関裕美「続く道の先へ」 (22)
とても短いですが、アイドルマスターシンデレラガールズの関裕美がメインのSSです。
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造花の付いた、緑色のベレー帽を頻りに被り直す少女の小さな背中を叩く。
不安に押しつぶされそうな少女の頬を掴んで、左右に引っ張る。
おでこを露出した少女に、笑顔、笑顔と声をかけ、自分の人差し指を口の端にそれぞれ当てる。
似合わないと言いたげな少女が、緊張と成人男性の歳不相応な態度に顔を歪ませるが、それでも構わずにポーズを崩さない。
少女の方が先に根負けしたのか、息を一つ大きく吐いて青年の顔を見上げる。
青年に向け、笑顔、だよねと確認するように呟いて、少女は自分なりの笑顔を作ろうとする。
お世辞にも、満点の笑顔とは言えない。それでも、彼女なりの精一杯で作った笑顔に対して青年は賛辞を述べて、少女の名前を言い、少女の背中を押して、ステージへと導く。
「――――――――――」
◇
「どうしたの、Pさん」
P「おう、お疲れ、裕美」
関裕美「お疲れ様。……それで、台本とにらめっこしていてどうしたの。私の役は…ふふっ、聞かないけど、決まったんだよね」
P「おう。裕美にお似合いの、役だからな!楽しみにしてくれ!」
裕美「ふふっ、どんな魔法をかけてくれるか、楽しみにしてるね♪」
P「楽しみにしていてくれよ!」
「創世の担い手よ!共に幻想の世界を駆け、遍く世界へと福音を届けにゆかん!(裕美ちゃん、一緒にファンタジーの映画のお仕事、頑張りましょうねっ♪)」
裕美「蘭子ちゃん、うん。私も、蘭子ちゃんと一緒のお仕事できるの楽しみだよ」
神崎蘭子「我に与えられし仮面は未だ喪失……しかし、迷いなど無く!歓喜の声を聞くがいい!(私も役をまだ知らないんですが、裕美さんと一緒にお仕事できるって聞いて、わくわくしちゃってる)」
裕美「ありがとう、私も蘭子ちゃんに負けないように頑張るねっ。……とは言っても、私の役はまだ決まっていないみたいで…Pさんは決めたらしいけど、教えてくれないんだ」
蘭子「瞳持つ者よ、戯れが過ぎる!(プロデューサー、いじわるですっ)」
裕美「いいよ、Pさんがくれたお仕事なら……頑張れるんだ。それに、Pさんが私にどんな魔法をかけてくれるかも楽しみだから、蘭子ちゃんも一緒にドキドキしない?」
蘭子「くくく……いまこの瞬間はその悦に興じよう!(そうですね……、私も楽しみにしちゃいますっ!)」
「2人の役は、きっとぴったりだと思いますよっ。私は……ちょっと、お勉強しないとダメ……かな」
蘭子「時空を支配せしインディゴよ!与えられた使命とは?(藍子さんはどんな役なんですか?)」
高森藍子「私は、クールでちょいワルな雰囲気の盗賊……です。……似合わないって、思いますか?」
裕美「ううん。確かに普段の藍子さんのイメージとは違うけど、だからこそ見たいなって思います」
蘭子「左に同じく。己が性と違う与えられし自己にどう立ち向かうか……私はそれが見たいっ(裕美ちゃんと一緒で、普段と違う様子の藍子さんも楽しみですっ)」
藍子「ありがとうっ、2人とも。それじゃ、私は資料を呼んで……、あっ、他の事務所の皆にも聞いてみますねっ」
蘭子「共に覇道を歩もうぞ!(一緒に頑張りましょう!)」
裕美「藍子さんのちょいワル…どんなのかな?」
藍子「私も、うまく考えられないので、頑張りますっ」
P「(いい空気だ……裕美も、蘭子と藍子と同じ舞台に立てる様に成長したんだな……それにしても……)」
P「(2人とも普通に熊本弁マスターしてるのか)」
◇
P「ふぅ、いいお湯だった……。ビールビール……いっただきまーす。んぐっんぐっ……ップハァー。一日の終わりにはこれだよなぁ!」
P「さて……裕美の仕事も決まったし……、裕美の今までの仕事見返すか!」
P「最初の頃はこんなしかめっ面でなぁ……本人も気にしてたのが分かるな、宣材写真とるのに苦労して……結局一番よかったのがこれだったなぁ」
P「それでLIVE用の衣装着たらこんなはじけるような笑顔しちゃってよ……。アイドルになって世界が輝いて見えた……全く、あの後の言葉は涙腺に効いたぞ」
