凛「GANTZ?」 (1000)
ガンツ見直してたらふと思いついたので書いてみます。
キャラ崩壊注意。
オリ設定沢山。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1473171911
0.プロローグ
私の名前は渋谷凛。
私は今ちょっとしたトラブルに巻き込まれている。
私の前には泣きながらおもちゃの部品を探している男の子。
おもちゃを落として部品をなくしてしまったみたいだ。
歩いたら踏んじゃうかもしれないって言われて仕方なく立ち止まっている。
一緒に探してあげようとも思ったが、動こうとしたら私を見て泣き始める男の子。
周りの視線が集まってくる、どうしよう。
「うぅぅっ……ひっく……」
どうやらまだ見つからないらしい、泣き顔が酷くなっている。
どうしたものかと思っていると、後ろから声をかけられた。
「ちょっと君ぃ!」
振り向いた先にいたのは、警察官だった。
嫌な予感がする。
「少し話を聞かせてもらえるかな?」
ああ、面倒臭くなりそうだ。
さっさと立ち去りたいが、動いたら男の子がさらに泣き出すかもしれない。
「聞いているのかね?」
ああ、もう。
疑いの目で私を見てくる警察官。
私は何もしていないのにそんな目で見ないでほしい。
凛「何もして無いんだけど」
「何もして無い訳無いだろう!? この子は君の前でこんなに怯えているというのに」
警察官が近寄ってきたせいで男の子がさらに激しく泣き出した。
本当に勘弁してほしい、その思いが顔に出てしまったのか、警察官はさらに疑いの目を濃くして私を見てくる。
凛「本当に何もして無いってば」
「一旦、署のほうまで来てもらえるかな?」
凛「えぇ!?」
警察官の言葉に耳を疑う。
こんな事でなんで……と思ったその時、男の子が手を上げて叫んだ。
「あったーーーー!」
男の子に視線が集まる。
「あったよお姉ちゃん!」
私に向かって、小さな部品を見せる男の子。
凛「そっか、よかったね」
「うん! ありがとうお姉ちゃん!」
私と男の子のやりとりをぽかんとした顔で見ている警察官。
「あの、坊や、君はこの人に何かされたんじゃないのかな?」
「え? お姉ちゃんは僕のネジを踏まないように止まっていてくれたんだよ」
「え……」
「僕、おもちゃを落としちゃって、ネジがどこかにいちゃったんだけど、今見つかったんだ。お姉ちゃんが踏まないように立ち止まっていてくれたおかげだよ!」
「……」
「お姉ちゃんありがとう! バイバイ!」
そう言って手を振って去っていく男の子。
苦笑いをしながら手を振ってあげて、この場に残ったのは顔を青くした警察官と私。
さっきまで集まっていたギャラリーはいつの間にかいなくなっていた。
「こここ、これはどうも、とんだ誤解をぉっ!!」
凛「あぁ、いや……」
「申し訳ありませんっ!!」
体が折れるんじゃないかってくらい頭を下げる警察官。
ああもう、また目立ち始めてるよ。
凛「もういいって、私は誤解が解けたならそれでいいから」
それだけ言って足早に立ち去る。
後ろでは何かを言っている警察官がいるけど無視。
これ以上のトラブルはゴメンだよ。
そう思って前を向くと、少し離れたところに目つきの悪い大きな男が私を見ていた。
少しだけ、ほんの少しだけ、視線がぶつかり合う。
すると男が何かに気付いたような表情をして、一歩踏み出してきた。
明らかに私に向かって。
凛「!!」
それを意識した瞬間、私は反射的に踵を返して逆方向に駆け出す。
またトラブルになりそうだと思ったからだ。
だけどその時、妙な喪失感が、私を襲った。
大切なものが零れ落ちたような、変な感覚。
凛「……気のせい、さっさと帰ろう」
頭を振って変な感覚を追い出す。
私はそのまま帰路に着く。
男は私を追っては来なかった。
少し暗くなった帰り道。
あのトラブルがあって、いつもと違う道を私は歩いている。
歩きながらも、私は始まったばかりの高校生活のことを考えていた。
凛(私ももう高校生か)
凛(この前中学になったと思ったらもう高校生)
凛(中学のときって何をやってたっけ? 色々やってたような気もするけど、これと言って頑張ったことってあったっけ?)
凛(……無いかもしれない。家の手伝いや勉強は結構頑張った気もするけど、本当に頑張ったかって言われると違うような気がする)
凛(部活も特に入ってなかったし、友達と夢中に何かをするってこともあまりなかった)
凛(あまり、そういうこと考えたことなかったけど、何で今こんなこと考えているんだろ?)
凛(さっき変な気分になったから、少し憂鬱になってるのかな?)
凛(……)
凛(はぁ、新しい高校生活が始まったっていうのにこんな事考えてちゃ駄目でしょ……)
凛(でも、これから何か夢中になれることが見つかるのかな?)
凛(心を動かされるような何かが見つかるのかな?)
凛(夢とか希望とかも……)
凛(……)
凛(帰ろっと)
変に憂鬱になった私は家へ帰る為に足を速める。
ああ嫌だ。
何でこんな気分になっているんだろう。
さっさと帰ってお風呂にでも入って……。
その時だった。
目の前の、青信号の横断歩道を二歩ほど踏み出したその時。
私の視界の隅に変なものが映り込んだ。
凛「えっ?」
映り込んだ何かを見ようと首を動かす。
とてもゆっくりと、まるでコマ送りで映像を見ているような感覚。
数分間かけて5センチくらい首を動かしたのかな?
それくらいしか動いていない私の顔。
だけどそれだけ動いたことによって私の眼にありえないものが映っていた。
大きなトラック。
運転手は眠っている。
私に向かって来ている。
凛「うそ」
それだけを呟いた。
次の瞬間、私はとてつもない衝撃を受け、目まぐるしく変わる風景を眼に焼きつけ、
最後に首が無い人間の身体がくるくると空を舞っている光景を見て、
プツンという音と共に意識が闇に閉ざされた。
プロローグ 終わり。
しぶりんはアニメ基準となっています。
また書いてきます。
1.ネギ星人編
凛「はぁっはぁっ! ぜぇっはぁっ!」
まず目に飛び込んできたのは真っ黒な球体。
凛「はぁっ! はぁっ……あああっ!?」
私はさっきまで視界の端で見ていたトラックが再び襲い掛かってくる感覚を覚えて、勢いよく振り向いた。
そこには部屋の壁があるだけだった。
凛「はぁ……はぁ……あ、あれ? ……何が……何なの……?」
そのまま腰が砕けるように床に座り込む私。
「これで最後か?」
その声に顔を上げると、少し暗い雰囲気を放つ少年が私を見ていた。
一体何が起きたのか、自分の身に何が起きてしまったのかを考える暇もなく、私の目の前の黒い球体から音楽が流れ始めた。
あーたーーらしーいーあーさがきたーきーぼーおのーあーさーがーー
……ラジオ体操?
何が起きているか理解できずに座り込んでいた私だったが、背後から聞こえてきた声に振り向いた。
「なんだ? ラジオ体操?」
「ホラ、やっぱりバラエティ番組だよ」
「あん? また一人増えてるぞ?」
「おっ、また女の子じゃん」
黒い球体と私が半々くらいの割合で見られて、品定めをされるような視線に不快感が湧き上がる。
気がつけば数人の男が私と黒い球体を取り囲むように部屋にいた。
その中の眼鏡をかけた男が私に声をかけてくる。
「もしかして、君も死にかけたの?」
凛「えっ……しにかけ……死?」
山田「ああ、急にこんな事を言っても混乱するだけだね。まずは自己紹介をしようか、僕は山田雅史、練馬東小学校の教師です」
凛「あ……わ、私、渋谷凛」
山田「渋谷さんだね。ええと、簡単に説明するとだね、ここにいる人たち全員死にかけた人たちみたいで、君もそうじゃないのかなって」
その言葉に先ほどの記憶が蘇り、私の体はガタガタと震えだす。
トラックに間違いなく跳ね飛ばされた。
そして、最後に見たのは……自分の体。
しかも首がない体。
と、いうことは…………。
凛「うっ……」
山田「だ、大丈夫かい?」
生々しい記憶が蘇り、吐き気がこみ上げる。
吐き気を必死に我慢をしていると、私の周りで喧騒がおき始めていた。
どうやら黒い球体を見て騒いでいるらしい。
それを見て、私も黒い球体に目を向けると、そこには文字が浮かび上がっていた。
『てめえ達の命は、無くなりました』
『新しい命を、どう使おうと、私の勝手です』
『という理屈なわけだす』
所々文字が逆転していて少し読みづらいが、間違いなくそう書いてある。
自分でも顔から血の気が引いていくことが分かった。
やっぱり私は死んだの……?
でも……。
首は付いている。息もしている。心臓も……動いている。
死んだはずなのに生きている。
もう何がなんだかわからなかった。
何人かから声をかけられていたけど、先ほどまでの恐怖と今起きている現状の混乱で何も耳にはいってこなかった。
俯いたままただ呆然としていたような気がする。
頭の中が真っ白になっていて、次に気がついたときには、私の周りには誰もいなかった。
凛「え……?」
凛「何、これ。えっ? 夢?」
頬を引っ張ってみる、痛い……。
凛「夢、じゃない?」
凛「だったら一体ここは……」
私はのそりと立ち上がって部屋の中を見渡す。
黒い球体は先ほどと違って両サイドが開き、中に何かが入っている。
覗いてみると、銃と何かのケースと…………
凛「ひ、人!?」
人がいた。
酸素マスクみたいなものを付けて、頭にはケーブルのようなものが付いて固定されている。
ピクリとも動かない。
凛「あ、あの……すいません……」
声をかけても無反応。
凛「……あのっ! ちょっと!」
何度も話しかけてみるが結果は変わらなかった。
ようやく私の意識がはっきりしてきた。
何が起きているか分からない。
だけど、間違いなく異常事態。
凛「と、とりあえず現状確認」
凛「この部屋……見たことも無い部屋」
凛「私、誘拐されたの……いや、違うような気がする……」
凛「あの時に起きたこと……私は確かに轢かれたはず……」
凛「夢じゃなければ…………そういえばさっきの文字」
『てめえ達の命は、無くなりました』
『新しい命を、どう使おうと、私の勝手です』
『という理屈なわけだす』
思い出す。
命は無くなった。だけど新しい命?
背中につめたいものが走る。
凛「……分からないことが多すぎ。もう一度あの文字を……あれ?」
もう一度見た時にはただ一言だけ書いてあった。
『行って下ちい』
そしてタイマーが表示されている。
『00:45:20』
凛「……」
凛「どこかに行けってこと? 一体何を……」
どこに行けというのか分からない。
部屋から出て何かをしろというのか。
そう思い少し部屋を見渡すと、球体の近くに扉があることに気がつく。
私はその扉に近づき、扉を開いた。
凛「……何、これ」
中には大きな黒いバイクのようなものがあった。
凛「バイク……だよね? でも、タイヤがない……」
バイクみたいなものを調べていると、床に何個か置いてあるものが目に付く。
なんだろうと思い、拾うとズシリと重量感が手に伝わる。
何かは分からないけど……スイッチ?
凛「押すと何かが……あぁッ!?」
スイッチを押したと同時に、何かが出てきた。
慌ててスイッチを離すと伸びた何かは止まり、私の手にはさらに重量感を増した何か……。
いや、これは……。
凛「ナイフ?」
10センチくらいの刃が飛び出した真っ黒なナイフが私の手におさまっていた。
凛「こんなナイフ、見たことも無い……」
私はなぜこんな変なナイフが落ちているのか、このバイクはいったい何なのかと考えていると、
急に視界が変化した。
凛「は?」
外だった。
住宅街、夜の住宅街が私の目に映る。
凛「え? だって、今、私、部屋に……?」
そして気がつく。
凛「!? か、体!? わ、私の体が!?!?」
無い。
凛「いっ、イヤッ!! な、何これ!? ヤダッ!!」
再び私の脳裏にあの光景が蘇ってきた。
首のない、自分の体。
凛「うあああああッ!! ああああああッ!!」
パニックになっていた。
落ち着きかけていた私の思考は再び混乱の渦にかき回され、しばらくの間私は叫び続けていたと思う。
やっぱり私は死んでいるの?
分からない。何もわからない。
そんな中、一つだけ、私の心に、強く湧き上がる思いがあった。
『死ぬのは嫌だ。死にたくない』
それに気がついてから、私の叫びは変化していた。
凛「し、死にたくないッ! 誰かァッ! 助けてェッ!!」
ただ必死に、誰でもいいから、助けてと。
無くなってしまった私の体を返してと。
ただひたすらに叫んでいた。
だけど、私の叫びは誰にも届かなかった。
凛「イヤ……イヤだ……こんなの……イヤだよ……」
首だけで生きていれるわけがない。
もう死んでしまう。
そう考えていた私が、再び自分の体を見て完全に思考が停止するのを誰が咎めることができるだろうか?
凛「……え?」
自分の体を見ながら私はその場で固まり続けていた。
手に黒いナイフを持ち、夜の住宅街で佇んでいた。
今日はこのあたりで。
乙
期待してる
どれくらい経ったかわからない。
私は首が繋がった自分の体を抱きしめるように夜の道を歩いていた。
不安と恐怖。ただそれだけが私の心を埋め尽くしている。
凛「……助けて」
凛「……怖いよ」
凛「……死にたくないよ」
夢遊病の患者のように私は行くあてもなく歩き続ける。
どこに行けばいいの?
どこに行けば私はこの不安と恐怖から開放されるの?
そんな事ばかり頭の中でぐるぐると回り続ける。
そうやって、歩いていると、私の視線の先。
住宅街の突き当たりの街灯の下に何かが散らばっているのを見つけた。
私はふらふらとその場所に近づく。
近づくにつれ、私の目にはっきりと何があるのかが映し出される。
凛「な、なに…………これ…………?」
頭では理解している。
だけどそうだと認めたくない。
凛「…………人?」
呟いて意識してしまった。
そう、私の目に映っているのは、バラバラになった人の死体。
沢山の人、みんなバラバラ、血が沢山。
凛「う……うえぇぇぇぇっっ! げほっ! げぇぇぇぇぇぇっ!!」
耐え切れずに吐いた。
えづきながら胃の中身がなくなるまで吐き続けた。
それでも嘔吐感はおさまらず吐き続ける。
やがて私はその場に倒れこみ、荒い息をつきながらぼうっと空を眺めていた。
凛(ここって、地獄?)
凛(地獄だったら、私何か悪いことしたかな?)
凛(酷いよ神様、何で私がこんな目に合わないといけないの?)
凛(私まだ死にたくないよ……)
涙を流しながら空を見ていた。
珍しく星空が見える。
この星空が私の最後に見るものになるのかと思いながら空を見続けていると。
私の視界にこの世のものとは思えないほどの恐ろしい形相をした人の顔が飛び込んできた。
凛「……えぁ?」
浮遊感。
私の頭を掴まれて持ち上げられた。
どこか他人事のように思え、私は私を持ち上げている人に視線を向ける。
すごく大きな人。巨体にエプロンをつけ、アンバランスさが湧き出ている。
その顔色は緑色と人間ではありえない色をして、その形相は怒りに染まりきっていて、見るもの全てに恐怖を植えつけさせるような形相。
そして、その目は私に向けられ、何かを指差し叫び始めていた。
「マガッ! マズガッ! ズマッ! ズマッ!」
視線を向けると、
緑色の液体を撒き散らした首のない体があった。
その体を見て、また首の無い自分の体がフラッシュバックする。
凛「い、い……や……いや……だよ……」
私の頭を掴んでいる人は何かを叫び続けている。
やがて私の頭に圧迫感が襲い始めた。
凛「い……いだ……痛い……痛い……」
締め付けられる感覚から、痛みに変化していく。
そして、私は見てしまった。
私の頭を掴む指が、鋭利な刃物のように変化した瞬間を。
凛「う、そ。やだ……たす、けて……」
私の髪がパラパラと地面に吸い込まれる。
耳に裂けるような痛みが発生する。
そして、私の頭に何かが喰い込む感覚が襲い掛かった瞬間。
私の意識はとてもゆっくりと、スローモーションのような状態に変化した。
凛(私の髪……切れてる)
凛(私の耳……すごく痛い)
凛(私の頭……このままじゃ潰されちゃう)
凛(潰されたら……死んじゃう)
凛(死んじゃう……? 死ぬの……?)
凛(……嫌……私……死にたくない)
凛(死ぬのは……嫌)
凛(絶対、嫌)
スローモーションの世界で、私は指を動かした。
その指が触れるのは、黒いナイフのスイッチ。
何かを意識していたような気がする、このスイッチにふれたときに何かが起きた事を意識しながらスイッチに触れた。
すると私の手に変な感触が伝わる。
ゆっくりと何かが食い込んでいく感覚。
ツプツプツプと何かに食い込んでいく感覚が伝わって、
私は地面に落とされた。
凛「うァッ!?」
衝撃で目を開く。
凛「いっ…………え?」
目を開くとそこには、私の手から伸びる黒い刃に胸を貫かれた大きな人の姿があった。
「ハグッ……グオッ……」
凛「……は? な、に……これ?」
私の手から伸びている刃、さっきのナイフが伸びてこの人の胸に刺さっている。
凍りついたように私の手は固まっていたが、少しすると手に持った黒いナイフ……いや、黒い剣からとてつもない重量感を感じ、私の手は地面に吸い込まれるように黒い剣を下に振り下ろしていた。
「ゴバァッ!!」
それと同時に私に降りかかる、熱い緑の液体。
目の前にいた大きな人は、胸から裂けるように半分に割れ、裂けた部分から止め処なく緑の液体が噴出し私に降り注いでいた。
凛「…………」
瞬きもせずに私はその光景を目に焼き付けていた。
大きな人は潰れるように地面に吸い込まれ、数分間痙攣をしながら液体を撒き散らしていたが、やがてそれも止まり辺りには静寂だけが残った。
凛「…………」
私の思考は完全に停止した。
何も分からなかった。
分かりたくなかった。
目の前で起きてしまった事を認めたくなかった。
だから私は思考を放棄していた。
そうやって黒い剣を持ち固まっていると、数メートル先に異変が起きた。
何も無い空間に電気が走っている。
バチバチという音と共に、何も無い空間から何かが現れた。
足、手、体、そして頭。
そこには、さっき見た少し暗い雰囲気を放っていた少年が、驚いた顔をして立っていた。
「あんたが……コイツを殺ったの?」
その声に視線だけを向ける。
「!? あんた何でその刀持ってんの?」
刀?
その言葉に黒い剣を見る。
「オイ? 聞いてる?」
再び視線を少年に向けた。
「……もしかしてさ、コイツ殺したのに罪悪感とか感じてんの?」
その言葉に私の体が大きく跳ねる。
殺した。
そう、殺したんだ。
あんな状態で生きているわけが無い。
私が、人を、殺…………
「罪悪感なんか感じる必要なんてねーッて。コイツ人間じゃねーんだぜ」
凛「……え?」
「おッ。やっと反応見せたか」
凛「人間、じゃ……ない?」
「そーだよ。コイツは宇宙人。俺たちはコイツ等を[ピーーー]ためにゲームをやってんの。あんたはコイツを殺してポイントをゲットしただけ」
凛「うちゅう、じん? ……げーむ?」
「ああ」
少年の言葉は理解しがたいものだった。
だけど、私はもう一度、私が……刺した……人を見る。
胸から下が半分に裂けて、奇妙な形で、地面から生える花のような形で動かない。
その顔は緑色、髪なのか草なのかよくわからないものが頭から生えている。
手は四本指でとてつもなく長いカマの様な爪。
そして、裂けた部分からはいまだに緑色の液体があふれ出していた。
凛「はっ……ははっ」
気持ち悪さじゃなくて笑いがこみ上げてきた。
何も面白くないのに何で笑ってるんだろ私?
凛「に、人間じゃない……これ、人間じゃないよ……」
そうだ、こんなの人間のわけが無い。
「だから、そー言ってんじゃん」
そうだよね、こんなの人間じゃない。
私は人を殺してなんか無い。
それに、私はさっきこいつに……。
凛「……殺されかけた……私……こいつに……」
「そうそう、あんた殺されかけたんだろ? こーしなきゃあんたもああなってたよ」
少年が顎を動かし、さっき見たバラバラの死体を指す。
私は視線を向けはしなかったが、少年が言いたかったことを理解した。
そうだ、こうしないと私があんな風にバラバラになっていた。
頭を潰されて死んでいた。
仕方なかった。仕方なかったんだ。
そうやって考えていると、いつの間にか少年が私の前にしゃがみこみ、私の顔を覗き込んでいた。
「……あんた、結構いい目してるね。さっきはそーでもなかったけど、今のあんた、悪くないよ」
何を言われているのかよくわからなかったが、私はさっきよりも大分落ち着いてきて、
少年の言葉に耳を傾ける。
凛「どういう、ことなの?」
「いや、なんでもない。俺もあんたに色々聞いてみたいけど、タイムリミットが近いからまずは先に残りのターゲットを殺しに行く」
タイムリミット?
一体何の?
「あんたも着いてくる?」
その言葉に、私は頷いた。
分からないことだらけ、だけどこの少年は何かを知っている。
今何が起きているのかを知りたい。
そして何よりも、一刻も早くこの場所から離れたい。
そう考えて、私は視線を少年から離さず、他の何も見ずに立ち上がった。
凛「っ! 重……!?」
そして、立ち上がって、手に持った黒い剣を地面に落としてしまう。
さっきまでと違う重さ。
とても持てるような重さじゃない。
「あー、あんたスーツ着てないんだよな? それじゃ持てる訳ねーよ。そのスイッチを押してみなよ」
少年が指し示す位置に、先ほど押したスイッチとは別のスイッチがあった。
それを押すと、見る見るうちに刃が収納され、刃も何も無い最初に見た状態に戻った。
「それなら持てるだろ?」
その言葉に、私は刃が無くなった剣の柄を持ち、今度こそ立ち上がった。
私が立ち上がったことを確認したのか、少年は私を先導するように前を歩き出した。
「そんじゃ、着いてきなよ。面白いモン見れるかもしんないよ?」
歩きながら話す少年。
面白いもの? こんな状況で面白いも何もと思いながらも私は少年の後を追った。
一旦終わり。また書いてきます。
私と少年は道路を数分ほど歩いていた。
突然、少年が立ち止まり視線を前に向けている。
それに釣られ私も前を見る。
百メートルほど離れたところに3つの人影が見えた。
「おォッ? すげーなあいつ。星人追い詰めてるよ」
よく見てみると、黒いスーツを来た人が、さっきの宇宙人に似た何かを殴りつけている。
その近くには、人が倒れていた。
「なんだ? トドメささねーでどうしたんだあいつ?」
少年の言葉に再び黒いスーツの人に目を向ける。
黒いスーツの人は、宇宙人を殴るの止めて倒れている人に駆け寄っていた。
宇宙人は殴られて気を失っているのか、その場から動かない。
「チッ、何モタモタやってんだ? 仕方ねぇ……おい、あんた。少し待っててくれ」
凛「え?」
私の返事も聞かずに歩いていく少年。
少年は少し歩くと、手に何か銃みたいなものを持ち宇宙人に向けて撃ち出した。
宇宙人は銃から出た光るワイヤーみたいなものに縛られて身動きが出来なくなり、
それを確認した少年は黒いスーツの人に近づき何かを話し始めた。
少しすると、少年と黒いスーツの人は言い争いをし始めた。
何をしているのかと少し近づくと、私の目は宇宙人がモゾモゾと動き始める姿を鮮明に捉えた。
あの少年も黒いスーツの人も気付いていない。
手を二人に向けて、宇宙人が二人に何かをしようとした。
その手には長くカマのような爪、それと一緒に何かが握られている。
私はその爪を見た瞬間、さっき見た凄惨な光景が結びつき、咄嗟に手に持った剣のスイッチを押していた。
「ネギ……アゲマ……ゴバッ!!」
宇宙人の声が聞こえた。
何かを言って、その後に口から緑色の液体を吐き出している。
その原因を作ったのは私。
私の手に握られた黒い剣は一瞬にして数十メートル近く伸びて、宇宙人の喉を貫いていた。
私は再び重さに耐え切れず黒い剣を掴んだまま地面に突っ伏してしまった。
私が顔を上げたときには、宇宙人の体は半分に分かれて地面に転がっており、
その手には何故かネギが握られていた。
「おいおいおいおい、横取りってなァ~~」
頭を掻き毟りながら少年が近づいてきた。
「……まァいいや。どうせ点数はゆずろうと思ってたし」
少年は地面に落ちた黒い剣を軽々と持ち上げ、刃を収納し私に手渡してきた。
あんなに重いものを軽々と……?
「しかしあんた、本当にやるね。あっちの偽善者とは全然違う、俺と同じだ」
凛「……同じって、何のこと?」
「あんたも興奮してるんでしょ? あれを殺して、さ」
凛「……何、言ってんのよ。私は……」
あんたを助けようとして、と言おうとした時に私の目にありえないものが映った。
少年の頭が半分なくなっている。
凛「!?!? あッ、頭!! 頭がッ!!」
「おッ」
少年は何かに気付いたようで、私に片手を上げて小さく言った。
「お先」
そして、少年は徐々に頭が無くなり、体が無くなり、足の先まで消えてなくなり、
この場から完全に消滅した。
凛「…………なんなの」
消えてしまった。
でも、お先って言っていた。
それなら、もしかして……。
ある可能性を考えていると、私の耳に叫び声が聞こえてくる。
「おいッ! おいッ加藤ッ!! 起きろッ!!」
その声に視線を向けると、黒いスーツの人が倒れている人に向かって呼びかけ続けていた。
私はそれを見て二人に近づいて息を呑んだ。
倒れている人は血にまみれて、目には生気が無い。
顔も真っ白で明らかに手遅れだ。
これもさっきの宇宙人にやられてしまったんだろう……。
私は顔を顰めて倒れている人を見る。
すると、黒いスーツの人にも異変が起きていた。
少年と同じように頭が無くなって、体もなくなり始めている。
凛「……さっきと同じ?」
これは、まさか。
何も分かっていなかった。
だけど、直感的に理解できた。
凛「戻って、いるの?」
そうしていると、倒れている人にも異変が起きている。
先の二人と同じように頭から消えていっている。
もう間違いない。
ということは、私も……。
と、思ったら、頭の先に変な感覚が訪れた。
温度が違う、頭の先だけ部屋の中にいるような感覚。
その感覚を受けた私は、さっきの現象が私にも起きているのだと分かりほっと一息を付いた。
あの少年がこの現象に巻き込まれても特に気にすることもなく、「お先」と言った。
これから私は間違いなくあの少年がいるどこかに戻るのだろう。
ジリジリと頭の違和感が大きくなると同時に、私は宇宙人の姿を視界に捉えた。
体が半分に分かれた宇宙人。やったのは私。
凛「……仕方ないじゃん」
だって、あんた等は悪い奴等なんでしょ?
事実私はさっき殺されかけた。
あんた等を殺してないと殺されてた。
凛「仕方ないよ、仕方なかったんだよ……」
そう、仕方なかったんだ。
私は、悪くない。
私はそう思い目を閉じた。
そして、次に目を開けたときには、私の目の前に、さっきの少年、黒いスーツの人、血まみれで倒れていたはずの人、私よりも少し年上に見える学生服を着た女の子、最後に犬。
全員が私の事を見ていた。
『ちーーーーーん』
私が声を出そうとしたら、そんな音が黒い球体から発せられ、全員が黒い球体に注目する。
黒い球体には再び文字が浮かび上がっている。
『それでは ちいてんを はじぬる』
ちいてん? ……逆文字だとしたら、さいてん? 採点?
私の考えを肯定するように少年が言った。
「ガンツが採点を始めるぜ」
「はァ? ガンツ?」
「うん、ガンツ」
凛(ガンツ?)
少年と黒いスーツの人がやり取りをしていると、黒い球体に変化が起きる。
『犬 0てん やるき、なちすぎ ベロだしすぎ しっぽふりすぎ』
黒い球体の前の犬が落ち込むように小さくないた。
また画面が変わって文字と画像が浮かび上がる。
『巨乳 0てん ちちでかすぎ ぱんツはかづにうろつきすぎ』
「あたしィ!?」
学生服を着た女の子が映し出された文字に文句を言っている。
これって、もしかして全員?
また文字と画像が変化した。
『かとうちゃ(笑) 0てん おおかとうちゃ(笑)死にかけるとわなにごとぢゃ』
「…………」
やっぱり一人ずつ全員。
これも何か意味があるの?
再び変化する。
『西くん 0てん りんちゃんにきょうみもさすぎ ゆだんしすぎ』
『Total 87てん あと13てんでおわり』
「チッ」
あの少年は他の人と違う……。
Total87点? 後13点で終わり?
また変化する。
『くろの 0てん 巨乳みてちんこたちすぎ』
「はァ!? あ…………あッ!!」
これで私以外の全員。
ということは……。
『りんちゃん 6てん よくがんばりました』
『Total 6てん あと94てんでおわり』
6点……。
トータル点数も6点……。
そして、後94点で終わり……。
さっきの少年は、Total87点の残り13点。
100点で終わる……? 何が……?
「6点って…………いーのか?」
黒いスーツの人が私の点数を見て聞いてくる。
凛「さぁ?」
「さぁ? って、キミが採った点数なんだけど……」
凛「そんな事言われても何の採点なんだか知らないしわかんないよ」
そう、まだ分からない。
あの少年に確認するまで、確証が持てない。
私が少年に視線を向けると、他の3人も同じように視線を向ける。
その視線を受け、少年は親指を後ろに指し、
「外、ドア開いてるぜ」
そう言って、部屋から出て行こうとする少年。
それを咎めるようにまず黒いスーツの人が少年に声をかけた。
「ちょっと待てよ……こっちには聞きたいこと山ほどあるんだけどな」
それに続くように、もう一人の男と女の子も声を上げる。
「そうだ……おまえ色々知ってそーだし」
「うん」
これには私も同意する。
凛「お願い、教えてくれないかな?」
少年はポケットに手をいれて壁に寄りかかり私を見て答えた。
「いいぜ……俺の知ってる範囲でなら」
その答えに対して、黒いスーツの人は、
「ウソはなしだぜ……」
若干疑いの目だ。
「…………なんなりと」
少年の言葉で黒いスーツの人が少年に質問を始めた。
今日はこのへんで。
>>22 ありがとう。
期待してる
懐かし半分ではあるけど
これからの追加メンバーに変化があるのか気になる
「何から聞こう……」
「あ……なんなんだ一体?」
「ハァ? 何が?」
「あ、いや……この状況、何が起こってんだよ?」
「……質問が大雑把すぎ」
黒いスーツの人の質問にため息をつきながら回答する少年。
……長くなりそうだし、何より面倒臭くなりそうだったので、私は手を上げて少年に問いかける。
凛「あのさ、聞いていい?」
「ん? ああ、あんたか。何を聞きたいんだ?」
まずは、大前提。
凛「私ってさ、今生きてるの? それとも死んでるの?」
そう、私はトラックに轢かれた。
あれが夢だとは思えない、あの時の衝撃、自分の眼に映る首のない自分の体。
あの時に私は死んだ、はずなのにこの部屋に移動して今に至る。
さっきの宇宙人とかのことは保留、まずは自分が今どうなっているのか。
それが知りたい。
「……生きてるよ」
凛「本当に!?」
「……ああ」
生きている。
心臓の鼓動が高鳴るのを感じた。
私は死んでいない。今ここに生きている。
大きく息を吐いて私は生の喜びを感じると共にその場にへたり込んでしまった。
「……ただ」
少年は間を置いて続けた。
「たぶん俺の考えでは……本体……オリジナルは本当に死んでいる」
凛「……は?」
「まァ、これはあくまで俺の考え。確証は無いよ」
凛「……どういう意味?」
「ここにいる人間はファックスから出てきた書類……コピーってやつだと思う」
凛「コピー?」
「……この中には死ぬ寸前に助けられたものがここにやってくるって考えを持ってる奴もいると思うけど、そうじゃないって事、オリジナルはとっくに死んでいて俺たちは全員コピー……ニセモノって奴だ」
凛「……何、それ」
さっきは生きているって言ったのにやっぱり死んでいる?
何を言っているのか……。
いや、これも情報の一つ。
分からないものは一旦置いておく。
重要なものを聞いていく。
凛「……次の質問、いい?」
「ん? いーけど、さっきの話気にならないの?」
凛「私が生きているって分かっただけでいい。今はそれでいい。もっと知りたいことは沢山あるからさっきの話は後回し」
「ふーん。それならそれでいーけど。次は何聞きたいの?」
次は……。
どう考えてもこの異常事態の原因のひとつと考えられるもの……。
目の前にある……。
凛「……その黒い玉。それは何?」
「ガンツ」
凛「名前はさっき聞いた。その黒い玉がなんなのかを知りたいんだけど」
「……ガンツがなんなのか…………ね」
ずっと私に視線を固定していた少年は、私以外の3人を少しだけ見て、再び私に視線を戻し口を開いた。
「ガンツの正体は知らない」
凛「……」
「俺の知ってることは、ガンツが死んだはずの人間を連れて来て、昔から今夜みたいに星人を狩らせてるってことだけ」
宇宙人を狩らせている……?
何の為に……?
ううん、それよりも……。
凛「あのさ、昔からってことはさ……」
「へー、あんた、勘いいね」
少年の言葉で確信した。
凛「やっぱり……さっきみたいなことは、また起きるって事?」
「答えはイエスだ」
少年の回答に、今まで黙って聞いていた男二人が声を上げた。
「おいッ! どーいうことだよそれッ!? 終わったんじゃねーのかよッ!!」
「そうだ……俺たちは帰れるんじゃないのか……?」
「……お前等はニブイな。ちょっとは自分の頭で考えてみたらどうだ?」
「んだと!?」
少年と黒スーツの人の言い争いが始まってしまった。
……本当に勘弁してほしい。
……今は情報がほしいというのに。
口を挟んでも、この場を取り成す事が出来るわけも無いし言い争いが終わるまでまとうと思っていたら、どんどんヒートアップしていく。
そんな中、背の高いもう一人の男が、少年に問いかけ始めた。
「計ちゃん、少しそいつと話させて貰えっかな?」
「あ? ああ……」
「ありがとう……なあ、おまえさ」
「何?」
「何でそんなに色々知ってるのに最初から説明しなかったんだ?」
「!」
「おまえが説明してくれていれば……あんな恐ろしい奴を狩りに行かされるって分かってれば……さっき死んだ人たちだって逃げることも出来たはずだ」
「……」
少年は冷たい目をして背の高い男を見ている。
「……そーいやそーだ」
「なんで? どーして教えてくれなかったの?」
続くように黒スーツの人と女の子が少年に問いかけた。
「答えろ……」
「なんでもっと早く教えなかった?」
「答えろ、こら!!」
少年の態度に何かを感じたのか、背の高い男は徐々に声を荒げて少年に近づく。
少年との距離が0になった時に、少年は小さな声で言った。
「ターゲットが油断するときってさ……」
その時点で少年が何を言うか私には分かってしまった。
「……人を殺してるときなんだよ」
……やっぱり。
最初にこの少年が現れたとき、何も無いところからいきなり現れた。
私が宇宙人に殺されかけた後、私があの宇宙人を殺した後すぐに。
まるで計ったようなタイミングで。
……私が殺される瞬間を待っていたんだ。
そして私があの時、宇宙人に殺されていたら、その間に宇宙人を仕留めるつもりだった。
この少年に対し、私の心が冷えていくのを感じる。
「……おまえ、俺らが……あのヘンなのに襲われてるときも……どっかで見てたのか?」
「ああ、ヤクザのおっさん、ハデにぶっとんでたな」
「……お、おまえ、目の前で……人が死んでいても……なんとも思わないのか?」
「知ったこっちゃないって、他人が生きようが死のうが」
少年が男を煽る。
「なに? そんな顔して俺を殴りたいの?」
煽る。
「お前、偽善者くせーんだよ。こん中で一番偽善者くせー!」
煽り続ける。
「なあ、偽善者! 偽善者!!」
少年の言葉に、完全に切れたらしく男が少年に掴みかかった。
それと同時に黒スーツの人と女の子が叫ぶ。
「加藤ッ! やれッ! 殴っていいぜそいつ!」
「うん!!」
……まずい。
私もあの少年には思うところがあるが、このままだと少年から情報を聞き出すことが出来なくなる。
まだ情報が足りない。このままだとまずい。
そう思い、私は叫んだ。
凛「ちょっと待ちなよ! あんた等さ、ケンカするんだったら後にして! 私はまだ聞きたいことがあるの!」
私の言葉に黒スーツの人が反応する。
「お、おい! キミもこいつが言ったこと聞いてたろ!? なんで止めるんだよ!?」
凛「わかんないの!? このままじゃさ、こいつから何も聞けなくなるじゃん! まだまだわかんないことがあるってのにさ!」
「聞けなくなるって……こんな奴の言うことなんか聞かなくてもいーッて!」
凛「はぁ!? アンタそれ本気で言ってんの!?」
「当たり前だろ!!」
黒スーツの人は本気で言っているみたいだ。
頭が痛い、何を考えてるの?
こんなワケの分からない状況、何の情報も無しにこれからどうするつもりなの?
さっきみたいな事はまだ続く。
多分、100点を取るまで。
今回で6点だったということは、17,8回近く今日みたいなことをやらないといけない。
何の情報もなしにそれだけの回数を?
無理。
絶対に無理。
聞かなければいけない。
感情を殺してでも、この少年に、この少年が知っていることを全部知らなければならない。
だけど、少年は私を見て少しだけ笑って、手に持った何かを操作して、その姿を消してしまった。
凛「なっ!?」
「消えた!?」
まずいっ!!
凛「ちょっとッ!! 待ってよッ!!」
私の焦りと対照的に妙に落ち着いた少年の声が部屋に響く。
「もうお前等に話すことは……無い」
凛「ッッ!!」
「ああ、最後に、帰ってもここの事は誰にも話さないほうがいいぜ。頭バーンだからなー」
その言葉を最後に、少年の声は聞こえなくなった。
そして、部屋の外で扉が開いて閉まる音がしてこの部屋には私を含め4人と一匹だけが残された。
凛「くっ……」
「いなく……なった?」
私以外の3人は少年が消えて少し部屋を探していたが、外の扉が開くことに驚き声を上げている。
「おい! 開く! 開くぞッ!!」
扉が開いて何を驚いているの……。
3人の行動に若干イライラする。
この人達のせいで、情報を満足に聞き出せなかった……。
「おーい。キミも帰るんだろ? 外の扉開いてるから帰ろうぜ」
黒スーツの人がそんな事を言う。
一体なんなの? さっきまであんな事があったのになんでそんなに能天気でいられるの?
私の心の内が表情に出てしまったのか、私の顔を見て黒スーツの人が少したじろいだ。
「な、何だよ。なんでそんなに睨んでるんだよ?」
凛「……私に構わないで」
視界から黒スーツの人を外す。
そうしないと何を言ってしまうか分からない。
その後も何か言われたが無視をしていると、やがて扉が開く音と閉まる音がして、この部屋に残されたのは私ひとりだけになった。
凛「……最悪。殆ど分からないまま……どうすればいいの……」
凛「……調べるしかない。この黒い玉……ガンツを」
私はガンツに近づき、中を覗く。
凛「さっきと変わらない。銃みたいなものと、何かのケースと、それと……人」
凛「この人が起きてくれれば……」
そう思い何度も呼びかけたが、やはり反応はなかった。
私は玉の中の人と話すことを諦め、銃とケースを調べることにした。
凛「これは……銃だよね。さっきアイツが使っていた銃もある……」
あの少年が宇宙人に撃った銃を見つける。
手に持って調べると、銃口が3つありYの形になっている銃だった。
後部にモニターが付いていてトリガーは二つある。
凛「……使い方、何かないの? マニュアルみたいなものは……」
そこでケースの存在を思い出す。
もしかして、ケースの中に何か入っているのかもしれない。
銃の使い方や、この状況を説明する何かが。
そう思い、ケースを引き出してみる。
凛「……りんちゃん? これって、私のこと?」
りんちゃんと書いてあるケースを見つけた。
中を見てみると。
凛「なにこれ……黒い、スーツ?」
凛「……これ、さっきの人が着ていたスーツ……」
凛「…………ちょっと待って。思い出せ……このスーツの形……」
凛「アイツも服の下に着ていた! 間違いない!!」
私はスーツに付いている特徴的なレンズ状の装飾が、あの少年の服の下から一部だけ見えていた装飾と同じということに気がつく。
凛「あの人も着ていて、アイツも着ていた……このスーツ、何かある……」
そのときだった。
パチパチパチパチと手を鳴らす音が聞こえた。
「正解。やっぱアンタ、感がいいし、鋭いね」
凛「!?」
バチバチと放電が起こり、最初と同じように少年が何も無い空間から現れた。
凛「……アンタ。戻ってきたの?」
「いや、ずっと部屋にいたよ」
凛「……何の為に?」
「アンタと話すために」
凛「……なんで私と?」
「アンタが言ったんだろ? まだ聞きたいことがあるって」
凛「……その為だけに、私が一人になるのを待っていたって言うこと?」
「おいおい、そう警戒すんなって。俺はアンタをすげー評価してるんだぜ? 初めてのミッションでスーツも着ずにターゲットをぶっ[ピーーー]奴なんて初めてだからな。それに俺と同じニオイの奴と話してみたいとも思っただけだって」
私がアンタと同じ?
ふざけんな。
……という気持ちは押さえ込む。
今は聞かないといけない。
落ち着いて、冷静に……。
凛「そう、それじゃあ、聞かせてよ。アンタの知っていることを全部」
「全部って……まァ、いいけどさ」
凛「それじゃあ……」
西「おいおい、その前に自己紹介くらいやっとこうぜ? 俺は西丈一郎、アンタは?」
凛「……渋谷凛」
少年、西に私は質問をぶつけ始めた。
今日はこのへんで。
>>50 ありがとう。そこらへんはお楽しみということで。
しぶりんかわいい
乙
乙乙
西は胡坐をかいて床に座った。
それに対して私は西の前で腕を組んで立っている。
西「そんで、何を聞きたいの?」
凛「……さっき中断されてしまった続き。さっきみたいな事……宇宙人を狩るゲームって言うのはまだ続くんでしょ?」
西「ああ」
凛「それは強制的にやらされるって考えていいの?」
西「うん、逃げることは出来ないよ」
……やっぱり。
なんとなく予想は付いていたけど、肯定されるとやっぱり気が遠くなる。
もう一つ予想をつけている事も聞いてみる。
凛「……それって100点を取るまで?」
西「へェ、そこにも気付いてたか」
凛「…………」
やっぱり……。
西「あの点数画面見て気付いたの? やっぱ鋭いよアンタ。アンタなら多分クリアできるんじゃねーの?」
凛「……気休めは止めてよ」
西「気休めじゃねーって、本当の感想。さっきのバカ3人は何も考えずに帰っちまった。だけどアンタは違う、こーやって自分が置かれている状況を理解して必要な情報を得ようとしている。戦いを生き残れる奴ってのは頭のイイ奴だけなんだよ」
頭のいい奴ね……。
アンタみたいに狡賢いやり方もその一つってワケ?
……いけない。冷静に、クールにならないと。
凛「……確証は? 100点を取って本当に終わるの?」
西「それじゃ、見る? 100点取ったときのメニューってやつ」
凛「メニュー?」
西はおもむろに立ち上がり、ガンツに近づき声をかけた。
西「おい、ガンツ。100点取ったときのメニューを出してくれ」
西がそう言うと、真っ黒がった球体の表面に文字が浮かび上がってくる。
『100点めにゅ~』
『1 記憶を消されて解放される』
『2 より強力な武器を与えられる』
『3 MEMORYの中から人間を再生する』
凛「これ……って」
西「な? 100点で解放、1番のやつだよ」
記憶を消されて解放される……。
100点を取れば、取れればの話……か。
だけど、この選択肢……。
凛「2と3ってどういう意味なの?」
西「物好きの為の選択肢だろ。2は戦いが好きな奴が選んで、3ははっきり言ってよくわかんねー。こんな選択肢選ぶ奴いねーって」
2は言葉の通りって事ね。
でも、3は……。
凛「MEMORYの中って書いてあるけど、MEMORYって何のこと?」
西「死んだ奴のことだよ。おい、ガンツ、死んだ奴等を全部見せてくれ」
再び黒い球体の表示が変化した。
今度は文字ではなくて画像。
人の顔が次々と表示されていく。
西「これのこと。ホラ今回死んだ奴等も一番下に出てるだろ?」
私の記憶の中のこの部屋に来た時に名前を名乗った山田雅史という人の顔が表示されていた。
そのほかにも何人も何人も、全体を見ると100人以上……。
その数字を意識してしまって、気が遠くなっていく感覚を覚えた。
こんなに大勢死んでいる。
画像の中にはかなり屈強な男の人の画像もある。
そんな人も宇宙人に殺されて、このメモリーに表示されるだけの記録となってしまっている。
どうしろっていうの?
私はただの女子高生。
力もなければ宇宙人に対抗できる術も……。
対抗できる術……武器?
私は先ほど見た銃の存在、そして私が使った剣の存在を思い出す。
凛「……武器、銃と剣だけ?」
西「ん? 急にどうした?」
凛「武器ってそこにある銃とあの奥の部屋にあった剣だけなの?」
西「……アンタはどう思う?」
……質問に質問で返すな。
西「……」
西は私の回答を待っているのか、私を見たまま何も言わない。
普通に考えたら武器といえるものは銃と剣だけ。
でも今は普通じゃない。
異常な状況、もっと考えて、武器になりそうなもの……。
一つはあのバイク。
そしてもう一つ。
こいつも着ている……。
凛「このスーツも武器になるの?」
西「その通り」
ニヤリと笑いながら満足げに言う西。
その態度が若干ムカつく。
凛「……どうやって使うの?」
西「着るだけ。着るだけで効果が発動する」
凛「どんな効果?」
西「身体能力向上、攻撃力上昇、防御力上昇、ステルス機能、こんなもんか。とにかくそのスーツを着ていれば、死ぬ可能性が大きく下がるぜ」
凛「……こんなスーツが」
西「ま、信じられないとは思うが本当の事だぜ。アンタも見たろ? さっきのバカがこれを着て星人を追い詰めていたのを」
さっきの人たちの中でスーツを着ていた人……。
確かにあの人はスーツを着て、宇宙人を殴っていた。
スーツを着てなかった人はあの場所に倒れて、死ぬ寸前で……。
……ちょっと待って。
あの人、何で生きているの?
あの時、この部屋に戻る直前にはもう死にかけていたはずなのに。
凛「ねぇ、あの背の高い人、スーツを着てなかった人って死にかけてたよね? あの人、なんで怪我一つ無い状態になっているの?」
西「ああ、そりゃミッションをクリアできたからだ。ターゲットを全滅させて転送される時点で生きていれば胴体がちぎれてろーが、この部屋に帰ることが出来る。あくまでも生きていればだけどな」
凛「……」
これで何度目だろう? 頭が痛くなるのは。
完全に分かった。
今までの常識を当てはめることなんて出来ないみたいだ。
凛「……少し、整理させて」
西「ごゆっくりと」
今までの情報を整理すると。
この部屋に来る人間は、このガンツと言う黒い玉によって死に至った人間が連れてこられて宇宙人と強制的に狩りをさせられる。
狩をするための武器はガンツから与えられて、それを100点取るまで繰り返すということ。
宇宙人を全滅させた場合はどんなに怪我をしていても無傷でこの部屋に戻ることが出来る。
本当にゲームだねこれ。それもかなり性質の悪い……。
でも、なんでこんな事を。
なんで私がこんな事をやらされなきゃいけないの。
凛「……こんな事をしなきゃいけない理由って何?」
西「それは俺にも分からない」
凛「……」
西「ガンツにも何か理由があるんじゃねーの? 星人と敵対してるとかさ?」
凛「……それに私が選ばれた意味は?」
西「分からない。死んだ人間をランダムで連れて来てるみたいだし」
凛「……ガンツの中の男が全てを知ってるんじゃないの?」
西「分からない。こいつが動いてる事なんて一回も見たこと無いからな」
この辺りは分からない、か。
このガンツの中にいる男が全ての元凶なのかもしれない……。
だけど、それも分からない。
分からないものは仕方ない。
後気になるところといえば……。
凛「あれって、なんでガンツなの?」
西「ん? 前の誰かが付けたって聞いてる」
凛「その誰かって解放されたの?」
西「分からない。俺が来る前だ」
凛「……それじゃあ、アンタは解放された人間を見たことある?」
西「……ああ、あるよ」
凛「!!」
解放された人間もいる。
やっと希望の光が差し込んだ気がした。
西「やっぱアンタ色々鋭いし目ざとい。俺の知ってるガンツの情報は全部話しちまったよ。これ以上ガンツについて知ってることはないぜ」
凛「……」
なんとなくだけど嘘をついているような気がする。
だけど、これ以上話さないって事はもう話す気も無いことって言うことかな?
自分で調べるしかないわけね。
しょうがないか。本当に知らないだけかもしれないし。
これ以上は聞いても無駄。
……ガンツについては。
凛「それじゃあ、ガンツについてはこれくらいにして、ゲームについて教えて」
西「おいおい、ちょっと待てよ」
凛「?」
西「ずっと俺、アンタの話に付き合ってるけど、そろそろ俺の話も聞いてもらいたいんだけどさ。言っただろ? 俺もアンタと色々話してみたいって」
凛「……」
正直言って西と何かを話すのは嫌だ。
人を見殺しにするような人間。
私の事も見殺しにしようとした。
情報を全部聞き出すまでは嫌だけど話をしなければいけないと思ったけど、
西が私に何を聞いてくるのかが変に予想が付くだけに嫌だ。
だけど……。
凛「何? 私に何を聞きたいの?」
まだ聞かなければならない事はある。
スーツや銃、剣、バイクとゲームのルール、それにいきなり消えたあの現象。
知らなければならない。
そのためにも、我慢。
何を聞かれようとも、言われようとも我慢する。
西「アンタ、あいつ殺したときどうだった? 興奮した?」
凛「……言ってる意味、分かんないんだけど」
西「隠すなって。アンタも俺と同じで生き物を殺すと興奮するんだろ? あいつを刺した時どんな感じがした? 楽しかっただろ? 気持ちよかったんだろ? 最高だったんだろ? なァッ?」
凛「…………別に」
西「何だよ、教えてくれたっていーんじゃね? 今回、俺何も殺せなくて欲求不満なんだよ。あー、でもあいつらが星人にバラバラにされたときは結構良かったな。見てても結構くるもんがあった。アンタもそう思うだろ?」
凛「………………別に」
西「……それならさ、いつもはどうやって欲求不満解消してんの? 俺は猫とか犬とかを殺して解消してんだけど、やっぱ小さいのだと物足りねぇんだよな。アンタも猫とか犬を殺してんの?」
凛「……………………」
無理だ。
コイツと話すのはもう無理。
我慢できると思ったけど無理。
頭がおかしい。こんな奴と一秒でも会話をしたくない。
西「? おい、どうした?」
凛「帰る」
西「はァ? ちょっと待てよ、おいッ!」
凛「……」
スーツと銃を手にもって振り向きもせずに出口に向かう。
西「おいッ! スーツ持って帰るのかよ!?」
凛「……」
西が私を追ってくる。
近づくな。気持ち悪い。
西「んだよ。……スーツ持って帰るなら次呼ばれる時にはちゃんと着てたほうがいいぜ」
西「あと、あんまりそれ人に見せないほうがいいぜー、人にばれると…………」
思いっきり扉を開けて叩きつけるように閉めてアイツの声を遮断した。
そのまま走る、全力で走り続ける。
何が生き物を殺して気持いいだ。
何がいつも犬を殺しているだ!
あんなに可愛いハナコを殺す!?
いつも私にじゃれ付いてきて、散歩をする時は尻尾を振って私に飛びついて着て喜んでくれるハナコを殺す!?
私が風邪をひいて辛い時に心配してくれるハナコを!!
私が受験に合格した時、私が喜んでいるのを気付いてくれて一緒に喜んでくれたハナコを!!
ふっざけんなっ!!
あんな奴、もう二度と口も利きたくない!!
私は夜の市内を駆け抜ける。
頬に涙が伝っている、これもアイツのせいだ。
あんな人間がいるなんて信じられない。
私は怒りで煮えたぎる心を体を発散させるように全力で走った。
どの道を走ったのかは覚えていないが、気が付いたら私は家まで帰ってきていた。
そのまま私は自分の部屋まで戻る。
部屋に入って、スーツと銃を放り投げベットに体を預け目を瞑る。
色々なことが頭を巡っていた。
その中でも一番大きいものは怒り。
私は自分を落ち着かせるためにも、目を瞑っていたが、いつの間にか意識は落ち、再び目を開けたときには朝になっていた。
凛「朝……」
凛「……」
凛「…………夢じゃ、なかった」
私の机には、黒いスーツと銃が無造作に置かれていた。
2.田中星人編
あれから数日。
今は終業時間となり帰る支度をしている。
この数日間私は終わりのベルと共に真っ直ぐ家に帰っている。
「凛~。今日もすぐ帰っちゃうの?」
友達が私に声をかけてきた。
凛「あ、うん。ちょっとやることがあって」
「え~。最近付き合い悪くない~?」
凛「……ごめん。どうしても外せない用だからさ」
「そっか~。そういえばさ、凛は部活決めた? まだ決めてないなら一緒に吹奏楽入ろうよ。凛って音感いいじゃん」
凛「ごめん。部活、今は入る気ないから」
「ええ~」
そう、部活とかに時間をとられている暇は私には無い。
今、私にはやらなくてはならないことがある。
それは……。
家に帰ってきて、私は部屋で黒いスーツを身につけている。
下着も脱がないと着ることができない体のラインが浮き出たスーツ。
何かのコスプレみたいで最初は恥ずかしかったが、この数日毎日身につけていてもう大分慣れた。
私はこの数日間、あの部屋から持ち帰ったスーツと銃をずっと調べていた。
そして、このとんでもない二つの道具の性能をある程度使いこなせるようになっていた。
凛「これも……潰せた……引きちぎれた」
私の手の中には潰れて変形して引きちぎられた鉄アレイ。
粘土をちぎる様に、私は鉄アレイをちぎっていた。
凛「次……ペットボトルを少し離して置いて……」
小さく丸い形の銃を空のペットボトルに構える。
銃の後部についているモニターにペットボトルが透けるように映っている。
私はまず一つ目のペットボトルに狙いを定めて、二つあるトリガーの上を引く。
同じように別のペットボトルにも狙いを定め上のトリガーを引いていく。
5個のペットボトル全部に上のトリガーを引いたら、少し離れて下のトリガーを引く。
すると。
ギョーン!!
凛「……」
数秒。
バンッ!! バンッ!! バンッ!! バンッ!! バンッ!!
全てのペットボトルが爆発するように吹き飛んだ。
凛「……やっぱり、ロックオンできるんだ」
凛「ペットボトルは……粉々……」
スーツと銃の性能に息を呑む。
凛「……次、少し外に出て」
銃を鞄に入れて、スーツの上に少し大きめのジャージを着て外に出る準備をする。
部屋から出て、外に行こうとしたときにハナコが散歩と思ったのか私に飛びついてきた。
凛「あ……」
凛「……ハナコ、ごめんね、散歩はまた今度」
ハナコは私の表情で散歩ができないと理解したのか、残念そうに小さくないてその場で待ての体制になった。
凛「本当にごめんね。明日は散歩に連れてってあげるから」
明日は一緒に散歩にいこうねと頭を撫でてあげたら嬉しそうに鳴き声をあげるハナコ。
私もそれを見て微笑んで外に出る。
目的地は少し離れた場所にある大きな森林公園。
スーツの性能と銃の性能をさらに試すための私の実験場。
今日も色々試す為に、日が落ちる寸前の時刻を狙って家を出たのだが、今日はハナコに見つかってしまった。
……この数日ハナコの散歩も出来てない。
……あの部屋のこととこのスーツと銃のことしか考えていなかった。
……ハナコの散歩を忘れるくらい、頭の中はガンツに関することで一杯。
凛「……明日は散歩、行かないといけないな」
もうスーツの性能や銃の性能はある程度理解している。
今日、もう一度試して明日は。
そう考えて私は足を速める。
日は暮れ、夜の帳が下り始めていた。
夜の森林公園。
開けている公園にはまだ人がいたが、私は人目に付かないように森林に足を踏み入れる。
数分草木を掻き分け木々の隙間を通り進むと、大きな木が数本ある少しだけ開けた場所にたどり着いた。
ここが私の実験場。
この数日、夜はこの場所で誰にも見つからないように実験をしている。
西が言っていた言葉、誰かに見つかると頭が……という言葉。
見つかったら死ぬ可能性もある、だから隠れて実験をしている。
慎重に、誰かが来たらすぐ逃げれるようにして数日間、私は誰にも見つからずに実験を出来ていた。
凛「さて、と」
この数日間試し続けた集大成。
ぶっつけの本番、準備運動も何もなし。
地面に落ちている数個の石を持って、懐に鞄から出した銃をしまいこむ。
そして私は体制を低く取った。
陸上のクラウチングスタートの姿勢、構えて少し溜めて、地面を蹴り跳躍する。
10メートル近くの跳躍、風を切る感覚が私を襲う。
一瞬で目の前に迫った大きな木に体制を変えて木の側面に着地。
そのまま、同じように跳躍。
木が物凄く揺れて、私は別の木に同じように着地し、同じように跳躍する。
これを数度行い、最後に木を蹴って上空に飛び上がる。
数十メートル近く飛び上がった私は空中で数個の石を投げ、懐から取り出した銃を構えて全てにロックオンをした。
目まぐるしく変わる視界、きりもみ上に落ちていく体を捻り着地。それと同時に銃の下の引き金を引く。
ギョーンという音と、数秒後遅れて落ちてきた石は全て地面に落ちたと同時に爆散した。
それを見て、私は数歩後ずさり尻餅をついてそのまま地面に寝そべった。
凛「は、はは……信じらんない……」
今自分がやった動きが、自分でやったにも関わらず信じられなかった。
こんな動き、オリンピック選手にも出来やしない。
全部、スーツの力。
だけど、それが自分の力のように思えてしまう。
変な高揚感、そして心臓の音が高鳴っている。
そんな気分のまま一つ確認をすることを考え付いた。
凛「もう一つ、試してみないと」
むくりと起き上がり、森林の奥に足を進める。
少し歩くと、そこには地面から生えるような大きな岩があった。
凛「よし……」
おもむろに私は岩を抱きかかえるように触れる。
そのまま力を入れる。するとスーツに無数の筋が浮かび上がり岩の表面に私の指が食い込んだ。
凛「うううううう…………あぁぁッ!!」
そして、私は力任せに岩を地面から引き抜いた。
3メートル近い巨岩。
地面にめり込んでいた巨岩は、今私が持ち上げている。
凛「はっ、はっ……す、すごい……」
持ち上げていた巨岩を転がすように置いた。
凛「後は……」
引き抜いた巨岩を見る。
そして、銃を取り出し、巨岩に向け数回引き金を引いた。
あの間延びしたギョーンという音が数回。
それから少し間をおいて、巨岩の表面に爆裂音が数回おきて、巨岩の半分が吹き飛んでいた。
凛「こんな大きな岩が……、ここまですごいなんて……」
手に持った銃を見て先ほど感じた高揚感とは違う、寒気のようなものが私を襲う。
こんなものを撃てば宇宙人だろうがなんだろうが生きていることなんて不可能。
宇宙人を確実に倒せる武器を手に持っている私だったが、銃が持つあまりの破壊力に頼もしさを感じる前に恐怖してしまった。
凛「このスーツと、銃があれば、宇宙人を倒すことなんて簡単なはず」
楽観的だとは思うが、私はそう考えていた。
この数日間でスーツが持つ力をかなり使いこなせれるようになったと思う。
スーツの力はとてつもなかった。
少し走るだけでも、今までの感覚とは全然違う、風をきる様に走ることが出来た。
一回の跳躍で10メートル近く飛ぶこともできる。横にも縦にも。
石を握りつぶすことなんて簡単。鉄だって潰せたし、ちぎることも出来た。こんな大きな岩でさえ持ち上げることも出来る。
それに、このスーツを着ているときは衝撃が殆ど無い。
一度誤って全力疾走で木に突っ込んでしまったけど、少しの衝撃を感じただけで痛みは全くなかった。
多分耐久性も物凄く高いと思う。どこまでの性能があるかは分からないけど、車とぶつかっても無傷でいられるんじゃないかと思う。
ここまで破格の性能をもったスーツと恐ろしい破壊力を持った銃。
銃の破壊力はさっきこの目で見たし、銃に搭載されている機能もとんでもないの一言だ。
まず、銃の後部についているモニター、これはレントゲンみたいに物体の内部を映し出すことが出来る。
それのほかにもロックオン機能。上のトリガーを引くことによってモニターに移っているものをロックオンすることが出来て、下の引き金を引いて撃つと銃が勝手にロックオンしたものに当たる。
ここまでの破格の性能、スーツと銃があれば何とかなると考えてもおかしくないだろう。
それにあの部屋にはこの銃のほかにも、持ってこれなかった二つの銃と、あの剣、それにバイクもあった。
多分どれもこれもとんでもない性能を持った道具だと思う。
本当ならあの道具も全部試してみたかったけど、昨日あの部屋に行って見たら扉に鍵がかかっているのか開くことはなくあきらめた。
次の時に試せばいい。そう考えていたら、私の首筋に寒気が襲った。
凛「うっ……何だろう?」
凛「風邪……かな?」
スーツの上にジャージを着ているとはいっても、2枚しか着ていない状態だ。
寒さとかは感じないけどもしかしたら……。
と、その時、私の耳に金属音のような音が聞こえてきた。
凛「っ!? う、動けない?」
金縛り? 一体何が……。
そう考えていると私の視界に変化が発生する。
目に入ったのは黒い玉、ガンツ。
それと共に。
西「よォ、お帰り」
凛「……」
西が私を向かえるように言った。
私の全身が転送完了されて、金縛りも解けた。
それと共に西が近づいてきて、私に話しかけてくる。
西「お? 銃持ってんじゃん。スーツも着てるの? やる気満々だね」
凛「……」
私の姿を見てニヤニヤと笑いながら言う西。
西「もしかして何か殺してたの? やっぱアンタとは気が合うな、俺もさっきさ猫を殺してたんだけど、やっぱりどーも物足りなくてさ」
凛「……」
西「今日の星人はアンタにも譲る気ないからな、そのつもりでヨロシク」
気分が一気に最悪のさらに下に落ち込んだ。
やっぱり無理、生理的にも無理だし、こいつの口に出す狂っているとしか思えない言葉を聞いていると吐き気と頭痛が起きる。
私は無言で西と距離を取り部屋の隅に腰を下ろす。
西は何故か私についてくる。
西「なァ、今日はどんな星人だと思う? それに今日の追加メンバーはどんな奴が来ると思う?」
凛「……」
西「前回、死んだ奴等みたいにマヌケで笑える死に方する奴等だと面白いよな。マジで笑えたからなあん時は」
凛「……」
西「? おーい、どーしたの? ずっと黙ってるけど」
アンタと喋りたくないだけだ。
凛「少し黙って。私に構わないで」
西「?」
もう西に聞くことはしない、こんな奴に何かを聞くなんてもうしない。
これからは自分で調べて、自分で見つける。
西「おッ」
また何かを言うのかと思ったら、西とは別の声が部屋に響いた。
「くそ……またかよ……」
西「よォ」
この前のスーツを着ていた人だ。
それから順番にこの前の背の高い人と女の子、それと犬が転送されてくる。
あの三人はそれぞれ知り合いなのか軽い挨拶を交わしている。
西は三人が転送されたあと、特にあの背の高い人が現れた後は無言になって、何も言わずに私の近くにやってきて壁に背を預けている。
近づかないでほしい、私は西から離れるように立ち上がり、あの三人に話をする為に歩み寄った。
この数日色々試して考えた、そしてスーツと銃の性能を理解した私が出した結論は、全員に情報を共有して今の現状やスーツや銃の道具の性能を知ってもらう。
それが一番助かる可能性が高くなる。全員で協力してゲームに挑めばこの理不尽なゲームでも100点を取ることができる。
そう考えて、私は声をかけた。
凛「ねぇ、ちょっといい?」
まずこの前のスーツの人が反応した。
「ん? キミはこの前の……」
凛「うん。あなた達と話をしたいんだけどさ、いいかな?」
玄野「あ、うん。大丈夫だけど……あッ、俺は玄野計って言うんだ。こっちは加藤、この子は岸本」
加藤「加藤勝、よろしく」
岸本「あたし、岸本恵。あなたは?」
そういえば自己紹介もしてなかった……。
これから一緒に100点を目指す仲間になるんだから、友好的にしないと。
凛「私は渋谷凛。えっと、玄野……さん? この前はごめん、私色々と余裕なくてあなたに酷いこと言ったかも」
あまり覚えていないけど、声をかけられたのに無視をしていたのは間違いない。
とりあえず謝っておこう。
玄野「えッ? あッ! い、いーよ! そんなこと気にしなくてもさ!」
凛「加藤さんと岸本さんもごめん。あの時色々私に声かけてくれてたよね?」
加藤「あんな事があった後だ、気が動転しててもおかしくないさ」
岸本「うん、あたしも気にしてないし謝まんなくていいよ」
凛「ありがと。そう言ってもらえると助かる」
良かった。気にしてないみたいだ。
これなら……と三人に私の考えを説明しようと思ったところで、再びこの部屋に人が転送されてきた。
加藤「また人が……」
玄野「今度は数人一辺に現れてるぞ……」
部屋に4人の男が転送されてくる。
全員、何と言うかガラが悪い……。
岸本「あッ、また……」
また転送されてくる。
……全員集まってからのほうがいいか。
私は説明するのを少し伸ばすことにして、転送されてくる人たちを見つめる。
おばあさんと男の子、それとヘルメットを被った男の人と髪のすごく長い女の人。
また4人転送されてきた。
凛「これで8人……まだ来るのかな?」
岸本「どうだろ? 加藤君はどう思う?」
加藤「えっ? 計ちゃん、どー思う?」
玄野「……さァ? わかんね」
もう少し待っても転送されてくる人は現れなかった。
もう終わりかな? と思っていたら、さっきのガラの悪い4人のうちの一人が大声を出してこの状況の説明を求め始めている。
「おい!! どーなってんだコレッ!! 誰か教えろ!!」
「どこだよここっ!! 説明しろてめえらっ!!」
加藤さんと玄野さんが顔を見合わせている。
岸本さんは少し怯えているようだ、私もこういう人たちは怖い……。
誰も答えようとせずに、またさっき大声を出した人が声を荒げようとするかと思ったら、その人を含めガラの悪い4人は私と岸本さんの顔を見た後、いきなり近づいてきて至近距離でしゃがみこんで私たちを嫌らしい目で見てくる。
凛「な、何よ……」
岸本「加藤……くん……」
怖い。
そう思って岸本さんと一緒に逃げようと思ったら、私たちと男達の間に加藤さんが割り込むように入ってきて立ちふさがった。
「なんだテメェ!!」
「おい!! ゾクを舐めてんのかてめぇ!!」
「やんのかてめぇ!?」
加藤さんが立ちふさがったまま4人を見下ろしている。
私のほうからは見えないけど睨んでいるのかもしれない。
加藤さんも少し怖い人かと思ったけど、これって私たちを助けてくれたの?
あーたーーらしーいーあーさがきたーきーぼーおのーあーさーがーー
そんなやり取りをしていると、この前と同じようにあの曲が流れ始めた。
私の体が強張る。
また、始まる。
……大丈夫、今回はスーツも着ている。銃も持っていく、それに全員に情報を伝えて……。
そう考えていると、私の目に前回見ていなかった画面が映し出された。
凛「……田中、星人?」
『てめえ達は今からこの方をヤッつけに行ってくだちい』
『田中星人』
『特徴 つよい ちわやか とり』
『好きなもの とり ちよこぼうル』
『口ぐせ ハァーハァーハァー』
なにこれ?
こんなの前回は……。
そうか、あの時私は何も考えれない状態で、呆然としてて、コレを見落としていたって事……。
これは多分、宇宙人の情報。
見逃してはいけない情報。
私は、この情報にしばらく集中することにした。
内容を解読する為に。
周りの喧騒を気にせずに画面を見て、何か気が付くことは無いか、へんなところは無いかと集中していた。
だから気がつかなかった。
気付けなかった。
「おい、中島なにやってんだ?」
「おう、コレ見てみろよコレ」
「あ? なんだこれ、頭? 骨?」
「おう、透けて見えるんだよコレ。だからよ、服とかもよ……」
「! へへ、オメーそれ使ってあのカワイコちゃんに何するつもりだよ」
「分かってんだろ? コレを、もう一個引けばいいのか?」
私の後ろで何かが聞こえる。
集中したいのに一体何を……。
私は振り向いた。
それと同時に音を聞いた。
この数日間、聞きなれた音を。
ギョーン!!
凛「……………………え?」
私の目にありえないものが映っていた。
光り輝く銃口。
私に、私の顔に、この部屋にあったはずの銃の銃口が向いていて、銃口から光が漏れて消えた。
キュゥゥゥゥンという音が銃から上がっている。
「あ……? 何かでた?」
何かを言っている。
「やっぱおもちゃかコレ? 音は出たけどよ」
何を言っている?
加藤「あ……。お、おい……おまえ今……」
凛「…………」
まさか。
全身に汗が噴出す。
まさか……。
目の前が真っ白になる。
まさか…………。
私を撃った?
今日はこのへんで。
おお…西君セーフか?
乙
凛「ハァッ、ハァッ、ハァッ」
撃たれた。
凛「ハァーッ、ハァーッ」
間違いなく撃たれた。
凛「ハァーッ! ハァーッ!!」
死ぬ。
死んでしまう。
凛「ハァーッ!! ハァーッ!!」
「おッ、そんなに息を荒くしちゃって、もしかして俺に惚れちゃった?」
「バァーカ! 何言ってんだよ中島ァ!」
加藤「お、おい。まさか……」
玄野「? どーした加藤?」
岸本「どうしたの?」
嫌だ。
頭があの岩のように爆発する。
死にたくない。
時間差でもう吹き飛ぶ。
何で私が。
違う、こんなの嘘だ。
助けて。
違う、死ぬ、誰か、死ぬ、嫌だ、死ぬ、怖い、死ぬ………………。
頭を抱えながら壁際まで後退した。
もうくるであろう死への瞬間を恐怖しながら後退してそのまま倒れこんだ。
何で、どうして、私が…………。
西「おいガンツ!! 俺と渋谷を先に転送してくれ」
何かが聞こえたような気がした。
私はずっと目を見開いて私を撃った銃口を見続けている。
そして、私を撃った男の顔を見続けている。
笑っている。馬鹿みたいな顔をして笑っている男に、沸々とある感情が湧いてくる。
そうやって瞬きもせずに目を見開いているのに、私の視界が一瞬真っ暗になった時、私はついに死んでしまったのだと思った。
同時に私の感情が爆発し、何かを言ったような気がする。
凛「コロシテヤル」
その次の瞬間には私の視界に光が戻っていた。
夜の道。どこかの橋の上。橋の上で私は寝そべっている。
ここが天国? そう考えながら身動き一つせずに虚空を見つめていた。
西「災難だったな。あんなバカに撃たれちまうなんて」
私の視界に西の姿が飛び込んできた。
西「おい、聞いてる? ……つーか、お前ずっと俺を無視してるけどさー、どーいうつもりなんだよ?」
死んだはずの私が、なんでこいつに話しかけられているの?
凛「……なんで?」
西「あ?」
凛「私、死んだのに」
西「死んでねーよ。まだ生きてるって」
凛「…………え?」
西「さっさと起きろって、モタモタしてっとアイツ等が来るだろーが」
言われるがままに体を起こし私は西が投げてきたものをキャッチした。
西「それ、俺のと周波数合わせてあるから。右のボタン押してみなよ」
凛「…………」
手にあるものを見ると、ゲームのコントローラーみたいな機械。
私は右のボタンを押した。
すると私の周りで空間が揺らいだような気がした。
西「よし、俺の姿は見えているか?」
西の周りも空間が揺れている。
私は西の言葉に素直に頷いた。
西「それじゃあ、こっちに来い。もうすぐアイツ等も転送されてくるはずだ」
凛「……何? どうして?」
西「あァ?」
凛「私、撃たれたのに……」
西「あー、お前スーツ着てるだろ? そのおかげだよ」
西の言葉が脳内を駆け巡った。
急速に意識がはっきりとしてくる。
凛「スーツ……防御性能……」
西「そーそー、そのスーツは防御力も半端ねーんだよ」
凛「…………はぁ~~~~っ」
ようやく実感できた。
私は撃たれたけど無事だった。
このスーツのおかげで。
西「お前、運も滅茶苦茶良いな。普通だったらあの時点でスーツを着てる奴なんて持ち帰ってる奴くらいだからな」
運が良かった。
本当にそうだ。このスーツを着ていなかったら。
凛「……あのまま頭が吹き飛んでた」
西「ん? スーツを着てなかったらってことか? そりゃ、吹っ飛んで愉快なオブジェになってただろーな……」
西「!! おい、早くこっちに来い。転送されてきたぞ」
少し離れた場所に、玄野さんの顔だけが浮かび上がっていた。
その場所とは逆方向に早足で駆けて行く西。
西「おい!! 早くしろッ!!」
私は少しだけ悩んだが、西の後を追った。
話もしたくないと思っていたが、さっきまでのあの恐怖で思考がまだ停止しているのかもしれない。
私は玄野さんとは別方向に駆け出した。
住宅街の街灯の下。
西は私に丸い小さめの銃を手渡してきた。
あの大岩を吹き飛ばした銃と同じタイプの銃だ。
西「お前、武器持って来てないだろ? これ使えよ」
確かにあの時、銃を手放していた。
最初に座っていた西の隣に置いたまま、持って来ていない。
嫌いな相手から施しを受けるのは嫌だった。
だけどこの銃が無いと丸腰、背に腹は代えられなかった。
凛「……ありがと」
西「よし、そんじゃ、アイツ等ぶっ殺しにいくか」
凛「……何? 私と一緒に宇宙人を倒しに行くの? さっきは私に譲らないとか言ってなかった?」
西「はァ? 違げーよ。あのバカ達をだよ。お前を撃ったバカとその仲間とこの前の加藤とかいうバカを殺しに行くんだよ」
凛「……は?」
何を言っているのか分からなかった。
西「あーいう頭の弱いバカどもは絶対俺の足を引っ張る。いや、それどころか邪魔をしてくる可能性が高い。そーなる前にさっさと殺しておこうと思ってな」
凛「殺すって……アンタ何言ってるの」
西「あァ?」
凛「アンタ、人を殺すって言ってるの?」
西「そー言ってんじゃん」
こいつは何を言っているのだろう。
凛「……あのさ、はっきり言わせて貰うけどさ」
西「?」
凛「アンタ、頭おかしいよ。普通そんな事言わないし、考えもしない。一体なんなの?」
西「はァ? どーしたんだよ?」
凛「アンタさ、私を同類だと思ってるみたいだけど、私は違うから。アンタなんかと違って私は普通の人間。アンタみたいな頭のおかしい人間とは違う」
西「……」
凛「私は人を殺すなんて出来ないし、そんな事を考えもしない。アンタと一緒にしないで」
西「……」
私を見続ける西。
少しの間をおいて、西はなぜかくつくつと笑い始めた。
西「クッ……クククク……」
凛「……何? 何がおかしいのよ?」
西「……いや、なんでもない。気が付いてねーんだなと思ってさ」
凛「……?」
西「まァ、いいや。お前がそう言うなら止めておくよ。流石に一人であの人数を相手にするのは無理があるからな」
凛「……アンタ、まだそんな事を」
西「俺は星人を探すとするけど、お前はどーすんの?」
凛「……戻ってあの人たちと一緒に戦う」
西「ふーん。まァいいけどさ、今回戦うのは止めておいたほうがいいと思うぜ」
凛「……なんで?」
西「お前のスーツ、もうかなりのダメージ喰らっちゃってるから」
凛「……」
西「こんだけ言えばお前ならわかんだろ? んじゃ、またな」
西は手元でコントローラーを操作した。
すると、西の姿が揺らぐように消えてその場には私だけが残った。
凛「っ! ……消えた」
凛「ダメージ……ね」
私はジャージの下のスーツを一度見て、その言葉の意味を考える。
凛「限界があるってことか……」
私は胸に手を押さえ息をはく。
大丈夫。ダメージを喰らっていると言ってもまだ大丈夫なはず。
さっきの場所に戻って、全員協力して戦えばスーツが限界を迎えることなんて無いはずだ。
早く合流して、全員で……。
凛「…………あ」
視線の先に妙なものが映る。
凛「……っっ!!」
街灯に照らされてその姿がはっきりと見えた。
さっきガンツの表面に浮かび上がっていた画像そのままの姿。
凛「田中星人……」
まずい。
スーツにダメージを負っている今、戦うのはまずい。
凛「逃げ……」
振り向いた先、私は目を疑う。
凛「な、何でもう一体……」
全く同じ姿をした田中星人が逆方向からも近づいてくる。
凛「……道がどっちも無理なら」
凛「上から……」
私は跳躍をして民家の屋根伝いに逃げようと考え空を見上げた。
そして私は硬直する。
空から降ってくる3体の田中星人の姿を目にして。
ドンッ! ドンッ! ドンッ!
凛「うっ!? うそっ!?」
3体の田中星人は私を取り囲み、その口何かが出る瞬間を見て視界は白く染まった。
このへんで。
>>97 セーフです
スレタイで渋谷か星空か遠坂か迷った
支援
田中星人の口が発光し何かが発射されると予感できた。
視界が白く染まった瞬間、私は反射的に身を屈めていた。
直後、とてつもない音で私の耳が一時的に機能を果たさなくなる。
「ギエェェェェェェェェェェェェッ!!」
凛「うあぁぁぁぁッ!?」
とてつもなく大きな叫び声。
耳が、頭が鈍く痛い。
3体の田中星人は、ロボットのような風貌の顔を動かし私に再び照準を定めていた。
凛「くぅッ! ああぁッ!!」
またあの叫び声がくる。
私は足に力を入れてその場から跳躍をする。
数メートルの跳躍。
このまま屋根伝いに……。
凛「!?」
私の眼前には2体の田中星人が迫っていた。
さっきまで歩いていた田中星人。
私は田中星人に衝突し、吹き飛ばされ地面に叩きつけられた。
凛「うぅ……」
キュゥゥゥン……。
何か機械音が聞こえた。
それもスーツから。
ゾクリと背筋が凍る。
……壊れ。
だが、スーツが壊れてしまったのかという考えを最後まですることは出来なかった。
田中星人は群れとなって私に襲い掛かってきたからだ。
凛「う、あぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
身を起こして再び跳躍。
田中星人も飛び上がり私を追ってくる。
屋根を蹴ってさらに上に跳躍。
田中星人はまだ飛んでくる。
電柱の頭部に着地して、さらに足に力を入れて跳躍、電柱は爆発したように壊れた。
十数メートル飛び上がった私は体を捻って下を見る。
田中星人が私を追ってこようとしている。
だが、距離が空いた。
私は手に持った銃を田中星人に狙いを定め、数度上のトリガーでロックオンをした。
1,2,3,4……ロックオンした後は、下のトリガーを引く。
ギョーン!!
田中星人は怒った顔で口を開いて飛び上がってくる。
だが、その顔が変形して、爆発した。
1体爆発すると、連鎖的に残り3体も爆発し、私の眼前から田中星人がいなくなったと思った。
しかし、爆発した田中星人の影から、もう1体の田中星人が現れて、私に組み付いてきた。
凛「くっ!? はな、してっ!!」
空中で組み付かれた私は振りほどこうともがく。
だが振りほどく前に、先ほど聞いたあの叫び声、私はあれの直撃を食らってしまった。
「ギエェェェェェェェェェェェェッ!!」
凛「~~~~~~っっ!?」
物凄い衝撃。
身体中に衝撃が浸透してくる。
それと同時に地面に叩きつけられた。
地面に叩きつけられた衝撃で田中星人は吹き飛び、再び私と田中星人との距離が開く。
凛「はっ、はっ」
遅れて空から田中星人の残骸が降って来た。
ドチャリと地面に叩きつけられて、液体が飛び散る。
凛「あと、あと一体……」
私は残りの一体をどうやって倒そうと考えようとした。
だが、その時。
ヒュウウウウウン。
凛「……うそ」
スーツから再び音がした。
そして、スーツの装飾のレンズからドロリと液体があふれ出してきた。
直感で分かってしまった。
スーツが壊れてしまったんだと。
凛「ハァッ……ハァッ……」
鼓動が早くなる。
汗が冷たい。
田中星人はゆっくりと近づいてくる。
私の思考が急速に回転を始めた。
凛(次あの攻撃をもらったら多分死ぬ)
凛(スーツは壊れた。もうあんな動きは出来ない)
凛(敵の攻撃を受けずに、この銃で敵を撃つ)
凛(敵の動きはかなり早い、何かで動きを止めないと当てることも出来ない)
凛(私が持っている道具はこの銃だけ。これ一つで敵の動きを止めて、敵を撃つ)
凛(銃の性能、時間差、ロックオン、透過能力)
凛(考えろ、考えて確実に……)
凛(確実に殺す)
汗が止まっていた。
田中星人との距離は約10メートル。
田中星人に動きが見える。
動いた。
私は地面に数度引き金を引いて前を向いたままバックステップを踏んだ。
遅れて地面が数回爆発して爆風と土煙が巻き起こった。
田中星人も爆風に巻き込まれて動きが止まった。
流れるように銃を正面に構える。
銃のモニターに透過した田中星人が映る。
ロックオンを数回、下の引き金もすぐに引く。
さらに数回撃つ。撃つ。撃つ。
田中星人が私に向かって突進してくる。
残り数メートル。
口からは白い光。
目の前までやってきた。
私は動かない。
田中星人を見続ける。
すると、私の目の前で田中星人はピタリと動きを止める。
それと同時に田中星人の体が膨張し始めた。
凛「…………」
膨れ上がり、大きく風船のようになって、
田中星人は内側から破裂した。
爆発して液体が私に降り注ぐ。
熱い液体、ジャージが真っ赤に染まっていく。
スーツ越しに感じる熱い感覚。
凛「……やった」
その感覚と共に、私の中で湧き上がる気持ち。
凛「勝った……私の勝ち」
自分の考えたとおりに敵を倒すことが出来た。
自分の狙い通りに敵が動いて、自分の考えの通りに敵を倒せた。
満足感を感じた。
だがすぐに自分が何を考えているのかを気付く。
凛「……わ、私、今……」
宇宙人を殺して、満足感を得て、喜んでいた?
