提督「加賀よ、隣りに座っても良いか?」 (43)



なに、少し雑談でもと思ってな。


邪魔するぞ。


すまんな赤城、加賀から聞いた。


貴様は着任したばかりの時期、私の事を怖がっていたそうだな。


...私は強面だろうか。


そんなことは無いだと?


ならば向こうで震えている雪風はなんだ。



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ああ、伊勢が見事に連れてきてくれた。


秘書官だからと言って勝手に資源を使いおって...。


どんな叱責をくれてやろうかと思っていたが...まあ免除してやるとしよう。


そこで聞いているのだろう、伊勢。


以降建造を行う時は私にひと声掛けてからにして欲しいのだが。



...全く、調子の良い奴だ。


仲が良いな、だと?


当然だ、伊勢は我が鎮守府では最古参と言っても過言ではない。


付き合いも長くなれば自然と信頼するものだ。


赤城には話した事は無かったか?


どれ、ひとつ話してやろう。


加賀、嫌そうな顔をするな。



まず、私の初代秘書官は電だ。


昔は今のように秘書官を交代制にできるほど頭数が揃っていた訳ではない。


そこで私は装備の開発より先に、建造を電に命じたのだ。


無論、勝手の分からない新米だ、資源は全てつぎ込んだ。


電は泣いていたな...今思えば悪い事をした。


そして出来上がった艤装は、最上型一番艦「最上」のものだった。


最上が着任し、一悶着あったが...まあそこはまた今度話してやろう。



そして次に建造されたのは、貴様だ。


投入した資源?


覚えておらんが、確か全て500にして建造を依頼したのだったか。


なんだ貴様らその顔は...。



加賀が来てからと言うもの、戦果がうなぎ登りになってな。


私の階級もそれに比例し、着々と上がっていった。


最上も電も、よく頑張ってくれていたが貴様の働きが一番貢献してくれたのだろう。


そして四度目の建造...確か任務があるから回せと通信司令室の娘から言われたのだ。


言われるがままに建造を三回ほど行った。


深雪、伊勢、木曾の順で艤装が出来上がったのだったか。



深雪と木曾とは何度もぶつかったな。


どのようにぶつかったかだと?


物理的に、だ。


女児と言えど流石は駆逐や軽巡だ、奴らの砲撃はやはり生身の人間には堪えた。


なぜ生きているかだと?


手加減していたのだろう...砲弾も練習用の柔らかいゴム弾だったからな。



さて伊勢だが...奴もなかなか問題児だった。


臆病と言うかなんと言うか...難しい奴だったな。


想像出来んか?


