本田未央「好きだ、」 (162)


※このお話は単体でも読めますが、↓のお話とそこはかとなく繋がっております。
本田未央「大雪と停電の夜」
本田未央「大雪と停電の夜」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1482068326/)
本田未央「もう少し、あと少し」
本田未央「もう少し、あと少し」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1483853858/)



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1485515713


P「俺、異動するから」

新年早々、事務所に爆弾が投下された。

卯月「えっ!?どういうことですか?」

幸子「そんなこと!ボクは聞いてないですよ!!」

P「まあまあみんな落ち着いて…ってこら噛みついてくるんじゃない小梅」

相変わらず何の前振りもなく問題発言をするからこのプロデューサーは困りものだねぇ。

凛「ふーん。……で?」

うわっ、しぶりんむっちゃこわっ!目が全然笑ってない。

P「実はアイドル部門も規模がでっかくなってな、上の管理職が足りないんだとさ」

P「それで俺みたいな若造でも上に上がれることになってな」

凛「へえー」

卯月「じゃあもう私たちのプロデュースはしてくれないんですか?」

P「んー、まあ直接プロデュースすることは少なくなるな」


一斉に事務所中が騒がしくなる。そりゃそうだ。今まで一緒に頑張ってきたプロデューサーが居なくなるんだから。

P「えっとな、うーん」

未央「まーまーみんな落ち着こうよ!まずは昇進おめでとう、でしょ!?」

凛「そうだけれど…」

P「大丈夫だから。上に上がってもみんなの面倒はちゃんとみるから」

卯月「……ほんとうですか?」

P「もちろん。俺を誰だと思ってるんだ?みんなのプロデューサーだぞ?こんなに個性的なアイドル達を面倒見れる奴が他にいるか?」

凛「それはそうだけど…」

幸子「……何でボクをみてるんですか?」

P「新しく来るプロデューサーもいいやつだから心配するなよ。俺よりイケメンだぞ?」

凛「うーん…」


少しずつ、少しずつだけれど最初の衝撃が薄れてきている。まあそりゃそうだ。
そもそも異動なんて社会人として当然のことだろうし、私だって小学校の担任が異動になったりして、大泣きしたこともあったけど何だかんだ言って新学期にはコロッとしていたりしたし。

それに昇進してもみんなの面倒見てくれるって言っているし、そもそも永遠に会えなくなるわけじゃない。

それぞれ抱いている想いはバラバラかもしれないけれど、ちょっとずつ受け止め始めていた

卯月「それで…いなくなっちゃうのはいつなんですか?」

P「そうだな…三月いっぱいだな」

三月いっぱい…か。

このプロデューサーと一緒に仕事出来るのも、あと三か月。


P「そういう訳だから、みんなよろしくな」

パンパンと手を打って話を無理矢理終わらせて机に戻っていった。まだ何か言いたげなアイドル達は机に詰め寄って色々話をしていたが、結局煮え切らないものを抱えながらも引き上げて来た。

会社の決定、言ってしまえばそれだけの話。所属アイドルにどうこう出来る問題じゃない。

そう、どうにか出来る問題じゃないんだ。


ずきん…


あれ?なんだろうこの気持ち…?

少しだけ胸が痛い…

ははは…学校の先生が居なくなる時もこんな感じだったっけ?

そんなこんなで、私たちの長いようで短い三か月が幕を開けたのだった。


・ ・ ・

幸子「みんなで抗議しちゃえばいいんじゃないですか?」

輝子「フヒ…親友にも迷惑…かけてしまうぞ?」

小梅「うん…みんな困っちゃう…」

幸子「まあそうですよね」

小梅「やっぱり…あの子に……ふふふ」

さて、プロデューサーの異動発言から三日たった。
あの時居なかったアイドル達にも話が行き届いて何かとざわざわしていた事務所だったが、今は落ち着いてきている。
どうやったらプロデューサーの異動を取り消せるかトークがいたるところで聞こえる。

ただ…

幸子「やっぱりプロデューサーがボクのカワイイところをみんなに広めたからですよ!フフーン!」

輝子「親友の…新しい机の下でも……キノコ育ててもいいのかな?」

小梅「あの子も喜んでる…よ」

まあこんな感じでどれも本気トークじゃなくて冗談の一環みたいなものだったりする。
…おそらくガチな人たちは事務所でそんな話しないし


ガチャ

P「おーい。ちょっとスケジュールの話したいんだけれどいい?」

未央「おっ!了解!」

P「凛と卯月は?」

未央「トレーニングルームで自主トレって言ってたよ?」

P「あれ?見かけなかったけど」

未央「あっれー?」

うーんあやしい…
ふたりともプロデューサーにスカウトされてこの事務所の最初期からいるし、色々思うところがあるんだろうな…
まあこの未央ちゃんも同じ時期に入ったんですけどね。


P「悪いけどちょっと探してきてくれる?」

未央「へいへい」

ポケットから携帯を取り出してグループにメッセージ送信っと
すぐ既読が付いたら多分下のカフェ、付かなかったらサボりかな?

んー、つかないな。じゃああそこかな?

未央「ちょいっと外出るねー」

P「了解」

よいしょっと。さすが我らがプロデューサー、何にも言わなくても察してくれるね。
マフラー巻いて上着も羽織って防寒対策ばっちし。
じゃあ行ってきまーす。


・ ・ ・

事務所から歩いて5分。最寄駅との中間地点に小さな公園がある。
公園といっても遊具なんかは全然なくてベンチとぽっかりとした広場があるだけ。
でもちょっとだけ大通りの喧騒から離れていて、ちょっとだけ現実逃避するにはちょうどいい場所になっている。
そういえばアイドルなりたての頃は私もよくここに逃げ込んだなあ。

あっ、居た居た。

未央「おーっす、お二人さん!こっそりデートですかな?」

卯月「あっ、未央ちゃん…」

あーこれヤバそう。二人とも顔暗いよー。

凛「どうかした?」

未央「いやメッセージ送ったけどみてない?」

凛「…あっ、ごめん。気が付かなかった」

未央「はっはっは、この嘘つきめ~」わしゃわしゃ

凛「ちょっと!髪ぐしゃぐしゃになるじゃん!」


しぶりんはなんだかんだ言って几帳面だ。来たメッセージは毎回ちゃんと確認している。それでも既読をつけないのはしぶりんなりのメッセージだ。
今はそのメッセージを理解してくれる人としか会いたくないっていう意思表示。

回りくどくて、すごく女の子っほいメッセージ。

ちなみにプロデューサーは未だにそのメッセージを解読できていない。

未央「それで今日はどうったの?」

凛「うん。プロデューサーのこと」

未央「やっぱし?」

凛「…正直びっくりしてどうすればいいかわかんない」

未央「まあそうだよね」


しまむーと、しぶりんと、私。

アイドル部門の立ち上げ最初期から事務所に所属していて、一番プロデューサーと長く付き合っている三人組。

だんだん規模が大きくなっていって私たちより年長の人たちが入ってきたり、芸歴が長い人たちも入ってきたけれど、それでも私たちは一番の古株のつもりだ。

凛「…ずっと今までの関係が続くと思っていたけど、そうじゃなかったんだなって」

未央「うん」

凛「なんか、そんな感じ」

まあやっぱりそうだよね。今までの関係がずっと続いていくかと思っていたのに、こんな形で突然終わって、むやもやしてよくわからない感情がぼーっと湧き上がって。

未央「でもさ!別にもう二度と会えなくなる訳じゃないじゃん!一緒の会社にいるんだし」

凛「そうだけど…あの人以外にプロデュースされるっていうのがよくわからないかな」

未央「まーまー。別に何かが大きく変わるわけじゃないんだからさ!」

卯月「……未央ちゃんは」

未央「ん?」


卯月「プロデューサーさんが、私たちのプロデューサーじゃなくなっても平気なんですか?」

未央「うーん、確かに不安っちゃ不安だけど…でもこう、学校の先生が変わるみたいなもんじゃん!だから――」

卯月「そうじゃなくてっ!」

卯月「未央ちゃんはプロデューサーさんのこと、好きじゃないんですか!?」

……え?

未央「……えっと、色々適当なところもあるけれど何だかんだ締めるところは締めるし…うん、プロデューサーのこと好きだよ?」

凛「未央…」

卯月「その好きじゃなくってっ!」

あれ?なんでこんな集中砲火喰らってるの!?

凛「卯月」

卯月「凜ちゃん」

えっ?何ふたりでアイコンタクトとってるの?未央ちゃん仲間はずれ??


凛「未央はプロデューサーのこと、好きだと思ってた」


・ ・ ・

藍子「プロデューサーさんですか?」

未央「うん」

茜「私は大好きですよ!」

未央「うん。いや私も嫌いって言ってるわけじゃないよ?」

藍子「あはは…。要は男性として好きかどうかっていう話ですよね?」

未央「うーん、そうかな?」

藍子「そうですねえ…わたしはお仕事を一緒にする人って意味でプロデューサーさんのこと好きですよ」

未央「あっ!やっぱり!!」

藍子「でも、男の人として好きになるっていう気持ちもわかりますよ?」

未央「おっ!例えば例えば!?」

藍子「ええ~、なんでそこに喰いついちゃうんですか?」

未央「いーじゃんいーじゃん!ほれほれ!!」つんつん

藍子「もうっ!」


しぶりん達を事務所まで連れてきて一通り確認が終わった後、私は事務所の下にあるカフェであーちゃんとあかねちんとぐたぐた話をしていた。

議題はやっぱりプロデューサーについて。特にプロデューサーのこと、好き?っていう議題。

藍子「ふふっ♪でもこうやって未央ちゃん達と恋バナが出来るなんて思いませんでしたよ?」

未央「これって恋バナだったのあかねちん!?」

茜「なるほど!!これが女子トークというものなのですね!!私はお茶が大好きです!!」

藍子「ふふっ、茜ちゃんらしいですね」

未央「…やっぱり恋バナと違うんじゃないかな?」

藍子「そうでもないんじゃないですか?」

茜「そうなんですか!?」


藍子「うーん、茜ちゃんはプロデューサーのどういうところが好きですか?」

茜「そうですね!!美味しいお茶を淹れてくれるところですね!!」

未央「あかねちんの中ではプロデューサーはお茶を淹れてくれる人なのかい?」

茜「でもプロデューサーが淹れてくれるお茶は、前はそんなに美味しくなかったんです」

未央「へえー、お茶の種類を変えたのかな?」

茜「いえ!お茶の種類は変わっていないです!!でも淹れ方をちょっと工夫すると同じお茶でも味が変わるんですよ!」

藍子「そうですよね。お椀をあっためたり、急須の大きさを変えてみたりって」

未央「なんで急にお茶トークになってるんですかね…」


茜「でも!!それって忙しいお仕事の合間にするのは物凄くめんどくさいと思うんです!」

未央「うん?」

茜「それでも私たちに少しでも美味しいお茶を淹れようとひと手間かけてくれる」

茜「そんなプロデューサーが私は大好きです!!」

未央「あっ…」

藍子「ふふっ♪ほら恋バナですよ」

茜「なんと!!私はプロデューサーに恋をしていたのですか!?」

藍子「違うと思うけれど、根っこはおんなじことだと思いますよ?未央ちゃん」

未央「なんで私に振ってくるのかな、このゆるふわちゃんは」

藍子「さっきの仕返しです♪」


恋バナ、ねえ…
私がプロデューサーさんに抱いている感情は、きっと恋じゃない。
どちらかと言えばあかねちんと一緒で、私たちのことを気遣ってくれる優しさだとか、何だかんだ頼りになるところとか、一緒に話していて楽しかったりとか…
うん、そういうなんとなくの関係が心地よかったんだと思う。

しまむーとか、しぶりんが言う「好き」と私の「好きは」違う。

未央「うん!なんか相談してよかった!ありがとね!!」

茜「いえいえ!お役に立ててよかったです!!」

藍子「ふふっ」

熱血乙女とゆるふわガールはにこっと笑って――


藍子「だから、未央ちゃんも頑張ってくださいね?」


――えっ?

