本田未央「絶対に許さない」 (70)
P×未央
――人を好きになる、って怖いことなんだね。
――ほかの人にされたら絶対許さないこと、して欲しいって思っちゃうんだもん。
「プロデューサー。これは、イヤらしい意味じゃなくて……
私……アイドル・本田未央にとって、必要なことなんだよ」
部屋はあまり広くない。
家具はベッド、机、椅子が一つずつと収納で、すべて清潔だが簡素。
没個性で、まるでビジネスホテルのようだ。
そのベッドに、女子高生アイドルの未央が仰向けに横たわっている。
ダークブラウンのショートヘアは、快活さを強調する外ハネを決めている。
着込んでいるのは、以前南の島のグラビア撮影で使った、夏らしいオレンジ色のビキニ。
未央は両手で自分の胸をかき抱いていて、トップスの左側にあしらわれた筆記体が指で隠れている。
しかし未央の細腕は、自身の胸の膨らみを覆うには不足で、稜線のすそは隠れていない。
ボトムスはトップスと揃いのオレンジだが、こちらは飾り紐と生地のボーダーがアクセント。
ヒップの部分のベッドが沈んでいて、その具合から肉付きの豊かさがうかがえる。
脚は正面から見た幅は細い。
しかし少し角度を変えると、ダンスレッスンの賜物か、張りのある裏腿の曲線が見える。
スリムではあるが華奢さは感じさせない。
この部屋と未央の姿の取り合わせを、プロデューサーはひどくミスマッチに感じた。
「未央が真面目なのは、分かっているつもりだ」
本田未央担当のプロデューサーは、未央に返事しつつ、
おかしなことになっているな、と心中で笑った。
「プロデューサーは、何だかんだ長くて深い付き合いだし……
男の人の中では、一番信頼できるの。だから、私は」
このプロデューサーは、有能で仕事熱心ではあったが、
職業倫理については問題があった。
彼のモチベーションの大半はアイドルに対する下心で、
彼女らと一時でもいい仲になれるならば、あとでクビになっても、
別に死ぬわけではないし構わない……とさえ思っていた。
対して、未央はアイドルという仕事に真剣に取り組んでいた。
ハードなレッスンをこなす。
仕事の出来に、飛び上がるほど喜んだり、泣くほど落ち込んだりする。
他のアイドルとも積極的に交流し、事務所ではムードメーカーとして知られている。
学業と芸能活動の両立で休む暇がなくても、不満を漏らさない。
「男の人が……プロデューサーが、私としたいと思ってる……えっち……しよう、よ」
そんな未央が、アイドルとしてファンのために磨き上げた肉体を、
目の前の男に投げ出して、セックスに誘っている。
「な、なんで笑うのさ、プロデューサーっ!」
「……他意はない」
未央とこうして腕を絡めるのは、何度目だろうか。
プロデューサーは数えていない。
ただ何度繰り返しても、プロデューサーにとってこの関係はおかしかった。
欺瞞に満ちていた。夢としか思えないぐらい現実感が希薄だった。
「嫌だと思ったら、すぐに俺を止めろよ。未央のためなんだ、未央の具合に合わせなきゃな」
「わ、分かってるってば」
未央は、自分の胸を押さえつけていた両腕を開いた。
それを合図に、プロデューサーは未央の肌へ手を延ばす。
――
――――
――――――
きっかけは突然だった。
ある日、宣材写真の撮影前に、未央が体調不良を訴えた。
撮影は慣れていたはずだった。
カメラマンも、撮影所も、何度かお世話になったことがある。
なのに未央は顔面蒼白で、声や指先が震えていた。
プロデューサーは、体調不良が未央の方便だと気づいたが、
どのみち撮影は不可能と判断。やむなく中止した。
自分が原因で撮影が潰れることとなり、未央は責任感から激しく動揺した。
プロデューサーは未央をなだめ、理由を探った。
『未央にも事情があるだろ。それを周りに説明して納得させるのは、プロデューサーの仕事だ。
ただ、そうやって未央を守ってやりたいから、未央の事情を少しでも知っておきたい』
少し時間を置いて、未央は口を開いた。
『私の……学校の、友達が……』
未央の高校の友人が、性犯罪の被害にあって不登校になってしまった――
と未央がほのめかしたところで、プロデューサーは彼女の言葉を押しとどめた。
けれど未央の言葉は、溢れ出した水のように止まらない。
『お、男の人の、目が……』
全国ニュースにはなっていなかったので、
その性犯罪が客観的にどの程度の重さなのか、
レイプなのか痴漢なのか覗きなのか下着泥棒なのか、それは分からなかった。
ただ、その軽重は未央にもプロデューサーにも重要ではなく、
『怖い、こわい、よっ……あ、あっ――なに言ってるんだろ、私……』
男の性欲は、法の縛りを破って女を蹂躙しうるモノだ――と、
未央が認識しショックを受けたことが問題だった。
未央は、男が女のカラダを見てセックスしたいと思い、
自分のカラダにもそういう誘引力があると理解していた。
『そういうの……分かっちゃ、いたよ、いたんだよ……ホント、だよ……?』
ただ、未央のもっとも身近で性欲盛んな男は、年の近い兄と弟。
プロデューサーも顔見知りで、未央の兄と弟ならこういう男子だろうな、という人物だった。
未央の基準は、兄弟やその友人だった。
『あいつらじゃエロ本やDVDを隠し持つのがせいぜい、仮に進んでたとしても彼女と同意の上だろうなぁ』
未央は男の性欲がどんなものかは実感していたが、
性欲に取り憑かれた男の醜さは知らなかった。
知っていたつもりだっただけに、却ってショックが大きかったのだろうか。
『悪かった……男の俺に話すの、辛いだろう』
『や、いやあっ、謝らないでよっ、プロデューサー、全然悪くないじゃん……
で、でもね、乙女の秘密を聞き出したからには……守って、くれるよね?』
未央は痛々しい笑みをプロデューサーに向けた。
未央とそのプロデューサーが所属する事務所は、業界屈指の規模と歴史を持っている。
警備は万全、今よりアイドル業が物騒だった昭和からずっと問題を起こしていない。
こうしたデリケートな事態に対応できるカウンセラーも、すぐ手配できる。
プロデューサーは事務所と本田家に、未央の状況を話せるところまで明かし、
未央のメンタルケアに関してはそちらに任せ、自分は未央を見守るだけのつもりだった。
それより、未央の仕事の調整に骨が折れるだろう、ということへ意識が向いていた。
だから、撮影をドタキャンしていくらか経った日に未央から、
『プロデューサーも、あたしとイヤラしいこと、したいって思ってるよね……?
じゃあ、さ、しようよ……そういう、こと』
と震える声で告げられた時、
プロデューサーが絶句したのは無理からぬことだった。
――ふーん。未央ちゃんは、男の人から“セックスしたーい”って視線で見られるの、怖いんだ。
――怖がること自体は、おかしくないよ。適度な恐怖は、適切な警戒のために必要だもん。
――問題は、恐怖が大きすぎて未央ちゃん自身のココロを蝕んでいるコト、だよね。
――大きすぎる恐怖感の贅肉は、どこから生まれているか。
――答えは『恐怖の対象について、知りたいのに、知ることができない』という状況のせいだよ。
――適切な警戒のためには、適確な認識が重要だよー。
――未央ちゃんは頭がいい。どーしたらいいか、あたしが言わなくても分かるよね?