凛「……違う」
こんなの、違う。
凛「違う、私は違う」
何かを殺して喜ぶなんて。
凛「私は、違う」
まるでアイツと一緒。
私は真っ赤な血だまりの中立ち尽くし、否定し続けた。
いつの間にか私は座り込んでいたようだ。
すでに冷たくなった液体の感覚が皮膚に伝わる。
真っ赤な液体の中で私は身動きせずに座り込んでいる。
そんな私に誰かの声が聞こえた。
「加藤君、あそこッ!」
その声の方向に首を動かした。
あれは……。
岸本さんと加藤さん、あと今回部屋に来た男の人とおばあさんと男の子。
加藤「おいッ! 大丈夫か!?」
凛「……」
岸本「渋谷さん!? ねぇッ! 大丈夫!?」
私の肩を揺さぶる加藤さんと岸本さん。
凛「……大丈夫、私は大丈夫、私は違うから……」
私が声を出すとほっとしたように二人は息をついていた。
加藤「よかッた……本当に無事で、よかッた……」
涙を流しながら私の身を案じてくれる加藤さん。
岸本「加藤君! レーダーの反応消えてるよ!」
加藤「! 近くにもいないのか?」
岸本「うん、さっきまであった田中星人の反応、全部なくなってるよ」
その言葉に体が震える。
「なァ、このグチャグチャになってるのがそーなんじゃねーのか?」
もう一人の男が私が倒した田中星人を指差して言う。
加藤「……確かにさっきの奴の服みたいなのが散らばってる。もしかして、本当にこれが……?」
加藤さんが田中星人だったものの服を見て当たりをつけた。
岸本「渋谷さん、ここで一体何があったの……?」
凛「え……あ、あ……」
私が倒したって言えなかった。
加藤「……もしかしてあの中坊か?」
岸本「え?」
加藤「あの中坊におとりにされて、君は田中星人に襲われていたんじゃないのか?」
凛「え……違う……」
「おい、田中星人まだいるみたいだぞ」
私の言葉を遮るように、もう一人の男がコントローラーを見ながら言った。
岸本「本当だ……」
「キリがないぞこれ……時間は後何分あるんだ?」
加藤「あと、30分くらいだ……」
さっき私が西に貰ったコントローラーと一緒。
ジャージのポケットから私もコントローラーを取り出してみるが、コントローラーはスーツと同じように液体が溢れ出して壊れていた。
加藤「……捕まえに行くしかない。タイムリミットになる前に全部捕まえないと」
岸本「うん……」
加藤さんは私を見て一旦言葉をとめて、岸本さんに話しかける。
加藤「岸本さんは、渋谷さんを連れて計ちゃんの所に連れて行ってあげてくれ」
岸本「えッ……う、うん。そうだよね、わかった」
加藤「渋谷さん。俺たちは今から残りの田中星人を捕まえに行ってくる。渋谷さんは安全なところで待っていてもらえるかな。そこには計ちゃんもいるから」
凛「……宇宙人……まだ、いるの?」
加藤「ああ、このレーダーを見てくれ。このポイントが田中星人の場所を表しているみたいだ」
コントローラーに映るのは地図のようなものと光るアイコン。
さっきとは違う画面だ。
加藤「こいつを捕まえればまたあの部屋に戻れるはずだ。タイムリミットまでに必ず捕まえるから安心して待っていてくれ」
加藤「岸本さん、渋谷さんを頼んだ!」
そう言って加藤さんと男は動き出す。
それについていくようにおばあさんと男の子も動き出した。
その姿を私は見送ってしまった。
何も言えずに見送ってしまった。
色々と話すことはあったはずだ。
銃の使い方、スーツの性能。
だけど、何も話せなかった。私は違うことを考え続けていた。
私はさっき感じたあの感覚をずっと否定し続けていた。
私は違うと、そんなわけ無いと。
私が何かを殺して喜ぶはずが無いと。
このへんで。
>>112 渋谷も入れとけばよかったですね。
岸本「渋谷さん……行こっか。その服も変えないといけないし」
岸本さんが私の姿を見て手を差し出す。
全身を田中星人の返り血で染め上げ、ベタベタで酷い臭いがする。
こんな酷い状態の私を岸本さんは嫌な顔一つせずに手を差し出してくれている。
少しだけ躊躇したが、私は岸本さんの手をとって立ち上がり、岸本さんに連れられて歩き出した。
歩いている間にも頭の中ではずっと私は否定し続けていた。
私は違うと、あんな奴とは違うと。
そうやって無言で歩いていると、岸本さんが声をかけてくれる。
岸本「怖かったよね……大丈夫、加藤君がなんとかしてくれるから……」
私はその言葉に頷いていた。
それを見て岸本さんは満足したように私の手を引いて歩く。
私が全く別のことを考えているとは知らずに岸本さんは歩き続ける。
数分歩いて、最初に転送された橋のところまで戻ってきていた。
岸本さんは橋の上から川を見渡している。
岸本「あれ? いない……玄野君どこいったんだろ?」
私も岸本さんが見ている場所を見ると川の側面にある道にさっきの田中星人の姿が目に入った。
凛「!? う、宇宙人! いるッ!!」
岸本「あっ。大丈夫だよ、あれは加藤君がやっつけてくれたからもういないよ」
凛「そ、そうなんだ……」
岸本さんの言葉に安堵する。
確かに良く見てみると頭の部分が割れている。
本当に死んでるようだ。
岸本「この辺りにいるはずなんだけど……渋谷さんも玄野君を探すの手伝ってもらえるかな?」
凛「うん……でも、もしかしたら宇宙人に襲われたんじゃ?」
どこから襲ってくるか分からない宇宙人。
玄野さんももしかしたらと考えた私を否定するように岸本さんはコントローラーを見せてくれた。
岸本「大丈夫。さっきからこのレーダーを見てたんだけど、この辺りにはいないから安心だよ」
さっき加藤さんにも見せてもらったもの。
こんなものもあったんだ……。
岸本「もうっ……渋谷さん、悪いんだけど玄野君を探すのを手伝ってもらってもいいかな? 多分この近くにいると思うから」
凛「え? ……わかったよ」
岸本「ありがとう、それじゃ、あたしはこっちを探すね」
凛「うん」
岸本さんと別れ、川と逆のほうに歩き出す。
まだ頭の中でさっきのことを考えてえいるが、大分落ち着いて着ている。
冷静に思い出してみると、さっきのは私の勘違い。
何かを殺して喜ぶなんて、頭のおかしいアイツじゃあるまいし勘違いに決まっている。
多分、田中星人に襲われたのと、スーツが壊れて怖かったという、恐怖感を勘違いしていたんだろう。
凛「……うん。そうだ、さっきのは違う」
自分に言い聞かせ、私は玄野さんを探す為に辺りを見渡した。
凛「あっ、あのスーツ」
すると少し離れた住宅街の路地に黒いスーツの後姿が見えた。
私はその後姿を追うように走り出す。
走り始めて、大分近づいて後ろから声をかけた。
凛「玄野さ、ん……?」
私の声に反応して振り向いたのは玄野さんではなかった。
「ん? お前はあの部屋の」
ガラの悪い4人組の一人だった。
「なんだ? どーしたテッちゃん?」
「オウ、見ろよ、こいつが俺に声かけてきた」
前にもう三人いた。
玄野「あ……」
銃を突きつけられた玄野さんと。
太った男と。
…………。
……私を、撃った男。
玄野さん以外の3人は私の顔を見ると、また気持ち悪い笑みを浮かべながら近づいてくる。
「おい、どうした? 俺らと一緒に来たいのか?」
凛「わ、私、玄野さんを、探して……」
「あァ? こいつか?」
「オウ、そんな事どーでもいいからこっち来ォ」
凛「痛っ!」
さっき私を撃った男が私の手を掴み引き寄せる。
やっぱりスーツは完全に壊れている。
引っ張られて振りほどけないし、すごく痛い。
私は男達を睨むが、男達は私の睨みなど意にも介さずただ気持ち悪く笑っていた。
「中島ァ、睨まれてるぞオマエ」
「やっぱお前俺のこと惚れてんだろ? 仕方ねぇ、俺の女にしてやるよ」
凛「な、にッ……言ってる、のッ!! はな、してッ!!」
男の手を振りほどこうとするが振りほどけない。
男は私の手どころか体にも手を回してきた。
虫が這うようなおぞましい感覚が走る。
私の胸を触れられている。
凛「いっ!? いやぁぁぁぁぁぁっ!!」
「中島ー、嫌がってるぞ」
「ギャハハハハ、お前やっぱモテねーな!!」
玄野「……っ」
「うるせェ!! ……なんだ? こいつ服が濡れてるぞ?」
宇宙人の返り血はまだ乾いていない、私の体を触った男の手にべったりと宇宙人の血が付いた。
「な、なんだこりゃ!? 血!? う……し、しかも臭ェぞこいつ!!」
私は男に突き飛ばされて倒れこんでしまった。
「中島ァ、何やってんだ」
「こいつ、何か血みてーなものでベタベタなんだよ! しかも滅茶苦茶臭ェ!!」
「あァ? う……マジだ滅茶苦茶臭ェな……」
私を見下ろしてくる3人。
何? 何なの? 何でこんな奴等に臭いとか言われないといけないの。
沸々と怒りの感情が湧いてくる。
私は3人を睨み続けて、距離を取ろうと立ち上がる。
するとまたあの男、私を撃った男が私に触れようと手を伸ばした。
凛「触らないでよッ!!」
今度はその手を思いっきり叩いて弾き飛ばす。
気持ち悪いし、本当に止めてほしいと思ったから取った行動。
だけど、私のその行動は男を激昂させる引き金となってしまった。
「何すんだテメェ!!」
胸倉を掴まれて男に引き寄せられる。
そして頬に焼けるような痛みを感じた。
凛「え……あ……いた……い」
「中島ー、女に手を出すんじゃねぇよ」
「そんなんだからモテねーんだよオマエは」
「うるせェ!! おい、お前!! 舐めた態度とってんじゃねぇよ!! 自分の立場ワカってんのか!?」
男が私に怒声を浴びせる。
殴られて、怒鳴られている。
死の恐怖とは別の恐怖が私の心を満たしていく。
怖かった。目の前の男が怖かった。
そんな私の視界に玄野さんの姿が映った。
私は玄野さんに助けを求め…………。
凛「たす…………」
言葉を出す前に玄野さんは走り出していた。
私を置いて、走り出した。
目の前が真っ暗になったような気がした。
「あッ!! テメェ!!」
「逃げんなコラッ!!」
二人の男が追っていく。
私は胸倉を掴まれてまた頬を殴られた。
「聞いてんのかコラッ!!」
頬の痛みと、胸倉を掴まれているせいですごく苦しい。
頭がぼやけている。
少しすると、顔にあざを作った玄野さんが男二人に捕まって戻ってきた。
その間も私はずっと暴力の嵐にさらされていた。
もう、抵抗する気も起きなかった。
あれから私は無理矢理歩かされて、いつの間にか古い木造アパートの前にたどり着いた。
男達は何かを話している。
このアパートに宇宙人がいると言っている。
私はそれを他人事のように聞いていた。
誰かがアパートの中に入っていくのも見えた。
多分、玄野さん。
玄野さんが入ってしばらくすると、私の手を掴んでいる男が他の男二人に言う。
「テッちゃん。このアパートに宇宙人いなかったら、俺ここでこいつをヤるわ」
「あァ? オメー、我慢できねーのか?」
「オウ、こんなオンボロアパートでも風呂くれーあんだろ。こいつを風呂に入れてそのままヤっちまうわ」
「中島ァ、何オメーだけおいしい思いしようとしてんだよ!?」
男達の言葉に体が震えだす。
よくわからないけど、とても嫌な予感がする。
男達の目は全員私を見つめている。
今まで向けられたことの無いようなおぞましい視線を受けている。
その時、私の中で何かが切れたような音がした。
凛(こいつらは……だ)
凛(……は…………)
私の思考はすぐに中断させられた。
アパートからメキメキという音がし始める。
「お……?」
「なんっだっ?」
音の次はアパートに亀裂が入り始める。
メキビキバキと音が重く鈍いものに変化して、アパート全体が振動し始めた。
「おっ、おい!!」
「やっ、やべえぞっ!!」
3人の男はその場から逃げ出した。
私はその様子を見続けていた。
アパートが崩壊をはじめ、潰れる寸前で玄野さんが銃を片手にアパートから飛び出してきた。
凛「……」
そして、私の目の前でアパートは完全に崩壊した。
玄野「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ……」
私は荒い息をつく玄野さんを見る。
玄野「ざま~~~~みろっ! っつ~~~~のっ!!」
玄野「やったぜ!! ちくしょうめっ!! 俺が全部まとめてやってやったっ!!」
銃を片手に叫び続ける玄野さん。
私はそれをただ見ている。
それと同時に、あの男達が落とした銃が目に付いた。
それを私は拾い上げる。
玄野「ハァーーーーッハッハハハハハハハ!! どーだ!! 見たかァッ!!」
加藤「計ちゃんっ!!」
加藤さん達もやってきたようだ。
玄野「加藤ッ!」
加藤「計ちゃん……これって……」
玄野さんと加藤さんが話している。
私は再びアパートに視線を向けた。
玄野「終わったぜ、全部」
視線をアパートの上に向けた。
加藤「終わった?」
見えた。
玄野「ああ、全部終わった。俺が片付けた」
黒く巨大な翼。
翼を羽ばたかせこちらに向かっている。
凛「敵」
玄野「えッ?」
私は新たな敵に向け銃を構え、上のトリガーを数回引く。
それと同時に横っ飛びをした。
数瞬前、私がいた場所に巨大な鳥の大きな爪が通り過ぎた。
敵は私の直線状にいた玄野さんを掴み空に飛び去っていった。
玄野「うああああああああああああああああ!?」
加藤「計ちゃんッ!?」
凛「……」
私はロックオンをした銃のトリガーをすぐに引いた。
銃はギョーンという音を出し、数秒後に少し遠くで数回爆発する音が聞こえた。
加藤「計ちゃーーーーんっ!!」
凛「大丈夫。敵は死んだよ」
加藤「え……」
凛「レーダーは?」
加藤「あ……そ、そうかッ、レーダーで田中星人の位置を見れば計ちゃんを!」
加藤さんが取り出したレーダーを見る。
中央に大きな光源が光っている。
加藤「はッ……これッ……まさか……」
凛「ッ!!」
意識するより先にもう一度横に転がった。
同時に大きな風圧が襲い、さっきと同じ姿の敵が空から強襲した。
私の隣にいた加藤さんが敵の爪に掴まれ……なかった。
加藤さんはギリギリで敵の爪を避け、私と同じように地面を転がる。
敵は大きな翼を羽ばたかせ闇夜に消える。
凛「もう一匹か」
加藤「クソッ!! なんッだッ! アイツ!!」
空を見上げるが闇夜と同化しているのか全く見えない。
さっきの一匹は間違いなく死んでいる。
ロックオンは頭に数回して撃ちこんだ、今回来たのは全く違う敵。
私の思考がクリアになった。
私はすぐに加藤さんが持つレーダーを奪い確認する。
加藤「なッ!?」
光源は真ん中。つまり上空にいる。また上から。
見上げるが見えない。だけどバサッバサッと羽ばたく音は聞こえる。
上に銃を向けてモニターだけに集中した。
まだ見えない。
まだ映らない。
まだ。
映っ…。
カチカチカチと上トリガーを引いて身をかわす。
だが避け切れなかったようで、ジャージが敵の爪に引っかかり破られた。
体勢も崩れるが、銃は離さない。
ドンッという音と共に、私達の目の前に巨大な鳥の敵が姿をあらわした。
加藤「……うォ」
敵は私達を見ている。
順番に顔を見ながら私を見た瞬間、敵は大きな鳴き声を上げ動き出した。
だけど焦らない。
もうロックオンはしてある。
落ち着いて引き金を引く。
ギョーン!!
次は敵の動きを見て回避する。
突進をしてくる敵を回避すれば私の勝ち。
さぁ、来るなら…………。
ギョーン!! ギョーン!! ギョーン!! ギョーン!!
「死ねェェェェェェェ!! このバケモンがァァァァァァ!!」
私の背後から音がした。
敵の攻撃を避けることも忘れて私は振り向く。
そこには銃を持った、最初に私を撃った……の姿。
私に暴力を振るった……の姿。
私の頭の中にアイツの言葉が蘇ってきた。
『あーいう頭の弱いバカどもは絶対俺の足を引っ張る。いや、それどころか邪魔をしてくる可能性が高い。そーなる前にさっさと殺しておこうと思ってな』
敵の突進が私の体を捉え、背中からボキリという音がした。
私が吹っ飛ぶと同時に、敵の体も爆発する。
空中を舞いながら、私は奇妙な光景を目にした。
私の左腕と下半身が風船のように膨らんでいる。
限界まで膨らんだかと思ったら、次の瞬間私の腕と下半身が破裂していた。
凛「ぎっ、ぎあああああああああああああああ!!!!」
痛い。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛イイタイ。
イタイ、シヌ、クルシイ。
加藤「お、おいッ!!」
イタイイタイイタイイタイイタイ。
加藤「や、やばい……おいッ! しっかりしろッ!!」
シヌシンデシマウヤダコワイイタイ。
加藤「おい!! 早く戻してくれ!! 早くッ!!」
サムイイタイコワイイヤダクルシイ。
「おいッ! 見たか!? 俺が殺した!! この銃で!!」
「ウォォォォ!! スゲーー!! 中島ァ!!」
「中島! やるじゃねーかよ!!」
――――。
加藤「しっかりしろッ!! もう戻れる!! 戻れるんだ!! 敵はもういない!!」
テキ。
テキヲコロス。
加藤「!! おッ、そうだしっかりしろ……お、おい、何、してんだ?」
凛「死ね」
ギョーン!! ギョーン!! ギョーン!!
――――――――――
――――――――
――――――
――――
――
このへんで。
>>125 GOOD!!
ジジジジジジジジジジ…………。
ジジジジジ……。
ジジッ。
凛「……あれ?」
凛「ガンツの、部屋?」
私の目の前に、あの黒い球体が鎮座していた。
凛「あれ? どうなって……」
凛「私、確か……玄野さんを探しに……」
凛「あっ! 確か玄野さんは、あの人達と一緒に歩いていて」
凛「……あれ? それで私……」
凛「なんだっけ……思い出せそうなのに……」
頭の中に霞がかかっているように記憶が曖昧な状態になっている。
少しずつ頭にかかった霧が消えて、何かを思い出して行っているがまだおぼろげだ。
凛「えっと……歩いていて……どこかに行って……」
凛「なんだっけ……思い出せそうなのに……」
ジジジジジ…………。
記憶を思い出そうとしている私の耳に音が聞こえた。
振り向くと、人の頭が転送されて来ている。
そこで気がついた。
凛「あ……もしかして、終わった……?」
西「ああ、終わったぜ」
私の呟きに、転送されてきた西が答えた。
凛「アンタ……」
西「よッ、何とか生きてたみたいだな。お前やっぱ運良すぎじゃねー?」
生きていた。
今回も生き延びれた。
その実感が湧いてくる。
西「しっかし、見てたぜ。やっぱお前すげーよ。ボスも根こそぎ持っていきやがって、俺の点数今回も0点じゃねーか」
凛「……はぁ?」
西「しかもお前最後スーツがオシャカになってただろ? よくもまあそんな状態であんなのをぶっ殺せたな。マジで信じらんねーよ」
凛「ち、ちょっと、何言ってるの?」
西「あァ? 何だ? 覚えてねーの?」
凛「え……あー……あれ?」
記憶が蘇ってきた。
凛「あ……すごく大きい鳥……」
西「おッ、思い出してきたか? まァ最後はあんな状態だったからな、記憶ぶっ飛んでてもしゃーねーわな」
凛「最後……? 最後って……」
大きな鳥を、確か銃で倒して、その後は……。
凛「あれ? 私……」
何? この記憶?
凛「私、体が、痛くて」
目の前が真っ赤に染まってて、今までに感じたことも抱いたことも無い気持ちになってて。
凛「何、したの、私?」
違う。違うよね?
西「何って、お前あのバカ共を殺したじゃん」
凛「え?」
西「まァ、一人はスーツ着てたから無事だったみてーだけど、もう二人は胴体吹っ飛んでたから、まー死んだわな」
凛「何? 何言ってるの?」
西「あー、でもお前も同じよーな状態だけど戻ってこれたから、あのバカ共も五分五分か? もー少し早くやれば間違いなく殺せてたのにな。そこらへん爪甘いのな」
凛「ちょっと……ちょっと!!」
西「あ? どーしたの?」
凛「殺したって、何!?」
西「? だから、お前があいつ等を殺したって言ってんの」
凛「私? え?」
頭にかかった霧が急速に晴れていく。
最後の瞬間、私は力を振り絞って、右手に持った銃で、あの三人を撃った。
撃って、スーツを着ていない二人の体が爆発したのを見て、私は……。
西「お前、口ではあんな事言ってたけどさ、やっぱ俺と一緒じゃん。あいつ等が吹っ飛んだのを見て、お前滅茶苦茶イイ顔して笑ってたぜ?」
そう、笑った。
敵を殺せて、私を殺そうとした敵をこの手で殺せて嬉しかったから。
凛「違う」
あんな連中死んで当然だと思った。
凛「違う」
何度も私を撃って、私にあんな苦しみを与える奴等なんて死んで当然だと思った。
凛「違う」
私に何かするつもりだった。私の体を、私を気持ち悪い目で見て、挙句私を殺そうとした奴等は死んで当然だと思った。
凛「違う」
私と同じ苦しみを味あわせてやろうと思った。だから撃ってやった。
凛「違う」
奴等の体が吹き飛んだときは、ものすごく爽快な気分になった。ざまあみろって思った。
凛「ちが、う」
あんなにいい気分になったのは初めてだった。溜まりに溜まったものが吹き出て、頭の中で火花が散っているような快感を味わった。
凛「ち……が……う」
西「違わねーって。認めろよ、お前もこっち側の人間だってことをさ」
そう、認めて楽に……。
凛「違うっ!!」
西「おォ?」
凛「私は違う!! そんなわけ無い!!」
西「お、おいおい、落ち着けって」
凛「私は普通の人間!! 普通の高校生!! 普通の生活をして!! 普通の趣味を持って!! 普通に生きている!!」
西「フツーフツーって……俺らはもう普通の生活に戻れねーって。殺しの快感を覚えちまったからもう無理なんだって」
凛「そんな事無いっ!! 私は違うっ!! 私は戻れるっ!!」
西「戻れる……ねェ、クックック……」
私は泣いていた。
認めたくなかった。
あんな恐ろしいことをしてしまったことを認めたくなかった。
あんなに恐ろしい考えをしてしまったことを認めたくなかった。
そして、あんな恐ろしいことをしたのに、こんなに晴れやかな気持ちになっていることを認めたくなかった。
西「あーあ、他の奴等も戻ってきやがったか。お喋りはまた今度な」
誰かが転送されてきたのを見て西は部屋の隅に移動して座った。
私は蹲って泣き続けている。
玄野「うおあああああああ!! ああああああああ……あッれッ!?」
西「……」
玄野「あれ? 戻って?」
人の声が増えてきた。
加藤「計ちゃん!!」
玄野「加藤ッ! どーなったんだ!?」
どんどん増えてくる。
岸本「加藤君ッ! 終わったんだよねッ!」
まだ増える。
「戻った……のか?」
まだ…………。
「いでぇぇぇぇぇぇぇぇ!! あ、ああ?」
その声に顔を上げた。
あの男がいた。
私を撃った男、そして私が撃って殺したはずの男。
「た、助けでくれぇぇぇぇぇぇ……あァ?」
太った男も転送されてきた。この男も私が撃って殺したはずの男。
生きていた? 転送が間に合ったの?
凛「なんで……?」
口に出ていた。そして愕然とする。
凛(今、私……)
凛(残念だって、思った?)
西が私を見て笑ったような気がした。
私の耳に再びあの男達の声が届く。
「おい、俺らどうなったんだ?」
「すげぇ体痛かったけど、なんでだ?」
……気がついて、無い?
「何かスゲー痛みとぶつかった感じしたんだけどよ」
「俺も」
男達は馬鹿みたいな顔をして首を捻っていた。
それを見てまた何かがあふれ出してくる。
私は全員が転送される間、心からあふれ出る何かを止めるのに必死だった。
結局、私は男達に問い詰められることはなく、私が男達を撃ったことに誰も気がついていないようだった。
西と、もう一人を除いて。
『ちーーーーーん』
『それでは ちいてんを はじぬる』
ガンツの採点が始まっている。
全員が戻ってきたようだ。
玄野「うォッ!?」
加藤「これは……」
岸本「うそォ! 渋谷さん、見てよ!」
岸本さんが私を呼ぶ。
その声に私は顔を上げ、岸本さんが指す先に視線を向ける。
『りんちゃん 41てん』
『Total 47てん あと53てんでおわり』
41点?
全員が私の事を見ている。
あの男達も、あの気持ち悪い目で私を見ている。
咄嗟に目を逸らすと、加藤さんと目が合った。
加藤さんの目は私に何かを言いたげな目だった。
そうだ、確かあの時、加藤さんは私を見ていた。
つまり、私が撃ったということも見られていた。
凛「あっ……」
加藤さんが何かを言おうと口を開こうとした。
責められると思った、何故撃ったんだと言われると思った。
だから私は、咄嗟にポケットに入っているコントローラーのスイッチを押して、
この場から姿を消した。
加藤「なッ!?」
玄野「消えた!?」
岸本「えッ?」
コントローラーが元に戻っていて良かった。
私はあの時西から受け取ったコントローラーが何を起こしているかを何となくだが理解していた。
西が良く使う透明化。
それはこのコントローラーを使って起こしている現象だということが直感で理解していた。
私が消えて部屋では少し喧騒が巻き起こっている。
私は逃げるように部屋の隅に移動した。
そこで部屋の様子を見る。
加藤さん達は私を探しているようだ。
新しくきた背の高い男の人はガンツを見ている。
髪の長い女の人は、背の高い男の人を見ているようだ。
おばあさんと男の子はオロオロしている。
あの男達はガンツを見たり、銃を見たりしている。
そして西は笑みを浮かべていた。
私は部屋の隅に移動した後は、そのまま部屋の様子を伺いながら膝を抱えて座っていた。
色々と思うことはあった。
見つかったら何を言われるのだろうかと。
あの男達はまた銃を持っているから警戒しなくてはと。
私の心の内からあふれてくる気持ちはいったい何なのかと。
そうやって考えていたら、やがて部屋から一人、また一人と人は減り部屋に残ったのは私とは間逆の部屋の隅で座っている西だけになった。
西「おーい。そろそろ出てきたらどーだ?」
西の言葉を無視して抱えた膝に頭を乗せて蹲り続ける。
西「ったく……周波数変えてても触れられたらどこにいるかってのは分かるんだぜ?」
西が部屋を歩き回っているようだ。
やがて私の足に西の足がぶつかって、私がここにいることを気付かれてしまった。
西「やっぱいるじゃん。返事ぐらいしろよ」
私の隣に西が座った。
西「残念だったな、あいつ等生きててさ」
残念なんかじゃない、良かった。死んでなくて良かった。
西「まァ、次の機会だな。次はさっさと殺しとけよ、なんなら転送された時点で、いや、今から追って殺すのが確実かァ?」
馬鹿なことを言わないで。
西「まだだんまりかー? いくらなんでもそろそろ怒るぞ?」
うるさい。
西「はァ……どーせくだんねーこと考えてんだろ。人が死ぬ死なないとかさー」
うるさいうるさい。
西「……よし、いいもの見せてやる」
西は徐に立ち上がり、ガンツに近づき何かを言った。
西「ガンツ Katastrophe」
私は視線をガンツに向ける。
『32587590』
……数字?
西「見てるか? よく聞けよ……これが人類に残された時間だ」
凛「……人類?」
西「ふッ、やっぱお前重要なものは見逃さないし、絶対に反応するのな」
凛「……」
西「まァ、そのままでいいから聞け。この数字は破滅へのカウントダウンだ」
西「今から約1年後、世界は滅びる」
凛「……は?」
西「何が起きるかってのはまだ分かっていない。核戦争ってのが有力な見解だけど、信憑性はない。もっと違う何かが起こるハズだ」
凛「核戦争……」
西「つまりだ、もう人類が滅びるのは決まってんだから、俺達も好き勝手すればいいんだよ。自分の好きなように、自分のやりたいことをやる。人を殺すとか殺さないとか考えるのなんてどーでもいいことだ。どーせ1年後には全部終わっちまうんだから」
凛「……それの信憑性は?」
西「あのカタストロフィのカウンターを発見したチームが研究して出した結論」
凛「……チーム? ……前にいた人たちのこと?」
西「いや、別のチーム」
凛「…………ガンツって他にもあるの?」
西「そーゆーこと」
凛「どうやってそんな事を知ったの?」
西「ネット、世界各国で情報交換してる」
凛「……ガンツのことが知られたら頭がって言ってなかった?」
西「頭に爆弾は入れられてるけど、ガンツって結構適当だし、ガンツチームごとの情報交換については問題ないみたいだぜ」
凛「……この前はガンツについてもう知らないって言ってた」
西「初顔の奴に全部話すワケねーだろ」
凛「……なんで今は話してくれるの?」
西「……」
西「まァ、俺と同じ奴なんていないと思ってたけど、同じ奴がいたから、かな」
凛「……同じじゃないって」
西「言ってろ」
凛「……」
西「ま、そーいうことだから、ゆっくり考えるんだな」
西「カタストロフィもそーだけど、ミッションは1年後まで続く、人の命なんか簡単になくなっていくんだ。お前が今考えているようなことは、考えるだけ無駄って事」
西「次までには、素直になって、一緒に楽しもうぜ」
凛「……」
西「じゃーな」
西は部屋から出て行った。
その場に残ったのは私と、数字が表示されたガンツのみ。
凛「……こんな事、信じられないって……」
だけど、心のどこかでは、西の言葉を信じている私がいた。
田中星人編 終了
今日はこの辺で。
3.あばれんぼう星人・おこりんぼう星人編
あの日からもう何日経ったのだろうか。
最近時間の感覚がおぼろげだ。
私は毎日毎日同じ事を考え、同じことを繰り返している。
朝起きて、ガンツのことを考える。
学校に行って、ガンツのことを考える。
学校から帰って、持ち帰ったスーツと銃と剣を使って特訓をする。
特訓から帰って、ガンツのことを考える。
眠る寸前までガンツのことを考えながら眠る。
西から言われたことは考えていない。
考えてしまったら今度はそれしか考えられないような気がしたから。
考えてしまったら認めてしまうような気がしたから。
だから考えない。
他の事を考えてみようとも思った、だけど私はもう他の事を考えられなくなっていた。
友達との些細な会話、テレビや音楽の事、普通の趣味、そんなものを考えることが出来なくなっている。
考えようとしても浮かび上がるのは黒い玉とあの部屋で起きる出来事だけ。
だからガンツのことだけを考えている。
ガンツはいったい何なのかと、誰があんなものを作ったのかと、西から回答を得られなかった事を考え続けた。
分からないものを考えて、体を動かしていれば嫌なことは何も考えないですむ。
あの日の事は考えない、私は違うのだから。
凛(また考え始めている)
凛(駄目、違うことを、聞いていないガンツの秘密を考える)
凛(そうしないと、私は)
私はガンツのことを考えながら、特訓をする為に家を出ようとする。
すると、店先で人とぶつかってしまった。
「きゃっ」
「うわっと!」
凛「あ……」
私の目の前に同い年くらいの女の子が二人尻餅をついていた。
私はスーツを着ているからか、ぶつかった衝撃など何もなく倒れた女の子たちを見下ろしていた。
その女の子たちを見たとき、私は何かを感じた。
ガンツのことしか考えられなかった頭に、一筋の光が差し込んだようだった。
「あいたたた……」
「痛った~~」
凛「あっ、ごめん……大丈夫?」
倒れている二人は結構な衝撃を受けたのか、起き上がれずにいるみたいだ。
「未央ちゃん、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫。しまむーこそ派手に転んでたけど……って、むむむむ!?」
凛「?」
転んだ女の子のショートカットの子が私を見て起き上がり近づいてくる。
「ぶっきらぼうながら、溢れ出るオーラ……只者ではないと見たっ!!」
凛「え……っと」
「未央ちゃん、知らない子に絡んじゃ駄目ですよ」
「何言ってんのさしまむー! 只者ではないこの子が私達の最後の仲間となる運命にあるのだよ!!」
「もうっ、最近はいつもそうやって知らない女の子にちょっかい出してるじゃないですか! 駄目ですよもうっ!」
凛「あー……えっと」
「ごめんなさい、未央ちゃんがご迷惑をかけちゃって」
「迷惑なんかかけてないよー、ねっ! そうでしょ!?」
グイッと私に顔を近づけて笑うショートカットの子。
あっけにとられてしまう。
でも、私はこの子達が気になっていた。
凛「えっと……」
「ねぇねぇ、ちょっと話しようよ!」
凛「え……話?」
「花屋から出てきたって事は花を買ったんでしょ? 何を買ったの?」
凛(……何? この子)
「未央ちゃんっ! 駄目ですってば! 迷惑ですよ!」
「ちょいちょい、しまむー、耳をかすんだ」
凛(何なの……一体)
「……何ですか?」
「……ああいうクールな子は結構押しに弱いんだよ。だから話を繋げて最後にあの子をアイドルにスカウトしちゃおう大作戦を決行する!」
「ええっ!?」
「……声がでかいよしまむー。しまむーはあの子を見てどう思う?」
「……ええと、可愛くて、カッコいい子だなぁって」
「……でしょ! しまむーの可愛さに私の元気、そしてあの子のカッコよさが加われば私達のユニットは完成するって思わない!?」
「……そ、それは……」
「……私達のユニットだけ最後の一人がまだ見つからないんだよ? シンデレラプロジェクトは始まっちゃって私達だけ置いてけぼりの状態でしまむーはいいの?」
「……わ、私もそれは嫌ですけど、プロデューサーさんが今最後の一人を探してるって……」
「……そのプロデューサーにこの子を紹介するんだよ! この子なら絶対プロデューサーもOKを出すって! この子を見た瞬間私は何か運命を感じたんだよ! しまむーもそう思わない!?」
「……う。ええっと……はい。実は私も……」
「……おぉ! やっぱりしまむーも何か感じた?」
「……はい。何ていうか、この子がアイドルになったら素敵だなぁって……それと一緒にアイドルできたら嬉しいななんて」
「……やっぱり運命だねこれは!! スカウトするしかないよしまむー!!」
「……うぅ~、そうかもしれないですね」
凛(……全部聞こえてる)
「……よし、それじゃあしまむー、会話を繋げるからしまむーはさりげなくアイドルの素晴らしさを伝えるフォローをお願いね」
「……えぇっ!? 難しくないですかそれ!?」
「……難しくないって、それじゃいくよ!」
女の子達は丸聞こえの作戦会議を終えて私に話し始めた。
未央「あー、コホンコホン。私、本田未央、こっちは島村卯月ことしまむー。あなたの名前教えてもらってもいいかな?」
凛「渋谷凛だけど……」
未央「渋谷凛ちゃんかー! いい名前だねっ!」
凛「え……ありがと」
卯月「そ、そうですねーすごくすてきななまえですーまるでアイドルみたいですー」
未央「ちょっとまった、しまむー」
卯月「えっ? どうしたんですか?」
未央「棒読みも棒読み、何かロボットみたいだった。っていうかフォローにもなってない。真面目にやってよ」
卯月「えぇぇっ!? 酷いですよ未央ちゃん!」
凛「……」
いきなりコントを始めた二人。
私はさっきから丸聞えだった内容を問いただしてみる。
凛「あのさ、アイドルがどうこう言ってたけど、何なの?」
未央「おおっ!? 何で私達がアイドルだということを知っているんだー!?」
凛「あなた達がアイドルって言うのは知らないんだけど」
未央「……あれ? 冷静に返されちゃった。ここは私達がアイドルだって知って驚くところのはずでしょ?」
凛「ええと……良くわからないんだけど」
異様にテンションが高い女の子だなと思っていると、未央という女の子は意を決したように私に言った。
未央「うむむむ……ここは直球勝負!」
凛「?」
未央「あのさっ、アイドルに興味ない!?」
凛「無い」
未央「うわー、バッサリだぁー……」
首を落として落ち込んだかと思ったら、すぐに顔を上げて私に迫ってくる。
未央「アイドルの素晴らしさを教えるから話を聞いてよ!」
凛「やだ」
また首を落として落ち込む。だけどまたすぐ顔を上げて、
今度はしまむーと呼ばれている女の子に何かを言うように指示をしている。
未央「むむむ……こいつは手ごわい……しまむー!! 出番だっ!!」
卯月「えぇっ!?」
未央「この子にアイドルの素晴らしさを教えるんだっ!」
卯月「えっ、素晴らしさ、えっと……えっと……」
凛「……」
卯月「アイドルは、えっと……私の憧れで、えっと……アイドルになれて私すっごく嬉しくて、えっと……」
未央「しまむーーーー!! それしまむーの感想!! 伝わってないよそれ!!」
卯月「はぅ……ご、ごめんなさい……」
変な二人だと思った。
でも、そんな二人を見ているとここ最近私の中に巣食っていた何かが消えていくような感じがした。
そして私は気がついたら、
凛「……ふふっ」
笑っていた。
素直にこの二人が面白いと思ったから。
久しぶりに笑ったような気がする。
ガンツのことしか考えられなくなっていて、何かが面白いっていうことを考えられなかった。
だけど今は違う。
未央「おおおっ!! しまむー、見た!?」
卯月「は、はいっ!」
凛「? どうしたの?」
未央「笑顔! めっちゃ可愛い!」
卯月「はいっ! 凄く可愛い!」
凛「な、何言ってんの?」
可愛いなんてあまり言われたことが無いから顔が赤くなるのを感じた。
そんな私を二人は見ている。
恥ずかしくてそっぽを向いてしまった。
未央「しまむー! やっぱりこの子は私達のメンバーになるべき子だよ!」
卯月「私もっ、私もそう思いますっ!」
凛「え……メンバーって?」
未央「渋谷凛さん!」
凛「は、はい」
未央「あなたの選考理由を発表します!」
凛「ちょ、ちょっと、選考理由とかって何?」
卯月「私達のアイドルユニット、ニュージェネレーションズの選考理由です!」
凛「あ、アイドルって、ちょっと!? 私アイドルなんて……」
卯月・未央「選考理由は」
凛「ちょっと!」
卯月・未央「笑顔ですっ」
凛「!!」
二人が満面の笑顔で言った。
花が咲きほこるような笑顔。
その笑顔を見ていると、清らかな風が私の心を吹き抜けて行くような透き通った気分になる。
春の陽だまりのような心地よさ、私の心に巣食った何かが洗い流されていく。
未央「えへへ、いきなりでごめんね? でも、どうかな?」
凛「どう、って……」
卯月「私達と一緒にアイドルをやってみませんか?」
凛「アイドル……」
未央「すっごく夢中になれるよ? 私が保証する! 楽しくって、ワクワクして、どこまでも進んでいける。私達なら!」
凛「私、たち……」
卯月「アイドルの世界は普通じゃ味わえない別の世界が広がってるんです! キラキラ輝いていて、その輝きの先は何があるかまだ変わらないですが、私達なら見つけられるはずです!」
凛「別の世界……」
未央「私達と一緒にさ」
卯月「走り出してみませんか?」
凛「あっ……」
また二人はきらきらで眩しい笑顔を見せる。
私に手をさし伸ばしながら。
凄く綺麗で、美しくて、私もこんな笑顔になれるんだったら。
こんなにも眩しい笑顔が出来る世界にいけるんだったらと。
私はさし伸ばしている二人の手を取ろうと…………。
ゾクリ。
取ろうとする寸前で、
私の首筋にあの寒気が襲った。
凛「っっっ!!」
未央「? どうしたの?」
二人の笑顔を見ていて収まっていたはずの何かが戻ってくる。
凛「……っ!」
卯月「あっ」
私は二人を振り切り走り出す。
もっと話していたかった。
二人の手を取りたかった。
だけどもう時間が無い。
転送するところを見られたら私は……。
頭の中がまたガンツ一色に染まる。
それだけじゃなくて、この前感じた気持ちが湧き上がってきている。
あの時、男達をこの手で撃ったときのあの気持ちが湧き出ている。
私はその気持ちを必死で押さえ込んだ。
押さえ込んで、押さえ込んで、押さえ込み続けて、
私の視界は切り替わり、ガンツの部屋に転送された。
今日はこのへんで。
転送されて、私の目は人の姿を捉える。
一人二人じゃない、十人以上いる。
ガンツの前に座って何かを唱えているお坊さん、お坊さんと同じように座って何かを唱えている人たちが数人、どうやらお経を唱えているようだ。
視線を動かすと、加藤さんと岸本さん、前回の背の高い男の人、髪の長い女の人がお経を唱えている人たちを見ている。
加藤さんは私に気がついて声をかけてきた。
加藤「あっ……渋谷さん、だよな。この前は……」
凛「っ!」
私はまたポケットに入れていたコントローラーのスイッチを押して姿を消した。
何を言われるか分かっていたから。
『この前は何で人を撃ったんだ?』
そう言われると分かっていたから逃げた。
加藤「何があ……お、おいっ!」
岸本「あっ……また、消えちゃった……」
私の姿を探す二人、私は二人に触れないようにして部屋の隅に移動をしようとした。
そして、見てしまった。
前回私が撃った男達。
その男達の姿を見て、押さえていた気持ちが噴出してくる。
ドス黒い何か。
凛(……今度こそ)
何かを考えた。
凛(……今度こそ、何?)
凛(……私、今、何を考えたの?)
感情が制御できなくなっている。
止め処なくあふれ出る感情をとめることが出来なくなっている。
このままだと、私は、本当に……。
凛(違うことを、考えないと)
凛(別の、何か別の、ことを)
凛(そうしないと、そうしないと……)
何も見ないように部屋を出る。
もう一度あの男たちを見たら、私は何をしてしまうか分からない。
この鞄に入った銃で、剣で、アイツ等を……。
凛(駄目。違うこと、違うことを……)
凛(違う……)
『笑顔ですっ』
凛(あ……)
不意にあの二人の笑顔が浮かんできた。
卯月と未央と名乗った女の子達の笑顔。
私の頭から恐ろしい考えが消えていく。
凛(……あの子たち、アイドルって言ってた)
溢れ出ていた何かも収まっていく。
凛(……私をアイドルに誘ってくれてた)
この部屋のことが、ガンツのことが頭から離れていく。
凛(……あの子たちと一緒にアイドル)
私の頭の中に見たことも無いような光景が広がる。
光り輝く魔法のような舞台で、お姫様のような衣装を着て輝いている私とあの二人。
凛(……楽しくて、ワクワクして、きらきらと輝ける、そんな世界)
行って見たい。
凛(……あの子達のようなきらきらで眩しい笑顔を)
私もしてみたい。
凛(……もう一度、あの子達と話したい)
ドス黒い感情はいつの間にか雲散していた。
今私の胸にある感情は、あの子達ともう一度話したいという気持ち。
それだけだった。
凛(……もう一度)
そう考えながら、私の視界は切り替わっていた。
凛(!?)
凛(転送、された?)
私の目に映るのは大きな寺の入り口。
凛(しまった……情報を見ていない……)
今回の宇宙人の情報を私は見ていなかったことに少し焦る。
凛(どうする……他の人たちが来たら情報を……)
そう思い、転送されてくる人を待とうと思った。
だけど、思いとどまる。
凛(……アイツ等をまた見たら)
また、私はおかしくなってしまうのではないか?
あのドス黒い感情が心を覆ってしまうのではないか?
今、私は普通の思考をしている。
多分あの子たちのことを考えていたから、一時的に普通の状態に戻れている。
だけどアイツ等の姿を見たらまたさっきみたいに、この前のようにおかしくなってしまうかもしれない。
ジジジジ……。
凛(っ!!)
誰かが転送されてきた。
ジジジジジジ……。
凛(……くっ)
私は、跳躍し寺の内部に逃げ込んだ。
寺の境内、少し開けた場所の石畳の上で、私は鞄の中から銃と剣を取り出す。
ジャージのズボンを脱いで、太股部分に付いた銃のホルスターに銃口がY字の銃と、剣を装着する。
手には長い砲身の銃と、小さく丸い銃。
準備が完了した私は、コントローラーを操作し、透明化した後に、レーダーを起動した。
大きな光源が、少しはなれた場所にあった。
それを確認して、私はコントローラーをポケットに入れて考える。
凛(この先に大きな光源、この前の最後と同じ反応の光源)
凛(その周囲に小さな光源が4つ……大小の光源、前回も大きな光源が指す宇宙人は明らかに手ごわい宇宙人だった)
凛(多分この大きい光源が宇宙人のボス。こいつさえ倒せれば……)
レーダーが指し示す先に行くかどうか考えて、
私は踵を返して逆の方向に歩き始めた。
凛(……今回は襲ってくる宇宙人だけをどうにかする)
凛(……この前みたいなのを一人でどうにかするより、他の人たちに何とかしてもらったほうがいい)
凛(……さっき見たとき、部屋には十人以上いた。加藤さん達は前回スーツを着ていたからスーツの使い方も知っている。あのスーツと銃があれば宇宙人を倒すことなんて簡単なこと)
凛(……私が何もしなくたって、大丈夫。私はどこかで隠れて、襲ってくる宇宙人を行動不能にすることだけを考える)
凛(……そうすれば、誰かがボスを倒してくれて帰ることが出来る)
凛(……帰って、明日は、あの子たちを探そう)
凛(……アイドルって言っていたし、ネットであの子たちの名前を調べれば)
凛(……アイドルは事務所に入っているって聞いたことがある。調べればその所属事務所も分かるだろうし)
凛(……その事務所が分かったら、そこに行って、あの子たちを)
私はあの子たちの事を考えながら、寺の中でも一番高い塔の上に移動していた。
やっぱりあの子たちの事を考えていると、普通の思考が出来る。
今日はここであの子達の事だけを考えていよう。
宇宙人の事を考えているのはよくない。
誰かがやってくれる。私は考えなくてもいい。
しばらく私は思考の海に耽っていた。
殆どはあの子達のことだった。
あの子達の学校はどこなんだろうとか。
あの子達はどうしてアイドルになろうと思ったんだろうとか。
あの子達とアイドルをやれれば一体何が見えるんだろうとか。
そんな事を考えていた。
あの部屋に来てから、考えることが出来なくなっていた思考。
それが出来ていることが嬉しく思う。
私はやっぱり違うんだと。
私は普通の高校生。普通の女の子で、アイツが言うような人間なんかじゃないんだって。
凛(このまま、終わってくれれば……)
そう思った、その時。
私の視界にありえないものが映った。
凛「……え?」
ベキベキベキと少し離れた寺が壊れ何かが現れた。
凛「なに、あれ……」
巨大な大仏だった。
10メートルを超える大仏。
大仏編は逸材が多いよな、ゴルゴとか
凛「あれも、宇宙人?」
今までの思考が止まり、巨大な大仏を見続ける。
凛「あんなの……どうやって倒す……」
凛「……この銃だと火力が足りなすぎる。だったら剣」
凛「剣を10メートル近く伸ばしてそのまま両断する、それで終わり。[ピーーー]ことが……」
凛「う、あ……」
また考えてしまった。
絶対に考えないようにしていたはずの、何かを[ピーーー]という思考。
自然に出てしまった。
あの宇宙人を見て、どうやって[ピーーー]かを自然に考えてしまっていた。
凛「……駄目。あの子達のことを考えないと……」
凛「……あの子達が私を普通にしてくれる」
凛「……私は普通の女の子」
凛「……普通の女の子」
凛「……普通の」
私は大仏を見ないように目を瞑り、耳も塞ぎその場で呟き続ける。
あの子達のことを考えながら、他の事を考えないようにして。
どれくらい経っただろうか?
目も耳も塞ぎ、あの子達のことだけを考えていた私。
終わるまでそうしているはずだったのに、私の思考は強制的に中断させられることとなった。
私の座っていた塔が、崩壊して崩れ落ちたことによって。
凛「きゃあああああああ!?」
私はそのまま地面に叩きつけられた。
衝撃はスーツのおかげで無い。
凛「うぅ……一体何が……」
顔を上げると、誰かが見えた。
誰かが、何かと戦っている。
加藤「うっ、おおおおおおおおおおおお!!」
加藤さんだった。
加藤さんが、腕が沢山ある仏像と戦っている。
仏像は無数の腕の内、二本の腕が持っている灯篭のようなものからレーザーのような光線を加藤さんに向けて発射していた。
加藤さんはその光線を、障害物を使い、身を無理矢理捻り、地面を転がり、回避し続けていた。
だけど、仏像が別の腕の水瓶の中身を加藤さんに向けて飛ばしたとき、加藤さんは大きく横に跳んで、
跳んだ先に待ち構えていた、灯篭から出たレーザーによって左腕を切断されていた。
加藤「あ゛あ゛っ! ぐぁあぁ!?」
凛「あぁっ!!」
そのまま、血を撒き散らしながら転がる加藤さん。
加藤さんを助けようと、私は銃を向けようとしたその時、
加藤さんの持っていたY字銃口の銃から光るワイヤーが飛び出し、変則的な起動を描き仏像を拘束していた。
加藤「ハァッ! ハァッ! ハァッ!」
加藤さんはそれを確認し、すぐにY字銃で仏像を撃った。
撃たれた仏像は頭の先から、私達が転送されるようにどこかに送られて行っていった。
加藤「頼む……ハァッ……そのまま……ハァッ」
だが、消えていたはずの仏像の顔が、逆再生のような状態で元に戻っていった。
加藤「これも……駄目なのか……」
拘束されていた仏像が、手に持った剣を器用に動かし光るワイヤーを切った。
仏像が自由になった腕で再び灯篭を動かす。
灯篭から出たレーザーは、加藤さんの体をゆっくりと薙いでいた。
凛「あ……」
加藤「うァ…………、あゆ……、む…………すま……な…………」
加藤さんの体に線が入った。
その線から赤い液体が溢れ出して、加藤さんの体はズレるように半分となり、地面に落ちた。
凛「う、あ、あ…………」
仏像が動き出す。
私のほうを見ながら動き出す。
明らかに私の事を気付いている。
透明になっているはずなのに気がついている。
凛「はぁっ! はぁっ!」
心臓の鼓動が激しい。
仏像が腕を動かす寸前に、私は後方に跳躍した。
私のいた場所には、加藤さんの命を奪ったあのレーザーが地面をえぐっている。
凛「うあ、あああああああ!」
私はもう一度後方に跳躍し、この場から全力で逃げ出した。
私は寺を走っている。
凛(し、死んで……加藤さんが、死んでしまった……)
さっき見たあの光景が目から離れない。
凛(どうして……スーツを着ているのに……)
スーツを着ていたのに体が半分になって死んでしまった。
凛(壊れてしまって……ううん、そんな事より、加藤さんが死んでしまったことを……誰かに……)
誰かに伝えようと、私は駆けた。
その私が、ある建物の中にスーツの姿を目にする。
私はコントローラーを操作し、透明化を解除して建物内の人に伝える為に叫んだ。
凛「か、加藤さんがっ! 宇宙人に…………」
最後まで言えなかった。
そこに居たのは4人。
首が外れてぶら下がって揺れている外国人の男の人。
床に倒れている二人、この前の背の高い男の人と髪の長い女の人、二人とも体が半分なくなっている。
そして、私の視線の先に、床の二人と同じように体を半分失った岸本さん。
全員死んでいた。
凛「あ、あう……うああ…………」
後ずさるように建物から出る。
その建物を見ながら後退し続ける私。
十メートルくらい後退して私は何かに躓き転んでしまった。
転んだ私は何か水溜りのようなものに触れた。
凛「……あ、赤?」
触れたものは赤い液体。
私が目を動かすと、そこには縦半分に切り裂かれたおばあさんと男の子の姿。
凛「ひっ!? い、いやっ!!」
反射的に視線を逸らすと、逸らした先にはバラバラになった若い男が二人。
凛「いっ、いやああああああ!?」
私は悲鳴を上げその場から逃げ出す。
私は走りながら、今自分が何を見ているのかを理解できないでいた。
凛(嘘、嘘だ、そんなハズない。みんなスーツを着ている。スーツを着ているのに死ぬわけが無い)
凛(わ、私の見間違い、見間違いだよ)
自分に言い聞かせながら走り続ける。
その私の視界にまたあってはならないものが映る。
凛「なに……何なの、何で……」
スーツを着た眼鏡の男がバラバラになって死んでいる。
その近くで、首のない迷彩服の死体。
足を切られ、頭に穴が空いた上半身裸の男の死体。
凛「ハァッ、ハァッ、ハァッ……」
息が苦しい。
足が縺れる。
その場から、私は歩き出す。
凛(人が、人があんなに、死んで……)
凛(何が、何があったの……)
ふらふらと歩いている私の目にまた二つの人影が飛び込んできた。
凛「うぁ……ぁぁぁぁぁ……」
女の人が胸を切り裂かれて血黙りの中で事切れている。
その傍に、玄野さんが腕と足を片方ずつ失って倒れていた。
凛「あ……ああぁ……なん、で……」
どこまでも続く凄惨な光景に私は気が遠くなり始めていた。
何が起きているのか、この光景は現実のものなのか、私には分からなかった。
凛「み、みんな、死んで……」
その場で崩れ落ちそうになった私だったが、玄野さんがかすかに動いたのに気が付く。
凛「!!」
私は玄野さんに近寄り、声を上げた。
凛「ねえ!! 聞こえる!? 生きてる!?」
玄野「……うっ」
生きている!
凛「何があったの!? ねえ!! 返事をしてっ!!」
玄野「……う……か、とう……は?」
凛「!!」
玄野さんは確かに今、加藤は? と私に聞いてきた。
加藤さんは、私の目の前で、もう……。
凛「……う、あ、あの、加藤、さんは……」
玄野さんは私が言いよどんでいるのを見て、何かに気付いたのか視線を宙に彷徨わせた。
そして、私にこう言ってきた。
玄野「……殺してくれ」
凛「え……」
玄野「俺を……殺してくれ……」
凛「や、止めてよ!! そんな事言わないで!! 私に殺してなんて言わないで!!」
玄野「頼む……殺して……殺してくれ……」
凛「止めてっっっ!!!!」
私の頭の中に玄野さんの殺してくれという言葉がこだましている。
凛「殺すなんて無理!! 人を殺すなんてできないっ!!」
玄野「早く……殺してくれ……」
凛「う、うるさい、うるさいうるさいうるさいーーーーーー!!」
私は頭を抱えその場を逃げ出す。
頭の中はもうぐちゃぐちゃだ。
さっきから私の頭の中でずっと何かが響いている。
あの時、殺してくれと頼まれて考えてしまった。
今まで考えないようにしていたことを考えてしまって、私の頭の中で何かの歯車がかみ合い動き始めていた。
それは私の中で、声となって頭の中に響いていた。
――何で殺さなかったの?
凛「人を殺せるわけ無いでしょ!?」
――この前は殺したよね。
凛「殺してない! 死んでなかった!!」
――一杯殺したよね?
凛「それは宇宙人でしょ!? 人じゃない!!」
――人じゃなかったらいいの?
凛「そんなわけ無いでしょ!? 生き物を殺すなんて出来ない!!」
――でも宇宙人を殺したじゃん。
凛「あ、あれは、私が殺されそうだったから! 殺さないと殺されてた!!」
――殺されそうだったら殺してもいいんだ?
凛「し、仕方ないじゃん!! 殺さないとこっちが殺されるんだよ!?」
――だったら、アイツ等を殺してもいいでしょ?
凛「アイツ等は人でしょ!?」
――だって私殺されかけた。
凛「そ、それでも」
――私、アイツ等を殺したいよ。
凛「そんな事、できない……」
――私の手で殺さないと気がすまない。
凛「そんな事……」
――あんな目に合わされて何もしないなんてアンタも嫌でしょ?
凛「…………」
――もうこんなに人が死んでるんだからアイツ等が死んでも誰も気にしないって。
凛「……」
――アイツ等、殺しちゃおうよ。
凛「……」
――ほら、今思ったでしょ? 殺そうよ? ねえ。
凛「……」
私は歩く。
頭の中から聞える声を聞きながら歩く。
頭の中の声は私の心に染み渡っていく感じがした。
少し心地いいなと思いながら私は歩く。
頭が変になってしまったのかな?
頭の中から聞こえる声と会話するなんて。
いつの間にか少し開けた場所に出ていた。
そして、私の眼が何かを捕らえる。
凛「…………」
それに向かって歩く。
凛「……なんで」
足元の液体を踏みながら歩く。
凛「……なんで、死んでるのよ」
目の前にバラバラとなった死体があった。
あの3人の死体。
凛「…………」
私は目の前の死体を見ながら再び頭の中に響いてきた声を聞いた。
――あーあ、殺し損ねちゃった。
凛「……」
――いい機会だったのに、残念だったね。
凛「……」
――モタモタしてるからこうなっちゃうんだよ?
凛「……」
――アンタが素直にならないから、こうなっちゃったんだよ?
凛「……」
――ま、今回は仕方ないよ。
凛「……」
――次、機会があったらちゃんとやんなきゃ駄目だよ?
凛「……まださ」
――どうしたの?
凛「……まだ、殺さないといけない奴いるよね?」
――ふーん、そういうこと。
凛「私から獲物を奪って行った奴」
――うん、許せないよね。
凛「許せない」
――じゃ、殺っちゃおうか。
凛「殺してやる」
私が決意したと同時に、視界の端に仏像の姿を捉えた。
私が殺したかったアイツ等を奪って行った奴。
私の獲物を横取りする奴は私の敵だ。
敵は殺す。だからアンタを殺す。
私は右手に剣を持ち、左手に銃身の長い銃を持ち、
剣を数十メートル伸ばして、横になぎ払った。
今日はこの辺で。
>>185 ゴルゴもそうですし、玄野彼女、眼鏡君も逸材でしたよねー。
sagaいつの間にか消えてました。
>>185
乙、空手家の外人も強かった記憶
スーツ来てたら生き残れたかも…
まさかの西くん生存パターンか
追いついたけど面白いな
普通にガンツアナザーとして読んでるw
面白いです
私が振るった剣は仏像の胴体を両断し、仏像は半分になって吹き飛んだ。
だが、吹き飛んだはずの上半身が、巻き戻るように下半身とくっつき元の状態に戻る。
今の攻撃で仏像はこちらに気付いたようだった。
凛(何? 今のは?)
もう一度返す剣で仏像の胴体を斜めに切った。
だが同じように巻き戻る。
凛(この現象は一体?)
切ったはずなのに無かったことにされる現象。
不可解な現象、何かカラクリがあるはずだと考えようとするが、仏像から伸びてきたレーザーを避ける為に横に転がる。
レーザーは私を追うように動き、それを避ける為に転がり続け、私の足に届く寸前で寺が壊れたことによって出来た建物の残骸に隠れ難を逃れた。
凛(あのレーザー、恐らく当たったらスーツごと切られる)
ここに来るまでに見た死体。
殆どがバラバラになっていた。
今回の宇宙人にはスーツの防御性能も無駄だということ。
凛(全部避けなければならない。でもそんな事は不可能……いつかは当たってしまう)
凛(それなら避ける以前の問題。元を断てばいい。あのレーザーが出ている灯篭を壊す)
私は左手の銃をホルスターに付けていたY字銃に持ち替えて建物の残骸から顔を出し仏像の位置を確かめた。
だが、顔を出した瞬間、レーザーが頬を霞め私の頬から血が流れ始めた。
凛(狙われてる。位置を確かめれない)
凛(だったら)
私は剣を伸ばし、建物の残骸ごと横に斜めに縦に何度も切り刻んだ。
そして、建物の残骸の隙間から仏像の姿を捉える。
私の攻撃は仏像の胴体に届いていたが、先ほどと同じように巻き戻っていた。
私は、隙間から見えた仏像を左手のY字銃で数度ロックオンをして、物陰に隠れトリガーを引く。
Y字銃から光るワイヤーが数度発射されて、時間差で私は物陰から飛び出した。
そこにはすでに十メートル近くまで接近してきていた仏像がいた。
仏像はワイヤーで拘束されているが、手に持った剣や灯篭は落としていない。
凛(この隙に、灯篭を壊して)
持っている腕と灯篭を狙い剣を振るった。
仏像が持っていた灯篭は2つあったが、剣で簡単に両断でき、灯篭は半分になり地面に落ちた。
凛(壊れた? ……壊れている。巻き戻りも起きない、道具には効果が無い!)
灯篭を破壊して、今度は首を狙って首を吹き飛ばしたが、首は巻き戻ってしまう。
その間に、ワイヤーが仏像の持つ剣によって切られて拘束が解除されてしまった。
凛(切られても、何度でも拘束……)
私がまた拘束する為にY字銃を構えた。
その時、仏像から何かが飛んできた。
油断だった。
灯篭を破壊して、レーザーを封じたことによって飛び道具は無いと思い込んだ油断。
Y字銃は高速で飛んできた仏像の剣によって破壊されてしまった。
私の左手の指ごと。
凛「うあぁっ!? いっぁぁぁ!!」
やっぱりスーツの意味が無い。
左手の親指以外の4本が無くなっているのを見て再認識した。
全部の攻撃がスーツを貫通してくるのだと。
私は仏像の持つ武器と思われるものを見る。
剣、錫杖、燭台、他にも水瓶や円盤、全てに注意を払いながら再び剣を振るって仏像の胴体を薙ぎ払う。
また巻き戻りが起きて戻っていく、それと同時に仏像の持つ円盤が動き出し攻撃の合図かと身を屈め後退した。
が、円盤からは攻撃は来ず、仏像が巻き戻って修復されたと同時に円盤が止まった。
凛(……今のは)
もう一度剣を伸ばして首をはねる。
円盤が動き出した。
凛(あの円盤が巻き戻しの正体?)
勘だった。
だけど、私は自分の勘を頼りに円盤を狙い剣を振り下ろし、円盤を真っ二つにした。
首の巻き戻しは完了していた仏像だったが、真っ二つにした円盤は地面に落ち、円盤を持っていた手は切られたまま巻き戻されていない。
それを見て私の口元が釣りあがる感覚を感じ、舌なめずりをしていた。
凛(やっぱりあの円盤が巻き戻しの正体!)
凛(円盤は壊れて、もう巻き戻せない、だったら)
凛(殺すことが出来る)
私は仏像を殺すために首を狙って剣を振るった。
先ほどと同じ軌道、確実に首が吹き飛ぶ軌道。
届く寸前、私は仏像の腕がゆっくりと動くのを見た。
剣を持った腕が、首を守るように動き、私の剣を防ぎ、弾き飛ばしていた。
凛「なっ!?」
また、油断をした。
獲物を前に殺せると確信してしまって油断してしまった。
剣は弾き飛ばされて建物の影に落ちてしまった、取りに行くには遠すぎる。
左手でホルスターの銃を取ろうとするが、左手は使い物にならない状態だったことを思い出す。
すぐに右手でホルスターの銃を取り出し、仏像に構えるが、仏像の剣を持った腕が動くのを私は見た。
剣が飛んでくるのを予測し、私は回避する為に横っ飛びをしたが、仏像の剣はあらぬ方向に飛んでいった。
凛(……どこを)
狙っているのかと、考えたがその回答はすぐに出た。
剣が何も無い空間に刺さった。
そして、叫び声が上がる。
西「ッああああァァ!? いッでェェ!!」
バチバチと放電が起こり、西の姿が現れた。
西の右肩は剣が刺さり半分千切れかけていた。
西「くッそォァァァァ!!」
左手に持った銃を構え、仏像に向けたが、仏像はすでに西の目の前にたどり着いており。
西「あッ」
凛「あ……」
仏像の持った錫杖が西の首を切り飛ばしていた。
首を失った西の体は、切断面から噴水のように血が噴出していた。
私はそれを呆然と見ている。
あの西がこんなにあっけなく殺されてしまった。
私を自分の同類だといった西。
ガンツの秘密をあれほどまでに知っていた西。
恐らくは何度も何度もあの部屋でこのゲームをやり続けていた西。
それがこんなにもあっけなく死んでしまった。
私は呆然と仏像の行動を見ている。
仏像は切断した西の首を持って、頭を開き中から脳を取り出してそれを食べていた。
私はそれをただ見ていた。
仏像が食べ終わるまで見ていた。
そして、仏像の食事が終了したその時、声がした。
「あァー、ダッセェ。俺死んでんじゃん、マジダッセェ」
仏像が喋った。
「ったく、お前が星人を追い詰めて、最後に持って行こうと思ったのにコレだ、マジでダサすぎんだろ俺」
喋っている、まさか……。
「よォ、俺だ、わかるか?」
分かってしまう。
凛「まさか、アンタ……」
「鋭いねェ、そうだよ、俺だ、西丈一郎だ」
凛「嘘、でしょ」
「嘘じゃねーよ。俺はどうやら星人になっちまったらしいな」
凛「……」
「最後の一人と会話をしてみたかったつーのと、俺達が一体何者なのかを知りたかったみてーだぜ。まァ、俺を食ったことで色々と知られちまったみてーだけどな」
凛「……」
「そう警戒すんなよ、って言っても無駄かァ?」
仏像の表情が変化する。
無機質だったはずの表情に人間のような笑みが浮かび上がる。
私は無言で銃を仏像に向けようとするが、仏像はものすごい速さで銃の照準から逃れるように動く。
「おいおい、銃をこっちに向けようとすんじゃねーよ。殺す気か?」
凛「殺すつもりだけど?」
「はッ! よーやく素直になったんだ、お前」
もう一度、銃を向けるがロックオンをさせてくれない。
動きが早い。
「どーせなら、俺がこーなる前にそーなってれば、色々楽しめたのになァ」
凛「別に楽しむとか考えてない。アンタを殺せればそれでいい」
「おいおい、もったいないぜ? 殺しの楽しみを知らないってのはさ」
凛「アンタは私の敵、だから殺す、それだけ。楽しいとか楽しくないとかどうでもいい」
そう、私は仏像を殺せればそれでいいのだから。
「まァいいや。それなら俺がお前に教えてやるよ、殺しの楽しみってやつを……お前の体でなァ!」
仏像が高速で動き回り、西の死体の傍に降り立った。
「まずはお前をダルマにしてやる」
西の死体から、銃を4丁奪い取っている。
「この銃で手足を吹っ飛ばして、動けなくしてからゆっくりと腹を裂いてやる」
西の肩に刺さっていた仏像の剣を空いている腕で持った。
「お前が死にたいと懇願しても死なせねェ、ギリギリまで弄って最後には生きたままお前の脳ミソを食ってやる」
仏像が私を見て恍惚の表情をみせる。
凛「……やれるならやってみなよ」
凛「逆にアンタをグチャグチャにして殺してやる」
仏像と、私は同時に動き出し、互いに狙いを定める為に銃を向けた。
私が動いたと同時に地面が爆発した。
スーツの力によるアシストもあり、私の動きは仏像よりも早く動けたはずだ。
だが、私の視界には仏像の姿はなかった。
凛(見失った!?)
めまぐるしく移り変わる視界の中、寺の壁にぶつかる寸前に体勢を入れ替え、寺の壁の側面に四つんばいの状態になって張り付く。
視界の端に仏像の姿を捉え、再び足に力を込め、壁を粉砕しながら跳躍、今度は見失わないと仏像の動きを見続ける。
されに手の銃でロックオンをする為に構えようとするが、仏像の無数の腕の中、ひとつの腕が動くのを私は見た。
銃を持っている手ではない。剣でもない、仏像の背中の影になって何を持っているか分からない。
凛(まずい。何か、投げてくる)
銃を構える前に、回避行動を取るべく姿勢を崩し、無理矢理地面に着地。
それと同時に、何かが飛んできた。
凛(!?)
飛んできた何かを避けようとしたが、その飛んできたものは私にたどり着く前に破裂し、真っ赤な液体を撒き散らしていた。
破裂する前に一瞬見えたそれは。
西の死体だった。
恐らく投げる前に銃で撃っていたのか、死体は破裂し私の全身に血が降り注ぎ、顔に降りかかった血は目に入り、私の視界は遮られてしまった。
凛(くっ!?)
目は見えなかったが、先ほど見た仏像の位置とは逆の方向に飛び、目を拭いながら距離を取る。
再び視界が開けたときには、私の目の前には仏像が迫ってきていた。
「ハッハハハハ! 血の目潰しだッ! 避けてみろよ!」
仏像の持つ銃が私に向いている。
意識するよりも早く、私の足は地面を蹴っていた。
「何ッ!?」
地面を蹴り、寺の壁を蹴り、寺の屋根を蹴り移動。
私が動いた場所全てが、私の踏み込みに耐えられずに陥没している。
ドン、ドン、ドンと衝撃音が遅れて聞え、私の体はゆっくりと回転しながら空中を舞っている。
真下にいる仏像と視線が合う。
仏像は唖然とした表情、その顔を見て笑いがこみ上げてきた。
私が特訓し続けて出来るようになった立体的な動き。
その動きに仏像は着いて来る事が出来ずに、馬鹿みたいな顔をしている。
その馬鹿に向けて銃を構え、私は撃っ……。
凛「あはっ!! 死……」
「死なねェよ」
撃とうとした銃が弾けとんだ。
凛「なっ!?」
弾けとんだ銃の破片を見ながら、私は体勢を崩し地面に落ちる。
叩きつけられる寸前で体勢を入れ替え、猫のように着地した私に仏像の声が聞こえた。
「銃が無くなッちまッたな?」
声の方向とは逆に手足を使って四つんばいの状態で飛ぶ。
「またワケわかんねェ動きしやがって! お前本当に人間か?」
だけど、空中で何か違和感を感じた。
キュゥゥゥゥゥン。
スーツから音がする。
前回聞いた音。スーツの限界を迎える音。
凛「!?」
その音を聞き、私は着地してスーツを見てしまう。
「おォ? もう一発ってとこか?」
仏像の声と共に、スーツから先ほど聞いた音より重々しい音が響き。
スーツのいたるところからドロリとした液体が漏れてきた。
当てられていた? でも銃は私に向いていない……。
まさか、ロックオンされていた?
凛「…………」
「クックック……スーツがイッたなァ?」
仏像が私を見て笑っている。気持ち悪い笑みを浮かべている。
「武器も無くなった、スーツはオシャカになった」
攻撃してこない、ただ私を見て、私の様子を伺っている。
「想像してみろよ。これからお前はさっき俺が言った通り、まずは手足を吹っ飛ばす。その次は腹を裂いて、中をこの剣でかき混ぜてやる。あァ、安心しろ、内臓は傷つけずにかき混ぜてやるから中々死にはしねェ、痛みだけを与えてやるから豚みてェな悲鳴を上げてくれよ?」
もはや私をただのオモチャとして見ている様なその視線に、私の感情が高ぶる。
凛「……舐めてんの? アンタを殺すのは私だって言ってるよね?」
私の言葉に、仏像は堰を切ったように笑い出した。
「ク……ククク……ハハハハハハハハハハ!! お、お前、マジで言ってんのか!? スーツも壊れて、武器もねェんだぞ? どーやって俺を殺すの? 教えてくれよ、なァ!!」
銃も壊されてしまって、私の持つ武器はもう何も無い。
私が今持っている武器は無いが、無くした武器はある。
そして、その位置を私は覚えている。
私はコイツを殺すための武器を手に入れる為に動いた。
だけど、私が一歩踏み出した瞬間。
ギョーン!!
仏像から音が聞えた。
凛「ぎっ! ああああぁぁぁぁぁぁ!!」
私の左腕が破裂した。
「いいね、悪くない叫びだ。だけどまだ足りねェなァ」
バランスを崩して顔から地面に落ち、そのまま数メートル転がり止る。
凛(い、だい……許さ……ない……殺してやる……)
痛みが私の感情に火を入れた。
殺意が止め処なく溢れ出てくる。
凛(殺す、絶対に殺す、グチャグチャにして殺す、私が受けた痛みをコイツにも味あわせてから殺す)
「んん? なんだ、まだ目が死んでねェじゃん」
凛「……殺してやる」
私は起き上がり、またあの場所へと行こうと足を踏み出す。
だけど、私の耳にギョーンという音が聞え、今度は私の右腕が破裂した。
凛「ぎあああああああああああああ!! うぁああああああ!! あぎっああ!!」
「ホラ、これでもう腕が無い、お前もう終わったぜ」
死ぬほど痛い。腕がなくなってしまった。
だけど腕を吹き飛ばされても殺意は萎えず、より強く膨れ上がる。
コイツを殺すという思考だけが頭を占める。
殺すためのアレを。
「んだァ? まだ立ち上がって何する気だよ?」
アレをコイツに。
「あァ、逃げようとしてんの? 逃げれると思ってんの?」
ギョーン!!
凛「いぎっ!! ぎゃあああああああああああああああああ!!」
足が吹き飛んだ。
「イイねェ……、イイ鳴き声するようになってきたじゃねェか」
体が飛ばされて建物の陰に吹っ飛ばされた。
吹き飛ばされて転がる私の目に映る。
アレが見えた。
アレの元に。コイツを殺すためにアレを。
私は這いずりながらアレを目指す。
「ククク……逃げんなよ」
たどり着いた。
私はあごを当てて、コレの刃を収納した。
アイツはまだ来ない。
「おーい、そんなところに隠れんなよ、次は腹を掻っ捌かないといけないんだからよー」
コレを口に咥える。
もう持てないから口に咥える。
「おッ…………ハッハハッ!! ハハハハハ!! んだよそれ!? イモムシみてーに動きやがって、そんなに逃げてェのか!?」
建物の影にアイツもやってきた。
私はコレを限界まで咥え込む。
喉の奥が抉れるが関係無しに咥える。
「おーい、顔見せてくれよ、今どんな顔してんの? できれば泣いててほしィなァ、怯えててほしいなァ、どんな顔してんのかなァ……」
私の頭が掴まれて持ち上げられる。
「あー……もう我慢できねェかも……」
同時にコレを口の中に納めることができた。
「やっぱ顔見たら殺しちまうかも……でも勿体ねェ……」
喉の奥まで剣の柄が入り込み息も出来ない。
「ハァ、ハァ……」
だけど、そのおかげで私の歯に、この剣を伸ばすためのスイッチが触れている。
「ハァ……ご開帳だァ…………あァ?」
凛「ジ、ネ゛」
アイツの顔が見えたと同時に、歯を噛み締めて剣のスイッチを入れた。
剣は一瞬で伸び、アイツの脳天を貫いた。
「アァア? な……」
私の口に肉を貫いた感触が伝わった。
凛(あっ、はぁっ!! 刺さった!! 刺さってるぅ!!)
何が起きているのか分かっていない顔。
凛(死ねェェェッッッ!!)
私は剣を咥えたまま、首を全力で下に振り下ろした。
口に肉の裂ける感覚が伝わり続ける。
私の脳内で何かがスパークし続け。
仏像の顔が半分になって、半分になったところから血が溢れて、それが私の目に焼きついて。
仏像は体の中身を撒き散らしながら真っ二つになった。
凛「ごほっ!! げほぉっ!!」
私の口から剣がずるりと抜け落ちる。
凛「けほっ……ふ、ふふ……」
笑いがこみ上げる。
凛「ふふふ……はははっ……あはっ、あははははははははは!!」
グチャグチャになった仏像を見て笑いが止まらない。
凛「ざまあみろ!! 何が私を殺すだ!! 私は死んでない!! 死んだのはアンタだっ!!」
今だかつて味わったことの無い爽快感が私を包み込む。
凛「最ッ高ッ!!!! ナニコレ!!?? 気持ちよすぎッッッ!!!!」
もう痛みさえ快感となっている。
こんな気持ち一度も味わったことが無い。
殺したくて殺したくてたまらなかった相手を殺した瞬間。
私を殺すと言った馬鹿を、私をこんな状態にしたクズを、私にちょっとでも恐怖を与えたゴミをこの手で処分することができた瞬間。
この世のものとは思えないくらいの快感が私を襲った。
身体中が気持ちいい。全身が痙攣し、お腹が恐ろしく熱い。
私はこの快感を転送されるまでずっと味わい続け。
私の頭の中は幸福感と満足感で満たされていた。
気がついたら私はガンツの部屋にいた。
凛「……あぁ、戻っちゃったんだ」
さっきまで感じていた満足感が薄れていく。
凛「……もう認めないといけないかな」
私の心の変化。
凛「私、アイツを殺して、気持ちよくなって、感じちゃった……」
顔が少し赤くなる。
それと同時に恥ずかしさがこみ上げる。
凛「……普通の女の子どころか、変態じゃん、私」
でも、それでもいいかなと思ってしまう。
あんな快感を味わった後、あれを否定することなんて出来ない。
凛「でも、不思議。認めちゃったらこんなにすっきりするなんて」
もう私が悩んでいた些細なことは、私の中から消えてなくなっていた。
これも私なんだって認めたらすごくすっきりした。
凛「ふふっ、悩んでたのが馬鹿みたい」
思わず笑ってしまう。
本当に私はくだらない事で悩んでいたんだなと思い。
これからは自分に正直に生きていかないと行かないと思っていると、部屋に転送されてくる人を見た。
凛「あ、誰だろう?」
徐々にその輪郭が現れる。
玄野さんだった。
凛「あ……よかった。死んでなかったんだね」
ほっと一息をつく、最後に私が見たときには血を流しすぎて死んでもおかしくない状態だったのだから。
だけど、玄野さんの様子がおかしいことに気がつく。
玄野「あああッッ!!」
凛「?」
玄野「ハアッ!! ハアッ!!」
凛「どうしたの?」
玄野「ハアッ ……ハァッ、……あ? し、渋谷、さん?」
凛「うん。今日のゲームは終わったからもうそんなに怯えなくても大丈夫だよ」
玄野さんは涙を流しながら、必死な顔をしていた。
怯えているのだろうと思い、気休めでも声をかけてあげることにした。
玄野さんは少し落ち着いたようで、私に問いかけてくる。
玄野「終わっ……た……のか……?」
凛「何とかね」
玄野「岸本も…………アイツも……北条も……死ん……だ……岸本…………」
凛「……」
そうだった……。
岸本さんも、加藤さんも、他の人も沢山死んでしまった……。
今回は人が多く死にすぎた……。
玄野「……なんで、岸本……くそ…………」
玄野さんが項垂れている。
私はどう声をかけていいかわからないでいたが、その直後にガンツから音が鳴る。
『ちーーーーーん』
『それでは ちいてんを はじぬる』
凛「え?」
玄野「はァ!? ちょ、ちょっと待て!!」
『くろのくん 8てん』
『Total 38てん あと62てんでおわり』
玄野「おいッ!! 待てッて!!」
採点が始まっている。
それじゃあ、まさか……。
『りんちゃん 50てん』
『Total 97てん あと3てんでおわり』
凛「………………え?」
点数を見て私は固まった。
玄野さんは何かを叫んでいるけど、耳に入ってこなかった。
私の目には残り3点で終わりと表示された採点結果。
凛(後3点で終わってしまうの?)
あの時に感じた感覚、あの気持ちよさ。
凛(もう次で終わり?)
それも次で終わってしまう。
凛(……)
終わったらもう、あれを味わうことができない……。
凛(……もう一度)
味わいたい。あの感覚を。
凛(……ううん、何度でも)
凛(……って、何考えてるの私?)
凛(……次で終わるのがいいよね)
凛(……終わったら普通の生活に戻れる)
頭を振る、それでも私に芽生えたこの気持ちは消え去ることは無かった。
凛(……でも)
凛(……普通に生きててあんな気持いい経験なんてできるのかな?)
凛(……あんなに必死に、真剣にやれることってここから先、この部屋以外で見つかるのかな?)
凛(……どうしよう、私すごく迷ってる)
そうやって考えていたら、玄野さんがとんでもないことをしようとしているのを見て、私は慌てて止めに入る。
玄野「ガンツ!! 聞けッ!! 加藤と岸本とあと俺の彼女を生き返らせろ!!」
玄野「おまえ、死ぬ寸前の人間をここに連れて来たんだろッ!! 今言ッた3人ここに出せるはずだ!!」
玄野「早く出せッ!! 出さないとお前を撃つぞ!? おどしじゃねーぞ!!」
ガンツに向かって銃を構える玄野さんを羽交い絞めにしてガンツから引き離す。
凛「ちょ、ちょっと! 何やってんの!?」
玄野「なッ!? は、放せ!! 何するんだよッ!!」
凛「放せって、放したらガンツに何するつもり!?」
玄野「決まってんだろ!? コイツがさっき言ッた3人を出さなかったらぶっ殺してやる!!」
凛「はぁっ!? 何考えてんの!?」
この人は一体何を考えているんだろう?
ガンツを殺す? そんな事をしたら……。
凛「次できないでしょ!? そんなことしたらさ!」
玄野「はァ!? 何言ってんだよおまえ!?」
凛「だから次のゲームが出来なくなるじゃん!!」
玄野「な、何言ってんだ? おまえ……」
凛「あ……」
口に出ていた。
ああ、そういうことか。
私の本心は……。
凛「はぁ……私ってこんな人間だったんだね」
玄野「おい……何を……」
凛「ま、いっか。これも新しい自分の発見ってことかな」
玄野「だから……一体……」
私は無理矢理コイツを部屋の外に連れ出し、部屋の出口を開け外に投げ飛ばす。
玄野「おいッ!? 待……」
ガチャンと出口のドアを閉めた。
これでもう大丈夫。
私は再びガンツの前に戻り、黒い球体を優しく撫でる。
凛「ふふっ」
凛「これからは自分に正直に生きる、そう決めたからね」
凛「これからもよろしくね、ガンツ」
黒い球体に私の笑顔が映りこんだ。
それと同時に、私の中にあった誰かの笑顔が消えていった。
大事なものだったのかもしれない、だけど今の私にはこの黒い球体より大事なものは存在しなかった。
あばれんぼう星人・おこりんぼう星人編 終了。
今日はこの辺で。
最終章予告
葉山「やったか?」
八幡(?)「GYAAAAAAAAAAA!!!!!!」
八幡「あぁ、俺は…好きなのか…。」
闇八幡「俺はお前だ!」
闇八幡「黒幕はお前をりようしている。」
八幡「俺、比企谷八幡は…を愛し続けます。これから先ずっと一緒にいてくれないか?」
そしてすべての交錯した世界は加速して行く
多重人格者の俺の復讐するのは間違っていない
最終章
『闇夜を切り裂き未来を手に掴む。』
最近すごく気分がいい。
今まで何をするにしても、いまいち目標を持てずに流されるようにやってきていた。
でも、今は違う。
私はやりたいことを見つけることが出来た。
自分が本気で打ち込めることを、あんなにもやりがいを感じれるものを。
私はようやく生きがいと言うものを見つけることが出来た。
これから私が生きていく上で必要なもの。
それが分かって、私の日々は色が変わって見えるようになった。
そんなある日、学校でいつものように帰ろうとしているところを友達に呼び止められた。
「凛ー! ちょっといい?」
凛「どうしたの?」
「なんか校門前に、待ってる人がいるよ」
凛「?」
「なんかすっごい美形の人だったけど、もしかしてさー、カレシだったりするの!?」
凛「は?」
茶化し始める友達を適当にあしらって窓から校門のほうを見てみる。
確かに誰かいる。男の人だよね?
凛(誰?)
遠目から見るその男の人の姿は今まで見たことも無い人だった。
「何? どうしたの?」
「聞いてよ! 凛がカレシに迎えに来てもらってるんだよ! しかも、チョー美形のカレシに!」
「ええーー!! マジ!? どこどこ……キャー!! 何あれ! すっげーイケメン!!」
「でしょ! 凛ーー、あんなオトコをどこで捕まえたのよ! このーっ!」
私が窓の外から見ていると、友達が寄ってきて同じように男の人を見て勘違いを始める。
面倒くさくなってきたから鞄を持って教室を出る。
後ろからは私をからかうような声が聞こえ続ける。
凛(もう、勘弁してよ……)
私は学校を出て、私を待っているという男の人がいる校門まで歩いた。
凛(私を待ってるって何の用かな?)
凛(とりあえず少しだけ話を聞いてみよう)
私は校門前で私を待っているという男の人の前に来ていた。
背が高くて長髪の男の人。
やっぱり知らない、見たことも無い男の人だった。
「ん……君は……」
私に気付いた男の人が声をかけてきた。
凛「えっと、あなたが私を待ってるって人?」
「君が、しぶやりん……さんかな?」
凛「そうだけど」
私が返事をすると、男の人は私を見てくる。
何というか観察するような視線。
気持ち悪い視線ではないけど、探られているような視線だった。
凛「えっと、私に何か用? 私、あなたを知らないんだけど?」
「ああ……ええと……」
凛「?」
「少しさ、話をしたいんだけど、今から時間あるかな?」
凛「無い」
即答をすると、少し目を大きくしている。
私がこの人と話すことは無いし、帰ってやることは沢山あるのだから。
そのまま帰ろうと足を進めると、男の人は着いて来て話しかけてくる。
「本当に少しだけでいいんだ。ダメかな?」
凛「私忙しいし、少しだけなら今話せば?」
「……君は黒い玉が置いてある部屋を、知ってるか?」
凛「……は?」
思わず立ち止まりそうになった。
「死者が集まってくる部屋」
立ち止まってしまう。
次に聞いた言葉で私は男の人の顔を見てしまう。
「ガンツって知らないか?」
凛「ガンツ……」
男の人を見ながら私の頭の中で高速で思考が巡っていた。
凛(この人、何? 何でガンツのことを知ってるの?)
凛(あの部屋でこんな人見てないし……まさか、他のガンツでゲームをやってる人?)
凛(西は他にもガンツはあるって言ってたし、情報共有もされているって言っていた。この人がもし他のガンツでゲームをしている人なら、私と情報を交換する為に来たという事……?)
凛(それなら、話して見ても……いや、そうじゃなかった場合は、ガンツの情報を私が漏らしたという事になって私の頭の爆弾が作動するかもしれない)
凛(この人がなんでガンツのことを知っているのか……それは分からないけど、今はわからないフリをしておかないとまずい……)
男の人は私の一言を待っている。
考えが纏まるのは一瞬だった、男の人の顔を見てすぐに私は話し出したように見えただろう。
凛「えっと……あなたの言っている事、よくわからないんだけど……」
「……知らないって事かな?」
凛「知らないというか……それって何かのドラマとか映画の話? 悪いけど最近あんまりテレビ見てないから」
「……そうか、……いや、知らないならいいんだ。忘れてくれ」
男の人は私の返答を聞いて立ち止まった。
私は一度振り向いて男の人を見るが、男の人は少しだけ何かを呟いて去っていった。
「……違う、か。どう見ても殺しが趣味の女には見えないし、人違いってことだな……」
「やッぱり、玄野だな……アイツは恐らく……」
聞えた言葉に頬を掻きながらどう言う意味かと考える。
凛(やっぱり知ってる。殺しが趣味の女って言うのは違……っても無いか)
凛(それに玄野って、アイツのことだよね。アイツのことも知っている、他のガンツじゃない、私のガンツの事を知っているんだ)
凛(でも、どうやって……知る方法なんて無いはず……)
凛(あの部屋の誰かが情報を漏らした? でも、そんな事をすれば爆弾が……)
凛(……ま、怪しいのは一人しかいないけど、もうアイツも前回死んじゃったし聞くことも出来ない)
凛(……玄野って言ってたし、アイツとも会っているかもしれないから、今度のゲームで聞いてみよう)
凛(後は、少し調べてみようかな。ネットで検索して出てくるとは思えないけど、西が情報をネットで共有しているって言ったたし、色々調べてみよう)
私はそこまで考えて、頭を切り替える。
いつもの特訓以外にもやることが一つ増えた。
でも、これがガンツに関することなので特に不満を感じることもなかった。
そして、ガンツのことを考えて、前回のゲームから2週間くらい経っていることを思い出した。
凛(あぁ……次はいつになるんだろう?)