そうだな...今度バレぬ様伊勢をつけてみると良い。


奴の人見知りは相当なものだからな。



そんな伊勢だが一度だけ手を焼かされた事があったな。


あれは沖ノ島の決戦だったか。


.........
......
...
『ふむ...あと一押しだな』


『どうするの提督?』


『皆の状態を詳しく教えてくれ、最上』



『うん、旗艦のボクは小破で済んでるよ』


『深雪と電はほとんどダメージはないみたい』


『木曾は副砲の故障...小破だね』


『加賀さんは無傷だよ』


『伊勢はどうした?』


『伊勢さんは...』



『提督...伊勢です...』


『...辛そうだな』


『状況を伝えよ』


『飛行甲板が大破...速力低下、大破です』


『そうか、御苦労だった』


『撤退だ!伊勢を守り抜け!』


『了解!』


『ごめんねみんな...』


『ごめんなさい、提督...』



『気にしちゃダメなのです』


『司令官はなんだかんだいって優しいからなー』


『あら、ならそれを提督に態度として伝えるべきではなくて?』


『それができりゃ俺も苦労はしねぇよ...』


『まあまあ加賀さんも深雪も木曾も、口喧嘩は後でね』


『伊勢さん大丈夫?』


『ええ...こりゃ日向に笑われちゃうな...あはは』



『第一艦隊ただいま帰港しました!』


『御苦労、報告なぞ後で良い』


『今は傷ついた身体を癒してこい、第一艦隊下がれ!』


『はっ!』


『...ごめんなさい』


『ふむ...』


『伊勢よ』



『はい...』


『そうだな...フタヒトマルマル、執務室へ来るように』


『了解...』


『司令官...』


『なんだ深雪?』


『伊勢さんのこと...怒らないであげてね?』



『今考えている...難しい奴だよ』


『どうして?』


『今回の作戦で沖ノ島は攻略できる筈だった』


『天候や波、運にも味方された快進撃だったからだ』


『しかし伊勢の大破が原因で撤退を余儀なくされ、作戦は失敗に終わった』


『でもそれは伊勢さんのせいじゃないじゃんか!』


『それぐらい分かっている』



『だから私も何を理由に奴を叱れば良いのか考えているのだ』


『じゃあ叱らなくていいと思うんだけど...』


『伊勢は己を厳しく律する者だ、自身の大破が原因で作戦失敗になったと感じたらどこまでも己を責め続けるだろう』


『いくら私が貴様は悪くないと言ったところで気休めにもならん』


『だから私が叱り飛ばし、伊勢自身が己を責めなくとも良い状態を作ってやらねばならん』


『だが...落ち度のない者をなぜ悪者にできようか』



『へー...司令官ってちゃんと伊勢さんの事見てるんだな...』


『なにを今更、伊勢だけではない』


『私の部下の性格は全て把握しているつもりだ』


『無論、貴様もだ深雪』


『へ?』



『貴様の純粋さは一つの武器だ』


『上官である私に練習弾とは言え砲撃をかましてくれたのだ、余程腹が立ったのだろう?』


『あれは司令官が悪いんだよ!』


『着任早々軍用施設を破壊したのはどこのどいつだったかな』


『うぐ...』


『ふ...その純粋さを大切にな』


『あ...』


『どうした?』


『いや...頭なんて撫でてくれるんだと思って...』


『良い子にはこうするものだと古来より決まっているのだ』



この辺りから深雪が今の奴へと成長したのだ。


そう興奮するな赤城、貴様は頭を撫でられて嬉しいか?


貴様の褒美は...そうだな、甘味と言ったところか。


おっと戯れが過ぎたな、鏑矢を番えないでくれ。


早く続きを話せだと?