P「ハロウィンの時には、木場さんや柚とユニットで初めてのLIVEに挑んでなぁ、自分だけじゃないステージも経験できたのはよかったな。しばらくして、公演で2人と共演しても見事に姉妹を演じていたな」
P「これはスペインのツアーの時……。ここのお店のパエリア美味しいなーって言ったら裕美練習してすげぇ美味しいパエリア作ってくれたんだよな。メアリーも絶賛してたな」
P「由愛が迷子になった時に、自分も怖かっただろうにお姉さんらしく気丈に振る舞ってたな……。LIVEではフラメンコの衣装で情熱的に……。情熱の国の熱気に負けない位輝いていたぞ」
P「それで大きなバニーのお仕事。……お姉さんを見習うのはよかったが、十時を見習うならもう少し別な部分もあっただろ……。ユニットで、自分の魅力で勝負することに気が付いてくれてよかったけど」
P「それから趣味のアクセ作りを活かしたお仕事やって、お花の妖精みたいな可愛い衣装だったな。最初花の名前間違えてたけど」
P「夏休みの撮影では、みんな自然な笑顔で楽しんでくれたみたいでよかった。森林浴にひまわり畑にきれいな川、花火もあがる夜道……。おばあちゃんになるまで共に歩んでいきたい」
P「花嫁の衣装の時には、ブーケが俺の所にきて大変だったな。ドレス3人組のユニットの時も、華やかな2人にも負けない位輝いていたぞ」
P「遊園地のパレードの仕事はよかったな。メリーゴーラウンド乗るの恥ずかしがって中々口に出せなくて、ちょっとだけ前みたいにきつい目になってたなぁ」
P「そんなところも可愛いんだけどな。メイドのお仕事だと、千鶴相手にビーム習ってたらしい。千鶴の奴、1人で練習してる時のぞき穴とか言ってたのに指導までするようになるなんて……」
P「それからこのPVのお仕事……。今までと毛色が違う、裕美にはあまり経験のないことなのに、しっかりとやり遂げて更に素敵なPVになるよ……か、」
P「色んなアイドルと組んで色々なお仕事して……全部が裕美の強さになったから、今回の役もきっと大丈夫だ」
P「…………はぁー…………」
P「立派になったなぁ……」
P「自分がアイドルなんて……そういって、上手く笑えなかった裕美が……」
P「……枕、よし」
P「声漏れないように口元枕で押さえて……」
P「ひろみぃぃぃぃぃ!!!!!かわいいぞぉぉぉぉ!!!!!!!!!」
\ウルセェゾバカヤロォ!/
P「ひっ、すいませんっ」
◇
最初のLIVEの様に、少女は緑の羽根の装飾が付いた緑のベレー帽を被っている。
少女が最初のステージに立った時とは違い、表情には余裕も感じられ、自然体で自分の出番が来るのを待つ。
揺れる羽根飾りがかつての少女と今の少女を重ね、一回りも二回りも大きく成長した姿を青年の目に幻視させる。
あぁ、あの少女がこんなに立派になったんだ。
生来の目つきの悪さから自分を卑下し、嫌い、そんな自分を変えたいと願っていた少女が、こんなにも。
世界が輝いて見える。少女の言葉を胸の中で思い返して、緑のベレー帽の上から少女の頭を撫でる。
宝石の様な赤い瞳で見上げてくる少女に、青年はかつての自分がしたように口元に指先を持っていく。
少女も同じように笑顔を作り、そうして青年へと語りかける。
裕美「いってきますっ♪」
楽しそうに笑う1人のアイドルの背中を見送り、青年はかつての少女の言葉をなぞる。
―――世界が輝いて見えたの―――
―――でも、きっと。最初から輝いていたんだよね―――
―――Pさんが気づかせてくれたんだ!―――
願わくば、今日も裕美の世界が輝き続けますように。こらえた涙をタオルで拭い、青年は少女の晴れ舞台へと思いを送る。
おわり
以上です。お付き合いいただきありがとうございました。後でHTML化依頼をしてきます。
正直な話、今回の関裕美の月末目玉抜擢に、ガチャページを見た瞬間に不意打ちからの悲鳴じみた声を上げ、無事お迎えして引けた瞬間膝から崩れ落ちました。
特訓前、特訓後どちらも素晴らしいのですが、特訓後のベレー帽を見てN+からの正統進化の系譜ではと感じ入ることもありました。
溢れる思いで叫びたい衝動をぶつけました。関裕美という一人のアイドルがここまで成長したことに、本当に、本当にありがとうございます。
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