【ラブライブ】モテ期なんてなかった (24)

穂乃果は考える。

穂乃果(人生には2度、モテ期がやってくるらしい。

    …本当かな?
    でも、こういうのって、大抵、こっちの準備ができてないときに突然やってきて、
    あっという間に過ぎ去っていっちゃうんだよね…

    願わくば、私のモテ期は、
    私の心の準備が整っているときにやってきますように)

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しかし、願いとは、叶わないから「願い」なのだ。

「好きです!穂乃果さん!僕と付き合ってください!!」

珍しく実家の和菓子屋の手伝いをしている穂乃果に、
なんとお客さんから突然の告白!!



穂乃果(すごい!ついに私にもモテ期が!? たまにはお母さんの言うことも聞くもんだね!
     …だけど)

穂乃果の目の前には、1人の男性、…いや、男の子、…しかも年齢は10歳以上も違うようで。

つまり、近所の幼稚園児であった。

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穂乃果「あ、ありがとう…」

園児「穂乃果さん!新婚旅行はどこへ行きましょう?」(眼鏡をクイックイッ)

穂乃果「あ、あははは…えーと、どうしようねえ…」

園児の母親「まあ、この子ったら。まったく、なんのドラマに影響されたんだか。…ごめんね、穂乃果ちゃん?」

穂乃果「いえいえ、…あははは」

園児「僕は本気ですよ!!本当に、穂乃果さんが大好きなんです!!」

穂乃果「え、え~と…」




母親「ハンバーグより?」

園児「え?」

穂乃果「え?」

母親「穂乃果ちゃんと結婚するのと、今日の晩御飯がハンバーグなのと、どっちがいい?」

園児「…くっ!」

穂乃果(あー、そういうレベルなのか…)

園児「ほの…」

母親「甘いコーンもつけちゃおうかな~」

園児「!」



その母親の一言が決定打だった。

男の子は目を潤ませながら穂乃果の方を向き、そして深々と頭を下げる。



園児「穂乃果さん、ごめんなさいっ!甘いコーンの誘惑には勝てませんでした!!」

穂乃果「あ、はい」

穂乃果「っていうことが昨日あったんだよ~。ついに私にもモテ期が来たと思ったのに~」

海未「ふふっ、可愛らしいお話ですね」

ことり「穂乃果ちゃん、ハンバーグに負けちゃったか~」

穂乃果「違うよ! ハンバーグだけならまだ勝ってたかもしれないよ! コーンがいけないんだよ、あのバター風味が!」

海未「…穂乃果、食べ物と本気で張り合うのはやめてください」



いつもの帰り道。いつもの3人。いつもの他愛ない会話。
普段なら特に変わったこともなく、3人は「またあした!」と言いながらそれぞれの家路につくはずなのだが…。

しかし、モテ期とは恐ろしいもので、軽々とイレギュラーを登場させてしまうのであった。

ことり「あれ?穂乃果ちゃん、その子…」

穂乃果「え?」


ことりの指差す先でハアハアと息を切らしているのは、小さなフレンチブルドッグ。
いつの間にか穂乃果の後ろをちょこちょこと可愛らしくついてきていた。


ことり「いや~ん、かわいい~」

海未「こ、これは、か、かわいすぎますね!!」


そう言って子犬に手を伸ばそうとする2人。


が、ダメっ!!圧倒的不発っ!!


フレンチブルドッグは2人に対して「がるるっ」と唸り声をあげつつ
穂乃果の足元をくるくると回り、そしてついには穂乃果のつま先の上にちょこんと座り込んでしまった。


穂乃果「ええっ?」

海未「これは…」

ことり「…モテ期?」

穂乃果「こんなのモテ期じゃないよ!」

ことり「…あれ?穂乃果ちゃん、それ…」

穂乃果「え?」


雨など降っていないのに、穂乃果の足先に広がる水溜り。
一仕事を終えて、「ふぃ~っ」と満足げなフレンチブルドッグ。

今日の天気予報は大荒れである。

穂乃果「…うぅ、この靴、買ったばかりなのに」

ことり「穂乃果ちゃん、えと、その…ファイトだよっ!」

穂乃果「ことりちゃん、それ、私の台詞だよ…」

海未「ぷふっ…」

穂乃果「海未ちゃん!さっきから笑ってて、ひどいよ!!」

海未「ご、ごめんなさい、でも、こんなことって、面白すぎて…ぷぷぷっ」

穂乃果「もうっ!」


あれから、「飼い主を見つけたらガツンと言ってやるんだ!」と意気込んでいた穂乃果だったが、
逃げた子犬を追いかけて走ってきた飼い主が小学生の女の子で、
子犬が無事に見つかったことを泣きながら喜び、
「お姉ちゃん、うちのポン太を見つけてくれてありがとう!!」と歯の抜けた顔で満面の笑顔を向けてきたため、
怒るに怒れず笑って見送ったのであった。

