海未「詐欺にかかってしまいました」 (30)



prrrrr,prrrrrr


海未「はいもしもし、園田です」

『あっ、もしもし。海未ちゃん?』

海未「……はい、私は海未ですが。えっと、どちら様でしょう?」

『えー、何言ってるの海未ちゃん! 私だよ! わ・た・し!』

海未「いえ、そうは言われましても……」

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『ひどいな海未ちゃんは。 私とは本当に小さい時からの幼馴染だっていうのに』

海未「……もしかして穂乃果ですか?」

『……! そう、穂乃果だよ! 気づくの遅すぎー!』

海未「ご、ごめんなさい。 いつもならあなた、電話は家の方ではなく携帯電話の方にしてきますから……」

海未「それになんだか……声がやたらと男らしくなっていましたので」

『……あっ、えっと、それはね? ……そ!そう! 私おっちょこちょいだからさ! トイレしてる最中にスクフェスやってたら手滑らせてドッポーン!って!』

『声は……げほっ、げほっ! なんだか風邪っぽいからかな?』

海未「えっ、風邪を引いていたんですか!?」

『そ、そうなんだよ……あはは』

海未「それならそうと早く言ってくれればよかったのに……」

海未「今家におばさんか誰かいるんですか?」

『えっ、い、家に? いや、いないよ……? 私1人だけ……』

海未「そうですか。 朝ごはんや昼ごはんはしっかり食べました?」

『あ、えっと……ずっとネットしてたから食べてねぇや……』

海未「ネット?」

『へっ!? い、いやこっちの話! ご飯は食べてないかな!?』

海未「……穂乃果。 なぜ先ほどからそんなに動揺してるんですか?」

『動揺……? ま、まさかぁ! ただちょっと呂律が回らなくてカミカミなだけだよ? けほっ、けほぅ』

海未「そんなに酷いんですか? 昨日はあんなに元気だったのに」

海未「もしかして今日が土曜日だからって、昨晩夜更かしでもしました?」

『夜更かし? 別に3時に寝ることは夜更かしじゃないよな……?』

海未「3時!?」

『あわわわ! ち、違う! 3時にトイレしたくて起きただけ! お布団入ったのは11時くらい!』

海未「それなら別に遅いとは言えませんね」

海未「ふむ、突発的な風邪ですね」

『そ、そうみたいだねー……』

海未「ところで家族はみんなどこへ行ったのですか?」

『えっ? え、えっと……あっ、旅行! 旅行に行ったんだよ!』

海未「旅行? あなた一人を置いて?」

『う、うん。 そうなんだよ。 ひどいよねー。 ちょっと体調悪いくらいで置いてくなんてさー』

海未「まぁ体調管理を怠ったあなたも悪いですけどね」

『……厳しいなぁ』


〈ハッラショー、ハッラショー、ハッラハッラショー♪〉


海未「おや、この声は亜里沙でしょうか。 ここいらには何もないのに、1人で歩いてるなんて珍しいですね」



「磯野ー!野球しようぜー!」
「ちょっと亜里沙!ご近所に迷惑だからあんまり大声出さないで……!それにうちは高坂だから!」
「そんなことより野球しようぜー!」
「もう、明日サザエ○んだからってハメ外しすぎ!」
「野球しよーぜー!野球しy……」

