男「緑閃光の見える頃」(92)

グリーンフラッシュ現象

水平線や地平線に太陽が完全に沈む直前、もしくは昇った直後に、緑色の光が一瞬輝いたようにまたたく、とても稀な現象だ

その珍しさから、ハワイなんかでは『グリーンフラッシュ現象を見ることが出来ると幸せになれる』なんていう伝説もあるらしい

……全部、聞いたことなんだけど

教師「あら!女ちゃんの絵、上手ね!」

クラスメイト「本当だー!綺麗ー!」

女「えへへ・・・」


彼女は昔から絵が得意だった
人物、動物、風景・・・どれを描かせてもクラスで一番上手いのは彼女だった
その日の課題だった空の絵も、やっぱり彼女が一番だった


男「・・・」

クラスメイト「うわ!?男の・・・この白いベタベタ、何?」

男「・・・雲」

クラスメイト「・・・お前の父ちゃんって絵描きだったんだろ?」

男「・・・まあな」

クラスメイト「・・・似てねー」

男「・・・」

クラスメイト「女ちゃんの絵、見てみろよ!凄いから」

男「・・・」

女「あ、男くん・・・終わったの?」


彼女と俺の眼前に広がる夕空。赤と紫が入り混じり、中央に明るく輝く黄金色があった


男「・・・」

女「・・・?」


その明らかに上手い絵に、画家の息子は嫉妬を感じた。・・・それ故の行動だった

握っていた筆を夕空の真ん中に振り落とした。すると、夕日の黄金色に青が重ねられた。・・・その色はまるで・・・


教師「きゃあ!!お、男くん!?何やっているの!?」

男「・・・!」

クラスメイト「あぁー!!夕日に絵の具が着いてるー!!」

クラスメイト「半分緑色になっちゃったじゃん!!なにやっるの!?」

女「・・・」

クラスメイト「ほら!女ちゃんに謝って!」

男「・・・」

クラスメイト「早く謝って!」

男「・・・ご、ごめん・・・」

女「・・・グリーンフラッシュ」

男「え?」

女「グリーンフラッシュって知ってる?」

男「え?・・・し、知らない」

女「あのね、地面とか海と空の境目に夕日が沈む時、緑色に光る時があるんだって。それのことをグリーンフラッシュっていうの」

男「・・・」

女「この絵、丁度そんな感じなの。図鑑で見たんだ」

男「・・・へ、へぇ」

女「・・・滅多に見られないから、見た人は幸せになれるって伝説もあるんだよ・・・だから」

男「・・・」

女「男くんのおかげで幸せになれるかも!」


・・・これが恋の始まりだった

男「・・・」

後輩「・・・先輩」

男「・・・」

後輩「・・・男先輩ー?」

男「・・・」

後輩「おーとーこーせーんーぱーいー!!!」

男「うわ!?・・・なんだよ、急に」

後輩「だいぶ前から呼んでたんですけどー」

男「あーはいはい・・・で、ご用件は?」

後輩「・・・顧問から、コンクールについてのお手紙らしいです」

男「えー・・・何で部長の俺じゃなくて後輩に渡すかなぁ・・・」

後輩「頼りないからですよ」

男「あーはいはい・・・了解、受け取りました」

後輩「はい・・・コンクールですかー」

男「あーコンクールについては活動終了ミーティングで説明するから・・・」

後輩「了解です!・・・あ、そうそう。眼鏡ちゃん、今日はお休みです」

男「どうしたんだ?」

後輩「風邪らしいです・・・あーあ、じゃあ今日は先輩と二人きりかー!」

男「・・・正確には三人だな」

ガララ

女「はぁーい!」

男「・・・来たな、美術部員気取りの女・・・」

後輩「先輩おはようございます!」

女「おはよう!・・・あら?眼鏡ちゃんは?」

男「風邪で休みだと」

女「あらー・・・じゃあ三人かぁ」

男「正式な部員は二人だけどな」

女「そんなこと言わない!・・・で、今日は何をするの?」

男「あー・・・とりあえずキャンバスやらの整頓するか」

後輩「新たな絵には新たな気持ちで望むんですね!」

女「新たな絵?」

後輩「あっ!そうなんです先輩!これからコンクールに出す絵を描くらしいんです!」

女「えー本当!?何のコンクール?」

後輩「何のコンクールですか?男先輩ー?」

男「だーから!後でお知らせしますって!!それまで・・・真面目に働け」

後輩「はぁーい」

女「ふふ、私部員じゃ無いので失礼!!」

男「あぁ!・・・くそ、調子のいいやつ」

後輩「ふふー?でもそこも好きなんですよねぇー?」

男「!!!?」

男「な、な、なんで!?」