何を?って聞き返したけれどふたりともニコニコして何も教えてくれなかった。


・ ・ ・

瑞樹「別に上司が異動でいなくなるって普通のことでしょ?」

早苗「そうそう!あたしもセクハラ上司がいたらとっとといなくなれーって!」

留美「…警察内でセクハラってマズくない?」

未央「ははは…」

せっかくポジティブパッションのみんなと話をして少しもやもやが晴れたのに、最後にあーちゃんが気になること言ったせいでまたもやもや再燃です。
……ついでになんで大人組につかまっちゃったんだろう?

でも学生組よりも人生経験積んだ大人たちは、プロデューサーが居なくなることをどう思っているのか気になった。


瑞樹「うーん、確かにプロデューサー君は優秀なプロデューサーだと思うわ。だからいつか昇進するんだろうなとは思っていたわ」

未央「あっ、やっぱり大人から見てもそうなんですか?」

瑞樹「だってこんな個性豊かなアイドル達をひとりでプロデュースしているのよ?私はやりたくないわね」

早苗「そうだねー。忙しくてもちゃんと飲み会の日はスケジュール空けてくれるしさ!」

留美「そうね。正直恋人になったら尽くしてくれそうでいいわね」

未央「おっ!留美さんもやっぱりプロデューサーさんを恋愛対象としてみたりするんですか?」

瑞樹「あっ」

早苗「あっ」

未央「…ん?」


あっれ~これヤバい感じですかな?もしかして地雷ふんじゃった?

留美「……そうね」

はっはっは…すっごいアンニュイな雰囲気出ちゃってますねコレ。
オトナのオーラってこんな感じなんでしょうか…

留美「実は、けっこうプロデューサーさんにアプローチしていた時期もあったのよ」

未央「あっ、そっそうなんですね」

留美「でも振られちゃった」

未央「えっ…?」

留美「あっ!別に直接告白して振られたわけじゃないのよ」

留美「……なんていうか、私のことをそういう対象で見てないってわかっちゃったから」

瑞樹「わかるわ」

早苗「うん」

未央「?」


瑞樹「あの人、仕事が出来るでしょ?それを裏返すと私たちとの間に一線を引いてるのよ」

早苗「そーそー!どんなに遅い時間から飲み会始めても中座して帰っちゃうし」

早苗「おかげで間違いも起こりようがないってね!」

未央「へ?」

瑞樹「……大人組がみんなこんな感じだと思わないでね?」

早苗「でもね!お互いイイ大人なんだからお泊りまでは行かなくても、家まで送ってくとかそういうのもないんだよね」

瑞樹「それこそお互い分別のある大人だからしないんでしょ」

早苗「でもちょっと屈辱じゃない?」

瑞樹「……そうね、わかるわ」

未央「ははっ…」

瑞樹「ごめんなさいね。何だかヘンなこと言っちゃって」

留美「大人になるとある程度打算も必要なのよ」

瑞樹「こらっ」


留美「でも本当にあの人はそんな噂全然聞かないわよね」

早苗「そうそう!終電なくなってもアイドルは絶対事務所に泊まらせないし!」

未央「えっ?」

留美「……えっ?」

瑞樹「どうしたのかしらその意外そうな顔は」

未央「いやっ!別にあれはそんな、あはは…」

留美「未成年に手を出したのね」

早苗「よーし!お姉さんにあらいざらい白状しなさいな!!」

未央「そそそんなんじゃないですって!あれは大雪で帰れなくなったから仕方なくだし…」

瑞樹「ほーう」

未央「いやだから違いますって!あっ早苗さんちょいちょい待ってー!?」


・ ・ ・

……はあ、大変な目にあったな。
でも確かにプロデューサーさんは、仕事とプライベートの線引きがしっかりしているっていうのは何だかわかる気がする。
やっぱり大人組はそういうのに敏感なんだろうなあ。
未央ちゃんはまだまだ子供です…ね。

少なくとも一緒に事務所でお泊りすることに抵抗を感じないくらいには――

どくん…

あれ…?
何なんだろうかこの気持ちは?
プロデューサーさんにとっては、恋愛の対象として見られていない。

別にそれがどうしたっていうんだ?
私たちはいつでもそうだったじゃん。アイドルとプロデューサーっていう仕事だけの関係性。
むしろ私みたいな未成年にされちゃ恐いし…。

うん…、ダメだもやもやが全然晴れない。

今日はもうダメだなこりゃ。さっさと家に帰っちゃおう。ご飯食べて、お風呂につかって、ゆっくり寝ればまた元通りの未央ちゃんになるはず。

そう思って荷物を纏めて事務所を出ようとすると――

ぽんっ

誰かに肩を叩かれた。


ぽんっ

誰かに肩を叩かれた。

未央「うん?」

まゆ「お疲れ様です。未央ちゃん」

未央「まゆちゃん…」

まゆ「ちょっとだけお話しませんかぁ?」


……今日は本当に長い一日になりそうです。


・ ・ ・

まゆ「散らかってるかもしれないですけれど、どうぞ」

未央「おじゃまします…」

事務所じゃ話にくいお話ということで、まゆちゃんの寮の部屋に来ていた。
プロデューサーさんのことが、大好きな子はたくさんいるけれど、まゆちゃんほど好意を露わにする子はいないわけでして…。
まゆちゃんとはあまりお仕事を一緒にしていないから正直よくわかっていない子だ。そんなまゆちゃんから改めてお話。

ははは…、未央ちゃん何かしたっけなあ?

まゆ「未央ちゃんは何を飲みますか?お茶とかコーヒーとか一通りありますよぉ?」

未央「あっ、じゃあお茶で」

まゆ「はあい、ちょっと待ってくださいね」


まゆちゃんの部屋は、割と綺麗に片付いている。
台所には調理器具が色々そろっているみたいで、見ているだけでちょっと楽しい。
そういえば前にプロデューサーさんが、まゆちゃんがお弁当を作ってくれるって言ってたっけ。

まゆ「お待たせしました。どうぞ」

未央「おっ!ありがとね」

まゆ「あっ、別に気にしないでくださいね。何もいれてませんから」

何でそれを先に断ってくるんですかね…。
色違いのマグカップ。普通カップルとかで使う奴じゃないのかなあ。

未央「……あっ!美味しい!」

まゆ「ふふっ♪よかったです」


未央「それで…お話って何かな?」

まゆ「もちろんプロデューサーさんのことですよ?」

未央「ははは…やっぱり?」

まゆ「うふっ♪」

もうこれはダメですね…。しまむー、しぶりん、あーちゃん、あかねちん…。みんな今までありがとう…。


まゆ「…実はせっかく昇進するんですから、お祝いにパーティーか何かをしたいなって思うんですけれど、未央ちゃんはどうですか?」

未央「……へ?」

まゆ「あの…、まゆは今までこんなイベントを企画したことがなくて…」

まゆ「未央ちゃんならこういうの詳しいかなと思ったんですが…」

あれ?なんだか思っていた展開と違う。

未央「あっ!そういうことね!!うん未央ちゃんそういうの大好き!!」

まゆ「…なんだか緊張してませんかあ?」

未央「いや別に!ただこうやってまゆちゃんとお話するのが初めてだから」

まゆ「いいんですよ。まゆがどう思われているか、まゆはちゃんと知っていますから」

未央「えっ?」


まゆ「ふふっ♪でもみんなが思っているみたいなことはしませんよぉ」

未央「えっ、じゃあやたら指に絆創膏が多いのは」

まゆ「実は料理するのがそんなに得意な訳じゃないんですよ。それでよくケガしちゃうんです」

未央「左手のリボンは?」

まゆ「ただの願掛けですね」

未央「プロデューサーさんのことは」

まゆ「大好きですよお?」

未央「あっ、それはそうなんだ」

まゆ「ふふっ♪」

未央「それにしてもケガをしてまでプロデューサーさんに料理を作るなんて大変じゃない?」

まゆ「プロデューサーさんのことが大好きだから、苦にならないですよ?料理だってその為に覚えましたから」

未央「へえー!こんな可愛いまゆちゃんにここまで愛されているなんて、プロデューサーさんは幸せ者だな!」

まゆ「そんなことないですよ~えへへ」

未央「何この可愛い生物」


……認識を改めましょう。まゆちゃんは、ただ一途にプロデューサーさんのことを想う普通の女の子だって。
ちょっと愛情表現が過剰だから勘違いされるだけってことか。
冷静に考えればアンダーザデスクのみんなと居るときは普通の女の子だし。

まゆ「それで送別会なんですけれど…」

未央「うん!任せて!!」

まゆ「よかったです♪」

そういえば今日話を聞いたみんなの中で、こんな風にプロデューサーさんのことを気持ちよく送り出してあげようっていう子はいなかった気がする。

未央「まゆちゃんは、プロデューサーさんが異動しちゃっても寂しくないの?」

まゆ「もちろんさみしいですよ?でも一生別れちゃう訳じゃありませんから」

未央「そうだよね!一緒の会社に居るんだからいつでも会えるよね!!」

まゆ「それに――」


まゆ「結局まゆの幸せは、あの人が幸せになってもらうことですから」


未央「うん?」

まゆ「未央ちゃん」

すうっとまゆの目が細くなる。思わず身を引いてしまう。
今まで私に向けられることのない視線を感じる。
……これは敵意?