凛(毎日毎日、次のことを考えながら特訓をしてるのに、まだ呼ばれない)
凛(もう、ウズウズして堪らないのに……早くこないかな……)
凛(早く、あの日みたいに……)
凛(次は……どんなのが……)
次のことを考えて息が荒くなっていく。
次はどんなのがターゲットなのかと、次は前回とは別の武器で殺してみようかなと、次はどれくらいの気持ちよさを味わうことが出来るのかと。
熱を持った体で家に帰り、いつものように夜特訓をしていると、私の首筋に寒気が襲った。
その感覚で、私は遂に来たのだと、やっと来てくれたんだと歓喜する。
待ちに待った狩りの時間。
私は今日の狩りを妄想しながら転送された。
4.チビ星人 + Extra mission 編
今日はこの辺で。
ガンツの部屋に転送された私。
目の前には黒い球体、ガンツ。
これから始まる狩りを思うと、鼓動が高鳴る。
期待が膨らみ続け、押さえきれなくなりそうだったが、今はまだ我慢。
もう少し、もう少しでまたあの快感を……。
はやる気持ちを抑えながら、私は壁を背にして腕を組む。
しばらくすると、もう一人転送されてきた。
前回、ガンツを殺そうとしたアイツ、玄野だった。
玄野「あ……」
凛「……」
私がガンツを見続けていると、玄野は私に話しかけてきた。
私から特に話す事は無かったけど……あ、さっきの男の人のことは聞いてみてもいいかもしれないかな?
そうやって考えながら、私は玄野の話を聞き始めた。
玄野「あ、あの、さ。前回のことなんだけどさ」
凛「?」
玄野「あの千手観音をやッたのッて……やッぱり、きみ、なのか?」
凛「そうだけど?」
玄野「!! あ、あんなのをどーやッて……」
あの時の事が鮮明に浮かび上がる。
凛「どうって……アイツの頭に剣を刺してそのまま縦に切り裂いてやったんだけどさ……」
やばいかも……体が熱くなってきた。
凛「アイツを半分にしてやったら、中身がグチャって落ちてきて、ふふふっ……何が起きてるか分からない顔してたなぁ……うん、馬鹿みたいな顔してた」
玄野「な、なん、だ……何を言ッてンだ……」
凛「? アンタが聞いたんでしょ? アイツを殺ったときのことを」
玄野「ど、どーして、そんなに嬉しそうに話すんだよ……なんで、笑えるんだよ……」
凛「?? 敵を殺せて嬉しかったし、楽しかったから笑ってるんだけど」
玄野「き、きみは、この殺し合いが楽しいって、言ッてンのか……?」
凛「……」
少しだけ思うところはあった。
だけど、もう認めてしまったから、回答はひとつしかなかった。
凛「ま、そうなるのかな」
私の回答に玄野は目を見開いている。
玄野「な、何なんだ……? こ、殺し合いなんだぞ……? きみも殺されるかもしれないんだぞ……?」
凛「殺されないように毎日特訓してるし、相手を殺すための特訓もしてる。問題ないよ」
玄野「違げーよ!! そんな事を聞きたいんじゃねーッて!!」
まあ、玄野が聞きたいことは分かる。
少し前の私なら似たようなことを考えていたと思うし。
凛「アンタが言いたいこと分かってるつもりだよ」
凛「こんな殺し合いを何で楽しんでいるんだ? こんな理不尽な殺し合い怖くないのか? なんで殺したヤツのことをそんな風に話すことができるんだ? お前は一体何を考えているんだ? そんなところでしょ?」
玄野「なッ……」
凛「少し前……前回のゲームが始まる前までは私もそんな事考えたかもしれないけどさ、もう止めたんだよね、そういうどうでもいいことを考えるのは」
玄野「ど、どーでもいいって……」
凛「私、このゲームが好きみたいだからさ、楽しもうと思ったんだ。確かに殺されるかもしれないってのはちょっとだけ怖いけど、それ以上に、私の敵を殺したときのあの……達成感とかがもう忘れられないんだよね」
玄野「な、なん……」
凛「まあ、頭のおかしい変人だって思ってもらえればいいよ。私もそこらへんは自覚してるし、認めたから。最初は嫌だったけど、ね」
玄野「い、意味わかんねぇ……なんで、そんな事を……」
凛「これ以上話しても、理解できないだろうし、時間の無駄」
玄野「なん……だよ……そんな……」
話を終わらせようと思ったが、あの男の人のことを聞いてみることにした。
凛「そういえば、アンタって、ガンツの事を知ってる変な男の人に心当たりある? 背が高くて長髪で整った顔の男の人」
玄野「え……あ、……もしかして和泉の事か?」
凛「やっぱり知ってたんだ……アンタもいきなり声をかけられたの?」
玄野「え……声を? いや、あいつは転校生で……俺の学校に転校してきた奴なんだけど……」
凛「ふーん、転校生ね。さっき言った特徴だけど分かったって事は、アンタにもガンツのことを聞いてきたって事だよね」
玄野「あ、ああ」
凛「……」
ガンツのことを調べる男……。
しかもこの部屋のガンツを……。
あの男のことを考えようとしたときに、私の思考は中断される。
『あーたーーらしーいーあーさがきたーきーぼーおのーあーさーがーー』
来たっ!!
鼓動が高鳴る、ドキドキが止まらない。
玄野「は?」
待って待って待ち続けたこの瞬間。
期待と興奮で全身が震えている。
玄野「は? お、おい……ちょ、ちょっと待て……」
『てめえ達は今からこの方をヤッつけに行ってくだちい』
『チビ星人』
『特徴 つよい 根にもつ』
『気にしてること 背の低さ』
『特技 人マネ 心を通わす』
こいつが今回の…………。
自然に笑みが浮かぶ。
玄野「おッおいッ! 今回、二人だけかよッ!?」
私は銃を手に取り、ホルスターに納めていく。
玄野「おい!! ムチャクチャだろッ!? 二人であんないっぱい倒せッてかよ!?」
小さい丸銃、Y字銃、長い砲身の銃。
それぞれ2、2、1でもっていく。
玄野「やべッ、やべえッ」
玄野「お、おい! 渋谷さん! あっちに行ったらすぐ合流するぞ!!」
コントローラーも持って、後は剣とバイク。
玄野「おいッ!! 渋谷さん!! 聞いてンのか!?」
剣は2本にしておこう、バイクは初めて使う、最初はバイクを走らせてみよう。
玄野「おいッ!! 聞けよッ!! ……って、何だ、バイク……?」
前回は剣で止めを刺したから、今回は銃。
どっちの銃にしようかな。
ふふふ……。
玄野「こんな部屋……ッ!! 来たッ!!」
玄野「渋谷さんッ!! すぐ合流だぞッ!! わかッたな!? わかッたら…………」
あ、バイクを持っていくのはどうすればいいんだろう?
……座っていればいいのかな?
私は、バイクに乗り、コントローラーを操作して透明となる。
まだかな。
まだかな?
まだか……来たぁっ!!
視界は移り変わり、私は待ち焦がれた狩りの舞台に転送された。
雑居ビルが立ち並ぶ夜の町。
私はビルとビルの間にある隙間に転送されていた。
座っていたバイクは持ってこれたみたいだ。
透明化も……バイクにも効果がある、バイクの周りの空間が波打つように揺らめいている。いつもの透明化している状態だ。
凛「ふうぅぅぅ…………」
まずは深呼吸。
興奮していて、待ち焦がれた瞬間だけど、落ち着かないといけない。
敵の位置、そして今回新たに使う武器の確認。
コントローラーを確認すると、少し離れた場所に1,2,3……結構多い、10の反応。
コントローラーを常時見える位置において、バイクを確認。
モニターが3つある。調べているとそれぞれにケーブルを繋げるような穴とスイッチがある。まずはスイッチを押してみると、モニターの2つはバイクの前方と後方を映し出した。
もうひとつのモニターは電源自体は入っているみたいだけど、何も映していない。
何度かスイッチを押してみるが、映し出されることは無かったので、電源オンの状態にして、次は穴を調べてみる。
3つとも同じ穴、3つのモニターに同じ穴が1つずつ空いている。
私はその穴を見て、コントローラを見る。
コントローラーには接続する端子みたいなものが出ている。
何の為にあったのかと思っていたが、もしかしたら……。
私はコントローラーをモニターの穴に合わせるように近づけ。
凛「……繋がった」
今まで何も映っていなかったモニターにコントローラーのレーダー画面。
敵の位置が表示されていた。
凛「……そういうこと。これなら運転しながらも見やすいし、悪くないね」
コントローラーの小さな画面よりもこちらのほうが見やすい。
次は、このバイクの動かし方。
私はバイクに乗り、ハンドルと思われる場所を捻る。
凛「動いた!」
すると、ゆっくりと動き始る。初めて運転するにも関わらずバランスとか何も考えなくても真っ直ぐ進む。
ビルの隙間をでて、道を走らせると一瞬で加速し、100メートルくらい進んでいた。
凛「凄いスピード……モニターで敵を確認して、一気に近づいて攻撃することも可能ってことか……」
バイクの性能をもう少し調べてみたかったけど、私はモニターを見て調べるのはもう終わりにすることとした。
モニターに映っている敵の数が3つになっていたからだ。
凛「……アイツの仕業か」
コントローラーをバイクから外し、跳躍の準備。
敵はビルの上にいる。
凛「あれだけ待って、狩りを出来ずに今日はお終いなんてなった日には、私どうなっちゃうかわからないよ」
この時だけを考えて毎日頑張っているのに、お預けなんて貰ったらもう……。
凛「早く行かないと、獲物がいなくなっちゃう」
私は足に力をこめ、地面を踏み抜いた。
そのままビルを蹴り、何度もビルを蹴り、ボールが跳ねるようにビルの隙間を進んでいく。
ビルの隙間を抜け、ビルの屋上から屋上に飛び移り続け、ようやく見つける。
人型の宇宙人3匹に追われている玄野の姿。
私は宇宙人に銃を向けようとするが、不意に頭の中に響いてきた声に気を取られてしまう。
『もう一体いるぞ』
『我等の同胞を破壊した奴の仲間か』
『解体しろ、もう一体も解体して、同胞の無念をはらすのだ』
凛(なにこれ? 頭の中に声が……)
『あそこだ』
『我等が行く』
『気をつけろ、奴も罠を張って待ち構えているかもしれない』
凛(テレパシー? まあ、なんでもいいや)
私の前に2体の宇宙人が現れた。
凛(やっと、狩れる)
凛(狩の時間だ)
私は2体の獲物を見据えて、自然に釣りあがった唇を舌で嘗め回し、
獲物を目がけて飛び掛った。
このへんで。
まずは一匹をと、飛び掛りながら銃を向ける。
だけど、私の視界から忽然と宇宙人は姿を消した。
凛「!?」
次の瞬間、上からの衝撃。
スーツを着ているのに、かなりの衝撃を受ける。
かすかに見えたのは1匹の宇宙人。
銃を向けようとしたら、今度は下からの衝撃が襲う。
私はそのまま空中に吹き飛ばされ、空を舞った。
凛(み、見えなかった)
空中で回転しながら宇宙人の動きに息を呑む。
凛(前回だったら、もう死んでる)
そして、油断と敵を舐めていたことに反省する。
凛(前回も油断して死に掛けた)
熱を持った頭に冷静な思考が戻ってくる。
凛(アイツ等の位置……)
回る視界の中、敵の姿を探すが見えない。
すぐにレーダーを取り出し、位置を確認。
ビルの陰にいる。
凛(完全に隠れてる……銃を使えない……)
凛(それなら……)
私は手に持った剣を伸ばしビルの屋上の物陰を薙ぎ払った。
『ゴハッ』
『何?』
『どうした? 何が起きた?』
剣の刃を縮め屋上に着地する。
手ごたえは、あった。
『同胞が破壊された。さっきの奴とは違う武器を持っている』
『また同胞が。2体とも許さない、必ず破壊する』
狩りの緊張感と共に快感が襲う。
だけどそれを感じていることが出来ない。
まだ、1匹残っている。
もう1匹の位置をレーダーで確認、また物陰にいる。
私は同じように剣を伸ばし横一文字に薙ぎ払うが、今度は宇宙人が私の横から殴りかかってきた。
凛「ぐっ!?」
『お前の手は分かっている、もうそれは通じない』
殴られた衝撃で別の屋上にある大きな看板に突っ込む。
また、姿を見失ってしまった。
凛(動きが速過ぎる……それにこっちに見えないように動いて狙いが合わせられない……)
コントローラーを見ながら敵の位置を確認するが、敵は一箇所に留まっておらず高速で動いているようだった。
凛(銃の危険性はもう知られているみたいだし、あのスピードで動かれたらロックオンもできない)
凛(剣での攻撃も避けられてしまった。恐らく普通に攻撃をしても当てることが出来ない)
凛(完全な奇襲攻撃か思いもよらない攻撃で当てるしかない……透明状態でも何故か見つかっている以上、予想も付けられない攻撃を……)
また衝撃が襲った。
背後からの一撃、看板を貫通して敵の手が一瞬見えた。
私は吹き飛ばされて別のビルの屋上に叩きつけられた。
凛「かはっ!」
また攻撃を受けてしまった。
だけど、一瞬は見える、敵の姿を一瞬だけ見ることが出来る。
それならば、レーダーを見続けて、敵が来る方向さえわかれば1秒か2秒前に敵の姿を捉えることができるかもしれない。
その一瞬があれば……いや、敵の学習能力はかなり高そう。
あのスピードなら一瞬の間があったら避けられてもおかしくない。
敵の動きを止めて、確実に殺す。
私が今使える道具、レーダー、銃、剣……いける。
ひとつの作戦が頭に浮かんだ。
凛(これからはレーダーに集中)
私は視線をレーダーに固定して、左手の銃を下に向けて上トリガーを引く。
角度を少し変えてまた引く、どんどん引く、引き続ける。
敵はまだ近づいてこない。
数十回トリガーを引いた。次は下トリガーの指とレーダーに集中。
敵は高速で動いている。
レーダーの光点が凄い速さで動いている。
その光点がこちらに向かって動いた。
瞬間、私の指はトリガーを引いて、敵が襲ってくる方向に視線を動かす。
1秒、敵の姿が見えた。
2秒、私の体に敵の拳が当たっている、私は少しだけ飛んでその拳を受け入れる。
3秒、私の体は後方に吹き飛ばされた。敵を眼前に後方に吹き飛ばされる。
と、同時に今までいたビルの屋上が爆発した。
敵は爆発に巻き込まれて体制を崩している。
私は敵に向けている剣のスイッチをいれて。
一瞬で伸びた剣に敵は貫かれた。
『カハッ』
胸に刺さった剣を引き上げる。
『ゴッ……』
頭が割れて、血が飛び散った。
凛(あっ……綺麗な花みたい)
場違いな思考が訪れるが、すぐに思考を戻す。
凛「後、一匹」
襲ってくる快感に身をゆだねるのは最後の一匹を殺してから。
まだ、まだ早い。
脳内で何かが噴出しているが、それを抑え私は最後の一匹を殺すために空を駆けた。
私はコントローラーを取り出して眉を顰める。
凛「壊された……」
ドロリと液体が溢れ出して何も表示されていない。
最後の攻撃で破壊されてしまったようだ。
凛「仕方無い、自力で探すしかないか」
レーダーが破壊されてしまった以上、自分で探すしかない。
さっき勝てたのはレーダーのおかげだったから、レーダーが破壊されて次はさらに慎重にならなければならないと思った。
姿を隠しながらと考えたが、姿を隠す前に私のいるビルの屋上に玄野が飛び移ってきた。
玄野「うわああああああああああァッ!!」
私は玄野が飛んできた方角を見る。
玄野「ハァッ!! ゼエッ!! あ、あああああッ!!」
最後の一匹は玄野を追っていった。つまり……。
玄野「あッ!! たっ、たす……」
剣を構える、居合いの構えを取り、姿を見せるであろう獲物に集中する。
凛(見えた!!)
私の目に獲物の白い姿が見えた瞬間、渾身の一撃を放っ……。
玄野「助けてくれェッ!!」
私は横からの衝撃に体勢を崩してしまった。
玄野が私に助けを求め飛びついてきている。
私の刃は獲物の腕を掠めただけで当たらなかった。
凛「~~~ッ!! 邪魔ッ!!」
玄野を蹴り飛ばし、獲物を探すが、すでに視界から消えていた。
玄野「うァッ!!」
凛(ちぃっ! まずい……仕留められなかったし、私の姿を見られてしまった)
凛(敵はどこから襲ってくる……)
私は全方位に集中しながら敵の攻撃を警戒していると。
先ほど聞えた、頭の中に響く声を聞いた。
『同胞の信号が途絶えた。まさか俺以外の全ての同胞が破壊されたというのか』
『お前達は許さない。必ず追い詰めて破壊する。お前達の信号はもう覚えた』
『まずは俺の同胞の多くを破壊した男、その後に女、順番に破壊してやる』
凛「……グダグダ言ってないで、早くかかって来なよ」
『お前の手がまだ分かっていない、お前は俺の同胞をその男同様罠にかけて破壊したのだろう』
凛「罠? 何言ってんの?」
『この場は引く、お前達の巣を見つけ出して、巣にいるお前達の同胞も全て破壊する』
凛「……引く? 巣?」
『俺の同胞が全て破壊されたのだ、お前達だけを破壊しても割に合わない』
凛「まさか……」
『覚えておくがいい、お前達を必ず見つけ出して、お前達の同胞も全て破壊する』
凛「っ!!」
私はビルの屋上から跳躍して辺りを探すが、もうアイツの姿は形も無かった。
そうやって探し回っていると、私の視界が切り替わり、ガンツの部屋に戻ってきていた。
凛「ちょっと……待って……」
玄野「ハァッ!! ハァッ!!」
『ちーーーーーん』
凛「ちょっと!! 待ってよ!!」
玄野「ハァッ……ハァッ……お、終わった……」
『ちいてんを はじぬるまえに』
凛「何逃げてるの!? ふざけんなっ!!」
玄野「!?」
『ヤッつける方を 逃がちないで下ちい』
凛「こっちは我慢してんのよ!? 我慢して我慢してもうちょっとだったのに!!」
玄野「な、なん……」
『今回てん数はんぶん というわけでちいてんです』
凛「あああああっ!! もうっ!! 信じられないっ!!」
玄野「お、お前、何を……」
『くろの 10てん ビビりすぎ』
『Total 48てん あと52てんでおわり』
玄野の声が聞こえて思い出した。
そうだ、コイツが邪魔をしなければ。
凛「アンタのせいでしょ!? 何で邪魔したのよ!?」
玄野「じゃ、邪魔って、俺は……こ、怖くて……」
『りんちゃん 3てん』
凛「ふざけんな!! 怖いなら隠れて出てこないでよ!! アンタが邪魔したせいで私はアイツを殺し損ねた!!」
玄野「な、なんなんだよッ! おまえ、何怒ってんだよ!?」
『Total 100てん 100点めにゅーから選んでください』
凛「だから言ってんでしょ!? 私はアイツを殺せなくてイライラしてんの!! 欲求不満が爆発しそうなの!! ああああっもうっ!! 頭がおかしくなりそうっ!!」
玄野「こ、殺せなくてッて……何なんだよおまえ……頭おかしいだろ……」
凛「はあぁっ!? アンタ邪魔するだけじゃなくて、私を馬鹿にしてくるワケ!?」
玄野「ば、馬鹿にするって、おまえおかしいよ、普通じゃないよ……」
凛「~~~ッッッ!! もう限界!! ガンツ!! 聞いてる!?」
玄野「お、おい、今度は何を……」
凛「次はコイツと別にして!! こんな奴いても邪魔なだけ!! 私一人でいい!!」
玄野「!? お、おまえ何言ってんだよ!?」
凛「後、すぐに次のゲームを始めて!! 出来るでしょ!? 私もう限界!! 色々限界、早く、早くっ!!」
玄野「……な、何なんだよ、わけわかんねぇ……」
私はガンツに叫び続けるが、ガンツは反応しない。
そこでやっと気がついた。
私の点数の表示が100点となっていることに。
100点メニュー、そんなの選択肢はひとつしか無い。
凛「2番!! 選んだから早くして!! 次のゲームを早く!!」
玄野「な、ンだ? 今の……100点メニュー?」
凛「アンタ邪魔!! さっさと出てけ!!」
私は玄野を部屋から引きずり出して出口を空けてぶん投げた。
玄野「うォああああああああ!?」
ガンツの前に戻りもう一度お願いする。
凛「お願いガンツ……私もう一度やりたいの……だからさ……」
ガンツの前で項垂れながらお願いをし続ける。
すると……。
『あーたーーらしーいーあーさがきたーきーぼーおのーあーさーがーー』
その音楽に勢いよく顔を上げる。
『りくえすとに答えまして』
『もう一度行ってくだちい』
その文字を見て震える。もちろん嬉しくて。
『この方をヤッつけに行ってくだちい』
『デカ星人』
『特徴 でかい おおきい』
『気にしてること 背の高さ』
『特技 ふみつぶす』
凛「ふ、ふふふ、ふふふふふふ…………」
『100点めにゅーの武器は よういしておきました』
凛「ありがとう……ガンツ……」
私は嬉しくて嬉しくてたまらなかった。
今度こそ誰にも邪魔されずに、確実に獲物を殺すことが出来るんだ。
もう油断はしない、何匹いても確実に殺して、最後の一匹をじっくりと味わう。
準備も怠らない、奥の部屋にりんちゃんと書かれた大きなケースが用意してあり、中に入っていた大きな銃も持っていく。
そして、私の視界は切り替わり、夜の町へと転送された。
――――――――――――
――――――――
――――――
――――
――
凛「ンッ……はぁっ……」
凛「……んっ、ここは……」
凛「ああ……戻ってきたんだ」
まだ全身に残る快感に身震いし、私は身を起こした。
さっきまで感じていたあの感覚、獲物を殺しつくした瞬間に感じたあの快感。
凛「前回ほどじゃなかったけど、我慢してただけあってすっごくよかった……」
最後の一匹を剣でみじん切りにしたとき、電気が走るような快感が全身に走った。
凛「最後も良かったけど、この新しい銃で潰す感覚もくせになっちゃいそう」
凛「ぷちっ、ぷちっって……ビニールのぷちぷちを潰すみたいな感じ」
凛「やっぱり、もう戻れないな……ふふっ……」
新しい銃を触りながら、部屋に横たわりガンツを見る。
『ちーーーーーん』
『それでは ちいてんを はじぬる』
凛「あ、アイツ等何点だったのかな?」
『りんさん 25てん』
『Total 25てん あと75てんでおわり』
凛「25点か、全部同じ姿だったから1匹5点かな?」
凛「ま、いっか。点数が貯まっても、どうせ次も、その次も、ずーっと2番を選ぶだけなんだし」
ごろりと天井を見上げ、私は笑う。
凛「もう戻れない、私の居場所はここ」
凛「これから、楽しみだな」
凛「ふふふっ」
私はこれから先、この部屋で狩りを行い続ける。
先に破滅しか無いとわかっているのに私は歩き続ける。
もう止まれないし、止まるつもりも無い。
私はゆっくりと瞼を閉じた。
真っ暗な闇の中、何かを殺すことによって得られた快感と共に私の意識は堕ちていった。
今日はこの辺で。
薄っすらと意識が戻ってくる。
重い瞼を徐々に開けていくと、私の目に光が差し込んでくる。
見覚えの無い天井、そして照明。
凛「……う、ふあぁ……」
欠伸をしながら目をこする。
まだ意識がはっきりしていない。
凛「あれ……? ああ……、寝ちゃってたのか」
ようやく自分に意識がはっきりとして、ガンツの部屋にいるのだと気付いた。
凛「昨日は2回狩りに行って……疲れてたみたい」
しかし、眠ったおかげで、頭はすっきりとして心地よかった。
凛「時間は……10時か。少ししか眠ってなかったんだ」
凛「って、早く帰らないと! 最近夜遅いって言われてるのに、こんな時間に帰ったら何を言われるかわかんない!」
私はいつものように、銃と剣とコントローラーを鞄に入れていると、新しく手に入れた銃の存在に気がつく。
凛「あ、これ……どうしよっかな……」
凛「色々試してみたいけど、これかなり大きいし、部屋に隠しておくことができないよね……」
凛「いつもの武器だけ持って帰ろう、この銃は次のゲームで試せばいいし」
私は鞄を持って立ち上がる。
凛「ふぅ、今日はあれだけ楽しめたからすっきりしてる、体も軽い」
帰って何を言われるかは怖かったけど、頭の中はすっきり爽快な状態。
凛「やっぱりああやって敵を狩るのって楽しいし、何より気持いいんだよね」
今日の狩りを思い出す。
凛「今日はチビを2匹、デカを5匹……計7匹って新記録じゃん」
部屋を出て、出口に手をかけて、そのまま固まった。
凛「……あれ? チビって……」
凛「……一匹逃してしまった」
冷たい汗が噴出し始める。
凛「……こんな事一度も無かったけど、逃がしてしまった場合ってどうなるの?」
凛「……点数は半分になったけど、また狩りに……ううん、追加の狩りは違う奴だったから、同じのはもう無いって考えたほうがいいのかな?」
部屋に戻る。
凛「ガンツ、あのチビの最後の一匹はどうするの?」
返事が無い。
凛「また狩りに行ったりしないの?」
無反応。
凛「……」
頭の中でチビが最後に言っていた言葉が浮かんでくる。
『この場は引く、お前達の巣を見つけ出して、巣にいるお前達の同胞も全て破壊する』
『俺の同胞が全て破壊されたのだ、お前達だけを破壊しても割に合わない』
『覚えておくがいい、お前達を必ず見つけ出して、お前達の同胞も全て破壊する』
汗が頬を伝って床に落ちた。
喉がカラカラになってくる。
凛「……アイツ、巣とか同胞とかって言ってた」
凛「巣……同胞……家と家族……?」
凛「っ!」
私は鞄に銃と剣とコントローラーを詰めれるだけ詰めて、コントローラーを操作し透明となり、出口を飛び出して空を駆け一直線に家に向かった。
ビルを越え、夜の町を駆け抜け、最短距離で家に到着した。
店のシャッターは閉まっている。あらかじめ開けておいた自分の部屋の窓から家に入る。
鞄をベットに投げ捨て、1階のお父さんとお母さんの部屋に向かう。
扉が開いている、光が漏れている。
私は部屋に飛び込み……。
テレビのドラマを見ているお父さんとお母さんを目にした。
凛「ハァッ! ハァッ! ハァッ……はぁぁぁぁぁ…………よ、よかった…………」
「あら? 今凛の声がしなかったかしら?」
「……帰ってきたのか、こんな時間まで出歩いて……今日はガツンと言ってやらんとな」
しまった、透明化を解いていなかった。
「いいじゃない、あの子の年ならこれ位の時間に遊び歩いてもしょうがないわよ。なんにでも興味を持つ年頃なんだから」
「……君はそうだったが、凛は違うんだぞ。今までこんな時間に帰ることも無かったし、私達に心配をかけるようなことは一切しなかった。私達に隠し事をすることも一切なかったのに最近は何かを隠しているような……」
「年頃なんだからそういうものよ。もう少ししたら貴方のことを無視しだすか・も・ね」
「……冗談でもそれは止めてくれ」
「ふふふ」
凛「……」
私は物音を立てないように部屋を後にした。
自分の部屋に戻ったら透明化を解除してスーツが見えない様な服に着替えてベットに横になる。
しばらくすると、お父さんが入ってきて少し説教をされた。
私は素直に謝り、心配させるようなことはしないと言うとお父さんは安心したのか私の部屋を出て行った。
凛(……よかった。お父さんもお母さんも無事。アイツには家は見つかっていないってことか)
凛(……でも、アイツのあの感じ、私が見つかったら、お父さんとお母さんは……)
凛(……見つかる前に、こっちから見つけ出して、殺すしかない)
凛(……でも、どうやって……アイツの居場所を見つける方法……)
凛(……レーダーは…………反応なし、駄目か)
凛(……しらみつぶしに探すにしても……)
凛(…………あっ)
『まずは俺の同胞の多くを破壊した男、その後に女、順番に破壊してやる』
凛(……男、玄野のほうを先に殺しに行くって言ってた)
凛(……いや、敵の言葉を信じるなんて馬鹿げている)
凛(……でも、それ以外の情報は)
凛(…………)
私は気を張り詰めながら、眠れない夜を過ごした。
次の日、私は学校を休んで玄野を探すために自分の部屋で透明化の状態を維持し、スマホを使い調べていた。
凛(アイツの学校を調べる)
凛(手がかりは、名前、多分東京の高校、後は……いずみと言う名前の転校生がいる)
凛(正直言ってかなり少ない……でも、調べないよりは……)
調べ始めて十数分、見つけるのは難しいと思っていたが、簡単に見つかってしまった。
それも玄野の情報ではなく、いずみ、和泉紫音の情報を見つけた。
凛(名前と特徴で検索しただけで、こんなに沢山)
凛(スポーツ関係の友人が一緒に写った写真をブログに上げている……間違いない)
凛(あの時、私に声をかけてきた人だ)
凛(転校先の高校……あった、これもブログに載っている)
凛(ここから……20キロ近く離れた高校)
凛(この人の学校……玄野の学校でもあるこの学校)
凛(…………)
私は物音を極力立てないように、窓を開け、そのまま飛び出した。
昼に差し掛かる頃、私は調べた高校へ到着していた。
凛(この時間なら、昼休みかな?)
凛(気付かれないように校舎に入ってみて、アイツを探すか)
私は透明化を維持したまま校舎に入り、教室を見ていく。
順番に探しているが、アイツの姿は見つからない。
でも、ある教室で和泉という男の姿は見つけることが出来た。
この学校で間違い無さそうだ。
私は再び探し始める。
そして、屋上まで来た私はようやく玄野を見つけることが出来た。
凛(いた……)
屋上でおさげ髪の女の子と話している。
凛(あの女の子がいなくなったら……ん?)
玄野と女の子の会話が聞えてきた。
玄野「あ……俺とつき合ったりとか……はは、だめだよね……」
「えッ!?」
凛(えっ?)
「あたし……そーゆーの……ないから……その……」
凛(これって……あの……あれだよね……)
「あの……友達から、友達からなら……」
玄野「あッあッ、いやなら無理しなくても……」
「あの……ね、前からあたしも……玄野君のこと……」
凛(告白だよね……これ)
透明化しているのに、何故か少し距離を取ってしまう私。
でも、少し見ていよう。
玄野「いやッ! ほんとに無理しなくてもいいッて!」
「ううん、無理なんかじゃ……」
凛(わっ、あの子顔真っ赤……)
玄野「えッと……その……なら友達から……」
「うん、友達から……」
凛(モジモジしてる……なんだか小動物見たくて可愛いなあの子)
玄野「あ、その、それじゃ……」
「?」
玄野「お、俺戻ッから、それじゃ!」
「あっ……」
凛(……)
女の子を置いて走り去る玄野。
凛(アイツ、女の子に告白しておいて何考えてるの?)
屋上には顔を真っ赤にした女の子だけが残された。
凛(……いけない、こんな事してる場合じゃなかったんだ)
凛(アイツを追って、捕まえる)
私は玄野を追い、屋上を後にする。
玄野のあとをつけて、様子を伺う。
人の視線がなくなる瞬間を待つ。
しばらくすると、人がいなくなる瞬間が訪れ、私は玄野の肩に触れた。
玄野「ん?」
振り向いた玄野の口を塞ぐ。
玄野「ンンンッ!? ンーーーーッ!!」
凛「静かに、喋らないで」
玄野はスーツを着ていなかった。
容易に取り押さえることが出来て、私は玄野を拘束し、再び屋上に戻った。
屋上には誰もいない、ここなら話すことも出来る。
そう思い、玄野の口から手を離す。肩には手を触れたままで。
玄野「なッ!? お、おまえッ!! な、何で学校に!?」
凛「少し声の大きさを下げて、いくら透明になってても大声を出しすぎると見つかる可能性があるから」
玄野「はァ!? 何言ッてンだよ!?」
凛「……」
玄野から手を離す。
玄野「なッ!? き、消えた!?」
また触れる。
玄野「!?」
凛「何度も見てるでしょ? 透明化、ガンツの武器の一つ、このコントローラーで透明になることができる。触れてるものや人を含めてね」
玄野「あッ……ああ……」
少しだけ静かになる玄野。私は続ける。
凛「今日はアンタに武器を届けに来ただけ。あの時私がアンタを部屋から追い出したからアンタ武器持っていないでしょ?」
玄野「あ、ああ……」
銃と剣を入れた鞄を手渡す。
玄野「って、ちょッと待て!」
凛「……何?」
また声が大きくなってきた。
玄野「何でここにいンだよ!? どーやって俺の学校を知ッたンだ!?」
凛「調べた」
玄野「なッ、なら何でそんな姿で来たンだ!? 俺に何かするつもりか!?」
凛「……何かするつもりって、言ったでしょ、アンタに武器を渡しにきただけだって」
玄野「ウソついてんじゃねーよ!! あの時俺を殺そうとしやがッて!!」
凛「……アンタを殺そうとしてたのはあのチビ星人でしょ」
玄野「何を言ってやがる!! 俺をマンションから突き落としただろテメー!!」
凛「はぁ?」
玄野「昨日、俺を投げ飛ばしただろ!? スーツ着てなかったら即死だッたぞ!?」
凛「あ……」
思い出した。
確かにあのマンション結構な高さがあって……あの時コイツを……。
凛「ご、ごめん」
玄野「ゴメンじゃねーだろ!?」
あの時は気が立っていたから滅茶苦茶なことをしてしまった……。
素直に謝っておこう。
凛「本当にごめん。あの時、私頭に血が上ってて、アンタにもかなり酷いことしちゃったよね……」
玄野「酷いことって……殺されかけたんだけど、俺……」
凛「そのことについては謝る。本当にごめん」
玄野「……なんだよおまえ。昨日と雰囲気違うな……」
凛「え?」
玄野「昨日は……完全にイカれた奴だって思ったのに、今話してみるとなんというか……」
凛「ああ……」
多分狩りで欲求不満が解消されたからだ。
特にチビを逃がしてしまったときは、イライラが最高潮に達していた。
それもコイツのせいで逃がしてしまったから、チビに向けていた感情がコイツに向いてしまったかもしれない。
凛「昨日は獲物に逃げられてイライラしてたから、今日はもう大丈夫。アンタに何かするわけじゃないから安心して」
玄野「イライラしてって……それに獲物って……やっぱおまえ……」
凛「……ふぅ、そろそろ本題に入っていいかな?」
玄野「あ? あ、ああ」
このまま話していても無駄に長くなるだけ、さっさとコイツに話して帰ろう。
凛「それじゃあ、この武器を渡しておく。アンタのところにまず来るかもしれないから、武器があるとないとじゃ全然違うでしょ」
玄野「え? 来るって?」
凛「あのチビ星人、一匹逃げたでしょ。アイツ最後に言ってた、私達を必ず見つけ出すって、そしてアンタをまず狙うって」
玄野「はァ? う、嘘だろ……?」
凛「嘘じゃないって、アイツは私達の家を見つけ出して家族も殺すつもりなんだと思う。そうならないように先にアイツを殺さないと」
玄野「……家族」
凛「アンタもある程度は戦えるんでしょ? 昨日も最初一気に殺してたよね?」
玄野「ああ……」
凛「それじゃ、アイツが来たらこれで何とかできるでしょ。一応あの部屋の武器の殆どを持ってきておいたから」
私の渡した鞄を確認する玄野。
玄野「……なァ、あのチビって本当に来るのか?」
凛「最後に聞えたでしょ? 多分来るよ」
玄野「……おまえ、家族とか言ってたけど、家族を守る為にあんな奴と戦うつもりなのか?」
凛「あたりまえでしょ」
玄野「……俺、別にいいや」
凛「? 何が?」
玄野「……アイツ滅茶苦茶強かった、勝てねーよあんなの」
凛「……アンタ」
玄野「それに俺家族が死んでもどーでもいいし、俺の命のほうが大事だし」
凛「……」
玄野「それに家族の前でアイツと殺りあってるとこ見られたら、俺がガンツに殺られかねないしな」
凛「……アンタのお父さんやお母さんが殺されるかもしれないんだよ」
玄野「だからそんなのどーでもいいって」
凛「…………」
コイツのことが理解できなかった。
家族が大事じゃない、両親が殺されてもいいといえるコイツが。
私が言葉を発しかけたとき、あの夜に感じたあの感覚と声が頭の中に響き渡った。
『見つけたぞ』
凛「!!」
玄野「なッ!?」
『見つけた。お前達の信号をとらえた』
凛「……」
玄野「ウ、ソだろ……」
凛「……アンタ、スーツはどこにあるの?」
玄野「あ、き、教室、鞄の中……」
『上か、待っていろ、すぐに行く』
凛「早く行って着替えて!! アイツをここで殺すよ!! 二人なら確実に殺れる!!」
玄野「わ、わかった!」
玄野は走って屋上を出て行った。
今回は楽しむのは無し。
ここで確実に殺しておかないと。
私は剣と銃を構え、奴と玄野が来るのを待った。
今日はこの辺で。
玄野が屋上を離れ、私は全神経を集中させ、チビが襲ってくる瞬間を待った。
だけど来ない。
凛(チビは私達の位置を把握しているはず……すぐに現れるかと思ったけど……)
そこで気付く、チビの標的は私達ではあるが、まずは玄野を狙っていることに。
凛(しまった……チビはまずアイツを狙って!)
私は屋上の扉を叩きつけるように開け、階段を下り玄野の教室に向かった。
向かっている最中にまた声が聞こえる。
『そこにいたか、見つけたぞ』
凛「!!」
咄嗟にガラスを突き破って、外に飛び出し空中で銃を私のいた場所に向けながら屋根に降り立つ。
凛(いない? ……っ! 見つかったのはアイツだ!!)
突き破ったガラスの部分に飛び込み、再度校舎に戻る。
全力で走り始める。
『すでに4体……お前達の同胞を破壊してきた』
凛(!? 嘘……まさか……)
凛(アイツの家族? それとも……)
最悪の状況を考え眩暈が起き掛けた、だが次の言葉ですぐに思考を切り替えることが出来た。
『ここにいるお前達の同胞もすべて破壊してやる』
凛(!!)
違う……。
チビの言っている同胞って言うのは、私達人間全てのことだ。
『お前達は俺の同胞を破壊しすぎた、お前達の同胞も同じように破壊し、二度と動かなくしてやる。これは正当な報復だ』
私が玄野の教室に到着したと同時に、玄野が教室から出て行くところを見た。
凛(アイツ……どこに?)
玄野は走って廊下を駆けて、突き当りで曲がり姿を消してしまった。
それを見ていた私の視界の端にあった窓に赤い液体が飛び散った。
凛「!?」
窓を見て、教室の中を見る。
そこには地獄の光景が広がっていた。
「うあああああああああ」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ」
「うげっ」
「ぎゃああああああ」
一瞬で、数十人いた人間が吹き飛んで、血が弾けた。
頭がつぶれ、首が飛んで、教室の中は血の海と化していた。
凛「なっ、なんて、ことを」
『もう1体、そこにいたか』
血まみれの人が、教室から私を見ている。
『この程度では俺の怒りはおさまらない、お前達とお前達の同胞を全て破壊する』
明らかに私を見ている血まみれの人、直感で分かった。
コイツはあのチビだと。
理解すると同時に私は銃を構えるが、私とチビの間に立ちふさがるように大きな人が現れる。
和泉「ハンパじゃねえ……コイツ……」
机を持った男、和泉がチビを隠すように立ちふさがっていた。
和泉「すげえ……めちゃくちゃ速い……一瞬でこれだけの人間を……」
和泉「人間じゃねえ……ははは、絶ッてー、コイツ人間じゃねぇ!」
凛(くっ!? 何この人!?)
私はチビを狙うために数歩飛ぶように移動して再度銃を構えるが、チビが和泉に攻撃を仕掛け始めて、ロックオンをしようにも和泉が近すぎて銃を使えない状態だった。
凛(銃だとあの人に当たってしまう、剣も近すぎて使えない……)
和泉「ハンパじゃねーーーッ!! コイツ、ハンパねーーーぞッ!!」
凛(チビの動きがかなり遅い、人間の皮を被っているのか見た目は人間……この状態だと昨日みたいな速さが無い?)
机を盾にチビと殴り合っている和泉、だけどこのままだと……。
凛(いや、このまま隙を見て、剣でチビの首を切り落とす)
凛(この速さなら……)
と思ったのもつかの間、チビは私が剣を構えるのを見て、一瞬にして昨日の姿に戻り。
和泉「!? グアッ!! ガハァッ!!」
和泉を殴り飛ばし、私に襲い掛かってきた。
凛(くっ!!)
チビの攻撃を紙一重で避ける。
だけど、チビが壁を蹴って、私の背後から鋭い蹴りを放ち、私は直撃を貰って血みどろの教室に吹き飛ばされた。
『まずは1体、破壊……』
チビが追撃の拳を吹き飛んだ私の頭に放ってくる。
だが、その拳が当たる寸前で、
凛「はぁっ!!」
床を蹴り、拳を避け、高速で横に跳躍、教室の黒板にチビを見ながら着地。
勢いはそのまま黒板を蹴り、剣を伸ばしながらチビに突撃する。
『クアゥッ』
私の剣はチビの左腕を貫通し、教室の壁に突き刺さった。
剣で腕を固定され身動きの取れないチビに銃を構える。
そのまま頭に数回、体に十数回引き金を引き、
『……ア』
チビは大きく膨らんだ後、爆散した。
凛「……ふぅ」
よし。
確実に殺した。
昨日意味深なことを言って逃げたくらいだから、もっと何か予想もつかない攻撃をしてくるかと思ったら、何のことも無くあっけなく殺せた。
教室という狭い空間で、チビの動きを終始見えたこともこの結果に繋がったのだとも思う。
もっと広い所でやりあっていたら、チビの動きについていけなかった可能性もあった。
まあそんな事を考えても、ここでチビは死んで、私はチビを殺すことが出来た。
その結果に私は満足して、剣を縮め、教室から出て行こうと考えて、
教室の惨場を再び目にして、その場に立ち尽くした。
凛(あ……)
凛(こ、これ、は……)
戦闘に集中していて、意識から外れていた光景。
床、壁、天井に飛び散った血。
倒れ付した人間からは血が溢れて、ほぼ全ての人間は頭や首を潰され、とても生きているように見えない。
凛(こんなに……人が……殺され……)
その光景を私は冷静に見ることが出来た。
ガンツの部屋で人の死に慣れてしまったからかもしれない。
もしくはもっと別の理由なのかもしれない。
冷静に、私は生存者がいるか探すことにした。
凛(……生きている人は)
重なり合って倒れている人を退かしてみるが、全員死んでいる。
凛(……駄目、か)
他の人たちも見てみるが全員死んでいた。
凛(……)
あらためて教室を見渡す、倒れている人は全員血まみれだったが、その中で血に染まっていない人が二人いることに気付く。
片方はさっきまでチビとやりあっていた和泉、息はしている。
でも両腕がおかしな方向に曲がっている。
もう一人は、教室の出口で重なり合うように死んでいる人の傍に女の子。
身動き一つしていないが、怪我をしていない。
よく見てみると、呼吸をしている。
凛(あの子は……さっきの……)
私が女の子に近づき、さらに様子を伺おうとしたところで、私はアイツの姿を見つけた。
教室の外から、窓に手をかける玄野の姿を。
玄野「な、なんだよ、これ……」
教室を窓から覗いて、震えている玄野。
玄野「嘘だろ……ひでぇ……マジかよ……」
凛(コイツ……あぁ、スーツを着てきたんだ……でも、遅いよ……)
青ざめた顔の玄野は教室を見渡している。
どうやらチビを探しているようだった。
玄野「……あのチビどこにいきやがッた?」
玄野「もしかして他のクラスにいったのか?」
玄野「学校の奴等全員殺され…………う、うぅっ……」
玄野「ち、違げーよ……こんな、俺のせいじゃねえ……俺のせいじゃ……ねぇ……」
凛(…………あ)
さっきまで意識していなかったが、玄野が取り乱している姿を見て、この現状を再度認識することが出来た。
凛(……これ、私のせいでもあるの?)
凛(……昨日チビを殺し損ねてしまったから……)
凛(……殺せなかったからこんな事が起きてしまった……)
凛(……これがもし私の学校だったり、私の家で起きていたら……)
恐ろしい光景が脳裏に浮かび、即座にその思考を消す。
凛(……大丈夫、もうチビは殺したから、私の学校でこんな事は起きない。お父さんやお母さんももう安心、狙われることも無い…………)
凛(……でも、こうやって無関係の人がこんなにも沢山死んでしまった)
凛(……私があの時殺せなかったから……)
私の思考はループしていた。
この惨場を引き起こした一旦は自分にもある。
でももう安心、チビは殺せたからこれ以上被害は広がらない。
だけど、ここで起きてしまったことは私の責任でもある……。
でも、けじめをつけて、チビを殺したから……。
その思考のループを続けているうちに、玄野が教室に入ってきて、
さっきの女の子が生きているのに気付いたのか、女の子に声をかけていた。
玄野「お、おい、生きてるのか?」
「……」
玄野「立てるか? 逃げなきゃ、ほら!」
「うぅ……」
玄野は女の子の手を引き、廊下を歩き出した。
凛(…………)
私はその後についていく。
この場に留まっていたら、悪いほうにばかり思考が向いてしまう。
私は血に濡れた教室を後にして、玄野の後を追いかける。
玄野は女の子を避難させようとしているみたいだった。
玄野「あっちに向かって走ッて逃げろ。グラウンドに出れば大丈夫だと思う」
「…………」
女の子は玄野を見ながら涙目で首を振る。
玄野「はァ……なら、こっちに来いよ……」
「…………」
女の子は震える手で玄野の手を取り、階段を登っていく。
凛(……)
階段を登り屋上に着いた玄野は、女の子を屋上の隅に連れて行き、待っているように促した。
玄野「ここにいろよ、たぶんここなら安全だと思うから」
女の子は震えながら玄野を見ていたが、玄野は女の子に一言言って屋上を出て行った。
玄野「すぐ戻ッから、目を瞑って待ッててくれ! 絶対戻ッからさ」
女の子は玄野を見て、玄野が屋上から出て行くと同時に、すぐ耳と目を塞いで震えていた。
私は玄野を追う。
玄野は階段を下りながら銃を鞄から出して何かを呟いていた。
玄野「クラスの奴らみんな死んで……何でだよ……」
凛(……)
玄野「あんな……ひでぇ……みんな死んで……くッそォ……」
玄野「ちくしょう……何でなんだよ……俺が逃げようとしたからか……俺のせいなのか……」
凛(……)
玄野「くそッ……くそッ……このままだと他の連中も……くそッ……」
玄野「どーすりゃいいんだよ……くそッ……加藤……俺はどーすりゃ……」
凛(……)
玄野「ちくしょう……ちっくしょうッ! やんなきゃなんねーのかよ!! クソッ!!」
玄野「やッてやるよ!! あのチビをぶっ殺して……」
私は玄野の前で透明化を解除した。
玄野「っ!! おまえっ!!」
凛「……もう、大丈夫、あのチビは殺した」
玄野「……は?」
凛「アイツは私が殺した。もう誰かが殺されることも無いよ……」
玄野「は? あのチビを、おまえが殺した?」
私は玄野の問いに頷く。
玄野「な……い、一体いつ、どうやって……」
凛「……アンタが教室から出て行ってすぐ」
玄野「!?」
私の言葉に唖然とする玄野。
玄野「俺が出て行った後すぐって……それなら何でクラスの奴等は全員……」
凛「……あっという間だった、一瞬でみんな殺されて……」
私に詰め寄ってくる玄野。
玄野「お、おまえなら何とかできたンじゃねーのかよ!? おまえあの千手も、チビを何匹もぶッ殺せるくらいのやつなんだろ!? さっきのチビだってすぐに殺したんならなんで……」
凛「……私が教室に着いたときにはもう」
玄野「~~ッ」
私から離れ壁に寄りかかるように座り込む玄野。
玄野「なンだよ……こんなのおかしーだろ……なんでこんな事になってンだよ……」
私も階段に腰をかけ頭を抱える。
凛「こんな事になるなんて、私も思ってなかったよ……」
玄野「わけわかんねー……こんな……ちくしょう……」
私達はお互いに起きてしまった事に目を向けられないでいた。
玄野も多分同じことを考えているんだろう。
自分のせいでこんな事が起きてしまった。
しかも玄野は自分の学校だ、友達もいるだろう。
私は玄野にかける言葉が見つからなかった。
そうやってしばらくすると、階下から大勢の人の声が聞こえてきた。
「生徒の避難は完了しているのか!?」
「安全装置解除しておけ!! 犯人がいつ現れるか分からんぞ!!」
「次の階だ!! 右だ右!!」
私は立ち上がって階段の下を覗き込むと、警官が10人近く上ってきているのが見えた。
凛「っ!」
この場で見つかるのはまずい。
そう思い、私は透明化を起動して姿を消す。
玄野「……あッ、おい」
「! 生徒です! まだ避難をしていない生徒がいました!」
「おい! きみっ! こっちに来なさい!!」
私はそのまま階段を登り、屋上に出てさっきの女の子の様子を見に行く。
女の子はさっきの位置でしゃがみこみ震え続けていた。
おそらく後は警察が見つけて保護してくれるだろう。
そう思い、私は屋上から跳び、そのまま玄野の学校を後にした。
あれから二日、あの日の事は大事件となっており、連日ニュースになっていた。
白昼堂々、学校に押し入り生徒を数十人殺害した犯人は、煙のように消えて今だ見つかっていないと報道されている。
こうやってニュースを見るたびに考えてしまう。
これが私の学校だったら、これが私の身の回りで起きた出来事だったら。
そのたびに寒気が走り、最悪の気分になってしまう。
凛「……アイツ、クラスメイト、友達も、殺されたんだよね……」
最後に見た玄野姿は壁に寄りかかって項垂れるように頭を下げていた。
私が玄野の立場だったら、多分ものすごいショックを受けるだろう……。
お父さんやお母さんが殺されてしまったら、もう……。
そうやって殺す殺されると考えていると、ふと頭をよぎる。
凛「……私、宇宙人を殺しまくってるけど、あの宇宙人たちも家族とか友達とかいたのかな」
そんな事を考えたら、心のどこかにちくりと痛みが走る。
凛「チビは同胞同胞って言ってた……私の殺した3匹もみんな同じ姿だった……もしかしたら家族だったのかも……」
ほんの少しの痛みは、私の心に何かを残す。
凛「……ううん、アイツ等は私の敵だった、私を殺そうとしてきた奴等、殺さないと殺されてた」
私の頭の中に記憶が蘇る、最初の緑の奴も、田中星人も、仏像も、あのチビだって私を殺そうとしてきた記憶。
凛「そう、アイツ等は私を殺そうとしてきたんだ、最初も私が殺されかけたから殺してやった。次もそう。その次、仏像もそう。チビとデカもそう、そんな奴等の為にこんな事を考えるなんて馬鹿みたい」
私は頭を切り替える。
凛「そもそもアイツ等ってこの世界のどこかに潜んでるんだよね」
凛「いつ今回のような事が起こってもおかしくないって事だよね」
そうだ、宇宙人が今回みたいに無関係の人を襲うってことが今後無いとも言い切れない。
それが、私の身近な人に危険が及ぶ可能性も……。
そう考えて、私は決めた。
凛「あんな事がもう起こらないようにするためにも……」
私の中でまた何かがかみ合う。
凛「私が宇宙人を皆殺しにしないといけない……」
何か使命感のようなものが私の心に灯った。
凛「何もして無い人たちがあんな酷い目に合うことの無いように……宇宙人は皆殺しにしないと、一匹残らず殺しつくさないといけないな」
新たな目標が出来た。
ついこの前まで目標とか夢とか何も持っていなかった。
だけど、今こうやって自分がやるべきことを見つけることが出来た。
それが嬉しく思える。
凛「まあ、その過程で殺しを楽しむのもいいよね」
くすりと笑う。
楽しみになってきた。
誰かの為にアイツ等を殺す。
そうやって殺すことで私はあの快楽も得ることが出来る。
これが私の生きる道。
私はそれを確信する。
私が今後のことを考えて、生きる道を導き出したその時、
私の部屋にお母さんが入ってきた。
「凛ー、ちょっといい?」
凛「何? どうしたの?」
「今からなんだけど、手伝ってもらいたいことがあってね。暇だったらお願いしたいんだけど大丈夫かしら?」
凛「まだ結構朝早いけど、店番?」
そういえば最近は特訓もしていたし、家の手伝いが全然出来ていなかった。
ハナコの散歩もあまり出来ていない……。
今日は日曜だし、手伝いや散歩をして少しリラックスしようかな。
「店番じゃなくて、花の搬入の手伝いをしてもらいたいのよ。かなり大口の発注があって今から搬入をするんだけど、凛も暇なら手伝ってほしいなーって思ってね」
凛「そうなんだ。別にいいよ」
「悪いわねー、それじゃあ、準備できたら呼ぶわね」
凛「うん」
お母さんはそう言って部屋から出て行く。
凛「準備するかな」
私は服を着替える際に、一応下にスーツを着込んでおいた。
準備が完了して車に乗り移動している。
凛「花を運ぶ用のトラックで行くかと思ったんだけど、普通の車でいくんだね」
「ああ、もう花は業者に手配して運んでもらっているからな。今日は会場で花の設置が仕事になる」
凛「へぇ、そんなに沢山注文貰ったの?」
「そうよー、今後も大口の取引先になりそうなお客さんだし、大事にしないといけないから、凛も今日はしっかり頼むわよ?」
凛「しっかりって……まあ、仕事はちゃんとやるけど」
「ふふふ、お願いね。あ、そろそろ着くわね」
少し先に大きなホールが見えてきた。
凛「もしかしてあのホール?」
「ああ」
凛「ふーん、あんな大きいホールで何かイベントでもあるの?」
「今日はライブを行うらしいな。ほら、宣伝でよく見る美城プロダクションが企画するライブが今回のメインだという事だ」
「346プロって最近かわいい子達が増えたわよね、テレビでよく見るわよ」
凛「ライブか……」
私は近づいてくる大きなホールを見て、こんな大きなホールでライブを行うって有名な歌手でも来るのかなと思っていた。
ホールに到着して、会場に入った私達は、早速搬入されていた花を所定の位置に運ぶ。
お父さんもお母さんも会場の人と打ち合わせをしながら仕事をしている。
私はとりあえずは位置の確認、漏れが無いかチェックを行っている。
凛「えっと……ここも大丈夫。これも……」
大きなホールだけあって数も多い。
スタンド花がこれだけ注文をもらえたら確かに大口のお客さんだろうなと考えながらもチェックを行っている。
凛「よし」
この場所は大丈夫だと思い、次の場所に行こうとすると、近くの階段から息を切らせながら走ってくる女の子が目に入る。
それと同時に、階段付近の廊下を大きな荷物を抱えながら歩いている女の子。
階段から駆け上がってきた女の子と、荷物を持った女の子はお互いに気付いていない。
凛「あっ、危ないよ!」
声をかけるが遅かった。
二人はぶつかって二人ともバランスを崩し転びそうになる。
私は咄嗟に手を出し、二人の身体を受け止めた。
「きゃぁっ!」
「わわっ!?」
凛「大丈夫?」
私は受け止めた二人の顔を見る。
凛「あれ?」
どこかで見た顔。
記憶を辿ろうとするが、女の子が持っていた荷物が階段を落ちていくのに気がつきそちらに目をやる。
荷物の箱は、階段を落ち、途中で箱が開き、中から何かが転がった。
遠目で見るそれは、ガラスの靴。
そのガラスの靴を、拾う人の姿が視界に入る。
ガラスの靴を片手に、眼つきの悪い男の人と私は目が合った。
今日はこの辺で。
階下の男の人と視線を合わしていると、急に大きな声が響いた。
発生源は、私が抱きかかえている女の子。
「あーーーーー!! 渋谷凛ちゃん!!」
凛「え? あっ……」
名前を呼ばれて気がついた。
この子達、この間店の前で会った子達だ。
確か名前は。
凛「本田未央……さん、と島村、卯月さんだったよね?」
未央「そうそう! 覚えててくれたんだ!」
卯月「わっ、本当です。この前の渋谷さんです!」
覚えている。
この子達には何か惹かれるものを感じたから。
それにこの子達は確か。
凛「もしかして今日ライブをやるのってあなた達なの?」
アイドルって言っていたし、もしかしたらと思って聞いてみる。
未央「違う違う、私達はバックダンサーとしてステージに立つんだ!」
凛「バックダンサー?」
卯月「はいっ、城ヶ崎美嘉ちゃんが歌うライブのバックダンサーで今日が私達の初ステージなんですよ!」
凛「城ヶ崎美嘉……あぁ、聞いたことあるかも」
確かギャル系のアイドルだったよね。
雑誌とかで見たことあるな。
未央「そう! その美嘉ねぇが私達を誘ってくれたんだ! もうワクワクしてさー!」
そう言って透き通る笑顔を見せる、未央という女の子。
卯月「はいっ! 私もやっと初ステージに立てるんだと思ったらドキドキして眠れなくって、今日は朝6時に会場に着いてしまったんですよ~」
花のような笑顔を見せる、卯月という女の子。
凛「あっ……」
トクンと私の胸の音が聞えた。
この子達と初めて会ったときに感じた透き通るような感覚。
この子達と一緒に何かを感じてみたいと思ったあの気持ちが心に湧き上がっていた。
未央「あれ? そういえば何でしぶや……りん、しぶりんがここにいるの?」
凛「し、しぶりん? 私のこと?」
未央「そーそー、渋谷凛だからしぶりん! ね、まだ会場が開くのって時間があるのになんでここにいるの?」
凛「しぶりん……ま、いっか……。えっと、私は家の手伝いでここに来てるんだ。ほら、そこのスタンドの花はうちの花なんだ」
卯月「えっ!? それじゃあ、もしかしてあのお花屋さんって、渋谷さんのお家だったんですか?」
凛「そうだけど」
未央「な、なんだってーー!?」
大げさなリアクションでついこの子を見てしまう。
未央「灯台下暗しとはこの事……あれからほぼ毎日のように時間があけてしぶりんを探していたのだが影も形も見つからず……まるでシンデレラのように消えてしまったしぶりん! ああ、しかし何という事でしょう! 私達の初ステージと共にまたこうやって出合うことができるとは! これを運命といわずに何と言うのでしょうかぁーーー!!」
凛「……なんか、最後のほう芝居がかってない?」
卯月「ああそのとおりですーこれは運命なんですねー運命なんですから渋谷さんは私達と一緒にアイドルをやらなくてはいけないのですー……こんな感じですか? 未央ちゃん?」
未央「もうちょっと自然に! まだ硬いよしまむー!」
凛「またコントを始めた……」
この子達はツッコミ不在のボケ芸人なのかな?
未央「コントじゃないよ! アイドルになろっ!!」
凛「話しに脈絡無さすぎでしょ……」
未央「そんなこと無いよ! ねっ、しまむー!」
卯月「はいっ! アイドルになりましょう!」
凛「えーっと……」
二人の勢いに飲まれそうになる私だったが、二人とは別の男の人の声が耳に届き、声のほうを見た。
「島村さん、本田さん、スタッフの方に詰め寄って何かあったのですか?」
目つきが悪く背の高い男の人がいた。
未央「あっ、プロデューサー! ちょっと見てよこの子を!」
卯月「この間お話をした子です! 渋谷凛さんですよ!」
凛「プロデューサー?」
もう一度男の人を見てみる。
プロデューサーって言われてるけど、この人が?
P「貴女は……」
私を見てはっとした表情になっている男の人。
あれ……? この人もどこかで見たような………………駄目だ思い出せない。
未央「この子が私達のユニットの最後の一人になるべくして生まれた子だよ! プロデューサーもそう思うでしょ!?」
凛「生まれたって……」
卯月「渋谷さんの笑顔はとっても素敵なんです! 私達の選考理由は笑顔だったんですから、渋谷さんの選考理由も笑顔ですよね、プロデューサーさん!」
凛「あの、勝手に話を進められちゃってない?」
男の人は頭に手をやり、凄くわかりにくいが困ったような表情をしていた。
P「島村さん、本田さん……スタッフの方の仕事を邪魔してはいけません。二人とも少し落ち着いて……」
未央「うっ」
卯月「あぅ」
あ、この人は普通かも。
P「ええと、渋谷さんでしたか。作業が終わられましたら一度話を聞いていただけたらと思うのですが、如何でしょうか?」
凛「え? 話?」
P「はい。ああ、申し遅れました、私こういうものですが」
名刺を出してきている。
名刺には346プロダクション、シンデレラプロジェクトプロデューサーと書かれていた。
P「資料もお渡ししておきます、軽く目を通していただければと思いますが……」
大き目の封筒に入った資料も渡される。
凛「あの、これって、何?」
P「346プロで企画を進めております、シンデレラプロジェクトの詳細及びプロジェクト内におけるユニット、ニュージェネレーションズの詳細となります。是非とも貴女にはシンデレラプロジェクトの一員……アイドルになっていただきたいと思いまして」
プロデューサーという人の言葉に二人は顔を見合わせて喜んでいる。
プロデューサーという人は資料を私に差し出したまま私の顔を見続けている。
アイドル…………。
この子達と会ったとき、アイドルをしてみてもいいかなと思っていた。
あの時は自分と向き合うことが出来なかったから。
狩りの、殺しの楽しさを認めれなかったから。
あの時はそれを認めたくない一心で何か違うことに逃げようとしていただけ。
だけど、今はもう認めてしまっている。
それが私の本当にやるべきことなんだし、やりたいことなんだって認めている。
今の私にアイドルをする理由なんて…………。
そんなことをしている時間があるなら…………。
すぐ断ろうと思った。
だけど、私に注がれる視線、特に女の子二人の視線を受けて、眩しい笑顔で私を見つめてくる二人を見ていると、
何故かすぐに断ることが出来ずに私は封筒を受け取ってしまった。
封筒を受け取った私を見て二人は手を合わせて喜んでいる。
やるつもりは無いのに受け取ってしまった……。
とりあえずは仕事に戻ろう、考えながら仕事をして感情を整理しよう。
凛「えっと……。まず仕事を片付けるよ、話はその後で」
P「はい、よろしくお願いします」
未央「やった! これで私達ニュージェネレーションズ(仮)からニュージェネレーションズになれるんだよしまむー!」
卯月「やりましたねっ! 私嬉しいですっ! みんなでこれから頑張りましょう!」
凛「えーっと……それじゃ、私行くから」
もう私がアイドルになるものだと思っている二人は笑顔で手を振ってくる。
プロデューサーって人はお辞儀をしている。
凛(はぁ……。私決めたんだけどな……)
凛(これからは宇宙人を殺しつくすんだって、そのためにもガンツのことも色々調べなきゃいけないし、もっともっと効率のいい殺し方とか戦い方を考えないといけないのに……)
凛(アイドル……か)
凛(…………私ってこんなに優柔不断だったっけ?)
いつもならきっぱり断れたはずなのに断れなかったことを不思議に思いながら作業に戻る。
作業が終わり、お父さんとお母さんに少し話をする。
凛「あのさ、帰りは一人で帰るから先に帰ってもらっていいよ」
「あら? もしかしてライブを見ていくの?」
凛「えっと、そんなところかな」
アイドルに誘われていることは言わなくてもいいだろう。
今から話をして断るつもりだから。
「あまり遅くならないようにな。この間も言ったが、お前はまだ高校に入ったばかりなんだ、子供が毎日遅くまで出歩いて……」
「はいはい、それじゃあ私達は帰るわね、ゆっくりしてきなさい」
お父さんはお母さんに引っ張られるように連れて行かれた。
……しばらくは早めに帰って、部屋にいるように見せておかないといけないな。
そんな事を考えながら、私はさっきの名刺を取り出して書かれていた携帯の番号に電話をかけた。
P「はい、Pと申しますが」
凛「あ、さっき名刺と資料を貰った渋谷です。作業が終わったから連絡をしたんだけど、どうすればいいのかな?」
P「ああ、ご連絡ありがとうございます。それでは控え室を用意してありますので、そちらで先ほどの話の続きを。今から迎えに上がりますが、今どちらでしょうか?」
凛「えっと、ここは……」
私は自分の居場所を伝えるとすぐにさっきの人が来て、少し大きな部屋に通された。
P「そちらにどうぞ」
凛「あ、うん」
促されるように座ると、向き合う形でPも座る。
P「それでは、先ほどの話の続きで」
凛「あ、そのさ。先に言っておくけど私、アイドルになるつもり無いんだよね」
P「……そう、なのですか?」
凛「うん」
開口一番、アイドルになることは断る。
作業をしているときも考えていたけど、やっぱり私には戦いや殺しのほうが合ってるし、殺しをしながら気持ちよくなって感じてる変態にアイドルなんて勤まる訳が無いと思った。
だからきっぱりと断っておく。
あの二人には申し訳ないし、一緒に何かをしてみたかったけど、今の私はもっとやるべきことがあるのだから仕方がない。
凛「あの二人に押されて断りきれなかったけど、ちゃんと言っておかないと駄目だって思ったからさ」
P「そうですか……」
凛「だからこれも返しておくよ」
私は先ほど受け取った封筒を返す。
Pは私が机の上に置いた封筒を見て、もう一度私を見る。
P「……資料を持ち帰って見ていただき、もう一度考えていただくことは出来ないでしょうか」
そう言って封筒を私の前に押し出す。
もう一度といわれても……。
凛「何度考えても答えは変わらないよ」
封筒をPの前に押し返す。
P「そこを何とか」
また私の前に封筒が戻される。
凛「だから変わらないって」
また押し返す。
P「お願いします」
また戻された。
同じようなやり取りを後数回やって、私は思った。
この人、しつこい。
凛「……何度言われても答えは変わらない。私はアイドルなんてやらないし、やるつもりも無い」
今度は押し付けるように封筒を返す。
受け取るまで押し付け続けるつもりだ。
数分はそうやっていたが、ようやく諦めたのか封筒を受け取ってくれた。
それを見て私は席を立つ。
凛「それじゃ、私は帰るから」
P「待ってください」
凛「……まだ何かあるの?」
いい加減この人に付き合うのも疲れてきた。
P「今、島村さんと本田さんがライブ前のリハーサルを行っています。よろしければ見ていかれませんか?」
凛「……あの二人の?」
そういえば、二人とも今日が初ステージって言ってた。
本番前のリハーサルってやつなのかな?
P「はい」
凛「……いや」
やめておくって言おうと思った。
だけど、これであの子達と会うのも最後になるんだからと思ったら、もう一度会っておこうと思った。
あんなに熱心にアイドルに誘ってくれていたあの子達に何も言わずにお別れをするのは気まずかったから。
凛「……なら、少しだけ」
P「ありがとうございます。それではこのスタッフカードをお受け取りください。これをつけていれば本日会場内はどこでも入ることができますので、色々な場所を見学していただいても結構です」
そう言って、Pが首から下げるタイプのスタッフカードを私に渡してきた。
妙に準備がいい……。
凛「……ありがと」
P「では、案内しますので着いて来て頂けますか」
私はPと一緒に部屋を出て、リハーサルを行っているというライブ会場に足を踏み入れた。
大きな会場だった。
ステージには3人の女の子。あの二人ともう一人は、確か城ヶ崎美嘉。
音楽に合わせて踊っているが城ヶ崎美嘉はリズムに乗って踊っているのに対し、あの二人はあまり合っていない。
なんというか硬いしぎこちない感じがする。
P「……」
凛「ねぇ、あの二人、この後本番なんだよね? あれで大丈夫なの?」
P「……練習はしてきて問題なく踊れるはずです」
凛「はずって……」
P「初ステージで緊張をしているのでしょう。これから緊張が解れていけばいいのですが」
凛「……そっか」
その後、何度かリハーサルを続けていたが、私の見ている前であの子達は一度もOKをもらえていなかった。
凛「結局一度も最後まで通せなかったみたいだね」
P「……ええ」
ステージにはあの子達の姿はなく、大人の人たちがこれから行われるライブの為にセットをしているようだった。
凛「もうステージも使えないみたいだし、本当に大丈夫なの?」
P「……」
何で黙るのよ……。
Pを見てみると、Pも私を見ていた。
P「……あの、島村さんと本田さんに会って話をしてもらってもよろしいでしょうか?」
凛「は?」
P「貴女と会うことで、彼女達が今感じている重圧を少しでも和らげる事ができるかもしれないので」
凛「……別にいいけど」
私はPと一緒にあの二人の控え室まで歩く。
控え室を空けて、中の様子を伺うとなんというか重い雰囲気。
あれほどテンションの高かった子、本田未央は椅子に座って一点を見つめながら微動だにしない。
もう一人の、島村卯月はそんな本田未央にどう声をかけていいのか分からないようでオロオロしている。
P「リハーサルお疲れ様です。もう少しで衣装直しを行います。その後が本番になりますのでよろしくお願いします」
Pの言葉にビクリと震えながら顔を上げる本田未央、そしてこちらを向く島村卯月、私は二人と目が合う。
未央「あ……う、うん」
卯月「は、はい、頑張ります……」
私が見ても明らかだ、ものすごく緊張している。
私の事も見ているようで見ていない、頭の中が真っ白になっているんじゃないのか?
私はPを見てみる、だけどこの人は頭に手をやり二人に特に声をかけようとしない。
こんな状態の自分が担当するアイドルを放っておくのかと思ったら、Pは私を見てくる。
P「少し……いえ、何でもいいです。彼女達と話してみていただけないでしょうか」
凛「は? 何でもいいって……」
私の声にようやく二人は反応した。
未央「あ……しぶりん」
卯月「渋谷さん……」
今度は二人が私を見つめてくる、まるで捨てられた子犬のような視線で。
えっと……こんなときに「私、アイドルにならないからサヨナラ」なんて言えるわけがない。
私は当たり障りの無い言葉を選び声をかけた。
凛「あー、えっと、これから本番なんだよね? 頑張って」
未央「う、うん」
卯月「あ、ありがとうございます」
ああ、全然駄目だ。
凛「えーっと……今日が初ステージなんだよね? 楽しみだったんだよね?」
未央「楽しみ……うん、楽しみで、ワクワクしてたんだけど……」
卯月「いざ本番が近づいたら、すごく緊張しちゃって……」
二人は緊張のあまり表情が硬い。
特に本田未央はかなりヤバそうだ。
少し顔色が白くなってきてる。
凛「そ、そんなに緊張しなくてもさ、失敗しても死ぬわけでも殺されるわけでもないんだからさ」
未央「……は?」
卯月「えっ?」
凛「想像してみてよ、ものすごく怖い宇宙人とかに殺される寸前の自分を」
未央「う、宇宙人?」
卯月「ですか?」
凛「そう、凄く大きな緑色の怪人に頭を掴まれたり、真っ黒で大きな鳥人が大きくて鋭い爪をもって襲い掛かってくる所とか、腕の沢山ある仏像がいろんな武器を使って襲ってくる、それもみんな自分を殺そうとして来るんだよ」
未央「……え、あー」
卯月「そ、それは怖いですね」
凛「でしょ?」
二人の顔は少し緊張がほぐれたような感じになっている。
凛「それにさ、二人とも楽しみだって言ってたじゃん。緊張するより楽しまないともったいないよ? 自分のステージなんだからさ、楽しんでいけばいいんじゃないかな?」
そう、楽しめる場所で楽しまないともったいない。
私はそう思っているしそうしているから、この二人にもそうしてもらいたいと思った。
未央「……」
卯月「楽しむ……そうですね」
卯月「私の夢のアイドルの初ステージ……憧れのステージ……楽しまないといけませんよねっ!」
島村卯月にあの笑顔が戻った、何かを吹っ切ったような顔だ。
卯月「ねっ、未央ちゃん!」
未央「……そだね。楽しまないと、初めての私達のステージなんだから……」
まだ顔を下げてぶつぶつと呟いている。
凛「そんなに考え込まないで自分に正直にやればいいんだよ、楽しみなんでしょ? ワクワクしてたんでしょ?」
未央「……うん。そうだよ、この日を待ってたんだ」
凛「じゃあ、楽しみなよ。大丈夫、失敗しても次があるんだから。それに、死なないし殺されない、怖い宇宙人も襲ってこない、だからリラックスしていきなよ」
未央「……ぷっ、さっきから、それ何? 死ぬとか殺されるとか宇宙人とか」
凛「え?」
未央「ぷぷぷっ、自分で何言ってるのかよくわかってないの? クールで真面目な子だと思ってたのに、結構電波な子だったんだ」
電波って……失礼な。
それに何を言っているのかって、思ったことを言ってるだけだし。
未央「あー、なんだかしぶりんのギャップのお陰で緊張が解けたかも」
ようやく笑った本田未央、本当に緊張は解けたみたいだ。
卯月「はいっ、ありがとうございます! 渋谷さん!」
凛「まあ、緊張が解けたならよかったよ。それじゃあ頑張ってね……えっと、未央、卯月」
アイドルをやらないっていう事は、本番が終わってからいう事にしよう。
今そんな事を言ったら、また一悶着ありそうだし。
未央「ちょっと、ちょっと! どこにいくの!?」
凛「え? どこにって……」
未央「これからは私達ユニットのメンバーなんだからしぶりんも一緒に来ないと駄目だよ! 今日は一緒に出られないけど、次のためにも近くで見てもらわないと!」
凛「あー……」
卯月「そうですよ! それに、渋谷さん……凛ちゃんが傍で応援してくれれば心強いです!」
凛「……」
まいったな……。
って、それもそうか、この状況ってアイドルに誘われている私が、アイドルになることを承諾して、今後のメンバーに激励をしているって状況に見える。
もしかして、この人、これを狙った?
私は眼つきの悪いPをジロリと見ると、Pは深くお辞儀を返すだけだった。
凛(……はぁ、ライブが終わるまでは付き合ってあげるか)
凛(終わったらきっぱりと言わないと)
その後、すぐ衣装直しが始まり、Pは別の仕事があるみたいで控え室から出て行き、あっという間に本番となった。
私は未央と卯月に引っ張られるようにステージ裏まで連れてこられ、ステージの裏側からライブを見ることとなった。
関係者でも無い私がこんなところに入ってきていいのかな……。
そう思っていると、ライブが始まり、二人の出番が迫ってきていた。
未央「うー、やっばー、また緊張してきたー」
卯月「未央ちゃん、リラックスです! 楽しみましょう!」
未央「うん。ねぇねぇしぶりん、私、緊張してきたからまた変なこと言ってよ」
凛「アンタ、もう緊張して無いでしょ」
未央「あはっ、バレた?」
卯月「落ち着いて楽しめば大丈夫ですよっ……ってあれ?」
二人とも本番前だけどもう緊張はしていないみたいだ。
そうやって話していると、さっきステージで踊っていた人、城ヶ崎美嘉が二人に声をかけてきた。
美嘉「おっ、二人とも随分と落ち着いてるねー、さっきまでガチガチだったのに何かあったの?」
未央「美嘉ねぇ! ふっふっふー、本番に強いこの未央ちゃんがガッチガチに緊張しいるですと? そんなわけないってー!」
卯月「またそんな事言って、凛ちゃんのお陰なんです! ねっ」
美嘉「凛ちゃん?」
城ヶ崎美嘉と目が合った、実物を見るとギャルというか綺麗系の人だと思う。
とりあえず頭を下げておこう。
美嘉「へぇ……何この子、もしかして新人アイドル?」
未央「おっ、さすが美嘉ねぇ、見抜かれてしまいましたかー!」
美嘉「それならもしかしてシンデレラプロジェクトの最後のメンバーってとこかな?」
卯月「その通りです! そして、私たちのユニットのメンバーなんです!」
また、勝手に話を……。
美嘉「そっかそっか、アタシは城ヶ崎美嘉、アンタもこの子達のプロジェクトメンバーになるならこれから色々と顔を合わせる機会があると思うからヨロシクね」
そう言ってウィンクをされる。
凛「はぁ……」
美嘉「それじゃ、アンタ達、もうそろそろ出番だから気合入れておいてね! アタシはもう行くからさ」
卯月・未央「はいっ!」
去っていく城ヶ崎美嘉とは入れ替わりに別の女の子が二人現れる、どちらも多分アイドル、かわいらしい雰囲気と元気そうな感じがする女の子達。
「みなさーーん!! どうですかー!! 元気ですかーーっ!!」
「もう本番ですね、出るときの掛け声とかは決まっていますか?」
卯月「掛け声ですか?」
「そうです、あったほうがいいですよ?」
「気合が入りますからねーー!!」
未央「掛け声かー。しまむー、しぶりん、何かあるかな?」
凛「え? えーと……」
何も思いつかない、普通にファイトーとかでいいんじゃないかなと思っていると、元気そうな感じの子から提案があった。
「好きな食べ物とかどうです!? 私なら、ほかほかごはーーーーん!! ですね!!」
「あはは、茜ちゃんらしいですね」
食べ物か、私なら……。
凛「……チョコレートかな」
あっ、声に出てた。
卯月「私は生ハムメロンです!」
未央「私、フライドチキン!」
私たちは顔を見合わせて、まず未央が言い出した。
私たちは顔を見合わせて、まず未央が言い出した。
未央「じゃんけんで決めよう! 誰の好物を掛け声にするか!」
卯月「いいですよ!」
凛「あ……うん」
そして、じゃんけんに勝ったのは。
未央「やった! 私の勝ち!」
卯月「負けちゃいました~~」
未央「それじゃ、フライドチキンね! 出るときにみんなで合わせて言うよ!」
卯月「わかりましたっ」
凛「あー、うん、わかった」
これ私も一緒に出る事になってない?
未央「しぶりんはここで言ってね、今回ステージ下から飛び出して登場するんだけど、流石にステージ下まで一緒に来ることは出来ないからさ」
あ、よかった、ちゃんと考えてくれてた。
同時に二人に声がかかった。
「スタンバイお願いします」
それに反応して未央と卯月は顔を見合わせて、最後に私を見て頷くと動き始めた。
未央「それじゃ、行って来るね! しぶりんも見ててね!」
卯月「私達頑張りますからっ、行ってきます!」
凛「あっ……行っちゃった」
私は二人が走っていったほうに目を向け続ける。
ステージではさっきまでやっていた音楽が止まり、次のステージがあの子たちの舞台となるのだろう。
しばらくすると、かすかに声が聞こえてきた。
『……フラ、イド』
凛「……チキン」
私が呟いたと同時に、ステージで音楽と歓声が聞えてきた。
私は舞台の袖に移動してステージの上の様子を伺う。
凛「うわ……」
観客席は半分くらいしか見えなかったけど、凄い数のお客さん。
音楽と同じくらいに歓声が地響きのように伝わってくる。
舞台袖でこれくらいだと、ステージの上はもっと凄いのだろう。
そのステージの上で、2人は踊っていた。
城ヶ崎美嘉が歌う曲に合わせて、踊っている。
スポットライトに照らされてキラキラと輝いている。
凄く眩しくて目に焼きつく光景、別の世界のような光景だった。
凛「すごい……」
私は食い入るようにその姿を見続けていた。
二人とも凄くいい笑顔、生き生きしている。
曲が終わるまで、私は瞬き一つせずに見続けていた。
そして気がついたら終わっていた。
ステージの上で、あの二人は踊りきった。
リハーサルとは違い、完璧に踊りきっていた。
凛「凄い」
正直な想いを口に出す。
あんな舞台で、さっきまで踊ることも出来なかったはずなのに、本番で結果を見せた。
ステージの上の二人は汗に濡れて、やりきったような表情で笑っている。
そんな二人に、マイクで観客に向けて話していた城ヶ崎美嘉から話を振られているようだった。
美嘉「みんなーー! ありがとねーー!!」
美嘉「ところで今日、バックを勤めてくれたこの子達はまだ新人なんだけど、アタシが誘ってステージに立ってくれたんだ!」
美嘉「それじゃあ、感想でも聞いてみよっかな?」
マイクを向けられたのは卯月。
卯月「ふぇっ!? わわっ、あわわわ」
最初は慌てていたが、卯月と未央は顔を見合わせて何を言うかを決めたみたいだ。
二人は手を繋いで、どこまでも嬉しそうな顔で、
卯月・未央「最高ーーーー!!」
言葉と同じ、最高の笑顔を見せた。
凛「……凄い」
凛「……二人ともあんなに輝いて」
凛「……まるで別の世界の出来事みたい」
どこまでも光輝く美しい光景。
本当に凄いと思う、こんなにも心を動かされる。
観客席からも歓声が鳴り止まない。
舞台袖にいる人たちも、手を叩いたりしている。
間違いなく大成功のステージだ。
私も感じたことの無いようなときめきを感じている。
ステージの上の二人を見て、眩しい二人を見て。
私も…………。
ゾクリ。
一瞬だった。
首筋に感じた寒気で、今まで感じていた何かは一瞬で消え去った。
凛「来た」
私は舞台袖から早足で立ち去る。
扉を開き、廊下を歩く。
凛「いいじゃん、この前から3日、早いじゃん」
意識が切り替わる。
今日の獲物は絶対に逃がさない。
凛「ふふふっ、あの子達の舞台が終わって、私の舞台が始まるって事か、ガンツも分かってるじゃん」
自然と顔がほころぶ、今の私はあの子達のような最高の笑顔をしているのかもしれない。
凛「転送されるところを見られるわけに行かないから、どこかで透明化をして待たないと」
私が人のいない場所を探そうと、扉に手をかけたとき、扉が急に開き小さな女の子が二人飛び出してきた。
私にぶつかって転びそうになった女の子を受け止める。
凛「ごめん、大丈夫? 急いでて前見てなかった」
「痛ったー……ひっ!?」
「あいたたた……莉嘉ちゃん? どうしたの……ひいっ!?」
凛「怪我は無い?」
こくこくと頷く二人。怪我は無いようだ、なら問題なし。
私は扉の先が会場だと気がつき、別の場所を探すために立ち去ることにした。
私の後ろからさっきの女の子二人の声が聞こえる。
「こ、怖かったよ~~、私食べられちゃうかと思っちゃった」
「あ、あんな怖い笑い顔してる人、アタシ初めて見たかも……」
その声に振り向くと、女の子達は全身を震わせて逃げていった。
凛「なんだろ……まあ、いっか」
特に気にせず私は歩く、人気の無い場所を探して。
そうして、あまり使われていないような階段を下り、電気が消えかけている一角を見つけた。
丁度壁に隠れるようになっていて、遠目から見ても気付かれることは無いだろう。
近くの壁には電気のスイッチもあった。
私は電気を消して、真っ暗になった一角に腰を下ろしてポケットに入れていたコントローラーを操作して透明になった。
壁に背を預け、私は転送されるまで待ち続けた。
凛(さあ、狩りの始まり)
凛(今日は皆殺しだ)
今日の狩りに想いをはせながら、転送されるまで闇の中で身を潜め続けた。
今日はこの辺で。
乙
恐竜ってこんなに早かったっけ?
風とか桜井とかどうなるのか
真っ暗な視界に光が差し込む。
ガンツの部屋、私は転送されていた。
私が転送されると同時に、あの歌が流れ始めた。
『あーたーーらしーいーあーさがきたーきーぼーおのーあーさーがーー』
凛「あれ?」
ガンツを見ると文字が浮かび上がっている。
『一人がいいみたいなので こんかいから一人でがんばってくだちい』
ああ、そういえば前回そんな事を言ったかも知れない。
ま、いいか。他に人がいても邪魔になる場合もあるし。
私は些細なことだと割り切って、次に出てくる情報を待った。
『この方をヤッつけに行ってくだちい』
『アリ星人』
『特徴 むれる たくさん』
『好きなもの ひと』
『口ぐせ ちきちきちき』
映った画像は頭の長い昆虫のような宇宙人。
コイツが今回の獲物。
むれる、たくさんっていう事は少し数が多いのかな?
