飛鳥「フゴフゴムムーンっと食レポ訓練」 (25)
初めてなので何か不手際あったらごめんなさい
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飛鳥((長い秋雨も去り、本格的に秋が到来した))
飛鳥((秋。どこか仄暗い寂しさと、彩り溢れる華やかさが同居するセカイ………嫌いじゃない))
飛鳥((学校を終えて事務所に向かい、1杯のコーヒーと共に灰色の街を眺める))
飛鳥((日も短くなり、このルーティーンを済ますころにはすっかり黄昏時だ))
飛鳥((ボクのいる窓際の対角_________デスクスペースでは、プロデューサーがPCと睨み合っている))
飛鳥((先程差し入れたコーヒーを、彼は一息に飲み干した。仕事に集中しているときの彼は、手近な飲食物を無意識に摂るクセがある))
??「……………………で、だから私はスプーン屋さんにこう言ったんです………………」テクテク
飛鳥((廊下の足音、話し声。彼がキーボードを叩く音。セカイが奏でる音楽に、ボクは耳を傾けた))
??「……………………って思ったら、薄力粉じゃなくて強力粉だったんですね…………」テクテク
飛鳥((彼にコーヒーのおかわりを淹れてあげよう。ふと思い立って給湯室に向かった))
??「……………………そうして手に入れたのがこのスプーンです!ソ連の秘密研究所が作ったという逸品で………………」トタトタ
飛鳥((多少物音を立てても、彼は画面から目を離さない。せわしなく働く彼の背中に、ボクはある種の安心感を覚える))
??「……………………さっそく曲げてみますね!……」ドタドタ
??「……………………このパンですか?5時のおやつです!…………」バタバタ
飛鳥((ミルクは多め、砂糖は入れない。自分のついでに淹れるうち、彼の好みもすっかり覚えてしまった))
??「ムムムーン!!ムーン!!!……あれ?曲がりませんね?もう一丁ムムムーン!!」ドタドタドタドタ
??「フゴフゴフゴ!!グモモ!!グモモモガグモ!!」バタバタバタバタ
飛鳥「プロデューサー、コーヒーのおかわりはどうだい。そろそろ一息ついても…
裕子・みちる「「おはようございまーーす!!」」ドアバーン
飛鳥「うるさいなぁ、もう!」
裕子「あっ」ムムムーン
みちる「お取込み中でしたか?ごめんなさい!」フゴゴ
飛鳥((大原みちる、堀裕子。バラドルとしての活動を主とする二人だ。………少し、大人気無かったかな))
飛鳥「いや、いいんだ。すまない、少し冷静さを欠いていたよ」
裕子「そうですか!ちょっと音量下げますね」…ムムムーン
P「お、賑やかになったと思ったら高校組も揃ったか」
みちる「お疲れ様です!プロデューサー!」フゴ
P「ああお疲れ。そうだ、3人とも話があるから後で応接室に来てくれ」
裕子「話?3人一緒にですか?」
飛鳥((3人で仕事…?裕子達と行ったオーストラリアが思い出される))
みちる「あれま、なにか撮影でしょうか」
飛鳥((面子から察するに、また海外だろうか?何処に行こうがボクは変わらない。彼の期待に応えるだけの結果を残す…それだけだ))
P「撮影には違いないんだが…3人にテレビ番組のオファーが来ててな」
飛鳥((………えっ?))
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飛鳥「……料理番組?この3人でかい?」
P「そうだ。地方局だがゴールデンだぞ。うまくやれば知名度も一気に上がる」
みちる「それは頼もしいですが……響子ちゃんや葵ちゃんの方が適任じゃないですか?」
P「あー…そこらへんじっくり説明したいんだが、あいにくこの後会議があってな。悪いがユッコ、悪いがテレパシーで読み取ってくれないか?」
裕子「お安いご用です!」ムムムーン
飛鳥((……えっ))
裕子「あー来てます来てます……じゃあ2人にはざっくり説明しときますね」
P「ありがとう。会議が終わったら改めて話そう。一応概要が人数分刷ってあるから、目を通しておいてくれ」
みちる「わかりました!」
飛鳥((みちるも平然と受け入れている……ミラクルテレパシーに偽りなし、なのか?))
P「じゃあ悪い、時間なんで失礼する」
飛鳥((料理番組。勿論初めてのことだ。それも、彼女達と))
裕子「お疲れ様です!」ムムムムーン!
みちる「お疲れ様です!」フゴゴゴー!
