店のおじさん「毎日毎日……たい焼きを焼く……」客「焼きすぎだよォッ!」 (24)


おじさん「毎日毎日……」ジュゥゥゥ…

客「あのー」

おじさん「わしは……」ジュゥゥゥ…

客「もしもし?」

おじさん「鉄板で……」ジュゥゥゥ…

客「おじさんってば!」

おじさん「たい焼きを焼く……」ジュゥゥゥ…

客「焼きすぎだよォッ!」


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おじさん「……」ジュゥゥゥ…

客「さっきからずーっと同じたい焼き焼いてるじゃん!」

客「もう真っ黒焦げになってるよ、それ!?」

おじさん「……」ジュゥゥゥ…

客「聞いてるのかよ、おじさん!」

通行人「……やめときな」

客「え?」


客「なんだよあんた?」

通行人「実はな、あのおじさん……ついこないだ事故でお子さんを亡くしたんだ」

客「え……!?」

通行人「それ以来、ああなっちまったのさ」

通行人「黒焦げになったたい焼きをいつまでも焼くようにな……」

客「そうだったのか……」


客「でもショックで寝込むとかならともかく、なんでたい焼きを焼き続けてるんだよ?」

客「いや、あんな真っ黒焦げでたい焼きとは呼べない代物を……」

通行人「それは俺にも分からねえ」

通行人「とにかく……今はあのおじさんに何いっても無駄だ」

通行人「時が解決するのを待つしかない……」

客「……」


おじさん「毎日毎日……」ジュゥゥゥ…

おじさん「わしはたい焼きを焼く……」ジュゥゥゥ…

おじさん「鉄板で……」ジュゥゥゥ…



おじさん(息子よ……)


~回想~

少年「おとーさーん!」

おじさん「んー?」

少年「ねえねえ、ぼくもお父さんみたいにたい焼きの生地作ったの!」

少年「これでたい焼き焼いてよ!」

おじさん「どれどれ……」


おじさん「なんだこりゃ!?」

おじさん「あちこち、“だま”だらけで、こんなのとても使えないよ」

おじさん「毎日わしがたい焼き作ってるとこ見てるのに、どうしたらこうなるんだ?」

少年「せっかく作ったのに……」

少年「お父さんのバカーッ!」タッ

おじさん「お、おいっ――」



キキーッ! ドンッ……


おじさん(息子よ……すまなかった……)

おじさん(あの時わしがお前の生地をけなさず、焼いていれば……)

おじさん(お前は死ななくて済んだのに……!)

おじさん(なんで焼いてやらなかったんだ……!)

おじさん(わしはあれからずっと……お前が作った生地を焼き続けてる……)

おじさん(だから……戻ってきておくれ……)

おじさん「ううっ……うううっ……」ジュゥゥゥ…


ブスブス…

おじさん「!」

おじさん(黒焦げになったたい焼きが……ついに炭みたいになってしまったか)

おじさん(だが関係ない)

おじさん(わしは……焼き続ける)

おじさん(それがわしがお前にできる、唯一の償いだ……)


シュゥゥゥ…


おじさん「――ん?」

おじさん(焼きすぎたたい焼きが、ついに黒い煙になって……)


モクモクモク…


おじさん(なんだ? 煙が集まって、人の形に……?)


少年『……お父さん』

おじさん「!?」

おじさん「おお……おおっ……! 戻ってきてくれたのか!」

少年『お父さん……ぼくが作った生地を、こんなになるまで焼いてくれてありがとう……』

少年『だけど、もういいんだ』

おじさん「!」


少年『ぼくが車にひかれたのは、お父さんのせいじゃない』

少年『急に道路に飛び出したぼくが悪いんだ』

少年『だからもう、自分を責めないで』

おじさん「そんなことない! わしのせいなんだ!」

少年『それにさぼく、お父さんがちゃんとしたたい焼き焼いてるとこが見たいんだ』

おじさん「うっ……」


少年『ぼくは天国で楽しくやってるから心配しないで』

少年『だからお父さんは、おいしいたい焼きを焼き続けてよ。ぼくのためにも』

おじさん「……くうっ」

少年『ぼく……お父さんのたい焼き……大好きだよ……』シュゥゥ…

おじさん「あっ、行かないでくれ!」


 大好きだよ……

 お父さん……


おじさん「行かないでくれぇぇぇっ!」


おじさん「いらっしゃい、いらっしゃい! おいしいたい焼きはいかがですかー!」

ワイワイ… ガヤガヤ…

客「うまい! あの店のおじさんのたい焼きはやっぱり最高だな!」

通行人「ああ、立ち直ってくれてよかったよ」



おじさん(息子よ……これからもわしは毎日おいしいたい焼きを焼き続けるよ)

おじさん(だから天国から見守っててくれ……!)







おわり

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