私は情報を確認し、準備を行う。
銃と剣にこの前手に入れた大きな銃、それらを持ちバイクに積み込み転送を待つ。
凛「今回は、どんな感じになるのかな」
私はバイクの席で大きな銃を抱えながら考える。
出来ればあの仏像のときみたいな快感をもう一度感じたい。
この前は確かに気持ちよかったけど、あの仏像のときほどじゃなかった。
そんな事を考えていたら、私はいつの間にか転送されていた。
――――――――――――
――――――――
――――――
――――
――
凛「……はぁ」
戻ってきた。
凛「何ていうか……嫌な狩りだったな……」
今回の舞台は地下鉄の線路に空いた穴の奥だった。
アリ星人は確かに多かった。
50匹は殺した。1匹1匹弱くて銃で一発だったけど、銃で破裂させると体液が飛び散って、その体液が強力な酸だった。
それは気をつけていればかかることは無かったし、どうという事は無かったけど、問題はアリ星人のボス。
穴の奥、アリ星人の巣の最深部にアリ星人のボス、女王アリがいた。
5メートルはあるかという大きなアリ星人、そいつの腹に人間が沢山埋め込まれていた。
私がそれを愕然としながら見ていると、女王アリは私に気がついたのか体を震わせて何かを始めた。
すると、埋め込まれていた人間が叫びをあげ始め、次の瞬間には人間の体が裂け中からアリ星人が生まれていた。
その光景は酷いもので、私は目を逸らしていると、全ての人間はアリ星人を生み出して死んでしまったようだ。
私が何かを考える暇もなく、生み出されたアリ星人は私に襲い掛かってきた。
新しく生まれたアリ星人は動きが早く、連携するように私に襲い掛かり、それと一緒に女王アリからも攻撃が襲ってきた。
何とか女王アリ以外のアリ星人は殺せたけど、女王アリと最後に戦うときには銃と剣を失っており、私の体も左腕が溶かされてなくなっていた。
最後の最後、全力で巣の天井に飛びつき、蹴って殴って天井を落盤させて巣ごと潰してやった。
その際に私の体も半分潰れてしまったけど、何とか生き延びることが出来て戻ってこれた。
今回は敵を殺せて感じるよりも、敵が人間を使って仲間を増やしていたっていうことに衝撃を受けて気持ちよさを感じることもほとんどできなかった。
凛「ああいうの、ほんと嫌。気分が悪くなるよ……」
『ちーーーーーん』
『それでは ちいてんを はじぬる』
凛「採点か……」
『りんさん 87てん』
『Total 112てん 100点めにゅーから選んでください』
凛「あ、また100点行ったんだ」
確かにあれだけの数を殺れば1匹1点でもこれくらい行くよね。
浮かび上がった100点メニューを選ぶ。
凛「2番で、すぐ用意できる?」
画面の表示が消えて、何もおきない。
凛「ああ、そういえばこの前も奥の部屋に新しい武器が用意されていたっけ?」
私は奥の部屋の扉を開けて中を確かめる。
そこには、この前とは違い小さめのケースが用意されていた。
凛「あ、これかな? 中は…………パソコン?」
ケースの中に入っていたのは黒いパソコン。
とりあえず電源ボタンみたいなものを押してみると、すぐに起動して、黒い画面の中、右上にひとつだけアイコンが表示されていた。
凛「……Analysis-mode? 解析だっけ?」
アイコンを起動してみると、画面が変わり、No dataと表示されている。
凛「……これはちょっと調べないと分からないかな。時間もかかりそうだし持って帰ろう」
私は黒いパソコンの電源を切り、一緒に入っていたケーブルも持ち、ガンツの部屋を後にした。
少し遅くなってしまった、とりあえずは帰ってこのパソコンは部屋に隠しておこう。
そう思い、私は透明化を起動して夜の町を家に向かって駆け抜けた。
家について、お父さんとお母さんにも顔を見せて部屋に戻った私。
凛「あっ」
そこで気がつく、ライブ会場からそのまま帰ってきている。
あの子達にも何も言わずに……。
時間は9時、これはもう今から会場に向かっても誰もいないだろうな。
凛「これはやっちゃったな……どうしよう……」
あの子達は私がアイドルになるって思っている。
ライブが終わったらきっぱり断ろうと思っていたのに、狩りがあったからそのことも忘れていた。
どうしようかと思って、さっき電話をかけたPのことを思い出す。
凛「そうだ、あの人の電話にかけて断れば……」
と思い、電話を見てみると、あの人から何件か着信があったことに気がつく。
凛「あ、電話かかってきてたんだ」
狩り中はガンツの部屋に置いたままだったし、気がつかなかった。
そう思い画面を見ていると、手に持った携帯が震えだした。
この番号……あの人だ。
私は着信のボタンを押して電話を取る。
P「夜分遅くすみません。渋谷さんでしょうか」
凛「うん、何回か電話貰ってたみたいで、出れなくてごめん」
P「いえ、ライブの後姿が見えられなくなりましたので、念のため電話をかけていたのですが、もうお帰りになられたのですか?」
凛「あー、何も言わずに帰っちゃってごめん。もう家にいるんだ」
心配をかけてしまったみたいだ。確かに何も言わずに帰ったらそうなるだろう。
一応スタッフのカードとかも貰っていたんだし。
P「そうでしたか、それならいいのですが。何か急ぎの用があったのでしょうか」
凛「あ、うん。そんなところ。あっ、そういえば貰ったカードどうすればいいかな? 返さなきゃいけなかったら持って行くけど」
P「いえ、返していただかなくても結構です。必要なければ破棄していただいても構いませんので」
凛「そう、わかったよ」
少し間が空き、Pから問いかけが来た。
P「……ライブ、どうでしたか?」
凛「……凄かったと思うよ。あの二人も凄くきらきら輝いていたし、あんな舞台を間近で見れて感動できた」
率直な感想を言う。
P「そうですか……では、アイドルに興味を持っていただけた、という事でしょうか?」
興味はある。
だけどそれ以上に、私にはやるべきことがある。
凛「まあ、興味は持てたよ。だけど、私はアイドルにならないよ」
P「…………そう、ですか」
凛「私さ、今やることがあるんだ。それをやりながらアイドルをやることはできないと思うし、やろうとしても中途半端になると思う。だから私はアイドルを出来ないよ」
P「……」
凛「でも、興味は持てたし、あんな世界があるんだなって知ることが出来た。これからあの子達のことを応援していきたいと思うし。あの子達にもそう伝えておいて貰えれば助かるんだけど」
P「……わかりました」
凛「ありがと」
これでお終い、あの子達もこの人から聞いて諦めてくれるだろう。
そう思い、電話を終わろうと思ったら、
P「……貴女は今、夢中になれる何かに突き進んでいる、という事でしょうか?」
最後の交渉かな?
でも、答えは決まっている。
凛「そう、今はあれ以外のことは考えられない」
ガンツ、狩り、戦い、殺し、改めて考えると物騒なことこの上ないよね。
でも、それが私の生きる道。
P「わかりました。島村さんと本田さんには私のほうから話しておきます。今日はどうもありがとうございました」
凛「あ、こちらこそ、ありがとう」
P「それではこれで失礼します」
電話が切れた。
これでお終い、アイドルのことは忘れよう。
……いや、あの子達のことはこれからも見ていこう、テレビとか雑誌とか、見る機会があれば応援してあげよう。
それが私が何かを感じたあの子達に対して唯一できること。
もう会うことも無いだろうけど、これでいい。これでいいんだ。
私はそのままベットに横になり、天井を見上げて目を閉じた。
ほんの少しだけ、残念な気持ちがあったが、意識が落ちるともにその気持ちも露と消えた。
あの子達と会うことは無いだろうと思った、だけど次の日学校から帰ると、
未央「しぶりん!」
卯月「凛ちゃん!」
あの二人が家の前にいた。
凛「あれ……? なんで?」
未央「なんでじゃないよ! なんではこっちのセリフ!」
卯月「そうですよ! 何であの後帰っちゃったんですか? それにアイドルにならないって何でですか!?」
凛「えっと……あの人にも言ったんだけど、私はやることがあって……」
未央「やることって何!?」
凛「あー、それは……」
言えない。
未央「何で隠すの? 本当にやりたいことがあるなら言えるでしょ!?」
言う事はできない、言ったらアウトだから。
適当に何かを答えておこう。
凛「えーっと、私勉強しないといけないし」
卯月「アイドルを続けながらも勉強はできますよ!」
凛「あー、店の手伝いとかもあるし」
「あら? 大丈夫よ、手伝いをしなくても凛の好きなことをすればいいわよ」
凛「!? お母さん!?」
いつの間に!?
「あなた達、凛のお友達? アイドルって面白いこと話しているわね?」
未央「!!」
お母さんを見て何かを思いついたような顔をする未央。
未央「あ、これはどうも、私本田未央って言います。今日は凛さんにアイドルになっていただこうとスカウトに参った次第であります!」
「へぇ、アイドルねぇ」
未央「こっちの島村卯月と私でユニットを組んでいるんですけど、凛さんもアイドルになるって言っていただければすぐにでも私たちのユニットに入っていただけるんですよ! お母さんからも凛さんにアイドルになるようにって言っていただければ……」
凛「ちょ!? 何を言ってるの!?」
慌てて未央を取り押さえるが、今度は卯月が喋り始める。
卯月「凛ちゃんは絶対にアイドルになるべきなんです! 私たちも凛ちゃんと一緒にアイドルをやれれば嬉しいですし、それ以上に凛ちゃんがステージに立つ姿を私が見たいんです!」
凛「勝手なこと言って……」
少し強めに卯月を見ると、びくりと体を震わして、泣きそうな顔になりながら卯月は言う。
卯月「私たちと一緒にアイドルをするのは嫌ですか……?」
凛「うっ……嫌って言うわけじゃ……」
未央「ならやるってことだよね!?」
すかさず詰め寄ってくる未央。
「凛、これだけ熱心に誘ってくれてるんだから、アイドルやってもいいんじゃないの? あなた部活も入ってないし、時間あるでしょ?」
まずい、流れが非常に悪い。
私は無理矢理話を終わらす為に、
凛「と、とにかく! 私はアイドルをやらないから!」
走って逃げた。
未央「あっ! 待てー……って、速!?」
卯月「あぁっ、待ってください~~」
スーツは着ていないが、最近の特訓のお陰で体の動かし方が以前よりも効率よく出来るようになっている。
二人を振り切って私は逃げる。
未央「くそーーー!! 覚えてろーーー!! 私たちは絶対に諦めないからなーーー!!」
卯月「はぁっ、はぁっ、ま、待ってください~~」
聞こえてくる声を耳にしながら、逃げ続けて二人を完全に振り切ったところでため息をついた。
あの感じだとまた来るに違いない。
……次までに言い訳を考えておかないといけない。
私はそう考えて、今日の特訓を行うためにいつもの場所に向かった。
チビ星人 + Extra mission 編終了。
今日はこの辺で。
5.日常 + 新宿大虐殺編
次の日、学校にて。
「凛ー、なんか校門前に、別の学校の子来てるよ?」
デジャヴって言うやつかな?
前もこんな事があったような気がする。
だけど、今回は誰が来ているのかが何となく分かる。
私はチラリと窓の外を見る。
凛「……やっぱり」
あの二人だった。
ほんの少しだけしか顔を出してないはずなのに、何故か二人とも私に気付いて手を振ってきている。
私は額に手をやりため息をついた。
「どうしたの? 行かなくていいの?」
凛「……行って来る」
私は鞄を持って、教室を後にした。
未央「おいっすー! 迎えに来たよしぶりん!」
卯月「こんにちは、凛ちゃん」
満面の笑みの二人。
最初は引き込まれた笑顔なのに今はとても憎たらしい笑顔。
凛「……どうやって、学校を知ったの?」
未央「しぶりんのお母さんに聞いた」
お母さん……。
凛「……はぁ、またアイドルに誘いに来たの?」
卯月「はいっ! 私達、今からレッスンなんで、凛ちゃんも一緒に行きましょう!」
凛「……私、断ったよね?」
未央「私達しぶりんの口から聞いてないし」
凛「じゃあ、私アイドルをやるつもり無いから」
きっぱり言ってやった。
もう、ほんとに諦めてよ。
未央「なんで?」
凛「なんでって……私にはやることあるし……」
卯月「やることってなんなんですか?」
凛「それは……言えない」
ガンツのことを言えるわけがない。
未央「ほら、またそれ」
卯月「凛ちゃん……アイドルをやれない理由くらい教えてくれてもいいじゃないですか?」
だから言えないんだって……。
凛「あー……私、将来家を継ぐつもりだから花の勉強を……」
未央「それ嘘、しぶりんのお母さん、しぶりんがそんな事言ったこと無いって言ってた」
凛「……アンタ、お母さんと何話してるの?」
未央「あの後、しぶりんが帰ってくるまで待ってようと思ったら、家に上げてもらえたからお茶をしながら色々と話してた」
卯月「ハーブティーおいしかったですよね♪」
凛「……」
未央「しぶりんのお父さん、最近のしぶりんにご立腹だったよ? 夜遅くまでほっつき歩いてなにをしているのかって、昔はあんな子じゃなかったのに、オヨヨヨって泣いてた」
卯月「凛ちゃんのお父さんにお花を選んでもらったんですよ♪」
凛「……」
未央「お父さんとお母さんにはしぶりんを私達がきっちりと面倒を見るって約束でアイドルにしてもいいという了承はすでに貰っているんだぞ! さっさと観念してアイドルになりたまえ!!」
卯月「なってください!!」
今日の朝、やたらアイドルにはいつなるんだって聞かれてたのはこれが原因か。
あんまりしつこいから無視して出てきたけど……。
凛「だから、私はアイドルにならないって!」
未央「だからなんで!?」
卯月「なんでですか!?」
凛「それは言えないって言ってるでしょ!!」
未央「言ってくれないなら私たちも絶対に諦めないよ!!」
卯月「はいっ! ちゃんとした理由を聞くまでは絶対に諦めません!!」
ああもう! しつこいなぁ!
凛「なんでそんなにしつこく私を誘うの!? 他の子でもいいじゃん!!」
未央「しぶりんじゃないと嫌だから!!」
卯月「そうです!! 凛ちゃんじゃないと駄目なんです!!」
真剣な顔をして叫ぶ二人にたじろいでしまう。
凛「な、何で、私なの……?」
未央「なんでって……この前のライブ、覚えてるでしょ?」
凛「……うん」
未央「あのライブ、しぶりんがいないと失敗してた」
凛「え?」
卯月「……私達、リハが始まって、凛ちゃんに楽屋で会うまで、何一つうまく行かなかったんです」
凛「でも、最後はあんなにうまくいって、大成功だったよね?」
卯月「凛ちゃんが傍にいてくれたからです」
凛「えーっと……」
未央「しぶりんが一緒に来てくれて、私達今まで無いくらい息があってたんだよ? ステージの上でも、横でしぶりんが踊っているような気もしてた」
卯月「はいっ、ずっと凛ちゃんが傍で踊っているような感じでした。あのステージでは私たちだけで成功したんじゃないんです、凛ちゃんが一緒にいたからこそ成功できたステージなんです」
凛「そんな事、ないよ」
未央「あるって! しぶりんも何か感じなかった、私達と一緒に何かをしてるような感じ!」
卯月「そうです! 思い出してください!」
そんな感じなんて……。
あの時は、二人がステージで踊っている姿がとても眩しくて……。
その姿を目から放せないでいただけで……。
私も一緒にあの場所にって……。
凛「!!」
未央「あっ! その顔! 何かわかっちゃったって顔!!」
卯月「やっぱりそうなんじゃないですか!? 凛ちゃんも私達と一緒の気持ちだったんじゃないですか!?」
心が揺れている。
止めてほしい、私はもう決めたんだから。
自分が夢中になれる何かをもう見つけているんだから、私を惑わすのは止めてほしい。
私には私の舞台がある、二人みたいなキラキラした舞台じゃなくても、私に合った素敵な舞台があるのに。
あんなに気持ちよくて、生きているって実感できて、何よりも夢中になれる舞台。
凛「~~~っ!!」
私は、私の心を揺さぶる二人に背を向けてまた逃げた。
未央「あっ! 逃げんなーー!!」
卯月「凛ちゃーーん!! 待ってぇ……へぶっ」
未央「し、しまむー、大丈夫!?」
私は逃げて逃げて、いつもの特訓を行う場所まで駆け続けた。
特訓を行うには少し早い時間。
まだ日も落ちきっていない、森林の奥で私は日々の特訓で地面がクレーター上になっている中心に座り、前回手に入れたパソコンを調べていた。
あの二人に言われたことは、頭に残っている。
だけど、私はアイドルよりも、殺し合いを望んでいる。
敵を殺して、殺すことで感じて、生きているって実感する、そして人の敵でもあるアイツ等を殺しつくすことが私の使命。
そうしないといけないのに、私を揺さぶらないでほしい。
頭を切り替えよう、次は絶対に何を言われようが断る。
私にアイドルはやれないし、やるわけにはいかない。
私はあの子達とは違う。
違う人種だから。
凛「……あ、これって」
考えながらパソコンを調べていると、ケーブルを刺す場所を見つけた。
数本持ってきていたケーブルをあわせてみると、ぴったりと嵌った。
凛「……こっちはパソコンにつなげれた、それじゃあ、逆側は何に……?」
まず思ったのはバイク。
バイクのモニターにつなげれば、何かがあるのかもしれない。
次はコントローラー、コントローラーは持っていたからつなげてみたが、特に何もおきなかった。
最後に気付いたのが。
凛「これ、銃に繋げられる」
ケーブルを銃につなげてみると。
凛「……レントゲンのモニターがパソコンの画面と同じになった」
どうやら当たりだったみたいだ。
この前のアイコンを起動させると、この前とは違う表示があった。
凛「Target-Parameter ……これって」
銃を試しに使ってみる。
両方のトリガー、地面が爆発した。
上のトリガー、画面に変化が起きる。
凛「ローディングのような画面が出て、エラー表示……」
凛「上トリガーで何かが起きるみたい……多分ゲーム中に敵に使えるのかも」
次の狩りのときに使ってみようと思い、他に何かできないかと調べてみるが、それ以外に特に何かを見つけることは出来なかった。
いつの間にか辺りは日が落ち、真っ暗になっていた。
私は特訓を始めようと思い、立ち上がる。
凛「さて、始めますか……っ!?」
ゾクリ。
感じなれたあの感覚。
転送前の首筋の寒気。
凛「……あれから二日」
凛「……」
凛「ふ、ふふっ、何? この前が不完全燃焼だったからってすぐ殺らせてくれるってワケ?」
凛「……いいよ、いいよ! 私はいつでも準備は出来てる!」
凛「ガンツ! 早く転送して! 今日はいいのを、感じれる奴を頼むよ!」
私はパソコンを手に持ち、その場で転送のときを待った。
やがて、私はガンツの部屋に転送されて、今日の狩りが始まった。
『あーたーーらしーいーあーさがきたーきーぼーおのーあーさーがーー』
転送と同時に歌が始まった。
前回と一緒、これからは一人。
凛「さ、今回はどんなのかな?」
画面の表示が切り替わった。
『この方をヤッつけに行ってくだちい』
『狩人』
『特徴 つよい かしこい つよい』
『好きなもの つよいもの』
『口ぐせ なし』
画像には、化け物のような顔をした宇宙人。
凄い顔……。
口が裂けて牙が沢山見える。
特長にも強いって沢山書いてあるし、手ごわい相手なんだろう。
凛「……ふふっ、今日は期待できるかも」
予感がする、ゾクゾクと背中に寒気が走っている。
今回の奴を殺れたら、凄いのを感じれる予感。
ドキドキしながら私は装備を整える。
今日の装備は、パソコンに、大きな銃と、長い砲身の銃を2丁、小さな銃を6丁、Y字銃は4丁、剣も4本。
前回は武器がなくなってしまったから、持てるだけもっていく。
それを持ってバイクに跨り、私は目を瞑りその時を待った。
今日はこの辺で。
ジジジジジジジ…………。
凛「……」
ジジジジジ……。
凛(……森?)
ジジッ。
転送された私の視界には生い茂る木々が映っていた。
木々の隙間から月明かりが見えるが、真っ暗な森。
起伏のある地面、そして見渡す限りの木々。
凛(どこかの山?)
一瞬いつもの訓練をしている森林公園を思い出すが、公園とは比べ物にならないくらいの大きさの木からここが違う場所、森か山だと察する。
凛(好都合、こういうところはいつもの訓練で慣れている)
口元が釣りあがる。
いけない、油断は駄目だ。
敵の位置を確認しないと。
コントローラーを取り出し、すぐに透明化を行い、レーダーで獲物を探していた。
レーダーに映った光点は1つのみ。
凛「あれ?」
見間違いかと思いながら何度か見直してみるが1つのみだった。
凛(今回は1匹だけ……?)
少し残念な気持ちになったが、丁度いい機会だと考え、パソコンに銃をつなげ、転送前に見つけた機能を試そうと考えた。
この場所では使えそうにも無いバイクは置いておくことにして、小さな銃とY字銃をホルスターにいれ、剣も2本、ホルスターの隙間に差し込んで、大きな銃とパソコンを持って移動を始める。
レーダーを見ながら、木々を掻き分け獲物の位置に近づくと、大きな木の根元に座って何かをしている獲物の姿を見つけた。
凛(見つけた)
今回の獲物は画像の化け物のような姿ではなくて、鎧のようなものを着込んで、頭にはヘルメットみたいなものを被っていた。
よく見ると腕を触って何かをしている。
凛(……なにをしているのか分からないけど、チャンスかな)
私は獲物に向かってパソコンをつなげた銃の上トリガーを引く。するとパソコンにエンターキー表示がされているので、エンターを押すと。
パソコン画面に、獲物の姿と、70pointという表示が映し出された。
凛(70……点数ってことかな?)
これは獲物の点数を表示する道具かと理解したところで、私の体に何か違和感を感じた。
凛(なに? これ?)
赤い光点が私の体に浮かび上がっていたからだった。
凛(っっっ!!)
背骨に氷柱を刺されたような感覚が襲い、全力で跳躍した。
だけど私がいた場所にものすごい爆発が発生して私はそれに巻き込まれて数十メートルほど吹き飛ばされて木に叩きつけられてしまった。
凛「あぐっ!?」
吹き飛ばされたときにパソコンは落としてしまった。
だけど、大きな銃は落とさない。
凛「くっ、気付かれてたって事!?」
透明状態なのに気付かれていた? 今回も透明化が効かない獲物かと思いながら、獲物の位置を確認しようと獲物がいた場所を見るが姿は無かった。
凛「まずい……見失った……」
すぐさまレーダーで確認すると、何故か私の前、10メートルくらいの位置に光源が発生している。
凛「え?」
私の眼前には生い茂った木々があるだけ。
もう一度確認すると今度はさらに近づいてきている。
凛「何!? どこに!?」
5メートルくらいの位置になってようやく気がつく。
空間に歪みが起きている、地面の草に足跡がついている、空中で放電が起きている。
凛「っ!! まさかっ!!」
こいつも透明化を使える!? そう思ったときには、私の体はさっきの爆発の直撃を食らって今度は百メートル近く吹き飛ばされた。
木をへし折りながら吹き飛ばされていく、数十本の木をなぎ倒してようやく勢いはおさまり私は大きな大木に叩きつけられて止まった。
凛「げほっ!! かはっ!!」
キュウウウウン……。
スーツから音がする。
嘘……もう限界を向かえるって言うの?
スーツを見ると壊れたわけでは無さそうだったが、後1発でもあれを喰らったら確実に壊れて、私も爆発に巻き込まれて死ぬだろう。
凛「……やってくれるね」
怖さは感じなかった。
逆に高揚感が湧き上がる。
凛「コントローラー……壊れた。デカ銃は持ってる、ホルスターの銃と剣は……小銃と剣のみ、後は落としたか……」
凛「バイクの位置まで戻って武器を補充……厳しいかな」
戦況を分析。
敵の攻撃は、大爆発を起こす飛び道具、それと私の体に浮かび上がった赤い光点もそうかも……あとは透明化を使えるし、私の透明化状態を見破られた……。
凛(この夜の森の中、視界はほぼ無い状態、こんなところで透明化を使える敵と殺り合うのは……)
凛(レーダーがあれば別だけど、私のレーダーは壊れた。敵は私の位置を把握できる……)
凛(もう、襲ってくるかもしれない、上か横か背後か……どこから来るかも分からない)
凛(……絶体絶命ってやつだね、本当にやってくれるよ)
少し離れた木の草が大きく揺れた。
凛(!!)
反射的に大きな銃を撃つ。
木々を押しつぶし、円形の破壊痕が出来上がる。
凛(……そうだ)
それを見て一つの案が私の頭に浮かび上がった。
私は小銃を左手に、大きな銃を右手に持ち、両方の銃を乱射し始めた。
ギョーン!! ドンッ!! ギョーン!! ドンッ!! ギョーン!! ドンッ!! ギョーン!! ドンッ!!
レントゲンのモニターを見ながら敵を索敵しながら撃ち続ける。
敵の姿は映らないが、撃って撃って撃ちまくる。
数分撃ち続けて、私の周囲数十メートルは更地となり、土煙が巻き上がった状態となっていた。
凛(さあ、ここからが本番)
私は銃の乱射を止めて、舞い上がっている土煙に集中する。
凛(……)
何もおきない。
土煙は一定の動きでもくもくと辺りを漂っている。
凛(……)
全ての感覚を、視覚と触覚に集中する。
凛(…………!!)
僅かに土煙に動きがあった、見るより早く体を倒し地に這い蹲るようにして、腕を伸ばし銃を撃つ。
私の頭上に光る何かが通り過ぎていき、後方で大爆発が起きた。
それと同時に、私の前方で何かが吹き飛ぶ音。
凛(当たった!!)
すかさず銃のモニターで敵をロックオンする為に確認するが、モニターには何も映らない。
凛「ちっ」
飛び上がりながら体を起こし、再び敵の位置、敵の攻撃がどこから来るか察するために全神経を集中させる。
先ほどと同じように土煙に集中していると、音が聞えた。
キンッキンッキンッ。
複数回の金属音、私は動こうとしたが、私が反応するよりも早く、何かが私の持っている大きな銃を吹き飛ばし、後方へと消えた。
通り過ぎた後に土煙は舞い上がり、吹き飛んだ大きな銃は真っ二つになり地面に散らばった。
凛(!? 今の……一瞬だけ見えたけど、刃がたくさんついて高速で回転してた)
凛(運がよかった……多分体に当たっていたら……)
敵の新たな攻撃に息を呑む。
凛(……でも、次は私の番でしょ!?)
敵の攻撃を喰らったから、私の攻撃も喰らわせてやる。
単純な思考で、私は剣を持ち、体を回転させ、360度横一文字に振りぬいた。
すると、激しい金属音が発生し、私の剣は少しだけ何かに食いこむ感覚と共に止まった。
凛「!!」
剣が何かに防がれている。
敵に防がれている。
つまり、剣の方向に。
私は銃をその方向に向けて。
凛「っ!?」
土煙を巻き上げて飛んできた、ネットのようなものに絡め取られて一瞬身動きを取れなくなった。
すぐに剣でネットを切り裂くが、銃は今の衝撃でどこかに飛ばされてしまった。
凛「ちっ」
チャンスを掴み取れなかった。
いや、敵がうまかったというべきか。
凛(……ちょっと、ピンチかも)
残っているものは剣が一本。
やはりバイクまで取りに行かなければ行けないと考えるが、取りに行かせてくれる訳が無い、そうやって考えていると、周囲の土煙は晴れて視界が開けてきた。
凛(……土煙に反応して一瞬早く行動できなくな…………)
私の視界に妙なものが映る。
土煙が晴れて、木々は完全に潰されて、月明かりが照らす平地。
私の十数メートル前に放電が起きている。
徐々に現れてくるその姿は、先ほど見た敵の姿。
顔を覆う金属製のヘルメットにドレットヘアーのような髪が隙間から出ている。
体は金属の鎧につつまれて、左肩の鎧が吹き飛んで中の体が見えていた。
手には槍を持ち、もう片方の手には長い爪のような刃が装着されている。
凛(……何のつもり? 姿をあらわした?)
何故か姿を現した敵を眼前に、私は敵の行動を見逃さずに警戒を続ける。
すると、自然な動作で敵は何かを投げてきた。
私はそれと同時に距離を取るが、敵と私の間に落ちたものは。
凛「…………私の、剣?」
さっき吹き飛ばされたときにどこかに落としたはずの私の剣だった。
敵が何をやっているのかわからない。
敵は私を見ながら、被っている金属のヘルメットに手を伸ばした。
凛「……」
私はそれを見続ける。
敵はヘルメットに繋がっているホースのようなものを外す。
外すたびにプシューと空気が漏れる音がする。
全てのホースを外し終えたのか、次はヘルメットを持って、
敵はヘルメットを外し、ガンツの画像そのままの化け物のような素顔を現した。
凛「……」
「ゴルルルルルルル」
ヘルメットを地面に落とし、槍で地面に落ちている剣を指す。
凛「……まさか、拾えっていうの?」
私の返答に唸り声を上げることで返す敵。
凛「アンタ、一体……」
敵が不意に襲ってくる気配は微塵も感じられない。
私は落ちている剣を手に取り、敵と向き合う。
「グルルルルルルル……」
敵の裂けた口が動いた。
笑っているような、満足したようなそんな感じ。
それと共に敵が、槍と刃を構えて再び唸り声を上げ始める。
それを見てわかってしまった。
凛「ぷっ、あははははっ! 宇宙人にも変なのいるじゃん!」
私は剣を両手に持ち、刃を伸ばして身を低く構える。
要するに、コイツは私と接近戦で戦いたいってことだよね?
飛び道具は無しの戦い。
望むところだよ!
私の地面を抉るほどの踏み込みは、超高速の接近となり、高速で振るった私の剣は敵の槍と激しくぶつかり合った。
今日はこの辺で。
私は今、間違いなく全力の一撃を放った。
スーツの力も合わさって、人の目には見えない様な速さの斬撃を繰り出したはずだ。
だけど、目の前のコイツは手に持った槍を自然な動作で動かし、私の剣を防いでいた。
凛(やるね……)
凛(それなら、これはどう!?)
私の腕の部分は筋肉がもりあがるように膨れ上がり、その力をそのまま振りぬく力に変えて、両手の剣を交差するように振り抜いた。
さっきと同じ、いや、さっきよりも速い斬撃。
だけど、それも槍と刃によって阻まれることとなった。
凛(っ!)
敵の攻撃が繰り出される。
速くない、前のチビに比べるとかなり遅い攻撃。
だけどその槍のなぎ払いを避けることができずに、私は槍の腹の部分で殴り飛ばされた。
凛「うぐっ!」
体勢を整え、反撃。
剣を伸ばして突き刺そうと試みるが、これも槍で弾かれた。
もう片方の剣で袈裟懸けに斬るが、それも刃で弾かれる。
凛「くっ!!」
奴が近づいて今度は刃で攻撃してきた。
これも遅い。剣で防ぐことが出来る。
だが、剣で防いだ瞬間、私のお腹に奴の蹴りが突き刺さった。
スーツ越しに伝わる重い衝撃。体が宙に浮き、横薙ぎの槍によってまた吹き飛ばされる。
凛(何で?)
力任せにまた剣を振るう。
だけど防がれる。
そして、敵の攻撃は受けてしまう。
凛(アイツの攻撃は見えてるのに。何で?)
さっきから攻撃を受けるたびにスーツから音がしている。
もう限界が来ている。
後数発攻撃を貰ったらスーツは壊れる。
そんな状況でも、私の頭の中は疑問が止め処なく湧いてきて、それだけを考えていた。
凛(アイツは遅いのに、私のほうが絶対に速いのに)
剣を振るっても当たらない、防がれる、受け流される。
凛(何で避けれないの? 見えてるのに)
アイツの攻撃は喰らってしまう。
凛(わからない……わからない……)
理解が出来なかった。
それが悔しかった。
このままだと何も出来ずに私は負ける。
凛(それだけは絶対に嫌)
せっかくの殺し合いの舞台。
私の舞台で何もできずに終わるのは嫌だった。
凛(……私の攻撃は当たらない、だけどアイツの攻撃は当てられる)
凛(それなら、どうやってアイツが行動しているのか見てやる)
凛(そして……真似してやる!)
当たらなくて当てられるなら、どうやっているのかを見て、真似すれば当てることが出来る。
そう思った。
そして、私はアイツの行動を見ることにした。
凛(……この攻撃を)
私の全力の居合斬り、アイツはどうやって防いでいる?
私は目を凝らした、相手の行動を見るためだけに全ての神経を集中させる。
眼に全神経を集中させて、アイツの動きを全てこの眼に焼き付けるつもりだ。
そして、私の眼はアイツの動作を捉える。
凛(……槍を動かしている)
ただ動かしているんじゃない。
一切の無駄の無い動き。
私の攻撃を防ぐ為に、最小の動作を繰り出している。
最小な動作は最短距離で私の剣の軌道に割って入る。
その流れるような動きを見て、場違いな感想を抱いてしまう。
凛「……綺麗」
私の剣は完全に止められて、アイツは反撃の一撃を放ってきていた。
その攻撃も流れるような攻撃。
私が攻撃をする為に踏み込んで僅かに重心を崩しているその一瞬の隙で攻撃をされている。
そうか、アイツは私の動きも見て攻撃を……。
私はまた槍で殴られ吹き飛ばされる。
凛「ぐぅっ……」
距離が少し空き、私はもう一度剣を構える。
アイツの動きは見ることが出来た。
だけど、あの動きを真似る事が出来るのか。
……多分できない。
勘だけど、アイツは何度も何度も戦って、戦いの中で自分の動きを完成させていったんだ。
自分の体がどうすればどう動くかって事を全部理解している感じ。
そして、敵の動きに合わせて、自分がどう動けば敵に攻撃を当てられるかという事を理解している。
戦いの中で作り出した動き……技術っていうのかな……。
目の前のコイツは私の何倍も何十倍もの戦いの中で技術を磨き、敵を倒すためだけの技術を身につけたんだ……。
……私には経験が足りない。
コイツの動きを見て、自分でコイツの動きを模倣できるかと考えて無理だと判断してしまう。
もっと戦いを経験できていれば……。
凛「うぐぅ!」
また敵の攻撃を受けてしまう。
避けられない、防げない、私の隙を付かれて当てられる。
地に両手を付きながら、私はスーツが限界を向かえる音を聞いた。
凛「ふっ……ふぅっ……ふぅっ……」
次で終わり。
アイツの攻撃を受けた時点で、私の体は切り裂かれるか、骨を折られ行動不能になるだろう。
凛「ふぅぅぅぅ……」
妙に落ち着いていた。
数秒後には訪れる確実なる死。
それを予感しながらも私は澄んだ水面のような、どこまでもクリアな感覚につつまれていた。
その私に誰かから声をかけられた様な気がした。
『しぶりん』
『凛ちゃん』
敵から目を離して振り向く。
あの二人の声が聞こえたような気がしたから。
誰もいなかった。
少しほっとした。
私の頭から、戦いの思考が消えて、あの二人の事が浮かび上がる。
それと同じタイミングで、私の視界の端にアイツの攻撃が見えた。
槍を上段に構え振り下ろしていた。
凛(あぁ……)
凛(これでお終いかぁ……)
槍が近づいてくる。
凛(最後に考えたことは、あの二人のことか……)
凛(こういうときって走馬灯とか見るんじゃないの?)
そう思ったら、私の脳裏にこの間のステージが鮮明に蘇ってきた。
凛(あっ、見ちゃった。考えた傍から走馬灯)
二人が踊っている。
でも、あれ? おかしいな?
私は舞台袖から見ていたはずなのに、ステージの上から見ているような感じ。
私もステージの上にいて隣で二人が踊っているような感じ。
凛(……なんだろうこの感覚)
不思議な感覚。
あの二人と一緒に踊っているような……。
凛(あの時、二人は……こんなステップを……)
私は気がついたらリズムを刻みながらダンスのステップを踏んでいた。
1,2,3,4……。
ステップを踏んで、ターン。
私の鼻先を何かが掠めたけど、私は気にせずステップを踏む。
5,6,7,8。
最後に胸の前に手を持って行き、ピタリと止まる。
あの二人が最後に見せた決めポーズ。
恐らく寸分たがわず再現できた。
あのステージであの子達が踊ったダンス。
その最後の一節。
凛(……あれ?)
違和感を感じた。
目の前にはアイツの鎧。
凛(あれ? 何でこんなに近くに?)
見上げると、アイツの顔が見えた。
目を見開いている。驚いているような顔。
凛(何? あれ? これって……)
胸の前まで動かした手に握る剣を、軽く振った。
私の剣は、地面に突き刺さった槍を持つ、コイツの右腕を切り飛ばしていた。
「ゴアアアアアアアアア!!!!」
凛「っ!!」
とてつもなく大きな叫び声と共に、左手の刃が私に襲い掛かる。
コイツの刃は私の脇腹を削り取り、私が同時に突き出した剣はコイツの胸を貫いていた。
「ゴッ……」
凛「ぎっ!?」
私は吹き飛ばされて剣を手放してしまう。
数回地面に叩きつけられ、数メートル転がり止った。
血が腹部から噴出している、傷口を押さえながら、私はアイツを見ると、
アイツは蛍光色の血を吐きながら、地に膝を付いて私を見ていた。
「ゴフッ……グフッ、グフッ、フッフッフッ……」
笑っている。血を吐きながらも笑っている。
アイツは立ち上がり、胸に刺さった剣を抜いて私に投げてきた。
私は、かすれ始める視界の中、剣を手にとり立ち上がった。
アイツも残った左腕の刃を構えて戦闘態勢を取ったようだ。
凛「……アンタ、ほんっと、変な奴だね」
私も剣を両手で握り構えを取る。
「グルルル…………」
お互い血を流しすぎているからか動きは鈍い。
剣を伸ばして突き刺せばアイツは避けることもできないだろう。
だけど、今回、その選択を選ぶことは無い。
凛「これで、最後」
私は剣を振りかぶって。
「ゴアアアアア!!」
コイツも刃を振り上げて。
同時に振り下ろした。
コイツの刃は私の顔を切り裂く。
右半分が真っ暗になった。多分目ごとえぐられた。
でも、残りの左半分の視界で見える、私の剣がコイツの顔に食い込んでいる。
後は振りぬいてしまえば。
と考えるが、もう力が入らない。
凛(後一歩なのに……)
力を込めようとしても、手に力が入らない。
自分の体じゃないみたいだ。
凛(力を、最後の力を振り絞って…………)
ほんの少しだけ動く。
そして、少しだけ剣を押し込めた。
凛(ははっ……限界、か……)
もうひとかけらの力も残っていなかった。
私はそのまま剣を放し崩れ落ちる。
凛「…………私の、負け、かぁ」
私は私を見下ろしているコイツを見上げる。
コイツは私を見下ろしたまま微動だにしない。
凛「……ごめん、お父さん、お母さん、もう帰れそうに無いや……」
ピーーーーーーー。
……コイツの左腕についている機械のようなものから電子音が聞えてきた。
凛「……どうしたの? さっさとやりなよ……」
私を殺そうとしないコイツに疑問を抱く。
その間も、コイツの左腕の機械からピッピッっと電子音が鳴り続ける。
凛「…………? 何?」
何故何もしないのかと、この音はなんなのかと思っていると、コイツの体がグラリと揺れてゆっくりと倒れ始める。
凛「……え?」
ズウウンと私の横に倒れた。
そして気付く。
コイツの顔、私の剣がコイツの頭を砕き、中の脳が飛び出していることに。
コイツの眼は私を映していない。
凛「…………死んでる?」
死んでいた。
信じられないが、最後の最後、ほんの少しだけ押し込んだ剣がコイツの脳を破壊したのだろう。
凛「……勝った」
勝てた。そう意識して湧き上がってくる気持ち。
凛「勝った」
明らかに自分より強い相手に勝った。
凛「やった」
気持ちよさとは違う、達成感、充実感のようなものが私の脳内を駆け巡る。
凛「やった! やったよ! 私の勝ち!!」
私の頭の先が転送されている、間違いない、私は勝ったんだ!
転送されていることによって、この強敵に勝てたという事を実感でき、私の興奮はさらに高まっていく。
それが快楽となって全身を駆け巡る寸前にそれは起きた。
ピッ、ピッ、ピィーーーーーーッ。
凛「あっ?」
電子音が一際大きく鳴り、止まった。
アイツの左腕から、全身にかけて光輝く放電が起きる。
空間が捻じ曲がるように、一瞬だけ世界の音が消えて。
眩い光と共に、恐ろしい衝撃が私を包み込んで、私はバラバラに吹き飛ばされる自分の体を見て、自分の体がグチャグチャになる感覚を味わいながら、ガンツの部屋に戻ってきた。
――――――――――――
――――――――
――――――
――――
――
凛「はっ、ぁぁぁぁンッ! あ、ぁぁ……」
凛「ンァ……ぁぁぁぁっ……」
全身が震えている。
最後のアレで一気に押し上げられて達してしまった。
余韻が半端ない状態だ。
あの仏像のときを超える快感。
膝が震えて立てない。
手が震えて体を起こせない。
『ちーーーーーん』
『それでは ちいてんを はじぬる』
『りんさん 70てん』
『Total 82てん あと18てんでおわり』
凛「あっ……」
採点が終わっていた。
私は涎を垂らしながら横たわり、まだ全身に浸る余韻を感じ続けていた。
ビクンビクンと体が震え続けてる。
しばらくその状態のまま私は感じ続ける。
やがて余韻がおさまり、ようやく私は体を起こし床にぺたりと座る。
凛「や、やばかった……何今の……」
頭がおかしくなるくらいの気持ちよさ。
凛「体があんな風にバラバラになってたのに……あんなに気持ちよかった……」
完全に頭のおかしい人だ。
自分でもドン引きする。
凛「ちょ、ちょっと、自重しないと……変態を通り越して、変人だよ私……」
でも、最高に気持ちがよかった。
凛「こ、こういうのってMってやつなんだっけ?」
痛みを感じて気持ちよくなるのがそうだったよね……でも、痛みを感じてたっけ? 体がバラバラになった時は感じてなかったような……。
凛「少し考えながら帰ろう、私が気持ちよくなれるのはどういう時なのか……どんな時に感じちゃってるのか……」
まだ頭がぼうっとしているのか、おかしなことを考えながら私は部屋を後にする。
凛「いつもすぐに気持ちよくなって無いんだよね……ちょっとずつ高まっていって……」
私は扉を開けて、自己分析をしながら帰路に着いた。
今日はこの辺で。
次の日、登校した私の席に友達が集まってきた。
「凛! 聞いたよー! 何何? 凛ってアイドルデビューすんの?」
凛「……」
何をしてくれてるんだ、あの二人は。
「マジ!? どこの事務所になるの!?」
「346らしいよー」
「すごっ! あそこ高垣楓とか十時愛梨に川島瑞樹、それに城ヶ崎美嘉が所属してる所じゃん!」
「凛! 私、城ヶ崎美嘉のサインほしい! 今度貰ってきてよ!」
凛「……あー、ごめん、その話ってデマだから」
「え? だって、昨日346のアイドルが宣伝して行ったよ? 凛はこれからアイドル活動を始めるから応援よろしくって」
「うんうん、私帰って調べたけど、あの子達本当にアイドルだったよ? そんな子達が凛もデビューするって言ってるんだし」
凛「それ違うから。私はデビューするなんて言って無いし、アイドルになるつもりも無いから」
「えーーー! もったいねー!」
「そーだよ! なんでやらないの? 凛なら絶対人気出ると思うけどな」
こんなやり取りを放課後まで何回もした。
本当に勘弁してほしい。
時間は過ぎて、放課後。
「凛ー! 未央と卯月が校門前にきてるよー!」
なんで名前呼びになってんの……。
本当に昨日何をして行ったんだ……。
私は急いであの二人の元に向かう。
これ以上被害が拡大する前に。
走ってあの二人の所まで行き、憎たらしい笑顔を振りまく二人を睨む。
未央「やあやあ、しぶりん!」
卯月「こんにちはっ、凛ちゃん!」
私は二人の手を掴んでそのまま学校を後にする。
未央「うわわっ!? どーしたの、そんなに急いで!?」
卯月「きゃっ! ど、どこに行くんですか?」
二人を引っ張り近くの公園に着いた。
公園のベンチに二人を座らせた。
そして私は視線を強めながらはっきりと言う。
凛「言ったでしょ? 私はアイドルにならないって、どんなに誘われてもなるつもりは無い。学校にまで来て、あんな事をされると迷惑なの」
卯月「あぅ……そんな……迷惑って……」
卯月はうろたえている。もう少し強く言えば折れそうな感じ。
だけど、未央は私に言い返してくる。
未央「……それなら教えてよ! アイドルになれない理由! 何も教えてもらえずに、諦めれないって!」
未央を見て何度も頷く卯月。
この前から繰り返している問答。
理由は言えないけど、理解してもらう為に、私は二人に本心をぶつける。
諦めてもらうために……。
凛「私、今夢中になってることがあるんだ。他のどんなことよりも夢中になれる事、それを初めてからは毎日が充実しているし、毎日が楽しい」
凛「それが私のやりたいことなんだって、やるべきことなんだって認めるのに時間はかかったけど、今はもうそれ無しに生きていくなんて考えられない」
未央「……それって、なんなの?」
凛「言えない。だけど理解してほしい。私は今やることがあるし、やらなきゃいけないことがあるんだ。それを続けながらアイドルをやることは出来ない。絶対に中途半端になってしまうと思うから」
凛「今の私はアイドルよりも、私が今やっていることをどこまでも突き進んでいきたいと思っている。これがアイドルを出来ない理由、私はもうアイドル以外にやるべきことを見つけてしまってるんだ」
想いを込めて二人に伝える。
二人には伝わっている。
私がどうしてもアイドルになれないって事が伝わっている。
二人の顔が曇り始めているからだ。
正直二人と一緒にアイドルをやりたいとは思う。
だけど、それ以上に。
私は殺し合いを求めている。
戦いの高揚感、ギリギリの極限状態で殺しあった時に得られるあの高揚感、そして敵を殺したときに得られるあの充実感、それが強い敵だったら充実感と満足感は一際大きい。
憎い敵を殺した時に生まれるあの爽快感、そして敵を殺しきったときに感じる快感。
全部もう忘れられない、戦いが、殺しが、楽しくて楽しくてたまらない。
頭の中にこれまでの殺し合いの記憶が蘇っては消える、体が震え始めてしまう。
そんな私に、卯月が問いかけてくる。
卯月「凛ちゃんがやってること……それは教えてもらえないんですよね?」
凛「……うん」
卯月「そう、ですか……」
手を握って下を向く卯月。
それに変わるように未央が口を開く。
未央「どうしても……駄目なのかな……?」
凛「……うん」
未央「……そっか」
空を見上げる未央。
しばらく無言の時間が流れる。
多分二人とも理解してしまったはずだ。
これ以上何かを言っても私はアイドルになることを承諾しないと。
私は最後の言葉を二人に投げかけようと口を開く。
凛「……私はアイドルになることは出来ないけど、二人のことを応援し続けるよ」
卯月「……」
未央「……」
二人とも何も言ってくれない。
でも言うべきことは言った。
凛「それじゃ、さよなら……「待って!」 ……何?」
未央が立ち去ろうとした私の服を掴んでいる。
未央「……最後にさ、一緒に踊らない?」
未央は私を見つめながら踊りたいと言う、返答に困る私だったが、卯月も私の手を握りぽつりと呟く。
卯月「はい……最後に、私たちと踊ってくれませんか?」
二人とも寂しそうな顔をしてるけど、多分これをけじめにするつもりなんだ。
私は二人のお願いに、頷くことで答えた。
それを見て二人ともまた笑ってくれた。
私が引き込まれた笑顔とはちょっと違う寂しそうな笑顔。
私は二人の手を取り、少しだけ移動する。
私が真ん中、卯月が左、未央は右。
私が踊れるのはこの前のライブで目に焼き付けたあのダンス。
昨日の戦いで、戦いの最中に舞ったあのダンスだけ。
私たちは日が沈むまで踊り続けた。
信じられないくらいに息が合い、3人全員の調和が完全に取れたダンスだった。
いつまでも踊っていたいと思ったけど、日が沈むと共に誰がいう事もなく自然に終わる。
未央「……うん! やっぱり思ったとおり私達の相性は最高だったね!」
卯月「……ですね。初めて合わせてこんなに完璧に合うなんて……」
私は二人に向かい合っている。
凛「……楽しかったよ」
ありのままに感じたことを一言だけ。
これ以上は言わない。二人に希望を持たせるようなことはもう言わない。
卯月「私も楽しかったです、ありがとうございました……凛ちゃん」
卯月はもう寂しそうな顔をしていない。割り切った顔をしている。もしかしたらこういう別れを何度も経験しているのかもしれない。
未央「よしっ! 吹っ切れた!」
そういいながら、まだちょっと心残りがあるような顔をしている未央。
未央「しぶりん! これからの私たちを見ててよね? 私たちはぜーったいにトップアイドルになる、日本人なら誰でも私たちを知ってるくらいのアイドルになってやるから! それで、しぶりんはテレビを見ながら、どうしてあの時アイドルを断ってしまったんだーって後悔させてやるんだからね!」
私に指を刺しながら言い切る未央。
凛「……ん。応援してる」
太陽のように笑う未央。
卯月「凛ちゃん。見ていてください。私たちを応援してくれる凛ちゃんに届くように、私達はどこまでも走り続けます。どこまでもきらきらして素敵なアイドルになってみせますから。……私達、頑張りますからっ!」
胸に手を当て言う卯月。
凛「うん。見続けるよ、二人のことを」
咲きほこる花のように笑う卯月。
最後に二人の笑顔を見れて良かった。
これで、最後、私も笑って二人を見送ろう。
凛「じゃあ……」
未央「うん……」
卯月「はい……」
私たちは同時に。
『さよなら』
別れを告げそれぞれの道を歩み始めた。
私は振り返らない。
これから、私はどこまでも歩き続ける。
どこまでも、どこまでも……。
それから数ヶ月が経過する。
時間はあっという間に流れていった。
数ヶ月の間に変わったこと、それは殆ど無かった。
私の生活の中心はガンツの殺し合いが中心となっている。
数ヶ月、ガンツの狩りはペースが落ちることがなく、今では毎日狩りをしている。
ずっと一人で狩りを続けている。
簡単な狩りもあれば、死ぬ寸前のギリギリの時もあった。
数ヶ月、私はずっと生き残り続け、敵を殺し続けてきた。
すでに100点は9回取っている。
全部2番を選び続けていた。
今の私の装備はかなり充実されたと言ってもいい。
3回目にはスーツの強化、見た目は変わらなかったが身体能力向上や攻撃力、防御力がかなり上昇した。これはかなりありがたかった。特に防御性能が上がって、沢山の敵と戦う場合は目に見えて負担が減った。
4回目はパソコンに新たな機能が加わった。敵の弱点を看破するモード、2回目の点数表示と同じように銃を使って見ることが出来た。これも使える機能だった、だけど点数の高い敵、70点を越えるような奴らには効かない事もあるので信用性はそこまで高くない。
5回目はバイクに飛行ユニットが追加されて、空を飛ぶことが出来るようになった。狩りに転送されてからパソコンにも追加された飛行ユニットというアイコンを起動すると、バイクに飛行ユニットを転送することが可能だった。これを手に入れて、簡単な狩りだと敵に攻撃されず、空から銃を撃つだけで終わってしまった回もあった。
6回目はスーツの超強化、というよりはスーツの上に新たなスーツ、ハードスーツを着れる様になった。これも非常に強力な装備で、30点以下の敵はこのスーツに傷を付けることもできないようなシロモノ。このスーツに付いた武装も凶悪なものが多い。防御力も段違い。でも過信は禁物、70点を越えるような奴らはスーツ無視の攻撃をやってくる奴等が多い、このスーツを着ていても基本初見の攻撃は全部避けなければならない。
7回目は巨大ロボットが手に入った。これもパソコンにアイコンが追加されて、狩り中に転送が可能だった。5回目の飛行ユニットバイクが操縦席になってと6回目のハードスーツから伸びたケーブルを繋ぐことで操作可能な巨大ロボット。これはなんというか、とても使いづらい武器だなと思った。私の狩場は基本的に街中、これを使うと街ごと破壊してしまうから殆ど使っていない。
8回目、巨大ロボットの追加装甲と追加装備。さらに大きくなって、破壊力の高い飛び道具が追加された。巨大ロボット自体の防御力はそこまで高くないけど、この追加装甲でかなり防御力も上がった。はっきり言ってとんでもない兵器だった。これ1機で国とケンカできるくらいの兵器、まあやらないけど。
9回目、ハードスーツの強化。ただでさえ強力なハードスーツの攻撃力と防御力がさらに向上した。それと共に、ネックになっていたハードスーツの大きさも普通のスーツと同じくらいに軽量化されて動きも疎外されない。私の好きな剣も持ちやすい。
そして今回。
『ちーーーーーん』
『それでは ちいてんを はじぬる』
『りんちゃん 47てん』
『Total 115てん 100点めにゅーから選んでください』
凛「2番」
ガンツの部屋で10回目の100点を取っていつものように2番を選択した。
今回の武器を確認しようと、奥の部屋に行こうと思ったが、ガンツに文字が浮かび上がってきているのを見て立ち止まる。
凛「?」
浮かび上がってきた文字、それは。
『10回ぼーなす』
『10回2番を選んでくれたりんちゃんには』
『せいげんじかんとせいげんはんいを無くしてしまいます』
『ひき続き楽しんでくだちい』
凛「……へぇ。時間とエリアの解除か」
おあつらえ向きだと思った。
凛「これからは時間を気にせずゆっくりと戦えるって事だね。ふふっ、ありがとね、ガンツ」
文字が消えて、私はガンツを撫でながら奥の部屋に足を運んだ。
凛「さて、と。今回の追加装備は……おっ、すぐ装備できる感じじゃん」
奥の部屋にはりんちゃんと書かれたケースが一つ。
飛行ユニットとかロボットとかは次の狩りじゃないと使えないから、すぐ試せるものはうれしい。
最近はこの100点追加武器がどんなものなのか試すのも好きだ。
早速ケースを開けると。
凛「……バイザーって言うやつなのかな?」
ケースの中には顔を半分覆い隠すタイプのバイザーが入っていた。
私はハードスーツのヘルメットを外して、顔を出した。
そして、このバイザーを装着する。
凛「あれ? この画面って……」
バイザーの内側から見る視界には、いつも使っている2回目の追加装備のパソコンと同じ画面が小さく浮かび上がっている。
凛「パソコンと連動してるのかな……あれ?」
パソコンの画面が映し出されているのかと思って、パソコンを取り出そうとすると、視界に変化が起きた。
さっきまで小さかったバイザー内の画面が大きく見えるように拡大された。
凛「? これって、一体……」
バイザー内の画面を意識してみる、すると画面に小さく光点が表示される。
凛「ん?」
その光点を意識すると、光点が動く。
それを何度か動かしていると、数個表示されているアイコンを開くことが出来ることに気がつく。
凛「もしかして……」
数個のアイコンのうち、一番よく使う点数表示を起動させてみる。
バイザー内に点数確認画面が表示される。
それを確認して、点数確認画面を消した。
全部手も使わずに意識するだけで行った行動。
凛「これ……考えただけでカーソルが動くし、起動することが出来る……」
これはかなり便利な装備だ。
パソコンはかさ張って片手が塞がってすぐ壊れるけど、これなら手を空けたまま敵の点数を確認したり、弱点を見ることも可能だ。
それに緊急時にロボットを転送することもできる。これは使える、そう思って、他に出来ることが無いかと調べる。
すると、バイザーの内側にパソコンの画面のほかにもう一つ小さな画面があることに気がつく。
そちらに意識を持っていくと、画面が切り替わり、モノクロの画面が大きく表示された。
凛「こっちは何に使うんだろう?」
画面内をよく見てみると、Lock on mode と小さく表示されていることに気がつく。
凛「……ロックオン。もしかして……」
私はガンツの部屋に戻り、銃を一丁持って、ケースに上トリガーを引いてみた。
するとバイザー内のモノクロの画像にケースが赤くロックオンと表示されている。
凛「ロックオンしたターゲットが分かるってことね。まあ、そこそこ使えるかな」
撃ち漏らしがなくなるのが分かる、結構便利だ。
凛「でも、これが意識するだけでロックオンできればもっとやり方が増えたのに…………」
言いながら、少し試していた。
奥の部屋のバイクを何気なくロックオンすると考えながら見てみると、バイクが赤くロックオンと表示された。
凛「……されちゃった」
意識を解除すると、ロックオンも外れる。
凛「……持ち帰って色々試してみよう」
そう考えて、私は新しく手に入れたバイザーを手にガンツの部屋を後にする。
家についてベットに横になりスマホでいつもの日課を行っている。
未央と卯月、ニュージェネレーションズのホームページを見る。
あの公園で別れた日から、私は毎日必ずあの二人の事を調べていた。
あの日から1週間も経たないくらいで、このホームページが出来た。
2人組ユニット、ニュージェネレーションズ。
あの二人は今、芸能界でも注目の新人として売り出されている。
CDにラジオ、テレビにも頻繁に出演していて、最近では一般的にも知名度がかなり上がってきている。
あの二人はあの時私に言ったように、トップアイドルの道を全力で走っている。
私はあの二人が頑張っているところを見るととても嬉しくなる。
CDとかも全部買っているし、ラジオやテレビにでるものは全部録音、録画してみている。
あの二人はこのままトップアイドルになってほしいと心の底から思っている。
凛「明日、ライブか」
ユニットを結成して数回ライブを行っているが、今回は少し大きめの会場でライブをやるみたいだ。
私はライブだけは見に行っていない。
あの二人ともう一度会ってしまったら、また心が揺れ動いてしまうかもしれないと思っているから。
でも、いつかはあの二人のライブに行こうと思っている。
あの二人が誰もが認めるトップアイドルになったその時のライブにだけは行こうと思っている。
凛「明日も、頑張って」
私は明日ライブを行う二人に、届くことの無い激励を呟く。
これが一日の締めくくり。
私はスマホを消して、目を閉じる。
明日は日曜日、夜にはいつものように狩りがあるんだから、夜までバイザーでどんなことが出来るか試していよう。
私はガンツのこととあの二人のことを考えながら、眠りについた。
今日の夢は、あの二人がライブで成功している夢だった。
明日、新宿で行われる、あの二人のライブの夢。
今日はこの辺で。
新宿のライブ会場。
その控え室に二人の少女と、目つきの悪い男性が話をしていた。
P「それでは、ライブの時間まで少しありますので待機をお願いします」
未央「了解! って、ほんとに時間あるね」
卯月「2時間もありますね。どうしますか?」
う~ん、と未央はあごに手を当て悩んでいる。
未央「ちょっと、買い物してきてもいい?」
P「構いませんが、1時間前には戻ってきていただくようにお願いします」
未央「大丈夫大丈夫! すぐ戻るからさー!」
未央は卯月の手を引き、控え室を出て行く。
卯月「あっ、ちょっと待ってください~」
控え室に残されたPは時間を確認し、会場の最終チェックを行うために控え室を離れた。
卯月と未央はライブ会場を出て、新宿の街を歩き始めた。
未央「さーてと、行って来ますかー!」
卯月「何を買いに行くんですか?」
未央「ふっふっふ……実は美嘉ねぇがコラボしているファッションショップがこの近くにあってね。それを見学、そしていい服が合ったら買っちゃおうと思ってね」
卯月「あっ、もしかしてあのショップですか?」
未央「うんうん、しまむーも知ってるよね?」
卯月「はい、アイドルの情報は見逃さないですっ! それが人気のアイドルなら特にですよ」
未央「いい心構えだねー、さすが私と共にトップアイドルになる相方!」
二人は話しながら歩く。
すると前方から歩いてくる大男に未央が気づき声を上げる。
未央「しまむー! 見て見て! 何かすごいのいるよ!!」
卯月「えっ? わぁ……大っきな人ですね~」
ボロボロの学生服から、はち切れんばかりの筋肉が見えている。
老けた顔と着ている服、その巨体、歩くたびに聞える下駄の音。
彼が醸し出す雰囲気もあいまって、彼の周囲は誰も近づくことが出来ない領域が存在していた。
卯月と未央も少し離れて、その男を見続ける。
未央「すっごい筋肉……ありゃ、プロレスラーだね。間違いない」
卯月「いい人そうでしたね~」
未央「……どう見たらあんな熊みたいなのがいい人に見えるのさ?」
卯月「え? 雰囲気ですかね?」
未央「……さいですか」
卯月と未央の傍を、3人の男女が通り過ぎる。
「師匠、これからどーするんですか?」
「だから映画でもいこーや、キミも行きたいよね?」
「えっ? はぁ……」
「映画っスか……」
通り過ぎていった男女には目もくれず、未央は何かを見つけて卯月に声をかけた。
未央「ん? んんん!? ちょいちょい! しまむー!」
卯月「どうしました?」
未央「アレ! あの人! どっかで見たこと無い?」
卯月「えっ? あの帽子を被った女の人……あれ?」
帽子を深く被ってゆったりめの服を着ている女性。
卯月「もしかして、グラビアアイドルのレイカさん?」
未央「間違いないよ! 今人気爆発中のトップアイドルの一人! 346プロじゃないプロダクションのアイドル!」
卯月と共に女性の正体に気づいた未央。
未央「ショッピングはちょっと後回しにしようか、トップアイドルになる為に、トップアイドルのオフを少し調査をしませんかね? 島村君や」
卯月「し、島村君? ……でも、そうですね。出来るなら少しお話を出来たらうれしいですよね!」
未央「うむ! では尾行を開始するよ!」
卯月と未央は女性の後を追いかける。
しばらく、そうやって物陰から女性の後を追いかけていた二人に何かが聞えた。
パンッ。
未央「ん? なんか今、変な音しなかった?」
卯月「変な音? ですか?」
パン、パン、パンッ!
未央「ほら、また」
卯月「あっ、本当ですね」
パンパンパン! パンッ! パパパパ!
未央「なんだろ?」
卯月「なんですかね? あっちのほうで……」
卯月と未央は音のするほうに足を向ける。
少し歩いて、立ち止まる。
未央「な、何? 人が走ってきてるよ?」
卯月「え? えっ?」
大勢の人が叫びながら走ってきている。
その走ってきている人が少しずつ倒れている。
さっきの乾いた音は大きくなっている。
パパパパパパパパパパ!
二人は見た。
走ってきている人の頭から血が噴出す瞬間を。
未央「ひっ!?」
卯月「な、なにが!?」
何が起きているかは分かっていない。
だけど、ここにいてはいけない。
それだけは理解できて、卯月と未央は逆方向に走り始める。
卯月「はぁっ! み、未央、ちゃんっ! ど、どうしま、しょう?」
未央「に、逃げるよ! なんか分かんないけど、絶対にやばい! 早く逃げないと!」
タタタタタタタ!
二人は走り続ける。
後ろから音が聞こえる。
振り向かずに必死に走り続ける。
「きゃぁっ!」
近くで女性の叫びが上がる。
さっきまで追いかけていた女性。
その女性が腹部から血を流して倒れこんでいた。
卯月「あっ!」
未央「し、しまむー! 止まったら駄目! 走って!」
卯月「でっ、でもっ……」
未央「しま……」
立ち止まってしまった卯月を見る未央。
振り向く形で見た未央の視界に、後ろから黒い何かを卯月に向けている男の姿が映りこむ。
未央は、咄嗟に卯月を突き飛ばした。
卯月の体は未央によってぐらりと揺れる。
その結果、男と未央の前に何も遮るものはなくなり。
未央の体に数回大きな衝撃が襲った。
未央「あづっ! うっ! ぐっ!」
そのまま未央は数歩後退し、道路に倒れてしまった。
その腹部から真っ赤な血を流しながら。
卯月「あぅっ……あ、あれっ? 未央ちゃん?」
未央に突き飛ばされて、倒れていた卯月は同じように倒れている未央を見てしまう。
卯月「え、えっ? な、なんですか? なんで、あれ? 未央ちゃん?」
血に濡れた未央を見て頭が真っ白になる卯月。
未央「ごほっ……し、まむー……にげ、て……」
未央の声に反応して顔を見るが、未央の口から血が溢れていた。
卯月「あ……あれ? ……赤いのが……」
未央に駆け寄って、未央の体を抱き起こして卯月は顔を青くする。
未央のお腹から血が溢れ続けている。
卯月「だ、駄目っ、駄目ですっ、止まって、止まってよぉ!」
必死に血を止めようと傷口を押さえる卯月だったが、卯月の手は溢れ続ける未央の血で赤く染まる。
未央「はやく……にげて……」
未央はもう悟っていた。
自分が助からないことを。
何が起きたのかはよくわからない。
だけど、自分は撃たれたみたいだ。
そして、自分を撃った男は、卯月のすぐ後ろにいる。
一刻も早く卯月に逃げて貰いたかった。
だけど、卯月は逃げる事をせずに自分の傷を抑えようと必死になっている。
未央「は、やく、お願い……」
卯月「止まって! 止まってぇ!!」
未央の目にさっきの男が再び銃を構える姿が見えた。
未央は最後の力を振り絞って、起き上がり、卯月に覆いかぶさるように抱きつく。
パンッ、パンッ。
また衝撃を感じた。
背中に二回。
口から大量の血があふれ出した。
卯月「み、お、ちゃん……?」
未央「ごぽっ」
――ああ、私死ぬんだ。
――しまむー、そんな顔しないでよ。
――私たちは笑顔が取り柄だし、笑顔を振りまかないとアイドルは務まらないぞ?
――だから、笑お。
――笑って、トップアイドルになって、私たちの活躍を、しぶ……。
パンッ!
卯月の目に映っていたのは、最後まで笑顔だった未央。
笑顔のまま、頭から血を噴き出して崩れ落ちた未央。
卯月「…………あ」
目を見開いて崩れ落ちた未央を見続ける卯月。
卯月「みお、ちゃん」
未央の体を揺さぶるが反応は無かった。
卯月は見てしまった、頭では理解してしまった。
未央が死んでしまったのだと。
卯月「あ、びょういん、みおちゃんをびょういんに」
何を思ったか、卯月は未央を病院につれて行こうと考えた。
病院に行けば、医者に見てもらえば未央は治ると考えて。
卯月は未央の体を抱る為に、未央を背負って立ち上がる。
それと同時に、卯月の隣を、大きな大男が通り過ぎる。
死体を盾に、銃を乱射する男に近づいていく大男。
卯月の背後で乾いた音が鳴り続ける。
だけど、卯月は振り向くことはなく、未央を背負って覚束ない足取りで歩き始めた。
卯月「みおちゃん。すぐにわたしがつれていきますから」
卯月「ちょっとだけがまんしててください」
ふらふらと卯月は歩き続ける。もう動くことの無い未央を背負って。
卯月は病院を探しながら歩く。
卯月「どこ? びょういん、どこですか?」
バランスを崩しながらも歩き続ける。
その卯月に、声がかけられた。
「だ、大丈夫!? うっ!?」
「おいッ、どーし……ンだ、これ……」
卯月は声に反応して顔を上げる。
そして、聞く。
卯月「あの、びょういん、どこですか? はやくいかないと、みおちゃんが」
「びょ、病院って……もう、その子……」
「マジ、かよ……」
卯月は目の前の二人は病院の場所を知らないのだと思い、また歩く。
「ちょ、ちょっと待って! 君っ!」
パンッ!
「!?」
乾いた音が後ろで聞える。
「痛ッてェ~~~~……」
「し、師匠、今、もしかして……」
何かが聞えるが、気にせずに歩く。
未央を早く、一刻も早く病院に連れて行かないと、そう考えながら。
卯月「すぐにつれていってあげますからね」
卯月「びょういんにいけばみおちゃんはなおっちゃうんです」
卯月「そしたらすぐらいぶかいじょうまではしって」
卯月「ぷろでゅーさーさんにおそいですよってすこしおこられて」
卯月「きょうのらいぶをだいせいこうにして」
卯月「つぎのらいぶも、そのつぎも、ずっといっしょに」
ぶつぶつと呟きながら歩き続ける卯月。
卯月の背後から聞えていた乾いた破裂音は静かになっていた。
だが、再び破裂音が聞えた。
卯月は何か重いものが衝突したかのような衝撃と共に、その場に倒れてしまう。
卯月「あっ!? ご、ごめんなさい、みおちゃん!」
倒れた衝撃で背負った未央は地面に吸い込まれる。
そのまま未央に駆け寄ろうとした卯月に数度の衝撃が訪れた。
パンッ! パンッ!
卯月「あうっ!?」
胸にとてつもなく熱いなにかがある。
自分の胸に触れた卯月は胸から真っ赤な血が噴き出していることに気がつく。
卯月「げぽっ……」
そしてそのまま崩れ落ちて、道路に頭を打ち付けた。
意識が朦朧とするなか、卯月は未央の姿を見た。
――未央ちゃん。
――待っててくださいね。
――私すぐ、病院に連れて行ってあげますから。
――病院でお医者さんに見てもらえばすぐ治っちゃいますから。
――そしたらまた一緒にライブをして。
――ずっと一緒にアイドル活動を続けて。
――そしていつかトップアイドルになって、りん……
パンッ!
ジジジジジジジジジジ…………。
ジジジジジ……。
ジジッ。
日常 + 新宿大虐殺編 お終い。
今日はこの辺で。
くろのくんはタエちゃんとヨロシクやってます。
6.吸血鬼編
夜。
私の時間。
私は前回手に入れたバイザーを装着して、木の上で狩りの時間を待ち続けている。
このバイザーのロックオンモード、これはかなりとんでもないシロモノだった。
ロックオンしたいものを見て、ロックオンをすると考える。
そして、その後にハードスーツのケーブルに装着した銃を使うと当たる。
デカ銃も、Y銃も、小銃も、全部使える。
ハードスーツの機能の一つの、手から出すビームも対象に入っている。
これがあれば、見るだけでロックオンが出来て銃口を向けていなくても当てることが出来る。
見て考える動作だけで使用できるのは今後の戦いでかなり頻繁に使うことになるだろう。
そうやっていると、ゾクリと寒気が襲い、私は転送され始める。
さて、今日もお楽しみの時間。
新しいオモチャの性能を試しつつ、油断することなく敵を狩りつくす。
今回からは時間も、範囲も無し。
ま、今までも時間内や範囲外にしたことなんて…………一回だけ逃げられたね。
私の視界は切り替わり、完全に転送が完了した。
凛「ん?」
転送された私が見るのは見慣れたガンツ。
だけど、違和感があった。
数字がすでに表示されている。
『05:13:42』
しかも数字のカウントは止まっている。
凛「……あれ? 銃が何丁か無くなっている?」
銃身の長い銃、小さい銃が無い。
いつもは狩りが始まるときにいつの間にか全部そろっていて、綺麗に整理されているのに。
凛「? スーツのケースも何個か、開いてる? ……誰かいたの?」
開かれたケース、明らかに誰かが持って行っている。
私が転送される前に誰かがこの部屋にいた?
こんな事は今まで無かったのに、一体……?
『りんちゃんに おねがいがあります』
いつの間にか、表示が変わっている。
凛「? お願い?」
『ヤッける方をヤッけたのに らん入されてこまつてます』
凛「らん入? どういうこと?」
『りんちゃんには この方をヤッけてきてもらいたいのだす』
いつもの獲物の情報が表示された。
『なのましん星人』
『特徴 つよい はやい かしこい』
『好きなもの タバコ かくとうぎ』
凛「…………人間じゃん」
画像には金髪の、ホスト風って言うのかな? そんな整った顔の男の人。
なのましん星人って書いてあるから、宇宙人だとは思うけど……。
『よろしくおねがいします』
凛「……最初は様子を見るよ?」
表示が消えて私の転送が始まったようだ。
すぐに奥の部屋からバイクとデカ銃を持って、転送されるまで待機。
バイクは1台しかなかった。やっぱり誰かが持って行っている。
そう考えていると、ガンツの部屋から人の声が聞こえた。
「やった!! 帰れる!!」
凛「!?」
男の人の声を聞いて、私は転送された。
転送された先には、恐竜の死体が沢山転がっていた。
凛「……やっぱり先に誰かがやっていたみたいだね。さっき聞こえた声の人が、コイツらを殺したのかな?」
レーダーで敵の位置を確認する。少し離れている、敵は4体。
私はスーツの力を解放してバイクを上空に放り投げて一蹴りで空を駆け上がる、レーダーが指し示す場所の上空でバイザーの思考操作を行い、空中でバイクに飛行ユニットを転送して飛行バイクに乗り込んだ。
凛「見えた。ターゲットは…………やっぱり人間の見た目…………」
画像の奴は……スーツを着たおじさんを切りつけようとしている。
凛「っ! 斬られた……」
肩口を斬られてしまった、あれではもう……。
他の3体を見ると、1体は人の死体に何かをしている。
よく見ると血を飲んでいる……。
確定、こいつらは敵だ。
凛「よし、殺そう」
4匹全て殺すことが確定して、私は残りの2匹を見る。
何かを追いかけているようだった。
追いかけている、その先には……。
凛「女の子?」
後姿が見えた。
ドクン。
凛「えっ?」
二人の女の子が逃げている。
ドクン、ドクン!
見覚えのあるその姿。
凛「な、何? 違うでしょ?」
ドクン、ドクン、ドクン!
その女の子達に2匹は銃を向けている。
ドクンッ!!
凛「うあああああああああああああああああああ!!」
空中でバイクを足場に、私は2匹に超高速で跳びかかる。
「あ?」
「何だ?」
振り向いてくる2匹の上空から頭を掴み、そのまま地面に叩きつけ、頭を潰した。
私は、振り向いて女の子達を見る。
凛「あ、あああ、そ、んな……」
女の子達は倒れていた。
背中から血を流してうつ伏せに倒れている。
私は女の子達に近づき、その顔を見ようと、体に手をかける。
そのときだった、女の子二人は頭半分が消えるように転送されていたのだ。
そして、その顔を見た私は完全に固まってしまった。
凛「どうして……未央……卯月……」
二人は転送されていった。
つまりガンツの部屋に転送されてしまったという事だ。
二人は死んで、あの部屋に行ってしまった。
あの二人がガンツの部屋で生き残ることが出来るの?
無理。あの二人が戦えるわけが無い。
そうなるとあの二人は死を待つだけになってしまう。
「何だテメー? って、オイオイオイ、マジかよ!? あの二人が殺られちまったのか!?」
声の方向に振り向く。
外国人のような顔の黒い縮れ毛の男。
「信じらんねー!! テメー何モンだ!?」
そうだ、こいつらがあの二人を殺した。
久しぶりに感じる、私の心の奥底から湧き上がってくるドス黒い感情。
凛「殺す」
バイザー内でロックオンを完了、全ての武装から銃撃を発生させた。
ギョーン! パアッ! ギュン! ギョーン! パァッ! ドンッ!
だけど、当たったのは2発。
ロックオンをしていたのに避けられていた、何かを投げてきて当たる前に防がれた。
だけど、2発当てた。
私の前には足が吹き飛んで、ワイヤーで拘束されている敵の姿。
「クッ!? ンだよ、これは……何をしやがッた……テメ…………」
剣で首をはねてデカ銃で体を押しつぶす。
他の2匹の体も同じように押しつぶす。
後1匹。
私はガンツの画像の敵を殺すために、さっき敵を発見した位置に移動した。
「誰だおまえ?」
金髪の敵を見つけた。
ロックオン完了、死ね。
ギョーン! パアッ! ギュン! ギョーン! パァッ! ドンッ!
「何!?」
……全部避けられた。
とんでもない速さ、しかもロックオンをしたのに避けられた?
「おまえ、何なんだ? 見たところ奴等の仲間みてーだが」
まあ、いい。
避けるんだったら、避けられないくらい撃ち続けてやればいいだけの話。
バイザー内でロックオンをかけて、手元で銃を撃つ、避けられる。ハードスーツの掌から放つ、避けられる。何度も撃ち続けるが、避けられる。
「チッ」
何発かは掠っている、敵の着ている服はボロボロになってきている。
だけど直撃がさせられない。
そうしているうちに、敵は私の懐に入ってきて刀を下段から振り上げた。
反応できない速さじゃなかったけど、ロックオンをする為、思考に比重を傾けすぎたせいか、反応が一瞬遅れてバイザーを吹き飛ばされる。
「女かよ、しかもまだガキじゃねーか……」
敵は高速で動きながら私を斬りつけて来る。
「その服もあの服と構造は同じなんだろ?」
ハードスーツのレンズ部分を集中的に突いてくる。
数回攻撃されて、ハードスーツの右腕から、ドロリと液体が漏れ出して機能が停止した。
凛「!?」
初めてだった。
スーツを貫通する攻撃で破壊されるのじゃなくて、スーツの一部分のみを破壊されるのは。
私は右腕の部分をパージして、考える。
凛(コイツ、強い。しかもこのスーツのことを知っている、壊し方を知っている)
スーツに仕込んだ剣を取り出し、両手に持つ。
「剣か? もう銃で狙うのは諦めるのか?」
完全に楽観視していた。
ロックオンしてしまえば避けることは出来ない、そう思い込んでいた。
ロックオンが通じない相手もいるのだと考えを改める。
剣を両手に構え集中する。
「どーでもいいか。どうせ殺すんだからな」
凛「死ぬのはアンタだ」
「フン、ようやく喋ったか」
同時に私に斬りかかってきた。
高速の斬撃。それを最小の動作で弾いて防ぐ、もう片方の剣で袈裟懸けに切り裂くが避けられた。
「やるじゃねーか」
今度は私から攻撃、右の剣での打ち下ろしの一撃。
それも避けられるが、同時に左の剣で横一閃の一撃。
ギリギリで飛んでかわされる。
そうやって攻防が続く、攻撃しては避けられ、攻撃をされて防ぐ、決め手にかける戦いが永遠に続くかと思われたが、数十回を越える交錯で、私は次の一手を放った。
右の剣を振りぬく、ここまでは同じ。
避けられる、これも同じ。
左の剣、ハードスーツの力を加えて振りぬく。
さっきまではハードスーツの力を使わずに攻撃していた。
だけど、この攻撃は正真正銘全開の攻撃。
速度は先ほどとは比べ物にならないくらいの速度。
「なッ!? にィ!!」
敵の右腕を刀ごと斬り飛ばした。
敵は腕を押さえながら大きく飛び上がった。
私は追撃の姿勢を取るが、敵は左腕に銃を生み出して牽制してくる。
銃の玉を避けて、敵を追おうとするが、敵はさらに大きく飛び上がり建物の上に乗り、そのまま姿をくらませる。
凛「……」
逃げた。自分が不利と判断した瞬間、逃げの一手を取った。
潔いくらいの判断、あの速さだともうエリア外まで逃げているだろう。
やっぱりガンツのことを知っている。スーツのこともそうだし、多分エリア外にいけないっていう事も知っているんだと思う。
普通なら逃げられてしまっただろう。前回までなら……。
私は落ちたバイザーを再び装着し、レーダーを起動した。
反応は……あった。
足に力を込める。ハードスーツの力を解放する。
私は一蹴りで空高く舞い上がり、夜の闇に消えた敵を探す。
レーダーを見ながら跳躍。
一回跳躍するごとに、大きく距離が縮まる。
1度、2度、3度、4度目で、私の視界に敵の姿が映った。
元の場所から30キロ近く離れたビルの屋上。
奴は傷口を縛ろうと、服を破っていた。
私は5度目の踏み込みで奴に超高速で接近し。
驚愕の顔を作った奴の胴体を真っ二つに切り飛ばした。
「グハッ!? 馬鹿、な…………何故…………」
半分になった下半身をロックオンしてバラバラに吹き飛ばしながら、左腕で奴の頭を掴んで奴の問いに答えた。
凛「私から逃げられると思ってんの?」
そのまま、左腕の掌から光線を発生させて奴の頭を吹き飛ばした。
数度それを繰り返し、奴の上半身は完全に消滅した。
念のため、周囲を警戒して、私は転送の時を待った。
警戒も続けていたが、私の思考は未央と卯月のことで殆ど占められていた。
あの二人はガンツに転送されていた。
これからガンツの部屋でゲームをしなければいけない。
私がついていれば、守ってあげることも出来るけど、私は一人。
どうすればいい……。どうすれば……。
考えながらやがて私はガンツの部屋に戻された。
ガンツの部屋でまず聞えてきたのは、男達が争う声。
どういうこと? 何で私以外の人間が?
そう思って、一体誰がいるのかと目を動かす。
そこには、玄野の姿。
久しぶりに見る、チビの時まで一緒に狩りをしていた玄野。
玄野はスーツを着た長身の男……あれは和泉って人だっけ? を掴みかかっていた。
和泉「ガンツ、もういい。さっさと採点を始めろ。これ以上待っても時間の無駄だ」
玄野「和泉!! テメェ!!」
「玄野君。お、落ち着いて」
玄野を止めるように、さっき斬られていたおじさんが和泉との間に割って入っている。
「ん? 一人、出てきたぞ」
玄野「え?」
和泉「……誰だ?」
転送が完了した私を部屋にいる全員が見ている。
その中の二人の姿を見て私の胸が締め付けられた。
「なんだこいつ……メチャクチャSFチックな格好してんぞ……」
「あなたは一体? さっきいなかったよね?」
サングラスをかけた人と、スーツを着た女の人が声をかけてくるけど、私は部屋にいる二人の前まで近づく。
二人は私が近づくと体を震わせて、お互い寄り添うように手を繋いでいる。
私が近づいた二人。
未央と卯月は真っ白な顔で震え続けていた。
私はバイザーを外して、二人に顔を見せる。
卯月「えっ!? り、凛、ちゃんですか?」
未央「し、しぶ、りん?」
二人は私の顔を見て目を見開いている。
凛「未央……卯月……」
やっぱりあの時見たのは二人だった。
そして、これから二人は……。
『ちーーーーーん』
『それでは ちいてんを はじぬる』
「は? ちいてん?」
採点が始まった。
採点が終わってから、全部を話そう。
凛「二人とも、少しだけ待ってて。この採点が終わったら二人にこの部屋のことを説明するから……」
卯月「は、はい……」
未央「う、うん」
採点は進んでいる。
その間、玄野が私に近づいてきて話しかけてきた。
玄野「おまえ、渋谷だよな……? おまえ、一体どこにいたんだ? それに、その姿は……」
凛「後で説明する。少し待ってて」
玄野「あ、ああ……」
採点は進む。
『和泉くん 16てん』
『Total 16てん あと84てんでおわり』
「おおっ!? すげえ!!」
「16点って……この人……」
和泉はガンツを見て満足そうにしている。
『くろの 38てん』
『Total 86てん あと14てんでおわり』
「おおーッ!! やるねー!!」
「すげぇ! さすがリーダー!! 後ちょっとじゃないっすか!!」
玄野「ちょ、ちょっと、リーダーって、やめてくれよ」
これで私以外の全員が終わった。
後は私。
『りんちゃん 155てん』
『Total 170てん 100点めにゅーから選んでください』
「は、はぁぁぁぁぁぁ!? 何だコレ!? 155点!?」
「な、なんなんですかね? この人、リーダーの知り合いみたいですけど」
未央「し、しぶりん? こ、これって、何なの?」
卯月「り、凛ちゃん……」
100点、よし。
凛「ガンツ! 交渉させて!」
玄野「ど、どーしたんだ?」
凛「私の全部の点数を使って、未央と卯月をすぐ解放してほしい!」
未央「えっ? な、何? 私達?」
卯月「な、何を?」
凛「点数が足りなかったら次稼いだ分も全部無しでいい! だからお願い! この二人を解放してあげて!!」
ガンツは何の反応も示さない。
凛「ガンツ!! お願い!!」
しばらく待つが何もおきない。
二人とも、いや部屋の全員が私を怪訝そうな顔で見ている。
和泉「……早くしろ。くだらない事で時間を取らせるな」
凛「っ!」
私は和泉を睨みつける。
玄野「な、なあ、前もそうだったけど、その100点メニューって何なんだ?」
玄野が私に聞いてくる。
これ以上は待っても無駄だと判断して、私はいつものように2番を選ぶことにした。
凛「100点メニュー、ご覧の通りだよ」
玄野「……メモリー? 再生? な、なんだ、これ……」
内容を全員に見せて、私は選ぶ。
凛「2番」
「えっ?」
「2番って……」
私の発言に何人かが驚いている。
私が選んだと同時に、ガンツに文字が浮かび上がった。
『つぎも一人でやりますか?』
凛「っ!!」
和泉「……一人?」
これは、まさか……。
私はまだ震えている二人を見て、その後ガンツに触れながら言う。
凛「次から一人は終わりで……この二人と、未央と卯月と一緒にさせて」
『わかりました』
その文字が浮かび、消えてからはもう何も浮かび上がることが無かった。
よかった。これで二人を守ることが出来る……。
ほっと一息をついて、私はやっと緊張を解いた。
まだ考えることはあるが、今はこれでいい。
次から、敵を殺さずに、瀕死の状態にさせて、動けなくする。
そして、二人に瀕死の敵を撃ってもらい点数を分け与える。
二人が100点を取るまでそれを続ければ大丈夫。
二人は解放されて、ここの記憶もなくなるから全部が元通り。
凛「ふぅ……」
私は不安で一杯の二人の視線を受けながら、二人にこの部屋のことを説明し始めた。
この辺で。
凛「お待たせ、未央、卯月。それじゃ、説明するよ」
卯月「は、はい……」
未央「う、うん」
凛「まず、二人は死んでない。これを受け止めて、さっき撃たれて死にかけてたけど、ガンツが二人を助けてくれた」
未央「死んでない……やっぱり、生きてるの?」
卯月「ガンツ、ですか?」
凛「そう、その黒い玉がガンツ。二人ともまだ生きてる、そしてこれから二人はこの部屋で何回かゲームをしなければいけない」
未央「ゲーム?」
凛「ガンツが指定する敵を狩るゲーム。多分2回か3回……ううん、二人だからもう少しかかるかもしれないけど、そのゲームで100点を取れば二人はこの部屋から出ることが出来る」
卯月「よ、よくわからないです」
凛「それじゃあ、これを見て。……ガンツ、100点メニューを出してもらえるかな?」
ガンツに100点メニューが表示された。
凛「この1番。記憶を消されて解放されるって言うのがそう。二人にはこれを選んでこの部屋から出てもらう」
未央「100点……」
卯月「ゲーム……」
玄野「な、なァ、このメモリーってやつだけどさ、これはどーいう事なんだ?」
今まで全員が黙って聞いていたが、玄野が3番について聞いてきた。
凛「……確か死んだ人のこと、ガンツ、メモリーの人間を表示させて」
ガンツの表示が変化する。
沢山の画像。今まで死んだ人たちの画像。
玄野「……加藤、岸本、それに……」
玄野はその画像を見てガンツに触れている。
話を戻そう。
凛「ごめん。話がそれた、二人はこれから何回かゲームをしないといけない、だけど安心して。私が二人を守るから、二人は私が動けなくした敵にトドメを刺して点数を稼げばすぐに100点になってこの部屋から出ることが出来るからさ」
卯月「え、えと、はい……」
未央「わ、分かんないけど、わかった……」
明らかに混乱している。
それもそうだろう、死にかけてすぐ現状を理解できるわけが無い。
これから落ち着いて、この状況を受け止めれるようになったらもっと詳しく話してあげればいい。
とりあえずは、二人を守る。
この後の数回の狩りは二人を守って、二人に点数を分ける。
話に一区切りがついたと同時に、部屋にいる何人かから私に質問があった。
「ち、ちょっといいかな?」
茶色がかった髪の少年だった。
凛「?」
「え、えっと、君って一体何者? リーダーの知り合いっぽいけど……」
凛「私? 私は渋谷凛、リーダーって誰?」
桜井「あッ、俺は桜井弘斗。リーダーは玄野さんの事だけど……」
凛「玄野?」
私は玄野を見ると、玄野は少し戸惑った顔をしている。
玄野「だから、そのリーダーってやめろっつの」
桜井「何言ってんですか! 玄野さんがいなかったら俺らあの首の長い恐竜にやられちゃってましたよ!」
「う、うん。あたしもそう思う」
よくわからないけど、玄野はこの人たちに信頼されているみたいだ。
凛「玄野とは前まで一緒にこの部屋のゲームをしてただけ。最近はずっと一人でゲームをしてる、玄野との関係はそれくらいかな」
桜井「あっ、そうなんだ」
それで納得した桜井という少年、次は変わるようにまた玄野が聞いてくる。
玄野「ん? 一人でってどーいうことだ?」
凛「一人は一人だけど。チビの狩りの後から私は一人で狩りをしてた。アンタもこの人たちと一緒に毎日狩りしてたんじゃないの?」
玄野「は? チビの後って……今日がそれなんだけど……」
凛「? 毎日やってたんじゃないの?」
玄野「毎日? 何言ってんだ?」
少し話がかみ合わない。
凛「私はアンタと別で狩りを初めてこの数ヶ月毎日狩りをしてる。アンタ達もそうなんじゃないの?」
玄野「はァ? 俺、チビの次ってのは今日だし、この人たちは今日が初めての人たちだぞ?」
凛「……え?」
玄野の言葉が本当なら、玄野はこの数ヶ月狩をせずに過ごしてきたという事になる。
その分を全部私に廻してくれたのかな?
