女「…私…幽霊なんです…。」(38)
高校出て会社入って三年目。
様々な仕事を任せられるようになり、期待され、怒られ、重圧に耐えきれず自由になりたいと思い始め、辞表を出し、最後の仕事を終え家にまっすぐ帰った。
次の日、昼近くまで寝ていた。なにもすることがない。
ただ家でぼ~っとしているとたまらなく不安になって、たまらず車に乗り込む。
行く場所…パチンコ屋…気分じゃないし金もムダに使えない。
公園…なんかベタだな…いい年した男が公園のベンチでたそがれてるなんてお笑い草だ…。
あっあそこなら…。
高校時代の帰り道に原チャで道草していて見つけた場所…
普段の通学ルートからみえる小山。
車の通りは全くといっていいほどないのにムダに整備された道路が一本。小山の中腹にひらけた所があり自分の街が一望できた。
高校で気が参るくらい落ち込んだとき、街でせわしなく行き交っている小さな車たちを見て、「ちっぽけなことで悩んでちゃいけないな」なんて考えていた。
仕事に追われる日々で会社と家とパチンコ屋が普段の流れになってたな…
あそこなら人も居ないし、もう一度あの景色を眺めたら、なにか自分の中で得るものがあるかもな…。
車の頭を小山に向けて走る。
途中コンビニで缶コーヒー数本とタバコを買った。
目的地に着いて車を道の脇に止め、手頃な石の上に腰を下ろし、缶コーヒーを少し飲み、タバコに火をつけ青空を仰いだ。
真夏の陽気ではあるが、すぐ背にある木々の日影と石がひんやりとして、とても心地よかった。
街を眺める。
相変わらず小さな車たちがせわしなく行き交っている。
高校時代は「たくさんの大人たちが必死で働いていてすごいなぁ自分もあの中に入るのかぁ」
今は「つい昨日まで俺もあの中に居て、あの中のちっぽけなひとつが俺で、俺が欠けたところで、この世はなにも変わらないし動じない…」
街の様子を見て得たものは、自分のちっぽけさやおっきな虚しさだった。
木にもたれかかり頭をさげる。車に乗り家に帰るのも…いや…立ち上がるのですら面倒くさく感じ、これ以上街を見たくない気持ちから目を閉じた。
?「あのっ起きてくださ~い…大丈夫ですか~…?お兄さ~ん…生きてますか~…?」
そんな声が聞こえ目を覚ます。
目の前には心配そうな顔をして男を見つめる女がいた。
あたりを見回すとすでに日は沈み真っ暗だった。
「あっ…」
お互いの声が重なった。
沈黙ののち彼が口を開く。
男「あっ起こしてくださったんですよ…ね…?…ありがとうございます。」
男「(でもなんでこんな時間にこんな場所で女の人…)」
女「いえいえ…長い時間気持ちよさそうに寝ていられたので起こしていいのか迷って…でも風邪引いちゃうといけないと思って…」
男「はっはぁ…(この人なんか怖い…)」
男「…つかぬことをお聞きしますけど、女さんはどうしてこんな所に来られたんですか?人が歩いてくる場所でもないし、時間的になおさら…」
女「…あ~…驚かずに聞いてくださいね…」
女「…私…幽霊なんです…。」
(*>д<)ノ<あとはおまかせ
やっぱり書きます。
ストーリー全部考えてないのと、時間の都合で遅いですが…。
男「……。(やっぱりこの人関わっちゃいけない人だ…)」
男「ん~ちょっと寝起きで頭が回らないみたいで…車にコーヒーあるんで、取りに行ってもいいですかね?あっ、あなたはちょっとここで待っててもらって…」
車に乗り込みエンジンをかける。
男「あっエンジンかかるんだ…幽霊と遭ったら普通かからないのに…まぁあの人は幽霊じゃなくて危ない人だしな…。」
恐怖を紛らわすようにブツブツと独り言。そして発進。
女「あれっなんで…コーヒーは…?」
すぐ隣から女の声…顔を向けると助手席に女が座っている…
男「うわぁぁぁ~」
女「あっ前っ前っ!!ブレーキ!!」
男は慌ててブレーキを踏み込む。車はガードレールの一歩手前で停止。
男「焦った~…あっ…ありがとう…。」
女「すいません…幽霊だっていまいち信じてもらえてないようだったので…ドアすり抜けたりすればいいかな…って思って…。」