後輩「いやぁ・・・バレバレですよ。あの眼鏡ちゃんさえ知ってますよ」

男「べべべゔぇ別に好きじゃねーし!!」

後輩「今更無駄ですよ・・・潔く認めてくださいな」

男「・・・あー!!集中!ほら手ェ動かせ!」

後輩「ふふー!はいはいっと」

男「・・・ったく」

後輩「小学校から一緒なんですよね?」

男「・・・ん。ずっと同じだな」

後輩「うひゃー!じゃあもう十年くらい同じなんですかぁ!?」

男「まぁ・・・仲良くなり始めたのは小六だから・・・正確には五年くらいかな」

後輩「だいぶ凄いです・・・でもその間、ずーっとこの関係なんですよね?」

男「まぁ・・・」

後輩「・・・ヘタレ!」

男「うーるーせーえー!!」

後輩「・・・何ならあたしがお手伝いしましょうか?」

男「お前はキャンバス片付けのお手伝いをしっかりしろ」

後輩「はいはい・・・んー、でもだいぶ片付きましたね」

男「そうだな・・・じゃあ時間も余ってるしコンクールの説明するか?」

後輩「あー・・・でも眼鏡ちゃんいないですし、明日じゃ駄目ですか?」

男「そうか・・・じゃあ今日は」

後輩「もう下校!?」

男「・・・こびり付いた絵の具の掃除だな」

後輩「また掃除ですかぁー!?」

男「えーお疲れさまでしたー」

後輩「うぅ・・・先輩の鬼畜・・・」

男「へいへい・・・そしてあいつは来なかったな」

女「だってお掃除だったんだもん」

男「うわ!?・・・なんだ覗いてたのか」

女「んふふー・・・さぁ帰ろ」

男「そうだな。じゃあな後輩」

後輩「お疲れさまでしたー・・・」

女「じゃあねー・・・あぁ!電車ギリギリだよ!」

男「マジかよ!急げ!」

女「ダッシュー!!」

女「はぁー・・・間に合った」

男「疲れた・・・」

女「・・・で、コンクールだっけ?何の絵のコンクールなの?」

男「んーお前は部員じゃ無いし言っちゃうか・・・ズバリ『空の絵コンクール』なんだ」

女「そのまんまじゃん・・・でも空の絵かぁ・・・いいなぁ」

男「うん。俺も空の絵、好きだな」

女「あ、でも男、空の絵はあんまり得意じゃ無いんだっけ?」

男「・・・それでも頑張るのがコンクールの醍醐味だって」

女「そうだね・・・うん、頑張ってね?」

男「あぁ・・・指導よろしく」

女「まかせろ!」

女「でも男、絵上手になったよね」

男「お前のおかげだよ」

女「へへ、でも初めに『絵を教えてくれ!』って言われた時はびっくりしたんだよ?」

男「まぁお前の絵が好きだし」

女「・・・」

男「? どうした顔赤いぞ」

女「何でもない!」

男「?・・・でも何で高校では美術部入らなかったんだ?」

女「・・・」

男「中学では部長だったのに・・・お前も続けるもんだと思ってたよ」

女「・・・だって同じ部じゃ男よりキャンバスを眺めなくちゃいけないじゃない」

男「え?」

女「なんでも!!」

後輩「ほぉー・・・」

眼鏡「空の絵ですかぁ・・・」

男「あぁ。空だったら何でもいいそうだ。朝焼けでも夜空でも雨空でも」

後輩「えぇ・・・なに書こう!眼鏡ちゃん何書く?」

眼鏡「うーん・・・迷うねぇ」

男「んまぁ、時間はたっぷりあるんだからじっくり考えような」

眼鏡「先輩はもう決まっているのですか?」

男「俺?俺は・・・」

女「夕焼け、だよね?」

男「おわ」

女「男が空の絵を書く時って必ず夕焼けだもんね」

男「まあな」

後輩「夕焼けですかぁ」

眼鏡「ふわぁ・・・早く先輩の絵、見てみたいです!」

女「でも男、空の絵だけはあんまり上手じゃないからなぁ」

後輩「そうなんですか?ウサギの絵なんか凄いのに・・・」

男「んー・・・空の絵だけは昔から成長出来ないんだ」

女「でも男の夕焼け、私は好きだよ?今回も期待してる」

男「はいはい。じゃあ期待に添えるよう頑張りますよ」

後輩「じゃああたしも先輩追い抜かせるよう頑張ります!」

眼鏡「後輩ちゃん・・・」

男「・・・ううん」

後輩「先輩まだ下描きなんですか?」

男「まだ三日目だからな」

後輩「えぇーあたしもう下描き終わりましたよぉ?」

男「お前は下描きちゃんとしないから絵が雑になってくるんだ」

後輩「うぐぅ・・・」

男「下描きさえちゃんとしたら上手いものを・・・」

後輩「言わせておけば!見ててください先輩!!あたしの本気を!!」

眼鏡「きゃっ!もう後輩ちゃん!走っちゃダメだよー」