飛鳥((……不安だ))
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裕子「えっとじゃあ、脳に直接送りますね」ムムムーン
P『簡単に言うと、アイドル3人1組でやる料理対決だ。昔深夜帯にやってたゲロゲロキッチンって分かるか?あれを全年齢向けにしたイメージでいい』
P『大きく違うのは、勝敗の判定だな。審査員が直接料理を食べないんだ』
飛鳥「?」
P『料理を作るのは2人だけ。残った1人がそれを食べて、レポートする。より美味しそうだと思わせたチームが勝ちなんだ』
P『ただの料理対決よりもタレントとしての総合力が必要になる。3人ともこういう仕事は初めてだから、不安なら前もって練習するといい』
裕子「…って具合ですね」
みちる「なるほどー。よくわかりました」
裕子「それで皆さん、料理の経験は?」
飛鳥「全く無いな。カップラーメンが関の山だ」
裕子「私は家族の手伝いをするくらいです。みちるちゃんは?」
みちる「うちは実家がパン屋ですから、パンだけなら自信があります。ただそれ以外となると…」
裕子「うーん…。しかも、食レポもしなきゃいけないんですよね」
飛鳥「さっき練習と言っていたが、具体的にはどうするんだい?」
P『給湯室の設備を自由に使っていい。調理用具も一通り揃ってるからな。』
裕子「…とのことです」
みちる「ユッコさんがいると捗りますね」
裕子「朝飯前です!美少女アイドルサイキッカー、ユッコですから!」
みちる「もうすぐ夕飯どきですけどねー」あははー
飛鳥「……そうだ、折角全員揃ってるんだし、今から何か作ってみないか?」
みちる「そうですね。確かに今からやれば丁度いい時間になります」
裕子「じゃあ善は急げです!給湯室に急ぎましょう!」ピロピロピロピロー……
飛鳥((一瞬で給湯室に…テレポーテーションか?))
みちる「今から買い物に行くと時間かかりますし、できれば有り物で済ませちゃいましょ」
裕子「冷蔵庫には何がありますか?」
飛鳥「野菜庫にニンジン、タマネギ、ジャガイモ、あとレタスにパセリ……あとこれは、セロリかな」
裕子「パッと思いつくのはカレーですが」
飛鳥「冷蔵室にはスタドリと飲み物類だけ。この大きなタンクはおいかわ牧場の牛乳だな」
みちる「肉抜きカレーはちょっと許せないですね…」
裕子「あ、冷凍庫にも色々ありますよ!大人組が買い込んだ冷食やライラちゃんのアイス、あとイカや貝がけっこうたくさん」
飛鳥「この前七海達が採ってきたものだろう」
みちる「あ、思いつきました!……………」
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飛鳥「…………なるほど、いい案だね」
裕子「じゃあさっそくレシピを探しましょう!サイキック検索ゥー!」スマホポチー
飛鳥((エクステ、外してこよう))
みちる「まずニンジン、タマネギ、セロリなどの皮を剥き、賽の目に切って炒めます」
飛鳥「サイノメ?」
みちる「サイコロのサイです!ちっちゃい四角ってことですね!」
裕子「な、涙が…サイキックバリア…!」
みちる「玉ねぎの痛いのは鼻から入りますからね!バリアは鼻に張るといいですよ!」
飛鳥「ミーティングのときは不安だったが…結構すごいじゃないか」
みちる「カレーパンの仕込みを手伝ってましたからね!これくらいは慣れっこです!」
裕子「頼もしいですね!」
みちる「そういえば、なんで私たちが選ばれたんでしょうか?」
飛鳥「確かに…何か共通点がある訳でも、接点がある訳でもないメンバーだね」
裕子「ちょっと聞いてみます…」ムムムーン
P『先方から「とびきりキャラが濃いのを出してくれ」って指定があってな。俺の思うトップ3を選んだ訳だ』
みちる「なるほどー!やっぱりサイキックがあると便利です!」
裕子「ふふーん!ざっとこんなもんですよ!」
飛鳥((トップ3……))チラッ
裕子「ムムムーン!」
みちる「フゴゴゴゴ!」
飛鳥((せめて、ボクが3位であると願いたいな))
裕子「えっと次に…冷凍のアサリを鍋に入れて、白ワインを加えて蒸します!」
飛鳥「ワインか」
みちる「大人組の飲みかけのがありますね!ちょっと拝借しちゃいましょっか」
裕子「早苗さんには後で言っておきます!精々ちょっとシメられるくらいですよ」
飛鳥「大丈夫なのかい…?」
みちる「ああ、一気にいい匂いがしてきましたね!お腹すいてきました!もう1つ食べちゃいます!」フゴゴゴゴゴ
飛鳥((大ぶりのバタール。今夕食を作ってるのに))
みちる「パンは別腹ですから!」グモモモモ モグー
飛鳥((……みちるもエスパーなのか?))
