う事の意味を理解していますか?」
「何者を敵に回そうが、私の救世を成し遂げる」

呉キリカを前衛に従え、
広場の上段に現れた美国織莉子の宣言だった。

「匕首・十六串呂!」
「とっ!」

ドドドドッとまとめて打ち込まれた匕首手裏剣を
キリカが横っ飛びに交わした。

「アデアット! お嬢様っ!!」
「はいなっ!」

みょんみょんみょん

「おおおっ!!!」

刹那の手で文字通りぶった斬る勢いで振るわれた建御雷を、
キリカが這う這うの体で交わす。
本当の所を言えば、木乃香の魔力供給を受けた建御雷の一撃は、
キリカとしてもチビらなったのを自慢したくなるぐらいの
とんでもない威力の上にスピードだった。

「!?」

織莉子が放った水晶球が、遠くからの銃弾を受けて砕け散った。
織莉子がたたたっと階段を下りながら水晶球を放ち、
銃弾が水晶球や地面に弾ける。

「上ってっ!!」
「はいなっ、まどかちゃんっ!」
「はいっ!!」

刹那が叫び、牽制されている織莉子、キリカを後目に
木乃香とまどかが階段を上り
刹那がしんがりについて二人の敵を牽制する。


ーーーーーーーー

「正義の使徒、高音・D・グッドマン、見参っ!!!」
「おー」パチパチパチ
「魔法使い? 早速だけどこれ、解いてくれないかしら?」

路地裏で、捕縛結界に拘束されたほむらが
颯爽登場した高音に要請した。

「メイ」
「はい………これは………メイプル・ネイプル・アラモード………
………きゃあっ!!」
「メイっ!?」

ほむらの足元の魔法陣を確認しながら呪文を詠唱していた佐倉愛衣が
すってーんっと転倒した。

「大丈夫、です」
「何やってるのよ」
「いや転校生ちょっと偉そうだから」
「これは、魔法陣で人をとらえる捕縛結界ですね」
「ええ、丸で地雷ね」

「その通りです。基本を踏まえながら幾つか嫌なトラップが仕掛けてある、
手作業でこれを外すのはちょっと、骨ですね」
「今、携帯用の破砕装置を手配してはいますが、それ程のものですか」
「そこそこ手間がかかってますし、よく勉強していると思います」

「あれは魔法使いよね?
まどかが魔法使いに追われて逃げているってどういう事なのかしら?
急がないとまどかが………」

「この結界の中で焦ってもケガするだけです、少しだけ時間を下さい。
桜咲さんと近衛さんが一緒であれば安全な筈です」

「ええ、ここでマギカ、魔法少女を襲撃する魔法使い、
その意味は分かりません、至急究明する必要がありますが、
あの二人が一緒なら大丈夫でしょう」


ーーーーーーーー

「神鳴流奥義・斬岩剣っ!!」
「くっ!!」

建御雷の一閃と共にすごいばくはつが巻き起こり、
下段から刹那に迫るキリカも後退を余儀なくされる。

「織莉子っ!」
「釘付け、みたいね」

動こうとする先に銃弾が弾けている状態の美国織莉子も苦い口調で言った。

ーーーーーーーー

「ちょっと待って」

裕奈と共に現場に急ぐマミが、
裕奈を引き留めて指輪から変化させたソウルジェムを取り出した。
そして、掌に乗せたソウルジェムの感触を頼りに移動を始める。

「な、何?」
「気づかなかった? 私達は本当に目的地に向かっていた?」

言葉と共に、変身したマミが走り出し、
マミの髪飾りの黄色い輝きが空中に壁の様に広がった。

「オッケー行くわよ」

駆け出したマミが突き抜ける様に到着したのは、
世界樹広場だった。

「マミさんっ!!」
「鹿目さんっ、もう大丈夫っ!!」

広場の最上段近くから叫ぶまどかとマミが言葉を交わした。


「これって………」
「ちょっとだけ中和したけど、
根本の発生源があるみたいね」
「もしもし、こちら世界樹広場、保護対象者発見、
エリアが人払いの結界に飲まれてる、発生源の特定と排除お願いします」
「お邪魔は嫌われるわよ」

スマホを使う裕奈の前で、マミが両手に持つマスケット銃が
飛び掛かって来た呉キリカの刃爪をギリギリ抑える。

「ちいっ!」

通話を終えた裕奈がどんどんどんっと魔法拳銃を発砲し、
キリカが飛び退いた。

「なんとか、なりそうですね」

上へ上へと進んでいた刹那が、ふうっと一息つく。

「………せっちゃん?」

木乃香の言葉と共に刹那が天を仰ぎ、
裕奈の目も見開かれた。

ーーーーーーーー


「正義の使徒、高音・D・グッドマン、見参っ!!!!!
………馬鹿なっ!?」

「世界樹広場」に飛び込んだ高音が叫び声を上げた。

「どう、して?」
「な、何?」

高音、愛衣、魔法使い二人の反応にさやかが聞き返す。


「手間をかけ過ぎたライトアップイベント、
じゃなければ魔法的な何か、みたいねその反応」

ほむらが言い、前を見たさやかもようやく異常に気付く。

「さやかちゃんっ、ほむらちゃんっ!!」

その瞬間、視界が真っ白になった。

「まどかあっ!!!」

その場に呆然と突っ立っていたほむらが、肩を叩く感触に我に返る。

「あそこに、いたよね?」

ほむらに尋ねるさやかの声は、震えていた。

「ねえ、さっき、たった今まどかあそこにいたよね、
刹那さんとこのかさんと一緒に?」

「まどか?
まどかああああっっっっっ!!!!!」

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今回はここまでです>>320-1000
続きは折を見て。


「取り敢えず両腕両脚に一発ずつ、でいいかしら?
他の全員分を見せつけてから直接体験してもらう、
取り敢えずその程度の時間はあるわ」

「分かった、分かってる事は全部話す。
元々、私がそっちの立場だったとしても、
あれで友達がいなくなって納得して帰れとか言える話じゃないから」
「分かりました」

裕奈に続き、愛衣も折れた。

「有難う、そしてごめんなさい。
全部私達が悪いって事でいい。
だから教えて頂戴」

二人の返答にマミが頭を下げた。

==============================

今回はここまでです>>331-1000
続きは折を見て。

年末近くでアニメも最終回。
色んな笑いで観てましたが、
まずは楽しませてもらいました。

時刻もよろしい頃合いですか。

それでは今回の投下、入ります。

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>>338

「そちらの和泉亜子さん?」
「はいっ」

ツインドリルヘアーの少女に名前を呼ばれ、和泉亜子の声が跳ねる。

麻帆良学園女子中等部寮、
その自分の部屋にいた所を二人組のコスプレ少女に襲撃され、
あっと言う間に拘束された。

実の所、亜子も同居人の佐々木まき絵も、
この手のトラブルには多少の免疫がある。

そして、コスプレが只のコスプレではない、と言う事も理解出来る。
その亜子から見ても、二人組のコスプレイヤーは相当な実力者だ。
亜子達の知るトップクラスには及ばないだろうが、その道の素人ではない。

「今、リボンを解くから
バスタオルと着る物とバスルームを借りられるかしら?」
「分かった」

自分が手にしたリボンの震えに気づいたツインドリル少女巴マミが言い、
その事に気付いた亜子もしっかりした声で応じる。


亜子としても状況が状況であり、怖いものは怖い。
だが、夏休みの経験により、
その前とは比べ物にならないぐらいには腹が座っていた。
少なくとも、誰かが傷つこうと言う時に
僅かばかりの覚悟を決められるぐらいには。

もう一つ、これもその時の、絶対的な善悪とは別の
筋の通った者、通らない者、些かの暴力的な世界に触れた経験則として、
既に四人に増えたこの襲撃者達、
多分、対応を間違えなければ余り理不尽な事はしない。
そう亜子は直感した。

「大丈夫? 風邪引いてへん?」
「大丈夫、です」

和泉亜子と佐倉愛衣の拘束が解かれ、
亜子は、マミに横目で見られながら、
マスケット銃の銃口を向けられてその場に座り込んだ愛衣を
バスタオルで包み込む。

ーーーーーーーー

佐倉愛衣の着替えが終わり、
亜子とマミが飲み物を用意してから全員の拘束が解除された。

「乱暴の上に恥ずかしい思いまでさせて、本当にごめんなさい」
「慣れてますからモトイ
全部は肯定出来ませんが、
明石さんの言う通り状況から言ってお気持ちは分かります」

マミが頭を下げ、テーブルの前に座る愛衣が、
亜子から渡されたドクダミ茶のカップを
両手持ちにして啜りながら答える。

「それはごめん、本当に」
「申し訳ないと思ってる」

さやかとほむらが頭を下げ、明石裕奈が頷いた。
その背景では「悪かった」と言っている佐倉杏子に
大河内アキラが小さく頷いている。


「佐々木まき絵さん?
昼間にも会ったわね。巴マミです」

マミがまき絵に声をかけ、
マミに目で促されて他の面々も名乗りを行うが、
まき絵はじっと伺うだけだった。

「この人達は魔法少女、マギカ、って言って、
私達とはちょっと違う魔法を使う人達なんだ。
ちょっと色々あって正直トラブルになってるんだけど、
本当なら私達の敵じゃない。このかちゃんや刹那さんの友達でもあるから」

「そうなん?」

明石裕奈が説明を行い、亜子の言葉にマミが頷く。

「こちらに、魔法使いに何か非があったと言うのか?」

「それに就いては、特にあなた達を巻き込んだ事は本意じゃなくて
重ねて申し訳ない事をしたと思ってる。
だけど、私達の仲間、友達が、魔法に関わって姿を消してる。
だから、こんな形で魔法協会に関わる人達を秘かに引っ張り出して
どうしても事情を聴きたかった」

アキラの言葉にマミが答えて何度でも頭を下げる。

「この子達も、半分行き掛りだけど魔法は使える、
こっち側に関わってて守るべき秘密は守るから」
「それが本当ならきちんと事情を話して欲しい」

裕奈に続き、アキラが言う。

「まどかが、鹿目まどかと言う、
私達と一緒にここに来た同級生がいなくなったのよ。
あの世界樹とか言う大きな木が光って、
そこにいた筈のまどかが姿を消した。
言っておくけど、まどかは私達と行動を共にしていても魔法少女じゃない、
能力的には只の一般人だった」

「それ見た」

ほむらの言葉にまき絵が続き、亜子が頷いた。


「世界樹が光ってるから又、なんかあったのかって」
「又、って何っ!?」
「落ち着いて暁美さんっ」

勢い込んでまき絵を引かせるほむらをマミが嗜める。

「ええ、そうね。
ここからは穏やかに教えていただけるかしら?」
「ええと、鹿目まどかさん? あなた達の仲間の。
彼女は多分魔法世界にいる」

ほむらの言葉に、裕奈が説明を始めた。

「それはさっき聞いた、魔法世界と言うのは何処にあるの?」

「火星」

「オーケー美樹さやか、適当に腕と脚を十本ばかし斬り落として。
あなたなら後で繋げられるでしょう」

「魔法使いと言うのは、宇宙人か何かなのかしら?」
「それに近いのもいる、だから少しだけ真面目に聞いてくれるかな?」

ほむらとマミの反応に、裕奈が応じた。

「位相って言うんだけど、異次元空間って言えば分かるかな?
火星にある異次元空間、別の世界別の次元。
そこが魔法の世界。
その魔法の世界と繋がるゲートがこの麻帆良学園にあって、
ゲートが作動したら地球のこっちの世界から
火星にあるあっちの世界に一瞬で移動出来るんだ」

「じゃあ、まどかはその、火星にある異次元空間にいる、
そう言いたい訳?」

今度は自主的に腕の一本も居合抜きしそうなさやかに、
裕奈は小さく頷いた。


「火星とか異次元とか魔法の国とか言っても、
こちらの世界同様に普通の人間の秩序はあります。
現在は治安やインフラも安定していて、
こちらの世界との通信や交通も整備されています。
一緒に転移したのがあの二人ですから、
あの二人は実力もあってあちらの世界にも明るいですから
滅多な事にはならない筈です」

「それを信じろと?」
「お願いします」

ほむらの言葉に愛衣が頭を下げ、さやかも浮かした腰を下ろす。

「丸で神隠しね」

マミが嘆息して言った。

「鹿目さん達が魔法の世界に、って、
どうしてこんな事になったのかしら?」
「答えなさい」

マミが問い、沈黙する愛衣にほむらが言葉を重ねる。

「分かり、ません」
「分かる事を話して」

苦し気に言う愛衣にほむらが迫る。

「元々、ゲート自体はこの学園の図書館島地下にあるものですが、
今年の夏休みまでは休止、閉鎖状態でした」
「図書館、島?」
「図書館の島」

さやかの言葉に裕奈が応じる。


「湖の中の島が丸ごと図書館になってるんだ、
あれは一種の古代遺跡だね。
実際の所は大昔の魔法使いが作った重要ポイントとかでさ」

「そこにその、ゲートがあると言うのね?
休止中だった、と言ってたけど、今は違うの?」
「半分は」

マミの問いに、愛衣が答える。

「夏休み中の情勢の変化でゲートの再稼働実験はスタートしていました。
その実験中の事故による稼働、それが関東魔法協会の暫定的な見解です」
「物凄く歯切れが悪いわね」

ほむらの言葉の愛衣は頷く。

「あり得ないんです」
「あり得ない?」
「はい、麻帆良、関東魔法協会の魔法は、
科学技術と高度に融合しながら開発が進められています」
「ふーん、科学と魔術とか絶対に交差させちゃいけない
みたいなイメージもあるけど、違うんだ」
「はい」

さやかの言葉に愛衣が答える。

「ですから、備蓄していた魔力エネルギーの流通制御の一部に
コンピューターを取り入れる。
そこで何等かの誤作動が生じて暴発する程の魔力エネルギーが流出する。
その可能性はなんとか理解できます」

「うん」
「只、それでゲートを作動させるとなると、話は別です。
これは、「魔法」なんです」
「魔法?」

愛衣のどこか抽象的、概念的な話にマミが聞き返した。


「術式を組み魔法を発動させる事は、
ゴーストの無い機械には出来ません。
今回の出来事はどう見ても只の魔力漏れじゃない。
そのタイプの暴発であれば
もっと無秩序に物理的な損害、よしんばゲート現象に限定しても
人間三人の消失程度では済まない筈ですから」

「仕掛けた人間がいる、と言う事ね。
その心当たりは?」

ほむらの言葉に愛衣が首を横に振り、
ほむらが米軍M9拳銃を向けても愛衣はその銃口を見据える。

「分かってた事だろ」

リビングの床で体勢を崩していた佐倉杏子が口を挟んだ。

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今回はここまでです>>339-1000
続きは折を見て。

それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>345

「あたし等を襲撃した魔法使いがいるんだ、
そいつらじゃねーの?」
「その正体が分からないんです」

杏子の言葉に愛衣が応じた。

「私達は魔法生徒であり学園の魔法秩序を司る学園警備です。
だからお姉様………
私の先輩の高音先輩は、あの後あなた達を追って事情聴取を、
と言う意見でしたが上から止められました。
魔法世界に関わる事である以上、
これ以上外部の、それも魔法使いでも容易に対処出来ない
あなた達マギカが関わる事は物理的にも情報的にも避けたい、
それが学園の魔法先生魔法教師の方針であると」

「隠蔽かよ」
「もちろん、事件の調査は行いしかるべき対応はする筈でした」

吐き捨てるさやかに愛衣が言った。

「只、あの場では機密保持が優先されて
襲撃事件に関する初動の対応が手薄になった。それも事実です。
だから改めて伺います。
あなた達は一体どういう行動をしていたんですか?
そもそもどういう理由で麻帆良にいたのか?
明石さんからある程度の事を聞いてはいますが」

「私達は近衛木乃香さんのお招きでこちらにお茶会に来た、
それだけの事よ。
桜咲さんとの関係はそちらの明石さんにも説明したからいいかしら?」

愛衣の問いに、まずはマミが説明した。


「はい、およその事は伺っています。
付け加えますと、今回の事件後、
学園長から学園警備に情報提供がありましたから」

「学園長、って言うと」
「近衛木乃香さんの祖父に当たります」

さやかの言葉に愛衣が応じる。

「桜咲刹那さんによる見滝原での調査に就いては、
学園長マターの予備調査と言う事で、
あなた達の事も含めて学園長に情報が上がっていました。
加えて、今日のお茶会に就いても、
近衛木乃香さん、桜咲刹那さんから学園長に上がっていた情報が、
今回の事件の発生を受けて学園長からこちらに降りてきました。
元々は他意の無い私的な会合、友人関係と言う位置づけでしたから」

「あなた達が把握していた訳ではないと?」

「私達は独自に桜咲さんが見滝原でマギカに関わっていた事を把握しました。
しかし、それはほとんど偶然みたいなもので、
その事に就いて公式な事前連絡はありませんでした」