『男の人が、どんなことしたいか……ちゃんと知ってれば、私、きっとまたお仕事できるから……』
プロデューサーの理解が追いついていない、と察した未央は、言葉を続ける。
『ほ、ホラ、案ずるより産むがとかなんとか言うじゃないっ』
『未央が仕事できるようになるために、俺と未央がセックスするのか?』
プロデューサーは、まさかと思いつつ確認した。
お前は何を言ってるんだ――と言いたいのを、かろうじてオブラートに包み渡した。
『だって……私の担当プロデューサーじゃん。
私を、全国の男の人からイヤラしい目で見られるようにするのが、仕事だよね……?』
未央の言葉は、乱暴だが、アイドルの核心を突いていた。
『そういう中には、頭のネジ飛んだ人がいるかも知れなくて、
だからプロデューサーや事務所の人たちが守ってくれてるんだろうけど……』
未央は体を震わせながら、恐ろしいはずの男――目前のプロデューサーにすがりついた。
『男の人の、実際のところ、プロデューサーに教えてもらえれば……
怖すぎて、震えてるだけの今より、少しマシになるハズ……なの』
プロデューサーは、未央を論破しようと思えば、すぐにできた。しかしあえて控えた。
その心は、ここで頭ごなしに未央を否定しても解決しない……という計算と、
あわよくば未央の肉体を……という打算が半々だった。
練習着のジャージ越しに感じる未央の柔らかさと匂いは、
プロデューサーの欲望をダイレクトに煽っていた。
『プロデューサーだって、私がどうしてこんな有様なのか……知ってたほうが、いいよね。
何のはずみでこうなるかわからないんじゃ、私に仕事なんて回せないでしょ……?』
『未央は、今でもアイドルを続けたいのか?』
『……うん』
『で、そのために俺が、未央を抱きたいように抱く、と?』
未央は、頭一つ分背の高いプロデューサーを上目遣いで見上げて、笑った。
『……えへへっ』
えへへじゃねぇよ、笑ってごまかすな――と突っ込みそうになるのを、
プロデューサーはギリギリでこらえた。
『プロデューサーは、私を支えてくれるから、守ってくれるから、
一番信頼できる男の人だから……ね、お願い……っ』
プロデューサーは、未央を特別に贔屓してやったという意識はなかった。
しかし訂正も億劫で、流されて未央を抱いて処女を奪った。
それが功を奏したのか、未央は扇情的な――といっても高校生アイドルの域内の――仕事も、
以前と同じようにこなすことができた。
過剰に男を警戒することもなくなった。むしろ慎みを覚えたと評判になった。
アイドル・本田未央は立ち直った。
しかし、未央とプロデューサーの肉体関係は続いていた。
――――――
――――
――
ビジネスホテル風の部屋の、素っ気ないほど清潔なベッドの上で、
未央は上下のビキニ――南の島の撮影で使った――だけを身に着けて、四つん這いの姿勢を取っていた。
すぐ横で眺めるプロデューサーの指示である。
「プロデューサー。これはいわゆる、女豹のポーズというやつでは」
「ネコミミでもつけて、にゃんみおモードにしたら、もっと気分が出るかもな」
未央はプロデューサーを見上げた。
自分のポーズで、同僚アイドルの何人かのグラビアを思い浮かべたようだ。
「しかし、アイドルのプロデューサーなんて仕事やってると、感覚が麻痺してくる」
「感覚が、麻痺?」
プロデューサーのぼやきに、未央は怪訝そうな声を漏らす。
「未央にも、ビーチでビキニとか着せたことがあるけど、あれって下着と露出度ほぼ同じだよな。
女子高生に下着姿同然の映像や写真を撮らせて、それを売りさばくとか、やってること女の敵だよなぁ」
「ま、まぁその、砂浜やプールでビキニは、普通の女の子だって着るし……
てぃーぴーおーが合ってればいいんだよ!」
そう言いつつ、未央は羞恥心が湧き上がってきたのか、
外ハネのショートヘアから除く耳を赤くしていた。
「プロデューサーから指図されると、本当はイヤでも、言いにくいだろ? アイドルだから。
だから、女の子がイヤってところは、こっちで勝手に察してやらないといけないんだが……」
「じゃあ、ある意味これは私のためであり、プロデューサーのためでもあるんだね。
プロデューサーに、この未央ちゃんが越えちゃダメなラインを教えてあげないと」
未央が、アイドルとしてどこまで男の欲望を受け止められるか測る。
プロデューサーが、未央やアイドルたちにどこまで要求していいか測る。
そういう正当化が二人の間で了解されていた。
「ふっ、うぁ、あっ……?」
プロデューサーが、未央のうなじから肩甲骨の間へ指先を下ろす。
未央は、声を漏らしてしまった――その自分の反応に驚いていた。
「い、いや、あっ、別に、イヤなワケじゃないよ……止めなくていいよ。
ただ、ちょっとびっくりしちゃっただけだから……」
「それなら、続けさせてもらうぞ」
プロデューサーの指は、未央の背中の柔肌を、線を描き塗り潰していくように丹念になぞった。
両の肩甲骨など、皮膚の薄いところに来ると、未央はくすぐったげに上半身を揺すった。
「あ……あぅ……」
プロデューサーの指は、未央のビキニのトップスの縁まで行って、そこを横に何往復かすると、
そのまま彼女の背中の溝をするすると下へ進む。
「あ、あのさ」
「なんだ、未央」
「……外さないの?」
プロデューサーは指を止めた。
「なんだ、外すと思ってたのか」
「だって……男の人って、すぐおっぱい見るし……」
「顔を見てるフリして、胸見てるもんな。男子高校生とか、だいたいそうだろ」
プロデューサーの言葉に、未央はさすがに顔を俯けた。
「でも、未央は胸ほど意識してないかもしれないが……こっちも男はジロジロ見てるもんだぞ」
プロデューサーは未央の後ろに回って、
彼女の四つん這いの姿勢で突き上げ気味の尻を手で両側から包み込んだ
「わぁあっ!? いきなりどこ触ってるのさプロデューサーっ」
「未央の背中に目がついていないのを良いことに、男どもはこっちを見放題に視姦してるだろうなぁ。
プロフィールでは87cmだったけど、少し大きくなったかも」
プロデューサーは、背中をなぞったときとは打って変わって、未央の尻を乱暴に扱った。
上に合わせたオレンジのボーダーのビキニボトムを身に着けていたが、
そのボーダーにシワが寄って乱れるほど手荒く揉んだ。
「あ、うぁ……ふうぅ……っ」
未央は襲い来るプロデューサーの手に、声を殺して耐える。
その様子で、プロデューサーは不意に手を止めた。
「……なぁ、未央」
「なぁに、プロデューサー」
「イヤなら、素直にそう言えよ。そこ、重要なんだから」
プロデューサーの言葉に、未央は一瞬目を丸くしたが、すぐ小さく笑った。
「プロデューサー相手じゃなかったら、絶対許さないけどね……。
プロデューサーがしたいなら、もうちょっと続けてもいいよ」
未央のつぶやきは、この情交の建前が既に崩れていると明らかにした。
「……なら、遠慮なく」
それを聞いても、もはやプロデューサーは咎めなかった。
「んっ――んあぁあっ!」
未央の尻を揉んでいたプロデューサーの手が、
今度は下着の布に覆われた秘所へ不意打ちをかけ、未央は声を高くした。
「触ってほしかったのか? どこが良いってのも、教えてくれよ」
「……イヤなところは教えるって言ったけど、イイところまで教えるとは言ってないよっ」
「男には、言わなくても良いところを察して欲しいってことか」
乙女か――と口から漏らしそうなって、プロデューサーは笑ってごまかした。
しかし未央もなんとなく察したらしい。
「プロデューサーが、したいこと勝手にすればいいじゃん」
未央は不貞腐れて、ベッドの枕に顔を押し付けた。
未央は枕に顔を埋めながら、心中でプロデューサーへの不満をかき混ぜていた。
(プロデューサーったら……けっこう、デリカシーないところあるよね)
露骨に“プロデューサーは特別”と漏らしたのに、
未央が想像したよりプロデューサーの反応が薄かった。
(プロデューサーが男の人としてしたいこと、やらせてあげるよ……。
でも、私はそれを軽ーく流しちゃうんだ。ふーんだ)
未央は、それが不公平に感じられてならなかった。
(ん……んぅ……そうやって、触るんだ……私の、アソコ……)
プロデューサーは、未央のビキニボトムの前にある飾り紐を弄び、
それを予告代わりに生地の上から未央の秘所へ指を触れさせた。
「あんなこと言っておいてなんだけど、未央のクラスメイトって15歳だったな。
じゃあ、胸の感触は母親のを覚えてたとしても、尻やこっちの感触は知らないだろうな」
プロデューサーの指は、未央の水着のボーダーに沿って横に動いた。
上から一列ずつ、背中と同じように未央の秘所を塗り潰していくように。
(……んんっ……)
プロデューサーの指先が、未央のクリトリスを布越しに通り過ぎた。
未央は涼しげな風を装った。
「本当に教えてくれないつもりか、未央は」
(まだ……いじられてないし、大きくなってないから、わからないよね……?)