後輩「あっごめんごめん」

男「ったく」

女「やほー・・・ん、下描き終わったんだ」

男「まぁな」

女「またこの構図ですかぁ?真ん中に夕日!私も好きだけど」

男「・・・この構図で賞を取るのが俺の目標だから」

女「・・・なら頑張らなくちゃね!」

男「うん」

後輩「先輩五日目なのにまだそこですか!ふふ・・・この勝負あたしの勝ちですかね!?」

男「じっくり仕上げますので・・・ぷ」

後輩「なんで人の顔見て笑うんですか!」

眼鏡「後輩ちゃん顔に絵の具が着いてるよ」

後輩「え!?・・・ひゃあ!あ、洗ってきます!」

女「ふふふ・・・ほら男!描こう!」

男「はいよ」

女「・・・うーん、黄色が強い感じがする」

男「・・・でも赤混ぜるとなぁ・・・」

女「じゃあちょっとだけ茶色混ぜちゃえば?」

男「・・・うん」

眼鏡「ふわぁ、後輩ちゃん早いねぇ!」

後輩「ふふ・・・もう二週間も集中しているからね」

男「集中ー?」

後輩「へへん!みてくださいこれ!」

男「おおぅ・・・やっぱり雑だな」

後輩「えぇ!?」

女「でも前よりずっと上手くなったねぇ」

後輩「女先輩ぃー!!」

女「あ、絵の具着くから・・・」

後輩「避けられたぁ・・・」

後輩「ふぃー・・・そろそろ完成しそうです!」

眼鏡「私も大方終わりましたぁ」

男「おぉ、じゃあもう少しで全員完成かな」

女「みんなお疲れー」

後輩「女先輩みてください!この絵!」

女「わぁ!上手くできてる!後輩ちゃん上手だね」

後輩「えっへへー先輩に褒められた」

男「おぉ・・・二人共うまいな。後輩は雨上がりで眼鏡は夜空かぁ」

眼鏡「今までで一番上手く描けました!」

後輩「うーん!二人で入賞しようね?」

眼鏡「もう、後輩ちゃんったら」

男「・・・俺も負けていられないな!」

女「・・・」

男「では今日の部活はここまでー」

「「お疲れさまでした!」」

男「ふぅ・・・やっと完成したな!」

女「うん。本当にお疲れさま」

男「後輩もこの前言っていたけど・・・一番上手く描けた気がするよ」

女「私もそう思うな」

男「ありがとう・・・お前のおかげだよ」

女「なに改まって!いいんだよ?私も男の絵が好きだし」

男「どうも・・・じゃあ帰るか!」

女「あ・・・私、少し残っていくから」

男「そうか?なら俺も」

女「大丈夫!!男はさきに帰って?」

男「じゃあお先に。戸締りよろしくな」

女「うん、またね」

男「じゃあな」

女「さて・・・」 ゴソゴソ

女「・・・男の絵」

女「確かにすごく上手くなったね。・・・でもやっぱり空の絵は苦手みたい」

『・・・この構図で賞を取るのが俺の目標だから』

女「あと一年もしないで引退だし・・・空の絵コンクールなんてもう最後のチャンスだよね」

女「だから・・・」

女「私が男の目標の手助けをしなくちゃ」

女「・・・男の目標は私の目標でもあるんだから」

顧問「おーうお前ら。コンクールに出す作品出来たかぁ」

女「あ、はい!」

顧問「また来たのか女・・・あれ?男は・・・部長集会か」

後輩「先生、コンクールの結果っていつ来るんですか?」

顧問「一ヶ月くらいじゃないか?・・・じゃあこれ持っていくな」

眼鏡「よろしくお願いします!」

顧問「おぉ・・・どれも良くできてんな」

後輩「へへん!自信作です!」

眼鏡「わぁ、先輩のも上手ですねぇ」

顧問「ん、品評会はまた今度な。ほらあたしの車に持って行くの手伝え」

後輩「あ!あたしも審査する高校行きたいです!」

顧問「ダメだ」

後輩「ちぇ」

男「お疲れさまでーす」

後輩「あ、先輩!」

眼鏡「今、顧問先生がコンクールの絵をもって行かれました」

男「おお、そうか。ちぇ、俺も最後に自分の絵みたかったなぁ」

眼鏡「先輩の夕焼け、すごく綺麗でした!入賞間違いなしです!」

男「はは、ありがとう」

女「ふふ」

後輩「今回の勝負、あたしと先輩は互角かもしれませんね・・・」

男「偉そうに」

後輩「にしし・・・」

女「コンクールの結果、楽しみだね」

男「うん。でもやっぱり上手い人達が集まるだろうなぁ」

女「もう!自信もってよ」

男「女の指導もあったしな。ありがとう」

女「何回言うのさー」

男「でも女がいなかったら上手くいかなかったよ」

女「・・・じゃあさ、男の絵が入賞したらクレープ奢ってよ!」

男「そんなのでいいのか?」