マミの問いに愛衣が答える。

「それで、野点の後であなた達は巴さんと別れたんですよね?」
「うん」

愛衣の問いにさやかが答えた。

「私は、そちらの明石裕奈さんが私達の事を付け回していたのに気が付いて、
状況を把握するために一度離脱して、後はご存知の通りよ」
「あたし達は野点の後で寮のこのかさんの部屋にいたんだけど、
途中で離れたマミさんからの連絡もないしカフェで待とうって事になって。
それで、表に出て歩いてたらいつの間にか人通りがなくなって」

「………人払い?」

さやかの言葉に、愛衣がぽつりと言う。


「私達は佐倉杏子にしんがりを任せて、
桜咲刹那の先導で路地裏に逃げ込んだんだけど、
そこでも魔法使いに襲撃されたわ」
「ああ、任されたはいいけど、
そこで襲撃受けて不覚を取って気が付いたら眠り込んでたって事」

ほむらと杏子が状況を説明する。

「その辺だね、連絡入ったの」
「連絡? 誰から?」

裕奈の言葉に、ほむらが質問した。

「刹那さん。元々同じクラスでもそんなに仲いいとかじゃなかったんだけど、
私が学園警備のエージェント始めたから、
その時に仕事用のアドレスとか交換した方がいいって言われてね」

ーーーー(回想)ーーーー

「あなたが動いていたのは分かっています。巴マミさんはそちらですか?」

「今、魔法使いからの襲撃を受けています。
ちびせつなを待機させますから、××丁目の屋上に学園警備を寄越して下さい。
私は保護対象者を連れて世界樹前広場に向かいます」

ーーーー(回想終わり)ーーーー

「それで、明石さんからの要請で
私達が暁美さん、美樹さんを発見したと言う事ですね」

愛衣の言葉に裕奈が頷いた。

「それで、魔法使いからの襲撃を受けたんですね?」
「ああ、魔法少女じゃなけりゃ魔法使いだろうけど、
多分魔法使いだな」
「そうね、なんとなく私達とは違うと思う」

杏子とほむらが愛衣に答える。


「どんな相手でしたか?」
「黒いローブにフードで顔はよく見えなかったな。
なん、って言うか薄気味悪い」

「薄気味悪い?」

「ああ、スピードはあたしらから見たらそこそこ、
幻術とかテレポートとかそんな感じでもないのに、
なんか上手く攻撃が当たらない。
その内に不覚を取って眠らされたって感じでさ」

「こちらのは単純な強さが尋常じゃなかったわ」

杏子に続き、ほむらが言った。

「テレポートらしき技術を使うけど、
何より単純な実力がかなり強い筈よ」
「あたしもそう思う」

ほむらに続いてさやかが言う。

「刹那さんとかマミさんとか杏子とか見て来たけど、
匹敵するかそれ以上の使い手だと思う。
あたしは全然叶わなかった」
「どんな攻撃を?」
「光だな、曲がって飛ぶ光、殴られるぐらい痛い光か」
「サギタ・マギカ」

杏子の言葉に、愛衣が呟いた。

「それから、理科に使う試験管、
そいつを割ったら睡眠ガスが出たって感じで」
「こっちは体術ね」

杏子に続いてほむらが言う。

「とにかく目にも止まらぬ速さで殴られるわ交わされるわ、
他に言い様がないわ」

ほむらの言葉にさやかも頷いた。


「もしかして、魔法使いって基本そんなに強いとか?」
「それは無い」

さやかの言葉に裕奈が言った。

「巴さんの強さは私も身を持って味わったけど、
私はとにかく龍宮さんとガチバトルする巴さんレベルが普通とか
それは流石にないわ」

「そう思います。
マギカの強さに関してはさっきのとは別に私も少々体験しました。
むしろマギカの側が反則的に強い部分があるぐらいです。
基本的な考えとして、マギカを簡単に圧倒する魔法使いがいるなら
それは相当強い部類に入る筈です」

裕奈の答えに愛衣も続いた。

「あの、私が縛られた捕縛結界、あれも魔法よね?」

「ええ、あれは風の捕縛結界ですね。
魔法陣を踏んだら発動するタイプの。
基本を踏まえた上で嫌な仕掛けが幾つもしてあって、
解除するのに骨が折れました」

愛衣の言葉に、ほむらが顎を指で撫でて黙考する。

「後、世界樹広場にもなんかいたけど、
あっちこそマギカっぽくなかった?」
「そうね、どちらかと言うと私達に近いものに感じた」
「一応報告は聞いていますが、詳しくお願いします」

裕奈とマミの言葉に、愛衣が要請する。

「白バケツ」

裕奈の言葉に、ほむらが目を見開く。


「白いふわふわの衣装を着た女、多分あれがメインだね。
白くてふわふわでバケツみたいにでっかい帽子被って。
前衛で黒っぽい、腕に直接刃物を装着したみたいな
やったら速い切り裂き魔がセットで。
多分あれ、白いのが後詰の指揮で黒いのが前衛、
私達魔法使いにとっては典型的なコンビネーションだから」

「暁美さん?」

裕奈の説明の後、マミがほむらに声をかけた。

「魔法少女、間違いないわ」
「知り合いなの?」

ほむらの言葉にマミが尋ねた。

「直接の知り合いではない。
見た事がある、と言う程度かしら。
その、白黒コンビの事で何か分かった事は?」
「それなんですが、少しおかしいんです」

ほむらの言葉に、愛衣が言う。

「ナツメグさん………こちらの仲間が
街の防犯ツールから追跡したんですけど、結論を言えば逃げられました。
世界樹のフラッシュが最も強くなった隙に監視の目を免れて逃走し、
世界樹前広場から逃走するあの二人の姿を
後から街頭の防犯カメラ等から把握しようとしたんですけど、
どういう訳かぷっつりと消えているんです」

「消えた?」

聞き返したマミに愛衣が頷く。

「はい、念のため機材やデータの確認も行われましたが
異常はありませんでした。
ですから、考えられるのはカメラの無い裏道中心のルートを
完全に選択して逃走した、それが偶然なのか必然なのか」

ほむらは、あり得る、と言う言葉を心の中に留める。


「その、図書館島地下のゲートはどうなってるの?
誰かが魔法を使って動かした、って話だったわよね?」
「理論的にはそういう事になる筈です」

マミの言葉に愛衣が応じる。

「只、あそこは危険過ぎて
その辺の魔法使いでも近づく事すら容易ではありません」
「図書館が危険、って」

言いかけたさやかが、真面目な表情の愛衣を前に言葉を飲み込む。

「先程明石さんも言いましたが、
図書館島は古の魔法使いが作った重要ポイントです」
「それって、呪いの本とかどっかの官能小説家が聞いた天使のお言葉とか
文字が目に入っただけで全身から血が噴き出して死ぬ本とかがあるとか?」

「そう思っていただいて構いません」

さやかの問いに、愛衣が真面目に応じる。

「幸いにしてそんなものに直接触れた事はありませんが、
あっても不思議ではありません。
地上部分を中心に、大半は普通の図書館です。
図書委員とは別に、
図書館探検部と言う大学を本部とする部活動があるぐらいです」

「図書館、探検部?」

マミの問いに愛衣が頷く。


「図書館を中心とした図書館島自体が一種のラビリンス、迷宮ですから、
その解明を行い図書館島内の探検、研究を行うための部活動です。
それでも、一般生徒が立ち入る事が出来るエリアは
魔法使いによって確実に限定されています。
図書館島で本当の立ち入り制限エリアに無闇に立ち入ったりしたら、
魔法使いでも命はありません」

「どういう図書館なのよ………」

愛衣の説明にほむらが呆れる。

「報告によると、今回の事件に際して、
地上にいた宮崎のどかさんが、
綾瀬夕映さんに世界樹が異常発光していると携帯で連絡して、
図書館島地下で調べ物をしていた綾瀬さんが
直ちにゲート近辺の調査を行っています。
この宮崎さん、綾瀬さんは共に図書館探検部の部員であり、
同時に、3年A組の生徒、魔法使いでもあります」

「ネギ・パーティーの中でも古参だね」

愛衣の言葉に裕奈が付け加え、スマホを操作する。

「かなり早い段階、少なくとも私よりも前から
ネギ君の近くで魔法に関わって、色々修羅場も潜ったって聞いてるよ。
特に本屋ちゃん、この前髪ちゃんね。
この娘が宮崎のどかなんだけど、
前はあんな大人しかったのに愛の力だねー」

あははっと笑う裕奈の側で、魔法少女達は首を傾げていた。


「で、このでこっぱちが綾瀬夕映。
見た目ちっちゃいけど実際小回りが利いて、
魔法関係でもかなり研究してるって切れ者だよ」

「只、綾瀬さんとしても、ゲート周辺は危険過ぎて
その時も直接は接近出来なかった。
確かに図書館島地下まで伸びる世界樹の根に
魔力の異常流入の形跡を見たが、それ以上の事は把握出来なかった。
そう証言していたと学園警備には報告が上がっています。
実際、学園警備としても迂闊に近づけないので
ゲートの直接調査は後回しになっています」

「そんなに、ヤバイの?」
「そういう事になります」

さやかの問いに愛衣が答える。
その時、一同はノックの音を聞いた。

「明石、こっちにいるか?」

==============================

今回はここまでです>>347-1000
続きは折を見て。


「………無理ね」

マミが言った。

「とてもじゃないけど、今から行ける時間じゃない」

「仮に物理的に可能だったとしても、手続きが間に合いません。
魔法協会内の手続きで許可が出ない限り、
魔法的なセキュリティーに阻まれてゲートには接近できません」

マミに続いて、愛衣が言う。

「無理を、通すか」

千雨か、ぽつりと言ってスマホを取り出した。

「私だ、ああ、こんな時間に悪いな………」

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今回はここまでです>>366-1000
続きは折を見て。

Happy Merry Xmas!

それでは今回の投下、入ります。

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>>371

ーーーーーーーー

「わあ」

美樹さやかが思わず感嘆の声を漏らした。
さやか達のいる部屋に現れたのは、
同年代の同性が一目でそう感嘆するぐらい、
金髪白人の血縁がありそうなスタイル抜群美少女、
と言う表現がぴたりと当てはまる雪広あやかだった。

「何か、容易ならざる事態が出来したと伺いましたが?」

雪広あやかはきりっとした態勢で長谷川千雨に質問する。
身なりも姿勢も、上品でいて力強い、そういう印象だった。

「ああ、こいつは雪広あやか、3年A組のクラス委員長で、
魔法の関係にもある程度通じてる。
魔法少女、マギカ、って知ってるか?」
「多少の事は。それに、世界樹が光った事も関係が?」
「大ありだ、かいつまんで説明する」

正規に関東魔法協会所属の任務に当たっている佐倉愛衣としては、
本来秘匿事項となっている今回の事件の関係者を勝手に増やされて
正直頭を抱えたい所だった。

しかし、雪広あやかは魔法協会、どちらかと言うと
「英雄」ネギ・スプリングフィールドが進める
巨大プロジェクトに大きく関わるVIP的外部協力者。
本来3Aでもストッパー役の千雨が
予想外のスピードで歩を進める事に飲まれているのも実際だった。


「その様な事が………」

千雨にマミが加わって、魔法少女の事から今回の事件の経緯まで、
あやかにおよそのあらましを説明した。
その時、電子精霊が千雨に接近し何やら耳打ちする。

「………ヤバイかもな」

改めてノーパソを操作した千雨がぽつりと漏らす。

「これ以上、何が?」
「あすなろ市の件だ」

マミの問いに千雨が言う。

「今まで聞いた話をコアにして、
あすなろ市中心に関連情報をクロスチェック再演算した。
防犯カメラ、学校、携帯電話、
インターネット接続等等の情報をかき集めてな。
佐倉杏子さん?」

「ああ」
「これは、あんたの知り合いか?」
「ああ」

千雨が表示したのは、和紗ミチルのデータだった。

「彼女の特異点は二つ。
まず、御崎海香邸に出入りしている
魔法少女のグループと見てまず間違いないが、
同じ条件のグループの中で彼女だけ麻帆良に入ったデータが無い」

「魔法少女じゃ、ない?」
「あり得るかも」

マミの言葉にさやかが続く。


「まどかみたいに
魔法少女以外で魔法少女に同行してるケースもあるから」
「そうじゃなくても事情があって今回はパスした?」

さやかの言葉に思案顔のマミが続く。

「そしてもう一つ、和紗ミチルはここ最近学校を欠席し続けてる」
「あたしがあいつに会ったすぐ後からだ」

千雨が表示したデータを見て杏子が言った。

「もう一つ、本格的にヤバイ話がある」
「勿体ぶらないで」

ほむらの鋭い言葉に、千雨が頷いた。

「時期だけで言えば、
この和紗ミチルの不登校の直後から、あすなろ市を中心に、
私らと同年代の少女の失踪事件が続出してるって事さ」
「なん、ですって?」

マミの言葉を聞きながら、千雨がノーパソを操作する。

「まず、さっきの魔法少女の説明にも出て来たが、
正体不明の少女の失踪は、魔女に食われた魔法少女である可能性がある。
そういう話だったな?」
「ええ」

千雨の問いにマミが答える。


「だとしても、統計的におかしい。
警察が事件性を認知しているケースすら目立ってるから
そこから本格的に警察その他の情報にアクセスして
統計の再演算を実行した訳だけど、
今に至る迄この期間のあすなろ及びその周辺の
同年代の少女の家出、失踪、それも事件性を疑われるレベルのもの、
その発生率が明らかに跳ね上がってる。
そして、やっぱりその事を疑ってる刑事がいた」

「特○係の登場って奴?」
「警察全体の取り組みから見て、そんな所みたいだな」

字面だけは軽口めいたさやかの言葉に千雨が言う。

「関連情報にやたらアクセスしてる刑事のPCをこっちで逆に把握した。
彼女は、この流れを一連の失踪事件と見てリストアップしてる。
もっとも、その刑事は和紗ミチルの不登校の前から追跡していたらしいが、
やはりここ最近で跳ね上がってるらしい」

「………その、失踪者のリストとかって?」
「ああ、今んトコ警察では一連の事件と言う見方をとっていない。
だが、その刑事が独自にリストアップしてたのがこれだ」
「………いた………」

マウスを操作していた杏子が呟いた。

「飛鳥ユウリ、あすなろの魔法少女だ」
「失踪したのは、和紗ミチルさんの不登校の少し前ね」

杏子の答えに、マミが続ける。


「いいんちょ」

そして、千雨は改めてあやかに向き直る。

「はっきり言って、状況はかなりまずいぞ。
魔法使いに魔法少女、得体の知れない事件が絡んで底が見えない。
今回のテロリストの正体は分からないが、
形の上では魔法使いが魔法少女に宣戦布告した形になっちまった」

「長谷川さんっ!」

千雨の尋常ならざる表現に、愛衣が悲鳴を上げた。

「そうね」

それに続いたのは厳しい口調の巴マミだった。

「この事に就いて納得できない状況が続くなら、
魔法使いから魔法少女に対する敵対の意思ありとして、
この事を私の知る限りの魔法少女に通達する事も考えてる」
「待って下さいっ!」

マミの通告に、愛衣の声が縋り付いた。

「確かに不穏な事は否めませんが、
鹿目まどかさんの事は桜咲さん達に任せて下さい。
あの二人が一緒なら、
一般人である鹿目まどかさんの安全を第一に行動する筈です。
あの人達がガードしている一般人をどうこうするなんて、
魔法使いだろうが魔法少女だろうがまず無理です。
遅くともお二人がガードしている間に
協会で保護して無事送り届けると約束しますから」

戦闘モードに近い眼差しの巴マミに、愛衣は懸命に頭を下げる。

「個人的にはあなた達を信じたいと思ってる」

それが、マミの返答だった。


「だけど、魔法少女同士ですら常に平和とは言えないのが現実なの。
まして、実際に事が起きてる時に、
あなた達を信じて任せろ、と言われるだけでは
時間も短過ぎて知らない事が多すぎる。
そんな状況で私達のお友達、
それも一般人をそのままにしてはおけない」

「それで、あなた達が魔法世界に行くの?」

そこで、宮崎のどかが口を挟む。

「行くよ、行き方さえ分かれば」

答えたのは美樹さやかだった。

「それに、意味があるとは思えない」
「は?」

さやかが聞き返そうとするが、
むしろ穏やかにさやかを見ているのどかの綺麗な瞳が
さやかの言葉を封じる。

「鹿目まどかさんには、このかと桜咲さんがついてる。
二人はあの世界にも通じてるし実力もトップクラス。
あなた達は、実力があるとは言え魔法の事情をほとんど知らない。
あちらの世界は市街地は整備されてるけど、
迂闊にそこから出たらモンスターの森や砂漠が普通にある、
そこにはあんなドラゴンもいるし現地の人達の習慣もある。
私はそこでトレジャーハンターもしてたけど、
何も知らないあなた達が勝手に人を探しに行って、
それに意味があるとは思えない」

この年頃は小さな年の差が敏感に分かる。
一見大人しそうに見えるのどかだが、実年齢はさやかの一つ上。
今本人も言っている経験のためか、
やんちゃ者のさやかをちょっと圧するぐらいには腹が座っているらしい。