ちなみに、その女の子は偶然にもμ‘sの、そしてなにより穂乃果の大ファンで、
穂乃果のほっぺたにチュッと可愛らしいキスをして去っていった。

ことり「やっぱりモテ期だよ、穂乃果ちゃん!」

穂乃果「…なんか、想像してたのとだいぶ違うよ…」

海未「じゃあ、穂乃果はどんなモテ期がよかったのですか?」

穂乃果「え~、そりゃーやっぱりー、格好いい素敵な男性が花束を持って突然現れて~」

ことり「…」

海未「…」

穂乃果「で、『穂乃果さん、好きです。僕と一緒に和菓子じゃなくて洋菓子を食べに行きましょう!』って言ってくるとか!」

ことり「…」

海未「…」

穂乃果「あれ?反応が薄い…」

ことり「…まあ、そんな人は現れないかもしれないけど」

海未「…気を落とさないでくださいね」

穂乃果「ちぇ~っ」

ことり「まあまあ、その分、私たちが穂乃果ちゃんのこと、大好きだから」

海未「…ま、まあ、そういうことにしておきましょうか」

穂乃果「え~、素敵な男性がいいよ~」

その夜、ことりの部屋。

ことりはベッドに寝転んで、今日の出来事を思い出しながら笑いをこらえきれないでいた。

ことり「ふふっ、穂乃果ちゃんったら、おかしいんだから。
    さ~て、明日はどんな面白いことがあるかな~」

そう言って、時折思い出し笑いを続けながらそのまま寝ようとするのだが、
一つだけ、気がかりなことが頭をよぎる。


ことり(…穂乃果ちゃんがあんまりモテ期モテ期って騒いでると、
    海未ちゃん、気が気でなくなっちゃうかな?)

その夜、海未の部屋。

落ち着いた和室には純和風の家具が置かれ、
年頃の女の子らしさこそ感じられないものの、海未の人柄を表すかのようにすっきりと整えられていて上質な空間に仕上がっている。

1つだけ、この上質な空間に違和感があるとすれば、海未が布団の中でぎゅっと抱え込んでいる抱き枕だろうか。
そしてその抱き枕には、我々もよく見知った人物の写真がプリントされていて…。


真っ暗の部屋の中で、どうやら海未はその抱き枕に向かってぶつぶつと独り言をつぶやいているようだ。

海未「…はあ、穂乃果ったら、あんなにモテ期モテ期って大騒ぎして…」


そう言ってから息を大きく吸い込んだ海未は、一呼吸置いてから、
ずっと抱え込んでいたのだろう気持ちと一緒に、言葉を一気に吐き出した。

   
海未「…私の気持ちも知らないで!

   ううっ、私もことりみたいに、軽い感じで穂乃果に『好きです』って言えたら…
   ああ、無理です、そんなの、想像しただけで胸が張り裂けそうです!」


暗闇の中で、抱き枕をぐにゃりぐにゃりと捻じ曲げる海未。

そう、その抱き枕には、μ‘sで一番可愛いあの子(園田氏評価による)がプリントされていたのだった…

そして次の日。


穂乃果「おっはよう!おまたせっ!」」

ことり「おはよう、穂乃果ちゃん」

海未「おはようございます」

穂乃果「ねえ、聞いてよ2人とも!!」

海未「どうしたんです?朝からやけにハイテンションですね?」

穂乃果「『モテ期』の話なんだけどさ!」

海未「…またその話題ですか?」

穂乃果「いや、それがまだ私のモテ期は終わってなかったみたいでね、
    昨日、あの後うちに帰ったら、また告白されちゃったんだよ!」

海未「はいはい、今度はなんです?近所のご隠居とかですか?」

ことり「それとも、今度はあひるの子、とか?」

穂乃果「む~、違うよ~。なんと、私のファンだっていう男子高校生でね…」



海未&ことり「「は!?」」



穂乃果「で、すっごく格好いい人だし、話しやすいし、
    突然だけどお付き合いすることになりました!」

海未&ことり「「はぁーーーーーーーーーーー!?」」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

海未「ぶわっ!!!」


大声を上げて布団から飛び起きる海未。

状況が理解できず、周囲を見渡してから、ようやく自分が悪夢を見ていたことに気づく。
背中は、汗でぐっしょりと濡れていた。

海未「…はあ、はあ。私ってば、なんて夢を…」

穂乃果「おっはよう!おまたせっ!」」

ことり「おはよう、穂乃果ちゃん」

海未「お、おはようございます」


いつもの場所で待ち合わせる3人。


穂乃果「ねえ、聞いてよ2人とも!!」

ことり「どうしたの? なんだか今日はやけにハイテンションだね?」

穂乃果「『モテ期』の話なんだけどさ!」

ことり「ふふっ、またその話?」


今度は夢ではない。
しかし悪夢と同じ流れで繰り返される会話に、背筋がぞくりとふるえる海未。




穂乃果「いや、それがまだ私のモテ期は終わってなかったみたいでね、
    昨日、あの後うちに帰ったら、また告白されちゃったんだよ!」



その瞬間、目の前が真っ暗になって、気を失った海未は道端に倒れこんでしまった。

目を覚ました海未の視界に広がるのは、真っ白い天井。


海未(…見知らぬ天井)