私にとっては願っても無いことだったけど、何でそんな事をしてるのか。
……考えてもわからない。ガンツってたまに突飛な事をするし、今回みたいに。
凛「……そっか。多分だけど、私とアンタは今まで完全に別行動だったみたいだね。私はこの数ヶ月ずっと毎日狩りをしてた、でもアンタはそうじゃないんでしょ?」
玄野「あ、ああ……つーか、おまえ、毎日って……」
凛「次はどうなるか分からないけど、アンタはアンタで頑張って。私たちは私たちでやらせてもらうから」
そう、ガンツは次私を二人と一緒にしてくれるって言っていた。
それなら、玄野とはまたこれで別行動になると思う。
さっき点数を見たけど、玄野も次かその次で100点。
玄野は1を選ぶだろうし、もうこれでお別れ。
特に言う事は無い。
玄野「ま、待てよ! まだ聞くことあるぞ!」
凛「何?」
何だろうか? まあ、知っていることなら話してもいいし、この人たちも次があるんだから情報は渡しておこう。それが生き残るために重要な物になるのだから。
玄野「お前のその格好、何だよそれ! 見たことも無いデカイ銃持ってるし、さっき顔になんか着けてたよな? それにそのスーツも普通のと違うよな?」
凛「全部100点武器、この銃はターゲットを押しつぶす銃。1回目の報酬。スーツは6回目に手に入れた通常スーツより強力なハードスーツの強化バージョン。9回目の報酬。こっちのバイザーはパソコン連動、ロックオン機能、思考制御で動かせる補助アイテム。10回目の報酬」
玄野「……100点武器? つーかちょっと待て……お前最後なんて言った? 10回って言ったか?」
凛「うん」
玄野「……お前、もしかして100点を10回取ったの?」
凛「今日で11回目」
玄野「…………なんでこの部屋にまだいんの?」
凛「? 前に言ったでしょ?」
玄野「………………やっぱお前、頭おかしーだろ」
玄野の言い草にカチンとくる。
自分がおかしいのは自覚してるけど、人に言われるとムカつく。
凛「……それ以外に質問は?」
玄野「まだまだ聞かせてくれ」
凛「わかった」
それから玄野の質問に答え続けた。
100点武器の内容。
玄野との別の狩りの詳細。
この部屋の武器について。
この部屋のこと。
他にも色々と。
私は西から聞いたことや、この数ヶ月で気付いたことを含めて、玄野に全てを話した。
凛「他にある?」
玄野「……いや、今思いつくのはこれくらいか」
凛「そっか。他に無いならもう私たちは帰るけど」
玄野「あ、連絡先、教えてくれよ」
凛「……なんで?」
玄野「また知りたいこと出来たら聞きたい。頼む」
凛「……」
ま、いいか。
情報を隠すつもりも無いし、生き延びる確率が上がるんだから知ってもらえることは知ってもらったほうがいい。
凛「はい」
スマホを取り出して玄野に見せる。
それを登録している玄野。その間に私はサングラスをかけた人に質問を受けた。
「質問いーかな?」
凛「いいよ」
「この部屋に来る女の子って顔で選ばれるワケ?」
凛「……は?」
よくわからない質問を受けた。
凛「良くわからないんだけど?」
「そッか、イヤ、いいよ。ごめんな」
桜井「師匠……何言ってんですか……」
「イヤイヤ、あの子もカワイイし、みんなカワイイだろ? だから……」
とりあえず情報を聞きたいみたいじゃ無さそうだ。
玄野は私の携帯番号を登録して、私にスマホを返して来た。
凛「もういいかな?」
玄野「ああ」
凛「じゃ、私達はこれで帰るね」
私は未央と卯月の手を取り、立ち上がらせる。
凛「立てる? もう帰れるから、家まで送るよ」
卯月「え、あっ、はい」
未央「う、うん」
二人は私の手を取り、よろけながら立ち上がる。
危なっかしい、絶対に家まで連れて行かないと。
玄野「ちょ、ちょっと待ってくれ。お前も少し俺の話を聞いてくれよ」
凛「何?」
玄野「これからの事だ。俺達は100点を採るまで凄惨なミッションを繰り返して生き残らないといけない……」
凛「……」
玄野は全員を見ながら話している。
玄野「今までやったこと無かったけど、ここにいる全員が生き残る確率を上げる方法があるはずだ」
玄野に誰かの姿が重なるように見えた。
玄野「できるだけミッションの無い間も集まって情報交換をしよう。そして次のミッションも全員で生き残るんだ」
……何かあったのかな?
前に見たときと雰囲気が違う。
全員、玄野を見て相槌をうったり、ただ見ていたりと様々だったが、今この部屋の中心は間違いなく玄野だった。
玄野の提案に乗ってあげてもいい。
私も知り合いが死ぬのは気分がいいものじゃないし、何も知らずに死んでいく人は少ないほうがいいと思う。
この人たちの次の狩りまでに、情報を渡せるだけ渡しておこう。
凛「いいよ。集まるときは連絡を頂戴」
玄野「……ああ」
凛「それじゃ……行こう、未央、卯月」
未央「う、うん」
卯月「は、はい……」
私たちは部屋を後にする。
部屋を出る寸前で、和泉と目が合う。
嫌な感じの目だ。だけど私はそれを流し部屋を後にする。
私の手には二人が強く握ってくる感触が伝わっている。
少しは顔色が戻っているが、やっぱりまだ無理をしている。
今日は早く家に帰してあげて寝かせよう。
凛「二人とも、私に捕まって」
卯月・未央「え?」
私は二人を抱きかかえて、跳躍の準備をする。
凛「二人の家、教えてもらえる? 送るから」
卯月「えっ? えっと」
未央「わ、私の家は……」
卯月の家のほうが近いみたいだ。
私はしっかりと二人の腰を支え、二人には私の首に腕をまわしてもらう。
凛「じゃあ、飛ぶよ。ちょっとだけ我慢してて」
そのまま踏み込んで私は夜空を舞った。
卯月・未央「き、きゃあああああああああああああああ!?」
二人の叫び声を聞きながら、必死にしがみ付いてくる二人を支えながら、月明かりが照らす夜の街を翔び続けた。
この辺で。
次の日、放課後。
あの後二人を家に送り届けて、念のためにガンツの部屋のことは口外しないように言っておいた。
そして、今日学校が終わったら私の家に来てもらうようにも言った。
いつもと同じなら、今日の夜、狩りがあるはずだから。
狩りの時間まで二人に色々と話をしてあげよう。
一日経って、大分落ち着いたと思うし。
私は家に帰る為に足早に教室を出て、家に帰る。
その帰る途中、学校の近くの公園で私はあの二人を見つけた。
凛「あ……」
未央「あっ、しぶりん……」
卯月「凛ちゃん……」
二人は私服だった。
そして私を見て戸惑った顔をしている。
未央「や、やあやあ! 久しぶりだねしぶりん!」
凛「久しぶりって……?」
卯月「あ、あのっ! 凛ちゃん、ちょっと変な話をしてもいいですか?」
凛「変な話?」
未央「そうそう、実はね、私達昨日同じ夢を見てさー、凄い怖い夢だったんだけど、その夢にしぶりんが出てきてね」
凛「あ……」
卯月「朝、未央ちゃんと電話して、あまりにも同じ内容だったんで今日はずっとその話をしていたんです。それで、夢の中で凛ちゃんが今日家に来てほしいって言ってたのを私達覚えてて、それで……」
夢だと思ったってことね。
未央「あははー、何言ってるんだって思われるかも知れないけど、あまりにもリアルで…………」
凛「夢じゃないよ」
卯月「うっ……」
凛「昨日のことは夢じゃない、あれは現実、二人はガンツの部屋に来てしまったんだよ」
未央「あ、う……」
ここで夢だって言うのは簡単だけど、これから二人には何回かゲームをやってもらわないといけない。
全部夢だったという誤魔化しは出来ないだろうし、大分落ち着いている今現状を理解してもらう。
凛「とりあえず、私の家に行こうか。そこで話そう」
卯月「は、はい」
未央「うん……」
私たちは公園を出て、家まで歩く。
家に着いた私たち、二人を私の部屋に通して、少し待ってもらう。
私は部屋を出て、お茶とお菓子を用意して部屋に戻り、部屋のテーブルに置いた。
凛「気分が落ち着くハーブティ、いい香りでしょ?」
卯月「あ、本当ですね、いい香りです」
未央「うん、本当だ……」
しばしのティータイム。
とりあえずはリラックスしながら、ゆっくりと本題に入ろう。
半分くらいお茶を飲み終えたところで私は切り出した。
凛「それじゃあ、さっきの続き」
二人の表情が強張った。でも、さっきよりは大分いい。
凛「あの部屋のことだけど、昨日のことは全部現実。あの部屋で私が話したこと、覚えてる?」
卯月「は、はい。確か死にそうになった人が集められてゲームをするんですよね?」
凛「うん。それで100点になったらゲームクリア、あの部屋のことは忘れて元の生活に戻れるよ」
未央「……ゲームってさ、狩りって言っていたけど、あんな恐竜を毎回やっつけないといけないの?」
凛「恐竜?」
何のこと?
……あ、そういえば昨日転送されたところに恐竜の死体があった。
あれ? でも、あの時二人はまだゲームをしていなかったんじゃ……。
あのなのましん星人とか言う奴等に殺されかけて、ガンツの部屋に来たんじゃ……?
凛「ちょっと整理させて。二人はさ、昨日ガンツの部屋に来る前と来た後の状況を覚えてる?」
卯月「え、えと……私達、新宿で、あの、あ、あのとき、う、うあ、あぁぁ……」
やばい。卯月の目がおかしくなっている。
ハイライトが消えて瞳孔が開いている。
凛「ゴメン、卯月、息を大きく吸って、吐いて、繰り返して」
卯月の背中をさすりながら落ち着かせる。
しばらくはその状態が続いたけど、やがて卯月は平静な状態に戻ってくれた。
卯月「あ、ごめんなさい……私……」
凛「こっちこそゴメン、無理に思い出そうとしないで」
これは一刻も早く100点を取ってもらって記憶を消してもらわないと。
こういうのはずっと引きずったりするだろうから。
とりあえずは、新宿で二人に何かあった。後であの日新宿で何があったのか調べよう。
未央「あ、その、さ。私達、これからどうなっちゃうの……?」
凛「どうもならない。私が二人を守る、そして二人はすぐにあの部屋から解放される。安心して、私が全部やるから、二人はただ私の後ろにいてくれればいいから」
未央「え、あ、うん。そう、なんだ?」
凛「うん。そういうこと」
絶対に守る。この二人はあの部屋にいてはいけない。
あの部屋は、あの殺し合いの世界は私の舞台。
二人には違う世界がある。きらきらとしたアイドルの舞台が。
その場所に戻してあげるためにも、一刻も早く二人に100点を取らせる。
多分速くて1週間。来週には二人とも解放されるはずだ。
そのためには今日、全ての敵を二人にトドメを刺して貰う。
どんな敵でも動けなくして、攻撃手段を全て潰して、安全を確保した上で二人の前に持って行き撃ってもらう。
それを繰り返す。
凛「大丈夫だから。二人とも怯えないでも1週間後には全部忘れて普段の生活に戻れるから」
卯月「1週間、ですか……?」
凛「うん。今日もこれから狩りがあるけど、全部私に任せておいて。二人は最後のトドメだけをやってくれればいいからね」
未央「え……今日?」
凛「そうだよ。だから狩りの時間までここで待ってもらえるかな? その間に銃の使い方とかを説明するよ」
卯月「じゅ……」
未央「じゅうって、銃? 弾をだすやつ?」
凛「ガンツの銃は弾は出ないよ。仕組みはよく分からないけど、当てれば大抵の敵は殺せる何かが出てるみたい。内側から爆発するやつとか押しつぶすやつとか色々だけど」
卯月「え? こ、ろす?」
未央「しぶ、りん、何、なにを言ってるの?」
……またやってしまった。
私にとって殺しは日常だけど、二人にとっては……。
凛「あ、ゴメン。言い方間違えた。二人には狩りの敵をある場所に送ってもらう、それをやってもらえれば大丈夫だから」
凛「えっと……これが送る用の銃、これで狩りの敵を送ってもらえれば点数をもらえる。それが100点貯まったら二人とも解放されるから」
クローゼットから持ってきていたY字銃を出して二人に手渡す。
これなら見た目もキツくない。送っているように見えるし、二人にもそこまで抵抗は無いはずだ。
卯月「……銃、ですね」
未央「うん……銃だね」
凛「あの部屋で同じのが何丁かあるから、二人とも最低2つは持っていって。そうすれば効率も上がるだろうし」
動けなくした敵をさっさと片付けるには2丁あったほうがいい。
凛「基本は私が敵を動けなくするから、二人はその動けなくした敵をそれで撃って送ってくれればいいよ。簡単でしょ?」
卯月・未央「……」
銃を見ながら戸惑っている二人。
仕方無いだろうと思う、すぐに順応なんてできるわけないし、とりあえずは説明だけ。
狩りが始まって何回か撃ってもらえればその内慣れるはず。
Y字銃なら送っているようにしか見えないから問題ない。
凛「あ、お茶おかわりいる? まだ時間あると思うし持ってくるけど」
卯月「あ、はい、お願いします」
未央「私も……」
凛「うん、ちょっと待ってて」
ポットを持ってきて二人のカップに注ぎなおす。
もう日が暮れ始めている、夜になってからが狩りの時間。
狩りまで色々話そうとおもったけど、二人は押し黙って何も聞いてくる気配が無い。
とりあえずはやるべきことは話したし、これから狩りに行ってY字銃で撃ってもらえればそれでいい。
後は待つだけ。
でも、この沈黙の中待ち続けるのは……。
私は少し話題を変えようと思った。
凛「そういえばさ、二人ともアイドル活動頑張ってるんだね。この前出したCD買ったよ」
机の上にあるCDを持ってくる。
凛「2曲目だよね、デビュー曲も買ったよ」
未央「あ、二つとも買ってくれたんだね」
凛「応援するって言ったじゃん、二人の出てるラジオとかテレビも見てるよ」
卯月「ほ、本当ですか?」
食いつき始める二人。
よし、いい感じ。
凛「うん。この前も、えっと……高森藍子のゆるふわタイムだっけ? デビュー曲と2曲目もこのラジオで宣伝してたけど」
未央「おおっ! あーちゃんのラジオまでチェックしているとは……ねねっ、どうだった!?」
凛「うん、いつものコント芸が炸裂してていい感じだったよ」
卯月「ええっ!? ど、どういうことなんですか!?」
凛「冗談、二人ともしっかり宣伝できてたと思うよ、たぶん」
未央「たぶんってなに!?」
やっと重い空気が消えてくれた。
やっぱり二人にはアイドル関係の話題のほうがいいよね。
そう思って私は狩りの時間まで二人とアイドルについて話すことにした。
二人の所属する事務所、シンデレラプロジェクトのこと、プロジェクトのメンバーのこと、色々話しているとあっという間に時間が過ぎていく。
未央「それでさー、私たちはデビューが一番後だったから、みんなの初舞台のステージとかの手伝いもしてたんだよ。その時、初舞台はこんなに人が少ないんだねーってしまむーと話してたけど、みんなはそれでも嬉しいって言って、私気がついたんだ…………って、どうしたのしぶりん?」
凛「あ、ううん。気にしないで、それで?」
未央「うんうん、それでさ、私お客さんの多い少ないとかは気にせずに、お客さんに私たちの歌を聞いてもらって喜んでもらうことが重要なんだなって……」
おかしい。
もう9時を回っている。
いつもはこの時間にはもう転送されているはずなのに。
卯月「あっ、大変! もうこんな時間です!」
未央「へ? うわっ!? もう9時じゃん! やばー、レッスンは休むって言ってたけど、家に何も連絡入れてなかったよー」
……どうする? どうせ転送されてガンツの部屋に行くんだから帰ってもらってもいいか。
凛「……一旦二人とも家に帰ろうか。また後でガンツの部屋で合流する形で」
未央「あっ……、そ、そういえば、今からあの部屋に連れてかれるんだよね?」
卯月「うぅ……」
凛「大丈夫、さっきも言ったように二人は何も心配はしなくていいから」
とりあえず二人を家まで送ってあげよう。
凛「それじゃ、二人を送るよ」
卯月「え、あ、あの。また空をピューンって飛んでいくんですか?」
凛「……そうだね、いつ転送されるか分からないし、あんまり人の多いところは避けたいからね」
未央「そ、そっかー、またあのジェットコースターを……」
二人は私に送り届けられることを了承し、私は鞄に入れていたスーツに着替えることにした。
凛「あ、ちょっとあっち向いてて」
卯月「?」
凛「このスーツ、下着も全部脱がないといけないから」
未央「そーなんだ……」
二人が顔を逸らしたと同時に、一気に服を脱いでスーツに着替える。
慣れたもので10秒もかからない。
凛「もういいよ」
未央「うわ、変身した」
卯月「は、早着替えですねー」
バイザーを装着して、ハードスーツも転送するアイコンを起動して装着しておく。
あっという間に戦闘準備万端の状態になった。
卯月「……やっぱり、夢じゃないんですよね」
凛「うん」
未央「……よし! もう覚悟した! 私を連れて行ってしぶりん!」
未央は目を閉じて両手をあげている。
未央の体を抱きかかえると、しがみ付いてくる。
凛「もしかして、ああいうの苦手だったりする?」
未央「……逆に聞くけど紐無しバンジーが好きな人っている?」
安全は確保してるからバンジージャンプより安全なんだけど。
凛「卯月、こっちに来て」
未央「無視!?」
卯月「は、はい。凛ちゃん、優しくお願いします……」
卯月もしがみ付いて目を瞑った。
二人をしっかりと支え、私は窓を開けて透明化を起動し二人の家に向けて飛んだ。
数分で卯月の家、もう数分で未央の家、そして10分後には二人を送り届けて自分の部屋に戻ってきた。
私はそのまま、転送を待った。
だけど。
12時を回っても転送されることはなく、
今日、狩りが行われることは無かった。
今日はこの辺で。
昨日は12時を越えてからは、卯月と未央の家に行き二人を連れ出して、私の部屋に来てもらっていた。
もしかしたら夜中に転送があるのかもしれないと考えての行動だったが、結局転送されることはなく、明け方に眠っている二人を起こして家に送り、学校に登校した。
二人には何かあったら連絡するようにと連絡先を教えて、私は授業を受け昼休みとなった。
昼休みも中ごろに、電話が震え、確認してみると知らない番号。
一応取ってみると。
玄野「あ、渋谷だよな? 俺、玄野だけど」
玄野からの連絡だった。
凛「……あぁ、そういえばあの時連絡先教えたよね。どうしたの? また何か知りたいことがあるの?」
玄野「いや、今日は何か聞きたいってわけじゃなくて、お前も訓練に参加してほしくて連絡したんだ」
凛「訓練?」
玄野「ああ、前回あの部屋に来た人たち全員と……一人を除いて全員と集まることになったンだ。それでそン時に訓練をしよーと思うんだけど、お前が色々教えてくれたらと思ってさ」
凛「色々教えるって、銃の使い方とか100点武器のことはこの前話したから、他に教えれることなんて何も無いと思うけど」
玄野「……あるだろ。一番重要なことが……」
凛「?」
玄野「あの部屋で生き残る方法だ。お前、あの部屋で数ヶ月毎日一人でミッションを続けて生き残り続けたンだろ? その生き残るコツってやつを教えてほしい」
凛「生き残るコツって……」
皆殺しにするだけなんだけど。
そう言おうとしたが、玄野が続けた言葉を聞いて飲み込むことにした。
玄野「もう……できれば誰も死んでほしくない。誰も死なずにあの部屋の呪縛から全員が解放される、そんな道を探したい」
凛「……」
本当になにがあったんだろう?
あのチビが襲撃してきたときの玄野と別人みたいだ。
玄野「頼む」
凛「……いいよ」
玄野「本当か!?」
凛「うん。生き残るコツって言うか、普段気をつけていることくらいしか話せないと思うけど、それでもいいなら」
玄野「助かるよ……」
凛「それで、いつ集まるつもり?」
玄野「今日。夕方俺の家に集まる予定なんだけど、お前の予定って空いてるか?」
今日の夕方……。
今日こそ狩りがあるはずだから、行っても途中で転送されてしまうだろうし……。
凛「……今日は難しいかも。たぶん狩りがあると思うし、アンタ達の訓練に参加しても途中でガンツに呼ばれると思うから」
玄野「はァ!? お、おい! 今日なのかよ!?」
凛「ああ、アンタ達は違うと思うよ。私達だけって事、昨日が無かったから、今日は絶対にあると思う」
玄野「あ、お前ッてそうだったな……次からも俺達とは別ってことか……」
凛「うん。あ、それと訓練に参加するなら来週以降なら助かる。それまでは私もあまり動けないからさ」
未央と卯月が解放されるまでは、二人と一緒にいようと思う。
二人も色々不安だろうから……。
玄野「そッか、わかった」
凛「悪いね」
玄野「いや、こっちから頼んでるんだ。気にしないでくれ……ああ、そうだ。一応さっき聞いた生き残るコツってやつを後ででもいいから電話で教えてくれないか? 俺達もいつミッションがあるか分からないから、なるべく早く全員に伝えておきたい」
凛「なら、今話そうか?」
私は手短にいつも気をつけていることを玄野に伝え電話を切った。
真剣に聞いてくる玄野、やっぱり何かあったのだろう。
私が変わったように、玄野も変わった、そう考えておこう。
あの人たちは玄野を中心にチームを組んで狩りをするようになるんだろう。
あの中にも強そうなのは何人も居たから、全員生き残ってガンツの部屋から出て行くって事も無理じゃなさそうな感じ。
玄野たちは玄野たちで生き残る為にやれることをやっていくつもりだろうし、それに対して協力することは問題ないけど、今優先することは他にある。
未央と卯月を一刻も早く解放させないといけない。
あの二人がガンツの部屋にいる間は、なるべく多くの時間を二人と過ごす。
色々と万が一があるかもしれないから。
特に二人の家族や仕事仲間に二人が転送されるところを見られるのは非常にまずい。
一応首筋に寒気を感じたらすぐに誰にも見られない場所に行ってほしいと伝えてある。
でもあの二人はまだ勝手も分かっていないだろうし、なるべく夜転送される時間帯は一緒に居てフォローをしないといけない。
そうやって考えているとあっという間に放課後になっていた。
すぐに教室を出て、未央と卯月に連絡をする。
未央「もしもーし」
凛「あ、未央? 今日もこれから私の家に来てほしいんだけど、いつごろ来れるかな?」
未央「あー、しぶりんごめん! 今日は先に事務所のほうに行かないといけなくてさー」
凛「え?」
未央「ほら、日曜日にあんな事があって、私達、避難する形で帰ったって事になってるんだけど、昨日も休んじゃって流石にみんな心配してるから今日は顔出しと報告をしにいかないといけないんだよ」
凛「そう、なんだ……」
未央「だからしぶりんの家には事務所によった後になっちゃうかなー」
凛「……もし事務所で寒気が襲ってきたら人目につかない所に移動することを忘れないでね」
未央「おっけーおっけー、寒気ってのが来たらすぐにしまむーを連れてトイレにでも駆け込むし、みんなにも絶対に話さないようにするから、そんなに心配しなくても大丈夫だよ!」
その言葉で、私は心配しすぎていたのかと思い直した。
それと未央が随分とガンツの話題を出しても怖気づかなくなっている事に気がついた。
まあ、二日たってるんだし、少しは落ち着いたってことかな。
卯月のほうはどうかはわからないけど……。
凛「うん。それじゃあ、また終わったら連絡してよ。迎えに行くからさ」
未央「いやいや、あのジェットコースターはもう勘弁してほしいから」
拒否る未央に何度も言って、迎えに行くことを了承させた。
その後、二人を迎えに行って、また私の家で狩りの時間まで待機。
今日もガンツのことはそこそこにアイドル関係の話をしながら時間が来るのを待った。
だけど、今日も狩りへ呼ばれることはなかった……。
どうして?
次の日の夕方、今日も未央と卯月には仕事を早く切り上げてもらって私の家に来てもらっている。
今日こそは呼ばれるはずだ。そう考えて待っていると未央が話を切り出してきた。
未央「あのさ……、あの部屋のことなんだけど……」
凛「ガンツのこと?」
未央「うん。この数日、しぶりんから色々話してもらってけど、何ていうか肝心な部分を聞きそびれていたような気がしたから聞きたいんだけどさ」
凛「何?」
未央と卯月は顔を見合わせてどう切り出そうか迷っているみたいだ。
一体何を聞きたいのかな?
卯月「あの、凛ちゃんはあの部屋で何ヶ月もゲームをしているんですよね?」
凛「うん。そうだね」
未央「あの部屋のゲームってさ、死んじゃうかもしれないんだよね? 前回は何人か……死んじゃってたよね……?」
凛「……うん、そうだね」
卯月「えっと……前回、凛ちゃんは終わろうと思ったら終われたんですよね?」
凛「……うん」
未央「……なんで、しぶりんは前回終わらなかったの? ってか、何回も繰り返してゲームやってるんだよね? その、強い武器を手に入れるだっけ? を選んで」
凛「……」
殺し合いを楽しんでいる。
そう即答をできなかった。
自分がおかしいっていうのは自覚しているけど、この二人に私の黒い部分を見せたくなかった。
他の人に知られてもどうという事は無いけど、二人に私が頭のおかしい人間だって知られるのは嫌だった。
それを知られて、二人が私を避けるようになってしまうのではないかと思うと言う事ができなかった。
だから、私は逃げた。
凛「……次は終わろうと思ってるよ。今までは理由があって止められなかったけど、二人と一緒に終わる予定」
私がそう言うと二人は明らかにほっとして、表情を和らげていた。
何かに気がついていたのかもしれない。
未央「よかった~~。ちょっと心配だったけど、それなら大丈夫だね!」
卯月「ですね~。心配だったんです。私たちを部屋から出してくれるって言ってましたけど、その後に凛ちゃんがあの怖いところに一人で残っちゃうんじゃないかって思ったら」
凛「……」
未央「そんなわけあるわけ無いって思ってたんだけど、何ていうかしぶりんがあの部屋にいることが自然に見えちゃったから不安になってさ」
……あの部屋が私の居場所っていう事に気付かれていた。
気をつけよう、どこかでボロが出たら私の本性にも気付かれてしまうかもしれない。
隠さないと……二人には気がつかれないように……。
それからまた他愛の無い話をしていたが、今日も狩りに呼ばれることは無かった。
それから1週間ほど同じ日々を過ごす事になる。
1週間で二人は解放されるはずだったのに、解放されるどころか狩りが行われなくなってしまった。
何故ガンツは呼んでくれないのか?
考えてもわからなく、このまま呼ばれるのを待つしかないと結論付け私の家で待機するのも終わる事になった。
それも、二人は私の家に来る時間を確保する為に、結構無理をしていたみたいだから。
今は二人とも仕事が忙しく、これからしばらくは集まるにしても夜遅い時間となってしまうため各自で夜は狩りに供えることとなった。
その間に私はあの二人がガンツの部屋に来てしまった原因を知ってしまった。
数日間テレビも何も見ていなかったし、ガンツが何故狩りに呼ばないのかと考えていて調べていなかったが、あの日曜に何があったのかを調べるとすぐ原因が浮かび上がってきた。
凛「新宿乱射事件……」
あの日、二人がライブを行う予定だった新宿で起きた事件。
二人には直接聞いていないけど、あの日この事件に巻き込まれて、二人ともガンツの部屋に来てしまった。
それから狩りに行って、私が殺した乱入者たちに殺されかけたという事だろう。
調べて全部が繋がった。
凛「死傷者387名、無差別大量虐殺、テロの可能性も……」
凛「そして……犯人の手がかりなし……」
つまり、二人を殺そうとしたクズはまだ捕まっていないし、どこかでのうのうと日々を過ごしているという事だ。
凛「……許せない」
警察が見つけれない以上、どうしようもないとは思うが、湧き上がってくる気持ちを抑えることができない。
もし犯人が見つかったり、捕まったりしたら。
私は何をしてしまうかわからない。
できてしまう手段を持っているから。
凛「……駄目駄目、ガンツがそんな事許してくれない」
狩り以外でガンツの道具を使った殺しはアウトだろう。
凛「……それに捕まれば死刑」
そう、どうせ捕まれば死ぬんだ。
さっさと警察に捕まえてもらうことを祈るしかない。
本当に、早く捕まえてもらいたいものだ。
凛「……ふぅ、少し体を動かそう。体を動かせば少しは落ち着くでしょ……」
スマホの画面を消して、透明化を起動し、訓練をする為に家を出る。
身体を動かさないと。
色々と溜まっている物を発散させないとまずい。
私は訓練をしながら狩りを待ったが、やはり今日も呼ばれることは無かった。
今日はこの辺で。
あれからさらに2週間ほど経つ。
それでも私たちはガンツに呼ばれることもなく時間だけが経過していった。
最初のうちは未央と卯月もガンツにいつ呼ばれるかと注意していたようだけど、もう二人とも呼ばれることが無いと思っているのか、当初の緊張感はすでになくなっていた。
そして、最近仕事終わりの二人が私の家に立ち寄ってお喋りをして帰るというサイクルが出来上がっていた。
仕事終わりなので少し遅い時間、二人とも親に怒られないのかと心配したけど、うまく言っているみたいだ。
私は二人と話しているときに転送があるかもしれないと、最初のうちは緊張をしていたが、ここまで長く空いてしまい少し緊張が抜けてしまっているのを自分でも感じている。
そのせいか最近はガンツの話はほとんどしていない。
そして、二人の仕事の話を聞くのが私の密かな楽しみになっている。
二人の仕事仲間はものすごく個性的な人たちが多くて、話を聞いているだけでも飽きることが無い。
アイドルなんだから個性が無いと勤まらないとは思うけど、話を聞いていると本当に大丈夫なのかと心配するくらいの性格の人、行動をする人がひしめいているみたいだ。
そして今日は二人が所属する346プロのアイドルの話ではなく、別のプロダクションのアイドルの話を聞いている。
未央「聞いてよしぶりん! 私達、昨日レイちんと一緒の現場で撮影をしたんだよ!」
凛「レイちん?」
卯月「レイカちゃんですよ。グラビアアイドルで……ほら、凛ちゃんもあの時見ているはずですよ?」
未央「そうそう、レイちんも私たちと同じであの部屋に行っちゃってたんだよねぇ」
二人はもうガンツの部屋のことを話題にしても特におびえるようなことは無い。
時間も経って余裕ができたみたいだ。
凛「……あぁ、そういえば女の人いたね。あの人もアイドルだったんだ」
卯月「私たちのプロダクションでは無いんですけど、トップアイドルの一人ですよ」
……二人以外には特に興味が無かったから全く知らなかった。
今は二人の話しのおかげで、いろんなアイドルに興味が沸いてきているけどね。
未央「それでさ、偶然同じ撮影現場だったし、レイちんも私たちの事覚えてたみたいで、色々話をしたんだよ」
未央「そしたら、レイちんってあの部屋にいた人たちと集まって訓練をしているみたいなんだけど、私たちも誘われちゃってさ。私としまむーは参加してもいいかなって思ってるんだけど、しぶりんはどうかな?」
そういえば、玄野からも誘われてたっけ。
すっかり忘れてた。
……私も少し気が抜けているところもあるし、気を引き締めるためにも参加してみるのもいいかもしれない。
二人が一緒に行くのだったらなおさらだ。
凛「二人が行くなら私も行くよ」
未央「おっけー! 決まりだね!」
卯月「それじゃあ、私が連絡しておきますねっ!」
あっという間に日程を決めて、明日集まる事になったみたいだ。
集合場所は前に行った玄野の学校から結構近い場所。
明日、学校が終わったらその近くの喫茶店に集合する形になって今日は解散となった。
二人が帰って夜寝る寸前、私はベットに横になって天井を見つめていた。
思うことは最近の自分のこと。
凛「……最近、ガンツのことが頭から抜けてる時多いかも」
前まで、毎日狩りに行っていたときは、ガンツのことだけを考えて、殺し合いを楽しんで日々を過ごしていた。
だけど、最近はあの二人とお喋りをして、あの二人の話すことが楽しくて、ガンツのことを考えることのほうが少なくなっている。
前までは簡単な狩りが続いて、満足感が得られない状態が数日続いただけで、戦いをしたくて、何かを殺したくてたまらなかったのに、最近はそんな事もなくなっている。
この3週間、まったく戦いをしていないし、殺しもしていないのに、私はいたって平静な状態だ。
まるで昔の自分に戻ったような気分、何の目標も無くて、日々を無駄に過ごしていたあの頃に。
その心境の変化の原因は分かっていた。
凛「未央と卯月……二人と毎日会って話しているからかな……」
前もそうだった。
二人と一緒に居るときはガンツのことを忘れることができた。
最近は毎日一緒に居るし、話しているから、こんな状態になっているんだろう。
凛「嫌じゃないんだけど……私のやるべきことは、宇宙人を狩りつくすことだし……」
ガンツのことを忘れて二人と話すことは嫌じゃない、むしろ楽しい。
だけど、私のやるべきことは宇宙人を皆殺しにすること。
瞼を閉じて考える。
私の心の中で、二人とガンツの狩りを天秤にかけてどちらが大事なのかを考えていた。
だけど、答えは出なかった。
次の日、早めについた私は先に喫茶店に入っていた。
コーヒーを飲んでいると喫茶店に入ってきた男女と目が合った。
凛「あっ」
玄野「あッ」
「どーしたのケイちゃん?」
玄野と前に玄野の学校で見た女の子だった。
手を繋いでる……あ、そういえば玄野ってこの子に告白してたっけ?
それなら、玄野の彼女ってことだね。
デート中のカップルにわざわざ話しかけるのも野暮だし、とりあえず視線を外す。
どうせこの後、玄野と会うんだ。今話さなくても問題は無い。
そう思っていると、玄野も私に声をかけることはせず、
玄野「タエちゃん、別のところいこーか。俺、ハラ減ったし、なんか食べたい」
多恵「それらならケイちゃんの家で何か作ろうか? 冷蔵庫に何入ってたかな?」
玄野「あッ、今日俺ん家に後で人くるからどっかで食べていこうよ」
やり取りをしながら玄野は喫茶店から出て行った。
仲よさそうだったな。それに玄野、あの子と話してるときは凄く幸せそうな顔をして……。
もしかして玄野が変わった理由って彼女ができたから?
恋が人を変えたってやつかな?
なんだかいいね、そういうの。
そうやって少しすると、未央と卯月がやってきて、時間になるまで私たちは喫茶店でお喋りをしながら待った。
そして、日も暮れ始めた時間、私たちは集合場所まで向かい、住宅街にあるアパートの前までやってきた。
卯月「ここみたいですね」
未央「ザ・一人暮らし用のアパートって感じだねー」
凛「ここの何号室だっけ?」
卯月「えっと、2階の……あっ」
玄野「あ、きみたちは……」
玄野が2階の一室から顔を覗かせていた。
未央「どーもどーも! えーっと玄野君だったっけ?」
玄野「あ、えーッと、君は渋谷の知り合いの……」
未央「私、本田未央。ねぇねぇ、もうみんな集まってるの?」
玄野「あ、まだだけど……いつもレイカの時間に合わせるからもう少し遅い……」
未央「ありゃ? そーなんだ……」
卯月「どうしましょうか?」
また喫茶店で時間を潰そうかと言おうと思ったら、
未央「それじゃあさ、時間まで待つから部屋に入れてよー」
玄野「え? えぇッ!?」
未央「ダメ?」
玄野「あッ、いやッ、だ、だめじゃ、ないけど」
未央「よっし! しまむー、しぶりん行こ行こ!」
卯月「は~い」
凛「……えっと」
私たちは玄野の部屋で時間まで待つこととなった。
部屋から出てきた玄野は、なんというか挙動不審な状態だった。
未央「おっじゃまっしまーす!」
卯月「わぁ、私、男の人の部屋に入るの初めてですっ!」
未央「おっ! それじゃあ、ベットの下だけは見ちゃダメだよ! 私の友達の男の子はベットの下に凄いものを隠してたからね!」
卯月「す、凄いものですか?」
凛「……」
二人とも楽しそうだ。
玄野は二人のテンションに何も言えないみたいだ。
とりあえず、挨拶しておくかな。
凛「久しぶり、ってさっき会ったね」
玄野「あ、ああ」
未央「へぇー、結構綺麗にしてるねー」
凛「どう? あの後ガンツに呼ばれたりした?」
玄野「い、いや。俺たちはまだだけど……お前は?」
卯月「私、一人暮らしした事無いですけど、こういう一人部屋っていいですねぇ」
凛「まだ。あれから呼ばれる気配も無し。こんなに間が空くことなんて、最近無かったんだけど」
玄野「そッか……」
未央「おっ! この写真、もしかして彼女さん? 中々隅に置けませんなー!」
うるさい……。
凛「……二人とも、玄野困ってるよ、あんまりジロジロ部屋見ないほうがいいと思うけど」
未央「えー? 別にいいじゃん。ねっ、いいでしょ?」
玄野「あ、う、うん」
未央「ほらねー!」
凛「……」
まあいいや。
その内二人もあきるだろう。
凛「それで、アンタたちは集まって訓練してるって言ってたけどどんな感じなの?」
玄野「ど、どんな感じかって、スーツの使い方とか銃の使い方に慣れてもらって、チームで動けるような訓練をしてッけど……」
凛「ふーん。毎日やってるの?」
玄野「毎日ってわけじゃないけど、集まれるときは集まってやッてる」
凛「そっか」
基本的なことはやってるんだ。
私も最初はスーツでどこまで動けるかを試したりしてたよね。
凛「そういえば、急に参加しても大丈夫だったの? あの二人が、レイカさんだっけ? と連絡して今日いきなり来る事になったんだけど」
チームの訓練もしてるんだったら、私達が急に入ったらまずいんじゃないかと思うが、
玄野「ああ、大丈夫だよ。むしろお前には前から来てもらいたいって思ッてたからな」
凛「それならいいけど」
未央「二人で話してないで私たちも混ぜてよー」
二人が割り込んできた。
どうやら部屋の物色に飽きた様だ。
卯月「ごめんなさい、自己紹介まだでしたよね? 私、島村卯月って言います」
玄野「あ、お、俺、玄野計。よ、よろしく」
卯月「はいっ、よろしくお願いしますっ!」
満面の笑顔を見せる卯月、その笑顔を見た玄野は顔を赤くして、照れてるな……。
未央「おっ? くろのんはしまむーの笑顔にやられちゃいましたかー? しまむーも罪な女よのお……彼女もちの男の子のハートを打ち抜いちゃうなんてさ!」
玄野「な、なッ!?」
卯月「えっ、ええっ!?」
しばらく未央のからかいが続いて、気がつけば時間も結構経っていた。
玄野「そ、そろそろみんな来る頃だから、部屋を出て移動しようぜ」
未央「ちぇー、残念」
卯月「どこにいくんですか?」
玄野「いつもはビルの屋上とか、人の目に付かないでかい公園とかでやってるけど……今日はどうするか……」
玄野「渋谷、お前はいつもどうしてんだ? どッかで訓練してんだろ?」
凛「私? 私も森林公園とかで特訓してたけど、最近は山の中で特訓してることが多いかな」
玄野「山か……まァ、人目にはつかないな。だけどこの近くでって言ったら……」
凛「ちょっと遠いけど私のよく行く場所に行く? スーツの力があれば走って行って30分くらいで到着すると思うけど」
玄野「なら、今日はそこで」
話しながら部屋を出ると、階段のところでこの前見た女の人、レイカさんがいた。
レイカ「あっ、玄野クンと……この前の……」
軽く頭を下げて挨拶をすると、私の後ろから未央と卯月がレイカさんに向かって声をかけていた。
未央「あー! レイちん、一昨日ぶり!」
卯月「こんばんは、レイカちゃん!」
レイカ「本田さん、島村さん」
二人を見て笑顔を見せるレイカさん、私を見たときに少し表情が強張っていたのはなんだろう?
レイカ「もう下でみんな待ってるよ」
階段の下には何人かの声。
階段を下りると、そこにはあの部屋に居た人たちの姿があった。
桜井「あッ! 君達はこの前の!」
「おお! これで全員集まったわけだな!」
「こんばんは、君達も今回から私たちと一緒に訓練をするんだね」
未央「あ、どーもどーも!」
卯月「こんばんは~」
凛「どうも……」
集まった人数は10人。
結構な大所帯だ。
玄野「みんな、今日の訓練場所はこの渋谷が案内してくれる。まずはそこに行こう」
話もそこそこに玄野が切り出した。
とりあえずは移動。それから各個人を紹介してくれるといっている。
玄野「みんな、スーツは着てきたか?」
玄野の言葉に頷く私達以外の全員。
だけど、
未央「え? スーツ?」
卯月「ですか?」
……この二人は持ってきていない。
あの時私が二人を連れ帰ったし、二人も含めて訓練なんかすると想定していなかったから持ってきていない。
ガンツの部屋も一度出ると何故か鍵がかかって入れないからとりにもいけない。
凛「二人は私が連れて行くから」
私がいつものように二人を抱きかかえて、夜の町を飛び私の特訓場所のひとつの山に向かい移動した。
夜の山の中腹、私の訓練場所のひとつに全員がたどり着いた。
玄野「な、なんだこりゃ……」
レイカ「山の中に、こんな開けた場所が?」
デカ銃で木を押しつぶして作り出した場所。
野球場の半分くらいの広さを確保して見通しもよくしてある。
今日は満月で月明かりもあって視界も良好だ。
玄野は最初唖然としていたが、しばらくたつと表情を変えて、全員に向けて話し始めた。
玄野「みんな、今日はこの3人も一緒に訓練をする事になった」
玄野「まずはコイツ、渋谷凛、俺と同じく昔からあの部屋でミッションを続けている女だ。コイツはあの部屋でもう11回100点を取っていて、俺よりも戦闘経験が豊富だ、何か聞きたい事があったらコイツに聞くのが一番手っ取り早い」
私の紹介をする玄野、全員が私を見ている。
とりあえず挨拶をしておこうかな。
凛「渋谷凛、よろしく。あなた達と一緒の狩りはできないと思うけど、情報は提供できるから聞きたい事があるなら聞いて。分かる範囲で答えるよ」
各々からよろしくと言った声が聞こえる。
事前に説明をしてくれていたみたいで、一緒の狩りができないといった発言には特に突っ込まれることは無かった。
玄野「あと、本田さん、島村さん、自己紹介してもらえるかな?」
未央「了解! 私は本田未央、皆さんご存知、そちらのレイちんと同じくアイドルやってまーす! 今日はレイちんに誘われて訓練に参加する事になったのでよろしくー! ちなみに私達はニュージェネレーションズってユニット組んでますんで応援もよろしく! はいしまむー!」
自己紹介をして卯月の肩を叩く未央。
卯月「わわっ、ええと、私は島村卯月っていいます。私は未央ちゃんと一緒にアイドルをやっていて、未央ちゃんが今言ったニュージェネレーションズというユニットのメンバーで、えっと……トップアイドルを目指してますんで応援よろしくお願いしますっ!」
なんで最後はアイドルの紹介してるんだろう……。
桜井「二人ともアイドルなんですか?」
未央「そだよー、レイちんみたいに有名じゃないけど、これからトップアイドルになっていくからね! 今のうちにサイン書いてあげようか?」
桜井「えッ?」
……また脱線し始めてる。話を戻そう。
凛「こっちは終わったけど、他の人たちを紹介してもらってもいいかな?」
玄野「ああ」
玄野「俺はさっきやったから良いとして……」
玄野はレイカさんに目配せをして、その視線を受けたレイカさんは自己紹介を始めた。
レイカ「それじゃあ、あたしから」
レイカ「あたしも本田さんと島村さんと同じでアイドルやっています。二人とはこの間仕事場が一緒で話をして、この訓練に誘ったのもあたしです。えっと、渋谷さんと話すのは初めてですよね。よろしくお願いします」
レイカさんは私に頭を下げてきた。
同じく会釈で返す。
桜井「じゃあ、次は俺で」
茶色がかった髪の少年、確か桜井って名前だっけ?
桜井「俺は桜井弘斗、こっちの坂田師匠と同じく超能力者ってやつっス」
未央「は?」
卯月「えっ?」
凛「?」
今、何か変な言葉が聞えたような?
坂田「おい、桜井。あんまり力のことをペラペラ喋るのはなァ……」
桜井「いいじゃないっスか。この人たちもこれから一緒に訓練するんだったらいつかは知られてしまうんですし」
サングラスをかけた坂田という人が力って言っている。
超能力って……本気で言ってるの?
卯月「あの……超能力って、スプーン曲げたりするやつですか?」
桜井「それもできるよ」
未央「手からビーム出したり、瞬間移動したりもできるの?」
桜井「それはできないかな……」
どういった類の力なんだろう?
ガンツのことを知らない状態で聞いていたら鼻で笑っていたけど、世の中には宇宙人もいるし、死ぬ寸前の人間を瞬間移動させてつれてこれる人? もいる。
超能力だってあるかもしれない。
凛「具体的にどういう事ができるの?」
桜井「えっと……触らずに物を動かしたり、重いものを空中に持ち上げたり、物を透視したり、結構色々できるかな」
凛「……私を持ち上げたりできるの?」
桜井「できるよ」
そういって頭を抑えながら念じ始める。
すると、すぐにそれはおきた。
凛「!?」
未央「し、しぶりんが」
卯月「浮いてる!?」
私の体が地面から1メートルくらい浮かんでいた。
浮遊感もあって完全に浮いている。
すぐに地面に下ろされたけど、間違いなく私は浮かんでいた。
卯月「び、びっくりしました」
未央「す、すごいね。流石の未央ちゃんも驚いて何にも言えない」
凛「……超能力、本当にあるんだ」
私たちは今起こった事に呆然としていた。
宇宙人がワケのわからない攻撃をしてきても驚くことは無いけど、人がこんな力を持っているなんて思ってもみなかった。
坂田「まあ、力っていッてもできることはたかが知れているし、この力は人が使える力の一つだ。それよりも俺はあの部屋で起きたことやあの部屋の道具のほうが理解不能で恐ろしいね」
坂田と呼ばれたサングラスの男が続けた。
坂田「俺は坂田研三。坂田でも坂田さんでも呼びやすいほうで呼んでくれ。あの部屋に来ちまった者同士、今後ともよろしくな」
坂田「ああ、後そっちの二人の応援するから後でサイン貰ってもいーかな?」
未央「う、うん。逆に私のほうがサインほしーかも……」
卯月「超能力者さんなんて始めてみますからね……」
最後は冗談交じりに言って、この二人の自己紹介は終わった。
次はものすごい筋肉の大男。
この前も見たけど、多分この中で一番強い。
スーツを着ている今の状態なら50点以上の点数が付きそうな人。
その大男は一言だけ、自己紹介をして終わった。
風「風大左衛門」
未央「え? それだけ?」
卯月「風、さんですか?」
私たちと目をあわそうともせずに遠くを見ている。
寡黙な人なのかな? そう思っていたら、未央が動き始めた。
未央「凄い筋肉ですねー」
風「……」
未央「なんか格闘技やってるんですか?」
風「……」
未央「……」
風「……」
未央が動いて視線に入るたびに、別の方向に視線を外す風さん。
心なしか顔が少し赤いような気がする。
そんなやり取りをしていた未央が戻ってきて小声で話し出した。
未央「しまむー、しぶりん。あの人なんか女の子苦手っぽい」
卯月「そうなんですか?」
未央「うん。クラスの男の子でああいう反応する子いるもん。でもそういう子って結構後から打ち解けれるからあの人もそーかも」
凛「ふーん」
未央「ああいう人にも興味を持ってもらう事はトップアイドルとして必要になってくることだから絶対にいつか会話を成立させて見せるよ!」
凛「……まあ、頑張って」
変に燃えている未央は放っておく。
次の人の自己紹介が始まった。
稲葉「稲葉光輝。職業はデザイナー。宜しく」
簡単な自己紹介で終わった稲葉さん。
この人は……なんだろう? 何と言うか一歩引いてるような感じがする。
他の人たちと違って、一本線を引いて踏み込んできていないようなそんな感じ。
未央「あっ、宜しくお願いしまーす」
卯月「宜しくお願いしますっ!」
凛「……宜しく」
稲葉「ああ」
未央「ところでデザイナーって何のデザインしてるんですか?」
また未央が話を脱線させ始めた。
稲葉「ん? 服のデザイン。ファッションデザイナーってやつだ」
未央「おおっ! すごい! 今度どんな服をデザインしているか見せてもらってもいいですか!?」
稲葉「ああ。いいけど……」
未央「やったね!」
満足げな顔をして喜ぶ未央。
その後、卯月に小声で耳打ちをしていた。
未央「しまむー、あの人の腕が確かなものだったら、私たちの衣装とかデザインしてもらおうよ」
卯月「私たちの衣装ですか?」
未央「そうそう、中々無いじゃん? デザイナーの人に自分の着たい衣装を自分で提案するって機会」
卯月「そうですね……でもデザイナーの人を勝手に決めるのっていいんですかね?」
未央「そこはプロデューサーと話をして交渉だね!」
そうやって二人が話していると、次の人の自己紹介が始まった。
これで最後だ。
この中でも一番年上のおじさん。
鈴木「最後は私だね。私は鈴木良一、君達は私たちとは別であの部屋に呼ばれるらしいけど、私にできることがあったら言ってね。できる限り力になるから」
優しそうなおじさんだ。
未央「ありがとうございます! それなら私達ニュージェネレーションズの応援もお願いします!」
卯月「宜しくお願いしますっ!」
鈴木「ははは、それじゃあテレビで見たときには応援するよ」
未央の軽口にも優しく笑って返している鈴木さん。
こういう人はガンツの部屋に向かないと思う……。
何とか生き残って部屋から出て行ってもらいたいと思う……。
私は鈴木さんに会釈をして、これでこの場にいる全員の紹介が終わった。
あの部屋にいた全員……いや、和泉だけがいない。
あの人は、玄野たちと違ってチームを組まずにやっていくという事かな?
まあ、私もそうやっているし、あの人は強そうだし問題は無いだろう。
玄野「それじゃあ、自己紹介も終わったし、今日の訓練をやろう」
それから結構な時間を訓練に費やした。
最初に私がいつも気をつけていることや、レーダーで敵の場所を常に把握することの重要性、敵の攻撃は基本的に回避して受けることはしないようにすることを教えて、その動き方も私なりに実践した。
その後は何組かで連携の訓練。
連携の訓練は私と未央と卯月は見ているだけで、その間銃の使い方を詳しく教えていた。
私はY字銃の使い方再度説明して、部屋では撃つことがなかったけど、今回二人に実際に撃ってもらって感覚を掴んでもらった。
そこには何故か連携の訓練に参加していなかった稲葉さんもいた。
そうやって今日の訓練は終わり、次の訓練する日はまた玄野が連絡すると言い、今日は解散する事になった。
今日はこの辺で。
玄野たちとの訓練から数日。
未央「ねぇねぇ、しぶりんってくろのんと何かあったりするの?」
私の部屋で未央から訳の分からないことを聞かれた。
凛「は?」
未央「だからしぶりんとくろのんってもしかして付き合ってたりーって」
凛「……あるわけないでしょ」
何をいきなり聞いてきてるんだろう……。
未央「やっぱそーだよね。くろのんの部屋でも彼女っぽい女の子の写真あったし」
凛「……あのさ、何でそんな事聞くの? はっきり言って意味分からないんだけど」
私がアイツと付き合うって……あるわけないでしょ……。
というか、誰ともそんな関係になったことも無いのになにを言ってるのか……。
未央「え? えーっと、うーん……」
凛「?」
未央「しまむー、どーしよ?」
卯月「えぇっ? 私に振るんですか!?」
二人は何か悩んでる。何かを話そうかどうしようかと躊躇してるみたい。
未央「……まあ、しぶりんなら言わないと思うし話しちゃってもいっか」
卯月「未央ちゃん……」
凛「本当に何なの?」
未央「いやね、実はさ、昨日もレイちんとまた偶然仕事場が一緒でさ、色々お喋りしてたんだけど」
凛「レイカさんと?」
未央「うん。それでさー、レイちんがなんかしぶりんとくろのんの事色々聞いてきてさー、二人は同じ学校なのかとか、二人の関係ってどんな関係なのかとか、この前も二人で仲よさそうにしてたけど二人は付き合ってるのかって」
凛「……」
未央「もーね、隠す気あるのかなーって位の分かりやすさ。レイちんってくろのんのこと好きみたいなんだよね」
卯月「びっくりしましたよね」
凛「……はぁ」
未央「なんだかんだでしぶりんの口からくろのんとの関係聞いてなかったから、聞いておくよって言っておいたけど、やっぱり付き合ってるわけ無いよね」
凛「……アイツって彼女いたと思うけど」
卯月「あの写真の女の子ですよね……」
凛「うん」
未央「あちゃー、こりゃまいった……」
未央は顔に手を当てて渋い顔をしている。
というか、何の話をしているんだろう。
未央「くろのんが簡単に今の彼女からレイちんに乗り換えるなんてしたらそれはそれでくろのんのこと幻滅しちゃうけど、今のままじゃレイちんは完璧に失恋コース一直線だよね……どーにかする方法ないかなしまむー?」
卯月「わ、私に聞かれても……どうすればいいんでしょうか、凛ちゃん?」
凛「……知らないよ」
未央「二人とも真剣に考えてよ! このままだとレイちんは叶わぬ恋に心を痛めてしまい悲劇のヒロインになってしまうんだよ!?」
卯月「そ、そういわれましても、私こういう事疎くて……」
凛「……レイカさんに玄野は彼女いるから諦めたほうがいいんじゃないって伝えるしかないと思うけど」
未央「しぶりん! そんなストレートに伝えて、レイちんのアイドル活動に支障が出ちゃったらどーするの!?」
凛「……知らないよ、もう」
そのあとも、あーだこーだと未央が訳の分からない提案をし続けたが、結局レイカさんには玄野にはもう彼女がいるって伝える事に落ち着いた。
未央「あっ、しぶりん! この事はトップシークレットね! アイドルに恋愛事情って結構タブーなところあるから!」
凛「……なら話さないでよ」
また進展が会ったら報告するといって二人は帰っていった。
はっきり言ってどうでもいいんだけど……。
数日後。
未央「しぶりん……レイちんにあの話したんだけどさ……」
ああ……この前の続きか……。
未央「レイちん、思ってたよりくろのんのこと好きだったみたい……なんかデートに誘おうともしてたみたいなんだ」
凛「……はぁ」
卯月「玄野さんに彼女がいるって話したら、すごい悲しそうな顔をして、少し考えさせてくださいってその日のお仕事を早く上がっちゃって……今日もお仕事を休んじゃっているみたいです……」
凛「……はぁ」
未央「あそこまでショックを受けるなんて……どーすればいいのかな?」
卯月「どうしましょう……」
深刻な顔をして悩んでいる二人とは裏腹に、
若干面倒くさくなってきた私は適当に回答を返すことにした。
凛「……時間が解決してくれるでしょ。今悲しくても、またいつか新しい恋をすれば忘れれるよ」
未央「そーなの?」
凛「たぶん」
卯月「そうなんですね……」
凛「それにレイカさんは仕事もあって忙しいんだから、仕事に打ち込んでいれば忘れることもできるでしょ」
未央「それは、確かにそうかも……」
卯月「忙しいときは他の事なんて考えられないときありますからね……」
凛「じゃ、これでこの話はお終いでいいかな?」
未央「うん、そだね……これ以上悩んでも私たちじゃどうしようもないからね」
卯月「凛ちゃんに相談してよかったです! 私たちだけじゃいい考え浮かばなくて」
凛「はいはい」
適当に返しながら話を終わらせる。
別の日の夜。
私の携帯が振るえる。玄野からの着信だった。
凛「もしもし?」
玄野「……渋谷、今、いいか?」
凛「? どうしたの? 次の訓練の日程が決まったの?」
最近はレイカさんの失恋関係のゴタゴタもあって、集まっての訓練はあの時以来まだ行っていなかった。
玄野「いや……今日はちょっと聞きたい事があって連絡した」
凛「何?」
違うんだ。もう大体の事は話したけど……なんだろう?
玄野「お前、前回、あの人間に見える乱入してきたヤツらを殺したんだよな……?」
凛「うん。そうだけど」
玄野「……アイツらの仲間、みたいなのに、今日襲われた」
凛「!?」
私の頭にチビの時の一連の事件が蘇ってきた。
凛「一体どういう事!? 奴等は間違いなく私が殺したのに!」
玄野「この前乱入してきた奴等はいなかった……30人近くいたからお前がやったのとは、多分別の奴等だと思う」
凛「そんなに……それで、そいつ等はどうしたの? アンタが殺ったの?」
玄野「……いや、一緒にいた和泉が全員を殺した。一瞬で……全員を殺しちまッたんだよ、アイツ……」
よかった……。
全滅させたのなら、チビの時みたいにはならなそうだ。
それにしても、あの人か……。
一瞬であのとんでもなく早い連中を30匹も殺したなんて信じられないな……。
確かにあの時生身でチビとやりあっていたし……と考えていると。
玄野「……なァ」
凛「? どうしたの?」
玄野「……お前もさ、前回乱入してきた4人を殺したんだよな? あの人間に見える奴等を」
凛「まあね」
玄野「……お前も、人の命なんてどうでもいいと思ってるのか? 人とかも関係なく殺せるのか?」
凛「……どういう事?」
玄野「……お前も和泉と同じようなヤツなのかどうか、はっきりさせておきたいんだ」
あの人と同じ?
玄野の言っている事がピンと来なかったけど、私は玄野の質問について考えてみた。
凛「言ってる事良くわからないけど、私は人の命をどうでもいいなんて思ってないよ」
玄野「そ、そうか……」
凛「でも、私の大事な人たちを傷つけたりするような、私の敵は……多分人でも殺せると思う」
玄野「……」
凛「宇宙人は完全に私の敵だからどんな姿をしてても殺す事もできるし、殺しつくそうと思っている。そんなところかな」
玄野「……」
正直に答えたつもりだ。
少しの沈黙の後、玄野から重い声色で問いかけが来た。
玄野「……お前は、自分の目的の為に無関係の人間を殺すことができるのか?」
また変なことを聞いてくる。
これには即答をした。
凛「アンタさ、私を色々勘違いしてるでしょ? そりゃ、そう思われるようなことも言ったかもしれないけど、私はそこまで狂って無いし分別もある。私が殺すのは私の敵と宇宙人だけ。無関係の人たちを殺すなんてできるわけないじゃん」
玄野「本当だな……?」
凛「本当だって」
玄野「……ワカった。信じる、お前はアイツとは違うって事を。……前回、あの二人を必死に部屋から解放させようとも懇願してたしな」
何か納得した感じだ。
でも、一体……玄野が言ってるのってあの和泉って人のことだよね。
凛「……あのさ、あの人……和泉さんがどうかしたの?」
玄野「…………アイツは、いや……」
凛「?」
玄野「何でもない、気にしないでくれ。変なことを聞いて悪かッたよ」
凛「あ、うん」
それで電話は終わった。
私は玄野が質問してきたことを考えながら眠りに落ちた。
それから1週間ほどが経ち。
未央「しぶりん、レイちん結構割り切ったみたいだよ!」
またあの続きか……。
未央「デートに誘うのも止めて、くろのんの事は諦めるって言ってた」
凛「そっか」
卯月「でも、まだ少し未練はあるみたいです。それも忘れる為に仕事に打ち込むって言ってました」
凛「ふーん」
またあの話の続きが始まってしばらくすると。
ゾクリ。
卯月「!?」
未央「ひっ!?」
凛「来た」
遂に狩りの時間がやってきた。
卯月「あ、あの。こ、これって、やっぱり……」
凛「やっと呼ばれたね」
未央「し、しぶりん……」
頭のスイッチが切り替わる。
二人の前でスーツに着替えてバイザーを装着して、ハードスーツを転送する。
クローゼットからY字銃を持ち出し、二人に渡しておく。
凛「二人とも、部屋に転送されてガンツが開いたら、まずスーツに着替えて。その後はもう1丁Y字銃を持ってもらって、狩りの舞台に転送されたらすぐ合流、最初は敵の位置を確認しながら点数と弱点を調べて情報を集めるから、私と一緒に飛行バイクに乗り込んでもらう」
卯月「あっ、は、はい……」
未央「う、うん、スーツに着替えるんだね。それで……」
凛「落ち着いて。心配することなんて何も無いから。私が二人を守るから、安心して」
そうやって二人を落ち着かせていると、卯月がまず転送され始めた。
卯月「あっ、あっ! ああっ、やっ! いやっ!?」
未央「し、しまむー!? しぶりん!! しまむーがぁっ!!」
凛「大丈夫、転送されてるだけだから」
始めてみるとかなりキツイ光景だ。
パニックになりかけている未央を落ち着かせていると、未央も転送され始める。
未央「ひっ!? し、しぶりん……怖い……怖いよ……」
凛「大丈夫、すぐに私も行くから」
二人が完全に転送されて、少し時間を置き、私の転送も始まった。
やがて、私の視界が切り替わり。
私の眼には。
卯月と未央と……玄野たちの姿が映し出された。
凛「……え?」
卯月「りんちゃぁぁん!!」
未央「しぶりぃぃん!!」
私に抱きついてくる二人を受け止めながら。
凛「……なんで? アンタ達がいるの?」
玄野「お、俺に聞くなよ」
私たちはお互い困惑しながら顔を見合わせた。
桜井「あッ、やっぱり渋谷さんも来たじゃないッスか!」
坂田「よっ、アンタが来ないんじゃないかって、この二人は涙ぐんでたぜ?」
超能力コンビに声をかけられて、改めて部屋を見渡すと、玄野のチームの7人、和泉、私と未央と卯月、あとパンダ。
前回と同じメンバーが集められていた。
凛「……一人じゃなくなるって、こういう事だったの」
私はこの状況をすぐに受け止められなかったけど、切り替えて今回の狩りのプランを変更する事にした。
凛(全部の獲物を二人に送ってもらう予定だったのに、これじゃあ……)
凛(この人たちに点数を譲ってもらう……そんな事もいえないし……)
凛(……なるべく多くの敵を早めに行動不能にして二人に送ってもらう。他の人とは違って飛行バイクがこっちにはあるんだ。範囲全域を探すのにも10分かからないくらいだから殆どの敵を送ることができるはず)
凛(やるしかないし、やってみせる。他の人には悪いけど、二人が解放されるまでは、根こそぎ点数は頂いていく)
凛(文句を言われたら、二人が解放された後は点数を優先的に渡すと約束して交渉をする。何とかいけるはず、そのためにもこの人たちと友好的にして、私へ不信感を持たないようにさせないと……)
私はこの人たちのリーダー、玄野に近づいてバイザーを取り手を伸ばす。
凛「私もこれからは一緒になるみたいだね。一緒に協力して全員で生き残ろう」
玄野「あ、ああ。あらためて宜しくな!」
玄野と握手を交わして、私は続ける。
凛「私の武器の都合上、結構敵を倒してしまって点数を取っちゃうかもしれないけど、大丈夫かな?」
玄野「? ああ、大丈夫ってか、何でそんな事を気にするんだ?」
アンタ達は0点で、私達に全部の点数が入ってもそう言えるのか?
まあ、いいや。言質はとった、万が一今後あまりにも険悪になるようならこれも引っ張り出して言いくるめれば……。
そうしているうちに、転送されてくる人たちが現れた。
新メンバーってわけね。
数は6人。
全員が転送されるのを確認して、私は新たに転送されてきた男5人を見て警戒を強めた。
見た感じですぐ分かった。
あの時のクズ共と一緒。
田中星人のときの、私を撃ったあのクズ共と同類。
コイツ等は警戒しなければならない。いつ背後から撃たれるかわからない。
私は二人の手を握り、私に近寄らせるように引っ張り移動する事にした。
凛「それじゃ、リーダー、私と未央と卯月は3人でチームを組むから、後の人たちに説明とかはお願いするね」
玄野「えッ? ま、まァ、その二人は訓練も一回しかできてなかったし、お前に任せたほうがいいと思うけど……」
凛「分かってるじゃん。それじゃ、お願いねリーダー。新しく来た人たちにも説明しておいてね」
玄野「お前も俺をリーダーって……ったく、こんなとき、どーする……」
後の事は玄野に任せて、私は二人と一緒に部屋の隅に移動する。
私の後ろに二人を隠しながら私は警戒を怠らず、新たに来た5人の男を注視していた。
玄野は全員に説明をして、新たに来た人たちにも部屋のことを説明していた。
やがて、いつものあの歌が聞えてくる。
『あーたーーらしーいーあーさがきたーきーぼーおのーあーさーがーー』
さあ、今回の獲物はどんな奴等か……。
『てめえ達は今からこの方をヤッつけに行ってくだちい』
『ゆびわ星人』
『特徴 つよい でかい』
『好きなもの うま』
『口ぐせ 無言』
『自分より小さいものを憎んでる』
見た目は、兜を被った真っ黒な顔が表示されていて表情とかは見えない。
情報を見て、ガンツが開くと同時に私は二人の手を引き、二人のものと思われる『しまむらさん』『ちゃんみお』のケースを手に取り、奥の部屋に移動した。
凛「リーダー、私達こっちで着替えるから」
特に返答を待たずに奥の部屋を閉める。
そこで二人にスーツを手渡すと、二人は怯えた顔で私を見ていた。
凛「どうしたの?」
卯月「あ、あの、やっぱり、怖くて、こんなに急に……」
未央「も、もう呼ばれないんじゃないかなって思ってたのに、呼ばれちゃって……」
確かに忘れていた頃に呼ばれてしまった感がある。
私は二人の不安を消すためにも、二人を抱きしめて耳元で囁く。
凛「大丈夫。私を信じて。二人を絶対に守るし、二人に何かが起きるなんて事は絶対に無いから」
卯月「凛ちゃん……」
未央「しぶりん……」
しばらくそうやっていると二人とも落ち着いてきたみたいだ。
私は二人にスーツを着てもらい、転送をまとうとしたが。
凛「? 私の名前が書かれたケース……あ、前回の100点武器か」
凛「中には……4つの……リング?」
どこかで見たことのあるようなリング、形状に見覚えがあると思ったら、これはバイクに追加された飛行ユニットと形状がそっくりだった。
凛「4つ……手とかに通せそうな……」
未央「し、しぶりん。着替えたよ」
卯月「私も、終わりました」
二人の声に道具の確認を中断して、今回のリングといつものデカ銃をバイクに載せる事にした。
Y字銃を持ってきて二人に渡さなくてはと思いながら、ガンツの部屋に戻り4丁のY字銃を持つ頃には、部屋の大部分の人間が転送されていた。
凛「ちっ」
先に行かれてしまった。
早く行かないと点数が取られてしまう。
凛「未央、卯月、これ持って! それでこっちに来て!」
二人は私から受け取ったY字銃を手に持ち、私たちは3人でバイクに乗り込む。
二人を抱きしめながら転送の時を待つがまだ来ない。
凛「まだなの……」
そして、ようやく私達の転送が始まった。
凛「よしっ!」
まずは私、二人を抱きしめて手を握りながら転送されると、二人も一緒に転送されて夜の町が私の眼前に現れる。
凛(バイクも二人も一緒に転送された! これは好都合!)
すぐにバイザーで飛行ユニットを転送して、飛行バイクを起動させた。
凛「二人とも行くよ!」
卯月「は、はいっ」
未央「う、うん!」
バイクのモニターにレーダーを起動させて、私達は空に舞い上がった。
今日はこの辺で。
レーダーには8の光源。
まず一つ目の上空に移動して、獲物の真上でバイクを停止させた。
真下に見えるのは真っ黒で巨大な馬に乗った、真っ黒な騎士みたいな宇宙人。
4~5メートルはありそうな巨躯。
まずは点数と弱点の確認。
すぐに小さい銃を使って確認を行う。
バイザー内のモニターに表示された数字は。
凛「10点……」
同時に調べた弱点を示す表示も確認。
真っ黒な騎士の頭部と心臓に赤いマークが表示された。
凛「弱点は……頭部、心臓……騎士のほうが本体ってことか」
10点の敵、悪くない、ボスがいると考えても50点近く手に入れれそうだ。
一旦上空を離れ少し距離を置いて空中で停止させてその状態を維持する。
全ての光源から離れている位置。
凛「未央、卯月聞いて」
未央「な、何?」
卯月「どうしたんですか……」
凛「このモニターに映る光が近づいたらこのハンドルを捻ってバイクを動かして逃げて。捻るだけで前に進むし特に難しい操作は無いから」
未央「う、うん」
卯月「は、はい……」
凛「ちょっとだけ行って来るから。1~2分で戻るよ」
卯月・未央「えっ?」
バイクを揺らさないようにすべるようにバイクから降りて空中に身を投げ出す。
数秒の浮遊感、地面に足がついた瞬間にさっき敵を見つけた場所に跳躍する。
同時に剣を両手に持ち、敵の姿が目に入った瞬間。
凛「はぁっ!!」
敵の両腕を切り飛ばして、返す剣で馬と下半身を切り飛ばした。
同時にバイザー内でロックオン。Y字銃のワイヤーを6発発射して雁字搦めにする。
ギリギリの状態で生かすくらいにボロボロにする為に、ワイヤーで縛られて動けなくなったゆびわ星人の全身を殴りつける。
殆ど抵抗という抵抗もなくゆびわ星人を瀕死の状態にすることができた。
次は瀕死のゆびわ星人を未央と卯月が見える位置まで運び、バイクが見えたところで私は叫んだ。
凛「未央!! 卯月!! どっちでもいいからコイツを撃って!!」
バイクから顔を出す未央と卯月。
だけど、撃ってくる気配が無い。
凛「どうしたの!? 早く撃って!!」
早くしないと死んでしまう。
もうピクリとも動かないゆびわ星人を見ながら私は焦る。
するとようやくゆびわ星人の身体に新たなワイヤーが巻きつき頭部が転送され始めた。
どっちかが撃ってくれた。
凛「……ふぅ」
ゆびわ星人が転送されきったのを確認して、私は空中のバイクに飛び乗った。
凛「お疲れ、どっちが撃ってくれたの?」
未央「わ、わ、私」
凛「うん。それじゃあ、次は卯月が……卯月?」
私が卯月を見ると、卯月は青い顔をして震えている。
凛「卯月? どうしたの?」
卯月「り、凛ちゃん……だ、大丈夫なんですか?」
凛「大丈夫だよ。言ったでしょ、私が全部やるって。二人はその銃で送ってもらうだけでいいって」
卯月「わ、私たちの為に、凛ちゃんが、あんな事を……あんなでかい人を……あんな目に……」
凛「……もしかして、見えてた?」
二人は同時に頷いた。
ゆびわ星人の解体場面……二人とも顔が青ざめてるのはこのせいか……。
次は見えないようにしないといけない……。
凛「ごめん、次は二人に見えないようにやるから。また持ってくるから待ってて」
未央「あっ!」
卯月「凛ちゃん!」
もう一度飛び降りてレーダーを確認。
少し離れた位置に二体。一蹴りで獲物の傍まで接近して、さっきと同じ姿形と確認する。
もう一度同じように両手両足を吹き飛ばして瀕死の状態にして持っていく。
今度は卯月が顔を出して撃ってくれたみたいだ。
順調だった。
もう一匹を同じようにしようとレーダーの光源の場所に行くが、そこには先客がいた。
凛「っ!」
私が到着すると同時に、ゆびわ星人の首が飛ぶ。
それをやったのは、長髪長身の男、和泉。
剣と銃を持って私のほうに歩いてくる。
和泉「……俺は玄野にも、お前にも負けない。お前達みたいな甘ちゃんに俺は絶対に負けない」
凛「?」
そのまま和泉は立ち去ってしまった。
何を言ってきたのかよくわからなかったけど、獲物を一匹取られてしまった。
他の獲物をとレーダーを確認すると、残っている光源は2体。
早い、もうこれだけの数をやったの……。
まだ多分10分も経っていないのに……。
残りの2匹は必ず手に入れる為に、私は一度二人の場所に戻る。
凛「お待たせ。後2匹しかいないからちょっと急ぐよ」
未央「し、しぶりん。も、もういいよ……」
卯月「そ、そうです。もう止めましょう……」
凛「……どうしたの?」
未央「あ、危ないよ。あんなでっかいのと戦うなんてもう止めよ……しぶりん死んじゃうよ……」
凛「大丈夫、アイツ等くらいなら私は負けないから」
卯月「そ、そんな事言っても、もしかしたらってことがあるかもしれないじゃないですか」
凛「絶対に無いから大丈夫」
私が断言すると二人は出そうとしていた言葉を飲み込んだ。
だけど、また卯月から私を引き止めるような言葉が発せられる。
卯月「そ、そうです! みんなでここにいましょう! ここならあの怖い巨人も来れないですから、終わるまでこうやっていれば!」
未央「おお! そうだよしまむー! ナイスアイディアだよ! こうやって空を飛んでいれば危ないことなんて無いし、しぶりんがあんなことしなくてもいいじゃん! 今日も、これからもこうやっていれば……」
凛「それだと、ずっとガンツの部屋から出られないよ……それでもいいの?」
卯月「うぅっ」
未央「そ、それは……」
凛「私を心配してくれるのは嬉しいけど、まずは二人が100点を取ることを考えないと。大丈夫、後9回今のを繰り返せば100点だから。そう思うと簡単でしょ?」
卯月「でも、でも、凛ちゃんが……」
未央「やっぱり、私達はしぶりんが……」
凛「……」
さっきまで怖がっていたはずなのに、こうやって実践が始まったら私のことを心配してくれる二人に心が温まる。
やっぱりこの二人はなんとしても、一日でも早く解放しなければならない。
そのためにも、私は…………。
凛「……あれ、何?」
私は空中から見下ろすある光景を見て今まで考えていた思考が途切れた。
空から飛んでいるから見えた。
同じような姿の人たちがこのあたりに集まってきているのを。
全員黒い服を着ている、そして手には……銃?
十人、数十人じゃない、数百人単位で同じような姿の人たちが集まってきている。
凛「…………」
嫌な予感がした。
下を見ると、全員が上を向いて銃を構えている。
このバイクに向かって、構えているっ!
ガガガガガガガガガガガッ!!
次の瞬間にはバイクに何百、何千もの衝撃が襲い掛かった。
卯月「きゃぁっ!?」
未央「な、何!?」
撃ってきている。そしてバイクに無数の弾丸が撃ち込まれている。
数発程度なら何の問題も無いこのバイク。
だけど、もう数え切れないくらいの弾丸が打ち込まれて、あっという間に飛行ユニットが破損し、バイクは墜落し始めた。
卯月「き、きゃああああ!?」
未央「いっ、いやあああ!?」
地面に叩きつけられる寸前、私は未央と卯月を抱きかかえ、バイクから飛び出した。
空中で体勢を立て直して、私達は大きく開けた広間に着地した。
そこには、ゆびわ星人を倒したであろう玄野たちの姿もあった。
坂田「終わッた!!」
桜井「やッたァ!」
レイカ「玄野クンッ!」
レイカさんが玄野に駆け寄っている。
それを手で制して玄野は叫んでいた。
玄野「まだだッ! まだラスボスいるかもしんねーぞ! 油断するなッ!」
私はこの場所を見渡して、まずいと思った。
障害物も何も無い、大きく開けて見通しがいい広場。
360度全部見渡せるし、逆に私たちもどこからも見える場所。
私は叫んでいた。
凛「全員、この場から離れてっ!! 敵が来るっ!!」
「はァ?」
「なんだアイツ?」
桜井「渋谷さん?」
レイカ「どうしたの?」
玄野「ッッッ!!」
足に力を込めてハードスーツの力も全部解放して私は上に跳躍した。
超高速で地面が離れていき、周囲が見える。
私達がいた広場に群がるように集まる黒服たちの姿。
黒服たちの手にはマシンガン。
それが逃げ遅れた玄野たちに一斉に襲い掛かっていた。
凛が飛びあがったと同時、玄野も動いていた。
玄野「逃げろォ!! 何かがくるぞォ!!」
玄野の目に遅れて数人の黒服たちが映った。
黒服たちはマシンガンを向け、玄野たちに撃ちはじめた。
坂田「なッ!? なんッだッ!?」
鈴木「玄野クンッ! あの人たちっ!」
和泉「奴等……あの時の……」
最初は数発、今回転送されてきた男達と女に直撃したがスーツのおかげで全員無事だった。
だが、銃撃は終わらない。
気がつけば黒服たちはすでに百人以上現れて、全員がマシンガンを乱射していた。
玄野「クッ! 俺達も飛ぶぞォ!!」
和泉と風はいち早く飛び上がり、銃撃の雨から逃れていた。
遅れて坂田と桜井も飛び上がる。
続いて鈴木と稲葉が飛びあがろうとする。
だが、鈴木と稲葉は銃弾を受け飛びあがれずに体制を崩してしまった。その鈴木と稲葉に銃撃が襲い掛かる。
先に直撃してその場に倒れてしまった、男5人と女はスーツの耐久の限界が向かえ全身に銃弾を打ち込まれ死んでいた。
玄野「レイカ!! 稲葉を頼むッ!!」
玄野とレイカはそれぞれ鈴木と稲葉の手を掴んで跳躍しようとした。
銃弾を数発喰らったが体勢を崩さずに跳躍した、だが。
髪を短く切った坊主の黒服と、玄野に似た顔の黒服に空中でそれぞれ叩き落された。
玄野は自分を叩き落した黒服の顔を見て目を見開いて驚いていた。
黒服も同じ反応をしている。
玄野「アキ……ラ?」
アキラ「アニキ……?」
玄野は呆然としながら地面に吸い込まれていく、アキラと呼ばれた黒服は玄野に向かって手を伸ばしていたがその手は空を切った。
それを見た黒服たちが沸きあがった。
「うおおおおおおお!! 斉藤さんと玄野がやってくれたぜ!!」
「撃て撃て撃て!! 絶対に近づくんじゃねーぞ!! こいつらはあの4人を殺った連中だ、絶対に油断するな!!」
「奴等の服には耐久があるぞォ!! それを超えるだけ撃ちこめば殺れる!! 撃って撃って撃ちまくれェ!!」
地面に叩きつけられた玄野が次に見た光景。
玄野の視界にはすでに銃弾で埋め尽くされていた。
玄野(やべェ)
衝撃が絶え間なく襲う。
玄野(やべェ、やべェ、やべェ……)
動こうにも銃弾が着弾する衝撃で動くことができない。
玄野(死ぬ、このまま殺される)
銃撃音と共にスーツから異音が聞える。
玄野(嫌だ……タエちゃ……)
玄野のスーツからドロリとスーツから液体が流れ出したと同時に玄野に何かが覆いかぶさった。
玄野「っ!?」
暖かい感触、何か柔らかいものにつつまれていた。
それと共に喧騒がおき始める。
「おいッ! 何だ!? 何が起きてる!?」
「上だ!! 上から……ぐぱッ」
「散れ散れ!! 狙い撃ちにされてんぞォ!! 一旦散……ぎょっ」
ドンッ!! ドンッ!! ドンッ!!
銃撃の音は止んで衝撃もなくなった。
玄野(……何があッたんだ……)
何かを退かしながら起き上がる玄野。
覆いかぶさっていたものを退かした玄野は自分に何が覆いかぶさっていたのかを気付いてしまう。
玄野「あ? あぁ……」
流れるような黒髪から血が滴っている。
玄野「お、おい……な、何でだよ?」
背中には無数の銃撃痕、血が噴き出して止まらない。
玄野「ま、待て、待てッて、オイッ!!」
虚ろな目をしたレイカが玄野の手から零れ落ち、崩れ落ちるように地面に吸い込まれた。
玄野「オイ!! しっかりしろ!! オイッ!!」
玄野がレイカを抱き起こして身体を揺さぶるが反応は無い。ただ虚ろな目が玄野の顔を映しているだけ。
玄野「へ、返事をしろッて!! 逃げるぞ!! なァッ!!」
どんなに叫んでもレイカから反応はなかった。
すでにレイカは事切れていた。
玄野「レイカァッ!!」
玄野はレイカの死体を抱え叫び続けていた、1分後ガンツの部屋に転送されるまで叫び続け、嘆き続けていた。
転送されて戻ってきた玄野は先に戻っていたメンバーに迎えられていた。
桜井「あッ! 玄野さん! 無事でしたか!?」
坂田「アイツ等また来やがった……全員無事か?」
鈴木「玄野クン! 大丈夫だった!?」
稲葉「あつつ……い、痛ぇ……あれ?」
玄野「うぅうぁ……うッああぁぁぁ……」
桜井「玄野さん……? どーしたんですか?」
玄野の様子がおかしい事に気がつき、桜井と坂田、鈴木は玄野に問いただそうとするが、また転送されてきた人間を見て玄野は勢いよく立ち上がった。
頭部だけだったが、黒髪の女性。
玄野「レ、レイカ……」
その転送されてきた女性と共にもう二人の頭部が見えた。
顔が半分まで見えて、玄野は後ずさり座り込む。
凛「……逃がした、か」
未央「うぅ……」
卯月「はぁっ……はぁっ……」
3人が転送されたと同時に部屋に音が鳴り響いた。
『ちーーーーーん』
『それでは ちいてんを はじぬる』
その音を部屋にいた、玄野、和泉、桜井、坂田、鈴木、風、稲葉、凛、卯月、未央が聞き、ガンツを見ると共に、この場に居ない人間に気付いてしまう、
玄野「ッ!!」
桜井「えッ? ま、待って、まだレイカさんが……」
坂田「おい……まさか……」
鈴木「そんな……」
稲葉「ウソだろ……」
風「……」
未央「えっ?」
卯月「……え?」
『りんちゃん 0てん まじめにやってくだちい』
『Total 70てん あと30てんでおわり』
凛「……」
順番に採点が行われていく。
『しまむらさん 10てん ひとりでやりましょう』
『Total 10てん あと90てんでおわり』
そこで玄野は思い出す。
100点メニューの存在を。
『ちゃんみお 10てん ひとりでやりましょう』
『Total 10てん あと90てんでおわり』
玄野(そうだ……俺の点数、後少しで100点だった)
玄野(100点で、レイカを生き返らせれば……)
全員の採点が終わり、残すは玄野のみ。
そして、ガンツの画面は切り替わり。
『くろの 10てん』
『Total 96てん あと4てんでおわり』
点数を見た玄野はキレた。
玄野「ッ!! ああああッッッ!!」
玄野「ふざけんなァ!! レイカを出せ!! レイカを生き返らせろッ!!」
玄野「テメェが戻すのが遅ェからレイカが死んだんだ!! ミッションは終わってただろーが!! ふざけんなァッ!!」
全員が玄野を見て何も言えなくなっている。
玄野がどんなに叫んでもレイカは戻ってくる事はなかった。
玄野「うぅ……くそっ……くそ……」
鈴木「玄野……クン……」
ガンツの前で頭をたれ続ける玄野に鈴木が触れようとしたときにそれはおきた。
『あーたーーらしーいーあーさがきたーきーぼーおのーあーさーがーー』
和泉「何!?」
凛「連続……?」
桜井「えッ?」
玄野「!!」
玄野はガンツを掴み再び叫んだ。
玄野「早く出せ!! どんな奴でも俺が殺して点数を取ってやる!! 早く表示しろガンツ!!」
玄野の言葉に答えるようにガンツの画面が切り替わった。
その画面を見て、玄野は固まった。
『てめえ達は今からこの方をヤッつけに行ってくだちい』
画面に触れたまま動かない玄野。
和泉「玄野……なにをしている? 情報が見えない」
動かない玄野を和泉が無理矢理退かせる。
そしてガンツの画面が全員に見えるようになった。
『玄野アキラ』
『特徴 けっこうつよい けっこうはやい』
『好きなもの 血液』
和泉「玄野……?」
桜井「人間じゃないっスか……っていうか、この人……」
坂田「リーダーに、似てるな……」
鈴木「玄野クン、これって……」
玄野「……ンだよ、何なんだよこれ……」
凛「……コイツ、さっき居た」
卯月「ひ、人、ですか?」
未央「な、なんなの、人をどうするの?」
玄野はガンツの画像をみて震え続けている。
そうしている間にも、転送が始まった。
卯月「あ、あっ。凛、ちゃん」
未央「ま、待って」
凛「……二人とも私に捕まっていて。多分一緒に転送されるから」
玄野「ッ!!」
転送され始める凛を見て、玄野は咄嗟に凛の身体を掴んだ。
凛「アンタ、何を!?」
そのまま、玄野と凛たちは転送されて、再び狩りの舞台へと飛ばされた。
今日はこの辺で。
転送された私達はビルの屋上にいた。
手を繋いだ未央と卯月。
そして、私の肩を掴んだ玄野の4人。
私は先の狩りでの乱入者たちと、今回のターゲットは同じだと考える。
凛(多分、画像のヤツがボス)
凛(さっき、未央と卯月をビルの一室に隠れてもらって、すぐにビルから飛び降りて結構な数をデカ銃で潰した)
凛(その中にあの画像のヤツもいた。他の奴等は前の4匹のような速さはなかったから潰せたけど、あの画像のヤツは結構速くて逃げられてしまった)
凛(でも、気になるのは……情報にでた、名前……玄野アキラ……)
私は玄野を見ると、玄野も私を見ている。
玄野「……今回のターゲットは、俺の……弟だ」
凛「っ!」
未央「えっ?」
卯月「お、弟さん、ですか?」
玄野「ああ……」
複雑な表情をしている玄野。
凛「……間違いないの?」
玄野「わからねぇよ……何で、アイツが……アイツは星人なんかじゃねェのに……」
凛「さっきの奴等の中に今回のターゲットがいたから、あのなのましん星人とか言う奴等の仲間だって思ってたけど……」
玄野の弟だとすると、やっぱり人間なの?