「それでも行くさ。こんな言葉もあるからね。
やらなくて後悔するよりも、やって後悔したほうがいい」

「一時代を築いたライトノベルに出て来る台詞ですね。
もっとも、それは負けフラグの様ですが」

「さやかちゃんはしぶといからね。
それなら映画だろうがスピンオフだろうが
何度でも復活してやり遂げるよ最後まで」

そっと口を挟んだ綾瀬夕映にさやかが言い返す。

「あたしは、ずっとあがいて、後悔しそうになって、
それでも選んで、あたしの事を待っててくれて………
まどかがいなくなって、後悔なんてしたくない」

「そちらさんは?」
「決まってるわ」

千雨に促され、暁美ほむらが答えた。

「私は、私の手でまどかを守る。
私のすべき事はそれだけよ。
魔法使いやドラゴンが跋扈している異常な状況で、
意味も分からず放り出されたまどかを
得体の知れない他人に任せ切りになんかしない」

長谷川千雨は、一つ年下の少女、
暁美ほむらの殺意の籠った眼差しを頷いて見返した。

「明石、佐倉」

そして、千雨はその二人を見た。

「腹、くくるしかないみたいだな」
「長谷川さん?」

千雨の言葉に愛衣が聞き返す。


「私らだって、行き掛り上協会と衝突した事もある。
他人に実害が出てる時に、
そうそうこっちの都合よくばかりは行かないさ」

「それは、あなた達はネギ先生達と一緒で………」

「外部の、それも簡単にはねじ伏せられない魔法少女って
敵に回したらもっと厄介だと思わないか?」
「ええ、事に及んでは只でやられるつもりは毛頭ないし、
鹿目さんの事で納得出来なければ退くつもりもない」

千雨の言葉に、マミが真面目に続いた。

「まあな」

続いたのは佐倉杏子だった。

「こっちが魔法少女って知った上で招待されて、
それで、魔法使いと魔法少女に襲撃されてこの様、ってなると、
ちょっとそれ面倒くさいで済ませるには限度があるじゃん」

「それは、無益な争いです。
私達は鹿目まどかさんに危害を加えるつもりなんて毛頭ありません。
危険を避けるなら、こちらを信じて救助を待って下さい」

それでも、愛衣は精一杯声を押し殺して告げた。

「いいんちょ」
「はい」

千雨の呼びかけに、あやかは真面目な顔で応じる。

「ちょっと、試しに考えてみてくれないか」


ーーーーーーーー

ノーパソに向かっていた長谷川千雨は、
短い打鍵と共にふうっと息を吐いた。

「じゃあ、お二人さんはこの手筈で。
ギリギリの所だけど、ゼロじゃない」

千雨の言葉に、ほむらとさやかが頷く。

「あすなろ市の魔法少女グループは残りの二人で当たるのか?」
「そうね」
「ま、そういう事になるな」

千雨の問いに、マミと杏子が返答した。

「図書館島関係の事、頼めるか?」
「分かった」
「了解です」
「って事だ」

のどかと夕映の返答を受け、千雨が向き直る。

「明石、佐倉、学園警備は一旦引いてくれ。
こっからは3Aと魔法少女で進める」
「はいそうですか、と言う事になると思っているんですか?」
「時間が無いんだ」

怒りを秘めた声で聞き返す愛衣に、千雨が押し被せる様に言った。


「元々、不干渉の関係だった魔法使いと魔法少女が両方絡んだ事件、
ってだけでも対処は難しいんだろ。
魔法少女は魔法少女で勝手にやる気だし、
魔法使いには魔法使いの秩序があるんだろ」

「ええ、ですから………」

「魔法少女は、身内が消えてまともに説明も出来ない事態に本気でキレてる。
これでこっちが邪魔に見える動きをしてみろ、最悪殺し合いだ。
ネギ先生以下の四人組が留守で、
上の方に直に話を通せるパイプが無い。
あんた達だけが灯篭の斧で中途半端に協力するってのはリスクが高過ぎる。
それなら、今ここでの事は見なかった事にした方がお互い話が早い。佐倉」

前を見続ける愛衣に向かい、千雨はほんの僅か前に動いた。

「戦争の引き金を引く心算か?」

明石裕奈から見て、普段は礼儀正しく、
年相応に可愛らしい年齢後輩キャリア先輩な佐倉愛衣は、
魔法使い、魔法協会でのキャリアでは裕奈の先輩。
実際は同年代でも指折りの俊才である努力家らしく、
根っこの所は強い芯と負けん気を持っている。

それが、千雨から、自分達が関わっている事件の事で、
確かに理屈は通っているが一蹴に近い形での撤退を求められて、
一瞬それでも食い下がろうと言う表情を見せてから、
歯噛みが聞こえそうな動きで斜め下を向いていた。

そんな愛衣と、
クラスメイトでもある千雨の顔を見比べた明石裕奈は、
訝し気にちょっと首を傾げていた。

「明石、どうだ?」
「仕事に関してはメイちゃんの方が先輩だから、
私は指示で動くだけ」

千雨の問いに、裕奈はふっとごまかしの笑みを交えて答えた。


「勝手に、して下さい。
私達は何も知らなかった、それでいいんですね?」
「恩に着る」
「感謝するわ」

愛衣の言葉に千雨とマミが言い、
裕奈の眉は益々訝しく動いていた。

裕奈が見習いでも魔法協会に属して改めて分かった事として、
今の3年A組、その中のネギ・パーティーはかなり独特な存在だった。

元々千雨は愛衣の一つ年上であり、何より、あの夏休みの実績がある。
裕奈は千雨を裏番長、と呼んだが、
裕奈が後で聞いた所では、夏休み以前の学園祭からも
今や「英雄」であるネギの側でコアな活躍をしていた。

そして、それが出来るぐらいに頭も回る。
そんな千雨に理屈と現実的なパワーバランスで圧倒されて、
愛衣は自分の正規の持ち場で黙らされる。

今は「こちら側」でもある裕奈としては、
色々な意味での自分の中途半端がもどかしくなる。

「明石裕奈」

その呼びかけに、裕奈は思考を止めた。

「一つ、確かめたい事がある」

それを言ったのは、暁美ほむらだった。

「何?」

「今、まどかの側で彼女を守る桜咲刹那、
クラスメイトでもあるあなたから見て、
一体どういう人物なのかしら?」

ほむらの問いに、裕奈は指先で顎を押し上げながら少しだけ考える。

「誠実な人」

それが、裕奈の答えだった。


「うん、クラスメイトで、
魔法協会の関係で関わる事もあるけど、誠実な人だね。
誠実で寡黙なサムライ」
「見たままね」

マミがくすっと笑い、裕奈がニカッと笑みを返した。

「でも、中身は結構普通な女の子の所もあってさ、
それが又かわいーんだ」
「分かる」

ふふっと笑って言ったのは、美樹さやかだった。

「でも、凄く真面目だから、
このかの事だって、今見たら心の底から大好きなのに、
このかに悲しい顔させても昔は距離をおいた護衛に徹してた。
本当は自分が一番友達でいたいのに、
守るためにそうするべきならそうし続けてた。そういう娘だよ。
色々厳しいけどそれも優しいからで、凄くいい娘だから」

裕奈の真面目な言葉に、さやかは真面目な顔で下を向いた。

「今はこのかともアスナとも、ネギ君ともすっごくいい関係で、
誰よりも強いサムライしながらすっごく可愛い女の子になってる。
それでも、何より守るべきものは絶対、命懸けで守り抜く。
だからさ」

そう言って、裕奈は自分を見据えるほむらをしっかと見返す。

「だから、鹿目まどかちゃん、
あんた達の大切な友達の事も、刹那さんなら必ず、
それこそ命を懸けてでも守り抜く筈だよ。
まー、今の魔法世界に、
あの二人を本気にさせる程の脅威があるとも思えないけどね」

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今回はここまでです>>372-1000
続きは折を見て。

すいません
>>374差し替えます。

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「まどかみたいに
魔法少女以外で魔法少女に同行してるケースもあるから」

「いや、だからミチルは間違いなく魔法少女だって。
あたしはいっぺん会ってるんだから」

「だったら、事情があって今回はパスした?」

杏子の言葉に、思案顔のマミが続ける。

「そしてもう一つ、和紗ミチルはここ最近学校を欠席し続けてる」
「あたしがあいつに会ったすぐ後からだ」

千雨が表示したデータを見て杏子が言った。

「もう一つ、本格的にヤバイ話がある」
「勿体ぶらないで」

ほむらの鋭い言葉に、千雨が頷いた。

「時期だけで言えば、
この和紗ミチルの不登校の直後から、あすなろ市を中心に、
私らと同年代の少女の失踪事件が続出してるって事さ」
「なん、ですって?」

マミの言葉を聞きながら、千雨がノーパソを操作する。

「まず、さっきの魔法少女の説明にも出て来たが、
正体不明の少女の失踪は、魔女に食われた魔法少女である可能性がある。
そういう話だったな?」
「ええ」

千雨の問いにマミが答える。

==============================

差し替えは以上です。
続きは折を見て。


「あんたは箒で追跡して、あたし達には屋敷を見張る様に指示を出した。
それから、ここを待ち合わせ場所に指定して来た。
あたしらから連絡内容を隠すために時間稼ぎをしたって事か」

「申し訳ありません」

愛衣が、ぱたんと体を折って頭を下げた。

「これだけは、確証無しに口に出せる事じゃないんです」
「かずみさんの事?」

マミの問いに対して、
愛衣の反応は沈黙は肯定と受け取るに十分なものだった。

「明石さん、確認します」
「うん」
「牧カオルは、かずみさんの事を友達だと言った、そうですね」
「うん」
「その言葉に嘘は無かったですか?」
「なかった、私はそう思う」

愛衣を真っ直ぐ見て返答する裕奈に、
愛衣は小さく頷いて、斜め下を見た。

==============================

今回はここまでです>>464-1000
続きは折を見て。

それでは今回の投下、入ります。

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>>471

ーーーーーーーー

「もしもし?」

あすなろ市内の漫画喫茶多目的ルームで、
そろそろ次の事を考えようかと言う矢先に明石裕奈がスマホを取った。

「明石か?」
「うん」

相手は、長谷川千雨だった。

「今、何処にいる?」
「ああ、………って漫画喫茶の個室」
「そこ動くな、大丈夫だと思うけど防戦の準備だけしとけ」
「マジ?」
「ああ、流石にそこでドンパチはないと思うがな。
少しだけ待ってくれ」
「分かった」

裕奈が電話を切り、口調が変わった裕奈を同じ部屋にいた
佐倉愛衣、巴マミ、佐倉杏子も見ていた。

「千雨ちゃん、なんか、近くに敵がいるみたいだね」

へらっとした口調で言うが、伝わるものは伝わった。

「どうするんですか?」

「仮にプレイアデスだとすると、
ここでおっ始めるって事は無いんじゃないの?
次の連絡あるまでここで警戒しつつ待機、って事でいい?」

愛衣の問いに裕奈が答え、一同が頷いた。


ーーーーーーーー

「もしもし」

千雨からの次の連絡を、裕奈他の一同はスマホのスピーカーで聞いていた。

「もしもし、千雨ちゃん? みんな聞いてるけどいい?」

「上等だ。佐倉のがどうも嫌な予感がし過ぎる言い方だったからな。
念のためこっちで色々確認して見た。
結論を言う、そこ、御崎海香のグループに張られてるぞ」

「プレイアデス聖団に?」
「プレイアデス?」
「御崎海香達の魔法少女のグループの事です」

裕奈の言葉を愛衣が補足した。

「携帯電話会社と防犯ビデオのデータで把握した。
現在進行形でそっちの店を包囲してる」
「相手も魔法少女、今までのパターンから言っても
街中戦う事はないと思うけど」
「ああ」

マミの言葉に千雨も同意する。

「だがな、そのプレイアデスのメンバーの神那ニコってのが
ちょっと厄介な代物を使ってる」
「厄介?」
「お前ら四人の魔力の波長をスマホに記録させて探査してやがる」
「魔力の波長、スマホに、って、本当ですか?」

愛衣が食い気味に尋ねた。

「ああ、想像以上のハイテク魔法軍団だ、
放っておいたら地の果て迄でも追いかけて来るぞ」
「面倒だな」

千雨の答えに、杏子も苦り切った。

「私に考えがある」


ーーーーーーーー

「動きは?」
「ノン」

ドーナツショップのテーブル席で、
浅海サキはスマホ越しに神那ニコの返事を聞く。

「いいか、動きがあったらすぐに報せろよ」
「よござんす」

サキは、ふうっと息を吐いて通話を終えた。

「サキ………」
「押さえるぞ」

同席した若葉みらいに、サキが言う。

「多少危ない事をしても、あの魔法使いの身柄を全力で抑える。
言っておくが殺しちゃ駄目だ。
ネカフェって事を考えても、あの箒女の口は絶対に割らせるんだ。
後の三人も………絶対に、足止めする。
対策出来ないなら、絶対にこのあすなろ市から出さない」

「分かってるよ、サキ」

「………」

みらいとサキのやり取りを見ていた宇佐木里美が、
自分のスマホを見た。

「動き出したみたい」

里美が、何処ぞのビルの屋上から
ニコが送って来た通話アプリの言葉を示す。


ーーーーーーーー

御崎海香と牧カオルが、裕奈達から少し遅れて漫画喫茶の個室を出て
裕奈達とは一見逆方向に歩行する。

「駅方向」
「人通りの多い所を通ってこの街を脱出するつもり?」

それぞれスマホを見ながらカオルの言葉に海香が続き、迂回路へと急ぐ。

ーーーーーーーー

「………丁目方面」
「よし」

スマホの地図を見ながら進む里美に、同行するサキが呟く。

「この先のオフィス街だ」

サキが言った。目標の地点はこの時間は閑散とする、
何度か魔女狩りで出向いて土地勘もある。

「どうしてそのルートを?」

サキの差しているイヤホンに、海香からの声が聞こえる。

「駅からも反れて、無意味なオフィス街に向かっている意味は?」
「海香はどう見る?」

サキが、スマホに繋がるマイクに問いを吹き込む。

「釣り野伏せかしら?」
「あたしもそっちの線だね。
明石裕奈、グラウンドが無限大なら伏兵ぐらい仕込んでるかも」

海香の言葉にカオルが続く。

「今、先行して洗う様にニコに伝えた」
「じゃあ、私達はこのまま、タイミングを見て、狩る」

海香の言葉に、サキが告げた。


ーーーーーーーー

「路地裏に入った?」

スマホの地図に表示される魔力探査情報と
直接追跡しているサキ隊からの連絡に海香が呟いた。

「ニコ、どうだ?」
「伏兵らしき姿は見えない」

ーーーーーーーー

「こちらも同じね」

サキ隊の中で、宇佐木里美が通話状態のスマホに告げた。

「鳥と猫の伝言からも、待機している者はいない」
「へぇーっ」

既に営業終了状態のオフィス街で、
クレイモアを肩がけにした若葉みらいが暗い声を出す。

「つまり、身を隠すつもりか、
それとも、四人でカウンターでもかけるつもりなのかなこれ?」
「好都合だ」

サキの手にした乗馬笞が鋭く空を切る。

「海香、絶好のチャンスだ。
大至急追い付いて挟撃をかけてくれっ」

「サキ、もう行く? この場所なら」
「ああ。だけど、海香達も到着するから手堅く行くぞ」
「でも、倒しても構わないよね?」
「箒の魔法使いの口だけは割らせる、それが優先なの忘れるな」
「分かってるよ………」

オフィス街の歩道から路地裏の突入しようとした
サキ隊の三人が、動きを止めた。

「爆発っ!?」


ーーーーーーーー

「状況はっ!?」
「壊れた音は聞こえない、煙幕弾かな、これは?」

スマホでの海香の問いに、ニコの返答が聞こえて来る。

「?」

そして、カオルが自分のスマホを見た。

「かずみからのメール? こんな時に」
「私も」

ーーーーーーーー

「敵襲、って?」
「あいつら自体がデコイっ!?」

スマホに届いたメールを見たみらいの言葉に、
同じくメールを見ていたサキが叫んだ。

「敵の写真、ね」
「ぼやけててよく見えない、っ………」

その時、新たな着信に気付き、サキが電話に出る。

「かずみメール今すぐ破棄しろ、添付ファイルは絶対開けるなっ!!」

それはニコの怒声だった。

「添付ファイル………まさかっ!?」


ーーーーーーーー

「やられたわ」

思えば単純なやり口に、海香は笑いを禁じ得なかった。
だが、プレイアデス聖団、神那ニコを相手にやってのけたと言うのは
とてもじゃないが単純では済まない。

「被害状況、分かる範囲で」
「取り敢えず、魔力探査アプリを集中的にやられた。
特に、最近十何時間以内の更新データは回復不能じゃないかな。
私達の間なら、一人が添付ファイルを開いただけでも瞬時に食い荒らしにかかる、
それぐらいヤバイ奴だよこれは」
「ええ、こちらも、今の所探査アプリを使えない事だけは確かね」