プロデューサーは、今度は未央に声でそれと分かるよう笑った。
「そういう態度されると、男は意地になるぞ」
未央は身じろぎもしなかった。
(望むところ……プロデューサーの意地ってやつ、見ててあげるよ)
未央は、プロデューサーに身を任せつつ、つれなくしてやるつもりだった。
だがその意地は、プロデューサーの指一本でいきなり揺らぐ。
(……ん? アソコから、指が離れて……?)
「プロデューサーは、アイドルのこと、頑張って察してやらないといけないから」
プロデューサーの指は、未央のボトムの際を超えて、
未央の内腿と股間をつなぐ筋――鼠径部を撫でた。
「ごまかせないところを、遠慮なく探らせてもらう」
プロデューサーの宣言から、しばらく経っていた。
「んっ……く、うっ……んんっ……!」
未央は、相変わらず枕を顔に押し付けながら、
四つん這いで秘所をプロデューサーの手に委ねていた。
しかし、未央の呼吸が荒くなっているのは、枕に押し付けられていても分かるほどであった。
ボトムの生地も、撮影であれば確実にNGとなるほど濡れて色が変わっていた。
プロデューサーの指の一本を鼠径部に当てられながら、
もう一本別の指でクリトリスを布越しに撫でられた瞬間、
未央はプロデューサーの企みを察し――憤慨して顔を上げそうになった。
「この筋の反射を誤魔化すのは、厳しいと思うぞ」
(ず、ズルいっ……プロデューサー相手にこれじゃ、私の、丸わかりじゃないっ……)
プロデューサーが愛撫し、快楽が走ると、それが鼠径部に伝うのを、未央はどうしても止められない。
その僅かな気配でも、未央と何度も体を重ねたプロデューサーが“良い”と感じ取るのは十分だった。
(っ……はっ、うっ……そ、ソコ、そんな、触られ方……っ)
プロデューサーは、自分の感触が正しいか確かめるように、
未央にいい具合を見抜いていると言い聞かせるように、まだぬるい未央の秘所を撫でた。
まだ盛り上がっていないクリトリスの周りを指で囲んだ。
未央の体が快楽の兆しを告げると、プロデューサーの指は目ざとく調子を合わせた。
(わ、私の、感じるしかたで、釘付けに、されてっ)
未央はプロデューサーの手管に反応すまいと思っていたが、それはすぐに崩された。
相手にウソが見抜かれていると知っていて、なおウソを貫くことが困難なように、
相手に快楽が筒抜けと知らされて、感じていないフリなど未央には無理だった。
(ぷ、プロデューサーの、ゆび、だめ、だめっ、いいように、されてっ)
「あっ――うっぅうっ……!」
プロデューサーの指が、未央の下腹側からビキニの下に滑り込んだ。
未央はもう自分の感覚を見せつけるように、鼠径部どころか尻や腿まで震わせて息を吐いた。
(直接――アソコ、プロデューサーの指で、触られて――っ)
「上から指で擦ってただけなのに、もう……準備ができちゃったか」
「準備……って」
黙ってひたすら指を動かしていたプロデューサーの息も、荒くなっていた。
それを聞いて、未央は枕から顔を上げた。
「四つん這いの女豹のポーズは、男に後ろから突っ込めって誘うのが目的だ」
「知ってるけど、さ」
「例えば、未央に水着でこのポーズさせたとして、それを見た男どもは……
未央に後ろから突っ込みたいってみんな思うわけだよ」
「……いきなりなんなの」
未央は苛立ちを露わにした。一瞬の後、未央はそんな自分に驚いた。
苛立ったのは、プロデューサーが突然妙な口上を並べたせい。
期待したとおりのことをしてくれないせいだ。
(私が、期待したことは……)
「それを知ってて未央は、こんなポーズで、カメラの前でアイドルとして表情作れるのか?」
未央はその光景を想像した。
「……分かんないや」
その想像がとても些細なことに思えて、未央はお茶を濁した。
「プロデューサーがしてくれたら、分かるかも、ね」
「脱がさないまま、するの?」
プロデューサーは、ぐずぐずに濡れた未央のボトムスを指でずらして、彼女の秘所を強引に晒した。
「大丈夫だ、買い取ってる」
「まさか、着たままするために!?」
プロデューサーは、未央の問に押し黙った。
(えぇ……まさかプロデューサー、新しい衣装のたびに着たままするつもりじゃないよね……。
って、なんだか私、誰かの妄想癖が感染って)
「入れるぞ」
「え、答えなし……って、んんんっ!」
プロデューサーは返事を待たず、四つん這いの未央に、自分のペニスを押し入れていく。
「あぅうっ……か、かた、いっ……プロデューサー……っ」
(何だ……余裕ぶってたくせに、プロデューサーだって、したくてたまらなかったんじゃない)
未央はプロデューサーと繋がったことで、余裕を取り戻した。
プロデューサーから一方的になぶられていたのが、互角の状況に転じた。
「……こんなに、大きく、固くして……プロデューサーったら、
未央ちゃんをいじってるだけで、興奮しちゃったんでしょ?」
「……未央のせいだよ」
「もー、しょうがないなっ」
未央の余裕を見て取ったプロデューサーは、彼女の上半身に手を延ばした。
「あんっ……そうだよ、胸……今日はこっちナシなのかと思ったよ」
「触ってないのに、こんなに汗でべたつかせて……乳首まで立ってないか」
プロデューサーの指は、秘所を責めた時と対照的に、
未央のバストを乱暴につかみ、ビキニごしから乳首を強くつねった。
「ひぁあっ! ちょ、ちょっと、強い、よ」
「あ、すまん……少し加減するか」
未央は、プロデューサーの表情は見えなかったが、声音だけで勝手に自分の頬が緩むのを感じた。
(そういえばこれって、私がどこまで大丈夫か確かめてるんだっけ……)
「……ふふっ」
「未央?」
「やっぱりプロデューサーは、加減しなくていいよ」
「あっ、くぁあっ、ふああ、あああっ! そ、そこ、しちゃ――んあああっ!」
未央は、プロデューサーに後ろから責められながら、
誰にも聞かせたことのない嬌声をほとばしらせていた。
(私っ、アイドルの衣装着ながら、プロデューサーにメチャクチャにされてる……
他の人に知られちゃったら、完全にアウトだよ……)
アイドル活動のためと称しつつプロデューサーとセックスして、それに体を熱くさせてるのは誰だろうか。
未央は、自分がアイドルなのか、ただの女子高生なのか分からなくなっていた。
「お、おく……私の、突いて、してっ、あああっ」
(アイドルとしてどこまでセーフなのか、プロデューサーに試してもらう? なんて……)
「そんなに、ねだられたら……するしか、ないよなっ」
プロデューサーが未央の求めに応じて、ペニスをぎりぎりと奥まで突き込むと、
未央の中に強く激しい感覚が荒れ狂い、全身を中と外から波打たせる。
(意味、ないよ。プロデューサー相手じゃ、ここまで許しちゃうんだもん)
「あ、う、あぅっ――ふぁっ、んああっ――ああああっ!」
肉と水がぶつかり合う音が重なるごとに、未央は途切れ途切れの喘ぎを絞り出す。
(おなか、じんとして――おっぱいも、きゅんとして――いやらしいこえ、でちゃう――)
「い、いい、のっ、プロデューサー……して、もっと――」
「俺を煽りやがってっ、言ってみろよ、どうして欲しいか!」
「わ、私の、奥……入れて、そのまま、ぐりぐりって……」
プロデューサーの脳裏に、未央がこのビキニを着て撮ったグラビアがちらりと過ぎった。
あのグラビア写真を見た男のうち、未央とセックスしたいと思った男はごまんといるだろう。
だが未央がセックスに及ぶ時、こんな挑発的にねばつく姿を見せると想像した男はいないだろう。
この痴態を未央に仕込んだのは自分だけ。
この痴態を知って感じて許されるのも自分だけ。
特別な優越感が、プロデューサーの抽送に拍車をかける。
「う~~~ん……」
未央はセックスの熱も汗も始末しないで、使用済みコンドームを一枚つまんで、
ハスキーになった声で小さくうなっていた。
コンドームは、先ほどまで自分を蹂躙していたプロデューサーのものだ。
「……すんすん。う~~~ん」
「何やってるんだ、未央。いい匂いはしないと思うんだが」
「事務所の子がさ――『スキな人の精液は、クセになっちゃうんだよー?』って言ってて――」
「はぁ? うちの事務所にそんなことヘンタイじみたこと言う奴が!?」
「げっ――い、いや、別に――というか、担当アイドルとえっちしてるプロデューサーが、
人のことをヘンタイ呼ばわりとかないでしょ!」
二人の言い争いは、火照りが去ってシャワーを浴びる段まで続いた。
ごめんなさい
>>14と>>15にこれが入ります
「あああっ、んあっ、あっ、あ……ァ!」
プロデューサーが未央の奥底へ分け入ると、
未央はボトムスのボーダーが歪むほど尻肉を震わせた。
「あっ――うっ、あぁあっ、んんんーっ!」
プロデューサーはがくがくと暴れる未央の下肢をベッドに突き倒し、
その上から未央を押し潰すようにペニスを沈めた。
未央の口から漏れる響きが、甲高い嬌声から、低く尾を引くうなりに変わる。
「んあっ、だ、だめっ! こんな、っ、あっ、く、ふぁ、おおぉおっ……!」
(か、可愛くない声、出ちゃ――で、でも、胸がいっぱいになって、あたまもチカチカして――)
「あああ゛っ、ふわあぁっ、あっあっあ、うあ゛あ゛ーっ!」
プロデューサーが上体を倒して、未央の背中に肌を寄せる。
未央の膣内の奥底をとらえながら、角度が変わる。
「うああ、あっ……あっ、あ゛っ……!!」
一番欲しいところを、お望み通りぐりぐりと力攻めされ、未央はざらついた声をこぼした。
(あ、あっ、あ゛っ、おお゛っ……や、やらっ、わたし、だめ、だ、めっ――っ!)