女「あぁ!言ったな?じゃあ一番高い・・・生クリームたっぷりのやつにするから!」

男「まったく・・・はいはい。分かりましたー」

女「ふふふ」

後輩「うぅー・・・ドキドキする!」

眼鏡「わあ・・・大っきい文化館・・・!」

顧問「おおおおおおお前らおおおおおお落ち着け!!」

男「先生が落ち着いてください」

女「でも私まで・・・いいんですか?」

顧問「なにいってんだ?お前は部員同然だろ?」

女「ありがとうございます先生!」

顧問「何なら部費とってもいいぞ」

女「あはは・・・」

男「先生、早く受け付け行きましょうよ・・・」

後輩「えーっとあたし達の高校・・・あっ!ありました!!こっちです!!」

眼鏡「ふわぁぁ!!入賞です!!」

後輩「きゃー!!眼鏡ちゃんすごーい!」

眼鏡「ありがとう!後輩ちゃんは・・・」

後輩「ダメだったよー。でも眼鏡ちゃんの絵が入賞した方が嬉しいや!」

眼鏡「後輩ちゃん・・・」

後輩「でも次は負けないよ!」

眼鏡「えへ、私だって!」

後輩「そして・・・おめでとうございます!先輩!」

眼鏡「わぁ、特別賞!素晴らしいです!」

男「・・・」

女「ふふ、おめでとう!男!」

男「・・・違う」

後輩「へ?」

男「俺の絵じゃない・・・」

眼鏡「せ、先輩?」

男「これは俺の絵じゃない!間違いだ!」

顧問「何言っているんだ?お前の絵だろ。あたしも見たぞ」

男「違う、違う・・・!」

後輩「せ、先輩?どうしたんですか?」

男「全部が違うんだ・・・!俺の描いた絵じゃ無くなってる・・・!」

後輩「どういうことですか?」

男「・・・この夕日の近くに二つの影を描いたんだ・・・でも、この絵は一つだ」

女「・・・!」

眼鏡「本当、一つだ・・・」

男「それに・・・明らかに塗りが違う・・・これじゃ俺の絵じゃない・・・」

男「・・・女」

女「・・・」

男「・・・お前だろう?・・・お前の塗り方は俺が一番見てきたんだ」

女「・・・ごめんなさい」

男「・・・」

女「どうしても、男に賞を取って欲しくて・・・少し手直しをしたの」

男「・・・手直しって・・・そんなもんじゃないだろ・・・もうこれは女の作品だ」

女「賞を取った男に喜んで欲しかったの・・・」

男「・・・嬉しくねえよ」

女「・・・」

男「俺の絵じゃないもので賞を取っても嬉しくねえよ!勝手になにやってんだよ!」

後輩「せ、先輩!」

男「あ・・・」

女「・・・ごめんなさい」

男「・・・」

眼鏡「先輩・・・」

男「・・・俺、帰るわ」

女「あっ・・・!」

眼鏡「先輩・・・」

後輩「あ・・・この後の授賞式、どうするんですか?」

顧問「・・・あたしが男と少し話してくる」

眼鏡「・・・」

後輩「・・・」

女「・・・」

顧問「・・・ん、こんなところにいたのか」

男「・・・先生」

顧問「隣いいか?」

男「はい」

顧問「しょっ・・・みんな心配してんぞ」

男「・・・すみません」

顧問「まぁ気持ちはわかるけどな。やっぱり自分の絵で入賞したいよな」

男「・・・女に悪気は無いし、俺のためにやったこともわかっているんです。・・・でも」

顧問「・・・うん」

男「・・・俺自身の絵を認めてほしいんです」

顧問「うん」

男「・・・」

顧問「これから授賞式があるけれど・・・お前はどうする?」

男「・・・先生」

顧問「ん?」

男「辞退、って出来ますか?」

顧問「・・・そうか。分かった」

男「すみません・・・」

顧問「お前が決めたことだろ?ん。じゃああたしが言っておく」

男「ありがとうございます」

顧問「・・・じゃあ、気をつけて帰れよ?」

男「・・・はい」

顧問「・・・みんなお前を待ってるから。いつでもいいから、また部活来いよ?」

男「ありがとうございます・・・」

後輩「あ、先生・・・」

顧問「・・・辞退するって。委員にも話した」

眼鏡「辞退ですか・・・」

女「・・・」

顧問「・・・女。お前があいつのためにやったってこと、男は分かっていたぞ」

女「・・・」

顧問「・・・ほら会場にいくぞ。眼鏡、お前も準備しろ。お前は我が高校の代表だからな」

眼鏡「・・・はい」

顧問「お前がしょぼくれてどうすんだよ?堂々としろよ」

後輩「眼鏡ちゃん、いってらっしゃい」

眼鏡「・・・うん」

男「・・・」

男(・・・今回がダメだっただけだ)