ニコからの説明に海香も応じた。

ーーーーーーーー

「くっそおおおおっっっっっっっっっ!!!!!」

路地裏で、若葉みらいの振るったクレイモアが深々と地面に叩き付けられる。

「ニコ、どうなってるっ!?」
「ノン、分からない。そっちにいない?」

「いないから聞いているっ!
奴の、箒女の魔力波長を記憶させたソウルジェムにも反応は無い。
遠くに逃げたとしか思えないが、気づかなかったのかっ!?」

「サキ達、海香達のルートを考えて、抜け道を上から見張ってた筈だけど、
そこから逃げた奴はいない筈だ」

苛立ちも露わに尋ねるサキに、ニコも感情を秘めた声で応じた。

「里美っ!?」

みらいの問いに、里美は首を横に振る。

「探してもらってるけど、情報網に引っかからない」


ーーーーーーーー

「助かったわ」

見滝原市内のマンション玄関で、巴マミと佐倉愛衣が言葉を交わした。

「あのさ、マミ」
「安全のためよ」

マミの隣で何か言いたげな杏子に、マミはキリッとした顔で言う。
そして、二人は一緒に玄関から建物に入って行った。

ーーーーーーーー

麻帆良学園女子中等部寮廊下。

「助かりました」
「助かった、有難う」

礼を言う愛衣と裕奈に、長瀬楓と村上夏美が笑顔で応じた。
そして、そのチートな隠密能力の魔法で
あすなろ市からの脱出を手伝ってくれた楓、夏美と別れ、
裕奈と愛衣は女子寮大浴場「涼風」に向かう。

「ああー、しんどかったぁー」

浴槽に浸りながら裏声を出す裕奈に、愛衣は苦笑する。

この時間は、言わば魔法使いタイムだった。
既に通常の使用時間は終了しており、
通常時間から完全終了までなんとなくラグを作っておいて、
魔法使いのルートで裏で申請したら使用出来る
魔法使い作業用のちょっとした便宜だった。

シャワーを浴び、汗を流してサウナに移動する。
少し遅れて、二人から見たら立派な金髪美女がサウナに入って来た。
二人の学校の先輩であり、
既に「仕事」らしき事を始めている二人にとっては上司でもある
高音・D・グッドマンが裕奈、愛衣の隣に座る。


「何か、分かりましたか?」

愛衣からメールでの帰宅報告を受け、
待ち合わせを指定して来た高音が尋ねる。

「まず、御崎海香のグループは、プレイアデス聖団を通称とする
魔法少女のグループでした」
「魔法少女、ですか」
「………お姉様」

少しだけ目を閉じ、目を開いて呼びかける愛衣を、裕奈は見た。

「なんですか?」

「もう少しだけ、時間を下さい。
相手が魔法少女であっても、
今回は麻帆良学園、魔法使いに関わっている可能性は捨て切れません。
今、何とか接点が出来つつあります。
この段階で魔法少女と魔法使いの関係で公式に扱えば逃げられる恐れがあります。
ですから………」

「………明後日一番に詳しい報告をしなさい。
それまでは現場の判断での対応を許可します」
「分かりました」
「………メイ」

立ち上がった高音が、二人に背を向けたまま口を開いた。


「はい」
「あなたは、年齢的には優秀な魔法使いです、私はあなたを買っています」
「有難うございます」

「そして、魔法使いのなんたるかを、
少なくとも隣の見習いよりは弁えていると、
その様に理解しています。
魔法使いとして為すべき事、為さざるべき事、
その最低限弁えるべき事は弁えていると、
私はあなたの事を、そう理解しています。
自分の身を守り、驕る事なく、
魔法使いとしての為すべき事を為す事です。いいですね」

「はい」

高音が、ようやく振り返る。

「それを理解して、今夜は休みなさい」
「はい、お休みなさい」

「お休み、高音さん」
「あなたも余り無茶はしない様に………
メイの手助けをして下さい」
「うん、はい、了解しました」

高音が頷き、サウナを出て行く。
残された二人も、スリリングな一日の疲れがいよいよ
眠気になるのを自覚しながら腰を上げた。

==============================

今回はここまでです>>472-1000
続きは折を見て。


ーーーーーーーー

「凄い………」

裕奈の銃撃による魔法のロックが解除され、
建物の中に入ったマミが中の光景に呟いた。

「これ、全部テディ・ベア?」
「可愛い、けどちょっと怖いわ」

膨大と言ってもいいぬいぐるみが
夜の博物館の棚に陳列されている光景にマミと裕奈が言葉を交わした。

「明日葉、ですか」

「?」

「Anjelica Bears
この建物の名前として表の壁に書かれていました。
ベアーズは熊達、熊々、アンジェリカは人の名前かとも思いましたが、
元の意味は明日葉と言う日本の植物です。
生命力が強く栄養価も高い、医学的な薬効もありますから、
魔法使いによる研究対象にもなっています」

「なんとなく、アンジェリカってだけでもありそうな名前だけどな」

杏子の言葉に、愛衣は小さく頷いて言葉を続けた。

「前の戦いで熊の使い魔を使っていたのは若葉みらい。
漢字の意味が似ている若葉と明日葉を
当て字にした名前と見るのが自然かと」
「だとしたら、恐らく魔法少女としての願いそのものね」

愛衣の推測にマミが続く。

「建物の規模と隠匿、魔法少女の普通の魔法にしては規模が大き過ぎる。
このテディベア博物館を願いにして契約した、
そう考えるのが自然よ」

マミの推測を聞きながら、
愛衣は静かに片膝をついて床に手を当てていた。


「それで、プレイアデスはどうするの?
交渉決裂なら答えは二つ。
この四人を力ずくで取り押さえてサキを奪還するか、
それともこのまま行かせるか」

ニコが指折りして仲間に迫る。

「一つ目の選択はお勧めしません。
私としても痛い目を見たいとは思いませんし、
既に報告を外部に預けてあります。
私からの連絡が途絶えた時点で、あなた達は麻帆良学園、
否、関東魔法協会の総力で潰されると思って下さい」

「月並み、だけど破るのは難しいカードね」
「それを理解したなら、無駄な抵抗はやめて下さい」

海香の言葉にそう応じて、愛衣は片手で掲げた箒をひゅんと回転させた。
炎を浴びた箒の先を、どん、と、床に叩き付ける。

「浅海サキさんの頭の中を一から十まで強制コピーされるのが嫌なら、
まず、この封印に就いて説明して下さい」

一瞬、博物館の床に広く火線が広がり、
床は複雑な紋様を刻んでぼうと輝き始めた。

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今回はここまでです>>511-1000
続きは折を見て。

それでは今回の投下、入ります。

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>>516

「私達の魔法なのは分かるけど、かなり複雑な術式ね」

見た目で言えば、趣味のために糸目をつけない現金を丸ごとぶち込んだ
異界の博物館「アンジェリカ・ベアーズ」。
全体に贅沢過ぎるスケール、面積の中に、
更に一つ、二つのテディベアを陳列した清潔なガラスケースが
規則正しく林立する西洋風の高級意匠ホールの中で、
十分な横幅のあるレッドカーペットの通路に現れた魔法陣を見て巴マミが言う。

「コンセプトは空間と転移、そこまではなんとか分かりますが、
だからこそ、これ程の高度な術式、
作った術師の教え抜きに動かすのは危険過ぎる。
その本ですね」

佐倉愛衣が、御崎海香の持つ分厚い本に視線を走らせて言う。

「似た様なものを知っています。
魔法具によって検索した外付けの知識、魔法技術を使って、
本来は非常に緻密で高度、強力な術式を設計し、発動させた。
案内していただきましょうか?」
「分かったわ」
「海香」

難色を示して名を呼ぶ牧カオルに、海香は小さく頷く。

「巴さん、浅海サキさんの拘束を、
案内はこのメンバーでお願いします」
「お前らあっ!!!!!」
「やかましい」

リボンの繭から顔だけ出して絶叫する若葉みらいの鼻先に、
佐倉杏子が槍先をむける。


「若葉みらいさん」

愛衣が、みらいの前にツカツカ近づきながら
生真面目な口調で声を掛ける。

「これは、最大限譲歩した結果です。
争いや危害は好みません、大人しく待っていて下さい」

指先を外側に向けた右掌にバスケットボール大の火球を乗せ、
愛衣は淡々と告げた。

ーーーーーーーー

海香が魔法陣の魔法を発動させ、魔法のエレベーターの様な移動を経て、
恐らく博物館の地下と思われる扉の向こうへと移動し、
佐倉愛衣チーム、巴マミチームは共に凍り付いた表情で立ち尽くした。

「な、んだよ?」

ようやく言葉を発したのは、佐倉杏子だった。
そこは、屋内の親水公園を思わせる、一本の太い通路があり、
その真ん中を水路が通りオブジェが設置された空間だった。
そして、その通路の両サイドには、大量のカプセルが林立している。
液体の入った大量のカプセルの中でどう見ても本物の人間、
十代の少女達が意識を失っていた。

「ソウルジェム、ここにいるのは魔法少女?」

水路の真ん中に設置された
湧き水のオブジェの中に大量のソウルジェムを見つけ、
巴マミが動揺を抑え込んだ口調で言う。

「ソウルジェムを沈めているオブジェの下に魔法陣。
封印の紋様みたいですけど、それだけでは………」

オブジェを調べていた愛衣が呟いた。


「佐倉愛衣さん、明石裕奈さん」

その様子を見ながら、先頭を行く御崎海香が口を開いた。

「何が起きても対処出来る様に、腹積もりをして頂戴」

振り返った海香、カオル、ニコが愛衣達と向き合った。

「覚悟して聞いて欲しい」

そう行った海香が見ていたのは、巴マミの目だった。

「魔法少女は、魔女になる」
「何?」

目が点になったマミの代わりに、杏子が聞き返した。

「ソウルジェムの濁りが限界に達すると、
ソウルジェムはグリーフシードを生み、
魔法少女は、魔女になる」
「何を、言っているの?」

マミが、ぽかんとした口調で尋ねた。

「ソウルジェムの濁りを取るために、
私達魔法少女は魔女を退治してグリーフシード、魔女の卵を回収する。
そこまでは理解出来るわね」
「ええ」

海香の言葉に、マミが応じる。

「じゃあ、その濁りを取らずに限界迄濁ったソウルジェムがどうなるか、
あなた、知っていたかしら?」
「確かに、見た事ないな。
少なくともあたしはそんな非効率的な事はしないし」

マミに代わり、杏子が返答した。


「ご、ごめんなさい、その話、本気で言ってるの?」

「ええ、大真面目よ。
私達は過去、実際に魔女になった魔法少女を見ている」

「その、魔女になった魔法少女、は?」
「退治した。ソウルジェムは魔法少女の本体、命であり魂そのもの。
そのソウルジェムがグリーフシードとなり、
魔女が生まれてしまった後では、もう取返しが付かない。
被害の拡大を防ぐためには、殺すしかない。これが現実よ」

「じゃあ、私達が退治している魔女は」
「使い魔が成長したものでなければ、
私たちすべての魔法少女の末路」

限界を迎えていたのは、海香と問答していたマミの表情だった。

「そん、な。じゃあ、私、美樹、さんに………」

次の瞬間、「レイトウコ」と
プレイアデス聖団が呼ぶこの空間に銃声が響いた。

「なっ!?」

箒を手放し両手を振る愛衣を後目に、裕奈がマミに向けた魔法拳銃が
マミのマスケット銃の銃弾に弾き飛ばされていた。

「!?」

次のマスケットを構えたマミが硬直する。
その射線には、裕奈が両腕を広げて立ちはだかっていた。

「なんだか知らないけど、
この娘達を傷つけるつもりっ!?」
「落ち着けマミっ!!」

裕奈と杏子の叫びを聞き、マミは荒い息を吐きながら銃口を下ろした。


「大丈夫、メイちゃんっ!?」
「ええ、魔法銃に弾かれただけですから。想像以上の威力です」

マミの背後にそっと接近し、マミに「眠りの霧」をキメる直前に
恐慌した表情でマミが振り返り、
マミが発砲した銃口にとっさに魔法の箒を向けていた愛衣が青い顔をして言った。

「マミ、ソウルジェムを出せっ!」
「えっ?」
「いいから早くっ!!」

杏子に気圧される形でマミが従い、
杏子が手持ちのグリーフシードでマミのソウルジェムを浄化する。

「一つ貸しだからな。ここで濁られたら本気でヤバそうだから」
「そ、そう、魔女、魔法少女が魔女になる、って、
改めて聞くけど、本当なの?」
「ええ、本当よ」

改めての質問に、海香が根気よく答える。

「そん、な………キュゥべえ、どうして………」

「奴の正体は宇宙生物、希望が絶望に相転移して魔法少女が魔女になる。
その時に発生するエネルギーを回収して宇宙の延命に役立てている。
取り敢えずキュゥべえ自身はそう説明している。
彼らの発想に善も悪も無い、地球の人間の事なんて
そのための家畜、燃料だとしか思っていない。
嘘だと思うなら、キュゥべえに直接確かめてみるいい」

「あ、の、野郎………」

海香の説明にマミがすとんと座り込み、杏子が呪詛の言葉を吐いた。


「あすなろ市を中心に発生していた少女失踪事件。
これがその真相ですか?」
「相当数はそうでしょうね」

愛衣の質問に海香が答えた。

「理由、教えていただけますか?」
「海香………」

背後から声をかけるかずみに、カオルが小さく頷いた。

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今回はここまでです>>517-1000
続きは折を見て。

それでは今回の投下、入ります。

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>>622

ーーーーーーーー

<御崎海香の絶望>

以下略

「そうやって、絶望にとらわれ魔女の餌食になりそうになった私達を、
かずみは救ってくれた、命も、心も。
だから、私達も魔法少女となって、
かずみと共に「プレイアデス聖団」を結成した」

「最初は只、みんなで集まって、人に害を為す魔女を退治する、
楽しいパーティーだったよ」

御崎海香の説明に牧カオルが付け加え、巴マミが視線を落とす。

「だけど、飛鳥ユウリの魔女化によって私達は魔法少女の真実を知り、
魔法少女と言うシステムとの戦い、そして破戒を決意した」
「じゃあ、ユウリは………」

杏子の言葉に、説明していた海香は目を閉じて頷いた。

「ちょっと待て、かずみの記憶の事は?
こいつは………」
「かずみはかずみよ」

杏子の言葉を遮る様に海香が言った。


「魔法少女の真実を知り、色々異常な状態で魔女との戦いが続いた。
そんな中で、かずみは一時行方不明になり、
医学的なものとも魔術的なものとも判然とせずに記憶を失って戻って来た。

佐倉杏子さん、あなたの言いたい事は分かる。
だけど、彼女の頭に記憶を完全に戻そうとすると、
現実問題として拒否反応が起きてかずみを苦しめる事になってる。

だから、彼女が受け入れている「かずみ」の名前と共に
今は無理のない生活を模索している段階。
その事を理解して欲しい」

海香がカオルと共に頭を下げ、杏子はそっぽを向いた。

「海香、カオル………」
「ええ、だから、今は無理をしなくていいの」
「そうだ、かずみには私達がついてる、
少しずつ思い出していけばいい」

不安を隠せないかずみに、海香とカオルが言った。

「彼女達は皆、魔法少女なんですか?」

改めて、周囲を見回した愛衣の問いに、海香が頷く。
その背景で、カオルが通路の奥にある巨大な円柱にすとんと着地していた。

「そうよ、だから私達は魔法少女狩り、とも呼ばれている」
「何、だよそれ………」

海香の言葉に、口角を上げた杏子の足がじりっと下がる。

「全部濁ってるのは偶然じゃないよね?」

水の中のソウルジェムをすくい、かずみが言った。


「この魔法陣は、ソウルジェムと肉体を分断し、
休止させるためのもの」
「これ以上ジェムが黒くならないように?」
「そう、そして魔女化しないために、
彼女たちが人間であり続けるために」
「それだけじゃない」

かずみと海香のやり取りを、円柱の上に座ったカオルが続ける。

「ジェムを完全に浄化し、彼女たちを人間に戻す方法を見つける。
その日まで自分たちで戦い続ける。そう決めたんだ。
それがあたし達の、『魔法少女システム』に対する『否定』ってヤツさ」
「それじゃあ、あたし達の事も?」

快活なスポーツ少女の印象を離れた、物憂げですらあるカオルの言葉に、
問いかける杏子の手は僅かに強く槍を握る。

「ええ、本当であればこの中に加えたい。
だけど、魔法少女の中でも有力者で知られるあなた方が
魔法少女の真実を知った今、
敢えてそれをやる優先順位は低くなった」

「そりゃどうも」

海香の返答に、杏子が笑みに殺気を込めて答える。

「その方法が見つかる迄、こうやって眠り続けてる、って。
そうしないと魔女になる、から………」

少女達が液体に沈むカプセルを見回しながら、
裕奈は自分の言葉を頭の中で反芻する。

「Sleeping Beauty」
「Yes その時迄、王子様のキスを待って眠り続ける」

愛衣の呟きに、神那ニコが答えた。


「だけど、王子様なんて待ってられない」

カオルが続けて言った。

「だから、私達はあらゆる手段でその方策を探し続けた。
この本でも足りなかった。
だから、魔法使いの知恵も借りようとした。
そちらの、麻帆良学園の図書館島にも侵入してね。
微かな情報から魔法使いの情報を少しずつ集めて、
図書館島なら役に立つ情報があるのではないかって」

