3月14日、ホワイトデー。
一月前に贈った“好き”が返ってくるかもしれない日。
どんな種類の“好き”を贈ったかは人それぞれ。
私の贈った“好き”は返ってくるかな。
返ってきたら嬉しい、かな。
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3月14日、今日は平日だから学校はあるけれどお仕事はお休み。
あーあ、せっかくのホワイトデーだっていうのにお預けを食らった気分だ。
悩んでいてもどうにもならないことなのは分かってる。
でも、考えてしまうのだから仕方ない。
こんな感じで、終礼のチャイムまで一日通して私の思考は堂々巡り。
校門を出て、下校中の信号待ちで鞄から何気なく携帯電話を出すと着信が二件。
着信履歴を開くと、自宅からだった。
何かあったのかと思い電話をかけると1コールの内に母が出た。
『お電話ありがとうございます。渋谷園芸でございます』
「お母さん。私だけど、電話何だった?」と私が聞くと母は『早く帰ってらっしゃい』と言って電話を切ってしまった。
せめて、用件を伝えてよ・・・。
***
家に着くなり母に「出かけるから支度して」と言われ、
どこに行くかも教えてもらえないまま着替えを済ましリビングにいる母の元へと向かった。
リビングでテレビを見ながら洗濯物を畳んでいる母に「で、どこに行くの?」と聞くと母は「ひみつ」と言った。
何かサプライズでもあるのかな。楽しみにしてよう。
そう思って母の隣に座ると「何のん気に座ってるの。もう行くんだから店の外にいなさい」と言われてしまう。
本当に今日はなんなの...。なんてちょっとうんざりしながら店の外に出ると程無くして見慣れた車が家の前に停まった。
プロデューサーの車だ。
助手席の窓が少しずつ下がりプロデューサーはこちらを見て「おまたせ。待った?」と言った。
えっ。本当にどういうことなんだろう。私何も聞いてないんだけど...。
プロデューサーは車から降りてきて、助手席のドアを開けると「じゃあ行こうか。ほら乗って」と言う。
現在の状況に困惑している私は言われるがままに助手席へと乗り込んだ。
私が車に乗りシートベルトをしたのを確認するとプロデューサーはアクセルを踏んだ。
「で、どういうことなの?」と私が問うとプロデューサーは「もしかして、何も聞いてない?」と返した。
やられた。お母さんの仕業だったみたいだ。
私が何も知らされていないらしいことを悟ったプロデューサーは事の経緯を説明してくれた。
どうやら私はディナーに招待されたらしい。
「ごめんな。学校にいるから電話に出られないと思って自宅の方に電話したんだけど、さ」
「...うん。いいよ別に」
「...怒ってる?」
「怒ってないよ」
怒ってはない、けれどプロデューサーに会うならもっとおしゃれしたのに。
帰ったらお母さんに文句言わなきゃ。
「ならよかった。それにしてもその服...」
「えっ。何か変、かな?」
「いや、よく似合ってるよ。ただ夜は冷えるから」
「......」
「あれ。また変なこと言ったか?」
褒められて言葉に詰まってしまう私は我ながら単純だなぁ、なんて。
「寒くなったらプロデューサーのジャケット借りるから平気だよ」
照れ隠しの軽口。
「待ってくれ。それじゃあ俺が寒いだろ」
「そのときは手でも握ってあげるよ」
「それならジャケットくらいお安い御用だな」
「そこはプロデューサーとして断るべきじゃないの?」
「断って欲しかったか?」
「...ばかじゃないの」
こんな会話を繰り広げること数十分、どうやら目的地に到着したみたい。
車を手近なコインパーキングに停めてお店に向かった。
店内に入りプロデューサーが名乗ると店員さんが奥の席に通してくれた。
席に着くと間もなく店員さんがシャンパンをグラスに注いでくれる。
テーブルの上には既に今日のメニューが書かれたものが置かれていて私はそれをなんとなく眺めていた。
ロティってなんだろう。なんてことを考えていると
プロデューサーが「じゃあノンアルコールだけど乾杯しようか」と言うので私もグラスを手に取る。
「それじゃあ、バレンタインのお礼に...乾杯」
「あっ、これバレンタインのお礼なんだ」
「あー、それも聞いてないのか...」
「うん。でも嬉しいよ。乾杯」
そうして、乾杯をした後は順々に料理が運ばれてきた。
前菜に始まり食後のコーヒーに至るまで、すべてが綺麗でなんだか食べるのがもったいないくらいだった。
そして、店員さんの説明で分かったことだけどロティはローストのフランス語なんだって。
こんな知識どこで使うのか分かんないけど。
***
テーブルチェックを経てお店から出ると外はもう真っ暗だった。
プロデューサーは「うーん」なんて唸りながら伸びをしている。
「どうしたの?」
「いや、フレンチなんてあんまり行かないから緊張しちゃって」
「そうなの?お仕事とかで行ったりするのかと思ってた」
「時々は行くけどな。今日はなんか余計に」
「私がいるから?」
「そう。カッコいいとこ見せないと...なんてな」
「ふふっ、ありがとう。美味しかったよ。ごちそうさま」
「そりゃよかった」
「やっぱり夜は冷えるね」
「そうだなぁ、ジャケット貸そうか?」
「ううん。平気」
「そうか。残念」
「借りてあげようか?」
「ううん。平気」
「真似しないでよ。もう」
「ごめんごめん。寒いしさっさと車に乗っちゃおうか」
「うん」
車に乗るとプロデューサーはエンジンをかけ暖房をつけてくれた。
「すぐ暖かくなるからな」
「うん」
私はシートベルトを締めずに頭を彼の肩に預ける。
「今日はありがとう。楽しかったよ」
「こちらこそ。また明日からも頑張ろうな」
「うん。...プロデューサーは、さ」
「ああ」
「アイドルの私とはずっと一緒にいてくれるんだよね」
「そりゃ、凛のプロデューサーだからな」
「そっか」
「ああ」
「じゃあ私がアイドルじゃなくなったら?」
「どうだろうな」
「そこは頷いてよ」
「じゃあ凛は俺が凛のプロデューサーじゃなくなっても一緒にいてくれるか?」
「......」
私はその問いに何も答えず、彼の頬に唇を押し当てる。
「回答は発送をもって代えさせていただきます」
おわりです。
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