大石泉「真紅の彼女へ」 (12)

ショートショートです。
思い立って急遽書きました、いずまゆはいいぞ。

佐久間まゆちゃん、誕生日おめでとうございます。

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「あー……」
「なんやいずみん、溜息なんてついて。幸せ逃げるで?」


わざとらしく私がついた溜息に、亜子が反応した。
今日のレッスンは終わり、もう帰るだけ。
そう、帰るだけなのだ、本来ならば。
だのに帰らないというのは、それ相応の理由があるわけで。


「んー、いや何となく。……何と言うか、緊張するなぁって」


心此処に非ずと言うか、ざわつくと言うか。

「おぉおぉ、いっちょまえに惚気話かぁ……。胸焼けするでこっちは」
「惚気話って……。そんなんじゃないって」


そう、そんなんじゃない。
だから、ライブ前の舞台裏ぐらい緊張している、っていうのは有り得ない。
…………有り得ない、はずなのだ。
服装とか髪型は大丈夫か、とか汗臭く無いかとか、気にしてるのはきっと気のせい。
……気のせいだ、きっと。

「傍から見ても変ですよぉ……」
「そ、そうかな……」


自己暗示で落ち着かせようとする私に、さくらが追撃をかけてくる。
流石と言うべきか、この辺はさくらは鋭い。
分かったってどうしようもないのだけど。
こういう時に使えるロジックは無いのだろうか。


「今日はオフやろ、まゆ」
「この後に会うんですよねぇ?」


何でか私が緊張する理由。
そう、今日は9月7日……まゆの誕生日だ。




「あ、泉ちゃん。待ちましたかぁ?」

ちょっと間延びした様な、甘い声。
スマホから目を離すと、まゆがすぐ近くに来ていた。
変装用の眼鏡をかけてる所以外は、いつものまゆだ。

「ううん、今来た所。Pは? 一回事務所に来たんでしょ?」
「さっきまで一緒でしたよぉ。Pさんは今日、まだお仕事があるので」
「そっか。……機嫌良さそうだね、何か貰ったの?」
「うふふ……このペンダントを頂きましたぁ……」


そう言って、まゆはPから貰ったペンダントを私に見せる。
中に小さな写真を入れられるタイプの物だ。


「うん、似合ってるよ」


当たり障りの無い言葉かもしれないけど、本心だ。
何人もプロデュースしているPだし、こういうのを選ぶセンスは抜群にある。
……何て、まゆには流石に言えないけど。

「えっと、じゃあ私からはこれ」
「あ、ありがとうございます。開けてもいいですかぁ?」
「うん、どうぞどうぞ」


まゆが開けた箱には、私が選んだリボンが入っていた。
紅い、紅い、真紅のリボン。


「悩んだけど、結局それしか思いつかなくて」
「泉ちゃんらしいですよぉ、ありがとうございます。毎日着けますねぇ……」
「いや、それは流石に恥ずかしいんだけど……」


多分、本気で言ってる。まゆはそういう子だ。
Pの為に一途で、でもいい子だから。

「あ、そのペンダント、写真は入れてるの?」
「はい、見ますかぁ?」
「うん、見たいかな」


泉ちゃんには特別ですよぉ、と言ってペンダントを渡してくれた。
…………え、いやいや。


「……いや、ちょっと待って。何で私とまゆの写真なの。Pは」
「Pさんのはその下に入ってますよぉ……? もし見られた時の為です」
「あぁ、そういう……」


多分、Pが教えたのかな。ちょっとビックリしたよこれは。
まぁ……スキャンダルになるよりはいいよね。
見た人は逆に何で私なのってなるけど。

「ありがと。じゃあ行こうか、お店は予約してあるし」


ペンダントをまゆに返して、私はスマホを立ち上げた。
地図のアプリを起動して、先程まで見ていたお店までの経路を出す。
ここからそう遠くは無い、まゆに似合いそうなちょっとお洒落な所。
教えてくれた加蓮さんに感謝しなくちゃ。


「いつもありがとうございます、泉ちゃん」


いいって、今日はまゆの日なんだから。
でもたまには……まゆの紹介してくれるお店で食べるのもいいかもしれない。
Pには少し悪いけど、こういうのは役得かも。
――少し、独占欲が強いのかな、私って。


「どうかしましたかぁ?」
「ううん、何でもない。楽しみだなぁって」
「うふふ、私もですよぉ」


紅いリボンに、濃紺のアクセント。
多分、少しどころじゃない独占欲。
今くらいは、彼女の隣に居たいと思うのは許されるだろう。


「誕生日おめでとう、まゆ」


彼女の恋が、成就するその日まで。

即興なので短いですが以上になります、いずまゆはいいぞ

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