海香がカオルの言葉に続いた。

「お役に立てましたか?」

「今の所は何とも言えない。
確かに、図書館島の奥地は私達にとっても危険過ぎる場所。
それでも少しずつ、
そちらの監視を掻い潜りながらの探索を続けていたけど、
何か強力な魔法の発動を察知して、
危険過ぎると言う事で撤退した、それっきりよ」

愛衣の問いに海香が答える。

「じゃあ、鹿目さん達、ゲートが起動した事は知らない、
そう言いたいの?」

「よく分からないけど、私達は図書館島で本を探していただけ。
それ以上の事は知らないわ。
魔法使いと関わる事も、思い当たるのはそれだけね。
そちらの秘密の文献に勝手に接触しようとしたのは
そちらにとっては不都合だったと、それは認める」

マミに対する海香の返答を聞き、
愛衣はすー、はー、と深呼吸した。


「分かりました」
「え?」

愛衣の返答に、カオルが思わず声を上げた。

「前から申し上げていますが、元々魔法使いと魔法少女は不干渉です。
魔法少女同士の事であれば、我々が敢えて介入する事はありません。
図書館島を勝手に使われては困りますから、
その点は上に報告してしかるべく対処する事になると思いますが、
率直に言って、管轄違いの面倒事に巻き込まれるのは御免です。
後はそちらで片を付けて下さい」

「佐倉さ、メイさん?」
「お、おう」

言いかけたマミにちらっと視線を走らせ、杏子が頷いた。

「あんたらのご大層な志は分かったよ。
けど、風見野と見滝原には手を出すな。
少なくともあたしは、魔女なんかにならない様な上手くやる。
見滝原の魔法少女に手を出したら、
百戦錬磨の大ヴェテラン巴マミ先輩に踏み潰されるぞ」

「え?」
「なあ」

「え、ええ、そうね。理屈は分からないでもない。
だから、あすなろ市での事は敢えて口出ししない。
だけど、見滝原に、特に私の後輩達に手を出すと言うのなら、
黙って見ている訳にはいかないわ」

杏子から唐突に名前を出され、
戸惑いを見せていたマミも通告しながらペースを取り戻した様だった。


「先程は言葉が過ぎました、ごめんなさい」
「いや、いいよ。こっちも色々まずい事はあったんだし」

円柱から大ジャンプして着地したカオルに愛衣が頭を下げ、
カオルは手を上下させてとりなす。
そのカオルの手が、バスケットボールを受け取った。
そこに書かれた、
「Yuna 2on2」の文字にカオルが顔を綻ばせる。

「時間があったら、赤外線でアドレスでもしたかったんだけどね」
「これ以上の深入りはお互いのためになりませんので」
「そうね、面倒をかけて悪かったわ」

裕奈と愛衣の言葉に、海香が応じた。

「大丈夫、かずみ?」

海香が、俯くかずみに声を掛ける。

「うん………魔法少女狩りはユウリのことがあったからなんだね?」

海香に肩を掴まれながらかずみが言い、
そんな二人に愛衣が一瞬鋭い視線を走らせる。

「………みんな疲れてる」

口を挟んだのは、オブジェの上のカオルだった。

「今日は、お開きに出来ないか?」
「見た所、そちらの御崎さん、神那さんがいれば
上のメンバーを縛っているリボンの拘束は解除出来そうですけど、
どうでしょうか?」
「Yes なんとかなると思うよ」

愛衣の言葉に、ニコが応じた。

「それでは、元の場所に戻って、そこで解散と言う事で」


ーーーーーーーー

「巴さん」

「アンジェリカ・ベアーズ」を出た後の夜のあすなろ市内の路上で、
愛衣がマミに声をかける。マミの顔色は未だ良くない。

「大丈夫、ではないと思いますが」
「ええ、今でも吐き気がする。
だけど、ずっと知らないよりはマシ。お礼を言わないと。
それに、銃を向けたお詫びも」
「いえ、部外者が立ち入った事を。
それに、勝手に魔法をかけようとしたのはこちらですから」

マミと愛衣が互いに頭を下げる。

「頼むぜ」

口を挟んだのは杏子だった。

「見滝原の方は、
取り敢えずマミ先輩があいつらへの重石、って事になってんだ」
「ええ、有難う。そう仕向けてくれて」

にこっと笑うマミに、杏子はそっぽを向く。

「もういいわ。どっちにしろ、私には選択の余地なんてなかったんだし」
「?」

んーっと腕を伸ばすマミを、愛衣達は見ていた。

「小さな頃に、両親と一緒の車で交通事故に遭って、
子どもでも自分は死ぬんだってそう思った」
「それが、魔法少女契約の理由ですか」
「そう。本当なら家族みんなが助かる事を願うべきだったんだけどね。
それも、今更言っても仕方がない事よ」
「………死にそうになって命が助かる事を願う。
単純すぎてその善悪を考える事すら馬鹿げています」
「うん、他に言い様がない」

辛い微笑みを作るマミに愛衣が告げ、裕奈も素直に従う。


「私達は部外者です。只、さっき相対してはっきり分かりました。
巴さんは常時魔女と戦う世界を、一生懸命生きて生き抜いて来た人だって」
「私なんて二回銃口向けられてるからね。当然分かるよ」
「そうじゃなきゃ、魔法少女なんて何年もやってらんねぇよ」
「じゃあ、そうして下さい」

杏子の言葉に、愛衣が言う。

「全てが上手くいかないなら、限りある生命で最もマシな選択を。
部外者としては他に言うべき事もありません」
「私は好きだけどね、マミさん達の事。
片が付いて気が向いたら又遊びに来てよ」

「そうさせてもらうわ」
「このかお嬢にもよろしくな」

「それでは、
私達はこれから少し報告のための打ち合わせがありますので」
「へーへー、こっからは魔法使いのお仕事ですか」
「すいませんがそういう事になります」

「鹿目さん達の事は結局振り出し」

杏子と愛衣のやり取りにマミが口を挟む。

「はい、この後の状況次第ですが、
私達も用事を済ませてなるべく早くこちらから連絡します」
「分かった。あくまで鹿目さんの安否が優先だから」
「それでは」

マミと愛衣の合意が成立し、魔法使いと魔法少女が左右の道に分かれた。


ーーーーーーーー

「!?」

魔法少女と別れて少し進んだ所で、裕奈は後ろから愛衣に飛び付く。
愛衣は、脱力で脚が一度に崩れていた。

「す、すいません」
「大丈夫じゃないって、それ、メイちゃんの事だよねっ?」
「は、はい」

荒い息を吐きながら立ち上がろうとした愛衣が、
向きを変えて裕奈に抱き着いた。

「(めっちゃ震えてるんだけど)
あの、大丈夫じゃないって、熱とかある?」
「いえ、それは大丈夫、だと思います。
只、今になって、凄く、怖く、すいません」

切れ切れに言いながら俯く愛衣を、裕奈がぎゅっと抱き締めた。

「いいよ、あの場にいたら怖くて当たり前だよね。
私だって怖かったし、それに、
メイちゃんが矢面に立って、頭いいから余計にね」

愛衣が小さく頷き、ゆっくり呼吸を整えた。
そして、二人は近くに屋根つきのバス停ベンチを見つけ、腰かける。

「あ、すいません」
「ああ、いいよそのままで。お疲れ様」

裕奈に言われ、裕奈の隣に座った愛衣は
裕奈の腕に自分の体重を預け続ける。


「ごめんなさい、あの、有難うございます。
私は言わば正統派の魔法使いの見習い、それだけです。
実戦慣れ、殺し合いをして来た未知の存在である魔法少女の集団相手に、
明石さんがいてくれたから辛うじて踏ん張れた」

「有難う。メイちゃん凄く格好良かった。
それで、凄く無理してた。
魔法少女相手に魔法協会、魔法使いを背負ってさ」

「明石さんが背中を守ってくれたから、
あの夏、あの世界を救う只中にいた3Aメンバーの明石さんが」

「それは、メイちゃんも同じでしょう。
あの時の事改めて確認したけど、高音さん達、
危険な現場に踏み止まって命懸けで戦い抜いた、メイちゃんも一緒に。
あの夏も、今回も、魔法協会、魔法使いとして
譲れないものがあるってみんなの背中に教えてもらってる」

「後輩に、余り格好悪い所は見せられないですから」
「そうだね。だから、メイちゃん、佐倉先輩が上に行く時には、
私は下から支えられる様に頑張るから」
「とても期待してます」
「あ、はは、参ったな」

苦笑いする裕奈の横で、愛衣は座り直し、んーっと伸びをする。


「大丈夫?」
「はい。私の背中、明石さんが守ってくれるんでしょう?」
「うん」

裕奈の返事と共に、愛衣は立ち上がった。

「それじゃあ、余り時間がありません」
「そうだね」

裕奈が立ち上がった。

「それでは、もう一仕事、済ませましょう」
「OK Boss」

==============================

今回はここまでです>>523-1000
続きは折を見て。

それでは今回の投下、入ります。

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>>533

ーーーーーーーー

「楽しんでいただけましたか?」

魔法世界、メガロメセンブリアの高級ホテルのホールで、
照明が復帰する中でゲーデル総督が鹿目まどかに声をかけた。

「は、はい」

まどかは、ようやく気が付いたと言う状態でゲーデルの問いかけに応じる。

「それでは、ゲートの、旧世界への帰還の準備を行います。
準備中はこちらで部屋を用意しました。
何日もかかると言う事にはならないと思いますが、
刹那と共に寛いで待っていて下さい。
今なら個室風呂も使えますが、いかがですか?」

「えーと………」
「到着まで割と長かったですし、
折角ですからいただきましょう」
「はい」

ちらっとまどかが視線を送った桜咲刹那が素直に応じ、
まどかもそれに従った。


ーーーーーーーー

「ウェヒヒヒ………」

うつ伏せに岩盤浴をしながら変な笑いが漏れる辺り、
疲れているのだな、と、まどかは自覚する。
案内された個室風呂はちょっとした銭湯とでも言うべき規模で、
こうして岩盤浴もオプションについていた。
取り敢えず、色々あり過ぎたが大きな怪我も無く無事帰る事が出来そうだ、
と分かって少しほっとする。
そして、隣の刹那に視線を向ける。

(………ほむらちゃんに似てる?)

まどかの知る刹那は、優しい先輩だった。
一見凛々しい女侍だが、まどかにはしばしば優しく微笑みかけて、
何故か矢鱈と危ない事に巻き込まれるまどかを安心させてくれた。
そんな刹那が、静かにその身を休めている。
端正で、クールな横顔が、時間で言えば
ごく最近まどかのクラスに転入して来た転校生を連想させる。

「そろそろですね」
「はい」

砂時計を見て、二人は身を起こした。


ーーーーーーーー

「ウェヒッ!」

さっと掛け湯の後の水風呂に、
まどかは声を上げながら身を震わせる心地よい落差を堪能する。
刹那も、悪い汗を搾り取った後のその身を心地よく冷やして、
水風呂を上がる所だった。

(色、白い。京都の人だからかな?)

その刹那の後を追いながら、まどかは心の中で呟く。

最近温泉を共にした近衛木乃香もそうだったが、
こうして見ると刹那も如何にも肌理の細かそうな、
絹の様に色白な肌をしていた。

グラマーと言うタイプではない、
年齢的にはむしろ小柄で、普段着では華奢にも見える刹那であるが、
それを言うならまどかも同様である上に刹那の方が一つ年上である。

そんなまどかから見た刹那は、
全体に引き締まって均整の取れた如何にも凛々しい女剣士。
それでいて、客観的にも最近ぐっと女っぽくもなった、
そんな優しく魅力的な先輩だった。

「凄かったんですね」

ちょっとした銭湯程もある個室風呂の主浴槽で、
熱めの湯に浸かりながらまどかが言った。


「さっきの映画で刹那さん達、
あんな風に、ネギ先生達と一緒に
この夏休みにこの魔法世界を本当に救ってたって」
「実際、否定する程間違っていない内容だったとは言え、
ああして劇的に作られると少々照れますね」
「ウェヒヒヒ」

まどかの隣で刹那が言い、双方苦笑いを交わす。

「この魔法世界に来てから、なんか随分色々VIP待遇だと思ったら」

「まあ、大半はこれが理由ですね。
鹿目さんを巻き込んでしまった状況では本当にありがたい事です。
色々助かりました」
「本当に、こっちの世界に来て刹那さんが一緒じゃなかったらって、
今考えるとぞっとします」

「まあ、ある程度知識があれば本来はそれ程怖い場所でもないんですが、
本来、魔法に関わる人間しか来る事の出来ない場所ですので」

「そう、ですね。色々あったけど、
いい人達にも会えたって、そう思います」
「ええ、そういう事です。
それは我々が普段暮らしている世界と変わりません」


ーーーーーーーー

「サキ、サキっ」
「ん、んー………」

目を開いた浅海サキは、早速に若葉みらいに抱き着かれていた。
頭の回転を取り戻し、周囲を確認する。
身近にいるのは若葉みらい、宇佐木里美、神那ニコ、
馴染みのある面々だが、どうも足りない。
場所は、これ又馴染みのある「アンジェリカ・ベアーズ」の一角。
そう、あの魔法使いにやられた辺り

「魔法使いっ!!」
「ちちちちょっと待って、サキ、体の調子はっ?」
「大丈夫だっ!」

ぐわっと立ち上がろうとしたサキにみらいが叫び、
サキが怒鳴り返した。

「かずみはっ!?」
「海香とカオルが連れて帰った、色々あって疲れてたからね」
「じゃあ魔法使いはどうしたっ!?」
「帰ったみたいだよ、どうやら話が付いたからね」
「は?」

ニコの返答を、サキはぽかんと聞いていた。


「彼女達には「レイトウコ」を見せた、

基本的な事はバレてたからね。
それで、魔法少女が魔女になる事、魔女化を防ぐために、
完全な解決が出来る迄魔法少女狩りを行っている事を説明したら、
魔法使いは納得して帰って行ったよ。

これ以上危ない事には関わりたくない、
魔法少女だけの事なら魔法使いの管轄外だから勝手にしろってね。
図書館島の事だけ、これから厳しくなりそうだけど。
魔法少女の巴マミと佐倉杏子も、
縄張りの見滝原、風見野にさえ手を出さなければこれ以上口出しはしないって」

「なんだよ、人騒がせな………」

ほっと脱力しそうになったみらいが、ぎりっ、と不穏な音を聞いた。

「冗談、じゃない」
「えっ?」

サキの言葉に、みらいが聞き返した。

「あの、火文字の意味が分からないとでも言うのかっ!?
海香、カオルは何処にいるっ!?
かずみ、かずみを守らないとッ!!」

ニコは、狼狽そのものに言葉を吐き出し続けるサキと
ひんやり暗い眼光のみらいの姿を腕組みして見極めていた。


ーーーーーーーー

あすなろ市内のスーパー銭湯、
閉店時間が比較的遅いその施設のシャワーコーナーで、
佐倉愛衣と明石裕奈はシャワーを浴びていた。
二人がさっぱりとして振り返った所で、
タオル一本下げた御崎海香、牧カオルと遭遇する。

「来てくれたんだね」
「赤外線用のインクで書き込まれたアドレスと時刻。
それに付き合わざるを得ない理由もあったから」

裕奈の言葉に、頷くカオルの隣で海香が言った。
そこで、シャワーを離れた四人は、
まずは互いの持ち物を確認する。
タオルの他は、パクティオーカードまたはソウルジェムだけ。
取り敢えず、相手の戦闘開始には対応出来る事を双方確認する。

「それじゃあ、次の即売会向けの企画、聞かせてもらおっか」

浴室内の混雑は既にピークを大幅に過ぎていたが、
裕奈がチラと周囲に視線を走らせて言い、一同が小さく頷いた。

ーーーーーーーー

「取り敢えず、先程の博物館で私達とは決着した、
とは思っていないですよね?」

丁度無人だったサウナに愛衣、海香等四人が移動し、愛衣が口火を切った。

「佐倉さん、私の見る限り、
魔法少女の真実に対してあなたはかなり冷静だった。
知っていたの?」
「直接は知りません」

海香の問いに、愛衣が答える。


「見当は付きました」
「魔法少女が魔女になるって?」
「ですから、直接は知らなくても、
十分考えられる事態であると」

カオルの問いに、愛衣は答える。

「やっぱり、落ち着いてるな」
「それが、魔法の歴史ですから」

カオルの言葉に、愛衣は落ち着いた口調で続ける。

「魔法使いにはどう見えるのか、
忌憚のない所を聞かせてもらえるかしら?」

海香が尋ねた。

「私個人の意見で、魔法協会を代表するものではありませんが」
「聞かせて」

重ねて問うカオルに、愛衣は頷いた。


「メフィストフェレス」

愛衣の第一声に、海香は薄い笑みを浮かべる。

「キュゥべえが何者であれ、魔法少女の様な契約は悪魔の契約。
立場、経験上、私達はその事に現実感、リアリティを持っています」

「後からよく考えたらそうかも知れないけど、
事前に知らないで今迄の常識と言うか科学を
目の前で否定されたら引っかかるかもね」

「それで、見た目と声が反則ってのがね」

愛衣の言葉に裕奈が腕組みして言い、カオルが付け加えた。

「その様な都合のいい、絶対的な程の奇跡を売り歩く者がいたら、
間違いなく途方もない代償を支払う事になる。
まず、途方もない欲望を満たす術がある事はある、
但し、その契約は基本、身を滅ぼす。
稀代の術師であっても、捻じ曲げられ何倍もの力で戻って来る
条理の反動をまず避けられない、と言う事を前提にそう考えます。
情において忍びない事は多いと思います。
それでも、契約をして報酬を得ながらその代償を踏み倒そうとする事自体、
限界の中で少しずつでも進もうとする立場からは
随分と虫のいい話にも見えます」