わからない……一体どういう事……。
玄野「くそッ……わかんねェ……一体なんなんだよ……」
玄野も状況を飲み込めていないようだ。
……このまま考えても時間が過ぎるだけ。
まずは、敵の確認をしなくては。
レーダーを確認すると、まだかなりの数が残っている。
100を超える数だ。1匹1点だとしても……。
凛(いける! 今回で二人のうちのどちらかを解放することができる!!)
私はビルの屋上から下を見る。
小さくさっきの黒服連中が見える。
やっぱりアイツ等が今回の獲物。
凛「……今回のターゲットがアンタの弟かどうかっていう事は分からないけど、今回かなりの数がいるみたい」
玄野も私の横に来て下を見る。未央と卯月も恐る恐る見に来た。
凛「まずは、あの黒服連中をやる。ターゲットをどうするかは最後に考える。それでどう?」
玄野「……」
迷っているのか……自分の弟がターゲットにされたのかもしれないんだから、迷ってもおかしくは無い。
玄野「……ターゲットを見つけたら、教えてくれないか? 本当にアキラなのか話をしたい……」
凛「わかった」
そう言って玄野はビルからビルに飛び移り姿を消した。
玄野の頼みに反対することなどない。
玄野が弟じゃないと、宇宙人だと判断して殺せればそれが一番いい。
だけど、もし玄野の弟なんだとしたら……。
アイツ等は……。
思い浮かんだ可能性を否定する。
アイツ等は宇宙人、私の敵で、人間の敵、それだけ。
凛「未央、卯月、またさっきと同じように獲物を持ってくるから、撃つ準備をしておいて」
私が飛び降りようとビルの側面に立とうとすると、二人が私の身体を掴んで来た。
凛「……どうしたの?」
未央「だ、駄目だよ!! あの人たち、人間なんだよ!?」
卯月「そ、そうですよ!! 人を撃つなんて、そんなこと!!」
凛「っ!」
……やっぱり、そうなるか。
凛「……二人とも、よく聞いて。あれは人じゃない。宇宙人、人に見えるけど中身は違う。アイツ等は人間の敵なんだよ」
未央「う、宇宙人……そ、それでも、人だよ、人の姿をしてるんだよ!?」
卯月「や、止めましょう、凛ちゃん、今回はあの人たちと話をしましょう……それで帰ってもらいましょう……」
二人とも割り切れない、か。
……どうする。
これじゃあ、二人の前に獲物を持ってきても撃てるはずが……。
くっ……。
そのときだった。
私達がいるビルの屋上に数人の黒服が飛び移ってきたのは。
「うっ!? さ、斉藤さん! 奴等です! 3人います!」
「うろたえんなッ! 背のでかい長髪の男か?」
「ち、違います……女です。3人とも女です」
「へ、へへ……ビビらせやがって……」
未央「!?」
卯月「ひっ!?」
凛「……」
数は……5匹。
点数・弱点確認。
坊主が20点、ドレットヘアー15点、アフロ12点、長髪と黒人っぽいのが9点。
弱点は……頭、心臓、それと……体のいたるところに現れたり消えたりしている……。
とりあえずは頭と心臓を狙っていけば間違いなさそう。
「油断するな。こいつ等の武器を喰らったら俺達の耐久力でも耐えられねぇぞ」
「だ、大丈夫ッすよ。さっきも女は殺れたじゃないッすか」
「背の高い奴が、あの人たちを殺ったんですよね?」
「コイツ等は食っちまいましょうよ」
ロックオン完了。
死……二人が見ている……。
卯月「り、凛、ちゃん……」
未央「し、しぶりん……」
怯える二人の前で、コイツ等を殺してしまったら……。
私も、二人に怖がられてしまうかもしれない……。
今は……殺せない……。
凛「…………待って。私たちに戦う気は無い。話をさせて」
「ああ? 命乞いかァ?」
「斉藤さん、いけますよ。コイツ等大した事無いですよ、殺って食っちゃいましょう!」
「油断するなって言ってんだろーが! 全員銃を構えろ!」
未央「や、やめて……私達、何もしないから……」
卯月「お、お願いです……話を聞いてください……」
恐る恐ると言った感じで黒服たちに声をかけた二人に返されたのは、マシンガンの銃口。
二人ともそれを見て小さく悲鳴を上げて全身を強張らせた。
私は二人の前に出て、二人を庇いながら最終通告を奴等にする。
凛「……止めて。今なら何もしない、お願いだから私たちを見なかった事にしてどこかに消えて……お願い……」
「ハッ! ハハハ! 何言ってんだオメー!」
「お前らは死んで俺達に食われんだよ!」
「斉藤さん! 殺っちまいましょう!」
凛「…………」
「撃て」
奴等の指が動くか否かの瞬間、私は二人を抱えてビルの屋上を破壊しながら飛び上がった。
「なッ!?」
「ハァッ!? 何が起きた!?」
二人の顔を腕で抱きしめて視界を奪う。
それと同時にハードスーツの掌から閃光を何発も撃ち出す。
連続で撃ち、20発近い閃光は軌道を大きく曲げて奴等に降り注いだ。
閃光はロックオンしてあった奴等の頭と心臓に吸い込まれて、
私が屋上にもう一度降り立ったときには、動く者は誰もいなかった。
凛「……」
私は二人の視界を奪ったままその場を立ち去ろうとしたが、かすかに動いた黒服に視線を注ぐ。
頭が半分砕けた坊主頭の黒服がこちらに銃を向けていた。
「く……ソ……が……」
凛「……」
私は再度ロックオンをしなおして、坊主の黒服の全身に閃光を撃ちこんだ。
その場から跡形もなく消し飛んだ坊主の黒服を確認して、屋上を後にする。
空を飛びながら、私は予定を変更する事にする。
凛(皆殺しだ)
凛(二人を説得しようにも、この様子じゃどれだけ時間がかかるかわからないし、二人が人間の姿の敵を撃てるわけが無い)
凛(さっさと終わらせて、二人を安全な場所に戻す)
凛(そのために、まず……)
私は空中でバイザー内のあるアイコンを操作し、あるものの転送を開始した。
転送されてきたそれは、20メートルを超える大きさの巨大な兵器。
転送されきったことを確認し、私は二人を抱えたまま駆け上がり、転送した巨大ロボットのコクピットを開き二人を中に入れた。
卯月「えっ!? な、なんですかこれ!?」
未央「こ、ここ、どこ?」
凛「二人とも、ここで少し待ってて。この巨大ロボットのコクピットを閉じてしまえば安全だから」
卯月「え? ええっ!?」
未央「し、しぶりん! 今なんて!?」
二人の顔を見ながらコクピットを外から閉じた。
外の様子を悟られないように、コクピット内は何も起動させず、巨大ロボットもただそこに佇むだけ。
これは二人を守るためだけのシェルター。
凛「中から外の様子を見るモニターはオフ、中から操作することも出来ないようにして……」
全ての準備が整った。
凛「敵の数……少し減っているけど、まだまだ沢山いる……」
どこかでスイッチが切り替わる音が聞えた。
凛「久しぶりに、楽しもう」
今回は速度重視。
どれだけ速く全滅させることが出来るか。
装備は……剣2本とハードスーツの武装、それとY字銃のみ。
私はロボットを見上げる敵をの中心に剣を伸ばし全力で飛びかかった。
今日はこの辺で。
夜のビル棟の下に桜井と坂田はそれぞれ転送されてきていた。
二人がまず目にしたのは、数十人の黒服たちの姿。
桜井「なっ!? こ、こいつ等はっ!!」
坂田「!? クソッ! 敵のド真ん中かよッ!!」
転送されてきた二人に黒服たちも気付く。
「お、おいッ!! 奴等だ!! 二人現れたぞォッ!!」
「き、距離を取れ!! 距離を取って撃て!!」
坂田「桜井! 奴等また撃ってくるつもりだ! 障害物に身を隠すぞッ!」
桜井「は、はいッ」
黒服たちが坂田たちから距離を取りマシンガンを撃ち始めるが、坂田たちは相手の攻撃を察し、近くの階段に面する壁に身体を隠し銃撃をやり過ごす。
だが、その階段の上には別の黒服たちがいて、その黒服たちは坂田たちに気付き銃を構える。
「奴等がいるぞォ!! 撃て撃てェ!!」
坂田「こっちもかよッ!!」
桜井「し、師匠! どーするんスか!?」
坂田「どーするもこーするもやるしかねーだろ!!」
坂田は黒服に向けて銃を構え撃つが、坂田も黒服たちの銃撃を喰らってしまう。
桜井「し、師匠!!」
坂田「桜井ッ!! 目を離すな!!」
坂田は銃撃を喰らいながらも、階段上にいた桜井を狙っていた黒服を撃ち吹き飛ばした。
桜井もそれを見て、残っている黒服に銃を撃ち、階段上の黒服は全て銃撃によって吹き飛び爆散した。
桜井「うッ……」
黒服たちが弾け飛んだ光景を見て、桜井が口を押さえるが、階段の上にまた黒服たちが現れて銃撃を始める。
坂田「クソッ! キリがねえぞ!!」
銃弾を止めながら銃を撃ち黒服を吹き飛ばしていくが、湧いて出るように集まってくる黒服たち。
ついには階段の逆側にも現れて銃を構えてきた。
桜井「か、囲まれ……」
坂田「クッ! 俺が銃弾を抑えるから、お前は…………な、なんだ、あれは……」
坂田が銃を片手に、黒服たちから撃ちこまれる銃弾を止めようとしたときに周囲の空間に放電が走り何かが現れ始めた。
徐々に見え始めるそれは、無数の機材が取り付けられた何か。
階段の逆側の黒服たちを遮るようにその全容が瞬く間に現れて、階段上にいた黒服たちも呆然と上を見上げる。
「な、んだ、こりゃ……」
「黒い……巨人……いや、ロボット?」
桜井「ハ、ハハ……し、師匠、なんスか、これ?」
坂田「……知るか。だけどチャンスだぞ」
坂田は上を見上げる黒服たちの隙を見逃さず、銃を撃ち込み黒服たちを吹き飛ばす。
坂田「桜井! このデカイ何かを盾に奴等の銃撃をやり過ごすぞ!」
桜井「あッ! はいッ!!」
二人は現れた何かの影に隠れながら、最初に銃撃を加えて来た黒服たちの姿を確認する。
二人の視界に数十人の黒服たちが上を見上げている姿が映る。
坂田がその黒服たちに銃を構えようとした、その時。
黒い何かが空から降って来た。
坂田「!?」
一瞬だった。
黒い何かは空から回転しながら降ってきて、黒服たちの中心に着地した。
着地した衝撃で小さなクレーターができたが、次の瞬間には黒い何かは飛び上がり少し離れた位置に居る数人の黒服たちに向かって空中を回転しながら飛びかかっていった。
黒い何かが飛び去った後、その場に居た数十人の黒服たちに変化が生じた。
全ての黒服たちの身体に細い線が入る。
その線が徐々に大きくなり、やがてその線から血が溢れ、黒服たちの身体はバラバラになり地面に落ちた。
桜井「なッ!?」
坂田「マジかよ……」
桜井「し、師匠、何があったんスか、これ……」
桜井の位置からは見えていなかったが、坂田は何が落ちてきたのか、落ちてきた何かが何をしていたのか見ていた。
坂田「渋谷って女だ……空から落ちてきて両手に持った刀で奴等を斬って行きやがった……」
桜井「し、渋谷さんスか?」
坂田「ああ……」
離れた位置に居る黒服たちもすでにバラバラになっており、坂田たちは凛の姿を見失っていた。
坂田「桜井、アイツを追うぞ」
桜井「えッ? あ、は、はいッ」
凜がどこに消えたのかは分からなかったが、目印はあった。
坂田たちは、バラバラになった黒服たちの死体の先に向かって走り始める。
別の場所。
鈴木と稲葉が黒服たちから逃げていた。
鈴木「稲葉君! 走って!」
稲葉「うっ、わあぁぁぁぁ!!」
黒服たちは逃げる二人を背後から銃撃し続けている。
すでにかなりの弾丸が直撃し、スーツに異音がおき始めていた。
稲葉(やばい! ま、またスーツが壊れる!)
先の狩りの最後に、黒服たちの襲撃を受け稲葉はスーツを銃撃によって破壊されていた。
破壊されて数発弾丸を喰らったが、運よく転送され生き延びることができた。
だが、今回は狩りが始まったばかり。
敵地のど真ん中に転送され、あっという間にスーツは半壊状態になり、稲葉は恐慌状態に陥っていた。
稲葉「い、嫌だ、死にたくねェ! 死にたくねェ!!」
走り続ける稲葉の足に痛みが襲った。
稲葉「痛ッ!?」
いつの間にかスーツは限界を向かえ、防御力の皆無となった足に銃弾が打ち込まれ稲葉はその場に転倒する。
稲葉「あッ! ああァッ!? うわぁアアァ!!」
稲葉に訪れるのは死のイメージ。
背後から銃撃を撃ちこまれ蜂の巣になる自分。
頭を抱えながらその場に蹲った稲葉だったが、銃撃は何時までたっても来なかった。
鈴木「稲葉クン!! 立って!! 逃げるよ!! 最後まで諦めちゃ駄目だ!!」
その声に恐る恐る顔を上げると、自分を庇うように黒服たちを銃で牽制する鈴木の姿。
稲葉「ハァッハァッ、ハッ! ハァッ、だ、ダメだッ、死ぬッ」
鈴木「稲葉クンッ!!」
恐怖により動くこともできない稲葉は鈴木のスーツからドロリと液体が溢れ出す瞬間を見た。
そして、鈴木の身体に無数の銃弾が撃ちこまれてしまった。
鈴木「うっ、ぐっ!」
稲葉「あッ!? あああッ!!」
稲葉の横に倒れこむ鈴木。
稲葉はそのまま顔を伏せてしまった。
稲葉(嫌だッ! 神様ッ! 死にたくないッ! 誰か……誰か……)
稲葉「誰かァッ!! 助けてくれェッ!!」
稲葉の叫びと共に、一陣の風が稲葉の横を通り過ぎていった。
風が通り過ぎ、稲葉は通り過ぎた風の先に顔を向けた。
その先にあった、稲葉の視界に入っていた黒服たちの頭が全て吹き飛んだ。
稲葉「は? え、なッ?」
頭のなくなった黒服たちはそのままゆらゆらとたち続けている。
だが、その身体も稲葉の後ろから飛んできた無数の光が消し飛ばし、黒服たちの姿は跡形もなく消え去った。
稲葉は首だけを動かし背後を見る。
そこで目にしたものは、黒いバイザーをつけた凛が一匹の黒服を上空から殴りつけ、黒服の身体は押しつぶされて、地面に赤い花と大きなクレーターができた場面だった。
稲葉「え? あ?」
そのまま、凛はクラウチングスタートの体勢を取り、地面を爆発させて横に飛んでいった。
鈴木に銃撃が撃ちこまれて、僅か十秒にも満たない時間でおきた出来事に、稲葉の理解は追いつかずその場にへたり込むだけだった。
しばらくすると、その場に坂田と桜井がやってきた。
桜井「稲葉さん! 大丈夫っスか? って、鈴木さんが!!」
桜井が倒れて血を流す鈴木に駆け寄る、坂田はすぐさま鈴木の身体を透視し、傷の度合いを調べ始めた。
坂田「……内臓は傷ついてない、止血すればかなりの時間持つはずだ」
桜井「!! 稲葉さん! 傷口を押さえるのを手伝ってください!」
稲葉「あ?……あ、ああ」
3人は鈴木の手当てをする為にその場に留まることとなった。
ビルの入り口のエントランス。
その場所に100人以上の黒服たちが和泉と風を追い込む為に銃撃を行っていた。
和泉と風はそれぞれ柱の影に隠れ、銃撃が止むのを待っていたが、銃撃が途切れる気配は一向になかった。
「全員10メートル以上距離を取れ!! あの長髪は刀を使うぞ!!」
「回り込んで全方位から撃ちまくれ!! 絶対に近寄らせるな!! 撃ち殺すんだ!!」
和泉「チッ」
和泉と風の位置は柱を背に目の前は壁、少し離れた位置にビルの入り口が見えているが、ビルに入るためには銃撃の雨霰の中を抜けなければならない。
和泉(銃弾を撃ちこまれてバランスを崩したらいい的になっちまう。銃撃が止むのを待つにしても止む気配は一向に無しか……)
背にした柱の横はスコールのように銃弾が降り注いでいる。
この中を動く事は無理だと判断した和泉は、手にした刀を伸ばし始めた。
風「……」
それを見ていた隣の柱の影に身を隠していた風は身を屈める。
和泉は両手に持った刀を黒服たちに向かって、柱ごと斬り抜いた。
「うがッ!?」
「くッそォ! ここでも届くのかよォ!!」
「うげェッ!」
それと共に銃弾が一瞬途切れる。
二人はその一瞬を見逃さずにビルに入り込み、ホールを駆け抜ける。
少し遅れて黒服たちもビルに入り込んできたが、すでに和泉と風の姿を見失っていた。
「ちぃっ! 姿を隠したぞ! コンタクトつけてない奴は急いで付けろ!」
「位置を確認しろ! どこにいる!?」
「位置……上です! 上……ぐはッ!?」
吹き抜けとなっているエントランスホールの2階部分で和泉は黒服たちを狙い撃ちし始めた。
透明化を行い、寝そべってショットガンを構えて撃ち続ける。
10人ほど仕留めたところで、黒服たちも物陰に隠れながら和泉が居る位置を狙い銃撃を始めた。
和泉(思ったよりも統率が取れている……もう少し片付けたかったが……)
黒服たちは和泉の攻撃を受けながらも冷静に行動していた。
刀ではなく銃撃によって倒された仲間を見て、物陰に隠れながら銃撃を行う部隊と和泉の居る2階部分まで追ってくる部隊に分かれて行動が始まっていた。
和泉はすでに死角となってしまった自分を追ってくるであろう黒服たちを迎え撃つ為、匍匐状態で移動をする。
そして、階段の手前に来た時、
風の拳によって廊下を吹き飛ばされていく黒服の姿を見た。
風「ふゥッ……」
和泉「……」
それを一瞥した後、和泉は上ってくる黒服を風に任せたのか元の狙撃していた位置に戻った。
その時、外から100人近い黒服がビルの中に入ってきた。
和泉「何ッ!?」
すぐに銃を構え撃ち始める和泉。
何人か仕留めるが、黒服の様子がおかしい事に気が付く。
「に、逃げろ! び、ビルの中ならあんな動きはできねぇはずだ!」
「な、なんなんだよアレはァ!?」
「クッソ! ぶっ殺してやるよおおおおおおおおうげぁ!?」
ビルに入ってきた最後の黒服が、何かを迎え撃つように振り向いた時、その黒服に向かって何かが高速で回転しながら飛んできた。
空中でくるくると何度も高速で宙返りを行って、黒服の頭に踵落しを喰らわせて黒服の頭を吹き飛ばした何か。
和泉「……何だ?」
その何かは床を蹴ったかと思うと、壁に張り付きその壁を蹴って、天井を蹴って、縦横無尽に移動しながら剣を伸縮させ黒服の頭を突き、飛びかかった黒服の胴体を貫き、首を引きちぎって黒服を殲滅している。
100人以上いた黒服の姿がどんどん減っていく。
ある黒服は刀を構えているが、その刀ごと真っ二つに切り裂かれた。
急接近された黒服は成すすべなく頭を引きちぎられて、その頭を投げつけられた他の黒服は頭と頭の衝突に耐え切れず顔面が爆発した。
飛びかかると同時に、数発放たれた閃光は寸分の狂いもなく数体の黒服の心臓と頭を打ち抜き絶命させる。
複数体集まっている場所に、壁を引きちぎって投げた石飛礫が黒服たちの全身を貫く。
黒服が少なくなるにつれて、何かの声が大きくなっていく。
凛「ふっ……ははは……」
両手の剣で数体の黒服を輪切りにして、身体を回転させて剣を横に立て剣の腹で黒服の切った身体を別の黒服たちに向け打ち込む。
凛「はははははは! あははははははははは!!」
黒服たちの身体は血を巻き散らしながら、生きている黒服に向かって高速で飛んでいく。
それを防いだ黒服は、いつの間にか天井に足を差し込んで張り付いていた凛にロックオンされて全身を閃光で焼かれて死んだ。
凛「もっと!! もっとぉ!!」
その場に生き残っている黒服はすでに10人となっていた。
「な、なんだ、これ……」
「……お、おい、上だ」
「何だアレ……天井を……壁を歩いてくるぞ……」
天井から歩いてくる凛。
右足を差し込んだ天井から抜いて左足を差し込み、それを繰り返し重力を無視して壁を歩き出す。
両手の剣の血を飛ばしながら徐々にスピードを上げて壁を走りだす。
ズン、ズン、ズンという鈍い足音が、激しい音に変化し壁を破壊しながら黒服たちに襲い掛かり、全員を無造作に引きちぎり、両手に掴んだ最後の黒服を地面に叩きつけ押しつぶし破裂させた。
凛「あッ……はァッ……ンッ……」
その場で少しだけ、震える凛。
それもつかの間、凛は再び壁を走り、天窓をぶち破り外に飛び出していった。
その場に残ったのは黒服の無残な死体と一部始終を見た和泉と風。
風「なん……やね……アレは……」
和泉「…………」
和泉はいつの間にか手に持った銃を落としていた自分に気付き、荒々しげに壁を殴りその場を去った。
この付近で一番高いビルの屋上。
雲の切れ間から月明かりが覗き、屋上のへりに腰をかけ空を見上げる黒服が居た。
その黒服に背後から声がかかる。
玄野「……アキラ……か?」
その声に黒服は振り返り、声の主を見て眉を動かす。
アキラ「……アニキ……生きてたのか」
二人とも似た顔立ち。
それもそのはず、二人は兄弟であるが、今は敵同士。
玄野「やッぱり……お前、アキラなのか……」
アキラ「……」
玄野は片手に持った銃を下ろして黒服に近づく。
黒服は玄野から視線を外し、再び夜空を見上げて天を仰いでいた。
玄野「……」
アキラ「……」
しばし無言の時間が訪れる。
その沈黙を破ったのはアキラのほうだった。
アキラ「……アンタ、何であの黒い奴等の仲間になっちまッてんだよ……」
玄野「そりゃ俺のセリフだ……お前、何であの黒服たちと……」
アキラ「……俺の話を聞いたら、アニキの話も聞かせてくれるか?」
玄野「……ああ」
顔だけを動かして玄野を見てアキラは語り始めた。
今日はこの辺で。
アキラ「そうだな……どう説明するか……」
玄野「……」
アキラ「結論を話すのが手っ取り早いか……」
玄野「……ンだよ」
どう切り出すか決めかねていたアキラが玄野を見て一言告げた。
アキラ「俺は吸血鬼ってヤツになッちまッた」
玄野「……はァ?」
アキラの言葉に首を傾げる玄野。
アキラ「あの黒服の連中もそうだ、全員吸血鬼。人間の敵ってヤツだな」
玄野「……意味ワカんねーよ」
アキラ「俺もなんでこーなっちまったのかはワカらねぇ。いつの間にか身体の中にナノマシーンってのが入って気がつかないうちに吸血鬼になッちまッてたんだよ」
玄野「ナノマシーン? ますますワカらねぇぞ……お前俺をおちょくってんのか?」
アキラ「全部事実だ。ナノマシーンが何かってのは俺も聞いてねぇけど、この地球には無かったものらしい、どこかからやってきたものだって聞いたけど、真実を知る奴等はもう殺されちまって何もわからねぇ」
玄野「……」
アキラ「そのナノマシーンが人間の体内に入ると、数週間で人間の細胞を作り変えて吸血鬼に変えてしまう。皮膚は強くなって身体能力も上がる、人間とは思えないくらいの速さで動けるし、怪力で鉄骨だろうが壊すこともできる。細胞を変質させて武器を作り出すなんてことも可能だ」
玄野「……あいつ等も、確か手から武器を」
アキラ「だがいいことばかりじゃない。吸血鬼にも欠点があって、人間の血液を主食にしないと慢性的な頭痛が起きてやがて死ぬ。だから人間を捕食して日々の糧としている……」
玄野「!! お、お前、まさか……」
アキラ「ああ、俺も人を食っちまった」
玄野「う、ウソだろ……」
アキラ「本当さ」
玄野「……信じられねェよ」
アキラ「……吸血鬼になると感情が希薄になるんだ。人間の倫理観とかそういったものがどうでもよくなって人間を傷つけたり殺したり食うことにも躊躇しなくなるんだ。身も心も化け物になッちまうッてことさ」
玄野「ンだ、それ……」
アキラ「まあ、そんな化け物にも天敵はいて、それが……アンタ等、黒い機械の服を着た連中だ」
玄野「……」
アキラ「今日はアンタ等を全滅させる為に総力戦を仕掛けたんだが……」
アキラ「……なんでか知らねェけど、久しぶりに会うアニキが奴等の仲間になってて俺は混乱しているッてことだ」
玄野「……」
アキラ「俺の話はこんなところだ。……アンタの話、聞かせてくれよ」
玄野の目を見てアキラは問いかける。
玄野はアキラの話を最初は信じられなかったが、アキラが出す雰囲気、アキラの表情や視線が自分を騙しているようなものではないと感じ、アキラの言葉を真実だと理解してしまった。
そして、玄野もアキラに話し始める。
真実を話したアキラに嘘はつかず真実を話し始める玄野。
玄野「……俺の話か、このスーツを着て狩りをしている理由ってことでいいんだよな?」
アキラ「ああ」
玄野「……信じるかどうかはワカんねェけど、俺は数ヶ月前に、一度……死んでるんだ……」
アキラ「あァ? 死んでるって……アンタ……」
玄野「知らねェか? 地下鉄でホームレスを助けて消えた高校生」
アキラ「……聞いたことがある」
玄野「その時に俺は電車に轢かれて一度死んだ。だけど、死んだはずの俺は気がついたら変な部屋に何人もの人間と一緒にいたんだ」
アキラ「……」
玄野「それから、その部屋にあるガンツって呼ばれている黒い玉が出す指令に従って星人とか言われている奴等を強制的に狩らされている。その部屋で星人を狩ることで得られる点数を100点集めないとやめることもできない狩りをやらされてるんだ」
アキラ「……狩り、星人?」
玄野「ああ、前に部屋のことを知っていた奴が言うには宇宙人とか言ってたけどさ」
アキラ「……星人、宇宙人か……」
玄野「とにかく、そうやって死んだはずの人間を使って星人を狩らせている黒い玉に俺達は動かされ続けている……俺達も死にたくないし、やらないと解放されないから嫌々狩りを続けている……」
アキラ「死んだはずの人間を連れてくる……あの突然消える現象もそれか……信じられねェな……」
玄野「信じられないのはお互い様だろーが……俺の話はこんなもんだ、はっきり言って自分でも何でこうなってるのかってのがよくわかって無いんだ。説明できるのはこれくらいしかねェ」
話を終わらせた玄野にアキラから質問が来る。
アキラ「……その黒い玉ってのがアンタ等の黒幕ってやつか?」
玄野「それもワカらねぇ」
アキラ「……死んだ人間が連れてこられるって事なら、アンタ等を全員殺しても死ぬ寸前で助けられるってことか?」
玄野「いや、俺達は星人に殺されたら今度こそ本当に死んでしまうみたいだ……だけど、俺達が全員死んでもまたガンツが新しい奴等を集めるだろうな……たぶん……」
アキラ「……そういうことか」
再び空を見上げ考え込むアキラ。
しばらく考え、纏まったのかまた口を開く。
アキラ「完全に詰んでる……な」
玄野「?」
アキラ「……俺達は今日吸血鬼全員でアンタ等を殺すために襲撃を仕掛けたんだが、アニキの話だとその黒い玉をどうにかしない限りアンタ等を殺しても無駄だってことだろ?」
玄野「……たぶんな」
アキラ「それでもって、こうやってアニキが俺の前に来ているって事は、今回俺らがその黒い玉のターゲットにされたって事だろ?」
玄野「……ああ」
アキラ「アンタ等の中に、さっきとんでもねーのがいた。空から降ってきて、何かしたと思ったら吸血鬼達を数十人一瞬で潰された。何をされたのかも理解できなかった、正直あんなのをどうにかできると思えない」
玄野「……」
アキラ「他の吸血鬼はまだ何とかなるって考えてる。だけどもう無理だ、吸血鬼の指導者的立場の連中もアンタ等に殺されたし、あの人たちが殺された事によって吸血鬼は組織として崩壊し始めてる」
アキラ「今日アンタ等を全滅させることができたらもう少しは持ったかも知れないけど、それもできないんじゃどーしようもない。もう終わったってことだ」
疲れた表情をしながらアキラは玄野に切り出す。
アキラ「もう色々と疲れた、殺せよ」
玄野「なッ!? 何を言ッてんだよ!?」
アキラ「……俺はさ、昔から自分は神に愛されている人間なんだって思ってた。勉強もスポーツも何でもできたし、今までの人生何一つ失敗することなんてなく今までやってきていた」
アキラ「神に愛された、善の側の人間だって思っていたけど……俺は化け物になっちまった。人を食って生きていかないといけない化け物に」
アキラ「それを受け入れてしまった自分も、これから人を殺して生きて行かなくならない運命も全部嫌なんだ。だからさ、頼むよ、アンタが俺を殺してくれよ……」
玄野「……できるワケねーだろ」
アキラの言葉を拒否する玄野。
玄野「お前は俺の弟なんだぞ……殺せるワケねーだろ……」
アキラ「……アンタ、何か変わったな」
少し以前の玄野なら少しは迷ったがそのまま撃ってアキラを殺したのかもしれない。
だが、今の玄野は大事な存在を見つけ、以前のような自分が一番大切で他人のことなどどうでもいいという思考はしなくなっていた。
それと共に、ガンツの部屋から生き残る為に、玄野はある男を手本に行動するようになっていた。
その男ならどうするか、どう行動するかを考え行動しているうちに、玄野の思考も変わっていった。
手本の男、加藤のような思考に変わっていっていた。
玄野「殺せとか、死ぬとかいうな! 生きろよ! 何とかなる方法があるはずだ! お前が元の人間に戻る方法もあるはずだ!」
アキラ「……ねーよ、そんなもの」
玄野「絶対にある! 諦めるな! 俺も一緒に探す、だから諦めるなッて!」
アキラ「……」
玄野「俺達の狩りのターゲットになってもターゲットに逃げられたときがあるんだ! だからお前は一旦逃げてどッかに身を隠せ! 後で連絡を取り合ッて、一緒に探すぞ! お前が元に戻る方法ッてやつを!」
玄野は必死に説得した。
自分を殺せと言うアキラに対して、今まで無いくらいに必死に説得をした。
だが、アキラから帰ってきた返答は。
アキラ「……無理だ。もうどうしようもないんだよ」
玄野「そんな事やッてみねーと……」
アキラ「やってみないとワカらない……だけどその間に俺は多分人を食い続けるぞ?」
玄野「ッ!?」
アキラ「今はアンタを殺したと思ったショックで一時的に人間的な感情が戻って来てるけど、またすぐに人間が食料だとしか思えなくなるハズだ……そーなっちまったらどーする? アンタは人間を食う俺を見ても今と同じ事を言えるか?」
玄野「……そんな事」
アキラの言葉に複雑な表情で俯く玄野。
アキラ「……もういいだろ? 俺は今、人間の感情が戻っている今死にたいんだ」
玄野「……」
アキラ「化け物として誰かもワカらねぇヤツに殺されるより、せめて俺のことを知ってる、俺が人間だったことを知ってるアンタに殺されたい」
玄野「……」
アキラ「俺は人として、死にたい。頼む」
玄野「……でき、ねェよ」
アキラ「…………そッか」
玄野の言葉にアキラは立ち上がり玄野を見据え手から刀を生み出して構えた。
玄野「なッ!?」
アキラ「それならアンタを殺して、アンタの仲間も殺して、その黒い玉ってのもぶっ壊してやるよ! そうすりゃ俺を脅かすものは何も無くなる!」
アキラは玄野に刀を振りかぶり切りかかった。
玄野はスーツの肩口を斬られるがアキラの刃がスーツを壊すことはなかった。
アキラ「やッぱその服を壊さねーとダメか」
玄野「おいッ! 止めろッ! 俺はお前を……」
アキラは玄野に掴みかかり羽交い絞めをかけ、首と顎の下の部分にあるレンズ部分を指で押し込む。
するとレンズ部から液体が流れ出すと共に、玄野のスーツは異音を出しながらその機能を停止した。
アキラ「さぁ、どーする? これでその服は壊れた」
玄野「う、ウソだろ……どうやッて……」
アキラは新たに銃を生み出して玄野に構える。
アキラ「これでもまだ甘っちょろいこと言えるのか?」
玄野「……俺は」
アキラ「俺はアンタを殺すぞ、今なら殺せる」
玄野「……俺は死ぬワケにはいかねェ」
アキラ「……」
玄野が銃を握り締めながら呟いた言葉にアキラは少しだけ笑った。
アキラは玄野に銃弾を撃ちこむ為、引き金を引いた。
玄野「ッ、グァ!?」
その弾丸は玄野の銃を持っていないほうの肩を貫き、玄野は大きくよろめいて蹈鞴を踏む。
玄野は銃弾を撃ちこまれて目の色が変わる。
その目には死ぬわけにはいかないと、俺は戻るんだという意思が込められていた。
玄野「う、アアアアア!!」
玄野はよろめきながらもアキラに銃を向け、
その引き金を引いた。
それを見たアキラは数歩下がって屋上のへりに立つ。
玄野「あ……」
アキラはすぐに訪れるであろう自分の死を受け入れながら笑って玄野に言った。
アキラ「ありがとな、アニキ」
そのままアキラは身を宙に投げ、屋上から、玄野の視界から消えた。
その少し遅れて聞えた破裂音。
玄野は屋上から身を乗り出し下を見るが、そこには何も無かった。
夜の闇に阻まれ、玄野の視界には何も写す事はなかった。
玄野「アキ……ラ……」
玄野「うァアアアアアァァァァァアッッ!!」
玄野は目から涙を零しながらその場で叫び続けた。
転送されるまでの間ずっと。
鈴木「玄野クン! 大丈夫!?」
玄野が聞こえてきた声に反応して顔を上げると、そこはガンツの部屋。
玄野「おっちゃん……俺は、戻ってきたのか……」
鈴木「生きていたんだね。よかった。ホントによかった」
鈴木の言葉に複雑な表情を見せる玄野。
玄野(……俺はアイツを殺して生き残った、ってことか……くそっ……)
徐々に人が転送されてくる。
稲葉、坂田、桜井と転送されてきて鈴木は3人にも声をかけた。
鈴木「稲葉クン! よかった! あの後気を失ってしまったみたいでどうなったのか分からなかったけど、お互い生き残れてよかったよ」
稲葉「うッ……鈴木さん……」
鈴木「坂田さんも桜井クンも無事でよかった、よかったよ」
稲葉は目に涙を溜めながらその場に座り込んだ。
坂田と桜井は何かを気にしながらもその様子をみてほっと一息をついている。
その後に、風と和泉が転送されてきた。
風は転送されきってからは無言で部屋を見渡す。
和泉はどことなく不機嫌な感じを出しながらも壁に背を預け目を閉じた。
その後に卯月と未央が転送されてきた。
卯月「あ……」
未央「戻って、来た?」
二人は部屋を見渡して戻ってきていない凛に気がついた。
卯月「あ、あれ? り、凛ちゃんは?」
未央「う、嘘、違うよね……そんなわけないよね……?」
二人が顔を青くし始めたときに最後の転送者が戻ってきた。
荒い息をつきながら、肌を紅潮させ、全身から甘い匂いを漂わせる凛が戻ってきた。
卯月「り、凛ちゃん!!」
未央「しぶりん!!」
その凛に二人は飛びついて抱きしめる。
凛「ンッ……」
二人を受け止めながら、バイザーを外して蕩けた眼で二人を見る凛。
卯月「ど、どうしたんですか?」
未央「う、うぅ……」
凛「なんでもない。なんでもないよ、ふぅぅぅ……」
そして、部屋に音が鳴り響き採点が始まった。
『ちーーーーーん』
『それでは ちいてんを はじぬる』
まずは鈴木だった。
『ハゲ 0てん よわすぎ』
『Total 5てん あと95てんでおわり』
鈴木「だよねぇ……」
続いて稲葉。
『イナバ 0てん ビビりすぎ 泣きすぎ』
『Total 0てん あと100てんでおわり』
稲葉「……0だよな、やっぱり」
次に坂田と桜井。
『アホの、、、 13てん』
『Total 34てん あと66てんでおわり』
桜井「13点ですか……」
坂田「……みてーだな」
『チェリー 4てん』
『Total 23てん あと77てんでおわり』
桜井「俺は4点スね……」
坂田「ああ……」
二人とも自分の点数を気にするより明らかに自分より大量の敵を殺した凛を見ていた。
次に風。
『いなかっぺ大将 15てん』
『Total 30てん あと70てんでおわり』
風「……」
そして、和泉。
『和泉くん 24てん』
『Total 50てん あと50てんでおわり』
和泉「……」
自分の点数を見ようともしない和泉。
腕を組んでいるが、拳は握りこんだまま何かを考えている。
次の採点が始まる。
『くろの 25てん』
玄野「あ……」
桜井「25点ってことは……」
『Total 121てん 100点めにゅーから選んでください』
鈴木「玄野クン! 100点だよ!」
卯月「すごいです……」
未央「おぉ……」
自分の点数を見て固まっている玄野。
色々な思いが頭を駆け巡る。
玄野(やッと……やッとこの部屋から解放されることができるのか……)
玄野(……アキラの命を奪って俺はこの部屋から)
玄野(解放されれば記憶を消されて、今まであったことも忘れて……アキラを殺したことも忘れて……)
玄野(それだけじゃない……加藤や岸本のことも……そして、俺を助けて死んでしまったレイカのことも……)
玄野(このまま解放されれば、俺はタエちゃんと一緒に生きていける……けど……)
玄野(……俺は)
玄野は100点メニューを前に悩んだ。
悩んで悩みぬいて選んだ選択は。
玄野「……3番」
鈴木「えッ?」
桜井「く、玄野さん? 自由になれるんスよ? それなのに……」
坂田「……」
風「……」
玄野「レイカ……を生き返らせてくれ……」
悩んで出した結論、自分の盾となって死んだレイカを生き返らせるというものだった。
玄野(アキラ……お前を殺したことを忘れちまうなんてできない……)
玄野(お前を殺した分、俺は人の命を救うことにするよ……)
玄野(沢山救って、いつかお前のことにけじめをつけることができたら俺はこの部屋を出る……)
玄野(それまでは……ごめん、タエちゃん……)
ガンツに手をつきながら玄野は俯き続けていた。
自分が殺してしまったアキラのことを考えながら。
その玄野の背後で何かが現れる。
桜井「あ……」
鈴木「こんな事が……」
卯月「レ、レイカちゃん……」
未央「や、やっぱり、レイちん、死んでしまってたんだ……」
玄野は首を動かして背後に視線を向けた。
そこにいたのは。
レイカ「……え? あれ?」
再生されたレイカの姿だった。
その姿を見て玄野は立ち上がりレイカに歩み寄った。
レイカ「あ、玄野クン? あたし……あれ?」
玄野「……」
レイカの前で涙を流す玄野。
レイカ「あッ! く、玄野クン!? どうしたの!?」
玄野「ゴメン……俺のせいで……」
レイカ「えッ!? ええッ!?」
玄野が泣いている姿を見て慌てるレイカだったが、坂田から何が起きたのかを聞いて呆然としてしまう。
坂田「リーダーは100点を取ったんだよ。それであんたを再生したんだ。自分の自由と引き換えにな」
レイカ「!?」
信じられないといった顔をしてレイカは玄野を見つめる。
レイカ「な、なんであたしを……? 自由になれたのに……」
玄野「なんでって……そーするに決まッてンだろ……俺のせいできみは死んだンだ……」
玄野は涙を拭って続ける。
玄野「もうきみを死なせない」
玄野のその言葉を聞いてレイカは頬を赤らめ、思考を完全に停止させた。
玄野「この部屋にいる全員を死なせない! みんなで生きてこの部屋を出よう!」
後に続けた玄野の言葉をレイカは聞いていなかった。
レイカ(玄野クン……玄野クン……やっぱり、玄野クンが……好き……)
レイカ(彼女が居るって聞いても、もう諦められない……)
レイカ(玄野クンが大好き……玄野クン……)
レイカは玄野を潤んだ視線で見続けていた。
玄野はその視線に気付かず、亡き弟の事を思い決意を新たに和泉を除いた全員を見ていた。
今日はこの辺で。
その間も採点は続いていた。
『りんさんのおにもつ1号 0てん りんさんのしんぱいしすぎ かまわれすぎ』
『Total 10てん あと90てんでおわり』
卯月「この絵って、私ですか?」
未央「みたいだね……」
『りんさんのおにもつ2号 0てん りんさんのしんぱいしすぎ かまわれすぎ』
『Total 10てん あと90てんでおわり』
未央「私、2号だって……」
卯月「りんさんって……凛ちゃんのことですかね?」
二人は凛を見るが、凛はまだ息を落ち着かせながら遠くを見ていた。
卯月(うぅ……凛ちゃん……)
未央(さ、さっきも思ったけど、なんか……)
肌を紅潮させて妖しい色気を振りまく凛に二人は戸惑っていた。
そして、最後の採点。
『りんさん 249てん』
桜井「うォッ!? な、なんスか、この点数!?」
坂田「……おいおい、マジかよ」
鈴木「す、すごいね」
稲葉「な、んだ、こりゃ……」
卯月「ひ、100点以上採ったんですか?」
未央「し、しぶりんが? え? それじゃあ……」
『Total 319てん 100点めにゅーから選んでください』
凛「……」
凛はガンツに近づき、玉の表面に指を這わせるようにして触れた。
ようやく落ち着いてきた息を吐きながら、凛はガンツに問いかける。
凛「はぁぁ……ガンツ……今回の点数全部使って……未央と卯月……解放できないかな?」
卯月「り、凛ちゃん!?」
未央「な、なんで!?」
凛「ねぇ……ダメ? 300点もあるんだから……いいでしょ?」
凛の問いかけにガンツは100点メニューを表示したまま無反応で返す。
玄野「……渋谷」
桜井「渋谷さん……あの二人の為にこれだけの点数を取ったってことっスか……」
坂田「……イヤ、あの感じは」
風「……」
各々が凛の行動を見ているが、何もおきずにしばらくたったところで。
凛「……仕方無いかぁ、それじゃ、全部2番」
未央「な!? し、しぶりん! 部屋から出れるのになんで!?」
卯月「そ、そうですよ! どうしてですか!?」
詰め寄る二人に凛はまだ惚けた顔で答える。
凛「……この部屋を出るときはみんな一緒でしょ? 二人を置いて私だけなんて、そんな事はしないよ」
そして笑った。
二人に内心を悟られないように、笑顔を作った。
卯月「凛……ちゃん……」
未央「…………」
その笑顔に二人は違和感を感じてしまった。
だが、今その違和感がなんなのかを二人は気付くことができなかった。
そして採点も終わり、和泉が最初に動き出し扉を空け帰る。
それに続き、全員動き出した。
玄野「みんな、聞いてくれ」
玄野に全員の視線が集まる。
玄野「今回のミッションではっきりしたが、これからは渋谷たちも俺達と一緒にミッションを行っていくみたいだ」
玄野「今まで俺がリーダーって立場だったけど、今後は渋谷がリーダーをやっていったほうがいいと思うんだ」
その言葉に凛は慌てて咎める。
凛「ちょ、ちょっと待って。何で私!?」
玄野「いや、だってお前、この中で一番ミッションの経験があるし。今回もワケわかんねー点数とってるし、お前なら全員を生き残らせれる様に立ち回ることもできるだろ?」
凛「待って。そんな事勝手に決めないでよ。私はリーダーなんて嫌だから」
玄野「嫌ってなァ……お前がチームをまとめれば生き残れる確率が高くなると思うんだけど……」
凛「無理だって。私はそもそもリーダーなんてガラじゃないし、アンタが続けたほうがいいでしょ。この人たちもそう思ってるよ」
凛がそうやって全員に問いただすと、それぞれバラバラの意見が戻ってくる。
レイカ「……あたしは玄野クンがリーダーだと思ってる」
桜井「お、俺も今までどおり玄野さんがリーダーでいいと思いますけど……」
坂田「……俺も玄野がリーダーに一票だな」
レイカ、坂田、桜井が玄野がリーダーだと押す。
鈴木「う~ん……私は玄野クンが渋谷さんをリーダーにしたいというのなら渋谷さんでも……」
桜井「えッ?」
稲葉「お、俺は……玄野をリーダーだと……思ってない……」
桜井「い、稲葉さん!?」
どっちつかずな鈴木と、否定的な稲葉。
卯月「私は、リーダーとかよくわからないですけど……でも、凛ちゃんがやってくれるなら安心できると思います……」
未央「うん……私も、しぶりんなら……」
凛「卯月!? 未央!?」
凛がリーダーに肯定的な卯月と未央。
風「……」
残った風に視線が注がれる。
風は凛を少しだけ見て、視線を外して答える。
風「……俺は、玄野がリーダーで、構わん」
凛「ほら! やっぱりアンタのほうがいいって意見が多いでしょ?」
部屋にいる人間の割合で4:2:2で玄野がリーダーに肯定的になっている。
それを見て玄野は、
玄野「……ワカったよ」
リーダーを受け入れる玄野にほっとする凛。
玄野「だけどこれからお前の力をアテにすることが多くなるぞ? 訓練のときにもお前を中心にした連携訓練ってのをやって行こうと思う」
ほっとしたのもつかの間、その発言に顔を顰める凛。
玄野「みんなもそれでいいか? これからは戦闘に関しては渋谷を中心にして行こうと思っているんだけど、どうかな?」
レイカ「玄野クンが決めたならあたしはそれでいいと思います」
坂田「……反対はしねーよ。いいんじゃねーの?」
桜井「俺もそれでいいと思いますけど」
風「……構わん」
鈴木「渋谷さんをかぁ……う~ん……」
玄野「おっちゃん? どうかしたのか?」
鈴木「いやね、渋谷さんが何度も100点を取っているとは聞いていても、女の子を戦いの中心にするなんてのはねぇ……」
玄野「あぁ、そんなのは気にしなくてもいいッて。コイツ、外見はこんなんだけど、多分そこの風より強いぜ?」
鈴木「はぁ~……風君よりねぇ……」
風「……」
玄野「心配するだけ取り越し苦労になるだけ、コイツは一人で何ヶ月も今日みたいなミッションを続けてきた化け物、言わば女の皮を被ったターミネーターみたいなもんだ。おっちゃんが心配するようなことなんてなにもないさ」
鈴木「そうなのかねぇ……」
凛「…………」
額に青筋を浮かべながらも無言で玄野のやりとりを聞く凛。
その後特に反対も起きず、今後は凛を中心にミッションを行っていくという事が決定し、今日は解散となった。
卯月、未央、凛以外の全員が部屋を後にして、残っているのは3人だけ。
凛は奥の部屋で二人と着替えているときに、新たに手に入れた武器を確認して奥の部屋から持ってきて中身を確認していた。
新しく追加されていたのは、大きなケースが一つ。
11回目の報酬で、先ほど狩りに行く前に少しだけ確認したリングを含めて持ち帰れそうなものは二つだけ。
もう二つは恐らくはまたパソコンに追加されて転送をして使えるものになるのだろうと思ってバイザーを装着しようとした凛だったが、その時、ガンツに異変が起きた。
ザ、ザザッ。
凛「……?」
黒い玉の表面に何かが浮かび上がってくる。
何かはすぐに形を成し、ガンツの表面に人の顔が映し出される。
凛「なっ!?」
卯月「え?」
未央「えっ? ま、まさか、また?」
3人はまた狩りが始まるのではと思ったが、画面に映った人の口が動くと共にガンツから声が流れ始めた。
「……漸く繋がったか」
画面には短髪で口元に少量のひげを生やした、精悍な顔つきの男が映し出され明らかにその男の声がガンツから発せられていた。
凛「未央! 卯月! 私の後ろにっ!」
すぐにバイザーを装着し、ハードスーツの掌をガンツに向けて二人を自分の影に隠す凛。
ガンツに映し出された男はそれを見て眉を動かし口を開く。
「私も見た事が無い武装……間違い無い……君が『りんちゃん』もしくは『りんさん』か?」
凛「……」
凛は警戒を怠らずガンツから距離を置き後退を始める。
凛が二人を連れて部屋から飛び出す寸前に、ガンツに映し出された男は叫んだ。
「待て! 私は君の敵ではない! 私は君と同じブラックボールハンターだ! 君とは別のブラックボールから君のブラックボールに通信をしている! 宇宙人ではない!」
凛「……通信? ブラックボール?」
立ち止まりガンツを見る凛。
「その様子ではブラックボールの制御法を知らないようだな。そう警戒しないでくれ、今回は君と交渉をする為に通信を行ったのだ」
訝しげに映し出された男を見る凛。
今まで起きたことも無い現象に警戒しながら凛は問いかけ始めた。
凛「……アンタ何者? ブラックボールって、もしかしてガンツのことを言ってるの?」
「ガンツ? ああ、ブラックボールの固有名称か。目の前の黒い玉のことをそう呼んでいるのならばその認識で正しい」
「そして、私は……」
男は言いかけて留まった。
「……その前に、君の後ろに居る二人をその部屋から追い出してもらえるかな? その二人には用が無いのでね」
凛「……なら私もアンタに用は無いから帰る。さようなら」
そのまま部屋を後にしようとする凛。
だが、ガンツに映った男は凛を呼び止めた。
「待て! 待ちたまえ!」
その声に反応せずに部屋を出ようとする凛達。
「待て……分かった、その二人も一緒でいいから聞いてくれ」
足を止めて顔を動かしてガンツを見る凛。
「私はブラックボールのコードネームで『ちょび髭』という。この名前は私がつけたものではなくブラックボールが勝手につけた名称だ、決してふざけている訳ではない」
凛「はぁ……」
「今回、通信を行った理由、それは来るべきカタストロフィに備えて、我々と志を共にする同士を迎え入れる為にこうやって通信を行っている」
凛「……カタストロフィ」
卯月「それって……」
未央「前にしぶりんが話してた……」
「カタストロフィを知っているのか。ならば話が早い。我々はカタストロフィに向けて戦力を集めている」
「君のようにブラックボールミッションを何度もクリアしている猛者を対象に、我々は日本中から同士足り得る者達を選出しているのだ」
凛「……」
「君は現時点でブラックボールランキングの1位だ。君の力が加わればカタストロフィの時点で我々の戦力は他の国と比べても遜色無いものとなるだろう」
凛「ブラックボールランキング?」
「ブラックボールにランキングの表示をするように指示して見るといい。現在のブラックボールミッションを行っているハンターのクリア回数などが表示される」
凛「……そんな機能もあったんだ」
「うむ。君はミッションの達成回数は我々よりも上だが、肝心のブラックボールに関する制御法は何一つ理解していないようだな」
凛「……」
「どうかね? 我々は君よりもブラックボールについて制御法を含めて様々なことを熟知している。我々に協力する事により君が知りえぬ情報を提供できると思うのだが」
凛「……あのさ」
「なにかね?」
凛「そんな事を急に言われて、はいわかりました。って答えると思ってるの? というかアンタははっきり言って怪しすぎるんだけどさ、なんか高圧的で上から物を言ってくる感じだし、信用も出来ない」
「ふむ」
凛「アンタが私に協力してほしいんだったら、もっと態度を改めて先に情報を渡したりしたらどうなの? ある程度信用が得られたら協力とかの考えも……」
「いいだろう、君が知りたい情報は全て提供しよう」
凛「っ!」
「ただしこの場では時間が足りなすぎるので、また日を改めて別の場所で話すことにしないかね? もちろんその二人も同席してもらってもいい、まずはこれくらいでどうだろう?」
凛「……その場所を指定するのは私でもいいの?」
「構わないよ。だが、セキュリティがしっかりしている場所を頼みたい。一般人に聞かれるような場所は論外だ。それができないならば我々が場所を設定することもできるが、それは君が判断してくれればいい」
凛「……」
「それでは私と連絡を取るための電話番号を伝えよう」
男はそうやって凛達に連絡先を伝え、
「それでは連絡を待っている」
ガンツから表示が消えて、部屋に静寂が戻った。
凛「……」
卯月「い、一体なんなんですか?」
凛「わからない……でも……」
未央「あっちはなんかしぶりんのこと知ってるような感じだったけど……」
凛はガンツに近づいて、先ほど男が話したランキングの表示を口にする。
凛「ガンツ、ランキングの表示っていうのを出して」
ガンツの画面に何かが浮かび上がり始めた。
卯月「これ……凛ちゃんの画像と、名前が一番上に」
未央「他は英語とか、なんか厳つい人たちの画像が一杯……」
そこに表示されていたのは、確かにランキングと思われる表示。
1.『りんさん』 Clear 14 JPN Area13
2.『silence Cook』 Clear 12 USA Area127
3.『Commando』 Clear 11 USA Area448
10位までは画像つきで表示され、それより下は名称とクリア回数のみが記されていた。
少し下のほうにさっきのちょび髭と名乗った男の名前も表示されていた。
卯月「あ、さっきの人、7回ってなってますね」
未央「その下のほうにも日本語の人いるね、『岡八』……この人は6回ってなってるね」
凛「ランキング……こんな機能知らなかった……」
卯月「あ、もう一人6回の日本語の人が……」
凛は考える。
今回謎の通信を行ってきたちょび髭と名乗る男と会うべきかという事を。
凛(私が知らなかった機能もそうだし、ガンツの通信なんていう事をできる人間……)
凛(カタストロフィのことも何かを知ってそうだった。何を調べても何も分からなかったカタストロフィのことを……)
凛(……結論は決まっている、会って情報を得るしかない)
凛(そのときに二人を連れて行く事は……)
二人を見て少しだけ考えるが、
凛(連れて行かないほうがいい……)
凛(何があるかも分からないし、二人をわざわざ危険な場所かもしれないところに連れて行く必要も無い)
凛(まずは今回手に入れた武器の性能を全部試して、それから会う約束をとろう)
凛(争うつもりはないけど……あの男が何かをしてきたら……)
凛は今回手に入れた武器を全て持ち、二人を連れてガンツの部屋を後にした。
今日はこの辺で。
ガンツのミッションの翌日。
凛の家の近くの公園。
夕暮れ時、二人の少女がベンチに座っていた。
卯月「あの……」
未央「あのさ……」
それまで無言で座っていた二人は同時に切り出す。
二人ともお互いの顔を見合わせて、お互いが何を言い出そうとしたのかを察する。
卯月「……昨日のこと」
未央「……だよね」
二人は思い出す。
昨日あったガンツのミッション。
最初のミッションは何がなんだかも分からない状況で放り込まれて、二人は隠れて震えているうちに黒服の男に見つかり背中を撃たれて気を失った。
それから部屋を出て凛からガンツの部屋について様々なことを聞いたが、実際のところ二人に現実感はなく前回のミッションでようやく自分たちが本当に命を懸けたゲームに強制参加させられていることを実感した。
卯月「昨日、最初に部屋にいた人が何人か戻ってきていませんでしたよね……」
未央「うん……」
卯月「レイカちゃんも最初は戻ってきませんでしたよね……」
未央「……うん」
最後に玄野がレイカを生き返らせた事によって理解できた。
戻ってこなかった人たちは、凛が言っていたように死んでしまったという事。
卯月「本当に、命をかけたゲームなんですよね……」
未央「そだね……」
二人が思い出すのは、黒服たちに向けられたマシンガンの銃口。
卯月「私達……凛ちゃんに逃がしてもらえなかったら、あの人たちに撃たれていたんでしょうか?」
未央「わかんない。でも、たぶん……」
二人とも分かっていた。
間違いなく自分たちは撃たれたであろうことを。
あの黒服たちから向けられる殺意を二人は感じ取っていたからだ。
身体を震わせながら再び押し黙る二人。
その状態がしばらく続き、卯月が視線を前に向けながら呟いた。
卯月「……昨日、私達、凛ちゃんに逃がし続けてもらっていましたよね」
未央「……うん」
二人に昨日の凛の姿が思い起こされる。
卯月「それだけじゃないです……凛ちゃん、あのゆびわ星人って宇宙人を……私たちの為に……あんな……」
未央「……」
1回目のミッションで空中から飛び降りた凛を眼で追って見た光景。
ゆびわ星人に飛びかかる凛の姿。
二人にとってその光景は圧倒的な力を持った恐ろしい敵に無謀に挑んでいく姿にしか見えていなかった。
二人は凛があんな恐ろしい相手に向かっていくことなど止めてほしかったが、二人の心配を余所に凛は2体もゆびわ星人を行動不能にして自分たちに前に連れて来た。
未央「……しまむー、あのゆびわ星人ってのだけじゃないよ」
卯月「っ!」
未央の零した言葉に卯月は息が詰まった。
卯月も気付いている、そしてそれを言った未央も気付いていた。
未央「しぶりん、あの人にしか見えない宇宙人を……多分殺しちゃったんだと思う」
卯月「……はい」
未央「点数採点のとき、しぶりんの様子おかしかった……多分あの人たちを殺しちゃって……苦しんでたんじゃないのかな?」
卯月「……それも、私達の為に、ですよね」
二人とも自分が人の姿をした宇宙人を殺してしまったらと考えて、背中に冷たいものが走る感覚を覚える。
恐らくものすごく悩んで苦しんでしまうと思う、二人ともそうやってあの時の凛がどんな気持ちでいたのかを考えてしまう。
卯月「……私だったら、すごく悩んで、押しつぶされてしまうかもしれないです」
未央「……私も、そうだと思う」
人の姿をした宇宙人、人と変わらない生き物を殺すという事。
それがどれだけ心に負担をかけるか、想像するだけでも二人は気を落とす。
そうして、二人は俯いたままの状態でいたが、卯月がぽつりと言葉を零す。
卯月「……このままじゃ、駄目です」
未央「……このままって?」
卯月「凛ちゃんに守ってもらってばかりなのは駄目です」
未央「……しまむー」
卯月「守ってもらってばかりで、何もできないのはもう嫌なんです」
卯月が思い出すのはあの新宿の事件。
自分を庇って撃たれた未央の姿が鮮明に蘇る。
卯月(もうあんな事は絶対に起きちゃ駄目……)
卯月(このままだと、凛ちゃんがあの時の未央ちゃんのように、私のせいで……)
未央の姿と凛の姿が重なるようにして赤い記憶がはじけた。
卯月は脳裏に浮かんだその光景を、頭を振ってかき消す。
そして卯月はベンチから立ち上がり、未央を見据えながら言った。
卯月「未央ちゃん。私、強くなります」
未央「えっ?」
卯月は持ってきていたバックを開き中のものを未央に見せる。
未央「スーツ……あの部屋から持ってきたの?」
卯月「はい。これからは凛ちゃんに守ってもらわなくてもいいように訓練をします。訓練して私が二人を守れるくらいに強くなりたいんです」
未央「……」
卯月が力強い視線で未央を見ている。
その視線を受けて、未央は小さく笑って持ってきていた鞄を手にして卯月に見せた。
卯月「えっ? それって……」
未央の鞄に入っていたもの、それは卯月のバックに入っていたものと同じガンツスーツ。
未央「ま、私も似たようなこと考えてたってことかな」
卯月「未央ちゃん……」
未央「しぶりん、私達の為にあんな事をしていたらいつか死んじゃうと思ったから……でも、私がこのスーツを使いこなしてしまむーを守れるくらいになればしぶりんの負担も減るし、もしかしたらしぶりんも守ってあげることもできるかもしれない……なんて思ってね」
未央「そう思って、このスーツも持ってきたし、今日しぶりんに私の気持ちも聞いてもらおうと思ったんだけど、まさかしまむーも私と同じようなことを考えているなんてね」
卯月「……守られて、何もできないのは嫌ですから」
未央「そっか……そうだよね」
未央も立ちあがり、卯月の手を握りながら話す。
未央「私達、しぶりんに守ってもらわなくていいくらいにならないといけないよね」
卯月「はい。私達が強くなれば凛ちゃんも昨日みたいな無茶をしなくなるはずです」
未央「うん、そしていつかみんなであの部屋を出るんだ……」
卯月「はい、みんなで一緒にあんな恐ろしいゲームをやらされる所から出るんです……」
二人とも歩き出す。
凛の家へと、自分たちの決意を聞いてもらうために。
私は今頭を抱えている。
その原因はさっき私の家に来た未央と卯月が言った言葉。
これからは狩りの時、私に守られなくてもいいように自分たちの力で生き残って見せると言い出した。
それどころか、私を守れるくらい強くなりたいなんて言ってくる。
凛「二人とも、駄目だって……アイツ等は、宇宙人達は何をやってくるかも分からないし、何が起きるかもわからないんだよ? 危ないから二人は私に任せてくれていればそれでいいから……」
卯月「それが駄目なんですっ! このままだと凛ちゃんが死んじゃいますよっ!」
凛「私は大丈夫だって……」
未央「大丈夫なわけ無いじゃん! 何が起きるかも分からないんだったらしぶりんにもどうしようもできない時がくるかもしれないじゃん!」
凛「慣れているから大丈夫、私は絶対に負けないから」
こうやって二人に説明しているが二人は納得をしてくれない。
どうやら昨日の狩りで本当の命のやり取りをするゲームだっていう事を自覚したみたいだ。
凛「二人とも聞いて。私は何度もやっているから生き残るコツって言うのを体で理解している。だけど二人はガンツのミッションは素人と言ってもいい。そんな二人が下手に動くとあっという間に死んでしまうかもしれないんだよ」
凛「二人は私に任せて、安全なところで……」
卯月「だからそれだと凛ちゃんが危ないじゃないですか!」
未央「そうだよ! それなら私たちも強くなってしぶりんを守れるくらいになればみんなで生きてあの部屋を出られる確率も上がるでしょ!」
凛「……」
そうだった。
この二人、あの時も、私をアイドルにスカウトしてきたときも凄くしつこくて頑固だった。
一筋縄じゃ説得できない……。
凛「……それなら戦い方を変えるよ。この前みたいに私達は空中で敵を探して二人は敵を見つけたら転送してもらう、この戦い方なら……」
卯月「この前みたいに落とされちゃったらどうするんですか?」
凛「……」
未央「何が起きるか分からないんでしょ? それならやっぱりスーツを使いこなせるようになって私達が強くならないと」
二人は本気の目をしている。
スーツを持ってきているんだ、本気なのは明らかだ。
どうする……二人に考え直してもらうために……。
凛「……二人ともさ、分かってる? 強くなって私を守るなんて言うけど、そのときにはあの宇宙人と正面から戦わないといけないときがあるんだよ?」
卯月「……わかってます」
未央「……そのつもりだよ」
凛「そうなったら、むこうも本気で殺しにかかってくる以上、こっちもやらないといけない。送る用の銃を使わずに……殺す用の銃を使わないといけないときもあるんだよ?」
卯月「……」
未央「……」
二人には送る用の銃以外の殺すための銃を撃てるわけが無い。
そう思って問いかけたのに……。
卯月「……私は、撃てます」
未央「っ!」
凛「!?」
卯月「……未央ちゃんが、凛ちゃんが、誰かに殺されるくらいなら……撃ちます」
卯月から出た言葉が信じられなかった。
いつも柔らかな雰囲気で争いごとなどは正反対の印象の卯月。
その卯月が自分から戦うなんて、殺すなんて言い出した。
私の胸がトクンと跳ねる。
未央「……私もやれるよ」
凛「未央……」
未央「二人が危ないとき、そんな時はどんなことをしても二人を守ってみせる、撃つしかなかったら撃ってみせるよ……」
私の胸が、心臓の音がトクトクと早鐘を打つ。
二人とも、宇宙人を殺すことができる?
私と同じように?
私の心にある気持ちが芽生え、震えながら二人に問いかける。
凛「……待って。二人とも落ち着いて、宇宙人って言っても生き物なんだよ。中には昨日みたいな人のような姿の宇宙人もいるんだよ? 二人はそんなのも撃てるの? 撃っちゃったら……」
私が震えながら言うと、二人は私を抱きしめながら言ってくれた。
卯月「凛ちゃん……やっぱりあの人たちを撃っちゃったんですよね……それも私達の為に……」
未央「大丈夫……私達、しぶりんの事分かっているから……」
今度はドクンと心臓が跳ねた。
私の事を分かってくれる……?
二人が、私の事を?
狩りを楽しんでいる私の事を?
殺しをして快楽を得ている私の事を?
だけど、その後に続いた二人の言葉に私の期待は裏切られてしまう。
卯月「人の姿をした生き物を撃つなんて、そんな辛い事をさせてしまってごめんなさい……」
未央「しぶりん、こんなに震えて……辛かったんだよね……」
凛「……え?」
卯月「凛ちゃんが苦しんでいるその気持ち、一緒に背負いますから……」
未央「苦しまないで……私達はしぶりんの事、分かっているから……」
凛「……」
違った。
私の事を理解してくれていたわけじゃなかった。
それでも、私の心に芽生えたある想いは残り続ける。
『二人も、私と同じなのかもしれない』
一度芽生えたこの気持ちは、私の心であっという間に大きくなっていく。
それと同時に色々な想いが私の心から溢れ始める。
凛(もしも二人が私と同じなら、この部屋で3人一緒に狩りを楽しむことができる)
それが実現したら何て素敵な時間になるんだろうか。
一度は諦めた、3人で一緒にアイドルをやるという道。
それが形を変えて、3人で別の道、殺し合いの道を歩んでいけるかもしれない。
また心臓が大きく跳ねる。
凛(二人とも私と同じようになってくれれば……そんな未来ができるのかもしれない……)
3人で一緒に、どこまでも。
凛「…………たい」
卯月「えっ?」
未央「どうしたの?」
凛「……ううん、なんでもない」
二人を抱きしめながら私は新しく芽生えたこの気持ちを押さえ込む。
たぶん、そうなる事は無いと思うから。
今のままじゃ、私が思い浮かべた未来は訪れない。
そう、今のままじゃあ、二人は私と同じ場所に堕ちてきてくれない。
私が守っている今のままだと。
凛「……二人ともありがとう。二人の気持ち、伝わったよ」
凛「これからはさ、二人が強くなれるように私も協力するよ」
卯月「本当ですか!」
未央「ほんと!?」
凛「うん。これからはみんなで協力していこう。私が二人を特訓するから、二人が強くなったら頼らせてもらうからね」
まずは二人にスーツの使い方と武器の使い方を教えてあげよう。
私が守る以上、スーツはただの防御用としか考えていなかったけど、これからはスーツを使って動くことによって感じるあの万能感を二人にも感じてもらう。
そして武器、これからは送る用の銃ではなくて、殺す用の武器を重点的に使ってもらう。
撃つことに慣れてもらって、本番でも躊躇わずに撃てるようになってくれるのが理想だ。
もちろん最初は戸惑うと思うから、ゆっくりと時間をかけて。
私の考えを少しずつ二人に話していくのもいいかもしれない。ばれない程度にだけど。
そうやって次の狩りで二人に実際に宇宙人を殺してもらう。
一度、二度と経験してもらって、やがては私と同じように……。
自然に顔がほころぶ。
凛「……みんな一緒だから」
そう、みんな一緒にこれからも……。
卯月「はいっ、あの部屋を出るときはみんな一緒に出ましょうね」
未央「誰一人かけることなく、私達みんなで!」
凛「…………」
私は二人を抱きしめる力を強くする。
絶対に逃がさないように腕の力を強め二人を抱きしめ続けた。
6.吸血鬼編 おしまい。
今日はこの辺で。
7.訓練 + オニ星人編
あれから私達は夜の山に来ていた。
何個かある訓練場の一つ。
山の中に作り出した人工的な平地。
二人を訓練する為に、そして先の狩りで手に入れた100点武器を試すための場所。
まずは二人の訓練を始める事にする。
凛「それじゃあ、二人とも。今日から毎日訓練するから、まずは第一段階。スーツに慣れてもらうところから始めるよ」
卯月「はいっ!」
未央「りょーかい!」
凛「それじゃ、まず走ってみて。ここから……」
少し先の気の根元を指差して。
凛「あそこまで。大体100メートルくらい」
二人とも頷いて、未央はクラウチングスタートの構えを取って、卯月はスタンディングスタートの体勢だ。
凛「よーい、どん!」
二人の足元の地面が少し抉れて二人ともあっという間に駆け抜ける。
私は持っていたスマホのストップウォッチをとめて二人の元まで歩いて声をかけた。
凛「二人とも、世界新記録おめでとう」
卯月「えっ?」
未央「へ?」
凛「ほら、二人があの場所からこの場所まで走るのにかかった時間」
ストップウォッチは7秒で止まっている。
約100メートル7秒。
人類最速のスプリンターでも出せないタイムだ。
卯月「え、えと、そんなに早かったんですか?」
未央「た、確かに凄い疾走感があったけど……」
凛「最低限の力を出すだけでもそれだけの身体能力向上があるんだよ」
二人ともスーツを見ながら驚いている。
でも、まだスーツの力はこんなものじゃない。
二人にはスーツの力を限界まで引き出せるようになってもらう。
そうする事によって、人間が絶対にたどり着けない領域っていうものを経験してもらう。
凛「二人とも今は何も意識せずに走っていたと思うけど、今度は意識を集中しながら走ってみて。早く走るとか、足に力を込めるとか何でもいいから」
卯月「わ、わかりました」
未央「集中か……なら掛け声かけていってみようか、しまむー」
卯月「あっ、そうですね」
未央「そんじゃ、しぶりんもあの掛け声お願いね!」
掛け声って……ああ、あのステージのときの。
凛「えっと、フライドチキンでよかったんだっけ?」
未央「うんうん。それそれ!」
凛「わかった。それじゃ、いくよ」
二人ともさっきと同じ体制を取る。
凛「フラ」
二人の足の部分が盛り上がる。
卯月「イド」
足から全身の筋繊維が盛り上がりを見せる。
未央「チキーン!」
二人がスタートを切ったと同時に、二人の足元が爆発した。
卯月「へぶっ!?」
卯月はそのままつんのめって顔から地面に突っ込んで。
未央「のわぁぁぁぁぁ!?」
未央は弧を描いて数十メートル飛んで行き、
未央「へごっ!」
頭から地面に突き刺さった。
凛「……」
私はそれぞれ、顔が地面に埋まっている卯月を抱き起こして、地面に刺さった未央を引っこ抜いてその場に一旦座り二人に聞く。
卯月「あ、あはは、駄目でしたね~」
未央「わ、私地面に刺さったの生まれて初めてだよ……失敗だねこりゃ……」
凛「……いや、今のは失敗じゃないよ」
卯月「?」
未央「へ?」
凛「二人とも、ある程度スーツの力を解放できていたよ。凄くいい感じだった」
卯月「そうなんですか?」
凛「うん。はっきり言って驚いた。どんなイメージをして動いたの?」
未央「イメージって……まあ、全力で走ってやるーって考えながらやったんだけどさ」
卯月「私も同じです……あっ、でもちゃんとイメージしましたよ? 早く走る自分をイメージしました、レッスンで理想の動きをする自分をイメージするみたいに」
未央「そうそう! そんな感じ! 私もそんなイメージだった!」
凛「……ならさ、その感じで色々動いてもらってもいいかな? 走るだけじゃなくても、本当に何でもいいから動いてみてよ」
卯月「わかりました!」
未央「おっけー!」
私はしばらく二人の動きを見ていた。
最初のうちは動きに身体がついていかない感じで何度も転んだり、どこかにぶつかったりしていたけれど、1時間くらいすると二人ともスーツの使い方に少しずつ慣れて来たみたいだ。
卯月はまだ転んだりしているけど、未央はもう飛び跳ねて新体操選手みたいに宙を舞っている。
未央「見てみてしまむー、しぶりん! 空中宙返り未央ちゃんスペシャル!」
卯月「わぁ~、すごいですね、未央ちゃん!」
凛「いいね、すごくいい感じだよ」
未央「でしょでしょ~」
にっこりと笑う未央に私も笑みがこぼれる。
凛(いい感じ。スーツを使うことに楽しみを覚えてくれている……)
それに対して卯月は未央のように飛び上がるが、バランスを崩して地面に叩きつけられる。
未央「し、しまむー! 大丈夫!?」
卯月「はい、大丈夫ですけど……また失敗……う~ん……」
卯月は何度も転んで痛みを感じることが無いと分かってからは失敗するたびに頭を悩ませていた。
凛「卯月、焦らなくてもいいから。未央みたいに楽しみながら覚えていけばいいと思うよ」
卯月「……そうですよね。うんっ! 私も頑張らないとっ!」
両手を握り意気込んでいる卯月。
凛(卯月はもう少し慣れないとスーツの力を感じることができないかな……まあ、まだ初日、まだまだゆっくりと覚えていってくれればいいか……)
私は二人の動きをある程度見て、少し休憩をしてもらうことにする。
結構動いているし、休憩も大事だ。
二人にスポーツドリンクを渡しながら休憩するように進める。
凛「二人とも少し休憩しようか。結構動いて疲れたでしょ?」
未央「え? 私はまだまだ大丈夫だよ?」
卯月「はい、私も平気ですよ」
そう言う二人は確かに汗はかいているが疲れた感じは見せていない。
未央「普段レッスンをしてるし、私達はこれくらいじゃへばったりしないよ! ね、しまむー」
卯月「はいっ、トレーナーさんのレッスンを受けてるんですから少し動いたくらいで疲れたりしないですよっ!」
渡したドリンクを飲みながら元気一杯な顔を見せる二人。
これも嬉しい状況だ。
二人とも私の想像より全然体力がある。
凛「そう? それならいいけど」
やる気を出している二人を止めるような事はしない。
早くスーツを使えるようになればなるほど色々な事を教えることもできる。
凛「じゃあ、しばらくスーツに慣れるために動いてて。分からないこととかあったら教えるから」
未央「りょーかい!」
卯月「わかりました! ……あれ? 凛ちゃん、何を持ってるんですか?」
私が鞄から出したものに反応を見せる卯月。
凛「ああ、これ? この前手に入れた100点の武器の一つ。試せていないものがあるから二人が動いている間にちょっと試そうと思ってね」
未央「へぇ~、それ何?」
未央も私の持ったものを興味津々で見てくる。
11回目に手に入れた4つのリング状の道具。
バイクの飛行ユニットに酷似したリング。
凛「リング状の道具なんだけど……基本的にあの部屋で手に入るものって自分で使わないとどんな効果があるかもわからないものだから、使ってみないと分からないかな」
未央「そっか~」
とは言っても、飛行ユニットを丸々小さくしたような形のこの道具。
何となくだけど予想ができている。
私は手と足に4つのリングを通してみると。
凛「……嵌った」
手足の肘と膝の部分まで持っていくとヒュウウンという音と共にリングが起動して肘と膝の部分で何の支えも無しに停止し固定された。
それと同時に若干の浮遊感。
卯月「り、凛ちゃん!?」
未央「し、しぶりん……浮いてない?」
凛「やっぱり……」
その場で数十センチ浮かび上がった私。
そんな私を二人は驚いた顔で見ている。
凛「前に進んだり、もっと浮かんだりできないのかな…………うわっ!?」
もう少し浮かび上がらないのかと考えた途端、私は十数メートル上空に飛びあがった。
上空で停止してふわふわと浮かんでいる私。
卯月「り、凛ちゃんが空に……」
未央「飛んでっちゃった……」
真下には未央と卯月。
さっきよりさらに驚いている。
二人と同じように私も驚いている。
凛「か、考えたら浮かび上がった……」
凛「もうちょっとやってみよう」
今度は二人のいる場所を目指して飛ぼうと考えると、二人の頭上に凄い速さで移動した。
卯月「きゃっ!?」
未央「わっ!?」
凛「あ、ご、ごめん」
私が移動したせいで二人に風圧が襲い掛かったみたいだ。
卯月「だ、大丈夫です。それよりも、凛ちゃん……空を飛んでますよね?」
未央「う、うん。なんか凄い速さで飛びまわったよね。その道具って、空を飛ぶ道具なのかな?」
凛「多分……そうだと思う」
まだ色々試してみないと分からないが、恐らくこれは人間用の飛行ユニット。
しかも考えただけで空を飛ぶことができるシロモノ。
凛「ちょっと、試してくる」
私は空に飛びあがるイメージを浮かべると、私の身体は浮遊感に包まれ上空に飛び上がった。
卯月「わぁ……」
未央「と、飛んでいっちゃった……」
数十分経過して。
凛「すごい、すごい! すごいよこれ!!」
私は空を自由に飛びまわっていた。
凛「私、鳥になったみたい!」
考えるだけで上下左右どこにでも進んで飛び続けることができる。
はっきり言ってものすごく楽しい。
私は地上に視線を移すと、空を見上げている二人の姿が映った。
それを見て、私は二人の元に急降下する。
今度は風圧を発生させないように、途中からゆっくりと降下し始めると。
未央「おぉぅ……」
卯月「うわぁ……」
二人が私を見上げてなぜか目をキラキラさせながら私を見ていた。
凛「? どうしたの?」
未央「カッコイイ!」
凛「は?」
卯月「すっごく絵になってました!」
凛「な、何言ってるの?」
空中で止まりながら二人を見下ろしながら問いかけると。
未央「うおぉ! 月をバックに舞い降りたしぶりん! これは……月と星が満ちる闇夜に降臨せし、漆黒の堕天使に違いない!」
凛「はぁ?」
卯月「あっ、それっぽいです! 蘭子ちゃんみたいな言葉ですけどそれっぽいです!」
未央「らんらんみたいじゃなくて、らんらんを意識したの!」
凛「えーっと……」
なんだか盛り上がっている二人を尻目に私は地面に降り立つ。
未央「あ、天使様が地上に降りちゃった」
凛「だから何言ってるのかよくわからないんだけど……」
卯月「蘭子ちゃんの言葉は難しいですから仕方ないですよ~」
二人の言っている事がよくわからないけど、とりあえず次の道具も試したいし一旦この道具は外しておこう。
全ての道具を試し終わったらまた空を飛んで色々ためそう。
戦いで空を飛べればさらに戦術も増えるし、何よりも自分で空を飛ぶのがこんなにも楽しいとは思わなかった。
新たな楽しみが増えたと思いながら私は次の100点武器を試し始める。
今日はこのへんで。
次は、パソコンに追加されたアイコン二つ。
未央「ねね、しまむー、あれって私たちも使えるのかな?」
バイザー内のパソコン画面が連動しているモニターで操作して一つずつ試してみよう。
卯月「どうなんでしょう? でも使ってみたいですね」
まずはこの…………の前に。
凛「どうしたの?」
何やら小声で相談している二人。
私が外した飛行リングをチラチラ見ている。
未央「あっ、いやぁ、えっとね、しぶりんが使ってたその輪っかって私たちも使えるのかなーって思って」
卯月「私たちも空を飛べないかなぁ~って思ったんです」
凛「……」
未央「あっ、別にどうしてもやってみたいって訳じゃないんだけどさー! ちょーっと興味があってね」
卯月「はい、空を飛ぶのってどんな感じなのかなって、少し興味が湧いちゃって」
凛「使ってみる?」
未央「いいの!?」
卯月「いいんですか!?」
凛「うん、遠慮しないで使っていいよ」
ガンツの道具に興味を持ってもらうのは非常にいい。
どんどん使って、道具を使うことに慣れてもらう。
今回の飛行リングは特に楽しんで使える道具だから、ガンツの道具を使うのは楽しいと思えるようになってくれれば今後、他の道具を使ってもらうときにもやりやすい。
楽しんでもらいながらゆっくり、二人に刷り込ませるように、道具を、武器を使うことが自然だと感じてくれるようになれば……。
道具を使って敵を殺すことにも……。
未央「……ぶりん! ねぇっ!」
凛「! あっ、どうしたの?」
いけない、思考に耽り過ぎていた。
焦るな、ゆっくりと、少しずつでいいんだから。
卯月「これはどうやって使えばいいのか教えてほしくて」
凛「あぁ、両手足につけた後は、頭で考えた通りに飛ぶことができるよ。前に進みたいって考えたら前に進むし、上空に上がりたいって考えたら上に浮かんだり」
未央「へ? 考えるだけでいいの?」
凛「そうだよ」
卯月「す、すごいですね。どういう仕組みなんでしょう……?」
ガンツの道具にそういう考えはNGだ。
使って起きる現象を受け入れるしかない。
そうこうしているうちに、未央が両手足にリングをつけてふわふわと浮かんでいる。
未央「わっ! わっ! なにこれすごい!」
卯月「わぁ! やっぱり私たちにも使えるんですね!」
その場で浮かんで手足をばたつかせていたが、少しすると空中を手足を動かして進み始めた。
平泳ぎの動作をして空中を泳いでいるようだ。
二人とも楽しそうに道具を使ってくれている。
しばらくはああやって楽しんでもらおう、その間に私は先ほどの続きに戻るとする。
えっと、モニターに表示されているアイコンの一つ……。
この『Link Unit』っていうアイコンを起動し試してみる事にしよう。
バイクの飛行ユニットを転送する『Flight Unit B』のアイコンと似ている。
これも何かの追加武装なのかな?