男「・・・」

男(また次のコンクールで頑張ろう)

男「・・・」

男(あいつは何も悪くないんだ)

『次は・・・○○駅・・・』



男「あ、夕焼け・・・」

男(赤と紫が混じっていて・・・)

男(黄金の夕日が輝いていて・・・)

男「あいつの絵みたいだ・・・」

男(やっぱり俺はいつまでたっても、小学生の頃のあいつにさえ勝てないよ)

男「おす」

後輩「あ、先輩・・・おはようございます!」

眼鏡「おはようございます」

男「おう、この前はごめんな。それと眼鏡、おめでとう」

眼鏡「あ・・・ありがとうございます」

男「でもいつまでも舞い上がってちゃいけないぞ?次のコンクールもあるんだ」

眼鏡「はい・・・!」

後輩「次のコンクール・・・もう決まったんですか?」

男「あぁ。テーマが自由なコンクールだ。説明プリント配るぞ」

後輩「・・・自由」

顧問「よう、プリント配ったか?」

男「あ、先生。今配りました」

顧問「サンキュー。これは学年最後のコンクールだな。一年の総集編だと思って頑張れよ」

「はい!」

顧問(やっぱり女は来てないのか・・・まぁ仕方ないかもな)

男「先生・・・」

顧問「ん?」

男「女、見ませんでしたか?」

顧問「・・・いや、見てないな」

男「そうですか・・・」

顧問(・・・元に戻れるかな、こいつら)

後輩(・・・あれから女先輩は部に顔を出さなくなった)

眼鏡「・・・」 スッスッ

後輩(眼鏡ちゃんも前よりももっと引っ込み思案になっちゃったし)

後輩「・・・」

後輩(・・・そして何より)

男「・・・」スッスッ

後輩(男先輩の絵を描く時の目が変わった)

男「・・・」 スッスッ

後輩(前までは絵を楽しんでいるって目をしていたのに・・・今はまるで)

男「・・・」 スッスッ

後輩(絵を憎んでる、ようだ)

男「・・・そろそろ完成かな」

男「・・・やっぱり、まだ・・・」

男「・・・よし、土日で描いてこよう・・・っしょと」

男「そういやあいつ・・・来ないんだな」

男(あいつなりにいろいろ考えているんだろう)

男(そっとしておいてやろう)

男「・・・重いな」


女「・・・あ、男」

女「キャンバス持ち帰るのかな?」

女「手伝おうか・・・」

女(男の絵には関わらないって決めたけど・・・これは絵の関わりじゃ無いよね)

女「・・・男!」

男「女!?」

女「それ運ぶの手伝うよ」

女「・・・」

男「・・・美術部、来ないのか?」

女「え・・・?」

男「・・・みんな寂しがってんぞ。お前が来ないと静かで」

女「・・・部員じゃ無いのに入り浸るのは、あれかなって」

男「部員みたいなものだろ」

女「・・・」

男「・・・この絵、さ。次のコンクールで出すんだ」

女「・・・うん」

男「よかったら・・・見に来て」

女「・・・ありがとう」


『次は○○駅・・・○○駅・・・』

男「ただいま・・・っと」

女「じゃあ私はこれで」

男「ああ、ありがとう」

女「うん。さようなら」

男「じゃあな」

父「おかえり・・・今の女ちゃんか?上がってもらえば良かったのに」

男「忙しいんだと」

父「そうか。ん?それは?」

男「あぁ・・・コンクールに出す絵だよ」

父「・・・そうか」

男「じゃあ俺、部屋にいるから」

父「・・・」

男「・・・納得いかない」

男「いつも通りのはずなのに・・・物足りない」

男「・・・この夕焼け」

男「どこかで・・・」

男「・・・」

コンコン

父「男、めしだぞ」

男「あぁ、今行く」

男「・・・すこし落ち着こう」

男「ごちそうさま」

父「・・・男」

男「ん?」

父「お前、なにかあったか?」

男「急にどうしたのさ」

父「・・・お前の絵だよ」

男「!」

父「自分でも分かっているだろうけどさ・・・お前の絵らしく無いんだよ」

男「・・・」

父「・・・夕焼けの絵、上手くなったな」

男「・・・ありがとう」

父「でもあの絵は・・・」

男「・・・」

父「女ちゃんの絵にそっくりじゃないか」

男「・・・真似したんじゃ無いよ」

父「別に盗作じゃない。ただ・・・絵の雰囲気がなんとなく、な」

男「・・・うん。気付いているよ」

父「・・・まあそういう時もある。焦る必要は無い。でもお前らしさを忘れるな」

男「・・・分かったよ父さん」

男(でも俺は・・・早く入賞しなくちゃいけない)

