一方通行「『こころ』かァ...」 (130)
一応断っておきますが、鰤とは無関係です。書き溜めがないので、とりあえずスレ建てだけ。
私の一日は一般的な人々とは異なり、時計の針が12の文字を指し示すあたりで始まります。私の年齢は16と、その多くが学校へと通う義務を持つのですが、その道から外れてしまっている私には関係のないことです。
堕落した身、それは自分が一番よく理解していることです。肉体的にも精神的にも成長のない私は、周りからして馬鹿らしい存在なのでしょう。手が届く範囲に、誰一人として存在している者はいません。
この時間まで布団に潜っていられるということは、言い換えれば起こしてくれる身近な人物がいないことの証明にもなります。誰もいないという認識が、私の中に巣食っている劣等感を増幅させているのかもしれません。
ですが、劣等感では腹は膨れません。私は空腹を感じていました。昨日の今頃から、何も口にしていません。怠惰を患った自分には料理をするという選択肢はなく、外で食べる必要があります。
私は、扉のない廃墟から街へと歩き出しました。
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この街は、私の苦手な『現代』で溢れかえっています。多くの人は便利な街だと胸を張るのですが、人工物が散りばめられている為なのか、窮屈な感じばかりがします。
これは、物心がつく頃からこの街で過ごしてきた、にも関わらずです。生まれ持った気質というものが、『現代』の受け入れるを拒んでいるのかもしれません。
さて、窮屈とは言いましたが、この街が便利であることを否定するつもりはありません。カードをかざすだけで何もかもが手に入れられますし、こんな堕落者でも十分に暮らしていけるのはきっとこの場所だけでしょう。
私は、コンビニでサンドイッチとコーシーを手に入れました。腹の虫が暴れ回っていることですし、歩きながら食べることにしましょう。
レタスとハム、そしてスクランブルエッグに舌鼓を打っていると、何やら道を塞ぐ者たちがいます。全員が髪の毛に手を加えていたり、派手な和柄が目についたりと、不良者に間違いないでしょう。
彼らはいやらしい笑みを浮かべながら、
「お前を倒せば俺が最強だ! 」
と、喚き散らしています。手には金属バットや鉄パイプが握られており、私にはその手を止めることが出来ません。
私の中にいる、未来人の手を借りなければ。
このようなことは、今日に限ったことではありません。無い日があればいい方かもしれません。ですが、彼らの攻撃が私に届くことはないでしょう。
この街に住む学生の数割の中には、大きさこそ様々ですが未来人が存在しています。そして、皆がそれを大きくさせようと躍起になっている...それがここ、学園都市です。
ここでは、未来人の大きさによってランク付けがされています。一番下の0から、最高の5にまで。5のランクとなると、一人で軍隊と同等の力を有しているとも言われます。
そして、レベル5内での序列で第1位の座に居座っているのが一方通行、つまり私のことです。
今日はここまで
夏目漱石のこころかな?
暫く散歩をした後部屋へ辿り着いた私は、新たに加えられた落書きを眺めていました。殺人鬼やら悪魔やらと、蛍光色の塗料が自己主張をしています。先程の連中が仲間に連絡してやらせたのでしょう。
こんなことなら散歩などせずに帰ってこればよかったと後悔が湧い出てきましたが、元から落書きだらけの部屋なこともあり、終わった今となればもうどうでもいいことです。
それに、いくら倒せるとはいえ、あんな連中とはそう関わり合いになりたいとは思いません。己の未来人に固執し、周りが見えなくなっている愚か共に付き合っていては、落ちぶれるのは目に見えています。
先程、私は堕落していると言いましたが、そんな私にも譲れない一線というものがあるのです。未来人に溺れない理性、こればかりは決して失わないようにしています。
そんな私の態度が気に入らないのか、2ヶ月前、上の人々はある課題を与えてきました。『絶対能力進化実験』それが、課せられたものの名称です。
内容は至って単純で、第3位のクローン20000体の殺害、たったそれだけのことです。それをこなせば、私の中の未来人はめでたくレベル6になるということらしいです。
私は最初、その話を断りました。己の信念に背く結果となるのが目に見えているという理由で。しかし、研究者はかぶりを振り、こう言い返して来ました。
「もし君が辞退するとして、クローンが残されたとしよう。彼女達は忠実であり、生身の人間であり、そして何より替えが効く存在なのだ。当然、非道な人体実験のモルモットにされるだろう。
そうなると、彼女達は永遠の苦しみを味わうこととなる。忠実であるとはいえ、痛みを感じぬ訳がない、辛くない訳がない。だがクローンであるために、ひと思いに殺してくれと嘆願することも出来ない。ただ、役割を全うするだけだ。
一方通行、残酷な話だが、彼女達は殺される為に生まれた存在だ。どう転んでも、生きていけるような道は現れない。それならば、お前が苦痛を感じる間もなく役割を全うさせてやってくれ。それが...最善の道なのだ...」