アイドルどころか、女としての取り繕いもできていない雌音が、
未央のまだ残っている意識を自涜していく。
「未央――未央っ、お前は、本当に、いやらしくて、可愛いな――」
そこに、未央の脚から肩まで上から覆いかぶさったプロデューサーが、
後ろから未央の耳元にささやきかけた。
(う、うしろ、から、抱きしめられて、プロデューサーに、そんなこと、され、たらっ)
未央の体が、一気に緊張と多幸感に満たされた。
今まで膝立ち四つん這いだった未央の両足が、ベッドシーツの上でピンとまっすぐ伸ばされて、
プロデューサーのペニスを締め付ける強さが跳ね上がった。
「うっ、み、未央――い、いく、ぞっ」
プロデューサーはその締め付けに耐えきれず、最後の宣言が終わるか終わらないかというところで果てた。
(プロデューサーが、私で、いった、イッちゃった、今、いまっ――)
がんっ、ぐんっとペニスは凶器のように未央の中をかき回し、限界ぎりぎりの未央にダメ押し。
「ふっ――う、うぁ、ああ、く、ああぁああっ……!」
射精しながらの最後の勢いが未央の奥底に届いて、
嗚咽じみた喘ぎとともに、また未央は枕へ顔を突っ伏した。
よっしゃ凌辱SS増やしたろ
>>39先生の次回作を期待しています
後編を投下するつもりだったのですが
やや長丁場になったので、後編の前編(濡れ場まで)を先に投下します
※
未央は千葉県出身と設定されていますが
この話ではそれを拡大解釈して葛南出身としています
(以下本文)
――人を好きになる、って怖いことなんだね。
――ほかの人にされたら絶対許さないこと、して欲しいって思っちゃうんだもん。
――それと。
――ほかの人がしても気にしないこと、許せなくなっちゃう。
「みんなーっ☆ 元気な人もそうでない人も、
もっと熱く、ふんわり、楽しくなるLIVE……いくよーっ!」
宣言も高らかに、カクテル光線を浴びながら野外ステージで未央が勇躍する。
脇を固めるのは高森藍子、日野茜――ユニット・ポジティブパッションのライブが勢い良く開幕した。
屋外ステージは、密閉空間のハコと違って音や空気が籠らない。
慣れていないと、まるで雲を踏むような感覚に陥ってしまうという。
しかし彼女らのパフォーマンスは、そういった覚束なさを感じさせない。
曲が切り替わり、センター交代。
スタッフも各員が打ち合わせ通り動く。
滞りなくセトリは進む。観客の反応も上々。
このライブもファンを満足させるだろう、とプロデューサーは確信した。
未央は、アイドルとして活躍の幅を広げていた。
特にポジティブパッションを始めとしたユニットに参加するようになってから、飛躍的に知名度を高めた。
そのユニット内でも、明るく積極的なイメージを活かして、存在感を強めている。
スケジュールも大きな仕事でかなり埋まってきて、
事務所だけでなく業界からも、注目株として一目置かれるようになっていた。
未央のアイドル活動は、至極順調と見られていた。
ただプロデューサーだけは、今をときめく未央に一筋の不安を見ていた。
『前に……確か、オーディションか、採用後の顔合わせのときだったと思うんだが、
未央はアイドルになって、友達をたくさん増やして、大きなことをしてみたいって言ってたよな』
『なんだいプロデューサー君、私たち昔語りをするにはまだ早いんじゃないの?