『誰か来たの?』

海未「いえ、外から亜里沙の声が聞こえたものですから」

『アリサ? あぁ、アリサちゃんね』

海未「どうしてそんなにカタコトなんです?」

『えっ!? だ、だってこの方がカッコイイデショ?』

海未「いつも思いますが、あなたの感性は私にはよく理解できません」

『ソウカナー? HAHAHA!!』

海未「そうですね、もう1時になりますし何も食べないのはよくないでしょう」

海未「今からあなたの家までご飯を作りに行ってあげます」

『!? い、いいよ! わざわざそんなことしてもらわなくても!』

海未「そう遠慮しなくてもいいんですよ。 私とあなたの仲じゃないですか」

『ほ、ほんとに大丈夫だから! 今からテキトーに何か作って食べるから! ね!?』

海未「……」

『……あっ』

海未「……いつもなら拒むようなことは言わないのに。今日のあなた本当におかしいですね?」

海未「もしかして……穂乃果だと言うのは嘘じゃ……」

『そ、そんなことないよ!? えっと、海未ちゃんに風邪移したら悪いから、ね?』

海未「……あぁ、私を心配してくれてたんですか。気づいてあげられなくてごめんなさい」

『あ、謝らないで……? 私もちょっと強く言い過ぎちゃったから……』

海未「ではちゃんと食べて薬も飲んで寝てくださいね」

『あっ、うん……』




「雪穂ー、誰か来たのー?」
「あっ、穂乃果さん! ご無沙汰してます!」
「亜里沙ちゃんだ! ねーねー雪穂ー! 私も一緒に遊んでいい!?」
「もーお姉ちゃんったら……別に好きにしたら?」
「やったー! あっ、もしよかったらお昼のチャーハン一緒に食べる? おいしいよ!」
「いいんですか!? 食べます!食べまーす!!」

海未「そうそう、電話してきた用件をまだ聞いてませんでしたね」

『やっと本題にはいれるぜ……』

海未「穂乃果?」

『う、ううん! なんでもないよ!』

『えっとね、今日電話したのはね……その、とっても言いづらいんだけど……』

海未「なんです? なんでも話してごらんなさい」

『う、うん……。 えっと、私のね……? お父さんの会社が倒産しちゃって……』

海未「……倒産?」

『そうなの……。 それで私たちは多額の借金を背負うことになっちゃって……』

海未「……それは大変でしたね。 金額を聞いても大丈夫ですか?」

『……。 3000万』

海未「さ、さんぜ……っ!?」

『これだけのお金をあと1週間以内に返さなくちゃいけなくて、でもうちにはそんなに大金なんかなくて……』

海未「……」

『ひっく、ひぐ……うっぐ、あぅ……』

海未「ほ、穂乃果……。 元気出してください」

『うぅ、む、無理だよぉ……。 これから私たち家族はどうやって生きていけばいいの……?』

海未「……」

『2000万……。 2000万なら用意できるんだけど、残りの1000万はどこにもアテがなくて……ひっく』

海未「1000万……」

『海未ちゃん……、私を……助けて!』

海未「……っく!」




「おーい穂乃果ぁ! 今日は店の手伝いしろって言っただろう! この時間からお客さん増え始めるんだからよ!」
「わっ、お父さん!? ご、ごめん! すっかり忘れてた!」
「なんだとォ!?」
「ひぃっ!?」
「あの……お手伝いって、お饅頭を作るんですか?」
「おう、そうだとも。 そうだ、よかったら亜里沙ちゃんもやってみるかい?」
「えっ!? いいんですか!」
「もちろんだとも!」
「お父さんったら……またそうやって人手増やそうするんだから」