男「驚かずに聞いてくれって言ったのに、そういうことされると普通に驚くんですが…って…その頭に付いてるのって…服装も…」
さっきまで普通の女性服を着ていたはずの女が、今は死装束を纏っていた。
女が自分の衣服を眺めながらつぶやく。
女「あ~男さんが私のことを幽霊だと認識したからですね…。」
男「…はい?」
女「…よくある幽霊の話で、おじいさん、おばあさんまで生きても幽霊になれば若い頃の姿だったり、足があったり、なかったり。事故でカラダがボロボロの幽霊も供養すればキレイなカラダで天に召されていったりしますよね。」
女「いずれも、その場に立ち会った対象者の想像で、姿、形は変化しちゃうんですよ…。男さんは、私を女の人という認識から、コイツは幽霊だ!バケモノだ!という認識に変えたんです…グスン…」
男「そこまで言ってないですけど…」
男「それって結局…幽霊なんていなくて、人間の想像ってことなんじゃ…。」
女「幽霊は存在します。なぜ姿形を変化させるかについてですが、幽霊がこの世に残るのは生きている人に、良かれ悪かれメッセージを伝えたいからです。対象者にメッセージを伝える際に対象者の想像と一致する姿形をしていれば、より強く印象づけることが出来ますよね?私も詳しいことまで分からないんですが、そういうふうになってるみたいです。」
男「そっか…便利に出来てるんですね。それじゃ…車から降りてもらえますか?」
女「えっ…いや…今なんて…?」
男「ですから車から降りて下さい。」
女「えっ…なんかほら…もっと聞きたいこととか、幽霊が目の前に居るんですよ?興味とか…。」
男「興味ないです。」
女「…。グスッ」
女「…です。」ウルウル
男「?」
女「…イヤです。降りたくないです…。」ポロポロ
男「(あっ…)……分かりました。幽霊が泣かないで下さい…。」
男「俺に憑いてあなたは何が目的ですか?」
女「成仏…したい…グスン…ん…です…。未練が…ヒック…あって…グスッ…成仏…出来なくて…私…死ぬ前の記憶…なくて…なにが未練なのかも…分からな…くって…グジュグジュ…。」
男「…。(なんかすごい罪悪感…。憑くことは否定しないのな…。)」
男「その未練を晴らして成仏したいって事でいいんですね?」
女(コクリ コクリ)ポロポロ
男「…なんかすいませんでした。憑かれそうで怖くて、強く言えば離れるかなと…。」
もう一度、坂を登り2人石に座り女が泣き止むまで夜景を眺めた。
男「こんなに辺りは暗いのに、女さんの姿は、はっきり見えるんですけど…」
女「男さんの…認識…です…。」ポロッ
男「…。」
男「ちょっとタバコ吸っていいかな…?」
女「…どう…ぞ…私なんて空気みたいなものですから…。」ポロッ
男「…。」
男「(非常に気まずい、どうしよう…缶コーヒー渡しても飲めないだろうし…)」
タバコを吸い終え女の隣に腰を下ろす。
男「俺に憑いて、家に来ますか?記憶が無いとなると成仏までに時間がかかるかもしれないけど…あいにく自分もしばらく時間が空けられるから…力になれるかわからないけれど手伝いますよ。」
女はハッとした顔でこちらを見つめた。まだその目には涙を湛えている。
男「だから…泣くの止めて、笑って下さい。悲しくて泣いてたら成仏できませんよ。」
元気づけるつもりが逆効果だった。女は感極まって大泣きし始めてしまった。
男「家…来ますか?」
女(コクコク…)
男「車へどうぞ…。」
女(コクコク…)
うつむきながらトボトボ歩く姿を後ろから見送る男。男は女の事を少しいとおしく感じた。
男「(服…会った時のに戻ってる…)」
逃げ出した時に放置した空き缶を手に取り、男も車に乗り込み、その場を後にした。
番外編
女「あぅ…みんなが私を…認識してくれてる…でも④ってなんだろ…」ウルウル
女「あっ…もしかして、4=死ね…ってこと…?」ポロッ
男「…みんなが女さんのこと成仏できるように、支援してくれてるんですよ。」