「理屈、通りね」

「その様な契約が通常になった魔法少女の世界と
私達の世界がいつしか不干渉になったのも、
そのリスクと、それでも引き付けられる人の心に
直面し続けて来た結果なのかも知れない。
私は人の手で、少しでもよりよい事をしようと、
そのために、私は勉強を、修行を重ねて来ました」

「日本だけではないわね。
アメリカにもそうした所が?」
「あちらの魔法学校にも留学した事があります」
「あるんだ」

愛衣の返答に、カオルが愛衣を見直す。


「そ、この娘、メイちゃん、私よりも年下だけど魔法使いの先輩で、
魔法協会のエリート候補生だから
あんまり甘くみない方がいいよ」
「本当に頭の悪い相手よりは話が通じるのは助かる、
例え敵になったとしても」

裕奈の言葉に、海香は静かな微笑みと共に答えた。

「私達が学んで来たのは、先人達の失敗の歴史です。
欲望に溺れ力を欲し、一時の契約でその身を滅ぼした者、
耐えられない悲しみ、喪失感を諦める事が出来ず、諦めきれずに、
喪ったものを条理を超えて取り戻そうと足掻き続けた人達。
そこから、僅かな勇気を僅かにでも形にする事を学んで来た」

愛衣は、横に座る海香、斜め上に座るカオルを見据えた。
そして、愛衣は口を開く。






Rewrite emeth to meth






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今回はここまでです>>534-1000
続きは折を見て。

それでは今回の投下、入ります。

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>>621

「さあ、刹那………」

促そうとした刀子は、詰まった様な声を聞いた。

「して、ですか………」
「刹那?」

「どうして、ここまで………
ここまで、進めた………アスナさんのため、ここまで進めた………
何故、アスナさん、なんですか………」
「刹那………」

「このままではアスナさんは、卒業式すら迎えられない。
今迄、麻帆良に来る迄の長い長い時間を兵器として使われて、
ようやく手に入れた幸せすら手放さなければならない。
どうして、駄目、なんですか………
誰かを不幸にする、少しは、負担になるかも知れない。
それでも、少なくとも今までの魔法少女よりも、
リスクをコントロールして、なのに、どうして、駄目なんですか?
どうしてアスナさんだけが、
どうしてアスナさんを助けては、いけないんですか………
私を助けてくれたアスナさんを、
私を、この光の中に導いてくれたアスナさん、どうして………」

「諦めるしか、なさそうね」

必死に抑えようとしても最早ままならない、
そんな刹那の溢れ出す感情を聞きながら、
ほむらがぽつりと言った。


「その思いは、貴いのだろう。
刹那の思いも、貴い。
だからこそ、その、人々の思いに絶対の力を与える
窮兵衛と言うものを我々が、
例え裏側であっても認める事は許されない。
それは「ひな」の様なもの。
その歪みを使いこなせる程、我々は未だ正しくも賢くもない」

ゆっくりと首を横に振り、染み入る様に告げる。

「そして、それだけの熱い思いは、
この程度のお説教で留まるものではないのだろう」

ーーーーーーーー

この日、神奈川県内の女子寮で起きた爆発は、
浴場を中心に建物の半ばを吹き飛ばしていた。

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今回はここまでです>>629-1000
本当にすいませんでした。
続きは折を見て。

それでは今回の投下、入ります。

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>>633

ーーーーーーーー

時間停止を解除した暁美ほむらの背後で、
爆音と共に巨大な火柱が上がる。
次の瞬間には、ほむらは再び時間を停止していた。

(あれで終わり、とは思っていなかったけど)

そうして、女子寮「ひなた荘」の外に退避していたほむらが
大量の迫撃砲、対戦車携行ミサイルを並べ、次々と発射する。
停止した時間の中で、
ほむらとの繋がりを失った砲撃は空中でその動きを止める。
時間停止解除と共に、空中に留まっていた砲撃は、
尾を引いて上空を横切る火の玉に吸い込まれて行った。

ーーーーーーーー

(これで、少しは………)

起動を予測して近くの川に隠匿していたミサイルを落下させたり
燃料満載のタンクローリーを突っ込ませたり
やっぱり川の中に隠匿していた兵器を
キャスターから叩き込んだりした結果として、
裏山へと墜落するのを見届けたほむらが、
その辺りに設置した軍用プラスチック爆薬の起爆スイッチを押す。

地形が変わる程度の爆発を背景に、
一部外観の変わった「ひなた荘」玄関前で
ほむらはバッと黒髪を払っていた。

「神鳴流秘剣、百花繚乱」
「!?」

そして、振り返る途中で、
ほむらの体は桜舞い散る衝撃波に吹き飛ばされていた。


「刹那から聞いていなかったか?
神鳴流に飛び道具は通用しないと」

ほむらの手で×字に組んだジャングル・マチェットと軍用ナイフが、
デッキブラシの一撃を受け止めていた。

「随分、頑丈ね」
「あの程度でどうにかなっていては、
万万が一あり得る事が無いでもないかも知れない
でもないとも言い切れない事もないでもない
管理人は務まらないからな」

ーーーーーーーー

「流石に、奇策頼みに本家の相手は荷が重かったか」

この辺りは無事だった「ひなた荘」物干し台で、
フェイト・アーウェルンクスがすうっと右手を上げると、
周辺の空中に大量に浮遊していた石針が鋭く飛行した。

「!?」

次の瞬間、けたたましい大量の銃声と共に、
石針が空中で残らず粉砕される。

「確か、暁美ほむらの先輩だった、と記憶しているが?」

「ええ、そうね。
だから、後輩が道を誤ると言うのなら、
黙って見ている訳にはいかないわ。
悪い道へのお誘いは、やめていただけるかしら?」

「悪いが、こちらにはこちらの事情がある。
こちらの方が分がいい、と判断した」
「そう、じゃあ仕方がない」

屋根の上でフェイトに右側面を見せていた巴マミと
物干し台にいたフェイトが跳躍する。
それをだだっ広くなった露天風呂から
半笑いで見ていた佐倉杏子は、振り返り様に槍を振るっていた。


「おこぉーんばーんわー(はぁと)」

その甘い声を聞いた杏子は、
槍の石突で後ろを突きながら生理的にぞわっとするものを覚える。

「(あたしの鎖の巻き込みを「気」で払った?
うぜぇ、が………)出来るってかっ!?」
「少しは食べ応え、ありそうですなぁ」

はんなりと甘々な返しと共に、
振るわれた槍の柄が二振りの小太刀に受け止められた。

「あつつっ!」

その近くでは、さやかがびゅうっと二刀を振るい、
火の玉の様な娘が飛び退く。

「体に火を巻いてるってそーゆー魔法っ!?
なんかやったら速いしっ!」

ぶーたれながらも、さやかがとっさの判断で
回転斬撃を展開する。
間一髪、さやかは地中から伸びて来た大量の木の根を
巻き込まれる前に斬り払い、猶予を作った。
さやかが放った飛行剣の連打が、
地面を割って突き出した根にどがががっと防がれて
その向こうで立派な角の娘が次の動作に移る。


ーーーーーーーー

京都嵐山、桂川沿い

「渡月橋、やっぱ渡らないの?」
「ああ、絶対ヤバイだろうからな」

朝倉和美と長谷川千雨が言葉を交わした。

「近衛家が最後の抵抗を始めてやがる。
こっち側の世界のデジタル情報と偵察特化の情報戦で
辛うじて五分に持ち込んでるが、
そうじゃなけりゃとっくにあっちの手の者に抑えられてる」

「だったら、目立つ道はまずいってね」

「ああ、あっちこっち右往左往したが、目的を果たすぞ。
こっちに、神鳴流の先代とやらがいる。
囮役で釘付けになってる葛葉先生に代わって
直接ナシつけて即刻動いてもらう。これで決着だっ」

それぞれアーティファクトの情報を確認し、走り出そうとする。



どこに行くんですかー?

長谷川さーん、

朝倉さーん?



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今回はここまでです>>634-1000
続きは折を見て。


千雨の足が、ふらっ、と、前に出た、
のか否か、千雨自身の記憶は定かではない。
その記憶が鮮明に戻るのは、夕映が左手の練習杖を振るった時からだった。

「風楯っ!!」

果たして、夕映は明後日の方向に魔法防壁を張り、
爆発音と共に周囲が白煙に包まれた。

「白き雷っ!!」

更に、夕映が攻撃魔法を展開するが、
千雨達に届く気配は全く無い。

「それが、君の愛かい?」
「風楯っ!!」

風が裂け、何かが衝突する音を聞きながら、
息を飲んだ千雨もステッキ状の「力の王笏」を振り出す。

「のどかっ!」
「かすった、だけだから」
「本屋っ?」

その声に、千雨は左腕を抑えるのどかに目を向ける。

「愛は無限に有限。だから私は無限に彼女に尽くす」

「あなた達は世界を救い、そして愛する者を救うと言う。
私はお父様の望んだ世界を、私は私の救世を成し遂げる」

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今回はここまでです>>638-1000
続きは折を見て。

それでは今回の投下、入ります。

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>>646

ーーーーーーーー

「おっとおっ!」

わざわざ京都まで出張し、低い姿勢から走り込んだ呉キリカが、
飛んで来た小さめの本を交わしながら標的へと突っ込む。

「!?」
「白き雷っ!!」
(二段構えねっ!)

まず、びゅうっと目を塞ぐ風が吹き抜け、
その後にキリカを襲う電撃をキリカ跳躍して交わした。

「速い、ですねっ」
「違うっ!」

綾瀬夕映の言葉を宮崎のどかが否定した。

「私達が遅くなってる」
「了解ですっ!」

のどかの言葉と共に夕映が液体の入った試験管を放り出し、
周囲が煙に包まれた。

「白き………」

そして、すすすっと移動して練習杖を振り上げた夕映の側で風が裂ける。

「!?」

夕映の近くの空中で、飛来した水晶球と空飛ぶ本が激突し、爆発が起こる。

「風楯っ!」

その時には、夕映はキリカの長爪の一撃を魔法防壁でやり過ごしていた。


「ウエンテッ(風よっ)!!」

夕映が杖を振り、周囲に風が巻く。

「白き雷!!」

次の瞬間、美国織莉子は自分を狙った電撃をすすすっと交わし、
それに合わせる様にのどかが動く。

「!?」

のどかの前でキリカが振るった爪が、
のどかが広げた分厚い本をざっくりと切り裂く。

「誰を狙おうと言うのかな?」

そう言いながら腕を振り上げたキリカの前で、
夕映がのどかの前に立つ。
キリカは距離を取った。

(まずいですね)

のどかを背後に守りながら、夕映は心の中で呟く。

(この二人相手では決定打に欠ける。
千日手をしていては青山家に対策をとられてしまうです)
「夕映っ!」
「遅い遅いよっ!!!」

キリカの振るった右手の爪が
のどかの手にした魔法の本「いどのえにっき」に食い込み、


「のどかっ!!」

余った爪の勢いで、のどかの左腕の流血が増加する。

「風楯っ!!」

そして、夕映の張った防壁がキリカの左の爪を弾き返す。

「このっ!」

キリカが本に食い込んだ長爪を無理やり引き抜き、
のどかが後ろに転倒しそうになる。

「のどか、今治癒するですっ!」

夕映が声を震わせている間、
のどかの目はキリカをしっかと捉えていた。
攻撃の速さと威力だけでは、魔法をそこそこ使えるが
武闘派と言う程ではない夕映ではキリカに勝てない。
のどかと言うレーダー抜きには。


「?」

そして、夕映は気付く。
織莉子の視線が明後日を向き、
そちらの木陰に向けて大量の水晶球を放っていた。

「………!?」
「援軍みたいね」

織莉子が言った時には、頭に横長の角を持つ少女「環」が木陰を飛び出し、
そのドラゴン的外見と体質を持った少女は、
急遽本当にドラゴンになろうとした
その時には早速に呉キリカの襲撃を受けていた。
そして、それを這う這うの体で交わした環が今正に美国織莉子に迫る、
と、思った時には、織莉子の用意した水晶球が
環に向けて吸い込まれる様に真っ直ぐ飛行していた。

「か、はっ………」
「のどかっ!!」

夕映は、二つの事に気付いた。
キリカも又、明後日の方向に地を蹴ったと言う事と、
それを受ける様にのどかが駆け出した事を。

ーーーーーーーー

青山素子がひょいと身を交わし、飛んで来たジャングル・マチェットが
地面に突き立った木材に突き刺さる。

「いい判断だ。どの道飛び道具は通用しない。
ならば、貴様には過ぎた重さだったと言う事か」

そう言いながら、青山素子は、
突っ込んで来た暁美ほむらの斬撃をすいとやり過ごす。
ほむらはざざっと振り返って素子を狙おうとしたが、
その時には、瞬時に間合いを詰めた素子が振り下ろすデッキブラシが、
ほむらが右手に握る中型のグルカナイフに受け止められていた。


「どうやら、マギカであってすら、余り腕力には恵まれていないらしいな」

そんな声を聞きながら、
ほむらは左手に握った軍用サバイバルナイフも加えて
ガチガチガチとデッキブラシの柄を受け止める。

きりきりきりと歯噛みしながら
辛うじてそれを成功させているほむらだったが、冗談ではない。
使っているのは素人でも武器は間違いなく玄人。
あの勢いで打ち下ろしたら
デッキブラシの方が真っ二つになっている位置関係の筈が、
ほむらが魔法少女の力で必死に堪えてようやくギシギシと均衡している。

「(それでも全然余裕、桜咲刹那も十分過ぎる強さだったけど、
これが青山宗家っ)
あああああっ!!!」

ほむらが、握った刃物を力任せに振るう。
その一瞬の隙に地面を転がり、楯に手を伸ばす。

「あああ………」
「未熟」

呼吸を整えながら止まった時の中を素子の真後ろに回り、
せめて鈍器な部分を振り下ろした、と思った時には、
ほむらはどてっ腹に叩き込まれたブラシの衝撃で
後方へと吹き飛ばされていた。

「か、はっ………」

魔力の急消耗を少しでも防ぐべく、
ほむらは吹き飛びながら時間停止を解く。

「貴様相手なら、髪に触れてからの刹那でお釣りが来る」


ーーーーーーーー

「ティロ・フィナーレッ!!!」

ひなた荘上空で、砲弾が分厚い砂壁を粉砕する。
巴マミが肩にかけていた単発の大砲が消滅する。
その時には、柏手と共にマミの周囲に展開されたマスケット銃の一群が
マミの周囲を回転しながら発砲し、
フェイト・アーウェルンクスの放つ石針を砕きながら消滅する。
空中ですれ違った二人が一度屋根に着地し、
双方の遠距離攻撃を交わしながら地面へと降下する。

「!?」

ばいんっ、と、マミが黄色いバネに弾き飛ばされた。
それは、とっさに張ったリボンの渦巻き防御が、
地面から突き出した石の槍をギリギリでガードした結果だった。

「くっ!」

更に、空中のマミの前方でリボンが渦を巻き、
そのバリアを帯びたリボンが
フェイトの放った光線を受けて石化して砕け散る。

「ふむ」

フェイトは、目の前で石の剣に貫かれた巴マミの姿が
一滴の流血も無くリボンのバネと化すのを目の当たりにする。
フェイトは振り返り様、
しゅるしゅると自分に絡み付いていたリボンに石剣を叩き付ける。
マミは弾力のあるリボンからさっと手を放し、
リボンが瞬時に石に変化して砕け散る。


ーーーーーーーー

「おいおい………っ!」

佐倉杏子の口からは、乾いた笑いも出なかった。
近くの空中で、フェイトが石針を、石剣を放ち、
マミがそれを交わし、使い捨て魔法で呼び出すマスケット銃で撃ち砕き、
フェイトが飛んで来るマスケットの銃弾を交わしながら
双方ひなた荘の館から館、茶屋、樹上、あちらこちらへ跳躍する。
そして、マスケットと石剣でガン、ギン、ガン、と撃ち合い砕き合いながら
双方ヒット無しで殴り合い、
又、バババッ、と、大量の銃弾と石針が空中で殺し合う。