今は勢いに任せて脇目も振らずアイドルの星へ向かって走り抜け――なんて時期かと思ってたよ』
『何だ、もしかして忘れたのか? 別に、それならいいんだが』
『……言ったよ、確かに。プロデューサー、覚えてたんだ』
『大きなことって、具体的に何か……ってのは』
『アイドルになってから考える、って言ったっけ。それが、どうしたの?』
『そろそろ、未央も仕事を取捨選択しなきゃならん時期になるか、と思ってな。
未央に少しでもやりたいことが見えているなら、聞きたかったんだが』
『うーん……そうだね。なんだろう、ね。私の、やりたいこと』
『そうだな。未央のやりたいことだ』
『まぁ、正直まだ考えなくてもいいかなーって。ごめんね、こんな答えで……。
あーちゃんとか茜ちんとか……あぁ、もちろんプロデューサーとも、
アイドルやってみんなを笑顔にするの――そう、今が楽しいしっ』
『楽しければ……楽しめれば、やっていけるものなのか。ふぅん』
『もう、プロデューサーったら自分から聞いといて何さその反応ー!?』
アイドルとして注目を浴びるのが楽しいばかりでない、と既に未央は知っているはずだった。
だからこそプロデューサーは、未央の言動にかすかな引っ掛かりを覚えた。
「未央ちゃんに、何か悩みが……ですか?」
プロデューサーは、一旦未央から直に探るのを控えて、
藍子と茜から未央の状態を探る――搦め手から未央の引っ掛かりに迫る――ことにした。
この日プロデューサーは藍子と『街角のティーンが注目しそうなスポットを知りたい』
という名目で会っていた。
藍子から案内されたのは、事務所から少し離れたところの、自然公園に隣接したカフェ。
オープンしたばかりで、藍子も一度行ってみたいと思っていた店、とのことだった。
穏やかな日差しの注ぐテラスは、長話にうってつけそうだった。
「なんとなくそんな気がして、藍子はどう思ってるか気になったんだ。
未央は、ああ見えて小心者なところがあるから」
なお茜からの情報収集は、はかどっていない。
茜と自然な形で会おうとすると(プロデューサーにとっては)高負荷な運動が付随して、
プロデューサーの気力体力が消耗し、未央について聞き出すどころではなくなってしまうのだった。
もっとも藍子相手でも、プロデューサーは藍子のゆったりとしたペースについ合わせてしまい、
核心に迫るまでには、それなりの日数を費やしていた。
「ポジティブパッションも、結成当初から未央ちゃんが引っ張ってくれますけど、
そういう立場でプレッシャーをためてるのかも知れませんね。
そうだとしても、未央ちゃんはきっと私たちに気取られないようにするでしょうし」
言葉を途切れさせた藍子は、ぬるくなったミルクティで唇を湿らせた。
「未央は、藍子にも虚勢張ったり空元気だしたりするのか」
「……ソロの“ミツボシ☆☆★”のお披露目のときは、かなりそわそわしていました」
藍子の目からも、未央の一人で抱え込みがちな面が見えるようだった。
「でも、そういう時に私がしてあげられることといえば、
お茶とかに誘うぐらいしか……私のほうが歳上なのに。
もう少しなんとかできれば、と思うんですが」
ただ藍子の性格からして、人が隠していることを聞き出す、というのは不得手のようだった。
「……ごめんなさい。お力になれそうもなくて」
「いやいや、この話はもののついでみたいなものだ」
プロデューサーは深入りを避けた。元々、プロデューサーから藍子を誘ったのだ。
なのに藍子に対して未央のことをしつこく聞き出すと、藍子を軽んじているとも見えてしまう。
「最近は藍子たちの活躍のおかげでプロデューサー業が慌ただしくて、
たまには藍子みたいな子とゆったり過ごす時間がないと、身がもたないんだ」
「へぇ、私のことはついでだったんだ」
声の主が誰か――それを認識した瞬間、
プロデューサーは手のカップを危うく取り落としそうになった。
――ふーん、プロデューサーって、あーちゃんと一緒の時は、あんな顔するんだ。
「あ、未央ちゃんお疲れ様!」
プロデューサーの反応と対照的に、藍子は未央を屈託なく迎えた。
「もしかして、未央ちゃんもここのお店が気になってたの?」
「ん――まぁ、ね。私も、おしゃれなカフェでコーヒーを堪能しながらくつろぐ……
なんてやってみたくて。似合わないかも知れないけど」
「そうかな? 一回やってみれば、すぐ馴染むと思うよ」
どうやら藍子は、今座っているカフェのことを、未央にも教えていたらしい。
「あーちゃんが言うなら……早速ここで実践といこう! プロデューサーもいるしね」
「……ハイハイ、会議費で落とすから何でもどうぞ」
未央は二人と同じテーブルに腰かけてメニューを一瞥し、カプチーノを注文した。
「で、ナニナニ? プロデューサー君は、未央ちゃんの乙女の悩みに興味津々なのかな?」
「なんだ、そこから立ち聞きしてたのかよ」
「まさに噂をすれば影、ですね」
プロデューサーは未央にペースを奪われていた。
ここに未央が居合わせたのは、偶然か。
それにしてはタイミングが良すぎだ、とプロデューサーは疑念を持つ。
「いやー、たまたま、お二人さんがお話してるのを見てしまいましてねぇ。
こんなスキャンダラスな光景を目撃しちゃった未央ちゃん、このままじゃ帰れませんよー!」
「スキャンダラスって、私はいつもの通りだよ」
「あーちゃんがそう思ってても、プロデューサーはどうだったかなぁ?」
未央はプロデューサーに生暖かい目線を投げつつ、
不意打ちで彼の血の気を奪う言葉を放った。
「私たちのプロデューサーは、アイドルと二人っきりになったら、
あんなことやこんなこと……ナニをするか分からないよ?
私はあーちゃんがプロデューサーの毒牙にかかってないか心配で心配で」
「え……えぇ、毒牙? プロデューサーさんが、ですか」
「おいおい本田ぁ、俺を何だと思ってるんだ」
「さーて、ねっ」
未央は含み笑いを浮かべていたが、やがてカプチーノが運ばれると、
それを一口飲んでから、プロデューサーへ追撃を放った。
「あーちゃんや茜ちんみたいに、私もプロデューサーと二人っきりでデート行きたいなー。
そうすれば私も、プロデューサーが毒牙なんてないって分かって安心できるなー。
遊園地とかいいよねー。できれば我が葛南の誇る夢の国に誘って欲しいなー」
プロデューサーは、その場で未央にネット予約をさせられた。
「と、いうわけで! やってきました夢の国のリゾートホテル!
お部屋は気品あふれるシンデレラルーム! えへへっ、未央ちゃん一足先にシンデレラ気分だよ♪」
未央は植物を模した曲線的な――ロココ調もどきの――意匠が並ぶ室内を見回して、
ベッドの上で行儀悪く飛び跳ねたり転がったりした。
未央が『シンデレラルーム』と評した部屋は、『夢の国』に併設されたホテルの一室で、
童話『シンデレラ』をモチーフにした、青を基調とする特別な内装が施されていた。
プロデューサーの懐は、それなりのダメージを負った。
「葛南(かつなん)って言うから、最初どこかと思ったけど、ここって東京――」
「ストーップ! ストップだよプロデューサー!
ここ千葉県、千葉県だよ。ひあー、いず、ちば! おーけー?」
「……千葉都民のくせに」
プロデューサーの呆れ声に、未央はわざとらしく頬を膨らませた。
「なんだよー! 東京の事務所に通勤してるからって、千葉っ子の魂までは売り渡してないぞー!」
未央の唐突な地元アピールをプロデューサーが怪しんでいると、
それを察して未央が言葉を継いだ。
「前は、そんなに県民意識は強くなかったけど、
アイドルデビューのときプロフに千葉県出身って書いたじゃない?
それで、地元の雑誌とかラジオとかテレビとかに取り上げてもらううちに、
愛郷心ってやつが芽生えてきたっていうか」
「それは、たいへんけっこうなことで」
プロデューサーは、ホテルの大きな窓から、外を見下ろした。
眼下に広がる夢の国は、入園開始時刻から少し経った頃。
蟻のような人出がそぞろ歩いている。
「で、あちらには行かないのか?」
「チッチッチッ、プロデューサー君は未央ちゃんをまだまだ甘く見ている!
夢の国と言えど、地元ですから? もはや未央ちゃんの庭ですよ。
前に年パス買ったときは、半年もたたず元をとっちゃったぐらい!」
「もう知り尽くしてるから、あちらじゃ満足できないってことか」
未央は両手の平を上に向けて、わざとらしくため息をついた。
「いーや、ぜんぜん。アイドルデビューしてからは行ってないから。
いつの間にかあちこちリニューアルしてるみたい。調べてないけど」
「言うほど未央の庭じゃなかったな」
「逆に、私としてはプロデューサーと二人きりであっち行くの、気が進まないかなー。
ほら、よく言うでしょ――『夢の国でデートした恋人は別れる』――って」
「その原因って、待ち時間が長過ぎて疲れたり気まずくなるから、だろ」
「らしいね。私は試したことないから、分からないけど」
未央は、シンデレラのベッドでごろごろぱたぱた動くのを止めた。
「何かを待つとか、何かを聞き出すとか、お仕事とか、
そういうもっともらしい理由なんて、ないのがいい。
私は、恋人同士みたいに、ただ二人っきりで一緒に過ごしたいからそうする、
っていうことをしたいんだよ。プロデューサーと」
「お前、俺のことを『アイドルと二人っきりにしたらナニをするかわからない』って藍子に言ったよな」
「言ったよ。私はそういう目でプロデューサーを見てるけど」
「プロデューサーは私に、『アイドルになって友達をたくさん増やして、それで何をしたい?』
って聞いたよね。あの時、私はドキッとしちゃったんだ」
未央はベッドから下りて、窓辺のプロデューサーに一歩一歩近づく。
「私、ちっちゃい頃から色んな人と仲良くしたいと思ってた。
そうして、大きなコトをしてみたかった。
だからアイドルになろうと思った。
おかげさまで、プロデューサーや、あーちゃんや茜ちんと出会えた。
あんな広い会場にたくさんのお客さん集めて、ライブでとっても盛り上がれた。
アイドルになってみんなと出会えなきゃ、こんな偉業は成し遂げられなかったよ」
「……未央なら、まだまだでっかいことをやってのけられるさ」
手を伸ばせば、互いの肌に触れられる距離。
未央はプロデューサーをまっすぐ見つめながら、
プロデューサーの言葉には反応らしい反応を示さなかった。
シンデレラルームは、かつて二人が体を重ねた地味な部屋より、倍以上も広い。
さらに殺風景だったあの部屋と違って、しつこいほどの装飾に溢れている。
しかし未央の存在感は――眩しさは、あの時以上の強さでプロデューサーを釘付けにした。
「でも……そうやって関わる人を増やしてどんどん大きなことをやろう!