父「・・・」

男(俺の絵で入賞するんだ)

顧問「じゃあ絵、運ぶぞ」

後輩「手伝います」

眼鏡「・・・私も」

顧問「あぁ、よろしく」

男「・・・」

顧問「おい、これ運んでいいか?」

男「あ・・・はい、お願いします」

顧問「・・・よく出来てるな」

男(少し違和感はあるけれど・・・自分らしい絵にはなったと思う)

男「・・・」

顧問「ほら、お前も手伝ってくれよ」

男「はい」

眼鏡「・・・よいしょ・・・ん?」

女「・・・」

眼鏡「あっ!」

女「!」

後輩「女先輩!」

女「・・・」 ダッ

男「・・・女!」

ガラッ

眼鏡「せ、先輩!」

後輩「・・・よかった」

眼鏡「え?」

後輩「女先輩が・・・美術部を嫌いになったわけじゃなくて」

眼鏡「後輩ちゃん・・・」

後輩「へへ」

眼鏡「・・・ふふ」

男「女!!」

女「・・・男」

男「なんだよ・・・やっと来たのかよ・・・」

女「ちょっと覗いただけだよ」

男「・・・なあ」

女「・・・なに?」

男「このコンクールの結果・・・一緒に見に行こう」

女「・・・」

男「俺、お前を抜かせるよう頑張ったから」

女「・・・本人の前で言っちゃうんだ」

男「お前は俺のライバルで・・・親友だから」

女「・・・うん。絶対に行く」

男「ありがとう」

女「早く戻りなよ!後輩ちゃん達困ってるよ」

男「あぁ!じゃあな」

女「・・・男!」

男「何だよ!早く行けっていったくせに」

女「・・・ごめんなさい」

男「え?なに?」

女「・・・ううん!楽しみにしてるよ!」

男「はいよ!・・・じゃあな」

女「うん・・・」


女「・・・ごめんなさい」

女「ごめんなさい」

女「・・・」

女「男・・・」

女「親友・・・かぁ」

顧問「おぉ、やっと来たか」

後輩「おはようございます!」

眼鏡「女先輩!おはようございます」

女「ごめんねー」

男「全員来たか・・・じゃあ行くぞ」

後輩「あたし、女先輩の隣!」

眼鏡「わ・・・私も!」

女「へへへ」

男「モテモテですな」

顧問「男、受け付け行くぞ・・・」

男「おっとっと」

眼鏡「先輩が来てくださって嬉しいです!」

後輩「あたし、今回は自信あります!」

女「おぉ、それは楽しみ!」

眼鏡「あ・・・ありました!」

後輩「えーっと・・・ふぁあああ!!やった!!入賞!!」

眼鏡「後輩ちゃんおめでとう!!」

後輩「うぇぇええ・・・嬉しいよぉお・・・」

眼鏡「もう・・・泣かないの」


女「・・・あ」

女「・・・」

男「おぉ、いたいた」

顧問「どうだった?」

後輩「せんせぇえええ!!」

顧問「おーよかったな。頑張った」

男「・・・あ」

女「・・・男」

男「ダメ、だったか」

女「・・・」

男「ダメだなー!やっぱり空の絵は・・・苦手だなぁ・・・」

女「男・・・」

男「なにお前まで落ち込んでんだよ!俺は平気だ」

女「・・・」

男「・・・次は、必ず取ってやるから・・・認めてもらう」

男「・・・はぁ」

男「ダメだったか」

男「俺の絵は・・・認められなかったか」

男「・・・落ち込んでも仕方ないか。何か描こう。犬でいいか」

男「・・・あれ」

男「俺の絵って・・・こんなのだっけ」

男「・・・これは」

男「女の絵じゃないか?」

男「・・・何で・・・何でだよ・・・」

男「俺の絵が・・・描けない・・・描けない・・・」

男「描けないんだよ・・・」

男「・・・おはよう」

眼鏡「おはようございます」

後輩「今日はなにするんですか?」

男「・・・好きなもののデッサン」

後輩「はーい!じゃああたしは眼鏡ちゃん描こう!」

眼鏡「えぇ!?」

男「・・・」 カリカリ