凛「とりあえず、起動っと」
起動すると、なにかが転送されてくるのを感じた。
ハードスーツの転送と似ている。
スーツに何かが取り付いている感じがする。
転送が完了して、スーツの肩から背中部分にかけて何か四角い何かが取り付いたようだ。
凛「なんだろう……」
背中に手を回して触れてみるが何もおきない。
どうやって使うものなのかと疑問符を浮かべていると、バイザー内の画面にパソコン画面とロックオン画面のほかにもう一つ画面が追加されていた。
凛「あれ? 画面が追加されてる?」
新たな画面を意識して開いてみると、その画面には『Link System』と表示されている。
凛「リンクシステム……今回のリンクユニットっていうのと関係ありそう……」
今回の武装と関係があると当たりをつけて画面を色々見てみる。
すると、画面がOFFとなっており、このリンクシステムが起動していないことに気がつく。
凛「……ON。……っ!?」
システムを起動すると意識したと同時に、画面内が6つのターゲットポイントみたいなものが表示され、背中の四角い何かから黒く小さい球体が6つ飛び出して私の頭上から肩上に浮かんで静止した、
凛「これは……」
浮かび上がっている黒球を見てみる。
テニスボールくらいの球体で、所々にレンズ状の突起がついている。
それが6個、私が動くとついて来て止まると私の頭上で止まる。
凛「……」
バイザー内の画面を見てみる。
6つのターゲットポイントは画面上にある。
私はそのポインターを下に動くように意識してみる。
凛「……ポインターも動いたし、球も動いた」
一番右上のポインターを動かすと、私の右肩上に浮いている黒球も動く。
凛「手ごろなターゲットは……」
離れた位置の木にポインターを動かして、ポインターが重なると木が赤く表示される。
ロックオンモードでロックオンをしたときと同じ状態だ。
凛「ロックオンをした?」
心なしか黒球のレンズが大きくなっているような気がする。
まさか、何か発射することができる?
凛「撃っ……!?」
黒球から何かを撃ち出そうとイメージをした瞬間。
右上の黒球から閃光が走り木を吹き飛ばした。
凛「うわ……」
ハードスーツの掌の閃光よりも強い威力の閃光。
半分以上消滅した木が地面に落ちて煙を上げている。
凛「これ……6つターゲットポイントがあるけど……もしかして全部動かせる?」
一つ一つ動かしてみるとそれに対する黒球も連動して動く。
やっぱり全部動かせるし、それぞれのポインターと黒球が繋がっているようだ。
凛「それなら……6つ全部同時に動かして……」
1本の木に全部のポインターを合わせようとするが。
凛「む、難しい……」
6つ同時に動かすのが中々難しく、時間をかけながら全部のポインターを合わせて、全ての黒球から発射すると考えると。
6つの黒球から同時に閃光が走り、爆発音と共に木があった場所は大きく陥没して木は影も形も残らなかった。
凛「……これも使える、だけど……」
ポインターと黒球の操作を何度も繰り返すが、
凛「……これ、難しいな」
1個や2個ならそんなに苦も無く操作できるけど、6個全てを動かそうとすると頭がごちゃごちゃになってしまう。
凛「これは訓練しないと使いこなせないな……でも、使いこなせるようになれば……」
すぐ思いつくのは剣で戦いながら6連続の閃光を発射する戦い方。
黒球がどこまで動かせるかは訓練してみないと分からないけど、敵の死角から撃ち込めればかなり有効な攻撃になりそうだ。
そう思いながらこの武装もしばらく訓練をしようと考える。
ある程度操作して次の武器を試すためにシステムをOFFにすると、浮かんでいた黒球も背中の追加武装に戻り納まった。
どうやらシステムをOFFにすると使えなくなるみたいだから、バイザーありきの装備になりそうだ。
そこまでで頭を切り替えて次の武装を試す。
凛「よし、次の武器。次もアイコンに表示されている……」
『Transport System』
凛「トランスポート……転送? まさか……」
これもどういったものなのか何となく予想がついてしまう。
とりあえず起動を。
凛「あ、パソコンと連動してる画面いっぱいに表示が……」
バイザー内のパソコン画面モニターに『Transport System』と表示され、数字の羅列がびっしりと画面に浮かび上がる。
はっきりいって理解不能だ。
凛「なにこれ……数字の羅列だらけだけど、入力できそうなところも……X、Y、Zの後は何か入力できそうだし、他の場所にも何箇所か……」
色々と入力をしてみようとも考えたが、入力する直前で画面の端に『Simple mode』という表示があるのに気がつく。
それを意識すると、また画面が切り替わる。
凛「今度は見やすい画面……」
シンプルな画面にポインターが一つ。
そして、画面内のポインターを意識すると、ポインターの場所が赤く表示されて。
凛「!!」
ジジジジジ……。
頭頂部が転送されている感覚。
というか、目の前のポインターが示していた場所に私の頭が現れている。
顔が転送されて首を動かしてみると体が少し離れた位置に残っている。
凛「……転送されてる。ガンツの転送と一緒……」
転送されきってからもう一度試してみる。
今度はもう少し離れた位置に。
結果は先ほどと同じく、私は転送されて、このシステムは簡易転送が可能なシステムだという事が分かった。
凛「……これも、すごいけど……」
転送にある程度の時間が必要で戦闘には使えそうに無い。
あと、見えている範囲にしか転送できないんじゃそこまで利便性は無いかもしれない。
だけど、シンプルモードにする前の、数字の羅列が表示された画面。
あそこでもっと何かができそうだった。
これも今後も使ってみてできる事を探っていこう。
このシステムはパソコンで操作しても使用できそうだから、久しぶりにパソコンを使って色々試してみるとする。
凛「とりあえず、これでできることもわかったし、次、最後の武器……」
最後の武器は大きめのケースに入っていた、いつも使う剣とよく似た柄が2本。
違うところは鍔の部分が長方形に長く20センチ近く幅があり、さらに剣を伸ばすスイッチのほかにもう一つスイッチがある。
それを試そうと思ったが、ふと二人の様子が気になり、目を向けてみると。
未央「しまむー! すごいすごい!」
飛行リングを手足に装備して、ステップを踏んでいる卯月がいた。
前に動画で見た二人のダンスのステップ。
そのステップだったが、今踊っている卯月はどの動画で見たよりも美しく、理想的な動きで踊っていた。
見惚れてしまうくらいに完璧な動き。
どこまでも洗練されていて、完成された芸術のような舞い。
私は卯月の舞いを、卯月が動きを止めるまで見続けていた。
卯月「ふぅ~っ、どうでしたか?」
未央「すごいすごい! カンペキ! 見たこと無いくらいカンペキなダンスだったよ!?」
卯月「本当ですか! ありがとうございますっ!」
嬉しそうに笑う卯月が、私の視線に気付いたのかふわりと浮かんで私の目の前まで飛んでくる。
卯月「凛ちゃん、これすごいです! 私がイメージする理想の動きをそのまま再現することができるんですよ!」
凛「? どういうこと?」
卯月から聞くと、この飛行リングは空を飛ぶだけじゃなく、使用者の動きをアシストする効果もあるらしい。
自分の思考がリングを通して身体に伝わり、考えている理想の動きをいともたやすく行うことができる。
重力の影響も受けずに、どんな人間でも不可能な理想的な動きを可能とする。
凛「そんな効果もあったんだね。というかよく見つけたね」
卯月「えへへ、空をいろんなイメージをしながら飛んでいるうちに、自分の思い通りに動ける事に気付いたんです。それで、もしかしたらって考えて試してみたら……」
卯月がズイっと近づきながら興奮気味に話す。
卯月「いつもできなかったステップが完璧にできるんです! どうしても引っかかってしまう動きが自然にできてしまうんです! 本当に、私が思っていた理想の動きがそのままできてしまったんですよ!」
凛「……」
卯月「私、びっくりしちゃいました。こんなうまく踊れたのって初めてかもしれないです」
そうやってはにかみながら笑っている卯月。
もっと、もっとのめりこんでくれればと考えながら、
凛「……卯月にそれあげようか?」
卯月「えっ!?」
凛「……気に入ったんでしょ? それならあげるよ、私が使うより卯月が使ったほうがよさそうだし」
卯月「……いいんですか?」
凛「うん、いいよ」
そう言うと、卯月はとても嬉しそうに私の手を握って、
卯月「ありがとうございますっ! 凛ちゃんからのプレゼント、大事にしますね!」
凛「ふふっ……」
これでいい、少しずつ、ゆっくりと……。
未央「いいなー……」
と、後ろで様子を伺っていた未央が私の肩に手を乗せてその手にあごを乗せ私の顔を覗き込んできた。
未央「プレゼント、いいなぁー」
凛「……」
未央「……」
未央は少し上目づかいで私を見てくる。
子供が親に何か買ってもらいたい時のような目線。
凛「未央も何かほしいの?」
未央「! くれるの!?」
何をあげようかと思ったが、他の道具は殆ど専用武器みたいなものだ。
100点武器以外はあの部屋から持っていけるから、100点武器をあげたい。
だけど、渡せるものって言ったら……。
デカ銃にパソコンにバイザーくらいかな?
デカ銃はあげてもいいけど、まだ時期尚早のような気がする。
もっと別の武器を使ってもらって、銃を撃つことに慣れてから上げるのがよさそうだ。
そうなると、パソコンかバイザーだけど……両方ともハードスーツの転送をしたり、今回の追加機能を試してみたりと使用頻度が高いから渡すのは中々難しい。
残るのは……試そうと思っていた剣の柄だけど、これも少し試してどんな効果があるのか確認してからあげるかどうか決めよう。
何となくだけど、この剣の柄。破壊力がある武器のような気がする。
そうなるとデカ銃と同じで、もっと他の武器から試してもらったほうがいい。
凛「ちょっと考えさせてもらってもいい? 何をあげるか考えておくよ」
未央「ホントに!? やったぁー!」
喜ぶ未央に、飛行リングを大事に持ちながら嬉しそうに私たちを見る卯月。
凛(こうやってみんなで楽しみながら新しい武器を試したりできるのは今まで考えもしなかった)
凛(やっぱり、二人とも)
私と一緒に、ガンツの部屋で……。
脳裏に浮かんだ未来を思うと口元が緩む。
ああ、早く……。
早く、二人も私と同じように……。
私の想いは強くなり続ける。
今日はこのへんで。
凛「未央、卯月、今日はそろそろ帰ろうか」
もう12時にさしかかろうとしている頃、私は二人に提案する。
流石に目に見えて疲れが見えている。
これ以上は明日に疲れも残るし、二人の健康にもよくない。
卯月「はい……流石に疲れちゃいましたね」
未央「初日から張り切りすぎたねー」
まだ最後の武器は試していないけど、あのあと二人の動きを見てアドバイスをし続けていた。
今日一日で未央はかなりスーツの使い方を覚えることができて、卯月は飛行リングを使った動きを試し続けて、二人ともかなり動けるようになってきている。
私の経験上、すでに田中星人くらいなら二人の動きについて来れないだろう。
それくらい予想以上に二人の成長が早い。
このまま次の狩りが前回みたいに1ヶ月くらいの猶予があれば、二人をかなりのところまで育てることができそうだ。
凛(今日一日でかなり動けるようになったし、明日は武器を使ってもらおうかな……)
二人に武器を使ってもらう。
私の目的のためにも絶対に必要だけど、多分まだ二人には殺すための武器を使うことに抵抗があるだろう。
二人が武器を使うことに戸惑わずに自然に使えるようにしないといけない。
凛(どういう方法で使ってもらおうかな……)
私は二人の育成プランを練りながら帰路に着く。
次の日、昨日とは別の山に来ている。
訓練場として加工もしていない木々の生い茂った山。
その山の一角、崖となっている場所に腰を下ろして私は二人に説明を始める。
今日二人にやってもらうことを。
未央「しぶりん、昨日とは違う山だけど、今日はここで何をするの?」
凛「ええと、土木工事……かな」
卯月「えっ?」
私は崖の下の森を指差して言う。
凛「今日はこの崖の下に訓練場を作ろうと思うんだ」
未央「この下って……すごい森だけど」
卯月「あの森を訓練場にですか?」
凛「うん」
未央「えっと……訓練場って言ったら昨日みたいな広場だよね?」
凛「そうだよ、それを今からみんなで作ろうと思うんだ」
卯月「みんなって……3人でですか?」
凛「うん」
未央「……しぶりん、何年かけるつもりなの?」
凛「今日一日で作ろうと思うけど」
私の言葉に二人はポカンとした顔で言い返してくる。
未央「いやいやいや、無理でしょ……」
卯月「そ、そうですよ。こんなところに昨日みたいなグラウンドを作るなんて、無理ですよ……」
まあ、普通に考えて無理だろう。
だけど、デカ銃を使って潰しまくればあっという間にできてしまう。
でも、今日はそれにひと手間加えることにする。
凛「できるよ。昨日の場所も私一人で作ったんだし」
未央「……マジ?」
卯月「ど、どうやってですか?」
凛「説明するより実際にやってもらったほうが早いから、私についてきてもらえるかな?」
頷く二人に、私は立ち上がり、目の前の崖に身を投げる。
未央「ちょ!?」
卯月「凛ちゃん!?」
二人の悲鳴を後に、私は崖下に着地し上に向かって叫ぶ。
凛「二人も跳んできて!」
二人にも下りて来てもらうよう手を振るが、崖から顔を出したまま二人は中々飛び降りてこなかった。
私が飛び降りてからしばらくして、二人は空中をゆっくりと降下してきた。
卯月が装着している飛行リングの力で空を飛んで降りてきている。
未央は卯月に抱きかかえられるようにして二人とも私の前に降り立った。
凛「スーツを着てるんだし、飛び降りても大丈夫だよ?」
未央「わ、わかってるけど、あんな高いところから簡単に飛べないって!」
凛「……それもそうだね」
何度か飛び降りをして慣れてもらおう。
それか高い場所でジャンプして移動する訓練とかもやってみようかな。
まあ、それは後、今は二人に優先的にやってもらわないといけないことがあるんだし。
思考を戻し、私は二人にあるものを手渡す。
卯月「凛ちゃん、これなんですか?」
黒い剣の柄を両手でもちながら首をかしげる卯月。
凛「これは伸縮自在の剣。ガンツの道具の一つ」
二人には以前に少し説明はしたけど、実際に見せるのも触らせるのも初めてだ。
未央「これが……」
卯月「け、剣、ですか……」
二人ともこれが武器だとわかってゴクリと喉を鳴らして黒い柄を見る。
凛「柄にスイッチがあるでしょ? それを押すと刃が延びるから、試してもらえるかな?」
二人とも頷き恐る恐ると言った感じで剣の刃を伸ばした。
凛「そうそう、それくらいで大丈夫」
剣の長さは1メートルくらい伸ばしてもらって止める。
凛「それじゃ、二人ともそれで木を斬っていこうか」
未央「へ?」
卯月「こ、これでですか?」
凛「うん。かなり斬れ味はいいからこれくらいの木なら簡単に斬ることができるよ」
私は見本を見せるように、剣を伸ばし横に凪ぐようにして木を斬り飛ばす。
未央「うわ……」
卯月「こんなに大きな木が……」
10メートル近い木が地面に落ちズズンと地響きを起こす。
凛「こんな感じで二人にも木を斬ってもらおうと思ってるんけど。どう? できそうかな?」
未央「ど、どうだろう?」
卯月「う~ん……」
二人は木を見たあとに、手の剣を見て首をかしげている。
本当に自分が木を斬る事ができるのかと疑問に考えているのかもしれない。
そう考えてくれているなら私の目論見は成功した事になる。
この剣は、この場では武器ではなく、木を斬るための道具。
そう思いこんでくれることが重要。
武器と考えずに、武器を使ってくれるようになってくれることが重要。
念のために確認をしておかないと。
凛「どうしたの? 難しい顔して」
未央「え? いやぁ……本当に切れるのかなって思って……」
凛「大丈夫、私が斬って見せたでしょ?」
卯月「は、はい。それでもこんなに大きな木を……」
よし、二人とも木を斬るという事に意識を持っていってくれた。
おかげでさっきまで恐る恐ると言った形で持っていた剣に対しても今はそこまで抵抗なく持っている。
このまま曖昧な状態で剣を使ってもらうためにも……。
凛「それじゃあ、一緒にやってみようか」
未央「え?」
私は未央の後ろから手を回し、未央に剣を構えさせる。
未央「ちょ、しぶりん?」
凛「こんな感じで持って……うん。こうやって木に向かって構えて……」
木に向かって剣を斜めに構えさせて私は未央の手を離す。
未央「しぶ……」
凛「あっ、その体勢のまま動かないで!」
未央「うっ、うん……」
振るだけで木が私たちとは逆方向に倒れる形に斬れるように未央の姿勢を、剣の位置を確かめる。
未央は最初は動こうとしたが、私がなんども姿勢や剣の位置を調整していると、姿勢を維持しようと動かなくなってくれた。
そして、剣を振るだけで木を斬り倒せる形になって。
凛「いいよ、そのまま腕を前に押し出すように振ってみて」
未央「こ、こうかな?」
未央が振るった剣は大木の中心から斜めに後方へ倒れていき、倒れた振動がズズンと私たちに伝わった。
未央「う、わ……」
卯月「す、すごいですね……」
凛「ほら、できたでしょ?」
未央「うん……こんな簡単に、あんなに大きな木を……」
凛「こうやってどんどん斬っていって、最後に仕上げをすれば昨日みたいな広い訓練場が完成するんだ。だからどんどん木を斬っていってもらえると助かるんだけど」
未央「う、ん……やってみるね……」
凛「お願いするよ」
私がそう言うと、未央はコクンと頷く。
凛「卯月も斬り方を教えるからこっちに来てもらえるかな」
卯月「あっ、わ、わかりました」
そうして二人に木の斬り方を教えて、伐採作業が始まる。
二人とも最初はうまく斬れないで四苦八苦していたが、少しづつ斬り方がうまくなっていっていった。
この森一面を斬り尽くせば、剣での斬り方の基本は身体に覚えさせることもできる。
何より、斬るという事に慣れてくれることが今回の最大の目的。
二人とも木を斬る事は問題なくできるし、後何回か別の日に今日と同じように木を斬る訓練を行ったら別のものを斬っていってもらおう。
こうやって剣に慣れてもらう。
最終的な目標に向かって……。
凛(……いい感じ、二人ともどんどん武器を使うことに慣れていってる……)
剣を振るって木を斬る二人の姿を見ながら、私は一旦崖の上に移動する事にする。
凛「二人とも、木を斬るのを続けてもらえるかな。私は仕上げの道具を持ってくるから」
未央「はいはーい、とりゃっ!」
卯月「わかりましたー、えいっ!」
二人に声をかけて私はその場から跳躍し、崖の上に、デカ銃を入れた鞄の場所に戻ってきた。
木をある程度まで斬ったらこのデカ銃で木の残がいを潰して平地を作っていく。
その作業は私がやるつもりだ、今日の二人の作業は剣を使って木を斬っていく作業のみ。
まずは一つの事に集中してもらおうと考えている。
銃を撃つのはまた今度。
そうやってデカ銃の鞄を開け、中からデカ銃を取り出しその場に置く。
それと一緒に2本の剣の柄も取り出す。
昨日試せなかった、最後の追加武器。
二人が木を斬っている間に、私はこれを試そう。
私は剣の柄を持ち見た目を調べてみる。
いつもの剣と同じ様に伸縮用のスイッチがある。
違うところは、鍔が長方形で20センチ近い幅があるのと、伸縮用のスイッチとは別のスイッチがあること。
それ以外はいつもの剣と殆ど変わらない剣だ。
凛「これも剣なのかな?」
とりあえずいつもの剣と同じように伸ばしてみると。
凛「かなり幅のある剣……」
剣の刃は鍔の部分と同じくらいの幅で刃が伸び、巨大な剣が2本、私の手におさまった。
凛「こういうの、大剣って言うのかな? いつもの剣とそう変わらないような感じだけど……」
大きくなっただけで特に何か変わったような感じはしない。
試しに木や岩を斬ってみてもいつもの剣とそう変わらない斬れ味だった。
凛「違うところ……やっぱりこのスイッチ……」
柄の中央についているスイッチ、強く握り締めることで押すことができるスイッチ。
まずは片方だけと右手の大剣のスイッチを押してみる。
キュウウウウン。
大剣から起動音が発生する。
凛「何?」
何かが起きている様だが、見た目は何も変わらない。
凛「一体……」
しばらく大剣を見るが何も変化もなかったので、実際にスイッチを押しながら斬りつけてみようと思って一歩進もうとしたときに、私の周囲に変化が生じている事に気がついた。
凛「? 何、これ?」
私の半径5メートルくらいに広がるような円状の窪みができている。
一歩進むと、その窪みが前方に広がった。
凛「??」
もう少し進んでみる、すると、広がった窪みが草むらに達したところで、草木が押しつぶされる。
凛「! 今のは……」
スイッチを一旦放して、進むと今度は特に何も起きない。
凛「……」
私は剣を伸ばして木の枝を斬りつけて、それを拾って足元においてみる。
そして、もう一度スイッチを押すと、
凛「!! 潰れた……」
枝が完全に潰れる。
まるでデカ銃で押しつぶしたように。
凛「……一体どういう事なの?」
右手に持った大剣をまじまじと見ながらさらに試し始める。
それから、何度か試してみた結果、このスイッチを押すと、自分の周囲5メートルくらいに円状の超重力フィールドを作り出すことができることが分かった。
そのフィールドは大剣を持った私を中心に形成され、範囲内のものは木でも岩でも全て押しつぶされたからどれくらいの重力が発生しているのかは想像できないくらいだ。
だけど、その重力は私自身には影響がなく、普段と変わらずに動くことができる。
凛「これは……また強力な武器だね……」
スイッチを入れるだけでデカ銃と同じような効果を、自分は受けずに自分の周囲に発生させることができる。
凛「だけど……巻き込んでしまう可能性があるから、むやみに使うのは危険……」
そう、これを使って未央や卯月を巻き込んでしまう可能性もある。
使いどころは慎重にしないと……。
とりあえずはこれも使いこなせるように訓練しなければならない。
右の大剣のスイッチを切り、左の大剣のスイッチを入れる。
同じ大剣だったから、左も同じ効果だと思って何気なくスイッチを入れた。
だけど、左の大剣は右とは違う効果を生み出した。
凛「あれ?」
今度は周囲5メートルくらいの空中に土や砂が漂っている。
風に運ばれてきた葉っぱが、フィールド内に侵入してくる。
さっきまでだったら押しつぶされていた葉っぱだが、今は押しつぶされることもなく空中で漂い始める。
凛「……」
その葉っぱがフィールドの外になるように動いてみると、5メートルを超えたところで、葉っぱは再び重力に引かれる様に地面に落ちていった。
凛「……逆?」
一旦スイッチを切って、手のひらサイズの石を掴み、再度スイッチを入れて石を離して見る。
すると石は空中で静止して、その場に留まる。
凛「やっぱり、さっきの逆で、今度は重力がなくなってる?」
さしずめ、無重力フィールドって言ったところかな?
これは……どうなんだろう?
まあ、敵との近接戦闘で、敵に隙を発生させるのには使えるかもしれないけど……。
色々使い方を考えてみよう。
そう考えて、スイッチを切ったところでふと思った。
凛「これ、両方スイッチを入れて、起動したらどうなるのかな?」
凛「……試してみよう」
そうやって、二つの大剣を同時にスイッチを入れて、効果を発動する。
凛「……何も起きない」
今度は何も起きなかった。
両方の効果が発生して打ち消しあってしまったのかな? と思っていると。
凛「?」
目の前に何か小さな歪みが起きている。
それは徐々に大きくなってきていた。
その何かを中心に空間が歪んで、何かが形成され始めている。
それを見て、私は全身に寒気が走る。
日々の戦いで培った第六感、それが全力で信号を発している。
私はすぐさまスイッチを切り、後方に跳躍する。
そして私が跳躍したと同時にその何かがあった場所が弾けた。
凛「~~~っ!?」
光が爆発するように広がったかと思ったら、その光は途中で止まり、何かがあった場所に吸い込まれるように引き付けられて消えた。
何かがあった場所の周囲数メートルが円状に削り取られて消え去っている。
凛「はぁっ……い、今のは、一体……」
何らかの現象が発生したようだったが、何が起きたのかは分からない。
だけど、明らかに起こしてはいけない何かを起こしてしまった。
全身に冷や汗が流れ続けている。
その場で膝を付き、今起きた現象が一体なんなのかを考えていると、私の後ろから声が聞こえてくる。
未央「おーい、しぶりーん! 終わったよー!」
卯月「あれ? どうしたんですか?」
空中に浮かぶ卯月と、その卯月に抱きかかえられた未央が私を呼んでいた。
未央「って、何かすごい事になってるけど……」
卯月「だ、大丈夫ですか、凛ちゃん」
私の周囲を見て二人とも驚きながら近づいてくる。
凛「だ、大丈夫。ちょっと新しい道具を試してたら失敗しちゃってさ……」
未央「し、失敗って……」
卯月「ほ、本当に大丈夫なんですか?」
あらためて見て見ると、最初に来た時とは違い、地面は抉れていて、木々は吹き飛んでいたり削り取られていたりで結構すごい状況だ。
私は大剣の刃を納め立ち上がる。
凛「大丈夫、それよりもそっちは終わったの? 結構早かったね」
さっき起こしてしまった現象は後で考える事にして、私は二人に問いかける。
二人がやる気を出してガンツの道具を使ってくれている今、二人の育成が最優先だ。
私は崖の下を見てみる。
すると、かなりの範囲の木が切り倒されている光景を見た。
その範囲に軽く驚く。
凛「すごい……二人ともよくここまで早くできたね」
私が驚いていると、二人は顔を見合わせて笑いあう。
私が驚いているのを見て嬉しがっている。
なんというか、サプライズに成功した子供みたいな反応だ。
未央「苦労したんだからね! 最後のほうは2,3本まとめて切ったりなんかもしたんだからさ!」
卯月「私は一本一本切るのが精一杯でしたけど、頑張りましたっ!」
その反応に私は満足する。
二人ともかなり斬る事に慣れたみたいだ。
また別の方法で二人に剣を使ってもらう機会を作り出そう。
後は、今日の仕上げに……。
凛「ありがとう、二人とも。それじゃあ、最後に私が仕上げをして訓練場を完成させるよ」
私はデカ銃を手に持って崖の端に立つ。
二人とも私が持ったデカ銃に視線を向けながら問いかけてくる。
卯月「仕上げって、その大きな機械を使って何かするんですか?」
凛「うん。これは上から押しつぶす効果がある道具だから、二人が斬ってくれたところをこれで綺麗にして完成」
未央「……お、押しつぶす。……それも確か銃だったよね?」
凛「そうだよ。ま、銃って言ってもこうやって使う以上、便利な道具ってしか思えないけどね」
卯月「べ、便利な道具ですか……」
凛「そう、便利な道具。卯月が使ってくれてる、その飛行リングと一緒だよ」
卯月は装着しているリングに触れながら、デカ銃を見続けている。
凛(こうやって少しずつ武器に対する忌避感を薄れさせていこう……)
今はこれでいい。まだ始まったばかりなのだから。
凛「それじゃ、ちょっとやってくるから二人は待っててよ」
卯月「あっ、はい」
未央「りょーかい」
私は二人に背を向け、木々が散乱する森だった場所に飛び降りる。
それから数十分もしないうちに作業は完了して、新たな訓練場が完成した。
それからは、昨日と同じようにスーツを使って動いてもらったりしているうちに、また12時になり帰る事になった。
二人の育成は順調。
明日は実際に銃を撃ってもらうことにしよう。
それも楽しみながら出来るような方法で……。
私は思考を巡らせ続ける。
今日はこのへんで。
次の日、私達は昨日作った訓練場で、新たに斬り倒した木をナイフくらいの長さに伸ばした剣で球状に削りボールを作っている。
今日の訓練で使う用のボールを100個ほど作り出している。
3人で木のボールを作って、軽い球遊びをする予定。
未央「しぶりん、できたよ」
卯月「未央ちゃん、早いですね~」
凛「私ももうちょっとでできるかな……」
私達の周りには沢山の木のボールが転がっている。
未央「でもさー、こんなに沢山作ってどうするの?」
凛「今からやる事に必要なんだけど、まあやってみればわかるよ」
卯月「できましたっ! やっと完成です!」
卯月が最後のボールを作り出して、100個近いボールが完成した。
私は転がっているボールを掴み、指に乗せて回転させる。
完全な球体じゃないからすぐバランスが崩れ落ちてしまう。
もう一度ボールを拾って片手に乗せて二人に今日の訓練の説明を始める。
凛「それじゃあ、今日はこのボールを使って訓練をするよ」
未央「この木のボールを使って?」
凛「そう、とりあえず……卯月、受け取ってみて」
卯月「えっ?」
最初は軽く投げる。
卯月は胸で抱きしめるように受け止めた。
凛「ナイスキャッチ。こんな感じでお互いキャッチボールをしていこう」
卯月「は、はい。それじゃ、未央ちゃん。はいっ!」
卯月の胸から押し出すようなパスを未央は受け取り、
未央「おっとっと……キャッチボールねぇ……」
未央はボールを見ながら、私に軽く投げてきた。
未央「ほいっ、しぶりん」
凛「ナイスパス」
それを受け取って、また卯月に投げ返す。
しばらくは軽く投げて受け取るの繰り返し。
少しずつ慣れてきて、バレーのトスが始まった。
未央「しまむー、トス!」
卯月「はいっ! 凛ちゃん!」
卯月が押し上げたボールは山なりの軌道で私に向かってくる。
未央「しぶりん! スパイクー!」
凛「よっ! と!」
ボールを破壊しない程度の力を込めてスパイク。
それをレシーブしようとした未央だったが、手に当たった時点でボールが弾けとんだ。
未央「うわっ!?」
卯月「あっ! 壊れちゃいましたね……」
凛「早速1個目……早かったね」
私はもう一度作ってあるボールを手に取り手の上で回転させる。
凛「二人とも見てもらってわかったと思うけど、スーツの力でボールを投げたり叩いたりすると簡単に壊れるから、次はなるべく壊さないようにキャッチボールを行うよ」
今度はもう少し早く未央にボールを投げる。
未央「うわっと!? こ、壊さないようにって、強く投げなければいいんじゃないの?」
ボールを受け取って首をかしげながら聞いてくる未央。
凛「駄目。最終的には全力で投げて、そのボールを壊さないようにキャッチを繰り返せるようにするつもりだから」
卯月「全力、ですか?」
凛「そうだよ」
もう一つのボールを拾って卯月に投げる。
卯月がキャッチして二人ともボールを手にしたら、それを私に投げてもらうようにお願いする。
凛「試しに私に全力でボールを投げてみて」
未央「え……多分メチャクチャ早いボールになっちゃうよ?」
スーツの力がどれくらい身体能力を上昇させるかを訓練を始めて理解した未央が言う。
確かに、時速300キロくらいは軽く出るボールになるだろう。
至近距離でそのスピードのボールを投げられたら、流石に反応ができない時もありそうだけど、スーツを着ているしぶつかっても特に問題は無い。
未央は投げる事に躊躇っているが、もう一度お願いすると、野球のピッチャーのような投げ方で私に投げてくれた。
球は超剛速球、多分300キロは超えている。
凛「ふっ!」
放たれたボールは私の身体を当たらないように飛んでいくボールだったが、手を伸ばしてボールを掴み、身体を何度も回転させて威力を殺し、二人にキャッチした無傷のボールを見せる。
凛「こんな感じかな。やり方は色々あるから、二人とも壊れないようなボールの取り方を考えてみてよ」
未央「……」
卯月「……」
無言でとんでもないようなものを見る眼で私を見る二人。
凛「そんな顔しないでよ……慣れだよ、慣れ。何度もやってれば二人ともできるようになるって」
卯月「そ、そうですか……が、頑張ってみますね……」
未央「慣れ……慣れかぁ……そっかぁ……」
とはいっても二人にすぐできるとは思っていない。
私もさっきの動きは10回やって1回できるかどうかだ。
キャッチするだけならまだしも、あれだけのスピードの、しかも木のボールを壊さないでキャッチするなんてそうそうできない。はっきり言って運がよかっただけ。
二人にはとてもできないような到達点を見せておいて、本当の目的は別にある。
それは剛速球に慣れて、動体視力を鍛えてもらうことだ。
キャッチすることができなくても、ボールがある程度見えるようになれば、大抵の宇宙人の攻撃も見ることが出来るようになる。
このキャッチボールも時間をかけて最終的には3人でボールを高速でパス回しを出来るようにしたい。
その目標に向かって、とりあえずはキャッチボールの続きだ。
凛「それじゃ、ちょっとずつスピードになれて行こうか。はい、未央」
未央「うわっ!? 速いよ!?」
凛「卯月も、はいっ」
卯月「きゃぁっ!?」
しばらくキャッチボールを続けて、50個ほどボールが減った頃。
未央「やっぱり無理! というか夜にこんな速さのボールを取るのなんて無理だって!」
卯月「うぅ……私、取るどころか、当たってばっかりで、ドッジボールをしているみたいです……」
流石に根を上げてしまった二人。
特に問題は無い、いきなりできるとも思っていないし。
凛「そっか、ならまたじっくりと訓練して慣れて行こうか。いつか二人ともできるようになると思うし」
卯月「うぅ……頑張ります……」
未央「私も、頑張る……」
少し落ち込んでいる二人に、慰めではないけど思った事を伝える。
凛「そんなに落ち込まなくても、二人とも最初よりスーツの力を引き出せるようになっているし、かなり強くなってきたと思うよ」
卯月「ほ、本当ですか!?」
凛「うん。もう二人の動きは、弱い宇宙人だとついて来れないくらいの動きをしてるから、私も二人を頼ることが多くなるかもしれないね」
未央「しぶりんが、私たちを……」
私の言葉は二人にやる気を引き出させたのか、
未央「よーっし! しぶりん! 続きやるよ続き!」
凛「あれ? 今日はもう止めるんじゃ……」
卯月「私はまだ取れても無いんで、凛ちゃんの球を取れるまで頑張りますっ!」
凛「そう? 二人がいいなら続けるけど」
そのままもうしばらくキャッチボールを続けて、残りの球が20個になったところで、二人とも100キロを超える球をキャッチできるようになっていた。
やっぱり二人とも成長が早い。
本当に先が楽しみだ……。
まだまだやる気を見せている二人に、丁度いい頃合だと思い、次の訓練の提案をする。
残りのボールを、銃で撃ってもらう訓練を。
凛「二人とも、そろそろ次の訓練に移ろうか」
未央「おっ! 何かな!?」
卯月「次は何をするんですか?」
私は二人に小銃を渡す。
送る用のY字銃ではなく、殺す用の銃。
これを今日から使っていってもらう。
未央「あ……これって……」
卯月「……銃、ですね。それも送る用じゃない……」
凛「二人はスーツの力をいい感じに使えるようになっているから、銃を使った訓練もして行こうと思うんだ」
未央「……」
卯月「……」
二人とも冷や汗をかきながらまじまじと手の銃を見ている。
凛「やっぱり緊張する?」
未央「……まあ、少し」
卯月「はい……」
やっぱりまだまだ銃に対する抵抗があるか……。
剣みたいに木を斬る道具だと思いこませれないし、この銃はデカ銃と違って撃ったら対象が破裂する銃だ。
うまく誤魔化して使わせることができない……。
だったら、正攻法で使ってもらう……。
凛「二人とも、この銃を使って慣れておく事はいざというときの為に大事なことなんだ。これからこの銃を使うこともあるかもしれないし、今のうちに使い方を……」
卯月「……大丈夫です」
未央「……うん、そんなに心配しなくても大丈夫だよ」
凛「え?」
卯月「私達、撃てますから。もう覚悟はしていますから……」
未央「……私達はしぶりんを守れるくらい強くならないといけないんだし、その為に撃つ訓練もちゃんとするよ」
私が思っているより二人とも撃つ覚悟をしていたみたいだ。
とてもいい傾向。これなら、もう少し先延ばしにしようと思っていた射撃訓練もやっていく事ができそうだ。
凛「そっか、わかった。それじゃあ、二人とも、今日はボールをターゲットにして射撃訓練をしてみようか」
卯月「はい……」
未央「うん……」
そうやって二人に空中に投げたボールをロックオンして撃つ練習をしてもらう。
20個のボールはすぐなくなってしまったから、新しく木を斬って、追加のターゲットを作り出す。
こうやって射撃訓練も完了し、今日の訓練を完了した。
二人の育成はすこぶる順調。
二人の訓練を始めて2週間近く経った。
その間に、玄野たちとの合同訓練もやったりして、チームとしての訓練も順調にできている。
玄野は私を中心にした戦闘訓練をしたいみたいだけど、私は二人との訓練を優先にしているから二人が育ちきるまでは待ってほしいと保留にしてある。
そうして、日々の訓練を行い、追加になった100点武器もある程度使いこなせるようになり、私は先の狩りで最後に起きたあのガンツからの通信を行ってきたちょび髭と名乗る男と会う事を考え始めていた。
凛(そろそろあの男……ちょび髭とかいう男に会って情報を得よう……)
あの男の事は玄野たちには話していない。
未央と卯月にもまだ話さない様にとお願いしてある。
まだあの男の正体も分からないし、あの男から情報を得てから全て話したほうが手っ取り早いからだ。
凛(会うなら、明日の昼……)
明日は日曜日で、二人は夕方までアイドルの仕事がある。
昼はフリーだから、あの男を呼び出して情報を得て、夜に二人にも話してあげよう。
凛(だけど、どこに呼び出すか……)
街中……ガンツの話をするのに人のいるところは駄目。却下。
私の家……却下。
訓練で使っている山の中……悪くは無いけど、訓練場を知られるのは嫌だし、できれば他の場所にしたい。一時保留。
凛(……そうだ)
ふと思い出したのは巨大ロボットの存在。
ロボットにも透明化を使えるから昼でも誰かに見られる事はない。
あのコクピットの中は、結構な広さもあるし、絶対に誰かが来る心配も無い場所。
凛(ロボットの中にしよう。あそこならコクピットを閉じてしまえば1対1、そうなればあの男が何をしてこようとも何とかできる)
凛(決定。そうなったら夜の内にロボットをどこかに転送しておいて透明化をかけておかないと)
私はすぐに家を出て、いつもの訓練場とは別の山の中腹にたどり着きロボットを転送する。
すぐにロボットに透明化を行い、その状態を維持する。
凛(これでよし。後は……)
私は公衆電話を探し、古びた電話ボックスを見つけ、そこの電話からあの男から聞いた電話番号にかけはじめる。
もう1時をまわっているが、気にせずに電話をかける。
出ない可能性もあると考えたが、そんな心配を余所に、1コールで電話は繋がった。
「久しぶりだな。何時までたっても連絡がなく不安になっていたところだよ」
凛「……えっと、私、名乗っても無いんだけど……」
「この連絡先は君達にしか教えていない。必然的にかかってくるのは君達になる、そういうことだよ『りんさん』」
凛「……明日会いたい。時間は正午。場所は○○国道にある○○トンネルの出口横の崖下を1キロ下りた場所。山の中腹」
「山か、確かに一般人はいないだろうが、それでもセキュリティが万全とはいえないな」
凛「……私とアンタ以外の誰も近づけない場所を用意してある」
「そうか。それならば構わないのだが」
凛「……それじゃ、伝えたから」
一方的に電話を切って通話を終わらせる。
準備はできた。
後は明日を待つだけ……。
次の日、私は透明化したロボットの上からフル装備であの男を待ち構えている。
ハードスーツを身に纏いバイザーを装着して、
リンクシステムはすでに起動し黒球は展開済み。
両手に双大剣を持ち、私自身も透明化を使ってロボットの上から辺りを見下ろしている。
正午まで後数分。
あの男が姿を現す気配が無い。
それでも警戒は怠らない。
念には念を入れる。ガンツの狩りと同じ意識で警戒をする。
そして、正午になったと同時に、ロボットから少し離れた位置に人影が見えた。
木々の隙間から見えるその人影は、紺色のスーツを着たあのちょび髭と名乗った男だった。
凛(来た……)
あの男は私を捜しているようだった。
こちらの透明化に気付いている様子ではない。
警戒を緩めず、私はロボットの上から跳躍し、あの男と10メートル程度の位置に着地する。
私が着地した事に気付いた男は、こちらに顔を向ける。
鋭い視線の男。
こうやって直に眼にすると、この男がかなり強いことが分かる。
男から私は見えないはずなのに特に動揺することもなく、隙らしい隙は全く見当たらない。
私は透明化を解除し、男の前に姿を現す。
「……ほう」
男は私を興味深そうに見ている。
どうやら私の持っている装備に関心があるようだ。
男の興味深そうな視線はすぐに鋭い視線に戻り、男は口を開く。
「さて、君の用意してくれた交渉の場はどこにあるのか教えてもらえるかな?」
特に挨拶もなく聞いてくる男。
私は指を上に指し、
凛「ここに透明化したロボットをすでに転送してある。ロボットのコクピットで話を聞きたいんだけど」
「なるほどな。いいだろう」
男の返事を聞き、私はロボットに飛び乗って、コクピットを開く。
男も遅れて、ロボットに飛び移ってくる。どうやら背広の下にはガンツスーツを着ているようだった。
私は男がコクピットに入ってくるのを確認してコクピットを閉める。
これで、この空間は私とこの男だけとなった。
「おや? 先日の二人はいないようだがいいのかね?」
二人の事を問いかけてくるが、それには答えず早速本題に入る。
主導権は握らせない。
凛「……まずアンタは何者? ガンツを制御できるって言っていたけどどうやって? カタストロフィって一体何? まずはこの3つの質問に答えてほしい」
「無駄話は嫌いという事かね? まあいいだろう」
男は私の質問に答え始める。
「私は愛知のブラックボールでミッションを行っているハンターだ。君と同じく、ブラックボールに選ばれた死者の一人。身分までは明かせないが、ある会社の長を務めている」
別のガンツでミッションを行っている人間……。
会社の長? 社長ってこと?
「二つ目の君の質問だが、ブラックボールを制御する事は高度なプログラミング知識があれば誰にでもできる。ブラックボール内の人間に接続されているコードの一つを外し、ミッションで手に入れたパソコンでも市販のパソコンにでもいいがそれを接続することで、ブラックボールのシステムにアクセスすることができる。後は自身の腕次第と言ったところか」
プログラミング知識? パソコンで制御できる? しかも市販のパソコンでも?
一体どういう事……。
「最後の質問、カタストロフィは約4ヵ月後に起きるであろう、超巨大隕石の衝突……もしくは超巨大宇宙船に乗ってやってくるであろう宇宙人との全面戦争のことだ」
凛「……は?」
必死に冷静を保っていたが、ついに声が出てしまった。
「他に質問はあるかね?」
凛「……その、超巨大隕石とか、超巨大宇宙船とかって、何? どういう意味?」
「そのままの意味だ。現在この地球に向かって大質量の何かが向かって来ている。今はまだ太陽系外に存在するその何かだが、確実にこの地球に向かって進行し、カタストロフィの日時に地球に到達することが分かっている」
「それが隕石か宇宙船かの判断はまだついていないが、隕石とは思えない不可解な軌道を描いていることからも宇宙船の可能性が高い。そしてその宇宙船に乗ってやってくるであろう宇宙人は地球を侵略する宇宙人である可能性が非常に高い」
ちょっと、落ち着こう。
凛「……その根拠は?」
「NASAを始め、各国の宇宙開発機関がデーターを観測している。特にアメリカ・ロシアではすでに対策チームが組まれ国家プロジェクトとして秘密裏に動いている」
凛「……聞いたこともないんだけど」
「公表した場合、世界中で混乱が予想されるからだ。どちらを公表しても世界中で大規模の犯罪が発生する可能性や、終末論を信じる者達が暴徒となる可能性が高い。それによって発生する死者は想像もつかないくらいになるだろう」
凛「……」
「他に質問は?」
落ち着け、混乱している。
凛「……どうやってそんな事知ったの?」
「私が所属するチームには政府にパイプを持つ人物が多数いる。他国の情報もある程度はキャッチすることができる情報網がある」
凛「……証拠は?」
「証拠か、それを立証する方法は、君が我等の同士となることだな。そうすれば我等の同士を君に紹介することもできるだろう」
凛「……」
「他に質問はあるかね?」
落ち着こう。
とにかく落ち着いて整理しよう。
カタストロフィの事はこの男が言っている内容が真実かどうかは分からないから、一旦保留。
さっきの回答の一つ、ガンツを制御する方法について気になる事を言っていた。
それを聞こう。
凛「さっき、ガンツの制御法でパソコンを使うとか言っていたけど、ガンツに市販の、普通に売っているパソコンを使って制御することもできるの?」
「可能だ」
凛「……どうして?」
「ブラックボールはドイツの企業が製造した兵器だ。内部のプログラムの一部は既存のプログラムを使用されていて……「待って!!」……なにかね?」
男が言った言葉が信じられない。
凛「ガンツって人が作ったの!?」
「うむ、ブラックボールは人間が作り出した兵器だ」
凛「……嘘、でしょ?」
「事実だ。ドイツ有数の大企業、マイエルバッハが製造し、ブラックボールを世界中に設置しブラックボールミッションを行わせているのも同企業だ」
凛「……何、それ」
この男は全て嘘を言っているのではないかという考えがよぎったが、嘘を言っているようには見えない。
それにそんな嘘をついても意味が無い。
だとしたら本当に?
男の話はさらに続く。
今日はこのへんで。
「信じられないのは無理も無い、だが全て事実だ。私も事実確認の為に、マイエルバッハの会長に直接会って全てを聞き出した」
凛「…………待って」
「何かね?」
凛「……少し待って。落ち着かせて」
「構わんよ」
ガンツを人が作った?
人を生き返らせたり、転送したりできるガンツ。
あのとてつもない性能のスーツや武器の数々。
あんなものを作り出すことができる?
科学とかは詳しくないけど、明らかに現代科学の域を超えた技術じゃないのか?
それともその会社はとてつもない技術を持った会社なの?
地球一の技術を持った会社……?
わからない……。
凛「……その、マイエルバッハって会社がガンツを作り出したって言うけど、あんなものを人間が作り出すことなんてできるの?」
「私はブラックボールの製造工程も全てこの目で見た。間違いなくブラックボールは人間の手によって作られている」
凛「……」
嘘を言っている気配は無い。
頭の整理が追いつかない。
情報が多すぎて混乱している。
凛(……落ち着こう)
よくわかった。
この男はガンツの真相を知っている可能性がある……。
今日はある程度情報を得られればいいと思ってきたけど、謎だったこと全てが知れるのかも知れない……。
信用してもいいのか分からない……でも、可能性の一つとしてなら頭に入れておいてもいい……。
凛「……ふぅ」
「……」
私は少し移動し、コクピット内の腰をかけれる場所に座り、展開していた武器の操作を始める。
大剣の刃を納め、リンクシステムを切り、バイザーを外して男に向き直る。
これ以上敵意を向けて、男に不快感を与えてしまい情報を得ることができなくなる可能性もある。
話をして分かったけど、この男に会話のアドバンテージを握られ続けている。
私が優位に立って話を進める事はできないという事が思い知らされた。
フル装備の私を見ても臆することもなく話し続けている男。
威圧するのも意味が無い事を思い知った。
「武装を解除してどうしたのかね? 私を信用して解除してくれた、つまり我々の同士となる決心がついたという事かな?」
凛「……アンタ達の仲間になるとかはまだ決められない。でも、アンタに敵意が無いって事はわかった。私の用意した罠があるかもしれない場所に来て、何も調べようとせずに私との話を優先している。アンタは本当に交渉をしにきただけだっていう事が分かったから、私も敵意を向ける事は止めにしたって事」
「君からしてみれば得体の知れない相手、警戒する気持ちは分かるし、君の行動に文句をつけるつもりは無い。当然の行為だと思うからな」
男も移動し、私の対面になる段差に腰をかける。
射抜くような鋭い視線は変わらず、男は私を見ている。
その視線を受けながら私は頭の整理が付いて来ていた。
凛(……よし)
凛(大分落ち着いた。さっきは混乱しすぎていた)
凛(これからは、一つずつ質問していく)
凛(真実がなにか分からないけど、こうなったら全てを聞いて真実かどうかはまた判断する)
凛(情報を得る。正しいか正しくないかは別、この男から情報を全て得る)
私はそう考えを改めた。
信憑性は定かで無いけど、全て聞きだした後自分で判断する。
凛「一つずつ、聞いていきたいことがあるんだけど」
「何かね?」
凛「まずはガンツのこと。ガンツを人間が作ったのなら、どうしてあんな事を、狩りを私たちにさせているの?」
「ミッションの目的か…………端的に言うと、ギャンブルだな」
凛「…………は?」
「ミッションは賭けの対象となっているのだ」
凛「……賭け?」
「世界各地の政治家や王族、各種方面の有力者たちが会員で映像は全てがリアルタイムに配信され、ミッションの結果を予想し賭けが行われているのだ」
凛「……私の戦いを賭けに?」
「そうだ」
凛「……沢山人が死んでるのに?」
「本物の殺し合いを見て楽しむといった娯楽は古代から現代に至るまで様々な形で行われてきたことだ。そう珍しいことではない」
凛「……」
思うところは色々ある。
だけど、殺し合いを見て楽しむのも、行って楽しむのも変わりは無い。
見ているほうも私と同じように狂った人間。
私が何かを言う権利など何も無い。
そう結論付けて次の質問をする。
凛「……次の質問、さっき言ってたマイエルバッハって言う会社が今聞いた事を全て行わせているんだよね?」
「ああ、正確にはマイエルバッハの会長が全てを企画した」
凛「その会長が賭けを企画して何か得することなんてあるの……?」
「賭けといっても、君の考えているようなレベルの賭けではない。一回のミッションで動く金は数百億から数千億、金だけではなく、様々な利権も賭けの対象になるのだよ。その胴元となるマイエルバッハが得る利益は小国の国家予算に匹敵するほどにもなると予想されている」
凛「……その会長ってミッションをやってないよね?」
「? 当たり前だ」
これは頭にくるものがあった。
お金を稼ぐんだったら自分で殺し合いの場に出て、自分で見ている人間を楽しませればいい。
勝手に人を使うのは…………。
そこで思い出した。
『新しい命を、どう使おうと、私の勝手です』
と言った、ガンツの一文を。
凛「そういえば、私が始めてガンツの部屋に行ったとき私は死んだと思ったけど、本当のところはどうなの? あの部屋に行った人間ってやっぱり死んでいるの?」
「……死んでいる」
凛「っ!!」
久しぶりに胸が締め付けられるような気持ちになる。
やっぱり私は死んでいた。
私だけじゃない、未央も卯月も……。
「ブラックボールの機能には転送と生物情報の記録というものがある。ブラックボールは範囲内で死んだ生物情報を記録しその生物に新たな肉体を与えミッションに参加させる。我々はブラックボールによって生み出されたコピーに過ぎん、という事だな……」
凛「……」
初めてこの男の顔色が歪んだ。
苛ついているような感じ、だがすぐに表情は戻る。
それに対して、私は多分苦虫を噛み潰したような顔になっているんだろう。
やっぱり死んでいた、それだったら今の私って一体何なの?
私だけじゃない、未央や卯月も一体何者なの?
……やめよう。これ以上考えても意味は無い。
今は情報、情報を得ないと。
そうやって無理矢理思考を戻し、私は次の質問に移る。
凛「……それじゃあ、次だけど、あのミッションのターゲットって一体何? あれもその会社が作った生き物なの?」
「あれは本物の宇宙人だ。間違いなく本物の、この地球上ではなく宇宙のどこかから来た生物だ」
凛「宇宙人……やっぱり本物だったんだ……」
「うむ。ミッションが終わった後、宇宙人の巣窟となっていた場所に宇宙船があったという事例も稀にある」
凛「宇宙船……」
「宇宙船に関しては、大抵その国の政府が押収している。日々研究は続けられているが、宇宙人のテクノロジーを解析できたという国はまだ無いな」
凛「…………?」
あれ? 国?
凛「……国って、宇宙人の事を知っているの?」
「先ほども言ったが、賭けの会員には政治家や王族もいる。ブラックボールや宇宙人については各国の上層部には周知の事実となっている」
国は知っている。
その言葉に、前から引っかかっていたことが繋がったような気がした。
凛「……もしかして、ガンツのミッションの後始末、国も協力してるの?」
「何故そう思う?」
凛「だって、ミッションが終わった後に残る痕跡って消えないでしょ? ……それに一般人が宇宙人に殺されてしまったミッションも何回かあった。だけど、ニュースで取り上げられるのは数日だけ、その後は取り上げられることもなくなって、情報自体も殆どなくなってしまうから」
「……ふむ」
今まで流暢に答えていた男の口が止まる。
男は少し考えるように顎に手をやり口を開き始めた。
「否定はしない。君の考えている通り、ミッションの処理については国も協力している」
凛「……やっぱり、その政治家とかがミッションの賭けをやっている事をばれないようにする為に?」
「その通りだ。はっきり言って賭けの内容が明るみになればスキャンダルどころではない。関わった人間すべてが非難の的になる事は目に見えている。政治家だけではなく、有力な会社の社長なども会員にいるのだ、それも各国に……」
「世界各国で同時に、国の重鎮、会社の社長、各種方面の有力者たちが失脚すれば、世界中で混乱が起きる。経済は破綻し、国は無政府状態になる国もあるだろう、影響がどこまで広がるか想像もできん」
凛「……大げさすぎない?」
「事実だ」
何かスケールの大きな話になっている。
いやいや、今までも色々とスケールの大きな話はあった。
……そう、世界が滅びるとか。
凛「……頭が痛くなってきた」
「無理も無いだろう。他に質問はあるかね?」
凛「……えっと」
質問……。
ガンツのことも聞いた。
宇宙人が本物だってことも聞いた。
カタストロフィのことも聞いた。
他に、聞くこと。
……あった。
凛「……ガンツの制御って、どこまでできるの?」
「制御自体は腕次第と言ったように人によって行える事は変わる。我々が今可能な事はブラックボールによる通信、武器の転送と言ったところか」
その回答につい言葉が出てしまった。
凛「それくらいしか出来ないの?」
もっと色々できると思っていた。
転送や再生も自由に、ミッションを自由にコントロールすることだって可能だと思っていたけどどうやら違ったみたいだ。
それだと制御しているもしていないも変わらないと思っていると、
「……今はそれくらいしか出来ない」
凛「……今?」
私が放った言葉に一瞬だけ目元がピクリと動いた男。
何かを、言わなくてもいい事を言ってしまったような、そんな感じを出した。
今まで会話をしていて始めて男から出た違和感。
「ああ、今はまだその程度しか制御をできていない。今後は全てを掌握し、人間を何度でも再生できるようにして、忌々しい頭の爆弾も取り除き、人の転送をできるようコントロールをする」
今度は違和感を感じない。
言った事をできると確信しているような言い方。
また引っかかる。
凛「……そんな事できるの?」
「可能だ」
断言された。
どうして、そんな事が可能だって言えるのか。
できてもいないことを何故出来ると言えるのか?
凛「何で出来るって断言できるの?」
「……我々には優秀なプログラマーがいる。その男が日々ブラックボールのコントロールを得る為に解析をしている。解析をしている段階で今言った内容を行えるプログラムを見つけているのだ。今はまだ制御し切れていないが、それも時間の問題という事だ」
凛「……そっか」
「他に質問は?」
何かをはぐらかされたような感じがする。
ガンツの制御に何かがありそうだけど、それに対して私は知ることも出来ないから問い詰められない。
次、ガンツの部屋で実際にパソコンを繋げて色々試してみよう。
私に制御をすることが出来るのかどうかは分からないけど、やらないよりはマシだ。
「質問が無いようなら、こちらの問いの回答を貰ってもいいだろうか?」
男が立ち上がり、私の目の前までやってきて手を差し出してくる。
「我々の同士にならないかね? 君だけではなく、君の仲間と思われるあの二人も一緒で構わない」
凛「……」
未央と卯月も?
ふとした疑問がわきあがる。
凛「あの二人はまだミッションを2回しか行ってない初心者だよ? アンタ達って何回もクリアをしている人間を仲間にしたいんじゃないの?」
「君が同士となるのならば問題ない。あの二人にも教育を行いカタストロフィで使えるようになってもらおうとは思っているがね」
凛「……二人が使い物にならなかったら?」
「その場合は、私の秘書でもやってもらうとするかな」
凛「……そう」
男の手を見ながら、私も立ち上がり。
少しだけ考えて、男に言った。
凛「すぐ決められない」
「……」
凛「二人にも相談しないといけないし、この場で私が答えることはできない」
「……そうか」
凛「時間をもらえるかな?」
「……構わんよ。だがカタストロフィまで時間は限られている。出来ればすぐにでも回答を貰いたいところだがね」
凛「相談してからまた電話するよ」
「……」
男は差し出した手をポケットに入れ、コクピットの出口に向かって歩き始めた。
「……では、私は失礼する。開けて貰っても構わないかな?」
操作しコクピットを開け外の景色が見え始めた。
男は最後に私を一瞥し、
「私が今話した内容、特にミッションの賭けに関する内容は内密で頼む」
凛「……そんなの話すつもりは無いよ」
国の陰謀とかを信じる人間なんて世間話好きのおばさんくらいだろうし。
「それならば安心だ。君がそういった情報をむやみやたらに話すような人間ではないと分かっているつもりだが、念のためにな」
凛「……アンタが私の何を知っているの?」
「色々と調べさせては貰ったよ。渋谷凛君」
凛「!?」
男の身体が放電をはじめ姿が消える。
凛「っ! 待って!!」
「忠告だ、我々は君を仲間にしたい。そのために知っている情報を包み隠さずに話した。だが、その情報が漏洩されると困る事になる人間がいるという事も忘れないで貰いたい」
「そういった人間は手段を選ばずに情報を封殺しようとしてくる。一般人である君達にはどうすることも出来ないようなやり方で」
凛「ちょっと!!」
ダンッ!っと大きな足音を残し少しして眼下の木が揺れた。
すぐにコントローラーを使って、男と同じ波長に合わせようとしたが、すでに人の気配はなく追うのは無理と判断してその場に座り込む。
凛「……私の事を知られていた?」
それに対して、私はあの男の事を何も知らないと言ってもいい。
恐らく会社の社長。愛知のガンツでミッションを行っている。政府にパイプを持つ仲間がいる。ガンツの制御を出来るプログラマーも仲間。それくらいだ。
後は電話番号くらいしか分からない……。
凛「ちっ……」
こちらからは何も出来ないし、何も分からない。
あの男は私たちに対して何でもできると言ってもいいのかもしれない。
個人情報が知られている以上、家も、家族も、友達も調べられているだろう。
あの男から何かしてくるような感じはなかったけど、今後どうなるか分からない。
それを防ぐためには……。
凛「……あの男の仲間にならないといけない……か」
半分脅しに近いようなやり方だ……。
仲間になった後、裏切られるとか思っていないのか……?
それとも裏切られないような何かをされる?
そこまでして私を仲間に引き入れる意味は何?
そうやって色々と考えるが回答はでなかった。
こうなってしまうと、二人に話すことも躊躇われる。
……しばらくは一人で考えよう。
そう結論付けて私はロボットを引き上げ、その場を後にする。
結局今日の夜の訓練では二人に男から聞いた事を話すことはなかった。
今日はこの辺で。
あの男との対話からまた2週間ほど経つ。
あの日の事はまだ誰にも話していない。
ガンツの真相、知ったところでどうすることも出来なかった。
黒幕の会社に襲撃を仕掛けたら、恐らく頭の爆弾を作動されてしまうだろうし、ミッションの事を公表しようとしても、あの男が言っていたように誰かが邪魔してくるのだろう。
未央や卯月に話しても同じだろうし、玄野たちに話しても変わらない。
むしろ話してしまうことによって、話した相手に危害が及ぶ可能性もある。
そう考えているうちに、真相は話さなくてもいいかと思い始めるようになった。
賭けの対象になっているというのは頭に来るところもあるが、あっちは私の狩りをただ見ているだけ、私から何かを仕掛けなければ特に何もやってこないだろう。
賭けの対象を減らすなんてあっちもしたくないだろうし。
そうなったら、今までと変わらない。
私は狩りをして殺し合いを楽しむだけだし、あっちはそれを見て楽しむだけ。
それにこの事を話して、二人にガンツの狩りに悪印象を持たれてしまったら私の思い描く未来が遠のいてしまう。
そう考えてしまったら、もう何も話せなくなってしまった。
最近は二人とも訓練を楽しんでいる節がある。
私の思い描くままに進んでいっている。
ここでイレギュラーが発生する事は好ましくない。
このまま次のミッションまで訓練を行い続け、ミッションで訓練の成果を発揮する事によって二人はまた何かが変わるはず。
宇宙人を二人に殺してもらうことで、私と同じように何かを感じてくれるはず……。
自然と口元が釣りあがり、胸が高鳴る。
訓練場で訓練の道具を作りながら考えていると、いつもより少し遅い時間、二人は訓練場にやってきた。
卯月「ごめんなさい! 遅くなっちゃいました!」
未央「ごめんごめん! 待ってたよね!?」
凛「ううん、今日の訓練の道具を作ってて、丁度今出来たからナイスタイミングだよ」
木のボールを軽く投げながら二人に今日の訓練を始めようと提案を行う。
凛「それじゃ、今日も頑張ろうか。まずは……」
未央「あっ、しぶりん。訓練の前に言っておかないといけないことがあるんだけどさ」
凛「? 何かあったの?」
未央「うん。今週の土日とサマーアイドルフェスに向けての合宿があって、2日間訓練を行えないんだ」
凛「……え?」
卯月「場所は福井なんで戻ってきて訓練を行うなんてことが厳しそうですから……」
凛「行く」
卯月・未央「え?」
凛「私も行く」
未央「い、行くって、私達の合宿についてくるの?」
凛「うん」
卯月「で、でも、凛ちゃんは参加できないと思いますよ?」
凛「参加はしないよ。でもさいつものように夜、訓練をしようよ」
未央「ちょ、ちょーっとそれは難しいんじゃないかな……」
卯月「は、はい。みんなもいますし、合宿宿からこっそりと出て行くのも難しいかなって思います……」
凛「……」
二人の言っている事は重々承知の上だ。
普通だったら私もこんな事は言わない。
だけど、二人は毎日私と一緒に訓練を行っている。
二人とも忙しいのに、私の為にこうやって訓練に来てくれている。
それが日常になっていて、その日常が変わるのが嫌だった。
私より、アイドルの仲間を選ぶ二人が嫌だった。
二人にはそんな意識はないんだろうけど、私の中でそんな感情が渦巻いている。
二人は私と一緒の世界に来てもらわないといけないのに、二日間一緒にいられなかったら、二人は私から離れていってしまうのではないかと思うと、つい口に出ていた。
二人は戸惑った顔をして私を見ている。
凛「……なんてね。分かってるよ、ちょっと寂しかったから言ってみただけ」
本心を隠しながら二人に告げると、二人は私をからかいはじめた。
未央「寂しい!? しまむー! ついにしぶりんが私達にデレはじめたよ!」
卯月「未央ちゃん、凛ちゃんはずーっと私たちに優しくしてくれているじゃないですか」
未央「あっ、そういえばそうだった!」
卯月「凛ちゃん! 凛ちゃんが寂しくないように、夜には必ず電話しますからねっ!」
未央「私も私も! 後お土産とかも買っていくからね!」
凛「うん……お願いね」
その日の訓練は少し身が入らずに終わってしまった。
この日から、私の頭の隅に、二人のアイドル活動を疎ましく感じる気持ちが生まれ始めた。
夜の宿舎、合宿に来ている卯月と未央の部屋。
二人は机に置いたチケットを見つめながら考えをめぐらせていた。
チケットはサマーアイドルフェスのチケット。
凛に渡すためのチケットだった。
卯月「未央ちゃん。やっぱりこのチケットに書くのは止めておきますか」
未央「そだね、ちゃんと私達の口から言ったほうが言いと思うし」
二人は当初、凛に対してあるお願いをこのチケットに書いて渡そうと思っていた。
だけど、それは自分たちの口から直接伝える事にしようと結論付けた。
そのお願いは、一度断られてしまっていたことだったから。
卯月「『私たちと一緒に、アイドルをやりませんか』……一度断られちゃってますし、直接お願いしないと駄目ですよね」
未央「うん。しぶりん、結構頑固だから一度断ったことを簡単にYESっていう事は無いと思う。直接何度も言わないと絶対に頷いてくれないと思うよ」
卯月「ですよねぇ~……」
二人がこの約1ヶ月、凛と共に訓練を始めて思ったこと。
やっぱり、凛と自分たちの相性はどこまでもいいものだと実感する。
訓練中も、凛の動きに引っ張られるように自分たちも動くことが出来る。
自分たちの動きに合わせるように凛が動いてくれる。
3人で訓練をしているとき、一体感というものを感じ続けていた。
凛が課す訓練は、日々のレッスンを、仕事をこなす二人にはかなりハードなものだったが、3人で訓練をすることで無駄な動きが殆どなく、効率的に訓練を行え続けた。
それも全て3人だから出来たこと、誰かが欠けても出来ない、相性が最高だった3人だったから行い続けることが出来た。
卯月と未央はそれを感じ、理解すると共に、以前に諦めたあの想いが互いの心に再度湧き上がる。
それは、凛とともにアイドルとしての道を歩んで行きたいという想い。
一度は断られた、だけどこうやって、ガンツの部屋を出るという目的を共に訓練するうちに再び想いに火がついた。
凛と共に歩んで行きたい。3人で一緒に、アイドルの道をどこまでも。
そのために、二人は計画をする。
凛にアイドルをやりたいと思ってもらうために、アイドルフェスで自分たちのステージを見てもらう。
このフェスを成功させる為に、練習も全力で取り組み、今までに無いくらいの練習量を自分たちに課し、それを行ってきていた。
凛を感動させれるくらいのステージを見せて、凛に見てもらって、その時に再び凛をアイドルに誘うために。
未央「次のステージ。しぶりんを超感動させて、思わずアイドルになる事をうんって言ってしまうくらいのステージにして、その後にアイドルに誘おう。そうすればしぶりんも私たちと一緒にアイドルになってくれるよ」
卯月「その時に断られても、次の、その次のステージでも誘い続けましょう。今度のステージはその第一歩ですね」
二人は満月が照らす夜空を見上げながら思いに耽る。
未央「みんなでアイドルのステージに立てたら、どんな景色が見えるんだろう?」
卯月「たぶん、いつもよりもっともっとキラキラで見たことも無いような素敵な景色が見えると思います」
未央「そうだよね……そんな景色、見てみたいね」
卯月「そのためも、ステージを大成功させないといけないですね」
未央「そだねっ」
二人は笑いあう。
次のアイドルフェスでのステージを思いながら、その先の凛も一緒にアイドルとなっている未来を想像しながら。
だが、その時、二人の首筋に、寒気が襲った。
卯月・未央「!?」
お互い首に手を触れながら顔を見合わせる。
卯月「未央ちゃん……」
未央「うん……来たんだね」
二人の顔に怯えはなかった。
この1ヶ月の訓練によって培われた自信と、絶対に死ねないという想い、そしてお互いを死なせないという想いが二人の心から恐怖を消し去っていた。
卯月「……戻ってきます」
未央「……うん」
卯月「……絶対に未央ちゃんも凛ちゃんも死なせません」
未央「……それは私のセリフ! しまむーも、しぶりんも、私も誰も死なない。みんなで戻ってくるよ!」
卯月「はいっ!」
同時刻、月明かりが照らす山の奥。
首筋に手を当てながら凛はくつくつと笑っていた。
凛「……ふふふ、やっと来た」
訓練ではない本番。
今日の結果次第で、二人が自分と同じように、狩りを楽しめるようになるかもしれない。
凛「……落ち着こう、慌てちゃ駄目」
まずは二人に宇宙人を殺させる。
その上で、二人の反応を確かめる。
まずはそこから。
訓練では撃つことも斬ることも問題なくできた。
ゲーム感覚で3人で木のターゲットをどれだけ早く撃てるかを競い合ったときには明らかに二人も楽しんでいた。
それを本番でも、宇宙人を撃つのにも楽しめるようになれば。
凛「……訓練と同じようにゲーム感覚で撃ってもらうのが一番いいのかもしれないけど」
凛「……少し難しいかな?……いややって見ないとわからないし……」
色々な想いが凛の頭を駆け巡る。
凛「あぁ……今日は素敵な日になるのかもしれない……」
凛は歪んだ笑みを浮かべながら転送されるまで、理想の未来を思い描いていた。
転送され、視界が切り替わった凛の目に、玄野たちの姿が映る。
他に4人、初顔の人もいる。
今回はまともそうな部類の人間だと凛は思う。
4人はサラリーマン風の男達、特に嫌な感じはしない。
だが、念のために警戒だけはしておこうと考える。
一度撃たれた経験がある凛だからこそ、ガンツの部屋の中でも警戒を怠らない。
玄野「よォ」
凛「ん」
玄野に手を上げて部屋の隅に移動する凛、壁にもたれかかりながら腕を組んで、転送されてくるであろう二人を待っていた。
その間に玄野は新しく来た人間に部屋の説明をしていた。
説明が終わりかける事に、転送が始まり、新しい人間が部屋に現れる。
凛は二人が来たのかと思い、視線を向けるが、転送されてきたのは幼い子供。
5歳くらいの子供が転送されてきて、凛を始め、玄野たちは顔を歪めてしまう。
ガンツの部屋に来てしまったという事は、死んでしまったという事。
こんな幼い子供が死んでしまった事に対しても気が滅入るが、これからこの子供はガンツの部屋で生き残らなければならない。
100点を稼ぐまでは何度でもミッションに強制参加をさせられる。
つまるところ、この子供が生き残る確率は限りなく0だという事が、この部屋を知る人間は理解してしまう。
そんな事も露知らず、子供は風を見ながら目をきらきらさせて呟いていた。
「きんにくらいだー」
風「…………」
風は子供の視線に困惑を隠せなかった。
それから卯月と未央も転送され、他に転送されてくる人間の気配がなくなった頃、あの歌が流れ始める。
『あーたーーらしーいーあーさがきたーきーぼーおのーあーさーがーー』
全員がガンツを見て、浮かび上がってきた今回のターゲットを見る。
『てめえ達は今からこの方をヤッつけに行ってくだちい』
『オニ星人』
『特徴 つよい はやい わるい ぴかぴか』
『好きなもの 女 うまいもの ラーメン』
『口ぐせ ハンパねー』
「オニ星人……?」
「これ、人間じゃねーの?」
「人間にしか見えねー」
ガンツに映し出された画像にはサングラスをかけたオールバックの厳つい男の姿。
明らかに人間にしか見えないそのターゲットを見て、凛は内心舌打ちをした。
凛(ちっ、人間タイプ……他に出てくる宇宙人も人間タイプかもしれない……そうなったら二人が撃つ事なんて出来るのか…………)
凛は隣にいる二人に目をやると、二人は目を瞑り大きく息を吸い込んで吐いていた。
再び目を開けたとき、二人は同時に凛の手を握り、何か覚悟をした目で呟いた。
卯月「大丈夫です。凛ちゃんが無茶をしなくても、私達やれますから」
未央「前回、しぶりんはあんなに苦しんだんだ。今回は私達が何とかするから、しぶりんは無茶をしないで」
卯月と未央が凛の事を考えながら言った言葉。
前回、人間の姿の宇宙人を殺してしまって苦しんでいると考えて出したその言葉は、凛に違う意味で届く。
凛(……撃てる。二人とも撃つ覚悟が出来ている。いい傾向、やっぱり二人とも、私と同じ様に……)
二人と共に狩りを楽しみたい、その思考に囚われている今の凛にとって、二人の気持ちは届くことがなかった。
そして、転送が始まる。
『行って下ちい』
文字が表示され、凛は自分の頭頂部が転送されている感覚を覚える。
二人の手を掴んだまま転送される凛の目に、ガンツの文字がプツンと消える瞬間が映った。
本来ならば残り時間が表示されるはずのガンツに、数字の表記はなく真っ黒な状態となりガンツは沈黙する。
その事に誰も気がつかない。
ジジジジジジジジ…………。
凛「ッッッ!!」
頭だけが転送された凛の脳髄に今だかつて無い痺れが走った。
凛が日々の戦いで培った第六感に敵の強さを感じる感覚がある。
その感覚は凛に伝えていた。
信じられないくらいの強敵が今回のターゲットだと。
凛(こんな、感じ、初めて……一体どれくらいの……)
そして、その感覚の次に、凛の視界にありえないものが飛び込んできた。
明らかに宇宙人と思われる生物の死体。
腕が何本もの触手となっており、人間の形を残してはいるが、変形して角が生えた頭。
そんな宇宙人の死体と共に、ガンツスーツを着た人間の死体が目に飛び込んでくる。
凛「なっ!? なんでもう!?」
そして、悲鳴に怒声、視線を動かすと、一般人が宇宙人に襲われていて、その宇宙人と戦う知らない顔のガンツスーツを着た人間が数人。
「彪馬さんッ!! 駄目です、アイツ等、一般人を盾にしてッ!!」
「くッそッ!! 奴等の口から出す液体に気をつけろッ!! スーツごと持ッてかれるぞ!!」
「チィッ!!」
凛(な、何……あの男達は一体誰……?)
困惑する凛はただ状況を見続ける。
男達の中で、長髪の男が手に持った大きな銃を仲間に手渡し、剣と小さな銃を手に一般人を盾にした宇宙人の群れに切りかかって行く。
宇宙人が口から出す液体を避けながら、軽い身のこなしで宇宙人たちを翻弄し、手に持った剣をナイフサイズに伸ばし、盾にした一般人を傷つけず宇宙人だけを斬りつけている。
たまらず盾にしていた人間を長髪の男に投げ飛ばし、宇宙人は一般人ごと口から出た液体を浴びせかけようとしたが、長髪の男は一般人を抱えると、後ろに一飛びして宇宙人に銃を向けて引き金を引いた。
遅れて宇宙人の身体が爆発する。
「よしッ!!」
「す、すげェ!! さすが彪馬サンッ!!」
「気を抜くな! まだ4匹いるぞ! 俺が一般人を助けるから援護をしてくれッ!!」
「分かりました!」
長髪の男は再度、宇宙人に斬りかかる。
そこで凛の転送は完全に完了して、遅れて卯月と未央も転送されてきた。
卯月「えっ? な、なんなんですかこれ!?」
未央「し、しぶりん、これって一体……」
凛「……わからない。今回は何かがおかしい……だけど……」
凛も状況を把握仕切れていなかったが、宇宙人に果敢に挑んでいる長髪の男を援護する事に決め双大剣と黒球を展開し戦場を舞った。
今日はこの辺で。
長髪の男が一匹の宇宙人をナイフで牽制しながら、他の宇宙人から一般人を助けようと隙を伺っていたところ、上空に影を見る。
小さな黒球が高速で飛来し、一般人を拘束していた触手を黒球から出たレーザーが撃ち抜き触手は吹き飛んだ。
それと共に吹き飛んだ一般人はそのまま空中に投げ出されるが、さらに何か黒い影が飛来して宇宙人と一般人の間に入ったかと思うと、一般人は空中で浮かぶように静止している。
長髪の男が相手をしていた宇宙人の一匹を斬り倒すと共に、飛来してきた何かを確認しようと目を向ける。
そこには一般人を助ける長髪の男が知らないガンツスーツの女がいた。
その女、凛が一般人3人を連れて宇宙人と距離を取るのを見て、長髪の男は思う。
(誰かは分からないが……チャンスだ!)
長髪の男が、仲間に向かって叫ぶ。
「今だァ! 撃て撃て撃て!!」
「おおおおッ!!」
「うあああああッ!!」
ギョーンギョーンギョーン!! ドンッドンッ!!
叫ぶと共に、宇宙人に撃ちこまれる銃撃。
2匹は押しつぶされて、1匹は内側からはじけ飛び、この場にいた宇宙人は全滅した。
「ハァッ……ハァッ……」
長髪の男は荒い息をつきながら、一般人を助けた凛に目をやる。
そこには、一般人に助けてもらった事を感謝され困惑している凛の姿があった。
凛はこの状況に困惑していた。
「あ、ありがとうッ! ありがとうッ!」
「い、生きてる……ありが……ありがとうございます……」
「うぁぁぁぁ…………えぐっ……」
凛「……え? 見えてる? 私の姿……?」
咄嗟に頭に手をやり、爆弾の作動に肝を冷やすが、背後から声をかけられその声に振り向く。
「大丈夫だ。頭の爆弾は作動しないみたいだ」
その声の主は、先ほど宇宙人に斬りかかっていた長髪の男。
男は一般人に優しい声色で話し始めた。
「あなた達は逃げたほうがいい、今この一帯は化け者達が蔓延っている。この先に逃げれば化け物たちはいないだろうから走ってくれ」
「わ、分かった。ありがとう、本当にありがとう」
「はいッはいッ!」
一般人はそのまま逃げ、この場には長髪の男とその仲間達、そして凛達が残った。
卯月「凛ちゃん!」
未央「しぶりん!」
「彪馬さんッ!」
「大丈夫ッスか!?」
この場にいる全員が彪馬と呼ばれる長髪の男と凛の元に駆け寄り、それぞれを気遣うが二人はそれを制しながらお互いに問いかける。
「助かッた。あんたのお陰で無駄な犠牲が出なくてすんだ」
凛「……あなた達は一体何者? この状況は一体何が起きているの?」
返ってきた声がかなり若い女性の声だったことに少し驚くが、男は続ける。
武田「俺は武田彪馬。俺達も何が起きているのかは……ただ、俺たちの姿が一般人にも見えるという事と、それに対して爆弾は作動しないこと……そして、今回制限時間が無くなっていることくらいしか分からない」
凛「……姿が。それに時間制限も無くなっている?」
武田「ああ」
以前にクリアボーナスで制限時間と制限範囲を解除されている凛は制限時間がなくなった事に対しては特に気を止めなかったが、自分たちの姿が見えているという事に考え込んでしまう。
凛(一体どういう事なの? ガンツが私達の姿を見えるようにしたっていうの? でも、何の為に……)
そこで、あの男、ちょび髭という男の存在を思い出す。
凛(……まさかあの男、ガンツの制御に成功してミッションも自由に操れるようにした? ……確証が無いけど、可能性としては……無いとは言えない)
そうやって考え込んでいると、長髪の男が凛に再び問いかけてくる。
武田「ところで、……君は一体何者なんだ? そッちの二人……も?」
卯月と未央を見る長髪の男が何かに気付いたように、二人に問いかけ始めた。
武田「……もしかして、ニュージェネの二人? 島村卯月さんと本田未央さん?」
卯月「えっ? は、はい。そうです」
未央「えっと……そうです」
いきなり話を振られて驚く二人だったが、男達は二人がアイドルのニュージェネレーションズの二人だと分かって沸き立つ。
「うおッ! マジだ! ニュージェネの二人だッ!!」
「やッば、マジカワイイ……」
「すッげ、生アイドル……可愛い……」
卯月「えっ? あっ、あの、その……」
未央「えーっと、私達のファンの皆さんですか?」
「あッ! 俺、俺ファン! CD買ったし、ライブも行ッた!」
顔を赤くしながら手を上げた男に、卯月と未央は顔を見合わせて。
卯月・未央「ありがとうございますっ! これからも私達の応援宜しくお願いしますっ!」
満面の笑顔で男達に感謝の言葉を送る。
「……あ、俺終わった。心臓握りつぶされたよ」
「……俺、レイカのファンだッたけど、これからはニュージェネのファンになるわ……」
「……星人に殺される前に、殺されちまッた。つーか反則だろその笑顔……」
呆れながらそのやり取りを見ている凛は、同じくそのやり取りを少し笑いながら見ている長髪の男に問われた内容の答えを返す。
凛「えっと、私は……渋谷凛。多分あなた達とは別のガンツチームの人間」
武田「ガンツ? ……ああ、もしかして黒球のことか。しかし、別のチーム……あの黒球は他にもあるという事か?」
ぶつぶつと呟きながら考えている武田。
凛はこの男達がガンツについてそこまで知らないと判断し、別の問いを始める。
凛「あなた達は一体どこのチームの人間なの?」
武田「ん? 俺たちは神奈川でいつもあの理不尽な狩りをさせられているが、ここは確かに池袋……今まで神奈川から出た事はなかッたんだが……どういうことだ?」
凛(神奈川……)
凛「あなた達はここにいる4人で全員?」
武田「いや、もう4人いる。だが今回敵の数が多かッたから、分かれて行動しているんだが……嫌な予感がするな……」
武田「そういう君達は3人なのか?」
凛「私達は後8人と新規メンバーで……合計16人かな……」
武田「結構な大所帯だな。……ニュージェネの二人がいるという事は、君達は東京の黒球で狩りをしているという事か?」
凛「そうだよ」
武田「……なら、今回は俺達は君達のテリトリーに何故か呼ばれたという事だな……本当にどうなッてるんだ……」
凛(……この人、話が早いし頭も回る……敵では無さそうだから安心できるけど……)
そうしているうちに、付近で声が聞こえてくる。
玄野「なッ!? なん、だッ!? コレ!?」
鈴木「く、玄野クン!? これは一体!?」
玄野「わ、ワカんねーけど、油断するなよおっちゃん!!」
凛(玄野たちも転送されてきたみたいだね)
武田「……彼等も君達のチームの仲間という訳かな?」
凛「そういう事」
凛は転送されてきた玄野に声をかけ、全員が転送されてくるのを待ち玄野たちと武田たちを引き合わせた。
和泉を除く東京のチームと神奈川のチームは顔合わせを始めているが、再び神奈川チームの男達から歓声が沸きあがった。
「ちょ!? レイカ!! レイカじゃん!!」
「はァッ!? ま、マジだ!! レイカじゃねーか!!」
「うッォォ……すッげェ……やッぱ俺、レイカが一番だ……いや、でもニュージェネも……」
レイカ「え……っと……」
神奈川のチームの男達から隠れるように玄野の影に身を隠すレイカ。
それを見て、武田は仲間たちを諌めながら玄野とレイカに近づいていく。
武田「落ち着けお前ら、レイカさんが困ってるだろ」
「なに言ッてんスか彪馬さん! 彪馬もレイカのファンじゃないッスか! あッ、もしかして抜け駆けするつもりじゃ!?」
「駄目ッスよ彪馬さん! いくら彪馬さんでもそれだけは駄目です!!」
武田「ッ! お前ら……」
神奈川チームが一向に纏まらないのを見かねて、凛が玄野に説明を始める。
凛「……えっと、この人たちは神奈川のガンツチームの人たちみたい。今回何故かは分からないけど、別のガンツチームの人たちも同じミッションに参加しているみたいだよ」
玄野「はァ? 何だよそれ?」
凛「私に聞かれても分からないって」
玄野「……お前が分からないッてんならどーしよーもねーか」
凛「後、今回は何故か私達の姿が一般人にも見えるみたい。見られても頭の爆弾は作動しないみたいだけど……それと時間制限も無くなっているって」
玄野「はァ!?」
凛「これもなんでかって分からないから。私に聞かれても答えられないよ」
玄野「……」
玄野は頭を掻き毟りながらため息をつく。
そして、割り切った表情で武田に近づいて話し始めた。
玄野「えッと、少しいいか?」
武田「あ? ああ、君は東京の?」
玄野「玄野計。一応東京のチームのリーダーッて立場だ」
武田「……君が?」
玄野を見ながらその言葉に疑いの目を向ける武田だったが、東京のチームの誰もが否定なしないため、その言葉を信じる事にした。
武田「……すまない。見た目で判断はよくないよな」
武田「武田彪馬。神奈川のチームを纏めている。よろしくな」
二人は握手をして、会話を続ける。
玄野「今回、よくわからないけど俺達はこうやッてミッションを共にする事になッたみたいだけど……」
武田「そうみたいだな」
玄野「そこでだ、お互い協力し合わないか?」
武田「協力?」
玄野「ああ、お互い協力し合ッて、生き残る確率を上げる。俺達は全員で生き残ッて帰りたいんだ……あんた等もそうだろ?」
武田「……全員で帰るか。そうだな、それは魅力的な提案だな」
玄野「それなら!」
武田「ああ、協力する事に何の反対も無い、むしろそッちのテリトリーで俺達が点数を稼いで文句を言われるんじゃないかと心配していたんだがな」
玄野「生き残ることが優先だ、点数は二の次だッて」
武田「ふっ、なら改めてよろしく」
玄野「ああ、よろしく」
再び硬く握手をして、東京チームと神奈川チームは協力する事に同意した。
今後の行動をどうするかと話していると、玄野がすでに死んでいるガンツスーツの人間たちが目に入りそれを武田に聞いている。
全員で帰るといった手前、すでに神奈川のチームの誰かが死んでしまっているのかと玄野は気を落としながら聞いた。
玄野「……あの人たちは、あんた達、神奈川チームの人間なのか?」
武田「……いや」
玄野「違うのか?」
武田「ああ、知らない人たちだ。俺達が来た時にはすでに死んでいた。てッきり君達の仲間かと思ッていたが」
玄野「俺達も知らない人たちだけど……一体……」
玄野は凛を見るが、凛は私は知らないと言わんばかりに首を振る。
玄野「……もしかしたら、俺たちのほかにも別に違うチームが来ているのかもしれない。まずは星人を倒しながら別のチームが来ているかどうかを見ていこう」
武田「それなら、俺たちのチームで別行動をしている奴等がいる。合流する事を先にしたいんだが」
玄野「わかッた。みんなもそれでいいか?」
全員が玄野と武田の提案を受け入れている。
ただ一人を除いて。
凛(……全員で動いていたら、私の目的が……)
凛(……どうにかして別行動をしないといけないけど……)
凛(…………)
玄野が全員を見渡していると、凛が玄野に提案する為に口を開く。
凛「……少し、いいかな」
玄野「どーした?」
凛「私達が上空から他のチームがいないか見てくるよ」
玄野「上空……ああ、そういえばお前は飛行アイテムを持っていたよな」
武田「上空?」
凛「他のチームがいるようならすぐに分かるだろうし、見つけたら連絡するからさ」
玄野は少し考えて、凛の提案を受け入れる事にした。
玄野「ワカッた。いつものように島村さんと本田さんも連れて行くのか?」
凛「あたりまえでしょ」
玄野「りょーかい……」
それに武田が口を挟む。
武田にとって何故別行動をするのかを理解できなかったから。
一人はバイザーで顔が見えないが、声から感じるのは明らかに自分より年下の少女。
その少女がアイドル2人を連れて戦場を勝手に行動しようといっているのだ。
自殺行為にしか思えなかったら口を挟む。
武田「待ッてくれ。何を考えてるんだ? 別行動なんて危険だから止めるんだ」
凛「?」
玄野「あぁ……大丈夫、コイツに関しては何の問題も無いから」
武田「……何が問題ないんだ、どう考えても問題しかない」
玄野「……あんたの考えてる事はワカるけど、コイツに関しては本当に何の問題も無いんだ。この中で誰よりも強いのはコイツだから、コイツがどーにかなるなんて事はまずありえないんだッて」
武田「…………」
玄野の言葉の意味が分からない武田は直接凛を説得しようとする。
武田「無茶は止めるんだ。最初に見た時、ある程度戦えるとは思ッたが、ここは本当の戦場なんだ。何が起きるかなんて分からない」
凛「何が起きるか分からないって、そんな事知ってるよ。だから先に情報収集しないといけないでしょ? 別行動をしていろいろ情報を集めてくるからさ」
武田「その別行動が問題なんだ! 君だけじゃない、その二人も死ぬぞ!?」
凛「二人は死なない。私が守る」
武田「ッ~~~」
埒が明かないと思った武田は、仲間に渡していた銃を見せて説得する。
武田が持っている100点武器。
武田はコレをZガンと呼んでいた。
武田「見ろ! この武器はクリア報酬の武器だ! このZガンがあれば大抵の奴等を倒すことができるんだ! この武器がある俺たちの傍がこの戦場で一番安全なんだ…………え?」
凛「これのこと?」
凛の手には徐々に転送されてくるZガン。
それと共に、飛行ユニットが装着されたバイクも転送されてくる。
武田はその現象を呆然と見ていた。
玄野「……渋谷、お前今度は何をやれる様になったんだ?」
凛「転送システムっていうのが100点武器で手に入ったんだけど、色々設定してみたら手に入れた武器とか部屋の武器を転送できるようになった」
玄野「……今回あまり武器を持ッていかなかったと思ッたらそういう事か」
凛「ま、部屋にある数しか転送できないからあんまり使えるかどうかっていわれたら微妙だけど、手が空くから結構便利だよ」
玄野「……そッか」
凛はそのまま転送されきった飛行バイクに乗り込み、卯月と未央もそれに続く。
凛「じゃ、行って来るから」
武田「っ! お、おい! 待……」
武田が呼び止める間もなく飛行バイクは起動して、3人は空に飛びあがりあっという間に視界から消える。
玄野「心配しなくてもいーッて。アイツ、ミッションをもう14回クリアしてんだよ」
武田「…………何?」
玄野「経験値はこの中の誰よりも上、心配する必要は何もなし、つーか放ッておけばミッションはいつの間にかクリアになッてる。そう考えると別行動をさせておくのが一番いいのかも知れねーな……」
武田「…………」
武田は凛達が消えた空を見上げながら固まっていた。
上空に移動した凛達はレーダーを起動しながら狩場を見渡す。
凛(……今回、敵の数が異常に多い……好都合……)
上空から見渡していると、ガンツスーツの人間が何組か星人と戦っている姿を見つける。
合計すると、数十人がこの狩場に集まっているようだった。
だけど、それ以上に星人の数が多く、二人に殺してもらうための獲物がいなくなる事は早々無いと思いながらほくそ笑む凛。
卯月「あっ、あっちにもいます。これで3組ですかね?」
未央「うん……あっ、あそこの人はすごい速さで両手の剣を振り回してるよ」
凛が未央の声に反応して見下ろすと、そこには二刀流で剣を高速で振り回す短髪の男の姿。
一般人を盾にする宇宙人だったが、その男は一般人を傷つけることもなく宇宙人だけを切り裂いている。
かなりの実力を持った男だと分かる。
凛(強い……さっきの武田って人もそうだったけど、こんな人たちが来ているんだったらあまりのんびりとしてられないかも……)
凛(手ごろな奴等は…………)
二人に狩らせるための獲物を探すためにレーダーに目を向けようとした凛だったが、何かが前方からやってくる気配を感じ視線を前に向ける。
卯月「えっ?」
未央「あれ? もう一台、飛行バイク?」
前方から高速で飛行してくるのは、3人が乗っている飛行バイクと同じもの。
凛(っ! 飛行バイクもちのチームもいるの!?)