ってアイドル街道を驀進してて……どこか、満たされない私がいたんだ。
プロデューサーの質問は、私のそんな部分を突いたんじゃないかと思って……
プロデューサーったら、
『最近はあまりお話できてないのに、私をしっかり見てくれてるんじゃん!』
なーんて思ったり……えへへっ」
「案外、適当に言ったのがたまたま的中しただけかも知れんぞ」
「ふふっ、そうかな――そうかもね。確か、ちょうどそのあたりだもん。
プロデューサーが、あーちゃんとや茜ちんと、二人きりで合う時間を作り始めたの。
私のことは放りっぱなしなのに、さ」
プロデューサーは、自分の搦め手からのアプローチが裏目に出た、とようやく認識した。
「プロデューサーは、私がアイドル活動をしっかりやるためって名目で、私とえっちなことしてたよね。
だから、同じように、あーちゃんと茜ちんにもえっちなことするんじゃないかって」
「未央以外にはしてないっての。証拠は無いが」
「あの時……カフェで会ったときだって、
本当に偶然プロデューサーとあーちゃんが並んで歩いてるところに出くわしちゃってさ。
気が気じゃなかった私は、つい後をつけちゃった。未央ちゃんったら健気でしょう?」
「健気っていうのか、それ」
「えへへっ、やっぱり違うか!」
未央は手を延ばして、プロデューサーの肩に触れた。
「仮にさ……仮にだよ。
プロデューサーが、他のアイドルの子と二人っきりで会うのが許せない、
って言ったら、重すぎて引いちゃうかな?」
「――なんてね! いや、プロデューサーには無理な話か!」
未央は、プロデューサーが口を開いた瞬間、はたき落とすように声をかぶせた。
「私は分かってるもん。言ったでしょう?
『アイドルと二人っきりにしたらナニをするかわからない』って。
プロデューサーは、スキあらばアイドルに手を出しちゃうスケベだよね。
私はそのスケベ心に漬け込んで、既成事実作って、それをあーちゃんの前でチラつかせて、
プロデューサーを脅しつけて、このシンデレラルームに引っ張り込んだの。
わーお、未央ちゃん悪女悪女っ」
プロデューサーは、未央の芝居がかった長広舌を聞いて心中に感慨が湧いた。
『男が怖い』と言った未央が、今、男の性欲を利用してプロデューサーをまんまと釣り上げた。
「さて……話が脱線しちゃったから、元に戻さなきゃ。
未央ちゃんは考えました――プロデューサーがあーちゃんや茜ちんに手を出しちゃっても――
ポジティブパッションの危機だよ! そんな時、私が許してあげられるにはどうすればいいか」
「俺があの二人に手を出すことは、お前の中で確定事項なのな」
プロデューサーは釈然としなかったが、未央と今まで『アイドル活動のために』
という理屈で体を重ねてきた経緯は動かし難く、反論を諦めた。
「ねぇプロデューサー。
アイドル活動のためとかもっともらしい理屈は抜きで、しようよ。
恋人同士みたいに、したいからする、って感じで」
「……恋人、か」
プロデューサーがつぶやくと、未央は黙って窓の外を指差した。
下に広がる夢の国は、相変わらず蟻のような群衆が散らばっている。
「私はアイドルだから、あっちの人たちみたいに、普通の恋人みたく遊びまわるってできないでしょ。
だから、今だけでも代わりに……私は、したい。プロデューサーは……?」
プロデューサーも、窓の外に視線を投げ出した。
しかし考えたのは未央のことだった。
(未央め、味を占めやがったな)
黙ったままのプロデューサーに、
未央はダメ押しとばかりに両腕を回して抱きつく。
(最初と同じ。ムチャな理屈でも一度丸め込めばどうにかなる、って魂胆)
プロデューサーの胸元まで、
未央は顔をすり寄せてささやく。
「プロデューサー……」
(ここで首を縦に振ったら、次はどうなることやら)
「好き、だよ」
(次は、本当にどうなるのか)
「……えへへっ☆ 大好きっ」
プロデューサーは目を閉じていた。
服越しにも感じ取れる未央の体温を、身に沁みるほど熱いと思った。
腕の中に包んだ未央の柔らかさを、もっと強く抱きしめて感じたいと思った。
首筋をくすぐる未央の息遣いを、どうしようもなく愛おしいと思った。
夢の国にあって、未央の存在こそ何よりも確かだった。
いったん中断です
明日には完結までいくと思います
プロデューサーがシャワーから上がって、ベッドに腰かけてぼうっとしていると、
その後からシャワーを浴びていた未央が、タオルを巻いて部屋に戻ってきた。
「プロデューサー、おまたせっ」
いつも外向きにセットしたダークブラウンのショートヘアは、
今は軽く水分を吸い取っただけのようで、重力に従って下に流れている。
「いつもより、おしとやかな感じがするなぁ」
「おしとやかって、そんな褒め言葉初めて言われたかも知れないよ」
未央はケタケタとオーバーに笑って、プロデューサーの隣に座った。
「唐突なんだけどさ、プロデューサーと……こう、えっちなことしてて、
前々から不思議に思ってたことがあったんだよね」
「発言は全然おしとやかじゃなかったなぁおい」
未央はわざとらしく口角を釣り上げて、プロデューサーの下腹部に手を延ばす。
「プロデューサーは、未央ちゃんに、おちんちんあんまり触らせようとしなかったよね?
それって不思議だなぁって。我が愚兄愚弟のえっちい本では、よくやらせてるのに」
「アイドルの仕事には不必要だからなぁ」
「ほーほー。と、いうことは……」
未央は、女子高生に似つかわしくないねっとりとした手つきで、
プロデューサーのバスローブごしの体を撫でた。
「アイドルとかそういうの考えなかったら、して欲しいってことかな」
未央はプロデューサーのバスローブをくつろげた。
プロデューサーのペニスの具合は、未央のシャワーを待っている間の期待で五分ほどの立ち具合。
まだ柔らかさを残すそれを、未央はゆっくりと、両手の指を余さず絡めて触れる。
「こんなに腫れ上がっちゃって、痛かったり、しないんだ?」
「そんな恐る恐る触らなくても……ガキの頃は、痛かった記憶があるが」
「だよねぇ。このきかん坊はいつもいつも、未央ちゃんをいじめてくるから、今日は反撃しちゃうぞ!」
プロデューサーは、しばらく未央にさせるがままにしておいた。
未央の手技は、じっとりと注意深くプロデューサーのペニスを責めたが、不慣れさは明らかだった。
どうも、未央がペニス愛撫について持っている知識は静止画と文章のみだったらしい。
埒を開けるべく、未央は言葉でもプロデューサーに迫る。
「ねぇ、プロデューサーは……どうされたら気持ちいいかな。
プロデューサーも、腿の筋肉とかに感じてるの出ちゃったりする?」
「男は女より、ずっと単純だよ。コレが立って固くなってれば、男はメロメロなんだって」
「体は素直ってやつですか。ふふふっ」
といいつつ、プロデューサーを興奮させていたのは、
粘膜からくる肉体的な刺激というより、シチュエーションによる精神的な刺激が大きかった。
(一度は『男が怖い』と言った未央が、自分から手コキするなんて)
未央が下手なのも、むしろ期待通りで味わい深かった。
(もし、これから未央にテクニック仕込んだら……アイドルとしてイメージぶち壊しになるよな)
下心半分とはいえ、プロデューサーとして掌中の珠のごとく磨いてきたアイドル・本田未央。
それを男として台無しにする。
他人にやられたら怒りや失望に包まれるような行動だ。
それがプロデューサー自身でやるとなると、想像するだけで甘美さに頬が緩んでしまう。
そんなプロデューサーの笑みを、未央は違う意味にとったらしい。
「むー、プロデューサー、なんか余裕そうだねぇ」
口を軽くとがらせた未央を見て、プロデューサーはさらなる欲望が浮かんだ。
「ちょっと試して欲しいことがあるんだが、いいか?」
プロデューサーはシンデレラルームのソファに浅く座り、
上半身をやや後ろに倒して背もたれに背中をつけていた。
未央はプロデューサーのすぐそばに立ち尽くし、
さっきまで弄んでいたペニスが鎌首をもたげているのを眺めていた。
「……この上に、乗るの?」
「こいつが……ペニスが、未央の体の前方に来るように、だ」
未央はペニスから視線をずらし、プロデューサーの膝に触れた。
「幼稚園の頃とかは、お父さんの膝やお腹の上に乗せてもらった覚えがあるけど。
高校生になってこんなことするとは……というか、私が上に乗ったら重くない?」
「重くなかったら子供乗っけてるみたいな気分で、かえって萎えると思うぞ」
「ふーん。それじゃ、失礼して」
未央は椅子に足をかけ、プロデューサーの両膝を跨いでから、
プロデューサーに背中を向けた。
「しっかし、未央の尻は間近で見てもエロいな」
「ひ――ひぁあっ! ちょっとプロデューサー、いきなり触んないでよ!