男「・・・」 ビリッ

男「・・・」 カリカリ

男「・・・」 ビリッ

男「・・・」 カリカリ

男「・・・くそっ」 ビリッ

男「・・・」 カリカリ

男「くそっ!!」 ビリッ

後輩「先輩・・・?」

男「・・・なんでだよ!」ビリ

眼鏡「ど、どうしたんですか?」

男「俺の絵じゃない!!」ビリッビリッ

女「やっほー・・・お、男!?」

男「くそ!」ビリビリ

女「やめなよ!!」ガシッ

男「! ・・・女」

女「どうしたの・・・?」

男「・・・何でもない」

女「本当?」

男「・・・ごめん、驚かせて」

女「・・・何かあったなら、相談してね?」

男「・・・」

男「・・・お疲れ様でした」

眼鏡「先輩どうしたのかな・・・?」

後輩「荒れてたね・・・」

ガラッ

女「男、帰った?」

後輩「はい」

女「そっか・・・男、どうしたんだろ」

眼鏡「デッサン中に何かあったのでしょうか」

女「・・・」 ガサッ

女「・・・これ」

後輩「先輩のデッサン・・・?」

眼鏡「やっぱり上手ですね」

女「・・・」

眼鏡「女先輩?」

女「・・・いつもと違う」

後輩「・・・?」

女「・・・何でもない。じゃあ私帰るね」

後輩「あ・・・お疲れ様でした」

眼鏡「さようなら・・・」

女(・・・男、追いつくかな)

男「・・・」

男(どう書いても・・・俺の絵にならない・・・)

女「・・・あ!男!」

男「女・・・」

男(こいつの絵に似る・・・)

女「ハァ・・・追いついた」

男(俺は小学生の頃のお前にさえ追いつけないよ)

女「今日はどうしたの?」

男(知らねえよ。こっちが知りたいよ!)

女「でもそういう時もあるよね」

男(・・・うるせぇ)

女「・・・やっぱりあの時の」

男(うるせぇ。うるせぇ!)

男「・・・うるせぇよ」

女「え?」

男「うるせぇんだよ!!」

女「男・・・?」

男「何も知らないくせにゴチャゴチャうるせぇんだよ!!それにな!」

女「・・・」

男「お前が勝手に俺の絵を描いてからだ!あれから描けないんだよ!!前までの俺の絵が!!」

女「・・・ごめんなさい」

男「謝ってすむことじゃねーよ!お前はいいことだと思ってたろうけどな!俺は何も得られないんだよ!!」

女「ごめんなさい・・・」

男「・・・絶交だよ」

女「!」

男「お前とは絶交だ!!二度と俺に関わるな!!さよなら!!」

女「あ・・・」

女「・・・おと・・・こ」

女「ごめんなさい・・・ごめんなさい」

男「・・・これでいいんだ」

男「俺が女の絵に依存しすぎたんだ」

男「これで・・・俺の絵が戻ってくるんだ」

男「・・・」

男「もう指導で女に迷惑をかけることもない・・・」

男「・・・女が好きだったことも・・・忘れよう」

男「・・・これでいいんだ」

女「・・・これでいいんだ」

女「私が勝手に男の絵を変えちゃったからだもんね」

女「これで・・・元の大好きな男の絵に戻るんだ」

女「それで・・・元の大好きな男に戻るんだ」

女「私が男に関わらなければ全部元に戻るんだ」

女「・・・これでいいんだ」

女「・・・駄目だよ」

女「私、ちゃんと男に謝ってない・・・!」

女「・・・明日、謝ろう」

女「・・・そうだ!」

女「この中の・・・」 パラパラ

女「・・・この絵を描こう!」

女「私の気持ちを絵に表そう!」

ピピピ

女「メール・・・あ、後輩ちゃんからだ」

『先輩へ!
こんばんは!
男先輩のことですが・・・
男先輩は多分落ち込んでいるんだと思います
だから!サプライズで先輩をびっくりさせませんか!?
びっくりして落ち込んだことを忘れてもらおうパーティーです!
どうでしょうか?