まゆ「お互い、恨みっこなしですから」

未央「えっ?」

まゆ「まゆは、あなたに負けません」


どうしてこうなってしまったんだろう。

なぜ私は、プロデューサーさんを巡ってまゆちゃんに宣戦布告されているんだろうか――。


一旦ここで切らせて頂きます。
日曜日までには完結させたいと思います。


・ ・ ・

ちひろ「お疲れ様ですプロデューサー」

P「お疲れ様。やっぱり忙しいなあ」

ちひろ「これでもまだ余裕があるほうですよ?プロデューサーが突然辞めちゃった時の方が大変ですから」

P「うへぇ…。やっぱり過去何回かあったの?」

ちひろ「新人で入って三か月持たない、なんてよくある話ですよ」

P「そっか…」

ちひろ「その分まっとうな人事異動でしたら引継ぎも容易ですし、楽なものですよ」

P「まっとうじゃない人事異動があるのか…」

ちひろ「ご想像にお任せしますね」

P「ははは…。あっこれ処分お願いします」ばさっ


P「ははは…。あっこれ処分お願いします」ばさっ

ちひろ「はい。ってこれ懐かしいですね!アイドル達の履歴書ですか?」

P「原本は厳重管理じゃないですか?でも何度も見返す機会があるからコピーを」

ちひろ「全く…。総務にバレたら減給ですよ?」

P「でもちひろさんは見逃してくれるよね?」

ちひろ「現場の事情は理解していますからねえ…。流出しなければ問題なしですよ」

P「それは大丈夫。机に鍵かけてますから」

ちひろ「…ふふっ。本当に懐かしいですね」ぺらっ

P「このアイドル部門立ち上げからの貴重な資料ですから」

ちひろ「あっ!凜ちゃんたちの履歴書ですね。赤ペンでメモがたくさん」ぺらっ

P「最初の頃は勝手がわからずに試行錯誤でしたから」


ちひろ「…なんですかこの『サイゼよりデニーズに居そう』って」

P「いやその時の第一印象を」

ちひろ「女子高生にデニーズは高いんじゃないでしょうか…」

P「なんかフィーリングでティンと」

ちひろ「卯月ちゃんは…っとこれセクハラですよ?」ぴらっ

P「いや第一印象で」

ちひろ「だからって『ブルマ似合いそう』ってどうなんですか!?」

P「ティンと…」

ちひろ「そのフレーズ万能じゃないですからね…。そして未央ちゃんは――」ぱらっ

ちひろ「……白紙?」


P「ええ、まあ」

ちひろ「……何もメモすることがなかったんですか?」

P「まあ、そんなところです」

ちひろ「へえ…」

P「あっ、そろそろ終電の時間ですね。切り上げて帰りましょうか?」

ちひろ「そうですね。私終電遅いので鍵かけやっちゃいますよ」

P「本当ですか?じゃあお言葉に甘えてお先に失礼します」がたっ

ちひろ「……プロデューサーさん」

P「なんでしょうか?」


・ ・ ・

――二月

未央「ふぁ~」

卯月「わあ!大きなあくびですね!」

凛「寝不足?」

未央「あーうん。そんな感じ」

凛「最近ずっと寝不足みたいだけれど大丈夫?」

未央「ははは…。期末テストがきびしーのですよ」

卯月「そうですね。この時期は忙しいですから」

未央「全く、後期の方が範囲広いのにテスト期間が短いのは納得いかないのだー!!」

凛「でもそれだけじゃないでしょ?」

未央「ふえ?」


未央「ふえ?」

凛「ほら、例のアレ」

卯月「例のアレ?」

未央「アレはそんなに関係ないよ?」

卯月「アレってなんですか?」

凛「でも最近ずっと帰るの遅くなってない?」

未央「大丈夫大丈夫!」

卯月「もーっ!ふたりしてこそこそ話ですか!」ぷくー

凛「卯月には後で教えてあげるから」


ガチャ

まゆ「未央ちゃんお疲れ様です♪」

未央「あっ!さくまゆおっつー」

卯月「……あれ?いつの間にあだ名呼びに?」

まゆ「ところでプロデューサーさんは…?」

未央「さっき出ていったよー。たぶんまた上のフロア」

まゆ「そうですかあ…」

凛「最近やっぱり忙しいみたいだね」

まゆ「全然会えなくて寂しいですね…」


未央「ところで今日も?」

まゆ「あっ!そうですちょっと付き合ってもらえますか?」

未央「りょーかい!あっ、ついでだからしまむーも行く?」

卯月「どこにですか?」

未央「ちょっとした秘密会議ですよお嬢ちゃん」にやっ

まゆ「ですよ♪」にこっ


・ ・ ・

輝子「やっぱり…キノコは外せないな…うん」

瑞樹「ラベルにメッセージをつけられる日本酒もあるのよ?」

藍子「それは大人の人たちに任せないと難しいですね…」

卯月「……ここは?」

まゆ「まゆのお部屋ですよ?」

卯月「えっとそういうことじゃなくて」

未央「ふっふっふ…実はここは悪の秘密結社の秘密基地なのだ―!!」

卯月「そうだったんですか!?」

凛「違うよ?」

卯月「未央ちゃんとはいえ、まゆちゃんを悪の道に堕とすなんてゆるせません!」

凛「だから違うって!!」

まゆ「ふふっ♪心配しないでも大丈夫ですよ?」

未央「あはは…、実はこれプロデューサー送別会の準備」


学校のテスト勉強も忙しくてアイドル活動も慌ただしいこの頃、私たちはプロデューサー送別会の準備を始めていた。
三月に入るとプロデューサーの予定も引継ぎだったりで忙しくなるから、早めに準備しておこうと動いていたのだった。

最初はさくまゆ、佐久間まゆちゃんと二人で準備してみんなには後からちょっとだけ手伝ってもらおうと思っていたんだけれど――

凛「未央はこそこそしていてもわかりやすいから」

まゆ「すぐに凛ちゃんや幸子ちゃんにバレちゃいましたね」

未央「いやサッチーにバレたのはさくまゆのせいじゃん」

まゆ「そうでしたっけ?」

まあなんだかんだで時間のある人たちで準備会が出来上がったのだった。
……あかねちんみたいにこそこそすることが不可能な人は参加していないけれど。
それでもプロデューサーの門出を祝ってくれる人が増えるのは、何だかうれしかった。


卯月「それって私も内緒に出来ないって思ってたんですか?」

凛「卯月はソロライブで忙しかったから…」

未央「いよっ!シンデレラガール!!」

卯月「むー」

そういえば事務所で起きた変化と言えば、しまむーが年始の歌番組でブレイクを果たしてかなり忙しくなった。
おかげさまでニュージェネレーションズでやる予定だった小さいイベントがキャンセルになったりして微妙に手持無沙汰になった。
しぶりんは元々トラプリとかでそこそこ忙しかったけれど、私は、比較的暇。かなり暇。

おかげでこのプロデューサー送別会準備会に入り浸って、さちまゆと居ることが増えた。

最初はちょっと距離感がつかめなかったけれど、最近じゃもうあだ名で呼んじゃうくらいには仲がいい。
えっ?未央ちゃんはみんなあだ名で呼んでるだろって?まあそれは置いておきまして


まゆ「プロデューサーさんはあんまりお酒を飲まないと思いますよ?」

瑞樹「そう?でもこういうものは記念品だから」

まゆ「でもいらないものを貰っても持て余しちゃうと思いますよぉ」

瑞樹「う~んそうねえ…」

輝子「キノコの原木は…いるよな?」

藍子「それも持て余しちゃうんじゃないかな…」

未央「あはは…ってかお酒あんまり飲まないってよく知ってたね?」

まゆ「まゆはプロデューサーさんのことなら何でも知ってますよぉ」


ところで話は変わりますが、私はどうして宣戦布告された子と仲良くしているのでしょうか?

いやあの日のさちまゆ、むっちゃ恐かったよ!?
正直本気で家に帰れないかと思ったくらいには。

ところが――


まゆ『プロデューサーさんのことを好きな人に悪い人はいませんから』


なんというか、この子は本当に懐が深くて、プロデューサーのことが好きなんだなって思った。

まゆ「さて、そろそろ遅くなりますからお開きにしましょうか」

未央「あっ本当だ。じゃあ解散ということで!」

凛「卯月これプロデューサーに内緒だからね?」

卯月「大丈夫ですっ!あっ!せっかくだから久しぶりに三人で帰りましょうよ!」

未央「おーいいね!未央ちゃん最近シマムラニウム不足でねぇ~」

藍子「……なんですかそれ」

まゆ「うふふ♪じゃあ皆さん気を付けてお帰り下さいね」


・ ・ ・

未央「いやー今日も全然準備進まなかったね!」

凛「もう直前にみんなまとめてやった方が効率よさそう」

卯月「でも久しぶりにみんなとゆっくりお話出来て楽しかったですね!」

未央「ほんとにねー。最近新人の子も多いから事務所だとなかなか話せないんだよねー」

凛「べつに事務所でもしっかりしている必要はないんじゃないかな?」

未央「そこは先輩の威厳ってやつですよ!私の背中を見て育てッ!ってね」

卯月「あははっ、なんですかそれ!」

三人でのんびりとくだらない話をしながら寮から駅まで歩いていく。
何でもない日常だったはずだけれど、ずいぶん久しぶり。
今までと同じように笑いあって何事も変わらない。
いつもぐたぐたしていた公園も変わらないであるし。

――あれ?

未央「そういえばさ、しぶりんとしまむーはもういいの?」

凛「何が?」

未央「プロデューサーのこと」


一か月前、確かに二人は事務所を抜け出して、ここの公園でこの世の終わりのような顔をしていた。
あの時の衝撃は確かに大きかったし、事実しばらくは二人ともレッスンでのミスが目立っていた。
忙しくて最近はふたりと話していなかったけれど、なんていうか――

もう吹っ切れている?

卯月「あっ!そういえばここの公園でサボってましたよね」

凛「そういえばそうだったね」

未央「そういえばって、あんなに暗い顔していたのに?」

卯月「あの時はもう何がなんだかよくわからない!って感じでしたね」

凛「でも、プロデューサーだってこれから上を目指すんだなって思うと…ね?」

卯月「私たちも負けないように頑張らないとって!」

未央「あの時さんざんプロデューサーへの愛を語っていたのに!?」

凛「あの頃は私たちも若かったから」

卯月「思い出すとちょっと恥ずかしいですね!」


えっ?どうして…?
あの時のふたりはすごく幼く見えた。どうにもならないものをどうにかしようと駄々をこねるような子供。
それなのに今ではこんなに大人な見方をしている。それどころかもっと高みに昇ろうとしようとしている。

未央「どうして…」

凛「……未央」

未央「あんなこと言って、さんざん私がもやもやしたのに…」

卯月「あはは…あの時と逆になっちゃいましたね」

未央「……」

卯月「なんていうか、未央ちゃんの言う通りだと思うんです」

未央「えっ?」


卯月「この前、大きな会場でライブをやったんです。他に新人の子もいたんですけれど」

卯月「でも、プロデューサーは忙しくて顔を出せなかったんです」

卯月「本当だったら、ひとりで不安でどうしようもなくなっちゃうと思うんです」

卯月「でも――」

卯月「すっごく緊張している新人の子を見たときに、ふっと思ったんです」

卯月「今までプロデューサーが支えてくれた分、これからは私が返していかなきゃって」

卯月「だって、この事務所で一番長いことアイドルでしたから」

卯月「何だか、そう思うと少しだけ頑張れる気がしたんです」

未央「しまむー…」


あぁ、そうか。しまむーはちゃんと2歳年上のお姉さんだったんだ。
そして、もう吹っ切れているんだ。

プロデューサーさんが居なくなった後の事務所が見えているんだ。

凛「私も、最近後輩も出来て、乃々とかは目を離すとすぐ隠れちゃうし」

未央「うん。わかるよ」

凛「だから――」

未央「うん、大丈夫」


……結局、私は取り残されちゃったのかな?
プロデューサーさんが居なくなる未来を、ちゃんと見ていたのかな?