女「…④→4円→支援…あっ…グスッ…み…んな…、ありが…どう…ヒック…ございまず…グジュグジュ…」
女「でも…グス…わだじ…とろいから…みんなに…めーわく、がげぢゃっで…」ポロポロ
女「それでも…じょ~ぶずでぎるように…ガンバるから…みんな…見守っててほじいでず…」ボロボロ
家に到着。女も泣き止んで、だいぶ落ち着いてきた。
男「それじゃ少し散らかってるけど…どうぞ。(あれだけ泣いても成仏しないのか…)」
女「…お邪魔します…。」
女を座布団に座らせ、テーブルの反対側に男が座る
男「っで…俺は女さんのことや、幽霊のこと全然分からないので、色々教えてもらえると助かるんですが…」
女「…そうですね…まず私のことは、先程お話しした通り、生前の記憶がなくて…」
女「幽霊のことについてですが…男さんもテレビとかで幽霊への予備知識はお持ちですよね…?」
男「…まぁ多少は…」
女「基本的にはそれで大丈夫です…。あとは人間と同じで個人差があります。」
女「私の場合、人や物に触れることが出来ません。」
女「ただし、私の場合は他の幽霊よりも声をしっかり伝えることが出来るみたいです。」
女「あとは話が長くなっちゃうだけなので慣れてもらえれば…」
男「そうですか…なんかすごいですね…。」
男「それじゃ成仏するための条件については?」
女「…。」
男「記憶がないんじゃ分からないですよね…」
男「う~ん…記憶がないなら、今から楽しい記憶を作れば成仏できたりとか…」ボソッ
女「ピクッ…そっ…それです!…それならきっと成仏できると思います!」
男「それじゃあ明日から色んな所に出かけますか。」
女「はい!」コクリ
女は目を輝かせた。
男「では明日のこともありますし、少し疲れたので休んでもいいですか?」
女「あっ…はい…。」
男「女さんはそちらの部屋使ってもらって…。あっそうだ…女さん…一応聞きますけど…食事とかお風呂って…」
女「あっ…ありがとうございます…。」
女「えぇ、幽霊なので大丈夫なんです。あまりおかまいなく。」
男「……。お風呂…今から沸かすので女さん入らないですか?」
女「えっ…それって…」カァァ
男「あっ…いやっ…そうじゃなくて…今の女さん…死装束…」
男「さっき山で女さんは幽霊として見てほしくないみたいだったから…」
女「あっ…あの時泣いたのは、ちょっとした冗談です…。でも女の子として見て頂ければ私も嬉しいです…。」カァァ
男「じゃあお風呂沸かすので、お先に入っちゃってください。女さんの布団も敷いときますね。」
女「…すいません…ありがとうございます…。(カラダも汚れないし、眠くもならないのに…男さん…)」
風呂を沸かし、用意が出来るまでに布団を敷く。
女「男さん…。」
男「ん…なんですか?」
女「さっきの話…もし女の子として扱って頂けるなら…ご迷惑でなければ、私がお風呂に入ってる間に…その…パジャマ姿を…」
男「ん?、あ~なるほど…。どんなのがいいですか?」
女「おまかせで…」
男「好きな色だけ教えてもらえますか?」
女「…水色…。」
男「分かりました。女さんの好みに合うか分かりませんが、頑張ってみますね。」
男「お風呂湧いたみたいなのでどうぞ。」
女「はい。」
女「(…と言っても…服は脱げないし…湯船に浸かっても感覚ないんですけどね…)」
女「(ってダメだ…男さんは私のこと女の子として見てくれてるのに、私がこんなじゃ…)」
女「(…でも服のまま湯船浸かるのとかすごい違和感…慣れていくしかないかなぁ…)」
女「あっ…服が…帽子まで…ステキ…。」
女「そろそろ出ても大丈夫かな…よいしょっ…。」
女「お風呂とパジャマありがとうございました♪とってもかわいいパジャマですね♪男さん、私に似合ってますか?」
女が男の前で一回転。
男「とっても似合ってますよ。喜んでもらえて何よりです。」
男「俺も風呂入ってきますね。」
女「はい♪」
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