女騎士「くっ、ゴロ合わせ!」 (33)

― 王立図書館 ―

女騎士「うーむ……」カリカリ

オーク「熱心に机に向かったりして、何してるんだ?」

女騎士「オークか、貴様こそなぜ図書館などにいる?」

オーク「オレは涼みに来ただけだよ。ここは魔法で空調がきいてるからな」

オーク「お前は……もしかして勉強か?」

女騎士「そうだ」

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オーク「なんで勉強? 騎士ってのは馬乗って剣振るのが仕事じゃねえのか」

女騎士「昇格試験があるのだ」

オーク「昇格試験?」

女騎士「騎士のランクは『上級』『中級』『下級』に分かれていてな」

女騎士「当然、上のランクの騎士の方が地位は上だし、待遇もよくなる」

女騎士「今、私は中級騎士なのだが……明日、上級騎士への昇格試験があるというわけだ」

女騎士「下級騎士から中級騎士になるには、ある程度の功績を上げればいいのだが……」

女騎士「中級騎士から上級騎士になるには、功を上げるだけではダメだ」

女騎士「筆記試験と、騎士団長直々による剣の実技試験を突破しなければならない」

女騎士「上級の騎士は強さと教養を兼ね備えてなければならんからな」

オーク「だから筆記試験のために勉強してたってわけか」

女騎士「ああ、実技試験は自信があるが、筆記はどうも……な」

オーク「筆記、苦手なのか?」

女騎士「ほとんどの科目は問題ないのだが、歴史だけはいくら勉強しても身に付かんのだ」

女騎士「たとえば……」

女騎士「ちょうど百年前の1109年、人間と貴様らオーク族で和睦がなされた年だが……」

女騎士「覚えても、すぐ“あれ何年だったっけ?”となってしまうのだ」

女騎士「今現在のことについてなら、さほど苦もなく覚えられるのだが……」

女騎士「どうも私の頭は、過去のことを覚えるのに不向きらしい」

オーク「歴史ねえ……」

オーク「だったらゴロ合わせで覚えてみるってのはどうだ?」

女騎士「ゴロ合わせ?」

オーク「今お前がいった事件なら……そうだな、こういうのはどうだ?」

オーク「“1109(いいオーク)は人間と仲良し”なんてのは」

女騎士「おおっ、“1109年”と“いいオーク”をかけたわけだな?」

女騎士「これならたしかに覚えやすい!」

女騎士「“いいオーク”から、すぐに“1109”という数字を連想できるからな!」

オーク「だろ?」

女騎士「じゃあこれはどうだ? 241年、騎士団が結成される」

オーク「うーんと、“241(つよい)騎士団誕生だ”なんてのはどうだ?」

女騎士「うむ、覚えやすい!」

女騎士「じゃあこれは? 356年、エイ王国とヴィー王国間で戦争が起こった」

女騎士「だが、指揮官だったエイ王国の王は兵士を置き去りに逃亡してしまうのだ」

オーク「“兵356(みごろ)しにするダメ王様”でいけるんじゃないか?」

女騎士「おお、それでいこう!」

女騎士「じゃあ次、1010年、主要七ヶ国の指導者による歴史的な大会議が開かれるが」

女騎士「結局、大したことは決まらなかったらしい」

オーク「そうだな……“1010(とっと)と終われよ大会議”とか」

女騎士「ハハハ、面白いな! ならこれも頼む!」

女騎士「109年、闇魔導師によって、暗黒の宮殿として有名なダークパレスが建造された」

オーク「“109(いわく)ありげなダークパレス”」

女騎士「すごいな、よくポンポン思いつくものだ」

オーク「オレ頭はよくねえけどこういうのは得意なんだ。どんどんこいよ」

女騎士「じゃあ次は――」

司書「失礼」コホンッ

女騎士&オーク「!」ハッ

司書「図書館の中では……なるべく静かにお願いします」

女騎士&オーク「すみませんでした……」

オーク「じゃ、オレはもう帰るけど……」

オーク「今みたいにゴロ合わせを駆使すれば、結構点取れると思うぜ」

女騎士「かたじけない、オーク」

女騎士「次会う時は、上級騎士しか付けることを許されぬ甲冑姿で会おう」

オーク「期待してるぜ!」

その日の夜――

― 女騎士の邸宅 ―

女騎士(666年、大臣が一時的な鎖国を決定する……か)

女騎士「これは“666(むむむ)と悩んで鎖国決定”でいこう!」

女騎士(581年、戦争で本格的な弓矢専門部隊が登場する……)

女騎士「うーん……」

女騎士「これは“581(こわい)弓矢が登場だ”でいいだろう」

女騎士(834年、エルフの騎士団が結成される。これはどうゴロ合わせすべきか……)

女騎士「“834(やみよ)で戦えエルフ騎士団”! うむ、かっこいい」

女騎士「……いや待てよ? “闇夜”と“エルフ”じゃイマイチ共通項がないな」

女騎士「エルフは穏やかな種族だし……」

女騎士「“834(やさし)いエルフが騎士団作る”の方が覚えやすいかもしれん」

女騎士「フフフ、一度コツをつかむとどんどん作ることができるな」

女騎士「くっ、ゴロ合わせ! ……なんと面白いのだ! ヤミツキになってしまう!」



………………

…………

……

……

……



三日後――

― カフェ ―

女騎士「…………」ハァ…

オーク「あれ、女騎士じゃねえか」

オーク「ため息なんかついて、どうしちまったんだよ」

女騎士「オークか……」

オーク「もしかして……試験、ダメだったとか?」

女騎士「ああ……ダメだった」

オーク「そうか……力になれず、すまなかったな」

女騎士「いや、試験で落第点を取ったというわけではないのだ」

女騎士「なにしろ……私は当日寝坊をしてしまったのだからな」

オーク「え、寝坊……!?」

女騎士「実は……貴様に教えてもらったゴロ合わせがあまりにも楽しくてな」

女騎士「ついつい深夜までゴロ合わせを考えてしまい、気づいたら寝ていた」

女騎士「目を覚ましたらすでに試験開始時刻を過ぎてた、というわけだ」

オーク「あら~……」

オーク「すまねえな、オレが余計なことを教えたばかりに……」

女騎士「貴様のせいではない。私が自己管理を怠っただけの話だ」

女騎士「今の私はまさに5656……」

オーク「?」

女騎士「“5656(ゴロゴロ)寝過ごす女騎士”」

オーク「なるほど……やるじゃねえか」

オーク「だったら――」

オーク「797……」

女騎士「?」

オーク「“797(なくな)女騎士次がある”!」

女騎士「フッ……ありがとう!」










― おわり ―

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