そこから少しだけ、居心地の悪いような、でもこの空気を壊したくないような、そんな沈黙が続いて駅に着いた。
じゃあまたね、って言って別々の電車に乗って別れた。

私はこれからどうするんだろう?

思考はぐるぐる回って、何も考えたくない。でも考えなきゃいけない。これは絶対必要なことなんだ。

プロデューサーさんが居なくなって、本田未央はどうするのか?

答えは出ないまま、時間は過ぎていった。


・ ・ ・

藍子「そうですか…」

未央「うん…、なんかもう消えてなくなりたい」

茜「消えちゃダメですよ!!」ゆっさゆっさ

未央「ありがとうあかねちん…。消えないから揺らさないでほしい…」

何とも情けないことながら、こんな時だけは年下オーラを振りまいてあーちゃんとあかねちんに甘えるのです。

これも私だけの特権特権……、はぁ


未央「あーちゃんたちはもう吹っ切れてる感じ?」

藍子「まあ…もともと未央ちゃんほど長い付き合いじゃないですからね」

茜「マネージャーをやっている以上!別れは毎年訪れるのです!!」

未央「うん知ってる…」

藍子「それで、未央ちゃんはどうするんですか?」

未央「何がでしょうか?」

藍子「プロデューサーに告白しないんですか?」

未央「ぶふぉ!!」

藍子「わわっ!」


未央「げほげほっ!なにいってるんですかあーちゃん!!」

藍子「えー、だって今までのお話はそういうことじゃないんですか?」

未央「どこがそーいう話なんでしょーか!?」

藍子「どこがって…ねえ茜ちゃん?」

茜「プロデューサーと?離れ離れになるのが?寂しいから?どうしよう!?っていう話でしたよね!!」

未央「ずいぶんバッサリ要約したね!?しまむーしぶりんの話はどこいったの!?」

藍子「でも私たちにはこう聞こえましたよ?」

未央「そうじゃなくって!!もっとこう、アイドルとしてどうしよう的なお話でしたよ!?」

藍子「そうでしたっけ?」

茜「でしたっけ?」

ちくしょうこいつらこの未央ちゃんで遊んでやがる…!


未央「とにかく!私は別にプロデューサーさんとどうこうって訳じゃないから!」

藍子「……」じとー

未央「なんですかそのジトーって目は」

藍子「まあいいですよ。でも後悔はしないでくださいね」

未央「後悔?」

藍子「そうですよ」

藍子「未央ちゃん、ここぞっていう時にヘタレですから」

――どうして溜め息まじりにそんなこと言われなきゃいけないんでしょうか?


・ ・ ・

何故だ、最近もやもやを解消しようと相談して、さらにもやもやが加速している気がする…。
とりあえず、事務所に行って明日の予定を確認したら今日は帰ろうかな?

そんなことを想いながら事務所の扉を開けると――

まゆ「お疲れ様ですプロデューサーさん♪」

P「おっ!コーヒーありがとな、まゆ」

未央「あっ…」

P「ん?どうした未央?そんなところに突っ立って」

未央「あっ、何でもないよー」

……何だか微妙に顔を合わせづらい。あーちゃんが変なこというから。


まゆ「そういえば今日のお弁当はどうでしたか?」

P「あぁ。美味しかったよ。特にポテトサラダ」

まゆ「良かった♪」

P「あれ手作りでしょ?作るの大変じゃない?」

まゆ「そんなことありませんよぉ~。プロデューサーさんの為ですから」

そういえばさくまゆ、最近お弁当のレベルが上がったみたい。
プロデューサーさん、愛されてるなあ。

……うん。やっぱりプロデューサーさんにはさくまゆが一緒に居てあげたほうがいいよ。

しっかりしているけれど、ご飯食べるのを忘れてたり、徹夜で仕事頑張ったり、そのせいでスーツがだらってしちゃってたり
そんなところをしっかりと支えてあげる、女の子らしい女の子がお似合いなんだと思う。
きっといいお嫁さんになるんだろうなあ。


…どくん!


えっ?


……ずきん!


なにこれ?

どうしてこんなに胸が苦しいの?

さちまゆと一緒に笑っているプロデューサーさんを想像するだけで――

どうして!?わかんない!?

どうして「嫌だ」って思っちゃうんだろう?

どうしてさちまゆの幸せを願ってあげられないんだろう?

どうして…

私ってこんなに嫌な女だったっけ?

そもそもプロデューサーさんとは何もない

アイドルとプロデューサー

ただそれだけの関係なのに……


P「未央…?」

まゆ「未央ちゃん?」

未央「…うん、ごめんもう帰るね」

ダッ!

P「未央!」

最低だ。本当に最低だ!!
プロデューサーさんが私のこと心配しているってわかってるのに!

もっとちゃんと動いてよ私の心!

ちゃんと何もないって言ってよ!!

こんなの卑怯だよ!さちまゆはちゃんとプロデューサーさんと向き合っているのに!!

どうして私は真正面から向き合えないの!!


――その日から、またプロデューサーさんは忙しくなって、もうほとんど会うこともなくなった。
それでも、さちまゆはずっとプロデューサーの為にお弁当を作っていた。

送別会の準備は少しづつ進んで、そして三月を迎えるのだった。


一旦ここで切らせて頂きます。
ところで未央→まゆってさくまゆ呼びで合っているのでしょうか?

皆様ありがとうございます。ニコニコ大百科にこんな便利なページがあるのは初めて知りました。
さちまゆは完全に無意識でした。これもゴルコムのせいです。
投稿ミス等々は最後にまとめて修正したいと思います。


P「では、これからはよろしくお願いいたします。はい、では失礼します」

ガチャン…

ちひろ「今の電話の方は?」

P「新任のプロデューサーになる方ですね」

ちひろ「ああ、来週から入るんでしたっけ」

P「元々別の会社でプロデュースをやっていた方なので引継ぎもスムーズでしたね」

ちひろ「それはよかったです」


P「とりあえずはアシスタントをやってもらって4月には正式にプロデューサーということで」

ちひろ「それがいいですね。早めにアイドル達に顔を覚えてもらうに越したことはないですから」

P「さてと、引継ぎ資料も大体出来たので俺ももうお役御免ですね」

ちひろ「あっちに行った方が大変ですよ?」

P「そりゃ覚悟の上ですから」

ちひろ「荷物はもう整理できたんですか?」

P「はっははっ」

ちひろ「笑い事じゃないですよ?これだけの資料の処分は」

P「はいすいません」


P「とは言っても向こうで使う資料なんて限られてますからね。大体シュレッダー行きですよ」

ちひろ「でもこれとかはシュレッダーという訳にはいきませんよ?」ひょい

P「宣伝用のグッズサンプルですね…。これ毎回持て余しちゃうんですけれどどうすればいいんですかね?」

ちひろ「さあ?」

P「んな適当な…」

ちひろ「あっ!これニュージェネレーションズのデビューライブDVDじゃないですか!」

P「初回限定版のやつですよ。これ欲しいんですか?」

ちひろ「ネットオークションでどえらい値段が」

P「おい」

ちひろ「もちろんしませんよ?でも再販とかしたら…」

P「……販売部に相談しとくか」


P「でも確かこれってそんなに売れませんでしたよね?」

ちひろ「だから出回っている量も少なくてプレミアついているとも言えるんですがね。特典ってなんでしたっけ?」

P「三人のサイン入りブロマイドとちょっとしたインタビュー映像とか」

ちひろ「それ見たことないかもしれませんね」

P「何なら見ますか?」

ちひろ「えっ?いいんですか?」

P「どうせ販促用ですし」

カチャ…


卯月『えっと、初めまして!島村卯月です!』

ちひろ「若いですねえ!」

P「一年前だっけ?そんな変わるか?」

ちひろ「いやいや、もう画面から初々しさがにじみ出てますよ!」

P「そういえばそうだなあ…、今じゃ天下のシンデレラガールだし」

凛『渋谷凛です。よろしく』

ちひろ「クールですね」

P「まだまだ硬さがとれていない感じですね。笑顔がぎこちない」

ちひろ「でもこのクールさが人気出ましたよね」

P「トラプリは女子高生のファッションアイコンみたいな感じだし」

ちひろ「やっぱり女の子から見てもカッコいいっていうのは武器ですね」

P「最近は可愛いところも見せ始めて男人気も爆発してるなあ」


未央『やっぽー☆本田未央だよー!みんなよろしく!!』

ちひろ「あっ、でも未央ちゃんは変わらないですね」

P「……そうだな」

ちひろ「……どうしました?」

P「いや、何でもない」

未央『将来の目標?そーだね、夢はでっかく世界デビューとか!?』

ちひろ「……かわらないですね」

P「そうですね」


・ ・ ・

小梅「飾り…こんな感じ?」

藍子「それだとプロデューサーさんが首を吊ってるように見えちゃいますよ…」

幸子「送別会はハロウィンじゃないですよ!?」

早苗「おーい!飲み物買ってきたよー!」

瑞樹「お酒はダメよ」

早苗「なんでよ!?」

留美「お昼開始よ?」

凛「花束は当日で大丈夫?」

まゆ「大丈夫ですよ。わざわざありがとうございますね」

卯月「プロデューサーの連れ出しは誰がするんですか?」

まゆ「ちひろさんに了解は貰っていますので卯月さんお願いできます?」

卯月「はいっ!」

茜「いよいよ来週ですね!!」

凛「よくここまでバレずにこれたね」

藍子「あはは…あからさまに挙動不審でしたけれどね」


三月も終わりに近づき、プロデューサーさんの送別会準備も大詰めを迎えていた。
ちひろさんにこっそり予定を聞くと、三月末は取引先へのあいさつや事務手続きで忙しくなるので、その前にやってしまった方がいいだろうとのことだった。
という訳で学生組が冬休みに入った直後に送別会を開催することとなったのだ!
開催することとなったんですが…

凛「ところで未央は?」

まゆ「補習だそうですよぉ」

卯月「あれ?再テスト通らなかったんですか?」

はい、通りませんでした。おっかしいなあ、自信あったのに……
テスト期間に急に仕事が入ったとか色々言いたいことはあるけれど、何でみんなきっちり赤点回避してるんですかねえ?