「ティロ・フィナーレッ!!!」

降って来た巨大な石柱がマミの大砲の一撃に粉砕された時には、
マミとフェイトはそれぞれ、
空中で身をよじって銃弾と石剣を交わしている所だった。
それを下から眺めた佐倉杏子が大汗を浮かべ、槍を振るう。

「二刀連撃斬鉄閃っ!!」
「野郎っ!」

月詠が小太刀から繰り出す「気」の連続攻撃を、
杏子は大槍の一閃で弾き飛ばす。

「烈蹴斬、弐の太刀いっ!!!」

ずざざあっ、と、杏子の足が後ろへと滑る。

「やっぱ武器は選ばずかよっ」

杏子は、勢いに倒されそうになりながらも、
手槍サイズに縮めた槍の柄で月詠の蹴りを受け止めていた。


「その大槍でうちの動きに付いて来る事が出来る、
いいですなぁ、もっともっとうちの事楽しませておくれやすぅ」
「戦闘狂かようぜえっ!!」

元々自覚的な功利主義者の杏子にとって、
最も面倒臭いタイプに絡まれた面倒がひたすら鬱陶しい。
もっとも、只の功利主義者だけなら
そもそもここにいない事はこの際無視している。

「小太刀の二刀流、ってのがアレだが、
てめぇも神鳴流かよ。
やたら強いし動きも似てやがる」
「そうですなぁ、あの人がなかなかかもうてくれんから
あんたで我慢しとくわ。
なんか、初めておうた気しませんしなぁ」
「てめぇなんか知るかっ!!!」
「そうですかぁ?」

と、意味不明な供述とこの状況で意味不明な甘々ファッションに身を包み、
それでいて意味不明な強さの剣術で襲撃して来る
フェイトのこの際腐れ縁な「月詠」を、
佐倉杏子はひたすら槍を振るって対抗する。

「ざーんてーつせーんっ!!」

跳躍した月詠を、鞭に変化した槍が鎖に変化しながら巻き取ろうとするが、
月詠の小太刀二刀から放たれた「気」がそれを弾き飛ばす。

「ざーんがーんけぇーんっ!!」
「とおっ!」

そして、着地した月詠にびゅうっ、と振るった杏子の槍はひょいと交わされ、
「気」を帯びた爆弾の様な一撃を、
持ち直した槍でバリアを張りながら辛うじて飛び退いて回避する。


「ええですなぁ、まだまだ及ばんけど久しぶりになかなかの手応えや。
あの人かもてくれへんからうちもうたまらんさかい、
もっともっと楽しませておくれやすぅ」
「本気で、うぜぇ………」

杏子が次々繰り出す槍の高速刺突を、
何処ぞのダンスボーカルユニットを一人でやってる様な残像を残しながら、
色白の京女の頬をピンクに染め唇の端から液体を垂らして
ひょいひょい交わしている月詠を前に、
佐倉杏子は、右手の小太刀の柄頭を腹から下に押し付ける様な姿勢で
体をくなくな震わせている大量の月詠の残像から、
魔女とも違う背筋に来る何かを察していた。

「(まとめて)薙ぎ倒おぉすっ!!!」
「あはっ、大振りっ」
「!?」

杏子の横殴りの槍を月詠が跳躍して交わす。
そこまでは普通に予測出来る事だったが、
月詠はたんたーんっとばかりに
「宙を蹴って」杏子の視界から逃れにかかる。
確かに、杏子を含め人間の段階を超えた領域の世界では
あり得る事だと杏子も分かっているが、
訓練された月詠の移動は想像以上に鋭い。

「ちいっ!」

びゅうっ、と、
振り返り様に振るった槍の柄が斬り裂いたのは、残像だった。
杏子が槍を引き、突きの姿勢に入る。
月詠が、その一撃をするりと交わし、懐に入る姿勢に入る。
双方が必殺の一撃を意図した、刹那の時間が重なる。

「!?」
「おや?」

そんな二人に飛来する炎を帯びたブーメランの様な武器を、
杏子はざっと交わし、月詠は小太刀で弾き飛ばす。

「新手のマギカさんですかぁ?
えらい鼻息荒ろうおますけど」


ーーーーーーーー

「このっ!」

さやかが放った剣の一群が、
地面から突き出した木の根にドガガガッと突き刺さる。
その木の根を飛び越えてさやかに向かった炎の塊を、
さやかは剣を振るって牽制する。

「あっつっつっつっつっ!!!」

そして、自分の周囲で着火する空気を二刀流の剣で振り払いながら、
さやかはその大元である「焔」に向けて駆け出す。

「回復魔法を使いながらの突撃。
だが、斬る事に躊躇があるのか?」
「いちお、怪獣ぐらいはぶった斬れる真剣だしね」

さやかの振るう剣を交わしてバラバラと炎をまき散らす
ツインテール少女「焔」の言葉に、さやかは吐き捨てる様に言った。

「所詮、平和な世界の甘ちゃんか」
「否定はしないけど、でも、ま、色々あるんだわっ!」

焔が跳躍し、さやかが放った剣がその下を突き抜ける。
びゅうっ、と、炎の帯と剣が交錯し、
ざっと距離をとって睨み合うさやかと焔。


「大体、なんであたしが二対一なのよっ!?」
「貴様如き私達で十分と言う事だ」
「………まあ、理解は出張る、けどさあっ!!!」

宇を舞う黄色い先輩が
ドンドンドンドンドンと巨大なマスケットを上空へと発砲し、
空から降り注ぐでっかい石柱が砕け散り、
更に巨大なマスケットと言うかなんと言うか
大砲の一撃と共に大量の砂が爆散し
黄色い先輩のマスケットと学ラン白髪の石剣が
ガンギンガンと砕き合う天空の1シーンをさやかはチラッと伺い、
さやかの振るった二刀が放つバリアが焔の炎を弾き飛ばす。

「こんのっ!!」

そして、地面を突き破りさやかを締め上げにかかった木の根を、
さやかの剣が回転二刀流で破片に変える。

「あいつは?」

その瞬間の攻撃を覚悟していたさやかの目が、
「焔」を探して周囲を伺う。


「ふんっ!」

三節棍の何倍かも分からない多節棍が
じゃららーっと一つにまとまり、槍へと変化する。

「こっちの方は、少しは出来るのか?」
「ま、あのヒヨッコよりはな。
ついでに言っとけば、そこそこハングリーだし」

焔の言葉に、槍を担いだ杏子が言葉を反してニッと笑った。

「なんだ、へばってんのかよ?」
「だからー、にーたいいちだってーの。
大体あんた、あっちはどうしたの?」
「ああ、通りすがりの武者修行に任せて来た」

肩で息するさやかの問いに、杏子が親指を後ろに向ける。

「いいからいいから私に倒されっチャー!」

「あはははっ! その動きも猪さんですなぁ、
勢いあって意外とお利巧。
牡丹鍋ぐらいは楽しめそうやっ!!」

さやかと杏子は、背中合わせになる。

「じゃあ、あいつの事頼める?」
「あんたは?」
「あっち、片付けて来る」

何が気に入らないのか、
既に得体の知れない植物ゾーンと化した一角の向こうに
さやかが剣呑な視線を向け、
杏子は唇の端に笑みを浮かべて跳躍した。

==============================

今回はここまでです>>647-1000
続きは折を見て。

お詫びと訂正です

>>283
恭介が驚きの声を上げる隣で、
仁美が力強くこちらを見るのを刹那は見ていた。

地面に戻った後、恭介が驚きの声を上げる隣で、
仁美が力強くこちらを見るのを刹那は見ていた。

>>509

膨大と言ってもいいぬいぐるみが
夜の博物館の棚に陳列されている光景にマミと裕奈が言葉を交わした。

膨大と言ってもいいぬいぐるみが、夜の博物館の
棚やガラスケースに陳列されている光景にマミと裕奈が言葉を交わした。

訂正以上、すいませんでした。

それでは最終回投下、入ります。


==============================

>>658

ーーーーーーーー

(時間稼ぎ)

率直に言って、青山素子は哀れみを覚えていた。
暁美ほむらはスタン・グレネードを使って時間を稼ぎ、
素子から距離を取った。

客観的に言って、神鳴流剣士、
それも頂点にいる素子を倒すには白兵戦以外あり得ず、
現状のこの対戦での比較で言えば、
ほむらのそちらの素質、実力は絶望的だ。

先にも素子自身が言った通り、この実力差では、
例え一瞬、どんな隙があったとしても、
もちろん暁美ほむらのスタイル、能力を踏まえた上で、
ほむらが素子の髪の毛一筋触れた時点で
叩きのめされるのはほむらの方だ。

その僅かな時間稼ぎの間に、
ほむらは右手に持ったグリーフシードをしゅっと投げ捨てていた。
そして、ほむらが構えたのは木刀だった。
素子から見たそれは、見様見真似の正眼の構え、
それ以上でもそれ以下でもない。

とん、と、素子が跳んだ。
これで何度目か、周り一帯で爆発が起こる。
素子がすいと身を交わす。
大振りせず、脇構えからの突きを選んだ辺り、
流石に実戦経験だけはあると言う事か。

ではこちらも実戦で、と、素子はほむらの背中を無造作に蹴り飛ばす。
地面にダイビングしたほむらが木刀を杖に立ち上がるのを見て、
素子は構え直した。

「神鳴流奥義・ざんが………!?」


ーーーーーーーー

「ティロ・フィナーレッ!!」

空中で、巴マミが抱えた大砲としか言い様の無いマスケットが
マミに迫る石柱を撃ち砕き、
マミの体はその反動で地面へと向かう。

「ヴァーリ・ヴァンダナ………」
「!?」

そして、水柱を上げて露天風呂に落下したマミが周囲を見回すと、
大量の掌がマミに掴みかかっていた。
それは、固形化した温泉で、
触手状に固形化した大量の温泉の先端に掌がついて
生物の様に蠢きマミに迫る。

「!?」

そして、マミは察する。
今ここに迫る灰色の霧に込められた禍々しい魔力を。

ーーーーーーーー

露天風呂が見た目観光間欠泉と化した爆発を目にしながら、
ファイト・アーウェルンクスが浴場にとん、と着地する。
その時には、空中に渦巻いた大量の石剣が
露天風呂を埋め尽くす勢いでドドドドッと降り注いでいた。

(ふむ)

そして、フェイトはするりと体をよじる。
その上を、強力な二発の銃弾が突き抜けた


「紙一重だったわね、
もう少しで体ごと彫刻にされてたのかしら?」

マミが一挺ずつ両手に持ったマスケットが消滅し、
それと共に、マミの体にまとわりついていた灰色のリボンも砕け散る。
そしてフェイトは気付く。
露天浴場の中を、フェイトを包囲しながら
今尚増殖して埋め尽くす膨大な黄色いリボンを。

「まだだめよ、まだだめよ。
まだだめよ、まだだめよ。
まだだめよ………」

「契約により従え、奈落の王!!
地割れ来れ、千丈………」

ーーーーーーーー

「おい」
「ああ、うん、考えたら負けな奴だ」

ひなた荘前で、フェイトの従者「焔」と佐倉杏子が、
露天風呂の方向から察知した
天地を揺るがす何かに就いての見解をすり合わせる。
そして、相変わらずの不快音に顔を顰めた。

ーーーーーーーー

美樹さやかは、不快音と共にさやかを襲う衝撃波を
たんたんーっと交わしていた。
異様なジャングルと化しつつあるひなた荘周辺の一角で、
さやかの体がぶるるっと回転し、その両手に握られた刀が
地面から彼女を締め上げようと迫る木の根木の枝を斬り飛ばす。

「とおっ!」

そして、フェイトの従者「調」に身軽に迫るが、
さやかが調に飛び掛からんとしたそんな二人の間に、
ぼこっ、と樹木が突き上がる。
ぼん、ぼん、ぼんっと、地面から突き出す木々がさやかを襲い、
さやかはそれを交わし、斬り飛ばして調に迫る。


「このっ!」

さやかが右手から放った刀が、地面から突き上がった樹に突き刺さる。
それを楯にした調がささっと移動し、
不快音と共にさやかに向けて衝撃波を放った。

身をよじったさやかを衝撃波が吹き飛ばし、
さやかの背後に現れた樹にさやかの背中が激突する。

「つ、っ………このっ!!」

ずるずると頽れたさやかを、
地面から伸びた硬い蔦の群れが拘束しようとする。
さやかは、剣を両手持ちにして力任せにそこから逃れる。
そこに襲い掛かる調からの衝撃波を、さやかは大きな跳躍で交わした。

(デタラメな)

跳躍したさやかが遥か上空から放つ剣に、調は心の中で呟く。
果たして、ヒュンヒュンと降り注ぐ剣は
調が呼び出した植物や地面に悪戯に突き刺さるだけだ。
さやかの着地を狙った衝撃波を、さやかは横っ飛びに交わす。

「!?」
「見えて来たんだよねー」

そして、さやかは、さやかを縛るために伸びる太い木の根に
刀の刃を叩き込み、更にその勢いで飛び上がる。
さやかは、魔法少女の馬鹿力を利用して、
次々とさやかを襲う木の根に刀を叩き込み、食い込んだままの刀を梯子代わりに
ひらりひらりと巨大植物の上へ上へと舞い上がっていた。

「くっ!」
「あらよっ!!」

その事に気付いた調が放った衝撃波も、
さやかは手近な植物を足場にひらりと交わす。


「あんたのリズムっ!!」

そして、地面に突き刺さった刀の柄から柄へとたんたーんっと跳躍していた。

「く、っ!」
「そいっ!」

勢いをつけて跳躍をしたさやかを調が狙う、
その時には、さやかは調の背後に回って
調の脚を刀の棟ですぱーんと払っていた。

「つっ………」
「あんたはあたしを怒らせた」

そして、さやかは竜の角を誇るフェイトの従者、調から
得物を取り上げ仁王立ちして見せた。

ーーーーーーーー

「なん、ですか?」

京都桂川の川辺で、綾瀬夕映が呻いた。
そこでは、美国織莉子が両手を上げ、微笑んでいた。
それを見て、織莉子と対峙していた宮崎のどかもふっと力を抜く。

「流石に、厳しかったわね」

たった今までのどかの前に延々と無言で突っ立っていた織莉子が
使用したグリーフシードをひゅっと放り捨てる。
そして、織莉子の前に延々と無言で突っ立っていたのがのどかだった。

「で、これどうするの?」

腕組みした朝倉和美が言い、その隣で長谷川千雨が額に手を当て嘆息する。
二人の前では、フェイト従者の猫耳娘「暦」と呉キリカが、
「暦」が自分の得物を突き出し
キリカが飛び掛からんとしている状態で静止していた。


「大丈夫ですか、のどか?」
「う、うん、大丈夫」

夕映に支えられ、のどかがよろりと立ち上がる。
単純戦闘力だけで言えば、夕映が介入する隙は幾らでもあった、
と言うか、実際夕映が動いた事もあるのだが、
その度に水晶球による完璧なカウンターを返され
却ってのどかを危険に晒した、と言うのが実際だった。
そんなのどかに、織莉子がざっ、ざっ、と接近する。

「大丈夫だから」

のどかは、夕映を制して織莉子に静かに近づく。
だが、織莉子とのどかがすれ違った途端、
のどかはすとん、と、膝をついた。

「のどかっ!!」

駆け寄った夕映は、真っ青な顔で荒い息を吐くのどかを見た。

「のどか? どうしたですか? 何かされたのですかっ!?」
「け、ないと………」
「?」

「すけ、ないと………ネギせんせー、
ネギせんせー、これから、ずっと、ずっとずっとずっとずっと
ずっとずっとずっとずっとネギせんせーの事………」

「え、ええ、そうです、ネギ先生の事を、
私達がネギ先生の事を支えて、支え続けてっ」


「おいっ!」

長谷川千雨が、のどかから離れた織莉子にざっと駆け寄る。

「本屋をどうかしたのかっ!?」
「世界の真実に近づいたのでしょう」

織莉子が、つらっと言った。

「彼女は強い娘なのですね。
それが彼女の世界の全てなら、
彼女は彼女の救世を貫くのでしょう。
私は、私の救世を成し遂げる」

通り過ぎる美国織莉子を、千雨は見送る事しか出来ない。

「のどかー、ユエー」
「ハルナっ!?」

聞こえて来た声に、のどかと夕映が振り返る。
そちらからは、手を振る早乙女ハルナと
にこにこ微笑む近衛木乃香が姿を現していた。

「朝倉から聞いてね、あんたらがこっちに来てるって。
それで、一っ飛びでこっち来てぶらぶらしてたんだけど、
あんたら見つけたって報せがあってさ」
「そうでしたか」

ハルナの説明に、夕映とのどかがははっと乾いた笑いを見せる。


「で、用事は済んだ?」
「うん」
「そっか」

のどかの返事に、ハルナはニカッと笑った。

「じゃ、新京極で餡蜜でも食べてこっか」
「そうですね」

夕映がふっと笑ってハルナに答える。
そして、同じクラスの図書館探検部が四人、
合流してわちゃわちゃ楽しそうに歩き出す。
その様を眺め、千雨は呟いた。

「………これで、良かったのか?
ネギ先生? ………」

親し気な旧知のグループ、長谷川千雨の学園生活には、
少なくともつい最近迄は余り縁の無かったもの。
そんなものに背を向けた千雨が、つと天を仰いだ。

「神楽坂のいない世界。
死ぬ程世話が焼けそうだ」

ーーーーーーーー

「な、っ………」

素子が、瞬時にほむらとの間の距離を詰める。
ほむらの体は、素子の放った斬岩剣によって甚だしく吹き飛ばされていた。

(まともに食らった、いや、無策に突っ込んで来ただとっ!?)