後輩』

女「・・・後輩ちゃんらしいなぁ」

女「・・・ふふ」

『賛成!
私も男に謝りたいから・・・
喜んで貰えるといいなぁ

女』

後輩「よーし!準備完了!」

眼鏡「後は先輩がいらっしゃるだけだね」

後輩「うん!・・・あれ?女先輩、それ何ですか?」

女「これは・・・へへ、秘密」

後輩「プレゼントですかぁ?にしし」

眼鏡「もう後輩ちゃん・・・それにしても先輩、いらっしゃいませんね」

後輩「まだかなー」

女「私、ちょっと見てくるね」

後輩「すみません、お願いします」

女「うん」

ガララ

後輩「このプレゼント・・・気になるなぁ」

眼鏡「ダメだよ後輩ちゃん・・・」

後輩「わかってるよー」

女「帰った?」

クラスメイト「うん。ちょっと前ね」

女「ありがとう・・・」

女「うーん、やっぱり靴もない・・・」

女「・・・追うか!」

男「・・・部活、サボってしまった」

男「今は絵のことを考えたくない」

男「・・・」

男「やっぱり一人で登下校は・・・寂しいな」

男「・・・いや、女なんて知るもんか」

男「・・・」

女「・・・男!」

男「女!?」

女「・・・部活は?」

男「・・・」 フイッ

女「・・・あ、そうか・・・」

男「もう関わるなって言ったろ」

女「・・・ごめん!でも、今日だけは!お願い!」

男「・・・なんだよ」

女「・・・えっと」

男「・・・どうせまた余計なことすんだろ?」

女「・・・あの」

男「・・・じゃあな。こっちは忙しいんだよ!」

女「ま・・・待って!」 グイ

男「やめろっつってんだよ!!」バシッ

女「っ!!」

男「あ・・・」

女「男、ごめんね・・・でも今日だけは・・・お願い」

男「・・・くそっ!」 ダッ

女「あ・・・ !! 男!!危ない!!」

男「は?」



キキーーーーッッ


ドン

後輩「うーん・・・」

眼鏡「だいぶ時間がたつね」

後輩「男先輩・・・どこだろう」

眼鏡「・・・」

ガラッ

「「!!」」

顧問「・・・」

後輩「なんだぁ・・・先生かぁ」

顧問「・・・お前ら、よく聞け」



後輩「え?」

男「・・・何で余計なことするんだよ」

男「お前の絵が好きだったんだよ」

男「・・・お前自身だって好きだ」

男「ウザいし迷惑ばっかだけど・・・全部俺の為だってわかってる」

男「・・・本当はそばにいてほしいんだよ」

男「俺の見てないところでやらかす方が迷惑だよ・・・」

男「だから・・・」

男「・・・ごめんな」

男「ごめんなさい・・・」

女「だって、男が死んじゃったら嫌だから」

女「・・・ありがとう、でももう上手く描けないよ」

女「え?」

女「・・・」

女「ごめんね、迷惑ばかりかけて」

女「・・・ごめんなさい」

女「男が謝らないでよ・・・」

女「謝るのはこっちだよ・・・ごめんなさい」

ガラッ

男「・・・あ」

後輩「先輩・・・」

眼鏡「・・・ グスッ」

顧問「・・・どうだ」

男「・・・話は出来ました」

顧問「そう、か」

後輩「女先輩は・・・どうしたんですか」

顧問「交通事故にあった。でも幸い、命には関わらなかった」

眼鏡「・・・よかった」

顧問「・・・でも、脊髄に傷をつけた。腕に関係がある場所だ」

眼鏡「・・・!」

顧問「・・・もう絵を描くことは、相当難しいだろう」

後輩「せんぱいぃ・・・」

眼鏡「・・・ぅう」

顧問「・・・もうこんな時間だ。私が送っていく」

眼鏡「・・・待ってください」

後輩「男先輩・・・」

男「・・・ん?」

後輩「これ・・・女先輩が」

男「え?」

眼鏡「・・・私達、男先輩に元気になって欲しくて・・・パーティーを考えたんです」

後輩「それで女先輩が男先輩を呼ぶために・・・あたしが余計なことして、女先輩が・・・ごめんなさい、ごめんなさい」

男「・・・」 ガサガサ

男「・・!!」

眼鏡「あ・・・絵を描く、男先輩」

後輩「綺麗な絵・・・」

男「・・・あ」

いつからだろう、こんなことになってしまったのは

男「・・・っぁあぁ」

俺の絵を女が変えてからか?・・・いや、それよりも

男「ぅぁあぁ・・・」

きっと俺があいつに嫉妬と恋心、その二つを抱いてからだ

男「ぅああああぁぁ・・・」

まだそれらは俺の中に渦巻いている

男「うぁぁあああぁっ!」

きっと消えることは無いだろう。消せるはずがない

男「女・・・ごめんな」

この絵が涙の水平線に沈んだ時、空は緑色に光ったのだろうか

男「ごめん・・・」

彼女の夕日を青で塗ってしまったように

男「ごめんよぉ・・・」

俺の絵が彼女で染められたように

男「ごめんなさい・・・」

俺達がお互いを潰してしまったように

男「ごめんなさい」


偽物のグリーンフラッシュじゃ誰も幸せになんか出来やしなかったんだ


おわり

女の子にほっとけと言っても聞かないんだぜ
母ちゃんだけど

ここまでありがとう

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