凛(これだと、二人の育成をしているところに乱入される可能性も…………)
飛行してくる飛行バイクは一瞬ですれ違う。
だが、凛はそのすれ違う瞬間、時間が止まったかのような錯覚に陥り、その飛行バイクに登場している人間を見た。
一人はハードスーツに身を包んでいる。
軽量化前のハードスーツ、6回目の報酬でヘルメットもあり顔は見えない。
もう一人はZガンを持って、凛を見ていた。
こちらはハードスーツを着ていない。凛と同い年くらいの少女。
茶色がかった髪が風になびいている。
特徴的な少し太い眉の下の目は凛を見ている。
凛はその二人を見たときに、卯月と未央に初めて出会ったときと同じような感覚を思い出す。
その邂逅は一瞬だったが、凛の頭に今すれ違った二人の姿が残り続ける。
凛はすれ違った少女とハードスーツの人間を追うために、飛行バイクのハンドルを切った。
今日はこの辺で。
玄野達、東京チームと武田達、神奈川チームは池袋の街を走っていた。
レーダーを頼りに敵がいる方向に向かって、16人という大人数で走る。
すれ違う人々は皆彼等の姿に物珍しげな目を向け撮影されたりもしている。
彼等は気にせずに走り続け、やがて人の悲鳴と破壊音が聞えてきた。
玄野「近いぞ! 全員気を引き締めろ!」
武田「見えた……クソッ! 奴等、また一般人を盾にしているぞ!」
玄野達が目にする敵は全て腕の触手で一般人を絡めとり、盾にして玄野達に近づいてくる。
その数は30匹近い数、全ての敵が玄野達に襲い掛かる。
玄野達も敵が襲い掛かると同時に動く。
玄野は低い体勢で滑り込むように4匹の敵の足を斬った。
玄野が斬った敵が盾にしている人間を武田が敵の触手を切り裂き助けだして神奈川チームの仲間に一般人を投げ渡す。
そして、玄野と武田が同時に4匹の敵を撃ち、敵は何も出来ずに爆発した。
玄野「いけるぞォ!! 数人で行けば何とかなるッ!!」
武田「触手と口から出す液体に気をつけろ!! それさえ気をつければ敵の動きは鈍い!!」
玄野と武田が先陣を切って、東京チームと神奈川チームも動き出す。
レイカは玄野の援護に回り、玄野に近い敵を一般人に当たらないように剣で牽制する。
桜井と坂田は敵を超能力で浮かせて、浮いた敵を鈴木が銃で倒す。
神奈川チームも3人一組で敵から一般人を助け、敵を倒していた。
動かなかったのは新人の4人、そして稲葉と風と風に抱きかかえられた子供。
新人4人はただただ状況を見守ることしか出来なかった。
「な、なんなんだよ……これ」
「う、撃ッていいのか?」
「撃つッてトリガー二つだッけ!?」
「お、おい、何匹か近づいてくるぞ!?」
新人たちに向かって近づいてくるのは別方向から現れた敵。
「う、撃ッていいよな!?」
「撃つぞ! 撃てッ!」
新人たちは近づいてくる怪物に恐怖し、盾にされている一般人が目に入らず銃を構え撃とうとする。
だが、その新人たち銃を大きな手が押さえ、銃口を無理矢理下に向けさせる。
風「…………」
新人たちはギョッとした目で風を見るが、風は敵だけを見据え、抱えていた子供を近くにいた稲葉に渡し、
風「少し……頼む……」
稲葉「あ、ああ」
風は眼前の敵に向かって歩を進め始める。
その風に稲葉に抱きかかえられた子供から悲鳴が上がる。
「きんにくらいだー!! 待ッてぇーー!!」
子供は今まであんな恐ろしい姿の化け物を見た事がなかった。
そんな恐ろしい化け物に近づいていく風を止める為に叫んだのだが、
風はその巨体からは想像もできないような速さで敵の懐に潜り込み、一般人を拘束する触手を手刀で切り、別の手の裏拳で敵の頭を粉砕した。
「うッお!? な、なんだあの人……」
「か、格闘選手?」
そのまま、風は残りの敵を同じように一般人を助けながら一人で蹂躙し始める。
「す、すげぇ……」
「あ、ありえねぇ……」
目にも止まらぬ動きの風に新人4人はただ見続けるだけ。
気がつけば最後の一匹が、風の拳で吹き飛ばされて、きりもみ状態で飛んでいき、ビルに叩きつけられて近づいてきていた敵は全滅した。
同時に玄野達も、付近にいた敵を全て倒し、この場には助けられた一般人と、ガンツチームだけが残る。
助け出した一般人に感謝される玄野や風。
その風の姿を見ていた子供は、瞬きもせずに輝く眼で見続けて、手に持ったスケッチブックを握り締めていた。
いつも想像していた正義の味方が、スケッチブックに描いていつも自分を守ってほしいと考えていたヒーローが現実に現れたのだと考える。
子供は抱きかかえていた稲葉の手を抜け出し、風に向かって走り出し、風の太い足を抱きしめ、
「きんにくらいだー!! ほんもののきんにくらいだー!!」
自分のヒーローに無邪気な笑顔を見せた。
風「…………」
風は相変わらずに困った雰囲気を見せているが、満更でもなさそうな表情をしていた。
一般人に逃げるように言って、玄野達はさらに敵のいる方向に向かうことにした。
そうやってレーダーを見ると、大きな光点が玄野達から100メートルほど離れた場所にあると気付いた。
レイカ「玄野クン……これッて……」
玄野「……今回の、ボス……か?」
100メートル、姿が見えていてもおかしくない。
だが、レーダーの先にはビルがあり、敵の姿は見えない。
玄野「みんな!! ボスが近い、すぐそばにいるッ!!」
桜井「えッ!?」
坂田「姿がみえねーな……」
武田「…………何だ?」
玄野達は周囲を見回していたが、武田は上を見ていた。
上からかすかに聞える音。
ビルの上で何かの音がかすかに聞える。
武田はさらに耳を研ぎ澄まし、上空を見上げると、ビルの屋上から何かが飛ばされる瞬間を見る。
武田「ッ!! 上だッ!!」
玄野「!!」
レイカ「何……雨?」
玄野達に降り注ぐ液体、それには色がついていた。
真っ赤な液体。
人間の血がビルの屋上から降り注いでいる。
さらに今度は大きなものが2個降って来た。
一つは機械。パソコンだった。
もう一つは、上半身だけのスーツの男。
その男の姿を見た神奈川チーム全員が目を見開いて動揺する。
武田「そ、んな……馬鹿な……」
「えッ……」
「嘘、だろ?」
その反応で玄野は悟る。
この上半身だけの死体は神奈川チームの別行動をしている人間だという事を。
玄野「……まさか、この人は神奈川チームの?」
武田「……信じ……られない、コイツは3回……クリアしているんだぞ……」
玄野「っ!?」
武田が漏らした言葉、それはこの死体の男がかなりの猛者だったという事を示していた。
そして、別の方向から玄野に声がかかる。
降って来たパソコンを超能力で浮遊させ、そのパソコンに表示された画面を見た坂田からだった。
坂田「おいッ! リーダー! やべェぞ!!」
パソコンに表示されているのは点数表示画面。
玄野は凛から聞いていた、100点武器の一つ、敵の点数表示という機能を思い出す。
そのパソコンに映る敵の姿は、二本の角を生やした、岩石のような姿の敵。
そして、その敵の点数は、80点を示していた。
それを見たと同時に、上空で大きな音がする。
玄野「なッ! ンだよ!? アレは!!」
レイカ「…………嘘」
鈴木「い、隕石?」
数十メートルはあろうかという巨大な岩が玄野達目がけて降って来た。
別の場所、真ん中に池がある、少し大きな公園。
数十匹の敵の死体と一般人の死体が散らばる場所。
この場にいる最後の一匹を、一般人ごと剣で斬り飛ばした和泉が一息ついていた。
和泉(……ボスはどこだ)
和泉はミッションが始まってからボスを探しつづけている。
それは自分の手で今回のボスを倒し、自分の優秀さを、自分は凛にも、玄野にも劣っていないことを証明する為。
前回のミッションで和泉は凛の戦いを見て、ほんの少しだけ考えてしまったことがあった。
それは、『俺にこんな事ができるのか? ここまでの数の敵をこの短時間で狩りつくすことが出来るのか?』と考えてしまった。
一瞬だけ考えてしまった。自ら負けを認めようとしてしまった。
それが許せなかった。自分自身を許せない和泉だった。
だから、今回は誰よりも早くボスを自分の手で倒し、証明してみせると考える。
自分はあの部屋の誰よりも優秀で、誰よりも強いという事を。
和泉(……ボスの位置……もう少し、先か)
和泉が確認するレーダーに反応する大きな光点にはまだ若干の距離があった。
すぐにでも行動を開始しようとした和泉だったが、和泉の目に見たことも無い顔のスーツの男達が映り、その行動を止めた。
和泉(…………誰だ?)
両手に剣を持った精悍な風貌の短髪の男を先頭に、スーツの男達が和泉に気がつき歩み寄ってくる。
両手剣の男が、和泉の前に立ち問いかける。
「……一人か?」
和泉「……」
「海司さん、この人も別のチームの人ですかね?」
「にしても一人ッて……」
和泉は男達を観察する。
先頭の男、海司と呼ばれた男は剣だけを装備して、他に何も持っていない。
それに対して、後ろの男達4人はZガンを2丁、他にも、ショットガンタイプの銃をそれぞれ持ってパソコンを持っている男もいる。
Zガンを見て100点をクリアしているのだと気付いた和泉は眉間に皺を寄せて無言で立ち去ろうとする。
その和泉を海司と呼ばれた男は引きとめる。
「待て。少しぐらい話をしねぇか? 今回、よくワカらねぇ事が起きすぎている。情報交換をして、そッちも損は無いはずだ」
和泉「……」
吉川「俺達は群馬のチームで、俺は吉川海司ッて言う。アンタは?」
吉川の言葉に耳も貸さず立ち去ろうとする和泉。
吉川「おいッ、聞いてンのか? それとも耳が聞えねーのか?」
完全に無視をする和泉に、少し挑発気味に問いかける吉川だったが、和泉は歩きながらレーダーを見て立ち止まる。
和泉が見るレーダーの大きな光点はレーダーの中心を示している。
そして、和泉は正面を見た。
そこには、ジャンパーを着た大男がサングラスから鋭い視線を飛ばし、和泉と吉川を見ていた。
吉川「おお……こいつは……」
和泉「……」
大男の頭に二本の角が生え始め、二人に向かって言い放つ。
「お前ら二人、相手をしてやる」
大男は円を描くようにゆっくりと歩き始め、それに対するように吉川と和泉はそれぞれ剣を構える。
大男は二人以外の4人には興味が無いようで、二人だけを見て手から炎を巻き上げ始めた。
そして、パソコンを持っていた一人が叫んだ。
「海司さんッ!! コイツ90点ですッ!! ボスですッ!!!!」
その声が戦いの火蓋を切って落とした。
今日はこの辺で。
飛行バイクを駆る凛は自分が何故すれ違った飛行バイクを追いかけているのかが分からなかった。
凛(……何? 何で私、あの人たちを追いかけているの?)
凛(……未央と卯月と一緒に狩りを楽しむ為に、二人に狩りの楽しみを覚えてもらわないといけないのに……)
二人に狩りの楽しみを知ってもらい、やがて3人で楽しみながら狩りをして、宇宙人を殺しつくす。
それが今の凛にとって、最も訪れてほしい未来。理想の未来だった。
その未来を現実にする為に、他の事は二の次として行動していたはずなのに、
何故か、凛はすれ違った二人を追うために行動をしている。
卯月と未央と同じくらい、すれ違った二人に何かを感じたから。
追って何をするかなど考えてはいない。
ただ、もう一度、あの二人を見てみたいという感情に動かされ凛は動く。
少しすると、空中で静止している飛行バイクが凛の目に入る。
その飛行バイクの横につけ、凛達は別の飛行バイクに乗っている二人を見ると、その二人も凛達をまじまじと見ていた。
凛「あ……」
「……あなた達、何者? 何でアタシ達以外の人間がいるワケ?」
ハードスーツの人間が凛に問いかけてくる。
その声は歳若い少女の声。
ハードスーツの厳つい外見から似合わない声に卯月と未央は少し驚いていた。
未央「え? もしかして、女の子?」
「うん、そうだけど…………」
卯月「び、びっくりしました、てっきり男の人だと思っちゃってて」
「……ま、ハードスーツは顔見えないからね」
ハードスーツの少女はスーツの頭部に装着されているヘルメットの部分を少し弄り、ヘルメットを外してその素顔を見せた。
こちらも茶髪、顔立ちはかなり整っており、誰もが美少女という容姿だ。
その顔を見て、また凛の胸に波紋が広がる。
今度は自分が何をしたいのかが分かる。
この二人の事をもっと知りたい。
凛は装着していたバイザーを外し、自分も素顔を見せて、二人に名乗る。
凛「えっと、私、渋谷凛。私達は東京のチームで今回ミッションに参加しているんだけど、今回はいろんな地域からチームが集まって来ているみたい。あなた達はどこから来たの? どこのチーム?」
「…………渋谷……凛、ちゃん?」
ハードスーツの少女は、凛の顔を見て何か引っかかっているようだった。
何かを思い出そうとしているのだけど、後一歩で出てこない、寸前のところで思い出せないといった表情をしている。
だが、すぐに、
「あっ、思い出した」
凛「?」
加蓮「アタシ、北条加蓮。覚えてないと思うけど、中学一緒だったんだよ?」
凛「え……う、んん……」
思い出そうとするが、記憶に引っかかりもしない。
凛は自分にこんな感覚を感じさせる子だったら、忘れるわけが無いと思い、必死に記憶を辿っていたが、やはり記憶にない。
凛「ごめん……覚えてない……」
加蓮「あぁ、いいよ。気にしないで。中学一緒って言っても、私学校に行ったのって1回しかないから。私があなたを……同級生のみんなを卒業アルバムで見て一方的に知っているだけだからさ」
凛「1回しかって……」
加蓮「アタシ、小さい頃から体弱くて学校も碌に行けなかったんだ。それで、中学に入ったらさらに悪化して、病院から出られなくなって入院してたから、アタシの事を知ってる中学の同級生って多分いないと思うよ」
凛「そ、そう、なんだ」
中々に重い話を、笑いながら話す加蓮に少し戸惑いながら返す凛。
加蓮「あっ、ごめんね。私の話ばっかりしちゃって。えっと、まずこの子は神谷奈緒」
紹介された奈緒という少女は凛達に会釈をする。
加蓮「私達いつもは千葉で黒球さんからお願いされる狩りをしてたんだけど、今日は何でか知らないけど池袋まで来ちゃったみたいで、さらにスーツを着た知らない人たちもいるし、はっきり言って混乱してるんだよね。えっと……渋谷さんは何か知ってたりする?」
凛「ううん、私たちも情報を集めてる最中であなた達を見つけて……」
加蓮「そっか……でも、東京のチームかぁ、うすうす気付いてはいたけど、黒球さんって他にもあったんだね……」
凛「うん。世界各地にあるって話だよ」
加蓮「えぇ!? 世界中にあるの!?」
凛「人から聞いた話だけど、そうみたいだよ」
加蓮「……ますます謎は深まるばかり、どう思う? 奈緒……奈緒? どうしたの?」
加蓮は奈緒に凛から聞いた話をどう思うか問いただそうとするが、当人は卯月と未央の顔を見て目を細めている。
奈緒「……もしかしてさ、ニュージェネ? アイドルの」
未央「えっ? うん、そうだけど」
奈緒「島村卯月?」
卯月「は、はい」
奈緒「本田未央?」
未央「うん。未央ちゃんです」
奈緒「うっわーー! 本物だっ!!」
二人に指を刺して、本物のアイドルが目の前にいる事に驚く奈緒。
加蓮「何? どうしたの?」
奈緒「ほらっ! この二人、来週の346プロアイドルサマーフェスに出るアイドルなんだよ! 一緒に行くってパンフ渡しただろ!? 見てないのか!?」
加蓮「あぁー……ゴメン、まだ見てないや」
奈緒「おいぃぃ!?」
加蓮「ゴメンゴメン、明日見ておくから」
奈緒「そんな事言って、お前明日もまた一日中訓練するつもりだろ!?」
加蓮「そんな事無いって、アタシもアイドルには興味あるし。小さい頃の夢の一つでもあったし?」
奈緒「今のお前は身体を鍛えることしか興味が無いように思えるんだけど」
加蓮「こうやって黒球さんのお陰で、鍛えれば鍛えるほど自由に動かせる丈夫な体になったんだよ。まともに動けなかった病弱なときできなかった事をやりたいって思って何が悪いの!」
奈緒「それにしてもだって! お前放っておいたら一日中筋トレやら走りこみやらスーツ使っての訓練やらやり続けるだろ!?」
加蓮「寝る前には家に帰ってるし、問題ないでしょ?」
奈緒「……他の趣味を見つけさせる為にアイドルフェスに誘ったのに……これじゃ、無理か……」
凛達をそっちのけで、話し続ける加蓮と奈緒。
この場にいる全員が、ここは戦場だという事を忘れて話していた。
それはお互いが、お互いに何かを感じて、その感じた何かが戦場には似つかわしくない感情だったからなのかもしれない。
5人は完全に意識を戦場から外し、互いを知ろうと会話を続けたが、
会話の途中、空中を浮遊する飛行バイク、その2台に向かって何かが近づいてくる。
それは背中に鳥の翼を生やし、頭には2本の角をはやした全裸の男。
その男は手を大きく鋭い爪に変化させ2台のバイクに向かって高速で接近して、その爪を振りぬいた。
完全に油断をしていた5人に対しての奇襲攻撃。
卯月と未央、そして奈緒は近づいてくる気配にすら気がついていなかったが、凛と加蓮は男が接近して攻撃の意思を見せた瞬間に同時に行動していた。
二人ともお互いのバイクに乗っていたそれぞれを抱え、バイクから飛び出す。
卯月「きゃぁっ!?」
未央「うっ、わっ!?」
奈緒「うわぁぁぁぁぁぁ!?」
二人の頭は瞬時に戦闘状態に切り替わり、バイクを真っ二つに切り裂いて笑みを浮かべる男に同時に掌からの閃光を数発撃ち込んでいた。
「ぐっ!? なっ、にィ!?」
閃光は男の身体に直撃するが、男の身体は一瞬だけ穴が空いたように見えてすぐに元通りとなっていた。
それを見て、二人はさらに閃光のシャワーを男にお見舞いする。
数十発の閃光、落ちながらも撃ち続ける閃光に男の身体は削られていたが、やはり先ほどと同じようにすぐに元通りとなり、さしたるダメージは見受けられなかった。
凛と加蓮は敵を見据えながら着地し、他の3人の前に立ち凛はバイザー、加蓮はハードスーツのヘルメットを再び装着し、迎撃の態勢に移行した。
凛は両手に双大剣を持ち、黒球を展開する。
加蓮は奈緒の持っていたZガンを受け取り片手に持ち、もう片手に剣を持ち刀身を伸ばす。
凛「……再生タイプ、かな」
加蓮「変身タイプって線もあるかも」
敵に強襲されてもお互い焦ることもなく、あくまで自然に会話をしている。
そして、お互い並ぶように立ち、敵の情報を分析し始める。
凛「……85点。今回のボスみたいだね」
加蓮「あれ? 点数分かるの?」
凛「まあね」
加蓮「パソコン使ってないみたいだけど……私の知らない何かって所かな?」
凛「これ」
自分の顔に装着したバイザーを親指で示して、これを使って敵の分析をしている事を伝える。
加蓮「へぇ、私の知らない武器か。渋谷さんって何回クリアしてるの?」
凛「凛でいいよ。私は14回。北条さんは?」
加蓮「アタシも加蓮でいいよ。アタシは武器6回の再生1回で計7回」
凛「オーケー、アイツは私達で何とかしよう。後ろの3人にアイツの相手はまだ荷が重そうだし」
加蓮「……そうだね、いいよ。私達でやろうか」
お互い正面を見ながら頷く。
凛「来るよ、加蓮。気を引き締めて」
加蓮「分かってるって、凛も油断ないようにね」
お互い口元に笑みを作り、空から急降下してくる敵を迎え撃つ為に、
凛は双大剣を交差させるように構え体勢を低く取る、
加蓮は身体を動かし、半身の状態で剣だけを前に突き出し剣先を敵に向ける。
その二人に空から翼をはためかせ敵が襲い掛かってきた。
今日はこの辺で。
空から急降下してきた男はまず凛を狙った。
理由は単純、凛のほうが防御力が低そうだと、ハードスーツを着ている加蓮よりも軽装の凛のほうが簡単に殺せると思ったから。
だが、実際には軽量化されているハードスーツを装着している凛のほうが防御力が高かったのだが男には知る由も無い。
男は凛を目がけて、獲物を狙う鷹のように急降下して、その鋭い爪を凛に振り下ろし……。
「ぐッアアッ!?」
凛の右手の大剣で爪を斬られて、返す左手の大剣で胴体を半分に斬られて半分となった身体がくるくると宙を舞っていた。
加蓮「ふっ!!」
その宙を舞う上半身を加蓮が追撃するように剣を振るい、男の首を斬り飛ばし、地に落ちた上半身と下半身をそれぞれZガンで押しつぶした。
その間、僅か5秒にも満たない一方的な攻防。
その様子を見ていた卯月達3人は口をあんぐりと空けて呆けていた。
卯月「あ、あれ?」
未央「今回のボスって言ってたのに……あっという間に……」
奈緒「加蓮は相変わらずだけど……あの渋谷凛って子もやべーな……」
あっという間すぎてただただ呆然としていた3人だが、敵が倒されたという事を理解して気を緩め始めた。
だが、凛と加蓮は警戒を緩めず、吹き飛んでいった頭にさらに追撃を仕掛けようと凛は掌を、加蓮はZガンを向けたところで、男の頭、その切断面の首から触手が伸びて近くにある木に絡みつき首が引っ張られるように上空に移動した。
卯月「ひっ!?」
未央「うえぇっ!?」
奈緒「な、なんだありゃ……」
首だけとなった男が触手を巧みに使い、高速で動く。
その様子はちょっとしたホラーであり、卯月と未央は顔を青ざめる。
首が十分に距離を取ったところで、大きな声で凛と加蓮に語りかけてくる。
「やるじゃん、お前ら」
「首だけになッちまッた、ハハハハハハハ」
凛「……」
加蓮「……本体は頭って所かな?」
凛「……っぽいね」
会話をしながらもすでにバイザー内でロックオンを完了した凛。
「お前達は食ってやる。頭から食って俺の……」
男が何かを言っていたが、関係無しに凛は展開していた黒球を動かし、黒球の閃光が男の頭を撃ち抜いた。
6発の閃光を受けた男の頭は爆発し、その場で四散する。
加蓮「……何それ? 飾りじゃなかったの?」
凛「ん。これも武器の一つ」
加蓮「頼もしいね……でも……」
凛「うん……」
卯月と未央はスプラッタシーンを目にしてしまい少し顔を青くしながら凛達に近づこうとするが、
凛「未央、卯月、まだ終わってない。近づかないで」
未央「え?」
卯月「お、終わってないって……?」
凛と加蓮は感じていた。
敵の放つ殺気をひしひしとその身に受け、あの男がまだこの場にいる事を理解する。
どこにいるかは見えない、だけど確実にいる。
そうやって隙を一切見せずに周囲を見渡していると、先ほど加蓮がZガンで潰した窪みから、そこに残っていた血液が盛り上がり、形を成していく。
そこには1メートル近い大きさの蝿。
大きな羽音を鳴らしながら、浮かび上がる蝿の姿があった。
凛「っ!?」
加蓮「うぇぇぇっ!?」
加蓮はそれを見て露骨に嫌悪感を示す。
後ろにいた3人もそう、巨大な蝿は生々しいフォルムで生理的嫌悪を沸きあがらせる姿だったからだ。
卯月「き、きゃああああ!?」
未央「は、蝿!?」
奈緒「いっ、いやああああああ!!」
蝿は高速で動き、凛に向かって突進してくる。
そのスピードは高速で、時速に換算すると200キロは出ていた。
凛はその高速で突っ込んできた蝿を、
凛「気持ち…………悪い!!!!」
大剣を横に向けて、地面に叩きつけた。
何度も何度も大剣で蝿を叩き潰し、潰して潰して原型を留めなくなった蝿にダメ押しといわんばかりに掌の閃光と黒球の閃光を撃ちこみ十数メートルはあろうかというクレーターを作りだすまで撃ちこみ、漸く攻撃を止めた。
凛「はぁっ! はぁっ!」
荒い息で自分の作り出したクレーターを見る凛。
そのクレーターの中から声が響き渡ってきた。
「おいおいおい……なんつー女だァ!? どんな反射神経してやがんだァ!?」
小さな子供のようなサイズになった男が無傷で現れる。
「俺のカラダがこんなに小さくなッちまった。こりゃ、何か食わねェと……なァ!!」
凛「っ!?」
男は凛とは違う方向に向かって駆け始める。
その先には卯月、未央、奈緒の3人。
すぐに黒球を動かし男の足を撃ちぬくが、男は何事もなかったかのように駆け続け、3人との距離があっという間に無くなっていく。
凛「くっ!? 逃げ……」
凛が三人に逃げるように叫んだその瞬間。
3人はすでに行動を開始していた。
卯月「二人とも、私の手を!」
いつの間にか空中に浮かんでいた卯月は、未央と奈緒に自分の手を取るように差し出す。
その手を二人は掴み、卯月は二人を掴んだと同時に、急上昇して十数メートル上空に移動した。
凛「!!」
敵を卯月達に近寄らせてしまい焦った表情をしていた凛だったが、その様子を見て息を呑む。
「なッ!?」
男は予想もしなかった動きに、一瞬固まり、3人が消えた上空を見上げると。
送る用の銃を構えた未央とショットガンタイプの銃を構えた奈緒の姿を目にする。
奈緒がまず男に銃を撃ちこむ。
だが、男の体は大きく膨らんだが破裂する事は無かった。
奈緒「はぁ!? 当たっただろ!?」
効果が無いように見えた奈緒の銃撃は、男の動きを数秒止める効果をもたらしていた。
その間に、未央は送る用の銃の引き金を引いて。
男はワイヤーで拘束されるとともに、頭の頭頂部からどこかに送られ始めた。
未央「やった!?」
だが、その時、男の体に変化が生じる。
首だけがポロリと落ち、その首はどこかに送られたが、男の体は残ったまま。
その男の体から再び首が現れて、男は3人を見ながら今まで舐めたような視線だったが、鋭い視線に変化した。
そして、拘束されているワイヤーを鋭い爪で切り裂き、男は全員と距離を取る。
上空からは再び未央と奈緒が狙いをつけ、地上では左右から男に高速で接近する凛と加蓮。
「チッ……こいつら……ハンター共のボスか……」
男は小さくなった自分の体を見てぼやきながら体を振るわせ始める。
凛と加蓮が男を剣で斬り裂こうとしたその時、男の肉体が爆発し、中から小さな虫が無数に現れる。
加蓮「またぁ!? 気持ち悪いんだけどっ!!」
その虫は大群で凛に襲い掛かり始める。
虫の狙いは、凛の口や鼻、そして耳の穴。
そこから凛の体内に侵入して、内側から凛の体を喰らい尽くすつもりだった。
虫から後退するように距離を取る凛の姿を見て、虫となった男は全力で凛に近づいて。
凛との距離が残り2メートルを切った所で、分裂していた小さな虫全てが押しつぶされた。
凛「……」
凛が起動したのは、右手の大剣。
超重力フィールドを発生させて、自分に群がろうとしている虫全てを押しつぶしたのだった。
押しつぶした後はまた距離を取り、フィールドによって少し窪んだ場所から視線を外さず注視する。
そこには、先ほどよりもさらに身体のサイズが小さくなった男が荒い息をついて再生していた。
凛「ふーん。何となく分かったよ、アンタの特性」
男が視線を凛に向ける。
凛「アンタ、その再生能力って限界があるでしょ?」
男の顔色が変わる。
凛「再生するたびに、何かエネルギーを使わないといけないといけないからどんどん身体が小さくなる。それで、そのエネルギーが尽きたとき、アンタは再生できなくなる」
「……」
凛「さっきから私達に何かをしようとしてるみたいだけど、それが出来なくてアンタは困っている。そうじゃないの?」
「……」
男の顔色が強張り始める。
凛「さて、後何回でエネルギーが尽きるか、試してあげるよ」
男が踵を返して逃げ出そうとしたが、男の身体にワイヤーが巻きつき、腕が大きく膨らむ。
未央「今度こそ!」
奈緒「喰らいやがれっ!」
それは上空から未央と奈緒が撃ちこんだ銃撃の効果。
「くッそ!? 邪魔ッだッ!!」
すぐさま切り裂くが、すでに近づいていた加蓮が両腕を男に押し付けて閃光を放つ。
男の肉体は四散し、その肉片を凛が黒球の閃光で全て消し飛ばす。
男は懸命に再生し続けるが、再生するたびに凛と加蓮によって肉体を消し飛ばされていく。
そのたびに肉体は小さくなり、すでに数センチに満たない肉片になっていたが二人の攻撃は止まらない。
男の意識は徐々に薄れていく。
男が最後に見たものは、攻撃を続ける凛の姿。
その凛の顔を見ながら、男はこの世から消滅した。
数分間攻撃を続けていた、凛と加蓮。
最初はそれぞれが好きなように攻撃を行っていたが、途中から凛と加蓮は息を合わせるようにお互いの攻撃を合わせ始めていた。
男の肉片が無くなった後、お互い背中を合わせて周囲を破壊し始める。
全方位をZガンの重力砲で、掌からの閃光で、黒球からの閃光を使って二人の十数メートル範囲の空間は立ち入ったものを消し飛ばす破壊の嵐が巻き起こっていた。
卯月「あわわわ……」
未央「お、おーい、二人ともー、もう大丈夫なんじゃないのー?」
奈緒「加蓮!! 落ち着けって!! もう敵の反応消えたぞ!!」
空に浮かぶ3人はその様子を冷や汗を垂らしながら見て、奈緒が手元のレーダーでさっきまであった大きな光点が消え去ったのを確認して二人に叫ぶ。
その声を聞いて、漸く二人は攻撃を止めて、3人を見上げる。
凛「ふうっ……ふうっ……終わった……? でも……」
加蓮「確かに反応は消えた……けど……」
近づいてこようとする3人を凛と加蓮は手で制して、お互い周囲を警戒する。
凛「……さっきの奴は殺れたけど……まだ何かいる……」
加蓮「……やっぱりそう思う? いるよね、多分あれよりヤバいの」
凛は最初に転送されたときに感じたあの感覚が収まらず、まだ敵が、さっきの85点の敵よりも強いであろう敵が残っていることを感じていた。
それは加蓮も同じで、今回のミッションは今まで倒してきた敵とは別格の敵がいる事を感じていた。
凛「……まさか、今回のボスは」
加蓮「……100点かもね」
二人がそう呟いた瞬間。
凛達がいた場所から数百メートルほど離れた場所で大きな爆発音が響き、ビルが崩れ落ちた。
その様子を全員が見ていると、今度は別の場所で天に立ち昇るような炎が巻き起こる。
その光景を見て、空を跳んでいた卯月達は急いで凛の元に駆け寄った。
卯月「り、凛ちゃん! 今の!」
未央「な、何が起きたのあれ!?」
凛「……多分、今回のボスがまだいるんだと思う。そのボスの仕業じゃないかな……」
加蓮「……やっぱり今回の狩りはいつもと違うみたいだね。中ボスで85点とか……」
奈緒「お、おい。マジなのか、それ……?」
加蓮「多分間違いないと思うよ。レーダーを広域にしてみても……やっぱり……」
加蓮がレーダーを操作して広域にすると、大きな光点が1箇所表示されていた。
その場所は先ほど炎が巻き起こった場所。
その表示を見て凛はこの場にいる皆に声をかけた。
凛「あの場所、多分今度こそボスだと思う」
凛の言葉に全員が喉を鳴らし、緊張を顔に表した。
凛「加蓮と……神谷さんはどうする? 一緒に来る?」
加蓮「アタシも行くよ」
奈緒「……加蓮が行くんだったら、あたしも行く。後、そのさんづけ止めてくれ、何かあんたにそういわれるとムズムズする」
凛「わかったよ。それじゃあ、卯月、未央、加蓮、奈緒。全員で、今回のボスを倒そう」
その言葉に全員が頷き、炎が立ち昇る場所に向かって移動を始める。
炎に照らされた夜の空は、真っ黒な雲が漂い、ぽつりぽつりと雨が降り始めていた。
少し時間は遡り、玄野達は上空から降ってくる隕石と見まごう程の巨岩を対処すべく動いていた。
玄野「全員逃げろォ!! 潰されるぞッ!!」
その声で今回の新人4人は何かが起きている事に気がつく。
「えッ? 何だ?」
「お、おいッ! 何だよあれ!?」
「うおッ!?」
「う、うわッわああッ!?」
そのまま新人達はその場で固まり動けずにただ自分たちに向かって落ちてくる巨岩を見続けていた。
すでにその場所から離脱していた玄野は、動けずにいる新人達の姿を見て、それと共にもう一人動けずに居る人物を見て目を見開いた。
玄野「風ッ!!」
新人達の傍に風も残っていたのだ。
玄野達は信じられなかった。
恐らくは、自分たちよりも優れた反射神経を持っている風が棒立ちでその場に残っていたから。
いや、棒立ちではなかった。
風の足元に小さい子供が、風の足を必死にしがみ付いて震えている姿を見てしまった。
そう、風は誰よりも速くこの場から離脱しようとしたが、自分の足にしがみ付く子供に気を取られて動けなかった。
子供を引き離して一緒に離脱をしようとしたのだが、スーツの力で抱きついている子供を引き離す事は容易ではなく、そうこうしているうちにすでに逃げることも出来ない状態となっていた。
風は離脱する事を諦めて、迫り来る巨岩を見上げて目を細めた。
「う、わぁぁぁぁ!!」
「た、助けて、助けてくれぇぇぇぇ」
新人達が頭を抱えて蹲ったとき、子供は風に懇願するように叫んでいた。
「きんにくらいだーーー!!」
その子供の声を聞き、風は両腕を上げ、落下してきた巨岩の表面に手を沿え、
全てを押しつぶす、破壊の巨岩を受け止めた。
風「ヌゥゥウウウ……おおおおおォォォおおおァァァァァァァッッッ!!!!」
風の足元が大きく陥没する。
膝が巨岩の重圧に負け、折れ曲がりそうになるが、風は裂帛の気合を込め叫び、巨岩を支えきる。
「なッ、なん……だとッ!?」
どこからか聞える驚愕の声は、風に受け止められた巨岩が発したものだった。
その巨岩は、今回の星人の幹部の一人。
彼は数十トンになる質量の自分の身体を受け止めることなど人間に出来るわけが無いと高をくくっていたがその考えは覆される。
だが、彼の驚愕はそこで終わらなかった。
自分の身体が下から動かされている。
自分を支えている人間が何かをしようとしている。
風「オオオオオオォォォッッッ!!」
その人間、風は受け止めた巨岩を…………ぶん投げた。
投げられた巨岩は数十メートルの弧を描き、衝撃音と共に道路に突き刺さった。
その光景を玄野達は呆然と見ていた。
押しつぶされそうになっていた新人達も同じく呆けた顔で風を見ている。
そして、風の足元の小さな子供は丸い目を極限まで大きく見開いて、その輝く目を風に向けていた。
玄野「うッそだろ……」
武田「し、信じられないな……」
桜井「すッげ……」
坂田「ハハ……」
「お、俺ら、助かったの?」
「い、生きてる? 生きてるのか?」
「きんにくらいだー!! わああああ!! きんにくらいだーーーー!!」
はしゃぎまわる子供を見て風は表情を緩める。
だが、すぐにその緩んだ表情を引き締めて、投げ飛ばした巨岩を睨む。
風が睨むと共に、巨岩は動き出し、十数メートルはあろうかという巨大な岩人間として動き始めた。
風「……あっちに行ッて隠れとき」
風が指差す方向には玄野達。
これからあの岩石人間を相手にするには、この子供がいてはまともに戦えない。
そのために子供を安全なところに避難させようとするが、
「きんにくらいだーもいっしょに……」
風の足を離そうとしない子供、どうしたものかと考えている間にも岩人間は地響きを上げながら近づいてくる。
風「……」
無理矢理引き離そうかと考えたところで、風の周囲に玄野達がやってきて岩人間を迎撃する為に風の前に立つ。
玄野「レイカさんはその子供を保護してやッてくれ! 戦えるヤツ全員であのゴーレムをぶッ壊すぞ!!」
レイカ「!! うん……わかッた……」
レイカは風から子供を引き離して子供を抱きかかえるが、子供は激しく暴れだす。
「はなして!! きんにくらいだーといっしょがいい!!」
レイカ「ちょ……暴れないでッ」
「きんにくらいだー!! きんにくらいだー!!」
その様子を見て風は、しゃがみこみ子供の目線と同じにして子供の顔を覗き込みながら頭を撫でる。
風「ちいと待ッとき。すぐ終わらせるけん」
「きんにくらいだー……」
風「俺はお前を守るために生まれた筋肉ライダーじゃけん、あの悪い奴をやッつけなならんのや」
「ぼくを守るため?」
風「そうたい、そうたい! やけん、目をつぶッて待ッとき。すぐに悪い奴をやッつけてくるけん」
「悪い奴……ぼくを守って……」
自分を守ってくれると言う風に子供は駄々をこねるのを止めてジッと風の顔を見続ける。
「きんにくらいだー、おねがいします。悪い奴からぼくを守ってください」
大人しくお願いをしてくる子供に風は子供の頭を優しく撫で、
すでに戦いを始めている玄野達に合流する為に立ち上がった。
玄野は巨大な岩人間と相対し、攻撃を始めている。
玄野は剣を伸ばし、鈴木と坂田と桜井はショットガンタイプの銃で狙いを定め、余裕な表情で玄野達を見下ろしている岩人間へ一斉に攻撃した。
だが、
玄野「なッ!?」
玄野の剣は敵の表面を傷つけることが出来ず弾かれて。
鈴木「えッ!?」
桜井「銃がッ」
坂田「効かなねーのか!?」
鈴木達の撃ちこんだ銃撃も敵の表面が小さく爆発した程度でとても致命傷を与えられるものではなかった。
玄野達は何度も攻撃をするが、結果は全て同じで岩人間をとても倒せるようなダメージを負わせることが出来ずに、一旦攻撃を止める。
坂田「リーダー、どーするよ? メチャクチャ硬いぞあの星人」
玄野「一点攻撃を仕掛ければ……」
桜井「駄目でした……表面を吹き飛ばしても中まで届かないんスよ。表面の下にとんでもなく硬い皮膚があるみたいで……」
玄野「……」
鈴木「そういえば神奈川のチームの人たちは? あの人たちが持ッていた銃を使えば何とかなるんじゃ?」
玄野「……神奈川チームは何かを探しにあのゴーレムが落ちてきたビルの屋上に行ッた。すぐ戻るッてたけど……」
坂田「……逃げたんじゃねーのか? あいつ等の仲間で3回クリアしてるやつがコイツに殺されたんだろ? 戦意喪失してもおかしくねーな」
桜井「そ、そんなッ!?」
そうやっているうちにも、岩人間が近づいてくる。
今まで攻撃という攻撃は落下してきて押しつぶす攻撃のみだった岩人間が始めて数メートルはあろうかという腕を振りかぶって殴る体制に移行した。
玄野「ッ! 来るぞ!!」
岩人間が緩やかな動きで腕を振りかぶり、次に動いたその腕の動きは全員が知覚出来ないレベルのスピードで繰り出され、玄野は岩人間のアッパーの直撃を喰らい吹き飛ばされた。
玄野「うッがァァッ!!」
無意識に岩人間との剣を滑り込ませ衝撃を幾ばくかは抑えたが、玄野は岩人間のアッパーで上空に吹き飛ばされる。
鈴木「玄野クンッ!!」
坂田「やべェ!! もう一発くんぞ!!」
桜井「クッソ!! こんなのどーすれば!?」
岩人間が3人に玄野を吹き飛ばしたように腕を振りかぶって横なぎに振るおうとしたその時、岩人間の足元に黒い影が滑り込み、
岩人間の足に背中から突進する靠撃を繰り出し、その衝撃で岩人間は横に倒れこんだ。
桜井「風さん!!」
坂田「おおッ!!」
風はそのまま岩人間の身体を駆け上り、岩人間の首裏まで到達すると、首筋を狙い殴打を開始する。
風「うおおおおぁあぁぁぁぁ!!!!」
風の怪力によって繰り出される一撃は岩人間の身体に傷をつける事は敵わなかった。
だが、その攻撃は一撃ではなく、数発、数十発と同じ場所に攻撃を加える事により、岩人間の首筋に裂傷が生じ始める。
岩人間はたまらずに大きな腕を首筋に押さえつけるように、風を叩き潰すように動かし、風は一旦岩人間の首元から跳躍し地面に着地する。
岩人間は風を見据え笑い始める。
「ハハハハハハハッ! ヤルナ人間ッ!」
岩人間が今までとは違い、その十数メートルはあろうかという巨躯を軽量級のボクサーのような身軽さで動かし始める。
そこから繰り出されるパンチを風はギリギリのところで回避し、逆に岩人間の腕にカウンターを見舞う。
バランスを崩す岩人間を駆け上がろうとするが、別の手で風は振り落とされ地面に叩きつけられる。
一進一退攻防が数分続く。
風と岩人間の戦いに誰も入っていけなかった。
岩人間の巨躯から繰り出される攻撃を数度受ければスーツの機能は停止し成すすべなくやられてしまう。
そして、高速で動く岩人間を戦うことなど風以外の人間に出来ないことを皆が理解していたからだ。
数分の攻防、風のスーツに異音が置き始めた頃に、戦局を変える流星が降り注ぐ。
玄野「風ッ!! 離れろォッ!!」
その声を聞き、風は一瞬でその場を離脱し、今まで岩人間と戦っていた場所に、超重力の嵐が巻き起こり始めた。
ビルの屋上から飛び降りてきた二つの影。
一人は、両手にZガンを持った武田。
武田は先にやられてしまった神奈川チームの持っていたであろうZガンを回収しに行っていた。
あの敵を見た瞬間、一丁では足りないと直感したから。
そして、その直感は当たっていた。
一丁のZガンでは精々足止め程度。
だが、二丁のZガンによる連続射撃は流石の岩人間にもその岩石で出来た身体に新たな裂傷を発生させるにいたっていた。
武田「アァァァァァアアアアアァァァ!!」
ドドドドドドドドドドド!!
ビルの屋上から地面に到達する間、武田はZガンを撃ち続ける。
数発Zガンを喰らい膝を付いた岩人間だったが、徐々にZガンの射撃を受けながらも立ち上がり始める。
身体に亀裂を生み出しながらも立ち上がり、武田を見上げたその時。
自由落下する武田を追い越すように、玄野が剣を構えて岩人間に突撃した。
武田はそれを見てZガンを手放し、剣を装備して玄野と同じように岩人間に突撃する。
二人の狙いは、岩人間の目。
岩人間が剣の切っ先を目にしたときには、剣先は岩人間の目を貫いていた。
「ウガァッ!! ンダトォォォ!?」
目を貫いた剣を手放して、玄野と武田は同時に空中で岩人間の頭に銃を向けるが、岩人間の頭の横にすでにいた人間を見て、トリガーを引く指を止めた。
岩人間の大きな頭の横にいるのは風。
風のスーツの筋繊維が大きく盛り上がり、無防備な岩人間の頭に全力の靠撃が繰り出された。
「ガッ!?」
岩人間の頭から鈍い音が戦場に響いた。
その音は岩人間の首筋から響いた音。
風の殴打によって裂傷が生じ、武田のZガンの乱射によってその裂傷が大きくなり、風による全力の一撃によって岩人間の首筋はひび割れ始め、
風「ウオオオオオオァァァァァァアアアァァッ!!」
連続の靠撃で完全に肉体と分断されて岩人間の首は吹き飛んでいった。
その様子を見上げる玄野と武田。
岩人間の身体はゆっくりと崩れ落ち、近くにあったビルを巻き込み、ビルは倒壊した。
そして、崩れ落ちるビルを背後に風は悠然と歩き、子供の前に戻っていく。
「す、すゥッげェェェ!?」
「な、何物だよあの人はァ!?」
新人達の感性を受けながらも風が見るのは子供だけ。
子供はただただ純粋な目を風に向けながらレイカの腕を振りほどいて風に飛びつく為に走り出した。
倒壊したビルの近くで玄野と武田は座り込んで話をしていた。
玄野「終わッた……」
武田「あぁ……」
玄野「あんた達のチームの人たちは……その……」
玄野は今回ボスを倒せたが、神奈川チームに死傷者が出てしまった事に暗い顔をする。
その表情を見た武田は、どこか諦めた表情で、
武田「……仕方無いさ。アイツ等は戦いが好きで狩りをし続けていたんだ。いつかこうなるッて分かっていながらな……」
玄野「……戦いが好き?」
武田「ああ、どうしようもない連中だッた。だけど、何とかしてやりたかッた……アイツ等も最初はあんな奴等じゃなかッたんだ……」
何かを思い出すように呟く武田。
その武田に、生き残った神奈川チームの3人が駆け寄ってくる。
「彪馬さん! 大丈夫ッスか!?」
「無茶しないでくださいよ!」
「屋上から飛び降りるなんて何考えてるんすか!?」
武田「すまない…………ッ!?」
武田が3人と会話をしようとしたところで、少し離れた位置に爆発音が響き渡った。
武田「……炎?」
武田の視線の先には天に向かって立ち昇るような炎が発生していた。
その炎を見て、玄野はレーダーを確認する。
玄野「……なん、だ? もう一匹……?」
武田「どうした?」
玄野「これを見てくれ……」
玄野が差し出すレーダーに映るのは先ほど炎が巻き起こった場所と思われる位置に大きな光点が煌々と輝いている。
武田「……今回、ボスが2匹ッてことか?」
玄野「多分、そうだと思う……」
武田「くそ……何から何までイレギュラーだな……」
武田は吐き捨てながらも立ち上がり、先ほど手放したZガンを回収しに動く。
武田「これ以上被害も出したくない。早くもう一匹も倒して終わらせるぞ!」
玄野「わかッた……」
玄野は武田の言葉に返しながらも、沸きあがってくる言いようの無い不安を感じていた。
玄野の不安が形になったような真っ黒な雲から、ぽつりぽつりと雨が降り始め、戦場に雨が降り注ぎ始める。
今日はこの辺で。
星人と人間の死体が散らばる公園。
死の臭いが立ち込める場所で、手に炎を生み出した大男と剣を構える和泉と吉川が動く。
両手に炎の球を生み出した大男はまずその球を地面に叩きつけた。
炎の球は地面に炸裂すると共に、数メートル近い炎柱となり和泉と吉川の視界を妨げる。
だが、吉川は臆することなく剣を伸ばし炎柱を切り裂き、その向こう側にいるであろう大男に一撃を加えるべく攻撃をする。
吉川「ッ!」
だがその先には誰の姿も無く、吉川の剣は空を切る。
すぐに大男を探すが、吉川の視界に無数の炎弾が入り、それを防ぐべく剣を走らせた。
大男は跳躍して空中で両手に無数の炎弾を作り出し、吉川と和泉に撃ち込み始めていたのだった。
和泉「クッ!!」
吉川「チィッ!!」
両者はその炎弾を剣で弾く。
無数の炎弾を手に持った獲物で次々と弾き直撃を避け、防ぎ続けるうちに両者は徐々に大男との距離を縮め始めていた。
「ほお……やるな……」
大男が自分の攻撃を防ぐどころか、反撃の兆しを見せる両者にほんの少しだけ感嘆の声を漏らす。
そして、大男が放った炎弾を両者が同時に避けて、大男に斬りかかったその時、
和泉「何ッ!?」
吉川「うッぐァッ!?」
大男の周囲に炎の壁が発生して、和泉よりも大男に接近していた吉川が炎に飲み込まれる。
「海司さんッ!?」
「吉川さん!!」
大男に銃を構えながら吉川の戦いを見守っていた男達から悲鳴が上がる。
吉川が炎に巻かれたと同時に男達も銃を大男に乱射するが、炎の壁で狙いが定まらず大男には当たらない。
その間に、吉川は目に入った水が満ちる池に飛び込み、和泉は一旦距離を取る。
大男は再び炎の弾を、それも先ほどよりも大きく明らかに熱量が尋常ではない弾を生み出して、和泉と吉川の飛び込んだ池、そして銃を撃ちこんだ男達に向けて投げつけた。
炎の弾を和泉は切り裂こうとしたが、切り裂く瞬間背筋に悪寒が走り、和泉は全力で跳躍する。
和泉は跳躍しながらも、男達に打ち込まれた炎弾の様子を目にした。
男達は、炎弾を銃で撃ち落とそうと銃撃をしていたが、炎弾は止まらず、男達の一人に直撃した。
直撃した男はスーツを着ているにもかかわらず、炎弾が直撃した部分が、上半身がごっそりと削り取られ、その身体は大きく燃え上がってしまった。
「うッ! わぁぁぁぁぁ!?」
「うッそだろッ!! スーツが効かねぇ!?」
「か、海司サンッ!! な、何とかしてくれェ!!」
男達は一瞬にしてパニックに陥り、吉川に助けを求めるが、吉川が飛び込んだ池は蒸発して炎の海となっていた。
それを見た3人は絶望に染まる。
だが、その絶望の顔もつかの間、大男から聞える苦悶の声に目を向けると。
「ぐッ!? なんだッとォッ!?」
水に濡れた吉川が空中で剣を伸ばし、大男の肩口を斬りつけている瞬間を目にした。
「おッ……おおお!!」
体勢を崩した大男に吉川はさらに剣戟を繰り出す。
吉川が剣を振るうたびに大男に浅く切れ目が入り、吉川は大男との距離を詰めさらに高速で剣を振るう。
そして、その距離が数メートルとなり、吉川の渾身の一撃が、
吉川「おッしゃァァ!! もらッたァァァ!!」
大男の右腕を深く切り裂き、返す剣でその首を跳ね飛ばそうとした瞬間。
吉川「なッにィ!?」
大男の頭は炎となりその姿は掻き消えた。
左右を見渡す吉川だったが、大男の姿はどこにも見当たらない。
炎の熱による汗か、それとも冷や汗かは分からなかったが、吉川の頬を汗が伝って、周りで燃え盛る炎によって蒸発した。
離れた位置から見ていた和泉は吉川の動きを見て奥歯を割れるくらい噛み締めていた。
あの時考えた、凛の動きを見て考えてしまった思考をまた自分はしている。
自分よりもこの男のほうが上。そう考えてしまった和泉は、周りの炎の熱を凌駕する勢いで心身が煮えくり返っていた。
自分に対する怒り。この世界で、戦いの場において、凛にも玄野にも、そしてこの男にも劣っているかもしれないという可能性。
和泉はその考えを否定すべく、湧き上がる感情をそのまま剣を構える。
和泉「俺は……貴様等なんぞに……負けんッッッ!!」
極限までに高ぶった感情は、和泉に未来予知のごとき洞察力をもたらした。
吉川の背後でかすかに発生したゆらぎ。
炎の熱で人の目には捉えることもできないゆらぎ。
そのゆらぎを和泉は感じ、その場所に和泉は全力の居合いの一撃を振りぬいた。
「ガァッ!!」
吉川「何ッ!?」
背後から突然聞えた呻き声。
吉川が振り向くと、そこには顔だけが宙に浮いた大男の姿。
その左目が切り裂かれて、目から炎が巻き起こっている。
吉川の正面から和泉が繰り出した抜刀は、吉川の目でも捉えられなかった神速の抜刀。
その剣は確かに大男を捉え、大男は自分に一撃を喰らわせた和泉に目をやるが、和泉の姿はすでに地上には無く。
和泉「おおおおォォォおおおぁぁぁぁああああああッッッ!!!!」
「ぬ、うおぉッ!!」
再び大男が和泉の姿を捉えたのは、大男の口に剣を突き刺し、剣が大男の首を貫通したのと同時だった。
「ゴ……はッ……」
和泉は確かに手ごたえを感じた。
剣を突き入れ、確実な致命傷を負わせた。
大男は最後の悪あがきか、手から炎弾を和泉と吉川に投げつける。
それを回避し、和泉は男から剣を引き抜いて最後の一撃を加えようと剣を伸ばした。
そのときだった。
「くッ、クハハハハハハッ! ハハハハハハハハハハハハハ!!」
大男が堰を切ったかのように笑い出した。
その様子を見た和泉は動いた。
全力で後方に駆け出した。
攻撃ではなく、撤退。
和泉が先ほどまで感じていた怒りは一瞬で掻き消え、今和泉の中に生まれた感情は、本能的な恐怖。
その恐怖の感情が和泉の肉体を動かし、その場から全力で撤退する。
ほんの一瞬遅れて吉川も動いた、その動きは和泉にも引けを取らないほどの動き。
そして、吉川は仲間の3人に向かって叫ぶ。
吉川「逃ィげろォォォォォ!! 何かが来るぞォォォォ!!」
「!!」
「えぁ……」
「かいじさ……」
直後、戦場に爆発が起きた。
太陽のごとき光源と熱量、数十メートル巻き込む炎の嵐が全てを飲み込みながら天を貫くように立ち昇る。
吉川の仲間の二人は一瞬で飲み込まれ、蒸発した。
一人だけ吉川の叫びに反応し、いち早く逃げ出したZガンを持った男も足が炎に巻き込まれ、その足は蒸発しその場に崩れ落ちた。
その男を助けようと炎の範囲外に逃れたいた吉川は動こうとするが、男のスーツはすでに限界を向かえており、男はそのまま炎に巻かれ全身が炭化し死亡した。
吉川「くッ……くッそォおおおァァァ!!」
それを目にした吉川は、その場でひざまづき地面を殴りつける。
仲間たちの無残な最期を目にし、無力感に打ちひしがれ、ただただ地面を殴り続けていた。
その傍で和泉は自分の心臓の音を聞きながら、激しく脈打つ心臓を押さえるように歓喜の笑みを見せている。
和泉(俺が……俺が殺った……!!)
子供が親におもちゃを買い与えられて喜ぶような純粋な喜びを和泉は感じる。
ただ嬉しかった。恐らくは今までのミッションの中で一番に強い敵。そんな敵を自分の手で葬った。
先ほどまで自分よりも上かと感じていた男は蹲り嘆いている。
和泉の中にあった劣等感が煙のように消え去っていく。
やはり、自分が一番優秀で誰よりも強い。
和泉(そうだ……俺はあの女よりも、誰よりも、強…………)
和泉は感じた。
目の前に煌々と燃え上がる炎の嵐の中に何かがいる事を。
その何かは、徐々に形を作り出し、炎の中から現れ始める。
炎の嵐の中から現れたのは、人型の炎。
炎は恐ろしい熱量を発し、周囲の空間を歪ませている。
先ほどの炎弾や、今巻き起こっている嵐よりも高熱だと分かる人型の炎。
その存在は腕を組んで、空中をすべるように近づいてくる。
吉川もその存在に気付き、一瞬だけ呆然とするが、すぐにその存在を睨みつけて剣を構える。
その存在が先ほどの大男だという事を看破し、吉川は剣を人型の炎に振るった……が。
吉川「なん……だと……」
吉川が振るった剣は、炎に届いたと同時に蒸発しその剣先は失われていた。
人型の炎は吉川の攻撃を全く意に介さない様子で、和泉と吉川に告げた。
「ここからが本番だ。かかってこいハンター」
戦場に降り注ぐ雨は炎によって蒸発し、その熱と蒸発した雨は蒸気となり上空の真っ黒な雲を大きく成長させ、戦場の空は真っ黒な雷雲となり雨と雷を生み出し始める。
雨が降りしきる戦場で和泉と吉川はその雨を蒸発させながら襲い掛かる炎を避け続けていた。
避けるたびに周囲は炎で包まれて、二人はどんどん追い詰められていく。
「どうした!! 逃げるばかりかハンター!!」
人型の炎は炎を撒き散らしながらも二人にその腕から蛇のような炎を飛ばし攻撃し続ける。
二人は逃げてばかりではなく、剣で攻撃をしていた。
だが、炎に届く前に剣は蒸発し、剣での攻撃は無駄だという事を思い知らされていた。
そして、炎を先ほどとは違い全て避ける、それも当たった時点でスーツごと蒸発させられる炎だということが分かっているから。
剣を蒸発させる炎にスーツの防御性能は無意味。
二人はそれを理解して、炎の攻撃を回避し続ける。
吉川「ちッ、くッしょォ!!」
和泉「ぐぅッ……」
避け続ける二人だったが、ついにその周囲を炎で囲まれてしまった。
「終わりだ」
二人に向けて、人型の炎から一際大きな炎が打ち込まれる寸前。
ドンッ!! ドンッ!! ドンッ!! ドンッ!!
二人を囲んでいた炎が押しつぶされるように掻き消えて、炎の壁に隙間が生まれた。
吉川「ッ!!」
和泉「ふッ!!」
瞬間、二人はそれぞれ別方向に飛び出し、炎の海から難を逃れた。
吉川とは別方向に飛び出した和泉は体を捻り地面に着地する。
そして、自分の上空に気配を感じ剣を向けながら見上げた。
そこには空中に浮かぶ5人。
卯月が未央と奈緒の手を掴み、未央がZガンを持った凛を掴んで、奈緒も同じようにZガンを持った加蓮を掴んで空中に浮かんでいた。
未央と奈緒は二人の手を放し、和泉の横に凛と加蓮が降り立った。
凛「大丈夫?」
加蓮「平気……みたいだね」
和泉「…………」
すぐさま和泉は奥歯を噛み締めながら立ち上がった。
自分が助けられてしまったのだと知って、しかもそれを成したのは凛と自分の知らない謎の女。
謎の女は明らかに100点を数回クリアしている人間であることが一目で分かった。
屈辱感が和泉を襲う。凛に助けられただけではなく、また自分よりも上かもしれない人間……それも恐らくは年下の女に助けられたのだ。
和泉は凛達に視線を向けることも無く駆けはじめた。
あの炎人間に向かって、今度こそ自分の手で葬って見せると決意し駆ける。
凛「ちょ……」
加蓮「何、あの人……」
何も言わずに恐ろしく不機嫌な顔で自分たちの前から立ち去った和泉に二人とも疑問を浮かべるが、すぐさま思考を切り替える。
凛「加蓮、私たちもあの人が目指してる場所……あの炎の海に行くよ」
加蓮「了解、アレは大分ヤバいね……ここにいてもピリピリと感じるよ」
凛「うん。卯月、未央、奈緒はそこにいて! あの炎、もしかしたらスーツでも防げない炎かもしれないから絶対に近づかないで!」
卯月「!?」
未央「ス、スーツでも防げないって!?」
凛「大丈夫、私達のスーツなら防げるから、通常のスーツはって意味。心配しないで待って!」
奈緒「か、加蓮……」
加蓮「心配いらないよ、すぐ戻ってくるから。約束したでしょ?」
奈緒「……わかった」
各々があの炎の海を作り出した敵が一筋縄ではいかないことを感じ取っていた。
不安はあったが、凛と加蓮は絶対の自信を持って3人に問題ないと言い放ち、3人もそれに頷く。
凛と加蓮はそれぞれ和泉のあとを追うように炎の海に突撃する。
凛「加蓮、ああは言ったけど、敵の攻撃は受けないようにね」
加蓮「分かってるって。基本は避ける、それが生き残る秘訣ってやつだからね」
凛と加蓮は頷きあいそれぞれ剣と銃を構えてさらにスピードを上げて駆け抜ける。
吉川が地面をすべるように着地すると、後ろにZガンを構えた二人の男が目に入った。
玄野「お、おいッ! あんた、大丈夫か!?」
武田「怪我は……無い様だな」
見知らぬ顔の男達、そしてさらに大勢の人間が走ってくる姿を見て吉川は別のチームの人間がやってきたのだと、そして自分は今助けられたのだと知り二人に礼を言う。
吉川「助かッた。正直かなりヤバかッた、礼を言うぜ」
両手に剣を持った男を見て玄野と武田は感じた、この男はかなりの猛者だと。
そして、こんな男を追い詰めるような星人は、視線の先で巻き起こっている炎を生み出したであろう星人は間違いなく今回のボスだという事を思いこむ。
武田「あの炎の海を作り出したのが今回のボスなのか?」
吉川「ああ、剣の攻撃が通用しねェ、はッきり言ッて、お手上げな状態だった」
玄野「剣が効かない……? どういうことだ?」
吉川「斬ろうとしても剣が蒸発しちまッて届かねェ、とんでもない熱量を持ッた炎人間が今回のボスだ」
武田「炎人間……」
吉川からボスの情報を聞き、玄野と武田は思考を巡らす。
武田「その炎人間にZガンは通用するのか?」
吉川「あ? Zガン……ああ、デカ銃か、それはまだ試してねェ、俺は銃を使わねェからな」
玄野「……他の銃は通用したのか?」
吉川「言ッただろ、俺は銃を使わねェ、どの銃も通用するかはわからねェよ」
玄野「……縛りプレイかよ」
吉川が剣しか持っていないことを、吉川が望んでそうしている事に二人は呆れながらも吉川に提案する。
武田「銃を渡すから使ッてくれ」
吉川「断る」
玄野「はァ!? あんた何言ッてんだよ!?」
吉川「普段使い慣れてねェ獲物より、俺はこれを信じる」
両手の剣を二人に見せて言い切る吉川。
武田「……わかッた。それならそうしてくれ、だが敵に剣は通用しないと言ッたのはあんただぞ。どうするんだ?」
吉川「俺が奴に接近戦を仕掛けて隙を作ッて見せる。その隙に銃で奴をぶッ潰してくれ」
玄野「お、おい、剣が蒸発するくらいの敵に接近戦なんて何を考えてるんだよ?」
吉川「当たらなきゃどーッてことはねェ。必ず隙を作ッてみせる、その隙を見逃すなよ」
武田「一歩間違えば死ぬぞ……」
吉川「ヤローには仲間を殺されてるンだよ!! ハラワタ煮えくり返ッてンだ!! 死ぬ死なねェッて話は後だ!! 今はヤローをどうにかしてぶッ殺す!! それだけだッ!!」
鋭い殺気を前方に向けながら覚悟を決めた顔で叫ぶ吉川に玄野と武田は口を閉じる。
この男には何を言ってももう止まらないのだという事が分かってしまったから。
玄野「分かッた。あんたが隙を作ッたら必ずボスを倒す」
吉川「オウ、頼むぞ」
武田「……名前を聞かせてくれ。俺は武田彪馬、神奈川チームを纏めている」
吉川「吉川海司、群馬……の人間だ」
玄野「玄野計、東京チームだ」
3人はお互いを名乗りあい、それぞれの顔を見合わせて行動を開始した。
玄野「死ぬなよッ!!」
武田「必ず生き残れ!!」
吉川「人の心配をしてんじゃねーぞ!!」
吉川は地面を踏み抜き、弾丸のように炎に向かって突進していった。
今日はこの辺で。
先ほどから降り続ける雨は勢いを増し豪雨に変わっていた。
それと共に上空で雷鳴が轟いている。
雨の勢いは増すが、先ほどの場所はいまだに燃え盛り炎の海は健在だった。
その炎の海に一番に到達したのは吉川。
それを迎え撃つように炎人間は吉川にしなる炎の鞭を浴びせかける。
吉川「ッとォ!!」
それを吉川は避けて伸ばした剣で炎人間に斬りかかるが剣の切っ先は蒸発し、蒸発した剣を元通りにすべく吉川は剣を伸ばす。
炎人間の顔を形どる部分が笑ったかのように見え、
「無駄だ。お前の攻撃は俺に届かん」
吉川「ほざけッ!!」
吉川は続けて剣を振るう、その剣は炎に届き蒸発する、炎人間からの攻撃を回避する。吉川の攻撃は一切届かず、炎人間の攻撃を喰らったら一発でアウト。
理不尽な戦いを繰り広げながらも吉川は敵を観察し続けていた。
本来ならば炎人間の攻撃を避けても、その炎は吉川の周囲に留まり逃げ場を失っていくはずだったのだが、今、この場は豪雨により炎人間の身体から離れた炎は勢いを失い鎮火していた。
炎人間自体の炎は豪雨を蒸発させながら燃え盛っていたが、その身体から離れた炎は熱が一気に落ちるようで雨の勢いに負け消えている。
先ほどの天に立ち昇る炎の柱も徐々に鎮火していき今は炎人間の周囲に発生している炎がこの場で一番強い炎となっていた。
吉川「水に、弱い、ようだ、なァッ!!」
横薙ぎの吉川の剣を蒸発させながら炎人間は炎弾を吉川に繰り出す。
「この程度の雨、スズメの涙程度だ」
その炎弾を避け、剣を交差させるように斬りつけるがその剣も蒸発する。
「無駄な事を、終わらせてやる」
炎人間の身体が大きく膨れ上がり数メートルほどの炎となり吉川に襲い掛かった。
その炎を吉川は両手の剣を地面に突き刺したまま、ただ見続けている。
炎が近づいてきても吉川は動かない。
炎が動かない吉川を飲み込もうとさらに大きく広がり吉川の体を包み込もうとしたその瞬間。
吉川が持っている2本の剣が急激に伸び、その剣を持った吉川は押し出されるように後方に移動する。
伸縮自在の剣を使った無茶な移動方法。
炎人間は消えた目標を追撃しようとするが、炎人間の視界に入る雨の形が押しつぶされるように変化したと共に、炎人間は重力の圧に押しつぶされ、その形を崩し炎は四方に飛び散った。
玄野「よしッ!! いッたぞ!!」
武田「Zガンは効果がある!! このまま全ての炎を潰すぞ!!」
玄野と武田がZガンの乱射を始めた。
そこにたどり着いたのは和泉。
和泉はZガンを乱射しながら炎を潰しつくす玄野と武田、そして肩膝を付いて炎の様子を見る吉川を目にして一歩出遅れてしまったのだと歯軋りをする。
和泉「クソッ!!」
そこに凛と加蓮、そして残りの東京チームと神奈川チームも追いついた。
凛「これは……」
加蓮「一歩遅かったみたいだね」
玄野と武田がZガンで辺りを潰しつくしている姿を見て凛と加蓮も戦いが終盤に差し掛かっているものだと考えた。
和泉はその凛と加蓮の姿を見て眉間に皺を寄せて別の場所に移動をし始めた。
その場所は最初に戦っていた公園。
炎はほぼほぼ鎮火し、そこで和泉は目当てのものを見つけるとそれを拾い、透明化を行い姿を消した。
坂田「うォッ……こりゃすげぇ……」
桜井「リーダーと武田サン……後、誰ッスかね?」
東京チームと神奈川チーム、それぞれのチームのリーダーが炎を押しつぶし、炎が全て鎮火した様を見て沸き立ち始める。
レイカ「玄野クンッ! 終わッたの!?」
鈴木「終わッた!?」
稲葉「か、帰れるのか!?」
「終わッた……終わッた!!」
「よッし! やッた!!」
完全に鎮火した炎。
炎人間もその姿を失い、押しつぶされたと考えられる。
だが、戦場で異変が生じ始めていた。
地面がおかしい。降りしきる雨が地面に到達する直前で蒸発し白い煙が上がっている。
舗装された道路のアスファルトがドロリと溶け出し、中から炎が立ち昇る。
それは一箇所ではなく複数個所に発生し、完全に不意を突かれた玄野と武田の背後に現れた炎人間が、
武田の片腕をもぎ取って行った。
武田「うッぐァァァ!!」
玄野「武田ッ!?」
吉川「チィッ!!」
吉川と玄野は同時に動いた。
玄野は炎を避けながらも武田を引きずり後ろに飛び、吉川は炎人間に効かない筈の剣戟を打ち込む。
その時、一際強い横殴りの雨が吉川と炎人間に直撃し、炎人間の炎がほんの少しだけ小さくなった。
その場所に吉川の剣は滑り込むように走り、
「グッ!?」
炎人間にダメージが通った。
吉川「!!」
それに気付いた吉川は同じ場所に剣を走らせるが、吉川の剣は再び蒸発し炎人間に届くことは無かった。
だが、吉川は剣が届いた事を確信し、一旦距離を取り全員に聞えるように叫んだ。
吉川「水だァッ!! 大量の水でヤツの炎を弱めれば攻撃が通るぞォッ!!」
後退した玄野は武田を神奈川チームに任せ、Zガンすら通用しなかった相手にどうするかと考えていた時に吉川の叫びを耳にする。
玄野「水? 水ッて……この雨じゃ駄目なのか!?」
吉川「駄目だ! もっと大量の水を一部分に浴びせかければ恐らくイける!!」
玄野「そんなもん、どこにあンだよ!?」
吉川「無かッたら神様に頼め!! この雨をもッと降らしてくださいッてなァッ!!」
吉川の叫びは味方だけではなく、炎人間にも届いていた。
炎人間はそれを聞いて、笑いながら自分の体の熱量を上げた。
「ハッハッハッハ! 猿の悪知恵だな。水など全て蒸発させてやる」
その姿は先ほどよりも大きく、炎が足元から渦巻くように発生していた。
だがそれに臆することも無く、吉川は炎人間に突進する。
「無駄だという事がわからんのか」
吉川「さッきは当たッただろーがよ!! テメーの隙を一瞬たりとも見逃さねェ、少しでも炎を弱めたときテメェの最期だ!!」
吉川の無謀な突撃は続く間も、玄野達は炎人間に銃撃を試していた。
しかし、Zガンも、ショットガンも、小銃も、Y字銃も全てが炎には通じないようで玄野達は吉川が言った大量の水を探すべく行動する事に移行した。
そして、その大量の水を手に入れる方法があると発言したのは坂田だった。
坂田「リーダー、水、集められるぜ」
玄野「! どうやってだ!?」
坂田は手を上にあげ、何かを始める。
するとすぐに坂田の手の上に雨が集まり始め小さな水球が出来る。
坂田「こうやってだ」
玄野「超能力……か……」
その水球は少しずつ雨を吸収し大きくなっていたが、その速度はかなり遅く坂田は舌打ちを鳴らした。
坂田「チッ、桜井! 手伝え! 雨を集めて水弾を作るぞ!」
桜井「は、はいッ!!」
玄野は坂田と桜井に水集めをまかせ、残りのメンバー全員で吉川の援護に回る。
玄野「みんな!! あの二刀流の男を援護するぞ!! 銃の扱いに慣れてないヤツは周囲を警戒してくれ、足元から突然現れる可能性もあるから気をつけろ!!」
レイカ「はいッ!」
鈴木「う、うん!」
一方、凛と加蓮は吉川の叫びを聞いて少しだけ立ち止まっていた。
加蓮には水を集める方法が思いつかなかったが、凛はある方法で大量の水を集められることを思いつき加蓮に提案していた。
凛「あの人、水っていってたけど、私、水を集める方法を持ってる」
加蓮「ほんと?」
凛「うん。ちょっと時間がかかるけど……この大剣で」
凛が左手に持った大剣を加蓮に見せる。
凛「少し離れていて」
加蓮が凛から少し距離を取ると、凛は大剣を起動し、無重力フィールドを形成して、その中に雨が入り込みふわふわと浮き出す。
加蓮「何それ?」
凛「無重力のフィールド。半径5メートルくらいが範囲内になってる。このフィールドに雨を集めればその内雨で一杯になるはず」
フィールド内で浮かんだ雨は、新たに入り込んだ雨と結合し、フィールド内は小さな水球が無数に浮かび始めている。
数分もしないうちにフィールド内は水に満たされることになるだろう。
加蓮「色々持ってるんだね……」
凛「まあね」
加蓮は凛に小さく笑うと、今までZガンを持ち半装着だったハードスーツの腕部分を装着し、Zガンを地面に置く。
ハードスーツを完全に装着した加蓮は手を握り歩き出す。
加蓮「それじゃあ、それが出来上がるまで、アイツの相手をしてくるよ」
凛「……大丈夫?」
加蓮「心配してくれるの?」
凛「そりゃ、ね。あのボスは、90点……私も相手をした事の無いほどの点数の敵。慎重にならないとこっちがやられるかもしれないから……」
凛は戦いを楽しみ、殺し合いを楽しむが、その中で冷静な思考を無くすことは決してなかった。
今回の敵が今までに無い敵だと判断したときから、卯月を、未央を死なせないようにする為に慎重になっていた。
先の85点の敵と戦ったとき、一瞬の油断で敵を卯月達に近寄らせてしまった事に凛は反省していた。
もしかしたらあの時に二人はやられていたかもしれないと考え、もう高得点の強敵は絶対に近寄らせないと決めた。
今の凛の思考は二人に戦いの楽しみを教えることではなく、二人を死なせずに強敵を倒すという事に変わっている。
そしてその対象は、加蓮と奈緒も含まれていた。
加蓮「ふふっ、凛って優しいんだね」
凛「は?」
加蓮「心配しなくても大丈夫! アタシ、強くなったから! 弱かった自分はもういない、今のアタシは強い!」
凛「ちょっと!」
加蓮は両腕に拳を作り、それを打ち付けて飛び出していく。
凛「優しいって…………私が?」
凛は水で満たされていくフィールドで加蓮に言われた言葉に戸惑っていた。
殺しを楽しむ自分が、生き物を殺して喜ぶ自分が優しい?
凛「……優しかったら、こんな事してないよ……」
ぽつりと呟いた言葉は意識して出た言葉ではなく、無意識に呟いていた言葉であった。
吉川は炎人間を相手に戦い続けていた。
だが吉川のスピードにも陰りが見え始める。
一撃喰らっただけでもアウトな攻撃を避け続けている吉川。
紙一重ではいけない、ギリギリで避けても炎の熱量でやられる可能性があったため、吉川は炎人間の攻撃を大きく避け続けていた。
吉川の体力の消耗と精神力の消耗は肉体に現れ、動きが鈍り始める。
だが、攻撃し続ける炎人間にも変化があった。
煌々と燃え上がっていた身体は若干熱量を落とし、攻撃が当たらないことに苛立ちを見せ始めている。
炎人間は身体を炎と化し、吉川の見えない位置に現れて奇襲を何度もかけていたが、吉川の超反応で避けられて、攻撃が当てることが出来なかった。
たった一人の人間にここまで手間を取らされるなど考えてもいなかった炎人間。
その炎人間が正面の吉川に気を取られ背後から襲い掛かってきた乱入者に気を回すことが出来なかったのは仕方の無いことだろう。
加蓮「はぁっ!!」
両手の掌から撃ちだした閃光が炎に穴を空ける。
炎人間は吉川に攻撃を加えようとしていたところに己の身体に穴を空けた乱入者を攻撃する為に背後に炎の鞭を振るう。
その鞭を加蓮は避け、閃光を撃ちながら後退する。
加蓮「加勢するよ!」
加蓮は炎人間を攻撃しながらも吉川に加勢の意を伝える。
吉川「何かはワカらねェが、味方か!?」
加蓮「味方よっ!」
吉川「なら合わせろッ!!」
吉川が疲弊していた身体とは思えないくらいの動きを再び見せる。
連続の剣戟に加蓮が連続の閃光を炎人間に撃ちこむ。
閃光によって炎に穴が空くがすぐに塞がる。
剣戟は全て蒸発するが、構わずに斬り続ける。
炎人間はこの攻撃に焦り始めていた。
どこまでもしつこく無駄な攻撃を仕掛けてくる人間。
この無駄な攻撃を防ぐためには炎の状態を維持しなければならない。
だが、その状態を維持するためには相応の力が必要。
無尽蔵に出せるわけではない。この生み出せる力にも限界がある。
吉川の無駄だと思われた攻撃は、炎人間の生み出せる炎を確実に蝕み、そして徐々に追い詰めていた。
しかし、炎人間の炎がついに吉川を捉えてしまう。
吉川「ぐッ!?」
吉川の右足が炎に絡め取られて、次の瞬間に吉川の足は爆発した。
吉川「うッガァッ!!」
その場に崩れ落ちる吉川。
追撃の炎を撃ち込もうとする炎人間に、加蓮の閃光が連続で照射されるが。
炎人間はそれを無視し、無理矢理炎を吉川に振り下ろそうとする。
だが、その炎人間の視界に異様な物体が映った。
それは巨大な水の固まり。
空中に数メートルの大きさの水が浮かび、その下に二人の人間が手を伸ばし自分を見ている。
坂田「出来たッ!!」
桜井「師匠ッ!!」
その巨大な水弾は炎人間に投げつけられ、迫り来る水弾を見て炎人間は全力で回避を試みる。
降りしきる程度の雨ならば今の状態でもこの炎の状態を保っていられる。
だが、あの量の水の直撃を食らえば、僅かな間、炎の状態は解除される。
その時、自分にはハンター共の攻撃が届いてしまう。
この至近距離に得体の知れない閃光を放つハンターと、片足を捥がれたがまだ戦意を失っていないハンターが残っている。
今この水弾を喰らうのは絶対にまずい。
そう考えた炎人間は、先ほどと同じように地面に潜り込もうと動こうとした。
坂田と桜井が撃ちだした水弾の速度は遅い。
炎人間はそれを回避できたはずだった。
後方から超高速で迫る水の固まりさえなければ。
「なッ!? ごぽッ……」
炎人間は自分に大量の水が撃ち込まれた事に気付く。
まだ視線の先には巨大な水弾が残っているのにどこからこの水がやってきたかと思う前に、
大量の水によって炎の状態を強制的に解除させられた大男に、3方からそれぞれ剣閃が襲い掛かった。
下段から吉川の切り上げる斬撃が大男の腕を飛ばした。
背後から加蓮がハードスーツの肘に当たる部分にある刃で男の胴体を切断する。
そして水の塊と共に突っ込んできた凛が、左手の大剣で大男の首を切断した。
「ぐはッ……」
大男の首が吹き飛ぶが、吹き飛ばされながらも大男は炎の状態に移行しようと全身を燃え上がらせようとした。
だが、そこに坂田と桜井の水弾が着弾し、大男は炎化することが敵わず、その首を、胴体を水に濡れた地面に落とし、死に至った。
吉川「やッた……」
加蓮「倒した……」
凛「…………」
大男の死体の付近にいた3人は完全に大男が死んだ事を確認し漸く息をついた。
何一つ通じなかった攻撃が、最後には全ての攻撃が通って倒すことが出来た。
吉川は大の字になり寝転がって荒い息をつき始める。
加蓮と凛はまだ警戒をしながら大男の死体を見続けている。
加蓮「……本当に、倒せたの?」
凛「…………」
二人とも何かを感じ取っているのか顔色が優れない。
完全に倒したはずだが、あの感覚が、敵の気配が消えない。
むしろ大きくなっている。
3人に東京チームと神奈川チームが近づく。
先頭の玄野も凛や加蓮と同じ顔をして近づいてくる。
玄野「……倒したのか?」
凛「…………わからない」
玄野「どういう意味だ?」
凛「まだ、何かいる」
凛がそう言った瞬間、上空の雷雲が轟き、付近に雷が落ちた。
その雷は一度ではなく、数度、近くで落ち、遠くで落ち、十数回雷鳴が戦場に鳴り響き漸くおさまった。
凛の全身が震え始める。
凛だけではなかった、全員が同じような状態になっている。
玄野「な、なんだよ、これは……」
武田「はぁッ……はぁッ……」
吉川「……なンだ…………」
風「ふゥッ……」
坂田「…………」
桜井「ハァーッ! ハァーッ!」
鈴木「うぅ……」
稲葉「うッぁぁぁぁ……」
そんな中、レイカがレーダーを見て何かに気付く。
レイカ「く、玄野、クン……こ、これッて……」
レイカが差し出すレーダーを全員が見る。
レーダーの表示は大きく歪んでいた。
その歪みが徐々に元に戻り始め、いつもの表示に戻ったと同時に、レーダーに真っ黒な光点が表示された。
加蓮「……さっきのも、ボスじゃなかった……」
凛「ふぅっ……ふぅっ……っっっ!!」
凛の全身に寒気が走った。
そして、凛が視線をある場所に向ける。
視線の先、そこには鬼がいた。
顔に大きな角が8本、2メートルは超える巨躯に背中には無数の棘。
そして、その表情は憤怒の色に染まっており、全身からは電気が放電している。
凛はその鬼を見て、すぐに情報を手に入れようとバイザーを操作する。
バイザー内の点数表示画面が鬼の点数を解析し始める。
凛にはその時間がとても長く感じられた。
長い時間、かかったかのように思われた点数表示は完了し、鬼の点数が表示される。
凛「100点……今回の、ボス……」
凛の声を掻き消すように、雷雲から雷が落ち、鬼が動き出した。
今日はこの辺で。
次は次スレに投下します。
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