海未「わかりました」

『海未ちゃん……!』

海未「なんとか親に頼んで1000万肩代わりできないか聞いてみます」

『ほんと……!? ありがとう!』

海未「いえいえ。 そんな辛い状況下にあったんなら、ショックで体調崩してしまうのも仕方ないですよね」

『海未ちゃん本当にありがとう……! 大好き!』

海未「だ、大好きって……照れるじゃないですか」

『そ、それじゃあ親の了解を得たら、今から言う口座にお金を振り込んでおいてほしいんだ!』

海未「はい、わかりました」

『それじゃあまたね! 海未ちゃん!』


ガチャ

ツ-……ツ-……

海未「……」

母「ずいぶんと長電話だったんですね、海未さん」

海未「母上……」

母「どちらからだったんです? 学校の先生かしら?」

海未「いえ、違うんです……。 穂乃果からでして……」

母「穂乃果ちゃん? あら、あなたたちいつも話す時は携帯電話をお使いになっているでしょう?」

海未「どうやら、穂乃果がドジをして携帯電話を壊してしまったらしいのです……」

母「あらあらそれは……。 ところで、」

海未「……」

母「先ほどから深刻な表情をされていますけど、ケンカでもしてしまったんですか?」

海未「とても……大事な話があるんです」

母「……海未さん?」

海未「父上は今どちらへ?」

母「お父上ですか? 彼なら自室に篭って『ぱそこんげーむ』なるものをしてますよ。 『しーじー』とやらを集めるのがとても大変だと言っておりました」

海未「父上……まさか今日土曜日なのに道場を休みにしたのは……それが理由じゃないですよね?」

母「ところでお父上に何かご用で?」

海未「……はい。 父上と母上に話さなければならないことがあります」

母「……いつになく真剣な眼差しですね。 わかりました。 今からお父上を呼んでまいりますので、今で待っていてください」

海未「よろしくお願いします」


海未「……」

prrrrr, prrrrr

海未「また電話……」

海未「はい、園田です」


『あっ、もしもし。海未ちゃん?』

海未「……はい、私は海未ですが。えっと、どちら様でしょう?」

『えー、何言ってるの海未ちゃん! 私だよ! わ・た・し!』

海未「いえ、そうは言われましても……」

『ひどいな海未ちゃんは。 幼稚園の時からの幼馴染だっていうのに』

海未「……もしかしてことりですか?」

『……! そう、ことりだよ! 気づくの遅いよー! 』

海未「……」

海未「嘘も大概にしてください。 ことりの声はそんなに低くありません」

『えっ? そ、それは……げほっ、ごほっ、なんだか風邪っぽくて……!』

海未「それに第一ことりが電話をかけてくるなんてありえません」

海未「だって彼女は今、私のベッドで眠ってるんですから」

『えっ!? いや、ちょっと待っt……っ!』

ガチャ

ツ-……ツ-……

海未「ふぅ、イタズラ電話なんかしてる暇があるなんて羨ましいですね。 私は今、高坂家の借金の肩代わりのことで頭がいっぱいだっていうのに……」

朝も早いから寝なくちゃ……
ネタ忘れちゃいそうで怖いな……

居間


海未「……」

ガラッ

母「海未さん、お父上を連れてきましたよ」ズルズル

父「や、やめろ! 私は『トキメキ☆オトノキ』の攻略で忙しいんだ! 昨日の深夜0時に4時間も並んでやっと手に入れたんだぞ!? 先ほどようやくひよこちゃんルートが終わって、次にうみみちゃんルートに入ろうとしてたのに!!」