そんなこんなで肝心の送別会の準備にほとんど参加出来ずじまいで当日を迎えそうです。
何とか補習を乗り切って事務所に到着すると、もうみんな解散しちゃったみたいで誰もいない。

はあ…、何やってんだか……


ちひろ「あれ?未央ちゃん今日予定ありましたか?」

未央「あっ、ちひろさんお疲れ様!いやー例の送別会」

ちひろ「あぁ、もうすぐでしたね」

未央「そういえばプロデューサーさんももう居ないんですね」

ちひろ「今日もお得意様との懇親会ですね」

未央「まじ?プロデューサーさんお酒弱いのに毎晩大変だね…」

ちひろ「仕方ありませんね。コネクション作りも大切なお仕事ですから」

未央「おとなって大変」

ちひろ「そういえばプロデューサーがお酒に弱いってよく知っていましたね?」

未央「さくまゆ経由で」

ちひろ「ふふっ、なるほど」


未央「さくまゆも寮に帰っちゃったかあ」

ちひろ「今日も寮に寄って行きますか?」

未央「…いや、いいや。ここんところ大変そうだったし」

ちひろ「…そうですね」

未央「さくまゆもキツいだろうなあ。あんなにプロデューサーさんにお弁当作ってたのに」

ちひろ「今日も渡せていませんでしたね」

プロデューサーさんは本当に忙しい。ライブ会場に来てくれることも減った、というかもう来ていない。
代わりにアシスタントの人が来て送迎とかはやってくれる。次のプロデューサーになる人らしい。


ちひろ「新しい人はどうですか?」

未央「うーん。プロデューサーさんよりはイケメンかな?」

ちひろ「新しい人の方が好みですか?」

未央「……そういう感じじゃないかな」

ちひろ「そうですか」

実際新しい人はアイドル達の評判も上々で、プロデューサー交代に不安がっていた子も徐々に受け入れていた。
プロデューサーさんのデスクにあった荷物もどんどん減っていって、出社を示すプレートも新しい人の分が付け加えられた。
みんな自分の予定を聞くことも、今のプロデューサーさんじゃなくて新しい人に聞くことが増えた。そっちの方が返事も早く帰ってくるし。

少しずつ、でも確実に私たちのプロデューサーだった人が別の人に変わっていく。

本当にスムーズに、何事もなくつつがなく引継ぎが終わって、それをみんな受け入れている。
あと数週間もすれば、今のプロデューサーさんが居たことすら遠い記憶の彼方にきえていくのだろうか?
私には、それがどうしても信じられなかった。


ちひろ「さて、もう私も上がってしまいますが事務所に残っていますか?」

未央「あっ、じゃあ私も上がろうかな!」

ちひろ「わかりました。じゃあ施錠しちゃいますので先に出ちゃってください」

未央「んーじゃあ私も手伝おっか?」

ちひろ「そうですか?じゃあ私は向こうを見てくるので未央ちゃんはそっちをお願いしますね」

未央「了解いたしましたー!」


ちひろさんは事務所を出て、会議室の方に行った。私は事務所周りの施錠っと。
とはいってもこの時期に窓なんて開けないから、パッと見て回っておしまいなんだけれどね。
あとはプロデューサーさんの机の後ろの窓だけ…

あれ?カーテンが窓に巻き込んじゃってるや。一回窓を開けて外さないと。
窓を開けると冬の冷たい風が吹き込む。もう三月なんだけれどなあ。

あっ!プロデューサーさんの机の上のファイルが!
慌てて窓を閉めなおして、開いてしまったファイルを閉じ――

……なにこれ?


開いてしまったファイルは、プロデューサーの今後の予定だとか、色々書いてある会社の辞令?

いや、それ自体は珍しいものじゃないはず。昇進してエクゼティブプロデューサーに任命するだとかどうとか書いてある。問題は――


未央「……アメリカ?」



ちひろ「みました?」

はっと顔を上げる。
今まで見たことの無いほど真剣な顔をしているちひろさんが居た。

未央「えっと…何のこと?」

ちひろ「目が泳いでますよ」

未央「……ごめんなさい」


――恐い。

今のちひろさんは明らかに見られては拙いものを見られてしまったという顔をしていた。
本気の大人、いつも私たちと接している時とは違う『仕事人』としての千川ちひろさん。
でもそんな顔をしているということは、私が見たこれに書かれていることは――

ちひろ「まあ、いいです」

未央「えっ」

ちひろ「今日はアイドルが帰ってこないからと油断してそこに書類を置いた私のミスです」

ふうっとため息をついていつものちひろさんに戻った。


未央「えっとこれって」

ちひろ「見ての通り、プロデューサーの辞令ですよ」

未央「じゃあ――」

未央「プロデューサーさんは、アメリカに行っちゃうの…?」

ちひろ「はい。今年の4月よりプロデューサーは新設される海外事業部に異動となります」

未央「そんな!誰もそんなこと――」

ちひろ「プロデューサーから口止めされていました」


未央「どうして…」

ちひろ「詳細は、申し訳ありませんが教えられません」

未央「ちひろさん…」

ちひろ「……だからアイドル達にはちゃんと説明しなさいと言ったのですがねえ」

未央「えっ…」

ちひろ「とにかく、知ってしまった以上どうこうする権利は私はありません。しかし――」

ちひろ「どうか、この件は内密にお願いします。これはプロデューサーの希望です」

そういってちひろさんは、私に頭を深々と下げた。


一旦ここで切らせて頂きます。
お付き合い頂きありがとうございます。


・ ・ ・

ちひろ「例のお話、聞きましたよ?」

P「何のことですか?」

ちひろ「アメリカ転勤だなんて」

P「まあせっかくのチャンスですから」

ちひろ「国内のアイドル部門だってようやく軌道にのってきたばかりなのに」

P「逆にそういうタイミングだからこそ、打って出なきゃということらしいですよ」

ちひろ「そういうものなんでしょうか」

P「そういうものなんです」

ちひろ「でも、どうしてプロデューサーなんでしょうかね」

P「そりゃ俺が志願したからですよ」

ちひろ「は?」

P「異動願い」

ちひろ「いや、ちょっと待ってください」


P「俺、本気ですから」

ちひろ「…どうしてですか?」

P「出世は男の本懐ですよ」

ちひろ「それはそうですけれど…」

P「それに――」

ちひろ「ん?」

P「いえ、何でもありません」

ちひろ「……全く、アイドル達にどう説明するつもりですか?」

P「そのことなんですが…」

P「ぎりぎりまで、内緒にしてもらえませんか?」


・ ・ ・

どうして、プロデューサーさんは何も私たちに言わないでアメリカに行っちゃうんだろう?

あの時、異動になるっていう時にそんなことは言ってなかった。でも嘘も言ってなかった。

ちひろ『アメリカを始めとした海外展開のプロデュースを一手に引き受けることになります。期間は3年』

ちひろ『なので英語盤のレコーディングの際には事実上のプロデュース業を受け持つことになります』

ちひろ『そういった面でアイドル達とは関わることになるでしょう。しかし直接かかわることはほぼ無くなります』

ちひろ『これは国内に残って管理職についていても同じです』

ちひろ『ですから、どちらにせよアイドルと直接かかわることは少なくなります』

未央『でもっ!日本にいるのと海外に行っちゃうって全然違うじゃん!!』

ちひろ『そうですね。しかし――』

ちひろ『それがあなたたちアイドルと何の関係があるのでしょうか?』

未央『えっ?』


ちひろ『あくまでアイドルとプロデューサー、仕事だけの関係ですよね?』

ちひろ『4月からは新しいプロデューサーの下でアイドルとして活動してもらいます』

ちひろ『前のプロデューサーが、どこで仕事していていようが関係ないはずです』

ちひろ『そこに何か問題がありますか?』

未央『……ないです』

ちひろ『そういうことです』

未央『でもそれを言わないのは…』

ちひろ『アイドル達に余計なストレスを与えないためです』

未央『でもこっちのほうが余計マズいじゃん!』

ちひろ『まあそれに関しては私もそう思います』

未央『……えっ?』


ちひろ『私から言えるのはこれくらいまでです。どちらにせよ週明けには内示されていたことですから』

未央『もしかして送別会をこのタイミングにしたのは』

ちひろ『私なりの配慮ですね』

ちひろ『こういう形でバレなければ、会社からの人事でアメリカに行ってもらうことになりましたと発表、急な話だけれどプロデューサーも会社に勤めている以上逆らえないから泣く泣く海外に転勤、というシナリオでした』

ちひろ『送別会の日にこうなりましたって発表すれば、ショックは大きいでしょうがそこを乗り切れば全部まとめて受け止めることが出来ます』

ちひろ『結果的に前向きにとらえて送り出すことが出来ると、心理学の本にも書いてありました』

未央『そんな不意打ちみたいなかたちでお別れするなんて』

ちひろ『私から言えるのはそれくらいですね』

ちひろ『あとは、プロデューサーから直接聞いてください』


ちひろさんは、そういって後は何も教えてくれなかった。
頭の中がぐちゃぐちゃな感じだ。プロデューサーさんがアメリカに行くことを内緒にしてたから?いや違う。ちひろさんも言っていたようにアイドルとプロデューサーの関係だったら何も変わらないはず。
どうしてだろう…。プロデューサーさんが居なくなる。ただそれだけのはずなのに……。

誰かに相談した方がいいのかな?例えば、そうさくまゆとか。

さくまゆは、本当にプロデューサーさんのことが好きだ。頑張って料理を覚えたのだって忙しいのに送別会を企画したのだって全部プロデューサーさんが好きだからだ。
だからさくまゆは知る権利があるはずだし、知らなきゃいけないはず!

何よりフェアじゃないし――


……何が?

何がフェアじゃないんだろう?
別にプロデューサーさんのこと、さくまゆの様に好きな訳じゃないのに。

『未央はプロデューサーのこと、好きだと思ってた』

違う。

『プロデューサーに告白しないんですか?』

何を?

『まゆは、あなたに負けません』

だから何を!?

なんでみんな勝手に私がプロデューサーさんのこと――


・ ・ ・

まゆ「どうしたんですかぁ?こんな時間に」

未央「あっごめんね。急に来ちゃって」

まゆ「いいですよぉ。最近未央ちゃんとも会えていませんでしたから。何か飲みます?」

未央「ん、いいや」

まゆ「そうですかぁ」

さくまゆの部屋、だいぶ色んなものが増えたなあ。
送別会用の飾りだったり、料理の材料とか、プレゼントとか。

まゆ「もうすぐで送別会ですからね」

未央「…そうだね」

まゆ「……何かあったんですか?」

心配そうに顔を見てくる。あぁ、本当にいい子なんだなあ。
プロデューサーさんのことだけじゃなくてみんなのことをちゃんと見てくれる女の子。
やっぱりこういう子が報われるべきなんだよ…ね?