力抜けちゃって危ないでしょう!?」
「……すみません」
「もうっ……ちょっと手を握って、後ろから支えてて」
プロデューサーの両手を組みながら、未央は慎重に腰を下ろした。
「うわぁ、プロデューサーの座り心地ってこんな感じなんだ」
プロデューサーは、未央の感慨に返事するどころではなかった。
未央の、柔らかくも強い弾力を持つ尻肉が、熱い体温と40kgそこそこの体重とで、
逃れがたい圧力を持ってプロデューサーを揺さぶった。
「なんか、こうしてると……私にプロデューサーのおちんちんが生えちゃったみたい、だね」
未央は自分の体勢が安定するよう、体重のかけどころを探して下半身をもぞもぞと動かす。
そんな無造作な動きさえ、プロデューサーの欲望を強く刺激する。
「未央……足、閉じてくれ。それで、擦って欲しい」
「私の太腿と、アソコでこすろうって――なんか上級者っぽくない? 手のがうまく刺激できそうだけど」
「いいからいいから」
未央は何が面白いのかよくわからないまま、プロデューサーの指示に従って、
両足の太腿でペニスを締め付けた。内腿に熱い感触。
ペニスが勢いを増し、未央の秘所にもこすれる。
「じゃあ、動かす、よ」
未央がプロデューサーの上に座ってから、しばらく経った。
未央は、半ば自動化されたようにひたすら腰を上下させていた。
「ぁ……は、ふぁっ……あっ、んっ……」
ぴったりとくっつけられた未央の両腿は、
プロデューサーの先走りと未央の愛液でぬるぬるとして、すっかりスムーズな接触。
ソファにも染みができていて、あとで偽装工作をしなければならないだろう。
(う、ううっ……これ、これぇ……もどかしいよ、プロデューサーぁあ……)
未央は犬のように荒い息で、かすかな喘ぎも漏らしていた。
(これじゃ、プロデューサーのおちんちんで、私がひとりえっちしてるみたいじゃない……)
未央は、プロデューサーのペニスを何度も受け入れた記憶があった。
しかし、ほぼ最大限に勃起したプロデューサーのペニスの大きさを、
膣内以外で実感させられたのは、これが初めてだった。
(これが、私の中で……あれ、私、早く入れて欲しいって、思ってる……?)
未央のクリトリスもすっかり熱に当てられて、甘い疼きで未央をくすぐる。
(感じると……お尻とか、太腿まで、びくって、しちゃう。プロデューサーに、丸わかり……)
「んぁあっ……あ、ふぁっ……あ……あっ……」
未央は背中を丸め気味に倒す。ペニスの先端でヘソを撫でられる。
(まるで、挑発されてるみたい……)
「あ……ん……うっ、あ……ふぁ……」
少し苦しくなった未央が、腰の動きを止める。
プロデューサーの下腹に思いっきり体重をかける。
「……しんどくなってきたか?」
「プロデューサーは、これ、気持ちいいの……?」
無遠慮なささやきさえ、未央には甘く聞こえた。
(いや、挑発してるのは、私も……)
「気持ちいいな。未央が、すっごくエロいから、とても気分がいい」
(いいところにあたって、びくってなっちゃうの……プロデューサーに、分かっちゃう、
むしろ、お尻突き出して、見せつけるように……)
「でも……出すのは、無理だよね。これじゃあ」
「この姿勢の素股で出すのは……未央が言った通り、上級者向けだったかも知れん」
(し、したい――続き……プロデューサーと……)
未央は尻をプロデューサーにぐりぐりと押し付ける。
両腿と秘所で、天をつこうとするペニスに覆いかぶさり押さえ込む。
未央の焦れた欲望が、体を熱くさせ、吐息や体液となって部屋を曇らせる。
嘘のように整えられたシンデレラルームの幻想が、
未央の生命力の滴りで壊され塗り替えられていく。
「止めたら止めたで、未央を近くに感じられて、いいもんだな」
動きを止めた未央に、プロデューサーは後ろから手を回す。
未央の体は、血流や拍動さえ捉えられそうなほど火照っている。
(後ろから、抱きしめられて……本当、恋人同士みたい……)
アイドルとして――というタガを外して、素直にセックスを求めてもよくなった未央は、
肉体だけでなく精神も快楽に従順となった。
「プロデューサー……わ、私……そろそろ、入れて、欲しいな……」
「ここに、か」
プロデューサーは後ろから手を回して、未央の秘所を軽くくすぐった。
「んんっ……ホントに、すけべなんだから、プロデューサーは……」
「お前のせいだぞ、未央」
「ええっ、そんなぁ」
プロデューサーのつぶやきは本心だった。
未央がこんなに扇情的な女でなければ、最初のセックスもなかった。
アイドルとプロデューサーという関係から、ここまでズルズルと逸脱することはなかった。
「俺も、お前に入れたいと思ってるよ。よし、するか」
「女の子の耳元で、そんなこと。やっぱり、すけべだなぁ……」
未央はプロデューサーのペニスを触ろうとして、手が滑って自分の下腹部に触れた。
瞬間、思って見なかったほどの痺れと疼きが広がって、軽い悶絶に陥り、
プロデューサーの腕にすがることとなった。
「……で、つけるんだ。プロデューサー」
プロデューサーに抱きかかえられ、未央はソファからベッドに移った。
淫らなシンデレラは、準備万端のペニスをゴムで覆うプロデューサーを見上げてつぶやいた。
「部屋には備え付けられていなかった。大丈夫か、夢の国」
「ミスマッチにもほどがあるよ」
プロデューサーの冗談に、未央は軽く笑った。
「ねぇ……つけないで、してみようよ。男の人って、ナマでしたいんでしょ?」
「ナマとか言うなナマとか。エロ本の読みすぎだ。
あと恋人ヅラしてナマでしたいとかいう男はロクな奴じゃないから止めとけ」
「だって、できちゃったら困るのは私がアイドルだから、でしょ?」
未央の言葉に、臨戦態勢のプロデューサーは表情を強張らせた。
「いや、違うだろ」
「そうでしょ?」
「アイドルとか関係なしに、できたらまずいだろ」
「それは、どうして?」
プロデューサーは、目前で息を荒げてこちらを見つめる女に、
男として有無を言わさず引きずり込まれそうな力を感じた。
ビジネスホテルもどきの部屋で体を交わしたときなど、
今の未央に比べればただの肉人形のようなものだった。
「ショットガン・マリッジは、男としてちょっと」
「何それ」
「できちゃった婚のこと」
「ほーほー、できちゃった婚……今、できちゃった婚って言った?」
女の絡みつくような目つきが、一転、柔らかくほころんだ。
「つまり、できちゃったら私と結婚するつもりだったんだ、プロデューサー」
プロデューサーは未だかつてない羞恥に震えた。
まさにいざ、という時にペニスをいきり立たせて、
一回りも年下の少女に意図しないままプロポーズじみた言葉を引き出された。
「日本では、20歳以上じゃないと父母の同意なしには結婚できないよ」
「知ってるよ、そのぐらい」
「じゃあ未央ちゃんはその時までに、本物のシンデレラになっておかないとね」
未央は両腕を広げて、どの営業スマイルよりも緩んだ笑みを見せた。
「今日のところは、プロデューサー君の覚悟に免じて、未央ちゃんも譲歩してあげようっ☆
できちゃう心配のない、ひたすら気持ちいいえっちを楽しむとしよう!」
「一体なんなのお前……いや、入れるけどさ」