母「それはまあ、楽しそうですね。 わたくしは午前中ずっと海未さんの舞踊の稽古をつけてあげていましたのに」

父「い、いや……な? 私だって剣を振ることを一日たりとも休んだことはないぞ?」

母「ではなぜ本日は道場をお休みなさったの?」

父「……それは……げほっ、ごほっ、少し風邪気味で……」

母「そこに直りなさい♪」


父「とまぁ、悪ふざけはこの辺にして」

母「まだお説教は終わってませんよ」

父「もう勘弁してください……」

海未「あ、あの……。 私の話を聞いてもらえませんか?」

父「ほら、海未もこう言ってるんだ。 ちゃんと聞いてあげよう」

母「こういうときだけ娘をいいように使うんですから……」


父「それで、大事な話というのはなんだ。 話してみなさい」

海未「……穂乃果」

母「? 穂乃果ちゃん?」

海未「穂乃果の家が倒産したらしいのです」

母「……なっ!?」

父「それは本当なのか!?」

海未「はい、先ほど穂乃果から電話が来て……」

海未「借金は3000万にも及ぶそうなんです」

母「嘘……ですよね? ちょっときいちゃんに会って確かめてきます!」バッ

海未「それは無理です。 今家には、体調を崩している穂乃果しかいませんから」

父「他のはどうしたんだ?」

海未「穂乃果を置いて旅行に……」

父「……。 『旅行』か」

海未「父上?」

父「本当にそれは『旅行』なのか?」

海未「……?」

父「その『旅行』っていう言葉に、『蒸発』っていう意味は含まれてないのかって聞いてるんだ」

母「お、お父上……! 」

父「なに、考えられない話ではないだろう? ドラマなんかじゃよくある話じゃないか。 ほら、実の娘を売ってお金にしようって……」

海未「そ、そんなわけありません! 穂乃果の両親はそんなことするような人じゃないです!」

母「そうです! ゲームのやりすぎですよ!」

父「あ、あぁ……すまない」

海未「それに穂乃果は言ってました。 『2000万ならなんとかなる』と。 もちろん穂乃果本人がこんな大金を持っているはずがないので、」

父「じゃああれか……。 『旅行』と言って穂乃果ちゃんを不安にさせないように、今も3人で親戚にお金を借りに周っているのか……」

海未「そう考えるのが妥当かと……」

父「……おや、借金は3000万じゃなかったのか?」

海未「そうなんです。 ここからが本題でして……」


ドゲザ

海未「お願いです! どうか残り1000万をうちで肩代わりしてあげられないでしょうか!!」


父「なっ……!?」

母「……」

海未「私は困っている親友を放っておけないんです!! 確かにこんな子どもの私には、穂乃果を助けるために父上や母上の力を借りねばなりません……。 ですが、1人じゃなにもできない弱い私でも……決して助けを求める人を見捨てるような人間になりたくない……!」

母「海未さん……」

父「……」

海未「父上!」


父「おい、小切手を出せ」

母「あ、あなた……」

海未「父上……!」

母「本当に……いいのですか……?」

父「ああ、構わん」

父「私は娘がこんな立派な人間性を身につけてくれたことがなによりも嬉しいんだ。 そんな私たちの自慢の娘の理想を実現するために費やす金がたかが1000万なら安いものじゃないか」


父「ほら、これを穂乃果ちゃんの家まで届けてきてあげなさい」

海未「えっ……? ですが銀行に振り込んでほしいと頼まれたのですが、いいのでしょうか?」

父「どちらでも構わんだろ。 それに銀行に行くよりは直接渡しに行った方が早い」

海未「それもそうですね! では行ってきます!」タッタッタッタッ

「ちょっ、お父さんストップ! 叩かないでって! ごめんなさい! サボってたの謝るから!」
「今日という今日は許さん! 性懲りも無く居間で昼寝しやがって! 亜里沙ちゃんの方がよく働いてくれてるじゃないか!」
「よっ、と。 ほっ!」
「あっ、亜里沙ほんと上手になったね。 数分前までのが嘘みたいだよ」
「ほんと!? ありがとう!」
「こら穂乃果! 逃げんな!」
「ひぃー! 誰か助けてー!」



母「あっ、そうそう。 あの1000万はあなたのお小遣いから差し引いておきますからね」

父「……。 え?」

母「ちょうどいい機会なので言っておきますけど、最近お金の浪費が激しいのでは? もう少し考えて使ってもらわなくては困ります」

父「そ、そんな……」

母「海未さんに聞いたところだと朝の稽古もあまり行ってないらしいですし、昼間も自ら剣を振るわず、指導ばかりしかしていないらしいじゃないですか」

父「な、なぜそれを……」

母「これからはもっと健康的な生活を送ってくださいね。 そうでないとお義父様と同じく、ふっくらとした体型になってしまいますよ」

父「……」


父「……お小遣いがなかったら来週発売の『LOVE ALIVE!!』が買えないじゃないか……。 鬱だ……」

ピンポ-ン

『はーい』

ガラガラ

穂乃果「どちら様で……って海未ちゃん?」

海未「はい。 調子はどうですか?」

穂乃果「調子?」

穂乃果(あっ、もしかしてさっきの騒ぎ海未ちゃん家まで聞こえちゃってたのかな……)

穂乃果「あー……えっと、ごめんね? うるさかったでしょ」

海未(うるさい?)

海未「いえ、別に……」

穂乃果「ちょっと揉めちゃってさ。 それで今回は頭に一発もらっちゃったくらいかな。 いつつ……」スリスリ

海未「……それどうしたんですか?」

穂乃果「だからちょっといろいろあって、ね。 まあ……全部私が悪いんだけど……」

穂乃果(お父さんに頼まれてた仕事すっぽかしちゃったから。 ほんと私ってダメな子だ……)ショボン

海未(穂乃果が頭をさすりながら意味ありげに俯いてる……。 ま、まさか……)


海未(借金取りが押しかけてきて、体調不良でまともに抵抗もできない穂乃果に暴行を……!?)

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