未央「実は――」


・ ・ ・

まゆ「そうですか」

未央「……なんかごめんね」

まゆ「どうして未央ちゃんが謝るんですかあ?」

未央「なんか、さちまゆに申し訳なくて」

まゆ「……それじゃあまゆも未央ちゃんに謝らなきゃいけないですね」

未央「……えっ?」

まゆ「実は、ちょっとだけズルしちゃいました」

未央「知ってたの?」

まゆ「まゆは、プロデューサーさんのことなら何でも知ってますから」


未央「えっと…、それはそれで怖いような……」

まゆ「別にへんなことしたわけじゃないですよ?プロデューサーさんの荷物がどんどんなくなるのに、上のフロアに席が出来ないのが不思議でしたから」

未央「あっなるほどね」

まゆ「ついプロデューサーさんに詰め寄って聞いちゃいました」

まゆ「だから、ごめんなさい」

未央「いやいいって!てかそんな異変に誰も気が付かなかったんだね」

まゆ「席が移るのは4月からってことになってましたから、誰も不思議に思わなかったんですね」

未央「……それで」

まゆ「なんでしょうか?」


未央「えっと、プロデューサーさんが居なくなるって知って、あの、どう思った?」

まゆ「そうですね…」

まゆ「まゆは、あの人が幸せになることが一番幸せなことですから」

未央「……それって」

まゆ「でも、まゆはまだあきらめていませんから」

未央「まゆ……」

まゆ「送別会の後、ちゃんと告白します」

未央「……うん。それがいいよ」

まゆ「だから、未央ちゃんも」

未央「やめてよ、さくまゆ。私はそんなんじゃないし」


まゆ「ダメですよ?」

未央「ダメじゃない。やっぱりさくまゆみたいな子がプロデューサーさんの隣に居ないと」

まゆ「……未央ちゃん」

まゆ「未央ちゃんは、プロデューサーさんのことが好きですか?」

未央「……わかんない」

まゆ「じゃあ、プロデューサーさんのいいところは知っていますか?」

未央「……声が渋い?」

まゆ「ふふっ♪あの声は癖になっちゃいますよね。他には?」

未央「うーん、ネクタイが似合ってる」

まゆ「他には?」

未央「……これは何なんでしょうか?」


まゆ「えいっ♪」こちょこちょ…

未央「うひゅ!?」

まゆ「腋が弱いんですかぁ?」

未央「ひゃ!ちょ、まっ」

まゆ「プロデューサーさんのいいところ言えるかゲームですよ♪」

未央「なにそれ!?」

まゆ「止まったらくすぐっちゃいますよ?」こちょこちょ

未央「みゃひぃ!?ちょちょちょ待ってって!!」

まゆ「待ちませんよお」こちょこちょ…

未央「えっとえっと!眉毛が濃い!」

まゆ「他には?」こちょこちょ

未央「止めないの!?じゃあえっとえっと――」


・ ・ ・

未央「はあ…はあ…もう勘弁して……」ぐたっ

まゆ「たっぷりプロデューサーさんのいいところ聞いちゃいました♪」

未央「なんだったのこれ?」

まゆ「未央ちゃんの、諦めを奪っちゃうんですよ」

未央「諦め…?」

まゆ「そうですよぉ」

まゆ「本当に、二人とも似ていますね」

未央「……誰と?」

まゆ「それだけいっぱいプロデューサーさんのいいところを言えるのにまだ未央ちゃんは諦めちゃうんですか?」

未央「さくまゆはどっちの味方なの……」

まゆ「まゆは、プロデューサーさんのことが大好きですよ」

未央「それは知ってるから」

まゆ「中でも一番好きなプロデューサーさんは――」


まゆ「未央ちゃんを見ている時のプロデューサーさんです」


・ ・ ・

ちひろ「必要なものの運び出しはもう終わりました?」

P「はい、残ってるのは引継ぎに必要な資料くらいですね」

ちひろ「改めてお疲れ様です。こんなぎりぎりまでこっちに残っていなくてもよかったんじゃないですか?」

P「とはいっても引継ぎの資料を作るのにだいぶ時間がかかりましたからね」

ちひろ「本当にうちの事務所は個性的な子が多いですからねえ…。何ですかこの『森久保逃亡先リスト』って」

P「その名の通りですよ?乃々が居なくなった時にどこを探せばいいかのマニュアルです」

ちひろ「こっちは志希ちゃんにフレデリカちゃん…」

P「よく居なくなりますから」


ちひろ「なんでこんなに失踪癖がある子ばかりそろってるんですかねえ…」

P「こっちは周子の好きな和菓子リスト、そっちはかな子のおすすめ洋菓子屋、みちるのパン屋に法子のドーナツ、楓さん一発ギャグ集…」

ちひろ「そんなものわざわざメモで残していたんですか?」

P「人数が多いですから。ちょっとしたことを覚えていないと拗ねちゃいますし」

ちひろ「わかります。みんな年頃の女の子ですからね」

P「後任のプロデューサーにちょっとでも情報は残してあげないと…よし終わりっと!」

ちひろ「お疲れ様です。あとはこっちでやっておきますね」

P「ありがとうございます。ちひろさんにもお世話になりました」

ちひろ「いえいえ、お仕事ですから。そういえば会議室の鍵返しました?」

P「あれ?返していませんでしたっけ?」

ちひろ「そうですね。会議室にあると思うのですいませんが持ってきてもらえます?一応管理規則で本人が返すことになってるので」

P「わかりました。そういうところ融通が利かないですよね」


ガチャ

てくてく…

P「ふう、もうここともお別れか…」

P「色々あったけれど、何だかんだ言って楽しかったなあ」

P「……っとこの会議室か」

ガチャ

――ぱんぱん!


P「うおっ!」

アイドル達「「「プロデューサーお疲れさまでした!!」」

P「えっ?なにこれ?」

卯月「うふふ♪プロデューサーの送別会ですよ!」

P「えっと?あれ鍵は」ぽかん…

瑞樹「そんなの嘘にきまってるでしょ?」

ちひろ「すいません内緒でって言われてたので」ひょい

凛「ほらほら、今日の主役はプロデューサーなんだからそんなところに立っていないで」

P「えっなにこれ超うれしいんだけど。いい年のおっさん泣いちゃうよ?」

早苗「おうおう!泣いちゃえ泣いちゃえ!!」

藍子「ちゃんと記念に写真撮っちゃいますからね♪」

まゆ「プロデューサーさん♪お疲れさまでしたぁ」

未央「お疲れ、プロデューサーさん」


サプライズ送迎会はつつがなく予定通りに進んだ。

みんなで選んだ記念の万年筆だって喜んでくれたし、女子力の高いアイドル達お手製の料理もおいしかったし、年少組の心のこもった飾りだってほめてくれた。

――そして予定通り、アメリカに行っちゃうことも発表された。

みんな戸惑い、悲しみ、それでも会社の決定だからと受け止めて、ちゃんと帰ってくるからというプロデューサーさんの言葉に安堵して、惜しまれながらも新しい門出を祝っていた。

そんなこんなで送別会は、拍子抜けするほどあっけなく終わって、昼に始まった送別会は夜になる前に解散となった。
大人組は新しいプロデューサーとなる人との懇親会といって飲みに行ったし、学生組も後片付けはちひろさんがやるからということでそれぞれ家路についていた。

事務所に残っているのは、プロデューサーさんと佐久間まゆの二人だけ。そう二人だけ。

私は、公園に居た。事務所から歩いて5分のところにある公園。
アイドルのみんなが現実逃避するのにちょうどいい公園。


きっとさくまゆは、真正面からプロデューサーさんに告白するんだろうな。
成功するかどうかは……正直わかんない。

でもやっぱりさくまゆは、ずっと真正面からプロデューサーさんに好意をぶつけて来たさくまゆは報われなきゃいけないんだと思う。
それに引き換え私は、未だに私の気持ちがわからない。

プロデューサーさんが居なくなるのは寂しい。でも今までさくまゆみたいに好意をぶつけて来た訳じゃない。
スタートラインから負けちゃっているのに、急に横やりを入れるみたいなのは、なんか嫌だ。

少なくとも嫌いじゃないし、でもさくまゆから必死になって奪い取りたいほどの熱い気持ちもない。
じゃあなんでこんなところで未練たらしく待っているんだろうか。

アイドルになりたての頃は、キラキラした世界と地味な下積みのギャップがしんどくて、たまにここで現実逃避していた。
そんなことをしていると、そのうちしまむーやしぶりんもここの公園でぐたぐたするようになったし、この前は乃々がむーりぃーって言いながらベンチに座っていた。
ここの公園は、なんていうかちょうどいい緩衝地帯になっているんだと思う。

すべて投げ出してどこかに行っちゃうまでもなく、かといって厳しい現実の待っている事務所に閉じ込められるわけでもなく
だらだらとした微妙な気持ちの時にここは最適な場所なんだと思う。


そうこうしていると、ポケットに入れていた携帯が震えた。メッセージの発信先は「佐久間まゆ」

『振られちゃいました』

短い一言だけのメッセージ。一言で済ませていいはずないのに一言だけ。
今まで尽くしてきたすべてが水の泡になったのに、やっぱりさくまゆはすごいよ。

なんとなく、潮時だと思った。
メッセージに返信して、ベンチから立ち上がって背伸びする。
よし、これで今日は帰ろう。これで私の物語はおしまい。きっと始めから何も起こらないお話だったんだ。

明日からは新しいプロデューサーになる人としっかりコミュニケーションをとって、これからのアイドル業を全うしないとさ!
そういえば宿題も山ほど出ていたし片付けないとなあ、全くなんで冬休みにも宿題なんてあるんだろうね!
しまむーやしぶりんみたいにとっとと切り替えて前に進まなきゃいけないっていうのに、なんで私はだらだらしていたんだろうねっ!


卯月「本当に何やっているんですか?」

未央「ひゃい!?」

凛「アイドルにあるまじき声だね。未央」

未央「なななんでしまむーとしぶりんが!?」

凛「なんとなくここで落ち込んでるかなって」

未央「いや、あはは……」

凛「全く。それでもニュージェネのリーダーなの?」

……そういえばそうでしたね。最近二人とも大人気だから未央ちゃんすっかり影が薄くなっちゃってるんだよ?