裕子「具材が浸るまで水を足したら、コンソメを加えてしばらく煮込みます!」
みちる「とりあえずひと段落ですね」
飛鳥「その、食レポは全員が練習する必要があるものなのか?」
みちる「資料によるとレポート役は抽選で決まるそうなので」
裕子「誰に来ても大丈夫にしておく必要があるんですね」
飛鳥「そうか…正直な所、ボクは自信無いな」
裕子「そうですか?活動歴で行ったら飛鳥ちゃんが一番なんじゃ」
飛鳥「今回みたいなバラエティ番組……とりわけ食レポなんて、全く初めてのことだからね」
飛鳥「社会に媚びへつらうような笑顔を偽ることはできないし、その気もない。ボクには向いてないとさえ思えるな」
みちる「うーん…そんなに難しく考えないくていいんじゃないでしょうか?」
飛鳥「?」
みちる「おいしいものを食べたら、自然と笑顔になるものです」
みちる「パンは小麦、塩、水、イーストがあればできます!シンプルでいいということです。パンも、何事も!」
みちる「もし飛鳥さんがレポート役になっても、どーんと構えててください!」
裕子「そうですね!美少女サイキッカーユッコの手にかかれば、靴底だって松坂牛にしてみせます!」
飛鳥「……裕子、それは意味がわからないよ」
裕子「でも、伝わりましたよね?」ニカッ
飛鳥「……ああ。」
みちる「さあ!あとは仕上げです!」
裕子「牛乳を加えて、塩コショウで味を整えたら…」
飛鳥「クラムチャウダー、完成だね」
みちる「盛り付けは私に任せてください!2人はテーブルの準備をお願いします!」
飛鳥「ああ。悪いが裕子、先に行っててもらえるかい?少しやりたいことがあってね」
裕子「?わかりました!」ピロピロピロピロー……
飛鳥((クラムチャウダーにみちるのパン。それだけでも悪くないが、ちょっと寂しいだろう))
飛鳥((確か冷蔵庫に…あった、レタスだ。これでサラダでも作っておこう))
飛鳥((プロデューサーが言っていた、この3人の意味。異端だから、というのも事実だろうが、それだけじゃない。そうなんだろう?プロデューサー))
裕子『きっとそうですよ!』
飛鳥((急に脳内に入ってこないでくれるかい。驚くしそれに……今のは忘れてくれ))
裕子『ごめんなさい。サイキック立聞きしちゃいました』
裕子『みちるちゃんの方も大丈夫みたいです!料理を運んできてください!』
飛鳥「ああわかった、すぐ行くよ」
飛鳥「と、口に出す必要も無いんだったな、サイキッカー」
みちる「できましたよー!」
飛鳥「えっと…」
裕子「これは…」
飛鳥「巨大なパンにしか見えないな」
みちる「よーく見てください。まんなかのとこ」
裕子「ああっと!切れ込みが入って…蓋になってるんですね!」
飛鳥「中にクラムチャウダーが…なるほど、パンが器になっているんだね」
みちる「はい!本場サンフランシスコ風の盛り付けです!」
※イメージ
http://i.imgur.com/L8KGHh0.jpg
みちる「それでは、冷めないうちにいただきましょう!」
「「「いただきまーす!」」」
飛鳥((クラムチャウダー。普段はあまり食べない料理だが、中々悪くない。拙い料理でも美味しく感じるのは、自分たちの手で作ったからかな))
みちる「…どうですか?」
裕子「…飛鳥ちゃん?」
飛鳥「ああ、美味しいよ」
みちる「それはそれは」ニヨニヨ
裕子「よかったですね」ニヤニヤ
飛鳥「どうしたんだい、2人して…」
みちる「飛鳥ちゃん、すごいいい笑顔ですよ」
飛鳥「!」
裕子「飛鳥ちゃん、こっち向いて!」パシャリ
飛鳥「裕子、それ誰かに送ったら…ボクは羅刹になるよ」
裕子「大丈夫です!プロデューサーに送るだけですから!」
飛鳥「……………!!」
飛鳥「それが最大の禁忌だよ!」
みちる「あははははー!」
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裕子「このパン、なんかすっぱくないですか?」
みちる「あ、悪くなってる訳じゃないですよ。サワードゥといって、自然酵母で発酵させたパンなんです」
飛鳥「へぇ…もしかしてこれも、サンフランシスコ風なのかい?」
みちる「その通りです!サワードゥの器にクラムチャウダーを入れて食べるのが本場流です!万が一と思って持参しておいて正解でした!」
飛鳥「なるほど。パンの酸味とミルクのまろやかさが合わさって、チーズにも似た風味だ」
裕子「飛鳥ちゃん、しっかりレポートできてるじゃないですか」
みちる「そうですね!私たちも負けていられません」
飛鳥((そうか…こういう事なのか))
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P((長い会議を終え、携帯を確認する。2時間足らずのうちに、電話・メールが合わせて7件。うち2件は至急))
P((そして、担当アイドルからのメールが1件))
P「……いい笑顔じゃないか」
P「」グゥ~
P「…………………」
P「俺の分は、あるのかな」
おわり
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