赤城も言うようになったものだな。

.........
......
...
『失礼します...』


『かけろ、伊勢』


『で、でも提督が立っているのに...』


『いいからかけろ』


『は、はい...』


『呼び出された理由について心当たりはあるか?』


『...はい』


『ならば述べてみよ』



『先の作戦行動の際、私だけが大破...提督に撤退を選ばせてしまった事ですか...?』


『ふむ、概ねあっている』


『では私から質問だ、伊勢』


『私が今ここで叱り飛ばせば貴様の気持ちは晴れるか?』


『え...?』


『ま、まあ...多少は...』


『...よし』



『第一艦隊集合せよ!!』


『繰り返す!第一艦隊集合せよ!!』


『な、なに...?』


『伊勢型航空戦艦一番艦、伊勢!!』


『はい!』


『今回の作戦行動を共にした戦友からの厳しい言葉だ、五臓六腑に刻みつけよ!』


『は、はい!』



『最上!』


『伊勢さん』


『次、頑張ろうね!』


『え...?』



『深雪!』


『うまく言えないけどさ...こんな事もあるって!』


『...』



『電!』


『電は伊勢さんの頑張りをよく知っているのです、だから大丈夫なのですよ』


『電...』



『木曾!』


『知ってるぜ、お前が深雪を庇って被弾したこと』


『あんま無茶すんなよ、航空戦艦さん』


『木曾ぉ...』



『...加賀!』


『航空戦艦、伊勢』


『ごめんなさい、貴方一人で悩ませてしまって』


『私達は縁あって集った誉れある第一艦隊の仲間よ』


『いつでも、誰にでも相談してきて頂戴』


『加賀...っ』



『...伊勢よ』


『この通り誰も貴様を責めてなどおらん』


『己を律するのは素晴らしい事だ、だがしかし適度に許す事もまた大事な事だ』


『貴様は私の...俺の艦だ、苦しい時は俺やみんなを頼れ』


『はい...っ...!』


『そしてあまり自分を責めるなよ、伊勢』



『俺が言いたいのはだな...よく生きて帰ってきてくれた』


『あと、魚雷には気をつけろと言う事だけだ』


『あら、私への当てつけかしら』


『誰もそんな事言ってないだろう、それとも自覚があるのか?』


『...トサカに来ました』


『加賀さん待って!ここ執務室だよ!?』


『離しなさい最上、私は今からあのふざけた一般人を爆殺しなければいけないの』


『できるものならやってみるがいいさ...そうだ加賀』


『何かしら、遺言書を忘れたの?』



『先刻工廠で赤城の艤装が出来たと報告があったんだが迎えに行ってやらなくて良いのか?』


『なぜそれを早く言わないのですか!』


『...少し席を外します』


『...ふはははは!資材が一つもないのにできるわけないだろう!』


『また加賀をからかって遊んでるのか…タチの悪い奴だ』



『...ふふっ』


『ほう、伊勢よ...いい顔をしているな』


『お前はその顔がよく似合っている、これからも笑ってろ』


『へ...あ、はい...!』


『俺が砕けた言い方をしている時は固くならずとも良い、覚えておけ?』


『分かり...わかったわ、提督』


『それでいい』



『じゃあな、俺は加賀に焼かれる前に逃げるとする』


『電、加賀にはうまく言っておいてくれよ』


『はわわ!?電なのですか!?』


『お、ありゃ加賀の彗星だな』


『確実に殺しにかかってるね...』


『そろそろ逃げるか...では生きていたらまた会おう』



「その後間もなく制服に醤油爆撃を食らってな...上層部から笑い者にされたものだ」


「提督の隠れ方が甘かったから起きた事故です、私は悪くないかと」


「まあ制服一枚で伊勢が皆と本当に打ち解けたのだ、安い出費だ」


「その制服は捨てられたのですか?」


「なんだ赤城、もう醤油は乾いてしまっているぞ?」


「そ、そこまで卑しくありません!」



「もう...提督はすぐ人をからかう癖がおありなんですね」


「何を今更...それが伊勢に伝染したのは言うまでもないか」


「制服は大切に仕舞ってある、私の個室のクローゼットの中だ」


「クローゼットなんてあったのね」


「金剛がくれたのだ、制服に折り目が付くのも見栄えが悪いと思って気を利かせてくれてのだろう」


「下心ですね...九割は」


「でしょうね、浮気は許しませんよ」


「するものか」



「...おや、加賀」


「なんでしょう?」


「貴様いつの間に焼き鯖を食った?」


「...赤城さん」


「違います!免罪ですよ!」


「...なあ伊勢、こちらを向いてみろ...くくく...」


「ふぇ?」



「...今日と言う今日は許しません」


「へっへへ、食べないのが悪いんだよーってね!」


「待ちなさい!伊勢!」


「だから待たないってのー!」


「...楽しそうですね、伊勢さんも加賀さんも」


「ああ、実に喜ばしい事だ...」


「どれ、私もひとつからかってやるか」


「加賀、貴様の飯はもういらんのかー!?」


「早く伊勢を捕まえなければ私が食ってしまうぞー!?」


「ああもう...いい加減にしなさい!」


提督「加賀よ、話がある」
提督「加賀よ、話がある」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1453098465/)
この提督の伊勢さんの話でした。


前作で言ってた木曾の話は次あたりかね

>>38
そうですね、次に木曾を書こうかと思います。
そして深雪、電、最上の順で書き上げて行こうかと思ってます。

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