卯月「プロデューサー、海外行っちゃうんですよ!?それで未央ちゃんはいいんですか?」

未央「だから別にプロデューサーさんとは――」

卯月「もうっ!まだそんなこと言ってるんですか!」

卯月「未央ちゃんはもっと考えなしのおバカさんじゃないんですか!?」

未央「ちょ!?なにそれ!!」

凛「…流石に卯月の言い方はどうかと思うけれど」

未央「そうだぞー!!もっと言えー!!」

凛「でも今の未央からはパッションのかけらも感じないよね」

未央「えっ」

卯月「もう空気が抜けちゃった風船みたいにしなしなですね」

凛「これからパッション代表は茜でいいんじゃない?」

卯月「そうですねっ!」

未央「おいおーい!?なんでそんなに好き勝手言われなきゃいけないのさ?!」


卯月「とにかくっ!このまま悶々としたままでいいんですか?」

未央「そりゃよくないけれど…」

凛「じゃあミツボシみたいに当たってパッと弾けてきたら?」

未央「人の持ち歌を何だと思っているんだね?」

凛「少なくとも、今の未央に『ミツボシ☆☆★』は似合わないね」

未央「……」

凛「こんなこと言いたくないけれど、そんな中途半端な気持ちでアイドルを続けられるの?」

凛「私たちだけじゃないよ、ポジパのみんなも、まゆだってそうだよ」

凛「みんな負けたくないって頑張ってるんだよ?」

凛「『絶対負けたくない』って歌っている子が何も始まる前に諦めるの?」

卯月「そんなのおかしいですよ!」

卯月「私たちはアイドルなんですよ!みんなの夢をかなえるんですよ!!」

卯月「夢をあきらめた人がアイドルになれるんですか?」


未央「ふたりとも……」

凛「ほらほら、細かいことは後にしてとにかく事務所に行く!」

卯月「ファイトですよ!パッと弾けてください!」

未央「なんで砕けること前提なんだよー!!あーもう!!」

未央「じゃあ行ってくる!!」

なんでこうなったのさ!?
私の物語は終わったんじゃないの!?あのシンデレラガールズどもめー!好き勝手言いたい放題いいやがって!!
でも、確かにここ最近パッションが足りなかったのは事実でして……

うん!ぐるぐる迷ってるのはすごく私らしくない!!何が起こるのかわからないけれど、それでも当たって砕ける!それがパッションでしょ!!

ゆくぞ!ミツボシ☆☆★本田未央!!


・ ・ ・

まゆから告白されるのは、想定の範囲内。
一瞬、寂しそうに笑って事務所を出ていったけれど、これでよかったんだと思う。
だからこそぎりぎりのタイミングでの海外転勤発表だったし、まあまゆにはバレていたんだけれど、これで何も思い残すことなく旅立てるというものだ。
だから俺は事務所に残っている理由はなかったし、さっさと帰るべきだった。
でもなぜか、だらだらと事務所に居座り続けていた。そうすれば困ったことが起きるかもしれないのに――

ほら、バタバタと騒がしい足音が聞こえる。最近聞いていなかった足音だ。
パッションの精神を持った、流れ星みたいな女の子。

本田未央が事務所に飛び込んできた。


・ ・ ・

P「……どうした?」

未央「えっと…、こんばんわ」

……あれですね、考えなしに突っ走るのも考え物ですな。
せめて何か口実を思いつかないと全然ダメじゃん!

P「……何か飲むか?」

未央「あっ、うんお願い」

P「お茶でいい?」

未央「うん」

P「ちょっと待って」

未央「…手伝おっか?」

P「大丈夫、座ってて」

未央「うん、ありがと」

P「……」

未央「……」

P「……お茶請けいる?」

未央「ん。いいかな」

P「そっか」


話が上手くかみ合わない。最近プロデューサーさんとこうやって話をするのもなかったし。
何だか前にもこんなことがあった気がする。

P「はい」

未央「あっ、ありがと」

P「……」

未央「……あち」

P「熱かった?」

未央「ううん。ちょっと慌てて飲んじゃっただけ」

P「……」

未央「なんか、こうやってお茶を淹れてもらうこともなくなるのかな?」

P「まあ、そろそろあっちに行かなきゃいけないし」

未央「そう…だよね」

P「……」

未央「ねえ」

未央「どうして、アメリカに行くの…?」


―――――――

――――

――


アイドルのオーディションって何を見ればいいんだ?
全然就職決まらないし、こんな時期まで募集している聞いたことの無い会社だけど、ニートになるくらいならって気持ちだったのにいきなりプロデューサーに抜擢って…
あの社長、フィーリングで人事を決めやがって、もしかしてヤバい会社なのか??

面接用の会議室に女の子が入ってくる。
やっぱりアイドル志望の子だけあってみんな可愛いなあ。とてもじゃないけれど普通の生活をしていたら関わることもないような女の子。
うーん、とりあえず全員合格じゃダメなのかな?

『アイドルになる子ってのはこうティンとくるもんだから!その直感を頼りに面接してみて』

ティンとねえ…
とりあえず女の子を促して手元の履歴書を見ながら自己紹介をさせる。
この子は渋谷凛っていうのか。なんか今時の女子高生っていう感じ。ファミレスでだべってそう。
どんな子だったか後で見返したときに思い出せるように、履歴書の余白にメモを取る。

この子は島村卯月、笑顔が可愛い。あとスタイルがいい。こうお尻のラインが――
なんかすごい変態っぽいな、俺。
とりあえず履歴書にメモをして、下を向きながら次の子に声をかける。

P「では、次の方どうぞ」

「はい!!」


凄い元気いっぱいな声。驚いて顔を上げる。勢いよく立ち上がって、全身から情熱を発散させているような女の子。

未央「本田未央です!よろしくお願いしまーす!!」

――あの社長の言ったことを一瞬で理解した。この子は、アイドルになれる。

何を言っていたかは正直よく覚えていない。
ただ、その時は全身から溢れ出るパッションに圧倒されて、仕事だとかどうだとかそんなこと忘れて本田未央に魅了されていた。
履歴書に何かメモする必要は、何もないほどその時の本田未央の印象は深く焼き付いた。


・ ・ ・

P「おめでとうございます。合格です」

未央「えっ!本当!?」

何を驚いているんだろうかこの子は。
アイドルになるべくしてアイドルになる子だぞ?

P「これから書類を書いてもらって、今週末からレッスンを行いたいと思いますがよろしいでしょうか?」

未央「はい!よーし頑張るぞー!」

P「ではよろしくお願いします」

未央「そういえば他には誰かアイドルはいるんですか?」

P「……いえ、アイドル部門そのものが立ち上げたばかりなので」

未央「えっ?そうなの!?」


P「もちろん今回のオーディションで有望な子を発掘してプロデュースしていきますのでご心配せずに」

未央「へえー。そういえば一緒のオーディション会場にいた子って合格したの?ほら黒髪とサイドテールの」

P「渋谷さんと島村さんですか?そうですね。二人とも採用予定です」

未央「あーやっぱりね!ふたりともなんか凄いオーラがあったもんね!」

P「そうですか?」

未央「そーだよ!もうこんな子が来てるんだったら私なんてダメかなって思ってたし」

未央「だから、私もふたりに負けないように頑張るね!」

オーディションという極限の環境で他の人を見る余裕があるのか?ちゃんと色々みているんだな。

P「……ひとついいですか?」

未央「なに?」

P「何か、目標はありますか?」


目標は大切だ。この子を生かすも[ピーーー]も俺次第。歌を磨いて国民的歌手か、演技を磨いて大女優か、はたまたダンスでオリンピックをめざすか――
何にせよ本人の希望を聞いてやりたいことを伸ばしてあげるのが一番だろう。

未央「うーん、友達をたくさん作るとか!?」

なんだそりゃ?もっとこう、アイドルとしてやりたいことはないのか?

未央「やっぱり、私はみんなと仲良くなりたいし笑顔にしてあげたいかな。あとなんかデッカイことやりたい!!」

P「デッカイこと…」

未央「うん!!夢はでっかく世界中のみんなを笑顔にしたい!」

P「世界中…」

未央「あっ!そうだまずはプロデューサーさんのことを笑顔にしてあげるから!」

P「……俺を?」

未央「だって、すごい難しい顔してるから」

満面の笑顔で、笑いかける未央。そんな彼女を見ているだけで何だか元気を貰える気がした。
ふうっと何だか心が軽くなった気がした。

――この子の夢をかなえてあげなきゃ

それが、俺の目標になった。


・ ・ ・

『トライアドプリムスの新曲、絶好調ですね!』

『この渋谷凛という子をCMに起用したいのですが――』

『島村卯月さんを今度のドラマに』

『雑誌のモデルに』

『渋谷さんを!』

『島村さんを!』

『本田未央…?あぁまたの機会に――』

――なぜだ?どこで間違えたんだ?
ニュージェネレーションズとして三人を売り出して、その中でも目玉のリーダーに未央を据えて、トップアイドルの第一歩を踏み出すはずだった。

ニュージェネレーションズは大成功した。でも未央よりも卯月や凛の方が人気が出る。
ソロでも、新しいユニットを組ませても、歌もダンスもヴィジュアルも何一つ二人に負けていない、いや俺から見れば未央が一番だ。

それなのにどうして上手くいかないんだ?


未央「いやー!ふたりとも凄いよねー!もう天下のトップアイドルって感じ!」

そしてなぜ未央は、それを不満に思わないで受け入れているんだ?

未央「だって二人とも私の大親友だよ?親友の頑張りを応援しないわけないじゃん!」

違うんだよ。未央だってトップアイドルになれるはずなんだ。あの時に感じた輝きは本物なんだ。
卯月と凛にはどんどん仕事が回ってくる。でも未央はせいぜい普通のアイドル止まり。
こもままじゃ駄目だ。未央をトップアイドルにして世界中のみんなを笑顔にするっていう夢は夢のまま終わってしまうのか?


でも――

もし俺じゃないプロデューサーだったら?

俺よりも未央の魅力を生かせるプロデューサーが未央をプロデュースしたら?

一瞬よぎったその考えは、あっという間に俺の思考を蝕んでいった。
ちょうどその頃だった。海外事業部を立ち上げるという話を聞いたのは。

決断するのに、そう時間は必要なかった。


――

――――

――――――――


P「アメリカに行くのは、会社の辞令だからな。やっぱり会社のいうことに逆らえないの」

未央「うそつき」

P「……」

未央「ちひろさんに聞いちゃった。プロデューサーさんからアメリカに行くって言いだしたって」

P「……そっか」

未央「だから、えっと、プロデューサーさんを止める訳じゃないけれど」

未央「何でかは教えて欲しい」

P「出世の為」

未央「うそつき」

P「お金の為」

未央「うそつき」

P「実は俺、アメリカ人なんだ」

未央「そうなの!?」

P「違うぞ」

未央「むー」


P「……夢をかなえるため」

未央「……どんな?」

P「俺が、見つけた女の子をトップアイドルにする夢」

P「って言ったらどうする?」

未央「……なんか似合わない」

P「だろ?」

未央「でもそれなんでしょ?」

P「……さあ」

未央「……そっか」

P「……」

未央「……それで、誰なの?」

P「ん?」


未央「やっぱりしぶりん?トラプリのパフォすごいもんね!」

未央「それともしまむー?ド派手にハリウッドデビューとか!」

P「未央」

未央「いやーすごいなあ!私ハリウッド女優と友達だって自慢できちゃうんだよ!?」

P「未央」

未央「やっぱ未央ちゃんとは住む世界が違うんだろうなー!あのふたりは!!」

P「未央ッ!!」

未央「……そうなんでしょ?」

未央「私じゃないんでしょ……?」


P「……」

未央「お願いだから、違うって言ってよ」

未央「私に…夢なんか見ないでよ……」

P「……」

未央「私はっ!私は――」

どうして…?どうしてこうなっちゃってるの?
どうしてプロデューサーさんは私の前からいなくなっちゃうの?
それも私のせいで!