「おいっ!? ………!?」

ほむらに覆い被さった素子は、次の瞬間、
ほむらの右手を掴んでいた。
素子は見ていた。カッ、と、見開かれた暁美ほむらの目を。
その時、近くの空が鋭く裂ける気を素子は察する。


「う、ぐ、っ………」
「まだ動くっ!?」

ほむらの腕の力が、むしろ強まったのを素子は感じていた。
それでも、素子はほむらの腕の動きを簡単に封じ込め、
ざんっ、と、空から降りて地を踏みしめた脚を素子が見た時には
どんどんどんっ、と響く銃撃と共にほむらは首を横に折っていた。

「ゆーなさんっ!? これって、まさかっ!?」
「大丈夫、麻酔みたいなもん。
なんかしぶといから象でも倒れるって感じでやったけど、
マギカなら大丈夫でしょ」

「元の傷の方が問題だ、
マギカだから生きてはいるが、中身は見た目以上にまずい事になってる。
外傷が限界と言う事は、ソウルジェムも限界を超えるぞ」
「分かったっ!! ちょっと待ってよ転校生っ!!」

駆け寄ったさやかが明石裕奈と素子からの説明を受け、
慌てて対処を始める。

「魔法協会か?」
「はい。明石裕奈です」
「青山素子だ、助かったよ」
「って!? ちょっと、その腕っ!?」
「大した事はないさ………彼女に比べれば尚の事だ」

素子がぶらんと下げた左手の指先から伝い落ちる赤いものに裕奈が気づき、
座ったまま後ろを見たさやかも目を見開く。

「これ、か」
「エンゲージしては物騒だね」

さやかがほむらの右手薬指に気付き、
駆け寄った裕奈が、そこから伸びる折り畳み鎌刃に顔を顰める。
その手は、十分過ぎる血に染まっていた。


「神鳴流には飛び道具は通用しない。
彼女は、私の斬岩剣に敢えて突進して来た」
「………自爆技?」

ほむらに向けて青い光を向けながらのさやかの呟きに
素子が頷いた。

「そっか………魔法少女は痛みを完全に消せる、
体が幾ら壊れても修復出来る………」
「優しいんだな」
「?」
「君が痛そうだ」

素子の言葉に、さやかは小さく頭を下げた。

「それじゃあ、素子さん腕出して」
「ああ、助かる。実際の所結構痛い」
「いや、色白美人ってレベル
通り越し始めてるから、早くしてあげて」

冗談ともなんともつかぬ言葉を交わしていた
三人が首を動かした視線の先で、低空飛行の火の玉と1BOXカーが
猛スピードの正面衝突ルートで突っ込んで来ていた。

間一髪、1BOXカーは奇妙な圧力で正面衝突を回避し、
明後日の方向へと消えて行く。
火の玉は一度お星様になる勢いで斜め上に上昇してから
車の後を追う様に戻って来た。


ーーーーーーーー

「おい、大丈夫かっ!?」
「ええ、何とかね」

辛うじて痕跡を留めている露天風呂の中で、
佐倉杏子の声を聞きながら巴マミは頭を振っていた。

「なぁにやってんだよっ、
魔女の結界じゃあるまいに加減ってもん考えろ」
「考えてたら、今頃私はブロンズ像か肉片ね」

マミがキッと視線を向けた先では、
半ば煤の塊と化したフェイト・アーウェルンクスが
余り実戦向きではない従者である栞から
恭しく差し出されたスマートフォンを受け取っていた。

「我々が戦う理由は無くなったらしい」
「あらそう」
「まー、正直関りたくねー」
「賢明だな」

嘆息した杏子の言葉にフェイトの従者「焔」が言い、
マミは、鼻を鳴らして差し出した杏子の手を遠慮なく掴む。

マミの背後で、露天風呂が落下物の水柱を上げた。
少し離れた場所で、何かを言う間も無く突入して来た1BOXカーが
フェイトの右手の前で強制停車する。

マミがくるーりと振り返ると、
眼鏡の男が湯の中から顔を出す所であった。
マミの左手がちゃきっ、と、マスケットを掲げ、
杏子が槍を小脇に抱えた。


「あ、どうも、お久しぶりです」

もう一度、露天風呂に水柱が上がった辺りで、
露天風呂に飛び込んで来た火の玉が、
リットル記号を描く様に上空に飛び上がり、
戻って来てようやく着地した。

「何やってんだ、お前?」

杏子が、しごく簡単な問いを発する。

「やぁーっと止まりました。大至急の到着の為に
無理くり魔力供給して来たもので。
あ、どうも、お久しぶりです」

今にも胃袋が引っ繰り返りそうな顔で
ふらふらと近づいて来た佐倉愛衣が
薄目を開けながらもぺこぺこ頭を下げていた。

ーーーーーーーー

「ひいいいっっ!!!」

さっき1BOXカーが突っ込んだ方向から戻って来た眼鏡男の姿に、
裕奈が悲鳴を上げて後ずさりする。

「余力があるならあっちも頼めるか?」
「りょーかい」

それに対して、素子は慣れた口調でさやかに頼む。
取り敢えず治癒魔法とグリーフシードでほむらの窮地を脱して
素子の治療も済ませたさやかもそれに応じて、
頭からダクダクダクと流血しながら接近して来る眼鏡男を迎えた。

「ああ、有難う」
「どうも」

成人過ぎの年上の男性のお礼にさやかもぺこりと頭を下げるが、
当たり前に治癒魔法を受けている辺り、
只者ではないともさやかは思う。


「素子ちゃん、頼まれてたもの。
伝承の中の天変地異の記録を
その解釈から調べ直したら色々出て来たよ」
「そうか、有難う。助かったよ」
「ん?」

露天風呂を出てさやか達に合流しようとした杏子は、
隣のマミが浮かべた生温かい微笑みに気付く。
視線の先にいるのは青山素子、
先程露天風呂に突っ込んで来た眼鏡男に資料を渡され、
ぶっきらぼうに形式的なお礼を述べている様にも見えるが。

「確かに」

杏子も、ニッと笑みを浮かべた。
杏子の心の目にも、
素子の柔らかな微笑みが透けて見えていた。

「ん、んっ」

素子の咳払いを聞き、
マミは臍下丹田に根性を込めて真面目な顔を作る。

「そこまでですっ!!!」

杏子とマミが、最近聞き慣れた声に振り返る。
果たしてそこにいたのは佐倉愛衣で、
杏子達を追って来て、丸で箒に縋り付く様にしながらも
精一杯の大声を張り上げていた。

「ああ、久しぶりだな」
「お久しぶりです」

素子の言葉に、愛衣が頭を下げた。

「戦闘を中止して下さい、もう無意味です」
「中止以前に終了してるみたいだけどな」

杏子の言葉を聞き、愛衣は右見て左見てこほんと咳払いをする。


「葛葉刀子先生を仲介に、桜咲刹那さんが正式に投降を申し出、
東西近衛家もそれを了承して計画は正式に中止しました。
「白き翼」から単独行動をとっていた
綾瀬夕映さん、宮崎のどかさんの離脱も確認。
これ以上の抵抗は無意味です」

「承る。御苦労だった」
「有難うございます」

素子の凛とした言葉に、愛衣が改めて頭を下げた。

「本当に、決着なのかしら?」
「そうだな」

マミの問いに素子が答えた。

「これから、近衛家と協議して改めて釘を刺す事になるだろうが、
組織として、近衛家として計画を進める事は最早不可能だ。
君達魔法少女には随分と迷惑を掛けて済まなかった」

「あなたは偉い、立派な方なのだと思います。
だから申し上げ難いのですが、この様な事は無い様にお願いします。
組織立って動いているあなた達を見て改めて思いましたけど、
魔法少女はそれぞれが自分達の為に願いを叶えて力を使っている本当の子ども。
私達だから未だ良かった事で、
今後、こんな事があれば今度こそどうなるか分かりません」

「耳が痛い。魔法、呪術に関わる者が申し訳なかった」
「いえ、こちらこそ生意気を言いました」

素直に応じて頭を下げる素子とそれに倣う愛衣を前に、
マミも頭を下げて応じる。


「それから………」
「ん?」

「難しいかも知れませんが、桜咲刹那さんの事。
私から見て、その大半は本心だったのだと思います。
魔法少女を利用した、と言いながら、
私達を一時期の仲間と思って共に命を懸けた事も」

「大事な友達を助けるため、只それだけのために。
そのためならまどかや魔法少女に恨まれても
ルール違反で組織から追及されても、
あの真面目で優しい刹那さんがそれでもやろうとした。
それだけ大事な友達だったんだって」

マミの言葉に、さやかも続く。

「彼女にとっても、そうだったのかな?」
「詳しくは聞いてないけど、多分………」

素子が意識を失い横たわったままのほむらに視線を向け、
さやかもそれに同意した。

「分かっている………
刹那には、生まれた時から幾度も重いものを背負わせて来た。
刹那はそれに応えてくれた、本当にいい娘だ。
そんな刹那が、命懸け、その気高い心を汚してでも我が儘を通そうとした。
穏便に収めてくれた事、改めて礼を言う」

頭を下げる素子の言葉に、マミとさやかも礼で応じる。

「だが………」

ふと天を仰いでの素子の言葉に、マミ達は身構えた。


「星が告げている」
「もしかして、陰陽術ですか?
星占いの?」

マミの言葉に、素子はふっと口元を綻ばせる。

「見滝原、なんだろうな」
「いい星?」

素子が呟き、マミの問いに素子は首を横に振る。

「大きく、禍々しいものが見滝原に迫っている。
神鳴流の歴史の中でも幾度か見られたものだ」

マミ達の表情が強張る中、
素子は、もう一度ほむらの顔を見た。

「………自分の願い。
未だ幼い身と心で、己の真実のために契約し、
命を懸けて魔法を使う少女達。
その道の先輩として、大人として人として、
不干渉、とばかりも言っていられないかも知れないな」


 ×     ×

「あれっ?」

平和な放課後、麻帆良学園女子中等部エリアの一角で、
柿崎美砂は発見していた。

「ネギ君とアスナ?」
「あ、ホントだー」

隣にいた椎名桜子が美砂の視線の先を見ると、
確かに、ヨーロッパ風石畳の歩道を、
見知った可愛い男の子と長い付き合いのツインテール同級生が
仲良さそうに談笑して歩いていて、
そこにもう一人学ランの男の子も加わっている。

「ネギくーん、アスナー」
「あ、桜子さん」

桜子が快活に呼びかけて手を振ると、
ネギ・スプリングフィールドがそれに返答して神楽坂明日菜もそれに倣う。
「しばらく、アスナ、ネギ君」
「しばらく、柿崎」
「戻りました、留守にしてすいません」

ぱたぱたと合流し、美砂とネギ、明日菜が言葉を交わした。

「よっ、くぎみー姉ちゃん」
「くぎみー言うな」
「コタロー君も一緒に?」
「いや、さっきおうた所や」

桜子達と一緒にいた釘宮円と犬神小太郎の掛け合いを後目に
美砂がネギに尋ね、小太郎が説明した。

「ネギ先生、明日から学校?」
「はい、少ししたら又出張になりますが」

美砂の質問へのネギの返答に、
チア三人組はきゃーっとハイタッチする。


「んー、又いなくなっちゃうのネギ君?」
「担任なのに申し訳ないです」
「まあー、ネギ君の事だからあんまり無理しないでよ」
「はい、有難うございます」

桜子、円とネギの会話をにこにこ眺めていた明日菜が、
右肩をぽんと叩かれて振り返る。

「これ、こないだメールで言ってたの」
「ありがとー、聞きたかったんだ。
ちょっと長く借りる事になるけど」
「いーよいーよ、こっちのちゃんとあるし」

明日菜が美砂からMDを受け取り、少しの間続く会話に、
明日菜もネギも他愛も無いと言う事の価値を噛み締めていた。

ーーーーーーーー

「ん? 夏美姉ちゃん?
ああ、帰ってる………買い物? ああ、分かった」

小太郎が、途中で手にしたスマホの通話を終える。

「ああ、ちょっと約束入ったさかい」
「分かった」
「行ってらっしゃい」

かくして、明日菜は小太郎と分かれ、ネギと共に歩き出す。
そして、ダビデ広場に差し掛かった辺りで、
ネギがたたたっと駆け出した。

「?」

明日菜がネギの行先に視線を向け、くすっと笑みを浮かべる。
かくして、神楽坂明日菜は、メガロ饅頭が後頭部に炸裂し、
最強の魔法の英雄が絶好調のチサメパンチに宙を舞う夫婦漫才を
大汗を浮かべて眺めていた。
そして、明日菜はこちらを向いた長谷川千雨に笑って手を掲げ、
千雨は、ちょっと首を傾げる様にして、照れた様にはにかんだ。
そんな千雨を背伸びする様に眺めていたネギに千雨が向き直り、
千雨がぷいっとそっぽを向くのにネギがつつつと合わせて移動する。


「アースナッ!」

そんな様子をにこにこ眺めていた明日菜が、
幼馴染の朗らかな声を聞いて振り返った。

「只今、このかっ!」
「お帰りアスナ」

振り返り、元気良く手を振った明日菜に、
木乃香も元気良く、それでいて何処か品よく返事を返す。

「只今、刹那さん」
「お帰りなさい、アスナさん」

神楽坂明日菜は、温かな微笑みに迎えられた。

「見滝原に微笑む刹那」 -了-


==============================

―後書き―

冒頭でお断りした変更点は、季節の事です。
まどかマギカは初夏なのですが、
ネギま!側はストーリー的に夏休み明けが必須でしたので、
後者に合わせさせていただきました。

さて、何を思って本作に手を付けたのかと言えば

流石に是は、ちょっとばかし叛逆したくなりました

「ネギま!」と「まど☆マギ」の組み合わせは
何時かやってみたいな、とは思っていたのですが、
「UQ HOLDER!」12巻ラストに当たるものを連載で見た時に、
これは、行くしかないなぁアハハハハ、
と、こちらの勝手で完全に不退転スイッチが入った次第。

しがない二次書きとしても少々思い入れのある二つの作品で、
涙を呑んだ娘と、決して諦めなかったが為に悪を成し悪に成った娘、
そんな物語がぎくしゃくと連結して
いっぺんやってみたくなった、と言う事です。

若干の楽屋話をしますと、
「駒が不足しましたからね」と言うのは正にその通りで。
この流れだと動かせる人間は限られる。結果、やはり確実なのは
「全知全覚コンビ」と言う事で、おおよそ考えた人選でも直接的な部分で
駒が足りない。それで辿り着いたのが本作の布陣と言う事で。
それでよくよく考えて見ると、内容から言ってあのグループ以上の適任者は
実はいなかったと言う行き当たりばったりぶり。

思惑の絡むストーリーで、出来るのは帳尻合わせだけ、はい、マジすいません、
な感じでキャラを動かし話を進めて行く内に、
なんか折々読み返すと色んな人のage sage乱高下が想像以上の弾けっぷりで
我ながら大丈夫か? となったり、最終決戦では懐かし過ぎる原作の二次を
うろ覚えでやるとこうなる、と言うのを覿面にやらかしてしまったり。


本作を作ると決めた時には2017年夏迄には、と考えたりもしましたが、
この手の予定が当たった試しがない私が、色々と頭を抱えっぱなしの
凸凹進行と言う事になりまして。

そんなこんなでこちらがもたもたしている間に、
UQの原作の方が本命確定やらBADENDやらで
大変な事になってしまいましたが。

プロットは大方出来ていた筈なのですが、個人的事情もあって
本作最終回前に筆が止まり、UQ17巻分の原作に触れて
ようやく何かが腑に落ちての一挙投下作となりました。
何よりも、頭に浮かぶ微笑みの場面を文字にしようとする度に、
私の筆の力不足を痛感するばかり。
原作の偉大さを改めて仰ぎ見ながら、なんとかかんとかここまで漕ぎ着けた。
とにかく今回は、どう動く? 本当にそうするのか? 
二次としても把握出来ているのか? と、しまいまで迷いっぱなしで、
後はもう読む方が感じる事、と言うのが実感です。

少々お喋りが過ぎました。ここまで読んで下さった読者様と
勝手にお借りした原作に敬意と感謝を込めて。
縁がありましたら又何処かでお会いしましょう。

本作はここまでです。HTML依頼は折を見て。

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