言い終わると、目の前の白衣は地に頭を擦り付けていました。今の言葉に偽りはない、その時の私にはそう言っているようにしか感じられました。
>>11でも出ていますが、一応夏目先生ちっくな感じでいくつもりです。
あと、>>12の最後の『ました』は、『ませんでした』の間違いです。
ついでに、>>4の『受け入れる』を『受け入れ』にしておいてください。
私は、暫く考えさせてくれと言ってその場を離れました。部屋まではかなりの距離がある筈なのですが、気が付くと目の前には見慣れたマンションが現れていました。歩いてきたのでしょうが、その間の記憶がすっぽりと抜け落ちてしまったかのようです。
その間、私の頭の中ではクローンの彼女達とあの研究者の言葉がグルグルと渦を巻いていました。いえ、それだけではないでしょう。私の過去も関係してくるのです。
そもそも、これまで積み上げてきたものが無ければ、返事はすぐにでも出せました。勿論、実験参加に承知をするというものです。しかし今まで能力使用に消極的だった私が、積極的に未来人へ身体を貸し渡すようになったとしたらどうなるのでしょうか。
恐れていたこと、つまり理性の消失が起こりうるのです。それも、高い確率で。己に酔いしれ、他人を攻撃し、快感を感じる...不良者の姿そのままです。堕落者の私でさえ、その姿には吐き気を催します。
しかし、断ると彼女達が生き地獄に晒されます。こんな未来人が住み着いたばかりに、私はこの街の闇を目にすることが多かったのですが、その中でも人体実験だけは別物だと声を大にして言うことが出来ます。目にするのもおぞましく、見かけた後の一週間は何一つ口に入りませんでした。この悲惨さは、言葉では表すことが出来ません。ですが、私がひと思いに殺してしまえば、そんな目に合わずに済みます。
そう、全てが私次第なのです。本当に上手く考えられている計画だと思いました。強制ではないのです、自分で決めるのです。責任から逃れることは出来ません。
上の人間は、私が必ず参加すると踏んで準備に取り掛かったのでしょう。20000人を[ピーーー]という大層な計画も、上手く誘導すれば実行に移せるのです。
私は、この実験に参加することに決めました。理性の崩壊も、努力次第ではどうにかなるかもしれません。道に拘るあまり、罪のない他人を苦痛に追いやるというのは心苦しいことです。
ですが、心に誓ったことがあります。それを達成するには、莫大な時を要するかもしれません。命すらも投げ出さなくてはならない可能性もあります。しかし、私は必ずやり遂げるつもりです。
この街の悪しき流れを止め、滅ぼす。それが、私のたったひとつの決意です。
あれから2ヶ月が経った今でも、あの時の誓いが薄れることはありません。むしろ、この街の頂点である統括理事達への憎悪は膨れ上がるばかりです。
ですが、まだ此方には圧倒的に情報が足りていません。あちらが私の情報の全てを有していることを考えると、ことを起こすのは時期尚早かもしれません。
そのような訳で、今はただ上からの命令に従ってクローン達の殺害を行っているのです。この実験が始まってからまだ2ヶ月なのですが、既に半数を全うさせました。方法としては、未来人を使ってそこらの石ころを弾丸に変えて延髄に撃ち込んだり、相手に触れて重量ベクトルを増幅させることで首の骨を折ったりすることでしょうか。これなら、苦しまずに一瞬で逝ける筈です。
そんな私の戦い方を上は気に入らないようで、一撃で確実に殺させないように1000体とまとめて戦うことを強いられたこともあります。私が殺しきれなかった個体が苦しむ様でも見たかったのでしょうか。
しかし、私は屈しませんでした。皮肉なことに、私の未来人はこの実験で確実に成長していました。能力の使い方を覚えただけかもしれませんが、この変化には目を見張るものがありました。
一撃で1000人をまっとうさせる、これを成し遂げるには精密なコントロールが必要となります。私は、頭に浮かぶ無限にも及ぶかのような数式を解き続けました。実験開始の数秒前に漸く解が見つかり、開始と同時に発動をしました。
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確かに1000人居たはずの彼女達は其処にはおらず、代わりに地に空いた大穴があるだけでした。その規模は100m四方にも及び、この実験の為に用意した新学区はいとも容易く壊滅したのです。
この時、私の頭は優越感で満たされていました。極悪人の思惑に反して彼女達を救い出したのだという、正義のヒーローにでもなったつもりでした。事実、彼女達は苦しまずに一瞬で逝けたことでしょう。
しかし、この実験の元々の目的を思い出した時、彼女達に向けられていた視線があるべき方向を向いた時、優越感などは大きく空いた穴の中に吸い込まれていきました。急に全身が冷たくなったようで、一ミリたりとも動かせなくなったのです。
『絶対能力者、レベル6の誕生』
この崩壊を引き起こすことは、レベル5では不可能でした。
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今日はここまでということでお願いします。
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