それだけではなく、隣にはよく見知った、心配そうな表情もあった。


海未「…ことり」

ことり「海未ちゃん!気づいたんだね、よかった~。突然倒れちゃうんだもん、心配したよ~。
    ちょっとそのままで待っててね、今、保健の先生がちょうどトイレに行っちゃったとこなんで。すぐ戻ってくると思うから」

どうやらあの後、海未は2人に保健室まで運ばれて、今はベッドの上。
穂乃果は授業に向かい、ことりが付き添いに残ってくれた、という状況のようだ。


海未「あ、あの…ことり?」

ことり「ん?」

海未「えと、その…」

ことり「…穂乃果ちゃんのこと?」

海未「…あ、はい」

ことり「ふふっ」


そこで突然、笑い出してしまうことり。


海未「え?ど、どうしたのです?」

ことり「海未ちゃんってば、本当に穂乃果ちゃんのことが気になるんだね?」

海未「え?あ、いや、その、…お、幼馴染として当然のことです!」

ことり「…ふ~ん」

海未「なんですか、その意味ありげな『ふ~ん』は?」

ことり「ん~、別にぃ?」

海未「うぅ…」

ことり「あ、さっきのことだけど、心配しないでね?
    結局、雪穂ちゃんのお友達に、穂乃果ちゃんのファンです!μ‘sで一番大好きです、って言われたって話だったから」

海未「あ、…そ、そうでしたか」


明らかにホッとした表情を見せる海未。


そして、ことりは少しだけ、ほんの少しだけ表情を曇らせるのだが、
それに海未は気づかない。


ことり「さてと、じゃあ、わたしもそろそろ教室に行かなくちゃ」

海未「あ、ことり、迷惑をかけてしまってすみませんでした」

ことり「ううん、全然、迷惑なんかじゃないよ」

海未「ふふっ、穂乃果がそう言ったら、授業に出たくないだけでしょう、って思ってしまいますけど
   ことりが言うとなんだか本当に安心します」


そう言って、にっこりと微笑む海未。

そしてその笑顔に、右手をギュッと握って、胸元をグッと押さえることり。

海未「ど、どうしたのです?ことり?」

ことり「海未ちゃん、反則だよ、そんな笑顔…」

海未「え?」

ことり「海未ちゃんの気持ちはわかってるけど、でも、そんな笑顔を向けられたら、私…」

海未「ことり?」

ことり「海未ちゃん、私、海未ちゃんのことが、ずっと…」

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にこ「っていうの、どうかしら?」

ことり「え?」

海未「…すみません、話がまったく見えてこないのですが?」

にこ「いえね、これからμ‘sがもっともっと人気を獲得していくために
   女の子同士が仲良くしてます、みたいなのを強く前面に押し出して行ったらどうかな、って思って」

海未「はあ。…で、今までの話はどういうことなのです?」

にこ「いや、だから、さっきのようなストーリーを、私たちの公式HPとかで公開するとか、
   なんならいっそ匿名掲示板に流してもいいけど、そうやってμ‘sの仲良し度をアピールしたら
   もっと熱狂的なファンが増えるかなって思ってるわけよ」

海未「…はぁ」

にこ「ちょっと、そのどぶねずみを見るような目は、本気で傷つくからやめなさいよ!」

希「まあ、さすがに、このストーリーはなぁ。こんなんでファンが増えるとは思えんのやけど…
  だいたいこんなの、どの層が喜ぶん?」

花陽「こういうのを喜ぶ層がいるのはたしかです。
   でも、私だったら、穂乃果ちゃんが男の子について話すくだりは入れませんね。
   こういう層は異性の存在がチラつくことすら嫌いますから。
   むしろ、穂乃果ちゃんは絵里ちゃんに愛情に近い尊敬の念を抱いている、みたいなのはどうでしょう?
   で、絵里ちゃんのことばかり話す穂乃果ちゃんに、海未ちゃんが嫉妬している、
   だけど肝心の絵里ちゃんは希ちゃんのことを一番に思っていて、みたいな。
   いわゆるこじれ系ですね。あまりもつれさせすぎると、まどろっこしい、という批判も浴びかねませんが、
   メンバー全員を巻き込んで行ったら、それ系を好む層にはかなり受けると思いますよ」

凜「か、かよちん…?」

穂乃果「…ねえ、みんな。そんなことより、まずはちゃんと練習しない?」

絵里「…穂乃果から練習を口にさせるなんて。にこ、この話は却下ね」

にこ&花陽「「え~、そんな~」」


部室で、それぞれの席からそれぞれの意見を戦わせるメンバーたち。
ギャアギャアと、皆の話は尽きない。


そんな騒がしいやり取りを微笑ましく眺めていた海未の前に、
左隣の席のことりが、折りたたまれた小さな紙片をスッと差し出す。
海未がその紙片を開いてみると、そこに可愛らしい文字で書かれていたのは次のような言葉だった。


「バレちゃったかと思った」


海未は、隣の席のことりに顔を向けることなく、
机の下で、左手をことりの方へゆっくりと伸ばす。


その海未の手を、少しだけ汗ばんだ手がそっと優しく握りかえしてくる。



さて、今日もアイドル研究部は平和であった。

                          おしまい

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