P「未央は、俺が一番最初に見つけたアイドルなんだ」

未央「……」

P「だから、未央をトップアイドルにする使命がある」

未央「じゃあ行かないでよ」

P「でも俺じゃダメだったみたい」

未央「ダメじゃない」

P「未央」

未央「お願いだから…」


P「プロデューサーの仕事は、アイドル達とのんびり過ごす事じゃないんだ」

P「自分の見つけたアイドルを、トップアイドルにすることなんだ」

未央「でも私はそんなこと望んでいないよ!」

P「じゃあ何でアイドルをやっているんだ?」

未央「それは――」

P「アイドルをやる以上、トップを目指すのが当然――」





未央「プロデューサーがいるから!!」




P「……えっ?」

未央「私がアイドル頑張るのはっ!プロデューサーがいるからだよっ!!」

未央「それだけじゃない!アイドルやらないと、しまむーともしぶりんともっ、あーちゃんともあかねちんともっ、さくまゆとも出会えなかった!!」ぽろっ

未央「そしてみんなを笑顔に出来れば私は幸せなの!」ぽろぽろっ

P「未央…」

未央「だから、だから私を見つけてくれたプロデューサーのことが――」

P「未央!!」


ぎゅっ

未央「……プロデューサー」

P「ごめん」

未央「……ううん」

P「その先を聞くわけには、いかないから」

未央「……」ぎゅ

P「まだ、だから」

未央「どうしても?」

P「だって未央は、俺のアイドルだから」

未央「ばか」

P「わかってる」

未央「……三年だったよね?」

P「ああ」

未央「三年、三年で絶対後悔させてあげる」

P「うん」

未央「トップアイドルになってやるから」


・ ・ ・

――結局、私の物語は何も起こらない物語だった。

プロデューサーは予定通りアメリカに旅立った。新しいプロデューサーが入って、新人アイドルもたくさん入ってきた。
みんな変わらずアイドルとして頑張っているし、アイドル部門は絶好調らしい。
今度しまむーは映画に主演するらしいし、しぶりんはアジアツアーが決まって、さくまゆはアンダーザデスクで忙しい。

でも――


『この前の未央ちゃんのドラマ見た?』

『みたみた!なんか元気もらえるよね!?』

『ちゃんみおの新曲、良くない?』

『カラオケで歌うと盛り上がるよねー!』

『今度のライブのチケット、また売り切れちゃったって』

少しずつ、本当に少しずつ忙しくなってきた。


卯月「やっぱりあの日に何かあったんですか?」

凛「ほらほら、今のうちに白状しなよ」

未央「ううん。本当に何もなかったよ」

卯月「でも最近の未央ちゃん、変わりましたよ?」

未央「目標が出来たからかなー」

凛「目標?」

未央「うん」


―――――――

――――

――


モブ子「あっ!あの!」

未央「ん?」

モブ子「未央さん…ですよね?」

未央「そうだよー!変装してたのによくわかったねー!」

モブ子「あっすいません、お邪魔でした?」

未央「いいよいいよー!あっ!でも内緒にしてね☆」

モブ子「はっはい!あの、サインを…」

未央「おっ!ここでいいかな?」さらさら


未央「じゃあこれからも応援よろしくねー☆」

モブ子「はい!!まさかアメリカで会えるなんて思わなかったです!」

未央「はっはっはー!ワールドツアー中だからねー!」

モブ子「ありがとうございました!!」

たったった…

未央「さてと…」

――本田未央は、18歳になりました。


約束は、守ったはずだよ?プロデューサー。

えっ?もう未央のプロデューサーじゃないって?いいじゃんそんなこと。

私にとってのプロデューサーは、プロデューサーだけだからね。

さて、覚悟はいいですかな?熟成された三年物の想いですよ?

今度は、ちゃんと受け止めてよね。




本田未央「好きだ、プロデューサー」



未央ちゃんにコブラツイストを決められたいだけの人生でした。
投稿ミスったところを纏めて直したら依頼出します。

>>23

・ ・ ・

……はあ、大変な目にあったな。
でも確かにプロデューサーさんは、仕事とプライベートの線引きがしっかりしているっていうのは何だかわかる気がする。
やっぱり大人組はそういうのに敏感なんだろうなあ。
未央ちゃんはまだまだ子供です…ね。

少なくとも一緒に事務所でお泊りすることに抵抗を感じないくらいには――

どくん…

あれ…?
何なんだろうかこの気持ちは?
プロデューサーさんにとっては、恋愛の対象として見られていない。

別にそれがどうしたっていうんだ?
私たちはいつでもそうだったじゃん。アイドルとプロデューサーっていう仕事だけの関係性。
むしろ私みたいな未成年にされちゃ恐いし…。

うん…、ダメだもやもやが全然晴れない。

今日はもうダメだなこりゃ。さっさと家に帰っちゃおう。ご飯食べて、お風呂につかって、ゆっくり寝ればまた元通りの未央ちゃんになるはず。

そう思って荷物を纏めて事務所を出ようとすると――

>>37

ちひろ「はい。ってこれ懐かしいですね!アイドル達の履歴書ですか?」

P「原本は厳重管理じゃないですか?でも何度も見返す機会があるからコピーを」

ちひろ「全く…。総務にバレたら減給ですよ?」

P「でもちひろさんは見逃してくれるよね?」

ちひろ「現場の事情は理解していますからねえ…。流出しなければ問題なしですよ」

P「それは大丈夫。机に鍵かけてますから」

ちひろ「…ふふっ。本当に懐かしいですね」ぺらっ

P「このアイドル部門立ち上げからの貴重な資料ですから」

ちひろ「あっ!凜ちゃんたちの履歴書ですね。赤ペンでメモがたくさん」ぺらっ

P「最初の頃は勝手がわからずに試行錯誤でしたから」

>>46

卯月「それって私も内緒に出来ないって思ってたんですか?」

凛「卯月はソロライブで忙しかったから…」

未央「いよっ!シンデレラガール!!」

卯月「むー」

そういえば事務所で起きた変化と言えば、しまむーが年始の歌番組でブレイクを果たしてかなり忙しくなった。
おかげさまでニュージェネレーションズでやる予定だった小さいイベントがキャンセルになったりして微妙に手持無沙汰になった。
しぶりんは元々トラプリとかでそこそこ忙しかったけれど、私は、比較的暇。かなり暇。

おかげでこのプロデューサー送別会準備会に入り浸って、さくまゆと居ることが増えた。

最初はちょっと距離感がつかめなかったけれど、最近じゃもうあだ名で呼んじゃうくらいには仲がいい。
えっ?未央ちゃんはみんなあだ名で呼んでるだろって?まあそれは置いておきまして

>>48

ところで話は変わりますが、私はどうして宣戦布告された子と仲良くしているのでしょうか?

いやあの日のさくまゆ、むっちゃ恐かったよ!?
正直本気で家に帰れないかと思ったくらいには。

ところが――


まゆ『プロデューサーさんのことを好きな人に悪い人はいませんから』


なんというか、この子は本当に懐が深くて、プロデューサーのことが好きなんだなって思った。

まゆ「さて、そろそろ遅くなりますからお開きにしましょうか」

未央「あっ本当だ。じゃあ解散ということで!」

凛「卯月これプロデューサーに内緒だからね?」

卯月「大丈夫ですっ!あっ!せっかくだから久しぶりに三人で帰りましょうよ!」

未央「おーいいね!未央ちゃん最近シマムラニウム不足でねぇ~」

藍子「……なんですかそれ」

まゆ「うふふ♪じゃあ皆さん気を付けてお帰り下さいね」

>>61

…どくん!


えっ?


……ずきん!


なにこれ?

どうしてこんなに胸が苦しいの?

さくまゆと一緒に笑っているプロデューサーさんを想像するだけで――

どうして!?わかんない!?

どうして「嫌だ」って思っちゃうんだろう?

どうしてさくまゆの幸せを願ってあげられないんだろう?

どうして…

私ってこんなに嫌な女だったっけ?

そもそもプロデューサーさんとは何もない

アイドルとプロデューサー

ただそれだけの関係なのに……

>>62

P「未央…?」

まゆ「未央ちゃん?」

未央「…うん、ごめんもう帰るね」

ダッ!

P「未央!」

最低だ。本当に最低だ!!
プロデューサーさんが私のこと心配しているってわかってるのに!

もっとちゃんと動いてよ私の心!

ちゃんと何もないって言ってよ!!

こんなの卑怯だよ!さくまゆはちゃんとプロデューサーさんと向き合っているのに!!

どうして私は真正面から向き合えないの!!

>>63

――その日から、またプロデューサーさんは忙しくなって、もうほとんど会うこともなくなった。
それでも、さくまゆはずっとプロデューサーの為にお弁当を作っていた。

送別会の準備は少しづつ進んで、そして三月を迎えるのだった。

>>129

目標は大切だ。この子を生かすも殺すも俺次第。歌を磨いて国民的歌手か、演技を磨いて大女優か、はたまたダンスでオリンピックをめざすか――
何にせよ本人の希望を聞いてやりたいことを伸ばしてあげるのが一番だろう。

未央「うーん、友達をたくさん作るとか!?」

なんだそりゃ?もっとこう、アイドルとしてやりたいことはないのか?

未央「やっぱり、私はみんなと仲良くなりたいし笑顔にしてあげたいかな。あとなんかデッカイことやりたい!!」

P「デッカイこと…」

未央「うん!!夢はでっかく世界中のみんなを笑顔にしたい!」

P「世界中…」

未央「あっ!そうだまずはプロデューサーさんのことを笑顔にしてあげるから!」

P「……俺を?」

未央「だって、すごい難しい顔してるから」

満面の笑顔で、笑いかける未央。そんな彼女を見ているだけで何だか元気を貰える気がした。
ふうっと何だか心が軽くなった気がした。

――この子の夢をかなえてあげなきゃ

それが、俺の目標になった。


多分これで直すところは全部なはず…
投稿が遅くなったりと長々とお付き合い頂きありがとうございました。

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