プロデューサーは、つい未央と結婚したらどうなるか、ちらりと想像してしまった。
どうしようもなく笑いがこみ上げてきて、それを噛み殺しながら未央に覆いかぶさった。
「ん――ふぁっ、あ、っんんっ……入って、くるっ……」
未央の秘所は、プロデューサーのペニスが侵入するやいなや、
遅参を咎めるようにキリキリとした締め付けを返してきた。
「ねぇ、プロデューサー……もっと、近くに、ぎゅって、して欲しいな」
「なら……ちょっと背中浮かせてくれ」
未央はプロデューサーの首の後ろで手を組み、プロデューサーは未央の肩へ手を回した。
プロデューサーは背中側へゆっくりと体重を移し、つながったまま未央を抱き上げる。
「えへへっ、顔、近いね。ホントに恋人みたい。心臓の音も感じ取れちゃうかなっ」
「未央の胸が大きいんで無理だわ」
「んふふっ、じゃあせめてこの柔らかさを味わい給えーっ」
プロデューサーは、密着してきた未央の体を両腕でホールドして、そろそろと腰を使う。
それはせいぜい数センチ程度の律動だったが、
その味を感じた未央は、すぐに笑い声を高くした。
(こ、これ……さっきまで擦ってたとこ、全部、いっぺんに響く……っ)
「……ちょ、ちょっとしか動いてないのに、きゅんってしちゃう……」
「少し、このままにしておくのもいいか」
プロデューサーは腰の動きを完全に止めて、腕を未央の肩に回した。
「不思議な感じ。えっちは、いつも、どきどきして、気持ちいいけど、
なんか急き立てられてるような感じなのが……今は、あったかい、っていうか」
未央は、10cmをゆうに超える異物を身体に受け入れていて、
下腹部にはその圧迫を感じていたが、それさえ充足のように思えた。
「あっ……ふ、ふっ……なんだろ、切ないのに、ずっと続いて欲しい……っ」
「ずっとは……うーん、その」
「ああ、プロデューサーのおちんちん、いじられてばっかりだったからね……出せなくて、つらい?」
プロデューサーのペニスは、たどたどしかった手コキはともかくとして、
素股の快楽でかなり張り詰めていた。
それを察した未央は、あやすようにプロデューサーを抱きしめた。
「……私が、動くよ。だから、支えてて、ね」
それからの二人の情交は、時間をかけて、緩慢に、
しかし律動ごとに深いところに沈み込んでいった。
「あっ、ふぁ、あっ、はぁっ……」
未央はうわ言のような喘ぎを垂れ流しながら、ふわふわと腰を揺する。
締め付けはあるが、強引に搾り取るものではなく、
出すタイミングがほとんどプロデューサーに委ねられた膣肉の愛撫だった。
穏やかな動きに反して、未央の身体が快楽に侵されている具合は、
誰にでも分かるほど露骨だった。
(あ……はぁっ……ナカ、するの、すき……くせに、なってる、かも……)
アイドルとしてのステージでは、時に視線だけで観客を沸かせる未央の目は、
今やとろんと力が抜けて、すぐそばのプロデューサーしか視界に入っていない。
表情も、いつもの快活な笑顔とはうってかわった気怠げな笑みで、
口の端からこぼれおちた涎が、鎖骨や胸に幾筋も痕跡を残している。
「ふ……ふふっ、今、びくってして……イキそうなんだ……」
プロデューサーは、自分が何度射精したか既に把握してなかった。
本来なら、一度射精したらペニスも収まって抜いてしまうところが、
未央に包まれている心地がよく、脱力感の中でそれを堪能しているうちに、
いつの間にか復活しているという様子だった。
コンドームも破けているかもしれないが、それさえどうでもよかった。
「ん――んん……プロデューサーも、おっぱい、スキ、なんだね……」
どれだけの男の目線を奪ったかわからない未央のバストは、
プロデューサーの目前で、未央の呼吸に合わせてかすかに上下していた。
手で触れてみれば、吸い付くようになめらかな肌と指を押し返す弾力が、同時に絡みついて、
柔らかさと体温とともに、いつまでも弄びたくなる心地がする。
「でも……私は、ナカのほうが、スキ、かな……して、ちょうだい?」
未央がせがむと、プロデューサーは未央の腰を両手で包み込むように掴んだ。
未央の充血したクリトリスが、プロデューサーの下腹に当たって、
陰毛と絡みついてキリキリとした刺激に遭い、ゆらゆらしていた未央の下肢がびくりと反応する。
「スキ……スキ――え、へへっ……ふふふっ……」
未央も、うわ言と笑い声の混淆を漏らしながら、腕と脚を回してプロデューサーにしがみついた。
肌の感じるところが、ことごとく触れ合っていて、このまますり合わせていたら、
二人一つに溶け落ちてしまう――とても甘やかな予感だった。
プロデューサーは、もはやここがどこで、今がいつなのかも意識から霧散していた。
ただ自分の体があって、未央の体と触れ合っていて、
それがくっついて混ざってしまいそうな気分で――それだけを感じていた。
それだけが現実だった。
「あっ……あっ……だしちゃったんだ……きもち、よかった?」
未央が腰をもぞつかせると、かすかな水音が聞こえた。
それからしばらく、二人は見つめ合ったまま互いの呼気を混ざるのに任せていた。
やがて、繋がったままの体がまた、ゆりかごのように静かに揺れだした。
情交はいつ終わるとも知れないまま、二人の意識と肉体を飲み込んでいった。
チェックアウトの時間が近づいて、二人はようやく起き出し、シャワーを浴びた。
プロデューサーが汗を流してシャワーから上がると、
未央は備え付けのコップに水を注いで飲んでいた。
「ああ、水はそこだよー。プロデューサーも飲むー?」
プロデューサーものどが渇いてたので、コップに水を入れてもらった。
ふと、未央のコップのそばに、4×7の錠剤入りシートが置いてあるのが目に入った。
「なぁ、未央……見間違いだったら悪いんだが、それって……」
「ん? ああ、すぐ気づいたね。ピルだよ。飲んでるの」
プロデューサーは頭を抱えた。
「お前……『ピルだよ』じゃねぇよ、やけに軽いノリで中出しねだってくると思ったら」
「あわよくば既成事実をもう一つもらっちゃおっかなーと思ってさー。
でも、今回はある意味それ以上の言質をもらえたから、いいかなって。えへへっ」
「えへへじゃねぇよ、笑ってごまかすな」
未央に自分がここまで手球に取られていたか、と気づいて、プロデューサーは脱力した。
「嬉しかったよ。プロデューサーが、私とのこと真剣に考えてくれてるってわかったから。
まだ、アイドルとして『大きなことを成し遂げたい』ってのは、固まってないけど、きっと大丈夫。
何たって未央ちゃん、それより先の人生の目標を立てちゃったから、ねっ☆」
未央の屈託のない笑みを見せられ、
プロデューサーもその力で強引に笑わされた。
みんなを笑顔にするのが使命――アイドル・本田未央の面目躍如だった。
「あとさ、ピルって結構便利なんだよ。生理も安定するし」
「アイドルがピル持ち歩くってどうなんだよ」
「じゃあプロデューサーが持ち歩く? それもそれでキケンな香りが」
プロデューサーも、そんな未央を、もっとそばでプロデュースし続けたいと思った。
彼の足りてない職業倫理は、これで少し改善されるかも知れない。
(おしまい)
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